特許第6587712号(P6587712)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6587712
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】調節型眼内レンズ
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20191001BHJP
【FI】
   A61F2/16
【請求項の数】19
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-85553(P2018-85553)
(22)【出願日】2018年4月26日
(62)【分割の表示】特願2016-179550(P2016-179550)の分割
【原出願日】2012年2月3日
(65)【公開番号】特開2018-158112(P2018-158112A)
(43)【公開日】2018年10月11日
【審査請求日】2018年5月14日
(31)【優先権主張番号】61/439,767
(32)【優先日】2011年2月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516195580
【氏名又は名称】フォーサイト・ビジョン6・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】FORSIGHT VISION6, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】キャリー・ライク
(72)【発明者】
【氏名】ユージーン・デ・ユアン・ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】ヤイール・アルスター
【審査官】 宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0234449(US,A1)
【文献】 特表2011−500270(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0171458(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸と静止形状とを有する形状変化する光学素子であって、
赤道部領域と、
前記光学素子の前記光軸を取り囲む中央部分と、前記中央部分を取り囲む周辺領域とを有する前面と、
前記形状変化する光学素子内の液体と
を含み、
前記光学素子の前記赤道部領域への圧縮力の印加に起因する増加した内圧によって前記中央部分が前記光軸に沿って外側に反ることにより、近見視力矯正度数のための形状変化を引き起こすように、前記前面の前記中央部分が、前記前面の前記周辺領域に対して低減した厚み、低減した弾性率または低減した硬さを有する、
光学素子と、
力転換素子であって、
前記光学素子の前記赤道部領域につながった第1末端領域と、
前記光軸に対して角度をなして前記赤道部領域から離れて伸び、水晶体嚢の外側の毛様体組織に接触するように構成された第2末端領域と
を含み、
前記毛様体組織の運動を前記光軸に向かって半径方向に内向きに向けられた前記圧縮力に伝達し、前記光学素子の前記形状変化に影響をもたらすように構成された、
力転換素子と
を含む眼内レンズ。
【請求項2】
前記力転換素子が、移植中および移植後に前記力転換素子の長さをカスタマイズするための機構を取り入れた請求項1に記載のレンズ。
【請求項3】
前記長さをカスタマイズするための前記機構が、滑り、捻り、旋削、切断、圧延、膨張、曲げおよび前記力転換素子へのエネルギーの印加より成る群から選択される請求項2に記載のレンズ。
【請求項4】
前記力転換素子が膨張可能な材料で被覆される請求項1に記載のレンズ。
【請求項5】
前記光学素子および前記力転換素子の少なくとも1つが、生物活性を有する薬剤で被覆される請求項1に記載のレンズ。
【請求項6】
前記薬剤が、ヘパリン、ステロイドおよびラパマイシンより成る群から選択される請求項5に記載のレンズ。
【請求項7】
前記光学素子の前記赤道部領域近傍につながっている複数の力転換素子をさらに含む請求項1に記載のレンズ。
【請求項8】
前記力転換素子の前記第2末端領域が、前記毛様体組織に侵入しない取り付け部分であり、前記毛様体組織が、毛様体筋、毛様体、毛様体突起および毛様小帯より成る群から選択される請求項1に記載のレンズ。
【請求項9】
前記取り付け部分が弾性材料で形成される請求項8に記載のレンズ。
【請求項10】
前記取り付け部分が1つ以上の棒を含む請求項8に記載のレンズ。
【請求項11】
前記1つ以上の棒が曲線状である請求項10に記載のレンズ。
【請求項12】
前記取り付け部分が、前記毛様体組織に隣接する空間を埋める3次元要素を含む請求項8に記載のレンズ。
【請求項13】
前記取り付け部分が充填可能な素子を含む請求項8に記載のレンズ。
【請求項14】
前記取り付け部分が、接着剤、ヒドロゲルまたは固定材料を含む請求項8に記載のレンズ。
【請求項15】
前記取り付け部分が前記毛様体組織内で治癒反応を引き起こし、前記取り付け部分の軟部組織との一体化を誘発する請求項8に記載のレンズ。
【請求項16】
前記光学素子の前記形状変化が、3ジオプターから5ジオプターの範囲で、前記光学素子の度数の増加を引き起こす請求項1に記載のレンズ。
【請求項17】
前記光学素子の後方に位置する第2レンズをさらに含む請求項1に記載のレンズ。
【請求項18】
内において前記光学素子を固定するように、前記光学素子につながったハプティックをさらに含み、前記ハプティックが前記水晶体嚢内に位置することができる請求項1に記載のレンズ。
【請求項19】
内において前記光学素子を固定するように、前記光学素子につながったハプティックをさらに含み、前記ハプティックが前記水晶体嚢外の前記眼の領域に位置することができる請求項1に記載のレンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は同時係属する米国仮特許出願第61/439,767号(“Intraocular Accommodating Lens and Method of Use”、2011年2月4日出願)の優先権を主張する。前述の出願日の優先権はこれによって主張され、仮特許出願の開示は参照することにより文献全体が取り込まれる。
【0002】
本開示は概して眼の分野に関し、より具体的には眼の機器に関し、調節型眼内レンズのような眼内レンズ(IOLs)を含む。
【背景技術】
【0003】
健康で若い人間の眼は、必要に応じて遠くまたは近くの物体に焦点を合わせることができる。近見から遠見への前後に変更する眼の能力は、調節と呼ばれる。調節は、毛様体筋が収縮するときに起こり、それにより水晶体嚢の赤道部領域上の静止状態(resting)の毛様小帯の張力を解放する。毛様小帯の張力の解放により、水晶体嚢の生来の弾力性が、水晶体表面の前方および後方の両方共の表面曲率の増加を伴ってより球形(globular)または球状(spherical)に変えるようになる。
【0004】
人間の水晶体は、視覚系統でのその機能を低下させる1つ以上の疾患に苦しめられることがある。一般的な水晶体の疾患は、正常で透明な生来の水晶体基質(crystalline lens matrix)の混濁である白内障である。混濁は、老化作用によって生じることがあるが、遺伝または糖尿病によって生ずることもある。白内障の治療において、患者の不透明な水晶体は透明な水晶体のインプラントまたはIOLに取り替えられる。
【0005】
