特許第6587247号(P6587247)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6587247
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】作業機械の制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/20 20060101AFI20191001BHJP
   F15B 11/00 20060101ALI20191001BHJP
   G05B 13/02 20060101ALI20191001BHJP
【FI】
   E02F9/20 M
   E02F9/20 N
   F15B11/00 F
   G05B13/02 N
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-95797(P2015-95797)
(22)【出願日】2015年5月8日
(65)【公開番号】特開2016-211227(P2016-211227A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2018年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】505236469
【氏名又は名称】キャタピラー エス エー アール エル
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 襄
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】畑 嘉彦
【審査官】 亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−140806(JP,A)
【文献】 特開2012−017677(JP,A)
【文献】 特開平07−121374(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/072858(WO,A1)
【文献】 特開平10−018355(JP,A)
【文献】 特開平05−280067(JP,A)
【文献】 特開2000−129727(JP,A)
【文献】 特開平08−200139(JP,A)
【文献】 特開平10−196606(JP,A)
【文献】 米国特許第05784945(US,A)
【文献】 米国特許第06275757(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20−9/22
E02F 3/42−3/43
G05B 13/02
F15B 11/00
F15B 11/02
F15B 11/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械を動作させる流体圧アクチュエータおよび流体圧アクチュエータの動作用の作動流体を吐出するポンプを含む流体圧システム、および、ポンプを駆動するエンジンを備える作業機械の制御装置であって、
流体圧アクチュエータを操作する操作手段の操作量により、流体圧アクチュエータの動作量および動作方向を、ファジィ推論を用いて推定する推定手段と、
この推定手段により推定した流体圧アクチュエータの動作量および動作方向に応じてエンジンの回転数を設定する設定信号を、ファジィ推論を用いて設定する設定手段と
を具備したことを特徴とする作業機械の制御装置。
【請求項2】
推定手段は、操作手段の操作量の所定期間内での最大値の平均値と予め設定された流体圧アクチュエータに対する速度の要求度合いを示すメンバシップ関数とにより、流体圧アクチュエータの動作量および動作方向を推定する
ことを特徴とする請求項1記載の作業機械の制御装置。
【請求項3】
流体圧アクチュエータおよび操作手段は、それぞれ複数設けられ、
各操作手段の操作量に対して重み付けをする重み付け手段を具備し、
推定手段は、重み付け手段により重み付けされた操作手段の操作量の所定期間内での最大値の平均値と予め設定された流体圧アクチュエータに対する速度の要求度合いを示すメンバシップ関数とにより、流体圧アクチュエータの動作量および動作方向を推定する
ことを特徴とする請求項2記載の作業機械の制御装置。
【請求項4】
作業機械を動作させる流体圧アクチュエータおよび流体圧アクチュエータの動作用の作動流体を吐出するポンプを含む流体圧システム、および、ポンプを駆動するエンジンを備える作業機械の制御方法であって、
流体圧アクチュエータを操作する操作手段の操作量により、流体圧アクチュエータの動作量および動作方向を、ファジィ推論を用いて推定し、
この推定した流体圧アクチュエータの動作量および動作方向に応じてエンジンの回転数を設定する設定信号を、ファジィ推論を用いて設定する
