(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
マグネシウムを含むマグネシウム薄板と、液体を含浸可能であって、かつイオンを透過する素材により形成されるセパレータと、負極端子と、で構成されるマグネシウム燃料体と、
前記マグネシウム燃料体を両側から挟みこむように配置される、正極端子を備えるカソードと、
電解液と
内部に前記電解液を保持する空間を有する電解液貯留部と、
を備える、
マグネシウム空気電池を複数備え、
それぞれの前記マグネシウム空気電池が、
前記マグネシウム燃料体が下方に可動して前記電解液貯留部に貯留された前記電解液を含浸したのち、前記マグネシウム空気電池全体が下方に可動する2段階の可動構造、を有することにより、垂直に接続した前記マグネシウム空気電池全体を次々に反応を開始させる、
マグネシウム空気電池。
さらに、前記セパレータが、前記カソードと前記マグネシウム燃料体との電池反応部分より上に突出した形状を有し、前記トレイが備える穴と当該形状部分が近接して配置される、ことを特徴とする、請求項5に記載のマグネシウム空気電池。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらのマグネシウム空気電池は、新しい燃料に入れ替えることにより次々に給電が可能だが、電気自動車への搭載や非常用電源としての使用を考えると、さらに長時間の安定した給電が必要である。また、長時間の給電においては電解質の給水が重要である。特許文献1,2のマグネシウム空気電池は、電解液で湿らせた燃料を用いており、電解液が蒸発して安定した電池反応が行なわれなくなるという課題がある。さらに、燃料供給機構がより簡単で、かつ動力源を必要としないことが望ましい。
【0006】
すなわち長時間給電可能なマグネシウム空気電池を構成するためには、電解質への長時間にわたる給水が可能であって、独立して長時間給電可能な新たな機構が必要である。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、長時間にわたり電解質への給水が可能であり、独立して長時間給電可能なマグネシウム空気電池および電子機器、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第一の観点に係るマグネシウム空気電池は、
マグネシウムを含むマグネシウム薄板と、液体を含浸可能であって、かつイオンを透過する素材により形成されるセパレータと、負極端子と、で構成されるマグネシウム燃料体と、
前記マグネシウム燃料体を両側から挟みこむように配置され正極端子を備えるカソードと、
電解液と
内部に前記電解液を保持する空間を有する電解液貯留部と、
を備える、
ことを特徴とする。
【0009】
前記マグネシウム空気電池は、
前記マグネシウム燃料体のみを前記電解液に浸し、
前記セパレータが、毛管現象により前記電解液を含浸する、
ことを特徴とする。
【0010】
前記マグネシウム空気電池は、
前記マグネシウム燃料体を2つ以上備え、
前記電解液貯留部を、複数の前記マグネシウム燃料体によって共用する、
ことを特徴とする。
【0011】
前記電解液貯留部と前記マグネシウム燃料体のうち少なくとも一方は、
内部に前記電解液を保持する薄膜を備え、
前記電解液の前記電解液貯留部への供給が、前記マグネシウム燃料体の可動によって当該薄膜を破断することにより行なわれてもよい。
【0012】
さらに、液体を保持しつつ前記セパレータに沿って滴下する穴を備えたトレイ、を前記マグネシウム燃料体の上方に配置して備え、
前記電解液の前記電解液貯留部への供給が、当該トレイによって行なわれても良い。
【0013】
さらに、前記セパレータが、前記カソードと前記マグネシウム燃料体との電池反応部分より上に突出した形状を有し、前記トレイが備える穴と当該突出した形状部分が近接して配置されてもよい。
【0014】
前記マグネシウム空気電池は、
穴を備えた板状のカソード保持材を備え、
正極活物質である酸素を当該穴より取り込みつつ前記カソードを保持してもよい。
【0015】
前記カソードおよび前記マグネシウム燃料体のうち少なくとも一方は、
表面を摩擦から保護し、水を通す素材で形成される保護膜、を備えても良い。
【0016】
前記カソードは、複数の前記マグネシウム燃料体を挟み込んで配置され、それぞれの前記マグネシウム燃料体が別々に可動してもよい。
