(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
相対測位は、2つの観測点で得られた測位データを比較する必要があるので、2つの観測点の間で通信が確保されている必要がある。したがって、2つの観測点の間で通信ができない状況では、リアルタイムな相対測位は行なえない。この場合、観測点の位置は単独測位で求めることができるが、精度は数m程度以上となる。
【0006】
このような背景において、本発明は、通信が行なえない状況において、単独測位よりも精度の高い測位を可能とする技術を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、
第1の観測点の位置を、前記第1の観測点および基準位置となる第2の観測点で受信された航法衛星からの航法信号を利用した相対測位により求める装置であって、前記第2の観測点で受信された前記航法衛星からの航法信号に基づく補正データを受信する受信部と、前記補正データに基づく
前記第1の観測点の相対測位を行う測位部と、
特定の時刻において、前記補正データが受信できなくなった場合に、前記特定の時刻以前における前記第1の観測点の位置を疑似観測点として設定し、前記特定の時刻以前において
前記第1の観測点において得られた前記航法信号に基づき、前記特定の時刻より後に
前記疑似観測点で受信が予想される前記航法信号に基づく補正データを疑似補正データとして生成する疑似補正データ生成部とを備え、
前記測位部は、前記特定の時刻より後において、前記疑似観測点において取得された前記疑似補正データに基づく前記第1の観測点の相対測位を行う測位装置である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記航法信号には、当該航法信号の伝搬経路に係る補正情報、当該航法衛星の軌道情報、当該航法衛星と当該航法信号の受信位置との間の距離に係る補正情報が含まれ、前記疑似補正データ生成部は、前記特定の時刻より後における前記伝搬経路に係る補正情報、前記軌道情報、および前記距離に係る補正情報の予想を行うことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記受信部での前記補正データの受け付けに不良が発生した場合に、前記疑似補正データの生成が行われることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発明において、前記測位部の出力に基づき観測点の変位を算出する変位算出部を備え、前記変位が予め定めた閾値を超えた場合に報知信号を出力する報知信号出力部を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、
第1の観測点の位置を、前記第1の観測点および基準位置となる第2の観測点で受信された航法衛星からの航法信号を利用した相対測位により求める方法であって、前記第2の観測点で受信された前記航法衛星からの航法信号に基づく補正データを受信する受信ステップと、前記補正データに基づく
前記第1の観測点の相対測位を行う測位ステップと、
特定の時刻において、前記補正データが受信できなくなった場合に、前記特定の時刻以前における前記第1の観測点の位置を疑似観測点として設定し、前記特定の時刻以前において
前記第1の観測点において得られた前記航法信号に基づき、前記特定の時刻より後に
前記疑似観測点で受信が予想される前記航法信号に基づく補正データを疑似補正データとして生成する疑似補正データ生成ステップとを備え、
前記測位ステップは、前記特定の時刻より後において、前記疑似観測点において取得された前記疑似補正データに基づく前記第1の観測点の相対測位を行う測位方法である。
【0012】
請求項6に記載の発明は、
第1の観測点の位置を、前記第1の観測点および基準位置となる第2の観測点で受信された航法衛星からの航法信号を利用した相対測位により求める処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、コンピュータに
前記第2の観測点で受信された前記航法衛星からの航法信号に基づく補正データを受信する受信ステップと、前記補正データに基づく
前記第1の観測点の相対測位を行う測位ステップと、
特定の時刻において、前記補正データが受信できなくなった場合に、前記特定の時刻以前における前記第1の観測点の位置を疑似観測点として設定し、前記特定の時刻以前において
前記第1の観測点において得られた前記航法信号に基づき、前記特定の時刻より後に
