特許第6586982号(P6586982)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6586982
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】車両音響制御装置
(51)【国際特許分類】
   G10K 15/04 20060101AFI20191001BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20191001BHJP
   G10K 11/178 20060101ALI20191001BHJP
   B60R 11/02 20060101ALI20191001BHJP
【FI】
   G10K15/04 302J
   H04R3/00 310
   G10K11/178 100
   B60R11/02 B
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-195764(P2017-195764)
(22)【出願日】2017年10月6日
(65)【公開番号】特開2019-70698(P2019-70698A)
(43)【公開日】2019年5月9日
【審査請求日】2018年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080768
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100106644
【弁理士】
【氏名又は名称】戸塚 清貴
(72)【発明者】
【氏名】上杉 直久
(72)【発明者】
【氏名】三浦 泰彦
【審査官】 大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2016/0284334(US,A1)
【文献】 特開2010−105414(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0177214(US,A1)
【文献】 特開2006−193002(JP,A)
【文献】 特開2009−298288(JP,A)
【文献】 特開平5−80782(JP,A)
【文献】 特開平6−4083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 11/02
G10K 11/178
G10K 15/04
H04R 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、
前記車両の車室内に前記車両のエンジン音を含む車室内音を発生させる車室内音発生手段と、
人間の音の高さに対する聴覚特性に基づいて車両のエンジン回転数に対して強調すべきエンジン音の次数成分を決定するために、エンジン回転数を複数の領域に分割するとともに、エンジン回転数が高くなるほど周波数の増加量が大きくなるように設定されたエンジン回転数と周波数の最適ラインに基づいて、エンジン音の強調次数成分を前記エンジン回転数の複数の領域の各々に対応づけた特性関係にしたがって、前記エンジン回転数検出手段により検出されたエンジン回転数に対応して強調すべきエンジン音の強調次数成分を決定する強調エンジン次数決定手段と、
前記強調エンジン次数決定手段により決定された強調次数成分が前記車両の乗員に認識されやすいように、前記車室内音発生手段により発生される車室内音を制御する車室内音制御手段と
を備えた車両音響制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両音響制御装置において、
前記車室内音制御手段は、前記車室内音の前記強調次数成分を強めることにより、前記強調次数成分を強調する車両音響制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両音響制御装置において、
前記車室内音制御手段は、前記車室内音の前記強調次数成分以外の成分を弱めることにより、前記強調次数成分を強調する車両音響制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車両音響制御装置において、
前記車室内音発生手段は、前記車両のエンジン音と、オーディオ機器からのオーディオ音を発生可能であり、
前記車室内音制御手段は、前記強調次数成分に対応するオーディオ音の周波数成分を弱める制御を行う車両音響制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車両音響制御装置において、
前記車両の乗員の耳位置における車室内音を検出する車室内音検出手段を備え、
前記車室内音制御手段は、前記車室内音検出手段により検出された車室内音の位相にしたがって、前記車室内音発生手段から発生される車室内音を制御する車両音響制御装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の車両音響制御装置において、
