(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
出願人の先行出願である特許文献2には、様々な心臓弁修復装置および同装置の植え込み方法が記載されている。特許文献2の開示内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0017】
添付の図面を参照して、心臓弁修復装置および同装置の使用方法の特定の実施形態を以下に記載する。これらの実施形態は例示であり、本発明は添付の特許請求の範囲の範囲内において様々な変形が実施可能である。
【0018】
図1に、心臓弁修復装置110の第1実施形態を示す。装置110は心室側巻回部112および把持要素120を備えている。後述するように、心室側巻回部112は、弁尖の接合の促進および腱索に対する装置の安定もしくは固定の両方を行う。
【0019】
本明細書における「螺旋」という用語は、中心の周りに巻回部を形成し、巻回部が中心の周りを延びるにつれて中心から徐々に遠ざかる構造によって画定される形状を広く意味する。巻回部の構造は、巻回部の中心もしくはその付近の領域から開始もしくは出発していてもよい。巻回部は中心から一定の割合または非一定の割合で遠ざかってもよく、螺旋の全体的な輪郭は、略円形、略楕円形または他の形状等の様々な形状であってもよい。螺旋は対称であっても非対称であってもよく、その周囲を巻回構造が延びる中心は、螺旋の幾何学的中心の点であってもよいし、螺旋の幾何学的中心からずれた点であってもよい。巻回部は、螺旋が略平坦となるように同一面上に位置していてもよい。あるいは、巻回部は同一面上に位置していなくてもよく、一定または非一定の割合で上または下に移動していてもよい。したがって、例えば、螺旋は略円錐形であってもよい。巻回部は、中心の周囲で複数の周を形成してもよいし、中心の周囲において完全な1周を形成していなくてもよい。螺旋の巻回構造は、螺旋の外周に位置する開口部から始まる経路を形成しており、この経路は螺旋の中心の周囲を巻回するにつれて螺旋の中心に近づいていく。
【0020】
図1に示すように、心室側巻回部112は略螺旋形状をなしている。螺旋形状は、心室側巻回部112の中心114の周囲において巻回を形成している心室側巻回部112のワイヤ構造によって画定されている。巻回部のワイヤ構造は中心114の領域またはその付近から開始もしくは出発し、中心114の周囲を巻回するにつれて徐々に中心114から遠ざかっている。
図1においては、心室側巻回部112の巻回は中心114から略一定の割合で遠ざかっており、心室側巻回部112の螺旋の全体的な輪郭は略円形である。
【0021】
図1の実施形態においては、心室側巻回部112が略同一面上に位置しており、心室側巻回部112の端部124は図示するように下向きに屈曲または傾斜している。別の実施形態においては、心室側巻回部112が徐々に面外に移行している。
【0022】
図1に示すように、心室側巻回部112の巻回構造は、螺旋の外周の開口部116から始まる経路118を形成している。経路118は、螺旋の中心114の周囲を巻回するにつれて螺旋の中心114に近づいている。図示される実施形態においては、経路118は中心114の周りで3周している。周の数はこれより多くても少なくてもよい。
【0023】
前述したように、螺旋の形状は異なっていてもよい。さらに、心室側巻回部は複数の螺旋を有していてもよい。例えば、心室側巻回部は2つ、3つまたは4つ以上の螺旋を有していてもよく、螺旋は互いに類似していてもよいし異なっていてもよい。一実施例においては、2つの螺旋が共通の中心から延びており、これらの螺旋は互いに180度異なる方向に延びている点を除いては互いに類似している。この実施例においては、2つの螺旋の開口部が互いから180度離れて、螺旋が入れ子状に配置されている。他の実施形態においては、3つの螺旋が120度の間隔を開けて共通の中心から開始しており、これらの螺旋の開口部が互いから120度離れている。さらに別の実施形態においては、4つの螺旋が90度の間隔を開けて共通の中心から開始しており、これらの螺旋の開口部が互いから90度離れている。
【0024】
心室側巻回部全体の径D1は、弁輪の径よりも大幅に小さくしてもよい。これにより、心室側巻回部が選択された腱索の集まりのみを捕捉するように心室巻回部を操縦でき、弁尖の所望の部分だけを引き合わせることができる。心室側巻回部112全体の径D1は例えば約1.0〜2.0cm(例えば1.2cm、1.5cmまたは1.8cm)であるが、これより小さくても大きくてもよい。
【0025】
心室側巻回部112の外側の端は、端部124にて終端している。
図1の実施形態においては、端部124は心室側巻回部112の全体面から下向きに屈曲している。端部124は心室側巻回部112のワイヤ構造のループとして形成されており、接続部126において接続されている。このようにして、端部124は丸みを帯びた非外傷性先端125において終端している。
【0026】
本実施形態における端部124の長さは約5mmであるが、例えば8mm等の他の長さであってもよく、これよりも長くても短くてもよい。本実施形態の端部124は、心室側巻回部112の全体面から下側に約15度の角度をなして屈曲しているが、例えば25度等の他の角度をなしていてもよく、これより大きくても小さくてもよい。本実施形態においては、心室側巻回部112の全体面と端部124の先端125との間に軸方向において約1〜5mmの隙間が形成されているが、この隙間はこれより大きくても小さくてもよい。
【0027】
把持要素120は心室側巻回部112の中心114に接続されており、心室側巻回部112の中心114から上方に延びている。
図1に示すように、把持要素120は心室側巻回部112のワイヤ構造の延長部である。把持要素120を形成しているワイヤ構造は、心室側巻回部112の全体面から約90度の角度をなして上方に延びているが、他の角度をなしていてもよい。把持要素120のワイヤ構造は心室側巻回部112から上方に延びた後に上側屈曲部121において屈曲して、ワイヤ構造の末端122まで下方に延びることによってループを形成している。上側屈曲部121は非外傷性の先端であり、末端122は、非鋭利状もしくは丸い端部であってもよいし、接続部126のように、ワイヤ構造における隣接部位との接続部を形成していてもよい。別の実施形態においては、把持要素120が略直線状、円弧状、屈曲状、螺旋状または他の形状をなしている。一実施例においては、把持要素120の長さ(心室側巻回部112との接続箇所から屈曲部121の先までの長さ)は、約5〜20mmであり、例えば6〜8mmまたは6〜10mmであるが、これより長くても短くてもよい。
