特許第6587166号(P6587166)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6587166制御装置、空調機、空調システム、制御方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6587166
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】制御装置、空調機、空調システム、制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/47 20180101AFI20191001BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20191001BHJP
   H02J 3/14 20060101ALI20191001BHJP
【FI】
   F24F11/47
   H02J13/00 311T
   H02J3/14 130
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-15519(P2019-15519)
(22)【出願日】2019年1月31日
【審査請求日】2019年3月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 太一
(72)【発明者】
【氏名】森川 純次
(72)【発明者】
【氏名】近藤 成治
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 隆
(72)【発明者】
【氏名】蜷川 忠三
【審査官】 五十嵐 康弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−114655(JP,A)
【文献】 特開平11−325539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/00−11/89
H02J 3/14
H02J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の空調機の全体が消費する電力の目標値に基づいて、複数の前記空調機のうちの2台以上に同時に分担して課す使用可能な電力の制約であって設定温度を達成するために必要な電力よりも所定の削減量だけ小さい電力で運転するよう指示する電力抑制指令を算出する算出部と、
複数の前記空調機の全体が消費する電力の合計を監視する電力監視部と、
前記電力の合計と前記目標値との差に基づいて、前記電力抑制指令を適用する前記空調機を動的に変化させつつ、複数の前記空調機のうち前記電力抑制指令を適用せずに運転している前記空調機の何れかに前記電力抑制指令を指示する指令部と、
を備える制御装置。
【請求項2】
前記指令部は、前記電力抑制指令を適用せずに運転している前記空調機のうち消費電力が大きいものから順に前記電力抑制指令を行う、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記電力の合計と前記目標値の差および前記削減量に基づいて、前記電力抑制指令を課す前記空調機の台数を算出し、該台数の前記空調機を選択する選択部、
をさらに備える請求項1又は請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか1つに記載の制御装置によって制御される空調機であって、
前記空調機は、該空調機が空調対象とする空間の優先度に応じて設定された所定の閾値を保持し、
前記電力抑制指令を受信すると、圧縮機の回転数を低下させることにより当該電力抑制指令の制約を受けた電力抑制運転を開始し、
前記電力抑制運転の実行中に、空調対象とする前記空間の温度と該空間の設定温度の差が前記閾値以上となると、前記制御装置及び他の前記空調機に関係なく自律的に前記電力抑制運転を終了する、
空調機。
【請求項5】
前記電力抑制運転の開始時に、当該電力抑制運転前の自機の運転による消費電力を記憶し、
前記電力抑制運転を終了すると、自機の運転による消費電力が、記憶した前記消費電力を基準として定められた所定の上限値を超えないよう前記圧縮機の回転数を制御する
請求項4に記載の空調機。
【請求項6】
前記電力抑制運転を終了すると、所定の期間、前記電力抑制運転の実行を禁止する、
請求項4または請求項5に記載の空調機。
【請求項7】
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の制御装置と、
請求項から請求項6の何れか1項に記載の空調機を複数、
備える空調システム。
【請求項8】
複数の空調機の全体が消費する電力の目標値に基づいて、複数の前記空調機のうちの2台以上に同時に分担して課す使用可能な電力の制約であって設定温度を達成するために必要な電力よりも所定の削減量だけ小さい電力で運転するよう指示する電力抑制指令を算出するステップと、
複数の前記空調機の全体が消費する電力の合計を監視するステップと、
前記電力の合計と前記目標値との差に基づいて、前記電力抑制指令を適用する前記空調機を動的に変化させつつ、複数の前記空調機のうち前記電力抑制指令を適用せずに運転している前記空調機の何れかに前記電力抑制指令を指示するステップと、
を有する制御方法。
【請求項9】
コンピュータを、
複数の空調機の全体が消費する電力の目標値に基づいて、複数の前記空調機のうちの2台以上に同時に分担して課す使用可能な電力の制約であって設定温度を達成するために必要な電力よりも所定の削減量だけ小さい電力で運転するよう指示する電力抑制指令を算出する手段、
複数の前記空調機の全体が消費する電力の合計を監視する手段、
前記電力の合計と前記目標値との差に基づいて、前記電力抑制指令を適用する前記空調機を動的に変化させつつ、複数の前記空調機のうち前記電力抑制指令を適用せずに運転している前記空調機の何れかに前記電力抑制指令を指示する手段、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、空調機、空調システム、制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力の需要と供給のバランスを、例えば電力料金を上下させることによって調整し、ピーク時の電力供給量を抑制するADR(Automated Demand Response)と呼ばれる技術が存在する。特許文献1には、電力料金がリアルタイムに変化する条件下で、空調の快適さを損なわずに電力料金を抑制する空調システムの制御方法(RTP(Real Time Pricing)制御)が開示されている。