前記疑似観測点で受信が予想される前記航法信号に基づく補正データを疑似補正データとして生成する疑似補正データ生成ステップとを実行させ、
前記測位ステップは、前記特定の時刻より後において、前記疑似観測点において取得された前記疑似補正データに基づく前記第1の観測点の相対測位を行うプログラムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、通信が行なえない状況において、単独測位よりも精度の高い測位が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(はじめに)
本明細書で開示する技術に関しては、以下の文献が参考になる。
(1)書籍名:GNSSのすべて
発行元:古今書院
発行日:2010年2月1日
(2)書籍名:GSPのしくみと応用技術
発行元:CQ出版社
発行日:2009年10月23日
(3)書籍名:GNSS測量の基礎
発行元:日本測量協会
発行日:2012年3月
(4)書籍名:わかりやすいGPS測量
発行元:オーム社
発行日:2010年11月27日
【0016】
(原理)
図1には、相対測位の原理が示されている。なお
図1には、航法衛星が2つ示されているが、実際には、4以上の航法衛星が測位に利用される。
図1に示す例では、観測点1が被観測点であり、観測点2は位置が既知の基準点である。この場合、観測点1と観測点2の2カ所で航法信号を受信し、観測点2から観測点1に観測点2で受信した航法信号に基づく補正データが送信される。補正データには、既知である観測点2で受信した航法信号に含まれる各種の情報が含まれている。なお、基準点は、一つに限定されず、2つ以上を用いることもできる。
【0017】
観測点1では、その地点で得られた航法信号と補正データに基づき、観測点2に対する観測点1の相対的な位置の算出が行われる。ここで、観測点2の絶対位置は既知であるので、相対的な位置関係が求まることで、観測点1の絶対位置が求まる。ここで、観測点1で得られる観測データと観測点2で得られる観測データには、誤差が含まれるが、2つの観測データの差分をとることで、この誤差がキャンセルされ、観測点1の高精度な測位が可能となる。
【0018】
観測点2と観測点1との間の通信は、電話回線や無線回線が用いられるが、通信回線が何らかの理由により不通あるいは不安定になる場合が考えられる。例えば、災害時に電話回線が利用できなくなる、あるいは不安定になることは容易に想像できる。
【0019】
この場合の状況が
図2に示されている。
図2には、時刻t0において、観測点2からの通信が途絶え、観測点1における相対測位に必要な観測点2からの補正データが得られなくなった状況が示されている。
【0020】
本実施形態では、
図2の状況での測位精度を高めるために、疑似的な相対測位を行う。この疑似的な相対測位では、基準点として利用する疑似観測点を設定する(
図3参照)。すなわち、通信が途絶えた
図1の観測点2の代わりに疑似観測点を設定する。この場合、疑似観測点は、時刻t0(あるいは時刻t0になるべく近い過去の時刻)における観測点1の位置が選択される。時刻t0における観測点1の位置は、その時点まで正常に行われていた相対測位により高精度に求められている。したがって、時刻t0における疑似観測点の位置精度は確保されている。
【0021】
この処理において、観測点1では、時刻t0以降も時刻t0以前と同様に航法衛星からの航法信号を受信する。これは、通常の航法衛星を利用した測位と同じである。他方において、仮想的に疑似観測点(疑似基準観測点)にGNSS受信機(測位装置100’)があるものと仮定し、そこで時刻t0以降も航法衛星からの信号が受信できるものと考える。
【0022】
勿論、実際には、航法信号を受信しないのであるが、疑似観測点において、時刻t0以後も受信できると予想される航法信号を予想し、更にこの予想された航法信号に基づく補正データ(疑似補正データ)を予想する。つまり、位置が明確な疑似観測点に疑似的に測位装置100’が設置されており、そこで時刻t0より後の期間に受信されると予想される航法信号を推定し、この推定した航法信号を受信した場合に測位装置100’から測位装置100に送られる補正データを過去のデータから予想し、疑似補正データを得る。そして、疑似的に設置が仮定された測位装置100’から測位装置100に疑似補正データが送られると考え、測位装置100’を基準点とした測位装置100の位置の相対測位を行う。
【0023】
この例において、過去に得られた航法信号に基づき、時刻t0以降に得られる航法衛星の軌道情報と各種の観測量を外挿により予測し、疑似補正データを得る。例えば、航法衛星の軌道情報の場合、時刻t0以前の軌跡は時刻t0以前に受信した航法信号から算出できる。時刻t0以前の航法衛星の軌跡が判れば、t0以降もその軌跡の延長線上を当該航法衛星が移動すると考えられるので、時刻t0以降の当該航法衛星の位置を予想できる。
