(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熱処理工程では、前記熱源を用いて、前記ガラス板の主表面内の温度差が低減されるよう前記ガラス板を加熱する、請求項1に記載のディスプレイ用ガラス板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施形態のディスプレイ用ガラス板の製造方法およびディスプレイ用ガラス板製造装置について説明する。
本実施形態のディスプレイ用ガラス板の製造方法は、成形されたガラス板に対し熱処理を行う熱処理工程を備えている。熱処理工程では、互いに間隔をあけて配置された複数のガラス板の間の隙間に加熱された気体(熱風)を送風し、かつ、ガラス板に対して気体が送風される方向の下流側(風下側)に配置された熱源によってガラス板を加熱する。この方法では、熱風を用いてガラス板を加熱しつつ、風下側から熱源によってガラス板を加熱するため、ガラス板の面内での温度差が低減され、ガラス板の面内に熱履歴の差が生じることが抑えられている。このため、ガラス板の面内での熱収縮率のバラつきが低減されている。このようなガラス板は、ディスプレイ用ガラス板として適している。
【0017】
(ガラス板の製造方法の概略説明)
図1は、本実施形態のガラス板の製造方法の工程の一例を示す図である。
ガラス板の製造方法は、成形工程(S1)と、徐冷工程(S2)と、採板工程(S3)と、熱処理工程(S4)と、切断工程(S5)と、端面加工工程(S6)と、洗浄工程(S7)と、検査工程(S8)と、梱包工程(S9)と、を備える。
【0018】
成形工程(S1)では、熔融ガラスをシートガラスに成形する。成形方法には、フュージョン法(オーバーフローダウンドロー法)、フロート法等の公知の方法が用いられる。このうち、フュージョン法は、製造ラインに含まれる徐冷装置を長くすることが困難であることから、オフラインアニールを行う本実施形態の方法に適している。
徐冷工程(S2)では、成形されて搬送されるシートガラスの内部歪および反りが生じないよう、徐冷装置において冷却する。
採板工程(S3)では、徐冷されたシートガラスを所定の長さごとに切断して複数のガラス板を得る。ガラス板は、矩形形状に採板されることが好ましく、サイズは、特に制限されないが、例えば、縦長さおよび横長さがそれぞれ500mm〜3500mmである。ガラス板の板厚は、例えば、0.1〜1.1mmである。
熱処理工程(S4)では、後述する熱処理炉内で、ガラス板に対し熱処理を行う。なお、熱処理炉内では、熱処理工程(S4)が行われる間、ガラス板を搬送する搬送工程が合わせて行われる。
切断工程(S5)では、熱処理を行ったガラス板を所定のサイズに切断して複数のガラス基板を得る。ガラス基板は、矩形形状に切断されることが好ましく、サイズは、特に制限されないが、例えば、縦長さおよび横長さがそれぞれ500mm〜3500mmである。
端面加工工程(S6)では、ガラス基板に対し、端面の研削、研磨およびコーナーカットを含む端面加工を行う。
洗浄工程(S7)では、ガラス基板を洗浄する。
検査工程(S8)では、洗浄されたガラス基板に対し、表面に傷、塵、汚れがないか、あるいは、気泡、異物等の内部欠陥がないか、光学的検査を行う。
梱包工程(S9)では、検査の結果、所望の品質に適合するガラス基板を梱包する。梱包されたガラス基板は納入先業者に出荷される。
【0019】
(ガラス板製造装置)
本実施形態のディスプレイ用ガラス板製造装置は、上記説明した成形工程(S1)〜採板工程(S3)の各工程を行う装置として、成形装置、徐冷装置、切断装置を備えている。このうち、成形装置は、オーバーフローダウンドロー法による成形が行われる場合、熔融ガラスを成形するための成形体を有している。ガラス板製造装置は、さらに、後述する、熱処理工程を行う熱処理ユニット(熱処理装置)、搬送工程を行う搬送ユニット(搬送装置)、を備えている。
【0020】
(ガラス板)
