特許第6587575号(P6587575)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トッパン・フォームズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6587575-識別体及びID生成方法 図000002
  • 特許6587575-識別体及びID生成方法 図000003
  • 特許6587575-識別体及びID生成方法 図000004
  • 特許6587575-識別体及びID生成方法 図000005
  • 特許6587575-識別体及びID生成方法 図000006
  • 特許6587575-識別体及びID生成方法 図000007
  • 特許6587575-識別体及びID生成方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6587575
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】識別体及びID生成方法
(51)【国際特許分類】
   G06K 19/067 20060101AFI20191001BHJP
   G06K 7/08 20060101ALI20191001BHJP
【FI】
   G06K19/067 020
   G06K7/08 060
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-90434(P2016-90434)
(22)【出願日】2016年4月28日
(65)【公開番号】特開2017-199241(P2017-199241A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2018年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110217
【氏名又は名称】トッパン・フォームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】道坂 岳央
(72)【発明者】
【氏名】近藤 正俊
(72)【発明者】
【氏名】出口 裕
【審査官】 境 周一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−096326(JP,A)
【文献】 特開2009−250480(JP,A)
【文献】 特表2008−503759(JP,A)
【文献】 特開昭59−202583(JP,A)
【文献】 米国特許第05604485(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 1/00−21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース基材の一方の面に形成され、共振周波数または偏波方向が互いに異なる複数の導電性アンテナを用いてIDを識別可能とする識別体であって、
前記ベース基材の他方の面において、前記複数の導電性アンテナのうち前記IDに応じて選択される少なくとも1つの導電性アンテナに、(比誘電率)×(誘電正接)×(膜厚[μm])1/2から算出される損失係数が0.75以上となる誘電体が対向して配置されている、識別体。
【請求項2】
共振周波数または偏波方向が互いに異なる複数の導電性アンテナがベース基材の一方の面に形成されてなる識別体を用いてIDを生成するID生成方法であって、
前記複数の導電性アンテナのうち前記IDに応じて選択される少なくとも1つの導電性アンテナに対向するように、(比誘電率)×(誘電正接)×(膜厚[μm])1/2から算出される損失係数が0.75以上となる誘電体を前記ベース基材の他方の面に配置することで当該導電性アンテナからの反射波における反射強度を低下させる処理と、
前記複数の導電性アンテナに電磁波を送信し、該電磁波の前記複数の導電性アンテナからの反射波を受信する処理と、
