特許第6587823号(P6587823)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6587823
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】表面に固体粒子が分布している容器
(51)【国際特許分類】
   B65D 1/02 20060101AFI20191001BHJP
   B32B 3/14 20060101ALI20191001BHJP
   B32B 33/00 20060101ALI20191001BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20191001BHJP
   B32B 17/06 20060101ALI20191001BHJP
【FI】
   B65D1/02
   B32B3/14
   B32B33/00
   B32B27/00 H
   B32B17/06
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-89464(P2015-89464)
(22)【出願日】2015年4月24日
(65)【公開番号】特開2016-203527(P2016-203527A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100186897
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 さやか
(74)【代理人】
【識別番号】100194629
【弁理士】
【氏名又は名称】小嶋 俊之
(72)【発明者】
【氏名】丹生 啓佑
(72)【発明者】
【氏名】岡田 芳明
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 知之
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】岩本 晋也
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−052792(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/063903(WO,A1)
【文献】 特開2015−027887(JP,A)
【文献】 特表2006−517872(JP,A)
【文献】 特開昭62−138130(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/194626(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/194625(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/194251(WO,A1)
【文献】 阿久津雅之、今井洋子、田島和夫,機能性微粒子を被覆したHCO−10ベシクルの調製,第56回コロイドおよび界面化学討論会 講演要旨集,日本,2003年 8月22日,第173頁 2D01
【文献】 Shin-Etsu Silicone, Silicone Fluid KF-96 Performance Test Results,pp.2-3,pp.16-17,[online],[retrieved on 2016.06.08],Retrieved from the Internet:<URL:https://www.shinetsusilicone-global.com/catalog/pdf/kf96_e.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00− 43/00
B65D 1/00− 1/48
B05D 1/00− 7/26
C08J 7/04− 7/06
C09D 1/00− 10/00,
101/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水物質が収容される容器であって、
外添された固体粒子が成形体の表面に分布している領域を含み、
前記固体粒子は、5〜100μmの粒径を有しており且つ0.01〜0.2mg/cmの量で、内容物と接触する内面に分布し、微量の油性液体で覆われて該表面に保持されていると共に、該表面に近接している粒子同士の粒子間隙には、空気層が存在していることを特徴とする容器
【請求項2】
前記固体粒子が、植物油脂粒子である請求項に記載の容器
【請求項3】
前記油性液体が、成形体表面に対する接触角(20℃)が45°以下であり且つ100mPa・s以下の粘度(25℃)を有している請求項1または2に記載の容器
【請求項4】
前記油性液体が、食用油である請求項に記載の容器
【請求項5】