このRTP制御では、中央のシステムから空調機に対して、電力料金に応じた使用可能な電力の上限値を与える。例えば、電力料金が高い場合は、使用可能な電力の上限値を低下させて空調機による電力の使用を制限し、電力料金が安くなると上限値を引き上げる制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018−040510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のRTP制御に関わらず、電力のデマンドに対応して、使用可能な電力の制約を課して1台の空調機を運転した場合、消費電力の抑制が意図どおりに実現できても、室温と設定温度の乖離が広がり、快適性が損なわれ易くなる。使用可能な電力の制約を複数の空調機に分担して課すことにより、複数の空調機の全体で目標となる電力抑制量を達成する方法が好ましい。
【0005】
そこでこの発明は、上述の課題を解決することのできる制御装置、空調機、空調システム、制御方法及びプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、制御装置は、複数の空調機のうちの2台以上に同時に分担して課す使用可能な電力の制約であって設定温度を達成するために必要な電力よりも所定の削減量だけ小さい電力で運転するよう指示する電力抑制指令を算出する算出部と、複数の前記空調機の全体が消費する電力の合計を監視する電力監視部と、前記電力の合計と前記目標値との差に基づいて、前記電力抑制指令を適用する前記空調機を動的に変化させつつ、複数の前記空調機のうち前記電力抑制指令を適用せずに運転している前記空調機の何れかに前記電力抑制指令を指示する指令部と、を備える。
【0007】
本発明の一態様によれば、前記指令部は、前記電力抑制指令を適用せずに運転している前記空調機のうち消費電力が大きいものから順に前記電力抑制指令を行う
【0008】
本発明の一態様によれば、前記制御装置は、前記電力の合計と前記目標値の差および前記削減量に基づいて、前記電力抑制指令を課す前記空調機の台数を算出し、該台数の前記空調機を選択する選択部、をさらに備える。
【0009】
本発明の一態様によれば、上記の制御装置によって制御される空調機であって、前記空調機には、該空調機が空調対象とする空間の優先度に応じて設定された所定の閾値を保持し、前記電力抑制指令を受信すると、圧縮機の回転数を低下させることにより当該電力抑制指令の制約を受けた電力抑制運転を開始し、前記電力抑制運転の実行中に、空調対象とする前記空間の温度と該空間の設定温度の差が前記閾値以上となると、前記制御装置及び他の前記空調機に関係なく自律的に前記電力抑制運転を終了する。
【0010】
本発明の一態様によれば、前記空調機は、前記電力抑制運転の開始時に当該電力抑制運転前の自機の運転による消費電力を記憶し、前記電力抑制運転を終了すると、自機の運転による消費電力が、記憶した前記消費電力を基準として定められた所定の上限値を超えないよう前記圧縮機の回転数を制御する
【0011】
本発明の一態様によれば、前記空調機は、前記電力抑制運転を終了すると、所定の期間、前記電力抑制運転の実行を禁止する。
【0012】
本発明の一態様によれば、空調システムは、上記の何れかに記載の制御装置と、上記の何れかに記載の空調機を複数備える。
【0013】
本発明の一態様によれば、制御方法は、複数の空調機の全体が消費する電力の目標値に基づいて、複数の前記空調機のうちの2台以上に同時に分担して課す使用可能な電力の制約であって設定温度を達成するために必要な電力よりも所定の削減量だけ小さい電力で運転するよう指示する電力抑制指令を算出するステップと、複数の前記空調機の全体が消費する電力の合計を監視するステップと、前記電力の合計と前記目標値との差に基づいて、前記電力抑制指令を適用する前記空調機を動的に変化させつつ、複数の前記空調機のうち前記電力抑制指令を適用せずに運転している前記空調機の何れかに前記電力抑制指令を指示するステップと、を有する。
【0014】
本発明の一態様によれば、プログラムは、コンピュータを、複数の空調機の全体が消費する電力の目標値に基づいて、複数の前記空調機のうちの2台以上に同時に分担して課す使用可能な電力の制約であって設定温度を達成するために必要な電力よりも所定の削減量だけ小さい電力で運転するよう指示する電力抑制指令を算出する手段、複数の前記空調機の全体が消費する電力の合計を監視する手段、前記電力の合計と前記目標値との差に基づいて、前記電力抑制指令を適用する前記空調機を動的に変化させつつ、複数の前記空調機のうち前記電力抑制指令を適用せずに運転している前記空調機の何れかに前記電力抑制指令を指示する手段、として機能させる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複数の空調機の一部に対して電力抑制を分担して課し、さらに電力抑制を課す空調機を固定すること無く動的に変化させる。これにより、室温への影響を抑えつつ、複数の空調機全体で目標とする電力制限量を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態における空調システムの一例を示す図である。
図2】本発明の一実施形態におけるDRASクライアントおよび室外機コントローラの一例を示す機能ブロック図である。
図3】本発明の一実施形態における電力抑制指示信号の一例を示す図である。
図4】電力抑制モード解除後の運転の一例を示す第1の図である。
図5】電力抑制モード解除後の運転の一例を示す第2の図である。
図6】本発明の一実施形態における電力抑制運転を説明する第1の図である。
図7】本発明の一実施形態における電力抑制運転を説明する第2の図である。
図8】本発明の一実施形態における電力抑制制御の一例を示す第1のフローチャートである。
図9】本発明の一実施形態における電力抑制制御の一例を示す第2のフローチャートである。
