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特許6587675椎間板性疼痛の治療での使用のための組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6587675
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】椎間板性疼痛の治療での使用のための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/19 20060101AFI20191001BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20191001BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20191001BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20191001BHJP
【FI】
   A61K31/19
   A61P29/00
   A61P19/00
   A61P25/00 101
【請求項の数】13
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-500433(P2017-500433)
(86)(22)【出願日】2015年3月20日
(65)【公表番号】特表2017-508813(P2017-508813A)
(43)【公表日】2017年3月30日
(86)【国際出願番号】EP2015055991
(87)【国際公開番号】WO2015140320
(87)【国際公開日】20150924
【審査請求日】2018年2月26日
(31)【優先権主張番号】1450320-5
(32)【優先日】2014年3月20日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】516281126
【氏名又は名称】ステイブル セラピューティクス アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100122389
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 栄一
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100169971
【弁理士】
【氏名又は名称】菊田 尚子
(74)【代理人】
【識別番号】100187481
【弁理士】
【氏名又は名称】小原 淳史
(72)【発明者】
【氏名】オルマーカー,キイェル
【審査官】 渡部 正博
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−518987(JP,A)
【文献】 特開2002−345689(JP,A)
【文献】 実開平06−048650(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0253930(US,A1)
【文献】 J Orthop Res,2013年,Vol.32, No.2,p.253-261
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
椎間板性疼痛の治療での使用のための組成物であって、乳酸又はその薬学的に許容される塩を含み、椎間板の髄核を含む椎間板腔に投与される前記組成物。
【請求項2】
前記椎間板腔における乳酸の濃度又は薬学的に許容される塩由来の乳酸イオンの濃度を12mmol/L超まで上昇させるのに有効な量で投与される、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
前記組成物中の乳酸の濃度又は薬学的に許容される塩の乳酸イオンの濃度が、少なくとも12mmol/L、例えば、12〜12000mmol/L、例えば、100〜10000mmol/L等、例えば、500〜5000mmol/L等、例えば、800〜2000mmol/L等の範囲内である、請求項1又は2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
前記薬学的に許容される塩が、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される元素のいずれかの乳酸塩である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
前記薬学的に許容される塩が、乳酸アンモニウム、乳酸コリン、乳酸リチウム、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸ベリリウム、乳酸マグネシウム及び乳酸カルシウムからなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
椎間板性疼痛の原因となる椎間板の椎間板腔に投与される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
前記乳酸又はその薬学的に許容される塩が、髄核を含む椎間板腔に局所注射により投与される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
前記乳酸が、2mg〜200mgの範囲内の単回用量で投与される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
前記乳酸が、5mg〜200mg、例えば、10mg〜100mg等、例えば、10mg〜50mg等、例えば、15mg〜30mg等の範囲内の単回用量で投与される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
前記乳酸又はその薬学的に許容される塩が、前記単回用量で一回の機会で投与される、請求項8又は9に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
前記乳酸又はその薬学的に許容される塩を含む水溶液の形態である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
前記椎間板性疼痛が、頸部痛、慢性頸部痛、腰痛及び慢性腰痛から選択される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項13】