前記固体粒子が、前記油性液体100質量部当り0.5〜20質量部の量で構造体表面に存在している請求項1〜の何れかに記載の容器
【請求項6】
前記成形体表面が、合成樹脂製またはガラス製である請求項1〜の何れかに記載の容器
【請求項7】
前記容器が、粘度(25℃)が1260mPa・s以上の流動性内容物の収容に使用される請求項に記載の容器
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に固体粒子が分布している構造体に関するものであり、特に容器として好適に使用される構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
液状内容物が収容される容器では、容器の材質を問わず、内容物に対する排出性が要求される。水のように粘性の低い液体を収容する場合では、このような排出性はほとんど問題とならないが、例えば、マヨネーズやケチャップのように粘度の高い粘稠な物質では、プラスチック容器であろうがガラス製容器であろうが、この排出性はかなり深刻な問題である。即ち、このような内容物は、容器を傾けて速やかに排出されないし、また、容器壁に付着してしまうため、最後まで使い切ることができず、特に容器の底部にはかなりの量の内容物が排出されずに残ってしまう。
【0003】
最近になって、容器等の成形体の表面に油膜を形成することによって、粘稠な物質に対する滑り性を高める技術が種々提案されている(例えば特許文献1,2)。
かかる技術によれば、成形体表面を形成する合成樹脂に滑剤などの添加剤を加える場合と比して、滑り性を飛躍的に高めることができるため、現在注目されている。
【0004】
しかしながら、上記のように基材表面に油膜を形成して表面特性を改質する手段においては、該油膜により発揮される滑り性の有効寿命が短く、長期間経過後には、その滑り性が低下し、場合によっては、表面に内容物などが貼り付いてしまうなどの問題が生じていた。特に、表面を落下する物質が、マヨネーズ様食品のような水分を含む乳化物であるとき、この傾向が顕著である。
【0005】
また、容器の内面に、内容物に対して潤滑性を示す液体による液層が形成されており、この液層の表面に、局部的に突出している液状凸部を形成することにより、内容物に対する滑性を大きく向上させることが開示されており、かかる技術は既に特許されている(特許文献3)。
かかる技術は、滑り性の持続性という点では満足し得るのであるが、液層の表面に液状突部を形成するために、液層の下地となる樹脂層には、微細な粗面化剤粒子が配合されていなければならない。即ち、下地樹脂層中の粗面化剤粒子により、液状凸部の形成に必要な容器内面が形成されるため、その表面粗さのコントロールがかなり難しく、製法的な難点がある。また、粘稠な物質、特にマヨネーズやケチャップの如き食品類については、頻繁に使用されるため、これらについては、さらなる滑性の向上が求められている。
【0006】
さらに、本出願人は、内容物と接触する内面に液膜が形成されており、該液膜には、粒子径が300μm以下の固体粒子が分散されていることを特徴とする包装材を先に提案している(特願2014−126877号)。
しかるに、本出願人が先に提案した上記技術は、滑り性の持続性という点での評価は全くされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2012/100099
【特許文献2】WO2013/022467
【特許文献3】特許第5673870号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、粘稠な含水物質に対する滑性及びその持続性に優れた表面を備えている構造体を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記のような表面が容易な手段で且つ安定して形成されている構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、固体粒子が分散されている液膜を表面に形成した構造体について研究を推し進めた結果、液膜の表面形態がある種の条件を満足する場合には、粘稠な含水物質に対して優れた滑性を示すと同時に、その持続性が大きく向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明によれば、外添された固体粒子が成形体の表面に分布している領域を含む構造体であって、前記固体粒子は、微量の油性液体で覆われて該表面に保持されていると共に、該表面に近接している粒子同士の粒子間隙には、空気層が存在していることを特徴とする構造体が提供される。
【0011】
本発明の構造体においては、
(1)前記固体粒子は、100μm以下の粒子径を有しており且つ0.01〜0.2mg/cmの量で構造体表面に分布していること、
(2)前記固体粒子が、植物油脂粒子であること、
