(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、第1の本実施形態に係る放射能測定用標準試料10を示す図である。以下、「放射能測定用標準試料」を単に「標準試料」と呼ぶ。
図2は本実施形態に係る標準試料10の長さ方向に垂直な断面を示す断面図である。
標準試料10は、きのこ栽培に使用する原木の放射能測定に用いる標準試料である。標準試料10は、木材を含む円柱形のコア材20と、コア材20を覆う被覆部材40とを備える。コア材20は側面部に放射性物質含有領域220を有する。以下で、詳しく説明する。
【0014】
標準試料10は、放射線測定装置が正常に測定可能な状態かどうかや、測定精度を確認するために用いられる。たとえば、放射能量を知ろうとするきのこ栽培に使用する原木(きのこ栽培用原木)の測定に先立ち、標準試料10を放射線測定装置で測定する。そして、放射線測定装置が標準試料10の既知の放射線量を正しく測定できるかどうかを確認する。その後、きのこ栽培用原木の測定を行うことにより、測定結果の信頼性を確保できる。標準試料10の測定は、1日1度行えばよいが、きのこ栽培用原木の測定ごとに行ってもよい。また、標準試料10は、放射線測定装置の校正や、機器換算係数の導出にも用いることができる。
【0015】
なお、標準試料10および原木の測定においては、標準試料10と同様の構造で、放射線物質を含ませていないバックグラウンド測定用試料を合わせて用いることが好ましい。標準試料10や原木の測定で得られたカウント数から、バックグラウンド測定用試料の測定で得られたカウント数を差し引くことで、標準試料10や原木の真のカウント数を得ることができる。
【0016】
ここで、標準試料10において、測定器の見込み角度等の測定特性、自己吸収効果、および遮断効果等の条件を、測定対象とできるだけ同一にすることが信頼性の観点から重要である。また、長期間に渡り使用に耐える安定性が求められる。
【0017】
なお、測定対象とするきのこ栽培用の原木で栽培されるきのこの種類は、特に限定されないが、たとえば、シイタケ、マイタケ、エノキタケ、ナメコ、キクラゲ、クリタケ、ヒラタケ等が挙げられる。
【0018】
なお、原木とは、伐採した直後の原木、伐採後に数ヶ月間乾燥等させた原木、および、きのこ栽培に使用された原木等を含む。原木の種類は特に限定されないが、たとえば、ミズナラ、シイ、サクラ、シデ、クヌギ、コナラ、ブナ、カキ、クリ、クルミ等の広葉樹、スギ、カラマツ、アカマツなどの針葉樹などが挙げられる。
【0019】
なお、標準試料10は含水率、密度、寸法等を変えて複数準備しておき、測定対象とするきのこ栽培用原木に合わせて選択して用いることができる。
【0020】
標準試料10は、円柱状をしている。
図2は、標準試料10の長さ方向、すなわち当該円柱の回転軸に垂直な断面の図である。なお、標準試料10の形状は真の円柱状に限らない。すなわち、底面が真円に限らず、楕円であったり、凹凸がある丸みの帯びた形状であったりしても良い。また、円柱の軸が底面の法線方向からわずかに傾いていたり、側面にわずかに凹凸があったりしてもよい。
【0021】
コア材20は、放射性物質含有領域220と、内部領域210とを有する。放射性物質含有領域220はコア材20の側面から、内部に向かって形成されている。一方、内部領域210はコア材20の中心軸を含み、側面に向かって形成されている。放射性物質含有領域220は内部領域210よりも放射性物質の含有密度が高い。内部領域210と放射性物質含有領域220の境界は明確であって良い。すなわち、コア材20の半径方向の放射性物質の含有密度分布が、内部領域210と放射性物質含有領域220の境界において非連続であって良い。一方、内部領域210と放射性物質含有領域220の境界は必ずしも明確でなくても良い。すなわち、コア材20の側面から内部に向かって連続的に放射性物質の含有密度が小さくなっていても良い。
【0022】
