(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記酸性水溶液は、過マンガン酸カリウム、二クロム酸カリウムおよび酸化クロムからなる群より選ばれる1種以上と、硫酸とを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の残存コーティング層の検出方法。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンは効率向上を目的として運転温度が年々高くなってきている。このような高温化に対処するために、例えばガスタービン翼や燃焼器等の高温状態に曝されるガスタービン用部材の表面には、遮熱を目的としたコーティング層(TBC:Thermal Barrier Coating)が形成されている。
【0003】
このようなコーティング層は、ガスタービン用部材の母材上に形成された合金からなるアンダーコート層と、該アンダーコート層上に形成されたセラミックスからなるトップコート層とから構成されている。
【0004】
ここで、運転後のガスタービン用部材の補修の際には、該ガスタービン用部材の母材上に形成されたコーティング層を除去した後、改めて母材上にアンダーコート層およびトップコート層を形成することによりコーティング層を再形成する。
コーティング層を除去する方法として、例えば特許文献1には、塩酸等を含む強酸性洗浄液にガスタービン用部材を浸漬させる方法(酸洗処理)が開示されている。
【0005】
ところで、コーティング層のうち特にアンダーコート層は除去しにくく、アンダーコート層が残存しているとガスタービン用部材の補修に支障をきたす。そのため、コーティング層を除去した後にコーティング層の残存を確認し(残存コーティング層の検出)、コーティング層が残存していないと判断した場合は、母材上にコーティング層を再形成する。一方、コーティング層が残存していると判断した場合は、残存部分を研磨したり再度酸洗処理したりした後、コーティング層の残存を確認するという操作を、コーティング層が確認されなくなるまで繰り返す。
【0006】
コーティング層(特にアンダーコート層)の残存を確認する方法として、コーティング層を除去した後のガスタービン用部材を空気中、高温下で熱処理する方法(ヒートティント)が提案されている。
ガスタービン用部材を空気中で熱処理すると加熱着色により、コーティング層が残存していない部分(すなわち母材が露出している部分)は青色に着色し、コーティング層が残存している部分は黄色に着色する。よって、目視観察によりコーティング層の残存の有無を簡便に確認することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、通常、ヒートティントは大型の大気炉を使用するため、酸洗処理を行う場所とヒートティントを行う場所が異なることが多く、作業場所を移動する必要があった。また、ガスタービン用部材の大気炉内へのセッティングや、昇温および炉冷も必要であり、これらの作業に時間を要していた。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、簡便かつ短時間で母材に残存するコーティング層を検出できる残存コーティング層の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち、本発明に係る残存コーティング層の検出方法は、母材の表面にコーティング層が形成された、運転後のガスタービン用部材に酸洗処理を施して、前記コーティング層の少なくとも一部を母材から除去する酸洗工程と、酸洗処理後のガスタービン用部材に酸化剤を含む酸性水溶液を接触させ、酸洗処理後のガスタービン用部材の表面に酸化皮膜を形成する酸化皮膜形成工程と、前記酸化皮膜形成工程の後に、前記ガスタービン用部材の表面の前記酸化皮膜の色調差に基づいて、母材の表面に残存するコーティング層を検出する検出工程と、を含む。
【0011】
上記構成によれば、酸洗工程後に母材上にコーティング層が残存していたとしても、残存するコーティング層と母材とで組成が異なるため、酸化皮膜形成工程により各表面に形成される酸化皮膜の厚さが異なる。形成される酸化皮膜の厚さにより色調が異なることから、母材の表面に残存するコーティング層の有無を目視にて容易に検出できる。しかも、本発明の残存コーティング層の検出方法であれば、例えば酸洗工程を行う場所に、酸洗処理槽とは別の槽(酸化処理槽)を設置することで、酸洗工程の後に連続して酸化皮膜形成工程を実施することができ、母材の表面に残存するコーティング層を検出できる。よって、ヒートティントによる残存コーティング層の検出では必要とされていた作業場所の移動や手間(ガスタービン用部材の梱包、大気炉へのセッティング等)に関する作業を省略することができ、作業時間を大幅に短縮できる。