(3)前記油性液体が、成形体表面に対する接触角(20℃)が45°以下であり且つ100mPa・s以下の粘度(25℃)を有していること、
(4)前記油性液体が、食用油であること、
(5)前記固体粒子が、前記油性液体100質量部当り0.5〜20質量部の量で構造体表面に存在していること、
(6)前記成形体表面が、合成樹脂製またはガラス製であること、
(7)前記成形体が容器であり、内容物と接触する内面に前記固体粒子が分布していること、
(8)前記容器が、粘度(25℃)が1260mPa・s以上の流動性内容物の収容に使用されること、
が好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の構造体に特有の表面構造は、外添する固体粒子を微量の油性液体によって保持することにより形成される。即ち、この表面構造は、成形体表面を形成する樹脂層に固体粒子を内添しておくことにより形成されるものではないため、固体粒子の大きさや使用量によって、表面形態(固体粒子による凹凸の程度や分布など)を容易に且つ確実にコントロールすることができる。
【0013】
しかも、本発明の構造体は、特有の表面構造によって、粘稠な含水物質に対して優れた滑り性を示すばかりか、例えばマヨネーズ様食品のような乳化物に対しても、その滑り性を長期にわたって発揮することができる。
従って、本発明の構造体は、特に粘稠な含水物質、例えばケチャップや、マヨネーズ様食品などの粘度(25℃)が1260mPa・s以上の粘稠な物質が収容される容器として使用することにより、これらの内容物を速やかに排出でき、しかも、容器内の付着残存を著しく抑制し、そのほぼ全量を使い切ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の構造体の表面形態を説明するための概略側断面図。
図2】本発明の構造体の好適な形態であるダイレクトブローボトルの形態を示す図。
図3】デジタルマイクロスコープを用いて、実施例1の構造体の表面を観察した結果を示す図である。
図4】デジタルマイクロスコープを用いて、比較例3の構造体の表面を観察した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1を参照して、本発明の構造体は、成形体1を用途に応じた形状に成形して構成されており、その表面には、固体粒子3が分布しており、この固体粒子3は、微量の油性液体5によって被覆され、成形体1の表面に保持されている。
【0016】
<滑り性発現の原理>
このような構造体1において、特に重要な点は、成形体1の表面に近接している固体粒子3の粒子間隙には、空気層7が存在している点にあり、このような表面構造により、粘稠な含水物質に対して優れた滑り性を示すばかりか、その持続性にも優れたものとなっている。
【0017】
即ち、このように微量の油性液体5で被覆されている固体粒子3上を粘稠な含水物質が移動すると、この含水物質は、油性液体5に接触すると同時に、固体粒子3間の空気層7とも接触する。即ち、油性液体5は撥水性を有しているが、同時に、空気は、油性液体よりもさらに大きな撥水性を示す。この結果、本発明の構造体では、粘稠な含水物質に対して大きな滑り性を示すこととなる。
【0018】
また、上記のように粘稠な含水物質が繰り返し流れていくことにより、油性液体5や固体粒子3が表面から脱落していくと、当然、上記のような滑り性は低下していくことになる。
しかるに、本発明では、固体粒子3を被覆している油性液体5は微量であり、極めて薄い層を形成しているに過ぎず、しかも、固体粒子3は、成形体1との間にできる微小な空間に閉じ込められた油性液体5の存在により、成形体1の表面にしっかりと保持されている。従って、粘稠な含水物質が繰り返し流れた場合にも、油性液体5や固体粒子3の減少量はごく僅かであり、しかも、大きな滑り性の要因である粒子3間の空気層7は、ほとんどそのまま保持された状態にある。従って、本発明では、上述した優れた滑り性は持続して保持され、経時的な滑り性低下が、有効に抑制されている。
【0019】
例えば、油性液体5の量が多く、固体粒子3間の空気層7が形成されていないような場合には、空気層7による滑り性向上が発現せず、滑り性が不満足なものとなってしまうばかりか、粘稠な含水物質が油性液体5上を流れるにしたがい、この油性液体5が掻き取られ、同時に固体粒子3も取り除かれてしまうこともあり、滑り性の持続性が極めて不満足なものとなってしまう。
【0020】
尚、上述した本発明の構造体における滑り性の発現機構は、先に特許されている特許文献3で示されているものと類似してはいるが、明確に異なっている。
