【文献】
大澤 悟、吉田 慎悟、板谷 匠、井原 健史,安全・安全シーリング改修工法の開発−その1 開発の背景と予備実験,日本建築学会大会学術講演梗概集,日本,一般社団法人日本建築学会,2009年,第63−64頁
【文献】
大澤 悟、吉田 慎悟、板谷 匠、井原 健史,安全・安全シーリング改修工法の開発−その2 除去剤形態の検討と性能の確認,日本建築学会大会学術講演梗概集,日本,一般社団法人日本建築学会,2009年,第65−66頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような工法を、防水層を必要とする部位(屋上など)に適用する場合、目地棒を利用する方法では,作業が簡易で汎用性が高いが、目地棒を引き抜くために基材における目地の角部が鈍角となり、シャープな形状を作るのが難しく、また、引き抜く際に力をかけることでセメント系基材の角が破損しやすいという問題があった。また、基材の半硬化時に型を押し付ける方法では、型の種類を変えることで非常に複雑な形状の凹凸を自由につけることができるが、上記と同様に基材の目地の角部が鈍角となるほか、型押しのタイミング判別が難しく、また、型押し時に力を強く加えなければならないため、施工に労力を要していた。また、カッター等を用いて溝切りする方法では、基材への目地成形時には作業の阻害要因となるものがなく、目地を鋭角に近いシャープなものとすることができる反面、カッターにより防水層を傷つけるおそれがあり、また,施工機械の取り回しが悪く、狭隘部となるようなところの施工に手間を要していた。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、その主な目的は、防水層を傷つけることなく、所望の形状の目地を、簡易に且つ確実に形成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために本発明の目地形成方法は、
溶剤で劣化しない防水層の上に、前記溶剤で溶解する目地型を設置する目地型設置工程と、
前記目地型を除く前記防水層の上にセメント組成物を打設するセメント組成物打設工程と、
前記セメント組成物の硬化後、前記目地型を前記溶剤で溶解させる溶解工程と、
前記溶解工程の後、前記目地型が溶解して残った残留物を除去する残留物除去工程と、
を有することを特徴とする。
このような目地形成方法によれば、防水層を傷つけることなく、所望の形状の目地を、簡易に且つ確実に形成することができる。
【0008】
かかる目地形成方法であって、前記目地型は、発砲スチロールで形成されていることが望ましい。
このような目地形成方法によれば、容易に型を形成でき、溶剤に溶けやすい。
【0009】
かかる目地形成方法であって、前記溶剤は、リモネンであることが望ましい。
このような目地形成方法によれば、有害性が低く溶剤臭がしないので作業性の向上を図ることができる。
【0010】
かかる目地形成方法であって、前記防水層は、セメント系の防水層であることが望ましい。
このような目地形成方法によれば、有機溶剤に対する耐久性が良く、また、モルタル保護層適用も良好である。
【0011】
かかる目地形成方法であって、前記セメント系の防水層は、ポリマーセメント系塗膜防水であることが望ましい。
また、
前記残留物除去工程の後に、形成された目地内に塗装層を形成する工程を有することが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、防水層を傷つけることなく、所望の形状の目地を、簡易に且つ確実に形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
===実施形態===
<目地形成方法について>
本実施形態では、防水層の上に形成されて防水層を保護する保護層(後述するセメント系基材20)に目地を形成する。なお、防水層は、屋上やベランダなどの雨水に曝される場所において、例えば、鉄筋コンクリート製のスラブの上に設けられ、雨水がスラブ側へ浸水するのを防止するものである。
【0015】
本実施形態の目地形成方法について説明する前に、比較例について説明する。
【0016】
(比較例1)
図1A〜
図1Cは、比較例1の目地形成方法の説明図である。
【0017】
まず、
図1Aに示すように、防水層10上に目地棒100を設置する。防水層10は、床スラブ(不図示)上に設けられている。目地棒100は、後述する目地20aを形成するための固形物である。この目地棒100を両面テープ、あるいは、モルタルなどを用いて防水層10上に固定する。なお、目地棒100は、脱型しやすくするように図のような形状(台形形状)としている。すなわち、防水層10側端では幅が最も狭く、防水層10から離れるにつれて(左右両側に)幅が広がっている。