【0028】
図1に示すように、植え込み式の心臓弁修復装置110は心房側安定化部分を有しておらず、つまり、弁の心房側(例えば心房壁や心房側の弁輪)の組織と係合することによって装置を安定させるように構成された部分を有していない。例えば、植え込み後に把持要素120が弁を通って心房側に延びて、弁尖閉鎖時に弁尖と接触するように構成することも可能である。しかし、把持要素120および装置110の他の部分のいずれもが、心房に対して装置を安定もしくは固定させるように弁の心房側の組織と係合するようには構成されていない。
【0029】
心室側巻回部112および把持要素120を含む装置110は、ワイヤによって形成されている。別の実施形態においては、装置の一部または全体が、ワイヤ、ワイヤ束、帯状部材、ロッドまたはチューブによって構成されており、装置または各部分の複数の区分がワイヤ、ワイヤ束、帯状部材、ロッド、チューブまたはこれらの組み合わせによって構成されている。このような構造は、ワイヤ、ワイヤ束、帯状部材、ロッドまたはチューブを屈曲等によって所望の形状に成形して形成してもよい。特定の形状の材料を特定の温度で「焼成」することによって、その材料が所望の形状を記憶するように形成してもよい。または、ワイヤ、ワイヤ束、帯状部材、ロッドまたはチューブの形成時に成形を行ってもよい。例えば、心室側巻回部の螺旋形状は、化学エッチングまたはレーザーエッチング等の方法によってシート材から切り出してもよく、この場合は、帯状部材またはロッドが螺旋形状と同時に形成される。装置は複数の構造または材料から形成されていてもよく、例えば、ワイヤ芯部を有するチューブが心室側巻回部および/または把持要素を形成していてもよく、他の要素も類似または異なる構造部材から形成してもよい。
【0030】
ワイヤ束を用いた場合、装置の軸方向強度および可撓性が向上する。例えば、複数の細いワイヤを撚合または編組してワイヤ束を形成することによって、撚合または編組の構造に応じて軸方向強度および可撓性が向上する。
【0031】
ワイヤ、ワイヤ束、帯状部材、ロッドまたはチューブは任意の断面形状を適宜有していてもよい。例えば、ワイヤ、ワイヤ束、帯状部材、ロッドまたはチューブの断面は、円形、楕円形、正方形、長方形、六角形または他の形状をなしていてもよい。ワイヤ、ワイヤ束、帯状部材、ロッドまたはチューブの断面形状およびサイズは、長さ方向の異なる位置において異なっていてもよい。装置110のワイヤはその全長にわたって円形の断面を有している。一実施例においては、ワイヤ、ワイヤ束、帯状部材、ロッドまたはチューブの径、幅もしくは太さは約0.2〜1.0mm(例えば0.4mm)であるが、これより大きくても小さくてもよい。
【0032】
装置110のワイヤは、例えばニチノール等の好適な形状記憶金属から形成されている。装置のワイヤ、ロッドまたはチューブの全体もしくは一部は他の好適な材料から形成してもよく、例えば、他の形状記憶材料、他の金属材料、プラスチック材料および/または複合材料から形成してもよい。
【0033】
図1の装置110は、把持要素120および端部124の端に丸められた先端121,125を有している。別の実施形態においては、ワイヤ、ワイヤ束、帯状部材、ロッドまたはチューブの1つまたは複数の端部は、丸められていてもよいし、直角を形成してもよいし、尖っていてもよい。後述するように、装置は1つまたは複数の回転防止要素を有していてもよい。
【0034】
図1に示すように、心室側巻回部112の螺旋は、上方から見て時計方向に巻回し、中心から開始して外側に移動しているとみなすことができる。別の実施形態においては、心室側巻回部112の螺旋が反対方向に巻回している。
【0035】
ワイヤ、ワイヤ束、帯状部材、ロッドまたはチューブの外面に1つまたは複数の溝を形成してもよい。ワイヤ、ワイヤ束、帯状部材、ロッドまたはチューブの外面の溝は、ワイヤ、ワイヤ束、帯状部材、ロッドまたはチューブの外周を囲んでいてもよいし、ワイヤ、ワイヤ束、帯状部材、ロッドまたはチューブの長さ方向に延びていてもよい。一実施例においては、ワイヤ、ワイヤ束、帯状部材、ロッドまたはチューブは、ワイヤ、ワイヤ束、帯状部材、ロッドまたはチューブに沿って略螺旋状の経路を延びる1つまたは複数の溝を有していてもよい。このような溝はそれぞれ異なる用途に利用できる。例えば、1つまたは複数の溝は、装置の異なる箇所において異なる可撓性をもたらす用途、組織内殖を促進させる用途、装置の把持および操作(押圧、引っ張り、回転等)を補助する用途および/または薬剤送達用流路としての用途に用いることができる。例えば、螺旋状の溝は、装置が搬送カテーテルから出る際および搬送カテーテル内に引き込まれる際に装置の回転を助ける。同様に、螺旋状または他の形状の溝は、層状の細胞増殖を所望の方向に向けることができ、これによって傷の形成が抑制される。
【0036】
ワイヤ、ワイヤ束、帯状部材、ロッドまたはチューブに1つまたは複数の穴を形成してもよい。この穴は、ワイヤ、ワイヤ束、帯状部材、ロッドまたはチューブを太さ方向に貫通する貫通孔であってもよいし、ワイヤ、ワイヤ束、帯状部材、ロッドまたはチューブの外面に形成された凹部やくぼみであってもよい。ワイヤ、ワイヤ束、帯状部材、ロッドまたはチューブの長さ方向において外周を囲むように連続して穴が形成されていてもよい。このような穴はそれぞれ異なる用途に利用できる。例えば、1つまたは複数の穴は、装置の異なる箇所において異なる可撓性をもたらす用途、組織内殖を促進させる用途、装置の把持および操作を補助する用途、造影剤導入用の穴としての用途および/または薬剤送達用部位としての用途に用いることができる。
【0037】
装置のワイヤ、ワイヤ束、帯状部材、ロッドまたはチューブにコーティングを施してもよい。コーティングは好適には生体適合性コーティングであり、例えば、装置が植え込まれた組織の拒絶反応を抑制する用途、装置の送達を補助するために(潤滑性コーティングとして)摩擦を低減させる用途、装置の移動時に組織に触れるよう意図されている領域(例えば、心室側巻回部の螺旋の経路に沿った領域)における摩擦を低減させる用途、移動の抑制または装置の固定を行うことが求められる領域の摩擦を増加させる用途、好適な薬剤を送達させる用途、放射線不透過性を付与する用途、固定を助ける細胞および組織の増殖を(例えば上部において)促進させる用途、腱索および/または弁尖の間における組織増殖を促進する用途および/または他の用途に用いることができる。放射線不透過性については、植え込み時および/または植え込み後に医師が装置の位置を確認できる材料を、装置の全体または選択された箇所にコーティングまたはめっきしてもよい。例えば、螺旋の端部に放射線不透過性材料をめっきしてもよい。装置の選択された箇所がめっきされる場合、装置の向きを確認しやすくするために、選択箇所のめっきを特定の形状(例えば線状や矢印状)に成形してもよい。別の実施例において、装置がチューブによって形成されている場合は、例えば圧力測定にチューブを使用できるように、チューブが確実に封止されるようにチューブにコーティングを施してもよい。コーティングが薬剤放出コーティングである場合は、コーティングは担持体(ポリマー等)を含み、担持体内の薬剤が所望の期間を経て溶出されるように構成してもよい。薬剤溶出構造として、生分解性担持体(生分解性ポリマー等)や、薬剤分子の拡散による薬剤の溶出を可能にする安定した担持体(安定したポリマー等)を用いることができる。
