特許第6587762号(P6587762)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6587762
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】カラーセラミックス
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/488 20060101AFI20191001BHJP
【FI】
   C04B35/488
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-567313(P2018-567313)
(86)(22)【出願日】2018年6月22日
(86)【国際出願番号】JP2018023860
(87)【国際公開番号】WO2019004090
(87)【国際公開日】20190103
【審査請求日】2018年12月21日
(31)【優先権主張番号】特願2017-127608(P2017-127608)
(32)【優先日】2017年6月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷 淑人
【審査官】 西垣 歩美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−216289(JP,A)
【文献】 特開平4−114964(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/024275(WO,A1)
【文献】 特開昭59−174574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/48−35/488
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化剤を含むジルコニアの含有量が80質量%以上であり、
ジルコニア結晶と、アルミン酸コバルト結晶にマンガンが固溶した固溶結晶とを含有するカラーセラミックス。
【請求項2】
前記固溶結晶は、断面における面積占有率が1.5面積%以上7.5面積%以下である請求項1に記載のカラーセラミックス。
【請求項3】
前記固溶結晶の平均結晶粒径は、0.8μm以下である請求項1または請求項2に記載のカラーセラミックス。
【請求項4】
前記固溶結晶の結晶粒径の最大値は、1.2μm以下である請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のカラーセラミックス。
【請求項5】
隣り合う前記固溶結晶の重心間距離の平均値は、1.5μm以上4μm以下である請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のカラーセラミックス。
【請求項6】
隣り合う前記固溶結晶の重心間距離の標準偏差は、1.5μm以下である請求項5に記載のカラーセラミックス。
【請求項7】
表面における前記ジルコニア結晶の単斜晶の割合が、内部における前記ジルコニア結晶の単斜晶の割合よりも多い請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のカラーセラミックス。
【請求項8】
前記表面における前記ジルコニア結晶の単斜晶の割合が、前記内部における前記ジルコニア結晶の単斜晶の割合よりも3倍以上10倍以下多い請求項7に記載のカラーセラミックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カラーセラミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニアセラミックスは、機械的特性が高く、高級感および美的満足感を感じられるものである。そのため、近年では、時計のベゼル、携帯電話のキー、ピロー等の装飾部品として様々な分野に広く用いられている。そして、嗜好の多様化に応えて様々な色調とすべく、着色成分について種々の検討が為されている。
【0003】