前記反射波における反射強度によって前記共振周波数または偏波方向が検出されたと判断した導電性アンテナについての個別IDを第1の識別子とし、前記共振周波数または偏波方向が検出されなかったと判断した導電性アンテナについての個別IDを第2の識別子とし、これら個別IDを所定の順序に並べる処理とを有する、ID生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共振周波数等が異なる複数のアンテナの組み合わせでIDを識別可能とする識別体及びID生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、情報化社会の進展に伴って、商品等に貼付されるラベルやタグに情報を記録し、このラベルやタグを用いて商品等の管理が行われている。このようなラベルやタグを用いた情報管理においては、ラベルやタグに対して非接触状態にて情報の書き込みや読み出しを行うことが可能なICチップが搭載された非接触型ICラベルや非接触型ICタグ等のRFID技術を利用した識別体がその優れた利便性から急速な普及が進みつつある。
【0003】
このようなRFID技術を利用した識別体としては、上述したようにICチップが搭載されたものに限らず、共振周波数が互いに異なる複数のアンテナを有し、ICチップを用いずに複数のアンテナの組み合わせでIDを識別可能とするものも考えられている。例えば、複数のアンテナを構成する誘電子要素とコンデンサ要素の形状を異ならせたり、複数のアンテナの形状や向きを異ならせたりして共振周波数を複数のアンテナ毎に異ならせ、そのアンテナの組み合わせでIDを表現可能とする技術が、特許文献1に開示されている。この技術においては、IDに応じて、共振周波数が互いに異なるアンテナのうち任意のアンテナについて、配線を切断したりコンデンサ部を短絡させたりすることで、IDに応じたアンテナの共振周波数のみを検出できるようにすることにより、アンテナの数をN個とした場合、その共振周波数の検出の可否によって“1”,“0”の2つの情報を持たせることができ、(2N−1)個のIDを識別可能に表現することができる。
【0004】
また、互いに分離された複数の配線セグメントを固定印刷であるアナログ印刷によって形成しておき、所望の配線セグメント間に接続セグメントを可変印刷であるデジタル印刷によって追加して形成することで所望の配線セグメントを接続し、それにより、アンテナの形状を異ならせる技術が、特許文献2に開示されている。この技術においては、アナログ印刷による固定印刷とデジタル印刷による可変印刷とを組み合わせることにより、アンテナの共振周波数を異ならせることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平7−80386号公報
【特許文献2】特許第5501601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したようにIDに応じてアンテナを加工する場合、相当の設備が必要となり、容易に共振周波数を異ならせることができないという問題点がある。例えば、IDに応じて配線を切断する場合、配線を容易に切断可能とするためには配線部分が外部に表出している必要があるが、相当の設備を用いることなく配線部分が外部に表出していると、配線が意図せずに断線してしまう虞がある。また、コンデンサ部を短絡させる場合、専用の熱圧器/高周波設備等が必要となってしまい、不良が生じやすい。さらに、固定印刷と可変印刷とを組み合わせる場合、配線セグメントを構成する導電性インクを乾燥させるための高温の乾燥炉が必要となり、容易に共振周波数を異ならせてIDを生成することができない。
【0007】
本発明は、上述したような従来の技術が有する問題点に鑑みてなされたものであって、共振周波数等が異なる複数のアンテナの組み合わせでIDを識別可能とする識別体において、IDを容易に生成することができる識別体及びID生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、
ベース基材の一方の面に形成され、共振周波数または偏波方向が互いに異なる複数の導電性アンテナを用いてIDを識別可能とする識別体であって、
前記ベース基材の他方の面において、前記複数の導電性アンテナのうち前記IDに応じて選択される少なくとも1つの導電性アンテナに、(比誘電率)×(誘電正接)×(膜厚[μm])1/2から算出される損失係数が0.75以上となる誘電体が対向して配置されている。
【0009】
