特許第6587321号(P6587321)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6587321タンパク分解性にプロセシングされたポリペプチドの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6587321
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】タンパク分解性にプロセシングされたポリペプチドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/52 20060101AFI20191001BHJP
   C12N 15/57 20060101ALI20191001BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20191001BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20191001BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20191001BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20191001BHJP
   C12P 21/06 20060101ALI20191001BHJP
   C07K 1/12 20060101ALI20191001BHJP
   C12Q 1/37 20060101ALI20191001BHJP
   A61K 38/48 20060101ALI20191001BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20191001BHJP
【FI】
   C12N9/52
   C12N15/57ZNA
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C12P21/06
   C07K1/12
   C12Q1/37
   A61K38/48
   A61P25/00
【請求項の数】12
【外国語出願】
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2017-49394(P2017-49394)
(22)【出願日】2017年3月15日
(62)【分割の表示】特願2015-535999(P2015-535999)の分割
【原出願日】2012年11月21日
(65)【公開番号】特開2017-127313(P2017-127313A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2017年4月11日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510319889
【氏名又は名称】イプセン バイオイノベーション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルンマル,アンドレアス
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/014854(WO,A1)
【文献】 Database Uniprot,[online],Accession No. A5I1S4, <http://www.uniprot.org/uniprot/A5I1S4>,公知日:2007年6月26日,[2018年4月9日検索]
【文献】 GENOME RESEARCH,2007年,Vol. 17, No. 7,pp. 1082-1092
【文献】 J. Physiol., Paris,1990年,Vol. 84, No. 3,pp. 220-228
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12N 9/50−9/62
C12P 21/06
C07K 14/33
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1の配列と少なくとも90%の配列同一性を有するポリペプチド配列からなるタンパク分解性活性ポリペプチド: ここで、前記タンパク分解性活性ポリペプチドは、ボツリヌス神経毒または破傷風神経毒を加水分解して二本鎖ボツリヌス神経毒または二本鎖破傷風神経毒を産生することができる。
【請求項2】
請求項1に記載のポリペプチドをコードする核酸配列を含む核酸分子。
【請求項3】
請求項2に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項4】
請求項2に記載の核酸分子または請求項3に記載のベクターを含む細胞。
【請求項5】
請求項1に記載のタンパク分解性活性ポリペプチドを製造するための方法であって、
(a.)請求項1において規定されるポリペプチド配列を含むポリペプチドを化学的に合成するか、またはヌクレオチド配列から翻訳するステップと;
(b.)ステップ(a.)のポリペプチドを精製するステップと
を含む方法。
【請求項6】
請求項1に記載のポリペプチドを精製する方法における、請求項1に記載のポリペプチドに特異的に結合する抗体の使用。
【請求項7】
タンパク分解性にプロセシングされたポリペプチドを製造するための方法であって、
(a)請求項1に記載のポリペプチドから選択される第1のポリペプチドを、
(b)前記第1のポリペプチドによるタンパク質分解に感受性の第2のポリペプチドと接触させるステップを含み、前記接触が、少なくとも2つの切断産物への前記第2のポリペプチドのタンパク質プロセシングを結果としてもたらす方法。
【請求項8】
前記第2のポリペプチドが、配列番号3〜25のいずれか1つから選択されるポリペプチド配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み;
前記第1のポリペプチドが、前記第2のポリペプチドを配列番号3〜25のいずれか1つの前記配列内の塩基性アミノ酸残基のすぐC末端側の位置でタンパク分解性に切断する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1に記載のタンパク分解性活性ポリペプチドの阻害物質をスクリーニングする方法であって、
(a)請求項1に記載のポリペプチドを既知の基質と、および、推定上の阻害物質と接触させるステップと;
(b)基質を切断産物に変換することに対する前記推定上の阻害物質の効果を決定するステップとを含み、
この際、切断産物の量が低減することが、前記推定上の阻害物質の阻害効果を示す方法。
【請求項10】
前記阻害物質が、請求項1に記載のタンパク分解性活性ポリペプチドに特異的に結合する抗体である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1に記載のタンパク分解性活性ポリペプチドを、治療用神経毒の調製において使用する方法。
【請求項12】
請求項1に記載のポリペプチド、および、
医薬担体を含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のタンパク分解性活性ポリペプチド(proteolytically active polypeptide)、ならびにスクリーニングおよび製造方法における当該ポリペプチドの様々な使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)および破傷風菌は、きわめて強力な神経毒、すなわち、それぞれボツリヌス神経毒(BoNT)および破傷風神経毒(TeNT)を産生する。これらのクロストリジウム神経毒(CNT)は神経細胞に特異的に結合して、神経伝達物質の放出を撹乱する。ボツリヌス菌は、ボツリヌス神経毒(BoNT)のAからGと称される7種の抗原的に別個の血清型を分泌する。すべての血清型は、破傷風菌によって分泌される類似の破傷風神経毒(TeNT)と共に、細胞膜融合を制御するSNARE複合体の形成に関係するタンパク質を切断することによって、シナプスのエキソサイトーシスを遮断するZn2+エンドプロテアーゼである。CNTは、ボツリヌス中毒および破傷風において観察される弛緩性筋麻痺の原因となる。加えて、CNT活性は、腺分泌に影響を及ぼすことが示されている。筋活性および腺活性に対するCNTのこれらの生理学的作用は、様々な治療用途および美容用途においてますます使用されている。血清型Aのボツリヌス神経毒(BoNT/A)は、米国において1989年に、斜視、眼瞼痙攣、および他の障害の処置のために、ヒトでの使用について承認された。これは、ボツリヌス神経毒Aタンパク質製剤として、例えば、商品名BOTOX(Allergan Inc.)および商品名DYSPORT(Ipsen Ltd)で市販されている。治療用途では、神経毒と追加の細菌タンパク質とを含む複合体が、処置を受ける筋肉に直接注射される。生理学的pHで、毒素は、このタンパク質複合体から放出されて(Eisele et al. 2011, Toxicon 57(4): 555-65)、所望の薬理学的効果が生じる。複合体化タンパク質を含まない改良されたBoNT/A製剤は、商品名XEOMINまたはBocouture(Merz Pharmaceuticals GmbH、Frankfurt/ドイツ)で入手可能である。BoNTの効果は一時的なものに過ぎず、そのことが、治療効果を維持するためにはBoNTの反復投与が通常は必要とされる理由である。
【0003】
各CNTは、不活性な単鎖ポリペプチドとして最初は合成される。BoNTの場合には、この神経毒ポリペプチドは約150kDaの分子量を有する。この単鎖ポリペプチドの翻訳後プロセシングは、ループと称される露出領域(表1を参照されたい)における限定的なタンパク質分解と、近接ジスルフィド架橋の形成とを必要とする。活性な二本鎖神経毒は、単鎖前駆体ポリペプチドのタンパク質分解的加水分解の結果として生じた2つの切断産物、すなわち、ジスルフィド結合によって連結した約50kDaのN末端軽鎖および約100kDaの重鎖からなる。CNTは構造的には、3つのドメイン、すなわち、触媒軽鎖、トランスロケーションドメインおよび受容体結合ドメイン(C末端の半分)を包含する重鎖(N末端の半分)からなる(Krieglstein 1990, Eur J Biochem 188: 39; Krieglstein 1991, Eur J Biochem 202: 41; Krieglstein 1994, J Protein Chem 13: 49; Lacy et al., 1998, Nat. Struct. Biol. 5(10): 898-902を参照されたい)。触媒ドメインを形成するアミノ酸残基と、トランスロケーションドメインを形成するアミノ酸残基との間にある、単鎖中に存在する切断部位の数に応じて、エンドペプチダーゼ活性は、2つの大きな切断産物、すなわち、軽鎖および重鎖に加えて、神経毒の単鎖において軽鎖および重鎖になるべきものを架橋していた以前のループ領域である特徴的な短いペプチドとをもたらし得る(以下の表1を参照されたい)。
【0004】
神経毒は、発酵溶液中において、プロセシングされていないポリペプチド、部分的にプロセシングされたポリペプチド、および完全にプロセシングされたポリペプチドの混合物として含まれていて、それらはすべて、非常に類似した生化学および物理的特性を有するので、発酵溶液からのCNTの精製は、一つの大課題である。エンド型タンパク質分解活性によって、軽鎖とループとの間のペプチド結合が加水分解されている一方で、ループと重鎖のN末端との間のペプチド結合がなお無傷であるならば、部分的にプロセシングされた神経毒が典型的には生じる。さらに、エンド型タンパク質分解活性によって、重鎖からループペプチドが放出(release)されている一方で、ループペプチドと軽鎖のC末端との間のペプチド結合がまだ加水分解されていないならば、部分的にプロセシングされた神経毒が同じく作られ得る。発酵条件および神経毒の種類に応じて、ループペプチドを含まない完全にプロセシングされたポリペプチドは、5%〜90%の部分的にプロセシングされたポリペプチドまたはプロセシングされていないポリペプチドで、著しく汚染され得る。また場合によっては、この神経毒は、大部分がプロセシングされてなく、治療で使用する前に、生物学的に活性にするために、エンドペプチダーゼで処理する必要がある。
【0005】
従来技術には、プロセシングされていないか、または部分的にプロセシングされた前駆体タンパク質の量を低減するために、クロストリジウム神経毒を異種のプロテアーゼで処理する様々な試みが記載されている。クロストリジウム神経毒を活性化させるために最も幅広く使用されているプロテアーゼであるトリプシンは、血清型B(BoNT/B)およびE(BoNT/E)のクロストリジウム神経毒を活性化させるために有用ではあるが(DasGupta & Sugiyama 1972, Biochem. Biophys. Res. Commun. 48: 108-112; Kozaki et al., 1974, Infect. Immun. 10: 750-756)、おそらく、BoNT/Aの重鎖サブユニットのC末端付近でのタンパク質分解作用によって、二次産物を産生するようであり、したがって、その細胞受容体への毒素結合を破壊するようである((Shone et al., 1985, Eur. J. Bioch. 151: 75-82)。もっと特異的な切断産物が、BoNT/Aを産生するボツリヌス菌などの天然の宿主から単離される内因性プロテアーゼから理論的には期待される。したがって、天然の宿主細胞から、クロストリジウム神経毒のタンパク質分解活性化に関係している内因性プロテアーゼを単離する様々な試みがなされている。DeklevaおよびDasGupta(Dekleva & DasGupta, 1989, Biochem. Biophys. Res. Commun. 162: 767-772)は、BoNT/Aを産生するボツリヌス菌の培養物から、BoNT/Aを重鎖および軽鎖サブユニットへとタンパク分解性に切断することができる画分を精製した。同じ著者らによる後の研究ではさらに、ボツリヌス菌から単離された内因性プロテアーゼが特徴決定され(Dekleva & DasGupta, 1990, J. Bact. 172: 2498-2503)、かつ15.5kDaのポリペプチドおよび48kDaのポリペプチドから構成される62kDaのタンパク質が明らかにされた。しかしながら、DeklevaおよびDasGuptaの62kDaのタンパク質に限定的に曝露した後に、CNTのかなりの断片化が観察されることは、その単離されたプロテアーゼが、クロストリジウム細胞培養物中および感染時においてCNTの活性化を担う未同定のタンパク質分解酵素ではない可能性があることを示唆している。実際に、他の研究者は最近、クロストリジオペプチダーゼBとも称されるクロストリパイン(Mitchel & Harrington, 1968, JBC 243: 4683-4692)が、CNTの特異的な活性化に関係しているかもしれないことを示唆している((Sebaihia et al., 2007, Genome Res. 17(7): 1082-1092; WO2009/014854)。興味深いことに、この酵素の構造および基質特異性は、ヒストリチクス菌(Clostridium histolyticum)から分泌されるαクロストリパインの構造および基質特異性を想起させ(Dargatz et al. 1993)、そのホモログ(74%のアミノ酸同一性)がボツリヌス菌において存在する(CBO1920)。ヒストリチクス菌αクロストリパインは、アルギニル結合に対して厳密な特異性を有するシステインエンドペプチダーゼである。これは、不活性プレプロ酵素として合成されて、自己触媒的切断を受けて15.4kDaおよび43kDaポリペプチドを生じ、これらのポリペプチドが結合してヘテロ二量体の活性酵素を形成する(Dargatz et al. 1993)。ヒストリチクス菌αクロストリパインおよびボツリヌス菌62kDaプロテアーゼは両方とも、完全な活性のためには還元剤およびカルシウムを必要とし、同じプロテアーゼ阻害物質の影響を受け得る。これらのデータは、αクロストリパインのボツリヌス菌オルソログ(CBO1920)が、ボツリヌス菌の神経毒のタンパク質切断を担う内因性プロテアーゼであることを強く示唆している。クロストリパインをコードする遺伝子(CPE0846)は、ウェルシュ菌(C.perfringens)にも存在し、二成分系VirR/VirSによって正に調節されることが見出されているShimizu et al. 2002b)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2009/014854号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Eiseleら、2011,Toxicon 57(4): 555〜65.