ことを特徴とする作業機械の制御方法。
【請求項5】
操作手段の操作量の所定期間内での最大値の平均値と予め設定された流体圧アクチュエータに対する速度の要求度合いを示すメンバシップ関数とにより、流体圧アクチュエータの動作量および動作方向を推定する
ことを特徴とする請求項4記載の作業機械の制御方法。
【請求項6】
複数の流体圧アクチュエータをそれぞれ操作する複数の操作手段の操作量に対して重み付けし、
重み付けされた操作手段の操作量の所定期間内での最大値の平均値と予め設定された流体圧アクチュエータに対する速度の要求度合いを示すメンバシップ関数とにより、流体圧アクチュエータの動作量および動作方向を推定する
ことを特徴とする請求項5記載の作業機械の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械を動作させる流体圧アクチュエータおよび流体圧アクチュエータの動作用の作動流体を吐出するポンプを含む流体圧システム、および、ポンプを駆動するエンジンを備える作業機械の制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば油圧ショベルなどの作業機械は、エンジンにより駆動される油圧ポンプから吐出される作動油により油圧シリンダや油圧モータなどの油圧アクチュエータを動作させることで、作業装置による各種作業や下部走行体に対する上部旋回体の旋回などを行うようになっている。
【0003】
オペレータは、レベリング(地均し)やクレーン作業の際などにおいて、油圧システムの最大パワーや最大速度を必要としない場合がある。そのような場合、オペレータによるレバー操作量は少なく、油圧アクチュエータの速度も小さく、必要となる油圧システムのパワーも少ない一方で、例えばコントロール弁を介してタンクへとブリードオフする作動油の流量が多い、あるいは効率の低下によるポンプでのエネルギ損失が多いなど、油圧システムのエネルギ損失が大きくなる。そこで、オペレータのレバー操作による油圧アクチュエータの作業量に応じて、油圧システムを有効点で使用することが求められている。
【0004】
例えば、オペレータによるレバー操作量に基づき、ファジィ推論を用いて作業を判別する構成が知られている(例えば、特許文献1乃至5参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−18355号公報
【特許文献2】特開平10−60948号公報
【特許文献3】特開平10−266273号公報
【特許文献4】特開2000−204600号公報
【特許文献5】特開2001−140806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1乃至5に記載された各構成は、それぞれ作業の種類を判別したり、操作性を向上したりすることを目的としており、制御としても、ポンプ流量を制御したり、いわゆるエンジンのオートデセル制御の有効/無効を切り換えたりするに過ぎず、油圧システムの有効点で使用することを意図していない。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、流体圧システムのエネルギ損失を抑制した作業機械の制御装置および制御方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、作業機械を動作させる流体圧アクチュエータおよび流体圧アクチュエータの動作用の作動流体を吐出するポンプを含む流体圧システム、および、ポンプを駆動するエンジンを備える作業機械の制御装置であって、流体圧アクチュエータを操作する操作手段の操作量により、流体圧アクチュエータの動作量および動作方向を、ファジィ推論を用いて推定する推定手段と、この推定手段により推定した流体圧アクチュエータの動作量および動作方向に応じてエンジンの回転数を設定する設定信号を、ファジィ推論を用いて設定する設定手段とを具備した作業機械の制御装置である。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の作業機械の制御装置における推定手段が、操作手段の操作量の所定期間内での最大値の平均値と予め設定された流体圧アクチュエータに対する速度の要求度合いを示すメンバシップ関数とにより、流体圧アクチュエータの動作量および動作方向を推定するものである。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の作業機械の制御装置における流体圧アクチュエータおよび操作手段が、それぞれ複数設けられ、各操作手段の操作量に対して重み付けをする重み付け手段を具備し、推定手段が、重み付け手段により重み付けされた操作手段の操作量の所定期間内での最大値の平均値と予め設定された流体圧アクチュエータに対する速度の要求度合いを示すメンバシップ関数とにより、流体圧アクチュエータの動作量および動作方向を推定するものである。