【0017】
前記マグネシウム空気電池を複数備え、
それぞれの前記マグネシウム空気電池が、
前記マグネシウム燃料体が下方に可動して前記電解液貯留部に貯留された前記電解液を含浸したのち、前記マグネシウム空気電池全体が下方に可動する2段階の可動構造、を有することにより、垂直に接続した前記マグネシウム空気電池全体を次々に反応を開始させる、
ことを特徴とする。
【0018】
対になった前記カソードを複数備え、それぞれを平行に配置し、
それぞれの前記カソードの間に前記マグネシウム燃料体を挿入し、
当該マグネシウム燃料体が挿入される前記カソードのすぐ隣に配置される前記カソードが備える前記正極端子に、当該マグネシウム燃料体が備える前記負極端子を接続する、
ことを特徴とする。
【0019】
前項において、一対の前記カソードのうち少なくとも一方が、前記カソードどうしの間に隙間を作る絶縁物である、スペーサー、を備えてもよい。
【0020】
さらに、前記カソードが、前記マグネシウム燃料体の横方向の長さよりも長い形状を有すると同時に、
この長くなった部分に前記正極端子を備えてもよい。
【0021】
本発明の第二の観点に係る電子機器は、
本発明の第一の観点に係るマグネシウム空気電池を備える、
ことを特徴とする。
【0022】
さらに充電可能な二次電池を備え、前記マグネシウム空気電池により前記二次電池を充電する、ことを特徴とする。
【0023】
前記電子機器は、自動車、であってもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、マグネシウム空気電池において、長時間にわたり電解質の給水が可能であって、独立して長時間給電が可能なマグネシウム電池および電子機器、を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【実施例1】
【0027】
図1は、本発明のマグネシウム空気電池の燃料となる、マグネシウム燃料体100の斜視図である。マグネシウム燃料体100は、マグネシウム薄板101と、マグネシウム薄板101の一部を露出させて両側から挟みこむセパレータ102と、を備える。
【0028】
図2は、本発明のマグネシウム空気電池120の側面図(a)および上からみた平面図(b)を示している。マグネシウム空気電池120は、マグネシウム燃料体100と、カソード103と、電解液貯留部106と、電解液107と、負極端子104と、正極端子105と、を備える。マグネシウム空気電池120は、空気中の酸素を正極活物質とし、マグネシウムを負極活物質として起電力を生じる。
【0029】
図2に示すように、カソード103は、マグネシウム燃料体100を両側面から挟みこむように配置される。このとき、カソード103が備える正極端子105が外部と接続してマグネシウム空気電池120の正極として機能する。また、マグネシウム燃料体100が備える負極端子104が外部と接続してマグネシウム空気電池120の負極として機能する。カソード103を形成する素材としては、例えば炭素、金属、マンガン化合物、およびこれらを組み合わせたものなどが考えられるが、これに限らない。このうち炭素については、活性炭、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンフェルト、などの形態をとりうる。
【0030】
マグネシウム薄板101は、マグネシウム空気電池120の負極活物質となる金属マグネシウムを含む薄い板である。マグネシウム薄板101は、負極端子104を備える。負極端子104は、導電性を有する素材で形成され、マグネシウム空気電池120における負極として機能し、外部と電気的に接続する。
【0031】
セパレータ102は、マグネシウム空気電池120のセパレータとして機能し、マグネシウム薄板101を、負極端子104を露出させて包み込む。セパレータ102は液体を含浸可能であって、酸化還元反応に必要なイオンを透過する物質により形成される。セパレータ102を形成する素材としては、不織布や濾紙、フェルト、炭素フェルト、あるいはこれらの組み合わせたものなどが考えられるが、これに限らない。たとえばフェルトと不織布を用いると、フェルトは電解液107を含浸し、不織布は電池反応が進むにしたがって析出する反応物がカソードを汚すことを抑制し、電池の持続時間を長くすることができる。
