(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6586876
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】塗膜付き樹脂フィルムの製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
F26B 13/10 20060101AFI20191001BHJP
F26B 3/04 20060101ALI20191001BHJP
F26B 3/30 20060101ALI20191001BHJP
B05C 9/14 20060101ALI20191001BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20191001BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20191001BHJP
【FI】
F26B13/10 A
F26B3/04
F26B3/30
B05C9/14
B05D3/02 Z
B05D7/00 A
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-244923(P2015-244923)
(22)【出願日】2015年12月16日
(65)【公開番号】特開2016-180579(P2016-180579A)
(43)【公開日】2016年10月13日
【審査請求日】2018年10月17日
(31)【優先権主張番号】特願2015-60463(P2015-60463)
(32)【優先日】2015年3月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 友啓
(72)【発明者】
【氏名】西森 豊
【審査官】
土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−198012(JP,A)
【文献】
特開2004−327203(JP,A)
【文献】
特開2014−014767(JP,A)
【文献】
特開2006−081996(JP,A)
【文献】
特開2010−067579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F26B 13/10
B05C 9/14
B05D 3/02
B05D 7/00
F26B 3/04
F26B 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送中の樹脂フィルムの片面または両面に塗液を塗布する工程であって、塗液が任意の厚みに塗布された塗布部と、この塗布部と塗液が塗布されていない未塗布部との間に塗液が塗布部よりも薄い厚みで塗布された遷移領域と、を形成する工程Aと、
前記未塗布部と前記遷移領域との境界部分にかかるように、遷移領域の少なくとも一部と未塗布部に過加熱抑制液を塗布する工程Bと、
前記塗布部と前記遷移領域の塗液を加熱して乾燥固化させると共に、前記過加熱抑制液を加熱して過加熱抑制液を乾燥させて、前記樹脂フィルムに塗膜を形成する工程Cと、
を有する塗膜付き樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記工程Cにおいて、前記塗布部の塗液の乾燥が完了する前に、前記過加熱抑制液および前記遷移領域の塗液の乾燥を完了させる、請求項1の塗膜付き樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記工程Aにおいて、前記未塗布部が前記塗布部の樹脂フィルムの幅方向両側に形成されるように塗液を塗布する、請求項1または2の塗膜付き樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記工程Bにおいて、噴霧した前記過加熱抑制液を塗布する、請求項1〜3のいずれかの塗膜付き樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記工程Bにおいて、樹脂フィルムの搬送方向における前記過加熱抑制液を塗布している場所の上流側で、樹脂フィルム幅方向の少なくとも前記過加熱抑制液を塗布している範囲で樹脂フィルムの随伴空気を遮蔽する、請求項1〜4のいずれかの塗膜付き樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
搬送中の樹脂フィルムの片面または両面に塗液を塗布する塗液塗布装置であって、塗液が任意の厚みに塗布された塗布部と、この塗布部と塗液が塗布されていない未塗布部との間に塗液が塗布部よりも薄い厚みで塗布された遷移領域と、を形成する塗液塗布装置と、
前記未塗布部と前記遷移領域との境界部分にかかるように、遷移領域の少なくとも一部と未塗布部とに過加熱抑制液を塗布する過加熱抑制装置と、
前記塗布部の塗液、前記遷移領域の塗液および前記過加熱抑制液を加熱する加熱装置と、
