特許第6586880号(P6586880)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6586880
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】分析データ処理装置
(51)【国際特許分類】
   H03M 7/40 20060101AFI20191001BHJP
   G01N 27/62 20060101ALI20191001BHJP
   H03M 7/46 20060101ALI20191001BHJP
【FI】
   H03M7/40
   G01N27/62 D
   H03M7/46
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-253341(P2015-253341)
(22)【出願日】2015年12月25日
(65)【公開番号】特開2017-118388(P2017-118388A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 直也
【審査官】 北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−324971(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0135121(US,A1)
【文献】 国際公開第2009/069225(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M 3/00−9/00
G01N 27/62
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器分析により得られた分析データを圧縮する分析データ処理装置であって、
a)圧縮処理対象である一連の分析データが格納される第1の記憶部と、
b)複数回の繰り返し測定で得られた分析データを積算して前記圧縮処理対象である一連の分析データとして前記第1の記憶部に格納する積算処理部と、
c)前記第1の記憶部から読み出された分析データに基づいてハフマン木を作成するハフマン木作成部と、
d)前記ハフマン木作成部によるハフマン木の作成の際に前記第1の記憶部から読み出された分析データを一時的に格納する第2の記憶部と、
e)前記ハフマン木作成部で作成されたハフマン木を参照して、前記第2の記憶部から読み出された分析データをハフマン圧縮する圧縮実行部と、
を備え、前記積算処理部、前記ハフマン木作成部、及び前記圧縮実行部は1チップのハードウエア回路に内蔵され、前記第1及び第2の記憶部は、該1チップのハードウエア回路に接続される汎用のメモリであることを特徴とする分析データ処理装置。
【請求項2】
機器分析により得られた分析データを圧縮する分析データ処理装置であって、
a)圧縮処理対象である一連の分析データが格納される第1の記憶部と、
b)複数回の繰り返し測定で得られた分析データを積算して前記圧縮処理対象である一連の分析データとして前記第1の記憶部に格納する積算処理部と、
c)前記第1の記憶部から読み出された分析データをランレングス圧縮する第1の圧縮実行部と、
d)前記第1の圧縮実行部による圧縮後のデータに基づいてハフマン木を作成するハフマン木作成部と、
e)前記ハフマン木作成部によるハフマン木の作成の際に用いられたランレングス圧縮後のデータを一時的に格納する第2の記憶部と、
f)前記ハフマン木作成部で作成されたハフマン木を参照して、前記第2の記憶部から読み出されたランレングス圧縮後のデータをハフマン圧縮する第2の圧縮実行部と、
を備え、前記積算処理部、前記ハフマン木作成部、並びに、前記第1及び第2の圧縮実行部は1チップのハードウエア回路に内蔵され、前記第1及び第2の記憶部は、該1チップのハードウエア回路に接続される汎用のメモリであることを特徴とする分析データ処理装置。
【請求項3】
機器分析により得られた分析データを圧縮する分析データ処理装置であって、
a)圧縮処理対象である一連の分析データが格納される第1の記憶部と、
b)前記第1の記憶部から読み出された分析データをランレングス圧縮する第1の圧縮実行部と、