【0032】
前述したマグネシウム薄板101と、セパレータ102とから構成されるマグネシウム燃料体100は、マグネシウム空気電池120の燃料として機能する。
【0033】
カソード103は、導電性を有する素材で形成され、マグネシウム空気電池120の正極活物質である空気中の酸素に電子を供給する。カソード103を構成する素材としては、例えば炭素、金属、マンガン化合物、及びこれらを組み合わせたものが考えられるが、これに限らない。カソード103は、マグネシウム燃料体100を両側から挟み込むように配置され、内側のマグネシウム燃料体100のみが電解液107を貯留する電解液貯留部106まで押し下げられ、カソード103は電解液107には浸されない。また、カソード103は、正極端子105を備える。正極端子105は、導電性を有する素材で形成され、マグネシウム空気電池120の正極として機能し、外部と電気的に接続する。このとき
図2(b)に示すように、カソード103がマグネシウム燃料体100よりも幅(図中の縦方向)が長くなっていると、カソード103どうしを正極端子105に接続しやすい。
【0034】
電解液貯留部106は、内部に電解液107を貯留する空間を有し、マグネシウム燃料体100の下方に配置される。このとき、複数のマグネシウム燃料体100が共用する一つの電解液貯留部106を配置することにより、装置を簡略化できる。複数のマグネシウム燃料体100を接続した例については、後ほど述べる。
【0035】
電解液107は、マグネシウム燃料体100と、カソード103の間のイオン交換を可能にする電解液である。電解液としては、塩化ナトリウム水溶液が挙げられるが、これに限らない。
【0036】
次に、マグネシウム空気電池120の動作について説明する。
【0037】
図3は、マグネシウム空気電池120の動作を示す側面断面図であり、電池反応開始前(a)、開始時(b)であり、マグネシウム空気電池120における負極端子104どうし、また、正極端子105どうしを電気的に接続して並列に3つ接続した一例を示している。このとき、電解液貯留部106は、並列に接続されたマグネシウム燃料体100で共用する一つを備えることで、装置を簡略化できる。
【0038】
マグネシウム空気電池120を、
図3(a)の矢印の方向に外部からの力によって負極端子104で接続されたマグネシウム燃料体100全体を押し下げる。このとき、マグネシウム燃料体100以外の部分は押し下げられずに、元の場所にとどまっている(
図3(b)参照)。電解液107に浸るまで押し下げられたマグネシウム燃料体100は、毛管現象によりセパレータ102が電解液107を含浸してイオン交換が行われ、マグネシウム薄板101に含まれるマグネシウムを負極活物質とし、空気中の酸素を正極活物質とする酸化還元反応が起こって起電力を生じる。電解液107の給水は、この毛管現象により自動的に、かつゆっくりと行なわれる。マグネシウム燃料体100を押し下げる力は、手で押してもよいし、外部の機械的な力で押し下げてもよい。
【0039】
ところで、電解液107は電解液貯留部106に貯留されるとしたが、電解液貯留部106への電解液107の供給については、次のように行なっても良い。電解液貯留部106がふたとなる薄膜109を備え、その薄膜109の内部に電解液107を封入する。
図4はその様子を示す電解液貯留部106の斜視図である。薄膜109の内部に電解液107を封入することにより、反応開始までの電解液107の蒸発および乾燥を抑えることができる。マグネシウム燃料体100を押し下げられることによって、この薄膜109を破断し、反応を開始する。このとき、薄膜109は切れ目109aを備えると破りやすい。なお、
図4は説明に直接関係のない構成要素については省略している。
【0040】
また、
図5(a)の斜視図に示すように、電解液107は、電解液貯留部106に置かれた薄膜からなる液袋110の内部に封入されていてもよい。このとき、マグネシウム燃料体100を押し下げることにより液袋110を破断する鋭利な形状の突起物111をマグネシウム燃料体100の底部に備えると、液袋110を破りやすい。鋭利な形状の突起物111としては、針のような尖った形状のものや、かみそりの刃のような形状が考えられるが、これに限らない。液袋110を破裂させることができればよい。
【0041】
あるいは、