前記車両のエンジン回転数に対して強調すべきエンジン音の次数成分を対応づける特性関係は、前記車両のエンジン回転数が高くなるほど高次の成分が強調次数成分となるように設定されている車両音響制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車室内音を制御する車両音響制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両においては、走行臨場感を高めるために、運転操作に応じた音(エンジン音)を、車室内に設けた音響装置(スピーカ)から発生させることがある。このような車室内音を適切に制御する技術として、例えば特許文献1(特表2014−507679)には、エンジン負荷に応じてエンジン音の高調波成分のゲインを設定する発明が開示されている。また、特許文献2(特開2016−145885)には、エンジン音の次数成分のゲインを調整して、車両の加減速に伴うG変化(旋回走行状態)を運転者に伝えるようにした発明が開示されている。また、特許文献3(特開2008−230341)には、走行モードとエンジン回転数に応じて、アンチノイズコントロール装置とエンジン効果音発生装置の間で動作切り替えを行うようにした発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2014−507679
【特許文献2】特開2016−145885
【特許文献3】特開2008−230341
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の音響装置は、エンジン音の他にオーディオ機器からの音(音楽等)も発生させることがあり、運転者は、エンジン音と同時にオーディオ音も知覚している。ところが、車両の加速時等、運転者が運転操作に集中したいときには、オーディオ音がエンジン音の知覚を阻害してしまうことがある。このため、運転者がエンジン音から運転状態を適切に把握しにくくなってしまうことがあった。
【0005】
本発明は、以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、車両の車室内に発生される音響を運転状態の把握に最適な状態に制御し得る車両音響制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明にあっては、次のような解決方法を採択している。すなわち、請求項1に記載のように、車両のエンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、前記車両の車室内に前記車両のエンジン音を含む車室内音を発生させる車室内音発生手段と、人間の音の高さに対する聴覚特性に基づいて車両のエンジン回転数に対して強調すべきエンジン音の次数成分を決定するために、エンジン回転数を複数の領域に分割するとともに、エンジン回転数が高くなるほど周波数の増加量が大きくなるように設定されたエンジン回転数と周波数の最適ラインに基づいて、エンジン音の強調次数成分を前記エンジン回転数の複数の領域の各々に対応づけた特性関係にしたがって、前記エンジン回転数検出手段により検出されたエンジン回転数に対応して強調すべきエンジン音の強調次数成分を決定する強調エンジン次数決定手段と、前記強調エンジン次数決定手段により決定された強調次数成分が前記車両の乗員に認識されやすいように、前記車室内音発生手段により発生される車室内音を制御する車室内音制御手段とを備えた。
【0007】
上記解決手法によれば、エンジン音からエンジン状態(エンジン回転数の変化)が知覚されやすいように、人間の聴覚特性に基づいて、エンジンの最適な強調次数成分の強調が行なわれるので、車両の乗員(運転者)は、オーディオ機器からのオーディオ音を聞きながらでも、運転状態(エンジン回転数)の変化に伴うエンジン音の変化を適切に知覚することができる。
【0008】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項2以下に記載の通りである。すなわち、前記車室内音制御手段は、前記車室内音の前記強調次数成分を強めることにより、前記強調次数成分を強調する(請求項2対応)。この場合、知覚に重要な強調次数成分自体が強められるので、車両乗員によるエンジン音に対する知覚が向上する。
【0009】
前記車室内音制御手段は、前記車室内音の前記強調次数成分以外の成分を弱めることにより、前記強調次数成分を強調する(請求項3対応)。この場合、強調次数成分以外の成分が弱められるので、知覚に重要な次数成分がエンジン音として知覚され、車両乗員によるエンジン音に対する知覚が向上する。
【0010】