c)前記第1の圧縮実行部による圧縮後のデータに基づいてハフマン木を作成するハフマン木作成部と、
d)前記ハフマン木作成部によるハフマン木の作成の際に用いられたランレングス圧縮後のデータを一時的に格納する第2の記憶部と、
e)前記ハフマン木作成部で作成されたハフマン木を参照して、前記第2の記憶部から読み出されたランレングス圧縮後のデータをハフマン圧縮する第2の圧縮実行部と、
f)前記第1の圧縮実行部によるランレングス圧縮後のデータと前記第1の記憶部から読み出された分析データとを択一的に選択して前記ハフマン木作成部及び前記第2の記憶部へと入力する選択部と、
を備えることを特徴とする分析データ処理装置。
【請求項4】
請求項に記載の分析データ処理装置であって、
複数回の繰り返し測定で得られた分析データを積算して前記圧縮処理対象である一連の分析データとして前記第1の記憶部に格納する積算処理部、をさらに備えることを特徴とする分析データ処理装置。
【請求項5】
請求項4に記載の分析データ処理装置であって、
前記積算処理部、前記ハフマン木作成部、並びに、前記第1及び第2の圧縮実行部は1チップのハードウエア回路に内蔵され、前記第1及び第2の記憶部は、該1チップのハードウエア回路に接続される汎用のメモリであることを特徴とする分析データ処理装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の分析データ処理装置であって、
前記一連の分析データは飛行時間型質量分析装置で得られた所定の時間範囲に亘る飛行時間とイオン強度信号との関係を示すプロファイルデータであることを特徴とする分析データ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行時間型質量分析装置等の分析装置で分析を行うことによって得られたデジタルデータを処理するデータ処理装置に関し、さらに詳しくは、分析装置で得られたデジタルデータを圧縮して保存したり伝送したりするデータ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置などの分析装置では、通常、分析によって得られたアナログ測定信号をアナログデジタル変換器(ADC)でデジタルデータに変換したあとに記憶装置に保存したり、或いはデータ処理を行うパーソナルコンピュータ(PC)に転送したりする処理が行われる。
【0003】
図4は質量分析装置の一つである飛行時間型質量分析装置(TOFMS)の要部の概略構成図である。このTOFMSは、分析装置本体1とデータ処理用PC100とを備え、両者は専用の通信路101で相互に接続されている。
分析装置本体1では、試料由来のイオンが所定のタイミングで一定の加速エネルギを付与されてイオン射出部11から射出され、飛行空間12に送り込まれる。イオンは質量電荷比m/zに応じた飛行速度を有するため、異なる質量電荷比を持つイオンは飛行空間12を飛行する間に空間的に分離され、時間差を有して検出器13に到達する。検出器13は順に到来するイオンを検出し、イオン量に応じた検出信号を時々刻々と出力する。該検出信号は増幅器14で増幅されたあと、ADC15において所定のサンプリング周波数で以てサンプリングされてデジタルデータに変換される。
【0004】
或るイオンがイオン射出部11より射出されてから検出器13に到達するまでの飛行時間は該イオンの質量電荷比m/zに対応したものである。したがって、分析装置本体1における1回の測定によって、その射出時点を起点とする飛行時間と検出信号によるイオン強度値との関係を示す飛行時間スペクトル情報を得ることができる。ただし、例えばマトリクス支援レーザ脱離イオン化(MALDI)法などによるイオン化を行う場合、1回の測定当たりのイオン量が少ないことが多い。そこで、分析感度を上げるために、同一試料について複数回の測定を実行し、その複数の測定で得られた飛行時間スペクトル情報を積算することがよく行われる。図4において、スペクトル積算処理部16はこの積算処理を行うものであり、複数回の測定の繰り返しによってそれぞれ得られた飛行時間スペクトルデータを積算して一つの飛行時間スペクトルデータを求める。
【0005】