【0038】
図2に心臓弁修復装置130の別の実施形態を示す。装置130は、心室側巻回部132および把持要素140を備えている。心室側巻回部132は略螺旋形状をなし、この螺旋形状は、心室側巻回部132の中心134の周囲において巻回を形成している心室側巻回部132のワイヤ構造によって画定されている。巻回部のワイヤ構造は中心134から開始して、中心134の周囲を巻回するにつれて徐々に中心134から遠ざかっている。装置130においては、心室側巻回部132の巻回が中心134から略一定の割合で外側に移動しているため、略円形(上面視)をなしている。さらに、巻回は中心134における開始点から上方に移動しているため、上側に開口する略円錐形の螺旋を形成している。この円錐形の底部は頂点の上側に位置している。別の実施形態においては、心室側巻回部の巻回が中心の開始点から外側に移動するとともに、中心の開始点から下方に移動しているため、下側に開口する略円錐形の螺旋を形成している。この円錐形の底部は頂点の下側に位置している。
図2に示すように、心室側巻回部132はその外周において非外傷性端部144で終端している。端部144は、端部124と同様に下向きに屈曲している。
【0039】
装置110と同様に、装置130の心室側巻回部132の巻回構造は、螺旋の外周に位置する開口部から始まる経路を形成しており、この経路は螺旋の中心134の周囲を巻回するにつれて螺旋の中心134に近づいていく。
【0040】
装置110と同様に、装置130は断面円形のワイヤから構成されていてもよい。装置130のワイヤは、例えばニチノール等の好適な形状記憶金属から形成されていてもよい。
【0041】
装置130の把持要素140の構造は、装置110の把持要素120の構造に類似している。
図2に示すように、装置130は心房側安定化部分を有していない。
上記の内容から当業者にとっては自明であるが、装置110に関して記載した変更例を用いて、装置130の他の実施形態を構成することができる。したがって、例えば、心室側巻回部132および把持要素140は、装置110に関して記載した他の構成、形状、大きさおよび/または材料を有していてもよい。装置の端部は、丸められていてもよいし、直角を形成してもよいし、尖っていてもよい。後述するように、装置130は1つまたは複数の回転防止要素を有していてもよい。心室側巻回部132および/または把持要素140は、前述したように、1つまたは複数の溝および/または穴を有していてもよい。また、装置にコーティングを施してもよい。
【0042】
図3に心臓弁修復装置150の別の実施形態を示す。装置150は、心室側巻回部152および把持要素160を備えている。心室側巻回部152は略螺旋形状をなし、この螺旋形状は、心室側巻回部152の中心154の周囲において巻回を形成している心室側巻回部152のワイヤ構造によって画定されている。巻回部のワイヤ構造は中心154から開始して、中心154の周囲を巻回するにつれて徐々に中心154から遠ざかっている。装置150の内側部分151においては、心室側巻回部152の巻回が中心154から略一定の割合で外側に移動しているため、略円形(上面視)をなしている。さらに、巻回は中心154における開始点から上方に移動しているため、上側に開口する略円錐形の螺旋を形成している。この円錐形の底部は頂点の上側に位置している。内側部分151は外側部分153に移行しており、外側部分153においては、心室側巻回部152の巻回は略同一面上に留まりながら、略一定の割合において中心154から外側に移動している。別の実施形態においては、内側部分が略同一面上を延び、外側部分が略円錐形の螺旋の一部を形成している。
図3に示すように、心室側巻回部152はその外周において非外傷性端部164で終端している。端部164は、端部124と同様に下向きに屈曲している。
【0043】
装置110と同様に、装置150の心室側巻回部152の巻回構造は、螺旋の外周に位置する開口部から始まる経路を形成しており、この経路は螺旋の中心154の周囲を巻回するにつれて螺旋の中心154に近づいていく。
【0044】
装置110と同様に、装置150は断面円形のワイヤから構成されていてもよい。装置150のワイヤは、例えばニチノール等の好適な形状記憶金属から形成されていてもよい。
【0045】
装置150の把持要素160の構造は、装置110の把持要素120の構造に類似している。
図3に示すように、装置150は心房側安定化部分を有していない。
上記の内容から当業者にとっては自明であるが、装置110に関して記載した変更例を用いて、装置150の他の実施形態を構成することができる。したがって、例えば、心室側巻回部152および把持要素160は、装置110に関して記載した他の構成、形状、大きさおよび/または材料を有していてもよい。装置の端部は、丸められていてもよいし、直角を形成してもよいし、尖っていてもよい。後述するように、装置150は1つまたは複数の回転防止要素を有していてもよい。心室側巻回部152および/または把持要素160は、前述のように、1つまたは複数の溝および/または穴を有していてもよい。また、装置にコーティングを施してもよい。
【0046】
図4に心臓弁修復装置170の別の実施形態を示す。装置170は、心室側巻回部172および把持要素180を備えている。心室側巻回部172は略螺旋形状をなし、この螺旋形状は、心室側巻回部172の中心174の周囲において巻回を形成している心室側巻回部172のワイヤ構造によって画定されている。巻回部のワイヤ構造は中心174から開始して、中心174の周囲を巻回するにつれて徐々に中心174から遠ざかっている。装置170においては、心室側巻回部172の巻回が中心174から不均一な割合で外側に移動している。このため、内側の狭い隙間172Aと外側の広い隙間172Bとの比較から分かるように、巻回部において隣り合う周部の間の隙間が一定ではない。
図4に示すように、心室側巻回部172はその外周において非外傷性端部184で終端している。
