(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、カラーマークを備える光ファイバが開示されている。この文献に記載された光ファイバは、クラッドを覆う合成樹脂層からなる被覆物と、合成樹脂層上または合成樹脂層内に設けられたリング状のカラーマークとを備える。更に、この文献には、カラーマーク層の厚さが0.5〜5μm、より好適には1〜3μmであることが記載されている。
【0003】
特許文献2には、光ファイバケーブルまたは光ファイバ心線のカラーマーキング着色方法が開示されている。この文献に記載された方法では、光ファイバ心線の被覆層の表面に染料系インクからなるカラーマーキングを塗布し、所定時間加熱することにより、染料系インクを被覆層の内部へ浸透させ、被覆層の表面に定着させる。
【0004】
特許文献3には、リングマークを備える識別性に優れた光ファイバ心線が開示されている。この文献に記載された光ファイバ心線は、ガラスファイバと、ガラスファイバの外周に設けられた被覆層と、被覆層の表面に設けられた着色樹脂からなる着色層と、着色層の表面にリングマークインクを塗布することにより設けられたリングマークからなる識別部とを備える。この文献には、着色層の表面に対するリングマークインクの接触角が30°未満であることが記載されている。
【0005】
特許文献4には、リングマークを備える識別性に優れた光ファイバ心線が開示されている。この文献に記載された光ファイバ心線は、ガラスファイバと、ガラスファイバの外周に設けられた被覆層と、被覆層の表面に設けられた着色層と、被覆層と着色層との間に設けられたリングマークインクからなるリングマークとを備える。この文献には、着色層を除去した後のリングマークに対する水の接触角が35°以上52°以下であることが記載されている。
【0006】
特許文献5には、識別用のマーキングを備える光ファイバ心線が開示されている。この文献に記載された光ファイバ心線は、光ファイバ素線の被覆層上に設けられた識別用のマーキングと、更にその外側に設けられた着色層とを備える。この文献には、マーキングを含む着色層の被覆層に対する密着力が40g/mm以上であることが記載されている。
【0007】
特許文献6には、識別マーク付き光ファイバの製造方法が開示されている。この文献に記載された方法では、光ファイバのセカンダリ樹脂層の表面に光ファイバ識別用の識別マークを形成し、識別マークの上から紫外線硬化型インクを塗布し、その紫外線硬化型インクを紫外線照射装置で硬化させて識別マーク付光ファイバを作製する。この文献には、紫外線硬化型インクを硬化させる際に照射する紫外線のドーズ量を、0.1J/m
2以上、0.3J/m
2以下とすることが記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に、本発明の実施形態の内容を列記して説明する。(1)本発明の一実施形態に係る光ファイバ心線は、コア及びクラッドを含むガラスファイバと、ガラスファイバを被覆する複数の樹脂層と、を備える。複数の樹脂層のうち一層は識別マーク層である。60℃の温水への7日間の浸漬の後における、識別マーク層を含む複数の樹脂層の断面の最長径が、浸漬の前における該断面の最長径の110%以下である。
【0016】
(2)上記の光ファイバ心線において、浸漬の前の23℃での伝送損失に対する、浸漬の後の23℃での伝送損失の増加量が0.05dB/km以下であってもよい。
【0017】
(3)上記の光ファイバ心線において、識別マークが1種類以上のアクリル基含有成分を含み、少なくとも1種類のアクリル基含有成分は、識別マーク層に隣接する層に含まれるアクリル基含有成分と同一であってもよい。
【0018】
[本願発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態に係る光ファイバ心線の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
図1(a)は、本発明の一実施形態に係る光ファイバ心線の外観を示す。また、
図1(b)は、
図1(a)の部分拡大図である。
図1(a)に示されるように、本実施形態の光ファイバ心線1Aは、その長手方向に所定の間隔をあけて設けられた複数の識別部12を備える。各識別部12は、
図1(b)に示されるように、等間隔に設けられた複数の識別マーク(リングマーク)13を含んでいる。
【0020】
図2は、光ファイバ心線1Aの光軸方向に垂直な断面を示す。
図2に示されるように、光ファイバ心線1Aは、光伝送体であるガラスファイバ21と、ガラスファイバ21を被覆する樹脂層22とを備えている。
【0021】
ガラスファイバ21は、コア21a及びクラッド21bを含んでおり、ガラス製の部材、例えばSiO