特許文献3では、表面を形成する樹脂層に内添されている固体粒子により表面に凹凸を形成し、この凹凸が表面に反映されるような極薄の油膜を形成しており、このような凹凸表面を有する油膜により滑り性を発現させている。一見すると、本発明と同様の機構により、滑り性が発現しているように思われるが、特許文献3では、樹脂層に内添されている固体粒子によって凹凸を形成しているため、その凹凸の密度程度は極めて小さく、特に凸部の数密度も小さくなっている。このため、特許文献3では、隣り合う凸部の間に存在する空気層を滑り性発現に利用しているのではなく、凹凸により、表面を流れる物質と下地面との接触面積を低減させ、これにより、表面を流れる物質に対する摩擦力を低下させることにより滑り性を向上させているものである。即ち、固体粒子の内添により、滑り性に影響を当る凹凸を形成しているため、このような凹凸の程度をコントロールし難いという欠点がある。
本発明では、固体粒子3を外添しているため、粒子間の空気層の7大きさなどは、固体粒子3の大きさや使用量によって容易にコントロールすることができる。
また、このような空気層7の存在は、図3に示す顕微鏡観察と水の接触角測定により確認することができる。例えば、本発明の実施例1における構造体上での水の接触角(3μL)は73.2度であり、平滑な液膜上での水の接触角(3μL)が80.3度と比較すると小さな値となる。これらのことから、本発明の構造体上では、固体粒子3が微量の油性液体5によって保持されており、固体粒子3の間には空気が存在することが示されている。すなわち、固体粒子3の間の空間が油性液体5で埋められている場合では、その表面における水の接触角は平滑な液膜と同じ値となるのであるが、本発明ではその数値が明らかに小さくなっている。このことは、固体粒子3の間には油性液体5ではなく、空気が存在していることを明らかに示しているといえる。平滑な液膜上での水の接触角に対する本構造体での水の接触角の比は、いわゆる下記式(1)で表されるラフネスファクターrであり、本構造体においての空気との接触度合いを示す。
r=cosθ/cosθ (1)
式中、θは、構造体表面での水の接触角であり、
θは、平滑な油性液体5上での水の接触角である。
【0021】
<成形体1>
成形体1は、その表面に、油性液体5を用いて固体粒子3を保持することが可能である限り、その材質は特に制限されず、樹脂製、ガラス製、金属製等の任意の材質により用途に応じた形態を有していればよい。
特に、本発明の構造体は、粘稠な含水物質に対して優れた滑り性を示すという観点から、成形体1は、このような含水物質を流すための配管や、これを収容する容器や容器蓋などの形態を有していることが好適であり、このような含水物質と接触する面に、油性液体5を用いて固体粒子3を保持することとなる。
【0022】
また、特に油性液体5を用いて固体粒子3を保持するという観点から、成形体1の表面は合成樹脂製であることが最も好適である。
【0023】
このような合成樹脂(以下、下地樹脂と呼ぶ)は、成形可能な任意の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂であってよいが、一般的には、成形が容易であり且つ油性液体5との親和性が高く、このような油性液体5により固体粒子3をより安定に保持できるという観点から、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
このような熱可塑性樹脂としては、例えば、以下のものを例示することができる。
オレフィン系樹脂、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテンあるいはエチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン同士のランダムあるいはブロック共重合体、環状オレフィン共重合体など;
エチレン・ビニル系共重合体、例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体等;
スチレン系樹脂、例えば、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ABS、α−メチルスチレン・スチレン共重合体等;
ビニル系樹脂、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等;
ポリアミド樹脂、例えば、ナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン6−10、ナイロン11、ナイロン12等;
ポリエステル樹脂、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及びこれらの共重合ポリエステル等;
ポリカーボネート樹脂;
ポリフエニレンオキサイド樹脂;
生分解性樹脂、例えば、ポリ乳酸など;
勿論、成形性が損なわれない限り、これらの熱可塑性樹脂のブレンド物を、下地樹脂として使用することもできる。
【0024】