【非特許文献2】Krieglstein 1990、Eur J Biochem 188: 39
【非特許文献3】Krieglstein 1991、Eur J Biochem 202: 41
【非特許文献4】Krieglstein 1994、J Protein Chem 13: 49
【非特許文献5】Lacyら、1998、Nat. Struct. Biol. 5(10): 898〜902
【非特許文献6】DasGupta & Sugiyama 1972、Biochem. Biophys. Res. Commun. 48: 108〜112
【非特許文献7】Kozakiら、1974、Infect. Immun. 10: 750〜756
【非特許文献8】Shoneら、1985、Eur. J. Bioch. 151: 75〜82
【非特許文献9】Dekleva & DasGupta、1989、Biochem. Biophys. Res. Commun. 162: 767〜772
【非特許文献10】Dekleva & DasGupta、1990、J. Bact. 172: 2498〜2503
【非特許文献11】Mitchel & Harrington、1968、JBC 243: 4683〜4692
【非特許文献12】Sebaihiaら、2007、Genome Res. 17(7): 1082〜1092
【非特許文献13】Dargatzら、1993
【非特許文献14】Shimizuら、2002b
【発明の概要】
【0008】
しかしながら今日まで、さらなる決定的な実験的証拠は見つかっておらず、また、単鎖前駆体CNTを真正の成熟切断産物に、すなわち、二本鎖神経毒に効率的に変換することができるプロテアーゼは、当技術分野において未だ利用可能でない。本発明は、上記の課題のうちの1つまたは複数を解決するものである。
【0009】
プロセシングされていない神経毒ポリペプチドおよび/または部分的にプロセシングされた神経毒ポリペプチドの量を低減し、それによって、神経毒製剤の質を改善するための手段および方法は、きわめて望ましいが、いまだ利用可能でない。したがって、本発明の根底にある技術的な課題は、上述の必要性に応じることによって神経毒ポリペプチドの製造を改良するための手段および方法の提供とみなすことができる。この技術的な課題は、特許請求の範囲において、かつ本明細書において以下に特徴づける実施形態によって解決される。
【0010】
したがって、本発明は、一態様では、配列番号1の配列と少なくとも50%の配列同一性を有するポリペプチド配列を含むタンパク分解性活性ポリペプチドに関する。別の態様では、本発明は、配列番号1の配列と少なくとも50%の配列同一性を有するポリペプチド配列からなるタンパク分解性活性ポリペプチドに関する。別の態様では、本発明は、配列番号1に示されているとおりのポリペプチド配列からなるタンパク分解性活性ポリペプチドに関する。
【0011】
用語「タンパク分解性活性ポリペプチド(proteolytically active polypeptide)」は、本明細書で使用する場合、本発明のポリペプチドの触媒機能に関し、かつその本発明のポリペプチドが、ペプチド結合を加水分解することができることを意味している。一態様では、「タンパク分解性活性ポリペプチド」は、配列番号4から25のいずれか1つから選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチドを加水分解することができるポリペプチドを指す。用語「タンパク分解性に不活性なポリペプチド(proteolytically inactive polypeptide)」は、本明細書で使用する場合、本発明のポリペプチドの触媒機能に関し、かつその本発明のポリペプチドが、ペプチド結合を加水分解することができないことを意味する。
【0012】
当業者であれば、本明細書において述べる配列の定義によるポリペプチドが本発明によるポリペプチドであるかどうかを、当該ポリペプチドのタンパク質分解活性を試験することによって決定することができる。タンパク質分解活性を決定するためのアッセイまたは試験システムは、配列番号1の配列と少なくとも50%の配列同一性を有するポリペプチド配列を含むポリペプチドを、試験基質と接触させることを含む。試験基質は典型的には、本発明のポリペプチドによって切断可能であることが分かっているポリペプチドである。好ましくは、その試験基質は、BoNTまたはその断片などのCNTである。試験基質は、例えば、本明細書において「scBoNT」と称される切断されていない/プロセシングされていないBoNTであってよく、また例えば、血清型A、B、C1、D、E、F、またはG(例えば、「scBoNT/A」、「scBoNT/B」など)のものであってよいか、または試験基質は、破傷風神経毒であってよい。別法では、この試験基質は、配列番号4〜25のいずれか1つから選択されるアミノ酸配列を含むクロストリジウム神経毒の断片であってよい。この断片は、50以上のアミノ酸残基からなるポリペプチドまたは49までのアミノ酸残基からなるペプチドであってよい。本明細書を通じて使用する場合、用語「ポリペプチド」は、50以上のアミノ酸残基を有する分子を指す一方で、用語「ペプチド」は、2〜49のアミノ酸残基を有する分子を指す。一態様では、この試験基質は、軽鎖ポリペプチド、露出ループペプチド領域、および重鎖ポリペプチドのN末端の半分であるトランスロケーションドメインHNを含む、LHNと呼ばれる可溶性神経毒断片である。別の態様では、この試験基質は、配列番号4〜25のいずれか1つから選択されるペプチドであるか、またはそれを含む(表1を参照されたい)。また別の態様では、この試験基質は、2種以上の血清型に由来するアミノ酸残基を含むキメラ神経毒である。
【0013】
タンパク質分解活性を決定するためのアッセイは、典型的には、試験基質がその切断産物(複数可)に変換される程度を決定するステップを含むであろう。当該ポリペプチドを試験基質と接触させた後に1種または複数種の切断産物(複数可)が生じること観察されること、または切断産物(複数可)の量の増加が観察されることは、そのポリペプチドがタンパク質分解活性であることを示す。上記の決定ステップは、基質および切断産物(複数可)を比較することを必要とすることがある。上記比較は、基質の量および/または1種または複数種の切断産物(複数可)の量を決定することを必要とすることがあり、かつ基質および切断産物(複数可)の比を計算することを必要とすることもある。加えて、タンパク質分解活性を決定するこのアッセイは、試験試料と参照試料とを比較するステップを含んでよく、その際、参照試料は典型的には、(a)配列番号1の配列と少なくとも50%の配列同一性を有するポリペプチド配列を含み、かつタンパク分解性に活性であることが分かっているポリペプチドと、(b)(a)のポリペプチドによって切断可能であることが分かっている試験基質とを含む。一態様では、タンパク質分解活性を決定するためのこのアッセイは、電気泳動またはカラムクロマトグラフィーによって、基質および切断産物(複数可)を分離すること、ならびに随意により、分光分析することを含む。試験基質の減少および/または産物(複数可)の増加をより容易に検出するために、試験基質を1種または複数種の標識で標識することが好都合なことがある。用語「標識」は、本明細書で使用する場合、検出可能なマーカーを意味し、これには例えば、放射性標識、抗体、蛍光標識が含まれる。例えば、少なくとも2つの標識の間でのエネルギー共鳴移動に基づく方法を含めた、オートラジオグラフィーまたは分光測定の方法によって、試験基質および/または切断産物の量を決定することができる。別法では、ウェスタンブロットまたはELISAなどの免疫学的方法を検出のために使用することができる。本発明のポリペプチドのタンパク質分解活性を決定するための好ましいアッセイを、本明細書において以下に、本発明を例示する実施例において記載する。特に好ましい本発明の実施形態では、100mMトリス-HCl、pH8.0またはPBS(50mM Na2HPO4、150mM NaCl、pH7.4)から選択される緩衝液を使用して37℃にて120分で、試験基質の20%超、好ましくは95%超が、軽鎖および重鎖などの切断産物に変換されれば、そのポリペプチドは、タンパク分解性に活性である。試験基質が全長神経毒ではなく、代わりに、例えば、全長神経毒の断片または神経毒の誘導体であったとしても、同じ条件が当てはまる。この場合に、切断産物が異なるであろうことは明白である。しかしながら、当業者であれば、対応する切断産物を定量化することができる。別の態様では、典型的に、タンパク分解性活性ポリペプチド100ng、および基質に対して1:100のモル比をアッセイにおいて使用する。また別の態様では、触媒活性を経時的に追跡するために、試料を、間欠的に採取することができる。このアッセイを、例えば、複数の量のタンパク分解性活性ポリペプチドを使用することで変えることができる。
【0014】
配列番号2は、ボツリヌス菌株ATCC3502に由来し、581残基のアミノ酸長を有するタンパク分解性に不活性なポリペプチドのポリペプチド配列(GenBank受入番号「CAL82988.1」)を示している。配列番号1は、配列番号2のアミノ酸残基1〜248が欠失している、配列番号2のタンパク分解性に活性な誘導体を示している。
【0015】
用語「配列番号1の配列と少なくとも50%の配列同一性を有するポリペプチド配列を含むポリペプチド」は、配列番号1の配列と少なくとも50%の配列同一性を有するポリペプチドを指す。加えて、この用語は、配列番号1の配列と少なくとも50%の配列同一性を有するポリペプチド配列を含むポリペプチドを指す。上記ポリペプチドは、例えば、配列番号1に示されている配列の内部位置、またはそのN末端側もしくはC末端側に、あるいは配列番号1の配列と少なくとも50%同一なアミノ酸配列の内部位置、またはそのN末端側もしくはC末端側に、追加のアミノ酸を有してもよく、この際、メチオニンが、そのポリペプチドのN末端に存在してよい。加えて、この用語は、例えば、配列番号1に示されている配列の内部位置、またはN末端側もしくはC末端側で、あるいは、配列番号1の配列と少なくとも50%同一な配列の内部位置、またはN末端側もしくはC末端側で、1個または複数個のアミノ酸残基が欠失しているポリペプチドを指す。
【0016】
用語「配列同一性」は、本明細書で使用する場合、最上位の一致が得られるようにアラインメントさせ、かつ例えば、BLASTP、BLASTN、FASTAなどのコンピュータープログラムで体系化された公開された技法または方法を使用して計算することができる(Altschul 1990、J MoI Biol 215: 403)、参照アミノ酸配列と問い合わせ配列との間の同一性の決定を指す。同一性のパーセント値を、一態様では、アミノ酸配列全体にわたって計算する。別の態様では、配列同一性を、50aa残基まで、100aa残基まで、150aa残基まで、250aa残基、300aa残基、350aa残基、400aa残基、450aa残基、500aa残基、または550aa残基までの配列長にわたって計算する。別の態様では、配列同一性を、少なくとも50aa残基、少なくとも100aa残基、少なくとも150aa残基、または少なくとも250aa残基にわたって計算する。好ましい実施形態では、配列同一性を、配列番号1または2の長さ全体にわたって、すなわち、それぞれ333aaまたは581aaの長さにわたって決定する。当業者は、様々なアルゴリズムに基づく一連のプログラムを、異なる配列を比較するために利用することができる。この文脈において、NeedlemanおよびWunschまたはSmithおよびWatermanのアルゴリズムによって、特に高信頼性の結果が得られる。配列アラインメントを実施して、本明細書において述べた配列同一性値を計算するために、アルゴリズムClustal Wに基づく市販のプログラムDNASTAR Lasergene MegAlignのバージョン7.1.0を、配列領域全体にわたって、次の設定で使用した: ペアワイズアラインメントパラメーター(Pairwise Alignment parameter): ギャップペナルティー: 10.00、ギャップレングスペナルティー: 0.10、タンパク質重量マトリックスGonnet 250。この設定を、別段の指定がない限り、配列アラインメントのための標準的な設定として常に使用することとする。
【0017】
用語「少なくとも50%の配列同一性」は、本明細書で使用する場合、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または100%を意味する。
【0018】
本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドは、配列番号1に示されているとおりの参照ポリペプチド配列と同数のアミノ酸を有してよい。追加のアミノ酸残基を有するか、またはアミノ酸残基が少ないポリペプチドも、本発明に含まれる。一態様では、本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドは、配列番号1または2の短縮変異体、あるいは、配列番号1または2の配列と少なくとも50%の配列同一性を有するポリペプチドの短縮変異体であるか、それを含む。配列番号2の短縮変異体は、例えばアミノ酸位置249のN末端側で1個または複数個のアミノ酸残基を欠失していてよい。短縮変異体は、タンパク分解性に活性なN末端もしくはC末端短縮変異変異体および/または内部短縮変異体であってよい。一態様では、配列番号2の上記短縮変異体は、配列番号2のアミノ酸位置1〜248を欠失している。別の態様では、配列番号2の短縮変異体は、C末端短縮変異体である。一態様では、この短縮変異体は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、50、100、150まで、または170までの連続するアミノ酸残基を欠失している。別の態様では、本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドは、少なくとも200aa残基、少なくとも250aa残基、少なくとも300aa残基、または少なくとも333aa残基のアミノ酸長を有する。別の態様では、本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドは、333aa残基まで、350aa残基まで、573残基まで、581aa残基まで、592aa残基まで、600aa残基まで、または617aa残基までを有する。
【0019】
別の態様では、本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドは、配列番号1のポリペプチド鎖または配列番号1の配列と少なくとも50%の配列同一性を有するポリペプチド配列のN末端側もしくはC末端側および/またはその内部位置に、追加のアミノ酸残基を含むポリペプチドを包含する。これらの追加のアミノ酸残基は、5まで、10まで、またはさらに200、300、もしくは400までの連続するアミノ酸残基を含んでよい。一態様では、追加のアミノ酸残基は、タンパク質分解活性の阻害物質として機能する。別の態様では、追加のアミノ酸残基を、プロテアーゼによって除去することができる。別の態様では、本発明のポリペプチドのタンパク質分解活性を阻害する追加の残基を排除する。追加のアミノ酸残基は、1つまたは複数のプロテアーゼ切断部位に隣接していてよい。別の態様では、追加のアミノ酸配列は、検出可能なタグとして機能し、かつ/または固体支持体への結合を可能にする。
【0020】
別の態様では、配列番号1のポリペプチド鎖または配列番号1の配列と少なくとも50%の配列同一性を有するポリペプチド配列は、1個または複数個のアミノ酸残基の交換によって改変されている。用語「交換(exchanging)」は、本明細書で使用する場合、あるアミノ酸を別のアミノ酸で置き換えることを意味する。例えば、1aaまで、2aaまで、3aaまで、4aaまで、5aaまで、6aaまで、7aaまで、8aaまで、9aaまで、10aaまで、15aaまで、20aaまで、または50aaまでが、このポリペプチド配列内で置き換えられていてよい。例えば、本発明のポリペプチドの基質結合活性またはタンパク質分解活性を増大または減少させることを目的として、この交換は、保存的または非保存的アミノ酸変化を伴ってよい。
【0021】
一態様では、本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドは、基質を2つ以上の天然の切断産物(複数可)へと加水分解することができるポリペプチドを包含する。別の態様では、本発明のポリペプチドは、基質を、天然の切断産物とは異なる2つ以上の切断産物に加水分解する。用語「天然の切断産物(native cleavage products)」または「天然の産物(native products)」は、本明細書で使用する場合、野生型細胞の培養物において生じる産物であって、その培養物に由来する同一の基質から生じる産物と比較したときに、アミノ酸配列において同一である産物を指す。一態様では、この切断産物は、ボツリヌス神経毒または破傷風神経毒の二本鎖神経毒であり、別の態様では、この二本鎖神経毒は、血清型A、B、C1、D、E、F、またはGのボツリヌス菌から単離される神経毒である。また別の態様では、上記二本鎖神経毒は、天然の二本鎖神経毒である。
【0022】
【表1-1】
【表1-2】
【0023】
上記および下記でなされている用語の定義および説明は、別段に示さない限り、必要な変更を加えることで、本明細書に記載のすべての態様について当てはまることを理解されたい。
【0024】
本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドは、様々な用途に適している。商業的に関連する用途は、例えばボツリヌス菌から単離された、治療用神経毒の生産におけるその使用である。現在、ボツリヌス神経毒の市販の製剤を調製するために使用されるボツリヌス菌の細胞培養物は、かなりの量の部分的にプロセシングされた神経毒および/またはプロセシングされていない神経毒で汚染されており、それらは両方とも、これらの医薬組成物の特異的な活性をマイナスに損なう、すなわち、低減する。例えば、ボツリヌス菌の溶解の後に、タンパク分解性に活性であるか、または活性化された本発明のポリペプチドを使用することで、プロセシングされていない神経毒および/または部分的にプロセシングされた神経毒を含む組成物を処理して、これらの汚染物質を完全にプロセシングされた神経毒に変換することが今や可能となる。その結果として、神経毒の特異的活性が増大した商品を提供することができ、その際、細菌タンパク質の総量を低減することができ、さらに、抗体形成の患者リスクも低減する。
【0025】
