(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
マスタ制御部と複数のスレーブ制御部とがワイヤハーネスを介して互いに通信可能な状態で接続され、抵抗体で構成されるID割り当て用電線が前記ワイヤハーネスに含まれ、前記複数のスレーブ制御部の各々に内蔵された基準抵抗器の抵抗値と、前記ID割り当て用電線の抵抗値とに基づき前記各スレーブ制御部の初期状態のIDが決定される車載通信システムであって、
前記ID割り当て用電線の特性を表す値と前記ID割り当て用電線の線長との関係、および前記ID割り当て用電線の線長とシステム種別との関係を表すシステム識別情報を保持するシステム識別情報保持部、を備え、
前記マスタ制御部が、前記スレーブ制御部の各々が検出した前記ID割り当て用電線の抵抗値に対応する特性値をそれぞれ取得し、取得した前記特性値と、前記システム識別情報保持部が保持している前記システム識別情報とに基づいて、システム種別を自動的に把握するシステム種別識別部、を備えた、
ことを特徴とする車載通信システム。
少なくとも、前記システム種別と、種別毎のシステムに属する前記複数のスレーブ制御部に割り当てるIDとの関係を表す、システム制御情報を保持するシステム制御情報保持部、を更に備え、
前記マスタ制御部は、前記システム種別識別部が識別したシステム種別と、前記システム制御情報とに基づき、前記複数のスレーブ制御部の各々に割り当てたIDを自動的に修正するID修正制御部を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の車載通信システム。
少なくとも、前記システム種別と、種別毎のシステムに属する前記複数のスレーブ制御部を制御するために必要なアプリケーションソフトウェアとの関係を表す、システム制御情報を保持するシステム制御情報保持部、を更に備え、
前記マスタ制御部は、前記システム種別識別部が識別したシステム種別と、前記システム制御情報とに基づき、それ自身が前記複数のスレーブ制御部を制御するために実行するアプリケーションソフトウェアの種別を自動的に選択するアプリケーション選択部を含む、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車載通信システム。
前記複数のスレーブ制御部の各々は、前記基準抵抗器と、前記ID割り当て用電線の抵抗とで構成される分圧回路の出力電圧に対応する前記特性値の情報を、前記マスタ制御部に対して送出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の車載通信システム。
前記システム識別情報保持部は、前記システム種別毎に、少なくとも、前記複数のスレーブ制御部の中で前記マスタ制御部からの距離が最も遠い第1のスレーブ制御部の取り付け位置に相当する第1の線長と、前記複数のスレーブ制御部の中で前記マスタ制御部からの距離が2番目に遠い第2のスレーブ制御部の取り付け位置に相当する第2の線長と、を表す前記システム識別情報を保持し、
前記マスタ制御部は、前記第1の線長および前記第2の線長との組み合わせに基づいて、システム種別を把握する、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の車載通信システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両においては、車種の違い、グレードの違い、仕向地の違い、ユーザの希望する各種オプション装備の有無等に応じて、システムに接続される車載電装機器(例えばランプ、電気モータなど)の数や種類が変化する。また、車種の違いにより車体の大きさが変化するため、システムに接続される車載電装機器の間の距離も変化する。したがって、上記のような車両の通信システムにおいては、実際のシステムの構成や車種に合わせて、各スレーブ制御部のIDを適切に定める必要がある。
【0007】
そのため、特許文献1の技術を採用する場合には、予め固有のIDが割り当てられた多種類の車載コネクタを事前に用意しておき、最初にネットワークを構築する場合や、構築したネットワークに新たな機能の追加を行う場合にコネクタの種類を変更する必要があった。したがって、各車載コネクタ内の基板の種類数や品番が増えてしまうという問題があり、部品の交換作業も必要になる。
【0008】
そこで、抵抗体により構成される特別な電線(ID割り当て用電線)をワイヤハーネスに組み込み、マスタ制御部からスレーブ制御部までの前記ID割り当て用電線の長さにより定まる抵抗値を、IDを決定する分圧回路の一方の抵抗器として代用することが考えられる。このようにすると、各コネクタに組み込む分圧回路の抵抗器の抵抗値を共通化することができ、部品数や品番数の削減が可能になる。また、ワイヤハーネス上の取り付け位置が異なる複数のスレーブ制御部に対して、それぞれ異なるIDを自動的に割り当てることが可能になる。
【0009】
しかしながら、上記のID割り当て用電線を用いる場合には、各スレーブ制御部のワイヤハーネス上の取り付け位置が変化すると、その取り付け位置からマスタ制御部までのID割り当て用電線の長さが変わり、前記分圧回路の分圧比が変化して、割り当てられるIDも変化してしまう。例えば、大型車と小型車の違いのような車種の違いにより、スレーブ制御部を取り付けるワイヤハーネス上の位置が変化する。また、ワイヤハーネス上にスレーブ制御部を取り付ける際の製造公差により、取り付け位置が変化する。
【0010】
上記のような取り付け位置の変化により各スレーブ制御部に割り当てたIDが変化すると、マスタ側の制御を変更しなければならない。一般的には、多数のスレーブ制御部の各々の配下に接続される様々な車載機器をマスタ制御部が適切に制御できるように、車載機器毎に、あるいは所定のサブシステム毎に、それを制御するためのアプリケーションソフトウェアがマスタ制御部に組み込まれる。したがって、車種の違いや個体差により制御対象のIDが変化する環境においては、マスタ制御部に組み込むべきアプリケーションソフトウェアの種類や、制御用のパラメータを変更しなければならない。この変更をしない場合には、例えばマスタ制御部がホーンを鳴動させようとした時に、実際にはフォグランプを点灯させる動作が行われてしまうような状況になる。したがって、車種の違いに対してマスタ制御部を共通化することができず、個体差の調整も必要になる。
