【文献】
芋川玄爾,皮膚角質細胞間脂質の構造と機能,油化学,1995年,Vol. 44, No. 10,p. 751-766
【文献】
ISHIKAWA, J. et al.,Changes in the Ceramide Profile of Atopic Dermatitis Patients,Journal of Investigative Dermatology,2010年 6月24日,Vol. 130,p. 2511-2514
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記肌質の評価は、皮膚角質層の採取物から調製した脂質試料に含まれるノンヒドロキシアシル-フィトスフィンゴシン・セラミドの成分量とノンヒドロキシアシル-スフィンゴシン・セラミドの成分量との比の情報と、肌質の状態との関連づけに基づいて、前記セラミド成分量比から肌質を評価するものである、請求項1に記載の肌質の解析システムの作動方法。
皮膚バリア機能、皮膚水分量、皮膚色・明るさ、皮膚のキメ、及び皮膚の落屑からなる群より選ばれる少なくとも1つを肌質として評価する、請求項1又は2に記載の肌質の解析システムの作動方法。
前記ノンヒドロキシアシル-フィトスフィンゴシン・セラミド成分と前記ノンヒドロキシアシル-スフィンゴシン・セラミド成分をそれぞれ、液体クロマトグラフィー−質量分析法で定量する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の肌質の解析システムの作動方法。
粒径が3μm以下の、シリカゲルにオクタデシル基を結合させた逆相カラムを用いて、流速が0.4mL/分以上0.8mL/分以下で、液体クロマトグラフィーによりノンヒドロキシアシル-フィトスフィンゴシン・セラミド成分とノンヒドロキシアシル-スフィンゴシン・セラミド成分を分離し、大気圧化学イオン化法によりイオン化したノンヒドロキシアシル-フィトスフィンゴシン・セラミド成分及びノンヒドロキシアシル-スフィンゴシン・セラミド成分のみを質量分離検出装置で定量する、請求項4に記載の肌質の解析システムの作動方法。
皮膚角質層の採取物から調製した脂質試料に含まれる、ノンヒドロキシアシル-フィトスフィンゴシン・セラミド成分とノンヒドロキシアシル-スフィンゴシン・セラミド成分とをそれぞれ定量する定量手段と、
定量したノンヒドロキシアシル-フィトスフィンゴシン・セラミド成分量とノンヒドロキシアシル-スフィンゴシン・セラミド成分量との比を算出し、算出したセラミド成分量比から肌質を評価する、演算手段、
とを備えた、肌質の評価装置。
皮膚角質層の採取物から調製した脂質試料に含まれるノンヒドロキシアシル-フィトスフィンゴシン・セラミドの成分量とノンヒドロキシアシル-スフィンゴシン・セラミドの成分量との比の情報と、肌質の状態とが関連づけられているデータベースを格納し、
前記データベースの関連づけに基づき、前記演算手段が算出したセラミド成分量比から肌質を評価する、
請求項6に記載の肌質の評価装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書における「質量分析」とは、測定対象物質の定量値を絶対値又は相対値で算出し分析することを含む概念である。
【0015】
本発明の肌質の評価方法では、被験体の皮膚角質層から調製した脂質試料のNP成分量とNS成分量との比から、被験体の肌質の評価を行う。
以下、本発明について図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
本発明の方法を適用することができる被験体としては、ヒト、並びにサル、チンパンジー、犬、猫、牛、豚、ラット、マウス等のヒト以外の哺乳動物が挙げられる。
【0017】
質量分析を行う、被験体の皮膚角質層の採取物由来の脂質試料を調製するためには、生体から採取した皮膚(頭皮も含む)や死体皮膚、細胞、再構成した細胞や皮膚組織などを使用することができる。本発明においては、肌質を評価する部位と皮膚角質層を採取する部位が同じ部位であることが好ましい。したがって、肌質を評価したい部位又はその近傍部位から採取した皮膚角質層から脂質試料を調製することが好ましい。
本発明において、肌質を評価する部位及び/又は皮膚角質層を採取する部位は、適宜選択することができる。例えば、前記部位は顔面の所定の部位であることが好ましく、頬部であることが好ましい。
【0018】
被験体の所定の部位から皮膚角質層を採取する方法は、常法から適宜選択することができる。例えば、接着テープの接着面を所定の部位に貼り付け、その後接着テープを剥離して皮膚角質層を採取する方法(テープストリッピング法)を好ましく採用することができる。この場合、皮膚角質層を採取する部位に対して、体毛や毛髪、表面に存在する皮脂成分、夾雑物などを除去するような前処理を施してもよい。