別の態様では、本発明は、本発明のポリペプチドをコードする核酸配列と、随意により、調節エレメントとを含む核酸分子に関する。用語「調節エレメント」は、本明細書で使用する場合、転写および翻訳を含む遺伝子発現の調節エレメントを指し、これには、TATAボックス、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合部位、シャイン・ダルガーノ配列、IRES領域、ポリアデニル化シグナル、末端キャッピング構造などのエレメントが含まれる。上記調節エレメントは、1つもしくは複数の異種調節エレメントまたは1つもしくは複数の同族調節エレメントを含んでよい。「同族調節エレメント(homologous regulatory element)」は、本発明の核酸分子が由来する野生型細胞において当該核酸分子またはポリペプチドの遺伝子発現の調節に関係する野生型細胞の調節エレメントである。本発明は、異種調節エレメントを含む核酸分子も包含する。用語「異種調節エレメント(heterologous regulatory element)」は、上記野生型細胞において当該核酸分子またはポリペプチドの遺伝子発現の調節に関係していない調節エレメントである。誘導性プロモーターなどの誘導性発現のための調節エレメントも包含される。核酸分子は、例えば、hnRNA、mRNA、RNA、DNA、PNA、LNA、および/または修飾された核酸分子であってよい。この核酸分子は、環状、線状であってよく、ゲノム中に組み込んだものまたはエピソーム性であってよい。3、4、5、6、7、8、9、または10個の本発明のポリペプチドを含む融合タンパク質をコードする鎖状体も、包含される。さらに、この核酸分子は、細胞内区画へと輸送するためのシグナルまたは細胞膜を通過して輸送するためのシグナルなどの、細胞内輸送するためのシグナル配列をコードする配列を含有してもよい。
【0026】
別の態様では、本発明は、本発明の核酸分子による核酸分子を含むベクターに関する。ベクターは、本発明のポリペプチドのインビトロおよび/またはインビボ発現に適し得る。このベクターは、一過性および/または安定な遺伝子発現のためのベクターであってよい。一実施形態では、このベクターは、調節エレメントおよび/または選択マーカーをさらに含む。上記ベクターは、一実施形態では、ウイルスに由来するものであり、別の実施形態では、ファージに由来するものであり、また別の実施形態では、細菌に由来するものである。
【0027】
別の態様では、本発明は、本発明の核酸分子またはベクターを含む細胞に関する。用語「細胞」には、本明細書で使用する場合、上記核酸分子または上記ベクターを、とりわけ本発明のポリペプチドを発現するために適した原核細胞および/または真核細胞が包含される。上記細胞は、本発明のポリペプチドまたはそのホモログを発現しない宿主細胞であってもよい。用語「ホモログ」は、本明細書で使用する場合、配列番号1の配列と少なくとも50%の配列同一性を有するポリペプチド配列を含むポリペプチドを指す。しかしながら、本発明のポリペプチドまたはそのホモログを発現する細胞、とりわけ野生型細胞も、本発明に包含される。特定の一態様では、本発明の細胞は、ボツリヌス菌、酪酸菌(C.butyricum)、クロストリジウム・バラティ(C.baratii)、および破傷風菌から選択される。好ましい一態様では、この細胞は、血清型A、B、またはFのボツリヌス菌である。別の態様では、上記細胞は、ボツリヌス菌のHall株(ATCC3502)である。別の態様では、上記細胞は、ボツリヌス菌のNCTC4587およびNCTC7272としても公知のBoNT/A産生株ATCC19397である。別の態様では、上記細胞は、ボツリヌス菌のBoNT/A産生株NCTC2916である。別の態様では、上記細胞は、ボツリヌス菌のBoNT/A2産生株Kyoto-FおよびMauritius/NCTC9837である。別の態様では、上記細胞は、ボツリヌス菌のBoNT/A3産生株A254 Loch Maree/NCTC2012である。別の態様では、上記細胞は、ボツリヌス菌のBoNT/A4およびB産生株CDC657である。別の態様では、上記細胞は、ボツリヌス菌のBoNT/A5およびB3’産生株H04402 065である。別の態様では、上記細胞は、ボツリヌス菌のBoNT/B1産生株Okra/NCTC7273である。別の態様では、上記細胞は、ボツリヌス菌のBoNT/BおよびF産生株CDC4013/NCTC12265である。別の態様では、上記細胞は、ボツリヌス菌のBoNT/F1産生株Langeland/NCTC10281である。別の態様では、上記細胞は、スポロゲネス菌(Clostridium sporogenes)、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)、クロストリジウム・アセトブチリクム(Clostridium acetobutylicum)、セレウス菌(B.cereus)、バチルス・チューリンゲンシス(B.thuringiensis)、バチルス・ミコイディス(B.mycoidis)、バチルス・サーモプロテオリティクス(B.thermoproteolyticus)、炭疽菌(B.anthracis)、巨大菌(B.megaterium)、枯草菌(B.subtilis)、大腸菌(E.coli)、または酵母細胞である。一態様では、本発明のポリペプチドは、細胞内部で修飾される(すなわち、グリコシル化、リン酸化、プロテアーゼによるプロセシングなど)。修飾には、金属イオンを含めた非タンパク質補因子の付加も含まれる。上記のタンパク分解性に不活性なポリペプチド、任意の中間体ポリペプチド産物、さらに、本明細書において開示する最終的なタンパク分解性活性ポリペプチドを含む細胞は、本発明に包含される。本発明のポリペプチドの発現の誘導因子を含む細胞も、本発明に包含される。発現のそのような誘導因子は、細胞培養物またはその可溶化液中の本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドの量または活性を増大する効果を有する核酸分子、またはポリペプチド、または小分子の化学成分を含めた化学成分であってよい。発現の誘導因子は、例えば、本発明のポリペプチドをコードする核酸分子の転写または翻訳を増大し得る。別法では、発現の誘導因子は、タンパク分解性に不活性なポリペプチド配列番号2または配列番号2の配列と少なくとも50%の配列同一性を有するポリペプチド配列を含むポリペプチドを活性化させることができる化合物であってよい。一態様では、上記細胞は、上記ポリペプチドのN末端から阻害性アミノ酸残基を除去することができるタンパク分解性活性ポリペプチドである誘導因子を含む。この誘導因子は、例えば、当業者に公知の組み換え手段によって発現させることができる。別法では、この誘導因子は、細胞、例えば、クロストリジウム細胞から単離することができる。
【0028】
本発明はまた、本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドを製造するための本発明の核酸分子の使用に関する。
【0029】
関連する一態様では、本発明は、タンパク分解性活性ポリペプチドを製造するための方法であって、(a)配列番号1の配列と少なくとも50%の配列同一性を有するポリペプチド配列を含むポリペプチドを化学的に合成するか、またはヌクレオチド配列から翻訳するステップと; (b)ステップ(a)のポリペプチドを精製するステップとを含む方法に関する。
【0030】
用語「化学的に合成」は、化学的手段によってポリペプチドを合成することを意味する。そのような方法は、例えば、Nilssonら、Ann. Rev. Biophys. Biomol. Struct. 2005. 34: 91〜118において総説されている。用語「ポリペプチドを精製」は、本発明のポリペプチドを含む混合物から、上記ポリペプチド以外の化合物を除去することを意味する。この用語は他にも、本発明のポリペプチドを、上記ポリペプチド以外の化合物を含む混合物から除去することを意味する。特定の一態様では、この用語は、タンパク分解性活性ポリペプチドを、タンパク分解性に不活性なその前駆体から分離することを意味する。
【0031】
当該核酸を、細胞または無細胞系において翻訳することができる。当業者は、無細胞翻訳のための様々な系を利用することができる。本発明は、例えば、ウサギ網状赤血球可溶化液、コムギ麦芽可溶化液、大腸菌可溶化液、または他の細胞可溶化液、例えば、ボツリヌス菌から生じる可溶化液などを含む無細胞タンパク質翻訳系における翻訳を包含する。本発明のポリペプチドを、本発明のヌクレオチド配列または本発明のベクターから翻訳することも包含される。転写を、1種または複数種の異種調節エレメントによって、または同族調節エレメントによって調節または制御することができる。ボツリヌス菌、酪酸菌、クロストリジウム・バラティ、および破傷風菌の任意の既知の分離株などの野生型細胞、すなわち、天然から単離された細胞における翻訳も、本発明のこの態様に包含される。特定の一態様では、上記細胞は、ボツリヌス菌Hall株(ATCC3502)である。当業者は、核酸分子またはベクターを細胞に入れて、本発明のポリペプチドを細胞中で組換えタンパク質として発現させるために、様々な標準的な手段および方法を利用することができる。さらに、当業者には、ポリペプチドを細胞もしくは細胞可溶化液、または無細胞発現系から単離するための多くの標準的な技術が知られている(例えば、Recombinant DNA Principles and Methodologies、J. Green、Marcel Dekker Inc.、1998; The Condensed Protocols: From Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Sambrookら、Cold Spring Harbor Laboratory、2006; Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Sambrookら、 Cold Spring Harbor Laboratory、2000)。これらの手段および方法はいずれも、本発明の方法において使用することができる。
【0032】
本発明の第1のポリペプチドは、タンパク分解性活性ポリペプチドをコードする核酸分子から翻訳することができる。配列番号26は、そのような核酸分子の例である。別法では、上記核酸分子は、タンパク分解性に不活性であるが、本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドに変換され得る前駆体ポリペプチドをコードしてもよい。配列番号27は、そのような核酸分子の例である。このタンパク分解性に不活性な前駆体は、「不活性BoNTヒドロラーゼ(inactive BoNTHydrolase)」、略してiBHとも称される。このタンパク分解性に不活性なポリペプチドは、翻訳の間にもしくは翻訳の後などに、例えば、当該タンパク分解性に不活性なポリペプチドを、タンパク分解性に不活性なポリペプチドのN末端にある不活性化アミノ酸残基を除去することができるプロテアーゼと接触させることによって、活性化させることができる。タンパク分解性に不活性なポリペプチドの例は、配列番号2によって表されるポリペプチドである。別の例は、配列番号2の配列と少なくとも50%の配列同一性を有するポリペプチド配列を含むポリペプチドである。用語「N末端にある不活性化アミノ酸残基」は、一態様では、上記ポリペプチドの最初の248aa残基に関する。別の態様では、この用語は、上記ポリペプチドの10aa、50aa、100aa、150aa、200aa、250aa残基までからなる断片を指す。これらのポリペプチドはいずれも、タンパク分解性活性ポリペプチドを製造するための本発明の方法において有用である。一態様では、不活性化アミノ酸残基をこのポリペプチドのN末端から除去することができるプロテアーゼを、例えば、ボツリヌス菌、酪酸菌、クロストリジウム・バラティ、および破傷風菌から単離する。別の態様では、上記不活性化アミノ酸を除去することができるプロテアーゼを、上記細胞の分画されているか、または分画されていない可溶化液を得ることによって提供する。不活性化アミノ酸残基は、タンパク分解性に不活性なポリペプチドを上記可溶化液と接触させ、かつタンパク分解性に不活性なポリペプチドがタンパク分解性活性ポリペプチドに変換されるまで、インキュベーションすることによって除去することができる。
【0033】
本発明の方法の別の態様では、当該ポリペプチドを細胞内で翻訳する。この細胞は、原核細胞または真核細胞であってよい。一態様では、この細胞は、大腸菌、枯草菌、または酵母から選択される。野生型細胞、すなわち、ボツリヌス菌、酪酸菌、クロストリジウム・バラティ、および破傷風菌の任意の既知の分離株などの天然から単離される細胞中での本発明のポリペプチドの翻訳も、本発明に包含される。特定の一態様では、上記細胞は、ボツリヌス菌Hall株(ATCC3502)である。別の特定の態様では、上記細胞は、本明細書において上記した本発明の細胞である。
【0034】
本発明の方法によって得られる翻訳産物は、すべて当業者に公知の様々な手段によって精製することができる(例えば、Recombinant DNA Principles and Methodologies、J. Green、Marcel Dekker Inc.、1998; The Condensed Protocols: From Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Sambrookら、Cold Spring Harbor Laboratory、2006; Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Sambrookら、Cold Spring Harbor Laboratory、2000)。本発明のポリペプチドを精製する典型的な方法は、細胞可溶化液のスピン、タンパク質の硫酸アンモニウム沈殿、タンパク質の再懸濁、再懸濁したタンパク質の遠心分離、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィーなどを伴ってよい。種々の順序でのそのようなステップの組み合わせのいくつかは、本発明のポリペプチドを精製するために有用であり得る。本発明のポリペプチドを精製するための好ましい方法は、本発明を例示する実施例において記載する。
【0035】
一態様では、精製ステップは、本発明のポリペプチドを固体支持体に結合させることを含む。用語「固体支持体」は、例えば、シリカ、架橋デキストラン、架橋ポリアクリルアミド、または架橋アガロースなどを含めたマトリックスを指す。他にも、とりわけ、ポリペプチド、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン、ナイロン、アミラーゼ、天然および変性セルロース、ポリアクリルアミド、斑れい岩、および磁鉄鉱が含まれる。固体支持体は、本発明の一態様では、セファロース、セファデックス、アガロース、セファセル(sephacell)、ミクロセルロース、およびアルギン酸ビーズからなる群から選択される多糖マトリックスである。別の態様では、上記固体支持体は、ガラスビーズおよび/またはポリペプチドマトリックスからなってよい。
【0036】
一態様では、この固体支持体は、本発明の抗体に連結される。用語「連結される」は、一態様では、安定に連結されているか、または安定に結合されることを意味する。別の態様では、「連結される」には、間接的もしくは直接的結合、非可逆的もしくは可逆的結合、物理的および化学的結合、静電結合、ならびに/または共有結合などの相互作用が含まれる。一態様では、この抗体は、直接的に、またはリンカー分子を介して、固体支持体に共有結合される。この抗体は、小分子化合物およびペプチド(またはポリペプチド)リンカー分子を含めたリンカーを介して、上記固体支持体に結合されてもよい。この固体支持体は、カップリングされた抗体がその抗原に結合することができる限り、事実上、任意の可能な構造的立体配置または配置を有することができる。したがって、このマトリックスまたは固体支持体は、ビーズにおいてのように球形、または試験管の内表面もしくはロッドの外表面においてのように円柱形であってよい。別法では、この表面は、不規則であるか、またはシートもしくは試験片などのように平坦であってよい。
【0037】
固体支持体に連結している上記抗体は、例えば、本発明の製造方法において、または診断方法において使用することができる。一態様では、上記製造方法は、固体支持体に連結している抗体に基づくアフィニティークロマトグラフィーのステップを含んでよい。一実施形態では、上記抗体は、本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドに特異的に結合する抗体である。別の実施形態では、上記抗体は、本発明のタンパク分解性に不活性なポリペプチドに特異的に結合する抗体である。
【0038】
別の態様では、本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドを製造するための方法は、本発明のポリペプチドを、追加の成分を含有する混合物から精製するステップを含む。精製は、例えば、極性、電荷、およびサイズに基づき得る。したがって、この方法は、一態様では、順相HPLC、逆相HPLC、親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、アニオン交換クロマトグラフィーおよびカチオン交換クロマトグラフィーを含めたイオン交換クロマトグラフィー(IEC)、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)からなる群から選択される1つまたは複数の分離ステップを含んでよい。
【0039】
別の態様では、上記精製は、(a)アニオン交換クロマトグラフィーによる分離; (b)サイズ排除クロマトグラフィーによる分離; (c)疎水性相互作用クロマトグラフィーによる分離; および(d)サイズ排除クロマトグラフィーによる分離のステップを含む。
【0040】
クロマトグラフィーカラムから収集された1つまたは複数の画分を、沈殿または限外濾過によって濃縮することができる。
【0041】
一態様では、本発明は、本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドを含む組成物に関する。本明細書において開示する方法を使用することで、タンパク分解性に不活性なポリペプチドを実質的に含有しない本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドを製造することが可能である。言い換えると、本発明の方法は、タンパク分解性活性ポリペプチド、および本発明のポリペプチドの不活性な前駆体タンパク質での実質的な汚染を含まない組成物を提供する。ウェスタンブロットをベースとする検出方法を使用することによって、5%未満のタンパク分解性に不活性な前駆体が検出され得るならば、組成物は、実質的な汚染物を含有しないか、またはタンパク分解性に不活性な前駆体ポリペプチドを実質的に含有しないと考えられ、この際、上記5%は、タンパク分解性活性ポリペプチドおよび不活性なポリペプチドの合計に対するタンパク分解性に不活性な前駆体の量に関する。別の態様では、上記組成物は、実質的に純粋であり、かつ少なくとも50%の本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドを含み、この際、上記50%は、組成物中に含有されるタンパク質の合計量に対するタンパク分解性に活性な前駆体の量に関する。別の態様では、上記実質的に純粋な組成物は、少なくとも75%、80%、90%、または少なくとも98%のタンパク分解性活性ポリペプチドを含む。