信頼性の観点から、放射性物質含有領域220はコア材20の側面の全体に形成されていることが好ましい。すなわち、コア材20の側面は全て放射性物質含有領域220で構成されていることが好ましい。ただし、そのような構造に限定されず、放射性物質含有領域220はコア材20の側面の一部分にのみ形成されていても良い。なお、コア材20の底面部にも放射性物質含有領域220が形成されていても良い。
【0023】
コア材20が、側面部に放射性物質含有領域220を備えることにより、きのこ栽培に使用する原木における放射性物質の不均一な分布に近づけることができ、信頼性を向上させることができる。
【0024】
コア材20は少なくとも一部に木材を含む。本実施形態において、コア材20は表面に放射性物質の溶液が塗布された円柱状木材である。放射性物質は測定対象とする物質であり、特に限定されないが、たとえば放射性セシウム(
134Csおよび
137Cs)である。コア材20として木材を用いることにより、測定対象とする原木の含水率および密度等に近い含水率および密度等を有する標準試料10を、容易に得ることができる。
【0025】
標準試料10において、コア材20は被覆部材40に覆われている。被覆部材40はたとえば、樹脂製の膜や管である。被覆部材40の材質としては、特に限定されないが、たとえば繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics:FRP)、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、シリコン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。被覆部材40はいずれかの樹脂からなる単層構造であっても良いし、複数の層から構成されていても良い。コア材20が被覆部材40に覆われていることにより、含水率や放射性物質の含有量を安定化させることができ、長期の使用が可能となる。安定性向上の観点から、被覆部材40の厚みは、0.1mm以上が好ましい。一方、信頼性向上の観点から、被覆部材40の厚みは、2.0mm以下が好ましく、1.0mm以下がより好ましい。
【0026】
標準試料10の含水率は35%以上であることが好ましく、38%以上であることがより好ましい。一方、標準試料10の含水率は45%以下であることが好ましく、43%以下であることがより好ましい。そうすれば、伐採直後から1ヶ月までの原木の測定において、特に信頼性が向上する。
【0027】
一方、標準試料10の含水率は25%以上40%以下であることが好ましい。そうすれば、伐採後に乾燥させた原木の測定において、特に信頼性が向上する。きのこ栽培では伐採後に少なくとも一度乾燥させた原木を用いるため、そのような原木の測定に適応することが重要である。伐採後に乾燥させた原木は、必要に応じて含水処理等をされるが、当該原木の放射能測定は、たとえば105℃で定重量になるまで乾燥させた後に行うことができる。
【0028】
なお、含水率とは湿潤基準の含水率であり、標準試料10に含まれる水分の重量を、水分を含む標準試料10全体の重量で除した値である。標準試料10の含水率は、たとえば電気抵抗式水分計を用いてコア材20部分の含水率を測定することで得られる。特に、内部領域210が標準試料10の主な体積部分である場合、たとえば内部領域210部分について電気抵抗式水分計を用いて測定した含水率を、標準試料10の含水率とみなすことができる。
【0029】
標準試料10の密度は0.5g/cm
3以上であることが好ましく、0.8g/cm
3以上であることがより好ましい。一方、標準試料10の密度は1.5g/cm
3以下であることが好ましく、1.1g/cm
3以下であることがより好ましい。そうすれば、伐採直後から1ヶ月までの原木の測定において、特に信頼性が向上する。
【0030】
標準試料10の密度は0.30g/cm
3以上であることが好ましく、0.35g/cm
3以上であることがより好ましい。一方、標準試料10の密度は0.95g/cm
3以下であることが好ましく、0.80g/cm
3以下であることがより好ましい。そうすれば、伐採後に乾燥させた原木の測定において、特に信頼性が向上する。
【0031】
たとえば、標準試料10の長さは12cm以上120cm以下、直径は6cm以上18cm以下、重量は330g以上31000g以下とすることができる。