上記のように構成された本発明においては、共振周波数または偏波方向が互いに異なる複数の導電性アンテナがベース基材の一方の面に形成されており、この複数の導電性アンテナのうちIDに応じて選択される少なくとも1つの導電性アンテナに対向するように、(比誘電率)×(誘電正接)×(膜厚[μm])1/2から算出される損失係数が0.75以上となる誘電体がベース基材の他方の面に配置されていることにより、複数の導電性アンテナに電磁波を送信してこの電磁波の複数の導電性アンテナからの反射波を受信し、受信した反射波における反射強度によって導電性アンテナの共振周波数または偏波方向が検出されたと判断する際、複数の導電性アンテナのうち誘電体が対向して配置された導電性アンテナにおいては、その反射波における反射強度が低下することで、共振周波数または偏波方向が検出されたとは判断されない。そして、共振周波数または偏波方向が検出されたと判断した導電性アンテナについての個別IDを第1の識別子とし、共振周波数または偏波方向が検出されなかったと判断した導電性アンテナについての個別IDを第2の識別子とし、これら個別IDを所定の順序に並べることによってIDが生成される。ここで、複数の導電性アンテナはIDによらずにベース基材に一律に形成されており、この複数の導電性アンテナに対向して誘電体が配置されたりされなかったりすることで導電性アンテナ毎の個別IDが生成されるので、導電性アンテナに意図しない断線が生じることなく、かつ、専用の熱圧器/高周波設備や、高温の乾燥炉を用いることなく、容易に共振周波数や反射強度を異ならせてIDを生成することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ベース基材にIDによらずに一律に形成された複数の導電性アンテナに対向して誘電体が配置されたりされなかったりすることで導電性アンテナ毎の個別IDが生成されるため、導電性アンテナに意図しない断線が生じることなく、かつ、専用の熱圧器/高周波設備や、高温の乾燥炉を用いることなく、容易に共振周波数や反射強度を異ならせてIDを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の識別体の実施の一形態を示す図であり、(a)は表面図、(b)は(a)に示したA−A’断面図、(c)は樹脂層を取り除いた表面の構成を示す図である。
図2】本発明の識別体の他の実施の形態を示す図であり、(a)は表面図、(b)は(a)に示したA−A’断面図、(c)は樹脂層を取り除いた表面の構成を示す図である。
図3図1及び図2に示したIDタグに付与されたIDを生成、判別するID生成システムの一例を示す図である。
図4】アンテナ上に樹脂層が積層された場合におけるアンテナからの反射波の周波数特性の変化を示す図である。
図5】樹脂層を構成する誘電体のパラメータを変化させた場合におけるアンテナからの反射波の周波数特性の変化を示す図であり、(a)は誘電体の厚さを変化させた場合における反射波の周波数特性の変化を示す図、(b)は誘電体の誘電正接を変化させた場合における反射波の周波数特性の変化を示す図、(c)は誘電体の比誘電率を変化させた場合における反射波の周波数特性の変化を示す図である。
図6図5に示した周波数特性の変化、並びに、その際の(比誘電率)×(誘電正接)×(膜厚[μm])1/2を用いた算出係数をまとめた表である。
図7】本発明の識別体の他の実施の形態を示す図であり、(a)は表面図、(b)は(a)に示したA−A’断面図、(c)は裏面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、本発明の識別体の実施の一形態を示す図であり、(a)は表面図、(b)は(a)に示したA−A’断面図、(c)は樹脂層4を取り除いた表面の構成を示す図である。なお、図1(c)においては樹脂層4が積層される領域を破線で示している。
【0014】
本形態における識別体は図1に示すように、樹脂フィルム等の絶縁性材料からなるベース基材2に5つの導電性のアンテナ3a〜3eが形成され、さらに、このアンテナ3a〜3eのうち、アンテナ3a,3c,3e上に樹脂層4が積層されて構成されたIDタグ1aである。
【0015】
アンテナ3a〜3eは、長方形の外形を有し、その短辺の1つからスリットが長手方向に入った形状となっており、互いに同一の幅を有し、その長手方向の長さが異なることで、互いに異なる共振周波数を有している。IDタグ1aは、アンテナ3a〜3eを用いて任意のIDを識別可能とするものであるが、アンテナ3a〜3eは、ベース基材2にIDによらずにその全てが固定印刷によって一律に形成されている。
【0016】