【0011】
請求項4記載の発明は、作業機械を動作させる流体圧アクチュエータおよび流体圧アクチュエータの動作用の作動流体を吐出するポンプを含む流体圧システム、および、ポンプを駆動するエンジンを備える作業機械の制御方法であって、流体圧アクチュエータを操作する操作手段の操作量により、流体圧アクチュエータの動作量および動作方向を、ファジィ推論を用いて推定し、この推定した流体圧アクチュエータの動作量および動作方向に応じてエンジンの回転数を設定する設定信号を、ファジィ推論を用いて設定する作業機械の制御方法である。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の作業機械の制御方法において、操作手段の操作量の所定期間内での最大値の平均値と予め設定された流体圧アクチュエータに対する速度の要求度合いを示すメンバシップ関数とにより、流体圧アクチュエータの動作量および動作方向を推定するものである。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の作業機械の制御方法において、複数の流体圧アクチュエータをそれぞれ操作する複数の操作手段の操作量に対して重み付けし、重み付けされた操作手段の操作量の所定期間内での最大値の平均値と予め設定された流体圧アクチュエータに対する速度の要求度合いを示すメンバシップ関数とにより、流体圧アクチュエータの動作量および動作方向を推定するものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明によれば、流体圧アクチュエータを操作する操作手段の操作量により、流体圧アクチュエータの動作量および動作方向を、ファジィ推論を用いて推定手段で推定し、この推定した流体圧アクチュエータの動作量および動作方向に応じてエンジンの回転数を設定する設定信号を、ファジィ推論を用いて設定手段で設定するので、エンジン回転数を操作手段によるオペレータの操作意図に応じて最適化でき、流体圧システムのエネルギ損失を抑制できる。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、推定手段が、操作手段の操作量の所定期間内での最大値の平均値と予め設定された流体圧アクチュエータに対する速度の要求度合いを示すメンバシップ関数とにより流体圧アクチュエータの動作量および動作方向を推定することで、この推定の精度をより向上できる。
【0016】
請求項3記載の発明によれば、推定手段が、流体圧アクチュエータの動作量および動作方向の推定の際に、重み付けされた操作手段の操作量を用いることで、推定の精度をより向上できる。
【0017】
請求項4記載の発明によれば、流体圧アクチュエータを操作する操作手段の操作量により、流体圧アクチュエータの動作量および動作方向を、ファジィ推論を用いて推定し、この推定した流体圧アクチュエータの動作量および動作方向に応じてエンジンの回転数を設定する設定信号を、ファジィ推論を用いて設定するので、エンジン回転数を操作手段によるオペレータの操作意図に応じて最適化でき、流体圧システムのエネルギ損失を抑制できる。
【0018】
請求項5記載の発明によれば、操作手段の操作量の所定期間内での最大値の平均値と予め設定された流体圧アクチュエータに対する速度の要求度合いを示すメンバシップ関数とにより流体圧アクチュエータの動作量および動作方向を推定することで、この推定の精度をより向上できる。
【0019】
請求項6記載の発明によれば、流体圧アクチュエータの動作量および動作方向の推定の際に、重み付けされた操作手段の操作量を用いることで、推定の精度をより向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る作業機械の制御装置の一実施の形態を示す回路図である。
図2】同上制御装置の一部の内部構造を示すブロック図である。
図3】同上制御装置の重み付け手段を示す説明図である。
図4】同上制御装置の推定手段を示す説明図である。
図5】同上制御装置に用いるメンバシップ関数の例を示すグラフである。
図6】同上制御装置による制御方法のフローチャートである。
図7】同上制御装置を備えた作業機械の側面図である。
図8】(a)は同上制御装置の一実施例のスティックイン操作の操作量を示すグラフ、(b)はスティックアウト操作の操作量を示すグラフ、(c)は低度合いでの適合度の時間変化を示すグラフ、(d)は中度合いでの適合度の時間変化を示すグラフ、(e)は高度合いでの適合度の時間変化を示すグラフ、(f)は(c)乃至(e)に基いて求めた重心値の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を、図1乃至図8に示された一実施の形態に基いて詳細に説明する。