【0024】
航法信号に含まれる観測量として、電離層における航法信号の遅延の影響に係る観測量が挙げられるが、この観測量の予想は、以下のようにして行われる。例えば、時刻t0以前において、電離層における航法信号の遅延の影響が特定のパターンで揺らいでいたとする。この場合、当該パターンでの揺らぎが継続するものとして、t0以降における電離層における当該航法信号の遅延の影響を予想する。
【0025】
上記の手法により、時刻t0以降に疑似観測点で疑似的に得られると予想される補正データを疑似補正データとして生成し、この疑似補正データを用いて観測点1で得られる測位データを補正する。すなわち、疑似観測点で得られる疑似補正データを利用した観測点1の相対測位を行う。
【0026】
この相対測位は、予想値を利用したものとはいえ、時刻t0に近い時刻における測位精度は、観測点1における単独測位よりも高くなる。なお、疑似観測点は、時刻t0において特定されたそれ以後の移動がないと仮定された仮想的な基準点であり、また疑似補正データ(疑似航法信号)は、予測されたものであるので、疑似補正データは時刻t0からの時間の経過にしたがって真値からの誤差が増大する傾向がある。したがって、単独測位に対する有意性は、時間の経過にしたがって減少する傾向がある。
【0027】
(ハードウェアの構成)
図4には、実施形態のブロック図が示されている。
図4には、測位装置100が示されている。測位装置100は、アンテナ101、測位演算部102、外部I/F装置103、CPU104、記憶装置105、アラート装置106を備えている。アンテナ101は、航法衛星から発信される航法信号を受信し、受信された航法信号は、測位演算部102に送られる。測位演算部102は、アンテナ101が受信した航法信号に基づく単独測位に係る演算を行う。また、測位演算部102は、アンテナ101が受信した航法信号と、外部I/F装置103を介して外部の測位装置から受信した補正データとに基づく相対測位に係る演算を行う。また、測位演算部102は、アンテナ101が受信した航法信号と、疑似補正データとに基づく相対測位に係る演算を行う。
【0028】
外部I/F装置103は、測位装置100と同様な構成を有する他の測位装置とインターネット回線や携帯電話網を介して通信を行うインターフェース回路(データ送受信回路)である。CPU(Central Processing Unit)104は、後述の
図5および
図6の処理を実行し、また測位装置100全体の動作を統括する。特にCPU104は、疑似補正データの生成に係る処理と、疑似補正データを用いた相対測位の結果を利用した測位装置100の変位を算出する処理を行う。特定のプログラムが実行されることで、CPU104は、疑似補正データの生成を行う疑似補正データ生成部111および上記の変位を算出する変位算出部112として機能する。
【0029】
疑似補正データ生成部111および変位算出部112の一方または両方は、専用の電子回路によって構成してもよい。専用の電子回路としては、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのPLD(Programmable Logic Device)が挙げられる。疑似補正データ生成部111や変位算出部112等の機能部を専用のハードウェアで構成するのか、CPUにおけるプログラムの実行によりソフトウェア的に構成するのかは、要求される演算速度、コスト、消費電力等を勘案して決定される。例えば、特定の機能部をFPGAで構成すれば、処理速度の上では優位であるが高コストとなる。他方で、CPUでプログラムを実行することで特定の機能部を実現する構成は、ハードウェア資源を節約できるので、コスト的に優位となる。しかしながら、CPUで機能部を実現する場合、処理速度は、専用のハードウェアに比較して見劣りする。また、CPUで機能部を実現する場合、複雑な演算に対応できない場合もあり得る。なお、機能部を専用のハードウェアで構成することとソフトウェア的に構成することは、上述した違いはあるが、特定の機能を実現するという観点からは、等価である。
【0030】
記憶装置105は、測位装置100で行われる処理に係る動作プログラム、測位装置100で行われる処理に係る各種のデータ等を記憶する。記憶装置105は、固体電子メモリやハードディスク装置によって構成される。また、図示省略するが、測位装置100には、USBメモリ等の外部記憶媒体を接続することができる。
