(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0029】
図1は、本発明の一態様に係る磁気抵抗効果素子の断面模式図である。本発明の一態様に係る磁気抵抗効果素子10は、第1強磁性金属層1と、第2強磁性金属層2と、トンネルバリア層3とを有する。また
図1に示すように、第1強磁性金属層1は、基板4上に設けられた下地層5上に積層されていてもよく、第2強磁性金属層2のトンネルバリア層3と接する面と反対側の面にはキャップ層6を有していてもよい。
【0030】
(トンネルバリア層)
トンネルバリア層3は非磁性絶縁材料からなる。トンネルバリア層3の膜厚は、一般的に3nm以下の厚さである。金属材料によってトンネルバリア層3を挟み込むと金属材料の原子が持つ電子の波動関数がトンネルバリア層3を超えて広がるため、回路上に絶縁体が存在するにも関わらず電流が流れる。磁気抵抗効果素子10は、トンネルバリア層3を強磁性金属材料(第1強磁性金属層1及び第2強磁性金属層2)で挟み込む構造であり、挟み込んだ強磁性金属のそれぞれの磁化の向きの相対角によって抵抗値が決定される。
【0031】
磁気抵抗効果素子10には、通常のトンネル効果を利用したものとトンネル時の軌道が限定されるコヒーレントトンネル効果が支配的なものがある。通常のトンネル効果では強磁性材料のスピン分極率によって磁気抵抗効果が得られるが、コヒーレントトンネルではトンネル時の軌道が限定される。そのため、コヒーレントトンネルが支配的な磁気抵抗効果素子では、強磁性金属材料のスピン分極率以上の効果が期待できる。コヒーレントトンネル効果を発現するためには、強磁性金属材料及びトンネルバリア層3が結晶化し、特定の方位で接合する必要がある。
【0032】
トンネルバリア層3の結晶構造は立方晶であり、Pm3m、I−43m及びPm−3mからなる群から選択されるいずれかの空間群を有する。
空間群Pm3mの対称性を有する立方晶構造はNaCl構造であり、空間群I−43m及びPm−3mの対称性を有する立方晶構造はNaCl構造から歪んだ構造である。
NaCl構造は、従来からトンネルバリア層3に用いられているMgOと結晶構造が同様である。そのため、NaCl構造を有するトンネルバリア層3が第1強磁性金属層1及び第2強磁性金属層2の間にトンネルバリア層3が挟持されることで、コヒーレントトンネル効果を生み出すことができる。またNaCl構造から僅かに歪んだ空間群I−43m及びPm−3mの対称性を有する立方晶構造においても、コヒーレントトンネル効果が発現することを確認した。トンネル現象がコヒーレントトンネル効果に起因したものであるか、否かの区別はMR比から推測することができる。鉄などの一般的な強磁性材料を用いたTMRの場合、MR比は80%程度が上限と考えられている。したがって、MR比が80%程度を超えた場合、コヒーレントトンネル効果が発現していると考えることができる。
【0033】
またトンネルバリア層3は、組成式A
1−xA’
xO(Aは2価の陽イオン、A’は1価の陽イオン)で表される。なお、本明細書において表記される組成式は、トンネルバリア層3の化学量論的組成式を示したものであり、発明の効果を奏する範囲の組成のずれは許容される。例えば、一般に生じる酸素欠損等が生じた組成式A
1−xA’
xO
1−δも、組成式A
1−xA’
xOの範囲に含まれる。
【0034】
組成式A
1−xA’
xOで表記されるトンネルバリア層は、トンネルバリア層として広く用いられているMgOと比較すると、2価のイオン(Aイオン:例えば、Mg
2+)の一部が、1価のイオン(A’イオン)によって置換されている点が異なる。
【0035】
2価のイオン(Aイオン:例えば、Mg
2+)の一部を、1価のイオン(A’イオン)によって置換すると、磁気抵抗効果素子10の面積抵抗RAが大幅に下がる。すなわち、低抵抗な磁気抵抗効果素子を得ることができる。
ここで、特許文献3及び4に記載されたMgAl
2O
4は、スピネル構造のAサイト及びBサイトにMg,Alが導入されたものであり、価数の異なるイオンを置換するものではないため、面積抵抗RAを下げるという効果を十分得ることはできない。
【0036】
2価のイオンのサイトに別の価数のイオンを導入すると、トンネルバリア層3の電子状態(バンド構造)が変化する。具体的には、本来存在する2価のイオンのサイトに別の価数のイオンが導入されることで、バンド構造内に不純物準位が形成される。不純物準位が形成されると電子伝導の迂回路が形成され、第1強磁性金属層1及び第2強磁性金属層2とトンネルバリア層3の間の電子状態におけるバリア障壁の高さ(バリアハイト)が低くなる。その結果、第1強磁性金属層1及び第2強磁性金属層2とトンネルバリア層3の間において、電子が伝導しやすくなり、磁気抵抗効果素子10が低抵抗化する。特に2価のイオンに対して、1価のイオンを置換した際にこの効果は顕著である。2価を3価にした場合には結晶格子の歪みと共に酸素量も調整されるため抵抗が変化しにくいが、2価を1価にした場合には結晶格子は歪むもののMgOの結晶構造を維持しようとするため酸素量の調整が起こりにくくなり、低抵抗化が大きく生じる。
【0037】
