特許第6586660号(P6586660)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6586660
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】水系インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/023 20140101AFI20191001BHJP
   C09D 11/102 20140101ALI20191001BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20191001BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20191001BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20191001BHJP
【FI】
   C09D11/023
   C09D11/102
   C09D11/30
   B41M5/00 120
   B41M5/00 112
   B41J2/01 501
   B41J2/01 125
【請求項の数】8
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2015-257515(P2015-257515)
(22)【出願日】2015年12月28日
(65)【公開番号】特開2017-119798(P2017-119798A)
(43)【公開日】2017年7月6日
【審査請求日】2018年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100118131
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 渉
(72)【発明者】
【氏名】相馬 央登
(72)【発明者】
【氏名】水畑 浩司
【審査官】 緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平7−179801(JP,A)
【文献】 特開平8−060063(JP,A)
【文献】 特開2002−167536(JP,A)
【文献】 特開2014−125555(JP,A)
【文献】 特開2015−124353(JP,A)
【文献】 特開2014−167084(JP,A)
【文献】 特開平6−080930(JP,A)
【文献】 特開2014−088552(JP,A)
【文献】 特開平3−166214(JP,A)
【文献】 特開平3−166277(JP,A)
【文献】 特表2012−517489(JP,A)
【文献】 特開2006−265310(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/023
B41J 2/01
B41M 5/00
C09D 11/102
C09D 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤及び樹脂粒子を含有する水系インクであって、
前記樹脂粒子が、ポリエステル樹脂とイソシアネート化合物との反応物を含有し、
該ポリエステル樹脂の酸価が5mgKOH/g以上18mgKOH/g以下であり、
前記樹脂粒子のガラス転移温度が75℃以上である、水系インク。
【請求項2】
前記のポリエステル樹脂とイソシアネート化合物との反応物が、ウレタン変性ポリエステル樹脂からなる主鎖セグメントと付加重合系樹脂からなる側鎖セグメントとを有する複合樹脂である、請求項1に記載の水系インク。
【請求項3】
複合樹脂の主鎖セグメントと側鎖セグメントとの質量比[主鎖セグメント/側鎖セグメント]が55/45以上95/5以下である、請求項2に記載の水系インク。
【請求項4】
前記樹脂粒子の体積平均粒径が50nm以上100nm以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水系インク。
【請求項5】
工程1:アルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合させてポリエステル樹脂を得る工程、
工程2:工程1で得られたポリエステル樹脂とイソシアネート化合物とを反応させて、ウレタン変性ポリエステル樹脂を得る工程、
工程3:工程2で得られたウレタン変性ポリエステル樹脂を水性媒体へ分散し、樹脂粒子の水性分散液を得る工程、及び
工程4:工程3で得られた樹脂粒子の水性分散液と、着色剤とを混合し、水系インクを得る工程
を有する水系インクの製造方法であって、工程1で得られたポリエステル樹脂の酸価が5mgKOH/g以上18mgKOH/g以下であり、樹脂粒子のガラス転移温度が75℃以上である、水系インクの製造方法。
【請求項6】
前記工程3において、ウレタン変性ポリエステル樹脂粒子の水性分散液に、付加重合性モノマーを添加し、重合して、複合樹脂粒子の水性分散液を得る、請求項5に記載の水系インクの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の水系インクをインクジェット記録方式で樹脂製記録媒体に付着させた後、該水系インクが付着した樹脂製記録媒体を40℃以上100℃以下に加熱する、インクジェット記録方法。
【請求項8】
樹脂製記録媒体が、ポリエチレンテレフタレート製記録媒体又はポリ塩化ビニル製記録媒体である、請求項7に記載のインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系インクに関し、詳しくは樹脂粒子を含有する水系インク及びその製造方法、並びに水系インクを用いたインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
商品包装印刷や広告等に用いられる商業用ラベル印刷等の分野では、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」ともいう)、ポリ塩化ビニル(以下「PVC」ともいう)等の樹脂製記録媒体に対し、従来、溶剤系インクやUV硬化インク等によって印刷が行われてきた。これに対し、環境負荷の低減、省エネルギー、安全性等の観点から、水系インクを用いる印刷方法として、インクジェット記録方式やフレキソ印刷方式の活用が求められている。特に、インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録部材に直接吐出し、付着させて、文字や画像を得る記録方式であり、フルカラー化が容易で、かつ安価であり、記録部材として普通紙が使用可能、被印字物に対して非接触、という数多くの利点があるため普及が著しい。そこで、前記樹脂製記録媒体に対しても、インクジェット記録方式の活用が試みられている。
【0003】
特許文献1には、ポリプロピレン延伸フィルム(OPPフィルム)及びPETフィルムへの接着性、耐ブロッキング性、耐水性等に優れる水性印刷インキ組成物を提供することを目的として、ウレタン樹脂中のウレタン結合及びウレア結合の和が17%以下の水性ウレタン樹脂の存在下で、計算ガラス転移点が40℃以上である一種以上のラジカル重合性モノマーを重合してなる変性ウレタン樹脂をビヒクル成分として含有する水性印刷インキ組成物が開示されている。
特許文献2には、吐出性、記録媒体への定着性及び高温での画像保存性に優れるインクジェット記録用水系インクを提供することを目的として、着色剤及びポリエステル系樹脂粒子を含有する水系インクであって、ポリエステル系樹脂粒子を構成するポリエステル系樹脂が、ポリエステル樹脂からなる主鎖セグメント及び付加重合系樹脂からなる側鎖セグメントからなるグラフトポリマーであり、前記ポリエステル系樹脂粒子の体積中位粒径が特定の範囲にあるインクジェット記録用水系インクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−80930号公報
【特許文献2】特開2014−88552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PET、PVC等の樹脂製記録媒体は非吸水性又は低吸水性の媒体であるため、ビークルラッピング等に代表されるサイングラフィック等、屋外での使用場面が多い。そのため、インクの樹脂製記録媒体への密着性とともに、媒体上に形成された画像の光沢性や、屋外使用に適応できる耐熱性が求められる。従来のインクにおいては、これらの特性について更なる改良が求められている。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れる水系インクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の水系インク及びその製造方法、並びにインクジェット記録方法に関する。
〔1〕着色剤及び樹脂粒子を含有する水系インクであって、
前記樹脂粒子が、ポリエステル樹脂とイソシアネート化合物との反応物を含有し、
該ポリエステル樹脂の酸価が5mgKOH/g以上18mgKOH/g以下であり、
前記樹脂粒子のガラス転移温度が75℃以上である、水系インク。
〔2〕工程1:アルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合させてポリエステル樹脂を得る工程、
工程2:工程1で得られたポリエステル樹脂とイソシアネート化合物とを反応させて、ウレタン変性ポリエステル樹脂を得る工程、
工程3:工程2で得られたウレタン変性ポリエステル樹脂を水性媒体へ分散し、樹脂粒子の水性分散液を得る工程、及び
工程4:工程3で得られた樹脂粒子の水性分散液と、着色剤とを混合し、水系インクを得る工程
を有する水系インクの製造方法であって、工程1で得られたポリエステル樹脂の酸価が5mgKOH/g以上18mgKOH/g以下であり、樹脂粒子のガラス転移温度が75℃以上である、水系インクの製造方法。
〔3〕前記〔1〕に記載の水系インクをインクジェット記録方式で樹脂製記録媒体に付着させた後、該水系インクが付着した樹脂製記録媒体を40℃以上100℃以下に加熱する、インクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水系インクは、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性のすべてに優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の水系インクは、着色剤及び樹脂粒子を含有する水系インクである。当該水系インクにおいて、前記樹脂粒子が、ポリエステル樹脂とイソシアネート化合物との反応物を含有し、該ポリエステル樹脂の酸価が5mgKOH/g以上18mgKOH/g以下であり、前記樹脂粒子のガラス転移温度が75℃以上である。本発明の水系インクに含まれる樹脂粒子は、ポリエステル系樹脂をイソシアネート化合物で鎖伸長反応させた樹脂を含有する。
【0010】
前記構成を有する本発明の水系インクが、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性のすべてに優れる理由は明らかではないが、以下のように考えられる。
本発明の水系インクは、着色剤及び樹脂粒子を含有する。印刷時にインクが樹脂製記録媒体上に付着すると、樹脂粒子に含まれるウレタン変性ポリエステル樹脂が樹脂製記録媒体の印刷面上に拡散し、着色剤の定着助剤として作用する。ここで、ウレタン変性ポリエステル樹脂は、極性の高いエステル結合及びウレタン結合を有し、かつ、線形で高分子量化していることから、樹脂の凝集力が高まる。そのため、本発明の水系インクは、樹脂製記録媒体の中でも比較的極性の高いPET及びPVCフィルムに対して、密着性が増すものと考えられる。また、比較的低酸価のポリエステル樹脂を使用することにより、インク中での樹脂粒子の可塑化を抑制でき、その結果としてインク濃縮時の不要な凝集を抑制できる。そのため、フィルム上に形成される樹脂皮膜は、平滑性が高くなり、印刷画像の光沢性が向上するものと考えられる。さらに、樹脂粒子のガラス転移温度を高くすることにより、フィルム上に形成される樹脂皮膜が強固なものとなり、印刷画像の耐熱性が向上するものと考えられる。