【0022】
図7は、油圧ショベル型の作業機械11を示し、この作業機械11は、油圧(流体圧)駆動式の機体12と、この機体12に搭載された油圧(流体圧)駆動式の作業装置13とを具備している。機体12は、下部走行体14に旋回軸受部15を介して上部旋回体16が旋回用油圧モータ16mにより旋回可能に設けられ、この上部旋回体16には、運転室を形成するキャブ17と、機械室18とが搭載され、この機械室18には、図1に示されたエンジン19と、このエンジン19により駆動される(第1および第2の)ポンプP1,P2とが搭載されている。
【0023】
作業装置13は、上部旋回体16に軸支されブームシリンダ21cにより回動されるブーム21と、このブーム21の先端部に軸連結されスティックシリンダ22cにより回動されるスティック22と、このスティック22の先端部に軸連結されバケットシリンダ23cにより回動される部材に取り付けられたバケット23とを備えている。
【0024】
ポンプP1,P2は、それぞれ斜板レギュレータなどの容量制御部φ1,φ2を備え、容量が可変される可変斜板式すなわち可変容量型のポンプである。これらポンプP1,P2は、エンジン19の出力軸19aに接続されており、このエンジン19により駆動される。そして、これらポンプP1,P2の出力通路27,28は、コントロール弁CVと接続されており、このコントロール弁CVを経て、流体圧アクチュエータである旋回モータとしての旋回用油圧モータ16m、流体圧アクチュエータである油圧シリンダとしてのブームシリンダ21c、流体圧アクチュエータである油圧シリンダとしてのスティックシリンダ22cおよび流体圧アクチュエータである油圧シリンダとしてのバケットシリンダ23cなどに作動流体としての作動油を供給するようになっている。本実施の形態では、例えばポンプP1がブームシリンダ21cおよびバケットシリンダ23cに作動油を供給し、ポンプP2が旋回用油圧モータ16mおよびスティックシリンダ22cに作動油を供給するように構成されている。
【0025】
コントロール弁CVは、運転室内に設けられた油圧式、あるいは電気式のレバーなどの操作手段(操作レバー)L1〜L4の操作量(すなわち、中立位置からの操作手段(操作レバー)の傾倒角度や変位の大きさ)に応じて変位制御される。このコントロール弁CVは、例えば単一のブロックの内部に摺動自在に設けられたスプールなどであり、各ポンプP1,P2から供給された作動油を方向制御および流量制御して、それぞれ旋回用油圧モータ16m、スティックシリンダ22c、ブームシリンダ21cおよびバケットシリンダ23cに供給する。さらに、このコントロール弁CVには、ポンプP1,P2から各スプールに形成される図示されないセンタバイパスラインを介してタンクTと接続され、センタバイパスラインから得られるネガティブフローコントロール圧(NFC圧)が、ポンプP1,P2の容量制御部φ1,φ2に例えば制御装置CTからフィードバックされている。このNFC圧は、コントロール弁CVのスプールが中立位置に位置しているときに最大となり、スプールの変位量が大きくなるほど低下し、ポンプP1,P2の容量制御部φ1,φ2が、NFC圧が高圧になるほどポンプ流量を少なくし、NFC圧が低圧になるほどポンプ流量を多くするように、ポンプP1,P2の吐出流量を制御するように構成されている(NFC方式)。なお、上記のブロックの内部には、例えば機体12の下部走行体14に設けられた流体圧アクチュエータとしての左右の走行用油圧モータ(図示せず)への作動油を方向制御および流量制御するスプールなども備えられており、それらのスプールに対応して運転室内に操作手段が設けられているが、図1には、上記の旋回用油圧モータ16mおよび各シリンダ21c〜23cに対する回路および操作手段L1〜L4のみを示し、他の回路および操作手段は省略する。また、本実施の形態では、NFCシステム用のコントロール弁CVについて説明するが、NFCシステムに限定されるものではなく、他のコントロール弁CVであっても対応して用いることができる。
【0026】
制御装置CTは、エンジン19の回転数を制御する回転数制御機能と、ポンプP1,P2の容量を制御することでポンプP1,P2からの作動油の吐出量を制御する吐出量制御機能とを備えている。具体的に、制御装置CTは、図示されない回転数センサによりエンジン19の回転数を検出しつつ、設定された定格回転数および差分回転数に基き、エンジン19内部の燃料噴射器の燃料噴射タイミングおよび噴射量などを制御する電気信号(電流など)である設定信号30を生成する。また、この制御装置CTは、図示されない圧力センサにより検出したNFC圧に応じた電気信号(電流など)をポンプP1,P2の容量制御部φ1,φ2に出力することで、これらポンプP1,P2の吐出流量を制御している。さらに、この制御装置CTは、上記操作手段L1〜L4の操作量に応じて、すなわちコントロール弁CVの少なくともいずれかのスプールの操作量、本実施の形態では各スプールのそれぞれの操作量に応じて上記制御信号などの電気信号(電流など)を生成する。
