【氏名又は名称】ツェントゥルム フューア ゾンネンエネルギー−ウント ヴァッサーシュトッフ−フォルシュング バーデン−ヴァルテムベルク ゲマインニュッツィヒ シュティフトゥング
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ステップ(d)における焼成が、第1段階では350℃から450℃の温度で、第2段階では450℃から700℃の温度で起こる、請求項1から6のいずれか1項に記載の製造方法。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンバッテリーの使用にとって本質的な最適化目的は、エネルギー密度を増加させることである。エネルギー密度は、材料レベルでは動作電位および比静電容量により決定される。電池のレベルでは活物質粉体の充填密度が重要である。
【0003】
市販リチウムイオン電池のカソード活物質として典型的に用いられる層状酸化物の酸化リチウムコバルトLiCoO
2(LCO)、LiNi
1/3Mn
1/3CO
1/3O
2(NMC)およびLiNi
0.85CO
0.10Al
0.05O
2(NCA)は、150mAh/gから180mAh/gの間の比静電容量値を実現し、約110mAh/gの実用値を有するリチウムマンガンスピネルLiMn
2O
4(LMO)が用いられる。
【0004】
− リチウム−ニッケル−マンガン高電圧スピネル
xLi
2MnO
3・(1−x)LiMO
2(Mは、典型的にはNi、CoおよびMnである)型のマンガンおよびリチウムが多い層状酸化物が次世代に向けた有望な材料として開発されつつあるが、現状では使用されていない。それらは、今まで実用化された材料より著しく高い250〜280mAh/gの比静電容量値を実現する。しかしながら、これらのピーク値は、低い電流レートでしか実現されない。1Cというほどほどの電流レートにおいてさえ、静電容量値は180mAh/g未満に低下し、既に実用化されている層状酸化物の域に入る。それらは、高価な元素コバルトも含有する。この材料クラスのさらに別のはっきりした不都合は、その構造不安定性である。サイクルが進むにつれて層状構造は、次第にスピネル様構造に変化し、そのため動作電位の顕著な低下が生じ、それに伴いエネルギー密度の低下も生じる結果となる。この状況を解決する手法は、まだ見つかっていない。
【0005】
したがって、スピネル型のリチウム−ニッケル−マンガン系遷移金属酸化物(LNMS)粒子は、リチウムイオンバッテリーの有望な電極材料である。特に、それらは、Li/Li
+に対して4.7Vという高い電圧プラトーを有する。電気化学変換の酸化還元原理は、式Li
1.0Ni
xMn
2−xO
4−δを有する化合物を用いて記述することができる。式量単位あたり、147mAh/gの比静電容量に対応する1個の電子/リチウムイオンを置き換えることができる。化学量論で言うとニッケル含有量xと酸素含有量δとの両方を変えることができる。材料の形式酸化レベルの分布とその結果としての電気化学電圧曲線とは、式Li[Ni
(II)xMn
(III)1−2x+2δMn
(IV)1+x−2δ]O
4−δで記述される。xおよびδに応じて以下の2個の電圧プラトーを発生させることができる。a)Mn(III)/Mn(IV)酸化還元対と関連付けることができ、式量単位あたり(1−2x+δ)個の電子/リチウムイオンを利用する、Li/Li
+に対して4.1Vのプラトー;b)式量単位あたり(2x−2δ)個の電子/リチウムイオンを利用する、Ni(II/(IV)酸化還元過程にあたるLi/Li
+に対して4.7Vのプラトー。完全に置換された相Li[Ni
(II)0.5Mn
(IV)1.5]O
4.0は、x=0.5およびδ=0で得られ、Li/Li
+に対して4.7Vの単一電圧プラトーを有する。
【0006】
LNMSの動作電圧は、現在実用化されている材料よりはるかに高く、したがって相応して電池のエネルギー密度の増加に寄与する。バッテリーセル中のLNMSのエネルギー密度寄与を十分に利用することができるために、これらの材料を電池中にできるだけ高い密度で充填することが可能でなければならない。特にこのために、高い粉体密度が必要である。したがって、これらの材料を、高い粉体密度ならびに適当な形状およびサイズ分布を有するように製造することが重要である。同時に、製造プロセスは、簡単かつ安価でなければならない。
【0007】
− リチウム−ニッケル−マンガン高電圧スピネルのための製造プロセス
関連技術は、リチウム−ニッケル−マンガン高電圧スピネルのためのさまざまな製造方法の記載を含む。
【0008】
ゾル−ゲル合成においては、可溶性反応体からゾルと呼ばれるコロイド分散物が製造され、エージングによって固体3次元ネットワークであるゲルに変換される。ゲルは、生成物の化学的前駆体である。生成物は、小さな結晶子サイズを有し、これは電流を運ぶ容量を増加させ、したがって望ましい。同時に、生成物は、大きな表面積を有し、これは特に、高電圧用途において望ましくない副反応を促進する。ただし、この製造方法は、非常に費用がかかる。したがって、この製造方法を工業的な次元で取り上げるのは妥当でない。したがって、この方法は、主として純粋に科学的な実験の状況で使用される。
【0009】
上記の他に、バッテリー材料の製造においてさまざまに使用される純固相合成変化形の記載もある。特に、LiCoO
2の技術的製造においてそれら変化形もカソード材料として重要である。この方法においては、酸化物、炭酸塩または他の結晶性出発化合物が互いに混合され、次に熱処理に付される。典型的に用いられる粒子は、高い密度および低い多孔度を有する。反応体は、粒径を小さくし、可能な最も均一な混合物中の粒子分布を保証し、したがって焼成ステップにおける拡散経路を短くするために、個別にまたは互いに一緒に粉砕される必要がある。ゾル−ゲル法と対照的に、使用される粒子は、典型的には微視的に小さく、したがって反応のための拡散経路は、比較的長い。LNMSの場合、変換を加速し完結させるため、反応は高温、おそらく800℃から900℃において行われる。焼成温度は、LNMSにとって重要なパラメータである。ニッケル−マンガンスピネルは、700℃を超える温度で格子から酸素を放出する傾向がある。これによって酸素不足相が形成され、格子から酸化ニッケルNiOが別個の相として析出することがある。しかしながら、この過程は、可逆的である。高温焼成後に700℃における回復プロセスが行われた場合、NiOは、格子中で再同一化することがあり、酸素ギャップが満たされることがある。このようにして、結晶レベルで所望の目標化学量論が設定されることがある。
【0010】
しかしながら、技術的視点から、この回復プロセスは、電気化学的挙動と干渉するすべての不純物が格子から除去されなければならない場合は、多大な時間、およびその結果としてコストを伴う。こうして得られた試料は、ゾル−ゲルプロセスからの試料より大きな密度を生じ、より小さな比表面積を有する。材料を所望の粒径規格に調節するために後で研削プロセスが必要であり、今度はこれらが技術的なプロセスをより高価にする。さらに、研削プロセス時に不純物が導入されることを完全に防ぐことは可能でない。
【0011】
記載したこれらの方法、ゾル−ゲル法および固相合成法の両方において、極めて純粋な出発材料を使用しなければならない。原材料の品質および純度に関する厳格な要件は、原料を製造するコストを引き上げる。
【0012】