【0011】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、車種の違いなどの影響により各スレーブ制御部の取り付け位置が変化する場合であっても、構成が共通のマスタ制御部を採用することが可能な車載通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した目的を達成するために、本発明に係る車載通信システムは、下記(1)〜(5)を特徴としている。
(1) マスタ制御部と複数のスレーブ制御部とがワイヤハーネスを介して互いに通信可能な状態で接続され、抵抗体で構成されるID割り当て用電線が前記ワイヤハーネスに含まれ、前記複数のスレーブ制御部の各々に内蔵された基準抵抗器の抵抗値と、前記ID割り当て用電線の抵抗値とに基づき前記各スレーブ制御部の初期状態のIDが決定される車載通信システムであって、
前記ID割り当て用電線の特性を表す値と前記ID割り当て用電線の線長との関係、および前記ID割り当て用電線の線長とシステム種別との関係を表すシステム識別情報を保持するシステム識別情報保持部、を備え、
前記マスタ制御部が、前記スレーブ制御部の各々が検出した前記ID割り当て用電線の抵抗値に対応する特性値をそれぞれ取得し、取得した前記特性値と、前記システム識別情報保持部が保持している前記システム識別情報とに基づいて、システム種別を自動的に把握するシステム種別識別部、を備えた、
ことを特徴とする。
(2) 上記(1)に記載の車載通信システムにおいて、
少なくとも、前記システム種別と、種別毎のシステムに属する前記複数のスレーブ制御部に割り当てるIDとの関係を表す、システム制御情報を保持するシステム制御情報保持部、を更に備え、
前記マスタ制御部は、前記システム種別識別部が識別したシステム種別と、前記システム制御情報とに基づき、前記複数のスレーブ制御部の各々に割り当てたIDを自動的に修正するID修正制御部を含む、
ことを特徴とする。
(3) 上記(1)または(2)に記載の車載通信システムにおいて、
少なくとも、前記システム種別と、種別毎のシステムに属する前記複数のスレーブ制御部を制御するために必要なアプリケーションソフトウェアとの関係を表す、システム制御情報を保持するシステム制御情報保持部、を更に備え、
前記マスタ制御部は、前記システム種別識別部が識別したシステム種別と、前記システム制御情報とに基づき、それ自身が前記複数のスレーブ制御部を制御するために実行するアプリケーションソフトウェアの種別を自動的に選択するアプリケーション選択部を含む、
ことを特徴とする。
(4) 上記(1)に記載の車載通信システムにおいて、
前記複数のスレーブ制御部の各々は、前記基準抵抗器と、前記ID割り当て用電線の抵抗とで構成される分圧回路の出力電圧に対応する前記特性値の情報を、前記マスタ制御部に対して送出する、
ことを特徴とする。
(5) 上記(1)〜(4)のいずれかに記載の車載通信システムにおいて、
前記システム識別情報保持部は、前記システム種別毎に、少なくとも、前記複数のスレーブ制御部の中で前記マスタ制御部からの距離が最も遠い第1のスレーブ制御部の取り付け位置に相当する第1の線長と、前記複数のスレーブ制御部の中で前記マスタ制御部からの距離が2番目に遠い第2のスレーブ制御部の取り付け位置に相当する第2の線長と、を表す前記システム識別情報を保持し、
前記マスタ制御部は、前記第1の線長および前記第2の線長との組み合わせに基づいて、複数のシステム種別を把握する、
ことを特徴とする。
【0013】
上記(1)の構成の車載通信システムによれば、様々な構成のシステムに共通のマスタ制御部を利用する場合であっても、前記システム種別識別部がシステム種別を自動的に把握するので、システム種別毎に、各スレーブ制御部のIDなどを適切な状態で割り当てることが可能である。したがって、様々な構成のシステムに共通のマスタ制御部を採用し、部品コストや調整作業のコストを削減できる。また、各スレーブ制御部の取り付け位置に許容公差内の個体差が発生する場合でも、システム種別を正しく認識することにより、同じ種別のシステムにおいては同じIDを割り当てることが可能であり、個体差の影響を排除できる。
上記(2)の構成の記載の車載通信システムによれば、前記マスタ制御部が、システム種別毎にそれぞれ適切なIDを各スレーブ制御部に割り当てることができる。したがって、例えばシステム全体の構成が同一で、車体の大きさの違いにより、各スレーブ制御部を取り付ける位置のみが異なるような状況であれば、各スレーブ制御部のIDの割り当てを適切に変更するだけで、前記マスタ制御部の動作を変更する必要もなくなるので、前記マスタ制御部を共通化できる。
上記(3)の構成の車載通信システムによれば、前記マスタ制御部が、システム種別毎にそれぞれ適切なアプリケーションソフトウェアを自動選択して使用することができる。したがって、例えば各スレーブ制御部の配下に接続する車載機器の種類が、車種毎に異なるような場合であっても、前記マスタ制御部は自動選択したアプリケーションソフトウェアにより、各車載機器を適切に制御できる。そのため、様々な車種の車両に搭載するシステムに共通のマスタ制御部を利用し、コストを低減できる。
上記(4)の構成の車載通信システムによれば、前記マスタ制御部は、各スレーブ制御部から前記特性値の情報を取得できるので、これらの情報に基づいて各スレーブ制御部の取り付け位置を把握し、システム種別を識別することが可能になる。
上記(5)の構成の車載通信システムによれば、前記マスタ制御部は、システム種別毎に比較的数値の大きい(線長が長い)2種類またはそれ以上の線長の組み合わせを把握できるので、比較的高い精度でシステム種別を識別できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の車載通信システムによれば、車種の違いなどの影響により各スレーブ制御部の取り付け位置が変化する場合であっても、構成が共通のマスタ制御部を採用することが可能になる。つまり、前記マスタ制御部は、システム種別毎に各スレーブ制御部のIDなどを適切な状態で割り当てることが可能である。したがって、様々な構成のシステムに共通のマスタ制御部を採用し、部品コストや調整作業のコストを削減できる。また、各スレーブ制御部の取り付け位置に許容公差内の個体差が発生する場合でも、システム種別を正しく認識することにより、同じ種別のシステムにおいては同じIDを割り当てることが可能であり、個体差の影響を排除できる。
【0015】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の車載通信システムに関する具体的な実施の形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0018】
