(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
マイクロ無線回線に用いられ、第1地点にある無線機と第2地点にある無線機との間で無線通信ができるように、第1地点にある無線機及び第2地点にある無線機からの電波を反射して電波の進路を変える反射板の調整角度を導出する調整角度導出方法であって、
前記反射板の枠に取り付けられる固定部及び当該固定部に対して回転自在な回転部からなる回転台と、前記回転部に回転可能に取り付けられるスロットアンテナと、当該スロットアンテナの受信電界の強度を測定する電界強度計と、を備えた電界測定装置を用い、
マイクロ無線回線が正常な状態にある前記反射板に前記回転台を介して前記スロットアンテナを設置した後、前記スロットアンテナを回転させて前記第1地点及び第2地点の無線機からの電波をそれぞれ受信し、受信電界の強度が最大となるそれぞれのアンテナ角度を予め取得する工程と、
前記反射板の向きの調整時において、前記反射板の枠に前記回転台を介して前記スロットアンテナを設置した後、前記スロットアンテナを回転させて前記第1地点及び第2地点の無線機からの電波をそれぞれ受信し、受信電界の強度が最大となるそれぞれのアンテナ角度を予め取得する工程と、
正常時に取得した受信電界の強度が最大となるアンテナ角度と、調整時に取得した受信電界の強度が最大となるアンテナ角度と、に基づいて前記反射板の調整角度を求める工程と、を有するマイクロ無線回線用反射板の調整角度導出方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、反射板は、地震や台風等などの災害によって反射板の方向(角度)がずれることがあり得る。この場合、マイクロ無線回線に疎通障害が発生するおそれがある。
【0006】
従来、反射板の方向がずれた場合には、反射板を少しずつ上下左右に動かしながら、遠方にある2点のマイクロ無線機設置場所の受信電界の強度が最大値になるように、マイクロ無線機設置場所と反射板の3地点で連絡を取りながら、反射板の方向調整を行っている。
【0007】
しかし、反射板は高所に据え付けてられている場合が多く、大きさは3m×4m〜10m四方の鉄製でかなりの重量があるため、反射板を少しずつ上下左右に動かす作業は作業員にとって負担が大きい。このため、反射板を少しずつ動かす作業が何度も繰り返されることなく円滑に作業が進められるように、角度を調整する上での目標値を予め把握できることが望まれる。
【0008】
本発明は、このような問題点を解決し、マイクロ無線回線で使用される反射板の角度にずれが生じた場合に、作業員に対して、復旧に要する調整角度に関する情報を提供することを可能にするマイクロ無線回線用反射板の調整角度導出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、次に記載する構成を備えている。
【0010】
(1) マイクロ無線回線に用いられ、第1地点にある無線機と第2地点にある無線機との間で無線通信ができるように、第1地点にある無線機及び第2地点にある無線機からの電波を反射して電波の進路を変える反射板の調整角度を導出する調整角度導出方法であって、前記反射板の枠に取り付けられる固定部及び当該固定部に対して回転自在な回転部からなる回転台と、前記回転部に回転可能に取り付けられるスロットアンテナと、当該スロットアンテナの受信電界の強度を測定する電界強度計と、を備えた電界測定装置を用い、マイクロ無線回線が正常な状態にある前記反射板に前記回転台を介して前記スロットアンテナを設置した後、前記スロットアンテナを回転させて前記第1地点及び第2地点の無線機からの電波をそれぞれ受信し、受信電界の強度が最大となるそれぞれのアンテナ角度を予め取得する工程と、前記反射板の向きの調整時において、前記反射板の枠に前記回転台を介して前記スロットアンテナを設置した後、前記スロットアンテナを回転させて前記第1地点及び第2地点の無線機からの電波をそれぞれ受信し、受信電界の強度が最大となるそれぞれのアンテナ角度を予め取得する工程と、正常時に取得した受信電界の強度が最大となるアンテナ角度と、調整時に取得した受信電界の強度が最大となるアンテナ角度と、に基づいて前記反射板の調整角度を求める工程と、を有するマイクロ無線回線用反射板の調整角度導出方法。