これらの方法の他に、前駆体、たとえば遷移金属炭酸塩、酸化物または水酸化物が沈殿によって調製され、次に化学量論量のリチウム化合物と反応して最終生成物を得る、組み合わせ法も記載されている。この方法において反応体に適用可能な純度要件は、それほど厳格ではない。沈殿物の濾過および洗浄プロセスにおいて可溶性不純物が排出され、したがって生成物中に残らないからである。LNMSのクラスについてそのような球形材料も記載されている。しかし、生成物中で実現される最大粉体密度は、低い。
【0013】
非特許文献1は、パラメータスクリーニングを参照してNH
3の存在で化合物Ni
0.25Mn
0.75(OH)
2という水酸化物の沈殿により0.7〜1.5g/cm
3の範囲の突き固め密度を得ることができると報告した。結晶粒中にカードハウスのように配置されたフレーク様1次結晶子から二次凝塊物が構築される。この配置から、結晶粒中に対応する空洞が形成される結果となり、これらの空洞が低い突き固め密度値を説明する。高密度結晶粒を得るために粒子を焼結するとき、高温を用いなければならないであろう。これは、再び結晶子成長と望ましくないNiOの偏析とにつながるであろう。
【0014】
− 過リチウム化遷移金属酸化物
バッテリーセル中の使用に関して、典型的には組み立て時に正極および負極が同じ充電状態を有することを保証することが必要である。Li[Ni
(II)0.5Mn
(IV)1.5]O
4.0の形の活物質を使用し、同時にリチウム豊富相も使用せんと意図する場合、対向電極は、たとえば予備リチウム化によって同じ充電状態にすることができる。この場合、両電極は、部分的に充電された状態で組み立てられる。
【0015】
付随する技術的条件のせいでアノードを容易に予備リチウム化することが可能でない場合、電池構築用の材料を過リチウム化形Li
1+x[Ni
(II)0.5Mn
(IV)1.5]O
4.0(0<x<1.5)で供給すると有用なことがある。この場合、負極を予備リチウム化する必要はなく、組み立ては、完全放電状態で行われる。過リチウム化材料Li
1+x[Ni
(II)0.5Mn
(IV)1.5]O
4.0は、高い不可逆的な開始損失を被るケイ素、非晶質炭素または他の同じような材料などのアノード材料を有するセル中に添加物として有利に導入されることもある。そのような場合、カソード材料のリチウム余剰xは、アノードにおける損失を補償するために使用されることがある。補償後、添加物は、高電圧プラトーにおけるカソード材料として電池中で機能する。
【0016】
したがって、高い静電容量および良好な負荷負担能力を有する材料を提供すると同時に、高い突き固め密度ならびに適当な形状およびサイズ分布を有するように材料を製造することが重要である。さらに、高密度材料をその過リチウム化形に容易に変換することができるプロセスを実体化することが重要である。さらに、製造プロセスにおけるすべてのステップは、安価であり実施するのが容易であるべきである。
【0017】
リチウムイオンバッテリーにおいて特に有望な電極材料は、Li
2M
2O
4型の過リチウム化スピネルである。これらのものの化学的調製は、LiM
2O
4の出発組成を有するスピネルの製造に基づく。これは、続くリチウム源の存在での還元プロセスにおいて変換される。これらの化合物は、高温で構造変化を受けるので、反応体およびプロセス条件は、臨界温度を超えないように選ばなければならない。
【0018】
非特許文献2は、ゾル−ゲル合成法による対応する酢酸塩の熱分解によりLiNi
0.5Mn
1.5O
4微粒子を製造している。得られた生成物をアセトニトリル中のヨウ化リチウムの溶液と反応させる。6倍過剰のヨウ化リチウムが必要である。生成物化学量論は、Li
2Ni
0.5Mn
1.5O
4で示される。この材料の動作電位は、Li/Li
+に対して3Vである。170mAh/gの最大静電容量が実現される。静電容量は、30サイクル以内に初回静電容量の75%に低下する。この方法の不都合は、非常に大過剰のヨウ化リチウムが必要なこと、ならびに有毒な溶媒の使用である。必要な13時間の反応時間は長く、溶媒および余剰のヨウ化リチウムを処分するために費用のかさむ方法を使用しなければならない。
【0019】
非特許文献3は、ヨウ化リチウム融解物中でLiMn
2O
4を変換することによってLi
2Mn
2O
4を製造している。反応は5時間かかり、温度は460℃である。この温度は、ヨウ化リチウムの融点(446℃)よりわずかに高い。出発材料LiMn
2O
4の製造および規格に関して、情報が提供されていない。ニッケル含有材料は、記載されていない。最初の2回のサイクルにおいて、マンガン1個あたり約1個のリチウムが置き換えられる。4.7Vのプラトーは存在しない。サイクル安定性について、情報が提供されていない。
【0020】
非特許文献4は、MnO
2とLiOHとの熱変換によって調製されるLi
1.1Mn
2O
4を出発化合物として用いている。リチウム化のために、予備乾燥された材料が無水ヘキサン中に導入される。激しく撹拌しながら化学量論量の2.5Mヘキサン中ブチルリチウム溶液をゆっくり加える。製造されたLi
2Mn
2O
4は、次にヘキサンで洗浄され乾燥される。電気化学的に、198mAh/gの比静電容量に対応する1.4Li/Mn
2がLi
2Mn
2O
4に対して用いられる。この静電容量の約60%はLi/Li
+に対して4Vのプラトーで、次に静電容量の20%がLi/Li
+に対して2.8Vおよび2.2Vでそれぞれ放電される。
【0021】
非特許文献5は、超音波スプレー熱分解プロセスを用いてLiNi
0.5Mn
1.5O
4を対応する金属硝酸塩から調製している。この著者らは、LiNi
0.5Mn
1.5O
4が3Vプラトーで電気化学的にサイクルすること(LiNi
0.5Mn
1.5O
4 ⇔ Li
2Ni
0.5Mn
1.5O
4)ができることを示している。Li
2Ni
0.5Mn
1.5O
4への化学的変換または電気化学的変換も記載されていない。
【0022】
記載されているリチウム化方法のすべてが、極めて複雑である。それらは、ブチルリチウムなどの危険な反応媒質、毒性溶媒または高温のどれかを必要とし、したがって、大きな工業規模での変換に適していない。
【0023】
よって、リチウム−ニッケル−マンガン系遷移金属酸化物粒子、特に過リチウム化されたリチウム−ニッケル−マンガン系遷移金属酸化物粒子を製造する方法であって、関連技術に記載されている方法の欠点が克服された方法が求められている。特に、得られる材料は、急速な放電/充電速度を可能にするために小さな結晶子から構築されるべきである。しかし、小さな結晶子は、通常は低い変換温度を必要とし、小さな結晶子に適するプロセスは、典型的には必要な粒子密度を生じる結果とならない。しかし、同時に、材料の結晶粒密度は、電池において高い充電プラトーを可能にするために高くあるべきである。さらに、比表面積は、副反応を抑制するために低くあるべきであり、関連技術において高温プロセスでしか実現されていないことである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の状況において、驚くべきことに、第1のステップにおいてアルカリ金属水酸化物およびNH
3を加えることにより遷移金属塩の水溶液からリチウムフリー遷移金属前駆体が沈殿する方法であって、アルカリ金属水酸化物が、反応混合物中の遷移金属イオンの全含有量に対する化学量論比未満で加えられる方法を創出することによって、先行技術の不都合を解消できることが見いだされた。反応混合物へのNH
3の添加により、化学量論量未満の水酸化物イオン(OH
−イオン)が加えられるという事実にもかかわらず、完全な析出を実現することができる。特に、反応混合物中のアンモニウムイオン(NH