<システムの概要の説明>
本発明の実施形態における車載通信システムの構成の概要を
図1に示す。また、この車載通信システムの一部分の詳細な構成例を
図2に示す。
【0019】
図1に示した車載通信システム100は、オプション装備を含む様々な種類の電装品を車両に搭載する際に、電源電力の供給を行ったり、負荷の通電のオンオフ等を制御する制御信号を伝送するための電気接続を実現するための構成を含んでいる。
【0020】
図1に示した例では、補機40(1)、40(2)、及び40(3)として、3つの電装品を接続する場合を想定しているが、実際に接続される電装品の数、種類、接続位置などについては、このシステムを搭載する車両の仕様、すなわち車種の違い、仕向地の違い、グレードの違いなどにより変化する。補機40(1)、40(2)、及び40(3)の代表例としては、エアコン、ヘッドランプ等の照明装置、パワーウインドゥ装置、ドアロック装置、パワースライドドア装置、ドアクローザー装置、ドアミラー装置、サンシェード装置などがある。
【0021】
上記のような補機は、例えば電気モータ、ランプ、リレーのような電気的に駆動可能な負荷を内蔵しているので、車両側から電源電力を供給すると共に、通電のオンオフ等を外部から制御する必要がある。
【0022】
また、上記のような補機は、例えば車種の違いに応じて搭載の有無が決まったり、ユーザの選択可能なオプション装備として用意される場合がある。したがって、
図1に示した補機40(1)、40(2)、及び40(3)の各々は、実際には搭載されない場合もあるし、種類の異なる補機が必要に応じて接続される場合もある。
【0023】
そこで、
図1の車載通信システム100においては、各補機40(1)、40(2)、及び40(3)を、ワイヤハーネスW/Hの任意の箇所に後付けで接続できるように構成してある。実際には、ワイヤハーネスW/Hにスレーブ制御部30(1)を接続し、このスレーブ制御部30(1)の配下に補機40(1)を接続してある。また、ワイヤハーネスW/Hの別の箇所にスレーブ制御部30(2)を接続し、このスレーブ制御部30(2)の配下に補機40(2)を接続してある。更に、ワイヤハーネスW/Hの別の箇所にスレーブ制御部30(3)を接続し、このスレーブ制御部30(3)の配下に補機40(3)を接続してある。各スレーブ制御部30は、ワイヤハーネス端部のコネクタに内蔵された電子回路である。
【0024】
したがって、接続対象の補機毎に幹線から分岐した特別なサブハーネスを用意しておかなくても各補機40をワイヤハーネスW/Hに直接的に接続できるので、ワイヤハーネスの構成を簡素化することができる。また、補機を接続しない場合に、付け捨てになる部品(サブハーネス等)が増えることもない。
【0025】
図1に示した車載通信システム100の例では、接続に用いるワイヤハーネスW/Hは、電源線W1、通信線W2、及びID割り当て用電線W3の3本の電線で構成されている。なお、アース線をワイヤハーネスW/Hに含める場合もあるが、アース接続については、各Eコネクタの近傍や、各補機の近傍で車体アースと接続することが可能であるため、必ずしもワイヤハーネスW/Hにアース線を含める必要はない。
【0026】
ワイヤハーネスW/Hの電源線W1には、車両上の主電源であるバッテリー等の出力から、ジャンクションボックス10の内部で分配された1つの系統の電源電力、例えば+12Vの直流電圧が供給される。
【0027】
ワイヤハーネスW/Hの通信線W2は、マスタ制御部20と各スレーブ制御部30(1)、30(2)、30(3)との間でデータ通信を行うための伝送路を形成する。例えば、CAN (Controller Area Network)のような通信規格に従って通信するためのインタフェースをマスタ制御部20及び各スレーブ制御部30が内蔵しており、これらが通信線W2を経由して相互にデータ通信を行うことができる。
【0028】
ID割り当て用電線W3は、通常の導電体よりも抵抗率が大きい抵抗体で構成される特別な電線であり、ID割り当てのために特別に設けられている。つまり、長さに応じてID割り当て用電線W3の抵抗値が変化する。また、長さによる抵抗値の違いを各スレーブ制御部30が把握することも容易である。
【0029】
ID割り当て用電線W3は、マスタ制御部20側の一端がアース25に接続されており、ID割り当て用電線W3の途中の接続点Pe1、Pe2、およびPe3の各位置でスレーブ制御部30(1)、30(2)、および30(3)の各々と接続されている。
【0030】
したがって、スレーブ制御部30(1)は、アース点Pgndから接続点Pe1までの距離に相当する抵抗体長Lw1に応じたID割り当て用電線W3の抵抗値を検出できる。また、スレーブ制御部30(2)は、アース点Pgndから接続点Pe2までの距離に相当する抵抗体長Lw2に応じたID割り当て用電線W3の抵抗値を検出できる。スレーブ制御部30(3)は、アース点Pgndから接続点Pe3までの距離に相当する抵抗体長Lw3に応じたID割り当て用電線W3の抵抗値を検出できる。
【0031】
例えば、補機40(1)に内蔵される負荷を駆動するために前記負荷に通電する場合には、スレーブ制御部30(1)に内蔵されたスイッチング回路を導通状態にすることで、電源線W1、前記スイッチング回路、前記負荷を経由して、アースに電流が流れ、前記負荷が動作する。前記スイッチング回路のオンオフを制御するための指示については、マスタ制御部20から通信線W2を経由してスレーブ制御部30(1)に送ることができる。
【0032】
同様に、スレーブ制御部30(2)に内蔵されたスイッチング回路を導通状態にすることで、電源線W1、前記スイッチング回路、補機40(2)内の負荷を経由して、アースに電流が流れ、前記負荷が動作する。また、スレーブ制御部30(3)に内蔵されたスイッチング回路を導通状態にすることで、電源線W1、前記スイッチング回路、補機40(3)内の負荷を経由して、アースに電流が流れ、前記負荷が動作する。
【0033】
尚、ワイヤハーネスW/Hと後付けする各スレーブ制御部30の内部回路との現実の電気接続については、「圧接」、「接着」、「溶着」などの物理的接続形態で実現することができる。また、スレーブ制御部30と補機40との接続形態については、専用の電線を用いて電線同士を接続する形態(WtoW)で接続しても良いし、スレーブ制御部30と補機40とを物理的及び電気的に直結しても良いし、ワイヤハーネスW/H上の短い電線を経由して接続する形態(ピックテールW/H)を用いても良い。また、スレーブ制御部30及び補機40をワイヤハーネスW/Hに直接取り付ける形態も考えられる。