【0019】
テープストリッピング法などにより採取した皮膚角質層の採取物から、セラミドを含む脂質試料を調製する方法としては、例えば、セラミドの溶解性が高く、かつテープなどの他の成分が溶解し難い溶媒を用いて、採取物からセラミドを抽出することが好ましい。このような溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノールが挙げられる。
また、Bligh and Dyer法やFolch法等の常法に従い、脂質試料を調製することもできる。
【0020】
調製した被験体の脂質試料に含まれるNP成分及びNS成分を定量する方法は常法から適宜選択することができる。例えば、シリカゲルプレートを利用した薄層クロマトグラフィー法、ガスクロマトグラフィーを用いて脂質試料からNP成分及びNS成分を分離して電気信号に変換し、電気信号に基づいて質量分析装置でNP成分及びNS成分を定量するガスクロマトグラフィー−質量分析法、液体クロマトグラフィーを用いて脂質試料からNP成分及びNS成分を分離し、分離したNP成分及びNS成分をイオン化し、質量分析装置でNP成分及びNS成分を定量する液体クロマトグラフィー−質量分析(LC−MS)法、核磁気共鳴装置を用いてNP成分及びNS成分を定量する核磁気共鳴装置−質量分析法、が挙げられる。本発明では、LC−MS法によりNP成分及びNS成分を定量することが好ましい。
【0021】
NP成分及びNS成分の定量は、例えば、
図1に示すような解析システム1を用いて行うことができる。しかし本発明は、これに制限するものではない。
図1に示す解析システム1は、液体クロマトグラフ10、質量分析装置20及び演算装置30から構成されている。
【0022】
液体クロマトグラフ10は、溶離液aを送液するグラジエントポンプ11、脂質試料溶液bを導入するオートインジェクター12、及び分離カラム13を備えている。ここで、脂質試料溶液bとしては、皮膚角質層の採取物から調製した試料溶液を使用する。一方、溶離液aとしては、セラミド等の脂質分子群を適度に保持してセラミドのクラス別又は分子種別に分離することが可能であり、不揮発性の酸や塩を高濃度に含まないものが好ましい。例えば、揮発性の酢酸アンモニウムを少量含む溶液を溶離液aとして用いることが好ましい。溶離液aの溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ヘキサン、及びこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0023】
分離カラム13の充填剤としては、例えば、シリカゲル、シリカゲルにオクタデシル基を結合させた逆相カラム、ジオール基、CN基、NH
2基などがシリカゲルに結合した高極性カラムを用いることができる。液体クロマトグラフ10を流れる脂質試料溶液の流速を増加させ、NP成分とNS成分を迅速に定量する観点から、本発明で用いる充填剤は粒径が3μm以下のシリカゲルであることが好ましい。また、溶出した試料溶液に対して溶媒置換を行うことなく、後述する質量分析を行い、NP成分とNS成分を迅速に定量する観点から、粒径が3μm以下の、シリカゲルにオクタデシル基を結合させた逆相カラムが特に好ましい。
液体クロマトグラフ10を流れる脂質試料溶液の流速は、使用する充填剤などに応じて適宜設定することができる。NP成分とNS成分を迅速に定量する観点から、流速は0.4mL/分以上0.8mL/分以下が好ましい。
【0024】
液体クロマトグラフ10を以上のように構成することにより、NP成分及びNS成分をそれぞれ分離することができる。液体クロマトグラフ10で分離されたNP成分及びNS成分は、後段の質量分析装置20に導入される。
【0025】
質量分析装置20は、イオン化装置21と質量分離検出装置22から構成されている。
【0026】
質量分析装置20に導入されたNP成分及びNS成分のイオン化は、イオン化装置21で行われる。
イオン化装置21でのイオン化方法は適宜選択することができる。イオン化方法の具体例としては、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法、大気圧化学イオン化(APCI)法、大気圧光イオン化法、高速原子衝撃法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法が挙げられる。これらのうち、検出感度の点から、ESI法又はAPCI法が好ましく、迅速性、検出感度、共存成分による妨害低減の観点からAPCI法が特に好ましい。
【0027】