4+イオン)の濃度が、化学平衡が達成された後に0.05モル/l以上であることが必要である。こうすると、球状または楕円球状の粒子形態と同時に高い突き固め密度を有するリチウムフリー遷移金属前駆体を得ることができ、これらの粒子特性を次の方法段階においても維持するかまたは改善することさえできる。したがって、最適な粒子形態を実現することにとって、沈殿反応の化学平衡を達成した後で以下に記載される反応混合物中のNH
3に対するNH
4+イオンの比を確立することが特に有利である。
【0029】
したがって、本発明は、一般式(1)
LiMn
1.5+yNi
0.5−y−zM
zO
4 (1)
(式中、Mは、Co、Mg、FeおよびZnの群からの1種類以上の元素を含み、
yは、0から0.5未満の値であり、
zは、0から0.1の値であり、
(y+z)は、0.5未満の値である)
を有する遷移金属酸化物粒子を製造するための方法に関し、該方法は、
(a)マンガン塩、ニッケル塩ならびに元素Co、Mg、FeおよびZnからの任意選択の1種類以上のさらに別の塩の水溶液をアルカリ金属水酸化物およびNH
3の水溶液と反応させて反応混合物からリチウムフリー遷移金属前駆体を沈殿させるステップであって、化学平衡を達成した後の反応混合物中のNH
4+イオンの濃度が、0.05モル/l以上であるステップと、
(b)沈殿したリチウムフリー遷移金属前駆体を反応混合物から単離し、任意選択として乾燥するステップと、
(c)リチウムフリー遷移金属前駆体を熱分解性リチウム化合物の水溶液と反応させてリチウム含有遷移金属前駆体を得るステップと、
(d)リチウム含有遷移金属前駆体を300℃〜800℃の温度で焼成するステップと、
を含む。
【0030】
したがって、本発明の方法によれば、さまざまな中間段階(a)から(d)および任意選択として(e)にわたり、本発明による高密度、高静電容量材料の製造が行われる。この状況では、方法ステップ(a)において、高密度リチウムフリー前駆体が製造され、これが次の方法ステップ(b)において単離され、任意選択として乾燥される。ステップ(c)においてリチウムフリー前駆体は、次に熱分解性リチウム含有化合物と反応させることによって高密度リチウム含有前駆体に変換される。次にステップ(d)においてリチウム含有前駆体を焼成することにより、本発明による遷移金属酸化物粒子が得られる。
【0031】
過リチウム化遷移金属酸化物粒子を製造するために、遷移金属酸化物粒子、特にステップ(d)において得られるリチウム含有遷移金属酸化物粒子が、還元剤の存在下にリチウム含有化合物で変換することにより固相反応で変換される。
【0032】
方法ステップ(a):リチウムフリー遷移金属前駆体の製造
本発明による方法のうちの方法ステップ(a)は、アルカリ金属水酸化物およびNH
3の水溶液を用いて反応混合物からリチウムフリー遷移金属前駆体を沈殿させる、特にマンガン塩、ニッケル塩および任意選択として以下の文中に記載されるさらに別の塩の水溶液の変換であって、化学平衡が達成された後に反応混合物中のNH
4+イオンの濃度が、0.05モル/l以上である変換を含む。
【0033】
この沈殿反応のための全化学式は、以下
Me(II)+(2−y)OH
−+xNH
3+yH
2O → Me(II)(OH)
2+(x−y)NH
3+yNH
4+
のように表すことができる。
【0034】
この状況において、xおよびyは、記載のNH
3+NH
4+の濃度が得られるように選ばなければならない。
【0035】
したがって、リチウムフリー遷移金属前駆体は、マンガン塩、ニッケル塩ならびに任意選択として元素Co、Mg、Fe、Zn、および任意選択としてAl、V、Cr、Ti、Cu、Be、Ca、Sr、BaおよびLaの他の塩の水溶液からの沈殿プロセスにおいて製造される。反応体の対応する化学量論を調節することにより、一般式(3)
Mn
1.5+yNi
0.5−y−zM
zO
4H
4 (3)
(式中、Mは、元素Co、Mg、FeおよびZn、また任意選択としてAl、V、Cr、Ti、Cu、Be、Ca、Sr、BaおよびLaの1種類以上から特に選ばれ、yは、0から0.5未満の値であり、zは、0から0.1の値であり、(y+z)は、0.5未満の値である)を有するリチウムフリー遷移金属前駆体を得ることが可能である。好ましい実施態様において、yは、0から0.2、特に好ましくは0から0.1の値である。
【0036】
好ましい実施態様において、化学平衡を達成した後の反応混合物中のNH
3の濃度は、0.01モル/lから1.0モル/lである。特に、0.01から1.0モル/lのNH
3濃度と組み合わされた化学平衡を達成した後の反応混合物中の0.05モル/l以上のNH
4+の濃度との比に起因して、有利な球または楕円球の結晶粒形を同時に高い突き固め密度とともに得ることができる。
【0037】
化学平衡を達成した後に、反応混合物中のNH
4+イオンの濃度は、好ましくは0.07モル/lから0.25モル/l、特に好ましくは0.08モル/lから0.20モル/lである。
【0038】
化学平衡を達成した後に、反応混合物中のNH
3の濃度は、好ましくは0.05モル/lから0.75モル/l、特に好ましくは0.07モル/lから0.5モル/l、最も特に好ましくは0.1モル/lから0.3モル/lであり、反応混合物中のNH
4+イオンの前述の濃度との組み合わせが特に好ましい。
【0039】
あるいは、化学平衡を達成した後の反応混合物中のNH
4+イオンの濃度およびNH
3の濃度は、また、対応する反応体の添加を指定することによって定義することもできる。こうすると、化学平衡を達成した後の反応混合物中の前記記載のNH
4+イオンの濃度およびNH
3の濃度は、金属イオンに対するOH
−イオンの初期モル比(OH:M
2+)により、および初期モル比([OH
−+NH
3]:M
2+)により到達される。
【0040】
好ましい実施態様において、金属イオンに対するOH
−イオンの初期モル比(OH
−:M
2+)は、<1.95、特に好ましくは1.5から1.9の間である。化学量論量より少ないOH
−イオンのこの使用にもかかわらず完全な沈殿を実現するために、NH
3は、モル比([OH
−+NH
3]:M
2+)が>2、好ましくは2.1から2.5となるような量で反応混合物に加えられる。金属イオンに対するOH
−イオンの初期モル比の、本発明による方法において製造される遷移金属酸化物粒子の粒子形態に対する影響は、
図1の例示的実施態様によって例示される。リチウムフリー遷移金属前駆体は、アルカリ金属水酸化物の添加によって反応混合物から沈殿する。アルカリ金属水酸化物は、特に水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化リチウム(LiOH)またはそれらの混合物から選ばれ、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0041】
ステップ(a)において用いられる塩は、水に容易に溶ける限りどのような特定の制約も受けない。硝酸塩および硫酸塩が好ましく、硝酸塩が特に好ましく、硝酸塩、硫酸塩または任意選択として他の塩の混合物も可能である。
【0042】
ステップ(a)における変換は、どのような反応槽または反応器の中でも行うことができる。したがって、反応の実施は、多段法、半連続法または連続法によって行うことができる。反応の実施は、好ましくは連続運転反応器、たとえば連続運転撹拌反応器中で行われる。連続運転反応器中の実施は、所望の生成物化学量論を得るために一定の体積流量を特に効率的に設定することを可能にする。特に、連続運転反応器中の実施は、温度、撹拌速度および滞留時間などの反応パラメータを特に容易に設定することを可能にし、その結果、必要に応じて沈殿反応の進行に影響を及ぼすことができる。これは、粒子形態および突き固め密度などの有利な特性を有する化学的に定義された生成物が特に効率的に得られることを可能にする。さらに、固体物質が分離された後の、したがって反応器が運転している間も、母液からの反応混合物中のNH