本実施形態で製造されるガラス板は、ディスプレイに用いられるディスプレイ用ガラス板であり、例えば、フラットパネルディスプレイ(FPD)用ガラス板、曲面ディスプレイ用ガラス板である。また、本実施形態で製造されるガラス板は、例えば、IGZO(インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素)等の酸化物半導体を使用した酸化物半導体ディスプレイ用ガラス板、LTPS(低温ポリシリコン)半導体を使用したLTPSディスプレイ用ガラス板である。また、本実施形態で製造されるガラス板は、例えば、液晶ディスプレイ用ガラス板、有機ELディスプレイ用ガラス板である。
【0021】
本実施形態で製造されるガラス板は、熱収縮率は10ppm以下であることが、ディスプレイに用いられる点から好ましく、熱収縮率は6ppm以下であることがより好ましく、3ppm以下であることがより好ましく、2ppm以下であることがより好ましい。ガラス板の熱収縮率を2ppm以下にすることにより、ガラス板の面内の熱収縮のばらつきを2ppm以下にすることができる。なお、本明細書において、熱収縮率のバラつきが低減されているという場合、ガラス板の面内の複数の位置で測定した熱収縮率がいずれも2ppm以下であることを意味する。
ガラス板の歪点は、高精細なディスプレイ用ガラス板とするために、600℃〜760℃であることが好ましい。例えば、歪点は、661℃である。
本実施形態の熱処理により熱収縮率を低減する前のガラス基板の熱収縮率は、500℃、10分の条件で熱処理した場合に、80ppm以下であり、より好ましくは40ppm〜60ppmである。
【0022】
このようなガラス板として、以下のガラス組成のガラス板が例示される。つまり、本実施形態の方法では、以下のガラス組成のガラス板が製造されるように、熔融ガラスの原料が調合される。
SiO
2 55〜80モル%、
Al
2O
3 8〜20モル%、
B
2O
3 0〜12モル%、
RO 0〜17モル%(ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量)。
【0023】
SiO
2は60〜75モル%、さらには、63〜72モル%であることが、熱収縮率を小さくするという観点から好ましい。
ROのうち、MgOが0〜10モル%、CaOが0〜15モル%、SrOが0〜10%、BaOが0〜10%であることが好ましい。
【0024】
また、SiO
2、Al
2O
3、B
2O
3、及びROを少なくとも含み、モル比((2×SiO
2)+Al
2O
3)/((2×B
2O
3)+RO)は4.5以上であるガラスであってもよい。また、MgO、CaO、SrO、及びBaOの少なくともいずれか含み、モル比(BaO+SrO)/ROは0.1以上であることが好ましい。
【0025】
また、モル%表示のB
2O
3の含有率の2倍とモル%表示のROの含有率の合計は、30モル%以下、好ましくは10〜30モル%であることが好ましい。
また、上記ガラス組成のガラス基板におけるアルカリ金属酸化物の含有率は、0モル%以上0.4モル%以下であってもよい。
また、ガラス中で価数変動する金属の酸化物(酸化スズ、酸化鉄)を合計で0.05〜1.5モル%含み、As
2O
3、Sb
2O
3及びPbOを実質的に含まないということは必須ではなく任意である。
【0026】
(熱処理炉の構成)
本実施形態の熱処理工程(S4)は、
図2に示す熱処理炉を用いて行われる。
図2は、熱処理炉1の内部構造を説明する図である。搬送工程も、熱処理炉1を用いて行われる。
熱処理炉1は、ガラス板Gが搬入されるよう開口された入口3と、炉1内を通過したガラス板Gが搬出されるよう開口された出口5と、入口3と出口5とを炉1内で接続するように延びる搬送路7と、を有している。ガラス板Gの搬送方向は、
図2において左方から右方に向かう方向であり、矢印Aで示す方向である。なお、
図2では、便宜のため、入口3と出口5の間の熱処理炉1の部分を省略している。
【0027】
ガラス板Gは、熱処理炉1の上流側を、主表面が上下方向を向いた状態で搬送され、入口3において、図示されない吸着機構によって、主表面が吸着され支持されながら、主表面が搬送方向を向くよう立てられる。