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本明細書において、ポリエステル系樹脂をイソシアネート化合物で鎖伸長反応させた樹脂を「ウレタン変性ポリエステル樹脂」ともいう。また、「水系インク」を単に「インク」ということがある。本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」又は「メタクリル酸」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」又は「メタクリレート」を意味する。また、(イソ又はtert−)及び(イソ)の表記は、これらの基が存在している場合とそうでない場合の双方を意味し、これらの基が存在していない場合には、ノルマルであることを意味する。
本明細書において、好ましいとされている規定は任意に採用することができ、好ましいもの同士の組合せはより好ましい。
【0012】
[樹脂粒子]
本発明における樹脂粒子は、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、ポリエステル樹脂とイソシアネート化合物との反応物を含有する。樹脂粒子中、ポリエステル樹脂とイソシアネート化合物との反応物の含有量は、同様の観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは98質量%以上、より更に好ましくは100質量%である。
樹脂粒子は、樹脂粒子の水性分散液の形態で取り扱うことが水系インクの製造上の観点から好ましい。
【0013】
本発明における樹脂粒子のガラス転移温度は75℃以上である。樹脂粒子のガラス転移温度が75℃以上であることで、印刷時にPET及びPVCフィルム上に形成される樹脂皮膜が強固なものとなり、その結果として印刷画像の耐熱性を向上することができる。
樹脂粒子のガラス転移温度は、形成した画像の耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、好ましくは80℃以上、より好ましくは85℃以上であり、そして、PET及びPVCフィルムへの密着性に優れた水系インクを得る観点から、好ましくは105℃以下、より好ましくは100℃以下、更に好ましくは95℃以下である。
【0014】
樹脂粒子の体積平均粒径(DV)は、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは55nm以上、更に好ましくは58nm以上であり、そして、好ましくは100nm以下、より好ましくは95nm以下、更に好ましくは90nm以下である。当該体積平均粒径(DV)は、動的光散乱法で測定されるものであり、実施例に記載の方法で求められる。
【0015】
(ポリエステル樹脂)
ポリエステル樹脂は、アルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合して得られる、すなわちアルコール成分とカルボン酸成分との重縮合物であるポリエステルである。ポリエステル樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
<アルコール成分>
アルコール成分としては、ジオール、3価以上の多価アルコール等が挙げられ、好ましくはジオールである。ジオールとしては、主鎖炭素数2以上12以下の脂肪族ジオール、芳香族ジオール、及び脂環式ジオールが挙げられる。
【0017】
主鎖炭素数2以上12以下の脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール等が挙げられる。
【0018】
芳香族ジオールとしては、ビスフェノールA(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン)のアルキレンオキシド付加物等が挙げられる。ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物は、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、好ましくは次の一般式(I)で表される化合物である。
【0019】
【化1】
【0020】
一般式(I)において、OR1、及びR2Oは、いずれもアルキレンオキシ基であり、好ましくはそれぞれ独立に炭素数1以上4以下のアルキレンオキシ基であり、より好ましくはエチレンオキシ基又はプロピレンオキシ基であり、更に好ましくはプロピレンオキシ基である。
x及びyは、アルキレンオキシドの付加モル数に相当する。更に、カルボン酸成分との反応性の観点から、xとyの和の平均値は、好ましくは2以上であり、そして、好ましくは7以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下である。
また、x個のOR1とy個のR2Oは、各々同一であっても異なっていてもよいが、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、同一であることが好ましい。
【0021】
ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。このビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物は、ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物及びビスフェノールAのエチレンオキシド付加物が好ましく、ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物がより好ましい。
【0022】
脂環式ジオールとしては、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA(2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン)等が挙げられる。
【0023】
前記アルコール成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
アルコール成分としては、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、好ましくはビスフェノールAの炭素数2又は3のアルキレンオキシド(平均付加モル数1以上16以下)付加物、及び水素添加ビスフェノールAからなる群から選ばれる少なくとも1種、より好ましくはビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物及び水素添加ビスフェノールAからなる群から選ばれる少なくとも1種、更に好ましくはビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物である。
【0025】
ポリエステル樹脂の原料モノマーであるアルコール成分中におけるビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物の含有量は、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、好ましくは60モル%以上、より好ましくは65モル%以上、更に好ましくは70モル%以上であり、そして、好ましくは98モル%以下、より好ましくは95モル%以下、更に好ましくは90モル%以下である。なお、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物を2種以上組み合わせて使用する場合は、その合計の含有量である。
【0026】
<カルボン酸成分>
カルボン酸成分としては、ジカルボン酸、3価以上の多価カルボン酸が挙げられる。中でも、優れた密着性を得る観点から、カルボン酸成分は、好ましくはジカルボン酸を含み、より好ましくはジカルボン酸からなる。ジカルボン酸としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、及び脂環式ジカルボン酸が挙げられる。
なお、本明細書においては、カルボン酸成分には、遊離酸だけでなく、反応中に分解して酸を生成する無水物、及び各カルボン酸の炭素数1以上3以下のアルキルエステルも含まれる。
【0027】
芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等が挙げられる。PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、好ましくはイソフタル酸又はテレフタル酸、より好ましくはイソフタル酸である。
【0028】
脂肪族ジカルボン酸としては、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、アゼライン酸、コハク酸、炭素数1以上20以下のアルキル基又は炭素数2以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸等が挙げられる。炭素数1以上20以下のアルキル基又は炭素数2以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸の具体例としては、ドデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、オクテニルコハク酸等が挙げられる。これらの中でも、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性を向上させる観点から、好ましくは、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸、及びドデセニルコハク酸から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはフマル酸又はアジピン酸、更に好ましくはフマル酸である。
【0029】
脂環式ジカルボン酸としては、シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。3価以上の多価カルボン酸としては、トリメリット酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸等が挙げられる。
【0030】
また、カルボン酸成分は、非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有するカルボン酸、例えば不飽和脂肪族カルボン酸及び/又は不飽和脂環式カルボン酸を含むことが好ましい。該炭素−炭素不飽和結合の部分は、後述するウレタン変性ポリエステル樹脂からなる主鎖セグメントと付加重合系樹脂からなる側鎖セグメントとを有する複合樹脂(グラフトポリマー)中で、主鎖セグメントと側鎖セグメントとの結合部分となることができ、その場合、該不飽和結合は、飽和結合となる。
【0031】
非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有するカルボン酸(不飽和脂肪族カルボン酸、不飽和脂環式カルボン酸)としては、フマル酸、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和脂肪族カルボン酸;テトラヒドロフタル酸等の不飽和脂環式カルボン酸等が挙げられる。反応性の観点、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性を向上させる観点から、フマル酸、マレイン酸及びテトラヒドロフタル酸が好ましく、フマル酸がより好ましい。