樹脂層4は、ベース基材2に形成されたアンテナ3a〜3eのうち、IDタグ1aに付与されたIDに応じて、アンテナ3a,3c,3eのみに積層されている。樹脂層4は、例えば、樹脂を含有する液体を、アンテナ3a,3c,3eの外形よりも大きな長方形形状にベタ印刷によってアンテナ3a,3c,3eを覆って塗布することで、アンテナ3a,3c,3e上に積層することができる。これにより、ベース基材2に形成されたアンテナ3a〜3eのうち、IDタグ1aに付与されたIDに応じて選択されるアンテナ3a,3c,3eに、誘電体となる樹脂層4が対向して配置された構成となっている。
【0017】
図2は、本発明の識別体の他の実施の形態を示す図であり、(a)は表面図、(b)は(a)に示したA−A’断面図、(c)は樹脂層4を取り除いた表面の構成を示す図である。なお、図1(c)においては樹脂層4が積層される領域を破線で示している。
【0018】
本形態における識別体は図2に示すように、図1に示したものに対して、ベース基材2に形成されたアンテナ3a〜3eのうち、樹脂層4が積層されるアンテナが異なっている。本形態によるIDタグ1bは、アンテナ3a〜3eのうちアンテナ3a,3c,3dのみに樹脂層4が積層されている。
【0019】
このように構成されたIDタグ1a,1bは、それぞれ識別可能となるIDが付与されており、ベース基材2に形成されたアンテナ3a〜3eのうち、IDタグ1a,1bに付与されたIDに応じて選択されるアンテナ上に樹脂層4が積層されている。そして、IDタグ1a,1bに対して電磁波が送信された場合に、その電磁波に対する反射波における反射強度によって検出された共振周波数に応じた個別IDが共振周波数の順序で並べられることで、IDタグ1a,1bに付与されたIDが生成、判別されることになる。
【0020】
以下に、上記のように構成されたIDタグ1a,1bに付与されたIDを生成、判別するID生成方法について説明する。
【0021】
図3は、図1及び図2に示したIDタグ1a,1bに付与されたIDを生成、判別するID生成システムの一例を示す図である。なお、図3においては、IDタグ1bの図示を省略しているが、IDタグ1aと同様に、読取装置5から送信された電磁波がIDタグ1bにて反射することとなる。
【0022】
本例におけるID生成システムは図2に示すように、図1に示したIDタグ1aと、IDタグ1aに付与されたIDを生成、判別する読取装置5とから構成され、読取装置5は、アンテナ30a,30bと、電磁波放射部10と、反射波受信部20と、処理部40と、制御部50とを有する。
【0023】
電磁波放射部10は、IDタグ1a,1bのアンテナ3a〜3eの共振周波数を含む電磁波をアンテナ30aを介して送信する。
【0024】
反射波受信部20は、電磁波放射部10からアンテナ30aを介して送信された電磁波に対してアンテナ30bを介して受信されたIDタグ1a,1bからの反射波を受信する。
【0025】
処理部40は、反射強度検知部41と、ID生成部42とを有する。
【0026】
反射強度検知部41は、反射波受信部20にて受信された反射波における反射強度を検知する。
【0027】
ID生成部42は、反射強度検知部41にて検知された反射強度によってIDタグ1a,1bにおけるアンテナの共振周波数が検出されたかどうかを判断し、この共振周波数の検出結果に基づいて、共振周波数が検出されたと判断したアンテナについての個別IDを第1の識別子である“1”とし、共振周波数が検出されなかったと判断したアンテナについての個別IDを第2の識別子である“0”とし、これら“1”と“0”とを共振周波数の順序で並べることで、IDタグ1a,1bに付与されたIDを生成、判別する。
【0028】
制御部50は、電磁波放射部10における電磁波の放射、及び処理部40における各処理を制御する。
【0029】
図1及び図2に示したIDタグ1a,1bにおいては、上述したように、図3に示した読取装置5から照射された電磁波に対する反射波が読取装置5にて受信され、反射波における反射強度によって検出される共振周波数に基づいて、付与されたIDが生成、判別されることになるが、アンテナ3a〜3eのうち樹脂層4が積層されるアンテナを異ならせることで、読取装置5にて検出される共振周波数を異ならせている。
【0030】
以下に、同一のアンテナ3a〜3eが形成されたIDタグ1a,1bに異なるIDを付与することができる原理について説明する。
【0031】
図4は、アンテナ上に樹脂層が積層された場合におけるアンテナからの反射波の周波数特性の変化を示す図である。