【0012】
また、前記コーティング層はアンダーコート層とトップコート層とを備え、前記アンダーコート層中のクロムの含有量が、前記母材中のクロムの含有量よりも多いことが好ましい。
特に、前記母材は、母材の総質量に対してクロムを8.2〜22.5質量%含み、前記アンダーコート層は、アンダーコート層の総質量に対してクロムを10〜30質量%含むことが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、コーティング層が残存している部分と残存していない部分(母材が露出している部分)とで、これらの表面に形成される酸化皮膜の厚さの差が大きくなるので、酸化皮膜の色調差がより明確となり、母材の表面に残存するコーティング層の有無を目視にてより容易に検出できる。
【0014】
また、前記酸性水溶液は、過マンガン酸カリウム、二クロム酸カリウムおよび酸化クロムからなる群より選ばれる1種以上と、硫酸とを含むことが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、酸化皮膜形成工程においてより短時間で容易に酸化皮膜を形成でき、かつ廃液処理が容易である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の残存コーティング層の検出方法によれば、簡便かつ短時間で母材に残存するコーティング層を検出できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る残存コーティング層の検出方法の一実施形態について、
図1および
図2を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明に係る残存コーティング層の検出方法の工程を説明するフロー図である。
図2は、ガスタービン用部材の一例を示す断面図である。
【0019】
本実施形態の残存コーティング層の検出方法は、例えばガスタービン翼(ガスタービン動翼、ガスタービン静翼)や燃焼器等のガスタービン用部材10の母材11の表面に形成されたコーティング層20(
図2参照)を除去した後、母材11上に残存するコーティング層20の有無を検出する方法である。
【0020】
上記ガスタービン用部材10は高温環境に曝されるため、その母材11の表面に遮熱を目的としたコーティング層(TBC)20が形成されている。
母材11としては、例えばNi基合金(ニッケル基合金)等の耐熱合金からなるものが挙げられる。
母材11は、母材11の総質量に対してクロムを8.2〜22.5質量%含むことが好ましく、13.2〜19.0質量%含むことがより好ましい。
【0021】
この例のコーティング層20は、ガスタービン用部材10の母材11上に形成された合金からなるアンダーコート層21と、該アンダーコート層21上に形成されたセラミックスからなるトップコート層22とから構成されている。
アンダーコート層21は、母材11からトップコート層22が剥離することを抑制する役割を果たす。
アンダーコート層21は、耐食性および耐酸化性に優れた金属結合層である。アンダーコート層21は、例えば、溶射材としてMCrAlY合金の金属溶射粉を母材11の表面に対して溶射して形成される。ここで、アンダーコート層21を構成するMCrAlY合金の「M」は、金属元素を示している。この金属元素「M」は、例えば、NiCo、Ni、Co等の単独の金属元素、または、これらのうち2種以上の組み合わせからなる。「Cr」はクロムであり、「Al」はアルミニウムであり、「Y」はイットリウムである。
アンダーコート層21は、アンダーコート層21の総質量に対してクロムを10〜30質量%含むことが好ましく、20〜22質量%含むことがより好ましい。
【0022】
アンダーコート層21中のクロムの含有量は、母材11中のクロムの含有量よりも多いことが好ましい。アンダーコート層21中のクロムの含有量が母材11中のクロムの含有量よりも多ければ、詳しくは後述するが、酸洗工程後に母材11上にコーティング層20が残存している場合、コーティング層20が残存している部分と残存していない部分(母材11が露出している部分)とで、これらの表面に形成される酸化皮膜の厚さの差が大きくなる。よって、酸化皮膜の色調差がより明確となり、母材11の表面に残存するコーティング層20の有無を目視にてより容易に検出できる。特に、アンダーコート層21および母材11中のクロムの含有量が上記範囲内であれば、酸化皮膜の厚さの差がより大きくなる。
【0023】
トップコート層22は、アンダーコート層21の表面に積層されている。トップコート層22は、例えば、セラミックを含む溶射材をアンダーコート層21の表面に溶射することで形成される。