ガラス板Gは、出口5において、図示されない他の吸着機構によって、主表面が吸着され支持されながら、主表面が上下方向を向くよう寝かせられる(倒される)。寝かせられたガラス板Gは、熱処理炉1の下流側において、主表面が上下方向を向いた状態で搬送される。
【0028】
搬送路7は、搬送方向に3つに分けてなる3つの区間を有しており、ガラス板Gが3つの区間を搬送されることで、ガラス板Gに対し、昇温、キープ、降温の各熱処理が順に行われる。
図2には、昇温区間7a、降温区間7cの各一部が示され、後で参照する
図3には、キープ区間7bの一部が示される。3つの区間7a〜7cは、温度、ガラス板Gが搬送される時間等の熱処理条件は異なるが、装置構成は同様である。搬送路7には、ガラス板Gの温度を測定する測定手段が、搬送方向の所定間隔ごとに設けられている。測定手段は、具体的に、ガラス板Gの風上側の端部(上端部)および風下側の端部(下端部)の温度をそれぞれ測定する。測定手段には、例えば熱電対温度計が用いられる。
【0029】
熱処理炉1は、搬送路7上で複数のガラス板Gを搬送する搬送ユニットと、搬送されるガラス板Gに対し熱処理を行う熱処理ユニットと、を備える。
【0030】
(a)搬送ユニット
搬送ユニットは、搬送工程を行うためのものであり、搬送されるガラス板Gの上方に搬送方向の両端に掛け渡された2本のチェーンベルト(搬送ベルト)21(
図3参照)と、チェーンベルト21とともに搬送方向に移動する複数のバー23と、バー23に取り付けられた複数のクランプ25と、を有している。
【0031】
チェーンベルト21は、例えば、搬送方向の両端のそれぞれにおいて複数のローラに架け渡され、
図2に示されるように駆動される。なお、
図2には、便宜のため、搬送方向の上流側の複数のローラのうちの一部のローラのみを示す。チェーンベルト21は、
図3に示すように、搬送されるガラス板Gの幅方向の両端のそれぞれと対応するよう1本ずつ設けられ、熱処理工程(S4)の間、図示されない駆動機構によって駆動される。
図3は、本実施形態の熱処理工程を説明する図である。なお、
図3では、チェーンベルト21のうちの搬送方向に移動する部分を示し、搬送方向と反対方向に移動する部分を省略している。また、
図3では、説明の便宜のため、クランプ25の図示を省略し、バー23およびガラス板Gを、互いに間隔をあけた状態で示している。
搬送されるガラス板Gを挟んでチェーンベルト21と対向する位置には、熱処理炉1の底部を構成するベルト27が、搬送方向の両端に掛け渡されている。ベルト27は、熱処理工程(S4)の間は駆動されないが、必要に応じて不図示の操作装置を操作して駆動させることができる。ベルト27には、例えば、厚み方向に貫通する開孔が面方向に並ぶよう形成されたメッシュベルトが用いられる。メッシュベルトを用いることによって、熱処理工程において送風されるダウンフローの熱風をメッシュベルトを通過させて下方に流すことができ、熱風の下方向への流れを安定させることができる。さらに、厚み方向に貫通する開孔を有しないベルトを用いた場合は、熱風がベルトに衝突することでベルト上の粉塵が舞い上がって、搬送中のガラス板Gに付着するおそれがあるが、メッシュベルトを用いた場合は、ベルト表面に粉塵が溜まるおそれがないため、そのような粉塵による不都合の発生を抑えることができる。なお、ベルト27の代わりに、駆動されない板状部材で、熱処理炉1の底部は構成されてもよい。
【0032】
バー23は、例えば金属を材質とする板状部材である。バー23は、搬送工程(S4)において、長手方向の両端が、搬送方向に移動するチェーンベルト21の部分に載置され、チェーンベルト21に追従するように搬送方向に移動する。バー23には、クランプ25が取り付けられており、熱処理炉1の入口3において、把持機構4によってガラス板Gがクランプ25に把持されることでガラス板Gはバー23に吊り下げられる。
図4に、バー23およびクランプ25をより詳細に示す。
