(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、バイオマス資源の有効利用の観点から、水中の有機汚染物質から電気エネルギーを回収する方法として微生物燃料電池が注目されている。一般的に、微生物燃料電池では、アノード上に嫌気性微生物膜を生成し、嫌気性微生物が有機汚染物質を分解する過程で生じる電子をアノードに集めて外部回路に取り出す。この取り出された電子は外部回路を経由して対電極であるカソードに移動する。そして、カソードに移動した電子は、電子受容体である酸素分子および水素イオンと反応して水を生成する。アノードとカソードとは、例えばイオン交換膜等の隔膜によって分離されており、嫌気性微生物の有機汚染物質分解過程で生成した水素イオンがアノード側からカソード側へ隔膜を透過して移動することにより、電気回路が構成される。なお、このような微生物燃料電池には、水中に没したカソードを有する二室型と、空気中に曝したカソード(エアカソード)を有する一室型とがある。
【0003】
微生物燃料電池の発電効率に影響する因子は種々考えられるが、影響因子の1つとしてカソード反応が考えられる。
【0004】
すなわち、酸素分子と水素イオンとが反応して水を生成するカソード反応において、酸素分子の供給または水素イオンの供給が律速となり、酸素分子または水素イオンが不足することにより発電効率が低下する。
【0005】
酸素分子の不足は、カソード室への供給水やエアカソード表面に形成される液膜中への酸素分子の供給量に依存する。
【0006】
そこで、曝気により酸素分子を供給する二室型ではなく、エアカソードによる一室型にすることにより、酸素溶解速度を改善して酸素分子の供給量を向上させる技術が周知となっている。
【0007】
また、酸素分子の供給効率を更に向上させるために、エアカソードを備える密閉型中空隔膜カセットを用いる方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
水素イオンの不足は、カソード室への供給水やエアカソード表面に形成される液中膜への水素イオンの供給量に依存する。水素のイオン不足はpHの上昇を引き起こす。
【0009】
そこで、エアカソード表面に洗浄水を掛け流すことにより、エアカソードに形成される液膜上での塩の析出を抑制するとともにエアカソードに形成される液膜のpHを低下させる構成が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の第1の実施の形態の構成について
図1および
図2を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
図1において、11は微生物燃料電池であり、この微生物燃料電池11は、燃料電池本体12に排水供給ポンプ13を介して供給した有機汚染物質を含有する排水W1から、電気エネルギーを取り出すものである。
【0021】
微生物燃料電池11は、排水供給ポンプ13を介して供給した排水W1に一方の電極であるアノード14を浸漬したアノード室15と、カソード溶液W2に他方の電極であるカソード16を浸漬したカソード室17と、これらアノード室15とカソード室17との間に位置しアノード室15側からカソード室17側へ陽イオンを透過可能な隔膜としての陽イオン交換膜18とを備える、いわゆる二室型の構成である。
【0022】
アノード14は、導電性部材にて板状に形成しており、アノード室15を満たすように収容された排水W1に浸漬した状態で、一方側の面が陽イオン交換膜18に接触し、他方側の面が排水W1を収容するアノード室15の内面の一部となるように設置する。
【0023】
また、アノード14の他方側の面には、排水W1に含有する有機汚染物質を嫌気分解する図示しない嫌気性微生物膜を形成する。この嫌気性微生物膜は、各種の嫌気性微生物を担持し、排水W1中の有機汚染物質を分解する。
【0024】
カソード16は、導電性部材にて板状に形成しており、カソード室17を満たすように収容されたカソード溶液W2に浸漬した状態で、一方側の面が陽イオン交換膜18に接触し、他方側の面がカソード溶液W2を収容するカソード室17の内面の一部となるように設置する。
【0025】
カソード溶液W2は、3価の鉄イオンと配位座が4座以上のカルボン酸系キレート剤とを含む溶液である。カソード溶液W2におけるカルボン酸系キレート剤は、3価の鉄イオンと結合してキレート化合物を形成する。また、形成されたキレート化合物が陽イオン交換膜を介してアノード室15側に漏出することを防止するために、カソード溶液W2におけるカルボン酸系キレート剤は、配位座が4座以上であることが好ましく、特にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)であることが好ましい。また、カソード溶液W2のpHは、9以下となるように制御することが好ましい。