従来的な嚢外白内障手術において、毛様体および毛様体筋につながる毛様小帯の靱帯(zonular ligament)と共に前嚢および後嚢の損傷を受けていない薄壁を残して、水晶体マトリックスは除去される。水晶体の核(lens core)は水晶体超音波乳化吸引術により、曲線的な嚢切開、すなわち、水晶体嚢(capsular sac)の前部の除去を通じて取り除かれる。
【0006】
数日から数週間の治療期間の後、水晶体嚢は嚢切開に起因するIOL、嚢壁崩壊(collapse of the walls of the sac)および後の線維症の周りを効果的に収縮包装する。現在行われている白内障手術は、視力調節を提供する眼の生来の組織の大部分に修復不可能な損害を引き起こしている。嚢切開により、水晶体基質は完全に失われ、水晶体嚢の完全性は低下する。IOLの周りの水晶体嚢の“収縮包装(shrink-wrap)”は、毛様小帯の複合体を損傷する可能性があり、その後毛様体筋を衰えさせるかもしれない。従って、従来型のIOLは調節的であることが公言されているが、光軸に沿った十分な軸方向のレンズの空間変位、または近見に対しての適切な調節を提供するように形状変化するレンズを提供することが出来ないであろう。
【0007】
有水晶体眼内レンズの場合での既存の水晶体の屈折異常に対処するように、または偽水晶体患者の場合での白内障手術後の標準的なIOLの屈折結果を向上させるように、複数のレンズの組み合わせを挿入することが知られている。これらの“ピギーバック(piggyback)”IOLは、予め移植されたIOLまたは生来の水晶体の前方に配置することができ、偽水晶体の場合における白内障手術の屈折結果を向上させ、有水晶体眼の場合の眼の屈折状態を変え、通常は重度の近視を矯正する。概して、これらのレンズは溝(sulcus)内に移植され、非調節的である。
【発明の概要】
【0008】
1つの態様において、本明細書の記載は、形状変化する光学素子を含む眼内レンズに関し、光学素子につながる第1末端領域および毛様体組織に向かって伸びる第2末端領域を有する力転換素子、および力転換素子の第2末端領域につながり毛様体組織に接触するように構成される取り付け部分に関する。力転換素子は機能的に毛様体組織の動作を光学素子に付与する力に伝達するように構成され、光学素子の調節と非調節の変化に影響をもたらす。
【0009】
力転換素子は移植中の適合度のためにカスタマイズすることができる。適合度をカスタマイズするための機構は、滑り、捻り、旋削(turning)、切断、圧延(rolling)、膨張、曲げ、およびエネルギーを力転換素子に印加することを含むことができる。力転換素子は膨張可能な材料(expandable material)により被覆(be coated)することができる。光学素子、力転換素子および取り付け部分の少なくとも1つは、生物活性を有する薬剤(例えば、ヘパリン、ステロイド、ラパマイシン)により被覆することができる。力転換素子の第1末端領域は光学素子の赤道部(equator)につながることができる。複数の力転換素子は、光学素子の赤道部近くにつながることができる。
【0010】
取り付け部分は毛様体組織に接触するように構成することができる。取り付け部分は、毛様体組織に接し、かつ侵入(penetrate)しないように構成することができる。毛様体組織は、毛様体筋、毛様体、毛様体突起および毛様小帯となり得る。取り付け部分は、弾性材料から形成することができる。取り付け部分は、1つ以上の棒を含むことができる。1つ以上の棒は曲線状であってもよい。取り付け部分は、毛様体組織に隣接する空間を埋める3次元要素を含むことができる。取り付け部分は充填可能な素子を含むことができる。取り付け部分は、接着剤(またはグルー、a glue)、ヒドロゲルまたは固定材料を含むことができる。取り付け部分は、毛様体組織の中に治癒反応を引き起こし、取り付け部分の軟部組織との一体化(soft tissue integration)を誘発することができる。
【0011】
光学素子は、約±3ジオプターから約±5ジオプターの範囲の度数を有することができる。光学素子の調節変化は、卵形状からより球状への変化を含むことができる。光学素子の調節変化は、光軸に沿った前方への空間的形状(spatial configuration)の変化を含むことができる。力転換素子は概して光学素子よりも硬い材料から形成することができる。第2レンズは、眼の水晶体嚢内に位置することができる。光学素子は第2レンズの前方に位置することができる。光学素子は、眼の水晶体嚢内に位置することができる。光学素子は虹彩の後方に位置することができる。光学素子は虹彩の前方に位置することができる。第2レンズは移植されたIOLを含むことができる。
【0012】
レンズはさらに、光学素子につながり光学素子から外側へ伸びるハプティックを含むことができる。ハプティックは溝内に位置することができる。力転換素子はハプティックにつながることができる。力転換素子は、光学素子を押すように毛様体につながることができる。
【0013】
力転換素子は、光学素子を引っ張るように毛様体につながることができる。調節と非調節の変化は、光学素子の表面全体にわたって影響をもたらす形状変化を含むことができる。調節と非調節の変化は、光学素子の部分にわたって影響をもたらす形状変化を含むことができる。その部分は、調節変化するにあたり優先的に隆起することができる。部分にわたって影響をおよぼす形状変化は、光学素子の別の部分の弾性率と比べた光学素子のその部分の弾性率の違いによることができる。光学素子の中央領域は、光学素子の外側領域よりも低弾性率の材料を含むことができる。低弾性率の材料は、隆起および屈折影響の変化を引き起こすことになる。
【0014】
これらの全般的で具体的な態様は、本明細書で公開される機器、方法およびシステム、または機器、方法およびシステムの任意の組み合わせを用いて実行される。他の特徴および利点は、以下に記載の様々な実施形態から明らかであり、実施例により記載された主題の原理を示すであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、水晶体嚢の中に移植された別の眼内レンズの前方に移植された眼内レンズの1つの実施形態を示す眼の断面概略図を表す。
図2図2は、調節中の図1のレンズの断面概略図を描写している。
図3A図3Aは、レンズの1つの実施形態の概略図を表す。
図3B図3Bは、レンズの別の実施形態の概略図を表す。
図3C図3Cは、図3Aのレンズの光学素子の断面図を表す。
図3D図3Dは、図3Bのレンズの光学素子の断面図を表す。
図4図4は、ハプティックおよび力転換素子を有するレンズの別の実施形態の概略図を表す。
図5A図5Aおよび5Bは、ハプティックおよび力転換素子を有する別の実施形態の上面および側面の概略図をそれぞれ表す。
図5B図5Aおよび5Bは、ハプティックおよび力転換素子を有する別の実施形態の上面および側面の概略図をそれぞれ表す。
図6A図6Aおよび6Bは、力転換素子の概略図を表す。
図6B図6Aおよび6Bは、力転換素子の概略図を表す。
図7A図7Aおよび7Bは、ヒドロゲルの被覆を有するレンズのさらなる実施形態の概略図を表す。
図7B図7Aおよび7Bは、ヒドロゲルの被覆を有するレンズのさらなる実施形態の概略図を表す。
【0016】
当然のことながら、本明細書の図面は単なる例示であり、正確な縮尺となることを意図していないことを認識しておくべきである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
水晶体および偽水晶体の患者の老眼の治療の方法および機器を向上させる必要性がある。本明細書に記載する眼内レンズは、若者の調節性のある生来の眼と全く同じように、調節と非調節の間を前後に切り替えることが可能である。
【0018】