【0047】
装置110と同様に、装置170の心室側巻回部172の巻回構造は、螺旋の外周に位置する開口部から始まる経路を形成しており、この経路は螺旋の中心174の周囲を巻回するにつれて螺旋の中心174に近づいていく。
【0048】
装置110と同様に、装置170は断面円形のワイヤから構成されていてもよい。装置170のワイヤは、例えばニチノール等の好適な形状記憶金属から形成されていてもよい。
【0049】
装置170の把持要素180の構造は、装置110の把持要素120の構造に類似していてもよいし、もしくは、心室側巻回部172と略同一面上に位置していてもよい。
図4に示すように、装置170は心房側安定化部分を有していない。
【0050】
上記の内容から当業者にとっては自明であるが、装置110に関して記載した変更例を用いて、装置170の他の実施形態を構成することができる。したがって、例えば、心室側巻回部172および把持要素180は、装置110に関して記載した他の構成、形状、大きさおよび/または材料を有していてもよい。装置の端部は、丸められていてもよいし、直角を形成してもよいし、尖っていてもよい。後述するように、装置170は1つまたは複数の回転防止要素を有していてもよい。心室側巻回部172および/または把持要素180は、前述のように、1つまたは複数の溝および/または穴を有していてもよい。また、装置にコーティングを施してもよい。
【0051】
前述したように、植え込み式の心臓弁修復装置130,150,170は、心臓弁修復装置110およびここに記載する他の心臓弁修復装置と同様に心房側安定化部分を有していない。植え込み式の各心臓弁修復装置110,130,150,170は、心室側巻回部112,132,152,172として形成されている心室側安定化部分のみによって構成されている安定化部分を備えている。心室側巻回部112,132,152,172は、弁の心室側のみの組織と係合して、心室側巻回部112,132,152,172と弁の心室側の腱索との相互作用によって装置を安定させるように構成されている。いくつかの実施形態においては、これらの心臓弁修復装置は、植え込み後に心房組織もしくは弁の心房側の組織と接触する部分を有していない、および/または、植え込み後に心房内もしくは弁の心房側上に延びる部分を有していないと定義される。しかしながら、前述したように、いくつかの実施形態においては、把持要素が弁を通って心房側に延びて、弁尖と接触するように構成することも可能である。とはいえ、このような実施形態においても、把持要素および装置の残りの部分のいずれもが、心房に対して装置を安定もしくは固定させるように弁の心房側の組織と係合するようには構成されていない。
【0052】
図5A〜5Cに、前述の心臓弁修復装置のような心臓弁修復装置とともに使用できる回転防止要素の例を示す。
図5Aに示す心臓弁修復装置190は、心室側巻回部の端部に位置する突出部として形成されている回転防止要素191を備えている。
図5Bに示す心臓弁修復装置192は、心室側巻回部の端部に位置する拡張歯として形成されている回転防止要素193を備えている。
図5Cに示す心臓弁修復装置194は、巻回部の内側の周部の拡張部分によって形成されている回転防止要素195を有している。この拡張部分は、隣の周部に近づいているか、もしくは隣の周部に接触している。回転防止要素は、腱索を集める方向への装置の回転がその反対の方向の回転よりも容易に行われるように機能することによって、植え込み後の装置の逆回転を抑制している。例えば、傾斜した前面(螺旋経路の外側開口部に対向している面)および急傾斜の後面を歯に形成することによって、弁尖を近づける(傾斜した前面上を腱索が通過することによって近づけられる)方向への装置の回転を許容し、反対方向への回転を抑制する(急傾斜の後面に腱索が当接することによって逆回転が抑制される)ことができる。
【0053】
図5Aに示す1つまたは複数の突出部191の例においては、腱索を捕捉するために装置190を回転させているときに送達システムから加えられる力によって、突出部191と近傍の巻回部の周部との間を腱索が通過できる程度に隙間が広がるようにワイヤ構造がたわむ。このため、装置190が腱索の周囲を巻回できる。同様に、
図5Bに示す1つまたは複数の突出部193の例においては、腱索を捕捉するために装置192を回転させているときに送達システムから加えられる力によって、歯193と近傍の巻回部の周部との間を腱索が通過できる程度に隙間が広がるようにワイヤ構造がたわむ。このため、装置192が腱索の周囲を巻回できる。同様に、
図5Cに示す1つまたは複数の拡張部分195の例においては、腱索を捕捉するために装置194を回転させているときに送達システムから加えられる力によって、拡張部分195と近傍の巻回部の周部との間を腱索が通過できる程度に隙間が広がるようにワイヤ構造がたわむ。このため、装置194が腱索の周囲を巻回できる。これらの例のそれぞれにおいて、回転防止要素の形状によって、装置が意図せず反対方向に回転することが抑制されている。
【0054】
図6に、前述した心臓弁修復装置等の心臓弁修復装置の植え込みに用いることができる種類の送達システムの基端部を示す。この送達システム300は、略管状の可撓性アプリケータ400と、アプリケータ400内を移動可能である内側ロッド450とを備えている。アプリケータ把持部310は、アプリケータ400の前進、後退ならびに時計方向および反時計方向の回転を行うために用いられる。アプリケータ灌流ポート320は、アプリケータ400への灌流液の注入に用いられる。内側ロッドトルカ330は、アプリケータ400内にて内側ロッド450を回転させるために用いられる。内側ロッド450に接続されている内側ロッドグリップ340は内側ロッド450の動きを制御するために使用され、例えば、後述するように、内側ロッド450に接続されたフックを押し出すために内側ロッド450を前方に押すために使用される。スケールもしくは定規350によって、内側ロッド450がどの程度前進したかを判断することができ、アプリケータ400内におけるフックの位置を確認できる。安全板360によって内側ロッドグリップ340の意図しない前進が防止されているため、フックが不用意にアプリケータ400から押し出されないようになっている。
【0055】