4+イオンおよびNH
3の濃度を決定することができる。
【0043】
特に、連続的にまたは半連続的に運転する反応器中で反応が行われるとき、反応温度は、典型的には35℃〜90℃、より好ましくは45℃から75℃、特に好ましくは55℃から65℃の範囲内である。
【0044】
特に、連続的にまたは半連続的に運転する反応器中で反応が行われるとき、反応混合物中のNH
4+イオンおよびNH
3の濃度を決定する前に化学平衡が達成されるまで待つことが必要である。化学平衡は、典型的には6滞留時間内に達成され、これは、反応器のサイズおよび構成、ならびに加えられる体積に応じて6時間から18時間、特に10時間から14時間に対応することがある。滞留時間は、定められた体積の液体が反応器の中に残る、すなわち「滞留する」期間によって定義される。反応器がxリットルの体積を有する場合、滞留時間は、xリットルの全原料溶液が加えられる、すなわち反応器体積が反応体溶液の流入によって1回置き換えられた時間に対応し、起こる可能性のある逆混合動作は無視される。したがって、通常、6滞留時間で平衡を達成するとき、6時間は、1時間の滞留時間に対応し、平衡を達成するための18時間は、3時間の滞留時間に対応する。
【0045】
用いられる反応器および撹拌装置の型およびサイズに応じて、通常の撹拌速度は、200rpmから1500rpmの間、特に500rpmから1000rpmの間である。
【0046】
用いられる反応体のモル濃度は、典型的には得られる固形分が反応混合物の全重量に対して5重量%から20重量%の間、好ましくは10重量%から15重量%の間を構成するように選ばれ、約20重量%の最大固形分は、反応体溶液の飽和濃度によって制限される。
【0047】
ステップ(a)における沈殿反応は、典型的には保護性ガス雰囲気、たとえば窒素雰囲気またはアルゴン雰囲気の中で行われる。空気中で処理すると、材料の酸化(anoxidation)につながることがある。酸素の存在は、特に沈殿反応時に形成される粒子の層状構造を損傷することがある。これは、歪んだ回折図を有する無秩序化構造を生じることがあるが、通常は本発明による生成物の品質に対して好ましくない効果を及ぼさない。
【0048】
得られるリチウムフリー前駆体は、典型的には、たとえば濾過によって容易に分離できる沈殿物として生成する。得られるリチウムフリー前駆体は、一次結晶子の球または楕円球の成長構造が注目に値する。前駆体は、特に2.0g/cm
3以上の突き固め密度を示すことがある。高い密度を決定する重要な因子は、プレート様結晶子の形成が制限され、結晶粒中に高密度で充填される3次元結晶子が好ましくは生成することである。本発明による材料は、主として菱面体形または類似形を有する角度のある3次元結晶から結晶子が構築されることを特に特徴とする。構造的には、沈殿した粒子は、通常は、窒素中で処理した試料において明らかになるように、ブルーサイト様構造を有する混合水酸化物を構成する。
【0049】
リチウムフリー前駆体の粒径は、1μmから40μmの間であってよい。形状は、球または楕円球の形態であるか、あるいは角度のある端を有してよい。最大粒子の表面から中央への拡散経路は、典型的には最大20μmの長さである。
【0050】
方法ステップ(b):リチウムフリー遷移金属前駆体を単離し、任意選択として乾燥するステップ。
本発明による方法のうちのステップ(b)においては、ステップ(a)において反応混合物から沈殿したリチウムフリー遷移金属前駆体が、通常は単離され、任意選択として乾燥される。単離は、濾過などの通常の方法および手段によって、たとえば吸い込みストレーナを用いて、または遠心分離することによって行うことができ、その結果、得られる固体は、母液から分離される。得られる固体は、通常はたとえば脱塩水で洗浄され、次いで乾燥される。乾燥は、標準的な炉、たとえばマッフル炉の中で行うことができる。温度は、通常は50℃から150℃の間、好ましくは80℃から130℃の間である。
【0051】
典型的には乾いた粉体が得られるが、まだ残留水分をいくらか含有することがある。
【0052】
好ましい実施態様において、ステップ(b)における乾燥は、非酸化性雰囲気の中、たとえば窒素雰囲気またはアルゴン雰囲気の中で行われる。
【0053】
方法ステップ(c):リチウム含有遷移金属前駆体の製造
本発明による方法のうちの方法ステップ(c)は、特に、ステップ(b)において得られるリチウムフリー遷移金属前駆体を溶液、特に熱分解性リチウム化合物の水溶液と反応させることを含む。こうすると、リチウム含有遷移金属前駆体を得ることができる。任意選択として、非水系溶液または水系懸濁物および非水系懸濁物を用いることができる。
【0054】
前記記載の一般式(1)を有する遷移金属酸化物粒子を得るために、ここで用いられるリチウム化合物が熱分解性であることが特に必須であり、熱分解性であるとは、室温で固体である他の副生物を製造することなく加熱によってリチウム化合物を酸化リチウムに変換することができることを意味する。そのような熱分解性リチウム化合物は、特に水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO
3)および硝酸リチウム(LiNO
3)を含む。水酸化リチウムが、その熱分解性および良好な水への溶解性という特性のために、好ましいリチウム化合物である。
【0055】
この反応の性質は、どのような特定の制限も受けない。典型的には、ステップ(b)において得られるリチウムフリー遷移金属前駆体が、水酸化リチウムの水溶液と混合され、それから得られる懸濁物が、蒸発乾固される。リチウムフリー遷移金属前駆体は、水酸化リチウムを含浸される。遷移金属前駆体は、次に必要なら乾燥され、得られる生成物中に残留水分がまだいくらか残ることがある。水酸化リチウム溶液の量は、通常はLiと(Mn+Ni)との間の原子比が、約0.5となるように選ばれる。
【0056】
方法ステップ(d):リチウム含有遷移金属酸化物粒子の製造
本発明による方法のうちの方法ステップ(d)は、特に、ステップ(c)において得られるリチウム含有遷移金属前駆体を300℃〜800℃の温度で、好ましくは500℃〜750℃の温度で焼成することを含む。焼成は、水酸化物が酸化物に変換されることを可能にするように酸素、好ましくは大気酸素を含有する雰囲気中で行われる。任意選択として、焼成は、酸素豊富な雰囲気中でも純酸素中でも行うことができる。任意選択として、焼成操作の前に80℃から200℃の温度で予備乾燥ステップを行うことができる。さらに、ステップ(c)において得られるリチウム含有遷移金属前駆体は、焼成する前にたとえば粉体ミルを用いて均一化を行うこともできる。
【0057】
ステップ(d)における焼成は、1段階、2段階または多段階で行うことができる。好ましくは、焼成は2段階で行われ、焼成は最初に低温、たとえば300℃から450℃で行われ、続いてもっと高い温度、たとえば450℃から700℃で第2段階が行われる。焼成プロセスは、典型的には2時間から24時間、好ましくは4時間から12時間の期間にわたり行われる。2段階以上を有する焼成操作において、第1段階(予備焼成)は、低温でたとえば2時間から4時間行われ、第2段階以降の段階(最終焼成)は、もっと高い温度で4時間から20時間、たとえば10時間から14時間行われる。
【0058】