形状変化する光学素子、と言う言葉は、光学素子をその形状を変化させる事が可能な(例えば、より近い対象物に焦点が合うようにより厚みのあるより球形の形状、またはより遠くに焦点が合うようにより薄いより卵状の形状の1つになり、このようにして光学素子それぞれの光学特性を変化させる(結果として生じる光学素子の屈折度数を変える))材料から作られる光学素子を意味する。形状変化は光学素子の表面全体にわたってもたらすことができ、または光学素子の一部分において優先的な変化もしくは“隆起”を有することにより光学素子のわずか一部分にわたって形状変化をもたらすことができる。これは、光学素子の部分的な弾性率を変化させることにより行うことが可能である。例えば、中央領域は、光学素子の外側領域よりも低弾性率の材料であってもよく、このような場合、毛様体が調節するとき、力は光学素子の中央部に優先的に転換され、所望の屈折影響を提供するであろう“隆起”を引き起こす。
【0019】
あるいは、光学素子はシステムの屈折度数を増加または低下させるように、互いに関連して変換するように構成した二重の光学素子であってもよい。
【0020】
調節形状(accommodating shape)という言葉は、哺乳類の眼の毛様体筋の収縮、哺乳類の眼の毛様小帯のより低い張力および眼内の硝子体圧の低下の少なくとも1つが起こり、より近い物体への焦点調節をもたらすときの光学素子の形状を意味する。調節形状は概して、非調節形状よりも球形である。
【0021】
非調節形状(disaccommodating shape)という言葉は、哺乳類の眼の毛様体筋の弛緩、哺乳類の眼の毛様小帯のより高い張力および眼内の硝子体圧の上昇の少なくとも1つが起こり、より遠い物体への焦点調節をもたらすときの光学素子の形状を意味する。非調節形状は概して調節形状よりも卵形である。
【0022】
ジオプター(D)という言葉は、メートル単位でのレンズの焦点距離の逆数を意味する。例えば、10Dレンズは、1/10メートルで平行な光線を焦点に集める。患者の生来の水晶体が外科的に取り除かれた後、外科医は通常彼ら自身の個人の選択に基づく手法に従い、患者がIOLを選択するための所望の光学度数(D)を計算し、患者の使用前の屈折異常を修正する。例えば、−10Dの近視の患者が白内障手術およびIOL移植を受けるとき、たとえ眼鏡がなくても患者は十分に遠方を見ることが出来る。概して、これは患者のIOLを選択するときに外科医が患者の−10Dの近視を考慮に入れるからである。
【0023】
本明細書で記載されるレンズは、生来の水晶体により調節中および非調節中に概して使われる眼組織(例えば、毛様体、毛様体突起および毛様小帯)と機械的または機能的に相互作用することができ、移植レンズの視力調節および非調節に影響をもたらす。これらの組織により発生する力は、度数変化を引き起こす移植レンズの光学素子に機能的に転換され、水晶体または偽水晶体の患者がより効果的な視力調節をできるようにする。
【0024】
本明細書に記載される眼内レンズは、眼内に移植することが可能であり、疾患のある生来の水晶体と取り替えることができる。本明細書に記載される眼内レンズはまた、(有水晶体の患者では)生来の水晶体の補完として、または(偽水晶体の患者では)以前に患者の水晶体嚢内に移植された眼内レンズの補完とし移植することができる。本明細書に記載されるレンズは、米国特許広報第2009/0234449号および2009/0292355号(参照することにより文献全体が本明細書に取り込まれる)に記載の眼内レンズと組み合わせて用いることができる。このように、本明細書に記載のレンズは単独で使用または、いわゆる“ピギーバック”レンズとして使用することができる。ピギーバックレンズは、有水晶体または偽水晶体の眼内の後遺屈折異常を修正するように使用することができる。生来の水晶体と取り替えて使用される基礎となるIOLは、概してより厚く、±20Dの範囲となり得る度数を有する。より厚く、強い度数のレンズほど、概してより少ない調節力を有する。対照的に、補完レンズは幅広いジオプター(D)を有する必要がない。基礎となるIOLと比べて、補完レンズは比較的薄くなり得、多くの調節を行うことができる。薄型レンズの形状変化および運動は、厚い基礎レンズと比べて概してより簡単に遂行することができる。しかし当然のことながら、本明細書に記載されるレンズは単独で使用することが出来、ピギーバックレンズとして生来の水晶体または移植されたIOLと組み合わせて使用する必要はないことを認識しておくべきである。
【0025】
図1は、角膜10、虹彩15、溝20、毛様体25、毛様体突起27、毛様小帯30および内部に移植されたIOL40を含む水晶体嚢35、を含む眼5の断面図を表す。レンズ100は、溝20内でIOL40の前方に位置するように示す。当然のことながら、レンズ100は溝20内で虹彩15の後方に位置するように示されるが、虹彩15の前方で前房45内に位置することも出来ることを認識しておくべきである。レンズ100はまた、水晶体嚢35内で、予めに移植されたIOL40または生来の水晶体のすぐ前に位置することもできる。
【0026】
レンズ100は、中央光学素子105、および光学素子105から外側に伸びる少なくとも2つの力転換素子110を含むことが出来る(図2に示す)。光学素子105は調整可能なレンズであり、移植後にその光学特性を操作することができ、より詳しいことは下記に記載する。力転換素子110は少なくとも1つの毛様体組織(例えば、毛様体25、毛様体突起27および/または毛様小帯30)に機能的につながることができ、調節時および非調節時におけるこれらの組織の運動は、力転換素子110を介して光学素子105に転換され、少なくとも光学素子105の形状または位置の変化を引き起こすことこができる。レンズ100は、光学素子105につながり外側に伸びる少なくとも2つのハプティック115をさらに含むことができる。ハプティック115は溝20内に位置することができ、眼内へのレンズの固定をより一層補助することができる。
【0027】
図2は、調節中のレンズ100の断面概略図を表す。毛様体25は概して、環状構造である。毛様体筋はドーナツのような形状の括約筋である。自然な状況では、眼が遠くにある対象物を見ているとき、毛様体25内の毛様体筋は弛緩し、毛様体筋の内径は大きくなる。毛様体突起27は毛様小帯30を引っ張り、順にその赤道部周りの水晶体嚢35を引っ張る。これは生来の水晶体を平らにし、または凸面を少なくし、非調節(accommodation)と呼ばれる。調節中は、毛様体25の筋繊維は収縮し、毛様体筋の内径はより小さくなる。毛様体突起27は毛様小帯30の張力を解放し、水晶体は自然に振る舞い、より凸面の形状となり、眼は近くの対象物に焦点を合わせることが出来る。
【0028】
本開示を如何なる特定の理論または作動形態に限定することなく、眼は本明細書に記載する移植された眼内レンズに以下のとおり作用すると考えられている。力転換素子110は移植され、少なくとも1つの毛様体組織(すなわち、毛様小帯30、毛様体突起27および/または毛様体25)と接触する。毛様体筋の収縮および光軸0に向かう組織の内側への運動は、力を力転換素子110に対して印加する(図2に示す)。力転換素子110は力を光学素子105に転換し、近見に適したより球状を持つようになる。毛様体筋のこの収縮および、毛様体25の内側への運動はまた、レンズ100の空間的形状を結果的に変え、光軸0に沿って軸方向に沿って、生来の水晶体または予めに移植されたIOL40に対して前方向(距離D)に動く。より球形の形状およびIOL40から遠ざかる前方への移動の両方共が、調節および近見の焦点に必要とされる度数の増加を引き起こことができる。
【0029】