質量分離検出装置22は、イオン化装置21で生成したイオンをm/z毎に分離し、検出する。質量分離検出装置22としては、四重極(Q)型質量分析計、イオントラップ(IT)型質量分析計、飛行時間(TOF)型質量分析計等の質量分析計、Q-TOF型質量分析計、IT-TOF型質量分析計等のハイブリッド型質量分析計、トリプル四重極型等のタンデム質量分析計(MS/MS)を用いることができる。
【0028】
本発明において、前記液体クロマトグラフ10と質量分析装置20が一体になった市販の液体クロマトグラフ−質量分析装置を使用してもよい。
【0029】
演算装置30は、液体クロマトグラフ10における保持時間と、質量分析装置20で検出されたm/z及びイオン強度を、3軸に展開して多段マスクロマトグラムを形成する演算手段を有する。
前記演算装置30は、図示しないが、NP及びNSそれぞれに該当するセラミドについて、分子種毎に保持時間とm/zとを対応させたデータベースにアクセス可能であることが好ましい。また演算装置30は、前記演算手段により形成された多段マスクロマトグラムを入力データとして、入力された多段マスクロマトグラムに含まれるピークの保持時間とm/zに基づいて上記データベースを検索し、各ピークに対応するセラミド分子種を特定する比較演算手段を有していることが好ましい。また演算装置30は、前記演算手段で形成した多段マスクロマトグラム及び/又は前記比較演算手段で特定した各ピークに対応するセラミド分子種を所望の形式で出力し表示する表示手段を有することが好ましい。
【0030】
演算装置30は、演算手段により形成された多段マスクロマトグラムより、NP成分量及びNS成分量を測定する。そして演算装置30は、定量したNP成分量とNS成分量との比を算出する。
なお、NP成分量とNS成分量を測定する際には、剥離された角質層の面積、角質層の重量、タンパク量、細胞数等を測定し、これらの少なくとも1つの値で除することにより、NP成分量とNS成分量を規格化することが好ましい。
【0031】
演算装置30には、皮膚角質層の採取物から調製した脂質試料に含まれるNPの成分量とNSの成分量との比の情報と、肌質とを関連づけたデータベースが格納されていることが好ましい。そこで、算出したNP成分量とNS成分量との比から、前記データベースに格納された関連付けに基づいて、評価対象となる被験体の肌質を評価することが好ましい。
【0032】
算出したNP成分量とNS成分量の比から被験体の肌質を数値化し、肌質を評価することもできる。例えば、被験者の年代別に作成した、NS成分量に対するNP成分量の比(以下、「NP/NS比」ともいう)の偏差値分布を用いて、被験者が該当する年代別の平均値に対する被験者のNP/NS比の偏差値を算出し、肌質の良し悪しを示すことができる。あるいは、算出したNP成分量とNS成分量、並びにNP成分量とNS成分量との比から評価した肌質を視覚化することもできる。例えば、算出したNP量とNS量をクロマトチャートの面積で示し、面積の大小で肌質の状態を視覚的に示すことができる。
本発明の実施態様として、本発明により評価した肌質を数値化し、視覚化した具体例を
図7に示す。しかし本発明はこの実施態様に制限するものではない。
【0033】
セラミド分子は、スフィンゴ塩基と脂肪酸がアミド結合した構造を有する化合物である。セラミド分子を構成するスフィンゴ塩基と脂肪酸の種類(具体的には、置換基の有無や不飽和結合の数及び位置など)により、NPやNSなどの多数のセラミド・クラスが存在する。そしてスフィンゴ塩基と脂肪酸の炭素数が異なる多数のセラミド分子が、同一のセラミド・クラスに存在する。
このうち、本明細書における「NP」は、フィトスフィンゴシンとノンヒドロキシ脂肪酸がアミド結合した構造のセラミドを指す。一方、「NS」は、スフィンゴシンとノンヒドロキシ脂肪酸がアミド結合した構造のセラミドを指す。
また、「フィトスフィンゴシン」及び「スフィンゴシン」は通常、炭素数18の構造のものを指す。しかし、本明細書において「フィトスフィンゴシン」及び「スフィンゴシン」は、炭素数18以外の構造のものも含めた総称とする。
ここで、NP及びNSの1例の化学構造を下記に示す。しかし本発明はこれらに制限するものではない。
【0036】
本発明において、NPを構成するフィトスフィンゴシンの炭素数に特に制限はなく、8以上が好ましく、16以上がより好ましく、44以下が好ましく、36以下がより好ましい。また、NPを構成するノンヒドロキシ脂肪酸の炭素数に特に制限はなく、8以上が好ましく、16以上がより好ましく、44以下が好ましく、36以下がより好ましい。NPの具体例としては、N-ヘキサデカノイル-フィトスフィンゴシン(N-hexadecanoyl-phytosphingosine)、N-オクタデカノイル-フィトスフィンゴシン(N-octadecanoyl-phytosphingosine)、N-テトラコサノイル-フィトスフィンゴシン(N-tetracosanoyl-phytoshingosine)などが挙げられる。