図10】本発明の一実施形態におけるDRASクライアントおよび室外機コントローラのハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施形態>
以下、本発明の一実施形態による電力抑制制御について図1図10を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態における空調システムの一例を示す図である。空調システム100は、ビル4,4a等に備えられた複数の空調機31,31a等を、ユーザの快適性を保ちつつ低電力で運転するためのシステムである。ビル4には空調機31〜3mが、ビル4aには空調機31a等が備えられている。ビルの数や空調機の数は図示したものに限定されない。空調システム100が制御対象とする空調機の数は、例えば、数百台〜1000台以上であることが好ましい。
【0018】
空調システム100は、DRASサーバ1と、DRASクライアント2と、ゲートウェイ3,3aと、空調機31〜3mおよび空調機31a等と、を含んで構成される。DRASサーバ1は、例えば電力会社や電力のアグリゲータが運用するサーバ端末装置である。電力会社や電力のアグリゲータは、電力の需要による電力不足が見込まれる場合には需要家に節電を促し、電力需要が比較的少ないと見込まれる時間には電力の消費を促す。例えば、電力会社は、節電を促す場合には、電力料金単価を引き上げ、電力の消費を促す場合には、電力料金単価を安く設定する。あるいは、電力のアグリゲータは、節電を促す場合、需要家側で削減すべき電力(kW)や電力量(kWh)を設定する。DRASサーバ1とDRASクライアント2とは通信可能に接続されており、所定のプロトコル(例えばOpenADR2.0等)に基づく通信を行う。例えば、DRASサーバ1は、未来における所定期間分(例えば、30分間)の電力料金のスケジュール情報を、DRASクライアント2に送信する。あるいは、DRASサーバ1は、削減すべき電力や電力量の情報をDRASクライアント2に送信する。
【0019】
DRASクライアント2は、例えば空調機31,31a等の運用を行う企業が運用するサーバ端末装置である。DRASクライアント2は、DRASサーバ1から取得した電力料金のスケジュール情報や電力削減量の情報に基づいて、どのような運転を行えば、ユーザの設定温度を実現しつつ、消費電力を抑制して(安い電力料金で)空調機31〜3m、21a等を運転できるかを示す電力抑制指示情報を算出する。DRASクライアント2は、インターネット等のネットワークを介して、ゲートウェイ3,3aと通信可能に接続されている。DRASクライアント2は、算出した電力抑制指示情報をゲートウェイ3,3aに送信する。
【0020】
ゲートウェイ3は、ビル4に設けられた通信装置である。ビル4には、複数の室内機を有するマルチ型の空調機31〜3mが設けられている。空調機31は、室外機301と、室内機311〜31nを備える。空調機32は、室外機302と、室内機321〜32nを備える。空調機33,34,3mについても同様である。例えば、室外機301は、圧縮機、熱交換器、後述するコントローラ等を有しており、冷媒を室内機311,31n等へ送出する。室内機311等は、ビル4の部屋に設けられており、その部屋の温度を、ユーザ所望の温度となるように空調を行う。空調機31〜3mの各々は、1つの冷媒系統である。つまり、室外機301と、室内機311〜31n等は冷媒配管で接続された1つの制御単位である。本実施形態では、この制御単位をブロックと呼ぶ。例えば、空調機31をブロック1、空調機32をブロック2、空調機3mをブロックmと呼ぶ。空調システム100では、空調機31等の制御はブロック単位で行う。
同様にゲートウェイ3aは、ビル4aに設けられた通信装置である。ビル4aには、マルチ型の空調機31a等が設けられている。空調機31aは、室外機301aと、室内機311a〜31naを備える。室外機301と、室内機311〜31n等は冷媒配管で接続された1つのブロックである。この他にも、図示しない複数のビルに、ビル4におけるゲートウェイ3及び空調機31等と同様の機器が同様の構成で設けられている。
【0021】
ゲートウェイ3は、DRASクライアント2から取得した空調機毎の電力抑制指示情報を、対応する空調機31〜3mへ出力する。空調機31〜3mの各々は取得した電力抑制指示情報に基づいて、自装置の運転を制御する。ゲートウェイ3a及び空調機31a等についても同様である。
【0022】
図2は、本発明の一実施形態における制御装置(DRASクライアント2)および室外機コントローラの一例を示す機能ブロック図である。
図2を用いてDRASクライアント2及び室外機301等が備えるコントローラの構成について説明する。図2ではゲートウェイ3,3a等の記載やビル4,4a等の別を省略し、空調機31,31a等を空調機3N(N:1〜制御対象の空調機の総数)と表して、空調機3Nの室外機30Nが備えるコントローラ50NとDRASクライアント2とが通信可能であることを示す。なお、空調機31の室外機301が備えるコントローラ501、室外機302が備えるコントローラ502等、個々の空調機、室外機、コントローラの区別が必要ない場合には、空調機3N、室外機30N、コントローラ50Nと記載する。
【0023】
(DRASクライアント2の構成)
DRASクライアント2は、運転情報取得部21と、目標電力決定部22と、抑制指令算出部23と、電力監視部24と、空調機選択部25と、指令部26と、通信部27と、記憶部28とを備える。
【0024】
運転情報取得部21は、空調機3Nの運転情報を取得する。運転情報とは、例えば、空調機3Nの運転による消費電力量、空調対象の部屋の室内温度及び設定温度、室外温度、圧縮機の回転数等である。運転情報取得部21は、例えば所定の時間毎に室外機30Nの運転情報を取得し、記憶部28に取得した運転情報を記録する。
【0025】
目標電力決定部22は、DRASサーバ1から送信された電力料金のスケジュール情報や電力削減量の情報を取得し、制御対象の全ての空調機3Nが消費する電力の合計に対する目標値を決定する。なお、この目標値は、電力合計の上限値であってもよい。
【0026】
抑制指令算出部23は、所定の手法を用いて、ユーザの快適性を保ちつつ、消費電力を抑制する空調機3Nの運転を実現する電力抑制指示情報を算出する。電力抑制指示情報とは、例えば、所定時間毎の空調機3Nのそれぞれが消費する電力の上限値を定めたものである。抑制指令算出部23は、算出した電力抑制指示情報を指令部26へ出力する。