【0042】
別の態様では、本発明はまた、本明細書において上記したとおり、かつ実施例において例示するとおりのタンパク分解性活性ポリペプチドを製造するための方法から得ることができるポリペプチドに関する。上記タンパク分解性活性ポリペプチドは、一態様では、配列番号1のポリペプチド配列を有するタンパク分解性活性ポリペプチドである。別の態様では、このタンパク分解性活性ポリペプチドは、配列番号1の配列と少なくとも50%の配列同一性を有するポリペプチドである。また別の態様では、このタンパク分解性活性ポリペプチドは、配列番号1の配列と少なくとも50%の配列同一性を有するポリペプチド配列を含むポリペプチドである。用語「得ることができるポリペプチド」は、本明細書で使用する場合、一態様では、本発明の核酸から翻訳されるポリペプチドを指す。このポリペプチドに引き続いて、アシル化、アルキル化、アミド化、アミノ酸付加、アミノ酸欠失、糖鎖付加、酸化、S-グルタチオン付加、リン酸化、硫酸化(sulphatation)、タンパク質プロセシングなどの翻訳後修飾を施すことができる。さらに、このポリペプチドは、Li+、Na+、K+、Ag+、Cs+、Mg2+、Ca2+、Co2+、Ni2+、Mn2+、Cu2+、またはZn2+などの金属イオンに結合し得る。好ましくは、上記金属イオンは、Zn2+、Mn2+、またはCo2+である。
【0043】
本発明はまた、一態様では、本発明のポリペプチドに特異的に結合する抗体に関する。用語「抗体」には、本明細書で使用する場合、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単鎖抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、霊長類化抗体、キメラ化抗体、二重特異性抗体、合成抗体、化学的もしくは酵素的に修飾された誘導体、上記抗体の任意の断片、または天然に存在する核酸および/または化学的に修飾された核酸からなるアプタマーが包含される。上記抗体の断片には、F(ab’)2、F(ab)、Fv、もしくはscFv断片、またはこれらの断片の任意の化学的もしくは酵素的に改変された誘導体が含まれる。
【0044】
一態様では、本発明の抗体は、本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドまたはそのタンパク分解性に不活性な前駆体に特異的に結合するものとする。一態様では、本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドに特異的な抗体は、本明細書に記載のタンパク分解性に不活性なポリペプチドと交差反応する。別の態様では、この抗体は、本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドと、その不活性な前駆体とを識別することができる。別の態様では、上記抗体が特異的であるエピトープは、タンパク分解性に不活性なポリペプチドには存在するが、タンパク分解性活性ポリペプチドには存在しないアミノ酸領域に位置する。例えば、上記エピトープは、配列番号2の配列と少なくとも50%の配列同一性を有するポリペプチド配列を含むポリペプチドのアミノ酸残基1〜248からなるポリペプチド領域のエピトープであってよい。
【0045】
別の態様では、このエピトープは、配列番号2の配列と少なくとも50%の配列同一性を有するポリペプチド配列を含むポリペプチドのアミノ酸249のN末端側に位置するアミノ酸残基によって形成される。別の態様では、上記エピトープは、タンパク質プロセシングによって、本明細書に記載のタンパク分解性に不活性なポリペプチドから除去される。
【0046】
別の態様では、本発明の抗体が特異的なエピトープは、配列番号1の配列と少なくとも50%の配列同一性を有するポリペプチド配列を含むポリペプチドのN末端に位置するエピトープである。用語「N末端」は、本発明のこの態様で使用する場合、上記ポリペプチド配列のN末端の50アミノ酸残基、好ましくは上記ポリペプチド配列のN末端の25アミノ酸残基を含むポリペプチドの領域を指す。特定の一態様では、この用語は、N末端の14アミノ酸残基を指す。用語「エピトープ」は、本明細書で使用する場合、本発明の抗体によって認識される抗原決定基に関する。一態様では、このエピトープは、線状エピトープであり、別の態様では、このエピトープは、高次構造エピトープである。特定の一態様では、この抗原決定基は、本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドのN末端のアミノ酸配列を有するペプチドからなり、この際、上記ペプチドは、7〜14アミノ酸残基、好ましくは8、9、10、11、12、13、または14アミノ酸残基のアミノ酸長を有し得る。
【0047】
用語「特異的に結合」または「に特異的に結合」は、一態様では、本発明の抗体が、本発明のポリペプチド上、または他のポリペプチド上の他のエピトープと一般に、有意な規模で交差反応しないことを意味する。エピトープ特異性は、本発明の抗体の重要な特徴である。当該抗体の特異性は、タンパク分解性活性ポリペプチドに関して、タンパク分解性に不活性なポリペプチドとの比較で、一態様では、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%であることとする。特異的な結合は、例えば、競合研究を含む様々な周知の技法によって試験することができる。別の重要な特徴は、抗体の感度である。感度は、本発明の一態様では、試料に含まれるエピトープの少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%が結合するようなものとする。感度は、周知の技法によって試験することができる。当業者であれば、日常的な実験を使用することによって、各決定のために有効かつ最適なアッセイ条件を決定することができるであろう。結合研究のための従来の技法には、ラジオイムノアッセイ、ELISA、平衡透析法、等温微量熱量測定、BIACORE(登録商標)アッセイ(表面プラズモン共鳴、SPR)、または他の表面吸着法が含まれる。BIACORE(登録商標)SPRシステムでは、抗体-抗原相互作用を測定する。SPR応答は、分析物が結合または解離する際の、検出器表面での質量濃度の変化を反映する。SPRに基づき、リアルタイムBIACORE(登録商標)測定は、相互作用を、それらが生じる際に直接モニターする(BIAapplications Handbook、version AB(reprinted 1998)、BIACORE(登録商標) code No: BR-1001-86; BIAtechnology Handbook、version AB(reprinted 1998)、BIACORE(登録商標) code No: BR-1001-84を参照されたい)。本発明の抗体の感度などの結合特性は、基本的に、センサー表面上に提供されている固定化された抗原(リガンド)を使用する結合研究によって決定することができる。試験されるべき抗体(分析物)は、移動相中に、すなわち、溶液中に供給されるであろう。場合によっては、抗原は、捕捉分子と称される別の固定化分子との結合を介して、表面に間接的に結合されている。抗体が、固定化された抗原を有する表面に1個のパルスで注入されるとき、本質的に3つの相が細分され得る: (i)試料を注入している間の抗体と抗原との結合; (ii)抗体結合の速度が抗体-抗原複合体からの解離と釣り合う、試料を注入している間の平衡または定常状態; (iii)緩衝液を流している間の、表面からの抗体の解離。そのようなアッセイは別法では、調査すべき固定化抗体および移動相としての抗原含有溶液を用いて行うことができることは理解されるであろう。結合相および解離相は、分析物-リガンド相互作用の反応速度についての情報をもたらす(kaおよびkd、複合体形成および解離の速度、kd/ka=KD)。平衡相は、分析物-リガンド相互作用の親和性についての情報をもたらす(KD)。本発明の一態様では、本発明の抗体は、0.5μM未満、別の態様では、0.05μM未満、および別の態様では、0.02μM未満のKDを有する。
【0048】
本発明において言及するとおりの抗体は、例えば、Harlow and Lane、1988(Harlow and Lane、「Antibodies, A Laboratory Manual」、 CSH Press、Cold Spring Harbor、1988)に記載されている方法を使用することによって製造することができる。モノクローナル抗体は、Kohler & Milstein、1975(Kohler & Milstein 1975、Nature 256: 495)およびGalfre & Milstein、1981(Galfre & Milstein 1981、Meth Enzymol 73: 3)に初めに記載された技法によって調製することができる。上記技法は、マウス骨髄腫細胞を、免疫化された哺乳動物に由来する脾臓細胞に融合させることを含む。当技術分野で周知の技法によって、抗体をさらに改良することができる。例えば、BIACORE(登録商標)システムで用いられるような表面プラスモン共鳴を使用して、本発明のポリペプチド内の上述のエピトープに結合するファージ抗体の効率を増大させることができる(Schierら、1996、Human Antibodies Hybridomas 7: 97; Malmborgら、1995、J. Immunol Methods 183: 7を参照されたい)。
【0049】
本発明の一態様では、この抗体を、上述のエピトープを含むか、またはそれからなるペプチドを使用することによって生産する。このペプチドは、例えば合成によって、または組換え発現によって生産することができる。別法では、本発明の抗体は、本発明の天然に生じるタンパク分解性活性ポリペプチドまたは不活性ポリペプチドを適用することによって生産することができる。後者の場合には、結果として生じた抗体を、本発明のポリペプチドに関する特異性についてさらに試験することとなることを理解されたい。本発明のさらなる態様では、そのエピトープを免疫学的に利用可能なものとするために、界面活性剤によって処理され得る本発明のポリペプチドを使用することによって、本発明のモノクローナル抗体を生産する。しかしながら、その抗体が高次構造エピトープに対して向けられたものである場合には、そのような界面活性剤処理は実施されないはずであることは理解されるであろう。さらなる一態様では、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)などの免疫刺激剤も、特に、合成ペプチドを使用するときには、そのようなプロセスに適用することができる。
【0050】
本発明の抗体は、例えば、本発明のポリペプチドのアフィニティークロマトグラフィー、免疫沈降、および免疫局在決定のために、さらに、試料または組換え生物中において上記ポリペプチドの存在をモニターするために使用することができる。さらに、本発明の抗体は、検出方法または診断方法において使用することができる。特定の一態様では、本発明の抗体をウェスタンブロットまたはELISAにおいて使用する。加えて、本発明の抗体は、治療用途において使用することができる。とりわけ、この抗体は、本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドの活性を阻害するために使用することができる。したがって、本発明の抗体は、本明細書において下記に記載する様々な治療用途も有する。
【0051】
本発明はまた、本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドを、ポリペプチドをタンパク分解性にプロセシングするための方法において使用することに関する。一態様では、本発明は、タンパク分解性にプロセシングされたポリペプチドを製造するための方法であって、(a)本発明のポリペプチドである第1のポリペプチドを、(b)上記第1のポリペプチドによるタンパク質分解に感受性の第2のポリペプチドと接触させるステップを含み、上記接触が、少なくとも2つの切断産物への上記第2のポリペプチドのタンパク質プロセシングを結果としてもたらす方法に関する。
【0052】
本発明はまた、ライソバクター・エンザイモゲネス(Lysobacter enzymogenes)(ATCC29487)に由来するLys-Nおよび/またはLys-Cおよび/またはアルギニルエンドペプチダーゼ(エンドプロテイナーゼArg-C、LeR)の使用に関する(Wright DS、Graham LD、Jennings PA. Biochim Biophys Acta. 1998 Dec 22; 1443(3): 369〜74)。さらに、BoNT/AなどのCNTをタンパク分解性にプロセシングするための方法において、プラスミンおよび/またはオンプチン(omptin)(OmpT)、((Arg/Lys)-(Arg/Lys)モチーフで切断する膜結合型セリンプロテアーゼ(K. SugimuraおよびT. Nishihara. J. Bacteriol. 170(1988)、5625〜5632頁))を使用することも包含される。一態様では、本発明は、タンパク分解性にプロセシングされたポリペプチドを製造するための方法であって、a)Lys-CまたはLys-Nである第1のポリペプチドを、(b)上記第1のポリペプチドによるタンパク質分解に感受性の第2のポリペプチドと接触させるステップを含み、上記接触が、少なくとも2つの切断産物への上記第2のポリペプチドのタンパク質プロセシングを結果としてもたらし、かつ第2のポリペプチドが、BoNT/Aの単鎖である方法に関する。用語「Lys-C」は、リシンのC末端側でペプチド結合を特異的に切断する、ライソバクター・エンザイモゲネスに由来する33kDaのセリンエンドプロテイナーゼLys-C(リシルエンドペプチダーゼ、LeK、Genbank受入番号Q7M135)または少なくとも60%の配列同一性を有するそのホモログを指す。用語「Lys-N」は、マイタケ(Grifola frondosa)およびヒラタケ(Pleurotus ostreatus)から単離されたメタロエンドペプチダーゼLys-Nを指す(Nonaka Tら、1997、J Biol Chem. 272: 30032〜30039; Nonaka Tら、1998、J Biochem. 1998 124: 157〜162; Hori Tら、2001、Acta Crystallogr D Biol Crystallogr. 57: 361〜368)。この用語には、少なくとも60%の配列同一性を有する上記プロテアーゼのホモログも包含される。
【0053】
この方法を、例えば、タンパク分解性にプロセシングされた神経毒(CNT)またはボツリヌス神経毒(BoNT)を製造するために使用することができる。用語「BoNT」は、本発明を通じて使用する場合には、ボツリヌス神経毒を意味し、血清型A、B、C1、D、E、F、またはGのBoNTなどの、ボツリヌス菌から得ることができる神経毒を指す。この用語「CNT」および「BoNT」には、化学的修飾または遺伝子改変を含めた1つまたは複数の改変を含む組換えおよび改変神経毒も包含される。用語「遺伝子改変」は、1個または複数個のアミノ酸残基の欠失、置換、または付加を意味する。本発明の方法を使用することで、プロセシングされていない神経毒または部分的にプロセシングされた神経毒によってかなり汚染されていない神経毒組成物を得ることが今や可能であるが、それというのも、これらの汚染物は、二本鎖神経毒へと効率的にプロセシングされるためである。一態様では、二本鎖神経毒は、軽鎖のC末端および重鎖のN末端が、野生型クロストリジウム属から単離される対応する完全にプロセシングされた二本鎖神経毒と同一である天然の二本鎖神経毒である。
【0054】
用語「接触させる」は、本明細書で使用する場合、少なくとも2種の異なる化合物を物理的に近接させて、上記化合物の物理的および/または化学的相互作用を可能にすることを指す。本発明の方法では、この上記2種の異なる化合物は、一態様では、溶液に含まれる第1および第2のポリペプチドである。接触は、第1および第2のポリペプチドの相互作用を可能にするために十分な条件下で、十分な時間にわたって実施される。用語「タンパク分解性にプロセシングされたポリペプチド」は、本明細書で使用する場合、一態様では、そのポリペプチド鎖が1つまたは複数のペプチド結合で加水分解または切断されているポリペプチドを指す。別の態様では、この用語は、エンドプロテイナーゼまたはエンドペプチダーゼによってタンパク分解性に切断されているポリペプチドを指す。別の態様では、この用語は、少なくとも50%程度まで切断されているポリペプチドを指す。別の態様では、上記タンパク分解性にプロセシングされたポリペプチドは、第2のポリペプチドである。別の態様では、少なくとも60%、70%、80%、90%、または95%がタンパク分解性にプロセシングされる。
【0055】
用語「第1のポリペプチド」は、本明細書で使用する場合、本発明のポリペプチド、すなわち、「活性なBoNTヒドロラーゼ」とも称されるタンパク分解性活性ポリペプチドまたは活性化ポリペプチドを指す。活性なBoNTヒドロラーゼは、ボツリヌス菌の上清から得ることができるので、これは、当初は天然のBoNTヒドロラーゼ(native BoNTHydrolase)、略して「nBH」と名付けられた。しかしながら、用語「第1のポリペプチド」および「nBH」は、他の供給源から得ることができるBoNTヒドロラーゼも指す。用語「第2のポリペプチド」は、本明細書で使用する場合、上記第1のポリペプチドの基質を指す。用語「タンパク質分解感受性の」は、第2のポリペプチドの特徴または要件を指し、本明細書において、その第2のポリペプチドが上記第1のポリペプチドによって、タンパク分解性に切断され得ることを意味するために使用される。言い換えると、用語「タンパク質分解感受性の」は、その第2のポリペプチドが、第1のポリペプチドの基質として機能することを可能にするプロテアーゼ認識および切断部位を含むことを意味する。「第2のポリペプチド」は、第1のポリペプチドの基質であり、2つ以上の切断産物にタンパク分解性にプロセシングされる。本明細書において上記したアッセイを使用することで、当業者は、所与のポリペプチドが、第1のポリペプチドの基質であり、したがって、本発明の定義による「第2のポリペプチド」であるかを試験することができる。用語「少なくとも2つの切断産物」は、例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、および6つまでの切断産物を含む。
【0056】
