(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記軸制御データ算出手段は、各前記分割軌跡の曲率ごとに設定された1以下の係数を、対応する各曲率の前記分割軌跡に沿って移動する前記工具の送り速度の平均値にそれぞれ乗じることにより、前記修正後の送り速度を算出することを特徴とする請求項1に記載の計算装置。
【背景技術】
【0002】
回転する工具によって金属製の加工物を切削加工する切削加工機において設定される工具の送り速度(F値)は、加工物の材質等に対応して、切込量に応じた一刃送り(mm/刃)と刃数と主軸の回転速度(min
−1)とを乗じて得る数値に安全値を見込んだ速度であって、工具が移動する所望の加工軌跡において、十分に加速可能な距離を保持している直線に沿って工具を移動させたときの最高速度である。一般に、作業者は、工具メーカーによって提供される工具データに基づき、上記送り速度を設定している。
【0003】
しかしながら、実際の切削加工では、特に、曲率が大きく短い曲線において向心加速度が非常に大きくなることから、曲線を曲がりきることができずに所望の加工形状を得ることができなかったり、機械に振動が発生して切削面の質が損なわれたり、刃物が異常に磨耗して刃が損傷してしまう等の問題が発生する場合がある。そのため、実際の加工では、切削加工装置固有の許容し得る加速度を超えないように、初期に設定する送り速度を工具メーカーによって提供される工具データに基づき設定される送り速度よりも十分遅く設定しておかなければならない。その結果、加工時間が長くなってしまっていた。
【0004】
そこで、特許文献1に記載の切削加工機では、加工軌跡に沿って移動する工具の所定の時間間隔毎の到達点で加工軌跡を分割し、分割軌跡毎の曲率に応じて送り速度を制御している。この切削加工機によれば、上述した問題が発生しない範囲内で最高速度となるように、工具が移動する際の送り速度を分割軌跡毎の曲率に応じて適宜変更することができるため、分割軌跡毎の送り速度の低下を最小限に抑え、加工時間をできる限り短くすることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、切削加工中、上述したように工具メーカーによって提供される工具データに基づいて設定される設定値から分割軌跡毎の曲率に応じて変動する送り速度に対して、工具の回転数は設定値に対する回転数から変動することなく常に一定である。
【0007】
また、上記工具データに含まれる工具の回転数は、送り速度が速くなるに従って多く、送り速度が遅くなるに従って少なくなるように設定されている。
【0008】
そのため、特に、曲率が大きく短い分割軌跡では、送り速度に対する工具の回転数が必要以上に多くなってしまう。その結果、刃の損耗が激しくなり、工具の寿命が短くなる。さらに、曲率の大きい分割軌跡と曲率の小さい分割軌跡との間で切削面の面質が異なってしまうため、切削面全体が不均質になる。
【0009】
このような問題は、事前にテスト加工を行うことによって、上記問題が生じない範囲内の最速の送り速度と最遅の送り速度とを探し出して適切な工具の回転数を導き出すことにより、最適な送り速度を求めることができるかもしれない。しかしながら、熟練の作業者でなければ困難な作業であり、作業負担が非常に大きい。
【0010】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであって、切削加工において、工具寿命が短くなることを防止しつつ、切削面の面質を可能な限り均質化するとともに、上記のような良好な加工を行うための送り速度を容易に算出することできる計算装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明の計算装置は、切削加工を行う工具を複数の軸方向に移動させて加工物を加工する切削加工機の制御に用いる計算装置であって、最大加速度を前記切削加工機の加工精度に関するパラメータとして記憶するパラメータ記憶手段と、所望の形状に前記加工物を加工する際に前記工具が移動する加工軌跡を記憶する加工軌跡記憶手段と、前記加工軌跡に沿って前記工具が移動する送り速度の設定値を記憶する送り速度記憶手段と、所定の時間間隔毎の前記加工軌跡上の前記工具の到達点で前記加工軌跡を分割した分割軌跡を求める分割軌跡算出手段と、各分割軌跡に沿って前記工具を移動させて前