図5(b)の斜視図に示すように、液袋110はマグネシウム燃料体100の下部に取り付けられてもよい。この場合は、突起物111は、電解液貯留部106に備えると、液袋110を破りやすい。液袋110は、マグネシウム燃料体100の可動に伴い、液袋110が破れることで電解液107と接触して反応を開始する。
【0042】
このように、電解液107は、ふた状や液袋状の薄膜の内部に貯留されることで、保存の際の蒸発を抑え、長期の使用が可能になる。
【0043】
以上のようにして、長時間の電解液の給水が可能であって、長時間の給電が可能なマグネシウム空気電池を提供できる。
【0044】
実施形態1のマグネシウム空気電池120は、縦方向に並べて複数接続し、電池の容量を大きくすることができる。この場合の動作の一例について
図6を用いて説明する。
【0045】
図6は、
図2で示した並列に3つ接続したマグネシウム空気電池120を一組として、マグネシウム空気電池120A、120B,120Cの3組を縦に3段、直列に接続した場合の側面断面図である。上段のマグネシウム空気電池120Aの正極端子105aと、そのすぐ下の段のマグネシウム空気電池120Bの負極端子104bとを接続し、正極端子105bはその下のマグネシウム空気電池120Cの負極端子104cとを接続する。最上段の負極端子104aと、最下段の正極端子105cは、外部と接続する。
【0046】
反応を開始する前は、
図6(a)に示すように、すべてのマグネシウム空気電池120A〜Cは電解液107に接触していない。
図6(b)のように最上段のマグネシウム空気電池120Aにおけるマグネシウム燃料体100が押し下げられて電解液貯留部106において電解液107に到達する。
【0047】
次に、
図6(c)に示すように、マグネシウム空気電池120A全体が押し下げられてすぐ下のマグネシウム空気電池120Bにおけるマグネシウム燃料体100を押し下げる。さらに、マグネシウム空気電池120B全体が押し下げられてマグネシウム空気電池120Cのマグネシウム燃料体100が電解液107に浸るまで押し下げられ(
図6(d))、次々に下の段のマグネシウム空気電池120の反応を開始していく。すなわち、まずマグネシウム燃料体100のみが可動して、その後マグネシウム空気電池120全体が可動する2段階の可動機構を有することにより、垂直に接続されたマグネシウム空気電池120の反応を次々に開始することができる。このとき、電解液貯留部106の底部が、下の段のマグネシウム空気電池120におけるマグネシウム燃料体100全体を押し下げるようにすると、装置を簡略化できる。反応を開始する順番はこれに限らない。例えば、最下段から開始するようにしてもよい。
【0048】
このようにして、3段のマグネシウム空気電池120A〜Cのすべてが反応を開始することができる。
【0049】
以上のようにして、長時間の電解液の給水が可能であって、長時間の給電が可能なマグネシウム空気電池を提供できる。
【実施例2】
【0050】
図7は、実施形態2のマグネシウム空気電池120の斜視概略図である。マグネシウム空気電池120は、実施形態1と同様にマグネシウム薄板101とセパレータ102とから構成されるマグネシウム燃料体100a〜fと、カソード103と、電解液貯留部106と、電解液107と、を備える。また、図示していないが、マグネシウム燃料体100は負極端子104を備え、それぞれを接続して一端が負極として機能する。また、カソード103は正極端子105を備え、外部と電気的に接続して一端がマグネシウム空気電池の正極として機能する。実施形態1と同様の説明は省略する。
【0051】
カソード103は、マグネシウム燃料体100a〜fで全体を挟み込んで配置され複数のマグネシウム燃料体100a〜100fで共用する。マグネシウム燃料体100a〜fは、それぞれが個別に上下に可動するものとする。また、カソード103は1対の場合を示したが、複数であってもよい。
【0052】
電解液貯留部106は内部に電解液107を備え、マグネシウム燃料体100a〜fが共用する1つが配置される。
【0053】
次に、マグネシウム空気電池120の動作について
図8を用いて説明する。
【0054】
図8は、マグネシウム空気電池120の側面断面図であり、マグネシウム燃料体100a〜100fまで6つ備える場合を示す。反応を開始する前は、