この方法は、例えば、クロストリジウム神経毒を含む医薬組成物を調製するために、または質量分析法で使用されるポリペプチド断片を生成するために使用することができる。第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドは、タンパク分解性にプロセシングされたポリペプチドの製造プロセスにおける様々なステップで接触させることができる。一態様では、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドを接触させるステップは、細胞内であってよい。この実施形態の特定の一態様では、第1および第2のポリペプチドを、上記細胞中で発現させる。
【0057】
別の態様では、上記接触ステップは、細胞可溶化液中、または精製細胞可溶化液中におけるものである。この態様は、第1のポリペプチドを当該細胞可溶化液または当該精製細胞可溶化液に加えることを包含する。第1のポリペプチドは、第2のポリペプチドを細胞可溶化液から精製する間の様々なステップで加えることができる。例えば、第1のポリペプチドは、タンパク質沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、および/またはサイズ排除クロマトグラフィーの前、またはその後に加えることができる。さらに、第1のポリペプチドを医薬組成物に加えることも包含される。この態様では、本発明のポリペプチドは、例えば、第2のポリペプチドをタンパク分解性に切断するために、例えば、医薬組成物中に含まれる治療薬である第2のポリペプチドを活性化させるために使用される。また、対象中の第2のポリペプチドをタンパク分解性にプロセシングするために、第1のポリペプチドを対象に投与することも企図される。投与には、第1および第2のポリペプチドの同時投与も含まれる。また、この方法には、第2のポリペプチドを切断するために十分な条件で、十分な時間にわたってインキュベーションするステップが包含される。一態様では、この条件は、100mMトリス-HCl、pH8.0またはPBS(50mM Na2HPO4、150mM NaCl、pH7.4)からなる群から選択される緩衝液を加えることを含み得る。好ましい緩衝液条件は、100mMトリス-HCl、pH8.0を含む。「切断するために十分な時間」は、本明細書において上記したアッセイを使用して決定することができる。一態様では、上記「切断するために十分な時間」は、タンパク分解性にプロセシングされたポリペプチドまたはそれを含む組成物が示すべき切断程度に左右される。一態様では、この方法は、第1および第2のポリペプチドを少なくとも30分間、60分間、120分間、または少なくとも240分間にわたってインキュベーションするステップを含む。別の態様では、第1および第2のポリペプチドを、30分間、60分間、120分間、240分間、480分間まで、または600分間までインキュベーションする。別の態様では、この方法は、第1および第2のポリペプチドを4℃にて、または37℃にてインキュベーションするステップを含む。別の態様では、この方法は、1時間、2時間、4時間、6時間、10時間、または16時間までインキュベーションするステップを含む。
【0058】
一態様では、上記第2のポリペプチドのポリペプチド鎖は、配列番号4〜25のいずれか1つから選択される配列を含む。より特定の一態様では、上記第2のポリペプチドのポリペプチド鎖は、配列番号4〜25のいずれか1つから選択される配列を含み、この際、この第2のポリペプチドは、配列番号4〜25のいずれか1つの上記配列内で塩基性アミノ酸残基のC末端側で切断される。上記配列は、本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドの既知の基質のアミノ酸配列を表す。本明細書において示すとおり、上記基質は、配列中に含まれる塩基性アミノ酸残基のC末端側で切断される。表1のLCおよびHNの欄を比較されたい。好ましい一態様では、上記第2のポリペプチドは、配列番号4〜10から選択される配列を含む。別の好ましい態様では、上記第2のポリペプチドは、例えば、配列番号3のポリペプチドおよびその誘導体を含めた、BoNT/Aまたはその誘導体である。用語「誘導体」は、本発明のこの態様および他の態様に関して使用する場合、1個または複数個のアミノ酸残基の付加、置換、欠失、または短縮などのアミノ酸変異を含む。
【0059】
一態様では、第2のポリペプチドは、配列番号4〜25または配列番号3のいずれか1つの誘導体を含み、当該誘導体は、1つまたは複数の点突然変異および/あるいは1個または複数個の追加のアミノ酸残基を有する。別の態様では、上記誘導体は、1つまで、2つまで、3つまで、4つまで、5つまで、6つまで、7つまで、8つまで、9つまで、10まで、15までの点突然変異を有する。本明細書に記載のとおりのプロテアーゼ活性を決定するための活性アッセイを使用することによって、当業者であれば、所与の誘導体が、本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドによってプロセシングされるかどうかを決定することができる。別の態様では、この誘導体は、塩基性アミノ酸残基を非塩基性アミノ酸残基へと変える点突然変異を含む。別の態様では、この誘導体は、配列番号4〜25のいずれか1つと少なくとも50%の配列同一性を有する。別の態様では、上記誘導体またはその誘導体を含むポリペプチドは、第1のポリペプチドの基質であり、かつ第1のポリペプチドによってタンパク分解性に切断され得る。典型的な例は、例えば、軽鎖または重鎖に1つまたは複数の点突然変異を含む配列番号3の誘導体である。
【0060】
別の態様では、上記第2のポリペプチドは、(a)配列番号3の配列[(ATCC3502のBoNT/A、Genbank受入番号AAA23262)]と少なくとも30%の配列同一性を有するポリペプチド配列; または(b)破傷風神経毒、凝固カスケード第X因子またはプロトロンビン(第II因子)のタンパク質、トリプシン、キモトリプシン、ペプシンなどの膵臓の消化酵素、パパインからなる群から選択されるポリペプチド配列を含む。少なくとも30%は、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも85%を意味する。特定の一態様では、配列番号3の配列と少なくとも50%の配列同一性を有する上記第2のポリペプチド配列の配列同一性は、配列番号3のアミノ酸位置420〜466に基づき決定され、別の態様では、上記配列同一性は、配列番号4〜25のいずれかに基づき決定される。言い換えると、上記態様は、例えば、配列番号3のアミノ酸位置420から466の間に存在するポリペプチド配列に対して少なくとも30%の配列同一性を、または配列番号4〜25のいずれか1つのポリペプチド配列に対して少なくとも30%の配列同一性を有するポリペプチド配列を含む第2のポリペプチドを指す。この定義によるポリペプチドは、例えば、ボツリヌス菌、破傷風菌、またはスポロゲネス菌から得ることができる。上記第2のポリペプチドは、例えば、BoNT/A、B、C1、D、E、F、もしくはGなどの天然に存在する神経毒、または1個または複数個のアミノ酸残基の付加、置換、欠失、または短縮などの1つまたは複数のアミノ酸変異を含むその誘導体であってよい。例えば、天然の神経毒のHCドメインまたはその部分を欠失した誘導体、または神経毒のHCドメインに置き換わる他のアミノ酸残基を含む誘導体、さらには、BoNTの軽鎖にN末端側で融合している追加の軽鎖または別のタンパク質カーゴ分子を有する誘導体などが包含される。
【0061】
別の態様では、第2のポリペプチドは、追加のアミノ酸残基をN末端もしくはC末端に、または内部位置に含有してよい。この追加のアミノ酸残基は、1個または複数個のプロテアーゼ切断部位に隣接してよい。別の態様では、この追加のアミノ酸配列は、検出可能なタグとして機能し、かつ/または固体支持体への結合を可能にする。一例は、hisタグまたはGSTタグである。別の例は、好ましくはC末端に付加したアミノ酸配列VPPTPGSAWSHPQFEKであり、Strepタグを含有する。
【0062】
特定の一態様では、上記第2のポリペプチドは、GenBank番号: CBZ04958.1、YP_002805603.1、ZP_02994746.1、YP_001788403.1、YP_001782718.1、ZP_02616437.1、ZP_02614241.1、YP_001392361.1、YP_001255575.1で示されるとおりのポリペプチド配列を含むポリペプチド、または少なくとも50%の配列同一性を有するそのホモログである。
【0063】
別の態様では、上記第2のポリペプチドの生物学的活性は、タンパク質切断によって変調される。タンパク質プロセシングによって、多くのポリペプチドの機能を変調することができることは、当業者にはよく知られている。「変調される」は、本明細書で使用する場合、増大または低下されること、活性化または不活性化されることを意味する。例えば、単鎖神経毒を、ジスルフィド架橋を介して共有結合している軽鎖および重鎖ポリペプチドからなる二本鎖神経毒へとタンパク分解性にプロセシングすることによって、多くのクロストリジウム神経毒の生物学的活性は増大または誘発される。神経毒の生物学的活性には、少なくとも3種の別々の活性が包含され: 第1の活性は、神経毒の軽鎖に存する「タンパク質分解活性」であり、これは、細胞膜融合の調節に関係する1種または複数種のポリペプチドのペプチド結合の加水分解を担っている。第2の活性は、プロセシングされた神経毒の重鎖のN末端部に存する「トランスロケーション活性」であり、これは、リソソーム膜を通過して、細胞質へと軽鎖を輸送することに関係している。第3の活性は、プロセシングされた神経毒の重鎖のC末端部に存する「受容体結合活性」であり、これは、標的細胞への神経毒の結合および取り込みに関係している。好ましい一態様では、生物学的活性との用語は、本明細書で使用する場合、タンパク質分解活性を意味する。より好ましい態様では、この用語は、増大したタンパク質分解活性を意味する。
【0064】
クロストリジウム神経毒の生物学的活性は、そのすべてが当業者に知られている様々な試験によって測定することができる。これらの試験は、上述の活性の1つまたは複数を決定することを可能にする。例えば、Pearceら、1994(Pearce LB、Borodic GE、First ER、MacCallum RD(1994)、Toxicol Appl Pharmacol 128: 69〜77)およびHabermannら、1980(Habermann E、Dreyer F、Bigalke H.(1980)、Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol. 311: 33〜40)によって記載されたとおりのマウスLD50アッセイまたはエクスビボでのマウス横隔神経半横隔膜(MPN)アッセイは、生きている生物または単離された神経筋調製物に対する所与の神経毒製剤の毒性作用を決定することを可能にする。LD50アッセイにおいて毒性作用を確立するために、この神経毒は、上述の上記3つの活性のそれぞれについて生物学的に活性である必要がある。さらに、例えば、ある神経毒またはその神経毒の軽鎖がタンパク分解性に活性であるかどうかを決定することを可能にする様々な他のアッセイを利用することができる。そのようなアッセイは、例えば、BoNT/AとSNAP-25との接触に基づく。別法では、SNAP-25の切断部位を表すペプチドを使用することができ、この際、このペプチドを標識して、検出を容易にすることができる。好ましい一態様では、生物学的活性を、本明細書において上記したMPNアッセイを使用することによって決定する。
【0065】
別の態様では、上記第1のポリペプチドは、配列番号2の配列と少なくとも60%の配列同一性を有するポリペプチド配列を含む不活性な前駆体ポリペプチドをタンパク分解性にプロセシングすることによって活性化される。この態様は、配列番号2のポリペプチド配列を有するポリペプチドはタンパク分解性に不活性であるが、そのN末端の短縮物はタンパク分解性に活性であるという観察に基づく。タンパク分解性に不活性なポリペプチドを本明細書に記載の方法において使用することも、本発明によって企図される。本明細書に記載のタンパク分解性に不活性なポリペプチドは、例えば、N末端から断片を、または配列番号2のアミノ酸残基1〜248を含むN末端全体を除去することによって活性化させることができる。一態様では、このN末端は、プロテアーゼによって除去され、別の態様では、このN末端は、配列番号2の自己タンパク質分解によって除去される。60%の配列同一性は、全長NT02CB1447との配列アラインメントに関する。
【0066】
別の態様では、タンパク分解性にプロセシングされたポリペプチドを製造するための本発明の方法は、タンパク分解性にプロセシングされた第2のポリペプチド、または少なくとも1種もしくは2つ以上のその切断産物を精製するステップを含む。ボツリヌス菌によって発現されたBoNT/Aの精製は、例えば、従来技術において主に記載されているとおりに行うことができる(DasGupta 1984、Toxicon 22、415; Sathyamoorthy 1985、J Biol Chemistry 260、10461)。とりわけ、神経毒の精製は、1つまたは複数の沈殿-抽出ステップ、1つまたは複数の濃縮ステップ、およびさらに、別個のクロマトグラフィーステップを含み得る。組換え単鎖BoNT/Aおよびその精製は、従来技術において記載されている(Rummelら、2004、Mol Microbiol. 51: 631〜43)。
【0067】
好ましい実施形態では、クロストリジウム株は、例えば、BoNT/A、またはその誘導体を産生するボツリヌス菌である。発酵のために、DasGupta B. R.ら(Toxicon、vol. 22、No.3、414〜424頁、1984)によって記載されたプロセスを使用することができる。したがって、0.5%酵母抽出物および0.6%オートクレーブ処理済み酵母ペーストを2%のN-ZアミンA型培地に加え、かつ4N NaOHを用いて、pHを7.2に調節し、そのように調製した培地をその後、オートクレーブ処理することとなる。この培地に、別にオートクレーブ処理したグルコース(体積に対して20重量%)を加えて、培地中において最終グルコース濃度が0.5%になるようにすることができる。インキュベーションは、例えば、37℃にて撹拌することなく行うことができ、この際、発酵を、例えば、96時間後に中止する。上記のバッチ式発酵の他にも、半バッチ式発酵、反復バッチ式発酵、または連続発酵を行うこともできることは、本発明の範囲内である。
【0068】
実際の発酵および細胞からの発酵培地の分離の後に、大きなタンパク質を除去することを目的として、発酵培地を第1の沈殿に掛けることができる。この沈殿は、好ましくは、酸沈殿である。そのような酸沈殿のための反応条件は、当業者に知られている。典型的には、1.5M H2SO4を使用して、上清を3.5のpHに酸性化することができる。遠心分離を通常は、2400×g、4℃にて20分間にわたって行う。遠心分離で得られたペレット状物を水で、好ましくは繰り返し洗浄することができる。引き続いて、このペレット状物を、0.1Mクエン酸-クエン酸三ナトリウム緩衝液、pH5.5で、例えば1時間にわたって抽出することができる。引き続いて、さらなる遠心分離ステップを、例えば、9800×g、4℃にて、20分間にわたって行うことができる。次いで、そうして得られたペレット状物を、随意により、上記のとおり再び抽出することができる。次いで、抽出の上清、抽出を繰り返した場合には両方の上清を、硫酸プロタミン沈殿に掛けることができる。この沈殿を、例えば、8℃にて一晩続けることができる。引き続いて、その沈澱物を、例えば、4℃および12,000×gにて20分間にわたって遠心分離することができる。この遠心分離の上清を、硫酸アンモニウム沈殿などの沈殿に掛けることができ、それによって、他の比較的大きなタンパク質を除去することができる。硫酸アンモニウム沈殿ステップの後に、別の遠心分離ステップを加えることができ、引き続いて、そうして得られたペレット状物を再び溶解させ、および随意により、透析に掛けることができる。好ましくは、透析し、かつ再び遠心分離した抽出物を、神経毒を精製することを目的として、連続するクロマトグラフィーステップに掛けることができる。このクロマトグラフィーステップはそれぞれ、硫酸プロタミン、残りのDNA、比較的小さなタンパク質部分、および中型タンパク質などの汚染物、さらに、ボツリヌス神経毒タンパク質複合体の血球凝集素を除去するために役立つ。この目的のために、好ましい実施形態では、1つまたは複数のクロマトグラフィーステップを使用することができる。随意により、微生物を低減するために、例えば、最後のクロマトグラフィーステップの溶離液を濾過することができる。随意により、この溶離液を濾過の前に希釈することができ、また、適切なアジュバントを加えることができる。さらなるステップの間に、アジュバントを加えた後に、別の滅菌濾過を実施することができる。一態様では、この濾過を、反応容器中で実施し、次いでこれを、凍結乾燥のステップに掛けることができる。
【0069】
本発明はまた、タンパク分解性にプロセシングされたポリペプチドを製造するための本発明の方法によって得ることができる組成物に関する。一態様では、上記組成物は、プロセシングされた第2のポリペプチドおよびプロセシングされていない第2のポリペプチドの混合物を含み、この際、上記混合物は、5%、4%、3%、2%、または1%未満のプロセシングされていない第2のポリペプチドを含有してよい。上記組成物の一態様では、上記第2のポリペプチドは、BoNTまたはその誘導体である。このBoNTは、例えば、その誘導体を含めた血清型A、B、C、D、E、F、およびGのBoNTからなる群から選択され得る。この組成物は、例えば、液体組成物または固体組成物であってよく、また、1種または複数種の担体、アジュバント、および/または添加剤を含有してよい。
【0070】
別の態様では、本発明はまた、医薬品、すなわち、医薬組成物を製造するための方法であって、上述の方法のステップと、精製された二本鎖神経毒を医薬品として製剤化するさらなるステップとを含む方法に関する。一態様では、上記医薬品は、プロセシングされた第2のポリペプチドおよびプロセシングされていない第2のポリペプチドの混合物を含むが、この際、上記混合物は、5%未満のプロセシングされていない第2のポリペプチドを含有する。好ましい実施形態では、この混合物は、4%、3%、2%、または1%未満のプロセシングされていない第2のポリペプチドを含有する。
【0071】
本発明はまた、本明細書において開示する化合物の様々な医学的使用に関する:
【0072】
一態様では、本発明は、医薬品として、または医薬組成物中で使用するための本発明によるタンパク分解性活性ポリペプチドに関する。
【0073】
別の態様では、本発明は、医薬品として、または医薬組成物中で使用するための本発明による組成物に関する。
【0074】
また別の態様では、本発明は、医薬品として、または医薬組成物中で使用するための本発明による抗体に関する。