【0032】
以下に、本実施形態に係る標準試料10の製造方法を説明する。
図3は、本実施形態に係る標準試料10の製造方法を説明するための図である。本実施形態に係る標準試料10の製造方法は、側面部に放射性物質含有領域220を有し、木材を含むコア材20を準備する工程と、コア材20を被覆部材40で覆う工程とを備える。
【0033】
本実施形態に係る標準試料10において、コア材20は表面に放射性物質の溶液が塗布された円柱状木材である。コア材20を準備する工程では、
図3(a)に示す様に、円柱状木材100を準備する。円柱状木材100は伐採した直後(たとえば伐採後2ヶ月以内)の木材を円柱状に加工したものである。ただし、これに限定されず、必要に応じて伐採後に時間が経過した木材や、乾燥させた木材、市販の木材等を用いて準備することができる。
【0034】
円柱状木材100の種類は特に限定されないが、たとえばミズナラ、シイ、シデ、サクラ、クヌギ、コナラ、ブナ、カキ、クリ、クルミ等の広葉樹、スギ、カラマツ、アカマツなどの針葉樹を用いることができる。なお、円柱状木材100は測定対象とする放射性物質を含まない木材であることが好ましい。
【0035】
準備した円柱状木材100の表面に、放射性物質の溶液を塗布して、
図3(b)に示す様なコア材20を得ることができる。円柱状木材100のうち、当該溶液が染み込み、放射性物質を含有した領域が、放射性物質含有領域220となり、その他の領域が内部領域210となる。放射性物質は、きのこ栽培用原木の放射能測定を行う際に測定対象とする物質であり、たとえば放射性セシウム(
134Csおよび
137Cs)である。放射性物質は、たとえばきのこ栽培用原木の生育地域において採取することができる。放射性物質の溶液は、放射性物質をたとえば水に溶かすことで得ることができる。
【0036】
放射性物質の溶液は、少なくとも円柱状木材100の側面に塗布する。このとき、側面の一部のみに塗布しても良いが、測定の再現性向上の観点から、側面全体に塗布することが好ましく、側面全体に均一に塗布することがより好ましい。なお、側面のみならず、円柱状木材100の底面部、すなわち円柱状木材100の木口部分にも当該溶液を塗布して良い。
【0037】
溶液の濃度および塗布量の少なくとも一方を調整することで、標準試料10の放射能量を調整することができる。
【0038】
次いで、コア材20を被覆部材40で覆う工程を行う。当該工程では、コア材20に液状の樹脂を塗布して硬化させることにより、コア材20を樹脂からなる被覆部材40で覆い、
図3(c)の様に標準試料10を得ることができる。ここで、樹脂としては、たとえばポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、FRP、シリコン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらに限定されない。また、液状の樹脂を塗布して硬化させる代わりに、たとえば、シート状の樹脂を被覆部材40としてコア材20にラミネートしても良いし、樹脂管の内部にコア材20を密閉しても良い。被覆部材40として樹脂管を用いる場合、その材質としては、たとえば、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。
【0039】
本工程では、含水率や放射能量の変動を防ぎ、標準試料の安定性を高めるため、コア材20の全体を被覆部材40で覆うことが好ましい。被覆部材40は一層構造であっても良いし、複数の材料からなる複層構造であっても良い。また、コア材20と被覆部材40の間には、密着性向上等の目的で、他の部材を介在させても良いし、コア材20と被覆部材40が直接接触するようにしても良い。また、コア材20と被覆部材40は接着剤等を用いて貼り合わされていても良い。
【0040】
次に、本実施形態の作用および効果について説明する。
本実施形態に係る標準試料は、きのこ栽培に使用する原木の放射能測定に用いることができ、信頼性と安定性に優れる。
【0041】
