(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
容器包装リサイクル法に基づき回収された一般廃棄物から、塩素含有プラスチックを材料リサイクルとして再商品化する際には、再商品化された製品中の塩素含有量を0.3質量%以下にする必要がある。これは、再利用のための加工中に、塩素(又は塩化水素)ガスが発生して、設備が腐食したり、不良品が発生したりするからである。
【0003】
塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックには、通常0.3質量%を超える塩素が含まれる。このため、塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックは、焼却処分等されるか、サーマルリサイクル又はケミカルリサイクルされるか、あるいは塩素濃度を低減する処理を施して一部が再利用されている。
【0004】
特許文献1には、再利用する技術として、塩素含有量が多いプラスチックに炭酸カルシウムを混合することで、プラスチックの成形時における塩素(又は塩化水素)ガス発生を抑制する方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法では、塩素と過不足なく反応させる炭酸カルシウムを適正量で混合することは技術的に難しい。その結果、未反応の炭酸カルシウムや反応後の塩化カルシウムがプラスチックの中に残留しプラスチック強度などの機械的性質を劣化させたり、十分反応させられなかったことにより塩素(又は塩化水素)ガスが発生したりする。
【0007】
したがって、塩素含有量の多いプラスチックを、十分に再利用できていないのが現状である。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、塩素含有量の多いプラスチックを再利用する場合であっても、塩素(又は塩化水素)ガス発生による問題が生じない技術を提供することにあり、具体的には、低温成形用樹脂材料、樹脂用増量材、低温成形用樹脂組成物、及び樹脂成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックの中から良否判定で否と判定された、塩素含有プラスチックを含むプラスチックを、塩素(又は塩化水素)ガスを発生させない樹脂温度で成形可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0010】
[1]125〜145℃の樹脂温度で成形できる低温成形用樹脂材料であって、塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックの中から良否判定で否と判定された、塩素含有プラスチックを含むプラスチックからなることを特徴とする低温成形用樹脂材料。
【0011】
[2]融点が95〜180℃のプラスチックに添加される樹脂用増量材であって、塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックから良否判定で否と判定された、塩素含有プラスチックを含むプラスチックからなることを特徴とする樹脂用増量材。
【0012】
[3]125〜145℃の樹脂温度で成形できる低温成形用樹脂組成物であって、融点が95〜180℃のプラスチックと、[2]に記載の樹脂用増量材とを主体として含有することを特徴とする低温成形用樹脂組成物。
【0013】
[4][1]に記載の低温成形用樹脂材料又は[3]に記載の低温成形用樹脂組成物を、樹脂温度が125〜145℃の条件で成形する樹脂成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
従来、容器包装リサイクル法に基づき回収された一般廃棄物である塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックの中から良否判定で「否」と判定された、塩素含有プラスチックを含むプラスチックは、主に廃棄されていたが、本発明により、上記プラスチックを再利用することができる。
【0015】
また、否とされたプラスチックをそのまま再利用できる本発明によれば、再利用のためのコストを抑えられる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0017】
<低温成形用樹脂材料>
本発明の低温成形用樹脂材料とは、塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックの中から良否判定で「否」と判定された、塩素含有プラスチックを含むプラスチックからなる。
【0018】
先ず、塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックについて説明する。
【0019】
塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックは、家庭から収集される使用済みプラスチック(ペットボトル容器を除く)である。この混合廃プラスチックは、複数種類のプラスチックを含むものであり、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)等を初めとして、PVC(ポリ塩化ビニル)及びPVDC(ポリ塩化ビニリデン)等の塩素含有プラスチックも含む。