【0037】
本発明において、NSを構成するスフィンゴシンの炭素数に特に制限はなく、8以上が好ましく、16以上がより好ましく、44以下が好ましく、36以下がより好ましい。また、NSを構成するノンヒドロキシ脂肪酸の炭素数に特に制限はなく、8以上が好ましく、16以上がより好ましく、44以下が好ましく、36以下がより好ましい。NSの具体例としては、N-ヘキサデカノイル-スフィンゴシン(N-hexadecanoyl-sphingosine)、N-オクタデカノイル-スフィンゴシン(N-octadecanoyl-sphingosine)、N-テトラコサノイル-スフィンゴシン(N-tetracosanoyl-sphingosine)などが挙げられる。
【0038】
後述の実施例でも示すように、NPの成分量とNSの成分量との比と、肌質とが互いに相関性を有する。したがって、前記方法により定量したNP成分量とNS成分量との比から、被験体の肌質を評価することができる。
本明細書において「肌質」とは、肌の外観(明るさ、キメの細やかさ、落屑の有無、落屑の程度など)、敏感肌、乾燥肌、脂性肌、保湿力に劣った肌、バリア機能に劣った肌、ニキビができやすい肌、スケーリングが生じやすい肌、紅斑が生じやすい肌といった頭皮を含む肌の状態等を挙げることができる。具体的には、本発明によれば、皮膚バリア機能(経皮水分蒸散量)、角層水分量、皮膚色・明るさ、皮膚のキメ、皮膚の落屑(落屑の有無又は程度)、などの肌質を評価することができる。
【0039】
肌質のうち、落屑、経皮水分蒸散量、及び皮膚色・明るさについて、NP/NS比に基づく評価基準について説明する。しかし、本発明はこれらに制限するものではない。
頬部の落屑がみられる被験者の頬部から採取した脂質試料のNP/NS比は1.5未満であった。よって、NP/NS比が1.5以上の場合、「落屑が全くみられない」又は「かすかに落屑がみられる」と評価することができる。
経皮水分蒸散量(TEWL)が20を超える被験者の頬部から採取した脂質試料のNP/NS比は2.0以上である場合はほとんど確認されない。ここで、一般にTEWLが20以下の場合、バリア機能が正常、又はバリア機能が平均以上と評価される(Yamashita Y.,et al.,Skin Pharmacol.Physiol.,2012,vol.25,p.78-85;Gae W.N.,et al.,Journal of Cosmetics,Dermatological Sciences and Applications,2014,vol.4,p.44-52など参照)。よって、NP/NS比が2.0以上の場合、「バリア機能が正常である」又は「バリア機能が平均以上」と評価することができる。
頬部から採取した脂質試料のNP/NS比が2.0以上である被験者のL
*値は、おおよそ65以上であった。ここで、一般にL
*値が65以上の場合、肌色が明るい、又は健康的な肌色と評価される(Caisey L.,et al.,International Journal of Cosmetic Science,2006,vol.28,p.427-437など参照)。よって、NP/NS比が2.0以上の場合、「肌色が明るい」又は「健康的な肌色」と評価することができる。
【0040】
後述の実施例で示すように、NP/NS比は肌質と高い相関性を示す。したがって、皮膚角質層におけるNP/NS比は肌質を評価するための指標となり、これを測定することにより簡便かつ的確に肌質を評価することができる。さらに本発明の肌質の評価方法によれば、皮膚外用剤の塗布試験や、何らかの機能性食品や医薬品、医薬部外品の摂取試験等において、これらの被験物質の塗布又は摂取によって生じる皮膚角質層におけるNP/NS比の変化量を測定し、その被験物質が肌質の改善又は維持に対する有効性を判断することにより行うことができる。
【0041】
上述のように、本発明の肌質の評価方法では、NP成分量とNS成分量との比を指標として、被験体の肌質の評価を行う。そして、NP成分量とNS成分量との比を指標とすることで、皮膚バリア機能、皮膚水分量、皮膚色・明るさ、皮膚のキメや落屑の有無などの皮膚性状など、様々な観点から肌質を的確に評価することができる。
また本発明の肌質の評価方法ではNP成分量とNS成分量との比を指標とする。そのため、本発明の肌質の評価方法では目的のセラミド・クラス(NP及びNS)の量を定量すれば算出可能であり、脂質試料に含まれるセラミドの分子種の解析や、セラミド総量、及び各セラミド・クラスがセラミド総量に対して占める割合(組成比)などの算出が不要である。よって、本発明の肌質の評価方法によれば、従来の方法と比較して、肌質の評価をより簡便に行うことができる。
【0042】