粒子の長い拡散経路および高い密度を考えると、完全な変換を保証するために通常は固相反応において高温が必要である。ところが、驚くべきことに、本発明による粒子については、粒子の結晶粒サイズが大きなときでさえ高い密度にもかかわらず、800℃未満、特に700℃以下という非常に低い焼成温度で短時間後に本発明の遷移金属酸化物粒子に完全に変換することが可能であることが示された。
【0059】
たとえば350℃において3時間で既にリチウム含有遷移金属前駆体から生成物への完全な変換を行うことができる。特に、この焼成は、本発明による有利なスピネル構造を生じる。制御された結晶子サイズの調節を第1の焼成段階で直接、または第2の焼成段階で別途行うことができる。本発明による生成物は、通常はX線技法的に純相である。焼成条件、すなわち焼成温度および焼成時間の適切な選択により結晶子サイズを高い密度とともに同時に自由に調節することができるという事実の他に、本発明による方法は、高温が必要でなく、その結果、NiO不純物相の形成を有利に回避することができるという理由でも注目すべきである。したがって、関連先行技術の方法において普通であるような高い温度および長い回復時間を省くことができる。エネルギー消費および製造コストは、関連技術において記載されている製造方法と比較して低くなる。
【0060】
本発明による粒子は、より大きな(二次)粒子の場合には小さな一次結晶子の凝塊物として記載することができる。粒子中で得られる結晶子の特別な成長構造は、得られる高い結晶粒密度および粒径にも関わらず、非常に低い温度および短い反応時間、たとえば350℃、3時間で好ましいスピネル構造への迅速な完全変換を可能にする。本発明においては、プレート様一次結晶子と異なり、角度のある特別な3次元の一次結晶子の形状により、粒子の高密度成長構造が実現される。結晶子の一部は、菱面体または双五角錐に関連する形状を有すると記載することができる。本発明による方法では、沈殿反応(ステップ(a))において得られる有利な粒子形態は、前記記載のように大部分を保存することができる。本発明によって得られる粒子における高い突き固め密度にとって、プレート様結晶子の形成が制限され、高密度に充填された、好ましくは3次元の結晶子が結晶粒中に形成されることが決定的である。
【0061】
こうすると、本発明による方法は、高い突き固め密度を有し、同時に焼成条件、特に焼成温度の選択により一次結晶子のサイズを数10ナノメートルからマイクロメートルスケールの範囲で自由に調節することができる、高密度の球または楕円球の遷移金属酸化物粒子が製造されることを可能にする。こうすると、突き固め密度には関わりなく非常に小さな結晶子サイズと大きな結晶子サイズとの両方を設定することができる。この状況において、本発明による生成物は、先行技術に記載されている粒子より大きな突き固め密度を有する。特に、本発明の状況において沈殿反応後にリチウムフリー前駆体が既に高い突き固め密度を有し、これが焼成後のリチウム含有生成物への変換により有利にさらに増加することが示された。
【0062】
さらに別の側面において、したがって本発明は、一般式(1)
LiMn
1.5+yNi
0.5−y−zM
zO
4 (1)
を有し、前記記載の方法によって得ることができる遷移金属酸化物粒子に関する。
【0063】
Mは、元素Co、Mg、FeおよびZn、また任意選択としてAl、V、Cr、Ti、Cu、Be、Ca、Sr、BaおよびLaの1種類以上から特に選ばれる。yは、特に、0から0.5未満の値であり、zは、0から0.1の値であり、(y+z)は、0.5未満の値である。好ましい実施態様において、yは、0から0.2の値、特に好ましくは0から0.1の値である。
【0064】
本発明による粒子は、典型的には1μmから40μm、好ましくは2μmから30μmの平均粒径を有する。
【0065】
本発明による粒子の一次結晶子の平均サイズは、典型的には、10nmから1000nm、好ましくは20nmから200nmである。
【0066】
特に、粒径と一次結晶子との間の比は、典型的には、1000:1から20:1の間、特に100:1から40:1の間である。
【0067】
驚くべきことに、前記記載の本発明による方法を用いると高い突き固め密度、特に2.0g/cm
3以上、たとえば2.1g/cm
3、2.2g/cm
3、2.3g/cm
3以上の突き固め密度を有する遷移金属酸化物粒子を得ることが可能であることが見いだされた。本発明による粒子の突き固め密度は、典型的には、2.1g/cm
3から2.8g/cm
3、特に2.2g/cm
3から2.7g/cm
3の範囲にある。
【0068】
特に、粒子の最小直径に対する最大直径の比は、1.8以下、特に1.4以下、好ましくは1.2以下、特に好ましくは1.1以下である。
【0069】
方法ステップ(e):過リチウム化(over−lithiateden)遷移金属酸化物粒子の製造
さらに別の側面において、本発明は、過リチウム化遷移金属酸化物粒子を製造するための方法に関する。この側面において、特に、上記記載の方法のうちのステップ(d)において得られる遷移金属酸化物粒子が出発材料として用いられる。
【0070】
過リチウム化遷移金属酸化物粒子は、化学法または電気化学法によって製造することができ、化学法による過リチウム化が好ましい。
【0071】
− 化学的過リチウム化(e1)
したがって、本発明はさらに、リチウム含有遷移金属酸化物粒子、特に上記記載の方法のうちのステップ(d)において得られる遷移金属酸化物粒子とリチウム含有化合物および還元剤との混合ステップと、120℃から400℃の温度での固相反応において混合物を変換するステップとを含む方法に関する。変換は、通常は保護性ガス雰囲気中で、たとえば窒素またはアルゴン雰囲気中で行われる。
【0072】
特に好ましい実施態様において、変換は、ヨウ化リチウムを用いて行われる。この場合、ヨウ化リチウムに含有されるヨウ化物は、還元剤として機能するので、さらに別の還元剤を加える必要はない。この実施態様において、変換は、好ましくはヨウ化リチウムの融点の446℃未満で行われ、その結果、固相反応が行われる。温度は、好ましくは150℃から400℃の間、特に好ましくは180℃から300℃の間である。
【0073】
驚くべきことに、本発明による遷移金属酸化物粒子が用いられるとき、融点の位置に基づけば純粋な粉体混合物が存在する温度においても過リチウム化生成物への変換が、迅速かつ完全に起こり得ることが見いだされた。したがって、変換は、低温固相反応の形で行われる。本発明による反応は、150℃未満くらいの低温で開始し、300℃未満の温度、たとえば180〜200℃においても短い反応時間で完結する。反応体の融点未満、特にヨウ化リチウムの融点446℃未満の温度で既に迅速な変換という効果は、反応体が純固体の物理混合物として存在し、給湿も濡れも期待されないから、特に意外であった。本発明による遷移金属酸化物粒子は、一部が長い拡散経路を示す高密度粒子の形でも存在する。したがって、過リチウム化生成物への変換は、起こるとしても反応体、たとえばヨウ化リチウムの融点より高温でしか行われないだろうと予測されるべきであった。そうはならず、反応体が均一でない(non−homegenous)混合物として存在し、本発明による遷移金属酸化物粒子の粒子直径は、>30μmであったのに、過リチウム化生成物への完全変換を短い反応時間内に実現することが可能であった。
【0074】
過リチウム化生成物を製造するための本発明による方法のさらに別の利点は、化学量論量のヨウ化リチウムが用いられるとき、副生物の生成なしで完全な変換が行われることである。不完全な変換または反応体混合物中の過剰なヨウ化リチウムに起因して発生し得るようなどのような不純物も、適当な溶媒、たとえばn−ヘキサンで洗浄することにより、得られる生成物から除去することができる。