【0011】
(2) (1)において、前記スロットアンテナは、方形導波管からなることを特徴とするマイクロ無線回線用反射板の調整角度導出方法。
【0012】
(3) (1)又は(2)において、前記回転台は、前記反射板の枠の上部又は下部のいずれか一方、及び前記反射板の枠の片方の側部に設置され、各回転台に設置された前記スロットアンテナの受信電界の強度に基づいて、垂直方向及び水平方向の調整角度を求めることを特徴とするマイクロ無線回線用反射板の調整角度導出方法。
【0013】
(1)〜(3)によれば、第1地点及び第2地点の無線機から出力される電波の受信電界が最大になる方向(角度)を測定することにより、反射板の角度調整作業を行う前に、反射板の調整角度を導出することができる。これにより、反射板の角度調整作業を円滑に進めることが可能になる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、マイクロ無線回線で使用される反射板の角度にずれが生じた場合に、作業員に対して、復旧に要する角度調整に関する情報を提供することが可能になり、反射板の角度調整作業を円滑に進めることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態において使用する電界測定装置1の構成を示す説明図であり、
図1(a)は斜視図、
図1(b)はスロットアンテナ10の正面図である。
図2は、反射板100に電界測定装置1を取り付けた状態を示す説明図である。
【0017】
[電界測定装置1の構成]
電界測定装置1は、マイクロ波の受信に用いられるスロットアンテナ10と、回転台20と、電界強度計30と、コード50と、によって構成されている。
スロットアンテナ10は、断面形状が方形の方形導波管12における一つの平面に、1/2波長の間隔で複数のスロット14を設けたものである。スロット14の長手方向は、方形導波管12の長手方向に対して垂直な仮想線方向からわずかに傾斜しており、隣接するスロット14はそれぞれ傾斜が逆向きになっている。
【0018】
また、スロットアンテナ10は、回転台20に固定するための突起16(
図1(b)参照)を備えている。この突起16は、直方体形状であり、スロットアンテナ10の下面の中央部から下方に向けて立設している。
【0019】
なお、
図1に示すスロットアンテナ10は1本の方形導波管12によって構成してもよいが、それに限らず、
図6に示すように、両端部にフランジ部12a,12aが形成されている短い方形導波管12を直線状に配置し、フランジ部12a,12a同士を繋ぎ合わせることによって、長尺に構成してもよい。
【0020】
回転台20は、
図2に示すように、スロットアンテナ10と反射板100の枠体104との間に設けられ、反射板100に対してスロットアンテナ10を回転自在に取り付けるものである。
【0021】
電界強度計30は、スロットアンテナ10の受信電界の強度を測定するものである。コード50は、スロットアンテナ10と電界強度計30とを電気的に接続するものである。
ここで、反射板100は、矩形の枠体104の内側に複数の反射体102を並べて固定したものである。反射板100は、鉄骨構造の支持用建物106に固定される。
スロットアンテナ10は、
図2に示すように、枠体104における水平方向に延びる上辺の中央部と、垂直方向に延びる片方の側辺の中央部とに、それぞれ回転台20を介して固定される。この時、スロットアンテナ10の長手方向は、枠体104の水平方向の上辺及び垂直方向の側辺とそれぞれ平行である。
【0022】
図3は、回転台20の構成を示す説明図であり、
図3(a)は正面図、
図3(b)は上面図、
図3(c)は下面図、
図3(d)は側面図である。
回転台20は、反射板100(
図2参照)に固定される固定部22と、固定部22に回転自在に連結される回転部24と、から構成されている。
【0023】
固定部22及び回転部24は、ともに同径の略円柱形の部材であり、固定部22及び回転部24の中心部には、回転軸23が設けられており、固定部22及び回転部24はこの回転軸23の周りに回転自在である。
【0024】
固定部22の下面には溝部22aが形成されている。この溝部22aは、固定部22の下面の中心を通る仮想直線に沿って直径方向に延びており、溝部22aの両端部は、固定部22の側面の一部を貫通している。溝部22a内の両壁面の幅は、枠体104の太さ程度に設定されている。このため、反射板100の枠体104は、溝部22aに嵌合可能である。