コア材20が、側面部に放射性物質含有領域220を備えることにより、きのこ栽培に使用する原木における放射性物質の不均一な分布に近づけることができ、信頼性を向上させることができる。
【0042】
また、コア材20が被覆部材40に覆われていることにより、含水率や放射性物質の含有量を安定化させることができ、長期の使用が可能となる。
【0043】
また、コア材20として表面に放射性物質の溶液が塗布された木材を用いることにより、測定対象とする原木の含水率および密度等に近い含水率および密度等を有する標準試料10を、容易に得ることができる。
【0044】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る標準試料10について、以下に説明する。
図4(a)は本実施形態に係る標準試料10の長さ方向に垂直な断面を示す断面図である。本実施形態に係る標準試料10は、コア材20が、木材を含む第1部材120と、第1部材120を覆い放射性物質含有領域220を構成する第2部材140とからなる点を除いて、第1の実施形態に係る標準試料10と同様である。以下に詳細に説明する。
【0045】
本実施形態に係るコア材20は、第1部材120および第2部材140を含み、第1部材120は円柱状木材である。第1部材120としては、第1の実施形態に係る円柱状木材100と同様のものを用いることができる。そうすることにより、測定対象とする原木の含水率および密度等に近い含水率および密度等を有する標準試料10を、容易に得ることができる。
【0046】
なお、第1部材120として円柱状木材の代わりに、樹脂製の円筒に少なくとも木材粉を充填したものを用いてもよい。円筒の材質としては、たとえば、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。木材粉の種類は特に限定されないが、たとえばミズナラ、シイ、シデ、サクラ、クヌギ、コナラ、ブナ、カキ、クリ、クルミ等の広葉樹、スギ、カラマツ、アカマツなどの針葉樹を用いることができ、中でも、信頼性の観点から、広葉樹であることが好ましい。また、木材粉は必要に応じて含水したものであっても良い。木材粉の大きさは特に限定されず、粉末状またはチップ状のものを用いることができる。なお、円筒には木材粉に加えて、玄米など、他の材料が合わせて充填されても良い。
【0047】
木材粉を充填した樹脂製の円筒を第1部材120として用いることにより、標準試料10、特に内部領域210の密度や含水率の調整が行いやすくなる。たとえば、伐採後に長期間(たとえば3ヶ月以上)乾燥させた原木(ほだ木)を測定対象とする場合、このような原木は伐採直後の原木よりも密度が低く、含水率が低い。そのため、伐採直後の木材を用いた円柱状木材100を第1部材120とするよりも、木材粉を充填した樹脂製の円筒を第1部材120とする方が、密度や含水率を調整して、信頼性の高い標準試料10を得られる。
【0048】
本実施形態に係る標準試料10のコア材20は、第1部材120を覆う第2部材140を有する。第2部材140はシート状であり、紙、コルク、および木材から選択される1種以上からなる。第2部材140が木材からなる場合、より大きな木材から薄く切り出してシート状にしたものでも良いし、木材粉をシート状に凝集させたものでも良い。第2部材140は放射性物質を含有し、放射性物質含有領域220を構成している。
【0049】
コア材20が、第1部材120および第2部材140を備えることにより、きのこ栽培に使用する原木における放射性物質の不均一な分布に近づけることができ、信頼性を向上させることができる。
【0050】
なお、第2部材140は少なくとも第1部材120の側面の一部を覆っていればよいが、再現性向上の観点から、第1部材120の全体を覆っていることが好ましい。また、側面だけでなく、円筒形の第1部材120の底面部分をさらに覆っていてもよい。
なお、第1部材120と第2部材140は直接接していても良いし、間に介在層があっても良い。
【0051】
第2部材140の放射性物質の濃度は、第1部材120の放射性物質の濃度よりも高く、第2部材140が放射性物質含有領域220を構成する一方、第1部材120が内部領域210を構成する。そのため、本実施形態に係る標準試料10では、コア材20における内部領域210と放射性物質含有領域220との境界は明確である。