トップコート層22を形成する際に用いられる溶射材としては、ジルコニア系セラミックを用いることができる。ジルコニア系セラミックとしては、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、および、酸化イッテルビウム(Yb
2O
3)で部分安定化させたジルコニア(ZrO
2)であるイッテルビア安定化ジルコニア(YbSZ)などが挙げられる。
【0024】
所定時間にわたってガスタービンの運転を行った後、ガスタービン用部材10を補修する際には、母材11からコーティング層20を除去した後、改めて母材11表面にコーティング層20を再形成する。本実施形態の残存コーティング層の検出方法は、このような補修の際にガスタービン用部材10の表面からコーティング層20を除去した後、母材11上に残存するコーティング層20の有無を確認するために用いられる。
【0025】
本実施形態の残存コーティング層の検出方法では、
図1に示すように、酸洗工程S2と、酸化皮膜形成工程S3と、検出工程S4とを含んでいる。また、酸洗工程S2に先立ち、コーティング層のうちのトップコート層を除去するトップコート層除去工程S1を含んでいてもよい。
【0026】
トップコート層除去工程S1は、トップコート層が形成されたガスタービン用部材にブラストを行い、トップコート層を除去する工程である。トップコート層除去工程S1は、投射材としての流体をガスタービン用部材の表面(トップコート層側の面)に衝突させることによって行われる。具体的には、投射材として砂や金属系の粉粒体やセラミック系の粉粒体を、圧縮空気によりガスタービン用部材の表面に向かって噴射する。トップコート層除去工程S1は、ガスタービン用部材の表面のトップコート層を除去し、アンダーコート層を露出させる。
【0027】
酸洗工程S2は、ガスタービン用部材に酸洗処理を施して、コーティング層の少なくとも一部を母材から除去する工程である。
酸洗処理は、例えば酸洗液に塩酸を添加し、この酸洗液にガスタービン用部材(トップコート層除去工程S1を実施する場合は、トップコート層が除去されたガスタービン用部材)を浸漬することで施される。
酸洗工程S2では、塩酸が添加された酸洗液にガスタービン用部材を接触させることで、アンダーコート層に含まれる金属間化合物を溶解させて、アンダーコート層の表層部を除去する。つまり、酸洗工程S2では、アンダーコート層と母材の表面との界面に形成される拡散層の近傍まで表層部を溶解する。
【0028】
酸化皮膜形成工程S3は、酸洗処理後のガスタービン用部材に酸化剤を含む酸性水溶液を接触させ、酸洗処理後のガスタービン用部材の表面に酸化皮膜を形成する工程である。
酸化剤としては、例えば過マンガン酸カリウム(KMnO
4)、二クロム酸カリウム(K
2Cr
2O
7)、酸化クロム(CrO
3)、ペルオキソ二硫酸カリウム(K
2S
2O
8)、硝酸セリウムアンモニウム、過酸化水素などが挙げられる。
酸化剤の濃度については特に制限されないが、酸性水溶液の総質量に対して0.01〜30質量%が好ましい。
【0029】
酸性水溶液は、酸によってpHが酸性になるように調整される。
酸としては、例えば硫酸、硝酸、リン酸、フッ化水素、塩酸、シュウ酸などが挙げられる。
酸の濃度については特に制限されないが、酸性水溶液の総質量に対して0.1〜25質量%が好ましい。
【0030】
酸性水溶液としては、過マンガン酸カリウム、二クロム酸カリウムおよび酸化クロムからなる群より選ばれる1種以上と、硫酸とを含むものが好ましい。過マンガン酸カリウム、二クロム酸カリウムおよび酸化クロムからなる群より選ばれる1種以上と、硫酸とを含む酸性水溶液を用いれば、より短時間で容易に酸化皮膜を形成でき、かつ廃液処理が容易である。
【0031】
酸性水溶液の25℃におけるpHは、3以下が好ましく、2以下がより好ましい。pHが3以下であれば、酸洗処理後のガスタービン用部材の表面に酸化皮膜が形成されやすく、かつ耐食性の違いによる酸化皮膜形成挙動の差が生まれやすくなる。
【0032】
酸化皮膜形成工程S3では、酸洗処理後のガスタービン用部材に酸性水溶液を接触させることで、酸洗処理後のガスタービン用部材の表面に酸化皮膜が形成される。
例えば、母材やアンダーコート層にクロムが含まれている場合、クロムは下記式(1)に示すように酸化剤により酸化されて酸化皮膜(酸化クロム)が形成される。一方、酸化剤として過マンガン酸カリウムを用いる場合、酸化剤は下記式(1)に示すように還元される。
2Cr+3H
2O→Cr
2O
3+6H
++6e
− ・・・(1)
MnO
4−+3e
−+4H
+→MnO
2+2H
2O ・・・(2)
【0033】