【0026】
なお、カソード室17では、カソード溶液W2にカソード16が浸漬している必要があるため、例えば上向流式や流路構造等のようにカソード溶液W2が短絡しない構成とする。
【0027】
これらアノード14およびカソード16は、外部回路21に電気的に接続している。
【0028】
そして、アノード室15において排水W1の有機汚染物質を嫌気分解する過程で生じた電子をアノード14に集電する。集電した電子はアノード14から外部回路21を通ってカソード16へ移動する。また、有機汚染物質を嫌気分解する過程で生じた水素イオンは、陽イオン交換膜18を透過してカソード室17側へ移動する。
【0029】
カソード室17では、カソード溶液W2中の3価の鉄イオン(鉄(III)イオン)が外部回路21を介して移動した電子を受け取り、2価の鉄イオン(鉄(II)イオン)になる。
【0030】
なお、外部回路21としては、任意の回路を接続できる。
【0031】
ここで、カソード室17で生成した2価の鉄イオンは、カソード反応に寄与しないため、カソード室17における電子受容体濃度を低下させないように、カソード溶液供給手段22により、3価の鉄イオンを含んだ状態のカソード溶液W2を連続供給する構成が好ましい。
【0032】
カソード溶液供給手段22は、カソード室17からカソード反応が進行した後のカソード溶液である流出液W3を導入して液中の2価の鉄イオンを酸化する酸化装置23と、酸化装置23で流出液W3の2価の鉄イオンを酸化した3価の鉄イオンを有するカソード溶液W2をカソード室17へ循環する循環手段24とを有している。
【0033】
酸化装置23は、カソード室17に接続した筒状の酸化装置本体としての酸化槽25内に、流出液W3を表面張力等で保持可能な粒状の充填体26を充填して形成したろ床層27を有する。
【0034】
また、酸化槽25の上部には、酸化槽25内へ連通しカソード室17からの流出液W3を酸化槽25内へ流入する流入口28を設ける。
【0035】
さらに、酸化槽25の下部には、酸化槽25内から連通し酸化槽25で酸化したカソード溶液W2を酸化槽25から流出する流出口29を設ける。
【0036】
そして、酸化装置23では、カソード室17からの流出液W3を流入口28から滴下し、この流出液W3が充填体26を伝うように保持されながらろ床層27を下方へ流下する。また、ろ床層27を通過する際には大気中の酸素によって酸化反応が起こり、流出液W3中の鉄イオンが2価から3価へ酸化される。すなわち、酸化槽25のろ床層27では、4Fe
2++O
2+2H
2O→4Fe
3++4OH
−の式で示す酸化反応が進行する。また、このようにろ床層27を通過して鉄イオンが3価に酸化したカソード溶液W2は流出口29から流出して循環手段24へ流入する。
【0037】
なお、カソード室17からの流出液W3の酸化槽25への散水負荷の下限値は、散水負荷の低負荷条件で実用化されている標準散水ろ床法の適用条件に基づいて決定することが好ましい。すなわち、標準散水ろ床法の散水負荷は、1〜3m
3/m
2・日であり、通常のろ床厚は1.5〜2mである。よって、ろ床厚を2mとすると、ろ床の容積1m
3あたりの散水負荷は、0.5〜1.5m
3/m
3・日となるため、その下限値を適用することが好ましい。
【0038】
また、散水負荷の上限値は、
図2の試験結果に基づいて次のとおり決定した。
【0039】
図2は、4座のカルボン酸系キレート剤であるEDTA、5座のカルボン酸系キレート剤であるジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)および6座のカルボン酸系キレート剤であるトリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)のいずれかをキレート剤として用いた場合や、4座のホスホン酸系キレート剤であるヒドロキシエタンジホスホン酸(HEDP)をキレート剤として用いた場合における単位ろ床容積当たりの鉄酸化速度と散水負荷との関係を示しており、グラフの傾きが大きいほど酸化効率が高いことを表している。すなわち、散水負荷の上昇に伴い、キレート剤の異なる全てのカソード溶液において酸化効率が徐々に低下することを示しており、実用的な散水負荷の上限値としては、40m
3/m
3・日が好ましい。
【0040】
よって、具体的な酸化槽25への散水負荷は、ろ床層27の容積1m
3あたり0.5m
3/m
3・日以上40m
3/m
3・日以下が好ましい。
【0041】
循環手段24は、酸化槽25から流出口29を通って流出するカソード溶液W2を貯留する貯留タンク31と、この貯留タンク31のカソード溶液W2をカソード室17へ供給するカソード溶液供給ポンプ32とを有している。