【0052】
図4(b)は、本実施形態の変形例に係る標準試料10の長さ方向に垂直な断面を示す断面図である。本変形例のコア材20では、第1部材120と第2部材140との間に、拡散防止部材160が介在している。拡散防止部材160としては、例えば塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、シリコン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等のフィルムが挙げられる。信頼性、安定性向上の観点から、拡散防止部材160の厚みは5μm以上15μm以下が好ましい。拡散防止部材160は、第2部材140が第1部材120を覆う全ての領域に設けられていることが好ましい。
【0053】
第1部材120と第2部材140との間に拡散防止部材160が設けられていることにより、放射性物質含有領域220中の放射性物質が、第2部材140中に拡散することを防ぐことができる。そのため、長期にわたって放射性物質や水分の分布等の変化が抑制され、標準試料10の安定性が向上する。なお、拡散防止部材160の効果は、第1部材120が円柱状木材である場合に、特に顕著に得られる。
【0054】
次に、本実施形態に係る標準試料10の製造方法を説明する。
図5は、本実施形態に係る標準試料10の製造方法を説明するための図である。コア材20を準備する工程では、
図5(a)の様に、第1部材120と第2部材140とを準備する。次いで、第1部材120を第2部材140で覆う。コア材20を被覆部材40で覆う工程は、第1の実施形態と同様に行うことができる。
【0055】
第1部材120が円柱状木材である場合、第1の実施形態の円柱状木材100と同様にして第1部材120を準備する。一方、第1部材120が木材粉を充填した樹脂製の円筒である場合、樹脂製の円筒に木材粉を充填して密封することにより第1部材120を準備する。なお、木材粉の含水率は必要に応じて調整しておく。第2部材140は、たとえば紙またはコルクに放射性物質の溶液を塗布して準備する。
【0056】
次いで、たとえば
図5(b)の様に第1部材120の側面に第2部材140を巻き付けることによって、第1部材120を第2部材140で覆い、
図5(c)の様なコア材20を得る。第1部材120と第2部材140との間は接着剤で接着してもよいし、単に密着させてもよい。拡散防止部材160を設ける場合、
図5(b)の様に、第1部材120を第2部材140で覆う際に、間に拡散防止部材160を介在させる様にする。具体的な例としては、標準試料10をまず拡散防止部材160で覆った後に更に第2部材140で覆う。もしくは、シート状の第2部材140の第1部材120と接する面に、拡散防止部材160を貼り付けた後に、第1部材120を覆ってもよい。
【0057】
次いで、コア材20を被覆部材40で覆う工程を、第1の実施形態に係る標準試料10の製造方法と同様に行うことで、
図5(d)の様に標準試料10が得られる。
【0058】
次に、本実施形態の作用および効果について説明する。本実施形態においては第1の実施形態と同様の作用および効果が得られる。
加えて、コア材20が第1部材120と第2部材140を備えることにより、構成材料の選択自由度が向上し、標準試料10の信頼性をより向上させることができる。
【0059】
(第3の実施形態)
第3の実施形態に係る標準試料10について、以下に説明する。
図6は本実施形態に係る標準試料10の長さ方向に垂直な断面を示す断面図である。本実施形態に係る標準試料10は、第1部材122が側面に複数の凹部が設けられた円柱状木材であり、凹部には第2部材142が埋め込まれている点を除いて、第2の実施形態に係る標準試料10と同様である。以下に詳細に説明する。
【0060】
本実施形態に係るコア材20は、第1部材122および第2部材142を含み、第1部材122は側面に複数の凹部が設けられた円柱状木材である。
【0061】