【0032】
例えば、図4の実線で示すように、6.7GHz近傍に共振周波数を有する中抜きの長方形のアンテナ上に、ドライ膜厚が130μm、比誘電率が3.62、周波数10GHzにおける誘電正接が0.804のポリビニルピロリドンが10w%のピロリドン溶液を塗布することで樹脂層を積層した場合、図4の破線で示すように、アンテナからの反射波の周波数特性が変化して反射強度が極端に低下し、6.7GHz近傍にて共振周波数が検出されなくなる。
【0033】
図1及び図2に示したIDタグ1a,1bにおいても、上記のように、アンテナ3a〜3eのうち樹脂層4が積層されたアンテナの共振周波数が検出されない構成とすれば、アンテナ3a〜3eのうち、IDタグ1a,1bに付与されたIDに応じて選択されるアンテナ上に樹脂層4を積層することにより、読取装置5において、IDタグ1a,1bに付与されたIDを生成、判別することができるようになる。
【0034】
図5は、樹脂層を構成する誘電体のパラメータを変化させた場合におけるアンテナからの反射波の周波数特性の変化を示す図であり、(a)は誘電体の厚さを変化させた場合における反射波の周波数特性の変化を示す図、(b)は誘電体の誘電正接を変化させた場合における反射波の周波数特性の変化を示す図、(c)は誘電体の比誘電率を変化させた場合における反射波の周波数特性の変化を示す図である。
【0035】
図5(a)に示すように、8.3GHz近傍に共振周波数を有するアンテナに、比誘電率ε=3、周波数10GHzにおける誘電正接tanσ=0.2の誘電体を積層し、誘電体の膜厚tを1μm、10μm、50μm、100μmと変化させて、その際の周波数特性を測定した。
【0036】
すると、膜厚t=1μmでは、アンテナからの反射波における反射強度がそれほど低下せず、共振周波数が検出されてしまうが、誘電体の膜厚tが増加するに伴って、アンテナからの反射波における反射強度が二次曲線的に低下していくことになる。なお、誘電体を塗布によってアンテナ上に積層する場合、膜厚は0.5〜20μm程度が妥当であるため、膜厚を厚くするためには、誘電体からなるシールを貼付すること等が考えられる。その場合、膜厚として、数百μmを確保することができる。
【0037】
また、図5(b)に示すように、8.3GHz近傍に共振周波数のピークを有するアンテナに、比誘電率=3、膜厚t=10μmの誘電体を積層し、周波数10GHzにおける誘電正接tanσを0.05、0.1、0.2、0.5と変化させて、その際の周波数特性を測定した。
【0038】
すると、誘電正接tanσ=0.05では、共振周波数がずれるもののアンテナからの反射波における反射強度がそれほど低下せず、共振周波数が検出されてしまうが、誘電体の誘電正接tanσが増加するに伴って、アンテナからの反射波における反射強度が直線的に低下していくことになる。なお、誘電正接は、高くした場合に、ただ単に反射強度が低下するだけであるため、共振周波数が検出されないようにするためには、高ければ高い方が望ましい。その際、特定の添加物を混ぜることで、樹脂の誘電正接を高くすることも可能である。
【0039】
また、図5(c)に示すように、8.3GHz近傍に共振周波数のピークを有するアンテナに、膜厚t=10μm、周波数10GHzにおける誘電正接tanσ=0.2の誘電体を積層し、比誘電率εを2、3、4、5と変化させて、その際の周波数特性を測定した。
【0040】
すると、誘電体の比誘電率εが増加するに伴って、アンテナからの反射波における反射強度が直線的に低下していく。なお、通常のポリマー材料の比誘電率は2〜8である。また、特定の添加物を混ぜることで、樹脂の比誘電率を高くすることも可能である。
【0041】
上記測定結果に基づいて、アンテナからの反射波における反射強度を低下させるための近似式として、(比誘電率)×(周波数10GHzにおける誘電正接)×(膜厚[μm])1/2を用い、誘電体をアンテナに積層した場合にアンテナからの反射波における反射強度を、共振周波数が検出されたと判断するための基準に達しない程度のものとするための条件を設定することができる。
【0042】
図6は、図5に示した周波数特性の変化、並びに、その際の(比誘電率)×(周波数10GHzにおける誘電正接)×(膜厚[μm])1/2を用いた算出係数をまとめた表である。
【0043】