2ガラスからなる。ガラスファイバ21は、光ファイバ心線1Aに導入された光を伝送する。コア21aは、例えばガラスファイバ21の中心軸線を含む領域に設けられている。コア21aは、純SiO
2ガラスか、それにGeO
2、フッ素元素等を含んでいてもよい。クラッド21bは、コア21aを囲む領域に設けられている。クラッド21bは、コア21aの屈折率より低い屈折率を有する。クラッド21bは、純SiO
2ガラスからなってもよいし、フッ素元素が添加されたSiO
2ガラスからなってもよい。
【0022】
樹脂層22は、
図1に示された識別マーク13のための識別マーク層22dと、その他の層とを含む。その他の層は、1層のみから構成されてもよく、複数の層から構成されてもよい。識別マーク層22dは、識別マーク層22dの外側に位置する他の層を介して、外部から視認可能なように設けられる。
【0023】
一例では、樹脂層22は、プライマリ樹脂層22a、セカンダリ樹脂層22b、及び着色層22cを含む。プライマリ樹脂層22aは、ガラスファイバ21の外周面に密着してガラスファイバ21の周囲を覆う。ガラスファイバ21の曲げ損失を低減するため、プライマリ樹脂層22aのヤング率は比較的低く設定される。プライマリ樹脂層22aのヤング率は例えば1MPa以下であり、0.5MPa以下であることがより好ましい。プライマリ樹脂層22aの厚さは、例えば20〜50μmである。
【0024】
セカンダリ樹脂層22bは、プライマリ樹脂層22aの外周面に密着してプライマリ樹脂層22aの周囲を覆う。ガラスファイバ21を十分に保護する為に、セカンダリ樹脂層22bのヤング率は、プライマリ樹脂層22aのヤング率よりも大きい。セカンダリ樹脂層22bのヤング率は例えば600〜1000MPaである。セカンダリ樹脂層22bの厚さは、例えば20〜40μmである。
【0025】
着色層22cは、セカンダリ樹脂層22bの周囲を覆う。着色層22cは、様々な色に着色される。着色層22cの厚さは、例えば5〜10μmである。
【0026】
識別マーク層22dは、セカンダリ樹脂層22bと着色層22cとの間に設けられてもよく、或いは他の位置(例えばプライマリ樹脂層22aとセカンダリ樹脂層22bとの間など)に設けられてもよい。識別マーク層22dは、例えば、所定の線速で送り出されるガラスファイバ21上に形成されたセカンダリ樹脂層22bの表面に対し、インクジェットプリンタ装置によって識別用インクを噴射して塗布することにより形成される。
【0027】
ここで、樹脂層22に含まれる各層を構成する材料について詳細に説明する。プライマリ樹脂層22a及びセカンダリ樹脂層22bは、例えば紫外線硬化性樹脂組成物が硬化することにより好適に形成される。紫外線硬化性樹脂組成物としては、オリゴマー、アクリル基含有成分としてのアクリルモノマー、及び光重合開始剤を含むものが好適である。
【0028】
オリゴマーとしては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート及びエポキシ(メタ)アクリレートが挙げられる。オリゴマーは、2種以上を混合して用いてもよい。ウレタン(メタ)アクリレートとしては、ポリオール化合物、ポリイソシアネート化合物及び水酸基含有アクリレート化合物を反応させて得られるものが挙げられる。ポリオール化合物としては、例えば、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ビスフェノールA・エチレンオキサイド付加ジオール等が挙げられる。ポリイソシアネート化合物としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。水酸基含有アクリレート化合物としては、例えば、2−ヒドロキシ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、ベンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブロピル(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。エポキシ(メタ)アクリレートとしては、例えば、エポキシ化合物と(メタ)アクリル酸とを反応させて得られたものを用いることができる。
【0029】
なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はそれに対応するメタクリレートを意味する。(メタ)アクリル酸についても同様である。また、オリゴマーの含有量は、紫外線硬化性樹脂組成物の全量を基準として、50〜90質量%であることが好ましく、35〜85質量%であることがより好ましい。
【0030】