そして、本願出願人は、淡青色のCoO−Al23からなる色素源を含有する着色ジルコニアセラミックスを提案していた(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−38363号
【発明の概要】
【0005】
本開示のカラーセラミックスは、安定化剤を含むジルコニアの含有量が80質量%以上である。そして、ジルコニア結晶と、アルミン酸コバルト結晶にマンガンが固溶した固溶結晶とを含有する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
色調の嗜好は多種多様であり、近年においては、暗青色のジルコニアセラミックスが求められている。ここで、暗青色とするには、淡青色のアルミン酸コバルト(例えば、CoO−Al23)とは別に、暗色化の作用をなす酸化マンガンからなる粒子を存在させることで実現できることが知られている。しかしながら、酸化マンガンは、ジルコニアおよびアルミン酸コバルトよりも硬度が低いことから、酸化マンガンからなる粒子を含有したジルコニアセラミックスを装飾部品とするための加工にあたって、上記粒子は脱粒しやすかった。そして、脱粒した箇所から周りの結晶が脱粒することによって、大きな窪み(以下、ピンホールと記載する。)が生じやすかった。ここで、ピンホールが発生した加工品は不良品となる。また、酸化マンガンからなる粒子を含有したジルコニアセラミックスは、加工によってピンホールが生じないものであっても、身に着けていたときに他のものにぶつけたり、接触させたりした際に脱粒のおそれを有する。それ故、今般においては、暗青色の色調を呈しつつ、長期間にわたって高い美的満足感を与えることができるジルコニアセラミックスが求められている。
【0007】
本開示のカラーセラミックスは、暗青色の色調を呈しつつ、長期間にわたって高い美的満足感を与えることができる。以下に、本開示のカラーセラミックスについて詳細に説明する。
【0008】
本開示のカラーセラミックスは、安定化剤を含むジルコニアの含有量が80質量%以上であり、ジルコニア結晶と、アルミン酸コバルト結晶にマンガンが固溶した固溶結晶とを含有している。
【0009】
本開示のカラーセラミックスは、上記構成を満足していることにより、脱粒しやすい酸化マンガンからなる粒子が存在せず、代わりに、マンガンが固溶したアルミン酸コバルト結晶が存在することで、暗青色の色調を呈する。そして、アルミン酸コバルト結晶は脱粒しにくいため、加工の際にピンホールが発生しにくい。よって、本開示のカラーセラミックスは、加工によってピンホールが発生しにくく、使用にあたって脱粒のおそれが少ないため、長期間の使用に耐え得る。このように、本開示のカラーセラミックスは、暗青色の色調を呈しつつ、長期間にわたって高い美的満足感を与えることができる。
【0010】
ここで、暗青色とは、CIE1976L*a*b*色空間において、明度指数L*が5以上25以下、クロマティクネス指数a*が−20以上10以下、クロマティクネス指数b*が−40以上−5以下である色調のことである。
【0011】
また、安定化剤とは、ジルコニアを安定した相状態(正方晶または立方晶)に保つためのものであり、例えば、酸化イットリウム(Y23)、酸化セリウム(CeO2)、酸化ディスプロシウム(Dy23)、酸化マグネシウム(MgO)および酸化カルシウム(CaO)等から選ばれる少なくとも1種のことである。特に、安定化剤が酸化イットリウムであれば、イオン半径がジルコニアに近いことから安定化度合が高く、ジルコニアの粗大結晶を発生させにくいため、カラーセラミックスの機械的特性を優れたものとすることができる。
【0012】
次に、各種測定方法および確認方法について説明する。
【0013】
まず、安定化剤を含むジルコニアの含有量については、まず、蛍光X線分析装置(XRF)を用いてカラーセラミックスの半定量分析を行なうことで、ジルコニウム(Zr)の含有量を求め、このジルコニウムをジルコニア(ZrO2)に換算することで算出する。
【0014】