【0075】
この反応の顕著な利点は、生成するヨウ素が完全にかつ純粋な形で回収されることである。ヨウ素は、好ましくはたとえば金属の形のリチウムと反応させることによって変換してヨウ化リチウムに戻し、プロセスに再導入することができる。こうすると、ヨウ素は、処分しなければならない廃棄物を構成せず、代わりに本方法に戻すことができ、その結果、ヨウ素は、リチウムのための輸送媒質としてだけ機能する。
【0076】
あるいは、遷移金属酸化物粒子は、リチウム含有化合物、たとえば炭酸リチウムまたは水酸化リチウムと、たとえばシュウ酸、ギ酸、ホルムアルデヒドならびにそれらの誘導体および塩から選ばれる還元剤とによって変換することもできる。
【0077】
上記記載の化学的過リチウム化は、1段階、2段階またはいくつかの個別の段階で行うことができる。第1の化学的過リチウム化段階後に得られる材料は、好ましくは別の過リチウム化ステップ(段階2)を受ける。過リチウム化を2段階以上で行うことは、遷移金属酸化物粒子中のリチウム成分をさらに増加することに有利に使用される。
【0078】
− 電気化学的過リチウム化(e2)
化学的過リチウム化への代替として、過リチウム化は、電気化学的にも行うことができる。この状況において、特に上記記載の方法のうちのステップ(d)において得られる遷移金属酸化物粒子は、リチウムイオンバッテリーにおいて典型的に用いられるような電解質中で過リチウム化材料に変換される。電解質は、電気化学セル、特にリチウムイオンバッテリーにおいて通常用いられるすべての電解質、たとえば、EC:DMC(炭酸エチレン(ethylene carbonat):炭酸ジメチル、典型的には1:1の重量比で)を含む。電解質は、適当な導電性化合物、特にたとえばリチウムヘキサフルオロホスファート(LiPF
6)などのリチウム塩をさらに含有するが、電解質は、これに限定されるとはみなされない。
【0079】
電気化学的変換は、典型的には、通常1.4Vから4.0V、好ましくは1.5Vから3.0V、特に好ましくは1.8Vから2.5Vの電位で行われ、遷移金属酸化物粒子は、電気化学的な手段により過リチウム化材料に変換される。過リチウム化に必要なリチウムイオンは、対向電極および/または犠牲電極によって提供される。過リチウム化材料への変換は、この場合、通常は追加リチウムの所望の含有量(以下の文に記載されるように、一般式(2)中の値x)に応じて前記記載の必要な境界電位、たとえばLi/Li
+に対して1.5Vに達するまで定電流での変換によって行われる。過リチウム化は、有利には、境界電位に達した後で、次の定電位後リチウム化によってさらに支持することができる。必要なら、過リチウム化材料への変換の前に、材料の部分脱リチウムまたは完全脱リチウムによる活性化を行うこともできる。このプロセスも、電気化学的に行うことができる。
【0080】
− 過リチウム化遷移金属酸化物粒子
遷移金属酸化物粒子について記載した粒子形態は、過リチウム化粒子においても維持され、これらも、遷移金属酸化物粒子について前記記載のように高い突き固め密度とともに球または楕円球の形態を有し、突き固め密度は、さらに増加することもあり得る。さらに、過リチウム化粒子は、強い電気化学活性を特徴とする。
【0081】
したがって、本発明は、本発明による方法によって製造可能な一般式(2)を有する過リチウム化遷移金属酸化物粒子にも関する。
【0082】
特に、前記記載の方法により、一般式(2)
Li
1+xMn
1.5+yNi
0.5−y−zM
zO
4 (2)
(式中、xは、0<x<1.5の値であり、
Mは、元素Co、Mg、FeおよびZn、また任意選択としてAl、V、Cr、Ti、Cu、Be、Ca、Sr、BaおよびLaのうちの1種類以上から特に選ばれ、yは、0から0.5未満の値であり、zは、0から0.1の値であり、(y+z)は、0.5未満の値である)を有する遷移金属酸化物粒子が得られる。好ましい実施態様において、yは、0から0.2の値、特に好ましくは0から0.1の値である。
【0083】
本発明による過リチウム化粒子は、典型的には、1μmから40μm、好ましくは2μmから30μmの平均粒径を有する。
【0084】
本発明による過リチウム化粒子の1次結晶子の平均サイズは、典型的には、10nmから1000nm、好ましくは20nmから200nmである。
【0085】
特に、粒径と1次結晶子との間の比は、典型的には、1000:1から20:1の間、特に100:1から40:1の間である。
【0086】
驚くべきことに、前記記載のように本発明による方法で、高い突き固め密度を有する、特に2.2g/cm
3以上、たとえば2.3g/cm
3、2.4g/cm
3、2.3g/cm
3以上の突き固め密度を有する過リチウム化遷移金属酸化物粒子を得ることが可能であることが見いだされた。本発明による粒子の突き固め密度は、典型的には、2.3g/cm
3から3.0g/cm
3、特に2.4g/cm
3から2.8g/cm
3の範囲にある。
【0087】
特に、粒子は、球または楕円球の結晶粒形状を有し、粒子の最小直径に対する最大直径の比は、1.8以下、特に1.4以下、好ましくは1.2以下、特に好ましくは1.1以下である。
【0088】
本発明による(過リチウム化)遷移金属酸化物粒子の使用者
一般式(1)を有する本発明による遷移金属酸化物粒子と一般式(2)を有するその過リチウム化形との両方は、それらの強い電気化学活性のために、電極材料として、たとえばカソード材料として、特にたとえばリチウムイオン二次バッテリーにおけるようなリチウムバッテリーにおいて使用するのに特に良好に適している。
【0089】
本発明による過リチウム化遷移金属酸化物粒子は、リチウム二次バッテリーにおける貯蔵物質として、またはカソード材料もしくはアノード材料中の添加物としての使用にも理想的に適している。こうすると、特に高静電容量電極の使用時に不可逆的な開始損失を補償することが可能である。特に過リチウム化粒子が電極材料として用いられるとき、高い静電容量および高いサイクル安定性を実現することができる。
【実施例】
【0090】
測定方法
かさ密度および突き固め密度の決定
タップ密度(同義語:突き固め密度)は、突き固め体積計(STAV2003、J.エンゲルスマン(Engelsmann)株式会社(AG))を用い、メーカー説明書に従って決定した。このために、粉体形試料をメスシリンダーに投入し、重量測定によってその質量を決定した。最初に質量と圧密を開始する前の体積との商からかさ密度を決定した。次に、満たしたシリンダーを突き固め体積計(STAV2003、J.エンゲルスマン株式会社)の中に取り付け、一定条件下で1500回突き固めた。試料質量と1500回の突き固め操作後の試料体積との商を突き固め密度として用いた。100mlメスシリンダーを使用し、バルク体積は、100mlであった。
【0091】
1次結晶子サイズの決定
X線回折図の反射幅に基づき、ポーリー(Pawley)法を用いて粒子の1次結晶子の直径を決定した。
【0092】
粒径および粒径分布の決定
レーザ回折測定によって粒径および粒径分布(D10、D50、D90)を決定した。特に断らない限り、すべてのサイズ測定値は、粒子直径を指す。D50は、平均粒径を示す。D50は、粒子の50%が示される値より小さいことを意味する。同様に、D10およびD90は、粒子のそれぞれ10%および90%が示される値より小さいことを示す。
【0093】
粒子形態の決定
粒子のX線電子顕微鏡像を用いて粒子形態を決定した。この操作のために、粒子を平面に投影し、投影されている粒子の最小直径および最大直径を決定した。