この飛行時間スペクトルにおける飛行時間を質量電荷比に換算することでマススペクトルが得られるから、高い質量分解能を達成するには、イオン強度を示すアナログ信号をデジタルデータに変換するADC15でのサンプリング周波数を高くする必要がある。高質量分解能のTOFMSではADC15におけるサンプリング周波数は数GHz以上であり、サンプリング周波数は性能向上の要求に対応してますます高くなる傾向にある。そのため、飛行時間スペクトルデータのデータ量は多く、サンプリング周波数が高くなるとさらにデータ量は増大する。こうしたデータを保存するためには膨大な記憶容量を有する記憶装置が必要となる。また、こうした多量のデータをPCに転送する場合、広帯域の通信路が必要となる。そこで、近年、ADCにおいて変換されたあとのデータに対しデータ圧縮を行うことでデータ量を削減したうえで、記憶装置に格納したりPC等へ転送したりする構成が採られるようになってきている(特許文献1など参照)。
図4において、データ圧縮部17はこのデータ圧縮を行うものであり、積算処理後の飛行時間スペクトルデータを圧縮する。そして、圧縮されたデータが通信路101を通してデータ処理用PC100に転送される。
【0006】
一般に画像や音声のデータ圧縮では非可逆圧縮方式が利用されているが、機器分析の分野では、圧縮されたデータを伸張したときに圧縮前のデータが完全に再現されることが重要である。そのため、ランレングス圧縮、静的ハフマン圧縮などの、可逆圧縮方式が利用されている。
【0007】
よく知られているようにランレングス圧縮方式は、或る値AがN個連続したとき、それを値Aと連続数Nとに置き換える圧縮方式である。ランレングス圧縮方式は、圧縮対象であるデータの解析とその解析結果に基づく圧縮とが1回の処理のみで圧縮が完了する、いわゆる1パス処理の圧縮方式である(慣用的に「1パスエンコード」と呼ばれる)ため、処理時間が短い、ハードウエア化が容易である、といった利点がある。その反面、圧縮率はあまり高くない。そのため、ランレングス圧縮方式を採用すると分析装置本体からPCへと転送するデータ量はあまり減らず、広帯域の通信路と大容量の記憶装置とが必要となる。
【0008】
一方、静的ハフマン圧縮方式は、出現頻度の高い文字列に短い符号を、出現頻度の低い文字列に長い符号を割り当てることで、データ全体を圧縮する方式であり、ランレングス圧縮方式に比べて圧縮率は高い。しかしながら、まず読み込んだデータに基づいて文字列の出現頻度を全て解析してハフマン木(符号割り当てのための辞書)を作成するデータ解析と、該ハフマン木に基づいてデータを圧縮する、という二段階の処理、いわゆる2パス処理が必要である(慣用的に「2パスエンコード」と呼ばれる)。そのため、静的ハフマン圧縮を行う場合にはパイプライン処理を行うことができず、ランレングス圧縮方式に比べて処理時間が長くなるという問題がある。ハフマン木を固定的なものとすれば1段階目のデータ解析は不要になるため、1パス処理が可能である。しかしながら、ハフマン木を固定的にすると、圧縮しようとするデータによっては圧縮率が高くならない場合があり、静的ハフマン圧縮方式を利用するメリットが小さくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2009/069225号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、ランレングス圧縮方式と同様の1パスのパイプライン処理を可能としながら、静的ハフマン圧縮方式と同等の高い圧縮率を実現することができる分析データ処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明に係る分析データ処理装置の第1の態様は、機器分析により得られた分析データを圧縮する分析データ処理装置であって、
a)圧縮処理対象である一連の分析データが格納される第1の記憶部と、
b)複数回の繰り返し測定で得られた分析データを積算して前記圧縮処理対象である一連の分析データとして前記第1の記憶部に格納する積算処理部と、
c)前記第1の記憶部から読み出された分析データに基づいてハフマン木を作成するハフマン木作成部と、
d)前記ハフマン木作成部によるハフマン木の作成の際に前記第1の記憶部から読み出された分析データを一時的に格納する第2の記憶部と、