【0042】
そして、酸化装置23からのカソード溶液W2は、貯留タンク31に一旦貯留し、カソード溶液供給ポンプ32によってカソード室17へ所定量ずつ連続供給する。
【0043】
なお、酸化槽25における酸化反応では、水酸化物イオンも生成するため、酸化槽25から貯留タンク31へカソード溶液W2を供給すると、貯留タンク31中のカソード溶液W2のpHが徐々に上昇する。そのため、貯留タンク31には、例えば硫酸等のpH調整剤である酸性のpH調整液を貯留する調整液貯留部33と、この調整液貯留部33のpH調整液を貯留タンク31に供給する調整液供給ポンプ34と、貯留タンク31内のカソード溶液W2のpHを検知するとともに、検知したpHに対応して調整液供給ポンプ34の動作を制御するpH制御部35と、貯留タンク31内のカソード溶液W2を撹拌する撹拌機36とを設け、貯留タンク31内のカソード溶液W2のpHを調整する構成が好ましい。
【0044】
次に、上記第1の実施の形態の動作等を説明する。
【0045】
微生物燃料電池11においては、排水供給ポンプ13によって有機汚染物質を含有した排水W1がアノード室15に流入し、アノード14に形成された嫌気性微生物膜により有機汚染物質を嫌気分解する。また、嫌気分解によって発生した電子は、アノード14で集電され、外部回路21を経由してカソード16へ移動する。
【0046】
カソード室17では、カソード溶液W2中の電子受容体である3価の鉄イオンがアノード14からの電子を受け取ることにより2価の鉄イオンとなる。また、アノード室15から透過してきた水素イオンは、酸化槽25における酸化反応により生成する水酸化物イオンと反応して水を生成する。
【0047】
また、アノード室15での嫌気分解によって生成した水素イオンが陽イオン交換膜18を透過してカソード室17側へ移動することにより、電気回路を構成する。
【0048】
そして、上記微生物燃料電池11によれば、カソード溶液W2が3価の鉄イオンと配位座が4座以上のカルボン酸系キレート剤とを含み、3価の鉄イオンを電子受容体として利用でき、原理上は酸素分子が電子受容体として作用しない。したがって、カソード溶液W2における3価の鉄イオン濃度に基づいてカソード反応が促進するため、溶存酸素濃度に依存することなく、カソード溶液W2によって電子受容体濃度を能動的に制御できる。その結果、カソード溶液の電子受容体濃度を高濃度化でき、発電効率を向上できる。
【0049】
また、アノード室15とカソード室17とを備えた二室型の構成にすることにより、アノード室15側およびカソード室17側の両方から、アノード14およびカソード16や陽イオン交換膜18へかかる圧力が略均等化できるため、一室型の構成に比べて、陽イオン交換膜18が加圧損壊しにくく、容易に大型化できる。
【0050】
3価の鉄イオンを含むカソード溶液W2を連続供給するカソード溶液供給手段22を備えることにより、カソード室17における電子受容体濃度の低下を防止でき、発電効率を向上できる。
【0051】
カソード溶液供給手段22が、カソード室17からの流出液W3の2価の鉄イオンを3価の鉄イオンに酸化する酸化装置23と、酸化装置23で鉄イオンを酸化したカソード溶液W2をカソード室17へ循環する循環手段24とを有することにより、カソード溶液W2を循環利用でき、薬品や水の使用量を抑えて、低コストで効率的に実施できる。
【0052】
酸化装置23は、充填体26を充填したろ床層27を通過させ大気の酸素を利用して鉄イオンを酸化させる構成にすることにより、例えば曝気によって酸化させる構成等に比べて設備コストや稼動コストを抑えることができる。
【0053】
なお、上記第1の実施の形態では、カソード溶液供給手段22
の酸化装置23は、ろ床層27を用いた構成に限定せず、曝気装置等を用いた構成のように、流出液W3中の鉄イオンを2価から3価に酸化できる構成であればよい。
【0054】
次に、第2の実施の形態を
図3および
図4を参照して説明する。なお、上記第1の実施の形態と同一の構成及び作用については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0055】
この第2の実施の形態では、
図3に示すように、排水W1を供給するアノード槽41に、複数、例えば3つのカソードユニット42を設置する。
【0056】
図4に示すように、第1のユニット43および第2のユニット44は、それぞれ陽イオン交換膜18を挟んでアノード14とカソード16とが位置している。
【0057】
カソードユニット42は、六面を備えた中空の直方体であり、内部にカソード溶液W2が供給される。第1のユニット43および第2のユニット44は、カソードユニット42における対向する側壁を構成し、それぞれのカソード側がカソードユニット42の内側を向いて位置している。