上述のように力転換素子110は、毛様体25、毛様体突起27または毛様小帯30の少なくとも1つと連携して構成することができ、光学素子105の形状を変化させる。当然のことながら、眼内の硝子体圧も光学素子105の形状の調節に関係することができることを認識しておくべきである。さらに、レンズ100が虹彩15の前方(例えば、前房45内)に移植すると、前房隅角の構造もまた、光学素子105の形状変化の調節に作用することができる。
【0030】
図3Aおよび3Bは、1つの光学素子105および光学素子105の赤道部近傍から外側に伸びている2つの力転換素子110を有する眼内レンズ100の1つの実施形態を示す。当然のことながら、力転換素子110はまた、光学素子105の他の部位から外側に伸びることもできることを認識しておくべきである。例えば、力転換素子110は光学素子105の1つ以上の極(pole)のより近くにつながることができる。力転換素子110は光学素子105につながることができ、または力転換素子110はハプティック115(存在する場合)につながれ、そしてそこから伸びることができる。当然のことながら、レンズ100は2つ以上の力転換素子110を有することができ、例えば3つ、4つ、5つまたはそれ以上の数の力転換素子110を有することができることを認識しておくべきである。1つの態様において、力転換素子110は、光軸0について反対側の光学素子105から伸びることができる。
【0031】
眼内に移植されたとき、力転換素子110の端は、眼の両側の毛様体25に近接して位置することができる。力転換素子110は、近接する組織より印加される力を光学素子105に転換するように適合し、形状変化または相対的な空間変位またはその両方を引き起こすことができる。力転換素子110は概して、光学素子105の材料よりも硬い材料から形成することができる。硬さまたはジュロメータ硬さ(durometer)の変更は、材料の変更により遂行することができる。例えば、力転換素子110に対しては、光学素子105に用いられる材料よりも高いジュロメータ硬さの材料を使用することができる。あるいは、力転換素子110および光学素子105の材料は同じであるが、異なる硬さであってもよい。硬さはショア−A型硬度計またはショア−D型硬度計を用いて、決定または量子化することができる。レンズ100の部品を形成するために本明細書で検討される様々な材料は、下記により詳しく記載する。
【0032】
上述のように、調節中に1つ以上の毛様体組織の運動と機械的および機能的につながることにより毛様体25の内径が狭化する際に、光学素子105はより球状に変化することができる。図3Aに示すように、毛様体25の筋繊維が収縮することにより矢印Aの方向に力を作ることができ、それから力転換素子110に印加される。力転換素子110はその力を光学素子105(矢印Bの方向)に転換する。光学素子105の構成によって、光学素子105は形状を変化することができ、例えば、図3Aおよび3Bに示す矢印Cに沿って、より球状で、近い対象物をみることに適応した形状に変化することができる。遠い対象物を見るときは、光学素子105は静止した非調節の形状に戻るが、力転換素子115はもはや周囲の組織によって内側へ促されないために、毛様体が弛緩している際により平坦であり、有効度数(effective power)を低下させる最後部(posterior-most)の静止形態となっている。
【0033】
光学素子105は、度数の調節変化を引き起こす様々な特徴を含むように構成することができる。光学素子105は、内部にへき開面(cleavage planes)を含み、毛様体25およびその関連する組織が、光学素子105の中央での度数を増加する調節位置(図3Bに示す)にあるときに、光学素子105の中央で隆起をもたらすことができる。光学素子105はまた液体で充満していてもよく、毛様体25の運動およびその関連する組織が液体を動かし、光学素子105の中央付近に隆起をもたらし、その度数を増加させる。光学素子105の構成は、米国特許広報第2009/0234449号および2009/0292355号(参照することにより文献全体が本明細書に取り込まれる)に記載されているように、変化することができる。
【0034】
一例として、図3Cは外側レンズ部分305およびコアレンズ部分307を有する光学素子105を示す。外部レンズ部分305は、低減した厚みと硬さを有することができる中央部分320を含むように構成することができる。中央部分320は光学素子105の光軸0を取り囲むことができ、前面310上またはその付近に位置することができる。レンズ100、およびとりわけ光学素子105が、例えば周辺領域325および330において力転換素子110により印加される内側への力により圧迫されるとき、光学素子105は、前面310の外側への湾曲により再変形することができる。力転換素子110によるこの内側への力は、レンズ100がどのように移植されるかにもよるが、毛様体25、毛様体突起27または毛様小帯30の少なくとも1つによって力転換素子110に印加される圧縮力に起因する。
【0035】
図3Dに示すように、外側への湾曲または再変形は特に領域335において顕著である。これは、中央部320における外側レンズ部分305の低減した厚みに起因することができる。低減した厚みは、内側の力が周辺領域325、330に印加されるにあたり、コアレンズ部分307の内圧に比較的屈しやすい傾向にあり得る。例えば図3Dの中央領域335に見られるように、コアレンズ部分307は外側に広がることができる。中央部分320は硬さが低減し、または弾性が増した材料を含み、より内圧に屈しやすくすることもできる。
【0036】
光学素子105の広がった中央領域335は、近見視力矯正度数を提供することができる。中央部分320の外側にある外側部分305の残余は、周辺領域325、330におけるこのような圧縮下での再変形に対してより耐性を示すことができる、より大きな厚みを有することができる。このように、中央部分335の半径方向に外向きに広がる、光学素子105の環状領域340は、遠見視力矯正度数を提供し続けることができる。光学素子105の領域335および340は、圧縮下において近見および遠見の両方の視力矯正度数をそれぞれ提供することができる。言い換えれば、光学素子105が圧縮下にあるとき、光学素子105の前面310は多焦点の表面となることができる。対照的に、図3Cに示すように光学素子105が静止位置(resting position)にあるとき、前面310は単焦点の表面となることができる。
【0037】
図3Dは、レンズ100の他の実施形態を示し、外側部分305の異なる構造を除いては図3Cに示すものと実質的に同じである。中央部分320は、それを取り巻く周辺領域よりも比較的外側への湾曲の影響を受けやすい材料から作ることができる。中央部分320は、それを取り巻く周辺領域と組み合わせて射出成形となり得、少なくともレンズ100の静止位置で、比較的継ぎ目がなく連続した前面310を提供することができる。周辺領域325および330が光軸0に向かって圧縮されるとき、コアレンズ部分307は圧縮状態に置かれ、このようにして広がった領域335に示すように中央部分320を前方方向に促進することができる。たとえ中央部分320が、周辺領域よりも大きく外側に反る原因となる異なる剛性または弾性を有しても、外側部分305の材料は概して一貫する(consistent)ことができる。
【0038】
中央領域335が進み広がる程度、およびそれにより光学素子105によって得られる近見視力矯正度数の大きさは、諸因子(例えば、中央部分320の関連する厚さ、硬さ、剛性、弾性等、外側部分の305および/または内側部分307の全体の構造、外側部分および/または内側部分を構成する材料、レンズ100が置かれている眼がレンズ100に付与することができる力の量およびその他同種類の因子)の数に依存することができる。これらの因子の1つ以上を変化させることにより、レンズ100から得られる近見視力矯正の量または程度は制御することができ、または少なくとも部分的に制御することができる。