【0032】
カルボン酸成分中、非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有するカルボン酸の含有量は、反応性の観点、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性を向上させる観点から、好ましくは2モル%以上、より好ましくは5モル%以上、更に好ましくは10モル%以上であり、インクの初期定着性の観点から、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、更に好ましくは15モル%以下である。
【0033】
前記カルボン酸成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
カルボン酸成分としては、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、好ましくはイソフタル酸、テレフタル酸、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸、及びドデセニルコハク酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはイソフタル酸及びフマル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0035】
ポリエステル樹脂の原料モノマーであるカルボン酸成分中における芳香族ジカルボン酸の含有量は、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、好ましくは60モル%以上、より好ましくは65モル%以上、更に好ましくは70モル%以上であり、そして、好ましくは98モル%以下、より好ましくは95モル%以下、更に好ましくは90モル%以下である。なお、芳香族ジカルボン酸を2種以上組み合わせて使用する場合は、その合計の含有量である。
【0036】
ポリエステル樹脂の原料モノマーにおいて、アルコール成分の水酸基(OH基)に対するカルボン酸成分のカルボキシ基(COOH基)の当量比(COOH基/OH基)は、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、好ましくは0.65以上、より好ましくは0.80以上であり、そして、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.1以下である。
【0037】
<ポリエステル樹脂の物性>
ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは70℃以上であり、そして、好ましくは95℃以下、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは85℃以下である。
【0038】
ポリエステル樹脂の軟化点は、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上、更に好ましくは90℃以上であり、そして、好ましくは165℃以下、より好ましくは150℃以下、更に好ましくは135℃以下である。
【0039】
ポリエステル樹脂の酸価は、水性媒体中での樹脂粒子の分散安定性を向上させる観点及び形成した画像の光沢性を向上させる観点から、5mgKOH/g以上、18mgKOH/g以下である。ポリエステル樹脂の酸価が5mgKOH/g以上であることで、水性媒体中での分散安定性が向上する。一方、酸価が18mgKOH/g以下であれば、水系インクにおいて樹脂粒子が水により膨潤しにくくなり、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等の有機溶媒を添加した際の可塑化を抑制し凝集しにくくなるため、PET及びPVCフィルム上に形成される樹脂皮膜の平滑性が高くなり、形成した画像の光沢性が向上する。また、付随してPETフィルムへの密着性も向上するものと考えられる。
ポリエステル樹脂の酸価は、水性媒体中での樹脂粒子の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは6mgKOH/g以上、より好ましくは6.5mgKOH/g以上、更に好ましくは7mgKOH/g以上であり、そして、形成した画像の光沢性を向上させる観点から、好ましくは15mgKOH/g以下、より好ましくは12mgKOH/g以下、更に好ましくは10mgKOH/g以下である。
【0040】
ポリエステル樹脂の水酸基価は、イソシアネート化合物との反応性の観点、及びPET及びPVCフィルムへの密着性を向上させる観点から、好ましくは5mgKOH/g以上、より好ましくは10mgKOH/g以上、更に好ましくは15mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは80mgKOH/g以下、より好ましくは60mgKOH/g以下、更に好ましくは40mgKOH/g以下、更に好ましくは30mgKOH/g以下である。
【0041】
ポリエステル樹脂の数平均分子量は、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上、更に好ましくは2,500以上であり、そして、好ましくは10,000以下、より好ましくは7,000以下、更に好ましくは5,000以下である。
【0042】
ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、好ましくは3,000以上、より好ましくは5,000以上、更に好ましくは6,000以上であり、そして、好ましくは20,000以下、より好ましくは15,000以下、更に好ましくは10,000以下である。
【0043】
ポリエステル樹脂のガラス転移温度、軟化点、酸価、水酸基価、数平均分子量及び重量平均分子量は、いずれも実施例に記載の方法によって得られた値である。また、ポリエステル樹脂の製造に用いるモノマーの種類、配合比率、重縮合の温度、反応時間を適宜調節することにより所望のものを得ることができる。
【0044】
<ポリエステル樹脂の製造>
ポリエステル樹脂は、アルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合反応させることによって製造することができる。例えば、前記アルコール成分と前記カルボン酸成分とを不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じてエステル化触媒、エステル化助触媒及びラジカル重合禁止剤を用いて、120℃以上250℃以下の温度で重縮合することにより製造することができる。
【0045】
エステル化触媒としては、酸化ジブチルスズ、ジ(2−エチルヘキサン酸)スズ等のスズ化合物やチタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等のチタン化合物等のエステル化触媒を使用することができる。
エステル化触媒の使用量に制限はないが、アルコール成分とカルボン酸成分との総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上であり、そして、好ましくは1.5質量部以下、より好ましくは1.0質量部以下である。
【0046】
エステル化助触媒としては、ピロガロール、没食子酸、没食子酸エステル等のピロガロール化合物;2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,3,4−テトラヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体;エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート等のカテキン誘導体等が挙げられ、反応性の観点から、没食子酸が好ましい。
エステル化助触媒の使用量は、反応性の観点から、アルコール成分とカルボン酸成分との総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.2質量部以下である。
【0047】
ラジカル重合禁止剤としては、4−tert−ブチルカテコール等が挙げられる。ラジカル重合禁止剤の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分との総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.005質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。
【0048】
(イソシアネート化合物)
イソシアネート化合物としては、ジイソシアネート、多価イソシアネート、並びにそれらのプレポリマー型、イソシアヌレート型、ウレア型、カルボジイミド型変性体等が挙げられる。中でも、優れた密着性を得る観点から、イソシアネート化合物は、好ましくはジイソシアネートを含み、より好ましくはジイソシアネートからなる。ジイソシアネートとしては、脂肪族ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネートが挙げられる。
【0049】
脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、脂環式ジイソシアネート、鎖状脂肪族ジイソシアネートが挙げられる。脂環式ジイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、4−メチル−1,3−シクロヘキシレンジイソシアネート、1,2−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。鎖状脂肪族ジイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0050】
芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0051】
以上のイソシアネート化合物の中でも、PET及びPVCフィルムへの密着性を向上させる観点から、好ましくは脂肪族ジイソシアネート、より好ましくは脂環式ジイソシアネート、更に好ましくはジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートである。
【0052】
(ウレタン変性ポリエステル樹脂)
樹脂粒子に含まれるポリエステル樹脂とイソシアネート化合物との反応物であるウレタン変性ポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂の水酸基とイソシアネート化合物のイソシアネート基とが反応して得られる。
ポリエステル樹脂の水酸基とイソシアネート化合物のイソシアネート基とのモル比率(OH/NCO)は、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性を向上させる観点から、好ましくは1.0以下、より好ましくは1.0未満であり、そして、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.7以上である。
【0053】
<ウレタン変性ポリエステル樹脂の物性>
後述するように、本発明における樹脂粒子のガラス転移温度は、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、75℃以上である。そのため、樹脂粒子が実質的にウレタン変性ポリエステル樹脂からなる場合には、ウレタン変性ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、好ましくは75℃以上、より好ましくは80℃以上、更に好ましくは85℃以上であり、そして、好ましくは105℃以下、より好ましくは100℃以下、更に好ましくは95℃以下である。