【0027】
電力監視部24は、目標電力決定部22が定めた電力の目標値と、運転情報取得部21が取得した全ての空調機3Nの消費電力の合計値とを比較し、全ての空調機3Nの消費電力の合計が、目標値以内に収まっているかどうかを判定する。
【0028】
空調機選択部25は、抑制指令算出部23が算出した電力抑制指示情報を適用して運転する空調機3Nを選択する。例えば、空調機選択部25は、目標電力決定部22が決定した消費電力の目標値と、抑制指令算出部23が算出した消費電力の上限値に基づいて、何台の空調機3Nが、電力抑制指示情報の制約下で運転すれば、空調機3N全体で消費電力の目標値を達成することができるかを算出し、算出した台数の空調機3Nを選択する。空調機選択部25は、予め定められた順に空調機3Nを選択してもよいし、ランダムに空調機3Nを選択してもよい。あるいは、空調機選択部25は、運転情報取得部21が取得した各空調機3Nの消費電力に基づいて、消費電力が大きいものから順に空調機3Nを選択してもよい。
【0029】
指令部26は、空調機選択部25が選択した空調機3Nに対して、電力抑制指示情報を指示する。具体的には、指令部26は、通信部27を介して、対象となる空調機3Nが備えるコントローラ50Nへ電力抑制指示情報を送信する。
【0030】
通信部27は、他装置との通信を行う。例えば、通信部27は、DRASサーバ1とデータ通信を行い、電力料金のスケジュール情報等を取得する。あるいは、通信部27は、ゲートウェイ3等を介して空調機3Nとデータ通信を行い、電力抑制指示情報を送信したり、各空調機3Nの消費電力を取得したりする。
記憶部28は、運転情報取得部21が取得した運転情報、目標電力決定部22が決定した消費電力の目標値、電力抑制指示情報の算出や電力抑制運転を行う空調機3Nの選択に必要なデータ等を記憶する。
【0031】
(室外機のコントローラの構成)
コントローラ50Nは、抑制指令取得部51Nと、運転モード決定部52Nと、制御部53Nと、通信部54Nと、記憶部55Nとを備える。
【0032】
抑制指令取得部51Nは、DRASクライアント2の指令部26が指示した電力抑制指示情報を取得する。
運転モード決定部52Nは、空調機3Nの運転モードを決定する。運転モードには、(1)通常モード、(2)電力抑制モード、(3)リバウンド抑制モードの3種類が存在する。(1)通常モードでは、空調機3Nは、使用可能な電力の制約を受けることなく運転する。電力抑制指示情報を取得した場合でも、電力抑制指示情報で規定される使用可能な電力の上限値が十分に大きい場合には、空調機3Nは通常モードで運転する。(2)電力抑制モードでは、空調機3Nは、設定温度を達成、維持するために必要な電力より小さい電力を上限とする制約を受けて運転する。(3)リバウンド抑制モードは、電力抑制モードで運転する間に設定温度から乖離した室温を、電力抑制モードの解除後に速やかに設定温度に近づけようとして空調機3Nの負荷が上昇し、それに伴って消費電力が増加(リバウンド)しがちになることを防ぐため、電力抑制モード解除後しばらくの間は、消費電力の急上昇を防ぐよう運転する運転モードである。
【0033】
制御部53Nは、運転モード決定部52Nが決定した運転モードで室外機30Nの動作を制御する。例えば、制御部53Nは、設定温度と室温の偏差に基づいて、室外機30Nが備える圧縮機の回転数を制御し、室温が設定温度に近づくよう運転を行う。例えば、電力抑制モードで運転する場合、制御部53Nは、空調機3Nの消費電力が、電力抑制指示情報で規定された電力の上限値を超えないように圧縮機の回転数制御を行う。なお、空調機3Nの運転において、電力の大部分は、室外機30Nの圧縮機で消費される。
通信部54Nは、ゲートウェイ3等を介して、DRASクライアント2との通信を行う。通信部54Nは、例えば、DRASクライアント2から電力抑制指示情報を取得し、制御部53Nの指示に基づいて、空調機3Nの消費電力をDRASクライアント2へ送信する。なお、コントローラ50Nは、空調機3Nの消費電力を把握している。また、通信部54Nは、図示しない室内機3N1等のコントローラと通信を行って、各室内機3N1から設定温度と室温を取得する。
記憶部55Nは、空調機3Nの運転に必要な様々な情報を記憶する。
【0034】
図3は、本発明の一実施形態における電力抑制指示情報の一例を示す図である。電力抑制指示情報には、所定時間(例えば5分)毎の空調機3Nが使用可能な電力の上限値が含まれている。図3に示すものは、例えば、目標電力決定部22が、DRASサーバ1から0:10〜0:40において高額となる電力料金スケジュール情報を取得した場合や、0:10〜0:40において大幅な電力削減量を要求された場合に、抑制指令算出部23が生成する電力抑制指示情報である。
【0035】
空調機選択部25が選択した空調機3Nは、この上限値の制約を受けて、電力抑制モードで運転する。図3の例の場合、電力の上限値は、0:00〜0:10では18kW、続いて0:00〜0:40では8kw、0:40以降では18kWとなっている。なお、電力抑制指示情報の算出方法の一例については、特許文献1に開示がある。例えば、DRASクライアント2は、抑制指令算出部23が算出した電力抑制指示情報が示す条件下での30分後までの空調機3Nの運転状態の予測、その予測結果(消費電力、快適性)に対する評価というシミュレーションを繰り返すことで、適切な電力抑制指示情報を算出してもよい。より簡単には、例えば、100台の空調機3Nで500kwの節電をしたい場合、抑制指令算出部23は、1台あたり、現状よりも5kwの電力抑制を指示するような電力抑制指示情報を算出してもよい。
【0036】
図4は、電力抑制モード解除後の運転の一例を示す第1の図である。
図4は、ある1台の空調機に対して図3で例示した電力抑制指示情報を適用して運転したときの様子を示している。
図4左図に1台の空調機を電力抑制モードで運転したときの電力抑制値と消費電力の推移を、右図にそのときの室温の推移を示す。