【0058】
アノード槽41内の排水W1にカソードユニット42を浸漬すると、排水W1に浸漬される各アノード14がカソードユニット42の外面を構成し、カソード溶液W2に浸漬される各カソード16がカソードユニット42の内面を構成する。したがって、アノード槽41内においては、各カソードユニット42の外部がアノード室45となり、各カソードユニット42の内部がカソード室46となる。
【0059】
各カソードユニット42のカソード室46は、カソード反応が進行した後のカソード溶液W2である流出液W3を酸化するための酸化装置23に接続しているとともに、酸化装置23にて鉄イオンを2価から3価に酸化したカソード溶液W2を循環利用するための循環手段24に接続している。
【0060】
そして、各カソードユニット42では、上記第1の実施の形態と同様に、アノード14表面で排水W1中の有機汚染物質を嫌気分解するとともに、カソード室46にて3価の鉄イオンが2価の鉄イオンとなるカソード反応が進行する。また、カソード室46から流出液W3を連続して流出するとともに、貯留タンク31からカソード室46へカソード溶液W2を連続して供給し、カソード室46をカソード溶液W2で満たした状態を維持する。
【0061】
なお、アノード14表面で有機汚染物質を嫌気分解するが、分解反応に時間を要するため、例えば流路構造等のように、短絡せずアノード14表面での分解反応の時間を担保できる構成が好ましい。
【0062】
また、カソード室46は、カソード溶液W2にて満たしている必要があるため、例えば、上向流式や流路構造等のように、カソード溶液W2が短絡しない構成が好ましい。
【0063】
上記第2の実施の形態によれば、アノード槽41に複数のカソードユニット42を充填するため、各カソードユニット42でカソード反応が進行し、装置全体の発電効率を向上できる。
【0064】
また、カソード室46をカソード溶液W2で満たすことにより、実施的に二室型の構成となり、アノード室45側およびカソード室46側から、アノード14およびカソード16や陽イオン交換膜18にかかる圧力を略均等化できるため、一室型の構成に比べて、排水W1の流量に対応して容易に大型化できる。
【実施例】
【0065】
以下、本実施例および比較例について説明する。
【0066】
図5に示す微生物燃料電池11の試験装置を用い、カソード室17へ濃度を変えたカソード溶液W2を一定時間ごとに供給した際の外部回路21へ取り出される電圧を測定した。なお、外部回路21には、43Ωのセメント抵抗を接続した。
【0067】
アノード室15には、厨房排水およびトイレのフラッシュ排水を主とする有機汚染物質を含有する排水W1を供給した。
【0068】
カソード室17には、カソード溶液W2として、塩化鉄とEDTAとを用いてカソード溶液W2中におけるFe
3+の濃度を5mM、10mM、20mMおよび40mMに調整したものをそれぞれ供給した。
【0069】
また、比較例として、曝気した水道水をカソード室17に供給した場合の発生電圧についても計測した。
【0070】
図6に示すように、本実施例では、比較例に対していずれも電力が向上しており、カソード反応がスムーズに進行している。
【0071】
また、
図7に示すように、4座のカルボン酸系キレート剤であるEDTA、5座のカルボン酸系キレート剤であるDTPA、6座のカルボン酸系キレート剤であるTTHAおよび4座のホスホン酸系キレート剤であるHEDPのいずれかを用いた本実施例と、曝気した水道水をカソード室17に供給した比較例によると、カルボン酸系キレート剤を用いたカソード溶液W2において発電促進効果が確認できる。
【0072】
次に、本実施例2および比較例2について説明する。
【0073】
図1に示す構成の微生物燃料電池11の試験装置を用い、カソード室17から流出した流出液W3を酸化装置23で酸化して、再度カソード溶液W2として循環利用する実験を行った際の外部回路21に取り出される電圧を測定した。なお、外部回路21には、43Ωのセメント抵抗を接続した。
【0074】
アノード室15には、厨房排水およびトイレのフラッシュ排水を主とする有機汚染物質を含有する排水W1を供給した。
【0075】
カソード室17には、カソード溶液W2として、塩化鉄とEDTAとを用いてカソード溶液W2中におけるFe
3+の濃度を5mMに調整したものを供給した。
【0076】
また、本実施例2に対する比較例2として、カソード溶液W2に水道水を用いた場合の発生電圧についても測定した。
【0077】
図8に示すように、本実施例2では、比較例2に対して発生電圧が向上しており、また、20日間の長期にわたって安定して発電促進効果が維持されていることを確認できる。