【0031】
アラート装置106は、音の発声やランプの点滅によりユーザに報知を行う報知手段である。この例では、報知を行う判定が下された場合にアラート装置106からアラーム信号が出力され、ブザー等の図示しない音響報知手段からアラーム音が発せられる。
【0032】
(動作の一例)
図5に測位装置100で行われる処理の手順の一例を示す。
図5に示す処理を実行するためのプログラムは、記憶装置105や適当な記憶媒体に記憶され、
図4のCPU104によって実行される。
図5には、他の測位装置と連携して相対測位を行っている状態において、他の測位装置からの補正データが受信できなくなり、疑似補正データを用いた相対測位に移行する場合の処理の一例が示されている。
【0033】
最初の状況が
図1に例示されている。
図1の状態では、第1の観測点に測位装置100が配置されている。また、第1の観測点と異なり、その絶対位置が既知である第2の観測点に測位装置100と同様な構成を有するもう一つの測位装置200が配置されている。また、最初の状態では、携帯電話網等の適当な通信回線により、観測点1と観測点2の通信が確保されている。
【0034】
処理が開始されると、測位装置200は、複数の航法衛星からの航法信号を受信し、補正データを生成して、それを測位装置100に送る。これは、通常の相対測位の場合と同じである。観測点1に設置された測位装置100は、複数の航法衛星からの航法信号を受信し、更に測位装置200からの補正データを受信する(ステップS101)。測位装置100が受信した複数の航法衛星からの航法信号のデータは、記憶装置105に記憶蓄積される。航法信号と補正データを受信したら、それらを用いた相対測位が測位装置100で行われ、観測点1の測位が行われる(ステップS102)。ステップS102では、ゼロベース測位と、補正データを用いた相対測位の処理が行われる。
【0035】
ゼロベース測位では、一つの点を基準点および観測点として用いて相対測位が行なわれる。この処理では、受信する各航法衛星からの航法信号に関して、そのコピーデータを作り、一方を航法データAとし、他方を航法データBとする。ここで、航法データAとBは同じデータである。そして、航法データAと航法データBを用いて、相対測位を行う場合と同様の処理を行う。受信した航法信号にマルチパスの影響がある場合、航法データAと航法データBの搬送波位相データに同様なマルチパスの影響が現れるので、二重位相差の計算によって当該マルチパスの影響が相殺され、排除される。この結果、パルチパスの影響を排除した観測点1(
図1参照)の位置の計測が行われる。
【0036】
次に、補正データを用いた測位を行う。上記のゼロベース測位は、一つの観測点での測位であるので、誤差が低減されるとはいえ、単独測位の場合に生じる誤差は残る。そこで、他の観測点(この場合は、
図1の観測点2(基準点))での測位結果に基づく補正データを用いた測位を行う。この測位が、本来の意味での相対測位となる。この処理では、観測点2の絶対位置が既知であるので、観測点2で誤差情報が検出され、それが観測点1に補正データとして送られる。観測点1では、上記のゼロベース測位で得られた測位結果を観測点2から取得した補正データを用いて補正し、より精度の高い観測点1の位置情報を得る。以上のゼロベース測位と、補正データを用いた測位とを行うことで、ステップS102の処理が行なわれる。なお、ステップS102で行われる処理は、上記の処理に限定されず、通常の相対測位と同様の手法が利用可能である。
【0037】
次に、ステップS102の相対測位が行われている状況において、観測点2との間の通信回線に不良が発生したか否か、の判定を行う(ステップS103)。例えば、観測点1に設置された測位装置100と観測点2に設置された測位装置200とが通信回線で接続された状態において、両者の間では定期的に確認信号のやり取りが行われ、通信回線が確保されているか否かの監視が定期的に行われる。ここで、一方から他方に確認信号を送信し、その受信が他方で確認できた場合に、受領信号を他方から一方に返信するといった処理が行なわれる。この処理が順調に行われなくなった場合にステップS103において「通信不良が発生」と判定される。
【0038】
観測点1と観測点2の間における通信不良が発生していない場合、ステップS101とステップS102の処理が繰り返され、観測点1の測位が引き続き行われる。すなわち、観測点1と観測点2の間における通信不良が発生しなければ、観測点1の相対測位が引き続き行われる。観測点1と観測点2の間における通信不良が発生した場合、ステップS104に進む。
【0039】