図4左図において、破線のグラフが電力抑制指示情報を示し、実線のグラフが実際の消費電力を示す。10〜40minの間は、電力抑制が課され、空調機3Nは電力抑制モードで動作し、それ以外の時間帯は、電力抑制の上限値が十分に高く、空調機3Nは、実際上、制約を受けずに通常モードで運転している状態であるとする。また、電力抑制モードで動作する前の時間では、室温は設定温度を達成しており、空調機3Nは安定運転状態であるとする。図4右図において、破線のグラフが設定温度(目標温度)を示し、実線のグラフが実際の室温を示す。なお、これらの事項は、以下で説明する図5図7においても同様であるとする。
【0037】
図4左図を参照すると、空調機3Nは、電力抑制指示情報で規定された電力以下で運転する。従って、消費電力の目標値の達成は可能である。しかし、10〜40minの室温を見ると(右図)、実際の室温が設定温度から徐々に乖離している。この間、利用者の快適性は損なわれる。また、40minの電力抑制モードの解除後は、室温と設定温度の差を小さくするために空調機3Nの負荷が上昇し、60min頃には、室温が設定温度を達成している。しかし、室温を設定温度に近づけるまでの間、消費電力は増加し、場合によっては、電力抑制モードによって節電した分の電力を消費してしまうようなことも起こりうる。
【0038】
次に図5を参照する。図5は、電力抑制モード解除後の運転の一例を示す第2の図である。図4に示すような電力抑制モード時の室温と設定温度の乖離、電力抑制モード解除後の急激な消費電力の増大を防ぐために、複数の空調機3Nで電力抑制を分担することを考える。図5左図に3台の空調機が交代で電力抑制モード運転を行った場合の各々の空調機3Nが消費する電力の推移(上から3個の図)を、左最下図に3台の空調機3Nによる消費電力の合計を示す。図5右図に、3台の空調機3Nの各々が制御する部屋の室温の推移と設定温度を示す。なお、左最下図の破線グラフは、目標とする消費電力、実線グラフは実際の消費電力(3台の合計)を示す。
【0039】
図5の左図及び右図を参照すると、図4の場合と比較し、1台ずつの空調機が電力抑制モードで運転する間の電力の上限値は図4の場合と同様であるが、電力抑制モードで運転する時間が短い(それぞれ10〜20、20〜30、30〜40min)。そのため、室温と設定温度の乖離が図4の場合と比べ小さく、また、乖離している時間も短い。その為、電力抑制モード解除後の消費電力の上昇も、比較的小さく抑えられている。しかし、左最下図を参照すると、各空調機3Nにて電力抑制モードが解除された直後の3台の空調機の消費電力の合計は、破線で示される目標値(例えば、0〜10minの安定運転時における各空調機3Nの消費電力の合計)を上回っている。このように、電力抑制モードで運転するよう制御しても、電力抑制モードの解除後に必ずリバウンドが発生し、電力抑制前よりも消費電力が増大してしまう可能性がある。
【0040】
このような問題に対し、本実施形態では、(A)電力抑制モード解除後のリバウンドの発生を抑制し、また、(B)電力抑制モード中であっても室温を犠牲にせずに消費電力の目標値が達成できるような制御を提供する。
【0041】
図6は、本発明の一実施形態における電力抑制運転を説明する第1の図である。
まず、図6を用いて、上記(A)に対するリバウンド抑制制御を説明する。
図6左図の上から順に3台の空調機が電力抑制モードで順に運転した場合の各々の空調機が消費する電力の推移を、左最下図に3台の消費電力の合計の推移を示す。図6の右図の上から順に、3台の空調機の各々が制御する空間の室温の推移を示す。
図5の制御との違いを説明する。まず、図6左図(上から3つ)を参照する。図6の制御の場合、電力抑制モードの解除後に、電力の上限値(破線グラフ)が電力抑制モード開始前の実際の消費電力Piniと同等の値に制限されている。図4図5で説明したように、電力抑制モード解除後の電力の上限値を、電力抑制モード開始前と同様の上限値まで上昇させると(通常モード)、リバウンドが発生し得る。そこで、本実施形態では、電力抑制モード開始前に空調機3Nが実際に消費していた電力Piniを記憶しておき、電力抑制モード解除後に、電力Piniを使用可能な電力の上限値に設定する。DRASクライアント2から指示される電力抑制指示情報と異なり、電力Piniによる制約は、コントローラ50N自身(制御部53N)が行う。すると、空調機3Nは、電力Pini以内の電力で運転する。この運転状態を、リバウンド抑制モードと呼ぶ。上記(A)について、リバウンド抑制モードで運転することで、電力抑制モード解除後のリバウンドの発生を抑制することができる。空調機3Nは、例えば、室温が設定温度に整定するまでリバウンド抑制モードの運転を継続する。そして、室温が設定温度に回復すると、リバウンド抑制モードを解除する。リバウンド抑制モードを解除する場合、使用可能な電力の上限値を、図示するように所定の変化率で上昇させてもよいし、即時に電力抑制モード前の上限値に上昇させてもよい。なお、電力Piniは、電力抑制モード開始前の実際の消費電力そのものでなくても、当該消費電力を基準とする所定範囲内の値、例えば、実際の消費電力よりも少し高い値(例えば+1kw)に設定してもよい。
【0042】
図5図6で説明した制御のような、電力抑制モードで運転する時間を固定して、各空調機3Nに交代で電力抑制モードを適用する制御は、上記(B)の快適性の観点からは課題が残る。例えば、短時間であっても設定温度からの乖離が許されない部屋が存在する場合、電力抑制モードを適用する時間を短くしたとしても快適性の観点からは目標を達成できない可能性がある。快適性を優先する空調機3Nと、多少、室温が設定温度から乖離しても問題ない非優先空調機3Nとを、DRASクライアント2側で設定し、快適性を優先する空調機3Nは、電力抑制モードを適用しないようにすることも原理的には可能だが、1000台規模の空調機3Nの設定を管理すると、初期設定や優先度の変更の為の管理コストが高くなる。また、各空調機3Nの運転状態は、時々刻々と変化するところ、たとえ短時間であっても、一律に固定した時間(図5,6の例では10分間)ずつ電力抑制モードを適用すると快適性に影響する。
【0043】