ただし、後述するように、ウレタン変性ポリエステル樹脂を付加重合性モノマーと反応させて複合樹脂にすることで、樹脂のガラス転移温度を調整することができる。そのため、樹脂粒子が実質的に複合樹脂からなる場合には、ウレタン変性ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、更に好ましくは80℃以上であり、そして、好ましくは105℃以下、より好ましくは100℃以下、更に好ましくは95℃以下である。
【0054】
ウレタン変性ポリエステル樹脂の軟化点は、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上、更に好ましくは120℃以上であり、そして、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、更に好ましくは165℃以下である。
【0055】
ウレタン変性ポリエステル樹脂の酸価は、水性媒体中での樹脂粒子の分散安定性を向上させる観点及び形成した画像の光沢性を向上させる観点から、好ましくは5mgKOH/g以上、より好ましくは6mgKOH/g以上、更に好ましくは6.5mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは18mgKOH/g以下、より好ましくは15mgKOH/g以下、更に好ましくは12mgKOH/g以下である。
【0056】
ウレタン変性ポリエステル樹脂の数平均分子量は、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、好ましくは3,000以上、より好ましくは5,000以上、更に好ましくは6,000以上であり、そして、好ましくは12,000以下、より好ましくは10,000以下、更に好ましくは8,000以下である。
【0057】
ウレタン変性ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上、更に好ましくは20,000以上であり、そして、好ましくは50,000以下、より好ましくは40,000以下、更に好ましくは30,000以下である。
【0058】
ウレタン変性ポリエステル樹脂のガラス転移温度、軟化点、酸価、数平均分子量及び重量平均分子量は、いずれも実施例に記載の方法によって得られた値である。また、ポリエステル樹脂の製造に用いるモノマーの種類、イソシアネート化合物の種類、配合比率、反応温度、反応時間を適宜調節することにより所望のものを得ることができる。
【0059】
<ウレタン変性ポリエステル樹脂の製造>
ウレタン変性ポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂とイソシアネート化合物とを反応させることによって製造することができる。例えば、ポリエステル樹脂とイソシアネート化合物を不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じてウレタン化触媒を用いて反応させることにより製造することができる。
【0060】
ウレタン化触媒としては、酸化ジブチルスズ、ジ(2−エチルヘキサン酸)スズ等のスズ化合物やチタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等のチタン化合物等の触媒を使用することができる。
ウレタン化触媒の使用量に制限はないが、ポリエステル樹脂とイソシアネート化合物との総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、そして、好ましくは1.5質量部以下、より好ましくは1.0質量部以下である。
【0061】
ポリエステル樹脂とイソシアネート化合物との反応は、有機溶媒中で行うことが好ましい。有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等、イソシアネート基と反応可能な官能基を有しない公知の各種の有機溶媒を用いることができる。
有機溶媒を使用する場合の有機溶媒の使用量は、反応性の観点から、ポリエステル樹脂とイソシアネート化合物との総量100質量部に対して、好ましくは30質量部以上、より好ましくは50質量部以上、更に好ましくは70質量部以上であり、そして、好ましくは500質量部以下、より好ましくは300質量部以下、更に好ましくは200質量部以下である。
【0062】
ポリエステル樹脂とイソシアネート化合物との反応温度は、好ましくは20℃以上100℃以下であり、溶媒の沸点以下である。また、反応時間は、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上、更に好ましくは3時間以上であり、そして、好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下、更に好ましくは6時間以下である。
【0063】
<ウレタン変性ポリエステル樹脂粒子の製造>
ウレタン変性ポリエステル樹脂を水性媒体へ分散することで、ウレタン変性ポリエステル樹脂粒子の水性分散液を得ることができる。本発明の樹脂粒子としては、該ウレタン変性ポリエステル樹脂粒子を使用することができるが、後述するように、ウレタン変性ポリエステル樹脂を付加重合性モノマーと反応させて複合樹脂を得、複合樹脂粒子とすることが好ましい。
ウレタン変性ポリエステル樹脂粒子の水性分散液の製造方法としては、ウレタン変性ポリエステル樹脂溶液に対して水性媒体を徐々に添加し、樹脂を有機相から水相に転相して乳化する方法(転相乳化法)が好ましい。
【0064】
水性媒体としては、水を主成分とするものが好ましく、ウレタン変性ポリエステル樹脂粒子の水性分散液の分散安定性を向上させる観点及び環境負荷低減の観点から、水性媒体中の水の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上、更に好ましくは100質量%である。水としては、脱イオン水、イオン交換水、及び蒸留水が好ましく用いられる。
水以外の成分としては、炭素数1以上5以下のアルキルアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の炭素数3以上5以下のジアルキルケトン;テトラヒドロフラン等の環状エーテル等の水に溶解する有機溶媒が用いられる。
【0065】
水性媒体中にウレタン変性ポリエステル樹脂を分散させる方法としては、ウレタン変性ポリエステル樹脂をケトン系溶媒に溶解させ、後述する中和剤を加えてウレタン変性ポリエステル樹脂のカルボキシ基をイオン化し、次いで水性媒体を加えて水系に転相する方法、好ましくは、水性媒体を加えた後にケトン系溶媒を留去して水系に転相する方法が挙げられる。
【0066】
より具体的には、例えば、撹拌機、還流冷却管、温度計、滴下ロート及び窒素ガス導入管を備えた反応器を準備し、ケトン系溶媒に溶解したウレタン変性ポリエステル樹脂に、中和剤等を添加し、カルボキシ基をイオン化し(すでにイオン化されている場合は不要)、次いで水性媒体を加えて水系に転相する、好ましくは、水性媒体を加えて転相した後にケトン系溶媒を留去して水性分散液とする。
ウレタン変性ポリエステル樹脂のケトン系溶媒への溶解操作、及びその後の中和剤の添加は、通常、ケトン系溶媒の沸点以下の温度で行う。
ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソプロピルケトン等が挙げられる。ウレタン変性ポリエステル樹脂の溶解性及び溶媒の留去容易性の観点から、好ましくはメチルエチルケトンである。
【0067】
ウレタン変性ポリエステル樹脂粒子中の樹脂に対する有機溶媒の質量比(有機溶媒/樹脂)は、樹脂を溶解し水性媒体への転相を容易にする観点、ウレタン変性ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは0.7以上であり、そして、好ましくは5.0以下、より好ましくは3.0以下、更に好ましくは2.0以下、更に好ましくは1.5以下である。
【0068】
また、中和剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン及びトリブチルアミン等の含窒素塩基性物質などが挙げられる。これらの中でも、ウレタン変性ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは水酸化ナトリウム又はアンモニアである。
ウレタン変性ポリエステル樹脂の酸基に対する前記中和剤の使用当量(モル%)は、ウレタン変性ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは10モル%以上、より好ましくは50モル%以上であり、そして、好ましくは150モル%以下、より好ましくは120モル%以下、更に好ましくは100モル%以下である。
なお、中和剤の使用当量(モル%)は、下記式によって求めることができる。中和剤の使用当量は、100モル%以下の場合、中和度と同義であり、下記式で中和剤の使用当量が100モル%を超える場合には、中和剤が樹脂の酸基に対して過剰であることを意味し、この時の樹脂の中和度は100モル%とみなす。
中和剤の使用当量(モル%)=〔{中和剤の添加質量(g)/中和剤の当量}/[{樹脂の酸価(mgKOH/g)×樹脂の質量(g)}/(56×1000)]〕×100
【0069】
水性媒体の添加量は、ウレタン変性ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させる観点から、水系へ分散させる樹脂100質量部に対して、好ましくは100質量部以上、より好ましくは150質量部以上、更に好ましくは200質量部以上であり、そして、好ましくは900質量部以下、より好ましくは600質量部以下、更に好ましくは400質量部以下である。
全量添加後の、有機溶媒に対する水性媒体の質量比(水性媒体/有機溶媒)は、好ましくは40/60以上、より好ましくは50/50以上、更に好ましくは60/40以上であり、そして、好ましくは90/10以下、より好ましくは85/15以下、更に好ましくは80/20以下である。
【0070】
水性媒体を混合する際の温度は、ウレタン変性ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、更に好ましくは25℃以上であり、そして、好ましくは80℃以下、より好ましくは65℃以下、更に好ましくは50℃以下である。
水性媒体の添加速度は、ウレタン変性ポリエステル樹脂粒子の分散安定性を向上させる観点から、転相が終了するまでは、水系へ分散させる樹脂100質量部に対して、好ましくは0.5質量部/分以上、より好ましくは1質量部/分以上、更に好ましくは3質量部/分以上であり、そして、好ましくは50質量部/分以下、より好ましくは30質量部/分以下、更に好ましくは20質量部/分以下である。転相後の水性媒体の添加速度には制限はない。
【0071】
転相乳化の後に、必要に応じて、転相乳化で得られた水性分散液から有機溶媒を除去する工程を有していてもよい。
有機溶媒の除去方法は、特に限定されず、任意の方法を用いることができるが、水と溶解しているため蒸留することが好ましい。また、有機溶媒は、完全に除去されず水性分散液中に残留していてもよい。この場合、有機溶媒の残存量は、水性分散液中、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。
【0072】
ウレタン変性ポリエステル樹脂粒子の水性分散液の固形分濃度は、インクの生産性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