記加工物を加工するときの、前記分割軌跡上における始点の各軸位置と、前記分割軌跡を所定の時間間隔で分割した各点における前記分割軌跡の曲率に応じて各前記点毎に該各点における前記工具の加速度が前記切削加工機固有の最大加速度を超えないように求めた各軸方向の送り速度と、を軸制御データとして求める軸制御データ算出手段と、前記軸制御データに従って、各前記分割軌跡上における始点の位置から各軸方向の送り速度を変えながら前記分割軌跡に沿って該分割軌跡の終点である次の前記分割軌跡の始点の位置まで移動させるとともに、前記分割軌跡の終点における各軸方向の送り速度が次の前記分割軌跡の始点の位置の各軸方向の送り速度に一致するように各軸の送り速度を変化させるように前記切削加工機の駆動部に各前記分割軌跡の軸制御データを出力する出力手段と、を備え、前記軸制御データ算出手段は、前記分割軌跡が十分に加速可能な距離を保持している直線である場合に前記工具が移動する最高速度である仮の送り速度に送り速度を設定して加工した場合の各前記分割軌跡上の各軸位置と所定の時間間隔で求めた各軸方向の前記工具の送り速度の変化とを算出して仮の軸制御データとして生成し、前記仮の軸制御データに含まれる各前記分割軌跡上の各軸位置の情報をもとに各曲率の前記分割軌跡の総距離をそれぞれ算出するとともに、前記仮の軸制御データに含まれる所定の時間間隔で求めた各軸方向の前記工具の送り速度の変化の情報をもとに各曲率の前記分割軌跡に沿って移動する前記工具の送り速度の平均値をそれぞれ算出し、前記加工軌跡の全長に対して各曲率の前記分割軌跡の総距離が占める割合によって各曲率の前記分割軌跡に沿って移動する前記工具の送り速度の平均値で加重平均をとることにより、前記加工物を実際に加工する際に設定する修正後の送り速度を算出し、前記修正後の送り速度に送り速度を設定して加工した場合の各前記分割軌跡上の各軸位置と所定の時間間隔で求めた各軸方向の前記工具の送り速度の変化とを算出して修正後の軸制御データとして生成し、前記出力手段は、前記駆動部に各前記分割軌跡の前記修正後の軸制御データを出力することを特徴とするものである。
【0012】
本発明では、加工軌跡の全長に対して各曲率の分割軌跡の総距離が占める割合によって、各曲率の分割軌跡に沿って移動する工具の送り速度の平均値で加重平均をとることにより、加工物を実際に加工する際に設定する修正後の送り速度を算出する。そして、作業者は、工具メーカーが提供するカタログに記載された工具データに基づき、修正後の送り速度に対応する工具の回転数を決定する。
【0013】
これにより、工具メーカーが提供するカタログに記載された工具データをもとに設定される仮の送り速度よりも速度が遅く、各加工軌跡の形状により適した修正後の送り速度を算出し、実際の加工における送り速度として設定することができる。さらに、当該修正後の送り速度に対応する回転数を実際の加工における回転数として設定することにより、特に、曲率が大きく短い分割軌跡において、送り速度に対する工具の回転数を抑えることができる。従って、工具寿命が短くなることを防止しつつ、切削面の面質を可能な限り均質化することができる。
【0014】
また、本発明によれば、上述したような良好な加工を行うための送り速度と回転数を容易に算出することができる。
【0015】
第2の発明の計算装置は、前記第1の発明において、前記軸制御データ算出手段は、各前記分割軌跡の曲率ごとに設定された1以下の係数を、対応する各曲率の前記分割軌跡に沿って移動する前記工具の送り速度の平均値にそれぞれ乗じることにより、前記修正後の送り速度を算出することを特徴とするものである。
【0016】
本発明では、軸制御データ算出手段は、各分割軌跡の曲率ごとに設定された1以下の係数を、対応する各曲率の分割軌跡に沿って移動する工具の送り速度の平均値にそれぞれ乗じることにより、修正後の送り速度を算出する。
【0017】