前記椎間板性疼痛が、尾骨痛である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腰痛、慢性腰痛、頸部痛、慢性頸部痛及び尾骨痛等の椎間板性疼痛、並びに椎間板性疼痛の治療での使用のための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性腰痛等の腰痛は、生存期間中に成人人口の約80%がかかる一般的な症状である。腰痛は、公知の病態生理を有する特定の疾患ではなく、むしろ多くの原因を有する症候である。腫瘍、骨折又は感染症等の直接の原因は、患者の約5〜10%においてのみ判明していると推定されている。これらの症例の残り90〜95%において、腰痛は、特発性、即ち、原因不明である。
【0003】
腰痛を引き起こす主な原因と思われる背部の構造物としては、椎間板がある。椎間板は、2つの隣接する椎骨の間に配置されている。椎間板は、典型的に柔軟性があり、隣接する椎骨間の動きを可能にする。椎間板は、コラーゲンを主に含む結合組織の輪、並びに、例えば、コラーゲン及びプロテオグリカンを含む半液体状の中心により形成されている。この輪は、線維輪と呼ばれ、中心は、髄核と呼ばれる。
【0004】
20〜30代で既にヒトの椎間板は老化し始め、この過程はしばしば椎間板変性と呼ばれる。老化過程で、椎間板は、漏出又はヘルニア形成し得、腰痛及び坐骨神経痛等の症候を引き起こし得る。椎間板の老化は60〜80代で通常終わる。この段階で、椎間板は、固体及び密性結合組織に変化している。これが起こると、椎間板は、漏出又はヘルニア形成する可能性が低いため、典型的にはもはや症状を引き起こさない。椎間板の老化は、椎間板の高さの減少及び脊椎の可動性の低下をさらに意味する。
【0005】
椎間板変性は、線維輪断裂を誘導し、椎間板の中心と線維輪の外表面との間の伝達を可能にし得ることが知られている。したがって、椎間板の中心からの炎症性物質等の物質が、線維輪の外表面に漏出し得る。次いで、通常サイレントであり線維輪の外表面に配置されている受容体が、椎間板変性中は、椎間板の中心に典型的には存在する炎症性物質により活性化され得る。このメカニズムは、腰痛の原因となる1つのメカニズムとして示唆される。
【0006】
腰痛の原因として示唆されている別のメカニズムは、線維輪断裂を介して、線維輪の外表面から椎間板の中心まで達する、新たに形成された血管及び神経が存在し得ることである。椎間板が動いて、神経に圧力がかかると、これらの神経が疼痛を引き起こし得ると考えられる。
【0007】
腰痛を治療する一つの一般的な方法は、疼痛を引き起こしていると思われる椎間板を含む脊椎分節の外科的固定術によるものである。原理は、疼痛を引き起こす椎間板の動きを低減し、食い込んだ神経が圧迫され、疼痛を引き起こすのを回避するものである。しかし、この外科治療は、侵襲的であり、完全に満足できるものではない。
【0008】
腰痛又はむしろ坐骨神経痛を治療するために提案された別の方法は、酵素を椎間板に注射し、髄核を溶解し、それにより、例えば、神経に対する椎間板の髄核による圧迫を低減する、いわゆる化学的髄核融解術である。
【0009】
さらに、腰痛を治療するために提案された別の方法は、例えば、培養した椎間板細胞及び幹細胞の導入による、椎間板の再生又は変性によるものである。しかし、椎間板の中心の栄養が欠乏した環境で、新たに導入された細胞の生存が成功裏に確保されることはなさそうである。
【0010】
例えば、線維化剤により促進される再生は、(特許文献1)に開示されている。(特許文献1)は、例えば、それを必要とする患者の椎間板腔に治療有効量の線維化剤又は線維化剤を含む組成物を導入することを含む方法に関する。線維化剤は、患者の椎間板腔で線維化反応を誘導し、それにより、患者に有益な結果がもたらされる。(特許文献1)は、線維化剤及び増量剤を含む注射可能な組成物にも関する。
【0011】
しかし、腰痛をより成功裏に治療するために、安全で満足できる方法を提供することが当技術分野において依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2005/046746号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、腰痛、慢性腰痛、頸部痛、慢性頸部痛及び尾骨痛等の椎間板性疼痛の治療での使用のための組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
椎間板性疼痛の治療での使用のための組成物は、椎間板への局所注射により治療有効量で投与できるように製剤化され得る。
【0015】
本発明の概念は、椎間板の固体及び密性結合組織への変化等によって椎間板の老化を加速させ、それにより椎間板を硬化させることにより、椎間板性疼痛を軽減することである。椎間板の固体及び密性結合組織への変化により、椎間板がより安定し、したがって、椎間板の可動域が減少する。固体及び密性結合組織に変化した椎間板では、任意の流体成分が椎間板腔から、例えば、線維輪の外表面に漏出することも、神経が椎間板に達することもない。
【0016】
既に1959年に、Carl Hirschは、The Journal of Bone and Joint Surgery、第41B巻、第2号、237〜243頁、1959年5月における論文"Studies on the Pathology of Low Back Pain"において、「遅かれ早かれ、退化した椎間板を密性結合組織に変化させることができる物質が発見されるだろう」と明言した。それにもかかわらず、これまでに、何らかのこのような物質を提示した者はいないと思われる。
【0017】
本発明の発明者は、物質としては、乳酸又はその薬学的に許容される塩が有効であり得ることを驚くべきことに発見した。この知見は、疼痛を引き起こす椎間板内の乳酸又はその薬学的に許容される塩の量を減少させることにかなり重点を置いた先行技術を考えると、特に驚くべきことである。例えば、米国特許出願公開第2012/0,022,425号明細書は、乳酸阻害剤を椎間板に注射して、乳酸の生成を抑制することにより、椎間板内の乳酸を減少させ、それにより乳酸の燃焼による腰痛を緩和する方法を開示している。さらに、国際公開第2013/092753号には、例えば、慢性腰痛の治療で乳酸塩の生成を抑制するためのインドール誘導体化合物が公開されている。
【0018】
乳酸は、化学式CH3CH(OH)COOHを有するカルボン酸である。以下の式(I)に示すように、乳酸は、水溶液中でそのカルボキシル基からプロトンを喪失し、乳酸イオンCH3CH(OH)COO-を生成し得る。乳酸と乳酸イオンとのモル分率は1:1である。
CH3CH(OH)COOH(水溶液)←→CH3CH(OH)COO-+H+ (I)
【0019】