を備えた塗膜付き樹脂フィルムの製造装置。
【請求項7】
前記塗液塗布装置が、前記未塗布部が前記塗布部の樹脂フィルムの幅方向両側に形成されるように塗液を塗布する、請求項6の塗膜付き樹脂フィルムの製造装置。
【請求項8】
前記過加熱抑制装置が、前記樹脂フィルムの幅方向の任意の位置に移動可能である、請求項6または7の塗膜付き樹脂フィルムの製造装置。
【請求項9】
前記塗液塗布装置が、ロッド軸方向における所定範囲にわたって表面に溝が加工されたコーティングロッドと塗液供給手段を有する構成であって、前記コーティングロッドが任意の溝深さの通常溝部と、この通常溝部のロッド軸方向における両側に通常溝部よりも浅い溝が形成された浅溝部とを有する、請求項6〜8のいずれかの塗膜付き樹脂フィルムの製造装置。
【請求項10】
前記過加熱抑制装置が、前記過加熱抑制液を噴霧し塗布する、請求項6〜9のいずれかの塗膜付き樹脂フィルムの製造装置。
【請求項11】
樹脂フィルムの搬送方向における前記過加熱抑制装置の上流側に、樹脂フィルム幅方向の少なくとも前記過加熱抑制液が塗布される範囲に、樹脂フィルムの随伴空気を遮蔽する随伴空気遮蔽手段を備えた、請求項6〜10のいずれかの塗膜付き樹脂フィルムの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜付き樹脂フィルムの製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂フィルムに塗布された塗液を乾燥させる装置としては、一般的に簡便な熱風ノズルが用いられている。また塗液の加熱を促進させる手段として赤外線ヒーターが併用される場合もある。特許文献1では、塗液を効率よく乾燥させる加熱装置として、樹脂フィルムの搬送方向に熱風ノズルと熱風排出機構を交互に配置し、熱風排出機構の入口に赤外線ヒーターを設置した加熱装置が開示されている。これは、赤外線ヒーターの輻射熱によって樹脂フィルムおよび塗液の温度を素早く上昇させるとともに、熱風ノズルから熱風を樹脂フィルムに吹き付け、樹脂フィルムの表面近傍の蒸発層を剥離させて熱風排出機構によって外部へ排気するもので、樹脂フィルムを素早く加熱し、かつ塗液付近の蒸気濃度を低く保つことで、塗液を素早く乾燥させることができる。
【0003】
この特許文献1に開示されている加熱装置を、樹脂フィルムの生産装置に適用した場合について説明する。
図3は、逐次2軸延伸フィルムの生産装置に加熱装置を適用した概略図であり、押出機11、口金12、冷却ドラム13、縦延伸機14、塗液塗布装置5、加熱装置6、横延伸機15、巻取り装置16からなる。まず、押出機11によりポリマーを押し出し、口金12、冷却ドラム13を経て、ポリマーをシート状に形成する。その後、縦延伸機14により搬送方向に延伸し、塗液塗布装置5により樹脂フィルムの片面または両面に塗液を塗布する。加熱装置6で塗液を乾燥した後、横延伸機15によって樹脂フィルムは幅方向に延伸され、巻取り装置16によって連続的に巻き取られる。横延伸機15での延伸方法は、樹脂フィルムの幅方向両端部を把持して幅方向に延伸させるものである。
【0004】
このように、樹脂フィルムはその製造工程において一定方向に延伸することで、分子を変形方向に並ばせ、強度を増加させている。ただし、延伸後の樹脂フィルムの両端部は、把持跡がつくため製品とはならない。よって、横延伸機15の出口で把持跡の付いた樹脂フィルムの両端部を切断、回収し、溶融してポリマーとして再利用することで生産性をあげている。この時、回収した樹脂フィルムの両端部に不純物である塗液が混ざらないように、塗液塗布装置5では樹脂フィルムの両端部は未塗布部とし、塗液を塗布しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−101595号広報
【特許文献2】特開2010−67579号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、加熱装置6で塗液を乾燥させる際、樹脂フィルムの両端の未塗布部は、塗布部のように塗液の蒸発潜熱で熱が消費されないため高温になりやすい。そのため、後の横延伸機15の入口で樹脂フィルムの両端の未塗布部を把持する際に、把持する衝撃により未塗布部が破れたり、延伸時に高温の未塗布部のみが選択的に延伸されて、未塗布部を基点に樹脂フィルムが破れたり、また製品となる塗布部が必要量延伸されずに、製品の樹脂フィルムの強度が不足したりするといった問題が発生する。特に塗布部の塗液厚みが厚い程、乾燥が完了するまでに与えなければならない熱量は大きくなるため、未塗布部はより過加熱状態となる。また、乾燥速度をあげるために、赤外線ヒーターを多数配置した場合も、未塗布部はより過加熱状態となる。
【0007】