これにより、加工軌跡の全長に対して各曲率の分割軌跡の総距離が占める割合および各曲率の分割軌跡を移動する工具の送り速度の平均値のみならず、各分割軌跡の各曲率の情報を含めて修正後の送り速度を算出することができる。従って、各加工軌跡の形状により適した修正後の送り速度を実際の加工における送り速度として設定することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、切削加工において、工具寿命が短くなることを防止しつつ、切削面の面質を可能な限り均質化するとともに、上記のような良好な加工を行うための送り速度を容易に算出することできる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に示すように、本発明の加工システム1は、テーブル42に設置された加工物に対して切削加工を行う切削加工機4と、命令を示すNCコード、各軸の座標値、および、設定する工具の送り速度等のパラメータの値が記されたNCプログラムを生成するCADCAM装置2と、切削加工機4を制御する制御装置3とからなる。
【0021】
切削加工機4は、切削加工を行う工具が取り付けられる主軸41と、加工物が設置されるテーブル42と、テーブル42を移動させる送り軸(不図示)と、主軸41および送り軸(不図示)を駆動させる駆動部45とを備える。通常、主軸41は切削動力を伝える軸であってZ軸として表わし、テーブル42を移動させる送り軸(不図示)をX軸およびY軸として表す。
【0022】
図2に示すように、駆動部45は、制御装置3から各軸を制御する軸制御データを受け取る軸制御データ受信部46と、軸制御データに従って主軸41とテーブル42の移動信号を生成する信号生成部47と、主軸41を駆動するモータ48aに生成した信号を伝達する主軸アンプ48と、送り軸(不図示)を駆動するモータ49a,49bに生成した信号を伝達するサーボアンプ49とを備える。なお、サーボアンプ49は、X軸およびY軸に設けられるが、便宜上、
図2のブロック図では1つのみ示している。
【0023】
図1に示すように、CADCAM装置2は、汎用コンピュータによって構成され、ネットワーク5と接続するためのインターフェイス部、マウス、キーボード、タッチパネル等の入力装置、および、ディスプレイ等の表示装置を備える。CADCAM装置2には、オペレーティングシステム等の標準的なソフトウェアおよびNCプログラムの作成を支援するソフトウェア等の専用のアプリケーションソフトウェアがインストールされている。CADCAM装置2は、上記専用のソフトウェアによってNCプログラムを生成する。CADCAM装置2は、ネットワーク5を介して制御装置3と接続されている。なお、CADCAM装置2と制御装置3とは、必ずしもネットワーク5によって接続されている必要はない。後述するようにCADCAM装置2で生成したNCプログラムを制御装置3に出力する際には、例えば、CADCAM装置2で生成したNCプログラムをUSB等の記憶媒体に記憶し、同記憶媒体を制御装置3に接続して読み込ませることにより、記憶媒体を介してNCプログラムをCADCAM装置2から制御装置3に出力しても構わない。
【0024】
操作パネル31は、各種パラメータ、送り速度等を制御装置3に入力するためのものである。
【0025】
制御装置3には、マイクロコンピュータとメモリが内蔵されている。制御装置3は、メモリに記憶されているプログラムをマイクロコンピュータが実行することにより、X軸、Y軸、Z軸をそれぞれ駆動させる軸制御データを生成する。なお、制御装置3は、特許請求の範囲における「計算装置」に対応している。
【0026】
図3に示すように、制御装置3は、設定されたパラメータを記憶するパラメータ記憶手段311と、送り速度を記憶する送り速度記憶手段312と、CADCAM装置2で生成されたNCプログラムを入力する入力手段32と、NCプログラムを記憶するNCプログラム記憶手段321と、NCプログラムに従って加工軌跡を生成する加工軌跡生成手段34と、加工軌跡を記憶する加工軌跡記憶手段341と、加工軌跡に沿って移動する工具の所定の時間間隔毎の到達点で加工軌跡を分割した分割軌跡を算出する分割軌跡算出手段35と、分割軌跡に沿って工具を移動させるときの各軸の軸制御データを算出する軸制御データ算出手段36と、駆動部45に軸制御データを出力する出力手段37とを備えている。
【0027】
加工軌跡生成手段34は、NCプログラムに従って加工軌跡を生成する。
【0028】
分割軌跡算出手段35は、加工軌跡に沿って移動する工具の所定の時間間隔毎の到達点で加工軌跡を分割した分割軌跡を算出する。加工システム1によれば、送り速度は、曲率の大きい経路ほど遅く、曲率の小さい経路ほど速くなるため、算出される各分割軌跡は、曲率の大きい経路ほど短く、曲率の小さい経路ほど長くなる。
【0029】