【0025】
回転部24の上面には溝部24aが形成されている。この溝部24aは、回転部24の上面の中心を通る仮想直線に沿って直径方向に延びており、溝部24aの両端部は、回転部24の側面の一部を貫通している。溝部24a内の両壁面の幅は、突起16の太さ程度に設定されている。このため、突起16は、溝部24aに嵌合可能である。
【0026】
固定部22及び回転部24の円周状の側面における、固定部22と回転部24との当接部位近傍には、固定部22に対する回転部24の回転角度を示すスケール26が形成されている。このスケール26は、溝部22aと溝部24aとが平行な場合、言い換えればスロット14が形成されたスロットアンテナ10の側面と反射体102の鏡面とが平行な場合に、0度を示すように設定されている。
【0027】
[反射板100の調整角度導出方法]
次に、電界測定装置1を用いた反射板100の調整角度導出方法について説明する。
まず、作業員は、
図2に示すように、反射板100における枠体104の上部又は下部のいずれか一方の辺の中央、及び枠体104の片方の側部の辺の中央にそれぞれ回転台20の溝部22aを嵌合させて、枠体104に回転台20を設置する。なお、本実施形態においては、枠体104の上部の辺の中央に回転台20が設置される。更に、回転台20の溝部24aにスロットアンテナ10の突起16を嵌合させて、回転台20にスロットアンテナ10を設置する。なお、以下の説明の便宜上、枠体104の上辺に設置されたスロットアンテナ10を、水平スロットアンテナ10と称する場合がある。また、枠体104の側辺に設置されたスロットアンテナ10を、垂直スロットアンテナ10と称する場合がある。
【0028】
次に、作業員は、水平スロットアンテナ10にコード50を接続し、更にコード50に電界強度計30を接続する。
次に、作業員は、
図4(a)に示すように、水平スロットアンテナ10がA地点を向くように、水平スロットアンテナ10を回転させながら、電界強度計30の測定値をモニタする。そして、電界強度計30の測定値が最大となるときの水平アンテナ角度θ1を記録しておく。
【0029】
次に、作業員は、
図4(b)に示すように、水平スロットアンテナ10がB地点を向くように、水平スロットアンテナ10を回転させながら、電界強度計30の測定値をモニタする。そして、電界強度計30の測定値が最大となるときの水平アンテナ角度θ2を記録しておく。
【0030】
次に、作業員は、水平アンテナ角度θ1、θ2を記録した後、水平スロットアンテナ10からコード50を外し、垂直スロットアンテナ10に接続する。
次に、作業員は、垂直スロットアンテナ10を回転させながら、A地点からの電界強度計30の測定値をモニタする。そして、電界強度計30の測定値が最大となるときの垂直アンテナ角度φ1を記録しておく。
【0031】
次に、作業員は、垂直スロットアンテナ10を回転させながら、B地点からの電界強度計30の測定値をモニタする。そして、電界強度計30の測定値が最大となるときの垂直アンテナ角度φ2を記録しておく。
【0032】
上述した作業によって取得されたアンテナ角度θ1、θ2、φ1、φ2は、反射板100のずれ角を導出するための基準として用いる値である。このため、前述したアンテナ角度θ1、θ2、φ1、φ2を求める作業は、マイクロ無線回線が正常であることが確認されてから実施する。
【0033】
作業員は、アンテナ角度θ1、θ2、φ1、φ2を取得する作業が終了した後、スロットアンテナ10及び回転台20を反射板100から取り外し、次回、アンテナ角度の取得作業を行うときまで保管しておく。
【0034】
次に、例えば、地震や台風等の影響によって反射板100にずれが生じた可能性がある場合、作業員は、電界測定装置1を持参して反射板100のところまで移動する。
そして、水平アンテナ角度θ1、θ2及び垂直アンテナ角度φ1、φ2を取得する場合と同じ要領で、
図5(a)、
図5(b)に示すように、電界強度計30の測定値が最大となるときの水平アンテナ角度θ1’、θ2’を求め、更に電界強度計30の測定値が最大となるときの垂直アンテナ角度φ1’、φ2’を求める。
【0035】