そこで、本実施形態では、制御対象となる全ての空調機3Nの中から一部(空調機3Nselと記載する。)を選択して、それらに電力抑制モードを適用することとし、電力抑制モード解除の判断は、空調機3Nselの各々に任せることとする。例えば、温度管理の要求が厳しい空調機3Nselでは、室温が設定温度から少しでも乖離すると、自主的に電力抑制モードを解除し、リバウンド抑制モードへ移行する。また、快適性の優先度が低い部屋では、比較的長時間、電力抑制モードで運転した後、電力抑制モードを解除する。このように電力抑制モード解除の判断を空調機3Nsel側で行うことにより、各部屋に要求される快適性を維持したまま電力を抑制する運転が可能である。また、DRASクライアント2側で、1000台規模の空調機3Nの設定を管理する必要が無い。
【0044】
また、消費電力の目標値を達成するため、1台の空調機3Nselが電力抑制モードを解除すると、電力抑制モードが適用されていない空調機3N(空調機3Nunselと記載する。)の中から新たな空調機3Nselが電力抑制モードでの運転を開始する。このように、電力抑制モードで運転する空調機3Nselを順次交替し、空調機3Nselの全体で必要な電力の削減量を達成し、全ての空調機3Nの全体で電力の目標値を達成する。
【0045】
一方、DRASクライアント2は、空調機3N全体での消費電力の合計を監視する。そして、消費電力の合計が目標値を上回る場合、空調機3Nunselの中から新たな空調機3Nを選択し、電力抑制指示情報を送信する。新たに選択された空調機3Nselは、電力抑制モードで運転するため、空調機3N全体での消費電力の合計は、目標値に維持される。図7に上記の制御を行った結果の一例を示す。
【0046】
図7は、本発明の一実施形態における電力抑制運転を説明する第2の図である。
図7左図に電力抑制モードで運転する各々の空調機3Nselが消費する電力の推移を示し、左最下図には空調機3N全体の消費電力と目標値を示す。右図に、空調機Nselの各々が制御する空間の室温の推移と設定温度を示す。図中δTOPTは、各空調機3Nにて設定された電力抑制モードの解除条件を示す。例えば、図7の1番上の空調機3Nは、室温が設定温度と0.5℃乖離すると、電力抑制モードを解除するよう設定されている。2番目の空調機3Nは、室温が設定温度と2.0℃乖離すると、電力抑制モードを解除するよう設定されている。他にも図示しない空調機3Nselが10〜40minの何れかで電力抑制モードで運転している。例えば、一番上のグラフに示す空調機3Nselが、18minあたりに電力抑制モードを解除すると、交代で図示しない他の空調機3Nselが電力抑制モードでの運転を開始する。このようにして10〜40minまで電力抑制モードでの運転を行った結果、全空調機3Nの消費電力の合計は、目標値と比較して左最下図のような結果となる。図6の例と比較すると、破線グラフで示す目標値に近い値で制御されている。また、図7右図を参照すると、電力抑制モードの解除条件(δTOPT)の設定により、各部屋の要求に合わせた温度管理が可能になっている。
【0047】
次に本実施形態の電力抑制制御の処理の流れについて図8図9を用いて説明する。まず、DRASクライアント2の処理について説明する。
図8は、本発明の一実施形態における電力抑制制御の一例を示す第1のフローチャートである。
まず、目標電力決定部22が、所定時間先までの消費電力の目標値を決定する(ステップS11)。目標電力決定部22は、全ての空調機3Nが、通常モードで運転した場合の電力(例えば、現在の消費電力の合計)を基準として、所定の方法を用いてDRASサーバ1から取得した電力料金単価に応じた電力削減量を算出し、基準電力から電力削減量を減算して30分先までの5分ごとの消費電力の目標値を決定する。あるいは、目標電力決定部22は、DRASサーバ1から取得した電力削減量を基準電力から減算して消費電力の目標値を決定する。
【0048】
次に空調機選択部25が、電力抑制モードで運転する空調機3Nの初期台数を決定し、決定した初期台数分の空調機3Nを選択する(ステップS12)。例えば、電力抑制モード運転による室温への影響を考慮し、1台あたりの電力制約を5kwと定めておく。空調機選択部25は、運転情報取得部21が取得した消費電力の合計と目標電力の差を5kwで除算して、初期台数(例えば、100台)を算出する。続いて、空調機選択部25は、1000台の空調機3Nの中から所定の方法で100台を選択する。例えば、空調機選択部25は、予め定められた電力抑制モードを適用する順に100台を選択する。あるいは、空調機選択部25は、消費電力が大きいものから順に100台を選択してもよいし、全くランダムに空調機3Nの選択を行ってもよい。
【0049】
次に抑制指令算出部23は、電力抑制指示情報を生成する。例えば、抑制指令算出部23は、空調機選択部25が選択した100台の空調機3Nselの現在の消費電力(運転情報取得部21が取得した最新の消費電力)から5kwを減算した値を上限とし、その値を、少なくとも所定の時間(例えば、5分間)だけ維持することを要求する電力抑制指示情報を生成する。次に指令部26は、通信部27を介して、抑制指令算出部23が算出した電力抑制指示情報を、それぞれの空調機3Nselへ送信する(ステップS13)。
【0050】
次に電力監視部24は、電力抑制指示情報を送信してからその効果が表れるまでに必要な時間を待機し、その後、全ての空調機3Nによって消費される電力の合計を監視する(ステップS14)。具体的には、電力監視部24は、運転情報取得部21が取得した消費電力を合計して、目標電力決定部22が決定した電力の目標値と比較する。消費電力の合計が目標値以下の場合(ステップS15;Yes)、引き続き、ステップS14の監視を行う。
【0051】
消費電力の合計が目標値を上回る場合(ステップS15;No)、電力抑制モードで運転する空調機3Nの台数が少ないと考えられるため、電力監視部24は、現在の消費電力の合計と目標値との差とともに、空調機の追加を空調機選択部25へ指示する。空調機選択部25は、現在の消費電力の合計と目標値との差を5kwで除算して追加する台数を算出する。空調機選択部25は、例えば、ステップS12と同様の方法で、追加する空調機3Nを選択する。抑制指令算出部23は、空調機選択部25が選択した新たな空調機3Nへ適用する電力抑制指示情報を算出する。指令部26は、通信部27を介して、電力抑制指示情報を、新たに選択された空調機3Nselへ送信する(ステップS16)。
DRASクライアント2は、電力抑制制御の実行中、上記の処理を繰り返す。
【0052】
次に空調機3N側の処理について説明する。空調機3N側では、コントローラ50Nが、電力抑制制御を行う。