樹脂フィルムの製造以外の分野において未塗布部の過加熱を防止する技術として、特許文献2には、間欠的に電極材が塗布された金属箔の未塗布部に水や溶媒などの保熱材を配置することで未塗布部の熱容量を大きくし、未塗布部の過加熱を防止する方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献2の技術を樹脂フィルムの製造に適用したとしても、金属箔よりも熱伝導率が低い樹脂フィルムにおいては、供給された熱が拡散しにくいため、未塗布部で保熱材が配置されない箇所では、局所的な過加熱が発生しやすくなる。そのため、樹脂フィルムの未塗布部に保熱材を配置する際は、保熱材が配置されない箇所が生じないように均一に保熱材を配置する必要がある。しかし、樹脂フィルムの蛇行や塗布位置の変動の影響よっては常に保熱材を所望の位置に配置することが難しく、保熱材が配置されない未塗布部が生じたり、保熱材が未塗布部のみでなく塗布部にまで配置されたりしてしまう。保熱材が塗布部に配置された場合、保熱材が配置された塗布部は保熱材により昇温が妨げられ、必要な温度まで昇温できず延伸時に樹脂フィルムの破れが発生するという問題がある。
【0009】
本発明は、塗膜付き樹脂フィルムの製造において、上記のような問題の発生を防止し、塗布された塗液を加熱装置で乾燥させる際、未塗布部での過加熱を防止できる塗膜付き樹脂フィルムの製造方法および製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の塗膜付き樹脂フィルムの製造方法は、搬送中の樹脂フィルムの片面または両面に塗液を塗布する工程であって、塗液が任意の厚みに塗布された塗布部と、この塗布部と塗液が塗布されていない未塗布部との間に塗液が塗布部よりも薄い厚みで塗布された遷移領域と、を形成する工程Aと、
前記未塗布部と前記遷移領域との境界部分にかかるように、遷移領域の少なくとも一部と未塗布部に過加熱抑制液を塗布する工程Bと、
前記塗布部と前記遷移領域の塗液を加熱して乾燥固化させると共に、前記過加熱抑制液を加熱して前記過加熱抑制液を乾燥させて、前記樹脂フィルムに塗膜を形成する工程Cと、を有する。
【0011】
また、上記課題を解決する本発明の塗膜付き樹脂フィルムの製造装置は、
搬送中の樹脂フィルムの片面または両面に塗液を塗布する塗液塗布装置であって、塗液が任意の厚みに塗布された塗布部と、この塗布部と塗液が塗布されていない未塗布部との間に塗液が塗布部よりも薄い厚みで塗布された遷移領域と、を形成する塗液塗布装置と、
前記未塗布部と前記遷移領域との境界部分にかかるように、遷移領域の少なくとも一部と未塗布部とに過加熱抑制液を塗布する過加熱抑制装置と、
前記塗布部の塗液、前記遷移領域の塗液および前記過加熱抑制液を加熱する加熱装置と、を備えている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の塗膜付き樹脂フィルムの製造方法および製造装置によれば、樹脂フィルムに塗布された塗液を乾燥させる際、未塗布部の過加熱を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1(a)は本発明の一実施形態の概略平面図、
図1(b)は
図1(a)のI−I概略断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態である樹脂フィルムの製造工程を示す概略図である。
【
図6】
図6(a)は随伴空気遮蔽手段を備えた本発明の一実施形態の概略平面図、
図6(b)は
図6(a)のI−I概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態の例について図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は以下の形態に限られるものではない。
【0015】
図1(a)は、本発明の一実施形態である塗膜付き樹脂フィルムの製造装置の概略平面図、
図1(b)は、
図1(a)のI−I概略断面図である。
【0016】
図1を用いて、本発明における塗膜付き樹脂フィルムの製造装置の構成を説明する。塗液塗布装置5により、樹脂フィルム1の片面または両面に樹脂フィルム1の幅方向における任意の幅に塗液2が塗布される。塗液2は樹脂フィルム1の全面に塗布されるのではなく、塗布された塗液2の樹脂フィルム1の幅方向の両側に、塗液2が塗布されていない領域である未塗布部9が残るように塗布される。さらに、塗液2は全体に渡って厚みが均一になるように塗布されるのではなく、相対的に塗液厚みの厚い塗布部8と、この塗布部8と未塗布部9との間に相体的に塗液厚みの薄い遷移領域10とが形成されるように塗布される。つまり、塗液塗布装置5により、樹脂フィルム1には任意の厚みで塗液2が塗布された塗布部8と、塗布部8の両側に塗液2が塗布されていない未塗布部9と、塗布部8と未塗布部9との間において塗布部8よりも薄く塗液2が塗布された遷移領域10と、が形成される。