前記車室内音発生手段は、前記車両のエンジン音と、オーディオ機器からのオーディオ音を発生可能であり、前記車室内音制御手段は、前記強調次数成分に対応するオーディオ音の周波数成分を弱める制御を行う(請求項4対応)。この場合、強調次数成分に対応するオーディオ音の周波数成分が弱められるので、エンジン音の強調次数成分が相対的に強められ、車両乗員によるエンジン音に対する知覚が向上する。
【0011】
前記車両の乗員の耳位置における車室内音を検出する車室内音検出手段を備え、前記車室内音制御手段は、前記車室内音検出手段により検出された車室内音の位相にしたがって、前記車室内音発生手段から発生される車室内音を制御する(請求項5対応)。この場合、車両乗員(運転者)の耳位置における車室内音の位相の検出結果を用いて車室内音が制御されるので、検出された位相と同位相の音を発生させたり、逆位相の音を発生させたりすることにより、運転者によって知覚されるエンジン音を適切に制御することができる。
【0012】
前記車両のエンジン回転数に対して強調すべきエンジン音の次数成分を対応づける特性関係は、前記車両のエンジン回転数が高くなるほど高次の成分が強調次数成分となるように設定されている(請求項6対応)。この場合、エンジン回転数が高くなるほど、高次のエンジン次数成分(高周波数成分)が強調されるので、エンジン回転数の上昇に対するエンジン音の高さの聴覚上の変化が、車両乗員にとって、よりリニアな関係で知覚されるようにできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、人間の聴覚特性に基づいてエンジン音の知覚に重要なエンジン次数成分が強調されるので、車両乗員は、オーディオ音を聞きながらでも、運転状態(エンジン回転数)の把握に必要なエンジン音を適切に知覚することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の制御系の一例を示すブロック構成図。
図2】音の高さに対する人間の知覚特性を示すグラフ。
図3】エンジン回転数と周波数知覚量の関係を示すグラフ。
図4】エンジン回転数と周波数(物理量)の関係を示すグラフ。
図5】本発明の車両音響制御の一例の制御手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に基づいて本発明の実施形態について説明する。
【0016】
図1には、本発明の車両音響制御装置の制御系の一例をブロック構成図で示している。図示されるように、制御系は、マイクロコンピュータを利用して構成されたコントローラ(制御ユニット)Uを備えている。コントローラUには、車両のアクセル開度(アクセルペダルの踏み込み量)を検出するアクセル開度検出手段1と、車両のエンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段2と、車両の乗員(運転者)の耳元における車室内音についての情報(周波数、音圧、位相)を検出する車室内音検出手段3からの検出信号が入力される。車室内音検出手段3は、例えば、車両の乗員(運転者)の耳元に隣接して配設されたマイクロフォンから構成される。
【0017】
また、制御系は、車室内音を発生させる車室内音発生手段4を備えている。車室内音発生手段4は、車両のエンジン音やオーディオ機器からのオーディオ音(音楽等)を発生可能な機器であり、例えば車室内に配置されたスピーカから構成されている。
【0018】
コントローラUは、強調レベル決定手段5、強調エンジン次数決定手段6、車室内音制御手段7を備えている。以下に詳しく説明するように、車室内音発生手段4により発生される車室内音(エンジン音及びオーディオ音)は、強調レベル発生手段5と強調エンジン次数決定手段6と車室内音制御手段7により、運転に最適な状態に調整されるようになっている。
【0019】
図2は、音の高さに対する人間の知覚特性を示すグラフであり、音の周波数(Hz)と人間の感じる主観的音の高さ(mel)の関係を示している。なお、本グラフは、横軸(周波数)を対数目盛とした片対数グラフとなっている。グラフから分かるように、音の周波数が高くなると、人間の音の高さに対する感度は低下し、人間が音の高さの変化を感じ取るためには、低周波の場合よりも周波数を大きく変化させることが必要となる。本発明は、このような関係に基づいて、車両の乗員(運転者)がエンジン回転数の高まりをエンジン音の変化から適切に知覚できるように、車室内音を制御することになる。
【0020】
図3は、エンジン回転数と周波数知覚量の関係を示すグラフである。本グラフにおいては、エンジン回転数と車両ドライバの知覚する周波数(周波数の知覚量)の実際の関係が、破線で示されている。一方、車両のドライバが主観評価によってエンジン状態を適切に把握するためには、図3の実線に示されるように、エンジン回転数と周波数知覚量の関係はリニアになっていることが望ましい。しかし、上記のようにドライバの知覚特性(図2参照)は、周波数が高くなる程、音の高さの変化に鈍感であるため、破線で示されるエンジン回転数と周波数知覚量の実際の関係と、実線で示されるリニアな関係(理想状態)の間にはギャップが生じてしまう。そこで、本発明では、ドライバによって知覚されるエンジン音を調整することにより、エンジン回転数に対するドライバの周波数知覚量の関係を理想状態に近づけるようにしている。