本発明の肌質の評価方法を利用することで、肌質改善剤をスクリーニングすることができる。具体的には、肌質改善剤の候補となる物質を含有する皮膚外用剤、化粧品、医薬部外品等を被験体の皮膚に適用し、本発明の方法を実施して、皮膚外用剤、化粧品、医薬部外品等の適用前後での肌質の変化を確認し、肌質改善作用を奏する物質を肌質改善剤として選択することができる。
なお本明細書において「改善」とは、肌質状態の好転若しくは緩和、肌質状態の悪化の防止若しくは遅延、又は肌質状態の進行の逆転、防止若しくは遅延をいう。
【0043】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の肌質の評価方法、肌質の評価装置、及び肌質改善剤のスクリーニング方法を開示する。
【0044】
<1>被験体の皮膚角質層の採取物から脂質試料を調製し、
調製した被験体の脂質試料に含まれる、NP成分と、NS成分とをそれぞれ定量し、
定量したNP成分量とNS成分量との比を算出し、
算出したセラミド成分量比から被験体の肌質を評価する、
肌質の評価方法。
【0045】
<2>前記肌質の評価は、皮膚角質層の採取物から調製した脂質試料に含まれるNPの成分量とNSの成分量との比の情報と、肌質の状態との関連づけに基づいて、前記セラミド成分量比から評価するものである、前記<1>項に記載の肌質の評価方法。
<3>皮膚バリア機能、皮膚水分量、皮膚色・明るさ、皮膚のキメ、及び皮膚の落屑からなる群より選ばれる少なくとも1つ、好ましくは皮膚バリア機能、皮膚水分量、皮膚色・明るさ、皮膚のキメ、及び皮膚の落屑の全て、を肌質として評価する、前記<1>又は<2>項に記載の肌質の評価方法。
<4>前記NP成分と前記NS成分をそれぞれ、LC−MS法で定量する、前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載の肌質の評価方法。
<5>液体クロマトグラフィーによりNP成分及びNS成分を分離し、ESI法、APCI法、大気圧光イオン化法、高速原子衝撃法及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化法のいずれか、好ましくはESI法、により、分離したNP成分及びNS成分をそれぞれイオン化し、イオン化したNP成分及びNS成分を質量分離検出装置で定量する、前記<4>項に記載の肌質の評価方法。
<6>粒径が3μm以下の、シリカゲルにオクタデシル基を結合させた逆相カラムを用いて、流速が0.4mL/分以上0.8mL/分以下で、液体クロマトグラフィーによりNP成分及びNS成分を分離し、APCI法によりイオン化したNP成分及びNS成分のみを質量分離検出装置で定量する、前記<4>項に記載の肌質の評価方法。
<7>前記NPを構成するフィトスフィンゴシンの炭素数が8以上、好ましくは16以上、44以下、好ましく36以下、であり、前記NPを構成するノンヒドロキシ脂肪酸の炭素数が8以上、好ましくは16以上、44以下、好ましく36以下、である、前記<1>〜<6>のいずれか1項に記載の肌質の評価方法。
<8>前記NSを構成するスフィンゴシンの炭素数が8以上、好ましくは16以上、44以下、好ましく36以下、であり、前記NSを構成するノンヒドロキシ脂肪酸の炭素数が8以上、好ましくは16以上、44以下、好ましく36以下、である、前記<1>〜<7>のいずれか1項に記載の肌質の評価方法。
<9>ヒト又はヒト以外の哺乳動物の肌質を評価する、前記<1>〜<8>のいずれか1項に記載の肌質の評価方法。
<10>皮膚角質層をテープストリッピング法により採取し、採取した皮膚角質層から脂質試料を調製する、前記<1>〜<9>のいずれか1項に記載の肌質の評価方法。
<11>テープストリッピング法により採取した皮膚角質層をメタノールに浸漬し、超音波処理して脂質試料を調製する、前記<10>項に記載の肌質の評価方法。
<12>肌質を評価する部位と皮膚角質層を採取する部位が同じ部位である、前記<1>〜<11>のいずれか1項に記載の肌質の評価方法。
<13>肌質を評価する部位、皮膚角質層を採取する部位、並びに肌質を評価する部位及び皮膚角質層を採取する部位が、顔面の所定の部位、好ましくは頬部、である、前記<1>〜<12>のいずれか1項に記載の肌質の評価方法。
<14>定量したNP/NS比が1.5以上の場合、「落屑が全くみられない」又は「かすかに落屑がみられる」と評価する、前記<1>〜<12>のいずれか1項に記載の肌質の評価方法。
<15>定量したNP/NS比が2.0以上の場合、「バリア機能が正常である」又は「バリア機能が平均以上」と評価する、前記<1>〜<12>のいずれか1項に記載の肌質の評価方法。
<16>定量したNP/NS比が2.0以上の場合、「肌色が明るい」又は「健康的な肌色」と評価する、前記<1>〜<12>のいずれか1項に記載の肌質の評価方法。
【0046】