図3に示す逐次2軸延伸フィルムの生産工程においては、樹脂フィルム1は横延伸機15によって幅方向に延伸され、場合によっては、横延伸機15出口で把持跡の付いた樹脂フィルム1の両端部を切断、回収し、溶融してポリマーとして再利用する。この場合、回収した樹脂フィルム1の両端部に不純物である塗液2が混ざらないように、塗液塗布装置5では樹脂フィルム1の両端部は未塗布部9とし塗液2を塗布していない。
【0017】
樹脂フィルム1の片面または両面に塗液2を塗布し、塗布部8と未塗布部9と遷移領域10を形成する塗液塗布装置5としては、ロッドコート、グラビアコート、リバースグラビアコート、スリットダイコートなどの方式のものが挙げられる。これらの塗布方式において遷移領域10を形成する方法としては、例えばロッドコート、グラビアコート、リバースグラビアコートでは、塗布部8に相当する位置の通常溝部には任意の深さの溝加工を施し、この通常溝部のロッド軸方向またはロール軸方向における両側の遷移領域10に相当する位置には通常溝部よりも浅い溝加工を施して浅溝部を形成したコーティングロッドやグラビアロールを用いる方法が挙げられる。また、ロッドコートでは、樹脂フィルム1の搬送方向におけるコーティングロッドの上流側に形成される液溜まりが小さい場合、塗布される塗液2の厚みが薄くなることから、遷移領域10を形成する位置に相当する液溜まりに供給する塗液2の量を減らして、この位置の液溜まりを小さくする方法が挙げられる。ここで、ロッドコートにおいて、液溜まりに塗液2を供給する手段としては、上部に開口部を有する容器をコーティングロッドの下部に設け、容器中の塗液2をコーティングロッドの回転によりピックアップする方法や、ダイ、ファウンテン、ピックアップロールにより樹脂フィルム1または液溜まりに塗液2を供給する方法が挙げられる。また塗液塗布装置5として、スリットダイを用いる場合は、遷移領域10に相当する位置のスリットの間隙を、塗布部8に相当する位置のスリットの間隙よりも狭く加工する方法が挙げられる。これらの中でも、加工が容易な点でコーティングロッドやグラビアロールを用いてロッドコート、グラビアコート、リバースグラビアコートを行うことが好ましい。塗布部8の塗液厚みは、塗液塗布装置5での塗布直後に1μm以上40μmであることが好ましい。
【0018】
過加熱抑制装置4により未塗布部9と遷移領域10に過加熱抑制液3が塗布される。過加熱抑制液3が塗布されることにより、加熱装置6からの熱が過加熱抑制液3の昇温や過加熱抑制液3の乾燥時の蒸発潜熱で消費されるため、未塗布部9や遷移領域10での過加熱を抑制することが出来る。
【0019】
過加熱抑制液3は、未塗布部9と遷移領域10との境界部分にかかるように塗布されていれば、遷移領域10の全面に塗布されている必要はない。これは、塗布部8と遷移領域10の境界部分ぎりぎりまで過加熱抑制液3を塗布しようとすると、わずかな樹脂フィルム1の蛇行や塗布部8の位置の変動により、過加熱抑制液3が塗布部8に塗布されてしまうからである。この観点から、過加熱抑制液3は、塗布部8と遷移領域10との境界部分の近辺には塗布されないことが好ましい。一方、未塗布部9については、乾燥工程における未塗布部9の過加熱を防止する観点から、過加熱抑制液3が未塗布部9の全面に塗布されていることが好ましい。ここで「乾燥工程」とは、後述する加熱装置6で塗液2を乾燥させる工程をいう。
【0020】
それぞれの遷移領域10の幅は、樹脂フィルム1の蛇行や塗布部8の位置の変動がある場合においても、過加熱抑制液3が遷移領域10に塗布されるようにするため、あるいは過加熱抑制液3が塗布部8に塗布されないようにするため広い方がよい。一方で、遷移領域10は製品とならない箇所であるため、この観点からすると極力狭い方がよい。樹脂フィルム1の蛇行幅や塗布部8の位置の変動幅は一般的に樹脂フィルム1の走行速度が速い方が大きくなり、その他の製膜条件によっても異なるが、おおよその目安として、300m/分以下の搬送速度において、蛇行幅は20mm以下であり、また塗布部8の位置の変動幅は10mm以下である。ここで、「蛇行幅」とは、樹脂フィルム1の幅方向における、樹脂フィルム1の片側の端部を基準とした移動量をいう。また、「変動幅」とは、樹脂フィルム1の幅方向における、塗布部8の片側の端部を基準とした移動量をいう。これらの点を考慮すると、それぞれの遷移領域10の幅は10mm以上70mm以下とすることが好ましい。
【0021】
遷移領域10は、コーティングロッドの溝加工時の助走区間を考慮すると、
図4に示すように、塗布部8から未塗布部9へ至る間に塗液厚みが段階的に薄くなっていてもよく、また、
図5に示すように塗液厚みが連続的に薄くなっていてもよい。なお、「助走区間」とは、コーティングロッドの任意の箇所に所望の溝深さの加工を施す際に、所望の溝深さでの加工が開始されるまでに形成される、所望の溝深さよりも浅溝の区間のことをいう。
【0022】