次に、安定化剤の含有量については、ジルコニアと同様に、XRFを用いてカラーセラミックスの半定量分析を行ない、例えばイットリウム(Y)が検出されたならば、イットリウムの含有量を酸化イットリウムに換算することで算出すればよい。そして、上述の方法により算出した、ジルコニアおよび安定化剤の含有量を合計することで、安定化剤を含むジルコニアの含有量を算出することができる。
【0015】
また、ジルコニア結晶が存在しているか否かは、X線回折装置(XRD)によって測定を行ない、JCPDSデータと照合することで確認すればよい。
【0016】
また、アルミン酸コバルト結晶にマンガンが固溶した固溶結晶が存在しているか否かの確認は、以下の方法を行なえばよい。まず、XRDによって測定を行ない、JCPDSデータと照合することにより、アルミン酸コバルト結晶の存在を確認する。次に、カラーセラミックスを切断し、切断された断面を鏡面研磨した後、1360〜1410℃で10〜20分間熱処理し、熱処理した面を測定面として、電子線マイクロアナライザ(EPMA)による面分析を行なう。そして、得られたカラーマッピングにおいて、アルミン酸コバルト結晶の存在位置を示すアルミニウム、コバルトおよび酸素が重なる領域でのマンガンの検出の有無により、固溶結晶が存在しているか否かを確認することができる。また、他の確認方法としては、測定面のアルミン酸コバルト結晶に対してエネルギー分散型X線分析(EDS)を行ない、アルミン酸コバルト結晶においてマンガンが検出されるかを確認する方法もある。
【0017】
また、カラーセラミックスの色調については、色彩色差計(コニカミノルタ社(製)CM‐700dまたはその後継機種)を用い、JIS Z 8722−2000に準拠して、CIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*の値、クロマティクネス指数a*およびb*の値を求めればよい。なお、測定条件としては、光源をCIE標準光源D65とし、照明受光方式を条件a((45−n)〔45−0〕)に、測定径を3mmに設定すればよい。
【0018】
また、本開示のカラーセラミックスにおける固溶結晶は、断面における面積占有率が1.5面積%以上7.5面積%以下であってもよい。このような構成を満足するならば、加工によってピンホールが発生しにくく、使用にあたって脱粒のおそれが少ないだけでなく、深みのある暗青色の色調を呈し、より高い美的満足感を与えることができる。
【0019】
ここで、深みのある暗青色とは、CIE1976L*a*b*色空間において、明度指数L*が7以上22以下、クロマティクネス指数a*が−13以上0以下、クロマティクネス指数b*が−30以上−10以下である色調のことである。
【0020】
また、カラーセラミックスの断面における固溶結晶の面積占有率(言い換えれば、固溶結晶の占める面積比率)は、以下の方法により算出することができる。まず、上述した方法により固溶結晶の存在を確認する。次に、SEMにより撮影した上記測定面の写真において、固溶結晶を黒く塗りつぶし、これを画像データとして読み取り、画像解析ソフト「A像くん」(登録商標、旭化成エンジニアリング(株)製)の粒子解析という手法を適用して画像解析し、固溶結晶の面積占有率を算出すればよい。なお、画像解析ソフト「A像くん」の解析条件としては、例えば粒子の明度を「暗」、2値化の方法を「手動」、小図形除去を「0.1μm」、閾値を「150」とすればよい。
【0021】
また、本開示のカラーセラミックスにおいて、固溶結晶の平均結晶粒径は、0.8μm以下であってもよい。このような構成を満足するならば、固溶結晶はより脱粒しにくいサイズになることから、本開示のカラーセラミックスは、加工によってピンホールがより発生しにくく、使用にあたって脱粒のおそれがより少なくなる。
【0022】
ここで、固溶結晶の平均結晶粒径については、固溶結晶の面積占有率を求めたときと同様に、画像解析ソフト「A像くん」の粒子解析という手法を用いて算出すればよい。
【0023】
また、本開示のカラーセラミックスにおいて、固溶結晶の結晶粒径の最大値が、1.2μm以下であってもよい。このような構成を満足するならば、脱粒しやすいサイズの固溶結晶が少なくなることから、本開示のカラーセラミックスは、加工によってピンホールがより発生しにくく、使用にあたって脱粒のおそれがより少なくなる。