乳酸イオンは、対イオンと一緒になって、薬学的に許容される塩を形成し得る。対イオンは、Li、Be、Na、Mg、K及びCaの元素のイオンからなる群から選択される金属イオンであってよい。あるいは、対イオンは、アンモニウム又はコリン等の有機イオンであってよい。乳酸又はその薬学的に許容される塩は、人体に天然に存在する。
【0020】
腰痛を有する患者の腰部椎間板の組織液中の乳酸イオンの濃度は、1mmol/L〜約12mmol/Lの範囲内、典型的には2mmol/L〜6mmol/Lの範囲内であると測定されている。これらの測定値は、Bartelsらによる、Spine 23(1):1〜8頁、1998年における科学論文「Oxygen and lactate concentrations measured in vivo in the intervertebral discs of patients with scoliosis and back pain」の5頁、図6に示されている。
【0021】
表1から分かるように、乳酸イオンの分子量は89.07g/molである。腰部椎間板の組織液1L当たり1mmolの乳酸イオンのモル濃度は、89.07mg/Lの質量濃度に相当する。同様に、腰部椎間板の組織液1L当たり12mmolの乳酸イオンのモル濃度は、1067mg/Lの質量濃度に相当する。
【0022】
ヒトにおいて、腰部椎間板の椎間板腔は、推定約1.5mL〜3.0mLの体積を有する。
【0023】
以上を考慮すると、当業者は、mol又はgで表される、椎間板の乳酸塩の量を容易に計算できよう。一例を表1に示す。
【表1】
【0024】
乳酸、乳酸イオン又はその薬学的に許容される塩は、椎間板の細胞、特に椎間板の老化を防ぐのに必要なプロテオグリカンを産生する細胞の機能を不利に妨害し得る。
【0025】
椎間板の老化は、隣接する椎骨の血管から及び周辺の構造物からの拡散による栄養素及び酸素の供給の低下により始まる。これにより、椎間板、例えば、髄核での代謝老廃物の蓄積が徐々に誘導される。ある種の代謝老廃物としては、乳酸及びその薬学的に許容される塩を挙げることができる。
【0026】
乳酸及びその薬学的に許容される塩は、椎間板の細胞死、例えば、細胞内脂肪蓄積、ミトコンドリアの膨張、クロマチン凝集及び興奮毒性グルタミン酸塩の遊離をもたらす、いくつかのメカニズムに寄与し得る。
【0027】
乳酸及びその薬学的に許容される塩は、結合組織の炎症及び生成を引き起こすPGE2を遊離し得る。さらに、乳酸及びその薬学的に許容される塩は、TGFβの遊離を刺激し得、次いでそれは線維芽細胞を刺激し、コラーゲンを産生する。
【0028】
乳酸及びその薬学的に許容される塩は、赤血球の凝集傾向を強め、「血液スラッジ」を形成し、赤血球をさらに硬化させ、次いで、血液粘度を上昇させ、小血管の循環を損なう播種性血管内凝固症候群及び消費性凝固障害にも寄与し得る。
【0029】
したがって、乳酸又はその薬学的に許容される塩を含む組成物の椎間板の椎間板腔への投与により、椎間板の乳酸又はその薬学的に許容される塩の濃度を上昇させ、その結果、椎間板の老化を加速させ、髄核の結合組織への変化を誘導する。
【0030】
髄核の結合組織への変化を含む、椎間板の老化は、椎間板をさらに硬化させる。乳酸又はその薬学的に許容される塩を含む組成物を投与することにより、老化を管理可能な方法で加速させることができる。典型的には、乳酸又はその薬学的に許容される塩の濃度を、椎間板で、より具体的には椎間板腔で上昇させ、老化を加速させることができる。
【0031】
本発明者は、乳酸又はその薬学的に許容される塩を含む組成物が、椎間板の著しい変化を誘導し、したがって椎間板をさらに硬化させることを発見した。この著しい変化は、髄核の結合組織への変化による椎間板の加速老化と解釈された。したがって、本発明者は、乳酸又はその薬学的に許容される塩を含む組成物を椎間板の髄核に投与し、椎間板腔の乳酸又はその薬学的に許容される塩の濃度を上昇させた場合、患者にとって、椎間板性疼痛に関する改善があると期待する。
【0032】
本発明者は、乳酸若しくはその薬学的に許容される塩、又は乳酸若しくはその薬学的に許容される塩を含む組成物を、少なくともある程度は椎間板性疼痛の原因となる椎間板の椎間板腔に投与したとき、患者にとって、頸部痛、腰痛又は尾骨痛等の椎間板性疼痛に関する改善があると期待する。
【0033】
本発明の第1の態様によれば、椎間板性疼痛の治療での使用のための組成物が提供される。組成物は、乳酸又はその薬学的に許容される塩を含む。組成物は、椎間板の髄核を含む椎間板腔に投与される。
【0034】
椎間板性疼痛の治療での使用のための組成物は、乳酸及びその薬学的に許容される塩の少なくとも1つを含み得る。薬学的に許容される塩は、乳酸イオン及び対イオンを含む薬学的に許容される塩である。
【0035】
本発明による椎間板性疼痛の治療での使用のための組成物の利点は、椎間板性疼痛のより安全でより効率的な治療法であること、さらにまた、当技術分野で公知の外科治療等の治療法よりも費用がかからず、侵襲的でないことである。さらに、乳酸又はその薬学的に許容される塩は、生体適合性である。乳酸又はその薬学的に許容される塩は、脊椎動物の体内に存在する老廃物等の天然化合物であるため、脊椎動物、例えば、ヒトの身体は、これらの化合物を処理する、例えば、分解することができる。
【0036】
本発明者は、本発明による椎間板性疼痛の治療での使用のための組成物を、髄核に投与したとき、椎間板の椎間板腔の髄核が、線維輪の結合組織に類似した、固体及び密性結合組織に変化し得ることを示唆する。例えば、血液凝固も、髄核の結合組織への変化中に起こり得、椎間板をさらに固体及び密性にし得る。剛性の増加により、疼痛が軽減されることが期待される。
【0037】
一実施形態によれば、使用のための組成物は、椎間板腔の乳酸の濃度又は薬学的に許容される塩由来の乳酸イオンの濃度を12mmol/L超まで上昇させるのに有効な量で投与される。
【0038】
使用のための組成物は、椎間板腔の乳酸又は乳酸イオンの濃度を、自然な老化過程で存在する濃度よりも高い濃度まで上昇させるのに有効な量で投与され得る。
【0039】
一実施形態によれば、組成物中の乳酸の濃度又は薬学的に許容される塩の乳酸イオンの濃度が、少なくとも12mmol/L、例えば、12〜12000mmol/L、例えば、100〜10000mmol/L等、例えば、500〜5000mmol/L等、例えば、800〜2000mmol/L等の範囲内である、請求項1又は2に記載の使用のための組成物。
【0040】
一実施形態によれば、薬学的に許容される塩は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される元素のいずれかの乳酸塩である。例えば、薬学的に許容される塩は、乳酸リチウム、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸ベリリウム、乳酸マグネシウム及び乳酸カルシウムの少なくとも1つである。