図4は、クランプ25に把持されたガラス板Gを側方から見て示す図である。ガラス板Gを吊り下げたバー23は、搬送路7においてガラス板Gを所定の間隔(ピッチ)で搬送するために、搬送路7の上流側の端に配置されたロード機構8によって、1本ずつ、互いに間隔をあけてチェーンベルト21に載置される。これによって、ガラス板Gは、バー23を介してチェーンベルト21に吊り下げられた状態で搬送(縦吊り搬送)される。ガラス板Gの間隔は、狭いほど、生産性は高くなるが、熱風の熱がガラス板Gによって奪われやすくなる。本実施形態の製造方法では、後述するようにガラス板Gの面内での熱収縮率のバラつきを低減できることから、ガラス板Gの間隔が狭い場合にも好適である。ガラス板Gの間隔は、生産性およびガラス板同士の接触防止の観点から、20〜200mmであることが好ましく、より好ましくは50〜150mmである。なお、
図2および
図4では、説明の便宜のため、複数のガラス板Gの間隔を詰めて示す。
ガラス板Gを吊り下げたバー23は、搬送路7の下流側の端に配置されたアンロード機構9によって、チェーンベルト21から取り外され、熱処理炉1の出口5において、抜き取り機構6によってガラス板Gはクランプ25から抜き取られる。
【0033】
クランプ25は、ガラス板Gの上端部を把持する部材である。クランプ25は、特に制限されないが、例えば、バネ力によってガラス板Gの両主表面を挟むバネクランプを採用することができる。1つのバー23に取り付けられるクランプ25の数は、1つであってもよいが、搬送中のガラス板Gの姿勢をより安定させるために、2つ以上であることが好ましい。2つ以上のクランプ25がバー23に取り付けられている場合、クランプ25は、バー23に対し幅方向にスライドできるよう構成されていることが好ましい。金属材料で構成されたバー23は、ガラス板Gよりも熱膨張率が高く幅方向に延びやすい。このため、クランプ25がバー23に対して幅方向に移動することで、バー23が熱膨張してもガラス板Gの上端部に撓みや変形が生じるのを防止することができる。
【0034】
(b)熱処理ユニット
熱処理ユニットは、熱処理工程(S4)を行うためのものであり、搬送されるガラス板Gの上方および下方のそれぞれに搬送方向に並ぶよう配置された複数のファン付きヒータ31と、複数のヒータ33と、を有している。ファン付きヒータ31およびヒータ33は、搬送されるガラス板Gに、予め設計された温度プロファイルが形成されるよう、図示しない制御装置によって制御される。
【0035】
ファン付きヒータ31は、ヒータで加熱された気体をファンで送風するよう、ヒータとファンが互いに隣接して配置された一体の装置であり、熱処理炉1内では、ヒータに対してファンを下方にして配置される。ファン付きヒータ31のヒータには、例えば、バーナーヒータ、電気ヒータが用いられる。ファンは、熱処理工程(S4)の間、ヒータで加熱された空気を、
図3に示されるように下方に向けて送風するよう駆動される。
図3において、熱風が流れる向きを太い矢印で示す。熱処理炉1内の雰囲気中に粉塵が浮遊している場合であっても、このようなダウンフローの熱風によって大きな粉塵(例えば、最大長さ数μm以上の粉塵)は炉1の底部に運ばれて堆積する。また、小さな粉塵(例えば、最大長さ0.5μm未満)はフィルタによって除去される。このため、粉塵が雰囲気中を浮遊し続けてガラス板Gの表面に付着するのを抑えることができる。なお、フィルタは、熱風に曝されるため、耐熱性を有するフィルタが好ましい。フィルタは、例えば、後述するベルト27の下方でかつファン付きヒータ31の上方に配置される。また、ダウンフローの熱風は、熱処理炉1内を循環する空気流を形成できる点で好ましい。熱風は、ガラス板G間を下方に流れた後、熱処理炉1の底部に沿って熱処理炉1の図示されない側壁まで流れて、側壁に沿って上昇し、さらに熱処理炉1の天井に沿って流れることで、搬送路7の周りを循環する。
【0036】
熱風の送風は、上記説明した態様に制限されず、下記説明する態様で行ってもよい。