ステップS104では、疑似補正データの生成を行う。疑似補正データの生成は、その時点で利用している航法衛星のそれぞれについて行う。疑似補正データは、後述する軌道情報と4種類の観測量により構成されている。ステップS104の処理の詳細を
図6に示す。疑似補正データの生成では、軌道情報と4種類の観測量の予想値の生成が行われる。以下の説明において、通信不良が発生した時刻(ステップS104の処理の起点となる時刻)をt0とする。
【0040】
まず、軌道情報の予想値の生成について説明する。軌道情報というのは、航法衛星の軌道に関する情報である。軌道情報を得ることで、当該航法衛星の位置を知ることができる。軌道情報の予想は、
図6のステップS111〜S113の処理によって行われる。まず、その時点(時刻t0)から特定の期間過去に遡り、その間に航法衛星から取得した軌道情報を取得する(ステップS111)。
【0041】
過去の軌道情報を取得したら、軌道情報の更新を行い(ステップS112)、更に摂動計算を行い軌道上の未来位置の予測を行う(ステップS113)。まず前提として、航法衛星の大凡の軌道を決める運動方程式は予め知ることができる(ただし、未知数が含まれている)。ここで、過去の軌道情報を取得することで、当該航法衛星の未来位置を予想する運動方程式が得られる。この段階がステップS112である。ここで、衛星の軌道を決める運動方程式は、解析的に解ける形でないので、摂動法を用いて解くことで、当該航法衛星の未来位置が得られる(ステップS113)。得られた航法衛星の位置情報は、記憶装置105に記憶される。なお、当該航法衛星の未来位置は、0.2秒間隔や0.5秒間隔といった時間間隔で計算される。これは、後述する観測量の予想についても同じである。勿論、予想値の時刻の間隔は、必要とする時間間隔を採用することができる。
【0042】
次に観測量の予想値の生成について説明する。ここでの観測量というのは、(1)航法信号から得られる航法衛星の時刻の情報(第1の情報)、(2)航法信号に基づいて計算される観測点と航法衛星との幾何学的な距離の情報(第2の情報)、(3)電離層における航法信号の遅延に関する情報(第3の情報)、(4)対流圏における航法信号の遅延に関する情報(第4の情報)のことである。
【0043】
この処理では、未来時刻における上記の観測量を予想するための処理が行なわれる。まず、その時点(時刻t0)から特定の期間過去に遡り、その間に航法衛星から取得した上記第1の情報〜第4の情報を取得する(ステップS121)。
【0044】
次に、第1の情報の誤差推定を行う(ステップS122)。この処理では、例えば、t0から見て未来となる未来時刻t1,t2・・・・における航法衛星の時刻の誤差(航法衛星が備える時計の誤差)に係る情報の推定が行われる。この処理は、ステップS121で得た過去に取得した航法信号の内容に基づいて行われる。以下、具体的な一例を説明する。例えば、時刻t0以前における航法衛星の時計の誤差がある傾向で時間変化していたとする。この場合、この傾向が時刻t0以降も続くと仮定し、未来時刻t1,t2・・・・における航法衛星の時刻の誤差を推定する。
【0045】
次に、第2の情報の推定を行う(ステップS123)。この処理では、未来時刻における疑似観測点と航法衛星の間の距離Lを推定する。例えば、時刻t0以前における距離Lの変化がある傾向を示していたとする。この場合、この傾向が時刻t0以降も続くと仮定し、未来時刻t1,t2・・・・における距離Lを推定する。ここで、疑似観測点は、時刻t0における測位装置100の位置である。
【0046】
次に、第3の情報の推定を行う(ステップS124)。この処理では、未来時刻における電離層で発生する航法信号の伝搬の遅延(電離層遅延)が推定される。例えば、時刻t0以前における電離層遅延がある傾向を示していたとする。この場合、この傾向が時刻t0以降も続くと仮定し、未来時刻t1,t2・・・・における電離層遅延を推定する。
【0047】
次に、第4の情報の推定を行う(ステップS125)。この処理では、未来時刻における対流圏で発生する航法信号の伝搬の遅延(対流圏遅延)が推定される。例えば、時刻t0以前における対流圏遅延がある傾向を示していたとする。この場合、この傾向が時刻t0以降も続くと仮定し、未来時刻t1,t2・・・・における対流圏遅延を推定する。
【0048】
以上のようにして、未来時刻における軌道情報と4種類の観測量を推定することで疑似補正データを得る(ステップS104)。次に、ステップS104で得た疑似補正データを用いて測位装置100における相対測位が行い、測位装置100の位置(観測点1の位置)を求める(ステップS105)。この処理では、測位装置100が航法衛星から受信した航法信号と、ステップS104で生成した疑似補正データに基づく相対測位が行われる。