【0024】
ここで、固溶結晶の結晶粒径の最大値については、固溶結晶の面積占有率を求めたときと同様に、画像解析ソフト「A像くん」の粒子解析という手法を用いて算出すればよい。
【0025】
また、本開示のカラーセラミックスにおいて、隣り合う固溶結晶の重心間距離の平均値は、1.5μm以上4μm以下であってもよい。ここでの重心間距離の平均値とは、隣り合う固溶結晶の重心同士の最短距離の平均値のことである。よって、このような構成を満足するならば、固溶結晶が分散していることから、本開示のカラーセラミックスは、色ばらつきが抑えられ、需要者に高い美的満足感を与えることができる。
【0026】
なお、色ばらつきについては、カラーセラミックスの断面の複数箇所で、CIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*の値、クロマティクネス指数a*およびb*の値の測定を行ない、得られたL*、a*、b*の最大値からL*、a*、b*の最小値をそれぞれ引くことで、ΔL、Δa、Δbを算出し、ΔE=((ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)21/2により色ばらつきΔEを求めればよい。
【0027】
また、隣り合う固溶結晶の重心間距離の平均値については、固溶結晶の面積占有率を求めたときと同様に、画像解析ソフト「A像くん」の重心間距離法という手法を用いて算出すればよい。
【0028】
また、本開示のカラーセラミックスにおいて、隣り合う固溶結晶の重心間距離の標準偏差は、1.5μm以下であってもよい。ここでの重心間距離の標準偏差とは、固溶結晶同士の分散度合いを示す指標である。よって、このような構成を満足するならば、固溶結晶がより分散していることから、本開示のカラーセラミックスは、色ばらつきがさらに抑えられ、需要者に高い美的満足感を与えることができる。
【0029】
なお、隣り合う固溶結晶の重心間距離の標準偏差については、固溶結晶の面積占有率を求めたときと同様に、画像解析ソフト「A像くん」の重心間距離法という手法を用いて算出すればよい。
【0030】
また、本開示のカラーセラミックスにおいて、表面におけるジルコニア結晶の単斜晶の割合が、内部におけるジルコニア結晶の単斜晶の割合よりも多くてもよい。ここで、内部とは、本開示のカラーセラミックスの表面から1.0mm以上深い部分のことである。なお、ジルコニア結晶の単斜晶の割合とは、ジルコニア結晶の正方晶、立方晶および単斜晶の合計に対するものである。
【0031】
そして、このような構成を満足するならば、表面において単斜晶が存在することによる圧縮応力を効果的に掛けることができ、圧縮応力によりカラーセラミックスの表面に亀裂が発生しにくくなる。そのため、本開示のカラーセラミックスの機械的強度が向上し、長期間使用してしても、破損しにくくなることから、長期間にわたって高い美的満足感を与えることができる。
【0032】
また、本開示のカラーセラミックスにおいて、表面におけるジルコニア結晶の単斜晶の割合が、内部におけるジルコニア結晶の単斜晶の割合よりも3倍以上10倍以下多くてもよい。このような構成を満足するならば、表面において単斜晶が存在することによる圧縮応力をさらに効果的に掛けることができ、本開示のカラーセラミックスの機械的強度がより向上する。
【0033】
なお、本開示のカラーセラミックスの表面におけるジルコニア結晶の単斜晶の割合は、例えば、0.3%以上30%以下であってもよい。一方、本開示のカラーセラミックスの内部におけるジルコニア結晶の単斜晶の割合は、例えば、0.1%以上3.0%以下であってもよい。
【0034】
ここで、表面および内部におけるジルコニア結晶の単斜晶の割合は、カラーセラミックスの表面および内部それぞれに対してXRDで測定を行ない、得られたX線回折強度から以下の計算式で求めることができる。
【0035】
単斜晶の割合(%)=(Im1+Im2)/(Im1+Im2+It+Ic)
It :正方晶(111)面のX線回折強度
Ic :立方晶(111)面のX線回折強度