第1部材122としては、第1の実施形態に係る円柱状木材100と同様の円柱状木材の、側面に複数の凹部が設けられたものを用いることができる。そうすることにより、測定対象とする原木の含水率および密度等に近い含水率および密度等を有する標準試料10を、容易に得ることができる。凹部の形状や配置は特に限定されないが、凹部は、第1部材122の側面全体にわたって、およそ一定の密度で配置されていることが好ましい。
【0062】
第2部材142は、たとえば木片、コルク、紙等からなる。第2部材142には放射性物質が含まれており、放射性物質含有領域220を構成する。第2部材142は第1部材122の凹部に埋め込まれており、本実施形態では、第2部材142は第1部材122の一部を覆っている。
【0063】
なお、第1部材122と第2部材142の間には、拡散防止部材が介在していても良い。拡散防止部材は、第2の実施形態の拡散防止部材160と同様の材質によって構成されうる。
【0064】
次に、本実施形態に係る標準試料10の製造方法を説明する。
図7は、本実施形態に係る標準試料10の製造方法を説明するための図である。コア材20を準備する工程では、
図7(a)の様に、第1部材122と第2部材142とを準備する。次いで、第1部材122の凹部124に第2部材142を嵌め込む。コア材20を被覆部材40で覆う工程は、第1の実施形態と同様に行うことができる。
【0065】
コア材20を準備する工程では、第1の実施形態の円柱状木材100と同様に準備した円柱状木材の側面に、ドリル等を用いて凹部124を複数設け、第1部材122を得る。一方、たとえば凹部124に嵌る形状の複数の木片に放射性物質の溶液を塗布して第2部材142を得る。
【0066】
次いで、たとえば
図7(b)の様に第1部材122の凹部124に第2部材142を埋め込むことによって、第1部材122の一部を第2部材142で覆い、コア材20を得る。拡散防止部材を設ける場合は、たとえば第2部材142を樹脂等でコートした後に凹部124に埋め込む。
【0067】
次いで、コア材20を被覆部材40で覆う工程を、第1の実施形態に係る標準試料10の製造方法と同様に行うことで、
図7(c)の様に標準試料10が得られる。
【0068】
本実施形態においては第1の実施形態および第2の実施形態と同様の作用および効果が得られる。
【0069】
また、本実施形態に係る標準試料10は、測定対象とする原木表面の汚染分布がスポット状である場合に、特に高い信頼性を得られる。
【0070】
また、第2部材142の配置や放射性物質の含有量を調整することにより、放射性物質の分布を自由に調整することができる。
【実施例】
【0071】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0072】
(実施例1)
伐採直後の木材を、直径120mm、長さ900mmの円柱状に加工して、円柱状木材を得た。次いで、放射能濃度が標準試料全体として15Bq/kgになるように、
134Csおよび
137Csの水溶液を円柱状木材の表面に塗布した。その後、液状のFRPを塗布して硬化させることにより、円柱状木材の全体を厚さ0.2mmのFRP膜で覆って標準試料1を得た。得られた標準試料1の重量は11.06kgであり、密度は1.1g/cm
3と求められた。また、FRP膜で覆う前に木材用の電気抵抗式水分計を用いて円柱状木材の含水率を測定したところ、40.9%であった。
【0073】
一方、
134Csおよび
137Csの水溶液を、塗布しなかった点以外は標準試料1と同様にして、バックグラウンド測定用試料1を作製した。バックグラウンド測定用試料1の重量は11kgであり、含水率は41.5%であった。
【0074】
標準試料1と、バックグラウンド測定用試料1をそれぞれ放射線測定器で測定し、標準試料1について得られた測定値から、バックグラウンド測定用試料1について得られた測定値を引いた値を真のカウント値として算出した。その結果、真のカウント値は1.000cpsであり、作製した標準試料1の放射能濃度および重量との関係から、機器換算係数は166Bq/cpsと求められた。
【0075】
(実施例2)