【0049】
ここで行われる相対測位は、補正データが疑似補正データである以外は、通常の相対測位の処理と同じである。一例であるが、ステップS105で行われる相対測位に係る処理として、ステップS102で行った手順を採用することができる。以下、ステップS105で行われる処理の一例を説明する。
【0050】
この場合、測位装置100は、航法衛星からの航法信号を受信し、この受信した航法信号から上述した疑似補正データの場合と同様な(1)航法信号から得られる航法衛星の時刻の情報(第1の情報)、(2)航法信号に基づいて計算される観測点と航法衛星との幾何学的な距離の情報(第2の情報)、(3)電離層における航法信号の遅延に関する情報(第3の情報)、(4)対流圏における航法信号の遅延に関する情報(第4の情報)を得る。これらは、予想値ではなく、実際に受信した航法信号に基づいて得られた情報である。
【0051】
これらの情報には誤差が含まれるが、位置が既知である疑似規準点で得られた疑似補正データにも同様な誤差が含まれている。この誤さは、疑似規準点の位置と測位装置100の位置の差Sを計算することでキャンセルされ、低減される。また、疑似規準点の位置は既知であるので、上記のSが求まることで、測位装置100の位置が算出される。ステップS105の処理は、測位演算部102において行われる。
【0052】
ステップS105の処理を行うことで、予測される航法信号に基づく疑似補正データに基づく処理ではあるが、相対測位が行われ、単独測位の場合よりも高い精度の観測点1(測位装置100)の位置情報が得られる。ステップS105の後、ステップS106の処理が行なわれる。ステップS106の処理では、ステップS105で得た測位装置100の位置と時刻t0における測位装置100の位置である疑似観測点(
図3参照)との差の算出が行われる。この処理は、
図4の変位算出部112において行われる。なお、変位算出部112において、単位時間当たりの変位を算出してもよい。
【0053】
ここで、測位装置100の位置に変動が生じた場合を考える。この場合、
図3に示すように測位装置100が疑似観測点に対して変位する。この変位が予め定めた閾値以上である場合、ステップS107の判定がYESとなり、アラート装置106(
図4参照)を用いた報知処理が行なわれ(ステップS108)、処理を終了する。報知処理としては、例えばアラーム音による警告が行われる。
【0054】
また、疑似観測点に対する変位が閾値以下である場合、他の測位装置200との間の通信が回復しているか否か、を判定し、通信が回復していればステップS101以下の処理を繰り返し、そうでなければステップS105以下の処理を繰り返す。
【0055】
なお、ステップS105以下の処理を繰り返す処理において、ステップS103からの経過時間が規定の時間を超過した場合に、単独測位に移行する処理も可能である。すなわち、疑似補正データを利用した相対測位に移行してからある程度の時間が経過すると、その測位精度の単独測位に対する有意性が失われる可能性が高くなる。この場合、そのタイミングを見越して単独測位に移行することで、それ以上の測位精度の低下を防止することができる。
【0056】
(適用技術)
例えば、GNSSを用いて、災害時における地盤の変位や橋等の構造物の変位(変形)を検出する技術がある。地盤や構造物の変位は、メートル単位以下の精度が求められるので、相対測位が利用される。しかしながら、災害時は、通信インフラに障害が発生する可能性が平常時よりも高くなる。本明細書で開示する発明によれば、通信インフラに障害が発生し、他の測位点から得られる補正データが取得できなくなくなっても、疑似補正データを予想し、疑似基準点を用いた相対測位が行われる。
【0057】
すなわち、通信回線が利用できなくなった段階で疑似的な相対測位に移行し、測位装置100の変位が検出される。単独測位では、誤差の関係で数m以下の変位を検出することは困難であるが、相対測位であれば、単独測位に比較して高い精度の測位が可能である。
図5の処理は、時間の経過と共に測位の精度が低下するが、ある程度の時間は、相対測位の優位性が得られる。このため、通信環境の悪化した状況における建築物や地盤の変位の検出が可能となる。
【0058】
本明細書で開示する発明は、上述した災害時の例に限定されず、一般的なGNSS測位技術に利用することができる。本発明は、測量用のGNSS測量装置、スマートフォン、タブレット等の携帯型情報処理端末、携帯型のGNSS測位装置等における測位に利用することがで