Im1:単斜晶(111)面のX線回折強度
Im2:単斜晶(11−1)面のX線回折強度
また、本開示のカラーセラミックスは、アルミナを含有していてもよい。特に、カラーセラミックスを構成する全成分100質量%のうち、アルミナの含有量が0.5質量%以上11質量%以下であるならば、ジルコニア結晶の粒成長を抑制することができるため、カラーセラミックスの機械的強度をより向上できる。
【0036】
また、本開示のカラーセラミックスは、JIS R 1601−2008に準拠して求められる3点曲げ強度が900MPa以上であり、JIS R 1610−2003に準拠して求められるビッカース硬度Hvが13GPa以上であるならば、ガラスまたは金属からなる塵埃のような硬度の高い物質と接触しても、傷が付きにくくなる。
【0037】
また、本開示のカラーセラミックスは、見掛密度が5.7g/cm3以上であるならば、表面における開気孔が少なくなり、開気孔の輪郭から発生する脱粒を抑制することができる。なお、見掛密度は、JIS R 1634−1998に準拠して求めればよい。
【0038】
そして、本開示のカラーセラミックスは、時計用ベゼル、時計用バンド駒等の時計用部品、押下操作する各種キー、ピロー、外装等の携帯電話機用部品、釣糸用ガイドリング等の釣糸案内用部品を始め、ブローチ、ネックレス、イヤリング、リング、ネクタイピン、タイタック、メダル、ボタン等の装身具用部品、床、壁、天井を飾るタイルあるいはドアの取手等の建材用部品、スプーン、フォーク等のキッチン部品用部品、その他の家電用装飾部品、エンブレム等の自動車用部品として用いることができる。
【0039】
次に、本開示のカラーセラミックスの製造方法の一例を説明する。
【0040】
まず、平均粒径が0.25μm以上0.55μm以下の安定化ジルコニア粉末を用意する。ここで安定化ジルコニア粉末とは、酸化イットリウム、酸化セリウム、酸化ディスプロシウム、酸化マグネシウムおよび酸化カルシウム等から選ばれる少なくとも1種の安定化剤を加えて共沈法により生成されたものであり、ジルコニアを95〜99mol%、安定化剤を1〜10mol%含有するものである。なお、この安定化ジルコニア粉末には、酸化ハフニウムを2質量%程度含有するものであってもよい。
【0041】
次に、平均粒径が2μm以下のアルミナ粉末、平均粒径が2μm以下の酸化コバルト粉末および平均粒径が3μm以下の酸化マンガン粉末を用意する。
【0042】
そして、カラーセラミックスにおいて安定化剤を含んだジルコニアが80質量%以上となるように、安定化ジルコニア粉末、アルミナ粉末、酸化コバルト粉末および酸化マンガン粉末を秤量することで原料粉末を調合する。ここで、固溶結晶が占める面積占有率を1.5面積%以上7.5面積%以下とするために、原料粉末100質量%において、アルミナ粉末を0.5質量%以上4.0質量%以下、酸化コバルト粉末を0.5質量%以上1.3質量%以下、酸化マンガン粉末を0.3質量%以上0.7質量%以下となるように秤量する。
【0043】
次に、原料粉末と溶媒である水とを振動ミルやボールミル等に入れて混合粉砕することで、スラリーを得る。ここで、隣り合う固溶結晶の重心間距離の平均値を1.5μm以上4μm以下とするには、混合粉砕において、原料粉末100質量部に対し、分散剤を0.2質量部以上0.5質量部以下の範囲で添加すればよい。さらに、隣り合う固溶結晶の重心間距離の標準偏差を1.5μm以下とするには、この混合粉砕前に、アルミナ粉末、酸化コバルト粉末および酸化マンガン粉末を予め予備粉砕し、この予備粉砕時間を40時間以上とすればよい。
【0044】
次に、スラリーに結合剤としてのポリビニルアルコールを所定量添加し、噴霧乾燥装置を用いて、噴霧・乾燥させることにより、造粒された顆粒を得る。そして、この顆粒を用いて所望の成形法、例えば、乾式加圧成形法、冷間静水圧加圧成形法等により円板、平板、円柱体、円環体等の所望形状の成形体を得る。または、スラリーに溶媒およびバインダ等を添加し、これを鋳込成形法または射出成形法を用いて成形することで、複雑な形状の成形体を得てもよい。
【0045】