【0075】
また別の態様では、本発明は、医薬品として、または医薬組成物中で使用するための本発明による阻害物質に関する。
【0076】
とりわけ、本発明は、本発明のポリペプチド、本発明の抗体、本発明の組成物、または本発明の阻害物質を含む医薬組成物に関する。
【0077】
用語「組成物」は、本明細書で使用する場合、固体、液体、エアロゾル状(またはガス状)の形態などに製剤化された任意の組成物を指す。上記組成物は、例えば、本発明の治療的に活性な化合物を、随意により、賦形剤もしくは担体などの適切な補助化合物、またはさらなる成分と一緒に含む。一態様では、この治療的に活性な化合物は、本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドである。別の態様では、この治療用化合物は、二本鎖神経毒などの本明細書において上記したとおりのタンパク分解性にプロセシングされた第2のポリペプチドである。別の態様では、この治療的に活性な化合物は、本発明の抗体である。別の態様では、この治療的に活性な化合物は、本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドの阻害物質である。
【0078】
この文脈において、本発明では、補助化合物、すなわち、その所望の目的のために組成物を適用する際に、本発明の化合物によって誘発される作用に寄与しない化合物と、さらなる成分、すなわち、さらなる効果をもたらすか、または本発明の化合物の作用を変調する化合物とは、区別される。適切な賦形剤および/または担体は、組成物が使用されるべき目的および他の成分に左右される。当業者であれば、さらなる面倒を伴うことなく、そのような適切な賦形剤および/または担体を決定することができる。
【0079】
担体(複数可)は、製剤の他の成分と適合性であり、かつその受容者に対して有害ではないという意味において、許容される必要がある。用いられる医薬担体には、固体、ゲル、または液体が含まれ得る。例示的な固体担体は、ラクトース、石膏、スクロース、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アラビアゴム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸などである。例示的な液体担体は、リン酸緩衝食塩水、シロップ、オイル、水、乳剤、様々な種類の湿潤剤などである。同様に、この担体または賦形剤には、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルなどの、当技術分野で周知の時間遅延物質が単独で、またはろうと共に含まれ得る。上記適切な担体は、上述のものおよび当技術分野で周知の他のものを含む。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Easton、Pennsylvaniaを参照されたい。
【0080】
賦形剤(複数可)は、組み合わせの生物学的活性に影響を及ぼさないように選択される。そのような賦形剤の例は、蒸留水、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース液、およびハンクス液であり、加えて、この医薬組成物または製剤は、他の担体、アジュバント、または非毒性、非治療的、非免疫原性安定剤などを包含してもよい。
【0081】
一態様では、医薬組成物は、本明細書で使用する場合、本発明の方法によって得られる生物学的に活性な神経毒、随意により、1種または複数種の薬学的に許容される担体を含む。この活性な神経毒は、液体形態または凍結乾燥形態で存在し得る。一態様では、上記化合物は、グリセロール、タンパク質安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン(HSA))、またはポリビニルピロリドンもしくはヒアルロン酸などの非タンパク質安定剤と一緒に存在してよい。この医薬組成物は、一態様では、局所投与される。従来使用される薬物投与は、筋肉内、皮下(腺の付近)で投与される。しかしながら、化合物の性質および作用機序に応じて、この医薬組成物は、他の経路でも投与することができる。二本鎖神経毒ポリペプチドは、この組成物の活性成分であり、かつ一態様では、この薬物を標準的な医薬担体と従来の手順によって組み合わせることによって調製される従来の剤形で投与される。これらの手順は、適宜混合、造粒、圧縮、または成分を溶解させて所望の製剤にすることを伴い得る。薬学的に許容される担体または賦形剤の形態および特徴は、それと混合されるべき活性成分の量、投与経路、および他の周知の変数によって規定されることは分かるであろう。
【0082】
治療上有効な用量は、本明細書において言及する疾患または状態に伴う症状を予防、寛解、または処置する本発明の医薬組成物において使用される化合物、神経毒の量を指す。この化合物の治療効力および毒性は、標準的な薬学的手順によって、細胞培養または実験動物において、例えば、ED50(個体群の50%において治療上有効な用量)およびLD50(個体群の50%に対して致命的な用量)で決定することができる。治療作用と毒性作用との間の用量比が治療指数であり、これは、比、LD50/ED50として表され得る。
【0083】
投与計画は、主治医および他の臨床因子によって決定されるはずである。医学分野で周知のとおり、いずれの患者についての投薬量も、患者の体格、体表面積、年齢、投与されるべき特定の化合物、性別、投与時間および経路、全身健康、ならびに同時に投与される他の薬物を含めた多くの因子に左右される。進行は、定期評価によって監視することができる。本明細書において挙げる疾患または状態を処置または寛解または防止するためには、本明細書において言及される医薬組成物および製剤を少なくとも1回投与する。しかしながら、上記医薬組成物は、1回より多く投与することができる。
【0084】
本発明のさらなる態様では、上述の組成物は、医薬品または美容用組成物である。一態様では、生物学的に活性な神経毒を含む上記医薬品は、以下の疾患および障害の少なくとも1種を予防および/または処置するために使用することができる: 随意筋のこわばり、限局性ジストニア(頸部、脳ジストニアを含む)、および良性特発性眼瞼痙攣、片側顔面痙攣、および限局性痙縮、胃腸障害、多汗症、および美容によるしわ修正、さらなる一態様では、他にも、眼瞼痙攣、顎口腔ジストニア(開口型(jaw opening type)、閉口型(jaw closing type))、歯ぎしり、メージュ症候群、舌ジストニア、眼瞼不能、開口頸部ジストニア、頸部前屈、頸部後屈、頸部側屈、斜頸、咽頭ジストニア、喉頭ジストニア、痙攣性発声障害/内転筋型、痙攣性発声障害/外転筋型、痙攣性呼吸困難、四肢ジストニア、腕ジストニア、動作特異性ジストニア、書痙、音楽家痙攣、ゴルファー痙攣、脚ジストニア、大腿部内転、大腿部内転膝屈曲、膝伸展、足首屈曲、足首伸展、内反尖足、奇形足ジストニア、母指の過伸展(striatal toe)、足指の屈曲、足指の伸展、軸性ジストニア、ピサ症候群、ベリーダンサージストニア、分節性ジストニア、片側性ジストニア、全身性ジストニア、ルバグ(lubag)病におけるジストニア、大脳皮質基底核変性症におけるジストニア、ルバグ病におけるジストニア、遅発性ジストニア、脊髄小脳失調症におけるジストニア、パーキンソン病におけるジストニア、ハンチントン病におけるジストニア、ハレルフォルデン・スパッツ病におけるジストニア、ドーパ誘発性ジスキネジア/ドーパ誘発性ジストニア、遅発性ジスキネジア/遅発性ジストニア、発作性ジスキネジア/ジストニア、運動誘発性・非運動誘発性・動作誘発性口蓋ミオクローヌス、ミオクローヌス、ミオキミア、硬直、良性筋痙攣、遺伝性の顎の振戦、奇異性顎筋活動、片側咀嚼筋痙攣、肥大性鰓弓筋疾患、咬筋肥大、前脛骨筋肥大、眼振、動揺視、核上性注視麻痺、てんかん、持続性部分てんかん、痙性斜頸手術計画、声帯外転筋麻痺、難治性変異性発声障害、上部食道括約筋機能障害、声帯肉芽腫、吃音、ジル・ド・ラ・トゥレット症候群、中耳ミオクローヌス、防御性喉頭閉鎖、咽頭切除後言語障害、防御性眼瞼下垂症、眼瞼内反(entropion)、オディ括約筋機能障害、偽性アカラシア(pseudoachalasia)、非アカラシア、食道運動障害、膣痙、術後固定振戦、膀胱機能障害、排尿筋・括約筋協調不全、膀胱括約筋痙攣、片側顔面痙攣、神経再生によるジスキネジア、美容用途、目尻の小じわ、渋面顔面非対称、オトガイのくぼみ、スティッフパーソン症候群、強縮、前立腺肥大、脂肪過多症、脳性小児麻痺の治療による斜視、網膜剥離手術後、白内障手術後、無水晶体筋炎斜視における混合型麻痺付随、筋障害性斜視、斜視手術に伴う交代性上斜位、内斜視、外斜視、アカラシア、裂肛、外分泌腺活動亢進、フレイ症候群、ワニの涙症候群、腋窩部、手掌、足底の多汗症、鼻漏、脳卒中、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症における関連唾液過多症、脳炎および脊髄炎、自己免疫過程、多発性硬化症、横断性脊髄炎、デビック症候群、ウイルス感染症、細菌感染症、寄生虫感染症、真菌感染症における、遺伝性痙性対麻痺、脳卒中後の症候群、大脳半球梗塞、脳幹梗塞、脊髄梗塞、偏頭痛における、中枢神経系外傷、大脳半球病変、脳幹病変、脊髄病変における、中枢神経系出血、脳内出血、クモ膜下出血、硬膜下出血、髄腔内出血における、新生物、大脳半球腫瘍、脳幹腫瘍、脊髄腫瘍における痙攣症状、いびき(WO2000/033863)。詳細および症状については、Jost 2007、Drugs 67(5)、669またはDressier 2000 in Botulinum Toxin Therapy、Thieme Verlag、Stuttgart、New Yorkを参照されたい。
【0085】
本発明の別の態様では、当該組成物は、上記の医薬組成物について記載したとおりに製剤化することができる美容用組成物である。美容用組成物でも同様に、本発明の化合物を、一態様では、実質的に純粋な形態で使用することが企図される。美容用組成物は、さらなる一態様では、筋肉内に適用される。本発明のまださらなる一態様では、神経毒を含む美容用組成物を、シワ取り溶液として製剤化することができる。
【0086】
別の態様では、当該医薬組成物は、本発明の抗体または阻害物質を含む。本発明のポリペプチドは、クロストリジウム神経毒の活性化を担うので、この抗体は、クロストリジウム属に感染している間に観察される毒性作用を低減するために有用であろう。したがって、本発明の抗体は、一態様では、ウェルシュ菌、クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)、破傷風菌、ボツリヌス菌、クロストリジウム・バラティ、酪酸菌、スポロゲネス菌、クロストリジウム・アセトブチリクム、溶血クロストリジウム(Clostridium haemolyticum)、ノーヴィ菌(Clostridium novyi)、およびクロストリジウム・オエデマチエンス(Clostridium oedematiens)を含めたクロストリジウム属による感染症を処置するために使用することができる。さらに、本発明の抗体は、別の態様では、上記感染症に関連する症状を処置するために使用することができる。さらに、上記抗体は、ボツリヌス中毒、破傷風、偽膜性大腸炎、壊疽、食中毒などから選択される状態に関連する状態または症状を処置する際に使用することができる。
【0087】
別の態様では、当該医薬組成物は、本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドを含む。上記医薬組成物は、一態様では、共同凝集反応(coaglutination)に関係するポリペプチドをタンパク分解性に切断するために、とりわけ、低共同凝集反応(hypocoaglutination)を伴う患者を処置するために使用することができる。別の態様では、この医薬組成物は、線維素溶解薬として、とりわけ、心筋梗塞、肺塞栓、深部静脈血栓塞栓症の患者を処置するために、すなわち、血栓を除去するために使用することができる。他にも、脳卒中の処置における当該医薬組成物の使用が企図される。さらに、他の態様では、この医薬組成物は、膵外分泌不全の処置において、トリプシン、キモトリプシン、ペプシンのいずれかを補充するために使用することができる。さらに、他の態様では、この医薬組成物は、炎症反応に罹患している患者を処置する際に、癌患者の処置において、とりわけ、表面に露出している腫瘍抗原をタンパク分解性に切断するために使用することができる。さらに、別の態様では、この医薬組成物は、乳頭腫の処置において使用することができる。
【0088】
本発明はまた、阻害物質をスクリーニングする方法であって、(a)本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドを既知の基質と、および随意により推定上の阻害物質と接触させるステップと; (b)基質を切断産物に変換することに対する、その推定上の阻害物質の効果を決定するステップとを含み、この際、切断産物の量が低減することが、その推定上の阻害物質の阻害効果を示す方法に関する。一態様では、この推定上の阻害物質は、配列番号4〜25のいずれか1つから選択されるアミノ酸配列を含むが、上記アミノ酸配列の少なくとも1個の塩基性アミノ酸が非塩基性アミノ酸に置き換えられているペプチドである。さらなる一態様では、上記ペプチドは、1つまたは複数の化学的修飾を含む。別の態様では、この阻害物質は、上記ペプチドのペプチド模倣物質である。別の態様では、この推定上の阻害物質は、化学化合物マイクロアレイ、すなわち、有機化学化合物のコレクションの一部である。また別の態様では、この阻害物質は、本発明の抗体である。この方法は、本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドを阻害することができる化合物を同定するために有用である。当初のスクリーニングは、例えば、配列番号4〜25のいずれか1つから選択されるアミノ酸配列を含むペプチドに基づき得る。阻害を増大させるために、本発明のポリペプチドを阻害することができるペプチドは、改変されてよい。改変には、アミノ酸置換または化学的修飾が含まれる。典型的には、この方法を、推定上の阻害物質が存在する状態および存在しない状態で、本発明のポリペプチドを既知の基質と接触させ(この方法のステップ(a))、かつ基質から切断産物への変換に対する、その推定上の阻害物質の効果を比較することによって実施する。推定上の阻害物質が存在する状態で変換率が低減することは、阻害効果を示している。
【0089】
本発明はまた、本発明のタンパク分解性活性ポリペプチドの阻害物質であって、(a)配列番号4〜25のいずれか1つに示されているとおりのアミノ酸配列を含むが、そこに含まれている1個の塩基性アミノ酸が非塩基性アミノ酸に置き換えられている阻害物質; または(b)本発明の抗体である阻害物質に関する。
【0090】
本明細書において挙げた全ての参考文献は、その開示の内容全体および本明細書において具体的に記載された開示内容に関して、参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0091】
図1】HiPrep 16/10 Q FFから収集された画分の活性試験を示す図である。HiPrep 16/10 Q FFの泳動から収集された画分5μlを、37℃にて1時間にわたる2μgのscBoNTA(レーン2)のインキュベーションと、その後の10%SDS-PAGEとによって、酵素活性について分析した。レーン1: 低分子量マーカー(LMW): 116kDa、66kDa、45kDa、35kDa。
図2】12.5%SDS-PAGEによる、約37.3kDaの分子量を有するnBHの含有量についての、SEC(HiLoad 16/60 Superdex 75)から収集された画分の分析を示す図である。画分9〜11がnBHの大部分を含有する。(レーン1: LMW: 116kDa、66kDa、45kDa、35kDa、25kDa、18.4kDa、14.4kDa)
図3】nBHの3つの精製バッチの純度およびタンパク質濃度を決定するための12.5%SDS-PAGE分析を示す図である。レーン1、LMW(116kDa、66kDa、45kDa、35kDa、25kDa、18.4kDa、14.4kDa); レーン2、nBHのロットTE311206(192ng/μl成熟NT02CB1446/CBO1444、Genbank受入番号CAL82987.1のアミノ酸254〜594、MW: 38.6kDa); レーン3、nBHのロットTIK301009(130ng/μl成熟NT02CB1447/CBO1445、配列番号1、Genbank受入番号CAL82988.1のアミノ酸249〜581、MW: 37.3kDa); レーン4、nBHのロットTIK280509(114ng/μl成熟NT02CB1447/CBO1445、配列番号1、Genbank受入番号CAL82988.1のアミノ酸249〜581、MW: 37.3kDa)。
図4】ESI-MS/MSスペクトル分析レポートを示す図である。nBHのロットTE311206の38.6kDaタンパク質バンドは、オープンリーディングフレーム(ORF)全体に対して725のMascotスコアおよび29.6%のペプチドMS/MS配列カバー率でNT02CB1446/CBO1444と同定された。いずれのペプチド(灰色のボックス部、同定MSペプチド; 赤色の四角形、MS/MS分解後に同定されたペプチドのアミノ酸yイオン/bイオン)も、N末端の253アミノ酸に由来するとは同定されなかった。ロットTE311206のMS/MS分析は、nBHを形成するC末端のアミノ酸254〜594では、52%の配列カバー率を示した。
図5】ESI-MS/MSスペクトル分析レポートを示す図である。nBHのロットTIK301009の37.3kDaタンパク質バンドは、オープンリーディングフレーム(ORF)全体に対して555のMascotスコアおよび28.4%のペプチドMS/MS配列カバー率でNT02CB1447/CBO1445と同定された。1つを除いて、同定されたすべてのペプチド(灰色のボックス部、同定されたMSペプチド; 赤色の四角形、MS/MS分解後に同定されたペプチドのアミノ酸yイオン/bイオン)がC末端の333アミノ酸に由来する。ロットTIK301009のMS/MS分析は、nBHを形成するC末端のアミノ酸249〜581では、49.5%の配列カバー率を示した。
図6】3つの精製バッチに由来するnBHの濃度依存的タンパク質分解活性の比較を示す図である。A: 濃nBHの次の希釈度: 1:10、1:30、1:100、1:300、1:1000を使用して、バッチTIK301009、TIK280509、およびTE311206に由来するnBHを分析する活性試験の12.5%SDS-PAGE。1μgのscBoNT/Aおよび2μlのdH2Oおよび対応して希釈された1μlのnBHを37℃にて60分間インキュベーションすることによって、このアッセイを行った。SDS-PAGE分析では、還元性4倍SDS Laemmli緩衝液3μlを10μlの最終体積に加えた。150kDaのscBoNT/Aが切断されて100kDaの重鎖および50kDaの軽鎖になった。B: 重鎖、軽鎖、およびscBoNT/Aのタンパク質バンドの光学密度を定量化し、軽鎖および重鎖産物バンドの合計を、LC、HC、およびscBoNT/Aタンパク質バンドの合計で割った。第1のポリペプチドの希釈度が高くなるほど、切断率は低下している。3つの異なるバッチの特異的なタンパク質分解活性は、ほぼ同一である。