<17>皮膚角質層の採取物から調製した脂質試料に含まれる、NP成分とNS成分とをそれぞれ定量する定量手段と、
定量したNP成分量とNS成分量との比を算出し、算出したセラミド成分量比から肌質を評価する、演算手段、とを備えた、肌質の評価装置。
【0047】
<18>皮膚角質層の採取物から調製した脂質試料に含まれるNPの成分量とNSの成分量との比の情報と、肌質の状態とが関連づけられているデータベースを格納し、
前記データベースの関連づけに基づき、前記演算手段が算出したセラミド成分量比から肌質を評価する、
前記<17>項に記載の肌質の評価装置。
<19>前記演算手段が、算出した各セラミド成分量比から、皮膚バリア機能、皮膚水分量、皮膚色・明るさ、皮膚のキメ、及び皮膚の落屑からなる群より選ばれる少なくとも1つ、好ましくは皮膚バリア機能、皮膚水分量、皮膚色・明るさ、皮膚のキメ、及び皮膚の落屑の全て、を肌質として評価する、前記<17>又は<18>項に記載の肌質の評価装置。
<20>前記定量手段が、前記NP成分と前記NS成分をLC−MS法で定量する、前記<17>〜<19>のいずれか1項に記載の肌質の評価装置。
<21>前記定量手段が、液体クロマトグラフによりNP成分及びNS成分を分離し、ESI法、大気圧化学イオン化法、大気圧光イオン化法、高速原子衝撃法及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化法のいずれか、好ましくはESI法、により、分離したNP成分及びNS成分をそれぞれイオン化し、イオン化したNP成分及びNS成分を定量する、前記<20>項に記載の肌質の評価装置。
<22>前記定量手段が、流速が0.4mL/分以上0.8mL/分以下で、粒径が3μm以下の、シリカゲルにオクタデシル基を結合させた逆相カラムを用いた液体クロマトグラフィーによりNP成分及びNS成分を分離し、APCI法によりイオン化したNP成分及びNS成分のみを定量する、前記<20>項に記載の肌質の評価装置。
<23>前記NPを構成するフィトスフィンゴシンの炭素数が8以上、好ましくは16以上、44以下、好ましく36以下、であり、前記NPを構成するノンヒドロキシ脂肪酸の炭素数が8以上、好ましくは16以上、44以下、好ましく36以下、である、前記<17>〜<22>のいずれか1項に記載の肌質の評価装置。
<24>前記NSを構成するスフィンゴシンの炭素数が8以上、好ましくは16以上、44以下、好ましく36以下、であり、前記NSを構成するノンヒドロキシ脂肪酸の炭素数が8以上、好ましくは16以上、44以下、好ましく36以下、である、前記<17>〜<23>のいずれか1項に記載の肌質の評価装置。
<25>前記装置が肌質を評価する部位と、皮膚角質層を採取する部位が同じ部位である、前記<17>〜<24>のいずれか1項に記載の肌質の評価装置。
<26>前記装置が肌質を評価する部位、皮膚角質層を採取する部位、並びに前記装置が肌質を評価する部位及び皮膚角質層を採取する部位が、顔面の所定の部位、好ましくは頬部、である、前記<17>〜<25>のいずれか1項に記載の肌質の評価装置。
【0048】
<27>肌質改善剤の候補となる物質を被験体の皮膚に適用し、前記<1>〜<16>のいずれか1項に記載の方法を実施して、肌質改善剤の候補となる物質の適用前後での肌質の変化を確認し、肌質改善作用を奏する物質を肌質改善剤として選択する、肌質改善剤のスクリーニング方法。
<28>前記<1>〜<16>のいずれか1項に記載の方法において、肌質を評価する部位と皮膚角質層を採取する部位が同じ部位である、前記<27>項に記載の肌質改善剤のスクリーニング方法。
<29>前記<1>〜<16>のいずれか1項に記載の方法において、肌質を評価する部位、皮膚角質層を採取する部位、並びに肌質を評価する部位及び皮膚角質層を採取する部位が、顔面の所定の部位、好ましくは頬部、である、前記<27>又は<28>項に記載の肌質改善剤のスクリーニング方法。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0050】
(1)被験者
東京近郊に在住の20歳代前半から70歳代前半までの健常女性計210名
【0051】
(2)角質層の採取
各被験者の頬部からテープストリッピング法により角質層を採取した(2.5cm×4cm×4枚)。それぞれのテープを半分に切り分け、一方をセラミド成分の解析に供し、もう一方をタンパク質の定量に供した。タンパク質の定量は、半分に切り分けたテープに0.1N NaOH、1% SDS水溶液を加え、60℃で2時間加熱してタンパク質を可溶化し、室温まで冷却した後に2N HClを加えて中和し、BCA Protein Assayを用いてBSAによる検量線からタンパク質の定量値を得た。
【0052】
(3)脂質試料の調製