【0039】
これまで記載された光学素子105の実施形態は、力が印加されていないときに静止形態を有し、より弱い度数またはより平坦である。毛様体が力転換素子110を押している調節中は、光学素子105はより球状でより高い度数の形状を持つことできる。しかし当然のことながら、光学素子105が生来の水晶体によりよく模倣することができることを認識しておくべきである。この実施形態において、力が印加されていないとき、静止形態において光学素子105は高い度数またはより球状である。この実施形態において非調節中は毛様体は弛緩し、光学素子105に力を転換する力転換素子110に張力を印加し、光学素子105は低い度数のために平らになり、調節中は毛様体の収縮を伴って球状形態に戻る。このような構成においては、力転換素子110は組織へのより丈夫な取り付け機構を取り入れることができる。
【0040】
本明細書に記載されるレンズは、眼と相まって、遠見および近見の両方に提供されるように再変形する能力、および一方の距離にのみの焦点を提供する最初の構成に戻る能力を有する。光学素子105に形状変化をもたらすのに必要とされる力の量は、概して光学素子105を光軸に沿って軸方向に動かし、所望のジオプターへの変化を遂行するのに必要とされる力よりも小さい。形状変化により遂行されるジオプターの変化もまた概して、軸方向への変位により遂行されるジオプターの変化よりも大きい。光学素子105は約±1Dから約±4Dまたは約±5Dまたは約6Dの範囲の度数を有することができる。1つの実施形態においては、レンズの基本的な度数は約±5Dの範囲内となり得る。1つの実施形態においては、レンズの基本的な度数は約±3Dの範囲内となり得る。当然のことながら、光学素子105は、約±20Dの範囲のより大きな度数を有することもできることを認識しておくべきである。
【0041】
力転換素子110は、取り付け部分120(図4に示す)を経由して眼の組織に接触する。取り付け部分120によって提供される取り付けの方法は、変えることができる。概して、取り付け部分120は毛様体25への侵入(piercing)または外傷を引き起こすことを避ける。取り付け部分120は組織に干渉することができ、毛様体25、毛様体突起27または毛様小帯30の運動は、それらの組織に外傷を引き起こすことなく力転換素子110を通して光学素子105に伝達される。取り付け部分120は、概して力転換素子110よりも柔軟で、弾力性がある材料から形成することができる。これは、組織が接することができるところに対してより寛容な(forgiving)表面を提供し、組織の侵入および不注意な外傷を避けることができる。これはまた、レンズ100とその部品の全体の長さおよび大きさの誤差に対して多少の余地があるという点で、取り付け部分120がよりよい適合を提供することができる。材料の弾力性はまた、フリーサイズに近づくことができ、たとえ寸法が正確でなかったとしても、転換素子110の長さおよび取り付け部分120の長さは、必要なときに十分に光学素子105の形状変化に影響をもたらし、一方、不変の形状変化または組織の損傷を避ける。
【0042】
一例として、取り付け部分120は概して固く、1つ以上の毛様小帯30または毛様体突起27の間または干渉するように位置する細長い棒または複数の棒125(図6Aを参照)となり得る。棒125は真っ直ぐ、曲線状、または力転換素子110の縦軸に対して特定の角度に曲げられてもよい。一例として、複数の棒125は曲線状となり得、毛様体突起27および/または毛様小帯30との間に互いに組み合わさることができるカップを形成する。複数の棒125は、毛様体と接触して、または接触することなく毛様体25に及ぶことができる。
【0043】
取り付け部分120はまた3次元形状を取り、毛様小帯30もしくは毛様体突起27を取り囲む空間を埋め、または毛様体25の上部の空間を埋めることができる。一例として、取り付け部分120はくさび形状を有することができ、力転換素子110は毛様体突起27の間に広がり、取り付け部分120は毛様体25に対して押し込む(wedge up)ことができる。取り付け部分120はまた、3次元の膨張可能な素子(expandable element)123を含むこともできる(例えば、力転換素子110の端付近に繋がった袋、バルーンまたは球)。図6Bは、複数の棒125を有する力転換素子110の1つの実施形態における取り付け部分120を示す。複数の棒125の1つ以上は、末端領域付近に膨張可能な素子123を含むことができる。溝127は、力転換素子110の内部を通って、複数の棒125のそれぞれの少なくとも一部分に伸びることができ、溝127は膨張可能な素子123に通じる。流体(気体または液体もしくはゲルを含む)は、力転換素子110に沿って位置するポートまたは他の機構(structure)に、および溝127に注入することができ、膨張可能な素子123は1つ以上の方向に外向きに広がることができる。ポートの位置は変わることができるが、概しては機器の光学部分と干渉しないように位置する。いくらかの実施形態において、膨張可能な素子123は3次元に伸びることができ、毛様体突起27の間もしくは毛様体25の周りの空間を埋め、または毛様体突起27の上部の空間を埋めて毛様体25を覆う。膨張可能な素子123は、所望の3次元形状を供給するように、例えばシリコ−ン油、ヒドロゲル、生理食塩水または他の材料のような材料で充填することができる。
【0044】
図7A、7Bに示すように、取り付け部分120は、例えば、接着剤、ヒドロゲルまたは他の流動性材料のような材料から作られた被覆(coating)129を含むことができる(図7A−7Bに示す)。被覆129は、取り付け部分120を所定の場所に固定することができる。被覆129はまた、特定の組織部位を取り囲む3次元の空間を埋めるように作用し、レンズ100を固定し易くすることもできる。被覆129は、ポートを通って溝127に注入され、力転換素子110の内部を通って取り付け部分120内に広がることができる。取り付け部分120の末端領域付近に位置する1つ以上の開口131は、材料が溝127から取り付け部分120の外表面へ流れ、外表面を被覆するようにすることができる。
【0045】
取り付け部分120の軟部組織との一体化(soft tissue integration)は、1つ以上の毛様体組織と直接的に接触する取り付け部分120の位置決めにより遂行され、治癒反応を引き起こすように最小水準の組織の刺激が遂行される。組織を刺激する際に、小さな炎症反応が続いて起こるが、これは取り付け部分120が組織の生理学的役割を妨げることなく毛様体突起27または毛様体25に取り込まれる要因となるのに十分である。取り付け部分120内へのおよび/または取り付け部分120の周りの組織の成長および機器の組織への一体化は、組織への侵入または外傷を引き起こすことなく遂行することができ、例えば房水を作る能力に影響を与えることなく遂行される。
【0046】
当然のことながら、軟部組織との一体化を伴うまたは伴わない取り付け部分120の組み合わせは、本明細書で考慮されることを認識しておくべきである。例えば、1つ以上の膨張可能な素子123は、固定する力を提供する材料(例えば、接着剤または別の流動性材料)により埋められおよび覆われる取り付け部分120の末端領域につながることができる。さらに、膨張可能な素子123の膨張した形状(expanded shape)はある一定の特質を取り付け部分120に提供することができる。例えば、膨張可能な素子123は充填されるときにくさび形状を形成することができ、移植の際に充填されるときに上述のように毛様体25に対して、または毛様体突起27の間に押し込むことができる。膨張可能な素子123はまた、取り付け部分120にある程度のカスタマイズを提供することもでき、移植中の適合度を修正することができる。膨張可能な素子123は、取り付け部分120の末端領域に位置することができ、充填する際に膨張可能な素子123はカスタマイズされた大きさを提供することができ、特定の患者に対する機器について最も適した適合度を提供することができる。