【0021】
図4は、エンジン回転数とエンジン音周波数(物理量)の関係を示すグラフであり、横軸はエンジン回転数(rpm)を、縦軸は周波数(Hz)を示している。図示されるように、エンジン音は、複数の次数成分(本例では、2次成分、4次成分、6次成分、8次成分等)で構成されており、各次数成分の周波数は、エンジン回転数に比例して高くなっていく。
【0022】
このように、エンジン回転数が上昇するほどエンジン音は高くなっていくが、図2とともに上述したように、エンジン音が高くなっていくと、車両乗員(運転者)にとっては、同じエンジン回転数の上昇量に対するエンジン音の変化が知覚しにくくなる。このため、本発明では、エンジン回転数が高まるにしたがって、エンジン音のより高次な成分が強調されるようにすることにより、運転者がエンジン音の変化を知覚し易いようにしている。
【0023】
詳しく説明すると、本発明者は、エンジン回転数と周波数(物理量)との対応として、図4における最適ラインPのように、エンジン回転数が高くなるほど、周波数の増加量が大きくなる物理特性を設定することにより、図3に実線で示したような周波数知覚特性とできることという知見を得た。そこで、本発明では、エンジンの回転数を4つの領域に分け、各エンジン回転数領域において、最適ラインPと対応するエンジン次数成分、具体的には図4における太線部分のみを強調するようにした。すなわち、図4に示す例においては、エンジン回転数の4つの範囲(低回転数領域、中回転数領域、高回転数領域、極高回転数領域)に対して、エンジン音の2次成分、4次成分、6次成分、8次成分が、それぞれ強調される。強調エンジン次数決定手段6は、このような特性マップにしたがって、エンジン回転数の領域毎に強調すべき次数成分(最適エンジン次数)を決定することになる。
【0024】
車室内音制御手段7による車室内音の制御(エンジン音の次数成分の強調)は、例えば、以下の(1)〜(3)の方法で実行される。なお、(1)〜(3)の車室内音の制御方法は、上記特許文献1乃至3にも記載されているように、ANCにおける周知技術である。
(1)強調すべき次数成分(最適エンジン次数)の音を強める。この場合、車室内音検出手段2により検出された検出された位相と同位相の最適エンジン次数の音を発生させることにより、最適エンジン次数の音が強められる。
(2)最適エンジン次数以外のエンジン次数の音を弱める。この場合、車室内音検出手段2により検出された検出された位相と逆位相の最適エンジン次数以外のエンジン次数の音を発生させることにより、最適エンジン次数以外のエンジン次数の音を減衰され、結果として最適エンジン次数が強調される。
(3)最適エンジン次数に対応するオーディオ音の周波数成分を減衰させる。
【0025】
なお、最適エンジン次数の強調レベル(ゲイン)は、アクセル開度検出手段1により検出されたアクセル開度に基づいて決定される。
【0026】
次に、図5のフローチャートにしたがって、本発明の車両音響制御の制御手順を説明する。車両音響制御においては、まずステップS1において、アクセル開度を検出し、続くステップS2において、アクセル開度に基づいて強調レベル(ゲイン)を決定する。
【0027】
ステップS3においては、エンジン回転数を検出し、続くステップS4において、特性マップに基づいて強調するエンジン次数(最適エンジン次数)を決定する。さらに、ステップS5においては、車両運転者の耳位置における車室内音を検出する。
【0028】
ステップS6においては、上記のステップにおいて決定された強調レベル、エンジン次数及び検出車室内音(位相)に基づいて、最適エンジン次数成分を強調する制御を行う。具体的には、(1)最適エンジン次数と同位相の音の発生、(2)最適エンジン次数以外のエンジン次数と逆位相の音の発生、(3)最適エンジン次数のオーディオ音の減衰等の処理を実行することにより、エンジン音を運転者にとって知覚されやすい状態に制御して、1サイクルの制御を終了する。
【0029】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲において適宜の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、車両における車室内音を、運転に最適な状態に制御するために利用できる。
【符号の説明】
【0031】
U コントローラ
1 アクセル開度検出手段
2 エンジン回転数検出手段
3 車室内音検出手段
4 車室内音発生手段
5 強調レベル決定手段
6 強調エンジン次数決定手段
7 車室内音制御手段
図1
図2
図3
図4
図5