【0041】
一実施形態によれば、薬学的に許容される塩は、乳酸アンモニウム、乳酸コリン、乳酸リチウム、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸ベリリウム、乳酸マグネシウム及び乳酸カルシウムからなる群から選択される。
【0042】
一実施形態によれば、使用のための組成物は、椎間板性疼痛の原因となる椎間板の椎間板腔に投与される。
【0043】
一例において、使用のための組成物は、椎間板性疼痛の原因となると思われる椎間板のいずれか又は全てに投与され得る。
【0044】
一実施形態によれば、乳酸又はその薬学的に許容される塩は、髄核を含む椎間板腔への局所注射により投与される。
【0045】
局所注射は、典型的には注射器で行われ得る。
【0046】
一実施形態によれば、乳酸は、2mg〜200mg、例えば、5mg〜200mg等、例えば、10mg〜100mg等、例えば、10mg〜50mg等、例えば、15mg〜30mg等の範囲内の単回用量で投与される。単回用量は、椎間板腔当たり投与される乳酸の量に相当する。
【0047】
薬学的に許容される塩が投与される場合、薬学的に許容される塩の乳酸イオンが、乳酸と乳酸イオンとのモル分率を考慮して、上の乳酸の単回用量に相当する量で投与される。
【0048】
一実施形態によれば、乳酸又はその薬学的に許容される塩を含む、使用のための組成物は、単回用量で一回の機会で投与される。
【0049】
一実施形態によれば、組成物は、前記乳酸又はその薬学的に許容される塩を含む水溶液の形態である。
【0050】
典型的には、椎間板性疼痛の治療での使用のための組成物は、局所注射に適した液体状態で提供される。
【0051】
一実施形態によれば、椎間板性疼痛は、頸部痛、慢性頸部痛、腰痛、慢性腰痛及び尾骨痛から選択される。
【0052】
いくつかの例において、組成物は、可溶化剤、安定剤、緩衝剤、等張化剤、増量剤、増粘剤、減粘剤、界面活性剤、キレート剤、保存料及びアジュバントから選択される少なくとも1つの薬剤をさらに含み得る。
【0053】
代替例において、乳酸の誘導体は、乳酸エチル等のプロドラッグとしてさらに又は代替的に投与され得る。
【0054】
ヒトにおいて、投与される組成物の量は、0.05mL〜5mL、例えば、0.1〜3mL等、例えば、0.2〜2mLの範囲内であってよい。これらの量は、ヒトの髄核の体積にほぼ相当する。腰部椎間板に関して、投与される組成物の量は、約1.5mL〜3.0mLであってよい。頸部椎間板に関して、投与される組成物の量は、約0.5mLであってよい。尾部椎間板に関して、投与される組成物の量は、約0.2mLであってよい。
【0055】
本明細書において「一回の機会」という用語は、例えば、病院の医師への訪問中等、医療機関の一回の訪問時を意味する。訪問は、24時間以内、例えば、0.5〜5時間等であってよい。この用語は、単回用量が、単回注射のみで一回の機会で投与されることを、必ずしもそうではないが典型的には意味する。しかし、この用語は、単回用量が、一回の機会当たり2〜10回の注射、例えば、一回の機会当たり2〜5回の注射等、一回の機会であるが数回の注射により投与される場合も対応する。
【0056】
本明細書において「繰り返しの機会」という用語は、例えば、病院の医師への1回超の訪問中等、医療機関の1回超の訪問、即ち、複数回の訪問時を意味する。各訪問は、24時間以内、例えば、0.5〜5時間等であってよい。この用語は、単回用量が、繰り返しの機会であるが単回注射のみで投与されることを、必ずしもそうではないが典型的には意味する。しかし、この用語は、単回用量が、前記繰り返しの機会各々当たり2〜10回の注射、例えば、前記繰り返しの機会各々当たり2〜5回の注射等、繰り返しの機会であるが数回の注射により投与される場合も対応する。
【0057】
「椎間板」という用語は、脊椎の2つの隣接する椎骨間にある要素を意味する。各椎間板は、椎骨のわずかな動きを可能にするために軟骨性関節を形成し、椎骨を一緒に固定するための靭帯として作用する。椎間板は、内側の髄核を取り囲む、外側の線維輪からなる。ヒト脊柱は、首(頸部)に6個、中背(胸郭部)に12個及び腰(腰部)に5個の23個の椎間板を含む。さらに、椎間板は、尾骨間にも配置されている。椎間板はディスクと呼ばれる場合もある。
【0058】
「髄核」という用語は、椎間板の中心のゼリー状の物質を意味する。髄核は、軟骨細胞様細胞、コラーゲン細線維、及びヒアルロン鎖を介して凝集するプロテオグリカンアグリカンを含む。各アグリカン分子に結合するのは、コンドロイチン硫酸及びケラタン硫酸のグリコサミノグリカン(GAG)鎖である。髄核は、緩衝装置として作用し、2つの隣接する椎骨を分離した状態で保つ。
【0059】
「線維輪」という用語は、髄核の周囲に形成される線維組織及び線維軟骨の薄層を意味する。線維輪は、椎間板全体に圧力を均等に分散させる働きをする。
【0060】
「椎間板腔」という用語は、髄核で満たされており、線維輪により規定された円周を有する、椎間板の空間を意味する。
【0061】
「頭側の終板」という用語は、頭骨の方に面した椎間板の表面を意味する。頭側の終板は、椎間板を間にして尾側の終板と向かい合って配置されている。
【0062】
「尾側の終板」という用語は、頭骨を背にした椎間板の表面を意味する。尾側の終板は、椎間板を間にして頭側の終板と向かい合って配置されている。
【0063】
「面関節」という用語は、関節軟骨で覆われた関節面を典型的には有する、一対の関節構造物を意味する。面関節は、典型的にはカプセルに閉じ込められている。面関節は、椎骨の下関節突起と椎骨の上関節突起との間の関節を形成する。面関節は、動きを可能にし、脊柱を機械的に支えるように典型的には構成されている。
【0064】
「横突起」という用語は、両側の椎弓から横方向に伸びた骨形成物を意味する。肋骨突起とも呼ばれる。
【0065】
本明細書において「椎間板性疼痛」という用語は、疼痛を引き起こす椎間板に関連した疼痛を意味する。椎間板性疼痛は、頚椎(C)、腰椎(L)、仙骨(S)及び尾骨(Co)の少なくとも1つと関連した疼痛であり得る。椎間板性疼痛の例は、腰痛、慢性腰痛、頸部痛、慢性頸部痛及び尾骨痛であり得る。
【0066】
「慢性腰痛」という用語は、症状が12週間超の間にわたりずっと生ずる腰痛を意味する。
【0067】
「慢性頸部痛」という用語は、症状が12週間超の間にわたりずっと生ずる頸部痛を意味する。
【0068】
「尾骨痛」という用語は、尾骨又は尾てい骨部分での疼痛を意味する。
【0069】