本発明においては、上記の熱可塑性樹脂の中でも、粘稠な内容物を収容する容器素材として使用されているオレフィン系樹脂やポリエステル樹脂が好適であり、オレフィン系樹脂が最適である。
即ち、オレフィン系樹脂は、PET等のポリエステル樹脂と比較してガラス転移点(Tg)が低く、室温下での分子の運動性が高いため、油性液体5の一部が内部に浸透し、これにより、油性液体5とオレフィン系樹脂との界面が不明瞭となる(一定の界面厚みが形成される)ため、油性液体5を介し、固体粒子3を表面に安定に保持するという点で最適である。
また、油性液体5は経時により、室温でゴム状態にあるポリオレフィン系樹脂中へ拡散し、その優れた滑り性が消失することが通常想定されるが、本発明においては、この拡散が有効に抑制されており、ポリオレフィン樹脂を下地樹脂として用いても、優れた滑り性を持続的に発揮できる。本発明においては、成形体1の表面に油性液体5を介して固体粒子3が保持されている形態をとっており、この場合、成形体1の表面と固体粒子3との間にできる微小な空間に油性液体5が存在するため、この油性液体5には微小空間の形状に依存した負のラプラス圧が発生し、油性液体5の内部は周囲よりも減圧環境になる。その結果、ポリオレフィン系樹脂を構造体1の下地樹脂として用いたとしても、油性液体5は減圧環境下にあるため該微小空間に留まることとなり、ポリオレフィン系樹脂中への拡散が抑制されているものと推察される。
さらに、オレフィン系樹脂は、可撓性が高く、後述するダイレクトブロー成形による絞り出し容器(スクイズボトル)の用途にも使用されており、本発明の構造体をこのような容器に適用するという観点からもオレフィン系樹脂は適している。
【0025】
また、かかる成形体1は、上記のような熱可塑性樹脂の単層構造であってもよいし、上記熱可塑性樹脂と紙との積層体であってもよいし、さらに、複数の熱可塑性樹脂が組み合わされた多層構造を有するものであってもよい。
【0026】
本発明の構造体は、粘稠な含水物質に対する滑り性及びその持続性に優れているため、このような含水物質と接触する用途に有効に適用され、特に含水物質が収容される容器として使用されることが、本発明の利点を最大限に享受し得るという点で最適である。
【0027】
特に成形体1が容器の形態を有する場合において、内面が、オレフィン系樹脂或いはポリエステル樹脂で形成されている場合には、中間層として、適宜接着剤樹脂の層を介して、酸素バリア層や酸素吸収層を積層し、さらに、内面を形成する下地樹脂(オレフィン系樹脂或いはポリエステル樹脂)と同種の樹脂が外面側に積層した構造を採用することができる。
【0028】
かかる多層構造での酸素バリア層は、例えばエチレン−ビニルアルコール共重合体やポリアミドなどの酸素バリア性樹脂により形成されるものであり、その酸素バリア性が損なわれない限りにおいて、酸素バリア性樹脂に他の熱可塑性樹脂がブレンドされていてもよい。
また、酸素吸収層は、特開2002−240813号等に記載されているように、酸化性重合体及び遷移金属系触媒を含む層であり、遷移金属系触媒の作用により酸化性重合体が酸素による酸化を受け、これにより、酸素を吸収して酸素の透過を遮断する。このような酸化性重合体及び遷移金属系触媒は、上記の特開2002−240813号等に詳細に説明されているので、その詳細は省略するが、酸化性重合体の代表的な例は、第3級炭素原子を有するオレフィン系樹脂(例えばポリプロピレンやポリブテン−1等、或いはこれらの共重合体)、熱可塑性ポリエステル若しくは脂肪族ポリアミド;キシリレン基含有ポリアミド樹脂;エチレン系不飽和基含有重合体(例えばブタジエン等のポリエンから誘導される重合体);などである。また、遷移金属系触媒としては、鉄、コバルト、ニッケル等の遷移金属の無機塩、有機酸塩或いは錯塩が代表的である。
【0029】
各層の接着のために使用される接着剤樹脂はそれ自体公知であり、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などのカルボン酸もしくはその無水物、アミド、エステルなどでグラフト変性されたオレフィン樹脂;エチレン−アクリル酸共重合体;イオン架橋オレフィン系共重合体;エチレン−酢酸ビニル共重合体;などが接着性樹脂として使用される。
上述した各層の厚みは、各層に要求される特性に応じて、適宜の厚みに設定されればよい。
【0030】
さらに、上記のような多層構造の成形体1を成形する際に発生するバリ等のスクラップをオレフィン系樹脂等のバージンの樹脂とブレンドとしたリグライド層を内層として設けることも可能であるし、オレフィン系樹脂或いはポリエステル樹脂により容器内面が形成された容器において、その外面をポリエステル樹脂或いはオレフィン系樹脂により形成することも勿論可能である。
【0031】
容器の形状は、特に制限されず、カップ乃至コップ状、ボトル状、袋状(パウチ)、シリンジ状、ツボ状、トレイ状等、容器材質に応じた形態を有していてよく、延伸成形されていてもよく、それ自体公知の方法で成形される。