【0027】
具体的に、制御装置CTの回転数制御機能におけるエンジン19の回転数の設定について説明すると、この制御装置CTは、図2に示されるように、入力部31、環境設定部32、重み付け手段としての重み付け部33、推定手段としての推定部34、および、出力部35などを備え、推定部34および出力部35により、推定部34で推定した作業量に応じてエンジン19の回転数を設定する設定信号30を、ファジィ推論を用いて設定する設定手段の機能を有する設定部36が構成されている。そして、この制御装置CTは、操作手段L1〜L4の操作量に応じて、ファジィ推論を用いて作業機械11の作業量、すなわち旋回用油圧モータ16mおよびシリンダ21c〜23cによる作業量を推定するとともに、この推定した作業量に応じてエンジン19の回転数を設定する。
【0028】
入力部31には、出力通路27,28に設けられた圧力センサ37,38により検出したポンプP1,P2の吐出圧力41,42と、上部旋回体16を下部走行体14に対して左方向に旋回させる際の操作手段L1の操作量に対応して設定されるパイロット圧、あるいは電気信号などの旋回用油圧モータ16mの左旋回操作用操作量43および右旋回操作用操作量44と、操作手段L2によるブーム上げおよびブーム下げの操作量に対応して設定されるパイロット圧、あるいは電気信号などのブームシリンダ21cのブーム上げ操作用操作量45およびブーム下げ操作用操作量46と、操作手段L3によるスティックインおよびスティックアウトの操作量に対応して設定されるパイロット圧、あるいは電気信号などのスティックシリンダ22cのスティックイン操作用操作量47およびスティックアウト操作用操作量48と、操作手段L4によるバケットインおよびバケットアウトの操作量に対応して設定されるパイロット圧、あるいは電気信号などのバケットシリンダ23cのバケットイン操作用操作量49およびバケットアウト操作用操作量50と、操作手段L1〜L4が操作されたか否かを判定する判定用フラグ(ステータスフラグ)51とが入力される。そして、この入力部31に入力された値は、それぞれA/D変換処理され、重み付け部33や出力部35に出力される。
【0029】
環境設定部32は、推定部34により用いられる各数値を設定するもので、例えば操作手段L1〜L4の操作量に基づく作業機械11の作業量を検出する所定期間(例えば15秒)TP、操作手段L1〜L4の操作量をサンプリングするサンプリングレートSR、ファジィ推論の後件部の各ファジィルールに対応する重み係数Wl,Wm,Whなどを設定する。この環境設定部32に設定される数値は、図示されない記憶手段(メモリ)に記憶されており、書き換え可能とすることもできる。
【0030】
重み付け部33は、操作手段L1〜L4の操作量に対して重み付けをするもので、図3に示されるように、操作手段L1〜L4の操作量に対応して設定される各操作量43〜50に対して、それぞれ重み付け係数(ゲイン)53〜60を乗算した各値のうち最大の要素、すなわち最大操作量61を推定部34に出力するようになっている。これら重み付け係数53〜60は、操作手段L1〜L4により操作される旋回用油圧モータ16mおよび各シリンダ21c〜23cの各操作に対応して設定されている。本実施の形態では、各操作量43〜45,47,49に対応する重み付け係数53〜55,57,59がそれぞれ1、ブーム下げ操作用操作量46に対応する重み付け係数56が0、スティックアウト操作用操作量48およびバケットアウト操作用操作量50に対応する重み付け係数がそれぞれ1未満の所定値に設定されている。
【0031】
推定部34は、旋回用油圧モータ16mおよび各シリンダ21c〜23cを操作する操作手段L1〜L4の操作量に基き、作業機械11の作業量を、ファジィ推論を用いて推定して演算する、すなわちファジィ推論の演算部となるもので、図4に示されるように、重み付け部33から入力された最大操作量61に対してメンバシップ関数Fを導入するメンバシップ関数導入部62、環境設定部32から入力された各数値を用いてこのメンバシップ関数導入部62で導入されたメンバシップ関数Fを用い、所定期間TP内でのファジィルールの前件部に対する適合度(平均値)を計算する適合度計算部63〜65、および、これら適合度計算部63〜65により計算された適合度と環境設定部32から入力された各数値とを用いてファジィルールの後件部の重心値を計算することで脱ファジィ化を行う重心計算部66と、この重心計算部66により計算された重心値を増幅する増幅部67とを備えている。したがって、この推定部34は、メンバシップ関数導入部62が制御装置CTでのファジィ推論の前件部を演算する前件部演算部となっており、適合度計算部63〜65および重心計算部66が制御装置CTでのファジィ推論の後件部を演算する後件部演算部となっている。