【0034】
<詳細な構成の具体例>
図1に示したマスタ制御部20及びスレーブ制御部30の詳細な構成例を
図2に示す。
【0035】
<マスタ制御部20の構成>
図2の構成例においては、マスタ制御部20は、マイクロコンピュータ(CPU)21、データ通信用トランシーバ22、およびシステム管理情報保持部23を内蔵している。システム管理情報保持部23は、例えば不揮発性メモリ上に配置される。また、マイクロコンピュータ21が実現する機能として、
図2に示すようにデータ通信制御機能21a、負荷制御機能21b、およびシステム管理部21cが存在する。
【0036】
データ通信用トランシーバ22は、CANのような所定の通信規格に適合する信号を送信及び受信する機能を搭載している。マイクロコンピュータ21は、予め組み込まれた基本プログラムを実行することにより、データ通信制御機能21a、負荷制御機能21b、およびシステム管理部21cの各機能を実現する。
【0037】
データ通信制御機能21aは、データ通信用トランシーバ22及び通信線W2を利用して、ワイヤハーネスW/Hに接続された各スレーブ制御部30との間でデータ通信を行うための制御を実施する。
【0038】
負荷制御機能21bは、ワイヤハーネスW/Hの各位置に接続されているスレーブ制御部30を経由して、その配下に接続された補機40内部の負荷のオンオフ等を制御する機能である。例えば、負荷を制御するためのユーザのスイッチ操作や、図示しない上位の電子制御ユニット(ECU)からの指示を負荷制御機能21bが検出すると、データ通信制御機能21aが目的の負荷を管理しているスレーブ制御部に対して通信線W2を介して制御情報を送信し、負荷のオンオフを切り替えることができる。
【0039】
図1に示した車載通信システム100においては、複数のスレーブ制御部30(1)、30(2)、および30(3)が共通の通信線W2に接続されているので、マスタ制御部20および複数のスレーブ制御部30のそれぞれが通信線W2に送出する信号の送信元を受信側で識別したり、複数の信号が通信線W2上で衝突しないように管理する必要がある。そのため、固有の識別番号であるIDを、マスタ制御部20および各スレーブ制御部30に割り当てる必要がある。マスタ制御部20のIDについては固定でよいが、各スレーブ制御部30については適切なIDを割り当てる必要がある。
【0040】
図1に示した車載通信システム100においては、ID割り当て用電線W3を用いているので、各スレーブ制御部30の接続点におけるID割り当て用電線W3の抵抗値の違いに基づき、各スレーブ制御部30にIDを自動的に割り当てることができる。
【0041】
しかし、例えばシステムの構成が同じ場合であっても、車種の違いによりID割り当て用電線W3に各スレーブ制御部30を取り付ける位置が変化し、各スレーブ制御部30に割り当てるIDが変化すると、マスタ制御部20の動作を変更しなければならない。そのため、複数車種に搭載する車載通信システム100について共通のマスタ制御部20を採用しようとする場合は、各スレーブ制御部30に割り当てるIDを修正しなければならない。
【0042】
また、車種の違いによってワイヤハーネスW/Hに接続するスレーブ制御部30の数や、各スレーブ制御部30の配下に接続する補機40の種類が変化する場合がある。補機40の種類が変化すると、それを制御するために用いるマスタ制御部20上のアプリケーションソフトウェアも変更しなければならない。
【0043】
システム管理部21cは、ワイヤハーネスW/H自体のシステム種別や、ワイヤハーネスに接続されている車載通信システム100のシステム種別を自動的に識別する。また、識別したシステム種別に基づき、各スレーブ制御部30に割り当てるIDの修正を自動的に行う機能と、マスタ制御部20が使用するアプリケーションソフトウェアの選択を自動的に行う機能とをシステム管理部21cが備えている。
【0044】
システム管理情報保持部23は、システム管理部21cが制御を行う上で必要とする様々なシステム管理情報を保持している。システム管理情報保持部23が保持する情報の具体例については後で詳細に説明する。
【0045】
<スレーブ制御部30の構成>
図2の構成例においては、スレーブ制御部30はマイクロコンピュータ(CPU)31、データ通信用トランシーバ32、スイッチング素子33、および基準抵抗器34を内蔵している。また、マイクロコンピュータ31が実現する機能として、
図2に示すようにデータ通信制御機能31aおよび負荷制御機能31bがある。更に、マイクロコンピュータ31にはA/D変換器31cが内蔵されている。
【0046】
尚、スレーブ制御部30(1)〜30(3)のそれぞれは、基準抵抗器34の抵抗値Rsも含めて、全て共通の構成を有している。動作の内容も共通である。このような構成の共通化により、スレーブ制御部30のコストを低減できる。
【0047】
データ通信用トランシーバ32は、CANのような所定の通信規格に適合する信号を送信及び受信する機能を搭載している。マイクロコンピュータ31は、予め組み込まれたプログラムを実行することにより、データ通信制御機能31aおよび負荷制御機能31bを実現する。
【0048】
図2に示した構成例では、基準抵抗器34は、一端が電源線W1と接続され、他端がID割り当て用電線W3と接続されている。したがって、基準抵抗器34とID割り当て用電線W3の抵抗(抵抗値がRw)との直列回路は、電源線W1の電位(+B)とアース25の電位との間の電圧を分圧する分圧回路を構成する。なお、電源線W1の電位(+B)の代わりに、スレーブ制御部30内で生成した安定した直流電位(例えばA/D変換器31cのリファレンス電圧)を基準抵抗器34の一端に印加してもよい。
【0049】
そして、この分圧回路から出力される分圧回路出力電圧VadがA/D変換器31cのアナログ信号入力ポートに印加される。基準抵抗器34の抵抗値Rsは全てのスレーブ制御部30に共通であるので、分圧回路出力電圧Vadは、ID割り当て用電線W3の抵抗値Rw、すなわち各スレーブ制御部30の取り付け位置(Pe1、Pe2、Pe3)に応じて変化する。そして、この分圧回路出力電圧Vadが最初のID割り当てに利用される。
【0050】
本実施形態では、スイッチング素子33としてIPD(Intelligent Power Device)を採用している。このIPDは、パワーMOSFETのようなスイッチング素子と、ゲートドライバ、電流検出回路、及び各種保護回路を含んでいる。スイッチング素子33は、