伐採直後の木材を、直径120mm、長さ900mmの円柱状に加工して、円柱状木材を得た。次いで、樹脂フィルムで円柱状木材全体を覆った。その後、放射能濃度が標準試料全体として30Bq/kgになるように、
134Csおよび
137Csの水溶液を塗布した紙ウエスを円柱状木材の側面に巻き付け、さらにその上から樹脂フィルムを被せて全体を覆った。次いで、液状のFRPを塗布して硬化させることにより、円柱状木材の全体を厚さ0.2mmのFRP膜で覆って標準試料2を得た。得られた標準試料2の重量は11.03kgであり、密度は1.1g/cm
3と求められた。また、樹脂フィルムで覆う前に木材用の電気抵抗式水分計を用いて円柱状木材の含水率を測定したところ、40.8%であった。
【0076】
一方、実施例1のバックグラウンド測定用試料1と同様にして、バックグラウンド測定用試料2を作製した。バックグラウンド測定用試料2の重量は11kgであり、含水率は39.8%であった。
【0077】
標準試料2と、バックグラウンド測定用試料2をそれぞれ放射線測定器で測定し、標準試料2について得られた測定値から、バックグラウンド測定用試料2について得られた測定値を引いた値を真のカウント値として算出した。その結果、真のカウント値は1.946cpsであり、作製した標準試料2の放射能濃度および重量との関係から、機器換算係数は170Bq/cpsと求められた。
【0078】
(実施例3)
伐採直後の木材を、直径100mm、長さ900mmの円柱状に加工した以外は実施例2と同様にして、標準試料3を得た。得られた標準試料3の重量は7.92kgであり、密度は1.1g/cm
3と求められた。また、含水率は41.6%であった。
【0079】
一方、伐採直後の木材を、直径100mm、長さ900mmの円柱状に加工した以外は実施例1のバックグラウンド測定用試料1と同様にして、バックグラウンド測定用試料3を作製した。バックグラウンド測定用試料3の重量は7.9kgであり、含水率は42.0%であった。
【0080】
標準試料3と、バックグラウンド測定用試料3をそれぞれ放射線測定器で測定し、標準試料3について得られた測定値から、バックグラウンド測定用試料3について得られた測定値を引いた値を真のカウント値として算出した。その結果、真のカウント値は1.650cpsであり、作製した標準試料3の放射能濃度および重量との関係から、機器換算係数は144Bq/cpsと求められた。
【0081】
(比較例1)
内径130mm、長さ900mm、管肉厚5mmの透明塩化ビニル管に、含水率が40%になるように活性炭素と、
134Csおよび
137Csの水溶液と、蒸留水とを入れて密閉し、標準試料4を得た。このとき、放射能濃度は標準試料全体として50Bq/kgになるようにした。得られた標準試料4の重量は12.0kgであった。
【0082】
一方、内径130mm、長さ900mm、管肉厚5mmの透明塩化ビニル管に、含水率が40%になるように活性炭素および蒸留水を入れて密閉し、バックグラウンド測定用試料4を得た。バックグラウンド測定用試料4の重量は12.0kgであった。
【0083】
標準試料4と、バックグラウンド測定用試料4をそれぞれ放射線測定器で測定し、標準試料4について得られた測定値から、バックグラウンド測定用試料4について得られた測定値を引いた値を真のカウント値として算出した。その結果、真のカウント値は4.225cpsであり、作製した標準試料4の放射能濃度および重量との関係から、機器換算係数は115Bq/cpsと求められた。
【0084】
(比較例2)
重量を8.6kgとした以外は比較例1と同様にして標準試料5を得た。得られた標準試料5の密度は0.85g/cm
3と求められた。
【0085】
一方、重量を8.6kgとした以外は比較例1と同様にして、バックグラウンド測定用試料5を作製した。
【0086】
標準試料5と、バックグラウンド測定用試料5をそれぞれ放射線測定器で測定し、標準試料5について得られた測定値から、バックグラウンド測定用試料5について得られた測定値を引いた値を真のカウント値として算出した。その結果、真のカウント値は3.458cpsであり、作製した標準試料5の放射能濃度および重量との関係から、機器換算係数は124Bq/cpsと求められた。