【0047】
レンズの力転換素子110および/または取り付け部分120は、眼の様々な構造に対して長さ、角度および位置をカスタマイズすることができる。例えば、力転換素子110が光学素子105から伸びる角度は、生来の水晶体または予め埋め込まれたIOLから、レンズ100が移植される距離Dを離れて役割を果たすことができ、順々に焦点度数(focal power)に影響をもたらすことができる。さらに、力転換素子110の長さは、力転換素子110が物理的に毛様体または隣接する組織に接触するかどうかに影響を及ぼすことができる。もし、力転換素子110が過剰に長く、静止状態の毛様体に接触すると、組織構造が損傷され、または光学素子105が不変の調節状態(a constant state of accommodation)のままである可能性がある。あるいは、力転換素子110が短すぎると、適切な調節をもたらすように毛様体筋が収縮するにあたり、十分な形状変化が遂げられない可能性がある。従って、移植にあたり力転換素子110および/または取り付け部分120の長さ、角度、位置もしくは他の特徴をカスタマイズし、調整することが望ましい。当然のことながら、治療に先立って適切な寸法が知られている場合、移植に先立ってカスタマイズを行うことができることを認識しておくべきである。あるいは、レンズ100の移植中または移植後に、その場でカスタマイズすることもできる。
【0048】
力転換素子110のそれぞれの長さは、滑り、捻り、旋削、切断、圧延、膨張等を含む様々な機構により調節することができる。例えば、力転換素子110は移植にあたり、毛様体筋が収縮する際に適切な調節が生じるための最適な長さが得られるまで、光学素子105から外側の方向に広げられる(unrolled)ことができる。あるいは、力転換素子110は捻られ、光学素子105から外側に向かって伸びる全体の長さを減らすことができる。力転換素子110はまた、手作業で適切な長さに切断することもできる。
【0049】
力転換素子110および/または取り付け機構120は形状記憶材料または外部刺激の下で形状を変化する能力を有する他の刺激応答材料により形成することができる。例えば、刺激は温度変化または外力(圧縮または伸張)の行使となり得る。形状記憶材料は、熱のようなエネルギーを印加するに際し、前もってセットされた長さ、形状または角度に広がるように活性化することができる。力転換素子110および/または取り付け機構120は、ニチノールのような弾性材料または超弾性(super-elastic)材料により形成することができる。
【0050】
力転換素子110および/または取り付け機構120は、眼内に移植される際に広がる材料により形成または被覆することができる。材料は、構成要素に隣接する空隙(void)を埋めるように、構造の縦軸に沿って広がることができ、または材料は3次元的に広がることができる。例えば膨張した材料は、力転換素子110および/または取り付け機構120に隣接する毛様体突起の間の領域のような空隙を埋めることができる。膨張可能な材料は、例えばヒドロゲル、泡状物質、凍結乾燥したコラーゲン、膨張したアクリル、または体液に接触する際にゼリー状になる、膨張する、もしくは他の拡大する任意の材料を含むことが可能であるが、限定されるものではない。膨張可能な材料は、力転換素子110が引っ込んだ状態から膨張した状態へ移動するようにし、解剖構造の間または解剖構造に対して延在するように、位置することができる。膨張可能な材料は、取り付け機構120を被覆することもでき、取り付け機構120が好ましい形状を呈することを助力する。例えば、取り付け機構120は、膨張可能な材料によって被覆された複数の棒となり得、移植にあたり棒は互いに離れるように外側へ押しやられる。
【0051】
上述の通り、力転換素子110はハプティック115の領域につながることができる。1つの実施形態において、ハプティック115は溝内に位置することができ、力転換素子110は毛様体に届くように下向きに曲げることができる。力転換素子110は、所望の長さを得るためにハプティック115に巻き付くことができる。あるいは、力転換素子110はハプティック115につながり、毛様体に向かう所望の伸張が得られるまでハプティックの長さ方向に沿って手作業で移動することができる。
【0052】
本明細書で記載されるレンズの部分の材料は変わってもよい。上述の通り、力転換素子110およびハプティック115(存在すれば)は、概して光学素子105または取り付け部材120よりも硬いジュロメータ硬さを有する材料より形成され、効果的に形状変化するように、および/または光学素子105の空間的形状を変えるように、周囲の組織により印加される力を転換することができる。力転換素子110、取り付け機構120、ハプティック115(存在すれば)および光学素子105はそれぞれ同じ材料となることができるが、移植されるときに所望の機能特性を得るために異なる硬さを有してもよい。
【0053】
本明細書で開示される光学素子105の作成に適当な材料は様々であり、かつ当業者により知られている材料を含む。一例として、限定されるものではないが、材料はアクリルポリマー、シリコーン・エラストマー、ヒドロゲル、複合材料およびこれらの組み合わせを含むことができる。様々な部品を形成するために本明細書で考えられる材料は米国特許広報第2009/0234449号および2009/0292355号に記載され、参照することにより文献全体が本明細書に取り込まれる。光学素子105は感光性のシリコーンより形成し、米国特許第6,450,642号(表題は“LENSES CAPABLE OF POST−FABRICATION POWER MODIFICATION”、参照することにより文献全体が本明細書に取り込まれる)に記載されるように移植後の度数調整を行い易くすることもできる。
【0054】
主題の(The subject)力転換素子110の製造に適当な材料は、限定するものではないが、折りたたみ式もしくは圧縮性の材料、または硬い材料(例えば、シリコーン重合体、炭化水素およびフルオロカーボン重合体、ヒドロゲル、ソフトアクリルポリマー(soft acrylic polymers)、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、親水性モノマー単位を備えるシリコーン重合体、フッ素含有ポリシロキサンエラストマーおよびこれらの組み合わせ)を含む。
【0055】
最小限の光学厚さを備えながら高い屈折力を与えるように、高い屈折率はレンズの製造の中で望まれる大きな特徴となる。高い屈折率を備える材料を用いることにより、視力不足はより薄いIOLを用いて矯正してもよい。
【0056】
光学素子105は、異なる材料の層から形成することもできる。層は単純なサンドイッチ型または同軸状に配列してもよい。さらに、層は一連の高分子層、高分子層および金属層の混合物、または高分子層および単量体層の混合物を含んでもよい。特に、周囲のシリコーンの被覆を備えるニチノールリボンコアは、レンズ100の光学部を除く任意の部分に使用してもよい(光学部にはシリコーン上へのアクリル積層(acrylic-over-silicone laminate)が使用されてもよい)。層状構造は、2つ以上の層を互いに押しつけるもしくはくっつけることにより得られてよく、または堆積もしくは被覆の工程が採用されてもよい。
【0057】