一般に、電磁波の強度差が−3dBとなると、その電力が半分となる。ここで、図5に示した周波数特性の変化において、反射波の強度差が−3dB以上となる際の、(比誘電率)×(周波数10GHzにおける誘電正接)×(膜厚[μm])1/2による算出係数は、図6のNo.2とNo.10の測定結果から、0.75以上であることが想定される。
【0044】
そこで、誘電体をアンテナに積層した場合にアンテナからの反射波における反射強度を、共振周波数が検出されたと判断するための基準に達しない程度のものとするための条件として、(比誘電率)×(周波数10GHzにおける誘電正接)×(膜厚[μm])1/2から算出される誘電体の損失係数を0.75以上と設定する。これは、誘電体の膜厚が増加するに伴って、アンテナからの反射波における反射強度が二次曲線的に低下していくことを考慮したものであるため、算出係数が小さな場合は良好な相関が得られる。一方、算出係数が大きな場合はズレが多少大きくなるが、算出係数が大きな場合は、そもそも反射強度の低下が大きいので、共振周波数が検出されたと判断されない状態には変わりがない。なお、反射波の強度差がー1dB等の微小な差となる際の算出係数を条件に設定した場合、ノイズ等のブレとの判別が難しくなる。
【0045】
このように、導電性のアンテナに、(比誘電率)×(周波数10GHzにおける誘電正接)×(膜厚[μm])1/2から算出される損失係数が、0.75以上となる誘電体が対向して配置されている場合、このアンテナに電磁波を送信したとしても、その反射波における反射強度が低下し、共振周波数が検出されなかったと判断されることになる。そこで、共振周波数が互いに異なる複数の導電性アンテナがベース基材に形成され、このアンテナに対して送信される電磁波の反射波にて共振周波数が検出されたと判断されるかどうかによって、付与されたIDが判別されるIDタグについて、複数の導電性アンテナのうちIDに応じて選択される少なくとも1つの導電性アンテナに、(比誘電率)×(周波数10GHzにおける誘電正接)×(膜厚[μm])1/2から算出される損失係数が、0.75以上となる誘電体を対向して配置しておき、複数の導電性アンテナのうち、反射波にて共振周波数が検出されたと判断した導電性アンテナについての個別IDを“1”とし、共振周波数が検出されなかったと判断した導電性アンテナについての個別IDを“0”とし、これら個別IDを所定の順序に並べることによって、導電性アンテナに意図しない断線が生じることなく、かつ、専用の熱圧器/高周波設備や、高温の乾燥炉を用いることなく、容易に共振周波数や反射強度を異ならせてIDを生成することができる。
【0046】
以下に、その具体例として、図1及び図2に示したIDタグ1a,1bを用いて生成されるIDを例に挙げて説明する。
【0047】
図1に示したIDタグ1aは、上述したように、ベース基材2に互いに共振周波数が異なる5つのアンテナ3a〜3eが形成され、この5つの導電性のアンテナ3a〜3eのうち、アンテナ3a,3c,3e上に樹脂層4が積層されて構成されている。そして、樹脂層4を、上述したように、(比誘電率)×(周波数10GHzにおける誘電正接)×(膜厚[μm])1/2から算出される損失係数が、0.75以上となるものから構成することで、IDタグ1aに対して図3に示した読取装置5の電磁波放射部10から電磁波を送信すると、読取装置5の反射波受信部20にて受信されたIDタグ1aからの反射波においては、アンテナ3b,3dの共振周波数が検出されたと判断されるものの、アンテナ3a,3c,3eの共振周波数は検出されなかったと判断されることとなる。
【0048】
そして、ID生成部42において、共振周波数が検出されたと判断したアンテナ3b,3dについての個別IDを“1”とし、共振周波数が検出されなかったと判断したアンテナ3a,3c,3eについての個別IDを“0”とし、これら“1”と“0”とを共振周波数の順序で並べることで、IDタグ1aに付与されたID“01010”が生成、判別される。
【0049】
また、図2に示したIDタグ1bは、上述したように、ベース基材2に形成されたアンテナ3a〜3eのうち、アンテナ3a,3c,3d上に樹脂層4が積層されて構成されている。そして、樹脂層4を、上述したように、(比誘電率)×(周波数10GHzにおける誘電正接)×(膜厚[μm])1/2から算出される損失係数が、0.75以上となるものから構成することで、IDタグ1bに対して図3に示した読取装置5の電磁波放射部10から電磁波を送信すると、読取装置5の反射波受信部20にて受信されたIDタグ1bからの反射波においては、アンテナ3b,3eの共振周波数が検出されたと判断されるものの、アンテナ3a,3c,3dの共振周波数は検出されなかったと判断されることとなる。