遷移領域10の塗液厚みは、塗布部8の塗液厚みよりも薄い方がよい。また、過加熱抑制液3の塗布量や種類は、乾燥工程において、塗布部8の塗液2の乾燥が完了する前に、過加熱抑制液3および遷移領域10の塗液2が乾燥するように、適宜選択することが好ましい。この理由を次に説明する。乾燥工程では、塗布部8の塗液2を乾燥できるように熱風の温度や風量といった条件を決定しているため、過加熱抑制液3や遷移領域10の塗液2の乾燥が塗布部8の塗液2の乾燥よりも遅いと、遷移領域10と未塗布部9とで乾燥が完了しない場合がある。この場合、遷移領域10と未塗布部9の樹脂フィルム1の昇温が不足するため、横延伸機15での延伸時に、樹脂フィルム1の破れなどの問題が生じることがある。塗布部8の塗液2の乾燥が完了する前に、過加熱抑制液3および遷移領域10の塗液2が乾燥するようにすることで、遷移領域10と未塗布部9が塗布部8に比べて昇温不良となることを抑制でき、延伸時の樹脂フィルム1の破れを防止できる。なお、遷移領域10では、過加熱抑制液3が塗布されない箇所では塗液2が乾燥した後は樹脂フィルム1の温度が上昇する。そのため遷移領域10の過加熱抑制液3が塗布されない箇所での過加熱を抑制するためには、遷移領域10の塗液厚みは薄過ぎない方がよい。また、塗布部8の塗液2の乾燥が完了する前に、過加熱抑制液3および遷移領域10の塗液2が乾燥するようにする場合、遷移領域10の塗液厚みを厚くすると、遷移領域10の過加熱抑制液3の塗布厚みは薄くする必要がある。通常、未塗布部9と遷移領域10では、塗布する過加熱抑制液3の量を同程度とするため、遷移領域10の塗液厚みを厚くすると、未塗布部9の過加熱抑制液3の塗布厚みも薄くなり、未塗布部9での過加熱抑制の効果が低下する。そのため遷移領域10の塗液厚みは厚過ぎない方がよい。これらの点を考慮すると、遷移領域10の塗液厚みは、塗布部8の塗液厚みの30%以上70%以下が好ましく、40%以上60%以下とすることがより好ましい。なお、塗液塗布装置5としてコーティングロッドを用いる場合においては、
図4に示すように遷移領域10に助走区間が含まれ、助走区間では所望の塗液厚みとならないため、遷移領域10の塗液厚みの好ましい範囲は、遷移領域10の助走区間を除いた箇所での塗液厚みで示す。また、遷移領域10が
図5に示すように連続的に薄くなっている場合には、遷移領域10の塗液厚みの好ましい範囲は、遷移領域10の幅方向の平均塗液厚みで示す。
【0023】
過加熱抑制液3は、過加熱抑制液3を塗布し乾燥させた後の未塗布部9を回収してポリマーとして再利用する場合があるため、未塗布部9に異物となる固形分が残留しないように、加熱により蒸発する物質で構成されていることが好ましい。一方で、未塗布部9をポリマーとして再利用する必要が無い場合は、過加熱抑制液3が固形分を含んでいてもよい。過加熱抑制液3の種類としては、例えば水、有機溶媒が挙げられ、特に蒸発潜熱が大きくかつ取り扱いが容易な水が好ましい。ここで水としては、純水、地下水、工業用水などがあり、未塗布部9を回収しポリマーとして再利用する場合は、過加熱抑制液3が蒸発した後に樹脂フィルム1に異物が残留しないように純水を用いることが好ましい。
【0024】
過加熱抑制液3は、
図1に示すように加熱装置6の前に塗布してもよいし、樹脂フィルム1の搬送方向に加熱装置6を複数有する場合は、一つの加熱装置を通過した後で次の加熱装置を通過するまでの間に過加熱抑制液3を塗布してもよい。一つの加熱装置を通過した後で過加熱抑制液3を塗布する場合は、未塗布部9の温度を適宜測定し、未塗布部9が過加熱とならないように適宜過加熱抑制液3を塗布するとよい。未塗布部9の温度測定には、サーモグラフィーなどを用いることが出来る。
【0025】
過加熱抑制液3は一度に、あるいは複数回に分けて塗布してもよい。複数回に分けて塗布する場合は、最後の過加熱抑制液3の塗布が終わった段階で、未塗布部9と遷移領域10との境界部分にかかるように、遷移領域10の少なくとも一部と未塗布部9に過加熱抑制液3が塗布されていればよい。
【0026】
過加熱抑制装置4としては、スプレーノズル、加湿容器、スリットダイなどが挙げられる。過加熱抑制液3を噴霧し塗布するスプレーノズルは、過加熱抑制液3の表面張力が高いか、あるいは樹脂フィルム1の濡れ性が悪い際に、過加熱抑制液3が樹脂フィルム1にはじかれる場合でも、過加熱抑制液3を未塗布部9の樹脂フィルム1に均一に塗布することが出来るため好ましい。また、加湿容器は、
図6に示すように、加湿容器内を噴霧した過加熱抑制液3で満たしたものであり、未塗布部9と遷移領域10が加湿容器内を通過することで過加熱抑制液3が塗布される。ここで、「噴霧」とは、液体を微粒子状にして吹出すことをいう。
【0027】
過加熱抑制装置4は、樹脂フィルム1の幅方向の任意の位置に移動できる構造を有することが好ましい。任意の位置に移動できることで、樹脂フィルム1が蛇行したり、製膜する樹脂フィルム1の幅に応じて塗布部8の幅を変更したりして、遷移領域10と未塗布部9の位置が変わった場合でも遷移領域10と未塗布部9に過加熱抑制液3を塗布することができる。
【0028】