図2に示すように補機40内の負荷と接続され、前記負荷の通電を制御するためのスイッチング回路として動作する。
【0051】
データ通信制御機能31aは、データ通信用トランシーバ32及び通信線W2を利用して、ワイヤハーネスW/Hの上流側に接続されているマスタ制御部20との間、および他のスレーブ制御部30との間でそれぞれデータ通信を行うための制御を実施する。
また、本実施形態では、スレーブ制御部30が検出したID割り当て用電線W3の抵抗値Rwの情報を、スレーブ制御部30からマスタ制御部20に送信する必要がある。この機能もデータ通信制御機能31aに含まれている。
【0052】
ここで分圧回路出力電圧Vadは次式で表される。
Vad=Vb・Rw/(Rs+Rw) ・・・(1)
Vb:電源線W1とアース25との間の電位差[V]
【0053】
また、基準抵抗器34の抵抗値Rsは既知であるので、分圧回路出力電圧VadをA/D変換器31cで計測した結果を用いて、前記第(1)式からID割り当て用電線W3の抵抗値Rwを算出できる。例えば、Vb=10[V]、Rs=1[kΩ]の条件では、Vad=1[V]の時に、Rw=111[Ω]として算出される。この抵抗値Rwをデータ通信制御機能31aが算出してマスタ制御部20に送信する。
【0054】
尚、本実施形態では、スレーブ制御部30が抵抗値Rwの情報を送信する場合を想定しているが、スレーブ制御部30が分圧回路出力電圧Vadの情報を送信し、マスタ制御部20側で分圧回路出力電圧Vadから抵抗値Rwを算出することも可能である。つまり、マスタ制御部20の位置から当スレーブ制御部30の取り付け位置までのID割り当て用電線W3の長さ(
図1中のLw1、Lw2、Lw3に相当)を認識するために利用可能な計測値の情報を各スレーブ制御部30からマスタ制御部20に送信できればよい。
【0055】
負荷制御機能31bは、マスタ制御部20側から送信された指示に従って、スイッチング素子33の制御を実施する。通常はスイッチング素子33のオンオフにより負荷の通電状態と非通電状態との切り替えを行う。また、負荷に流す電流の調整が必要な場合には、パルス幅変調(PWM)信号を用いてスイッチング素子33のオンオフを周期的に繰り返す。そして、パルス幅又はオンオフデューティの調整により、負荷に流れる電流の平均値を調整することができる。
【0056】
<現実的なシステムの構成例>
車両に搭載した車載通信システム100の主要な構成要素のレイアウトを上面から視た状態を
図3に示す。また、
図3に示した車載通信システムにおける各部の線長を
図4に示す。
【0057】
図3に示した車載通信システム100においては、
図1に示した各補機40に相当する4つの車載機器K01、K02、K03、およびK04を制御するためのシステムを想定している。具体的には、車載機器K01は車体フロント側の左上部に配置されるヘッドライトのランプ(H−LP_LH)である。また、車載機器K02は車体フロント側の右上部に配置されるヘッドライトのランプ(H−LP_RH)である。また、車載機器K03は車体リア側の左上部に配置されるストップランプ(STOP_LH)であり、車載機器K04は車体リア側の右上部に配置されるストップランプ(STOP_RH)である。
【0058】
つまり、
図4に示すように、車両のヘッドライトを制御するストップランプシステム110と、車両のストップランプを制御するヘッドライトシステム120とが車載通信システム100に含まれている。
【0059】
図3に示す構成例では、同じワイヤハーネスW/Hに、マスタ制御部20と、4つのスレーブ制御部SL01、SL02、SL03、およびSL04とが接続されている。スレーブ制御部SL01〜SL04の各々は、
図1に示したスレーブ制御部30に相当する。
【0060】
そして、
図3に示すようにスレーブ制御部SL01の配下に車載機器(H−LP_LH)K01が接続され、スレーブ制御部SL02の配下に車載機器(H−LP_RH)K02が接続され、スレーブ制御部SL03の配下に車載機器(STOP_LH)K03が接続され、スレーブ制御部SL04の配下に車載機器(STOP_RH)K04が接続されている。
【0061】
また、
図1の構成と同様に、ワイヤハーネスW/HのID割り当て用電線W3は、マスタ制御部20の近傍でアース25と接続されている。また、スレーブ制御部SL01〜SL04の各々は、各々の取り付け位置で通信線W2およびID割り当て用電線W3と接続されている。
【0062】
図4に示したように、ID割り当て用電線W3の接地位置(マスタ制御部20近傍)から、各スレーブ制御部SL01〜SL04までの距離に相当する線長Lw01、Lw02、Lw03、およびLw04はそれぞれ異なっている。
【0063】
図3に示すように、スレーブ制御部SL01〜SL04の各々を取り付ける位置は、システムに搭載される車載機器K01〜K04の各々の設置場所により定まる。したがって、例えば車載通信システム100を搭載する車両の車体の大きさが変化すると、線長Lw01、Lw02、Lw03、およびLw04もそれぞれ変化する。また、車載通信システム100に異なる補機を接続するような場合にも、線長Lw01〜Lw04が変化する可能性がある。
【0064】
また、線長Lw01〜Lw04に応じてスレーブ制御部SL01〜SL04が検出可能な抵抗値Rwおよび分圧回路出力電圧Vadが変化する。したがって、マスタ制御部20は、スレーブ制御部SL01〜SL04の各々から検出した抵抗値Rw、または分圧回路出力電圧Vadの情報を取得することにより、線長Lw01〜Lw04を把握することが可能である。
【0065】
<システム管理情報保持部23が保持する情報の具体例>
<抵抗値・線長テーブルTB1>
システム管理情報保持部23が保持している抵抗値・線長テーブルTB1の構成例を
図5に示す。この抵抗値・線長テーブルTB1は、ワイヤハーネスW/HのID割り当て用電線W3に接続されたスレーブ制御部SL01〜SL04の各々が検出する抵抗値Rwと、接地点からスレーブ制御部の接続点までの距離に相当するID割り当て用電線W3の線長との対応関係を表す多数の定数データを保持している。
【0066】
すなわち、
図5に示す抵抗値Rw001、Rw002、Rw003、Rw004、Rw005、Rw006、Rw007、およびRw008の各々と、線長Lw001、Lw002、Lw003、Lw004、Lw005、Lw006、Lw007、およびLw008とが互いに対応している。例えば、スレーブ制御部SL02が検出した抵抗値が