このとき、クロムの量が多いと酸化皮膜の耐食性が高まるため、酸化皮膜は酸に溶けにくくなる。その結果、酸化皮膜が厚く形成される。一方、クロムの量が少ないと酸化皮膜の耐食性が低いため、酸化皮膜は酸に溶けやすくなる。その結果、酸化皮膜は薄く形成される。
上述したように、母材とアンダーコート層の組成は異なるため(例えば、クロムの含有量が異なるため)、酸洗工程後に母材上にコーティング層(特にアンダーコート層)が残存している場合、コーティング層が残存している部分と残存していない部分(母材が露出している部分)とで、厚さの異なる酸化皮膜が形成される。通常、アンダーコート層は母材よりもクロムを多く含んでいるため、コーティング層が残存している部分は、コーティング層が残存していない部分よりも酸化皮膜が厚く形成される。
特に、母材やアンダーコート層中のクロム含有量が上記範囲内であれば、コーティング層が残存している部分と残存していない部分とで、これらの表面に形成される酸化皮膜の厚さの差がより大きくなる。
【0034】
酸洗処理後のガスタービン用部材に酸性水溶液を接触させる方法としては特に限定されないが、例えば酸性水溶液にガスタービン用部材を浸漬させる方法、ガスタービン用部材に酸性水溶液を吹き付ける方法、ガスタービン用部材に酸性水溶液を塗布する方法(カーテンコート、フローコート、ローラ塗装等)などが挙げられる。これらの中でも、ガスタービン用部材に酸性水溶液を均一かつ簡便に接触させることができる点で、酸性水溶液にガスタービン用部材を浸漬させる方法が好ましい。
【0035】
また、酸化皮膜の形成を促進させる点で、ガスタービン用部材に酸性水溶液を接触させた後、またはガスタービン用部材に酸性水溶液を接触させながら、ガスタービン用部材を加熱することが好ましく、酸性水溶液にガスタービン用部材を浸漬しながら加熱することがより好ましい。
【0036】
加熱温度は、母材やアンダーコート層の組成、酸性水溶液に含まれる酸化剤や酸の種類等によって適宜決定すればよい。
例えば、加熱温度は50〜90℃が好ましい。加熱温度が50℃以上であれば短時間で酸化皮膜を形成できる。加熱温度が高くなるほど反応速度が上昇するが、温度が高すぎると装置の劣化も早いため、加熱温度は実用上、90℃以下が好ましい。
【0037】
加熱時間は、加熱温度、酸性水溶液に含まれる酸化剤や酸の種類等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、10〜60分が好ましく、15〜50分がより好ましく、20〜40分がさらに好ましい。加熱時間が長くなりすぎると、形成された酸化皮膜が酸に溶けて、コーティング層が残存している部分に形成される酸化皮膜の厚さと、コーティング層が残存していない部分に形成される酸化皮膜の厚さとの差が小さくなるおそれがある。
【0038】
検出工程S4は、酸化皮膜形成工程S3の後に、ガスタービン用部材の表面に形成された酸化皮膜の色調差に基づいて、母材の表面に残存するコーティング層を検出する工程である。
酸化皮膜は、その厚さによって色調が異なる。通常、酸化皮膜が厚くなるほど、色調は濃くなる傾向にある。上述したように、酸洗工程後に母材上にコーティング層が残存している場合、コーティング層が残存している部分と残存していない部分とで厚さの異なる酸化皮膜が形成されることから、酸化皮膜の色調差に基づいて母材の表面に残存するコーティング層の有無を目視にて容易に検出できる。
【0039】
検出工程S4を行った結果、母材の表面にコーティング層が残存していないことが判明した場合には、母材の表面にコーティング層の再形成処理が行われる。
【0040】
一方、検出工程S4を行った結果、母材の表面にコーティング層が残存していることが判明した場合は、残存するコーティング層の除去を行う。
残存するコーティング層の除去方法としては、ブラスト処理が挙げられる。また、酸洗工程S2を再度行ってもよい。
ブラスト処理は、例えば、投射材としての流体をガスタービン用部材の表面に衝突させることによって行われる。具体的には、投射材として砂を用い、該砂を圧縮空気によりガスタービン用部材の表面に向かって噴射する(サンドブラスト)。これによって、ガスタービン用部材の表面に残存したコーティング層を剥離させることができる。
なお、ブラスト処理における投射材の種類としては、金属系の粉粒体やセラミック系の粉粒体等、適宜用いることができる。また、投射材として例えば研磨剤等を噴射するいわゆるウェットブラストを採用してもよい。
【0041】
以上説明した本実施形態の残存コーティング層の検出方法によれば、母材の表面に残存するコーティング層の有無を目視にて容易に検出できる。しかも、本発明の残存コーティング層の検出方法であれば、例えば酸洗工程を行う場所に、酸洗処理槽とは別の槽(酸化処理槽)を設置することで、酸洗工程の後に連続して酸化皮膜形成工程を実施することができ、母材の表面に残存するコーティング層を検出できる。よって、ヒートティントによる残存コーティング層の検出では必要とされていた作業場所の移動や手間(ガスタービン用部材の梱包、大気炉へのセッティング等)に関する作業を省略することができ、作業時間を大幅に短縮できる。