図7】nBHによる、scBoNT/Aの野生型および改変されたループを含有する変異体の時間依存的切断を示す。A: ループ配列の改変。scBoNTAS Thromでは、すべてのリシン残基が除去されており、かつトロンビン認識配列LVPRGSが挿入されている一方で、scBoNT Resでは、ループは、いずれの塩基性アミノ酸も欠失している。ループを8個の小さな残基に、または嵩高な側鎖を有する5個のアミノ酸に短縮することで、それぞれ、scBoNTAS(GGSG)2およびscBoNTAS FQWYIが得られる。scBoNTAS CGS-Cでは、ループ全体が欠失しており、ジスルフィド架橋を形成するシステインがグリシンおよびセリンに置き換えられている。B: scBoNT/A野生型および変異体の時間依存的切断のSDS-PAGE分析。C: scBoNTAS野生型は、nBHによって時間依存的に120分以内に、軽鎖および重鎖へと活性化される。リシンの欠失および単一のアルギニン残基の挿入は、ループの切断を延長する(scBoNTAS Throm)。すべての塩基性残基を欠失しているループも切断可能である(scBoNTAS Res)。8量体ペプチドへのループの短縮、嵩高な側鎖を有する5個のアミノ酸の導入、またはループ全体の欠失は、切断不可能なscBoNT/Aをもたらす。
図8】scBoNT/AをnBHで消化した場合の50kDaおよび100kDaの切断産物のMS/MS分析を示す図である。A: 1460のMascotスコアでBoNT/Aの軽鎖と同定された50kDaの切断産物の分析。最もC末端に割り当てられたペプチドはアミノ酸G433〜K438を包含し、これは、BoNT/A LCの生理学的に観察されるC末端に対応する。B: 96のMascotスコアでBoNT/Aの重鎖と同定された100kDaの切断産物の分析。最もN末端に割り当てられたペプチドはアミノ酸A449〜K456を包含し、これは、BoNT/A HCの生理学的に観察されるN末端に対応する。
図9】A: 3つの連続するプールの抗nBH-IgYのタンパク質含有量(mg/ml)を12.5%のSDS-PAGEによって分析した。B: ELISA: Nunc Maxisorp F96マイクロタイタープレートを、PBS中の様々なロットのnBH(500ng/mL)で4℃にて一晩コーティングし、次いで、0.1%のTween-20および2%無脂脱脂乳を含有するPBSのブロッキング緩衝液で1時間にわたってブロッキングした。洗浄した後に、各プールのIgY希釈液(ブロッキング緩衝液中に10μg/ml)を1時間にわたって加え、ビオチン標識ロバ抗ニワトリIgY、ストレプトアビジン-ホースラディッシュペルオキシダーゼ(両方ともDianova、Hamburg、ドイツ)、および3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(Sigma)を使用して検出した。
図10】A: 不活性BH 1-581(63kDa)の組換え発現およびTalon IMACによる単離を示す図である。Talon IMAC画分の10%SDS-PAGE分析(LMW: 116kDa、66kDa、45kDa、35kDa、25kDa; SS34、清澄な可溶化液; TD、通過画分; W、洗浄画分; E1〜E7、イミダゾール溶離画分1〜7)。B: 37℃にて1時間後に、組換えiBH(配列番号2; 「E」; 63kDa)では、scBoNT/AのLC(50kDa)およびHC(100kDa)へのエンド型タンパク質分解は観察されない(レーン6)(LMW: 116kDa、66kDa、45kDa、35kDa、25kDa)。
図11】タンパク分解性にプロセシングされたポリペプチドを得るための、精製された活性なBoNTヒドロラーゼ(nBH)の使用を示す図である。A: 200μgの精製された組換えscBoNT/Aを、精製された活性なBoNTヒドロラーゼ350ngと共に37℃にて12分間にわたってインキュベーションする。反応を停止するために、nBHをSEC(カラムSuperdex 200 10/300 GL、緩衝液: 50mM NaP pH7.5、150mM NaCl、試料体積=0.3ml、流速=0.25ml/分)によって除去し、切断量を10%SDS-PAGEによって分析する。B: 約40%プロセシングされたBoNT/Aを含有する画分1(1800μl)を、精製された活性なBoNTヒドロラーゼ350ngと共に37℃にて15分間インキュベーションし、限外濾過によって300μlまで濃縮する。反応を最終的に停止するために、nBHをSEC(カラムSuperdex 200 10/300 GL、緩衝液: 50mM NaP pH7.5、150mM NaCl、試料体積=0.3ml、流速=0.25ml/分)によって除去し、切断量を10%SDS-PAGEによって分析する。C: 約80%プロセシングされたBoNT/Aを含有する画分1および2(1800μl)を合わせ、精製された活性なBoNTヒドロラーゼ120ngと共に37℃にて25分間インキュベーションし、限外濾過によって300μlまで濃縮する。反応を最終的に停止するために、nBHをSEC(カラムSuperdex 200 10/300 GL、緩衝液: 50mM NaP pH7.5、150mM NaCl、試料体積=0.3ml、流速=0.25ml/分)によって除去して、切断量を10%SDS-PAGEによって分析する。>95%プロセシングされたBoNT/A(配列番号3)が得られる。
【0092】
配列リストは次の通りである:
【0093】
配列番号1: ボツリヌス菌株ATCC3502に由来する、248のN末端のアミノ酸残基を欠失しているGenBank受入番号「CAL82988.1」のタンパク分解性活性ポリペプチド
配列番号2: ボツリヌス菌株ATCC3502に由来する、GenBank受入番号「CAL82988.1」のタンパク分解性に不活性なポリペプチド
配列番号3: ATCC3502、Genbank受入番号「AAA23262」のBoNT/A
配列番号4: BoNT/A1のループ
配列番号5: BoNT/A2/A6のループ
配列番号6: BoNT/A3のループ
配列番号7: BoNT/A3のループ
配列番号8: BoNT/A4のループ
配列番号9: BoNT/A5のループ
配列番号10: BoNT/A7のループ
配列番号11: BoNT/B1/B4bv/B6のループ
配列番号12: BoNT/B2/B3のループ
配列番号13: BoNT/B5npのループ
配列番号14: BoNT/C/CDのループ
配列番号15: BoNT/Dのループ
配列番号16: BoNT/DCのループ
配列番号17: BoNT/E1〜E5のループ
配列番号18: BoNT/E6のループ
配列番号19: BoNT/F1/F6のループ
配列番号20: BoNT/F2/F3のループ
配列番号21: BoNT/F4のループ
配列番号22: BoNT/F5のループ
配列番号23: BoNT/F7のループ
配列番号24: BoNT/Gのループ
配列番号25: TeNTのループ
配列番号26: 配列番号1をコードする核酸配列
配列番号27: 配列番号2をコードする核酸配列
【0094】
以下の実施例において本発明を例示するが、それらが本発明の範囲を限定するとは決して解釈されるべきではない。
【実施例】
【0095】
[実施例1] 単鎖BoNT/Aをその活性な二本鎖形態へと特異的に切断する天然のBoNTヒドロラーゼ(nBH)の精製および特徴決定
【0096】
(1)読出しシステム/活性試験: ボツリヌス菌の培養上清中において、およびクロマトグラフィーステップ間において、ボツリヌス神経毒A(BoNT/A)を50kDaの軽鎖(LC)および100kDaの重鎖(HC)に加水分解する酵素活性を特異的に検出および精製するために、本発明者らは、150kDaのBoNT/Aを単鎖(single chain, sc)ポリペプチドとして、大腸菌中で発現させた。組換えscBoNT/Aを適切な酵素活性(nBH)と共にインキュベーションすることで、還元性10〜13%SDS-PAGEによって可視化される50kDaのLCおよび100kDaのHCが得られるはずである。
【0097】
(2)クロストリジウムプロテアーゼの発現: ボツリヌス菌株ATCC3502の単一のコロニーを、脳心臓浸出物(BHI)培地100ml中に接種し、培養物を嫌気性条件下、37℃にて一晩にわたってインキュベーションした。一晩培養物10mlをBHI培地1Lに接種し、48〜72時間にわたって嫌気的にインキュベーションした。
【0098】
(3)硫酸アンモニウム沈殿: 培養上清1Lを遠心分離(4℃、6500×g、25分間)によって収集した。硫酸アンモニウムを85%の最終濃度まで加え(この場合は575g)、この懸濁液を4℃にて6時間にわたって撹拌し、引き続いて、遠心分離(4℃、6500×g、30分間)した。ペレット状の硫酸アンモニウム沈澱物をわずかな体積(この場合は5ml)の50mM NaP pH7.5に溶かし、50mM NaP、150mM NaCl pH7.5に対して透析した。最後に、透析物を遠心分離(4℃、40000×g、60分間)し、上清をIECのために使用した。
【0099】
(4)イオン交換クロマトグラフィー(IEC、カラムHiPrep 16/10 Q FF): (3)の上清(図1、レーン3)を、平衡化させておいたHiPrep 16/10 Q FFアニオン交換カラムに適用し、50mM NaP pH7.5、150mM NaClを含有する緩衝液で流した。この流れを、1ml/分の流速で行った。画分5μlを1つおきに、2μgのscBoNTAと共に37℃にて1時間にわたってインキュベーションし、引き続いて、SDS-PAGEで分析することによって、活性試験を行った(図1)。画分6〜24を合わせ、限外濾過(Amicon-Ultra MWCO 10,000)を使用することによって、その体積を3.5mlまで濃縮した。
【0100】
(5)サイズ排除クロマトグラフィー(SEC、HiLoad 16/60 Superdex 200): 引き続いて、(4)の濃縮されたタンパク質溶液を、50mM NaP pH7,5、150mM NaClで平衡化しておいたHiLoad 16/60 Superdex 200カラムに充填した。分離を1ml/分の流速で行った。80mlから100mlの間の保持容量の画分を、活性試験(1)を使用して分析し、酵素活性(nBH)を有する適切な画分を合わせ(約10ml)、限外濾過によって3mlまで濃縮した。引き続いて、硫酸アンモニウムを12.5%=500mM(+0.2g)の最終濃度まで加えた。
【0101】
(6)疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC、HiTrap Phenyl Sepharose): nBHをPhenyl Sepharoseに緩衝液A(50mM NaP pH7.5、500mM硫酸アンモニウム)中で結合させた。1ml/分の流速での緩衝液B(50mM NaP pH7.5)による直線的漸増勾配によって硫酸アンモニウムの量を低減することによって、結合したnBHを溶離した。すべてのタンパク質含有画分を、活性試験(1)を使用して分析し、適切な画分を合わせ、限外濾過によって3.5mlまで濃縮した。溶液の緩衝液を、50mM NaP pH7.5; 150mM NaClに調節した。
【0102】
(7)SEC(HiLoad 16/60 Superdex 75): 最後に、HiLoad 16/60 Superdex 75カラムを50mM NaP pH7.5、150mM NaCl、および1ml/分の流速で使用するSECによって、nBHを精製した。70mlから80mlの間の保持容量の画分を、12.5%SDS-PAGE(図2)によって分析し、約37.3kDaに移動する、nBHを含有する画分8〜12を合わせ(約10ml)、限外濾過によって1mlまで濃縮した。
【0103】
(8)約37.3kDaに移動する顕著なタンパク質(nBH)を、Edman分解プロトコルに従ってN末端ペプチド配列決定によって分析した。同定されたペプチドの配列は、V Q G Q S V K G V Gであり、これは、配列番号1の最初の10個の残基に対応する。
【0104】
(9)nBHの2つのロット(NT02CB1447、37.3kDa、図3、レーン3: TIK301009、レーン4: TIK280509)を上記のとおりの手順に従って、再現可能に単離した。単離手順を以下のように改変することで、nBHアイソフォームNT02CB1446(38.6kDa、図3、レーン2、ロットTE311206)が得られる: (i)ボツリヌス菌培養物の増殖: 48〜72時間の代わりに、18時間; (ii)クロマトグラフィーステップの変更: IEC→SEC Superdex 200→HIC Phenyl Sepharose→SEC Superdex 75の代わりに、IEC→SEC Superdex 75→HIC Phenyl Sepharose。
【0105】
[実施例2] 質量分析法(MS)による、ボツリヌス菌に由来するnBHの配列同定
【0106】
(1)トリプシン分解: SDS-PAGEにおいて約38kDa(nBH)に移動するタンパク質バンドをトリプシン分解のために切り出し、50mM NH4HCO3、50%アセトニトリル中、37℃にて30分間にわたって穏やかに振盪することによって、脱染した。ゲルスポットが透明になるまで、脱染を繰り返した。アセトニトリル(100%)を加え、3分後に除去した。引き続いて、スポットをSpeed Vacシステム(Eppendorf、ドイツ)で乾燥させた。50mM NH4HCO3中のトリプシン(10ng/μl)を加え、氷上で1時間にわたってインキュベーションした。次いで、残りのトリプシン溶液を除去し、わずかな体積の50mM NH4HCO3を加え、分解を37℃にて一晩実施した。上清を収集し、5%TFA、10%アセトニトリルを使用して、ゲル片を2回抽出した。すべての流体を合わせ、Speed Vacで乾燥させ、抽出されたペプチドを4℃にて保管した。
【0107】
(2)マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALDI-TOF/TOF)MS: 試料をMALDI-TOF/TOF質量分析計(Ultraflex1 Bruker Daltonik GmbH)において、リニアモードで、25kVの加速電圧で分析した。質量を700m/z〜4,500m/zで検出した。試料(2μl)を、50%アセトニトリルおよび0.2%トリフルオロ酢酸(TFA)を含有するシナピン酸溶液2μlと、ステンレス鋼MALDIターゲットプレート上で直接、共結晶させた。500回のレーザーショットを各試料について収集した。
【0108】
(3)逆相クロマトグラフィーによるペプチド分離: ペプチド分離を、オートサンプラーおよび勾配ポンプからなるナノHPLCシステム(Agilent Technologies、Waldbronn、ドイツ)を使用する逆相クロマトグラフィーによって行った。試料を緩衝液A(5%アセトニトリル、0.1%ギ酸)に溶かし、10μlまでのアリコートを、C18カラム(Zorbax SB-C18、5μm、300A、0.5mm内径、長さ15cm)上に5μl/分の流速で注入した。充填後に、カラムを緩衝液Aで15分間にわたって洗浄し、ペプチドを、75分間で0%溶離液Bから100%溶離液Bへの、溶離液Aおよび溶離液B(0.1%(v/v)ギ酸中の70%(v/v)アセトニトリル)の勾配を使用して溶離した。
【0109】
(4)エレクトロスプレーイオン化(ESI)インターフェイス・イオントラップ質量分析法: HPLC出口をイオントラップ質量分析計のナノESI源に直接接続し、Agilent同軸シース液噴霧器を使用した(Agilent Technologies)。出口毛細管は、周囲のスチール針によって保持されており、そこから0.1〜0.2mm見えていた。スプレーを、ネブライザーガスとしてのN2によって安定化した(5L/分)。イオン化電圧を4,500Vに設定し、乾性ガスを5psiおよび250℃にて適用した。スペクトルをEsquire3000+イオントラップ質量分析計(Bruker Daltonik)で、1秒当たり13,000m/zの走査速度で収集した。ESIをポジティブモードで使用して、質量スペクトルを50〜1600m/zで、走査モードで、かつMS分析とMS/MS分析とをデータ依存的に切り替えて得た。MS/MSスペクトルの質を高めるために、1つのスペクトルから2つのプリカーサーイオンのみをMS/MS分析のために選択し、アクティブ・エクスクルージョン(active exclusion)を2分に設定して、すでに測定されたプリカーサーイオンを排除した。
【0110】
(4)データ処理: データ処理を、Data Analysis(バージョン3.0)およびBioTools(バージョン3.0)ソフトウェアパッケージ(Bruker Daltonik)で行った。タンパク質同定を、MASCOTソフトウェア(バージョン2.1)およびMSDBデータベース(Matrix Science、London、英国)を使用して行った。
【0111】
(5)結果:
【0112】
【表2】
【0113】
レーン2(nBHのロットTE311206)の38.6kDaのタンパク質バンドは、725のMascotスコアおよびオープンリーディングフレーム(ORF)全体に対して29.6%のペプチドMS/MS配列カバー率でNT02CB1446/CBO1444と同定された。N末端の253アミノ酸に由来するペプチドは同定されなかった(図4)。ロットTE311206のMS/MS分析は、nBHを形成するC末端のアミノ酸254〜594では、52%の配列カバー率を示した。
【0114】
レーン3(nBHのロットTIK301009)およびレーン4(nBHのロットTIK280509)の37.3kDaのタンパク質バンドは、それぞれ555および609のMascotスコアでNT02CB1447/CBO1445と同定された。1つを除いて、同定されたすべてのペプチドが、C末端の333アミノ酸に由来する(図5)。ロットTIK301009のMS/MS分析は、nBHを形成するC末端のアミノ酸249〜581では、49.5%の配列カバー率を示した。
【0115】
[実施例3] nBHの酵素特異性の特徴決定
【0116】
(1)3つの精製バッチに由来するnBHの濃度依存的タンパク質分解活性を比較した(図6)。nBHの様々な希釈度を使用してバッチTIK301009、TIK280509、およびTE311206に由来するnBHを分析する活性試験は、希釈度が高いほど、切断率が低下することを実証している。これら3種の異なるバッチのタンパク質分解活性は、ほぼ同一であり、このことは、成熟アイソフォームNT02CB1446(TE311206)は、成熟NT02CB1447(配列番号1)と類似した特異的活性を示すことを示している。