望まれるところ、様々な被覆がレンズ100の1つ以上の部品に適している。ヘパリン被覆は、炎症細胞付着(ICA)および/または後発白内障(PCO)を防ぐように位置を適合するように適用してもよく、このような被覆が可能な位置は光学素子105を含む。被覆はまた、生体適合性を向上するようにレンズ100に適用することができ、このような被覆はP−15ペプチドまたはRGDペプチドのような“能動的な”被覆と、ラパマイシン(rapamicin)、ステロイド、ヘパリン、およびその他のムコ多糖、コラーゲン、フィブロネクチン、ならびにラミニンのような“受動的な”被覆を含む。その他の被覆(ヒルジン、テフロン(登録商標)、テフロン(登録商標)のような被覆、PVDF、フッ素化ポリマー、および不活性なその他の被覆)は、レンズシステム上の位置での潤滑性を増加するように用いられ、またはヒドロキシエチルメタクリレート(Hema)もしくはシリコーンは、レンズ100の一部に親水性もしくは疎水性を与えるように用いることができる。
【0058】
1つ以上のレンズ部品は、治療薬または病気もしくは疾患の症状を改善する他の媒介(例えば、ステロイド、小分子薬剤、タンパク質、核酸、多糖および生物製剤、またはこれらの組み合わせを含む)で被覆することができる。治療薬、治療的な化合物、治療規制または化学療法は、ワクチンを含む当業者に知られた従来薬および薬物療法を含む。治療薬は、限定するものではないが、細胞成長を妨げるかまたは細胞死を促進し、細胞成長を妨げもしくは細胞死を促進するように活性化することができ、または別の媒介を活性化させて細胞成長を妨げもしくは細胞死を促進する成分を含む。任意で、治療薬は追加的な特性を示す、または明示することができ、例えば、本明細書の他の所に記載されるように造影剤としてその利用を許可する特性である。例示的な治療薬は、例えば、サイトカイン、成長因子、タンパク質、ペプチドまたはペプチド模倣薬、生物活性剤、感光剤、放射性核種、毒素、代謝拮抗物質、シグナル伝達モジュレータ、抗がん抗生物質、抗がん抗体、新生阻害剤、放射線治療、化学療法化合物またはこれらの組み合わせ含む。薬は、治療効果をもたらす能力がある任意の薬剤であってもよい。1つの実施形態において、薬は、眼の病気および疾患の治療に効果のある既知の薬または薬の組み合わせである。限定するものではない例示的な実施形態において、薬は抗感染症薬(たとえば、抗生物質製剤または抗真菌薬)、麻酔薬、抗VEGF薬、抗炎症剤、生物学的薬剤(例えば、RNA)、眼圧下降剤(すなわち、緑内障薬)またはこれらの組み合わせである。非限定的な薬の例を以下にて詳述する。
【0059】
1つの実施形態において、レンズ100および/または金型表面は、生体適合性を向上するように表面安定化処理にさらされる。これは、化学エッチングまたはプラズマ処理のような従来技術を介して行われてもよい。
【0060】
ひとたび形成されると、主題の力転換素子110は、多くの方法(限定するものではないが、接着剤、かしめ、プラズマ処理、摩擦もしくは同様の手法、またはこれらの組み合わせを用いて事前整形した光学溝内への締め付けを含む)により永久的に光学素子105に付着することができる。
【0061】
さらに、レンズ部品の適切な表面(例えば、接触素子、調節素子等の外側の縁/表面)は、隣接する組織表面への付着力を高めるように、テクスチャード加工または粗面加工されてもよい。これは、プラズマ処理、エッチング、浸漬、蒸着、型面修正等の従来手段を用いることにより達成することができる。
【0062】
1つの実施形態において選択された材料およびレンズ構成は、研磨、洗浄、および加圧滅菌器または酸化エチレンもしくは放射線の使用を含む殺菌工程のような成形/鋳造(molding/casting)後の二次加工に持ちこたえることができる。型を開いた後、レンズはバリ取り、研磨および洗浄作業を受けることができ、概して化学的もしくは機械的工程、またはこれらの組み合わせを含む。いくつかの適切な機械的工程は、タンブリング、振り混ぜおよび振動を含むことができ、タンブリング工程は様々な質のガラス玉、アルコールまたは水のような流体および酸化アルミニウムのような研磨混合物を備えるバレルの使用を含む。加工率は材料次第であり、例えば、シリコーンのタンブリング加工は、30〜100RPMで動く直径6インチのバレルを使用することができる。最終的な表面品質が得られる前に、研磨および洗浄のいくつかの異なる段階が用いられると考えられる。
【0063】
レンズ100の部品の製造において、硬化過程も望ましいかもしれない。レンズが室温において完全にシリコーンから作られると、硬化時間は数日にも長くなり得る。金型(mold)が約50°Cで維持されると、硬化時間は約24時間まで減らすことができる。金型が100〜200°Cまで余熱されると、硬化時間は約3〜15分にも短くなることができる。時間−温度の組み合わせは、他の材料によって異なる。
【0064】
当然のことながら、有水晶体または偽水晶体の患者に本明細書に記載されるレンズは移植することができることを認識しておくべきである。1つの例示的な移植手術において、IOL移植は、生来の水晶体の前方または予め移植されたIOLの前方で行われる。移植手術は異なってもよいが、1つの手術は次のように行われる。1つ以上のきれいな角膜切開を形成することができる。1つ目の切開はIOLの挿入のために形成することができ、2つ目の切開はIOLの位置調整の操作および援助のために形成することができる。粘弾性物質は眼内に挿入することができ、少なくとも部分的に前房および/または虹彩と嚢内との間の範囲を埋めることができる。IOLは眼内の所定の位置に挿入することができ、力転換素子は所望の位置に挿入し毛様体につながることができる。1つ以上のIOLは毛様体溝に挿入することができ、粘弾性物質は眼から押し流される。角膜切開が適切に閉じられたことを確認するように、それからチェック(check)が行われてもよい。手術に併せて任意の様々な道具が用いられてもよい。さらに当然のことながら、前述の段階(step)は前述と異なる順番で行われてもよいことを認識しておくべきである。
【0065】
本明細書は多くの記述を含むが、これらは請求する発明の範囲または請求されるかもしれない範囲の制限として解釈されるべきはなく、むしろ特定の実施形態に固有の特徴の記述と解釈されるべきである。別の実施形態との関連で本明細書に記載されるいくつかの特徴は、1つの実施形態の中で組み合わせて実施しすることもできる。反対に、1つの実施形態との関連で記述される様々な特徴は、多数の実施形態の中で別々に、または任意の適切な部分的な組み合わせで実施することもできる。さらに特徴は、いくつかの組み合わせの作用として上述され最初にそのように請求されるが、請求された組み合わせからの1つ以上の特徴は、ある場合において組み合わせから削除することができ、請求された組み合わせは部分的な組み合わせまたは部分的な組み合わせの変化に向けられてもよい。同様に、運用が特定の順序で図面に示されるが、所望の結果を得るために、このような運用が示される特定の順序もしくは連続した順序で実行され、または示される全ての運用が実行される必要があると理解されるべきではない。ごくわずかの実施例および実現だけが開示される。記載された実施例、ならびに実現および他の実現への変化、変更および改良が、開示されるものに基づいて作られてもよい。
【0066】
最後に、本発明は下記の態様を有するものであることを確認的に付言しておく。
態様1:
形状変化する光学素子と、
前記光学素子につながった第1末端領域および毛様体組織に向かって伸びる第2末端領域を有し、前記毛様体組織の運動を前記光学素子に付与する力に機能的に伝達し、前記光学素子の調節および非調節の変化に影響をもたらす力転換素子と、
前記力転換素子の前記第2末端領域につながり、前記毛様体組織に接触するように構成される取り付け部分と、
を含む眼内レンズ。