例えば、熱処理炉1の炉壁の外側に配置された下記熱風発生装置(図示せず)を用いて熱風の送風を行ってもよい。この熱風発生装置は、炉壁に設けられた送風口(図示せず)から炉1内に熱風を供給する装置である。熱風発生装置は、具体的に、ヒータと、ヒータで加熱された気体を送風するためのファンと、を備える装置であり、ヒータがファンの下流側に配置されていてもよく、ファンがヒータの下流側に配置されていてもよい。熱風発生装置を用いる場合、熱処理炉1の炉壁のうち、送風口が設けられた位置(例えば炉1の天井)と異なる位置(例えば炉1底部)に、炉1内に供給された熱風を炉1外に排出するための排気口(図示せず)が設けられる。送風口および排気口が設けられる位置は、炉1内を搬送されるガラス板Gが熱風の流れの途中に配置されるよう調整される。このようにして熱風を送風する態様において、排気口から炉1外に排出された熱風は、熱風発生装置に戻され、炉1内および炉1外にわたって循環するようになっていてもよく、循環せずにそのまま大気中に放出されるようになっていてもよい。
また、例えば、熱処理炉1内または炉壁の外側に配置された下記熱風発生装置(図示せず)を用いて熱風の送風を行ってもよい。この熱風発生装置は、一方向に延びる形状の発熱体と、この発熱体を外側から、発熱体との間に隙間をあけて取り囲む筒状の部材と、を有する熱風発生装置を用いて、熱風の送風を行ってもよい。発熱体は、例えば、筒状の部材との間の隙間を、気体が軸方向に螺旋状に流れるような形状を有していてもよい。この熱風発生装置は、筒状の部材の一端から筒状の部材の内側に吸引された気体が、筒状の部材内を通る間に、発熱体と接触することで加熱され、熱風となって他端から排出される。
これらの態様において、熱風は、ガラス板G間の隙間を、上下方向に流れる代わりに、側方向に流れてもよい。
【0037】
ヒータ33(熱源)は、ガラス板Gを加熱できるものであればよく、例えば、バーナーヒータ、電磁波ヒータ、熱伝導ヒータ、熱風ヒータが用いられる。ヒータ33は、熱風だけを用いて熱処理工程(S4)を行った場合にガラス板Gの温度が最も低くなる部分に隣接する位置に配置されることが好ましい。このような位置にヒータ33が配置されることで、ガラス板Gの面内に温度差が生じることに起因して熱収縮率のバラつきが生じるのを効果的に抑えることができる。具体的に、ヒータ33は、ガラス板Gを介してファン付きヒータ31と対向する位置、すなわち熱風の風下側に配置されることが好ましい。ヒータ33は、例えば、搬送方向に移動するベルト27の部分の下方に、搬送方向に間隔をあけて複数個が配置されている。ヒータ33は、熱風の流れが妨げられないよう構成されていることが好ましい。そのようなヒータ33は、例えば、
図5に示されるヒータ33のように、平面方向に発熱体の間に隙間を有する形状のものである。
図5に示されるヒータ33は、平面視略M字形状を有するよう形成された発熱体であり、平面方向に発熱体の間に隙間を有している。
図5は、ヒータ33の一例を示す外観図である。
図5において、熱風は上下方向に通過する。
図5に示すヒータ33は、発熱体の両端は図示されない電源に接続され、発熱体を電流が流れることで発熱する。例えば、ファン付きヒータ31から送風されるダウンフローの熱風は、発熱体の間の隙間を流れることで、ヒータ33に妨げられることなくさらに下流側に流れ、熱風は、上述のように循環することができる。
【0038】
ファン付きヒータ31およびヒータ33は、発熱する領域の横方向(
図2の紙面奥行き方向)長さが、搬送されるガラス板Gの幅方向長さより長いことが好ましい。また、搬送方向に隣り合うファン付きヒータ31の間隔は、搬送方向にわたって熱風の温度にムラが生じないよう調整される。また、搬送方向に隣り合うヒータ33の間隔は、ガラス板Gに伝達されるヒータ33の放射熱が搬送方向にわたってムラが生じないよう調整される。
なお、ヒータ33は、
図2に示されるものに代えて、
図3に示されるように搬送方向に沿って延びる形状のものが用いられてもよい。
図3に、そのようなヒータ33の一部の搬送領域の部分を示す。そのようなヒータ33として、例えば、搬送方向に延びる形状の金属の板状部材に、搬送方向に沿って延びる電熱線が設けられたもの、あるいは、そのような板状部材を搬送方向に通電して発熱させるもの等が挙げられる。