【0018】
次に、
図1Bに示すように、防水層10上の目地棒100を除く部位にセメント系のセルフレベリング材を打設し、セメント系基材20を成形する。セメント系基材20は、防水層10の上に設けられて防水層10を保護するものである。なお、セルフレベリング材の詳細については後述する。
【0019】
そして、セメント系基材20(セルフレべリング材)が硬化した後、
図1Cに示すように目地棒100を引き抜く。このとき、前述したように目地棒100の形状が台形であるので引き抜きやすい。目地棒100を引き抜くことにより、目地棒100の設置場所には目地棒100の形状に対応した目地20aが形成される。
【0020】
こうして、床スラブ(不図示)とセメント系基材20の間に防水層10が設けられた防水床スラブが形成され、さらに、セメント系基材20には目地20aが形成される。
【0021】
この比較例1の目地形成方法では、施工は容易であるが、図のように目地棒100を脱型しやすい形状にする必要がるため、セメント系基材20に形成される目地20aの角部(図の点線で囲んだ部位)の角度が鈍角になる。また、目地棒100の脱型時にこの角部に力が加わることで、角部が破損しやすい(角欠けが発生しやすい)という問題がある。
【0022】
(比較例2)
図2A及び
図2Bは、比較例2の目地形成方法の説明図である。
【0023】
まず、防水層10上にセルフレベリング材を打設し、防水層10上に表面が平滑なセメント系基材20を成形する。そして、
図2Aに示すように、セメント系基材20が固まりかけた時(半硬化時)に、目地を形成するための突出部210が設けられた目地形成用の型200を、突出部210がセメント系基材20の表面と対向するようにして、セメント系基材20に押し付ける。
【0024】
その後、型200を抜き取ると、
図2Bに示すように、突出部210が押し付けられたセメント系基材20の部位に目地20aが形成される。
【0025】
この比較例2の目地形成方法では、型200の突出部210の形状に応じた目地20aが形成されるため、型200の種類を変えることにより、目地20aが複雑な形状であっても自由に成形することができる。
【0026】
しかし、比較例2においても、比較例1と同様に、型200(突出部210)を引き抜き易くするため、セメント系基材20の目地20aの角部が鈍角になる。また、比較例2では、目地形成用型200をセメント系基材20に押し付けるタイミング(半硬化のタイミング)を把握するのが難しく、熟練した技能が必要である。また、型押し時に力を強く加えなければならないため、施工に労力を要することになる。
【0027】
(比較例3)
図3Aは、比較例3の目地形成方法の概略図であり、
図3Bは、比較例3の目地形成方法により形成された目地20aを示す断面図であり、
図3Cは、比較例3の目地形成方法の作業中の様子を示す概略図である。
【0028】
比較例3では、防水層10上に表面が平滑なセメント系基材20を成形した後、
図3Cに示す溝切機300のカッター刃310で溝切りする。これにより、
図3Bに示すように、角が直角な目地20aを形成することができる。また溝切機300の前方には、カッター刃310の溝切り位置を示すガイドレール320が設けられており、作業者は、このガイドレール320によってカッター刃310の切削位置を確認しつつ溝切り作業を行う。
【0029】
この比較例3の目地形成方法では、基材成形時には作業の阻害要因となるものがなく、セメント系基材20の目地20aの角部をほぼ直角に近いシャープなものとすることができる。
【0030】
しかし、比較例3の場合、カッター刃310により防水層10を傷つける可能性がある。また、比較例3では、溝切機300の取り回しが悪く、狭隘部となるようなところの施工に手間がかかる。具体的には、
図3Cに示すように、カッター刃310の前方にガイドレール320があるため、壁から所定距離(ガイドレール320の先端とカッター刃310間の距離に相当する範囲)では、カッター刃310で溝切りできない。このため、壁際ではハンディカッター(不図示)などを用いて、溝切りを行なうことになり、精度や作業効率が悪化し、また、防水層10を傷付けるおそれが高くなる。少しでも防水層10が切れると、漏水などの原因になるため、このカッター刃310による目地形成方法を防水層10上に適用するのは困難である。
【0031】
(本実施形態)
以下、図面を参照しつつ本実施形態の目地形成方法について説明する。
【0032】
図4は、本実施形態の目地形成方法のフロー図であり、