図7Aおよび7Bはそれぞれ、心臓弁修復装置110が装着された状態の送達システム300の先端部を示す上面図および側面図である。図示されているように、可撓性アプリケータ400には屈曲を助けるための側面スロット402が形成されている。カテーテルの可撓性はこれ以外の方法によってもたらされていてもよく、好適な可撓性材料を選択することによって可撓性を付与してもよい。アプリケータ400は、丸みを帯びた非外傷性の先端404を有している。アプリケータ400は、その全体または一部を通って心臓弁修復装置が押し出される窓部410を有している。窓部410の先端側に隣接する傾斜面420によって装置の押出が補助されるが、これについては後述する。
【0056】
内側ロッド450はフック460にて終端している。フック460は、アプリケータ400の内側において窓部410の基端側に位置している状態においては心臓弁修復装置の把持要素を保持するように構成されている。
【0057】
第1の例示的植え込み処置において、送達システム300が心臓弁修復装置110を保持している状態では、
図7Aおよび7Bに示すように心室側巻回部112はアプリケータ400の管腔の外側に位置し、把持要素120はアプリケータ400の管腔内でフック460に保持されている。この状態においては、アプリケータ400の管腔の内壁によって、フック460からの把持要素120の離脱が防止されている。このように、フック460がアプリケータ400の管腔内にある限り(かつ窓部410に配置されていない限り)、把持要素120が内側ロッド450に引っ掛けられているため、内側ロッド450に係止されている。
【0058】
送達システム300はカテーテルチューブ、例えば周知の操縦可能なカテーテルとともに使用される。操縦可能なカテーテルの例としてはSt.Jude Medical社のアジリス(AGILIS(登録商標))カテーテルが挙げられる。このカテーテルは、送達システム300のアプリケータ400を収容できる大きさを有している。例えば、アプリケータ400のサイズが7.5フレンチ(2.5mm)である場合、外側カテーテルのサイズは12フレンチ(4mm)である。これは一例であり、他のサイズを採用してもよい。
【0059】
この第1の例においては、心室側巻回部112がアプリケータ400の管腔の外側に位置している状態で、アプリケータ400の先端が操縦可能なカテーテルの基端内に挿入される。操縦可能なカテーテルの管腔は、アプリケータ400の外径よりもわずかに大きく心室側巻回部112の外周よりも小さいため、アプリケータ400がカテーテル内をさらに前進すると心室側巻回部112の内側周部がカテーテルチューブの基端側縁部と接触する。アプリケータ400をカテーテル内にさらに前進させると、心室側巻回部112がアプリケータ400とともにカテーテル内に進入するにつれて、心室側巻回部112の巻きがほどかれて直線状となる。つまり、心室側巻回部112の中心部がまずカテーテル内に入り、心室側巻回部112がカテーテル内に進入していくにつれて、中心から外周に向かって心室側巻回部112の巻回がほどかれていく。カテーテル内に完全に入った状態においては、ほとんど巻回していない心室側巻回部112がアプリケータ400の外壁とカテーテル管腔の内壁との間において比較的直線状に保持されている。アプリケータ400は、カテーテルを患者の心臓に到達させた後にカテーテルに挿入してもよいし事前に挿入してもよい。
【0060】
カテーテルは治療する心臓弁、例えば僧帽弁の近くに周知の方法によって配置される。アプローチ方法としては、右心房と左心房との間の中隔を通って左心房にカテーテルを挿入する経中隔アプローチを採用してもよい。経中隔アプローチを容易に行うために、送達システムに心房中隔拡張器を設けてもよい。また、他のアプローチ方法を採用してもよく、例えば、大腿動脈および大動脈を介して左心室に至る経大腿アプローチや、心尖部の心臓壁を介して左心室に至る経心尖アプローチや、心臓壁を介して左心房に至る経心房アプローチを採用してもよい。同様に、治療する弁が三尖弁である場合は、周知の方法によってカテーテルが三尖弁の近くに配置される(例えば頸静脈または大静脈を介して心臓に挿入される)。
【0061】
ガイドカテーテルが心臓弁付近に配置されると、ガイドカテーテルの先端が心臓弁の弁尖に対向するように移動および/または回転される。次にアプリケータ400をカテーテルに対して前進させることによって、カテーテルから心室側巻回部112が押し出される。心室側巻回部112の形状記憶特性によって、心臓内において心臓弁修復装置110が
図7Aおよび7Bに示す状態に復帰する。心室側巻回部112は心房内においてカテーテルから押し出されてもよいし、心室内においてカテーテルから押し出されてもよい。心房内で出す場合は、送達システム300を用いてアプリケータ400の先端および心室側巻回部112が心室内に挿入される。アプリケータ400の先端および心室側巻回部112は、弁を介して心室内に挿入できる。
【0062】
図8は送達システム300の先端の斜視図である。図示されている状態において、心室側巻回部112はガイドカテーテルからすでに押し出されて、アプリケータ400のチューブの外側に位置している。一方、把持要素120はまだアプリケータ400のチューブ内に配置されてフック460に接続されている。この状態においては、アプリケータ400が回転されると心臓弁修復装置110も回転する。アプリケータ400の回転時には、窓部410の枠が装置110に接触することによって、装置110がアプリケータ400と一緒に回転する。代替的または追加的に、フック460または送達システム300の他の部分が装置110の回転を可能にするように装置110を保持していてもよい。装置の形状は、送達システムの軸線が心室側巻回部の回転軸線と略整合するように構成されている。
【0063】
心室側巻回部112が心室内に配置されて
図8に示す状態にあるときに、心室側巻回部112が所望の腱索を捕捉するように送達システムが使用される。医師が心室側巻回部112を左右に操作して、弁尖の対象部位を合わせるために特定の腱索を捕捉する。例えば、心室側巻回部112を適宜に移動および回転させることによって、弁尖部分A1およびP1(
図12)に連結している腱索を捕捉できる。追加的または代替的に、弁尖部分A2およびP2ならびに/またはA3およびP3(
図12)に連結している腱索を捕捉してもよい。
【0064】
このようにして、前乳頭筋に連結されている所望の腱索および後乳頭筋に連結されている所望の腱索が心室側巻回部112の略螺旋形状の経路118内に配置される。アプリケータ400または他の好適な手段を回転させることによって、心室側巻回部112が選択された前側および後側の腱索の周囲を巻回するように心室側巻回部112が回転される。心室側巻回部112が回転されると、心室側巻回部112の螺旋形状によって、心室側巻回部112の中心114に向かって腱索が経路118内を移動する。このようにして、捕捉された前側の腱索および後側の腱索が互いに近づけられ、前乳頭筋に連結されている選択された腱索と後乳頭筋に連結されている選択された腱索との間の隙間が狭められる。その結果、選択された腱索は弁尖の選択された領域に連結されているため、弁尖の選択された領域同士が互いに近づく。