【0020】
塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックには、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等オレフィン系プラスチック及びポリスチレン(PS)等の融点が95〜180℃の樹脂が合計で70質量%以上含まれる。なお、混合廃プラスチックに主に含まれる、ポリエチレンの融点は95〜140℃であり、ポリプロピレンの融点は160〜170℃であり、ポリスチレンの融点は約100℃である。
【0021】
次いで、混合廃プラスチックの良否判定について説明する。
【0022】
上記混合廃プラスチックは、再利用のために、所定の処理が施される。この処理には、再利用に適する良品と、再利用に適さない不良品とに分別する良否判定する工程が含まれる。良否判定には、塩素含有量に基づいて良否を判定するものや、形状に基づいて良否を判定するものがある。なお、通常、上記判定前に混合廃プラスチックから異物が除去される。異物の除去方法としては、特に限定されないが、一般的な方法として、磁選装置を用いる方法、渦電流式金属除去装置を用いる方法、篩装置を用いる方法、風力分離器を用いる方法、これらを複数組み合わせる方法がある。
【0023】
塩素含有量に基づいて良否を判定するものについては、例えば、特開2008−88285号公報、特開2004−358964号公報、特開平10−225930号公報、特開平10−225676号公報に記載されている。
【0024】
上記公報に記載される通り、塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックを、塩素含有量の少ないプラスチックと、塩素含有量の多いプラスチックに分けるのは、塩素含有量が多いと、再利用の際の加熱溶融時に、塩素ガスが多量に発生して、設備が腐食したり、得られる樹脂成形体に気泡が混入したりするからである。この判定で、「良」、即ち、塩素含有量が低いと判定されたプラスチックは、再利用される。なお、判定前の塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックの塩素含有量は、0.9〜1.8質量%である。
【0025】
具体的な、塩素含有量に基づく良否判定方法としては、特開平10−225676号公報、特開平10−225930号公報に記載されるような光学的性質の違いを利用する方法、特開2004−358964号公報に記載されるような融点の違いを利用する方法、特開2008−88285号公報に記載されるような比重の違いを利用する方法がある。これらについて簡単に説明すると以下の通りである。
【0026】
光学的性質の違いを利用する方法の具体例について説明する。混合廃プラスチックに光を照射して反射光を検出し、照射光の特定の波長の赤外線または近赤外線がプラスチックに吸収された場合に、当該プラスチック材を塩素含有プラスチック類であると判定する。上記「塩素含有プラスチック類」が本発明の「塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックの中から良否判定で否と判定された、塩素含有プラスチックを含むプラスチック」に相当する。
【0027】
融点の違いを利用する方法の具体例について説明する。所定の大きさに破砕された混合廃プラスチックを、溶融造粒装置等を用いて、攪拌して摩擦熱を発生させ、この摩擦熱によって塩素含有プラスチックよりも融点が低い非塩素含有プラスチックを溶融して造粒物にし、塩素含有プラスチックが溶融されない状態にとどめる処理を行う。次いで、造粒物とそれ以外に分ければ、塩素含有量の少ないプラスチック(造粒物)と、塩素含有量の多いプラスチック(造粒物以外)に分けることができる。「造粒物以外」が本発明の「塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックの中から良否判定で否と判定された、塩素含有プラスチックを含むプラスチック」に相当する。また、分ける際に篩を用いることで、所望の形状のものとそれ以外のものに分けることができる。つまり、塩素含有量に基づく良否判定と形状に基づく良否判定の両者を行うことができる。具体的には、目開きが所定寸法の篩を用いて、造粒処理された混合廃プラスチックを篩い分ける。この方法によれば、塩素含有プラスチックの含有率が高い所定粒径未満の粒分(粉状物と微粒と小粒からなる粒分)と塩素含有プラスチックの含有率が低い所定粒径以上の粒状物に分けられる。上記「塩素含有プラスチックの含有率が高い所定粒径未満の粒分」が、本発明の「塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックの中から良否判定で否と判定された、塩素含有プラスチックを含むプラスチック」に相当する。
【0028】