よって、本実施形態の残存コーティング層の検出方法によれば、簡便かつ短時間で母材に残存するコーティング層を検出できる。
【0042】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、酸化皮膜形成工程S3と検出工程S4との間に、中和洗浄処理、水洗処理、乾燥処理などを行ってもよい。
【0043】
中和洗浄処理は、酸化皮膜形成工程S3後のガスタービン用部材にアルカリ水溶液を接触させる工程である。これによって、ガスタービン用部材に残留する酸性水溶液を中和することができる。アルカリ水溶液としては、例えば炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)水溶液を用いることができる。
水洗処理は、酸化皮膜形成工程S3または中和洗浄処理後のガスタービン用部材を水で洗浄する工程である。これにより、酸性成分やアルカリ成分がガスタービン用部材に残留することを回避できるという効果が得られる。
乾燥処理は、酸化皮膜形成工程S3または中和洗浄処理または水洗処理後のガスタービン用部材を乾燥する工程である。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
「実施例1」
Ni基合金からなる母材の表面の半分に、MCrAlY合金の金属溶射粉を溶射してアンダーコート層を形成し、これを酸洗処理後のガスタービン用部材(試験片)とした。
試験片の表面(アンダーコート層が形成されている側の面)の写真を
図3(試験前)に示す。また、母材とアンダーコート層の組成を以下に示す。
【0046】
<母材の組成>
クロム:13.2質量%、炭素:0.08質量%、コバルト:10質量%、モリブデン:1.7質量%、タングステン:4.6質量%、タンタル:4.8質量%、チタン:2.4質量%、アルミニウム:4.0質量%、ホウ素:0.02質量%、ジルコニウム:0.025質量%、ニッケル:残部(合計で100質量%となる量)。
【0047】
<アンダーコート層の組成>
コバルト:38.5質量%、ニッケル:32質量%、クロム:21質量%、アルミニウム:8質量%、イットリウム:0.5質量%。
【0048】
過マンガン酸カリウム(KMnO
4)の濃度が3質量%、硫酸(H
2SO
4)の濃度が25質量%となるように、KMnO
4と、H
2SO
4と、水とを混合し、酸性水溶液を調製した。
得られた酸性水溶液に試験片を浸漬させながら90℃で加熱した(酸化皮膜形成工程)。
加熱開始から10分、30分、60分経過毎に試験片を酸性水溶液から取り出し、炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)水溶液による中和洗浄処理と水洗処理とを順次行った後、50℃で60分乾燥した。
乾燥後の試験片の表面(アンダーコート層が形成されている側の面)を目視にて観察した。結果を
図3(10分後、30分後、60分後)に示す。
【0049】
図3から明らかなように、母材の表面にアンダーコート層が形成されている部分(アンダーコート層有り)とアンダーコート層が形成されていない部分(母材のみ)の色調に差が認められた。この色調差は、実施例1の場合、加熱時間30分のときに顕著に表れた。
【0050】
「実施例2」
KMnO
4の濃度が1質量%である酸性水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして酸化皮膜形成工程を行い、時間毎に試験片の表面を目視にて確認した。結果を
図4に示す。
【0051】
図4から明らかなように、母材の表面にアンダーコート層が形成されている部分(アンダーコート層有り)とアンダーコート層が形成されていない部分(母材のみ)の色調に差が認められた。この色調差は、実施例2の場合、加熱時間30分のときに顕著に表れた。
【0052】
「実施例3」
母材の表面の全体にアンダーコート層を形成した以外は、実施例1と同様にして試験片を作製した。
水1Lに、硫酸(H
2SO
4)250gと、酸化クロム(VI)130gとを添加し、充分に攪拌して酸性水溶液を調製した。
得られた試験片および酸性水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして酸化皮膜形成工程を行い、時間毎に試験片の表面を目視にて確認した。結果を
図5に示す。
【0053】
図5から明らかなように、実施例3の場合、加熱時間30分以上で、試験片の変色が確認できた。