【0065】
心室側巻回部がこのように腱索を移動させるべく回転して腱索を保持するためには、心臓弁修復装置または少なくとも心室側巻回部が、螺旋形状を実質的に維持できるように十分な剛性を有している必要がある。つまり、腱索から力が加えられても装置自体で螺旋形状を維持できる剛性を装置が備えている必要がある。
【0066】
代替的実施形態においては、心室側巻回部が複数の螺旋を有し、より少ない回転によって装置が腱索を集めて移動できるように構成されている。この場合、例えば、複数の螺旋を有する心室側巻回部においては螺旋の開口部が心室側巻回部の外周において異なる場所に位置しており、心室側巻回部の外周の周りで異なる場所に位置する腱索が同時に集められ、中心に向かって同時に移動される。
【0067】
前述のように医師が心室側巻回部112を第1方向に回転させた後に、装置の調節を目的として、医師が反対方向に心室側巻回部112を回すことによって腱索をある程度互いから離してもよい。この例においては、時計方向の回転によって配置された後に、医師が心室側巻回部112を反時計方向(上面視)に回転することによって、捕捉された腱索が心室側巻回部112の中心114から離れる方向に移動される。その結果、腱索が互いからある程度の距離をなして離される。医師は腱索および弁尖の位置を監視し、所望の状態にするために心室側巻回部112を時計方向または反時計方向に適宜回転させる。
【0068】
必要であれば、心室側巻回部112が所望の回転位置に回転された後に、医師が心室側巻回部112を引いて心臓弁の近くに配置させてもよい。これはアプリケータ400を後退させることによって行うことができる。
【0069】
心室側巻回部112が所望の位置に配置されると、装置110の残りの部分が
図9に示すようにアプリケータ400から押し出される。アプリケータ400が比較的安定して保持された状態において、内側ロッド450がアプリケータ400内を先端側に移動させられると、フック460が窓部410まで移動する。この先端方向への移動において、把持要素120が傾斜面420に当接しながら先端側に移動することによって、把持要素120がアプリケータ400およびフック460から離れる方向に移動する。フック460が窓部410に配置されると、把持要素120は、アプリケータ400の管腔の内壁によってフック460からの離脱が防止されていない状態になる。このため、把持要素120がフック460から解放されて、装置110が植え込み位置に残される。次いで、送達システム300が患者の体内から引き出される。このようにして心臓弁修復装置110が患者に植え込まれる。
【0070】
前述したように心房側から弁に到達している場合は、心室に装置が植え込まれた後に、把持要素が概して心房に向けられるように配置される。一方、心室側から弁に到達している場合は、心室に装置が植え込まれた後に、把持要素が心房の略反対方向を向き、概して心尖に向けられるように配置される。
【0071】
心臓弁修復装置130,150,170,190等の本明細書に記載の他の心臓弁修復装置および心臓弁修復装置110,130,150,170,190と関連して記載した変形例も上記と同様の方法にて植え込むことができる。
【0072】
本発明による心臓弁修復装置は、従来の装置と比較していくつかの効果をもたらすことができる。前述したように、弁尖の腱索を捕捉する特定の従来例の心臓弁修復装置においては、心臓に植え込まれた装置の安定を維持するために心房に対して装置を固定するための部分もしくは部位を装置が有している。一方、本発明による心臓弁修復装置110,130,150,170,190およびこれらの装置に関連して記載した変形例はこのような従来例と異なり、心房側安定化部分を有していない。本発明による心臓弁修復装置は、心房側安定化部分の不在にも関わらず、心臓に植え込まれた後に安定性を維持できるだけでなく、心房に固定される従来装置では得ることのできない、従来認識されていなかった効果をもたらすことが分かった。
【0073】
心臓が拍動すると心臓の様々な部位が動き、乳頭筋を弁尖に接続している腱索も動く。本明細書に記載の心房側安定化部分を有していない心臓弁修復装置は腱索とともに動くことができ、同時に、弁尖接合のために腱索が引き集められた状態を維持する。時間が経つと、心室側巻回部の周囲に組織が成長して、心室側巻回部が腱索内にほとんど埋め込まれた状態になる。このように組織が装置を包み込むことによって、腱索に対して装置が固定される。
【0074】
心房側安定化部分を有する従来の装置は心房に対して固定される。しかしながら、心臓の拍動によって弁が開閉するときには、心房に対して腱索が移動する。このため、上記の従来装置が植え込まれて心房に固定されると、心房に対して腱索が移動することによって、装置に対して腱索が移動することになる。心房に固定されている装置は、腱索と一緒に自由に動くことができないように拘束されている。この拘束は植込み処置時およびその後も続く。このように装置が拘束されると、腱索が装置に対して擦れ合い、腱索の炎症、損傷および/または破裂が発生するおそれがある。
【0075】
これに対し、本明細書に記載の心房側安定化部分を有していない心臓弁修復装置は腱索に対してのみ取り付けられている。このため、腱索と一緒に装置が自由に動くことができ、弁尖接合のために腱索を引き集められた状態に維持しながらも、例えば、植え込みの軸線方向において概して上下方向に移動できる。装置は心房に対しても移動可能である。このように、本装置は心房側安定化部分を有していないことから、装置に対する腱索の動きを抑制または防止し、このような相対移動によって生じるおそれのある腱索の炎症、損傷および/または破裂を抑制または防止できるという従来認識されていなかった効果をもたらす。
【0076】
前述の従来装置は植え込み後の安定性を確保するために心房側安定化部分を有している。しかし、本発明による装置は、心房側安定化部分を備えていないにも関わらず植え込み後に心臓内において安定していることが、生体外実験および生体内動物実験により分かった。本装置は、心室側巻回部および腱索の相互作用によって正しい位置に十分に保持される。したがって、前述の従来装置のように接続された心房側安定化部分を必要とせずに心臓に植え込まれた装置を安定状態に維持でき、同時に上記の効果を得られることが分かった。
【0077】