【0094】
実施例1
a)リチウムフリー遷移金属前駆体の製造
連続運転する撹拌反応器中で製造を行った。このために、脱塩水で満たされた反応器中に3種類の異なる溶液(金属塩、苛性アルカリ溶液、NH
3)を一定の体積流量で同時に導入し、激しく撹拌した。金属塩と苛性アルカリ溶液が反応し合い、不溶性沈殿物を形成した。添加と同時に、生成した懸濁物の対応する体積をオーバーフローによって反応器区域から放流した。6滞留時間後、反応器中で安定な平衡が達成され、試料採取を開始した。反応条件は、表1に示す通りであった。
【0095】
懸濁物を集め、次に吸込ストレーナを通して濾過した。固体材料を母液から分離し、次に中性塩が除去されるまで脱塩水で洗浄した。母液を化学分析し、NH
4+、NH
3およびOH
−の濃度を決定した。表2に一覧を示すように濃度を決定した。
【0096】
次に、固体材料を100℃の温度で乾燥した。乾燥した粉体の突き固め密度、形態および化学組成を表3に示すように分析した。
【0097】
図2は、窒素中で処理し、120℃で乾燥した後の組成Ni:Mn=1:3を有する本発明によるリチウムフリー前駆体のX線回折像を示す。ブルーサイト構造は明白であり、空間群P−3m1、格子定数a=3.2715A、c=4.7239A、結晶子サイズLfullB=110nmである。
【0098】
b)リチウム−ニッケル−マンガン遷移金属酸化物粒子(生成物I)の製造
a)において得た前駆体を水酸化リチウム溶液と混合し、懸濁物を蒸発乾固することにより製造を行った。Li:(Mn+Ni)の原子比=0.5となるように水酸化リチウム溶液の量を選んだ。特に断らない限り、前駆体とLiOHとの乾燥混合物を次に300℃で3時間予備焼成を行い、続いて700℃で12時間最終焼成を行った。
【0099】
得られた遷移金属粒子の突き固め密度、形態および化学組成を、表3に一覧を示すように分析した。
【0100】
c)過リチウム化遷移金属酸化物粒子(生成物2)の製造
b)において得られたリチウム含有遷移金属酸化物粒子の5gを6gのLiIと混合し、基部フリットを有するガラス管に加えた。基部フリットを通して試料中に乾燥アルゴンをフラッシュした。化学量論量のLiIを使用し、その結果、完全な変換を行った。LiIが吸湿性であるため、水分を存在させずに反応を行った。酸素も排除した。油浴により容器およびガス供給ラインを150℃から200℃の間の温度に加熱した。アルゴンでフラッシュすることにより、変換時に生成した気相元素ヨウ素I
2を追い出した。冷却装置の中でヨウ素を固体として結晶化させ、したがって高度に純粋な形で回収した。典型的な反応時間は、30分から2時間の間であった。得られた生成物は、副生物を含まなかった。
【0101】
実施例2から4
リチウムフリー遷移金属前駆体およびリチウム−ニッケル−マンガン遷移金属酸化物粒子を実施例1の場合に記載したと同じように製造し、表1に記載するように反応条件を選んだ。母液から計算したNaOH、NH
4+およびNH
3の濃度を表2に一覧で示す。得られた遷移金属粒子の突き固め密度、形態および化学組成を、表3に一覧を示すように分析した。
【0102】
比較例1および2
リチウムフリー遷移金属前駆体およびリチウム−ニッケル−マンガン遷移金属酸化物粒子を実施例1の場合に記載したと同じように製造し、表1に記載するように反応条件を選んだ。母液から計算したNaOH、NH
4+およびNH
3の濃度を表2に一覧で示す。得られた遷移金属粒子の突き固め密度、形態および化学組成を、表3に一覧を示すように分析した。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
【表4】
【0107】
得られた粒子形態の、沈殿時の母液中で決定されたNH
3およびNH
4+の濃度の関数としての概要を
図6に示す。
【0108】
沈殿反応時に母液中の0.05モル/lのNH
4+濃度を調節すると、球状の形態と高い突き固め密度とを同時に有する粒子を得ることができることが示された。これに対して、化学量論を超えるNaOHが用いられた、すなわち母液中にOH
−イオンが残った比較例1においては、低い突き固め密度を有する不規則に形成された粒子を得た。NH
4+濃度が0.05モル/lより低かった比較例2においては、低い突き固め密度を有する部分的に凝塊した非球形の粒子を得た。
【0109】
実施例5:
実施例1によって調製した遷移金属酸化物をさまざまな量のLiIと反応させた。使用したヨウ化リチウムの量の助けを借りて実施例1の場合に記載した方法におけるLi
1+xM
2O
4中のリチウム含有量(1+x)を非常に効果的に調節することが可能であった。LiIを用いた変換後の生成物は、X線回折図において依然として反射パターン中に肩を有することが見いだされ、18°=2θにおける主反射上で特に目立っていた。
【0110】
X線回折により結晶構造を決定し、表5に示す。2.46の突き固め密度を有する実施例1において得た過リチウム化生成物の粒子の顕微鏡像を
図7に示す。空間群141/amdを有する純相Li
2Ni
0.5Mn
1.5O
4の対応する回折図を
図8に示す。
【0111】
【表5】
【0112】
したがって、本発明による粒子の有利な球形の粒子形態も過リチウム化後に維持されたままであることが示された。
【0113】
実施例6:結晶子サイズに対する焼成温度の効果
実施例1に記載した方法によって遷移金属酸化物粒子を製造し、次節に記載するようにさまざまな温度でさまざまな時間焼成した。粒子の結晶子サイズに対する焼成温度の効果をX線回折によって決定した。
【0114】
図2は、350℃で3時間焼成した後の本発明による遷移金属酸化物粒子のX線回折図を示す。ポーリー法を用いて回折図を調べると、反射幅は、L Vol IB=15nm〜20nmのスピネルの1次結晶子サイズを明らかにする。X線回折像は、純相LNMSを示す。
【0115】
図3は、350℃で3時間焼成した本発明による1つの試料および700℃で10時間焼成した1つの試料の回折図を示す。低い方の温度で反応した試料と比較して高い方の温度で焼成した後の反射半値幅の方が狭く、結晶子成長を示した。ポーリー法による結晶子サイズは、100nm〜200nmの値を返す。
【0116】
焼成温度の影響を受ける結晶子サイズの制御可能性を
図4に示す。
図5は、熱変換に起因する特別な結晶粒構造が変化しないことを示す。
【0117】
実施例7:本発明による遷移金属酸化物粒子(生成物1)の電気化学挙動のキャラクタリゼーション
組成Li
1Ni
0.5Mn
1.5O
4を有するリチウム−ニッケル−マンガン遷移金属酸化物粒子を実施例1に記載したように製造し、その電気化学的挙動を決定した。
【0118】
工業機械に被覆し、技術的に典型的な15mg/cm
2およびそれ以上の電極被覆率を有する電極を用いて粒子の電気化学的挙動を分析した。MTIによって製造されたボタン電池中の半電池配置で金属リチウムに対してサイクル化を行った。ワットマン(Whatman)からのGFAガラス繊維層をセパレータとして使用し、電解質は、1M LiPF
6を導電体塩として有するEC:DMC(1:1)であった。Li/Li
+に対して4.9Vの充電スイッチオフ電圧および3.5V、2.4V、1.9Vおよび1.5Vの放電スイッチオフ電圧を有するさまざまな電位境界の間でサイクル化を行った。すべての試料を0.5Cで充電した。Li/Li
+に対して3.5〜4.9Vの動作範囲の場合にC/2から5Cの放電レートを用いた負荷試験を示す。ここで、Cレートは、LiNi
0.5Mn
1.5O
4の理論充電静電容量に対するものである。