図5A〜
図5Eは、本実施形態の目地形成方法を説明するための概略断面図である。
【0033】
まず、
図5Aに示すように、防水層10上に目地棒12(目地型に相当)を設置する(
図4のS10:目地型設置工程に相当)。本実施形態では、モルタル(不図示)を用いて目地棒12を防水層10上に固定している。ただし、これには限られず、例えば両面テープで目地棒12を防水層10上に固定してもよい。
【0034】
本実施形態の目地棒12は、発砲スチロールで形成されており、加工が簡易である。また、発泡スチロールは、有機溶剤(後述するリモネン)によって溶解する特性を有している。これに対し、本実施形態の防水層10は、ポリマーセメント系塗膜防水であり、後述するように、有機溶剤(リモネン)に対する耐性を有している(すなわち劣化しない)。
【0035】
次に、
図5Bに示すように、目地棒12を除く部位にセメント系のセルフレベリング材(高流動モルタル)を打設し、セメント系基材20を成形する(
図4のS11:セメント組成物打設工程に相当)。なお、セルフレベリング材は、自己流動性を有し、平坦、平滑な面を鏝押え無しで仕上げる材料である。セメント系のセルフレベリング材は、セメント(ポルトランドセメント、アルミナセメント、アーウィン系セメント等)、砂(フライアッシュ、川砂、海砂、珪砂、石灰石等)、そして水を主成分とし、これに任意に、流動化剤(ナフタリン酸系、メラミンスルホン酸系、ポリカルボン酸系、アミノスルホン酸系、リグニンスルホン酸系、カゼイン類等)、硫酸塩(硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸アルミニウム等)、リン酸塩(縮合リン酸塩等)、増粘剤(ポリアクリル酸、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース等)、消泡剤(シリコン系、非イオン系界面活性剤等)などを配合したものである。
【0036】
なお、本実施形態では、セルフレベリング材(高流動モルタル)を用いてセメント系基材20を成形しているが、セメント組成物であればよく、これには限られない。例えば、モルタルを用いてもよい。ただし、この場合、モルタル打設後に鏝などで押さえて均すことが必要である。
【0037】
そして、セメント系基材20(セルフレべリング材)が硬化した後、リモネン(溶剤に相当)を塗布する。リモネンは、オレンジやレモンなどの柑橘類の皮に含まれる天然油であり、有害性が低く(環境に優しく)、また、発泡スチロール(ポリスチレン)を溶解させる特性(溶解作用)を有する。こうして、発泡スチロールの目地棒12をリモネンで溶解させる(
図4のS12:溶解工程に相当)。
【0038】
目地棒12が溶解することにより、目地棒12の設置位置には目地20aが形成されるとともに、目地20aの内部には、目地棒12が溶解した溶解物が再固化して残る(残留物12a)。
【0039】
続いて、目地20a内の清掃を行い、残留物12aを除去する(
図4のS13:残留物除去工程に相当)。これにより、目地20a内部をきれいに仕上げることができ、目地20aをより確実に所望の形状に形成できる。
【0040】
最後に、塗装を行う(S14:塗装工程)。本実施形態では、目地20a内とセメント系基材20の表面をそれぞれ違う色で塗装している。すなわち、目地20a内には塗装層30aが形成されており、セメント系基材20の表面には、塗装層30aとは異なる色の塗装層30bが形成されている。なお、これには限られず、同じ色で塗装してもよいし、あるいは、塗装しなくてもよい(塗装工程S14が無くてもよい)。また、着色顔料入りセメント系基材を使用して塗装を省略してもよい。
【0041】
このように、本実施形態では、防水層10の上に、発泡スチロールで形成された目地棒12を設置し、目地棒12を除く防水層10の上にセメント系基材20を成形した後、目地棒12(発泡スチロール)をリモネンで溶解させている。本実施形態では、目地棒12の断面形状が矩形であり、目地棒12を溶解させることにより、セメント系基材20の目地20aの角部をほぼ直角に形成することができる。なお、これに限られず、目地棒12の形状によって角部を鈍角(比較例1、比較例2と同様)に形成することもでき、あるいは、鋭角に形成することも可能である。このように、本実施形態では、防水層10を傷つけることなく、所望の形状の目地20aを、簡易に且つ確実に形成することができる。また、本実施形態では、目地棒12を引き抜かないので、セメント系基材20における目地20aの角部の角欠けの発生を抑制できる。さらに、比較例3では狭隘部での施工が困難であったのに対し、本実施形態では狭隘部でも容易に施工することができる。