なお、固形分は樹脂、必要に応じて添加されうる界面活性剤、着色剤等の任意成分等の不揮発性成分の総量である。ウレタン変性ポリエステル樹脂粒子の水性分散液の固形分濃度は、実施例に記載の方法で求められる。
【0073】
ウレタン変性ポリエステル樹脂粒子の水性分散液の25℃におけるpHは、水性分散液の保存安定性を向上させる観点から、好ましくは5以上、より好ましくは6以上、更に好ましくは7以上であり、そして、好ましくは10以下、より好ましくは9以下である。
【0074】
水性分散液中のウレタン変性ポリエステル樹脂粒子の体積平均粒径(DV)は、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性を向上させる観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは55nm以上、更に好ましくは58nm以上であり、そして、好ましくは100nm以下、より好ましくは95nm以下、更に好ましくは90nm以下である。当該体積平均粒径(DV)は、動的光散乱法で測定されるものであり、実施例に記載の方法で求められる。
【0075】
(複合樹脂)
本発明において、ポリエステル樹脂とイソシアネート化合物との反応物は、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、ウレタン変性ポリエステル樹脂からなる主鎖セグメントと付加重合系樹脂からなる側鎖セグメントとを有する複合樹脂であることが好ましい。複合樹脂は、前記のウレタン変性ポリエステル樹脂からなる主鎖セグメント及び付加重合系樹脂からなる側鎖セグメントからなるグラフトポリマーである。複合樹脂とすることで樹脂粒子のガラス転移温度を高くすることができ、ひいては印刷画像の光沢性及び耐熱性を向上することができる。
【0076】
本明細書において、「ウレタン変性ポリエステル樹脂からなる主鎖セグメント」を「主鎖セグメント(A1)」又は「セグメント(A1)」ともいい、「付加重合系樹脂からなる側鎖セグメント」を「側鎖セグメント(A2)」又は「セグメント(A2)」ともいう。ここで、ウレタン変性ポリエステル樹脂からなる主鎖セグメント(A1)とは、主鎖セグメント(A1)がウレタン変性ポリエステル樹脂に由来することを意味する。また、付加重合系樹脂からなる側鎖セグメント(A2)とは、側鎖セグメント(A2)が付加重合系樹脂に由来することを意味する。
【0077】
複合樹脂は、セグメント(A1)及びセグメント(A2)の他に、本発明の効果を阻害しない範囲内において他のセグメントを有していてもよい。ただし、複合樹脂中におけるセグメント(A1)及びセグメント(A2)の合計含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上、より更に好ましくは100質量%である。
【0078】
グラフトポリマーを構成するセグメント(A1)とセグメント(A2)との質量比[セグメント(A1)/セグメント(A2)]は、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、好ましくは55/45以上、より好ましくは60/40以上、更に好ましくは70/30以上であり、そして、好ましくは95/5以下、より好ましくは92/8以下である。セグメント(A1)がセグメント(A2)より多く存在することで、印刷画像の耐熱性を維持しつつ、水との親和性が上がり、造膜性に優れ、記録媒体への定着性に優れるものと考えられる。
【0079】
<主鎖セグメント(A1)>
複合樹脂を構成するセグメント(A1)は、ウレタン変性ポリエステル樹脂からなるセグメントである。セグメント(A1)は、複合樹脂(すなわちグラフトポリマー)における主鎖である。ウレタン変性ポリエステル樹脂については、前述のとおりである。
【0080】
<側鎖セグメント(A2)>
側鎖セグメント(A2)は、付加重合系樹脂からなるセグメントであり、付加重合系樹脂は、付加重合性モノマーに由来する構成単位からなる。セグメント(A2)は、複合樹脂(すなわちグラフトポリマー)における側鎖である。
【0081】
付加重合性モノマーは、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、スチレン系化合物を含有することが好ましい。スチレン系化合物としては、スチレン、メチルスチレン、メトキシスチレン、クロロスチレン等が挙げられ、入手性及び反応性の観点から、スチレンが好ましい。
【0082】
付加重合性モノマーは、スチレン系化合物のみであってもよいが、PET及びPVCフィルムへの密着性を向上させる観点から、スチレン系化合物以外の付加重合性モノマーを含んでいてもよい。スチレン系化合物以外の付加重合性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステル;エチレン、プロピレン、ブタジエン等のオレフィン類;塩化ビニル等のハロビニル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;ビニルメチルエーテル等のビニルエーテル類;ビニリデンクロリド等のハロゲン化ビニリデン;N−ビニルピロリドン等のN−ビニル化合物等の1種又は2種以上が挙げられる。これらの中で、(メタ)アクリル酸エステルがより好ましい。
【0083】
(メタ)アクリル酸エステルは、好ましくは炭素数1以上22以下、より好ましくは炭素数6以上18以下のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリルアクリレート等が挙げられる。好ましくは2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート及びラウリルアクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種、より好ましくは2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートである。
【0084】
以上の付加重合性モノマーの中でも、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点からは、好ましくはスチレン及び2−エチルヘキシルアクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種、より好ましくはスチレンである。
【0085】
<複合樹脂の物性>
前述したように、本発明における樹脂粒子のガラス転移温度は、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、75℃以上である。そのため、樹脂粒子が実質的に複合樹脂からなる場合には、複合樹脂のガラス転移温度は、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、好ましくは75℃以上、より好ましくは80℃以上、更に好ましくは85℃以上であり、そして、好ましくは105℃以下、より好ましくは100℃以下、更に好ましくは95℃以下である。
【0086】
<複合樹脂(粒子)の製造>
複合樹脂の製造方法に制限はなく、ウレタン変性ポリエステル樹脂と付加重合性モノマーとを直接混合して重合する方法、ウレタン変性ポリエステル樹脂と付加重合性モノマーとを有機溶媒に溶解して重合する方法等が挙げられるが、ウレタン変性ポリエステル樹脂を水性媒体と混合して、ウレタン変性ポリエステル樹脂粒子の水性分散液を得た後に、該水性分散液に付加重合性モノマーを添加して重合して複合樹脂を得、複合樹脂粒子を含有する水性分散液を得る方法が好ましい。
【0087】
まず、付加重合性モノマーをウレタン変性ポリエステル樹脂の水性分散液に添加する。付加重合性モノマーの添加量は、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、ウレタン変性ポリエステル樹脂と付加重合性モノマーとの質量比[ウレタン変性ポリエステル樹脂/付加重合性モノマー]で、好ましくは50/50以上、より好ましくは60/40以上、更に好ましくは70/30以上であり、そして、好ましくは95/5以下、より好ましくは92/8以下である。また、撹拌効率の観点から、更に水等を加えてもよい。
【0088】
次に、ウレタン変性ポリエステル樹脂の存在下、付加重合性モノマーを重合する。重合には、公知のラジカル重合開始剤、架橋剤等を必要に応じて添加する。ラジカル重合開始剤としては、水溶性のラジカル重合開始剤を用いることが好ましく、過硫酸塩を用いることがより好ましく、過硫酸ナトリウムを用いることが更に好ましい。
ウレタン変性ポリエステル樹脂と付加重合性モノマーとを含有する混合液を加熱することで重合反応を進行させる。重合温度は、用いられる重合開始剤の種類にもよるが、例えば、過硫酸ナトリウムを用いる場合には、重合反応を効率的に行う観点から、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上であり、そして、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下である。同様の観点から、反応時間は、好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上、更に好ましくは5時間以上であり、そして、好ましくは10時間以下、より好ましくは8時間以下、更に好ましくは7時間以下である。
【0089】
複合樹脂粒子の水性分散液の固形分濃度は、インクの生産性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
なお、固形分は樹脂、必要に応じて添加されうる界面活性剤、着色剤等の前記の任意成分等の不揮発性成分の総量である。複合樹脂粒子の水性分散液の固形分濃度は、実施例に記載の方法で求められる。
【0090】
複合樹脂粒子の水性分散液の25℃におけるpHは、水性分散液の保存安定性を向上させる観点から、好ましくは5以上、より好ましくは6以上、更に好ましくは7以上であり、そして、好ましくは10以下、より好ましくは9以下である。
【0091】
水性分散液中の複合樹脂粒子の体積平均粒径(DV)は、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは55nm以上、更に好ましくは58nm以上であり、そして、好ましくは100nm以下、より好ましくは95nm以下、更に好ましくは90nm以下である。当該体積平均粒径(DV)は、動的光散乱法で測定されるものであり、実施例に記載の方法で求められる。
【0092】
[着色剤]
本発明において着色剤とは、顔料又は染料をいう。また、着色剤は、界面活性剤や分散用ポリマーを用いてインク中で安定な微粒子にしてもよい。
着色剤としては、顔料、疎水性染料、水溶性染料(酸性染料、反応染料、直接染料等)等が挙げられる。これらの中でも、インクの分散安定性、印刷物の耐水性、光沢性、及び表面平滑性を向上させる観点から、好ましくは、顔料及び疎水性染料から選ばれる少なくとも1種、より好ましくは顔料である。着色剤は、1種を単独で又は2種以上の組合せを任意の割合で混合して用いることができる。
【0093】
顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。顔料は、1種を単独で又は2種以上の組み合わせを任意の割合で混合して用いることができる。
無機顔料としては、カーボンブラック、金属酸化物等が挙げられ、黒色インクに用いる場合、好ましくはカーボンブラックである。
有機顔料としては、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられ、これらの中でも、好ましくはフタロシアニン顔料、より好ましくは銅フタロシアニンである。