この際、バリアハイトが低くなることにより、MR比の最大値はわずかに低下する。しかしながら、MR比の低下はわずかであり、MR比が高く、低抵抗な磁気抵抗効果素子を得ることができる。このような低抵抗な磁気抵抗効果素子10は、例えば小型化された磁気ヘッド等の狭い領域内における高周波応答、ノイズの低減等を実現するために強いニーズがある。
なお、ここでいうMR比の最大値とは磁気抵抗効果素子が通常動作時に得ることができるMR比の最大値のことを意味し、高いバイアス電圧を印加した際にMR比を高く維持できることとは意味が異なる。
【0038】
トンネルバリア層3の組成式A
1−xA’
xOにおいて、Aは2価の陽イオン、A’は1価の陽イオンである。
【0039】
Aは非磁性の2価の陽イオンであることが好ましく、ベリリウム、マグネシウム及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも一種を含むことがより好ましく、マグネシウムを少なくとも有することがより好ましい。
二価のイオンがベリリウム及び亜鉛のみからなる場合も準安定の結晶構造が同一であるため、コヒーレントトンネルを有するトンネルバリア層を得ることができる。また、2価のイオンとしてマグネシウムを含むものは、コヒーレントトンネルを安定的に得ることができ、MR比を高めることができる。
【0040】
A’は非磁性の1価の陽イオンであることが好ましく、リチウム、ナトリウム及びカリウムからなる群から選択される少なくとも一種を含むことがより好ましい。
【0041】
具体的には、例えば、Mg
1−xLi
xO、Be
1−xLi
xO、Zn
1−xLi
xO、(Mg,Zn)
1−xLi
xO、(Mg,Be)
1−xLi
xO及びこれらのリチウムサイトの少なくとも一部をナトリウム及びカリウムで置換したもの等を用いることができる。
構成元素が複数になるほど、不純物準位が形成されやすくなり、低抵抗化が進む。一方で、構成元素が複数になるほど、バリアハイトが低下するため、MR比は低下する。用途に応じて、それぞれの材料を使い分けることができる。
【0042】
トンネルバリア層3の結晶構造において、基本格子を構成するAイオンの数は、A’イオンの数より多い。すなわち、組成式A
1−xA’
xOにおいて、置換量は0<x<0.5である。置換量がこの範囲内であれば、結晶構造を変化させることなく、格子定数を適宜調整することができる。その結果、後述する第1強磁性金属層1及び第2強磁性金属層2との結晶構造の整合性を高めることができ、磁気抵抗効果素子10が高いバイアス電圧下でも十分なMR比を維持できる。また組成式A
1−xA’
xOにおいて置換量が0<x<0.5であれば、上述のように磁気抵抗効果素子の面積抵抗も充分小さくすることができる。
【0043】
置換されるA’としては上述のものを用いることができるが、置換されるA’のイオン半径によって置換量の好ましい範囲は異なる。
【0044】
例えば、置換される元素がリチウムの場合は、0<x≦0.04であることが好ましく、0.02<x<0.04であることがより好ましい。
【0045】
例えば、置換される元素がナトリウムの場合は、0<x≦0.03であることが好ましく、0.01<x<0.03であることがより好ましい。
【0046】
例えば、置換される元素がカリウムの場合は、0<x≦0.02であることが好ましく、0.01<x<0.02であることがより好ましい。
【0047】
それぞれの置換元素における置換量がこの範囲内であれば、MR比を大きく低下させることなく、低抵抗な磁気抵抗効果素子10を得ることができる。
【0048】
また2価のイオンの一部を1価のイオンで置換することは、強磁性金属層とトンネルバリア層の間の格子不整合を低減し、高いバイアス電圧下でも十分なMR比を得ることができるという効果を生み出す。
【0049】
一般に、強磁性金属層がFeからなり、トンネルバリア層がMgOからなる場合、それぞれの格子定数は3%程度異なることが知られている。トンネルバリア層がMgOからなる場合は、酸素欠損により強磁性金属層とトンネルバリア層の間の格子定数の違いを多少緩和することができる。しかしながら、酸素欠損による格子定数の違いはわずかであり、強磁性金属層とトンネルバリア層の間における格子不整合を充分に低減することができない。
【0050】
これに対して、本発明の一態様に係る磁気抵抗効果素子10におけるトンネルバリア層3では、2価のイオン(Aイオン:例えば、Mg
2+)の一部が、1価のイオン(A’イオン)によって置換されている。所定のイオンが異なるイオン半径を有するイオンに置換されると、トンネルバリア層3を構成する結晶格子の格子定数は大きく変化する。その結果、後述する第1強磁性金属層1及び第2強磁性金属層2とトンネルバリア層3の間の格子不整合を低減することができる。また置換量及び置換するイオン種を変えることで、自由にトンネルバリア層3を構成する結晶の格子定数を制御することができ、より簡便に強磁性金属層(第1強磁性金属層1及び第2強磁性金属層2)とトンネルバリア層3の間の格子不整合を低減することができる。
【0051】
強磁性金属層とトンネルバリア層の間の格子不整合が低減された磁気抵抗効果素子10は、高いバイアス電圧下でも十分なMR比を得ることができる。これは、強磁性金属層とトンネルバリア層の間の格子不整合が低減されることで、これらの界面における結晶の連続性が高まり、スピンの散乱量が減少するためである。