e)前記ハフマン木作成部で作成されたハフマン木を参照して、前記第2の記憶部から読み出された分析データをハフマン圧縮する圧縮実行部と、
を備え、前記積算処理部、前記ハフマン木作成部、及び前記圧縮実行部は1チップのハードウエア回路に内蔵され、前記第1及び第2の記憶部は、該1チップのハードウエア回路に接続される汎用のメモリであることを特徴としている。
【0012】
上記課題を解決するために成された本発明に係る分析データ処理装置の第2の態様は、機器分析により得られた分析データを圧縮する分析データ処理装置であって、
a)圧縮処理対象である一連の分析データが格納される第1の記憶部と、
b)複数回の繰り返し測定で得られた分析データを積算して前記圧縮処理対象である一連の分析データとして前記第1の記憶部に格納する積算処理部と、
c)前記第1の記憶部から読み出された分析データをランレングス圧縮する第1の圧縮実行部と、
d)前記第1の圧縮実行部による圧縮後のデータに基づいてハフマン木を作成するハフマン木作成部と、
e)前記ハフマン木作成部によるハフマン木の作成の際に用いられたランレングス圧縮後のデータを一時的に格納する第2の記憶部と、
f)前記ハフマン木作成部で作成されたハフマン木を参照して、前記第2の記憶部から読み出されたランレングス圧縮後のデータをハフマン圧縮する第2の圧縮実行部と、
を備え、前記積算処理部、前記ハフマン木作成部、並びに、前記第1及び第2の圧縮実行部は1チップのハードウエア回路に内蔵され、前記第1及び第2の記憶部は、該1チップのハードウエア回路に接続される汎用のメモリであることを特徴としている。
さらに上記課題を解決するために成された本発明に係る分析データ処理装置の第3の態様は、機器分析により得られた分析データを圧縮する分析データ処理装置であって、
a)圧縮処理対象である一連の分析データが格納される第1の記憶部と、
b)前記第1の記憶部から読み出された分析データをランレングス圧縮する第1の圧縮実行部と、
c)前記第1の圧縮実行部による圧縮後のデータに基づいてハフマン木を作成するハフマン木作成部と、
d)前記ハフマン木作成部によるハフマン木の作成の際に用いられたランレングス圧縮後のデータを一時的に格納する第2の記憶部と、
e)前記ハフマン木作成部で作成されたハフマン木を参照して、前記第2の記憶部から読み出されたランレングス圧縮後のデータをハフマン圧縮する第2の圧縮実行部と、
f)前記第1の圧縮実行部によるランレングス圧縮後のデータと前記第1の記憶部から読み出された分析データとを択一的に選択して前記ハフマン木作成部及び前記第2の記憶部へと入力する選択部と、
を備えることを特徴としている
【0013】
本発明に係る第1の態様の分析データ処理装置において、ハフマン木作成部は、第1の記憶部から読み出された圧縮処理対象である分析データを全て読み込んで圧縮(符号化)の際の辞書となるハフマン木を作成する。このとき同時に、第1の記憶部から読み出された分析データは第1の記憶部とは異なる、具体的にはデータバスやアドレスバスを第1の記憶部と共用しない第2の記憶部に格納される。そして、ハフマン木の作成が終了しハフマン圧縮が可能な状態になると、圧縮実行部は第2の記憶部から順次分析データを読み出し、ハフマン木を参照して符号変換を行うことでデータを圧縮する。
【0014】
分析データが第1の記憶部から読み出された時点から圧縮されたデータが出力されるまでの所要時間は、ランレングス圧縮を行う場合に比べて、ほぼハフマン木作成処理時間に相当する時間だけ遅延が大きくなるものの、ハフマン圧縮時に第1の記憶部からデータを再度読み出す必要がない。また、第1の記憶部→ハフマン木作成部及び第2の記憶部→ハフマン圧縮部、という実質的に1パスのパイプライン処理が可能である。そのため、ハフマン圧縮を行う際に並行して、第1の記憶部への別の分析データ、例えば後述するような積算処理済みのデータの書き込みを行うことが可能となる。
【0015】
本発明に係る第2及び第3の態様の分析データ処理装置では、第1の圧縮実行部でランレングス圧縮が行われたあとのデータ、つまりランレングス圧縮後のデータに対しハフマン木作成処理を含む静的ハフマン圧縮がなされるが、ランレングス圧縮は1パスのパイプライン処理が行えるので、これによる処理の待ち時間は無視できる程度である。また、ハフマン圧縮時に第1の記憶部からデータを再度読み出す必要はない。したがって、本発明に係る第2の態様の分析データ処理装置においても上述した第1の態様の分析データ処理装置と同様に、ハフマン圧縮を行う際に並行して、第1の記憶部への別の分析データ、例えば後述するような積算処理済みのデータの書き込みを行うことが可能となる。