図3に示す形態のヒータは、ファン付きヒータ31のヒータに適用してもよい。
【0039】
(熱処理工程)
熱処理工程(S4)は、上記説明した熱処理炉1を用いて行われる。熱処理工程では、成形されたガラス板Gに対し、ガラス板Gの温度が好ましくは400〜600℃、より好ましくは450〜550℃となる範囲で熱処理を行う。具体的には、熱処理炉1内において、互いに間隔をあけて配置された複数のガラス板Gの間の隙間に熱風を送風し、かつ、ガラス板Gに対して熱風が送風される方向の下流側(風下側)に配置されたヒータ33から放射される放射熱によってガラス板Gを加熱する。熱処理工程(S4)が行われる間、熱処理炉1において、ガラス板Gを互いに間隔をあけて搬送する搬送工程が並行して行われてもよい。搬送工程では、ガラス板Gは、ガラス板Gの主表面が搬送方向を向くようチェーンベルト21に吊り下げられ、縦吊り搬送される。
【0040】
上記温度範囲の熱処理はキープ区間で行われる。400〜600℃の温度範囲は、LTPS(低温度ポリシリコン)、IGZO(インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素)から構成される半導体層をガラス基板上に形成するときの温度を含む範囲であり、この温度範囲においてガラス板の面内での熱収縮率のバラつきを低減できればよい。
キープ区間での熱処理は、具体的には、ガラス板Gの温度を好ましくは400〜600℃の範囲内の所定の温度(キープ温度)に保持すること、より具体的には、ガラス板Gの面内の温度差がキープ温度の範囲内に収まるようガラス板Gの温度を保持することにより行われる。キープ温度は、ガラス板Gの面内での熱収縮率のバラつきを低減できるよう定められる。キープ温度の範囲の上限値と下限値との差は20℃以内であることが好ましく、差がないことがより好ましい。例えば、キープ温度は、上限値と下限値との差が20℃以下となる450〜550℃の範囲であり、より好ましくは、上限値と下限値との差が20℃以下となる480〜530℃の範囲である。また、キープ区間の熱処理を行う時間(キープ時間)は、熱収縮率の低減を考慮して調整され、例えば60分以上である。
【0041】
キープ温度の範囲の上限値と下限値との差を20℃以内にする方法の例として、熱風が熱処理炉1の搬送路7内に流れ込んだ時の熱風温度T
1と、搬送路7から熱処理炉1内の底部に流れる時の熱風温度T
2とを測定し、熱風温度T
1と熱風温度T
2の間に温度差が生じるのを抑制するように、ヒータ33を加熱することが挙げられる。例えば、測定の結果、熱風温度T
1が520℃、熱風温度T
2が490℃であった場合、熱風温度T
2より高い温度にヒータ33の設定温度(例えば、520℃〜530℃)を設定し、熱風温度T
2が520℃に近づくように、ヒータ33の温度を制御することで上限値と下限値との差を20℃以内にすることができる。
【0042】
熱処理工程(S4)では、上記したキープ区間での熱処理のほか、キープ温度未満の熱処理が行われてもよい。キープ温度未満の熱処理は、昇温区間および降温区間で行われる。
昇温区間では、具体的に、ガラス板Gをキープ温度に昇温する。昇温開始時点のガラス板Gの温度は特に制限されず、例えば常温である。昇温速度は、区間を通じて略等速であることが好ましく、例えば6.7〜60℃/分である。昇温時間は、熱収縮率の低減を考慮して調整され、例えば10分以上である。
降温区間では、具体的に、ガラス板Gの温度をキープ温度から、歪点−100℃〜歪点−300℃の範囲内の温度(例えば400℃)に降温する。降温速度は、区間を通じて略等速であることが好ましく、例えば0.8〜2.5℃/分である。降温時間は、熱収縮率の低減を考慮して調整され、例えば60分以上である。
【0043】