そして、予め取得した基準となるアンテナ角度θ1、θ2、φ1、φ2と、新たに測定したアンテナ角度θ1’、θ2’、φ1’、φ2’との差が、反射板100のずれ角となる。具体的に、水平方向のずれ角をΔθ、垂直方向のずれ角をΔφとした場合、
水平方向:Δθ=θ1−θ1’=θ2’−θ2
垂直方向:Δφ=φ1−φ1’=φ2’−φ2
となる。このため、Δθ、Δφだけ反射板100の角度を変えれば、反射板100を概ね正常時の状態に戻すことが可能になる。
このように、反射板100の設置場所の作業員が、水平方向のずれ角Δθ、垂直方向のずれ角Δφを求めて、反射板100を調整することにより、反射板100の調整作業が完了する。
【0036】
以上説明したように構成された本実施形態によれば、反射板100の角度を調整する作業を行う前に、電界測定装置1を用いて反射板100における水平方向及び垂直方向のずれ角を把握することができる。このため、反射板100の角度を調整する作業を容易かつ円滑に進めることが可能になる。また、反射板100側の調整作業によって、正常時のマイクロ無線回線に復旧にすることができるため、従来のように、無線機が設置されているA地点及びB地点に作業員を配置する必要がなくなる。
【0037】
また本実施形態によれば、回転台20に、反射板100の枠体104に嵌合する溝部22aと、スロットアンテナ10の突起10aに嵌合する溝部24aを取り付けるための溝が形成されているため、正確にスロットアンテナ10を反射板100に取り付けることができる。また、反射板100とスロットアンテナ10の角度を読み取るためのスケール26が刻み込まれているため、測定誤差を小さく抑えることが可能になる。
【0038】
また本実施形態によれば、スロットアンテナ10は、方形導波管12を主体としたアンテナであり、
図6に示すように、複数の方形導波管12をつなぎ合わせた構成とすることも可能である。特に、スロットアンテナ10を複数の方形導波管12をつなぎ合わせた構成とすることにより、スロットアンテナ10を持ち運べる長さに分解できるため、山中に反射板100があるような場合でもスロットアンテナ10の持ち込みも容易となり、しかもアンテナとしての性能に影響を与えない。また、方形導波管12を主体としたアンテナであるため、
図7に示すように、スロットアンテナ10の指向特性は大変鋭く、7GHz帯のスロットアンテナ10であれば、全長2m程度のもので水平面半値角が1°程度、垂直面半値角が15〜20°程度となる。なお、水平面半値角が鋭すぎる場合は、スロットアンテナ10の長さを短くして半値角を広げることが可能であり、反射板100が大きくずれた場合であっても対応可能である。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の実施形態は上述した実施形態に限るものではない。例えば、上述した実施形態によれば、既設の反射板100がずれた場合を想定しているが、それに限らず、マイクロ無線回線新設時に、反射板100を仮設置した場合における反射板100の角度の調整作業に応用することも可能である。
【0040】
例えば、
図5において、A地点、B地点からの受信電界が最大になる方向(角度)を測定すれば、反射板100の設置条件は概ね入射角=反射角であるため、
水平方向:(θ1’−θ2’)/2
垂直方向:(φ1’−φ2’)/2
だけ、反射板100の向き(角度)をずらすことにより、概ね良好な状態に調整することができる。そして、この後の作業は微調整のみとなるため、調整作業を容易に行うことが可能となる。
【0041】
また、反射板100の定期点検や巡視時において、電界測定装置1を用いてA地点、B地点からの最大受信電界を測定し、正常時の受信電界との差を比較する作業を行ってもよい。これにより、A地点、B地点各々の無線機出力から反射板100までの区間における新たな損失の有無を確認することに応用することが可能になる。例えば、スロットアンテナ10からの受信電界からは反射板100に角度のずれが認められず、その一方で受信電界の強度が基準の強度より低くなっている場合には、送信側(A地点、B地点の無線機側)の設備に障害が発生している可能性があると判断することが可能になる。具体的には、
図8に示す無線機200から導波管202を介してアンテナ204に到達するまでの間に障害が発生している可能性があると判断することが可能になる。