図8(a)のように、すべてのマグネシウム燃料体100a〜100fは電解液107に接触していない。マグネシウム燃料体100aを押し下げる(
図8(b)参照)ことで、セパレータ102が電解液107を含浸して反応を開始し、マグネシウム燃料体100aのマグネシウム薄板101を消耗していく。
【0055】
マグネシウム薄板101のマグネシウムが反応しなくなると、一旦、電池反応が終了する。必要な場合は、ふたたび別のマグネシウム燃料体100b(
図8(c)参照)を押し下げて反応を開始してもよいし、また必要な際に(何年後でもよい)押し下げればよい。
【0056】
マグネシウム空気電池120は、燃料であるマグネシウム薄板101の大きさ(面積)によって反応時間を調整することができる。このことについて、実験結果を用いて説明する。
【0057】
実施形態1および2のマグネシウム空気電池120において、マグネシウム薄板101の大きさを変えて、時間が経過するにつれて反応物のマグネシウム薄板101表面上への析出の影響で抵抗が増え、徐々に電圧が低下して電圧が1V以下になるまでに要する時間(持続時間T)を計測したところ、厚さ1mmで、幅30cm×高さ6cmのマグネシウム薄板101では、72時間持続し、このとき電流値は0.008A/cm2、すなわち1.44Aであった。また、幅1cm×高さ6cmのマグネシウム薄板101では、2時間持続し、このとき電流値は0.25A/cm2、すなわち1.5Aで、72時間持続する場合とほぼ同じ電流値であった。ここで、幅とはマグネシウム薄板101においてカソード103と平行な面の装置の横方向への長さのことであり、高さとは装置の高さ方向への長さを指すものとする。この結果に示すように、必要な電流値を実現しながら、マグネシウム薄板101の大きさによって反応時間を調整し、例えば72時間持続して反応しつづけるマグネシウム空気電池にすることもできるし、2時間ずつ断続的に、必要なときに使用するマグネシウム空気電池にすることもできる。
【0058】
実施形態1および実施形態2において、カソード103はカソード保持材112を備えてもよい。カソード保持材112は、カソード103を保持しつつ、カソード103が空気中の酸素を活物質として反応しやすいよう、空気と接する側に空気を取り込む穴112aを備える。カソード保持材112を備えることにより、カソード103を保持しつつ、安定した電池反応を行なうことができる。このとき、均質にマグネシウム燃料体100を押さえて電池反応が表面積全体で均一に起こるよう、空気の取り入れ口となる穴112aが多数、均等に配置された板状の物質とするとよい。カソード保持材112の一例を
図9の斜視図に示す。穴112aは円形(
図9(a))の他、矩形状(
図9(b))であってもよく、また、これに限らない。
【0059】
以上のようにして、長時間の電解液の給水が可能であって、長時間の給電が可能なマグネシウム空気電池を提供できる。
【実施例3】
【0060】
実施形態3のマグネシウム空気電池120は、実施形態1,2と同様に、マグネシウム薄板101とセパレータ102とから構成されるマグネシウム燃料体100と、マグネシウム燃料体100を挟み込む1対のカソード103と、を複数組備え、それぞれのマグネシウム燃料体100が共用する電解液貯留部106と、電解液107と、を備える。マグネシウム燃料体100およびカソード103は、それぞれ平行に配置される。
図10は2つのマグネシウム燃料体100を備えるマグネシウム空気電池120の斜視図であり、
図10のマグネシウム燃料体100をカソード103の間に挿入することにより、マグネシウム燃料体100の側面に備える負極端子104が、カソード103が備える正極端子105に挿入されて、それぞれが直列に接続される。(
図10では、まだ挿入されていない。)マグネシウム空気電池120を構成するそれぞれの構成要素の重複する部分については実施形態1、2と同様であるため省略している。
【0061】
図11(a)を用いて、詳しく説明する。
図11(a)は、実施形態3のマグネシウム空気電池120を上からみた平面図を示す。マグネシウム燃料体100は、実施形態1,2と同様に、マグネシウム薄板101と、それを包み込む液体を含浸可能なセパレータ102とで構成され、側面に負極端子104を備える。マグネシウム燃料体100は、1対のカソード103の間に挿入される。その際、負極端子104の先端(104a)を、カソード103が備える正極端子105に挿入して電気的に接続する。マグネシウム燃料体100は、下部が電解液貯留部106において電解液107に浸るまでさらに押し下げられる。マグネシウム燃料体100はマグネシウム空気電池120から取り外し、電池反応により消耗した燃料体を新しいマグネシウム燃料体100に交換して使用する。