【0032】
図2には、本発明の成形体1の最も好適な形態であるダイレクトブローボトルが示されている。
図2において、全体として10で示されるこのボトルは、螺条を備えた首部11、肩部13を介して首部11に連なる胴部壁15及び胴部壁15の下端を閉じている底壁17を有しており、このようなボトルの内面に、油性液体5により固体粒子3が保持されることとなる。
かかるボトル10は、粘稠な物質の収容に好適に使用され、胴部壁15をスクイズすることにより、内部に収容された粘稠な物質を排出するというものであり、内容物に対する滑性及びその持続性が向上していれば、このような内容物を速やかに排出することができるし、しかも、その全量を排出し、該内容物を使い切ることも可能となる。
【0033】
<固体粒子3>
本発明において用いる固体粒子3は、成形体1の表面に外添されるものであり、その表面に凹凸を形成し、その凸部の間(粒子間)に滑性向上に寄与する空気層7を形成するために使用される。
このような固体粒子3は、その粒子径が100μm以下、特に5〜80μm、格段には5〜30μmの範囲にあることが望ましい。この粒子径が大き過ぎると、自重による落下を生じ易く、微量の油性液体5を用いて表面に保持することが困難となるおそれがある。また、必要以上に粒子径が小さいと、滑性向上に寄与する空気層7を十分な大きさで形成することが困難となったり、さらに粒子同士の凝集を生じ易く、このため、微量の油性液体5による表面保持が困難となる傾向がある。
尚、上記の粒子径は、例えばレーザ回折・散乱法や顕微鏡観察等により測定することができ、所謂二次粒子径(凝集粒子径)を意味する。
【0034】
本発明において、このような固体粒子は、各種の有機材料、無機材料で形成されていてもよいが、油性液体5との馴染みが良好であり、微量の油性液体5により表面に保持し易いという観点から、金属粒子や金属酸化物等の無機粒子よりも、有機粒子であることが好ましく、例えば、オレフィン系ワックスやライスワックス、カルナバワックス、各種セルロース、有機樹脂硬化物(例えば、多官能アクリルモノマーを硬化して得られる硬化物)などが好ましく、特に食品類に対しても制限なく使用できるという点で、ライスワックスなどの植物油脂粒子が最適である。
【0035】
上述した固体粒子3は、0.01〜0.2mg/cm、特に0.05〜0.1mg/cmの量で構造体表面に分布していることが好適である。この分布量が多すぎると、隣り合う固体粒子3の間の間隙が小さくなりすぎて、滑り性に寄与する空気層7を効果的に形成することが困難となり、また、分布量が少なすぎると、固体粒子3の間隙が大きくなり過ぎてしまい、この表面上を粘稠な含水物質が流れるとき、空気層7が有効に作用せず、この物質が直接構造体1の表面に接触して流れるようになり、十分な滑性が得られなくなってしまうおそれがある。このように、十分な滑性を発現させる場合、固体粒子3は、400〜40000コ/mm、特に2000〜10000コ/mmの密度で構造体表面に分布させておくことが好適である。
【0036】
<油性液体5>
油性液体5は、成形体1の表面と固体粒子3との間にできる微小な空間に存在することにより、上記の固体粒子3を成形体1の表面に安定に保持すると共に、その撥水性により、含水物質に対して滑性を示すものであり、固体粒子3の保持剤および潤滑剤として機能する。油性液体5により、固体粒子3を成形体1の表面に保持できる機構としては、完全に解明された訳ではないが、固体粒子3と成形体1の間に存在する微小な空間に油性液体5が存在することで、固体粒子3と成形体1の間には油性液体5によるラプラス圧が生じ、この負のラプラス圧(すなわち、固体粒子3と成形体1の間には引力が生じる)によって固体粒子3は成形体1の表面に保持されていると考えられる。
このような油性液体は、当然、大気圧下での蒸気圧が小さい不揮発性の液体、例えば沸点が200℃以上の高沸点液体でなければならない。揮発性液体を用いた場合には、容易に揮散して経時と共に消失してしまうからである。
【0037】
また、上記のような高沸点液体であると共に、成形体1の表面に対して高い濡れ性を示し、成形体1の表面に密着して固体粒子3を安定に保持するという観点から、成形体1の表面に対する接触角(20℃)が45度以下、且つ粘度(25℃)が100mPa・s以下の油性液体であることが好適である。即ち、成形体1の表面素材が、合成樹脂製、ガラス製或いは金属製の何れであっても、上記のような物性を満足する油性液体を用いて固体粒子3を成形体1の表面に効果的に保持することができる。
さらに、粘稠な含水物質に対する滑性を高めるという点で、表面張力が10乃至40mN/m、特に16乃至35mN/mの範囲にある油性液体を用いるのが良い。即ち、表面張力が、滑性の対象となる含水物質と大きく異なるものほど、潤滑効果が高いからである。
【0038】