比重の違いを利用する方法の具体例について説明する。混合廃プラスチックを、遠心分離機の中で高速回転させることにより、水に沈む比重1以上の塩化ビニル樹脂等の塩素含有プラスチックが分離される。このとき、塩素含有プラスチックのみを分離することはできないため、その他のプラスチックのみからなる第1分離物と、塩素含有プラスチックとその他のプラスチックとからなる第2分離物に分離される。「第2分離物」が、本発明の「塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックの中から良否判定で否と判定された、塩素含有プラスチックを含むプラスチック」に相当する。
【0029】
従来、「良」、即ち、塩素含有量が0.3質量%以下と判定されたプラスチックのみそのまま再利用され、「否」、即ち、塩素含有量が高いと判定されたプラスチック(本発明の「塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックの中から良否判定で否と判定された、塩素含有プラスチックを含むプラスチック」に相当するプラスチック)は、従来は残渣として扱われていたものであり、廃棄されるか、又はさらに何らかの処理が施された後再利用される。本発明によれば、この「否」と判定されたプラスチックをそのまま再利用できる。
【0030】
塩素含有量に基づく良否判定で「否」と判定された、塩素含有プラスチックを含むプラスチックの塩素含有量は、塩素含有量が0.3質量%を超えるものであり、一般的には塩素含有量が2〜4質量%である。
【0031】
「否」と判定されたプラスチックは、判定前の混合廃プラスチックより塩素含有プラスチックの含有割合が少し多いものの、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のオレフィン系プラスチックやポリスチレン(PS)等の融点が95〜180℃のプラスチックを50質量%以上含んでいる。
【0032】
続いて、形状に基づいて良否を判定する場合について説明する。例えば、高炉に吹き込むプラスチック粒として、混合廃プラスチックを再利用する場合には、塩素含有量が1.8質量%以下であれば、塩素含有量の点では問題無いが、所定の大きさのプラスチックでなければ再利用できない。このため、所定の大きさのプラスチックを分取する必要が生じる。具体的には、粉砕後のプラスチックを造粒後、篩を用いて、所定の大きさのプラスチックを分取する。この分取においては、所定の大きさのプラスチックが「良」と判定されたプラスチックであり、それ以外が「否」と判定されたプラスチックである。この「「否」と判定されたプラスチック」が、本発明の「塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックの中から良否判定で否と判定された、塩素含有プラスチックを含むプラスチック」に相当する。
【0033】
従来、「否」、即ち、所望の形状以外と判定されたプラスチック(本発明の「塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックの中から良否判定で否と判定された、塩素含有プラスチックを含むプラスチック」に相当するプラスチック)は、廃棄されるか、又はさらに何らかの処理が施された後再利用される。本発明によれば、この「否」と判定されたプラスチックをそのままプラスチック製品原料として再利用できる。
【0034】
次いで、低温成形用樹脂材料(塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックの中から良否判定で否と判定された、塩素含有プラスチックを含むプラスチック)の使用方法について説明する。
【0035】
従来、混合廃プラスチックの成形には、通常、樹脂温度を180〜200℃にする必要があると考えられていた。しかし、本発明者は、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のオレフィン系プラスチック及びポリスチレン(PS)等の融点が95〜180℃のプラスチックが主成分(50質量%以上)として含有し、塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックの中から良否判定で否と判定された、塩素含有プラスチックを含むプラスチックが、樹脂温度が125〜145℃程度(好ましくは125〜135℃)であれば、成形時に塩素(塩化水素)ガスを発生させずに成形可能であることを見出した。したがって、本発明によれば、従来、廃棄等されていたプラスチックをそのまま再利用できる。なお、樹脂温度が125℃未満になると成形できない。
【0036】
上記の使用方法が、低温成形用樹脂材料を用いる、本発明の樹脂成形体の製造方法に相当する。
【0037】
<樹脂用増量材>
本発明の樹脂用増量材は、塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックの中から良否判定で「否」と判定された、塩素含有プラスチックを含むプラスチックからなり、融点が95〜180℃のプラスチックに添加される樹脂用増量材である。なお、「塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックの中から良否判定で否と判定された、塩素含有プラスチックを含むプラスチック」については、上記「低温成形用樹脂材料」で説明したものと同様であるため説明を省略する。