【0062】
カソード103は、
図11(a)に示すように、それぞれのマグネシウム燃料体100を両側から挟み込んで配置され、このときマグネシウム燃料体100と重なる電池反応部分よりも長い形状を有する。この長くなった部分に正極端子105を備えることにより、マグネシウム燃料体100の挿入と同時に、負極端子104を正極端子105に挿入することができる。また、マグネシウム燃料体100が備える負極端子104を、すぐ隣に配置されたカソード104に備わる正極端子105に挿入することにより、装置を簡略化できる。
図10では、負極端子104が隣のカソード103における正極端子105の方向に折れ曲がった形状を有しており、斜めに折れ曲がっていることにより、すぐ隣のマグネシウム燃料体100から延びる負極端子104を回避することができる。また、カソード103が、この負極端子104を通過させる空間を有していると、装置を簡略化できる。カソード103の形状の一例を
図12の側面図に示す。
図12は、カソード103のマグネシウム燃料体100より長くなった部分の一部が欠けた形状を有しており、ここを負極端子104が通過して隣のカソード103における正極端子105に挿入する。カソード103は、他の実施形態と同様に、電解液107には浸かっていない。このことについては、後で述べる。
【0063】
図11に戻る。
図11(b)、(c)は
図11(a)のA−A‘における断面図であり、マグネシウム燃料体100の挿入前(b)、挿入後(c)、を示している。マグネシウム燃料体100に備えられた負極端子104が、正極端子105に挿入されると述べたが、
図11(b)、(c)に示したのは正極端子105の形状の一例である。1つのセルにはカソード103は1対、設置されるが、それぞれのカソード103が備える正極端子105が内向きに向かい合って折り曲げられた、山なりの形状を有することで、正極端子105の間に負極端子104が挿入されると、正極端子105がバネのような役割を果たして負極端子104と正極端子105がしっかりと接続される。正極端子105は、例えば銅板などの素材により形成される。
【0064】
実施形態1,2と同様に、カソード103は、カソード保持材112により保持してもよい。カソード保持材112は、前に述べたように、空気を取り込む穴112aを備えることにより、カソード103どうしを近接して配置することができる。このとき、
図11(b)、あるいは
図10に示すように、カソード103は、マグネシウム燃料体100を挟み込む一対のカソード103を保持するカソード保持材112のうち少なくとも一方に、穴112aを避けて配置し、カソード103どうしの間に隙間を作るスペーサー113を備えることで、カソード103を近接して設置しても、空気を取り込む空間を確保することができる。カソード保持材112とスペーサー113を形成する素材は同じでも異なっていてもよく、絶縁物であって、できるだけ軽量であるとよい。スペーサー113を形成する素材としては、ポリカーボネート樹脂などが考えられるが、これに限らない。また、スペーサー113を配置する場所や数は、
図10や
図11に示すものに限らないが、カソード103上において均等に配置されていることで、多数のカソード103を重ねても空気の取り込みを妨げない。
【0065】
次に、実施形態3のマグネシウム空気電池120を使用する方法について説明する。
【0066】
マグネシウム空気電池120は、燃料であるマグネシウム燃料体100をカソード103に挿入し、同時に負極端子104が正極端子105に挿入される。さらに、マグネシウム燃料体100の下部が電解液貯留部106において電解液107を含浸することによりセパレータが電解液107を含浸して電池反応を開始する。
【0067】