図9は、本発明の一実施形態における電力抑制制御の一例を示す第2のフローチャートである。
前提として、制御部53Nは、通常モードで運転しているとする。また、また、通信部54Nは、所定の時間間隔で、空調機3Nが備える各室内機3Nx(x:0~n)から設定温度と室温を取得する。
まず、抑制指令取得部51Nが、DRASクライアント2が送信した電力抑制指示情報を取得する(ステップS21)。すると、運転モード決定部52Nが、電力抑制モードへの移行を決定する。まず、運転モード決定部52Nは、空調機3Nによる最新の消費電力Piniを記憶部55Nへ記録する(ステップS22)。記憶部55Nへ記録された消費電力Piniは、電力抑制モード解除後のリバウンド抑制モードで使用する。次に、制御部53Nは、電力抑制モードでの運転を開始する(ステップS23)。制御部53Nは、室外機30Nの圧縮機の回転数を低下させ、空調機3Nの消費電力が、電力抑制指示情報に規定された電力の上限値(例えばPini−5kw)以下となるように運転する。
【0053】
運転モード決定部52Nは、電力抑制モードを解除するか否かの判定タイミングが到来したかどうかを判定する(ステップS24)。例えば、運転モード決定部52Nは、電力抑制モードでの運転を開始してから5分が経過するごとに判定タイミングが到来したと判定する。判定タイミングが到来していない場合(ステップS24;No)、運転モード決定部52Nは、判定タイミングの到来まで待機する。この間、制御部53Nは、電力抑制モードでの運転を継続する。
【0054】
判定タイミングが到来した場合(ステップS24;Yes)、運転モード決定部52Nは、電力抑制モードでの運転を終了するかどうかを判定する(ステップS25)。例えば、運転モード決定部52Nは、各室内機3Nxの設定温度と現在の室温の差を算出して、両者の乖離が所定の終了条件で規定された範囲内かどうかを判定する。所定の終了条件とは、例えば、図7で例示したδTOPTである。そして、例えば、各室内機3Nxにおける設定温度と室温との差の平均がδTOPTの範囲内であれば、運転モード決定部52Nは、電力抑制モード運転を継続すると判定し、差の平均がδTOPTの範囲を超えていれば電力抑制モード運転を終了すると判定する。あるいは、δTOPTの値を室内機3Nxごとに設定しておき、優先度の高い部屋の空調を行う室内機3NxのδTOPTには小さな値を設定しておく。そして、全部屋において設定温度と室温との差がδTOPTの範囲内であれば、運転モード決定部52Nは、電力抑制モード運転を継続すると判定し、1つでも設定温度と室温との差がδTOPTの範囲を超えていれば、電力抑制モード運転を終了すると判定する。電力抑制モード運転を継続すると判定した場合(ステップS25;No)、運転モード決定部52Nは、次の判定タイミングの到来まで待機する。
【0055】
電力抑制モード運転を終了すると判定した場合(ステップS25;Yes)、運転モード決定部52Nは、リバウンド抑制モードでの運転を決定する。制御部53Nは、リバウンド抑制モードでの運転を開始する(ステップS26)。具体的には、制御部53Nは、記憶部55Nに記録された電力Piniを参照し、空調機3Nの消費電力が電力Piniを超えないよう運転を行う。上記のとおり、空調機3Nの電力の大部分は、室外機30Nの圧縮機で使用される。制御部53Nは、圧縮機の回転数が上昇しないように抑制することで消費電力が電力Pini以内となるよう制御する。
【0056】
また、運転モード決定部52Nは、電力抑制モードへの遷移を禁止する「電力抑制モード不可状態」を設定する(ステップS27)。「電力抑制モード不可状態」を設定すると、仮にDRASクライアント2から電力抑制指示情報を取得したとしても、運転モード決定部52Nは、電力抑制モードでの運転を行わない。
【0057】
次に運転モード決定部52Nは、リバウンド抑制モードでの運転を終了するかどうかを判定する(ステップS28)。例えば、運転モード決定部52Nは、各室内機3Nxの設定温度と現在の室温とを比較して、両者の乖離が、所定の範囲内(例えば、同一とみなせる所定の範囲内)かどうかを判定する。そして、例えば、全ての部屋について、設定温度と室温との差が所定の範囲内であれば、運転モード決定部52Nは、室温が設定温度に回復したと判断し、リバウンド抑制モードを終了すると判定する。リバウンド抑制モードでの運転を終了しない場合(ステップS28;No)、運転モード決定部52Nは、室温の監視を行って室温が設定温度まで回復するまで待機する。制御部53Nは、リバウンド抑制モードでの運転を継続する。
【0058】
リバウンド抑制モードでの運転を終了する場合(ステップS28;Yes)、運転モード決定部52Nは、リバウンド抑制モードを解除し、通常モードでの運転を決定する。また、運転モード決定部52Nは、電力抑制モード不可状態を解除する(ステップS29)。例えば、制御部53Nは、即座に電力Piniによる制約を解除して空調機3Nの運転を行う。あるいは、電力Piniを基準として、所定の増加率で使用可能な電力の上限値を上昇させ、上限値が一定値となると上限値の設定を解除してもよい。なお、室温が設定温度まで回復しているので、使用可能電力の上限値を解除しても急激な消費電力の増加は生じないと考えられる。また、電力抑制モード不可状態の解除により、電力抑制モードでの運転が可能な状態となる。電力抑制指示情報を取得した場合、コントローラ50Nは、ステップS21からの処理を繰り返す。なお、リバウンド抑制モードの解除と、電力抑制モード不可状態の解除は異なるタイミングで行ってもよい。例えば、電力抑制モード不可状態の解除は、リバウンド抑制モードの解除後、所定時間が経過してから解除してもよい。あるいは、同じ空調機3Nに電力抑制モード運転が集中することを避けるために、電力抑制指令取得後の一定時間を電力抑制モード不可状態に設定してもよい。
【0059】
本実施形態の空調システム100によれば、複数の空調機の一部に対して電力抑制を分担して適用し、さらに電力抑制を適用する空調機を動的に変化させる。これにより、ユーザの快適性を実現しつつ、消費電力を抑えた空調機の運転が可能になる。