強磁性金属層とトンネルバリア層の間に格子不整合が存在すると、これらの界面においてスピンが散乱する。高いバイアス電圧印加時には磁気抵抗効果素子10内を伝搬されるスピンの量が多くなるため、この影響は顕著になる。
【0052】
上述のように、本発明の一態様に係る磁気抵抗効果素子10によれば、強磁性金属層とトンネルバリア層の間の格子不整合を低減し、これらの界面におけるスピンの散乱を抑制し、高いバイアス電圧下でも十分なMR比を得ることができる。その結果、本発明の一態様に係る磁気抵抗効果素子10を高感度の磁気センサ、ロジックインメモリ及びMRAMなどの高いバイアス電圧が印加されるデバイスに用いることができる。
【0053】
バイアス電圧印加時におけるMR比の減少量の多寡は、V
halfという指標で表すことができる。V
halfは低バイアス電圧を基準として、低バイアス電圧印加時のMR比に対してMR比が半減するバイアス電圧を指す。低バイアス電圧とは例えば1mVである。また、磁気抵抗効果素子の抵抗値などの条件により得られる最適な低バイアス電圧は異なるため、低バイアス電圧とは少なくともV
halfよりも10分の1以下の電圧であれば良い。
【0054】
(第1強磁性金属層、第2強磁性金属層)
第1強磁性金属層1は、第2強磁性金属層2より保持力が大きい。すなわち、第1強磁性金属層1の磁化が一方向に固定され、第2強磁性金属層2の磁化の向きが相対的に変化することで、磁気抵抗効果素子10として機能する。第1強磁性金属層1は固定層または参照層と呼ばれ、第2強磁性金属層2は自由層または記録層と呼ばれる。
【0055】
第1強磁性金属層1には、コヒーレントトンネルを形成することができる公知の材料を用いることができる。例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属及びこれらの金属を1種以上含み強磁性を示す合金を用いることができる。またこれらの金属と、B、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とを含む合金を用いることもできる。具体的には、Co−FeやCo−Fe−Bが挙げられる。
【0056】
またより高い出力を得るためにはCo
2FeSiなどのホイスラー合金を用いることが好ましい。ホイスラー合金は、X
2YZの化学組成をもつ金属間化合物を含み、Xは、周期表上でCo、Fe、Ni、あるいはCu族の遷移金属元素または貴金属元素であり、Yは、Mn、V、CrあるいはTi族の遷移金属でありXの元素種をとることもでき、Zは、III族からV族の典型元素である。例えば、Co
2FeSi、Co
2MnSiやCo
2Mn
1−aFe
aAl
bSi
1−bなどが挙げられる。
【0057】
また、第1強磁性金属層1の第2強磁性金属層2に対する保磁力をより大きくするために、第1強磁性金属層1と接する材料としてIrMn,PtMnなどの反強磁性材料を用いても良い。さらに、第1強磁性金属層1の漏れ磁場を第2強磁性金属層2に影響させないようにするため、シンセティック強磁性結合の構造としても良い。
【0058】
さらに第1強磁性金属層1の磁化の向きを積層面に対して垂直にする場合には、CoとPtの積層膜を用いることが好ましい。具体的には、第1強磁性金属層1は[Co(0.24nm)/Pt(0.16nm)]
6/Ru(0.9nm)/[Pt(0.16nm)/Co(0.16nm)]
4/Ta(0.2nm)/FeB(1.0nm)とすることができる。
【0059】
第2強磁性金属層2の材料として、強磁性材料、特に軟磁性材料を適用できる。例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、これらの金属を1種以上含む合金、これらの金属とB、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とが含まれる合金等を用いることができる。具体的には、Co−Fe、Co−Fe−B、Ni−Feが挙げられる。
【0060】
第2強磁性金属層2の磁化の向きを積層面に対して垂直にする場合には、第2強磁性金属層の厚みを2.5nm以下とすることが好ましい。第2強磁性金属層2とトンネルバリア層の界面で、第2強磁性金属層2に垂直磁気異方性を付加することができる。また、垂直磁気異方性は第2強磁性金属層2の膜厚を厚くすることによって効果が減衰するため、第2強磁性金属層2の膜厚は薄い方が好ましい。
【0061】
磁気センサとして磁気抵抗効果素子を活用させるためには、外部磁場に対して抵抗変化が線形に変化することが好ましい。一般的な強磁性層の積層膜では磁化の方向が形状異方性によって積層面内に向きやすい。この場合、例えば外部から磁場を印可して、第1強磁性金属層と第2強磁性金属層の磁化の向きを直交させることによって外部磁場に対して抵抗変化が線形に変化する。しかしながらこの場合、磁気抵抗効果素子の近くに磁場を印可させる機構が必要であり、集積を行う上で望ましくない。そのため強磁性金属層自体が垂直な磁気異方性を持つことが好ましい。
【0062】
(基板、下地層)