ところで、本実施形態においては、複数のマグネシウム燃料体100が直列に接続されたうえに、一つの電解液107を共用していることから、電解質中で漏電して導通してしまうことが予想されるが、実験の結果、それは起きないことが分かっている。負極端子104や正極端子105などの銅電極の抵抗が低く、電解液107は電解質とはいえ抵抗が大きいことに加え、カソード103は電解液107の中には浸らず、マグネシウム燃料体100のみが電解液107中に浸る構造を有することにより、電解質中において電流が流れない。このことから、マグネシウム空気電池120全体を、電解液貯留部106を共通とした簡単な構造にすることができる。
【0068】
実施形態3のマグネシウム空気電池120は、燃料となるマグネシウム燃料体100のみを抜きだしての交換が、実施形態1、2よりもさらに簡単である。マグネシウム空気電池120の他の部分はそのままで、マグネシウム燃料体100のみを交換可能な構造にすることで、長時間の給電をより簡単に行なうことができる。
【0069】
このとき、カソード103を保護膜で覆うことで、マグネシウム燃料体100を何度も抜き差しすることによる摩擦でカソード103が損傷するのを防ぎ、カソード103の寿命を長くすることができる。この保護膜は、水を通す素材で、できる限り薄くて表面がなめらかであると、挿入時の摩擦を減らすことができる。例えば薄い不織布などが考えられる。
【0070】
さらに、カソード103と同様に、マグネシウム燃料体100の外側からも、前に述べた保護膜で包み込むことで、さらに摩耗や損傷を防ぐことができる。
【0071】
また、カソード103が、ガイド114を備えてもよい。ガイド114は、マグネシウム燃料体100をカソード103の間に挿入する際に、マグネシウム燃料体100の下端の差し込み位置がカソード103の間からずれていても、これを位置修正してカソード103の間に導くような形状を有する。ガイド114を備えることにより、複数のマグネシウム燃料体100の挿入を容易にすることができる。ガイド114の一例を、
図13の側面断面図に示す。ガイド114は、円筒を半分にカットした半円筒状のもの、などが考えられ、円筒の側面のカーブに沿って、マグネシウム燃料体100が導かれてカソード103に挿入される。ガイド114の形状としては、ビニールパイプを半円筒状にカットしたものなどが考えられるが、これに限らない。また、半円筒状としたが、これに限らない。マグネシウム燃料体100が側面のカーブに沿ってカソード103の間に導かれるような他の形状、例えば三角柱でもよい。
図13は説明に関係のない構成要素については省略している。
【0072】
電解液107は、実施形態1,2と同様にふた状や液袋状の薄膜の内部に貯留することにより長期の使用が可能となる。
【0073】
ところで、電解液貯留部106への電解液107の供給が、電解液107を封入した薄膜の破断によって行なわれ、さらにセパレータ102の毛管現象によりマグネシウム燃料体100が電解液107を含浸することを前にも説明したが、マグネシウム燃料体100の上方から電解液107を供給することにより、さらに素早く電解液107を供給して電池反応を開始させることができる。
【0074】
図14(a)に示すように、マグネシウム空気電池120がマグネシウム燃料体100の上方にトレイ115を備える。トレイ115は液体を保持可能なトレイ状の形状を有し、液体を滴下する複数の滴下孔115aを備える。電池反応を開始する前は、このトレイ115が電解液107を保持し、セパレータ102に沿って電解液107が滴下孔115aを通して滴下される。そして、マグネシウム燃料体100が電解液107を含浸することにより電池反応を開始する。このとき、
図14(b)に示すように、トレイ115が液体を含浸可能な素材で形成された電解液保持材115bを備え、電解液107を電解液保持材117bに含浸させておくことにより、電解液107が少量ずつゆっくりと滴下され、セパレータ102に含浸されやすい。電解液保持材115bは、例えば不織布やフェルトなどが考えられるが、これに限らない。また、トレイ115が電解液107を保持すると述べたが、電解液107の代わりに水を保持し、かつセパレータ102が塩化ナトリウムを備え、当該水に溶解して塩化ナトリウム水溶液を生成して電解液107としてもよい。滴下孔115aは、円形に限らない。スリットのような形状でも、矩形状でもよい。
【0075】
このとき、セパレータ102が
図15のような形状を有するとよい。