本明細書において「屈曲剛性」という用語は、脊柱分節に配置されている椎間板の剛性を示す特性を意味する。完全側方屈曲状態に到達するまで脊柱分節に力を加え、その後、椎間板の2つの両側に各々配置されている椎骨の横突起間の距離を測定することにより、屈曲剛性を求めることができる。完全側方屈曲状態は、脊柱分節を切断せずには、脊柱分節の椎間板にさらに力を加えることができない状態として定義される。この特性は、ミリメートルで測定される。屈曲剛性は、脊柱分節の曲げ剛さ、より具体的には、椎間板の曲げ剛さを特徴づける方法である。
【0070】
曲げ剛さは、非剛体構造物を、1単位分の曲率だけ曲げるのに要する偶力として一般に定義される。それは、生成物の弾性係数及び慣性モーメントを構造部材の長さで割った、構造部材の剛性の尺度である。言い換えれば、弾性材料が、曲げられているときの、弾性材料の圧力と張力との比である。
【0071】
第2の態様によれば、治療有効量の乳酸又はその薬学的に許容される塩を、それを必要とする患者の椎間板の髄核に投与することにより椎間板性疼痛を治療する方法が提供される。本発明のこの第2の態様の効果及び特徴は、本発明の第1の態様に関して上に記載したものと類似している。
【0072】
第3の態様によれば、椎間板性疼痛を治療するための薬剤の製造における、乳酸又はその薬学的に許容される塩の使用が提供される。本発明のこの第3の態様の効果及び特徴は、本発明の先の態様に関して上に記載したものと類似している。
【0073】
第4の態様によれば、椎間板性疼痛の治療での使用のための乳酸又はその薬学的に許容される塩が提供される。本発明のこの第4の態様の効果及び特徴は、本発明の先の態様に関して上に記載したものと類似している。
【0074】
本発明のさらなる特徴及び利点は、添付の特許請求の範囲及び以下の説明を熟読することにより明らかになるであろう。当業者は、本発明の様々な特徴を組み合わせて、本発明の範囲から逸脱せずに、以下に記載したもの以外の実施形態を生み出すことができることを認識する。
【0075】
次に、本発明のこれらの及び他の態様を、本発明の実施形態を示す添付の図面を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0076】
図1】ヒト脊柱を概略的に示す断面図である。
図2】ヒト脊柱の2つの隣接する椎骨を概略的に示す側面図である。
図3】ヒト脊柱の下部を概略的に示す側面図である。
図4】脊柱分節を概略的に示す後面図である。
図5】どのように椎間板の断面の前後方向の長さを測定するのかを概略的に示す図である。
図6】どのように椎間板の断面の両側面の幅を測定するのかを概略的に示す図である。
図7】3つの椎間板の断面、及び本発明の実施形態による組成物を投与した椎間板における髄核の結合組織への変化を示す図である。
図8】乳酸での治療後の線維芽細胞のコラーゲン産生試験の実験結果を示すグラフである。
図9】乳酸での治療後の髄核細胞のコラーゲン産生試験の実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0077】
図に示すように、層及び領域のサイズは、例示目的で誇張され、したがって本発明の実施形態の一般的構造を例示するために提供される。同様の参照数字は、全体を通して同様の要素を示す。
【0078】
脊椎動物は老化するため、その椎間板は変化を起こす。変化による影響としては、髄核が、脱水し始め、マトリックス中のプロテオグリカンの濃度が低下し、それにより椎間板の大きさが減少することである。別の影響としては、線維輪が弱くなり、断裂のリスクが増大することがある。椎間板の変化による影響により、椎間板が十分に固体及び密性になる前の状態で、頸部痛、腰痛又は尾骨痛等の椎間板性疼痛が引き起こされ得る。
【0079】
脊椎動物の脊柱は、脊髄を取り囲み、保護する椎骨を含む。ヒトにおいて、脊柱は、胴の背面に配置されている。2つの隣接する椎骨の間には、介在椎間板が配置されている。即ち、椎骨は、椎間板と交互に並んで、脊柱を形成している。脊柱の具体的な構造物及びさらなる部位は、当業者に公知である。
【0080】
図1は、ヒトの脊柱100の断面を概略的に示している。線維輪10及び髄核11を含む椎間板は、椎骨の椎体15に隣接して配置されている。髄核11は、椎間板のいわゆる椎間板腔を満たす。線維輪10は髄核11を取り囲み、髄核と椎間板腔との境界を規定する。
【0081】
脊髄17は、脊柱の中心に配置されており、椎間板に隣接している。脊髄神経16、16'は、脊髄17から伸びて、椎間板の両側に及びそれに密接に配置されている。
【0082】
面関節14、14'は、下関節突起13、13'と上関節突起12、12'との間に配置されている。2つの面関節14、14'は、各々、脊髄17の両側に配置されている。面関節14、14'は、ほぼ同じ断面及び平面に配置されている。
【0083】
図2は、2つの隣接する椎骨20、22を含む脊柱分節200を概略的に示している。第1の椎骨22及び第2の椎骨20は、椎間板21の両側に配置されている。第1の椎骨22は、胸郭の相対的に近くに配置されており、第2の椎骨20は、仙骨の相対的に近くに配置されている。第1の椎骨22の頭側の終板23及び第2の椎骨20の尾側の終板25が、図2に示されている。尾側の終板25及び頭側の終板23は、椎間板21の両側に面している。
【0084】
図2は、どのように面関節24が、第1の椎骨22の下関節突起と第2の椎骨20の上関節突起との間に配置されているかも概略的に示している。横突起26は、椎弓から横方向に伸びている。
【0085】
図3は、脊柱300の下部を概略的に示している。脊柱の尾骨36は、脊柱300の下部の末端部に配置されている。脊柱の仙骨39は、尾骨36に隣接し、尾骨36よりも胸郭の近くに配置されている。本明細書においてL5と呼ばれる第5腰椎30は、仙骨39に隣接し、仙骨39よりも胸郭の近くに配置されている。仙骨39から胸郭への方向に、いくつかの椎骨が、L5、30から始まって連続して配置されている。第5腰椎30、即ちL5に隣接して、第4腰椎32、即ち、L4、第3腰椎、即ち、L3、第2腰椎、即ち、L2、及び第1腰椎38、即ち、L1の椎骨が、順番に配置されており、第1腰椎は、胸郭の相対的に最も近くに配置されている。各2つの隣接する椎骨の間には、介在椎間板31が配置されている。椎間板(図示せず)は、尾骨36にも介在している。
【実施例】
【0086】
以下に、乳酸又はその薬学的に許容される塩を含む、椎間板性疼痛の治療での使用のための組成物を投与することによる、ブタの椎間板における、髄核の結合組織への加速変化を誘導し評価するための方法をより完全に記載する。
【0087】
本実施例において、乳酸又はその薬学的に許容される塩を含む、椎間板性疼痛の治療での使用のための組成物は、第3腰椎L3と第4腰椎L4との間に配置されている椎間板の髄核に投与される。当業者は、同じ方法を、脊柱のいずれの椎間板にも適用できることを容易に理解できよう。