図5のRw003に近い値である場合には、接地点からスレーブ制御部SL02の接続位置までのID割り当て用電線W3の線長を、
図54のLw003に近い値、としてマスタ制御部20が特定できる。
【0067】
なお、ID割り当て用電線W3の抵抗値Rwと線長とは比例関係にあるので、必ずしも
図5の抵抗値・線長テーブルTB1を使用する必要はない。つまり、ID割り当て用電線W3の特性として、単位長あたりの抵抗を表す抵抗率の定数データを保持している場合には、次式の計算により線長を求めることができる。
線長=Rw/(抵抗率) ・・・(2)
【0068】
<線長・システム種別テーブルTB2>
システム管理情報保持部23が保持している線長・システム種別テーブルTB2の構成例を
図6(A)に示す。
【0069】
図6に示す線長・システム種別テーブルTB2は、複数種類の線長Lw01、Lw02、Lw03のそれぞれと、システム種別との対応関係を示すデータを保持している。また、システム種別毎に当該システムに含まれるスレーブの構成を表すデータも保持している。例えば、
図6(A)におけるシステム種別Sys_01は、
図4に示したSTOP_LPシステム110に相当し、2のスレーブ制御部SL03、SL04を含んでいる。また、システム種別Sys_02は、
図4に示したH_LPシステム120に相当し、2つのスレーブ制御部SL01、SL02を含んでいる。なお、システムを搭載する車両の車種の違いによりワイヤハーネスの長さが変化するので、車種の区分に対応するシステム種別の違いについても、更にデータを追加することにより、テーブルTB2で識別可能である。
【0070】
例えば、車種(A)の車両と、車種(B)の車両とで車体の大きさが大きく異なるような場合には、各スレーブ制御部の取り付け位置に対応する線長が、車種に応じて変化する。したがって、
図6(A)に示したシステム種別Sys_01、Sys_02、Sys_03を、車種(A)、車種(B)のそれぞれについて個別に用意して、車種毎に異なる線長と対応付けるようにテーブルTB2を構成すればよい。
【0071】
したがって、各スレーブ制御部の実際の取り付け位置に対応する線長が判明している場合には、その線長とテーブルTB2の内容とを対比することにより、車種の違いを含めてシステム種別を特定することが可能である。
<ID・アプリケーションテーブルTB2B>
システム管理情報保持部23が保持しているID・アプリケーションテーブルTB2Bの構成例を
図6(B)に示す。このID・アプリケーションテーブルTB2Bは、複数のスレーブ制御部SL01、SL02、SL03、SL04、SL05の区分と、割り当てるIDを示すデータID01、ID02、ID03、ID04、ID05と、割り当てるアプリケーションを示すデータAS01、AS02、AS03、AS04、AS05とを対応付けた定数データを保持している。つまり、ID・アプリケーションテーブルTB2Bを参照することにより、スレーブ制御部SL01〜SL05の各々に割り当てるべきIDと、アプリケーションとを特定できる。
【0072】
<システム種別・IDテーブルTB3>
システム管理情報保持部23が保持しているシステム種別・IDテーブルTB3の構成例を
図7に示す。尚、このシステム種別・IDテーブルTB3は、車種毎に各スレーブ制御部のID割り当てを変更したいような場合にのみ使用することが想定され、
図6(B)に示したID・アプリケーションテーブルTB2Bを使用する場合は不要である。
【0073】
図7に示すシステム種別・IDテーブルTB3は、車種(A、B、C、D)の区分に対応するシステム種別のそれぞれについて、各位置のスレーブ制御部毎に割り当てるID値を表す多数の定数データを保持している。
【0074】
図7に示す例では、例えば、車種(A)の車両に搭載する車載通信システム100の場合に、マスタ制御部20に近い位置から順番に並んでいるスレーブ制御部SL01、SL02、SL03、およびSL04に対して、それぞれ(ID=2)、(ID=3)、(ID=4)、および(ID=5)を割り当てることを示している。
【0075】
また、車種(B)の車両に搭載する車載通信システム100の場合に、マスタ制御部20に近い位置から順番に並んでいるスレーブ制御部SL01、SL02、SL03、およびSL04に対して、それぞれ(ID=3)、(ID=2)、(ID=4)、および(ID=5)を割り当てることを示している。
【0076】
なお、本実施形態では、最小値の(ID=1)はマスタ制御部20にのみ割り当てることを想定しているので、各スレーブ制御部に割り当てられることはなく、システム種別・IDテーブルTB3には含まれていない。
【0077】
図7のシステム種別・IDテーブルTB3において、車種(A)の場合には、ワイヤハーネスW/Hの上流側から下流側に向かって順番に値が大きくなるように各スレーブ逝去部にIDがそれぞれ割り当てられる。しかし、車種(B)の場合には、(ID=2)と(ID=3)を割り当てる際の並び順が入れ替わっている。
【0078】
例えば、車種の違いによってスレーブ制御部SL01の配下に接続する補機40と、スレーブ制御部SL02の配下に接続する補機40との並び順が入れ替わるような場合がある。その場合には、IDを割り当てる際のSL01、SL02の並び順を入れ替えるだけで、マスタ制御部20の制御の内容を変更しなくても、各補機40を適切に制御することが可能になる。つまり、システム種別・IDテーブルTB3の内容に従って各スレーブ制御部にそれぞれIDを割り当てることにより、補機40の並び順の変更に対してIDの割り当て変更だけで対応可能になる。
【0079】
<システム種別・アプリケーションテーブルTB4>
システム管理情報保持部23が保持しているシステム種別・アプリケーションテーブルTB4の構成例を
図8に示す。尚、このシステム種別・アプリケーションテーブルTB4は、車種毎に各スレーブ制御部のアプリケーション割り当てを変更したいような場合にのみ使用することが想定され、
図6(B)に示したID・アプリケーションテーブルTB2Bを使用する場合は不要である。
【0080】
図8に示すシステム種別・アプリケーションテーブルTB4は、車種(A、B、C、D)の区分に対応するシステム種別のそれぞれについて、各位置のスレーブ制御部毎にマスタ制御部20が選択的に使用するアプリケーションソフトウェアの種類を表す多数の定数データを保持している。
【0081】