また、アクリルモノマーとしては、重合性基を1つ有する単官能モノマー、重合性基を2以上有する多官能モノマーを用いることができる。単官能モノマーとしては、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ノニルフェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。多官能モノマーとしては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジイルジメチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA・エチレンオキサイド付加ジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0031】
アクリルモノマーは、2種以上を混合して用いてもよい。アクリルモノマーの含有量は、紫外線硬化性樹脂組成物の全量を基準として、5〜45質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることがより好ましい。
【0032】
光重合開始剤としては、公知のラジカル光重合開始剤の中から適宜選択して使用することができ、例えば、アシルフォスフィンオキサイド系開始剤及びアセトフェノン系開始剤が挙げられる。
【0033】
アシルフォスフィンオキサイド系開始剤としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(BASF社製、商品名「ルシリンTPO」)、2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、2,4,4−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィノキサイド等が挙げられる。
【0034】
アセトフェノン系開始剤としては、1−ヒドロキシシクロヘキサン−1−イルフェニルケトン(BASF社製、商品名「イルガキュア184」)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(BASF社製、商品名「ダロキュア1173」)、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(BASF社製、商品名「イルガキュア651」)、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン(BASF社製、商品名「イルガキュア907」)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1(BASF社製、商品名「イルガキュア369」)、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン等が挙げられる。
【0035】
光重合開始剤は、2種以上を混合して用いてもよい。光重合開始剤の含有量は、紫外線硬化性樹脂組成物の全量を基準として、0.1〜10質量%であることが好ましく、0.3〜7質量%であることがより好ましい。
【0036】
着色層22cは、例えば紫外線硬化性樹脂組成物が硬化することにより好適に形成される。紫外線硬化性樹脂組成物としては、オリゴマー、アクリル基含有成分としてのアクリルモノマー、顔料、及び光重合開始剤を含むものが好適である。これらのうち、オリゴマー、アクリルモノマー、及び光重合開始剤については、前述したプライマリ樹脂層22a及びセカンダリ樹脂層22bと同様のものを用いることができる。
【0037】
顔料としては、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛等の着色顔料、γ−Fe
2O
3、γ−Fe
2O
3とγ−Fe
3O
4の混晶、CrO
2、コバルトフェライト、コバルト被着酸化鉄、バリウムフェライト、Fe−Co、Fe−Co−Ni等の磁性粉、MIO、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、トリポリリン酸アルミニウム、亜鉛、アルミナ、ガラス、マイカ等の無機顔料が挙げられる。また、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、染付レーキ顔料等の有機顔料を用いることもできる。顔料には、各種表面改質や複合顔料化等の処理が施されていてもよい。顔料は、着色層22cの総量に対して0.1〜5質量%含まれるように添加するとよく、0.12〜3.2質量%含まれるように添加するとなおよい。
【0038】