色相は特に限定されず、イエロー、マゼンタ、シアン、ブルー、レッド、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
【0094】
有機顔料としては、好ましくは、C.I.ピグメントイエロー、C.I.ピグメントレッド、C.I.ピグメントオレンジ、C.I.ピグメントバイオレット、C.I.ピグメントブルー、及びC.I.ピグメントグリーンからなる群から選ばれる少なくとも1種の各品番製品が挙げられる。
【0095】
本発明においては、自己分散型顔料を用いることもできる。自己分散型顔料とは、親水性官能基(カルボキシ基やスルホン酸基等のアニオン性親水基、又は第4級アンモニウム基等のカチオン性親水基)の1種以上を直接又は他の原子団を介して顔料の表面に結合することで、界面活性剤や樹脂を用いることなく水性媒体に分散可能である無機顔料や有機顔料を意味する。ここで、他の原子団としては、炭素数1以上12以下のアルカンジイル基、フェニレン基又はナフチレン基等が挙げられる。
【0096】
疎水性染料とは、100gの水中(20℃)における溶解度が、好ましくは6質量%未満の染料のことをいう。疎水性染料としては、油溶性染料、分散染料等が挙げられる。
【0097】
着色剤の含有量は、インクの分散安定性及び画像濃度を向上させる観点から、インク中、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは25質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0098】
樹脂粒子に対する着色剤の質量比〔着色剤/樹脂粒子〕は、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性を向上させる観点から、インク中、好ましくは10/90以上、より好ましくは20/80以上、更に好ましくは30/70以上、更に好ましくは40/60以上であり、そして、好ましくは80/20以下、より好ましくは70/30以下、更に好ましくは60/40以下、更に好ましくは50/50以下である。
【0099】
〔着色剤を含有するポリマー粒子〕
着色剤は、界面活性剤、ポリマー等を用いて、インク中で安定な微粒子にしてもよい。用いられるポリマーとしては、ポリエステル、ポリウレタン、ビニル系ポリマー等が挙げられる。例えば、特開2006−152241号公報、特開2015−13971号公報等に記載の方法により、着色剤を含有するポリマー粒子として用いてもよい。
【0100】
(水系インクの任意成分)
本発明の水系インクには、有機溶媒、浸透剤、分散剤、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤、pH調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤を添加することができる。
【0101】
有機溶媒としては、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル、多価アルコールアリールエーテル、環状カーボネート、含窒素複素環化合物、アミド、アミン、含硫黄化合物等が挙げられる。
【0102】
多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、テトラエチレングリコール、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,3−ブタントリオール、3−メチル−1,3,5−ペンタントリオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール等が挙げられる。
【0103】
多価アルコールアルキルエーテルとしては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0104】
多価アルコールアリールエーテルとしては、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等が挙げられる。
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられる。
含窒素複素環化合物としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ε−カプロラクタム等が挙げられる。
アミドとしては、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
アミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
含硫黄化合物としては、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール、チオジグリコール等が挙げられる。
【0105】
有機溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用することが好ましい。
これらの中でも、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル及び含窒素複素環化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、グリセリン、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソブチルエーテル及び2−ピロリドンからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、プロピレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソブチルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種が更に好ましい。
【0106】
有機溶媒の含有量は、インクの分散安定性を向上させる観点から、インク中で、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下である。なお、有機溶媒を2種以上組み合わせて使用する場合は、その合計の含有量である。
【0107】
界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、シリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0108】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール;ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のグリコールエーテル;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0109】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、琥珀酸エステルスルホン酸塩、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩等が挙げられる。
【0110】
両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミノプロピオン酸塩、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキシド、ミリスチルジメチルアミンオキシド、ステアリルジメチルアミンオキシド、ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシド等が挙げられる。
【0111】
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリエステル変性シリコーンやポリエーテル変性シリコーン等が挙げられる。
フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物等が挙げられる。
【0112】
これらの中でも、ノニオン性界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、アセチレングリコール、グリコールエーテル、ポリエステル変性シリコーン、及びポリエーテル変性シリコーンからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、アセチレングリコール及びグリコールエーテルから選ばれる少なくとも1種が更に好ましく、アセチレングリコール及びポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種が更に好ましい。
【0113】
界面活性剤の含有量は、インクの分散安定性を向上させる観点から、インク中で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上であり、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。
【0114】
消泡剤としては、例えば、シリコーン系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤等が挙げられる。
防腐剤及び防黴剤としては、例えば、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキシドナトリウム、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム等が挙げられる。
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール等が挙げられる。
pH調整剤としては、調合されるインクに悪影響を及ぼすことなくpHを7以上に調整できるものであれば特に制限はなく、目的に応じて任意の物質を使用することができ、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物等が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0115】
[水系インクの組成]
水系インクに含まれる樹脂粒子の含有量は、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、インク中、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、更に好ましくは7質量%以下である。
水系インクに含まれるウレタン変性ポリエステル樹脂粒子又は複合樹脂粒子の含有量は、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、インク中、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
水系インクに含まれる水の含有量は、インクの粘度を適正に保つ観点から、インク中、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは75質量%以下である。
【0116】
[水系インクの製造方法]
本発明の水系インクの製造方法としては、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、以下の工程1〜4を有する水系インクの製造方法が好ましい。
工程1:アルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合させてポリエステル樹脂を得る工程、
工程2:工程1で得られたポリエステル樹脂とイソシアネート化合物とを反応させて、ウレタン変性ポリエステル樹脂を得る工程、
工程3:工程2で得られたウレタン変性ポリエステル樹脂を水性媒体へ分散し、樹脂粒子の水性分散液を得る工程、及び