図8に示す例では、例えば、車種(A)の車両に搭載する車載通信システム100の場合に、マスタ制御部20に近い位置から順番に並んでいるスレーブ制御部SL01、SL02、SL03、およびSL04に対して、それぞれアプリケーションソフトウェアAS02、AS03、AS04、およびAS05を選択することを示している。
【0082】
また、
図8に示す例では、例えば、車種(C)の車両に搭載する車載通信システム100の場合に、マスタ制御部20に近い位置から順番に並んでいるスレーブ制御部SL01、SL02、SL03、SL04、およびSL05に対して、それぞれアプリケーションソフトウェアAS12、AS13、AS14、AS15、およびAS16を選択することを示している。
【0083】
なお、
図8のシステム種別・アプリケーションテーブルTB4では、各スレーブ制御部とアプリケーションソフトウェアとを対応付ける情報を保持しているが、これの代わりとして、IDとアプリケーションソフトウェアとを対応付ける情報を保持するテーブルを利用することも考えられる。
【0084】
<マスタ制御部20の動作>
マスタ制御部20の主要な動作を
図9に示す。
図9の動作を実行することにより、車載通信システム100を搭載する車両の車種などが変化した場合に、マスタ制御部20の構成を変更しなくても、適切な制御を行うことが可能になる。つまり、様々な種類のシステムにおいて同一のマスタ制御部20を共通に利用でき、コストダウンが可能になる。
【0085】
ステップS11では、マスタ制御部20のマイクロコンピュータ21は、データ通信制御機能21aにより、各スレーブ制御部、すなわち各スレーブ制御部30が検出したID割り当て用電線W3の抵抗値Rwの情報を取得する。
【0086】
ステップS12では、マイクロコンピュータ21のシステム管理部21cは、システム管理情報保持部23に保持されている前述の抵抗値・線長テーブルTB1を用いて、あるいは計算により、S11で取得した抵抗値Rwの値を線長に変換する。
【0087】
ステップS13では、マイクロコンピュータ21のシステム管理部21cは、システム管理情報保持部23に保持されている前述の線長・システム種別テーブルTB2を参照し、S12で特定した各線長(全長の長さのみ)に対応するシステム種別を自動的に識別する。
【0088】
例えば、
図4に示す状況で検出されるスレーブ制御部SL04までの線長Lw04がテーブルTB2における線長Lw01ほぼ一致する場合には、これのシステム種別を「Sys_01」としてシステム管理部21cが認識する。また、
図4に示す状況で検出されるスレーブ制御部SL02までの線長Lw02がテーブルTB2における線長Lw02とほぼ一致する場合には、これのシステム種別を「Sys_02」としてシステム管理部21cが認識する。
【0089】
なお、ここでは各ワイヤハーネスの全長に相当する線長(
図4中のLw04、Lw02)のみに基づいてシステム種別を特定しているが、複数位置のスレーブ制御部の線長の組み合わせに基づいてシステム種別や車種を特定することも可能である。その場合、線長の値が大きくなるほど検出誤差は小さくなると考えられるので、線長が大きい方の一部分だけを対比することも考えられる。例えば、4つの線長の中から大きい方(つまり下流側)の2つを抽出し、それらの組み合わせと、テーブルTB2上の線長の基準値の組み合わせとを比較することが考えられる。
【0090】
図9のステップS14では、システム管理部21cは、上述のステップS13で識別したシステム種別に対応するスレーブ制御部の構成を、テーブルTB2の内容から特定する。
【0091】
例えば、「システム種別=Sys_01」の条件においては、テーブルTB2の内容から、スレーブ制御部SL03、およびSL04のそれぞれが当該システムに含まれていることを認識する。また、「システム種別=Sys_02」の条件においては、テーブルTB2の内容から、スレーブ制御部SL01、およびSL02のそれぞれが当該システムに含まれていることを認識する。
【0092】
ステップS15では、マイクロコンピュータ21のシステム管理部21cは、ワイヤハーネスW/Hに接続されている各スレーブ制御部を、これ以降のS16、S17での処理対象として1つずつ順番に選択する。
【0093】
ステップS16では、システム管理部21cは、前のS15で選択した1つのスレーブ制御部に対して、
図6(B)のID・アプリケーションテーブルTB2Bの内容に従い、スレーブ毎に事前に定めた適切なIDを自動的に割り当てる。
図6(B)に示したテーブルTB2Bを使用する場合には、スレーブ制御部SL01に対して「ID=ID01」を割り当て、スレーブ制御部SL02に対して「ID=ID02」を割り当てることになる。また、割り当てたIDの情報を、マスタ制御部20上で保持し管理する。更に、システム管理部21cは、データ通信制御機能21aを利用して該当するスレーブ制御部であるスレーブ制御部30に対してIDの情報を送信すると共に、IDの更新をスレーブ制御部30に指示する。
【0094】
ステップS17では、システム管理部21cは、前のS15で選択した1つのスレーブ制御部の配下の機器(補機40)を制御するためにマスタ制御部20上で使用するアプリケーションソフトウェアとして、
図6(B)のID・アプリケーションテーブルTB2Bの内容に従い、スレーブ毎に事前に定めた適切なものを自動的に選択する。例えば、
図6(B)テーブルTB2Bを使用する場合には、スレーブ制御部SL01に対して「AS01」のアプリケーションを割り当て、スレーブ制御部SL02に対して「AS02」のアプリケーションを割り当てることになる。各スレーブ制御部と使用するアプリケーションソフトウェアとを対応付けてあるので、各スレーブ制御部を特定すれば、各スレーブ制御部のために選択すべきアプリケーションソフトウェアを特定できる。
【0095】
例えば、「システム種別=Sys_01」の条件においては、
図6(A)のテーブルTB2から2つのスレーブ制御部SL03、SL04が含まれていることが認識され(S14)、
図6(B)のテーブルTB2Bに基づき、スレーブ制御部SL03に「AS03」のアプリケーションを割り当て、スレーブ制御部SL04に「AS04」のアプリケーションを割り当てる(S17)。
【0096】
マイクロコンピュータ21のシステム管理部21cは、ワイヤハーネスW/Hに接続されている各スレーブ制御部を順番に選択し、全てのスレーブ制御部に対するS15〜S18の処理が終了すると、
図9に示す処理を完了する。つまり、電源投入時のシステム全体の初期化(イニシャライズ)が完了する。
【0097】
<車載通信システム100の利点>
上述の車載通信システム100においては、マスタ制御部20が