加熱装置6は、塗液2と過加熱抑制液3を加熱し乾燥させる。加熱手段7としては、対流伝熱により被加熱物を加熱する方法である熱風ノズルや、輻射熱により被加熱物を加熱する方法である赤外線ヒーターが挙げられる。熱風ノズルの形態としては、スリットノズルやホールノズルなどが挙げられる。輻射熱により被加熱物を加熱する方法としては、樹脂フィルム1や塗液2の吸収波長、ヒーターの最大出力、寿命などを考慮し最適なヒーターを用いればよく、赤外線ヒーターに限られたものではない。加熱装置6として塗液2の乾燥速度を向上させるために、熱風ノズル、赤外線ヒーター、排気ノズルを配列してもよい。こうすることで、赤外線ヒーターの輻射熱によって樹脂フィルム1および塗液2の温度を素早く上昇させるとともに、熱風ノズルから熱風を樹脂フィルム1に吹き付け、樹脂フィルム1の表面近傍の蒸発層を剥離させ、排気ノズルによって外部へ排気させることで、樹脂フィルム1を素早く加熱し、かつ塗液2付近の蒸気濃度を低く保ち、塗液2の乾燥速度を向上することが出来る。また、加熱装置6として、横延伸機15の予熱区間を使用して塗液2と過加熱抑制液3を加熱し乾燥させてもよい。
【0029】
加熱装置6は、樹脂フィルム1の幅方向において、適宜加熱する幅を選択できるが、樹脂フィルム1の全幅よりも広い幅を加熱することが好ましい。こうすることで、樹脂フィルム1の蛇行や塗布部8の位置の変動がある場合においても、塗液2や過加熱抑制液3が加熱されないことを防止できる。
【0030】
これまでの説明では、
図1に示す実施形態の装置構成で説明をしてきたが、本発明の塗膜付き樹脂フィルムの製造方法および製造装置は、
図2に示すような装置構成で実施してもよい。
図2の装置構成では、塗液塗布装置5により連続搬送される樹脂フィルム1の片面または両面に、樹脂フィルム1の搬送方向に隙間を空けて間欠的に塗液2が塗布される。この塗液2と塗液2との隙間が未塗布部9となり、樹脂フィルム1の搬送方向に未塗布部9、遷移領域10、塗布部8、遷移領域10および未塗布部9が並ぶように塗液2が塗布される。そして、過加熱抑制装置4により未塗布部9と遷移領域10との境界部分にかかるように、未塗布部9と遷移領域10の少なくとも一部に過加熱抑制液3が塗布される。つまり、
図1に示す実施形態では、過加熱抑制装置4は連続的に過加熱抑制液3を塗布していたが、
図2に示す実施形態では、過加熱抑制装置4は、未塗布部9と遷移領域10の通過に合わせて間欠的に過加熱抑制液3を塗布する。
【0031】
本発明の塗膜付き樹脂フィルムの製造装置は、樹脂フィルム1の搬送方向における過加熱抑制装置4が過加熱抑制液3を塗布している場所の上流側に、樹脂フィルム1の幅方向の少なくとも過加熱抑制液3を塗布している範囲に、樹脂フィルム1に随伴される樹脂フィルム1の表面付近の随伴空気を遮蔽する随伴空気遮蔽手段21を備えることが好ましい。随伴空気遮断手段21を備える実施形態を
図6に示す。随伴空気遮蔽手段21を備えることで、過加熱抑制装置4としてスプレーノズルや加湿容器を使用する場合に、噴霧された過加熱抑制液3が樹脂フィルム1の表面付近の随伴空気により拡散し、所望する過加熱抑制液3が未塗布部9と遷移領域10に塗布されないことを抑制できる。また、随伴空気遮蔽手段21を備えることで、過加熱抑制装置4としてスリットダイを使用する場合に、樹脂フィルム1の表面付近の随伴空気によりスリットダイから吐出された液膜が揺れ、過加熱抑制液3の塗布厚みが変動することを抑制できる。随伴空気遮蔽手段21としては、樹脂フィルム1の方向に向けて空気を吹き付けるエアノズルや、樹脂フィルム1の表面近傍に設置する遮蔽板、随伴空気を吸い込む吸引ノズルなどが挙げられる。エアノズルにより樹脂フィルム1の方向に向けて空気を吹き付けることで、樹脂フィルム1の表面付近の随伴空気を遮蔽し、過加熱抑制液3が拡散することを抑制できる。エアノズルにより樹脂フィルム1の方向に向けて空気を吹き付ける場合は、過加熱抑制液3が拡散することを防止するために、エアノズルから吹出した空気が、樹脂フィルム1の搬送方向における過加熱抑制装置4の下流側に流れないように吹出すことが好ましい。遮蔽板を設置する場合は、樹脂フィルム1の随伴空気を遮蔽する効果を高めるために、樹脂フィルム1の表面近傍に設置することが好ましい。ただし、遮蔽板が、塗液塗布装置5により塗布した塗液2と接触すると塗液2の塗液厚みが変化するため、遮蔽板は塗液2に非接触とすることが好ましい。吸引ノズルにより随伴空気を吸い込む場合は、吸引ノズルにより過加熱抑制液3が吸引されないようにすることが好ましい。また、エアノズルと吸引ノズルを組み合わせて、樹脂フィルム1の搬送方向におけるエアノズルの下流側に吸引ノズルを設置し、エアノズルから吹出した空気が、樹脂フィルム1の搬送方向における過加熱抑制装置4の下流側に流れることを防止してもよい。また、エアノズルと遮蔽板を組み合わせて、樹脂フィルム1の搬送方向におけるエアノズルの下流側に遮蔽板を設置し、エアノズルから吹出した空気が、樹脂フィルム1の搬送方向における過加熱抑制装置4の下流側に流れることを防止してもよい。
【0032】