上述した接触角や粘度及び表面張力に関する条件を満足する油性液体5としては、流動パラフィン、合成パラフィン、フッ素系液体、フッ素系界面活性剤、シリコーンオイル、脂肪酸トリグリセライド、各種の植物油などが代表的である。特に滑性の対象となる物質が食品類(例えばマヨネーズやケチャップ)である場合には、食用油が好適である。
かかる食用油の具体例としては、大豆油、菜種油、オリーブオイル、米油、コーン油、べに花油、ごま油、パーム油、ひまし油、アボガド油、ココナッツ油、アーモンド油、クルミ油、はしばみ油、サラダ油などを例示することができる。
【0039】
本発明において、上記のような固体粒子3は、100質量部の油性液体5に対して0.5〜20質量部、特に3〜10質量部の量で使用することが好ましい。即ち、油性液体5の使用量が多すぎると、固体粒子3の間隙が油性液体5で完全に埋もれてしまい、滑り性に寄与する空気層7を十分な大きさで形成することが困難となり、また、この上を粘稠な含水物質が流れるとき、含水物質により油性液体5が掻き取られて表面から除去される当時に、固体粒子3も掻き取られ、この結果、滑り性の持続性も低下してしまうおそれがある。さらに、油性液体5の使用量が少ないと、固体粒子3を成形体1の表面に安定に保持することが困難となり、この場合にも、滑り性の低下やその持続性の低下を生じてしまうおそれがある。
【0040】
<油性液体5による固体粒子3の保持>
本発明において、上述した油性液体5を用いて固体粒子3を成形体1の表面に保持するには、前述した量を満足するように、油性液体5と固体粒子3とを混合して固体粒子3が分散した塗布液を調製し、この塗布液を、成形体1の表面に塗布すればよい。塗布手段は、成形体1の表面形状に応じて、スプレー噴霧、ナイフコーティング、ロールコーティングなど、公知の方法を採用することができるが、固体粒子3の分布量を容易に調整できるという点で、スプレー噴霧が好適に採用される。
前述のように、油性液体5による固体粒子3の保持は負のラプラス圧によるものと推察されるため、保持力(すなわち、ラプラス圧)を大きくするため、固体粒子3の粒子径を前述した範囲に設定しておくことが好ましい。
【0041】
上述した本発明の構造体は、粘稠な含水物質に対して優れた滑性及びその持続性を示すため、特に、粘度(25℃)が100mPa・s以上の粘稠な含水物質を収容する容器、特にダイレクトブロー容器として好適に使用され、例えば、マヨネーズ、ケチャップ、水性糊、蜂蜜、各種ソース類、マスタード、ドレッシング、ジャム、チョコレートシロップ、乳液等の化粧液、液体洗剤、シャンプー、リンス等の粘稠な内容物の充填ボトルとして最も好適である。
【実施例】
【0042】
本発明を次の実験例にて説明する。
尚、以下の実施例等で行った各種の特性、物性等の測定方法及び樹脂構造体(容器)の成形に用いた樹脂等は次の通りである。
【0043】
1.構造体の表面形状観察
後述の方法で作製した構造体である多層容器の胴部から20mm×20mmの試験片を切り出し、試験片の内面側の表面状態をデジタルマイクロスコープ(VHX−1000、(株)キーエンス製)にて観察し、3次元の画像を測定した。得られた画像から、測定面での最大高低差と凸部の1mmあたりの数密度を求めた。
【0044】
2.内容物滑り性試験(滑り挙動の観察)
後述の方法で作成した多層容器に内容物であるマヨネーズ様食品を常法で100g充填し、ボトル口部をアルミ箔でヒートシールし、キャップで密封して充填ボトルを得た。内容物が充填されたボトルを傾けて滑り挙動を目視にて観察した。内容物の動きが速いほど、滑り性に優れている。
【0045】
3.経時保管後の内容物滑り性試験
後述の方法で作成した多層容器に内容物であるマヨネーズ様食品を常法で400g充填し、ボトル口部をアルミ箔でヒートシールし、キャップで密封して充填ボトルを得た。
得られた充填ボトルを表1に示す各保管期間・温度にて保管した後、ヒートシール材を剥がし、キャップを装着させたボトルを用いて、胴部を押し、ボトル口部を通して内容物を最後まで搾り出した後、このボトル内に空気を入れ形状を復元させた。
次いで、このボトルを倒立(口部を下側)にして1時間保管した後のボトル胴部壁の内容物滑り性の程度(胴部壁に内容物が付着していない程度)を測定し、次の式で内容物付着率を計算した。
内容物付着率(%)
=(内容物が付着している表面積/ボトル胴部壁表面積)×100
上記で計算された内容物付着率から、滑り性を次の基準で評価した。
○:内容物付着率が10%未満
△:内容物付着率が10%以上で50%未満
×:内容物付着率が50%以上
内容物付着率が低いほど、経時保管後の内容物滑り性に優れている。
【0046】
<内容物>
卵1個(50g)と酢15ccと塩2.5ccを混ぜた後、さらに食用油150ccを混ぜ合わせて、実験用のマヨネーズ様食品を作成した。各実施例、比較例では、必要量の内容物を作成して使用した。