【0016】
また、第3の態様の分析データ処理装置では、第1の圧縮実行部による圧縮処理をパスする、即ち、第1の態様の分析データ分析装置と同様に、第1の記憶部から読み出された分析データをそのままハフマン木作成部に入力するとともに第2の記憶部に格納することが選択的に行えるように、第1の圧縮実行部によるランレングス圧縮後のデータと第1の記憶部から読み出された分析データとを択一的に選択してハフマン木作成部及び第2の記憶部へと入力する選択部を備える。ランレングス圧縮では同じ文字列(ビット列)、例えばゼロ信号値が長く続く場合には圧縮率が高くなるから、例えばゼロ信号値が長く続く可能性がある場合にはランレングス圧縮後のデータを、ゼロ信号値が長く続く可能性がない場合には第1の記憶部から読み出されたデータを選択するように選択部でのデータ選択を制御することで、さらに一層圧縮率を高めることが可能となる。
【0017】
本発明に係る第1、第2の態様の分析データ処理装置によれば、測定感度が低く測定によって得られた信号値が小さい場合であっても、積算処理によって信号値が大きくなった分析データを圧縮することができる。また、時間的に先行して積算処理された分析データに対してハフマン圧縮が実行されているのと並行して、次に積算処理された分析データを第1の記憶部に書き込む処理を行うことができるので、ハフマン圧縮を実行するための待ち時間を測定やデータ積算の合間に設ける必要がない。
【0018】
また、本発明に係る分析データ処理装置は様々な分析装置で得られた分析データに対し適用することが可能であるが、特に、単位時間当たりに得られるデータ量が多い場合に有用である。こうしたことから、本発明に係る分析データ処理装置において、前記一連の分析データは飛行時間型質量分析装置(TOFMS)で得られた所定の時間範囲に亘る飛行時間とイオン強度信号との関係を示すプロファイルデータである構成とするとよい。
【0019】
発明に係る第1、第2の態様の分析データ処理装置において、1チップのハードウエア回路としては例えばフィールドプログラマブルゲートアレー(FPGA)を用いることができる。また、汎用のメモリとしてはDDR系SDRAMなどの安価なメモリを用いればよい。こうした構成によれば、低廉なコストで以て大量の分析データを1パスのパイプライン処理で圧縮できる回路を実現することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る分析データ処理装置によれば、高い圧縮率での分析データに対するデータ圧縮を、実質的に1パスのパイプライン処理で行うことができる。それにより、圧縮処理の時間を確保するための測定の待ち時間を軽減することができ、測定の時間短縮、測定の効率化を図りながら、データの圧縮率を高めることができる。その結果、例えば、狭い伝送帯域(低ビットレート)の通信路を通してPC等へ分析データを転送することができるほか、PC等において分析データを保存する際の記憶装置の記憶容量を節約することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施例による分析データ処理装置の要部のブロック構成図。
図2】本実施例の分析データ処理装置におけるデータ処理動作の説明図。
図3】本実施例の分析データ処理装置と従来のデータ処理装置とのデータ圧縮時のデータ経路の相違を示す概略図。
図4】一般的なTOFMSの要部の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る分析データ処理装置の一実施例について、添付図面を参照して説明する。
図1図4に示したTOFMSに利用される本実施例による分析データ処理装置の要部のブロック構成図、図2は本実施例の分析データ処理装置におけるデータ処理動作の説明図である。なお、図1において図4で説明した構成要素と同じものには同じ符号を付している。
【0023】