本発明における樹脂フィルム1としては、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、アセテート、ポリカーボネート、アクリル系樹脂などからなるフィルムを挙げることができる。また、この樹脂フィルム1は、単層のフィルムであってもよいし、2層以上の積層構造の複合体フィルムであってもよい。また、上記複合体フィルムは、内層部と表層部を構成する樹脂が、化学的に異種の樹脂であっても同種の樹脂であってもよい。また、樹脂フィルム1の厚みは特に限定されないが、機械的強度やハンドリング性などの点から、厚みは10〜500μmが好ましく、20〜400μmがより好ましい。
【0033】
樹脂フィルム1を搬送する際の、単位幅あたりにかかる張力は、3000〜10000N/mが好ましい。張力がこの範囲であると、樹脂フィルム1の蛇行や搬送方向に対して垂直方向上下の揺れなどが発生しにくく、ロールとの摩擦や加熱装置6との接触による樹脂フィルム1表面へのキズ発生の可能性が低くなる。
【0034】
樹脂フィルム1の表面に塗布する塗液2は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂などが挙げられる。また、塗液2は樹脂フィルム1の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。
【実施例】
【0035】
次に、実施例に基づいて上記実施形態を具体的に説明するが、上記実施形態は必ずしも以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
[実施例1]
極限粘度(固有粘度ともいう)0.62dl/g(1996年 JIS K7367の規格に従い、25℃のo−クロロフェノール中で測定)のポリエチレンテレフタレート(以下PETと省略する)のチップを、180℃で十分に真空乾燥した後、
図3の押出機11に供給して285℃で溶融し、T字型口金12よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度23℃の鏡面冷却ドラム13に巻き付けて冷却固化して未延伸フィルムとした。続いて縦延伸機14において、この未延伸フィルムを80℃に加熱したロール群で加熱し、さらに赤外線ヒーターにて加熱しながら搬送方向に3.2倍延伸し、50℃に調整した冷却ロールで冷却し、一軸延伸の樹脂フィルム1とした。樹脂フィルム1の幅は1000mm、厚みは350μmであった。
【0037】
続いて塗液塗布装置5で、速度10m/分で走行するこの樹脂フィルム1の上面に塗液2を塗布した。塗布部8の幅は760mmとし、塗布部8の両端に遷移領域10を20mmずつ設け、樹脂フィルム1の両端部に100mmずつの未塗布部9を設けた。塗液塗布装置5は、ロッドコート方式とし、コーティングロッドは、直径が12.7mm、長さが1400mmのステンレス製の丸棒材とした。コーティングロッドの溝仕様は、塗布部8に相当する通常溝部は溝深さを106μm、溝ピッチを450μmとし、遷移領域10に相当する浅溝部は溝深さを54μm、溝ピッチを250μmとした。なお、浅溝部のロッド軸方向の両端には助走区間があり、
図4に示すように塗布部8から未塗布部9に至る間に塗液厚みが段階的に薄くなっていくような溝仕様となった。塗布部8の塗液厚みは、塗液塗布装置5の出口にて水分計(RX−200、倉敷紡績株式会社製)で測定したところ30μmであり、遷移領域10の助走区間を除く箇所の塗液厚みは15μm(塗布部8の塗液厚み30μmの50%)であった。
【0038】
続いて、過加熱抑制装置4で、未塗布部9と遷移領域10との境界部分にかかるように、遷移領域10の一部と未塗布部9に過加熱抑制液3を塗布した。過加熱抑制装置4としては、スプレーノズルを用い、過加熱抑制液3として常温の純水を噴霧し塗布した。過加熱抑制液3は、遷移領域10の一部と未塗布部9に同じ塗液厚みとなるように塗布し、過加熱抑制装置4の直後において未塗布部9を水分計で測定したところ、過加熱抑制液3の塗布厚みは14μmであった。
【0039】
続いて加熱装置6として、樹脂フィルム1の搬送方向に熱風ノズルと熱風排出機構を交互に配置した加熱装置を用い、樹脂フィルム1上面から塗液2と過加熱抑制液3を加熱し、過加熱抑制液3と遷移領域10の塗液2の乾燥を完了させた後、塗布部8の塗液2の乾燥を完了させた。
【0040】
その後、横延伸機15において、塗膜付き樹脂フィルムを予熱区間である90℃のオーブン内に導いて加熱し、引き続き延伸区間である100℃のオーブン内で塗膜付き樹脂フィルムを幅方向に3.5倍延伸し、さらに熱固定区間である220℃のオーブン内で幅方向に5%弛緩処理しつつ塗膜付き樹脂フィルムの熱固定を行い、片面に塗液2による塗膜を形成した二軸延伸フィルムを得た。縦延伸機14と横延伸機15の間の張力は、樹脂フィルム1の走行方向にかかる単位幅当たりの張力が8000N/mとなるようにダンサーロールで制御した。
【0041】