【0032】
メンバシップ関数導入部62に用いるメンバシップ関数Fは、旋回用油圧モータ16mおよび各シリンダ21c〜23cに対する速度の要求度合いを定量的に示すものである。本実施の形態では、例えば図5に一例を示すように、速度の要求度合いが低い(以下、低度合いという)場合の適合度を表す関数Flと、速度の要求度合いが中程度(以下、中度合いという)の場合の適合度を表す関数Fmと、速度の要求度合いが高い(以下、高度合いという)場合の適合度を表す関数Fhとにより構成されている。
【0033】
適合度計算部63〜65は、メンバシップ関数導入部62で導入されたメンバシップ関数Fの低度合い、中度合いおよび高度合いのそれぞれについて、環境設定部32から入力された所定期間TP内でサンプリングレート毎に検出し、所定期間TPで除算することでそれぞれの適合度(所定期間TP毎の平均値)Gl,Gm,Ghを求める。
【0034】
重心計算部66は、例えば適合度計算部63〜65で計算した適合度Gl,Gm,Ghを用い、重心値Wを例えばW=(Wh・Gh+Wm・Gm+Wl・Gl)/(Gh+Gm+Gl)により計算する。本実施の形態では、(1)高度合いならエンジン19の回転数をそのままに維持する、(2)中度合いならエンジン19の回転数を下げる、(3)低度合いならエンジン19の回転数を大きく下げる、という3つのファジィルールが設定されている。したがって、本実施の形態では、推定部34でのファジィ推論により、エンジン19の回転数の低減量、すなわち差分回転数を計算するようになっている。重み係数Wh,Wm,Wlは、これら3つのファジィルールのそれぞれの後件部に対応して設定された値であり、本実施の形態では、それぞれ0以下で、かつ、Wh>Wm>Wlに設定されている。
【0035】
増幅部67は、重心値Wを所定の増幅度(例えば1)で増幅した出力値である差分回転数68を図2に示された出力部35へと出力する。
【0036】
そして、出力部35は、差分回転数68をそれぞれ処理して電気信号化した設定信号30を、判定用フラグ51により操作手段L1〜L4が操作されていると判定した場合にのみ出力するものである。そして、この出力部35から出力された設定信号30と、図示されないアクセルダイヤルなどの設定手段により予め設定された所定の定格回転数とに基き、エンジン19内部の燃料噴射器の燃料噴射タイミングおよび噴射量などが制御されることで、エンジン19の回転数が目標回転数((定格回転数)+(差分回転数))に制御される。
【0037】
次に、図6に示されたフローチャートを参照しながら、本実施の形態に係る制御方法を説明する。なお、図6中の丸数字は、ステップ番号を示す。
【0038】
(ステップ1)
まず、制御装置CTは、所定期間TP内の操作手段L1〜L4の操作量の最大値の平均値を算出する。このとき、推定部34では、重み付け部33で重み付けされて出力された、操作手段L1〜L4の操作量の最大値に対応する最大操作量61に対して所定期間TPでの平均値を適合度計算部63〜65により算出する。
【0039】
(ステップ2)
次いで、制御装置CTは、メンバシップ関数導入部62により導入されたメンバシップ関数Fを用い、ステップ1で求めた操作手段L1〜L4の操作量の平均値の各度合いに対する適合度Gl,Gm,Ghを推定部34の適合度計算部63〜65により決定する(ファジィ化)。なお、制御装置CTは、メンバシップ関数導入部62により導入されたメンバシップ関数Fを用い、操作手段L1〜L4の操作量の各度合いに対する適合度を算出した後、これら適合度の所定期間TPでの平均値を算出するようにしてもよい。
【0040】
(ステップ3)
さらに、制御装置CTは、ステップ2で求めた適合度Gl,Gm,Ghと環境設定部32により設定された重み係数Wl,Wm,Whとを用いて、設定部36(推定部34)の重心計算部66により重心値Wを数値化する(脱ファジィ化)。
【0041】
(ステップ4)
そして、制御装置CTは、ステップ3で数値化された重心値Wに対応する(比例する)値を出力部35により信号化して設定信号30とし、この設定信号30と、定格回転数に対応する値を信号化した信号とにより設定される目標回転数でエンジン19を動作させる。
【0042】