【0087】
(比較例3)
内径100mm、長さ900mm、管肉厚5mmの透明アクリル管に、含水率が40%になるようにオガ屑と、
134Csおよび
137Csの水溶液とを入れて密閉し、標準試料6を得た。このとき、放射能濃度は標準試料全体として50Bq/kgになるようにした。得られた標準試料6の重量は4.1kgであり、密度は0.6g/cm
3であった。
【0088】
一方、
134Csおよび
137Csの水溶液の代わりに蒸留水を用いた以外は標準試料6と同様にして、バックグラウンド測定用試料6を得た。バックグラウンド測定用試料6の重量は4.1kgであった。
【0089】
標準試料6と、バックグラウンド測定用試料6をそれぞれ放射線測定器で測定し、標準試料6について得られた測定値から、バックグラウンド測定用試料6について得られた測定値を引いた値を真のカウント値として算出した。その結果、真のカウント値は1.344cpsであり、作製した標準試料6の放射能濃度および重量との関係から、機器換算係数は152Bq/cpsと求められた。
【0090】
(椎茸栽培用原木および玄米の測定)
134Csおよび
137Csを含んだ椎茸栽培用原木の重量と機器換算係数との関係を測定した。具体的には、各椎茸栽培用原木を非破壊測定してカウント数C(cps)を得た後、同一の椎茸栽培用原木をそれぞれオガ粉に加工して放射能量B(Bq)を測定した。そして、機器換算係数K(Bq/cps)を、K=B/Cの関係から求めた。測定は含水率40%および34%の各原木について行った。なお、含水率は、電気抵抗式水分計を用いて測定した。
【0091】
また、含水率12%の玄米について、重量と機器換算係数との関係を測定した。具体的には、玄米を非破壊測定してカウント数を得、原木の測定と同様にして機器換算係数を求めた。
【0092】
「原木 含水率40%」、「原木 含水率34%」、および「玄米 含水率12%」の測定結果を表1にまとめて示す。
【0093】
【表1】
【0094】
実施例1〜3において得た機器換算係数と、標準試料の重さとの関係を
図8に、比較例1〜3において得た機器換算係数と、標準試料の重さとの関係を
図9に示した。
図8および
図9では、
134Csおよび
137Csを含んだ椎茸栽培用原木を測定した結果と、玄米を測定した結果とを合わせて示している。両図中、「原木 含水率40%」および「原木 含水率34%」は、それぞれ上述した含水率40%および含水率34%の椎茸栽培用原木の測定結果であり、「玄米 含水率12%」、上述した含水率12%の玄米の測定結果である。
【0095】
測定結果から、「原木 含水率40%」および「原木 含水率34%」とは、機器換算係数が大きく異なっており、含水率の違いが機器換算係数に影響することが分かった。よって、標準試料の精度を向上させるためには、標準試料の含水率を測定対象の原木に近づけることが重要であることが分かった。
【0096】
一方、「原木 含水率34%」と「玄米 12%」とは、含水率が大きく異なるにもかかわらず、比較的近い機器換算係数を示した。よって、機器換算係数には含水率のみならず、試料の形状、材質その他の要素も大きく影響することが分かった。
【0097】
実施例1〜3の標準試料は、含水率40%の原木の測定特性に精度よく一致しており、標準試料としての信頼性が高いことが確かめられた。また、実施例1〜3の標準試料は、6ヶ月後に上記と同様の方法で測定しても、同様の精度を維持しており、安定性に優れることを確認した。
【0098】
一方、比較例1〜3では、含水率を40%としたにも関わらず、含水率40%の原木とは異なる特性を示した。よって、比較例1〜3は、きのこ栽培用原木の標準試料としては信頼性がないことが分かった。
【0099】
また、バックグラウンド測定についても、比較例のバックグラウンド測定用試料ではカウント数が放射性物質を含まない原木とは大きく異なっているため、きのこ栽培用原木に対するバックグラウンド測定には利用できないことが分かった。
【0100】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。