識別マーク層22dの形成に用いられる識別用インクとしては、溶剤型顔料インクが好適に用いられる。この溶剤型顔料インクは、例えば、着色層22cの材料からオリゴマー及びシリコーン成分を除き、且つ顔料の濃度を高めたものである。すなわち、識別マーク層22dは、アクリル基含有成分としてのアクリルモノマー、及び着色層22cよりも高濃度の顔料を含んで構成される。なお、溶剤型顔料インクの溶剤成分としては、例えば、13〜90%以下のメチルエチルケトン(MEK)、10〜35%以下のメタノールあるいは3〜7%以下のアセトン等を含むものが好ましい。顔料成分には、前述した着色層22cと同様のものを用いることができる。識別用インクの色素としては、顔料系ではなく染料系を用いることもできる。
【0039】
識別マーク層22dは、1種類以上のアクリルモノマーを含んで構成される。アクリルモノマーの種類は、前述したアクリルモノマーの中から任意に選択されるが、そのうち少なくとも1種類は、識別マーク層22dに隣接する層(本実施形態では、セカンダリ樹脂層22b及び着色層22c)に含まれるアクリルモノマーと同一である。
【0040】
以上の構成を備える本実施形態の光ファイバ心線1Aによって得られる作用効果について説明する。識別マークを備える従来の光ファイバ心線では、浸水環境(若しくはオイルや溶剤等への浸漬環境)等に放置された場合、識別マークのための層が吸液してしまい、樹脂被覆層内にブリスターが生じることがある。
図3は、そのようなブリスターが生じた光ファイバ心線の断面図であって、セカンダリ樹脂層22bと識別マーク層22dとの間にブリスター31が生じている。それにより、識別マーク層22dを含む樹脂層22の断面の最長径D1が、浸水前と比較して大きくなってしまう。ブリスター31が過度に成長すると、ガラスファイバ21に対して長さ方向および周方向に不均一な側圧がかかり、当該光ファイバ心線1Aの伝送損失が増大するおそれがある。
【0041】
これに対し、本実施形態では、識別マーク層22dが、1種類以上のアクリル基含有成分を含んでおり、且つ、少なくとも1種類のアクリル基含有成分が、識別マーク層22dに隣接する層(22bおよび22c)に含まれるアクリル基含有成分と同一である。これにより、識別マーク層22dと隣接層との馴染みが良くなり、或いは識別マーク層22dと隣接層とが互いに化学的に結合するので、識別マーク層22dと隣接層との密着性が増し、ブリスター31が成長しにくくなる。従って、本実施形態によれば、識別マークに起因するブリスター31による光ファイバ心線1Aの伝送損失の増大を抑えることができる。本発明者の実験によれば、光ファイバ心線1Aが上記の構成を備えることにより、60℃の温水への7日間の浸漬の後における、識別マーク層22dを含む樹脂層22の断面の最長径D1を、浸漬の前における該断面の最長径D1の110%以下に抑えることができる。また、浸漬の前の23℃での伝送損失に対する、浸漬の後の23℃での伝送損失の増加量を0.05dB/km以下に抑えることができる。
【0042】
(実施例)
ここで、下の表1は、識別マーク層22dが隣接層と同一のアクリル基含有成分を含有しているか否かと、60℃の温水への7日間の浸漬の後における最長径D1の変化率、及び浸漬の後の23℃での伝送損失の増加量との関係を示す。
【表1】
【0043】
実施例1〜3は、識別マーク層22dが隣接層と同一のアクリル基含有成分を含有している場合であり、比較例1は含有していない場合である。なお、表1において、隣接層と同一のアクリル基含有成分量(%)は、(識別マーク層22dの当該アクリル基含有成分の成分量(質量%))/(隣接層の当該アクリル基含有成分の成分量(質量%))×100として算出される値である。表1を参照すると、識別マーク層22dが隣接層と全く同じ成分からなる実施例1では最長径D1の変化率が100%(つまり変化なし)であり、伝送損失の増加量が僅か0.01dB/kmとなっている。また、識別マーク層22dが隣接層と同一のアクリル基含有成分を60%含有する実施例2では最長径D1の変化率が104%であり、伝送損失の増加量が0.02dB/kmと極めて小さくなっている。また、識別マーク層22dが隣接層と同一のアクリル基含有成分を30%含有する実施例3では最長径D1の変化率が110%であり、伝送損失の増加量が0.05dB/kmと小さくなっている。これらに対し、比較例1では最長径D1の変化率が115%であり、伝送損失の増加量が0.1dB/kmと大きくなっている。このように、上記の実施形態によれば、浸漬後における最長径D1を浸漬前の110%以下に抑え、また、伝送損失の増加量を0.05dB/km以下に抑え得ることがわかる。
【0044】
本発明による光ファイバ心線は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では樹脂層がプライマリ樹脂層、セカンダリ樹脂層、識別マーク層、及び着色層からなる場合を例示したが、樹脂層はこれら以外の層を更に有してもよく、一部の層が省略されてもよい。