次に、得られた成形体を必要に応じて脱脂した後、大気雰囲気中にて1000℃以上1300℃以下の温度範囲の特定温度で2時間以上保持する。これにより、アルミン酸コバルト結晶を形成するとともに、このアルミン酸コバルト結晶に酸化マンガン粉末のマンガンを固溶させることができる。そして、1400℃以上1600℃以下の温度範囲で焼成することにより、本開示のカラーセラミックスを得ることができる。なお、焼成温度を調整することで、固溶結晶の結晶粒径を任意の大きさにすることができる。
【0046】
また、焼成後において、研磨用メディアおよび水とともにカラーセラミックスをバレル研磨機に入れ、バレル研磨を行なうことで、カラーセラミックスの表面におけるジルコニア結晶に対して相変態を促し、ジルコニア結晶における単斜晶の割合を増やすことができ、表面におけるジルコニア結晶の単斜晶の割合を、内部におけるジルコニア結晶の単斜晶の割合よりも多くすることができる。
【0047】
ここで、球状の研磨用メディアを用いることで、カラーセラミックスの表面においてジルコニア結晶に対して効果的な相変態を促し、ジルコニア結晶における単斜晶の割合を大きく増やすことができる。よって、球状の研磨用メディアを用い、バレル研磨の時間を適宜調整することで、表面におけるジルコニア結晶の単斜晶の割合を、内部におけるジルコニア結晶の単斜晶の割合よりも3倍以上10倍以下多くすることができる。
【0048】
以下、本開示の実施例を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0049】
まず、平均粒径が0.35μmであり、安定化剤である酸化イットリウムを3mol%含有した安定化ジルコニア粉末を用意した。次に、平均粒径が2μmのアルミナ粉末、平均粒径が2μmの酸化コバルト粉末および平均粒径が2μmの酸化マンガン粉末を用意した。
【0050】
次に、各粉末が表1に示すように調合比となるように、安定化ジルコニア粉末、アルミナ粉末、酸化コバルト粉末および酸化マンガン粉末を秤量することで原料粉末を調合した。
【0051】
次に、原料粉末と溶媒である水と、原料粉末100質量部に対して0.1質量部となる分散剤とを振動ミルに入れて混合粉砕することで、スラリーを得た。
【0052】
次に、スラリーに結合剤としてのポリビニルアルコールを所定量添加し、噴霧乾燥装置を用いて、噴霧・乾燥させることにより、造粒された顆粒を得た。そして、この顆粒を用いて乾式加圧成形法により成形体を得た。
【0053】
次に、成形体の脱脂を行なった後、大気雰囲気中にて試料No.1〜3、5〜7については1200℃の温度で2時間保持した後、1580℃の温度で2時間焼成することにより焼成体を得た。一方、試料No.4については、1000℃以上1300℃以下の温度範囲の特定温度における保持は行なわずに、1580℃の温度で2時間焼成することにより各試料を得た。なお、各試料において、直径28mm、厚み3mmの円柱状のタブレットをそれぞれ12個作製した。
【0054】
次に、各試料の表面に対して、錫製のラップ盤を用いて、ダイヤモンド砥粒を供給しながらラップ加工を行なった。そして、各試料の表面に存在するピンホールの個数を数えた。ここでは、各試料の表面を10倍の倍率で双眼顕微鏡にて観察し、直径50μm以上の孔をピンホールとみなして、ピンホールの個数を数えた。なお、表1に示すピンホールの個数は、タブレット12個全てのピンホールの個数を合計したものである。
【0055】
次に、各試料において、アルミン酸コバルト結晶にマンガンが固溶した固溶結晶が存在しているか否かの確認を行なった。まず、各試料を切断し、切断された断面を鏡面研磨した後、1410℃で10分間熱処理し、熱処理した面を測定面として、EPMAによる面分析を行なった。そして、得られたカラーマッピングにおいて、アルミン酸コバルト結晶の存在位置を示すアルミニウム、コバルトおよび酸素が重なる領域でのマンガンの検出の有無により、固溶結晶が存在しているか否かを確認した。その結果、試料No.1〜3、5〜7には固溶結晶が存在したのに対し、試料No.4には固溶結晶が存在しなかった。
【0056】