本実施例の分析データ処理装置は、1チップのFPGA(フィールドプログラマブルゲートアレー)2と、二つのDDR系SDRAM3、4と、から成る。DDR系SDRAM3は本発明における第1の記憶部、DDR系SDRAM4は本発明における第2の記憶部に相当する。FPGA2は、ADC値取込部20、積算処理部21、DDRコントローラ22、ランレングス圧縮部23、選択部24、ハフマン木作成部25、DDRコントローラ26、ハフマン圧縮部27、及びタイミング制御信号生成部28を機能ブロックとして含む。ハフマン圧縮部27は本発明における圧縮実行部又は第2の圧縮実行部に相当し、ランレングス圧縮部23は本発明における第1の圧縮実行部に相当する。
【0024】
ADC値取込部20には、ADC15でデジタル値に変換されたデータ(飛行時間スペクトルを示すプロファイルデータ)が順次入力される。TOFMSの1回の測定によって、図2に示すような所定の時間範囲に亘る一つの飛行時間スペクトルを示すプロファイルデータ(ローデータ)が得られる。測定の繰り返しによって上記プロファイルデータが次々に得られる。タイミング制御信号生成部28から与えられるタイミング制御信号により、ADC値取込部20はADC15において変換されたデジタル値をトリガ信号に同期したタイミングで順次取り込む。
【0025】
積算処理部21は少なくとも1回の測定で得られるプロファイルデータを一次的に格納可能である内部メモリを備えており、該内部メモリから読み出した積算途中のプロファイルデータのデータ値とADC値取込部20から新たに入力されたプロファイルデータのデータ値とを飛行時間毎に加算して内部メモリに上書きする。これを連続したN回(Nは2以上の整数)の測定について繰り返すことで、N回の連続的な測定に対する積算済みプロファイルデータが得られる。N回の連続的な測定毎に、この積算済みプロファイルデータはDDRコントローラ22を介してDDR系SDRAM3に書き込まれる。換言すれば、ハフマン木作成の際に、積算済みプロファイルデータはDDR系SDRAM3からDDR系SDRAM4へと転送される。
【0026】
いま、選択部24は図1中のAを選択するように設定されているものとする。上述したようにDDR系SDRAM3に積算済みプロファイルデータが格納されると、次にDDRコントローラ22はその積算済みプロファイルデータを順次読み出す。この積算済みプロファイルデータは選択部24を介してハフマン木作成部25に入力されると同時に、DDRコントローラ26を介してDDR系SDRAM4に格納される。ハフマン木作成部25は、入力されたプロファイルデータの各サンプルをデータ値毎に分けてヒストグラムメモリに格納することによって符号出現頻度を調べ、その結果に基づいてハフマン木を作成する。ハフマン木を作成するには読み出された積算済みのプロファイルデータの全てが必要であり、その全てのデータがハフマン木作成部25に読み込まれてから所定の処理時間経過後にハフマン木が完成する。ただし、ハフマン木作成に要する処理時間は1回の測定時間に比べれば十分に短いので、処理待ちの時間は実質的に問題とならない。
【0027】
ハフマン圧縮のための辞書となるハフマン木が作成され、積算済みプロファイルデータがDDR系SDRAM4に格納されたならば引き続いて、ハフマン圧縮部27はDDRコントローラ26を介してDDR系SDRAM4からプロファイルデータを順番に読み出し、先に作成されたハフマン木を参照して一つのデータ値をハフマン符号に変換することでハフマン圧縮を実行する。これにより、積算済みプロファイルデータは圧縮データに変換され、データ量が減る。或る一連の、つまりはN回の連続的な測定に対応した積算済みプロファイルデータに基づくハフマン木は該データに対する圧縮開始時点ではすでに用意されているので、ハフマン圧縮部27は該ハフマン木の法則に従って、DDR系SDRAM4から読み出された順に積算済みプロファイルデータをパイプライン処理的に圧縮することができる。そして、圧縮後のプロファイルデータは通信路101を通してデータ処理用PC100に転送される。
【0028】
一方、選択部24が図1中のBを選択するように設定されている場合には次のような動作となる。