軸制御データ算出手段36は、各分割軌跡に沿って工具を移動させるときの分割軌跡上の各軸位置と、所定の時間間隔毎の各軸方向の送り速度の時間変化とを軸制御データとして求める。軸制御データには、分割軌跡上の各軸位置として、分割軌跡上の少なくとも1点の各軸の位置を含むものであればよい。例えば、軸制御データに分割軌跡上の始点の位置と分割軌跡に沿って移動させるときの各軸の送り速度変化とが記録されている場合には、始点の位置から各軸を送り速度変化に従うように各軸を制御することによって、分割軌跡に沿って工具を移動させることができる。
【0030】
例えば、
図4に示すような分割軌跡tに沿って加工物を加工する場合には、工具を分割軌跡tの接線方向に沿って移動させることになる。つまり、送り速度を分割軌跡tの接線ベクトルのX,Y,Zの成分に分け、X軸をX方向の送り速度成分で移動させ、Y軸をY方向の送り速度成分で移動させ、Z軸をZ方向の送り速度成分で移動させる。
図5では、分割軌跡t上の始点の位置P
iでの送り速度は、F
1(V
1X,V
1Y,V
1z)となり、終点の位置P
i+1での送り速度は、F
2(V
2X,V
2Y,V
2z)となるので、各軸を位置P
iからP
i+1に移動する間に各軸の送り速度をV
1X→V
2X、V
1Y→V
2Y、V
1z→V
2zへと変化させる。具体的には、各分割軌跡tに沿って工具を移動させるときの送り速度V
X,V
Y,V
zの時間変化を表す送り速度曲線を求め、各軸の送り速度をこの送り速度曲線に従うように制御することにより、分割軌跡tに沿って工具を移動させることができる。
【0031】
分割軌跡算出手段35は、設定した送り速度で各軸を移動させたときの加速度と加加速度を求める。そして、切削加工機4固有の最大加速度や最大加加速度を超えている場合には、同最大加速度および最大加加速度を超えないように各軸方向の送り速度を修正する。以上により、各分割軌跡に沿って工具を移動させる際の送り速度が記された軸制御データを生成する。
【0032】
切削加工機4の信号生成部47は、軸制御データの送り速度に従って各軸の移動信号を生成し、主軸41,主軸アンプ48,サーボアンプ49に出力する。
【0033】
ここで、上述した切削加工機4によれば、種々の問題が発生しない範囲内で最高速度となるように、工具が移動する際の送り速度を分割軌跡毎の曲率に応じて適宜変更することができるため、分割軌跡毎の送り速度の低下を最小限に抑え、加工時間をできる限り短くすることができる。
【0034】
しかしながら、切削加工中、工具メーカーによって提供される工具データに基づいて設定される設定値から分割軌跡毎の曲率に応じて変動する送り速度に対して、工具の回転数は設定値に対する回転数から変動することなく常に一定である。
【0035】
また、工具データに含まれる工具の回転数は、送り速度が速くなるに従って多く、送り速度が遅くなるに従って少なくなるように設定されている。
【0036】
そのため、特に、曲率が大きく短い分割軌跡では、送り速度に対する工具の回転数が必要以上に多くなってしまう。その結果、刃の損耗が激しくなり、工具の寿命が短くなる。さらに、曲率の大きい分割軌跡と曲率の小さい分割軌跡との間で切削面の面質が異なってしまうため、切削面全体が不均質になる。
【0037】
このような問題は、事前にテスト加工を行うことによって、上記問題が生じない範囲内の最速の送り速度と最遅の送り速度とを探し出して適切な工具の回転数を導き出すことにより、最適な送り速度を求めることができるかもしれない。しかしながら、熟練の作業者でなければ困難な作業であり、作業負担が非常に大きい。
【0038】
なお、工具の回転数を送り速度の変化に追従するように適宜変動させることができれば、上述した問題は生じない。しかしながら、一般的に、工具が取り付けられる主軸41の駆動部45は、インバータによる電流制御のみによって制御されているため、送り速度の変化を受けて出力される指令に対して時間の遅れなく回転数を追従させることが困難である。より具体的には、送り速度に対する工具の回転数が大きくなった後、後追いで回転数を変動させることになるため、所望の値に回転数が変更されたときには送り速度が既に変化している可能性がある。従って、上述した問題を確実に解決することはできない。
【0039】
そこで、本実施形態では、加重平均をとることにより、良好な加工を行うための送り速度を算出する。以下、送り速度の算出方法、および、加工システム1を用いて加工物を切削加工する流れについて、
図5、