【0117】
(2)nBHによるscBoNT/Aの野生型および変異体の時間依存的切断を、活性試験を使用して分析した(図7)。scBoNTAS野生型は、nBHによって、時間依存的に120分以内に、軽鎖および重鎖へと95%超活性化される。切断部位を特徴決定するために、ループ配列を改変した。scBoNTAS Thromでは、すべてのリシン残基が除去されており、かつトロンビン認識配列LVPRGSが挿入されており、これは切断速度を延長した。scBoNT Resでは、ループは、すべての塩基性アミノ酸を欠失しているが、これは、完全な加水分解を劇的に遅延させ、このことは、切断部位にあるリシンおよびアルギニンなどの塩基性残基についてのnBHの強い認識優先性を示している。さらに、ループへのnBHのアクセス性は、8個の小さな残基または嵩高な側鎖を有する5個のアミノ酸へとループを短縮することによって損なわれる(scBoNTAS(GGSG)2およびscBoNTAS FQWYI)。
【0118】
(3)scBoNT/AをnBHで分解した場合の50kDaの切断産物のMS/MS分析は、最もC末端に割り当てられたペプチドが、BoNT/A LCの生理学的に観察されるC末端に対応するアミノ酸G433〜K438を包含することを示した(図8A)。BoNT/Aの重鎖と同定された100kDaの切断産物の分析は、最もN末端に割り当てられたペプチドが、BoNT/A HCの生理学的に観察されるN末端に対応するアミノ酸A449〜K456を包含することを実証した(図8B)。したがって、単離nBHは、生理学的にプロセシングされたBoNT/Aをもたらし、リシンおよびアルギニン残基のC末端側でペプチド結合を優先的に加水分解する。
【0119】
[実施例4] BoNTヒドロラーゼおよびそのアイソフォームの進化的保存
【0120】
配列番号2(Genbank受入番号CAL82988.1/YP_001253958.1)のタンパク質の配列分析によって、3つの保存ドメインが明らかになった。残基18〜573は、Blastスコア738で、アミノ酸輸送および代謝に関係する亜鉛メタロプロテアーゼ(エラスターゼ)またはLasBに対応する。残基148〜212は、ペプチダーゼプロペプチド、およびYPEBドメインまたはPepSY(Blastスコア97)に対応する。残基336〜573は、サーモリシン、プロテアリシン、オーレオリシン、および中性プロテアーゼを含めたペプチダーゼM4ファミリーの一部(Blastスコア803)である。
【0121】
ボツリヌス菌ATCC3502のゲノム配列決定によって、iBHアイソフォームをコードする6つのORFの存在が明らかになっている(Sebaihiaら、2007、Genome Res. 17(7): 1082〜1092)。さらなるゲノムデータを、10群Iのボツリヌス菌株、さらに、iBHをコードする5〜7つのORFをいずれも含有する非BoNT分泌スポロゲネス菌について利用することができる。nBH(配列番号1)は、他の63種のアイソフォームと少なくとも64%のアミノ酸配列同一性を共有する。
【0122】
[実施例5] BoNTヒドロラーゼに特異的な抗体の生成
【0123】
(1)IgYの生成: 16週齢のニワトリ[ISA BrownおよびLohmann Selected Leghorn(LSL)、Spreenhagener Vermehrungsbetrieb fuer Legehennen GmbH、Bestensee、ドイツ]を、ニワトリの飼育のために専用に造られている個別のケージ(Ebeco、Castrop-Rauxel、ドイツ)内で維持した。飼料(ssniff Legehuehner-Zucht1および2; ssniff Spezialitaeten GmbH、Soest、ドイツ)および水は、自由に摂取可能であり、かつこれらのニワトリは、23〜25週齢の間に、卵を産み始めた。卵を毎日収集し、標識し、さらに処理するまで、4℃で貯蔵した。すべての動物飼育および実験を、地方当局のガイドラインBerlin(No.H0069/03)に従って行った。ニワトリを、1年間にわたって、4〜8週間隔で、合計10回、筋肉内経路(左側および右側の胸筋)を介して免疫化および追加免疫した。使用した間隔は、免疫化の後に少なくとも3週間目まで、実証可能なメモリー細胞を示さなかったという先行する研究に基づいた(Pei and Collisson、2005)。使用した抗原濃度は、1回の注射あたり約20μg(nBH)であった。抗原溶液500μl以下を1回の免疫化あたり注射した。第1の免疫化ではフロイント完全アジュバントを使用し、その後のブースター注射ではFIAを使用した。IgY精製のための方法は、Polsonら(1980)の方法からアレンジした。簡単には、卵黄を滅菌PBS(pH7.4、Roche、Mannheim、ドイツ)で1:2希釈した。脂質およびリポタンパク質を除去するために、3.5%(w/v)ポリエチレングリコール(PEG)6000(Roth、Karlsruhe、ドイツ)を加えた。穏やかに振盪し、続いて、遠心分離(10,000×g、4℃にて20分間)した後に、上清をデカンテーションし、固体のPEG 6000を12%(w/v)の最終濃度まで加えた。次いで、この混合物を上記のとおり遠心分離した。沈澱物を10mlのPBSに溶かし、PEGを12%(wt/vol)まで加え、この溶液を遠心分離した。最後に、沈澱物をPBS1.2mlに溶かし、微量透析デバイス(QuixSep、Roth、ドイツ)に移し、PBSに対して4℃にて透析した。タンパク質含有量(mg/ml)を12.5%SDS-PAGEによって分析し(図9A)、測光法で280nmで測定し、IgYについて1.33の吸光係数で、ランベルト-ベールの法則に従って計算した。
【0124】
(2)ELISA: Nunc Maxisorp F96マイクロタイタープレート(VWR International GmbH、Darmstadt、ドイツ)を、PBS中の様々なロットのnBH(500ng/mL)で、4℃にて一晩コーティングし、次いで、0.1%Tween-20および2%無脂脱脂乳(Merck、Darmstadt、ドイツ)を含有するPBSのブロッキング緩衝液で1時間ブロッキングした。洗浄した後に、IgY希釈液(ブロッキング緩衝液中10μg/ml)を1時間にわたって加え、ビオチン標識ロバ抗ニワトリIgY、ストレプトアビジン-ホースラディッシュペルオキシダーゼ(両方とも、Dianova、Hamburg、ドイツ)および3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(Sigma)を使用して検出した。検出されたnBHを図9Bにおいて図示する。
【0125】
(3)ウェスタンブロット: nBHを12.5%SDS-PAGEによって分離し、標準的な免疫ブロット技法を使用して、ポリビニリデンフルオリド膜(Invitrogen GmbH、Karlsruhe、ドイツ)に移した。この膜を4℃にて一晩ブロッキングし、IgY(ブロッキング緩衝液中で1:5,000)と共に1時間にわたってインキュベーションした。洗浄した後に、膜を、ビオチン標識されたロバ抗ニワトリIgYで30分間探索し(probed)、アルカリホスファターゼおよびCDP-Star(Perkin Elmer、Waltham、MA)を使用して現像した。
【0126】
[実施例6] BoNTヒドロラーゼの組換え発現
【0127】
プラスミドコンストラクション: 天然BH(配列番号1)およびそのプロペプチド(配列番号2)をコードする遺伝子部分を、PCRによって、適切なオリゴヌクレオチドおよびボツリヌス菌ATCC3502のゲノムDNAを使用して増幅し、His6タグをコードするオリゴヌクレオチドに融合させ、かつpQE3(Qiagen)に挿入した(それぞれ発現プラスミドpQ-BH1445H6-249-581およびpQ-BH1445H6-1-581をもたらす)。ヌクレオチド配列を、DNA配列決定によって確認した。
【0128】
組換えタンパク質の精製: カルボキシル末端のHis6タグに融合しているnBHおよびiBHを、大腸菌株M15pREP4(Qiagen)を利用して室温での10時間のインキュベーションの間に生成し、Talonセファロースビーズ(Clontech Inc.)で製造者の指示に従って精製した。所望のタンパク質を含有する画分をプールし、液体窒素中で凍結し、-70℃にて保管した。iBHは、63kDaのMWを有する組換えタンパク質として単離された(図10A)。活性試験を使用して、iBHの不活性を実証した。すなわち、37℃にて1時間後に、野生型scBoNT/Aは、LCおよびHCへと加水分解されなかった(図10B)。
【0129】
[実施例7] BoNTヒドロラーゼの阻害
【0130】
(1)BHのペプチド阻害物質のスクリーニング: 配列番号4〜25をベースとするペプチドを、1個または複数個の塩基性残基を欠失させて合成する。各ペプチドを、活性試験の混合物に加える。プロセシングされたscBoNT/Aの量を減少させ得るか、scBoNT/Aの完全なプロセシングに必要な期間を延長し得るか、またはscBoNT/Aのプロセシングを遮断し得るペプチドを、nBHの阻害物質であると判断する。
【0131】
(2)抗体に基づく阻害物質のスクリーニング: 実施例5のIgYなどの、nBHに由来するエピトープに対して生じた抗体を、nBHと共にインキュベーションし、引き続いて、活性試験に掛ける。プロセシングされたscBoNT/Aの量を減少させ得るか、scBoNT/Aの完全なプロセシングに必要な期間を延長し得るか、またはscBoNT/Aのプロセシングを遮断し得る抗体を、nBHの阻害物質であると判断する。
【0132】
[実施例8] タンパク分解性にプロセシングされたポリペプチドを得るための、精製された活性なBoNTヒドロラーゼ(nBH)の使用
【0133】
(1)精製された200μgの組換えscBoNT/Aを、精製された活性なBoNTヒドロラーゼ350ngと共に、37℃にて12分間にわたってインキュベーションする。反応を停止するために、nBHをSEC(カラムSuperdex 200 10/300 GL、緩衝液: 50mM NaP pH7.5、150mM NaCl、試料体積=0.3ml、流速=0.25ml/min)によって除去し、切断量を10%SDS-PAGEによって分析する(図11A)。
【0134】
(2)約40%プロセシングされたBoNT/Aを含有する画分1(1800μl)を、精製された活性なBoNTヒドロラーゼ350ngと共に37℃にて15分間インキュベーションし、限外濾過によって300μlまで濃縮する。反応を最終的に停止するために、nBHをSEC(カラムSuperdex 200 10/300 GL、緩衝液: 50mM NaP pH7.5、150mM NaCl、試料体積=0.3ml、流速=0.25ml/分)によって除去し、切断量を10%SDS-PAGEによって分析する(図11B)。
【0135】
(2)約80%プロセシングされたBoNT/Aを含有する画分1および2(1800μl)を合わせ、精製された活性なBoNTヒドロラーゼ120ngと共に37℃にて25分間インキュベーションし、限外濾過によって300μlまで濃縮する。反応を最終的に停止するために、nBHをSEC(カラムSuperdex 200 10/300 GL、緩衝液: 50mM NaP pH7.5、150mM NaCl、試料体積=0.3ml、流速=0.25ml/分)によって除去して、切断量を10%SDS-PAGEによって分析する(図11C)。>95%プロセシングされたBoNT/A(配列番号3)が得られる。第2のポリペプチドが、1ステップで、37℃にて50分間プロセシングされると(200μgのscBoNT/Aを350ngのnBHと共にインキュベーション)、同一の完全にプロセシングされた第2のポリペプチド(>95%プロセシングされたBoNT/A)が得られる。37℃にて1時間のインキュベーション時間の後では、BoNT/Aの97%超がプロセシングされる。
【0136】
項目
[項目1]
配列番号1の配列と少なくとも50%の配列同一性を有するポリペプチド配列を含むタンパク分解性活性ポリペプチド。
[項目2]
項目1に記載のポリペプチドをコードする核酸配列および随意により、調節エレメントを含む核酸分子。
[項目3]
項目2に記載の核酸分子を含むベクター。
[項目4]
項目2に記載の核酸分子または項目3に記載のベクターを含む細胞。
[項目5]
タンパク分解性活性ポリペプチドを製造するための方法であって、
(a.)配列番号1の配列と少なくとも50%の配列同一性を有するポリペプチド配列を含むポリペプチドを化学的に合成するか、またはヌクレオチド配列から翻訳するステップと;
(b.)ステップ(a.)のポリペプチドを精製するステップと
を含む方法。
[項目6]
項目5に記載の方法から得ることができるポリペプチド。
[項目7]
項目1または6に記載のポリペプチドに特異的に結合する抗体。
[項目8]
項目1または6に記載のポリペプチドを精製する方法における、項目7に記載の抗体の使用。
[項目9]
タンパク分解性にプロセシングされたポリペプチドを製造するための方法であって、
(a)項目1もしくは項目6に記載のポリペプチド、Lys-N、Lys-C、アルギニルエンドペプチダーゼ、プラスミン、またはオンプチン(omptin)から選択される第1のポリペプチドを、
(b)前記第1のポリペプチドによるタンパク質分解に感受性の第2のポリペプチドと接触させるステップを含み、前記接触が、少なくとも2つの切断産物への前記第2のポリペプチドのタンパク質プロセシングを結果としてもたらす方法。
[項目10]
前記第2のポリペプチドが、配列番号3〜25のいずれか1つから選択されるポリペプチド配列と少なくとも50%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み;
好ましくは、前記第1のポリペプチドが、前記第2のポリペプチドを配列番号3〜25のいずれか1つの前記配列内の塩基性アミノ酸残基(例えば、His、Lys、Arg)のすぐC末端側の位置でタンパク分解性に切断する、項目9に記載の方法。
[項目11]
前記第2のポリペプチドがクロストリジウム神経毒(例えば、BoNT/A)である、項目9または項目10に記載の方法。
[項目12]
前記クロストリジウム神経毒が、機能性結合ドメイン(HCC)を欠失していて、したがって、天然のクロストリジウム神経毒受容体に結合することができないクロストリジウム神経毒ポリペプチド(例えば、クロストリジウム神経毒のLHN断片を含むか、またはそれからなるポリペプチド)、天然のクロストリジウム神経毒受容体に結合する改変されたクロストリジウム神経毒結合ドメイン(HCC)を有するクロストリジウム神経毒ポリペプチド、またはクロストリジウム神経毒を非天然クロストリジウム神経毒受容体に結合させる非クロストリジウム結合ドメインを有するクロストリジウム神経毒ポリペプチド(前記ポリペプチドは、クロストリジウム神経毒と天然のクロストリジウム神経毒受容体の結合を最小化するために、随意により、機能性結合ドメイン(HCC)を欠失している)から選択される、項目11に記載の方法。
[項目13]
前記クロストリジウム神経毒の前記L鎖およびH鎖成分が、同じか、または異なるクロストリジウム神経毒血清型および/または亜型に由来する、項目12に記載の方法。
[項目14]
前記第2のポリペプチドが、大腸菌において組換え発現によって調製される単鎖クロストリジウム神経毒である、項目9から13のいずれか1項に記載の方法。
[項目15]
前記第2のポリペプチドが単鎖クロストリジウム神経毒であり、前記第1のポリペプチドと第2のポリペプチドとの接触が、ジスルフィド結合によってクロストリジウム神経毒H鎖成分に共有結合しているクロストリジウム神経毒L鎖成分を含むクロストリジウム神経毒二本鎖ポリペプチドを結果としてもたらす、項目9から14のいずれか1項に記載の方法。
[項目16]
前記タンパク分解性にプロセシングされた第2のポリペプチドが、クロストリジウム神経毒二本鎖ポリペプチドであり、前記L鎖のC末端および前記H鎖のN末端が、野生型クロストリジウム属において同じ単鎖クロストリジウム神経毒ポリペプチドから生じる対応する二本鎖クロストリジウム神経毒の対応する末端と同一である、項目9から15のいずれか1項に記載の方法。
[項目17]
前記タンパク分解性にプロセシングされた第2のポリペプチドが、野生型クロストリジウム属において同じ単鎖クロストリジウム神経毒ポリペプチドから生じる対応するクロストリジウム神経毒二本鎖ポリペプチドと比較した場合に、同一のアミノ酸配列を有するクロストリジウム神経毒二本鎖ポリペプチドである、項目9から16のいずれか1項に記載の方法。
[項目18]
製品品質を評価するための、または医薬品を生産する際の、項目9から17のいずれか1項に記載の方法の使用。
[項目19]
プロセシングされた第2のポリペプチドおよびプロセシングされていない第2のポリペプチドの混合物を含み、前記混合物が5%未満のプロセシングされていない第2のポリペプチドを含有する、項目9から18のいずれか1項に記載の方法により得ることができる組成物。
[項目20]
阻害物質をスクリーニングする方法であって、
(a)項目1または6に記載のポリペプチドを既知の基質と、および随意により、推定上の阻害物質と接触させるステップと;
(b)基質を切断産物に変換することに対する前記推定上の阻害物質の効果を決定するステップとを含み、
この際、切断産物の量が低減することが、前記推定上の阻害物質の阻害効果を示す方法。
[項目21]
(a.)配列番号4〜25のいずれか1つに示されているとおりのアミノ酸配列を含むが、そこに含有される塩基性アミノ酸が非塩基性アミノ酸に置き換えられている阻害物質; または
(b.)項目7に記載の抗体である、項目1または6に記載のタンパク分解性活性ポリペプチドの阻害物質。
[項目22]
項目1または6に記載のポリペプチド、項目7に記載の抗体、項目19に記載の組成物、または項目21に記載の阻害物質を含む、医薬組成物。
【符号の説明】
【0137】
図1
C.bot. SN (precipitated + dialysed): ボツリヌス菌上清(沈殿+透析)
図2
pooled + conc. HIC Fractions: プール+濃縮HIC画分
図6
Activation: 活性化
Dilutions: 希釈度
Linear: 直線的
図7
% Abbau scCNT: % 分解 scCNT
t[min]: 時[分]
図9
anti-nBH-IgY H110 Pool 1: 抗nBH-IgY H110 プール1
anti-nBH-IgY H110 Pool 2: 抗nBH-IgY H110 プール2
anti-nBH-IgY H110 Pool 3: 抗nBH-IgY H110 プール3
preimmun.: 免疫化前
H110 pool 1: H110プール1
H110 pool 2: H110プール2
H110 pool 3: H110プール3
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]