心房側安定化部分を有しない装置を用いることによって、さらに以下の効果を得ることができる。例えば、心房側安定化部分を有していないため、装置はより小型であり、構造がより単純で製造コストも抑えることができる。また植え込みも容易であり、操縦性が向上しているため目的の治療をより容易に行うことができる。さらに、組織損傷の可能性が低く、全体的な成果も向上する。
【0078】
心房側安定化部分を有していた場合は装置がより大きくまたは長くなり、弁の心室側だけでなく、心房側においても装置の位置決めが必要になる。つまり、心房側安定化部分を有しない装置はより容易に植え込むことができる。また心房側安定化部分を有していない場合は装置の視認もより容易であるため、植え込みがさらに容易である。
【0079】
心房側安定化部分を有していないため、比較的小さい心室側巻回部を容易に操縦して特定の腱索の集まりを捕捉できる。心房側安定化部分が存在していた場合、装置の留置範囲が制限される。つまり、心房側安定化部分が比較的大きい場合は装置の横方向の範囲が制限されるため、装置を配置する範囲および捕捉できる腱索の集まりも制限される可能性がある。これに対し、本発明の装置はより小さく操縦も容易であるため、特定の腱索および/または弁の特定の領域を対象とする能力が向上されている。
【0080】
心房側安定化部分を有しない装置は、心房側組織との係合に起因する、弁の心房側組織の損傷を抑制できる。このような係合は送達時および植え込み後に発生し得る。
本明細書に記載の様々な心臓弁修復装置は上記の方法において植え込むことができる。本装置の様々な特徴によって処置および機能が促進される。
【0081】
例えば、把持要素を設けることによって、送達システムによる装置の保持が可能となっており、前述したように、装置の保持、操縦、回転および解放を行うことができる。把持要素は心室側巻回部の中心またはその付近から延びているため、把持要素の軸線を略中心として心室側巻回部を回転させるだけで装置を回転できる。装置が完全に展開されると、把持要素は心室内に完全に配置されるか、心房内に延びた状態となる。
【0082】
心室側巻回部の端部は巻回部の全体面から屈曲されており、腱索の捕捉を助けている。捕捉可能な腱索の範囲は、心室側巻回部の端部と巻回部の全体面との間の距離に左右される。端部の先端は丸みを帯びており非外傷性であるため、腱索、弁尖および/または組織の損傷が抑制される。
【0083】
例えば
図2および3に示す円錐形または部分的に円錐形の実施形態のように心室側巻回部の全体または一部が同一面上にない場合、心室側巻回部が高さ寸法を有していることによって、心室内において装置の上下方向の位置が維持されやすくなる。またこの高さ寸法によって、腱索との上下方向における接触面積が増える。このため、装置と腱索との間の摩擦が減少し、装置が組織に被覆されやすくなる。また、この高さ寸法によって装置の視認が容易になる。
【0084】
図4に示すように心室側巻回部の周部間の間隔が外周に向かって大きくなっている場合、(より広い外側の間隔によって)腱索の捕捉が容易化されると同時に、(より狭い内側の間隔によって)腱索を互いに近づけることができる。
【0085】
装置は、植え込み後に心室側巻回部の逆方向(緩む方向)への回転を抑制する回転防止要素を有していてもよい。つまり、心室側巻回部は装置を正しい位置に維持させるために、
図5A〜5Cに示すような回転防止要素191,193,195を1つまたは複数有していてもよい。巻き戻りを抑制する他の手段としては、形状を異ならせることが挙げられる。例えば、心室側螺旋が楕円形である場合は、楕円の長軸線の頂点に腱索が集まりやすくなる。装置が回転するためには、腱索が互いに近づくように引っ張られる必要があるが、腱索はこのような動きに逆らう傾向を有している。したがって、楕円形にすることによって、装置の好ましくない回転を抑制できる。
【0086】
送達システムが心室側から心臓弁にアプローチする場合(例えば経大腿アプローチや経心尖アプローチ)においては、前述の方法と同様の方法を用いることができるが、送達システムが反対側から弁にアプローチする点を考慮して適宜変更する必要がある。
【0087】
送達システムは、心臓弁修復装置が部分的または完全に展開してから装置を引き込みおよび/または移動させる手段を備えていてもよい。例えば、
図10に示すように、心臓弁修復装置の把持要素121内に配置された引き込みワイヤ500を備えていてもよい。引き込みワイヤ500はアプリケータ400の中に配置できるが、同時に、心臓弁修復装置がアプリケータ400から押し出された後も把持要素121内に留まることができる。引き込みワイヤ500を引くことによって心臓弁修復装置を後退させることができ、装置を別の場所に移動させたり、患者の体内から完全に除去したりすることが可能である。
【0088】
図11に、比較的平坦な把持要素472との係合に用いるフック470の変更例を示す。図に示すように、この実施形態の把持要素472は心室側巻回部と略同一面上に位置している。この実施形態においては、把持要素472に対してフック470を回転させるだけで装置が解放され、把持要素472からフック470が後退できるようになる。
【0089】
上記の方法は、
図8に示すように送達用のアプリケータの外側に心室側巻回部が配置されている装置を対象として説明したが、適宜変更可能である。例えば、アプリケータ400内に心室側巻回部を配置させることによって、心室側巻回部を比較的直線状に保持してもよい。展開時には、アプリケータから装置が押し出されるときに心室側巻回部が螺旋形状に戻る。
【0090】
上記の内容から当業者にとって自明であるが、装置110,130,150,170,190の代替的実施形態も概して上記のように植え込むことができる。植え込み方法は、使用する特定の実施形態および治療する特定の患者に応じて適宜変更可能である。
【0091】
上記の装置が前述したように正しい位置に配置されると、心室側巻回部の螺旋が前乳頭筋に連結されている選択された腱索と後乳頭筋に連結されている選択された腱索との間の隙間を狭める。その結果、弁尖の選択された領域が互いに近づく。いくつかの例においては、腱索を規制することによって弁尖の移動を抑制でき、弁の逸脱を抑制できる。腱索を規制して弁尖を互いに近づけることによって、弁尖の接合が促進され、弁が十分に閉鎖して逆流症状が抑えられる。この装置は長期的治療のために植え込み位置に留まることができる。
【0092】