図6を参照しつつ詳細に説明する。
【0040】
図5に示すように、作業者は、最大加速度、最大加加速度等のパラメータを操作パネル31から設定して、パラメータ記憶手段311に記憶させる(S100)。
【0041】
作業者は、CADCAM装置2によってNCプログラムを生成する(S200)。CADCAM装置2は、生成したNCプログラムを制御装置3に出力する(S201)。制御装置3は、入力手段32によってNCプログラムを受信し、NCプログラム記憶手段321に記憶させる(S101)。
【0042】
作業者は、工具メーカーが提供するカタログに記載された工具データをもとに設定される送り速度、すなわち、加工軌跡を構成する分割軌跡が十分に加速可能な距離を保持している直線である場合に同分割軌跡に沿って工具が移動する最高速度である仮の送り速度を決定し、仮の設定値として制御装置3の操作パネル31から入力する。仮の送り速度は、送り速度記憶手段312に記憶される(S102)。
【0043】
制御装置3は、NCプログラムに従って加工軌跡を生成する(S103)。生成した加工軌跡は、加工軌跡記憶手段341に記憶される。
【0044】
分割軌跡算出手段35は、送り速度を仮の送り速度に設定して加工軌跡に沿って工具を移動させた場合における、所定の時間間隔毎の加工軌跡上の工具の到達点で加工軌跡を分割した分割軌跡を算出する(S104)
【0045】
軸制御データ算出手段36は、仮の送り速度で加工軌跡に沿って加工すると設定した場合の各分割軌跡上の各軸位置と、所定の時間間隔毎に求めた各軸方向の工具の送り速度の時間変化とを算出して仮の軸制御データを生成する(S105)。
【0046】
軸制御データ算出手段36は、仮の軸制御データに含まれる各分割軌跡上の各軸位置の情報をもとに、各曲率の分割軌跡の総距離をそれぞれ算出する。また、軸制御データ算出手段36は、仮の軸制御データに含まれる所定の時間間隔で求めた各軸方向の工具の送り速度の変化の情報をもとに、各曲率の分割軌跡を移動する工具の送り速度の平均値をそれぞれ算出する(S106)。
【0047】
軸制御データ算出手段36は、加工軌跡の全長に対して各曲率の分割軌跡の総距離が占める割合によって、各曲率の分割軌跡を移動する工具の送り速度の平均値で加重平均をとることにより、加工物を実際に加工する際に設定する修正後の送り速度を算出する(S107)。
【0048】
より具体的には、
図6に示すように、全長Lの加工軌跡Tを点P
1〜P
7で分割した分割軌跡t
1〜t
7の曲率、距離、および、仮の送り速度に設定した場合の各分割軌跡t
1〜t
7における送り速度の平均値が表1に示す値であった場合、修正後の送り速度は、(2l
1F
1+2l
2F
2+2l
3F
3+l
3F
4)/Lとなる。
【0050】
なお、上記のような算出方法では、具体的な曲率の値が計算に含まれていないため、曲率の大小を考慮せず修正後の送り速度を算出することになる。そのため、加工軌跡の全長に対して曲率の小さい分割軌跡の総距離が占める割合が大きくなると、算出された修正後の送り速度が速くなってしまう傾向にある。しかしながら、実際の加工時に送り速度を落とさなければならないのは曲率の大きい軌跡の部分であり、曲率の小さい軌跡よりも曲率の大きい軌跡の送り速度を重視すべきである。従って、加工軌跡の全長に対して曲率の小さい分割軌跡の総距離が占める割合が大きい場合、例えば、
図7に示すように、1に漸近する関数S=(1−S
0)(1−e
−qK)+S
0から求められる係数によって、分割軌跡の曲率ごとに重みづけして加重平均を算出することが好ましい。なお、S
0の範囲は0<S
0<1であって、qの範囲は0≦qである。
【0051】
より具体的には、
図7に示すように、関数Sに基づき求められた曲率K
1の係数がs
1、曲率K
2の係数がs
2、曲率K
3の係数がs
3である場合、修正後の送り速度は、{2s
1l
1F
1+2s
2l
2F
2+s
3(2l
3F
3+l
3F
4)}/Lとなる。
【0052】
作業者は、操作パネル31から修正後の送り速度を修正後の設定値として入力し、送り速度記憶手段312に記憶させる。作業者は、工具メーカーが提供するカタログに記載された工具データをもとに、修正後の送り速度に対応する工具の回転数を決定して操作パネル31から入力する。
【0053】