基板4は、平坦性に優れることが好ましい。平坦性に優れた表面を得るために、材料として例えば、Si、AlTiC等を用いることができる。例えば、MRAMの場合、Si基板で形成された回路が必要となる。そのため、MRAMとして磁気抵抗効果素子10を用いる場合は、Si基板を用いることが好ましい。また、磁気ヘッドとして磁気抵抗効果素子を用いる場合は、加工しやすいAlTiC基板を用いることが好ましい。
【0063】
基板1の第1強磁性金属層1側の面には、下地層5が形成されていてもよい。下地層5を設けると、基板4上に積層される第1強磁性金属層1を含む各層の結晶配向性、結晶粒径等の結晶性を制御することができる。
【0064】
下地層5は、導電性および絶縁性のいずれでもよいが、下地層5に通電する場合は導電性材料を用いることが好ましい。
例えば1つの例として、下地層5には(001)配向したNaCl構造を有し、Ti,Zr,Nb,V,Hf,Ta,Mo,W,B,Al,Ceの群から選択される少なくとも1つの元素を含む窒化物の層を用いることができる。
【0065】
別の例として、下地層5にはABO
3の組成式で表される(002)配向したペロブスカイト系導電性酸化物の層を用いることができる。ここで、サイトAはSr、Ce、Dy、La、K、Ca、Na、Pb、Baの群から選択された少なくとも1つの元素を含み、サイトBはTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Nb、Mo、Ru、Ir、Ta、Ce、Pbの群から選択された少なくとも1つの元素を含む。
【0066】
別の例として、下地層5には(001)配向したNaCl構造を有し、かつMg、Al、Ceの群から選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物の層を用いることができる。
【0067】
別の例として、下地層5には(001)配向した正方晶構造または立方晶構造を有し、かつAl、Cr、Fe、Co、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt、Au、Mo、Wの群から選択される少なくとも1つの元素を含む層を用いることができる。
【0068】
また下地層5は一層に限られず、上述の例の層を複数層積層してもよい。下地層5の構成を工夫することにより磁気抵抗効果素子10の各層の結晶性を高め、磁気特性の改善が可能となる。
【0069】
(キャップ層)
また第2強磁性金属層2のトンネルバリア層3と反対側の面には、キャップ層6が形成されていることが好ましい。キャップ層6は、第2強磁性金属層2から元素の拡散を抑制することができる。またキャップ層6は、磁気抵抗効果素子10の各層の結晶配向性にも寄与する。その結果、キャップ層6を設けることで、磁気抵抗効果素子10の第1強磁性金属層1及び第2強磁性金属層2の磁性の安定化し、磁気抵抗効果素子10を低抵抗化することができる。
【0070】
キャップ層6には、導電性が高い材料を用いることが好ましい。例えば、Ru、Ta、Cu、Ag、Au等を用いることができる。キャップ層6の結晶構造は、隣接する強磁性金属層の結晶構造に合せて、fcc構造、hcp構造またはbcc構造から適宜設定することが好ましい。キャップ層6の厚みは、歪み緩和効果が得られ、さらにシャントによるMR比の低下が見られない範囲であればよく、1nm以上30nm以下が好ましい。
【0071】
(使用時の構成)
図2は、本発明の一態様に係る磁気抵抗効果素子を備える磁気抵抗効果装置の側面模式図である。また
図3は、磁気抵抗効果装置を積層方向から平面視した模式図である。磁気抵抗効果装置20は、
図1に示す磁気抵抗効果素子10におけるキャップ層6の第2強磁性金属層2と反対側の面に電極層11が形成されている。また電極層11と下地層5に設けた電極層12の間には、電源13と電圧計14が設けられている。電源13により電極層11と下地層5に電圧を印加することにより、第1強磁性金属層1、トンネルバリア層3及び第2強磁性金属層2からなる積層体の積層方向に電流が流れる。この際の印加電圧は電圧計14でモニターすることができる。
【0072】
本発明の一態様に係る磁気抵抗効果装置20においては、2価のイオンの一部を1価のイオンで置換することで、トンネルバリア層3のコヒーレントトンネルを維持しつつ、バリアハイトを低くしている。その結果、面積抵抗RAを低減することができる。
【0073】
また本発明の一態様に係る磁気抵抗効果装置20においては、第1強磁性金属層1、トンネルバリア層3及び第2強磁性金属層2の結晶格子の不整合が低減されている。そのため、第1強磁性金属層1からトンネルバリア層3のコヒーレントトンネルを通過して第2強磁性金属層2へ至る際に、スピンが散乱することを防ぐことができる。すなわち、MR比を高めることができると共に、V
halfの低減を抑制することができる。
【0074】
(素子の形状、寸法)
図2に示す、第1強磁性金属層1、トンネルバリア層3及び第2強磁性金属層2からなる積層体は柱状の形状である。積層体を平面視した形状は、円形、四角形、三角形、多角形等の種々の形状をとることができるが、対称性の面から円形であることが好ましい。すなわち、積層体は円柱状であることが好ましい。
【0075】