図12は僧帽弁の弁尖の上面図である。本明細書に記載の装置は、異なる位置において異なる腱索を集めるために使用できる。例えば、弁の前尖および後尖の中心に近いA2およびP2の部分のあたりに装置が配置される。A2およびP2の腱索が心室側巻回部の螺旋によって捕捉されて集められる。螺旋が回転することによって捕捉された腱索が同じ箇所、すなわち螺旋の中心に集められる。この状態において、A2とP2との間の隙間が無くなる。螺旋の回転程度を少し減少させると幅の狭い隙間が形成される。もしくは、A1およびP1の部分のあたりに装置を配置してもよい。この場合は、A1およびP1の腱索が心室側巻回部の螺旋によって捕捉されて集められ、A1とP1との間の距離が狭まる。またさらに、A3およびP3の部分のあたりに装置を配置してもよい。この場合は、A3およびP3の腱索が心室側巻回部の螺旋によって捕捉されて集められ、A3とP3との間の距離が狭まる。螺旋の大きい装置をA2およびP2の部分のあたりに配置してA2、P2、A1、P1、A3および/またはP3の腱索を集め、例えばP1とP3との間の距離やA1とA3との間の距離を狭めてもよい。
【0093】
本明細書に記載する比較的小さい心臓弁修復装置、例えば外径が1.0〜2.0cmである心室側巻回部を有する心臓弁修復装置を用いることによって、実質的に全ての腱索よりも少ない腱索の捕捉や、少ない腱索の集まりの捕捉が可能となる。このような装置を植え込む際には、実質的に全ての腱索の周囲に心室側巻回部の螺旋を配置するのではなく、腱索同士の間に螺旋が配置される。また、前述の比較的小さい心臓弁修復装置を用いる場合、異なる腱索の集まりを捕捉する複数の装置を植え込むことができる。異なる装置を選択的に調節することによって、弁を通る流れを調節可能である。例えば、1つ目の装置をA1およびP1の腱索を捕捉するように配置し、2つ目の装置をA2およびP2の腱索を捕捉するように配置し、3つ目の装置をA3およびP3の腱索を捕捉するように配置できる。また、流れを測定して必要に応じて調整することができる。例えば、A1およびP1に配置された装置を回転させて連結している腱索を互いに近づけ、一方、A3およびP3に配置された装置を反対方向に回転させてもよい。
【0094】
いくつかの実施例においては、装置を用いて弁尖を互いに近づけた後に、両方の弁尖にクリップを固定するか、もしくは弁尖を縫い付けもしくは縫合することが好ましい場合もある。このように1つまたは複数のクリップ留め、縫い付けまたは縫合と併せて装置を用いることによって、弁尖の接合が促進される。
【0095】
必要に応じて、植え込みから短期間または長期間を経た後に装置を調節または回収可能である。装置への到達はカテーテルを用いて行ってもよい。装置を調節するためには、医師が前述したように(例えば装置を回転させて)心室側巻回部の螺旋を回転させ、必要に応じて腱索を互いに近づけたり、互いから離してもよい。回転は、最初の植え込み処置時および/または植え込み処置とは分けて後で行う追加処置において行うことができる。このようにして逆流の程度を調節できる。装置の除去が必要な場合は、把持手段を用いて装置を把持し、装置の送達手順とおおよそ逆の手順に従ってカテーテル内に引き込む。
【0096】
本発明の範囲内において多くの変形を実施可能である。例えば、前述したように、螺旋の巻回は非一定の割合で中心から遠ざかっていてもよい。つまり、螺旋の密集度は一定でなくてもよい。
【0097】
装置がチューブとして形成されている場合は、ワイヤもしくは他の補強要素をチューブ内に配置して、チューブまたはその一部の剛性および/または形状を可能にしてもよい。例えば、送達用の第1形状(例えば比較的直線状)に装置を維持するために補強要素を用い、装置が搬送カテーテルから出たときに補強要素を引き戻して装置が植え込み用の形状をとることができるようにしてもよい。別の例においては、チューブの先端に内側ワイヤが装着されており、内側ワイヤをチューブに対して引くことによってチューブの形状が変えられる。内側ワイヤが引かれるとチューブに圧縮力が加えられる。チューブにはチューブの長さ方向に沿って側面に切れ目が予め形成されていてもよく、この場合、チューブに負荷がかかったときに例えば螺旋パターン等の所定のパターンにチューブを曲げることができる。係止手段を用いて、ワイヤをチューブに対して負荷を加える位置に係止してもよい。側面の切れ目の深さおよび幅や側面の切れ目同士の間の距離を異ならせることによって、負荷がかかった状態のチューブ要素の最終形状を変更することができる。
【0098】
装置は、装置および心臓弁の機能を監視するための要素を備えていてもよい。例えば、センサを装置に装着してもよい。センサは例えば圧力センサ、温度センサおよび/または速度センサ等であってもよい。このようにして、弁の動作および血流を監視できる。同様に、チューブとして形成されている装置自体を、植え込み時または植え込み後の圧力測定のための「ピグテール」として用いてもよい。
【0099】
センサ使用の一例としては、微小電気機械システム(MEMS)センサを装置に装着することによって、植え込み処置中または植え込み後の数年にわたって支援を行うことができる。このようなセンサによって温度、酸素飽和状態、圧力、血液流速または類似の物理特性を監視できる。植え込み処置時に、装置に装着したXYZ(測位)センサを用い、センサから送られる情報を読む外部システムを使用することによって装置の位置特定および位置決めを正確に実施できる。
【0100】
装置または送達システムに装着されたセンサは、センサから受け取った信号を自動送達および自動位置決め用のフィードバックとして用いる閉ループシステムの一部として構成することができる。心室および心房内で圧力センサを用いることによって、装置の自動調節中に圧力を継続的に監視でき、目標とする圧力が測定されるまで調節および監視を続けることができる。フィードバックを用いて自動位置決めを行うことによって、複雑かつ精度の劣る手動の監視および位置決めを行う必要がなくなる。
【0101】
変換器を用いて装置の周囲の血流および/または圧力変化からエネルギーを生成するエネルギー生成要素(力学的パルスを電流に変換できる圧電要素等)を装置に設けてもよい。このエネルギーによって、前述のように1つまたは複数のセンサから信号を送信するため等に用いるバッテリーを充電することができる。
【0102】
本明細書に記載される装置および方法の実施形態はいくつかの利点を備えている。例えば、本装置は弁尖を把持する必要がなく、腱索を安全に保持することができる。腱索の互いに近づく動きは装置の構造、例えば、心室側巻回部の螺旋の周部の数や周部の径および形状等によって調整することができる。
【0103】
上記の説明および添付の図面によって、本発明の趣旨および作用に加えて本発明の製造方法および使用方法が当業者に理解される。本発明の趣旨および作用を利用して多くの実施形態および変更例を実施可能である。本明細書の記載の例および添付の図面に示される例は単に例示を意図しているものであり、添付の特許請求の範囲に定義される本発明の範囲を限定するものではない。