DDR系SDRAM3に格納されている積算済みプロファイルデータは、時系列順にDDRコントローラ22を介して読み出されランレングス圧縮部23に入力される。ランレングス圧縮部23は入力されたデータのデータ値を順に識別しながらランレングス圧縮する。即ち、同じデータ値の連続数を計数し、そのデータ値と連続数とがランレングス圧縮後のデータとして出力される。このランレングス圧縮後のデータが選択部24を介してハフマン木作成部25に入力される。またこれと同時に、該ランレングス圧縮後のデータはDDRコントローラ26を介してDDR系SDRAM4に格納される。
【0029】
それ以降のハフマン木作成やそのハフマン木を利用したハフマン圧縮は上記説明と同じである。この場合には、ランレングス圧縮後のデータに対しハフマン圧縮が行われるから、通常、単にハフマン圧縮を行う場合に比べて圧縮率は高くなる。ランレングス圧縮では同じデータ値、典型的にはゼロ値(例えば1サンプルが16ビット長である場合には、HEX表示で「0000」)が長く連続する場合に、高い圧縮率が達成される。そのため、データ値が所定閾値以下である場合に該データ値はベースラインに乗ったノイズであるとみなしてベースライン値(典型的にはゼロ値)に置き換える処理を行うような場合、ベースライン値である時間範囲又はベースライン値を含む時間範囲とベースライン値でない時間範囲又はベースライン値を含まない時間範囲とを予め区分して、前者ではAを選択し後者ではBを選択するように選択部24を切り替えれば、ハフマン圧縮のみを利用する場合に比べてより高い圧縮率を達成することができる。
【0030】
図3は、本実施例の分析データ処理装置とハフマン圧縮を利用した従来のデータ処理装置とのデータ圧縮時のデータ経路の相違を示す概略図である。図3(a)に示すように、本実施例のデータ処理装置では、DDR系SDRAM3から読み出された分析データはハフマン木作成部25とDDR系SDRAM4とに並行して入力され、さらにハフマン木作成部25で作成されたハフマン木とDDR系SDRAM4から読み出された分析データとがハフマン圧縮部27に入力されて処理される。選択部24でBが選択される場合には、図中の点線の位置にランレングス圧縮部23が挿入されるだけである。この図に示すように、本実施例の分析データ処理装置では、ハフマン木作成部25での処理終了を待つ必要はあるものの、実質的に1パス処理が行われ、読み込んだデータを順送りで処理するパイプライン処理が可能である。
【0031】
これに対し、図3(b)に示すように、従来の分析データ処理装置では、まずハフマン木作成部25はDDR系SDRAM3から読み出した分析データを用いてハフマン木を作成し、次にハフマン圧縮部27が、該ハフマン木を参照しつつ、DDR系SDRAM3から読み出した分析データを変換する圧縮処理を実施する、という2段階の処理が必要である。即ち、この処理は図中に[1]、[2]で示した2パス処理である。この場合、ハフマン圧縮が終了するまでDDR系SDRAM3に積算済みプロファイルデータを書き込むことができないため、N回の測定を実行する毎に長いアイドル時間が測定に生じることになる。また、プロファイル長(換言すれば飛行時間範囲の長さ)が長いほどこのアイドル時間は増大する。上述したように、本実施例の分析データ処理装置では、こうしたアイドル時間が殆どないため、測定を効率良く行うことができ測定のスループットを高くすることができる。
【0032】
なお、上記実施例は本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜変形や修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。例えば上記実施例は本発明をTOFMSで得られたデータの処理に利用したものであるが、本発明はTOFMS以外の様々な分析装置で得られたデータの処理に適用することができる。
【符号の説明】
【0033】
1…分析装置本体
2…FPGA
100…データ処理用PC
101…通信路
13…検出器
14…増幅器
15…ADC
20…ADC値取込部
21…積算処理部
22、26…DDRコントローラ
23…ランレングス圧縮部
24…選択部
25…ハフマン木作成部
27…ハフマン圧縮部
28…タイミング制御信号生成部
3、4…DDR系SDRAM
図1
図2
図3
図4