図9に示した動作を実行することにより、同じワイヤハーネスW/Hに接続されている各スレーブ制御部に対して適切なIDを自動的に割り当てることができ、各スレーブ制御部の配下の補機40を制御するために必要なアプリケーションソフトウェアも自動的に選択できる。
【0098】
しかも、例えばシステムを搭載する車両の車種の違いにより、マスタ制御部20から各スレーブ制御部を取り付ける位置までのID割り当て用電線W3の長さが変化したや、種類の異なるシステムのワイヤハーネスを接続した場合でも、補機40の種類毎に共通のIDを割り当てることができる。したがって、車種の違いの影響を受けることなく、マスタ制御部20の動作を共通化することができる。
【0099】
また、例えばシステムを搭載する車両の車種の違いにより、同じワイヤハーネスW/Hに接続する補機40の数や種類が変化する場合であっても、マスタ制御部20が認識したシステム種別に従い、適切なアプリケーションソフトウェアがマスタ制御部20上で自動的に選択される。したがって、車種の違いの影響を受けることなく、マスタ制御部20の動作を共通化することができる。様々なシステム種別の車載通信システム100について、マスタ制御部20の構成および動作を共通化し、調整作業も不要にすることにより、システム全体のコストダウンが実現する。
【0100】
<車載通信システム100の変形の可能性>
なお、マスタ制御部20が
図9に示した動作を実行するために使用する前述の抵抗値・線長テーブルTB1、システム種別・線長テーブルTB2、システム種別・IDテーブルTB3、およびシステム種別・アプリケーションテーブルTB4の構成については、必要に応じて様々な変更を加えることが可能である。
【0101】
抵抗値・線長テーブルTB1については、ID割り当て用電線W3の単位長あたりの抵抗率を表す1つの定数に置き換えてもよいし、分圧回路出力電圧Vadの値と、線長との関係を表すテーブルであってもよい。また、システム種別・線長テーブルTB2については、各スレーブ制御部の位置における線長の1つまたは複数の組み合わせとシステム種別との関係を表す内容であればよいので、様々な変更が可能である。
【0102】
また、必要に応じてシステム種別・IDテーブルTB3を利用することが可能である。このテーブルTB3については、ワイヤハーネスW/Hの経路の違いや、補機40の種類および並び順の影響を反映し、システム種別毎に、各スレーブ制御部に適切なIDを割り当てられる内容を保持していればよい。また、必要に応じてシステム種別・アプリケーションテーブルTB4を利用することができる。このテーブルTB4については、ワイヤハーネスW/Hの経路の違いや、補機40の種類および並び順の影響を反映し、システム種別毎に、あるいはID毎に、各スレーブ制御部の制御に適したアプリケーションソフトウェアを選択できる内容を保持していればよい。また、例えば各テーブルTB2、TB2B、TB3、およびTB4を纏めて1つのテーブルに置き換えることも可能である。
【0103】
ここで、上述した本発明に係る車載通信システムの実施形態の特徴をそれぞれ以下[1]〜[5]に簡潔に纏めて列記する。
[1] マスタ制御部(20)と複数のスレーブ制御部(スレーブ制御部30、SL01〜SL05)とがワイヤハーネス(W/H)を介して互いに通信可能な状態で接続され、抵抗体で構成されるID割り当て用電線(W3)が前記ワイヤハーネスに含まれ、前記複数のスレーブ制御部の各々に内蔵された基準抵抗器(34)の抵抗値(Rs)と、前記ID割り当て用電線の抵抗値(Rw)とに基づき前記各スレーブ制御部の初期状態のIDが決定される車載通信システム(100)であって、
前記ID割り当て用電線の特性を表す値と前記ID割り当て用電線の線長との関係、および前記ID割り当て用電線の線長とシステム種別との関係を表すシステム識別情報(TB1、TB2)を保持するシステム識別情報保持部(システム管理情報保持部23)、を備え、
前記マスタ制御部が、前記スレーブ制御部の各々が検出した前記ID割り当て用電線の抵抗値に対応する特性値をそれぞれ取得し、取得した前記特性値と、前記システム識別情報保持部が保持している前記システム識別情報とに基づいて、システム種別を自動的に把握するシステム種別識別部(システム管理部21c、S13)、を備えた、
ことを特徴とする車載通信システム。
[2] 少なくとも、前記システム種別と、種別毎のシステムに属する前記複数のスレーブ制御部に割り当てるIDとの関係を表す、システム制御情報を保持するシステム制御情報保持部(TB2B、TB3)、を更に備え、
前記マスタ制御部は、前記システム種別識別部が識別したシステム種別と、前記システム制御情報とに基づき、前記複数のスレーブ制御部の各々に割り当てたIDを自動的に修正するID修正制御部(システム管理部21c、S14〜S6)を含む、
ことを特徴とする上記[1]に記載の車載通信システム。
[3] 少なくとも、前記システム種別と、種別毎のシステムに属する前記複数のスレーブ制御部を制御するために必要なアプリケーションソフトウェアとの関係を表す、システム制御情報を保持するシステム制御情報保持部(TB2B、TB4)、を更に備え、
前記マスタ制御部は、前記システム種別識別部が識別したシステム種別と、前記システム制御情報とに基づき、それ自身が前記複数のスレーブ制御部を制御するために実行するアプリケーションソフトウェアの種別を自動的に選択するアプリケーション選択部(システム管理部21c、S17)を含む、
ことを特徴とする上記[1]または[2]に記載の車載通信システム。
[4] 前記複数のスレーブ制御部の各々は、前記基準抵抗器(34)と、前記ID割り当て用電線の抵抗(Rw)とで構成される分圧回路の出力電圧(Vad)に対応する前記特性値の情報を、前記マスタ制御部に対して送出する、
ことを特徴とする上記[1]に記載の車載通信システム。
[5] 前記システム識別情報保持部は、前記システム種別毎に、少なくとも、前記複数のスレーブ制御部の中で前記マスタ制御部からの距離が最も遠い第1のスレーブ制御部(SL04)の取り付け位置に相当する第1の線長と、前記複数のスレーブ制御部の中で前記マスタ制御部からの距離が2番目に遠い第2のスレーブ制御部(SL03)の取り付け位置に相当する第2の線長と、を表す前記システム識別情報を保持し、
前記マスタ制御部は、前記第1の線長および前記第2の線長との組み合わせに基づいて、システム種別を把握する(S13)、
ことを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれかに記載の車載通信システム。