態様2:
前記力転換素子を、移植中に適合するようにカスタマイズすることができる態様1に記載のレンズ。

態様3:
前記適合をカスタマイズするための機構が、滑り、捻り、旋削、切断、圧延、膨張、曲げおよび前記力転換素子へのエネルギーの印加より成る群から選択される、態様2に記載のレンズ。

態様4:
前記力転換素子が膨張可能な材料で被覆される態様1に記載のレンズ。

態様5:
前記光学素子、前記力転換素子および前記取り付け部分の少なくとも1つが、生物活性を有する薬剤で被覆される態様1に記載のレンズ。

態様6:
前記薬剤が、ヘパリン、ステロイドおよびラパマイシンより成る群から選択される態様5に記載のレンズ。

態様7:
前記力転換素子の前記第1末端領域が前記光学素子の赤道部につながっている、態様1に記載のレンズ。

態様8:
前記光学素子の赤道部近傍につながっている複数の力転換素子をさらに含む、態様1に記載のレンズ。

態様9:
前記取り付け部分が前記毛様体組織に接触するように構成されている、態様1に記載のレンズ。

態様10:
前記取り付け部分が、前記毛様体組織に接し、かつ前記毛様体組織を侵入しないように構成されている、態様1に記載のレンズ。

態様11:
前記毛様体組織が、毛様体筋、毛様体、毛様体突起および毛様小帯より成る群から選択される、態様1に記載のレンズ。

態様12:
前記取り付け部分が弾性材料で形成される態様1に記載のレンズ。

態様13:
前記取り付け部分が1つ以上の棒を含む態様1に記載のレンズ。

態様14:
前記1つ以上の棒が曲線状である態様13に記載のレンズ。

態様15:
前記取り付け部分が、前記毛様体組織に隣接する空間を埋める3次元要素を含む、態様1に記載のレンズ。

態様16:
前記取り付け部分が充填可能な素子を含む態様1に記載のレンズ。

態様17:
前記取り付け部分が、接着剤、ヒドロゲルまたは固定材料を含む態様1に記載のレンズ。

態様18:
前記取り付け部分が前記毛様体組織内で治癒反応を引き起こし、前記取り付け部分の軟部組織との一体化を誘発する態様1に記載のレンズ。

態様19:
前記光学素子が約±3ジオプターから約±5ジオプターの範囲の度数を有する態様1に記載のレンズ。

態様20:
前記光学素子の前記調節の変化が、卵形状からより球形状へ変化することを含む態様1に記載のレンズ。

態様21:
前記光学素子の前記調節の変化が、光軸に沿った前方への空間的形状の変化を含む態様1に記載のレンズ。

態様22:
前記力転換素子が前記光学素子の材料よりも概して硬い材料で形成される態様1に記載のレンズ。

態様23:
眼内の水晶体嚢内に位置する第2レンズをさらに含む、態様1に記載のレンズ。

態様24:
前記光学素子が前記第2レンズの前方に位置する態様23に記載のレンズ。

態様25:
前記光学素子が眼内の水晶体嚢内に位置する態様24に記載のレンズ。

態様26:
前記光学素子が虹彩の後方に位置する態様24に記載のレンズ。

態様27:
前記光学素子が虹彩の前方に位置する態様24に記載のレンズ。

態様28:
前記第2レンズが、移植された眼内レンズを含む態様23に記載のレンズ。

態様29:
前記光学素子につながり、前記光学素子から外側に伸びるハプティックをさらに含む態様1に記載のレンズ。

態様30:
前記ハプティックが溝内に位置する態様29に記載のレンズ。

態様31:
前記力転換素子が前記ハプティックにつながる態様30に記載のレンズ。

態様32:
前記力転換素子が前記毛様体につながり、前記光学素子を押すように構成されている態様1に記載のレンズ。

態様33:
前記力転換素子が前記毛様体につながり、前記光学素子を引っ張るように構成されている態様1に記載のレンズ。

態様34:
前記調節および非調節の変化が、前記光学素子の表面全体にわたって影響をもたらす形状変化を含む、態様1に記載のレンズ。

態様35:
前記調節および非調節の変化が、前記光学素子の一部分の表面にわたって影響をもたらす形状変化を含む、態様1に記載のレンズ。

態様36:
調節の変化にあたり前記一部分が優先的に隆起する、態様35に記載のレンズ。

態様37:
一部分にわたって影響をもたらす前記形状変化が、前記光学素子の別の部分の弾性率と比較した前記光学素子の前記一部分の弾性率の差に起因する、態様35に記載のレンズ。

態様38:
前記光学素子の中央領域が前記光学素子の外側領域より低弾性率の材料を含む、態様37に記載のレンズ。

態様39:
前記低弾性率の材料が隆起および屈折影響の変化を引き起こすことになる、態様38に記載のレンズ。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B