塗液2はポリエステル共重合体のエマルジョン(含有成分:テレフタル酸90モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸10モル%、エチレングリコール96モル%、ネオペンチルグリコール3モル%、ジエチレングリコール1モル%)100質量部に対し、メラミン系架橋剤(イミノ基型メチル化メラミンをイソプロピルアルコール10質量%と水90質量%の混合溶媒で希釈した液)を5質量部、平均粒径が0.1μmのコロイダルシリカ粒子を1質量部添加した混合液とした。この塗液2の粘度は、温度25℃において、2mPa・sであった。また、塗液塗布装置5の出口で樹脂フィルム1の温度をサーモグラフィー(TVS−500EX、NEC Avio赤外線テクノロジー株式会社製)で測定したところ、塗布部8および遷移領域10は25〜26℃、未塗布部9は28〜29℃であった。
【0042】
加熱装置6は、熱風ノズルを8ユニット、熱風排出機構を9ユニット、樹脂フィルム1の搬送方向に交互に配置した。熱風ノズルの材質はステンレス(SUS304)を用い、熱風ノズルの大きさは、樹脂フィルム1の搬送方向の長さが200mm、幅方向の長さが1700mmとし、樹脂フィルム1との間隙が30mmとなるよう設置した。また、熱風排出機構の材質はステンレス(SUS304)を用い、熱風排出機構の大きさは、樹脂フィルム1の搬送方向の長さが100mm、幅方向の長さが1700mmとした。熱風ノズルの熱風吹出し部は、直径3mmの穴を千鳥状に均一な分布で開けたパンチングメタルとし、その穴から80℃に加熱した空気を風速20m/sで吹出した。熱風排出機構からの吸込み流量は、熱風ノズルから吹出す熱風の合計流量と同じにした。
【0043】
未塗布部9や遷移領域10での過加熱有無の評価方法は、加熱装置6の出口にて未塗布部9や遷移領域10の温度をサーモグラフィー(TVS−500EX、NEC Avio赤外線テクノロジー株式会社製)で測定し、最も高い部分の温度が、許容温度である70℃以下であるかを確認した。この許容温度は、実験を繰り返すことで割り出した温度である。
【0044】
本装置で塗膜付き樹脂フィルムの製造を行った結果、未塗布部9の温度は66℃、遷移領域10の温度は65℃で許容範囲内であり、安定して生産ができた。
【0045】
[実施例2]
塗液塗布装置5で用いるコーティングロッドの遷移領域10に相当する浅溝部の溝仕様を、溝深さを77μm、溝ピッチを400μmとし、過加熱抑制装置4で塗布する過加熱抑制液3の厚みを7μmとすること以外は、実施例1と同じ条件で塗膜付き樹脂フィルムの製造を行った。なお、塗液塗布装置5の出口にて水分計で測定したところ、遷移領域10の助走区間を除く箇所の塗液厚みは22μm(塗布部8の塗液厚み30μmの約73%)であった。その結果、未塗布部9の温度は70℃、遷移領域10の温度は57℃で許容範囲内であり、安定して生産ができた。
【0046】
[実施例3]
塗液塗布装置5で用いるコーティングロッドの遷移領域10に相当する浅溝部の溝仕様を、溝深さを25μm、溝ピッチを200μmとし、過加熱抑制装置4で塗布する過加熱抑制液3の厚みを21μmとすること以外は、実施例1と同じ条件で塗膜付き樹脂フィルムの製造を行った。なお、塗液塗布装置5の出口にて水分計で測定したところ、遷移領域10の助走区間を除く箇所の塗液厚みは8μm(塗布部8の塗液厚み30μmの約27%)であった。その結果、未塗布部9の温度は59℃、遷移領域10の温度は69℃で許容範囲内であり、安定して生産ができた。
【0047】
[比較例1]
未塗布部9と遷移領域10に過加熱抑制液3を塗布しないこと以外は、実施例1と同じ条件で塗膜付き樹脂フィルムの製造を行った。未塗布部9の温度は74℃と許容温度を超えてしまったため、製品の出荷を断念した。
【0048】
[比較例2]
塗液塗布装置5によって遷移領域10を設けず、過加熱抑制装置4によって過加熱抑制液3を遷移領域10に塗布しないこと以外は、実施例1と同じ条件で塗膜付き樹脂フィルムの製造を行った。未塗布部9の温度は66℃で許容範囲内であったが、樹脂フィルム1の蛇行が原因で塗布部8の一部分に過加熱抑制液3が塗布された箇所が生じてしまい、その箇所の昇温不足が原因で横延伸機15での延伸時に樹脂フィルム1の破れが発生し、塗膜付き樹脂フィルムの製造を中断した。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、塗膜付き樹脂フィルムの製造に限らず、塗膜付き金属箔や塗膜付き紙の製造などにも応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0050】
1 樹脂フィルム
2 塗液
3 過加熱抑制液
4 過加熱抑制装置
5 塗液塗布装置
6 加熱装置
7 加熱手段
8 塗布部
9 未塗布部
10 遷移領域
11 押出機
12 口金
13 冷却ドラム
14 縦延伸機
15 横延伸機
16 巻取り装置
21 随伴空気遮蔽手段