積層体が円柱状である場合、平面視の直径が80nm以下であることが好ましく、60nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることがさらに好ましい。直径が80nm以下であると、強磁性金属層中にドメイン構造ができにくくなり、強磁性金属層におけるスピン分極と異なる成分を考慮する必要が無くなる。さらに、30nm以下であると、強磁性金属層中に単一ドメイン構造となり、磁化反転速度や確率が改善する。また小型化された磁気抵抗効果素子において、特に低抵抗化の要望が強い。
【0076】
(評価方法)
磁気抵抗効果素子の評価方法について、
図2と
図3を例に説明する。上述のように、
図3に示すように電源13と電圧計14を配置し、一定の電流、あるいは、一定の電圧を磁気抵抗効果素子に印可する。電圧、あるいは電流を外部から磁場を掃引しながら測定することによって、磁気抵抗効果素子の抵抗変化を観測することができる。
【0077】
MR比は、一般的に以下の式で表される。
MR比(%)=(R
AP−R
P)/R
P×100
R
Pは第1強磁性金属層1と第2強磁性金属2の磁化の向きが平行の場合の抵抗であり、R
APは第1強磁性金属層1と第2強磁性金属2の磁化の向きが反平行の場合の抵抗である。
【0078】
V
halfは、例えば1mVの低バイアス電圧印加時のMR比を測定し、バイアス電圧を大きくしながらMR比が半減する電圧を特定することで求める。
【0079】
RAは、印加されるバイアス電圧を磁気抵抗効果素子の積層方向に流れた電流で割ることで得られる抵抗値を、各層が接合される面の面積で割り、単位面積における抵抗値に規格化したものである。印加するバイアス電圧及び磁気抵抗効果素子の積層方向に流れる電流値を電圧計及び電流計で計測し、求めることができる。
また印加されるバイアス電圧と、磁気抵抗効果素子の積層方向に流れた電流の電流密度から求められる電気伝導特性を、WKB近似に基づいたSimmonsの公式に当てはまるように最小自乗法でフィッティングすることで、トンネル障壁の高さ(バリアハイト)を算出することもできる。
【0080】
(その他)
上述の例では保磁力の大きい第1強磁性金属層1がトンネルバリア層3に対して基板4側に設けられた例を挙げたが、この構成に限定されない。保磁力の大きい第1強磁性金属層1がトンネルバリア層3に対して基板4と反対側となる構造の場合には第1強磁性金属層1がトンネルバリア層3に対して基板4側となる構造の場合と比べて保磁力は小さくなるが、基板の結晶性を生かしてトンネルバリア層3を形成できるため、MR比を増大させることが可能である。
【0081】
上述のように、本発明の一態様に係る磁気抵抗効果素子によれば、トンネルバリア層3の2価のイオンを1価のイオンに置き換えることにより、不純物準位が形成され、磁気抵抗効果素子の低抵抗化を実現することができる。また不純物準位が形成されてバリアハイトが低くなっても、コヒーレントトンネルは維持されるため、高いMR比を得ることができる。すなわち、高いMR比を有すると共に、低抵抗な磁気抵抗効果素子を得ることができる。
【0082】
また第1強磁性金属層1及び第2強磁性金属層2とトンネルバリア層3との結晶格子の整合性も高まるため、高いバイアス電圧下でも十分なMR比を維持できる。そのため、本発明の一態様に係る磁気抵抗効果素子は磁気センサやMRAMなどのメモリとして使用することが可能である。特に、従来の磁気センサよりも小型化、高速化が求められる製品において、本発明の一態様に係る磁気抵抗効果素子は効果的である。
【0083】
(製造方法)
磁気抵抗効果素子は、例えば、マグネトロンスパッタ装置を用いて形成することができる。成膜法としてはマグネトロンスパッタ法のほか、蒸着法、レーザアブレーション法、MBE法等の薄膜作成法を用いることができる。
下地層、第1強磁性金属層、第2強磁性金属層、キャップ層は、それぞれ公知の方法で作製することができる。
【0084】
トンネルバリア層は、Aイオン(2価のイオン)を含む金属又は合金と、A’イオン(1価のイオン)及びAイオン(2価のイオン)を含む酸化物を成膜する成膜工程と、成膜されたものを酸化する酸化工程と、によって形成される。成膜工程と酸化工程は、複数回繰り返してもよい。そして、成膜工程及び酸化工程を行った後の積層体を熱処理することで、トンネルバリア層が形成される。酸化は、プラズマ酸化あるいは酸素導入による自然酸化によって行うことができる。
【0085】
また成膜工程において、A’イオン(1価のイオン)及びAイオン(2価のイオン)を含む酸化物を成膜する際に、同時にA’イオン(1価のイオン)を含む酸化物をターゲットとして用い、成膜を行ってもよい。A’イオン(1価のイオン)を含む酸化物を直接ターゲットとして用いることで、Aイオンに対するA’イオンの置換量を高めることができる。
【0086】
A’イオン(1価のイオン)を含む酸化物をターゲットを用いる場合、A’イオン(1価のイオン)を含む酸化物の表面は、Aイオン(2価のイオン)を含む金属又は合金でコーティングすることがさらに好ましい。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等の1価のイオンは、単体では安定的に存在することが難しい。A’イオンを酸化物の形とし、さらにAイオンを含む金属又は合金で表面をコーティングすることにより、安定的にトンネルバリア層を作製することができる。コーティングは、実際の成膜の前に、成膜チャンバー内で除去することができる。例えば試料が設置されていない状態でスパッタ等の処理を行うことで、コーティングを除去することができる。