工程4:工程3で得られた樹脂粒子の水性分散液と、着色剤とを混合し、水系インクを得る工程
【0117】
(工程1)
工程1は、アルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合させてポリエステル樹脂を得る工程である。工程1で得られるポリエステル樹脂は、ウレタン変性ポリエステル樹脂及び複合樹脂の原料となる。
工程1では、例えば、前記アルコール成分と前記カルボン酸成分とを不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じてエステル化触媒、エステル化助触媒及びラジカル重合禁止剤を用いて、ポリエステル樹脂を製造することができる。詳細については前述のとおりである。
【0118】
(工程2)
工程2は、工程1で得られたポリエステル樹脂とイソシアネート化合物とを反応させて、ウレタン変性ポリエステル樹脂を得る工程である。
工程2では、例えば、ポリエステル樹脂とイソシアネート化合物を不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じてウレタン化触媒を用いて反応させることによりウレタン変性ポリエステル樹脂を製造することができる。詳細については前述のとおりである。
【0119】
次の工程3において転相乳化法によりウレタン変性ポリエステル樹脂粒子の水性分散液を得る場合には、有機溶媒を用いて樹脂溶液の固形分濃度を調整することが好ましい。
【0120】
(工程3)
工程3は、工程2で得られたウレタン変性ポリエステル樹脂を水性媒体へ分散し、樹脂粒子の水性分散液を得る工程である。工程3においては、ウレタン変性ポリエステル樹脂溶液に対して水性媒体を徐々に添加し、樹脂を有機相から水相に転相して乳化する方法(転相乳化法)が好ましい。転相乳化法の好ましい具体例や好ましい使用量についての詳細は前述のとおりである。
【0121】
(工程3a)
PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性に優れた水系インクを得る観点から、工程3で得られたウレタン変性ポリエステル樹脂粒子の水性分散液に、付加重合性モノマーを添加し、重合して、複合樹脂粒子の水性分散液を得る工程(工程3a)を更に有することが好ましい。
工程3aでは、例えば、ウレタン変性ポリエステル樹脂粒子の水性分散液に、付加重合性モノマーを添加し、必要に応じてラジカル重合開始剤、架橋剤等を添加し、重合させることにより製造することができる。詳細は前述のとおりである。
【0122】
(工程4)
工程4は、工程3で得られた樹脂粒子(ウレタン変性ポリエステル樹脂粒子又は複合樹脂粒子)の水性分散液と、着色剤とを混合し、水系インクを得る工程である。
工程4では、工程3で得られた樹脂粒子の水性分散液と、前述の着色剤とを混合する。その他、前述の有機溶媒、浸透剤、分散剤、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤、pH調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤を添加してもよい。
以上の工程1〜4を経ることで、本発明の水系インクが得られる。
【0123】
[インクジェット記録方法]
本発明の水系インクは、インクジェット記録用のインクとして用いることができる。本発明の水系インクをインクジェット記録方法に用いる際の好適な態様としては、本発明の水系インクをインクジェット記録方式で樹脂製記録媒体に付着させた後、該水系インクが付着した樹脂製記録媒体を40℃以上100℃以下に加熱する。水系インク中の樹脂粒子を構成する樹脂が、該樹脂製記録媒体の印字面に拡散し、塗膜を形成する際に着色剤の定着助剤として作用することができ、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性を更に向上させることができる。
樹脂製記録媒体の加熱温度は、樹脂製記録媒体への優れた密着性を得る観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上であり、そして、好ましくは90℃以下、より好ましくは85℃以下である。
【0124】
本発明の水系インクは、オフィス用印刷、並びに、カタログ、チラシ、パッケージ、ラベル等の商業及び産業用印刷のいずれにも使用することができる。商業及び産業用ラベル印刷に適している、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PP(ポリプロピレン)、NY(ナイロン)等の非吸水性又は低吸水性の樹脂製記録媒体へ好適に用いることができることから、商業又は産業用印刷への使用に適している。
なお、本発明において、「非吸水性又は低吸水性」とは、記録媒体と水との接触時間100m秒における記録媒体の吸水量が0g/m2以上10g/m2以下であることを意味する。
【0125】
樹脂製記録媒体としては、好ましくはポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリプロピレンフィルム及びナイロンフィルムからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはポリエチレンテレフタレートフィルム又はポリ塩化ビニルフィルムである。当該樹脂製記録媒体は、コロナ処理された基材を用いてもよい。
【0126】
樹脂製記録媒体として使用できる一般的に入手可能なフィルムとしては、例えば、「ルミラーT60」、「ルミラー75T60」(いずれも東レ株式会社製、ポリエチレンテレフタレート)、「PVC80B P」(リンテック株式会社製、ポリ塩化ビニル)、「DGS−210WH」(ローランドディージー株式会社製、ポリ塩化ビニル)、「透明塩ビRE−137」(株式会社ミマキエンジニアリング製、ポリ塩化ビニル)、「カイナスKEE70CA」(リンテック株式会社製、ポリエチレン)、「ユポSG90 PAT1」(リンテック株式会社製、ポリプロピレン)、「FOR」、「FOA」(いずれもフタムラ化学株式会社製、ポリプロピレン)、「ボニールRX」(興人フィルム&ケミカルズ株式会社製、ポリアミド)、「エンブレムONBC」(ユニチカ株式会社製、ポリアミド)等が挙げられる。
【0127】
本発明のインクジェット記録方法は、公知のインクジェット記録装置を用いることができる。インクジェット記録装置としては、サーマル式インクジェット記録装置、ピエゾ式インクジェット記録装置が挙げられる。本発明の水系インクは、ピエゾ式のインクジェット記録用水系インクとして用いることがより好ましい。
【実施例】
【0128】
以下の製造例、実施例及び比較例において、特記しない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。なお、各物性は、以下の方法により測定した。
【0129】
[ポリエステル樹脂、ウレタン変性ポリエステル樹脂の酸価、水酸基価]
JIS K0070に準拠して測定した。ただし、JIS K0070に規定されている溶媒を、エタノールとエーテルとの混合溶媒から、アセトンとトルエンとの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更した。
【0130】
[ポリエステル樹脂、ウレタン変性ポリエステル樹脂の軟化点]
フローテスター「CFT−500D」(株式会社島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/minで加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出した。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とした。
【0131】
[ポリエステル樹脂、ウレタン変性ポリエステル樹脂、複合樹脂粒子のガラス転移温度]
示差走査熱量計「Q−100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製)を用いて、試料0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温した後、200℃から降温速度10℃/minで0℃まで冷却して測定用サンプルを調製した。その後、昇温速度10℃/minで昇温し、熱量を測定した。観測される吸熱ピークのうち、ピーク面積が最大のピーク温度を吸熱の最大ピーク温度とし、吸熱の最大ピーク温度以下のベースラインの延長線と、該ピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とした。なお、複合樹脂粒子の測定にあたっては、溶液の一部を採取し、乾燥させて固体の複合樹脂粒子を回収し、測定に供した。
【0132】
[ポリエステル樹脂、ウレタン変性ポリエステル樹脂の重量平均分子量及び数平均分子量]
以下に示すゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を測定した。
(1)試料溶液の調製
濃度が0.5g/100mLになるように、試料をテトラヒドロフランに、25℃で溶解させ、次いで、この溶液をポアサイズ0.2μmのフッ素樹脂フィルター「DISMIC」(ADVANTEC社製、型式「25JP」)を用いて濾過して不溶解成分を除き、試料溶液とした。
(2)測定
以下の測定装置と分析カラムを用い、溶離液としてテトラヒドロフランを、1mL/minの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させ、そこに前記試料溶液100μLを注入して分子量を測定した。試料の分子量(Mw、Mn)は、数種類の単分散ポリスチレン「TSKgel標準ポリスチレン」(タイプ名(Mw):「A−500(5.0×102)」、「A−1000(1.01×103)」、「A−2500(2.63×103)」、「A−5000(5.97×103)」、「F−1(1.02×104)」、「F−2(1.81×104)」、「F−4(3.97×104)」、「F−10(9.64×104)」、「F−20(1.90×105)」、「F−40(4.27×105)」、「F−80(7.06×105)」、「F−128(1.09×106)」;いずれも東ソー株式会社製)を標準試料として、あらかじめ作成した検量線に基づき算出した。
<測定条件>
測定装置:「HLC−8220GPC」(東ソー株式会社製)
分析カラム:「GMHXL」+「G3000HXL」(いずれも東ソー株式会社製)
カラム温度:40℃
流速:1mL/min
【0133】
[水性分散液中のウレタン変性ポリエステル樹脂粒子、ポリエステル樹脂粒子、複合樹脂粒子の体積平均粒径(DV)]
(1)測定装置:ゼータ電位及び粒径測定システム「ELSZ−2」(大塚電子株式会社製)
(2)測定条件:キュムラント解析法。測定する粒子の濃度が約5×10-3質量%になるように水で希釈した分散液を測定用セルに入れ、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力して測定した。
【0134】
[ウレタン変性ポリエステル樹脂粒子、ポリエステル樹脂粒子、複合樹脂粒子の水性分散液の固形分濃度]
赤外線水分計「FD−230」(株式会社ケツト科学研究所製)を用いて、測定試料5gを乾燥温度150℃、測定モード96(監視時間2.5分/変動幅0.05%)の条件にて乾燥させ、水性分散液の水分(質量%)を測定した。固形分濃度は次の式に従って算出した。
固形分濃度(質量%)=100−水分(質量%)
【0135】
[ウレタン変性ポリエステル樹脂粒子、ポリエステル樹脂粒子、複合樹脂粒子の水性分散液のpH]
pHメーター「HM−20P」(東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて、25℃で測定した。