【0042】
<実施例>
実施例として、防水層の種類ごとに、耐有機溶剤性(有機溶剤に対する耐久性)と防水層の保護層としてモルタルの適用の可否(モルタルの付着性)について確認した。
【0043】
図6は、防水層の種類ごとの耐有機溶剤性(有機溶剤に対する耐久性)とモルタル保護層の適用の可否の結果を示す図である。図に示すように、防水層の形式としては、メンブレン防水、ケイ酸質系塗布防水、ポリマーセメント系塗膜防水に大別される。このうち、ケイ酸質系塗布防水とポリマーセメント系塗膜防水は、セメント系の防水層に相当する。なお、図のモルタル保護層適用可否の欄において(室内)と記載されているのは、通常、屋外ではコンクリートが使用されることを示している。
【0044】
メンブレン防水は、必要な箇所に膜状のものを形成する薄い防水層であり、アスファルト防水層、改質アスファルトシート防水層、合成高分子系シート防水層、塗膜防水層に分類されている。
【0045】
合成高分子系シート防水層は、予め膜状となっているものを現場で貼り付けるものである。合成高分子系シート防水層は、加硫ゴム系、塩化ビニル樹脂系、エチレン酢酸ビニル(EVA)系に分類されている。
【0046】
塗膜防水層は液状の樹脂類を塗布したり、あるいは、吹付けたりして形成する防水層である。塗膜防水層は、ウレタンゴム系、アクリルゴム系、ゴムアスファルト系、繊維強化プラスチック(FRP)系に分類されている。
【0047】
図に示すように、メンブレン防水層は、塗膜防水層のFRP系を除き、有機溶剤に対する耐久性が悪い。また、塗膜防水層のFRP系では、有機溶剤に対する耐久性はいいものの、モルタル保護層適用が困難である。
【0048】
ケイ酸質系塗布防水は、ケイ酸質系の塗布防水材をコンクリートに塗布し、コンクリート内部の空隙部分に浸透させた防水層である。
【0049】
ケイ酸質系塗布防水としては、既調合紛体に水を練り合わせて用いるIタイプと、既調合紛体と水及び専用のポリマーディスパージョンを練り混ぜて用いるPタイプ(既調合紛体に再乳化形粉末樹脂を混入した場合にはポリマーディスパージョンは不要)の2種類がある。さらに、Pタイプは、EVA系、ポリアクリル酸エステル(PAE)系、スチレンブタジエンラバー(SBR)系に分類されている。
【0050】
ケイ酸質系塗布防水はいずれも有機溶剤に対する耐久性が良く、また、モルタル保護層適用についても良好である。ただし、ケイ酸質系塗布防水は、通常、地下などに使用され、日光の当たる場所(屋根など)には使用されない。これは、太陽の照射などでコンクリートがひび割れした場合に追随できないからである。
【0051】
ポリマーセメント系塗膜防水は、ポリマーセメント系塗膜防水用エマルション(ポリマー混和液)とポリマーセメント系塗膜防水既調合粉体(既調合粉体)で構成される防水材を塗布して形成された防水層である。ポリマーセメント系塗膜防水は、EVA系、PAE系、スチレンアクリル酸エステル系に分類されている。
【0052】
ポリマーセメント系塗膜防水は、いずれも有機溶剤に対する耐久性が良く、また、モルタル保護層適用についても良好である。特に、PAE系が最も良好である。
【0053】
これらの結果より、本実施形態の目地形成方法に適用する防水層としては、セメント系の防水層(ケイ酸質系塗布防水、ポリマーセメント系塗膜防水)が望ましく、このうちポリマーセメント系塗膜防水層がより望ましい。
【0054】
以上、説明したように本実施形態の目地形成方法は、リモネンで劣化しない防水層10の上に、リモネンで溶解する発泡スチロールで形成された目地棒12を設置する工程(S10)と、目地棒12を除く防水層10の上にセルフレべリング材を打設してセメント系基材20を形成する工程(S11)と、セメント系基材20(セルフレべリング材)の硬化後、目地棒12(発泡スチロール)をリモネンで溶解させる工程(S12)と、を有している。これにより、防水層10を傷つけることなく、所望の形状の目地20aを、簡易に且つ確実に形成することができる。
【0055】
===その他の実施形態について===
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0056】
前述の実施形態では、目地棒12として発砲スチロールを用いていたがこれには限られない。例えば、天然ゴム発砲体を用いてもよい。また、前述の実施形態では、目地棒12を溶解させる溶剤としてリモネンを用いていたがこれには限られず、他の溶剤を用いてもよい。ただし、リモネンを用いると有害性が低く溶剤臭がしないので作業性の向上を図ることができる。