【0038】
樹脂用増量材の使用目的は、安価な材料で樹脂成形体の体積をかさ増しすることにある。つまり、樹脂用増量材を他のプラスチックと混合して成形体の体積をかさ増しすることができる。「塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックの中から良否判定で否と判定された、塩素含有プラスチックを含むプラスチック」は、上記の通り、従来は廃棄等されていたプラスチックであり、安価である。したがって、「塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックの中から良否判定で否と判定された、塩素含有プラスチックを含むプラスチック」を樹脂用増量材として用いれば、樹脂成形体の製造コストを抑えることができる。
【0039】
ただし、上記の通り、樹脂温度が125〜145℃の範囲で成形できなければ、成形時に塩素ガスが発生してしまう。そこで、「塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックの中から良否判定で否と判定された、塩素含有プラスチックを含むプラスチック」を樹脂用増量材として用いる場合、融点が95〜180℃のプラスチックに添加される樹脂用増量材として用いなければならない。
【0040】
融点が95〜180℃のプラスチックとしては、例えば、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のオレフィン系プラスチック、およびポリスチレン(PS)が挙げられる。
【0041】
<低温成形用樹脂組成物>
低温成形用樹脂組成物とは、融点が95〜180℃の上記プラスチックと、上記樹脂用増量材とを主体として含有する樹脂組成物である。
【0042】
上記プラスチックと上記樹脂用増量材とを主体として含有しなければ、樹脂温度が125〜145℃の条件で成形できない。したがって、これらを主体として含有する樹脂組成物にする必要がある。低温成形用樹脂組成物における上記プラスチックと上記樹脂用増量材との合計含有量は、125〜145℃の樹脂温度で成形可能か否かで決めればよいが、具体的には合計含有量が90質量%以上であることが好ましい。
【0043】
また、本発明の低温成形用樹脂組成物には、「樹脂用増量材」の説明において列挙した、融点が95〜180℃のプラスチックを複数種類含んでもよい。
【0044】
<樹脂成形体の製造方法>
上記本発明の低温成形用樹脂材料、上記本発明の低温成形用樹脂組成物を、樹脂温度が125〜145℃の条件で成形する樹脂成形体の製造方法が、本発明の樹脂成形体の製造方法である。樹脂温度の測定は、射出成形後にノズルを金型から切り離した後、成形時と同じ条件で射出した時のノズル先端より放出した樹脂組成物を実際に温度計により測定することで行う。
【0045】
上記の通り、塩素ガスを発生させない樹脂温度で成形する必要があるため、成形時の樹脂温度は上記の範囲に限定されるが、その他の条件(射出速度、金型温度、射出時間、冷却時間等)は、適宜設定すればよい。
【0046】
本発明の低温成形用樹脂材料を用いて成形した樹脂成形体の場合、樹脂成形体は、塩素含有プラスチックを含む混合廃プラスチックの中から良否判定で否と判定された、塩素含有プラスチックを含むプラスチックからなる。
【0047】
また、本発明の低温成形用樹脂組成物を用いて成形した樹脂成形体の場合、樹脂成形体は、融点が95〜180℃のプラスチックと本発明の樹脂用増量材が主成分として含まれる。そして、本発明の製造方法では塩素ガスが発生しない樹脂温度で成形するため、塩素ガスの発生を抑えるための物質(炭酸カルシウム等)が、本発明の製造方法で得られる樹脂成形体に含まれる必要はない。
【実施例】
【0048】
<実施例1>
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンを合計で55質量%含み、塩素含有量が3.2質量%である低温成形用樹脂材料(塩素含有量に基づく良否判定で「否」と判定されたプラスチック)を、樹脂温度が130℃の条件で射出成形して、形状が165mm×165mm×80mmの樹脂成形体を製造した。樹脂温度の条件が130℃と低いため塩素ガスは発生しなかった。また、成形不良も生じなかった。
<実施例2>
また、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンを合計で55質量%含み、塩素含有量が3.2質量%である樹脂用増量材と、ポリエチレンとを、樹脂用増量材が50質量%、上記ポリエチレンが50質量%となるように低温成形用樹脂組成物を製造した。この樹脂組成物を用いて、樹脂温度が130℃の条件で射出成形し、形状が165mm×165mm×80mmの樹脂成形体を製造した。樹脂温度が130℃と低いため塩素ガスは発生しなかった。また、成形不良も生じなかった。