【0088】
したがって、この方法の工程は、
100.乳酸又はその薬学的に許容される塩を含む組成物を調製する工程、
101.組成物が投与される髄核を含む椎間板を含む脊柱を含む豚に麻酔をかける工程、
102.ブタの最下部の肋骨と腸骨稜との間の側方切開により椎間板への到達を可能にする工程、
103.椎間板を切開する工程、
104.組成物を髄核に注射針で、ここでは局所注射することにより投与する工程、
105.ブタを麻酔から回復した後7日間自由に行動させる工程、
106.腰椎を一塊で採取する工程であって、採取した分節が、椎体、及び注射を受ける髄核を含む椎間板を含むが、後部要素(椎弓及び面関節)を含まない工程、
107.何ら外力を加えずに、椎間板L2〜3、L3〜4、L4〜5のレベルで横突起間の距離を測定する工程、
108.完全側方屈曲状態が腰椎試験片で得られるまで、脊柱分節に外力を加える工程、
109.完全側方屈曲下で、椎間板L2〜3、L3〜4、L4〜5のレベルで横突起間の距離を測定する工程、及び
110.椎間板の切断を行い、椎間板腔の長さ(前後方向)及び幅(両側面方向)を測定する工程
である。
【0089】
実施例1:乳酸を含む組成物の調製
乳酸の純溶液をSigma Aldrich(製品番号:69775 Fluka、CAS番号:50-21-5、Stockholm、Sweden)から購入した。表2に示すように、各々、乳酸の分子量は、90.08g/molであり、Sigma Aldrich製の純溶液の密度は、1.209g/mLであった。
【0090】
したがって、Sigma Aldrich製の純溶液中の乳酸の濃度は、0.0134mol/mL=13.4mol/Lと算出された。
【0091】
その後、乳酸の純溶液を、室温で蒸留水を用いて10倍に希釈した。より明確には、Sigma Aldrich製の乳酸の純溶液1mLを、蒸留水9mLで希釈した。したがって、調製した組成物中の乳酸の得られた濃度は、1.34mol/Lであった。
【0092】
【表2】
【0093】
実施例2:乳酸を含む組成物のブタ椎間板の髄核への局所注射による投与
2匹のブタに麻酔をかけ、右側を下にして置いた。各ブタの左側の最下部の肋骨と腸骨稜との間の側方切開により、L4〜L5椎間板に到達した。その後、L3〜L4椎間板を外科用メスで切開した。
【0094】
乳酸を含む組成物を、L3〜L4椎間板の髄核に注射器で注射した。1.34mol/Lの総濃度で乳酸を含む組成物を、表3に示すように約0.2mLの量で髄核に注射した。組成物を単一の工程で一回の機会で注射した。
【0095】
両方のブタは、この方法によく耐えたと思われ、可動性又は発声の低下等の副作用は、採取までの7日間に観察されなかった。採取時、ブタを殺した。
【0096】
【表3】
【0097】
実施例3:乳酸を含む組成物を投与した椎間板における髄核の結合組織への変化の評価
注射部位を裸眼で観察した。出血、炎症又は壊死等の注射部位の副反応は、ブタのいずれにおいても観察されなかった。腰椎L2から仙骨S1まで伸びた脊柱分節を除去した。面関節が除去され、したがって、他の構造物から拘束されず、椎間板の十分な柔軟性がもたらされた。
【0098】
3a-組成物の投与前後の各々の椎間板の屈曲剛性
図4には、椎間板L2〜3、L3〜4及びL4〜5と称される、椎間板21を含む脊柱分節が示されている。
【0099】
屈曲剛性の評価中、脊柱分節を、何ら外力を加えない状態にした場合の、脊柱の個々の隣接する横突起26各々の間の距離、したがって、腰椎L2から仙骨S1まで伸びた脊柱分節をカリパスで測定した。
【0100】
その後、臨界値に達するまで、即ち完全側方屈曲状態が得られるまで、脊柱の一部の2つの末端部各々に外力を加えることにより、脊柱、したがって、腰椎L2から仙骨S1まで伸びた脊柱分節を手動で完全側方屈曲状態にさせた。力を加えた時の横突起の動きは、矢印と点線で図4に概略的に示されている。
【0101】
臨界値を、脊柱分節の切断直前の時点として定義した。したがって、脊柱分節のいずれの部分も切断せずに最大の側方屈曲が得られるように、外力を加えた。
【0102】
力は、両方のブタ各々の脊柱分節で同様であると推定された。完全側方屈曲の位置で、椎間板L2〜3、L3〜4、L4〜5の隣接する横突起間の距離をカリパスで測定した。
【0103】
外力なしの状態でのある特定の椎間板の隣接する横突起間の距離を、完全側方屈曲状態を得るために加えられた外力ありの状態での同じ横突起間の距離から引くことにより、完全側方屈曲で得られる平衡距離(balanced distance)の値を得た。注射した椎間板の平衡値は、注射していない椎間板と比較される、椎間板性疼痛の治療での使用のための組成物で治療した椎間板の屈曲剛性を反映している。
【0104】
平衡値が小さければ小さいほど、椎間板が硬化しているため、屈曲剛性は、髄核の結合組織への変化の間接的な尺度である。椎間板が硬化していればしているほど、固体及び密性結合組織の体積が大きくなる。したがって、屈曲剛性は、髄核が結合組織への変化、即ち、加速老化を起こしていたか否かを示す。
【0105】
測定値は、注射した椎間板(L3〜4)が、注射していない隣接する椎間板(L2〜3、L4〜5)よりもはるかに小さい平衡値を有していたことを示しており、これは、注射した椎間板の屈曲剛性が高いことを示している。したがって、注射していない椎間板の椎間板腔内と比較すると、髄核の結合組織への加速変化が、注射した椎間板の椎間板腔内で起こっていた(表4参照)。
【0106】
【表4】
【0107】
3b-組成物の投与前後の各々の椎間板腔の面積
椎間板(L2〜3、L3〜4、L4〜5)を切断し、椎間板腔の長さ(前後方向)及び椎間板腔の幅(両側面方向)をカリパスで測定した。
【0108】
図5及び6には、椎間板が横断面で概略的に示されている。椎間板は、線維輪10、及び線維輪で規定され、髄核11を含む椎間板腔を含む。
【0109】
図5において、矢印は、どのように椎間板の椎間板腔の前後方向の長さを測定するのかを概略的に示している。図6おいて、矢印は、どのように椎間板の椎間板腔の両側面の幅を測定するのかを概略的に示している。
【0110】
測定値から分かるように、椎間板腔の平均の前後方向の長さは、隣接する注射していない椎間板(L2〜3、L4〜5)よりも、注射した椎間板(L3〜4)で有意に短かった(表5参照)。
【0111】
【表5】
【0112】
測定値から分かるように、椎間板腔の平均の両側面の幅は、隣接する注射していない椎間板(L2〜3、L4〜5)よりも、注射した椎間板(L3〜4)で有意に短かった(表6参照)。
【0113】
【表6】
【0114】