【0087】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例】
【0088】
(実施例1)
熱酸化珪素膜が設けられた基板上に、マグネトロンスパッタ法を用いた成膜により、磁気抵抗効果素子の各層を作製した。
まず、下地層として、Ta(5nm)/Ru(3nm)を成膜した。その後、下地層上に第1強磁性金属層として、IrMn(12nm)/CoFe(10nm)/Ru(0.8nm)/CoFe(7nm)を順に積層した。
【0089】
次いで、得られた第1強磁性金属層上に、トンネルバリア層を以下の手順で作製した。まずMgのターゲットとMg
0.985Li
0.015O
x合金組成のターゲットを用いて、Mg(0.15nm)/Mg
0.985Li
0.015O
x(0.5nm)/Mg(0.15nm)となるように順に積層した。そして、1.0×10
−8Pa以下の超高真空に保持された酸化チャンバー内に、上述の積層体が形成された試料を移動し、酸化チャンバー内にArと酸素を導入することで、酸化処理を行った。酸化処理は自然酸化により行い、自然酸化の条件は10秒、Arと酸素の分圧比は1:10、全ガス圧は0.05Paとした。
【0090】
再度成膜チャンバーに試料を戻し、酸化処理後の試料に再びMg(0.15nm)/Mg
0.985Li
0.015O
x(0.5nm)/Mg(0.15nm)となるように順に積層した。そして、1.0×10
−8Pa以下の超高真空に保持された酸化チャンバー内で、再積層後の試料に酸化処理を行った。酸化処理は、自然酸化と誘導結合プラズマ酸化により行った。自然酸化の時間は30秒、誘導結合プラズマ酸化の条件は5秒とし、Arと酸素の分圧比は1:20、全ガス圧は0.08Paとした。
【0091】
このようにして、所定のトンネルバリア層が形成された試料を再度成膜チャンバーに移動し、第2強磁性金属層としてCoFe(5nm)、キャップ層としてRu(3nm)/Ta(5nm)を成膜した。
そして、各層が積層された試料をアニール装置に移し、Ar雰囲気、450度の環境下で10分加熱した。その後、8kOeを印加した状態で、6時間280度で加熱処理し、磁気抵抗効果素子を作製した。
【0092】
(構造解析)
実施例1で作製した磁気抵抗効果素子におけるトンネルバリア層の構造は、電子線回折及びエックス線回折測定により行った。磁気抵抗効果素子中におけるトンネルバリア層は、上下に強磁性金属層が形成されており、直接測定できないため、第2強磁性金属層を積層する前の段階で測定した。またトンネルバリア層の下の層の影響を除去するために、Mg(0.15nm)/Mg
0.985Li
0.015O
x(0.5nm)/Mg(0.15nm)となるように順にスパッタする成膜工程と、酸化工程を10回繰り返し行い、充分な膜厚を確保してから行った。
【0093】
エックス線回折測定の結果から主なピークにMgOの結晶構造である空間群Pm3mの対称性に起因した指数付けを行うことができ、MgOと同様の構造であることが確認された。また電子線回折測定では、MgOの構造で指数付けされたピーク以外に、弱いピークが確認された。この新たに確認された弱いピークの強度を含めて再度構造解析を行ったところ、トンネルバリア層の結晶構造は、NaCl構造から歪んだ空間群I−43mまたはPm−3mを有することが分かった。
【0094】
(組成分析)
アトムプローブ法を用いて、トンネルバリア層の組成比を決定した。ここでは、アトムプローブ法を用いたが、この他、エネルギー分散型X線分析(EDS)、電子エネルギー損失分光法(EELS)を用いて行うこともできる。分析の結果、Mg:Li=0.96:0.04であった。
【0095】
こうして得られた実施例1の磁気抵抗効果特性(MR比)及び面積抵抗(RA)を測定した。バイアス電圧0.1Vを印加した際のMR比は50.6%であり、RAは0.23Ω・μm
2であった。なお、このとき磁気抵抗効果素子の直径は0.1μmであった。
【0096】
実施例1の磁気抵抗効果素子は、Fe/MgO/Feの構成からなる従来の磁気抵抗効果素子で理論的に想定されるMR比(25%)を大幅に超えており、高いMR比を有している。また面積抵抗RAも、デバイス応用に求められている1Ω・μm
2を切っている。
すなわち、実施例1の磁気抵抗効果素子は、2価のマグネシウムの一部を1価のリチウムで置換することにより、低抵抗化が実現できている。またこの際に、MR比が大幅に低下することもなかった。すなわち、実施例1の磁気抵抗効果素子は、高いMR比を有しかつ低抵抗である。
【0097】
(実施例2)
実施例2では、トンネルバリア層を作製する際に用いるターゲットを変更し、トンネルバリア層の組成比を変更した点のみが実施例1と異なる。
【0098】
実施例2では、トンネルバリア層を作製する際のターゲットとして、Mg
0.8Zn
0.2のターゲットとMg
0.77Zn
0.19Li
0.04O
xの組成の合金ターゲットを用いた。そして、1回の成膜工程で、Mg
0.
8Zn
0.2(0.15nm)/Mg
0.77Zn
0.19Li
0.04O
x(0.5nm)/Mg
0.