熱処理工程(S4)が行われることによって、予め設計された温度プロファイルが、各ガラス板において再現される。温度プロファイルは、熱処理工程の経過時間に伴うガラス板Gの温度変化を示すものであり、ガラス板Gの面内の熱収縮率のバラつきを低減する観点から予め設計される。温度プロファイルは、特に制限されないが、例えば、キープ区間と対応する時間ではガラス板Gの温度が最も高くかつ一定であるキープ温度に保持され、昇温区間と対応する時間では常温からキープ温度にかけて昇温され、降温区間と対応する時間ではキープ温度から徐々に降温される態様のものが挙げられ、温度を縦軸、熱処理工程の経過時間を横軸としたときに、略台形形状をなしている。降温時間は、昇温時間より長いことが好ましい。
【0044】
ファン付きヒータ31およびヒータ33の温度は、上記温度プロファルが再現されるよう設定される。
熱処理工程(S4)は、例えば、昇温、キープ、降温の各区間の間で、熱風の風量を代えずに、熱風の温度を変えることにより行うことができる。熱風の温度は、ファン付きヒータ31のヒータ温度の調整によって変えることができる。
【0045】
熱風は、ガラス板Gの端部から面内の中心に向かって送風されることが好ましい。これにより、ガラス板Gの主表面のより広い領域の部分に熱を伝達させ、ガラス板Gの面内の温度差を効果的に低減することができる。この理由から、ガラス板Gは、熱風が流れる方向に対して、横(熱風が流れる方向と直交する方向)の寸法が縦(熱風が流れる方向)の寸法よりも短くなるよう、横長にして搬送されることが好ましい。このように搬送することで、同じ寸法のガラス板Gを縦長にして搬送する場合と比べ、熱風の熱がガラス板Gに奪われる縦長さを短くし、ガラス板Gの風上側の部分と風下側の部分との間で生じる温度差を低減できる。
【0046】
熱処理工程において、搬送方向に隣り合うガラス板Gの間隔は、生産性およびガラス板Gの搬送速度を考慮して調整される。
図3において、ガラス板Gの間隔を両方向矢印で示す。また、ガラス板Gの搬送速度は、ガラス板Gを安定した姿勢で搬送する観点から調整される。搬送速度は、区間の間で同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0047】
本実施形態のガラス板の製造方法では、複数のガラス板Gを互いに間隔をあけ、隣り合うガラス板G間の隙間に熱風を送風することで、各ガラス板に対して均等な熱処理を行うことができ、ガラス板Gの間での熱収縮率のバラつきが抑制されている。そして、ガラス板Gのそれぞれには、熱処理工程において、熱風の風下側には配置されたヒータ33の放射熱が伝達されるため、熱風の風下側の温度が風上側よりも低下しても、ガラス板Gの面内での温度差の発生が抑制されている。このため、ガラス板Gの面内で熱履歴の差が生じて内部歪が発生することが抑えられ、各ガラス板Gの面内における熱収縮率のバラつきが抑制されている。また、本実施形態のガラス板の製造方法によって製造されたガラス板は、ガラス板Gの温度が400〜600℃となる範囲で熱処理が行われた場合は、LTPS、IGZOから構成される半導体層が主表面に形成されるときの熱収縮率が小さく、また、比較的大きいサイズのものであっても面内で熱収縮率がバラつくことが抑えられていることから、ディスプレイ用ガラス板として適している。
【0048】
なお、熱処理工程では、熱風を、ガラス板の上下方向に送風する代わりに、ガラス板の側方向(
図2の紙面奥行き方向)の一方の側から送風し、かつ、側方向の他方の側に配置された熱源を用いてガラス板を加熱することで熱処理を行ってもよい。また、熱処理工程において、ガラス板は搬送されなくてもよく、定位置で、例えばファン付きヒータ31およびヒータ33の温度を変化させることによって、昇温、キープ、降温の各区間で行われる熱処理を行ってもよく、また、3つの異なる位置のそれぞれにおいて、いずれかの区間で行われる熱処理を行い、3つの異なる位置の間でガラス板を移動させて他の熱処理を行うようにして昇温、キープ、降温の各熱処理を行ってもよい。また、ガラス板は、熱処理工程において、熱風の風上側の端部のみでなく、風下側の端部も把持されてもよい。この場合、熱風が風上側からガラス板の面内の中心を通って風下側に通り抜けられるよう、風下側で熱風の通路が確保されていることが好ましい。
【0049】
(実験例)
オーバーフローダウンドロー法を用いて作製した、SiO
2 67.0モル%、Al