図7は、上の実験のブタ1匹からの椎間板L2〜3、L3〜4及びL4〜5各々を示している。椎間板腔の幅及び奥行は、図5〜6の概略図に対応して太い直線で示されている。
【0115】
図7には、どのようにして注射したL3〜4椎間板の椎間板腔が、注射していないL2〜3及びL4〜5椎間板各々よりもはるかに小さい断面積を有したのかがさらに示されている。したがって、注射した椎間板において、元は髄核を含んでいた椎間板腔に結合組織が新たに形成されたことが裸眼で確認できる。
【0116】
実験の結論
2つの注射していない椎間板(L2〜3)及び(L4〜5)の椎間板腔は、乳酸を含む組成物を投与した椎間板(L3〜4)よりもさらに奥行き及び幅があることが明らかである。元の椎間板腔は、新たに形成された結合組織(図7において円弧状の配置で退色した追加の線で強調されている)に置き換えられ、これにより(コラーゲンを主に含む結合組織の輪により形成された)線維輪が、大きさが減少した髄核を犠牲にして広がったと思われる。
【0117】
したがって、注射した椎間板は屈曲剛性となり、この剛性は、椎間板性疼痛を有する患者が感じる痛みを緩和できる。椎間板性疼痛のこの治療方法の利点は、この治療が、現在の治療方法よりも、例えば、現在の関節固定治療法と比較して侵襲的でないことである。
【0118】
上に記載の実施例において、椎間板は、腰椎に配置されていた。しかし、類似の方法は、頸椎又は尾骨に配置されている椎間板でも認められることが期待される。
【0119】
細胞レベルで乳酸の効果を観察するため、線維輪等の結合組織に一般に存在する線維芽細胞、並びに髄核に一般に存在する髄核細胞各々で試験を行った。どのように細胞が、乳酸での治療に反応して変化するのかの尺度として、細胞のコラーゲン産生を試験した。
【0120】
乳酸での治療後の線維芽細胞のコラーゲン産生試験
(ヒト成人皮膚線維芽細胞(HDFa)の培養)
成人の皮膚から単離したヒト皮膚線維芽細胞、いわゆるHDFa(Life Technologies Frederick,USA)を培養し、試験した。成熟したヒト椎間板細胞は、外側の線維輪において線維芽細胞様(fibrocytic)(又は線維芽細胞様(fibroblast-like))であると示された。線維芽細胞は、結合組織で見出される、最も一般的な種類の細胞である。線維芽細胞はコラーゲンタンパク質を自然分泌でき、コラーゲンタンパク質は、多くの組織に対する構造的フレームワークを維持するために使用され、さらに創傷治癒において重要な役割を果たす。
【0121】
最初に、凍結保存した線維芽細胞を37℃の水浴で解凍した。次いで、解凍した線維芽細胞を、1mlのピペットを用いて分散させ、バイアル中で解凍した線維芽細胞の懸濁液を上下に動かした。次いで、分散した線維芽細胞をトリパンブルー溶液(Cat.No.15250-061、Lot.No.1311086、Gibco Life Technologies)で希釈し、生存線維芽細胞の濃度を血球計で求めた。
【0122】
次いで、分散した線維芽細胞を、1ml当たり生存線維芽細胞2.5×104の濃度まで、今回は添加Medium106で再び希釈した。次いで、線維芽細胞懸濁液5mlを、25cm3の容積を有するT25細胞培養フラスコに加え、添加Medium106でさらに希釈することによりT25フラスコ中1ml当たり生存線維芽細胞5.0×103の初期密度を得た。
【0123】
添加Medium106は、ウシ胎児血清の濃度が体積について2%で、低血清増殖添加剤LSGS(Life Technologies、Paisley、Great Britain)を添加したMedium106(Cat.No.M-106-500、Life Technologies、Paisley、Great Britain)からなる。
【0124】
調製した線維芽細胞を含むT25フラスコを回転させ、培地中に線維芽細胞を分布させた。その後、細胞培養を、37℃にて5%CO2/95%加湿細胞培養インキュベーター中で72時間インキュベートした。
【0125】
コンフルエンスにて、線維芽細胞を添加培地で希釈し、細胞表現型の変化を回避した。
【0126】
(乳酸の調製)
乳酸(Fluka 69775、Sigma-Aldrich、Stockholm、Sweden)を、滅菌した10mLのチューブ又は50mLのチューブに秤量した。Milli-Q水(>18.2Ω)を加え、乳酸の貯蔵溶液を調製した。貯蔵溶液を混合し、様々な濃度を有する乳酸の最終溶液が調製されるまで、貯蔵した。貯蔵期間は、周囲温度で1時間未満、又は4℃で24時間未満であった。
【0127】
(ヒト成人皮膚線維芽細胞(HDFa)のコラーゲン産生に対する乳酸の効果)
上に記載されたように培養した線維芽細胞を、細胞培養フラスコから取り外し、1ウェル当たり生存細胞6.0×104の初期密度で6ウェルプレートに置いた。線維芽細胞を、添加Medium106で増殖させた。いくつかのウェルの線維芽細胞を、各々、0、0.5、2、5、10、20及び50mg/mLの様々な濃度の乳酸(Fluka 69775、Sigma-Aldrich、Stockholm、Sweden)でも処理した。線維芽細胞を、37℃にて5%CO2/95%加湿細胞培養インキュベーター中で48時間インキュベートした。
【0128】
線維芽細胞のコラーゲン産生に対する乳酸の効果を試験するために、シリウスレッド染料のコラーゲンへの結合に基づく、可溶性コラーゲンアッセイ(QuickZyme Biiosciences、Leiden、Netherlands)と呼ばれる分光光度法を適用した。試験を2回行った。
【0129】
細胞培地を、各ウェルから回収し、140μLを96ウェルプレートにピペットで移した。試料を重複して採取した。培地試料を、少なくとも5回上下にピペッティングして、60μLのシリウスレッド染料溶液と十分に混合した。96ウェルプレートを3000×gで1時間遠心分離した。これらのステップ全てを25℃未満の温度で行った。例えば、遠心分離を4℃で行った。
【0130】
遠心分離した試料を洗浄し、上清を除去した。細胞ペレットを、少なくとも10回上下にピペッティングして、十分に混合することにより150μLの検出溶液に再懸濁した。その後、各試料100μLを新しい96ウェルプレートに移し、コラーゲン含有量を、光学密度540nmで分光光度的に測定した。
【0131】
各々重複して行った2つの試験により、表7及び図8に示すように、線維芽細胞に乳酸を加えると、線維芽細胞のコラーゲンの平均産生量が増加することが明確に示された。平均産生量は、乳酸での治療の2日後に測定された。
【0132】