8Zn
0.2(0.15nm)となるようにスパッタした。この成膜工程と酸化工程を2セット繰り返し、トンネルバリア層を作製した。トンネルバリア層における酸化工程及びその他の層の積層条件は、実施例1と同一とした。
【0099】
(構造解析)
実施例2で作製した磁気抵抗効果素子におけるトンネルバリア層の構造は、電子線回折及びエックス線回折測定により行った。実施例2においても実施例1と同様に、成膜工程と、酸化工程を10回繰り返し行い、充分な膜厚を確保してから行った。
【0100】
エックス線回折測定の結果から主なピークにMgOの結晶構造である空間群Pm3mの対称性に起因した指数付けを行うことができ、MgOと同様の構造であることが確認された。また電子線回折測定では、MgOの構造で指数付けされたピーク以外に、弱いピークが確認された。この新たに確認された弱いピークの強度を含めて再度構造解析を行ったところ、トンネルバリア層の結晶構造は、NaCl構造から歪んだ空間群I−43mまたはPm−3mを有することが分かった。
【0101】
(組成分析)
実施例1と同様の分析方法で分析した結果、Mg:Zn:Li=0.77:0.19:0.04であった。
【0102】
こうして得られた実施例2の磁気抵抗効果特性(MR比)及び面積抵抗(RA)を測定した。バイアス電圧0.1Vを印加した際のMR比は38.3%であり、RAは0.16Ω・μm
2であった。なお、このとき磁気抵抗効果素子の直径は0.1μmであった。
【0103】
実施例2の磁気抵抗効果素子は、Fe/MgO/Feの構成からなる従来の磁気抵抗効果素子で理論的に想定されるMR比(25%)を大幅に超えており、高いMR比を有している。また面積抵抗RAも、デバイス応用に求められている1Ω・μm
2を切っている。
すなわち、実施例2の磁気抵抗効果素子は、高いMR比を有しかつ低抵抗である。また実施例1と比較すると、Znを加えることに面積抵抗RAをさらに下げることができた。
【0104】
(実施例3)
実施例3では、トンネルバリア層を作製する際に用いるターゲットを変更し、トンネルバリア層の組成比を変更した点のみが実施例1と異なる。
【0105】
実施例2では、トンネルバリア層を作製する際のターゲットとして、Mgのターゲット、Mg
0.99Li
0.01O
xの組成の合金ターゲット及びLi
2Oの表面をMgでコーティングしたターゲットを用いた。Li
2Oは大気中の水分と容易に反応するため、Mgでコーティングした。実際の素子の成膜時においては、Li
2Oの表面にコーティングされたMgをスパッタ装置内で除去して用いた。除去する際には、スパッタ装置内を充分に高真空にし、表面のMgをスパッタ処理により除去した。この際、装置内に試料は設置していない。
そして1回の積層工程で、Mg(0.15nm)/Mg
0.99Li
0.01O
x+Li
2O(0.5nm)/Mg(0.15nm)となるようにスパッタした。「Mg
0.99Li
0.01O
x+Li
2O」は、Mg
0.99Li
0.01O
xとLi
2Oとを同時にスパッタしたことを意味する。この成膜工程と酸化工程を2セット繰り返し、トンネルバリア層を作製した。トンネルバリア層における酸化工程及びその他の層の積層条件は、実施例1と同一とした。
【0106】
(構造解析)
実施例3で作製した磁気抵抗効果素子におけるトンネルバリア層の構造は、電子線回折及びエックス線回折測定により行った。実施例3においても実施例1と同様に、成膜工程と、酸化工程を10回繰り返し行い、充分な膜厚を確保してから行った。
【0107】
エックス線回折測定の結果から主なピークにMgOの結晶構造である空間群Pm3mの対称性に起因した指数付けを行うことができ、MgOと同様の構造であることが確認された。また電子線回折測定では、MgOの構造で指数付けされたピーク以外に、弱いピークが確認された。この新たに確認された弱いピークの強度を含めて再度構造解析を行ったところ、トンネルバリア層の結晶構造は、NaCl構造から歪んだ空間群I−43mまたはPm−3mを有することが分かった。
【0108】
(組成分析)
実施例1と同様の分析方法で分析した結果、Mg:Li=0.965:0.035であった。
【0109】
こうして得られた実施例3の磁気抵抗効果特性(MR比)及び面積抵抗(RA)を測定した。バイアス電圧0.1Vを印加した際のMR比は63.5%であり、RAは0.25Ω・μm
2であった。なお、このとき磁気抵抗効果素子の直径は0.1μmであった。
【0110】
実施例3の磁気抵抗効果素子は、Fe/MgO/Feの構成からなる従来の磁気抵抗効果素子で理論的に想定されるMR比(25%)を大幅に超えており、高いMR比を有している。また面積抵抗RAも、デバイス応用に求められている1Ω・μm
2を切っている。
すなわち、実施例3の磁気抵抗効果素子は、高いMR比を有しかつ低抵抗である。またターゲットに1価の酸化物であるLi
2Oを含めることで、Liの置換量を高めることができることが分かる。
【0111】
(実施例4)
実施例4では、トンネルバリア層を作製する際に用いるターゲットを変更し、組成比におけるMgとLiの比を変更させて、MR比及びRAを測定した。ターゲットを変更する以外の作製条件は、実施例1と同様にした。
【0112】
図4及び
図5は、トンネルバリア層の組成比におけるMgとLiの比を変更した際の面積抵抗の変化を示した図である。
図4は、磁気抵抗効果素子のトンネルバリア層の組成式をMg
1−xLi
xOとした際の、0<x<0.06の範囲を拡大したものであり、
図5は、0<x≦0.5の範囲で測定したものである。また
図6及び
図7は、トンネルバリア層の組成比におけるMgとLiの比を変更した際のMR比の変化を示した図である。
図6は、磁気抵抗効果素子のトンネルバリア層の組成式をMg
1−xLi
xOとした際の、0<x<0.06の範囲を拡大したものであり、
図7は、0<x≦0.5の範囲で測定したものである。
【0113】