2O
3 10.6モル%、B
2O
3 11.0モル%、RO 11.4モル%(ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量)のガラス組成を有する厚さ0.5mmのシートガラスを、2270mm×2000mmのサイズの複数の矩形形状のガラス板に採板し、上記説明した熱処理炉1内で、複数のガラス板に対し下記条件で熱処理工程を行った(実施例1)。
昇温区間:常温から、500℃〜520℃の範囲まで30分かけて昇温
キープ区間:500℃〜520℃の範囲で120分保持
降温区間:500℃〜520℃の範囲から120℃まで60分かけて降温
ガラス板間ピッチ:100mm
【0050】
また、実施例1のガラス板を採板した同じシートガラスから採板したガラス板を用いて、ヒータ33による加熱を行わなかった点を除いて実施例と同様に熱処理工程を行った(比較例)。比較例では、キープ区間でのガラス板の面内の温度差は30℃を超えていた。
【0051】
(熱収縮率の測定)
熱処理工程を行った実施例および比較例のガラス板からそれぞれ9枚のガラス基板を切り出し、各ガラス基板について下記の要領で熱収縮率を測定した。
ガラス基板の長辺両端部にケガキ線を入れ、短辺中央部で半分に切断し、2つのガラスサンプルを得る。このうちの一方のガラスサンプルを、熱処理(昇温速度が100℃/分、500℃で30分放置)する。熱処理をしない他方のガラスサンプルの長さを計測する。さらに、熱処理したガラスサンプルと未処理のガラスサンプルとをつき合わせてケガキ線のずれ量を、レーザ顕微鏡等で測定して、ガラスサンプルの長さの差分を求めることでサンプルの熱収縮量を求める。この熱収縮量である差分と、熱処理前のガラスサンプルの長さを用いて、以下の式により熱収縮率が求める。このガラスサンプルの熱収縮率をガラス基板の熱収縮率とする。
熱収縮率(ppm)=(差分)/(熱処理前のガラスサンプルの長さ)×10
6
測定の結果、実施例のガラス基板の熱収縮率はいずれも3ppm以内であったのに対し、比較例のガラス基板の熱収縮率は4〜10ppmの範囲に及んでいて、実施例のガラス板は面内でのバラつきが低減されていることが確認された。
【0052】
(実施例2)
実施例1と同様の組成、厚さを有するガラス板から、300mm×300mmのサイズのガラス基板を切り出し、上記説明した熱処理炉1内で、下記条件1、条件2で熱処理工程を行った(実施例2)。ガラス基板のサイズを300mm×300mmと小さくすることにより、ダウンフローによる熱処理によって生じるガラス基板の上部と下部との温度差を抑制し、ガラス基板の面内温度が均一になるよう熱処理した。この熱処理によって、ガラス基板の面内の熱収縮率のばらつきが0になるようにした。条件1、条件2のそれぞれの熱処理によって得られたガラス基板の熱収縮率を求め、条件1と条件2との熱処理温度差20℃によって生じる熱収縮率のばらつきを求めた。
条件1
昇温区間:常温から、500℃の温度まで30分かけて昇温
キープ区間:500℃の温度で90分保持
降温区間:500℃から、400℃まで90分かけて降温
ガラス基板間ピッチ:100mm
条件2
昇温区間:常温から、520℃の温度まで30分かけて昇温
キープ区間:520℃の温度で90分保持
降温区間:520℃から、400℃まで90分かけて降温
ガラス基板間ピッチ:100mm
【0053】
条件1によるガラス基板の熱収縮率は−0.1ppm、条件2によるガラス基板の熱収縮率は1.9ppmであった。条件1と条件2とのキープ温度の温度差は20℃であるため、熱処理の温度差が20℃であるガラス基板の熱収縮率のばらつきは2ppm(=1.9ppm−(−0.1ppm))であることが確認された。このため、ガラス板の面内の熱収縮率のばらつきを2ppm以下にするためには、熱処理温度の差を20℃以下にすればよいことが確認された。
【0054】
以上、本発明のディスプレイ用ガラス板の製造方法およびディスプレイ用ガラス板製造装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。