図8において、第1セットの試験結果は、ひし形で示されており、第2セットの試験結果は、四角で示されている。各セットのコラーゲン産生の動向を概略的に示すために、2つの期間の移動平均トレンドラインを含めた。各々、第1セットのトレンドラインは、点線で示されており、第2セットのトレンドラインは、破線で示されている。x軸は、線維芽細胞を含むウェルに加えた乳酸の濃度を示し、y軸は、ウェルに乳酸を加えた2日後に測定したときのこれらのウェルにおいて産生されたコラーゲンの平均量を示している。
【0133】
より詳細には、乳酸を少なくとも2mg/mL、例えば、少なくとも5mg/mLの濃度までウェルに加えたとき、コラーゲン産生量の増加が顕著であった。さらに、図8にも示すように、乳酸濃度を最大少なくとも20mg/mL、又は少なくとも50mg/mLまで上昇させるとコラーゲン産生量が増加したことが示された。
【0134】
【表7】
【0135】
平均コラーゲン産生量は、コラーゲンを産生することができる細胞の数に相関しているため、第1セットの試験と第2セットの試験との間の平均コラーゲン産生量におけるわずかな相違は、試験したウェルの細胞数の自然な差異によるものであり得る。
【0136】
乳酸での治療後の髄核細胞のコラーゲン産生試験
(ヒト髄核細胞の培養)
ヒトから単離した髄核(NP)細胞(4800、ScienCell、USA)を培養し、試験した。NP細胞は、髄核内の椎間板細胞である。
【0137】
最初に、凍結保存したNP細胞を37℃の水浴で解凍した。次いで、解凍したNP細胞を、添加髄核細胞用培地に懸濁した後、75cm3の容積を有するT75細胞培養フラスコで播種し、ポリ-L-リジン(0413、ScienCell、USA)で内側をコートした。初期播種密度は1ml当たり生存NP細胞5.0×103であった。
【0138】
添加髄核細胞用培地は、体積について2%のウシ胎児血清(0010、ScienCell、USA)、1×髄核細胞用増殖サプリメント(4852、ScienCell、USA)及び1×ペニシリン/ストレプトマイシン溶液(0503、ScienCell、USA)を添加した髄核細胞用培地(4801、ScienCell、USA)からなる。
【0139】
調製したNP細胞を含むT75フラスコを回転させ、培地中にNP細胞を分布させた。その後、細胞培養を、37℃にて5%CO2/95%加湿細胞培養インキュベーター中で終夜インキュベートした。
【0140】
コンフルエンスにて、線維芽細胞を添加培地で希釈し、細胞表現型、細胞増殖及び/又は細胞分化の変化を回避した。
【0141】
(乳酸の調製)
乳酸(PURAC PF90、Batch No.1406001940、Corbion Purac、the Netherlands)を、滅菌した10mLのチューブ又は50mLのチューブに秤量した。Milli-Q水(>18.2Ω)を加え、乳酸の貯蔵溶液を調製した。貯蔵溶液を混合し、様々な濃度を有する乳酸の最終溶液が調製されるまで、貯蔵した。貯蔵期間は、周囲温度で1時間未満、又は4℃で24時間未満であった。
【0142】
(ヒト髄核細胞のコラーゲン産生に対する乳酸の効果)
上に記載されたように培養したNP細胞を、細胞培養フラスコから取り外し、1ウェル当たり生存細胞4.5×104の初期密度で6ウェルプレートに置いた。NP細胞を、添加髄核細胞用培地で増殖させた。いくつかのウェルのNP細胞を、各々、0、0.5、5、10、20及び50mg/mLの様々な濃度の乳酸(PURAC PF90、Batch No.1406001940、Corbion Purac、the Netherlands)でも処理した。NP細胞を、37℃にて5%CO2/95%加湿細胞培養インキュベーター中で48時間インキュベートした。
【0143】
NP細胞のコラーゲン産生に対する乳酸の効果を試験するために、シリウスレッド染料のコラーゲンへの結合に基づく、可溶性コラーゲンアッセイ(QuickZyme Biiosciences、Leiden、Netherlands)と呼ばれる分光光度法を適用した。
【0144】
細胞培地を、各ウェルから回収し、140μLを96ウェルプレートにピペットで移した。試料を三重に採取した。培地試料を、少なくとも5回上下にピペッティングして、60μLのシリウスレッド染料溶液と十分に混合した。96ウェルプレートを1500×gで2時間遠心分離した。これらのステップ全てを25℃未満の温度で行った。例えば、遠心分離を4℃で行った。
【0145】
遠心分離した試料を洗浄し、上清を除去した。細胞ペレットを、少なくとも10回上下にピペッティングして、十分に混合することにより150μLの検出溶液に再懸濁した。その後、各試料100μLを新しい96ウェルプレートに移し、コラーゲン含有量を、光学密度540nmで分光光度的に測定した。
【0146】
測定装置に合わせるために、細胞を1:1の比で、リン酸緩衝液(PBS)で希釈した。
【0147】
三重に行った試験により、表8及び図9に示すように、NP細胞に乳酸を加えると、NP細胞のコラーゲンの平均産生量が増加することが明確に示された。平均産生量は、乳酸での治療の2日後に測定した。
【0148】
図9において、試験結果は、ひし形で示されている。コラーゲン産生量の動向を概略的に示すために、2つの期間の移動平均トレンドラインを含めた。x軸は、NP細胞を含むウェルに加えた乳酸の濃度を示し、y軸は、ウェルに乳酸を加えた2日後に測定したときのこれらのウェルにおいて産生されたコラーゲンの平均量を示している。
【0149】
より詳細には、乳酸を少なくとも5mg/mLの濃度までウェルに加えたとき、コラーゲン産生量の増加が顕著であった。さらに、乳酸濃度を最大約10〜20mg/mLまで上昇させるとコラーゲン産生量が増加したことが示され、図9にも示すように安定期に達した。50mg/mLでのコラーゲン産生量の低下は、このような高濃度の乳酸での治療には、細胞死を引き起こす細胞毒性効果があり得ると解釈される。
【0150】
【表8】
【0151】
結論
本発明者等は本発明の実施形態による使用により、ヒトの椎間板性疼痛も治療されると考える。
【0152】
乳酸又はその薬学的に許容される塩等の物質の注射を受ける椎間板の結合組織への期待される変化は、インビボで観察できる。典型的には、本方法は、麻酔又は軽い鎮静剤下で、放射線誘導を使用して行われる。したがって、この治療方法は、造影剤を、放射線誘導下で椎間板に注射する、椎間板の放射線学的評価、いわゆる椎間板造影法と類似している。
【0153】
椎間板の加速変性を誘導することができる他の物質も、乳酸又はその薬学的に許容される塩の代替物及び/又は代用品とみなすことができる。
【符号の説明】
【0154】
10 線維輪
11 髄核
12、12' 上関節突起
13、13' 下関節突起
14、14' 面関節
15 椎体
16、16' 脊髄神経
17 脊髄
100 脊柱
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9