具体的に、例えばレベリング(地均し)作業において、スティックシリンダ22cのスティックイン操作用操作量47およびスティックアウト操作用操作量48が図8(a)および図8(b)に示されるように変動する場合を考える。このとき、これら操作量として、例えば図8(a)および図8(b)にパイロット圧で示されるように、0〜40秒まで−1.5MPa〜1.5MPaで変動し、40〜80秒まで−1.0MPa〜1.0MPaで変動し、80〜120秒まで−4.0MPa〜4.0MPaで変動した場合、所定期間TP(15秒間)での操作量の平均値の適合度Gl,Gm,Ghは、低度合い、中度合いおよび高度合いのそれぞれにおいて図8(c)乃至図8(e)に示されるように求められる。そして、これらの適合度Gl,Gm,Ghに対して、本実施の形態では、例えばWh=0、Wm=−100、Wl=−200と設定することで、図8(f)に示されるように、時間毎の重心値Wが求められる。そして、エンジン19は、この重心値Wに対応する(比例する)回転数を定格回転数に対して加算した目標回転数に制御される。
【0043】
このように、上記一実施の形態によれば、旋回用油圧モータ16mおよびシリンダ21c〜23cを操作する操作手段L1〜L4の操作量に基き、作業機械11の作業量を、ファジィ推論を用いて推定部34によって推定し、この推定した作業量に応じてエンジン19の回転数を設定する設定信号を、ファジィ推論を用いて設定部36によって設定するので、エンジン回転数を操作手段L1〜L4によるオペレータの操作意図に応じて最適化、すなわちエンジン19とポンプP1,P2との効率のよいところを使用できる。
【0044】
すなわち、操作手段L1〜L4の操作量が小さい場合、例えばスティックアウト操作など、操作によってはエンジン回転数が異なっていても旋回用油圧モータ16mおよびシリンダ21c〜23cの動作速度が殆ど同じである。このため、オペレータによる操作手段L1〜L4の操作量が少ない場合、基本的には旋回用油圧モータ16mおよびシリンダ21c〜23cの速度の要求度合いも小さく、必要となる油圧システムのパワーも少なくてよいが、タンクTへとブリードオフする作動油によるエネルギ損失の低減を意図してポンプP1,P2の流量を抑制すると、ポンプP1,P2自体の効率が低下し、エネルギ損失を抑制できない。これに対して、本実施の形態では、NFC方式を採用しているため、エンジン19の回転数を低減することで、操作手段L1〜L4の操作量が同じでも容量可変型のポンプP1,P2の斜板が自然と立ってくるので、ポンプP1,P2での効率が低下しにくい。
【0045】
この結果、ポンプP1,P2、旋回用油圧モータ16mおよびシリンダ21c〜23cを含む油圧システムのエネルギ損失を抑制できる。
【0046】
具体的に、推定部34が、操作手段L1〜L4の操作量の所定期間TP内での最大値の平均値と予め設定された旋回用油圧モータ16mおよびシリンダ21c〜23cに対する速度の要求度合いを示すメンバシップ関数Fとにより作業機械11の作業量を推定することで、この推定の精度をより向上できる。
【0047】
特に、推定部34での作業機械11の作業量の推定の際に、重み付けされた操作手段L1〜L4の操作量を用いることで、推定の精度をより向上できる。この結果、操作手段L1〜L4による旋回用油圧モータ16mおよびシリンダ21c〜23cの動作により即したエンジン回転数に制御でき、油圧システムのエネルギ損失をより確実に抑制できるとともに、操作手段L1〜L4の操作に対してエンジン回転数に急な変化が生じにくい。
【0048】
したがって、作業に適したエンジン回転数に制御でき、燃費を改善できる。
【0049】
なお、上記一実施の形態において、メンバシップ関数Fや重み係数Wl,Wm,Whなどは、それぞれ設定されたファジィルールに基いて任意に設定できる。
【0050】
また、旋回用油圧モータ16mおよび各シリンダ21c〜23cに対する速度の要求度合いは、3つ(低度合い、中度合い、高度合い)だけでなく、2つ、あるいは4つ以上の度合いを設定することもできる。
【0051】
さらに、油圧ショベル型の作業機械に好適であるが、機体から作業装置が突設された作業機械であれば、ホイールタイプの作業機械にも利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、流体圧アクチュエータおよびポンプを含む流体圧システムを搭載した作業機械の製造業、販売業などに携わる事業者にとって産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0053】
CT 制御装置
F メンバシップ関数
L1〜L4 操作手段
P1,P2 ポンプ
11 作業機械
16m 流体圧アクチュエータである旋回用油圧モータ
19 エンジン
21c 流体圧アクチュエータであるブームシリンダ
22c 流体圧アクチュエータであるスティックシリンダ
23c 流体圧アクチュエータであるバケットシリンダ
33 重み付け手段としての重み付け部
34 推定手段としての推定部
36 設定手段の機能を有する設定部
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8