【0047】
<実施例1>
下記の層構成を有する多層構造を有し、且つ内容量400gの多層ダイレクトブローボトルを用意した。
内層:低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)
中間層:エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)
外層:低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)
接着層(内外層と中間層との間):酸変性ポリオレフィン
次に、油性液体100g(中鎖脂肪酸添加サラダ油、粘度33mPa・s(25℃))と固体粒子5g(カルナバワックス)を、ホモジナイザーを用いて25℃で微分散化させて塗布液を調製し、エアースプレーを用いて容器の内面に均一に塗布した。塗布量は1.97mg/cmであった。このようにして作製したボトルを用いて、前述の構造体の表面形状観察、内容物滑り性試験(滑り挙動の観察)、経時保管後の内容物滑り性試験を行った。結果をまとめて表1に示す。また、構造体の表面形状観察で得られた結果を図3に示す。
【0048】
<実施例2〜6>
油性液体と固体粒子の割合、塗布量を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様の手順で容器内面に微分散液を塗布したボトルを作製し、内容物滑り性試験(滑り挙動の観察)、経時保管での内容物滑り性試験を行った。結果をまとめて表1に示す。
【0049】
<比較例1>
塗布液として固体粒子を含有しない油性液体とした以外は実施例1と同様の手順で容器内面に油性液体を塗布したボトルを作製し、内容物滑り性試験(滑り挙動の観察)、経時保管での内容物滑り性試験を行った。結果をまとめて表1に示す。
【0050】
<比較例2>
下記組成の下地層形成用樹脂組成物を用意した。
低密度ポリエチレン(LDPE) 94重量部
粗面化用添加剤 1重量部
架橋ポリメタクリル酸メチル(平均粒子径=20μm)
液層形成用液体 5重量部
中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)
40mm押出機に、上記の下地層形成樹脂組成物を、30mm押出機Aに接着層形成用樹脂として無水マレイン酸変性ポリエチレンを、30mm押出機Bに中間層形成用樹脂としてエチレン・ビニルアルコール共重合体を、50mm押出機に基材形成用樹脂として低密度ポリエチレンを、それぞれ供給し、温度210℃の多層ダイヘッドより溶融パリソンを押し出し、金型温度20℃にてダイレクトブロー成形を行い、内容量500g、重量20gの多層構造体から成る容器を作製した。
作製した多層構造体である容器を用いて、実施例1と同様に各種測定を行った。結果を表1に示す。
尚、これらの容器の層構成は、液層を内面としており、以下の通りである。
液層/下地層(80)/接着層(10)/中間層(20)/接着層(10)/基材(300) :全体厚み(420)
【0051】
<比較例3>
下記組成の下地層形成用樹脂組成物を用意した。
低密度ポリエチレン(LDPE) 94重量部
粗面化用添加剤 3重量部
架橋ポリメタクリル酸メチル(平均粒子径=20μm)
液層形成用液体 5重量部
中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)
上記の下地層形成用樹脂組成物とした以外は比較例2と同様に多層構造体から成る容器を作製した。作製した容器を用いて比較例2と同様に各種測定を行った。結果をまとめて表1に示す。また、構造体の表面形状観察で得られた結果を図4に示す。
尚、これらの容器の層構成は、液層を内面としており、以下の通りである。
液層/下地層(80)/接着層(10)/中間層(20)/接着層(10)/基材(350):全体厚み(470)
【0052】
【表1】
【0053】
表1より、ボトル内面に外添により固体粒子を分布させ、これらを油性液体で保持した実施例1から4においては、内添によりボトル内面に凹凸を形成し、この凹凸が表面に反映されるような極薄の油膜を形成した比較例2および3と比較して、高い滑り性を示していることがわかる。表面形状測定の結果から、外添により固体粒子を分布させた場合では、内添により凹凸を形成した場合(比較例2、3)と比べ、凸部の数密度が桁違いに多いことが分かる。このことが、滑り挙動の違いに現れていると考えられる。
また、固体粒子を用いないで油性液体のみを被覆した比較例1では、初期の滑り性は極めて高いが、高温での経時によりその性能が低下してしまうのに対し、固体粒子を分布させ、これらを油性液体で保持した実施例1から4においては、高温での経時においても高い滑り性を長期間維持できることが分かる。
【符号の説明】
【0054】
1:成形体
3:固体粒子
5:油性液体
7:空気層
図1
図2
図3
図4