軸制御データ算出手段36は、修正後の送り速度で加工軌跡に沿って加工すると設定した場合の各分割軌跡上の各軸位置と所定の時間間隔で求めた各軸方向の送り速度の変化とを算出して修正後の軸制御データを生成する(S108)。
【0054】
出力手段37は、修正後の軸制御データを加工軌跡に沿った順番で切削加工機4の駆動部45に出力する(S109)。駆動部45の軸制御データ受信部46は、修正後の軸制御データを受け取り(S300)、信号生成部47で受け取った順に従って修正後の軸制御データから各軸を駆動する信号を生成して主軸41、主軸アンプ48、サーボアンプ49に出力する(S301)。修正後の軸制御データには分割軌跡の始点と一定の時間間隔で各軸の送り速度変化が記録されており、各軸を各分割軌跡の始点から一定の時間間隔で各軸の送り速度を変えることで分割軌跡に沿って工具を移動させることができる。
【0055】
(作用・効果)
本実施形態では、加工軌跡の全長に対して各曲率の分割軌跡の総距離が占める割合によって、各曲率の分割軌跡を移動する工具の送り速度の平均値で加重平均をとることにより、加工物を実際に加工する際に設定する修正後の送り速度を算出する。そして、作業者は、工具メーカーが提供するカタログに記載された工具データに基づき、修正後の送り速度に対応する工具の回転数を決定する。
【0056】
これにより、工具メーカーが提供するカタログに記載された工具データをもとに設定される仮の送り速度よりも速度が遅く、各加工軌跡の形状により適した修正後の送り速度を算出し、実際の加工における送り速度として設定することができる。さらに、当該修正後の送り速度に対応する回転数を実際の加工における回転数として設定することにより、特に、曲率が大きく短い分割軌跡において、送り速度に対する工具の回転数を抑えることができる。従って、工具寿命が短くなることを防止しつつ、切削面の面質を可能な限り均質化することができる。
【0057】
また、本実施形態によれば、上述したような良好な加工を行うための送り速度と回転数を容易に算出することができる。
【0058】
また、本実施形態では、軸制御データ算出手段36は、関数S=(1−S
0)(1−e
−qK)+S
0から求められる係数によって分割軌跡の曲率ごとに重みづけして修正後の送り速度を算出する。
【0059】
これにより、加工軌跡の全長に対して各曲率の分割軌跡の総距離が占める割合および各曲率の分割軌跡を移動する工具の送り速度の平均値のみならず、各分割軌跡の各曲率の情報を含めて修正後の送り速度を算出することができる。従って、各加工軌跡の形状により適した修正後の送り速度を実際の加工における送り速度として設定することができる。
【0060】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施形態や実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。
【0061】
本実施の形態では、制御装置3によって修正後の送り速度、および、修正後の軸制御データを算出する場合について記載したが、修正後の軸制御データを求めるまでの一連の処理のすべてを制御装置3によって行う必要はない。例えば、
図8に示すように、汎用コンピュータ等のシミュレーション装置を用いて修正後の送り速度を算出しても構わない。より具体的には、シミュレーション装置によって仮の軸制御データ、および、仮の軸制御データをもとに修正後の送り速度を算出し、修正後の送り速度が送信された制御装置3によって修正後の軸制御データを生成しても構わない。この場合、特許請求の範囲における「計算装置」は、シミュレーション装置および制御装置3に対応する。
【解決手段】計算装置の軸制御データ算出手段は、分割軌跡が十分に加速可能な距離を保持している直線である場合に工具が移動する最高速度である仮の送り速度で加工軌跡に沿って加工すると設定した場合の各分割軌跡上の各軸位置と所定の時間間隔で求めた各軸方向の工具の送り速度の変化を算出して仮の軸制御データとして生成し、仮の軸制御データに含まれる各分割軌跡上の各軸位置の情報から各曲率の分割軌跡の総距離を算出するとともに、仮の軸制御データに含まれる所定の時間間隔で求めた各軸方向の工具の送り速度の変化の情報から各曲率の分割軌跡を移動する工具の送り速度の平均値を算出し、加工軌跡の全長に対して各曲率の分割軌跡の総距離が占める割合によって各曲率の分割軌跡を移動する工具の送り速度の平均値で加重平均をとることにより修正後の送り速度を算出する。