角質層を採取した前記テープを5mLスクリュー管(マルエム:No.2)内でメタノール1.9mLに浸漬させ、室温で10分間超音波処理し、脂質を抽出した。次いで、このスクリュー管に内部標準(N-heptadecanoyl-D-erythro-sphingosine)を含有するメタノール溶液100μLを加え、脂質溶液を調製した。
【0053】
(4)NP及びNSの定量、並びにNP/NS比の算出
液体クロマトグラフ−質量分析装置(Agilent社製、LC/Multi ion source-MS)を用いて、脂質試料に含まれるNP及びNSの定量を行った。分離カラムとしては、L-column ODS 2.1mm i.d.×150mm(5μm)を使用した。
溶離液として、2種の溶液(溶離液A:10mmol/L酢酸アンモニウムを含有する50%メタノール溶液;溶離液B:10mmol/L酢酸アンモニウムを含有する2-プロパノール溶液)を使用した。また、溶離液A及びBのグラジエント条件を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
また、前記質量分析装置による分析条件は以下の通りである。
イオン源:マルチモードイオンソース
イオン化法:ESI法
検出モード:セラミドの酢酸イオン付加分子([M
+CH
3COO]
-)を負イオンモードでSIM検出
乾燥ガス流量:4L/分
ネブライザー圧力=60psig
乾燥ガス温度:350℃
ベーポライザー温度:200℃
キャピラリー電圧:4000V
チャージング電圧:2000V
【0056】
質量分析装置から得られたデータを、保持時間とm/zとイオン強度との3軸を有する多段マスクロマトグラムに展開した。その後、既知のセラミド分子種についてそれぞれ保持時間及びm/zの情報を格納したデータベースを利用して、多段マスクロマトグラムに含まれる各ピークのうち、NP及びNS由来のピークを同定した。そして、NP及びNS由来のピーク面積を求め、内部標準物質に対するピーク面積比を算出し、NP及びNS由来の相対量を算出した。算出した値に、予め求めてあるNP及びNSごとの検出感度補正係数を乗じ、さらにタンパク質量で除することにより、単位タンパク質量あたりのNP及びNSの絶対量、並びにNP/NS比を算出した。
【0057】
(5)肌質の計測
被験者の肌質を評価する頬部を洗浄し、24℃、湿度40%の環境下で30分間馴化し、さらに20℃、湿度40%の環境下で5分間馴化した後に、下記に示す各種肌質の計測を行った。
【0058】
(i)皮膚バリア機能
テヴァメーター(Tewameter TM300、Courage+Khazaka社製)を頬に当て、経皮水分蒸散量(TEWL)を計測した。同じ部位での計測を3回行い、平均値を算出した。なお、経皮水分蒸散量の計測は、測定値の標準偏差が0.1の範囲内に収まったときに停止するよう設定した。
【0059】
(ii)角層水分量
コルネオメーター(Corneometer CM825、Courage+Khazaka社製)を用い、センサを頬に押し当て、角層水分量(Corneo)を計測した。同じ部位での計測を5回行った。そして、最大値及び最小値を棄却し、3回分の平均値を算出した。
【0060】
(iii)皮膚色・明るさ
分光測色計(CM2002、KONICA MINOLTA社製)を用い、C光源2度視野にてセンサを頬に接触させ、皮膚色(L
*値、a
*値、b
*値)を計測した。同じ部位での計測を5回行った。そして、最大値及び最小値を棄却し、3回分の平均値を算出した。
また、メグザメーター(Mexameter MX18、Courage+Khazaka社製)を用い、センサを頬に接触させ、皮膚色(皮膚の赤み)を計測した。同じ部位での計測を5回行った。そして、最大値及び最小値を棄却し、3回分の平均値を算出した。
【0061】
(iv)皮膚のキメ
肌スコープ(i-SCOPE USB2.0、MORITEX社製)の50×PLレンズを用い、頬の写真を撮影した。そして、
図3に示す皮膚のキメスコアスケールに基づき、撮影した写真から頬のキメをスコア化した(1.0〜4.0の7段階評価)。
【0062】
(iv)皮膚の落屑
前記(iv)で撮影した写真から、下記評価基準に基づいて落屑の程度をスコア化した(0〜3の4段階)。
<落屑の評価基準>
0:落屑が全くみられない
1:かすかに落屑がみられる
2:落屑がみられる
3:顕著な落屑が見られる
【0063】
(6)NP/NS比と肌質との相関係数の算出
前記(4)で算出したNP及びNSの絶対量、並びにNP/NS比と、前記(5)で計測した各肌質の性状値との間でSpearmanの相関係数を算出した。なお、p値が0.05未満のものを有意であると判定した。
その結果を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