【0050】
そして、ID生成部42において、共振周波数が検出されたと判断したアンテナ3b,3eについての個別IDを“1”とし、共振周波数が検出されなかったと判断したアンテナ3a,3c,3dについての個別IDを“0”とし、これら“1”と“0”とを共振周波数の順序で並べることで、IDタグ1bに付与されたID“01001”が生成、判別される。
【0051】
(他の実施の形態)
図7は、本発明の識別体の他の実施の形態を示す図であり、(a)は表面図、(b)は(a)に示したA−A’断面図、(c)は裏面図である。
【0052】
本形態における識別体は図7に示すように、図1に示したものに対して、アンテナ3a,3c,3e上に樹脂層4が積層されているのではなく、ベース基材2のアンテナ3a〜3eが形成された面とは反対側の面に、アンテナ3a,3c,3eに対向して樹脂層4が配置されている点が異なるIDタグ1cである。
【0053】
本形態によるIDタグ1cにおいても、樹脂層4を、(比誘電率)×(周波数10GHzにおける誘電正接)×(膜厚[μm])1/2から算出される損失係数が、0.75以上となるものから構成することで、図3に示した読取装置5の電磁波放射部10から電磁波が送信された場合、読取装置5の反射波受信部20にて受信されたIDタグ1cからの反射波においては、アンテナ3b,3dの共振周波数が検出されたと判断されるものの、アンテナ3a,3c,3eの共振周波数は検出されなかったと判断され、それにより、読取装置5のID生成部42において、IDタグ1cに付与されたID“01010”が生成、判別することになる。
【0054】
なお、上述した実施の形態においては、アンテナ3a〜3eの外形よりも大きな長方形形状の樹脂層4を、アンテナ3a,3c,3d,3e上に積層することでこれらアンテナ3a,3c,3d,3eに樹脂層4を対向させて配置しているが、アンテナ3a〜3eと同一形状の樹脂層4を用いたり、アンテナ3a〜3eの外形よりも小さな長方形形状の樹脂層4を用いたりしてもよい。ただし、アンテナ3a〜3eの外形よりも小さな長方形形状の樹脂層4を用いた場合は、アンテナ3a〜3eからの反射強度の低下の程度が弱くなる。
【0055】
また、ベース基材に形成された複数のアンテナの共振周波数を互いに異なるものとするためには、上述したように複数のアンテナの長手方向の長さを互いに異ならせるものに限らず、外形を同一としながらもスリットの長さを互いに異ならせることも考えられる。
【0056】
また、上述した実施の形態においては、複数のアンテナの共振周波数を互いに異ならせることで複数のアンテナを識別可能としているが、アンテナの向きを互いに異ならせることで偏波方向をアンテナ毎に異ならせ、偏波方向によってアンテナを識別可能としてもよい。その場合、偏波方向に優先順位を付与し、その優先順位に従った順序に個別IDを並べることとなる。
【0057】
また、アンテナの形状としては、上述した実施の形態にて示したように、長方形の外形を有し、その短辺の1つからスリットが長手方向に入ったものに限らない。
【0058】
また、上述した実施の形態においては、共振周波数が検出されたと判断したアンテナについての個別IDを“1”とし、共振周波数が検出されなかったと判断したアンテナについての個別IDを“0”とし、これら“1”と“0”とを共振周波数の順序で並べることで、IDタグに付与されたIDを生成、判別しているが、共振周波数が検出されたと判断したアンテナについての個別IDを“0”とし、共振周波数が検出されなかったと判断したアンテナについての個別IDを“1”とし、これら“0”と“1”とを共振周波数の順序で並べることで、IDタグに付与されたIDを生成、判別してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1a〜1c IDタグ
2 ベース基材
3a〜3e,30a,30b アンテナ
4 樹脂層
5 読取装置
10 電磁波放射部
20 反射波受信部
40 処理部
41 反射強度検知部
42 ID生成部
50 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7