【0136】
[密着性の評価]
インクジェットプリンター「IPSiO GX 2500」(株式会社リコー製、ピエゾ方式)に水系インクを充填し、二軸延伸PETフィルム「ルミラー75T60」(東レ株式会社製)、及びPVCフィルム「透明塩ビRE−137」(株式会社ミマキエンジニアリング製)にA4ベタ画像を印刷した。80℃の乾燥機にて10分乾燥し、室温25℃、相対湿度50%の環境室にて1日静置して試料を調製した。その後、試料の印刷面に長さ5cm、幅15mmのテープ「セロテープ(登録商標)CT15」(ニチバン株式会社製)を、1cmの余白を残し4cm貼りつけ、角度90°で10cm/secの速度で該テープを剥がし、試料の塗工面の残存面積を目視により次の5段階で評価した。点数が高いほど密着性に優れる。
<評価基準>
5点: 剥離なし、又は、剥離があるが剥離面積5%未満
4点: 剥離面積5%以上10%未満
3点: 剥離面積10%以上30%未満
2点: 剥離面積30%以上50%未満
1点: 剥離面積50%以上
【0137】
[光沢性の評価]
インクジェットプリンター「IPSiO GX 2500」(株式会社リコー製、ピエゾ方式)に水系インクを充填し、二軸延伸PETフィルム「ルミラー75T60」(東レ株式会社製)にA4ベタ画像を印刷した。80℃の乾燥機にて10分乾燥し、室温25℃、相対湿度50%の環境室にて1日静置した後、印刷面を上にしてKPカット紙(国際紙パルプ商事株式会社製)上に乗せ、光沢度計「IG−300」(株式会社堀場製作所製)で測定面積3mm×6mm楕円を入射角60°にて光沢度を測定した。光沢度の数値が大きいほど光沢性に優れる。
【0138】
[耐熱性の評価]
インクジェットプリンター「IPSiO GX 2500」(株式会社リコー製、ピエゾ方式)に水系インクを充填し、二軸延伸PETフィルム「ルミラー75T60」(東レ株式会社製)にA4ベタ画像を印刷した。80℃の乾燥機にて10分乾燥し、室温25℃、相対湿度50%の環境室にて1日静置した後、2cm×5cmの大きさ2枚を切り取った。この2枚を、印刷面同士を合わせた状態でガラスプレートに挟み、20gの荷重をかけ、100℃の恒温槽内に12時間静置した。その後、室温(25℃)で1時間静置した後、貼り合せた面を剥がし、印刷面の剥離面積を目視により次の4段階で評価した。剥離面積が小さいほど耐熱性に優れる。
(評価基準)
A: 剥離面積0%
B: 剥離面積0%より大きく10%以下
C: 剥離面積10%より大きく30%未満
D: 剥離面積30%以上
【0139】
製造例1
(ポリエステル樹脂PES1の製造)
窒素導入管、脱水管、撹拌機、及び熱電対を装備した四つ口フラスコの内部を窒素置換し、ポリオキシプロピレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン3922g、ポリオキシエチレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン1561g、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン1281g、イソフタル酸2940g、及び酸化ジブチルスズ20gを入れ、窒素雰囲気下、撹拌しながら、180℃まで昇温した後、230℃まで5時間かけて昇温し、230℃で5時間保持した。その後、180℃まで冷却し、大気圧に戻した後、フマル酸297gを加え、200℃まで3時間かけて昇温した後、フラスコ内の圧力を下げ、8.3kPaにて3時間反応させ、ポリエステル樹脂PES1を得た。PES1の特性を表1に示す。
【0140】
製造例2及び3
(ポリエステル樹脂PES2及びPES3の製造)
製造例1において、原料モノマーの添加量を表1に示すとおりに変更した以外は製造例1と同様にして、ポリエステル樹脂PES2及びPES3を得た。得られたポリエステル樹脂の特性を表1に示す。
【0141】
【表1】
【0142】
製造例4
(ウレタン変性ポリエステル樹脂溶液PU1の製造)
窒素導入管、還流冷却管、撹拌器「スリーワンモーターBL300」(新東科学株式会社製)及び熱電対を装備した四つ口フラスコに、ポリエステル樹脂PES1 200g、メチルエチルケトン(以下、「MEK」ともいう)160g、触媒としてジ(2−エチルヘキサン酸)スズ1.0gを入れ、窒素雰囲気下、室温(25℃)で撹拌して混合溶解した。次いで、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート(以下、「DCMDI」ともいう)10.8gを入れ、撹拌しながら、80℃へ昇温し、80℃で5時間保持した。25℃まで冷却後、メチルエチルケトンにて固形分濃度を50質量%に調整し、ウレタン変性ポリエステル樹脂溶液PU1を得た。得られた溶液中のウレタン変性ポリエステル樹脂の特性を表2に示す。
【0143】
製造例5及び6
(ウレタン変性ポリエステル樹脂溶液PU2及びPU3の製造)
製造例4において、ポリエステル樹脂の種類及びDCMDIの添加量を表2に示すとおりに変更した以外は製造例4と同様にして、ウレタン変性ポリエステル樹脂溶液PU2及びPU3を得た。得られた溶液中のウレタン変性ポリエステル樹脂の特性を表2に示す。
【0144】
【表2】
【0145】
製造例7
(ウレタン変性ポリエステル樹脂粒子の水性分散液Em1の製造)
窒素導入管、還流冷却管、撹拌器「スリーワンモーターBL300」(新東科学株式会社製)及び熱電対を装備した1リットルの四つ口フラスコに、ウレタン変性ポリエステル樹脂溶液PU1 400gを入れ、30℃で撹拌しながら、48質量%水酸化ナトリウム水溶液2.3gを添加して30分撹拌し、有機溶媒系スラリーを得た。30℃、撹拌下、20mL/minの速度で脱イオン水600gを滴下した。その後、60℃に昇温した後、80kPaから30kPaに段階的に減圧していきながらメチルエチルケトンを留去し、更に一部の水を留去した。25℃まで冷却後、150メッシュの金網で濾過し、脱イオン水にて固形分濃度を30質量%に調整し、ウレタン変性ポリエステル樹脂粒子の水性分散液Em1を得た。得られた水性分散液の特性を表3に示す。
【0146】
製造例8及び9
(ウレタン変性ポリエステル樹脂粒子の水性分散液Em2及びEm3の製造)
製造例7において、ウレタン変性ポリエステル樹脂溶液の種類及び48質量%水酸化ナトリウム水溶液の添加量を表3に示すとおりに変更した以外は製造例7と同様にして、ウレタン変性ポリエステル樹脂粒子の水性分散液Em2及びEm3を得た。得られた水性分散液の特性を表3に示す。
【0147】
【表3】
【0148】
製造例10
(ポリエステル樹脂粒子の水性分散液Em4の製造)
窒素導入管、還流冷却管、撹拌器「スリーワンモーターBL300」(新東科学株式会社製)及び熱電対を装備した1リットルの四つ口フラスコに、ポリエステル樹脂PES1 200gを入れ、30℃でメチルエチルケトン200gと混合し樹脂を溶解させた。次いで、48質量%水酸化ナトリウム水溶液2.5gを添加して30分撹拌し、有機溶媒系スラリーを得た。30℃、撹拌下、20mL/minの速度で脱イオン水600gを滴下した。その後、60℃に昇温した後、80kPaから30kPaに段階的に減圧していきながらメチルエチルケトンを留去し、更に一部の水を留去した。25℃まで冷却後、150メッシュの金網で濾過し、脱イオン水にて固形分濃度を30質量%に調整し、ポリエステル樹脂粒子の水性分散液Em4を得た。得られた水性分散液の特性を表4に示す。
【0149】
【表4】
【0150】
製造例11
(複合樹脂粒子の水性分散液Em5の製造)
窒素導入管、脱水管、撹拌機、及び熱電対を装備した1リットル容の四つ口フラスコに、ウレタン変性ポリエステル樹脂粒子の水性分散液Em1 333g、脱イオン水25.9g及びスチレン11.1gを入れ、室温(25℃)で30分間撹拌した。次いで、窒素気流下で10質量%過硫酸ナトリウム水溶液0.43gを加え、80℃まで昇温した後、80℃で6時間反応させた。その後、減圧して残存モノマーを留去し、更に一部の水を留去した。25℃まで冷却後、150メッシュの金網で濾過し、脱イオン水にて固形分濃度を30質量%に調整し、複合樹脂粒子の水性分散液Em5を得た。得られた水性分散液の特性を表5に示す。
【0151】
製造例12、16及び17
(複合樹脂粒子の水性分散液Em6、Em10及びEm11の製造)
製造例11において、ウレタン変性ポリエステル樹脂粒子の水性分散液Em1をポリエステル樹脂粒子の水性分散液Em2、Em3又はEm4にそれぞれ変更した以外は製造例11と同様にして、複合樹脂粒子の水性分散液Em6、Em10及びEm11を得た。得られた水性分散液の特性を表5に示す。
【0152】
製造例13
(複合樹脂粒子の水性分散液Em7の製造)
製造例11において、脱イオン水の添加量、スチレンの添加量、及び10質量%過硫酸ナトリウム水溶液の添加量を表5に示すとおりに変更した以外は製造例11と同様にして、複合樹脂粒子の水性分散液Em7を得た。得られた水性分散液の特性を表5に示す。
【0153】
製造例14及び15
(複合樹脂粒子の水性分散液Em8及びEm9の製造)
製造例11において、付加重合性モノマーの種類及び添加量を表5に示すとおりに変更した以外は製造例11と同様にして、複合樹脂粒子の水性分散液Em8及びEm9を得た。得られた水性分散液の特性を表5に示す。
【0154】
【表5】
【0155】
実施例1〜5及び比較例1〜3
(水系インクの製造)
100mLスクリュー管に、プロピレングリコール(和光純薬工業株式会社製)10.0質量部、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(和光純薬工業株式会社製)5.0質量部、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(東京化成工業株式会社製)5.0質量部、濡れ剤「オルフィンE1010」(日信化学工業株式会社製、有効成分:アセチレングリコール系界面活性剤)1.0質量部、及び脱イオン水35.8質量部を混合し、マグネチックスターラーを用い、室温で15分間撹拌して、混合溶液を得た。
次に、自己分散顔料「CAB−O−JET300」(キャボット社製)26.6質量部(顔料分換算4.0部(水系インク100部中))を、マグネチックスターラーで撹拌しながら、前記混合溶液全量を混合し、更に表6に示す樹脂粒子の水性分散液16.6質量部(固形分換算5.0質量部(水系インク100質量部中))をスポイトで滴下しながら撹拌混合した。最後に、孔径1.2μmのフィルター「ミニザルト(登録商標)」(Sartorius Stedim Biotech社製)で濾過し、水系インクを得た。得られた水系インクの評価結果を表6に示す。
【0156】
【表6】
【0157】
樹脂粒子がポリエステル樹脂とイソシアネート化合物との反応物を含有しない比較例3の水系インクは、PET及びPVCフィルムへの密着性並びに形成した画像の耐熱性が不十分であった。比較例1及び2の水系インクは樹脂粒子がポリエステル樹脂とイソシアネート化合物との反応物を含有するが、樹脂粒子のガラス転移温度が75℃未満である比較例1の水系インクは、形成した画像の光沢性及び耐熱性が不十分であった。また、ポリエステル樹脂の酸価が19mgKOH/gである比較例2の水系インクは、PETフィルムへの密着性及び形成した画像の光沢性が不十分であった。
これに対し、本発明の水系インクは、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性のすべてに優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明の水系インクは、PET及びPVCフィルムへの密着性、並びに形成した画像の光沢性及び耐熱性のすべてに優れ、商業又は産業用印刷への使用に好適である。