次に、試料No.1〜3、5〜7において、固溶結晶の面積占有率を以下の方法により算出した。まず、SEMにより撮影した上記測定面の写真において、固溶結晶を黒く塗りつぶした。そして、この写真を画像データとして読み取り、画像解析ソフト「A像くん」の粒子解析という手法を適用して画像解析することにより、固溶結晶の面積占有率を求めた。なお、解析条件としては、粒子の明度を「暗」、2値化の方法を「手動」、小図形除去を「0.1μm」、閾値を「150」とした。
【0057】
次に、色彩色差計(コニカミノルタ社(製)CM‐700d)を用い、JIS Z 8722−2000に準拠して、各試料のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*の値、クロマティクネス指数a*およびb*の値を求めた。なお、測定条件としては、光源をCIE標準光源D65とし、照明受光方式を条件a((45−n)〔45−0〕)に、測定径を3mmに設定して行なった。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示す結果から、試料No.4のピンホールの個数が14個であったのに対し、試料No.1〜3、5〜7のピンホールの個数は9個以下であった。このことから、マンガンが、脱粒しやすい酸化マンガンとして存在せず、アルミン酸コバルト結晶に固溶していることで、加工の際にピンホールが発生しにくいことがわかった。
【0060】
また、試料No.1〜3、5〜7の中でも、試料No.2、3、5、6は、明度指数L*が7以上22以下、クロマティクネス指数a*が−13以上0以下、クロマティクネス指数b*が−30以上−10以下であり、深みのある暗青色の色調を呈していた。このことから、固溶結晶の面積占有率が1.5面積%以上7.5面積%以下であれば、使用にあたって脱粒のおそれが少ないため、長期間の使用に耐えるとともに、深みのある暗青色の色調を呈することがわかった。
【実施例2】
【0061】
次に、固溶結晶の結晶粒径を異ならせた試料を作製し、ピンホールの個数の確認を行なった。
【0062】
なお、試料No.8〜14の作製方法としては、焼成温度を表2に示す温度としたこと以外は実施例1の試料Nо.5の作製方法と同様とした。なお、試料No.14は、実施例1の試料No.5と同じ試料である。
【0063】
そして、得られた各試料における、固溶結晶の平均結晶粒径および固溶結晶の結晶粒径の最大値を、実施例1の固溶結晶の面積占有率を求めたときと同様に、画像解析ソフト「A像くん」の粒子解析という手法を適用して画像解析することにより求めた。
【0064】
また、ピンホールの個数の確認を、実施例1と同じ方法で行なった。結果を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
表2に示す結果から、試料No.8〜13は、ピンホールの個数が5個以下と少なかった。このことから、固溶結晶の平均結晶粒径が0.8μm以下であるカラーセラミックスならば、加工の際にピンホールの発生がより抑制されることがわかった。
【0067】
また、試料No.8〜13の中でも、試料No.8〜11は、ピンホールの個数が3個以下とさらに少なかった。このことから、固溶結晶の結晶粒径の最大値が1.2μm以下であるカラーセラミックスならば、加工の際にピンホールの発生がさらに抑制されることがわかった。
【実施例3】
【0068】
次に、隣り合う固溶結晶の重心間距離の平均値を異ならせた試料を作製し、ピンホールの個数の確認を行なった。
【0069】
なお、試料No.15〜19の作製方法としては、分散剤の添加量を表3に示す値にしたこと以外は実施例2の試料Nо.10の作製方法と同様とした。なお、試料No.19は、実施例2の試料No.10と同じ試料である。
【0070】
そして、得られた各試料における、隣り合う固溶結晶の重心間距離の平均値を、実施例1の固溶結晶の面積占有率を求めたときと同様に、画像解析ソフト「A像くん」の重心間距離法という手法を適用して画像解析することにより求めた。
【0071】