表2より、健常女性の顔面部におけるNP成分量とNS成分量はそれぞれ、TEWL値、角層水分量、L
*値、a
*値、b
*値、キメの整い方及び落屑量などの角層機能との相関関係が認められた。さらにNP成分量とNS成分量はそれぞれ、角層機能だけでなく皮膚色・明るさとも関連性を有することが示された。
これに対して、NP/NS比については、NP成分量とNS成分量それぞれと肌質との相関性と比較して、より多くの皮膚性状値と有意な相関性を有することが示された。さらに、NP成分量とNS成分量と比較して、より高い相関係数が得られる傾向が示された。なおNP/NS比は、角層水分量、L
*値、及び皮膚のキメとの間で正の相関性を有していた。一方NP/NS比は、TEWL値、a
*値、及び落屑量との間で負の相関性を有していた。
【0066】
さらに、各被験者の落屑スコア、TEWL値及びL
*値と、NP/NS比とをそれぞれプロットしたグラフを
図3〜5に示す。
図3に示すように、落屑スコアが2の被験者のNP/NS比はいずれも1.5未満であった。よって、NP/NS比が1.5以上の場合、「落屑が全くみられない」又は「かすかに落屑がみられる」と評価することができる。
図4に示すように、TEWL値が20を超える被験者に、NP/NS比が2.0以上である場合はほとんど確認されなかった。よって、NP/NS比が2.0以上の場合、「バリア機能が正常である」又は「バリア機能が平均以上」と評価することができる。
図5に示すように、NP/NS比が2.0以上である被験者のL
*値は、おおよそ65以上であった。よって、NP/NS比が2.0以上の場合、「肌色が明るい」又は「健康的な肌色」と評価することができる。
【0067】
以上のように、皮膚角質層におけるNP/NS比は肌質との間で高い相関性を有する。これらの結果は、NP/NS比が、皮膚色を含むより多くの皮膚性状値との相関性を精度よく的確に検出する指標であることを示している。また、NP/NS比を用いて肌質を評価することにより、タンパク質量での補正による各セラミド分子種ごとの絶対量の算出が不要となるという利点が得られる。
すなわち、NP成分量とNS成分量との比を指標とすることで、簡便で、かつ様々な観点から的確に肌質を評価することができる。
【0068】
実施例2
(1)角質層の採取
健常男性の頬部からテープストリッピング法により角質層を採取した(2.5cm×3cm×1枚)。角質層を採取したテープを、ダイヤティー六角軸サークルポンチ(高芝ギムネ製作所;No.712、12mm)により12mmφに切り抜いた。
【0069】
(2)脂質試料の調製
角質層を採取した前記テープを3mLスクリュー管(マルエム:No.1)内でエタノール200μLに浸漬させ、室温で5分間超音波処理し、脂質を抽出し、脂質溶液を調製した。
【0070】
(3)NP及びNSの定量、並びにNP/NS比の算出
液体クロマトグラフ−質量分析装置(Agilent社製、LC/APCI-MS)を用いて、脂質試料に含まれるNP及びNSの定量を行った。分離カラムとしては、SunShell C18 粒径2.6μm 50mm×2.1mm i.d.を使用した。流速は0.7mL/min(線速度3.4mm/sec)を適用した。
溶離液として、2種の溶液(溶離液A:50mmol/L酢酸アンモニウムを含有する60%アセトン水溶液;溶離液B:50mmol/L酢酸アンモニウムを含有するエタノール溶液)を使用した。また、溶離液A及びBのグラジエント条件を表3に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
また、前記質量分析装置による分析条件は以下の通りである。
イオン化法:大気圧化学イオン化法(APCI)
検出モード:セラミドの酢酸イオン付加分子([M+CH3COO]
-)を負イオンモードでSIM検出
モニター時間:0.3-4.0min
乾燥ガス流量:6.0L/分
ネブライザー圧力=30psig
乾燥ガス温度:300℃
ベーポライザー温度:400℃
キャピラリー電圧:4000V
コロナ電流:20μA
【0073】
質量分析装置から得られたデータを、保持時間とm/zとイオン強度との3軸を有する多段マスクロマトグラムに展開した。その後、既知のセラミド分子種についてそれぞれ保持時間及びm/zの情報を格納したデータベースを利用して、多段マスクロマトグラムに含まれる各ピークのうち、NP及びNS由来のピークを同定した(
図6参照)。そして、NP及びNS由来のピーク面積を求め、検量線よりNP及びNSの定量値を算出した。さらにNPをNSで除することにより、NS成分量に対するNP成分量の比(NP/NS比)を算出した。
【0074】
以上に示すように、本実施例の条件は、脂質の抽出からNP/NS比の定量までの工程を10分以内とする、実施例1よりも迅速なNP/NS比の定量を可能する。