具体的には、各空調機3Nに課す電力抑制の継続時聞を短時間に区切り、さらに空調機ごとに電力抑制モード運転を解除できるようにすることで、快適性が悪化することを防ぐことができる。また、電力抑制モードの解除後にリバウンド抑制モードで運転するが、比較的短時間前(電力抑制モード運転前)における実際の消費電力を上限値とするので、消費電力の急激な増加を抑制しつつも、室温を設定温度に回復させるために必要なある程度の電力を確保した運転が可能である。また、各空調機3Nに電力抑制モードの解除タイミングを任せることができるので、DRASクライアント2側で、各空調機3Nの設定を管理する必要が無い。
また、DRASクライアント2は、交代可能な空調機3Nを十分な台数用意し、消費電力の合計を監視し、目標の達成に必要な数の空調機3Nに電力抑制モードでの運転を指示すれば良く、各空調機3Nの運転状態を監視、管理する必要がない。
【0060】
なお、上記例では、電力抑制モードで運転する空調機3Nを交代する場合、DRASクライアント2が、新たな空調機3Nを選択することとしたが、1台の空調機3Nが電力抑制モード運転を解除した場合、自律的に他の1台の空調機3Nが電力抑制モードを引き継ぐように構成されていてもよい。例えば、予め電力抑制モードを適用する順番(例えば、空調機31,32,33の順)を定めておいて、空調機31が電力抑制モードを解除する場合、空調機31から次の順番の空調機32へ、電力抑制指示情報とともに電力抑制モードへの移行を指示する指令を送信する。空調機32では、コントローラ502が、電力抑制指示情報に規定された電力の上限値に基づいて、電力抑制モード運転を行う。空調機3N側で自律的に引き継ぎを行うよう制御することで、DRASクライアント2が、空調機3Nの交代を管理しなくても、一定の全体電力抑制量を一定時間継続することができる。
【0061】
従来のデマンドレスポンス対応では、室温維持の優先度の低い限られた空調機をあらかじめ選定しておき、要求される電力の削減量を、それらの空調機に分担して目標の削減量を達成しようとすることが多い。その結果、個々の空調機に課せられる電力の抑制量が大きく、電力抑制運転の時間も長くなりがちである。その為、優先度が低いとはいえ、長時間にわたり室温が設定温度から大きく乖離し、別途対策が必要になることがあった。
【0062】
これに対し、本実施形態の電力抑制制御では、利用者の快適さを損なわない程度の抑制幅、抑制時間で電力抑制を実現することができる。また、数百台〜数千台の空調機の一部に対して課した微小の電力抑制を集約することにより全体抑制量を達成するため、精密な電力制御が可能である。また、電力抑制時の抑制幅、抑制時間を小さくすることで電力消費のリバウンドを抑えることができる。
【0063】
また、少数台の空調機に対して電力抑制指令を発すると、空調機の圧縮機を制御するインバータへ指示する回転数の減速幅が大きくなり、その分、減速時聞も大きくなる。その結果、所望の抑制レベルに到達するまでの時聞が長くなり、高速な応答が得られない。一方、本実施形態のように小さい抑制幅の電力抑制指令を同時に大量台数に対して指示すると,インバータ回転数幅が小さいので、所望の抑制レベルへの到達時聞が大幅に短縮できる。高速かつ精密な電力抑制制御が可能なため、高速な電力系統需給調整サービス、例えば、OCCTO(電力広域的運用推進機関)の電力系統需給調整市場での商品仕様構想でいう1次調整カ、2次(LFC)調整力、2次(EDC-H)調整力といった高額なインセンティブが得られるDRサービスに対応させることも可能である。
【0064】
図10は、本発明の一実施形態におけるDRASクライアントおよび室外機コントローラのハードウェア構成の一例を示す図である。
コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備える。
上述のDRASクライアント2(制御装置)、コントローラ50Nは、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各機能は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。
【0065】
なお、DRASクライアント2、コントローラ50Nの全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各機能部による処理を行ってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、CD、DVD、USB等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。なお、DRASクライアント2、コントローラ50Nは、複数のコンピュータ900によって構成されていても良い。
【0066】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。また、この発明の技術範囲は上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0067】
100・・・空調システム
1・・・DRASサーバ
2・・・DRASクライアント
3、3a・・・ゲートウェイ
31、32、33、3m、31a、3N・・・空調機
4、4a・・・ビル
301、302、303、30m、301a、30N・・・室外機
311、31n、321、32n、331、33n、3m1、3mn、311a、31na・・・室内機
21・・・運転情報取得部
22・・・目標電力決定部
23・・・抑制指令算出部
24・・・電力監視部
25・・・空調機選択部
26・・・指令部
27・・・通信部
28・・・記憶部
50N・・・コントローラ
51N・・・抑制指令取得部
52N・・・運転モード決定部
53N・・・制御部
54N・・・通信部
55N・・・記憶部
【要約】
【課題】複数の空調機の一部に対して電力抑制を適用しつつ、電力抑制を適用する空調機を動的に変化させて、複数の空調機の全体で目標消費電力を達成する制御装置を提供する。
【解決手段】空調機の制御装置は、複数の空調機の全体が消費する電力の目標値に基づいて、複数の空調機の一部に適用する電力抑制指令を算出する算出部と、複数の空調機の全体が消費する電力の合計を監視する電力監視部と、電力の合計と目標値との差に基づいて、電力抑制指令を適用する空調機を動的に変化させつつ、一部の空調機へ電力抑制指令を指示する指令部と、を備える。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10