図15はマグネシウム燃料体100の斜視図であり、セパレータ102はマグネシウム燃料体100とカソード103による反応部分から突き出した形状を有し、この部分がトレイ115の滴下孔115aに近接、あるいは接触するように設置され、滴下孔115aから滴下される液体が直接セパレータ102をつたってマグネシウム燃料体100に浸透して電解液107を供給する。トレイ115が保持する液体は、前述のように電解液107、あるいは水であり、水の場合は前述したようにセパレータ102が塩化ナトリウムをあらかじめ保持する。
【0076】
このように、マグネシウム燃料体100の上からも電解液107を供給することにより、素早く電解液107を供給することができる。
【0077】
以上のようにして、長時間の電解液の給水が可能であって、長時間の給電が可能なマグネシウム空気電池を提供できる。
【0078】
実施形態1から3について説明したが、長時間の給電が可能になることから、様々な電子機器や装置に接続して電源とすることができる。以下より、自動車などの、止まったり、動いたりという出力の変動が大きい装置でマグネシウム空気電池120を使用する方法について説明する。
【0079】
図16は、マグネシウム空気電池120を使用した車両装置200の概略図である。車両装置200は、マグネシウム空気電池120と、二次電池201と、モーター202とを備える。
図16に示すように、マグネシウム空気電池120と二次電池201とが接続され、二次電池201とモーター202とが接続されている。
図16の矢印は、マグネシウム空気電池120において燃料となるマグネシウム燃料体100が新しいものと交換可能であることを示している。車両装置200は二次電池201を駆動用バッテリとして駆動し、二次電池201はマグネシウム空気電池120により充電される。
【0080】
車両装置200は、二次電池201からの電力によってモーター202を動作させて走行する車両装置であり、例えば電気自動車などである。
【0081】
二次電池201は、充電可能な二次電池であり、例えばリチウムイオン二次電池などである。二次電池201は、車両装置200を駆動させる直接の電源となる。
【0082】
車両装置200は、二次電池201からの電力供給によってモーター202を動作させて走行する。このとき、二次電池201に接続されたマグネシウム空気電池120により走行中あるいは停車中に二次電池201が充電される。マグネシウム空気電池120は、燃料であるマグネシウム燃料体100を新しいものと交換することにより、車載したままで二次電池201への充電を行なうことが可能である。なお、モーター202は、車両装置200の駆動を可能にする車輪やその車輪を動かすための駆動装置などである。
【0083】
ところで、自動車などの車両装置では、動いたり、止まったり、などといった出力の変動が大きい状況がたびたび発生する。マグネシウム空気電池120を車両装置200の直接の電源とすると、マグネシウム空気電池120により出力の増減を行なうことになる。その際、大きな出力から小さな出力へと切り替え、再び大きな出力を得ようとすると、反応生成物である水酸化マグネシウム等の絶縁物が燃料となるマグネシウムの表面に積層してゆくため、しだいに電流が流れなくなり、また一旦反応を停止してしまうと固着してしまい再び反応を開始することが困難になる。そのため、小さな出力から大きな出力へと移行するには、時間をかけて徐々に出力を上昇させなくてはならず、また、あまりにも出力を下げすぎると大きな出力まで上げられないなどの問題があり、マグネシウム空気電池120を車両装置200の直接の電源にするのは効率が悪い。一方、二次電池は、走行により消費した電気を充電することで再び走行することができるが、充電ステーションにおける充電時間の問題がある。車両装置200を、マグネシウム空気電池120と二次電池201を使用するハイブリッド構造にすることにより、マグネシウム空気電池120と二次電池201の双方の欠点を補いあい、より長時間の走行を可能にし、充電時の停車時間を減少させることができる。
【0084】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の実施形態に限定されるものではない。
【0085】
マグネシウム薄板101は、金属マグネシウムを含むとしたが、これに限られない。すなわちマグネシウム燃料体100は、マグネシウムイオンを溶出するものであればよく。マグネシウムを含む合金や、マグネシウム化合物から形成されていてもよい。