また、得られた各試料の色ばらつきを、各試料の表面の5個所について測定を行ない、CIE1976L*a*b*色空間におけるL*、a*およびb*の値の測定を行ない、得られたL*、a*、b*の最大値からL*、a*、b*の最小値をそれぞれ引くことで、ΔL、Δa、Δbを算出し、ΔE=((ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)21/2により色ばらつきΔEを求めた。結果を表3に示す
【0072】
【表3】
【0073】
表3に示す結果から、試料No.16〜18は、色ばらつきΔEが0.9以下であった。このことから、隣り合う固溶結晶の重心間距離の平均値が1.5μm以上4μm以下であれば、色ばらつきが抑えられることがわかった。
【実施例4】
【0074】
次に、隣り合う固溶結晶の重心間距離の標準偏差を異ならせた試料を作製し、ピンホールの個数の確認を行なった。
【0075】
なお、試料No.20〜22の作製方法としては、アルミナ粉末、酸化コバルト粉末および酸化マンガン粉末の予備粉砕を表4に示す時間行なったこと以外は実施例3の試料Nо.17の作製方法と同様とした。なお、試料No.22は、実施例3の試料No.17と同じ試料である。
【0076】
そして、得られた各試料における、隣り合う固溶結晶の重心間距離の標準偏差を、実施例1の固溶結晶の面積占有率を求めたときと同様に、画像解析ソフト「A像くん」の重心間距離法という手法を適用して画像解析することにより求めた。
【0077】
また、得られた各試料の色ばらつきΔEを、実施例3と同じ方法で求めた。結果を表4に示す。
【0078】
【表4】
【0079】
表4に示す結果から、試料No.20、21は、色ばらつきΔEが0.3以下であった。このことから、隣り合う固溶結晶の重心間距離の標準偏差が1.5μm以下であれば、色ばらつきが抑えられることがわかった。
【実施例5】
【0080】
次に、表面および内部におけるジルコニア結晶の単斜晶の割合を異ならせた試料を作製し、3点曲げ強度を測定して評価を行なった。
【0081】
なお、試料No.24、31の作製方法としては、焼成後において、三角形状の研磨用メディアを用い、表面におけるジルコニア結晶の単斜晶の割合が表5に示す値となるまでバレル研磨を行なったこと以外は実施例4の試料Nо.20の作製方法と同様とした。また、試料No.25〜30の作製方法としては、焼成後において、球状の研磨用メディアを用い、表面におけるジルコニア結晶の単斜晶の割合が表5に示す値となるまでバレル研磨を行なったこと以外は実施例4の試料Nо.20の作製方法と同様とした。また、表5には、比較のために、実施例4の試料No.20と同様の作製方法で作製した試料を試料No.23として示している。
【0082】
なお、各試料は、直径28mm、厚み3mmの円柱状ではなく、幅が4mm、厚みが3mm、長さが30mmの角柱状となるように作製した。
【0083】
そして、得られた各試料における表面および内部(表面から1.0mm深い部分)におけるジルコニア結晶の単斜晶の割合を、各試料の表面および内部それぞれに対してXRDで測定を行ない、得られたX線回折強度から以下の計算式で求めた。
【0084】
単斜晶の割合(%)=(Im1+Im2)/(Im1+Im2+It+Ic)
It :正方晶(111)面のX線回折強度
Ic :立方晶(111)面のX線回折強度
Im1:単斜晶(111)面のX線回折強度
Im2:単斜晶(11−1)面のX線回折強度
また、得られた各試料の3点曲げ強度を、JIS R 1601−2008に準拠して測定した。結果を表5に示す。
【0085】
【表5】
【0086】
表5に示す結果から、試料No.24〜31は、3点曲げ強度が900MPa以上であった。このことから、表面におけるジルコニア結晶の単斜晶の割合が、内部におけるジルコニア結晶の単斜晶の割合よりも多ければ、機械的強度が向上することがわかった。
【0087】
また、試料No.24〜31の中でも試料No.25〜30は、3点曲げ強度が1000MPa以上であった。このことから、表面におけるジルコニア結晶の単斜晶の割合が、内部におけるジルコニア結晶の単斜晶の割合よりも3倍以上10倍以下多ければ、機械的強度がより向上することがわかった。