図4に示すように、磁気抵抗効果素子の面積抵抗(RA)は、Liの置換量が多くなるにつれて低下する。そしてx=0.04を超えると面積抵抗の低下はほとんど無くなる。また
図6に示すように、磁気抵抗効果素子のMR比は、Liの置換量が多くなるにつれて低下する。そしてx=0.04を超えると大幅に低下している。すなわち、x=0.04を超える置換領域においては、Liが電子やスピンの散乱体として機能していることが分かる。また
図5に示すように、x=0の場合と比較して0<x≦0.5の範囲で面積抵抗を低くすることができた。
図6及び
図7に示すようにx≧0.04ではMR比も低下しているが、充分に低抵抗であるため、種々の素子へ応用することができる。例えば、高周波素子は、インピーダンスのマッチングが必要であり、抵抗が高いと十分な特性を得ることができない。これに対し、実施例4の磁気的光効果素子は、一般的なGMR素子のMR比(10%程度)より高いMR比を有すると共に、充分に低い抵抗を実現している。
【0114】
(実施例5)
実施例5では、トンネルバリア層を作製する際に用いるターゲットを変更し、成膜するトンネルバリア層の組成式はMg
1−xNa
xOとし、組成比におけるMgとNaの比を変更させて、MR比及びRAを測定した。ターゲットを変更する以外の作製条件は、実施例1と同様にした。
【0115】
図8及び
図9は、トンネルバリア層の組成比におけるMgとNaの比を変更した際の面積抵抗の変化を示した図である。
図8は、磁気抵抗効果素子のトンネルバリア層の組成式をMg
1−xNa
xOとした際の、0<x<0.05の範囲を拡大したものであり、
図5は、0<x≦0.5の範囲で測定したものである。また
図10及び
図11は、トンネルバリア層の組成比におけるMgとNaの比を変更した際のMR比の変化を示した図である。
図10は、磁気抵抗効果素子のトンネルバリア層の組成式をMg
1−xNa
xOとした際の、0<x<0.05の範囲を拡大したものであり、
図11は、0<x≦0.5の範囲で測定したものである。
【0116】
図8に示すように、磁気抵抗効果素子の面積抵抗(RA)は、Naの置換量が多くなるにつれて低下する。そしてx=0.03を超えると面積抵抗が上昇し始めた。また
図10に示すように、磁気抵抗効果素子のMR比は、Naの置換量が多くなるにつれて低下する。そしてx=0.03を超えると大幅に低下している。すなわち、x=0.03を超える置換領域においては、Naが電子やスピンの散乱体として機能していることが分かる。また
図9に示すように、0<x≦0.5の範囲で、x=0の場合と比較して面積抵抗を低くすることができた。また
図10及び
図11のようにx≧0.03ではMR比も低下しているが、充分に低抵抗であるため、種々の素子へ応用することができる。
【0117】
(実施例6)
実施例6では、トンネルバリア層を作製する際に用いるターゲットを変更し、成膜するトンネルバリア層の組成式はMg
1−xK
xOとし、組成比におけるMgとKの比を変更させて、MR比及びRAを測定した。ターゲットを変更する以外の作製条件は、実施例1と同様にした。
【0118】
図12及び
図13は、トンネルバリア層の組成比におけるMgとKの比を変更した際の面積抵抗の変化を示した図である。
図12は、磁気抵抗効果素子のトンネルバリア層の組成式をMg
1−xK
xOとした際の、0<x<0.03の範囲を拡大したものであり、
図13は、0<x≦0.5の範囲で測定したものである。また
図14及び
図15は、トンネルバリア層の組成比におけるMgとKの比を変更した際のMR比の変化を示した図である。
図14は、磁気抵抗効果素子のトンネルバリア層の組成式をMg
1−xK
xOとした際の、0<x<0.03の範囲を拡大したものであり、
図15は、0<x≦0.5の範囲で測定したものである。
【0119】
図12に示すように、磁気抵抗効果素子の面積抵抗(RA)は、Kの置換量が多くなるにつれて低下する。そしてx=0.02を超えると面積抵抗が上昇し始めた。また
図14に示すように、磁気抵抗効果素子のMR比は、Kの置換量が多くなるにつれて低下する。そしてx=0.02を超えると大幅に低下している。すなわち、x=0.02を超える置換領域においては、Kが電子やスピンの散乱体として機能していることが分かる。また
図13に示すように、0<x<0.5の範囲で、x=0の場合と比較して面積抵抗を低くすることができた。
図14及び
図15のようにx≧0.02ではMR比も低下しているが、充分に低抵抗であるため、種々の素子へ応用することができる。
【0120】
(比較例1)
比較例1は、トンネルバリア層をMgOとした点が実施例1と異なる。すなわち、実施例1の成膜工程において、ターゲットをMgOからなるターゲットを用いて、1回のスパッタ工程でMgO(0.8nm)のみを作製した。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0121】
(構造解析)
比較例1で作製した磁気抵抗効果素子におけるトンネルバリア層の構造は、電子線回折及びエックス線回折測定により行った。比較例1においても実施例1と同様に、スパッタ工程と、酸化処理工程を10回繰り返し行い、充分な膜厚を確保してから行った。
【0122】
エックス線回折測定の結果から主なピークにMgOの結晶構造である空間群Pm3mの対称性に起因した指数付けを行うことができ、MgOと同様の構造であることが確認された。また電子線回折測定では、MgOの構造で指数付けされたピーク以外のピークは確認されなかった。このことからトンネルバリア層としてMgOが作製されたことが分かる。
【0123】
こうして得られた比較例1の磁気抵抗効果特性(MR比)及び面積抵抗(RA)を測定した。バイアス電圧0.1Vを印加した際のMR比は94.4%であり、RAは0.94Ω・μm
2であった。なお、このとき磁気抵抗効果素子の直径は0.1μmであった。
【0124】
比較例1の磁気抵抗効果素子は、MR比は極めて高い。一方で、面積抵抗も高く低抵抗とは言えなかった。