図9参照。本発明による材料の負荷負担能力およびサイクル安定性は、15mg/cm
2のLiNi
0.5Mn
1.5O
4の場合にここで示すように、高い電極被覆率でも優れている。
【0119】
この動作範囲は、この材料の4.7V動作レベルに対応する。動作範囲4.9〜3.5Vにおいて約120mAh/gを使用する。負荷負担能力は、5Cでも非常に高い。
【0120】
実施例8:本発明による過リチウム化遷移金属酸化物粒子(生成物2)の電気化学的挙動のキャラクタリゼーション
組成Li
1.6Ni
0.5Mn
1.5O
4を有する過リチウム化されたリチウム−ニッケル−マンガン遷移金属酸化物粒子を実施例1に記載したように調製し、電気化学的挙動を分析した。
【0121】
得られた材料の電気化学的挙動を
図10から12に示す。これらの像は、本発明による材料の比静電容量が実用化されているリチウム豊富層状酸化物の比静電容量より著しく大きいことを示す。これらの電位曲線は、安定な挙動および高いサイクル安定性を、充電曲線と放電曲線との間の小さなヒステリシスとともに示す。小さなヒステリシスは、迅速な反応速度を示唆する。この形において、過リチウム化材料は、充電されていないアノードに対してそのまま設置することができる。
【0122】
実施例9:電気化学的に製造した過リチウム化遷移金属酸化物粒子(生成物2)の電気化学的挙動のキャラクタリゼーション
リチウム−ニッケル−マンガン遷移金属酸化物粒子を実施例1に記載したように製造し、次に過リチウム化生成物に電気化学的に変換した。このために、遷移金属酸化物粒子を電解質中で電極としてLi/Li
+に対して2.4V、1.9Vおよび1.5Vの電位でリチウム豊富材料に変換し、それによって得た過リチウム化材料の電気化学的挙動を分析した(
図13)。200mAh/g(2.4Vで)、270mAh/g(1.9Vで)および320mAh/g(1.5Vで)の比静電容量に対して得た値から、Li
2.18Ni
0.5Mn
1.5O
4、Li
1.84Ni
0.5Mn
1.5O
4およびLi
1.36Ni
0.5Mn
1.5O
4について対応する過リチウム化生成物の組成を決定することができる。
【0123】
得た材料をLi/Li
+に対して動作範囲4.9〜2.4Vでサイクル化する場合、高い安定性で可逆的に200mAh/gより多くが用いられる。これは、180mAh/gで実用化されているNCA層状酸化物の比静電容量より既に著しく大きい。Li/Li
+に対して4.9〜1.9Vの動作範囲でサイクル化すると、比静電容量について270mAh/gの最大値の使用が可能になる。これは、リチウム豊富層状酸化物の高い静電容量値より既に大きい。Li/Li
+に対して4.9〜1.5Vの動作範囲でサイクル化を続ければ、最大320mAh/gが実現可能である。したがって、本発明による材料は、過リチウム化形と非過リチウム化形との両方で、高静電容量カソード材料として全電池中で用いることができる。
【0124】
実施例10:全電池中の利用のためのカソード中の添加物としての本発明によって過リチウム化した材料Li
1.6Ni
0.5Mn
1.5O
4の使用
本発明による遷移金属酸化物粒子(生成物1)を高電圧プラトー上で電気化学的に用いようとするだけなら、開始時のアノードの不可逆的損失を補償する添加物として過リチウム化材料(生成物2)も有利に用いることができる。高エネルギー電池におけるこの材料の使用を高電圧域だけに限定するなら、可能な比静電容量のうち電池レベルで低エネルギー密度に対応する部分だけが用いられる。しかし、モジュールレベルでは高い電位を有利に用いることができる。高い電池電位は、所望の合計電圧を実現するためには、モジュール中でより少ない単電池を接続しなければならないことを意味する。これは、システムレベルでより多くのエネルギー密度の回収という結果となる。この変化形は、高静電容量アノードを用いるとき特に有用である。高静電容量アノードは、典型的にかなりの不可逆的な開始損失を示す。
【0125】
全電池において、カソードのリチウム保有量とアノードのリチウム保有量とは、互いに連動している。一方の側、通常はアノードからリチウムが不可逆的に失われると、そのリチウムはもはや電気化学レドックスプロセスに利用可能ではない。したがって、正極における活物質はもはや完全には再リチウム化されず、部分的にしか用いることができない。これは、カソードには材料消費の増加およびコストの上昇、電池には静電容量の低下を意味する。アノードにおける不可逆的な充電損失を補償することが可能なら、カソード材料を十分に用いることができる。
【0126】
本発明による材料の4.7Vプラトーを用いようとするだけなら、過リチウム化されたLi
1+x[Ni
0.5Mn
1.5]O
4を添加物として用いることができる。初回充電操作において、3Vプラトーで添加物のx個のリチウムが抜き出され、4.7Vプラトーで1個のリチウムが抜き出される。x個による充電値をアノードにおける不可逆的充電損失と等しいとすれば、次に高電圧プラトー全体を用いることができる。これは、ケイ素およびその複合材料、ならびに非晶質炭素などのアノード材料にとって特に重要である。それらのアノード材料の比静電容量値は、典型的なグラファイトのものより高いが、同時に、それらは、高い不可逆的開始静電容量を有する。
【0127】
本発明による過リチウム化粉体の使用を、
図14および15に示す。電極複合材料の組成は、90重量%の活性質量および4%の結合剤および6%の導電性添加物であった。負極における不可逆的損失を補償するために、式量単位あたり0.6個の追加のリチウムを電気化学的に寄与することができる過リチウム化されたLi
1.6[Ni
0.5Mn
1.5]O
4(実施例1からの生成物2)をLi
1.0[Ni
0.5Mn
1.5]O
4(実施例1からの生成物1)と混合した。カソードにおいて供給される表面積あたりの不可逆的電荷寄与がアノードにおける不可逆的損失と正確に同等となるように、活性質量成分の比を選んだ。
【0128】
図14は、半電池配置における電位曲線を示す。生成物1および過リチウム化生成物2からの活物質混合物を、初回サイクルにおける35mAh/gの不可逆的電荷寄与に調節した。この電荷寄与は、用いたアノードの不可逆的損失をちょうど補償する。寄与を調節するには、78重量%のLi
1.0[Ni
0.5Mn
1.5]O
4と22重量%のLi
1.6[Ni
0.5Mn
1.5]O
4との混合物が必要であった。可逆的電荷変換は、130mAh/gである。初回サイクル:電極複合材料中の過リチウム化材料の標的型使用に起因する35mAh/gの不可逆的損失。
図15は、半電池配置における電極複合材料のサイクル挙動を示す。
【0129】
記載のLMNO−電極複合電極を、全電池構造でグラファイトに対してサイクル化した。複合材料カソードによるグラファイトアノードにおける不可逆的電荷損失の補償に起因して、全電池構造において130mAh/gのLMNOによる高電圧プラトー全体も用いることができる。
【0130】
電池データ:
カソード:複合材料15mgcm
−2、初回充電160mAhg
−1、2回目以降のサイクルにおいて130mAhg
−1
アノード:グラファイト9mgcm
−2、310mAhg
−1
収支:初回サイクルにおいて16%余剰
電解質:EC:DMC(重量%1:1)+1M LiPF
6
比は、用いる材料(カソード、アノード)および必要な電荷寄与に従って個別に適応させなければならない。
【0131】
図16は、本発明による電極複合材料を用いることによる不可逆的アノード損失の補償により、半電池測定からの可逆比静電容量に対応する130mAh/gのLMNOを全電池においても実現することが可能であることを示す。