特許第6587900号(P6587900)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6587900既設杭撤去方法およびその方法の実施に用いられる杭切断装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6587900
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】既設杭撤去方法およびその方法の実施に用いられる杭切断装置
(51)【国際特許分類】
   E02D 9/02 20060101AFI20191001BHJP
【FI】
   E02D9/02
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-210425(P2015-210425)
(22)【出願日】2015年10月27日
(65)【公開番号】特開2017-82456(P2017-82456A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年8月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】500109674
【氏名又は名称】株式会社大枝建機工業
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100078916
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 由充
(72)【発明者】
【氏名】大枝 守
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−162301(JP,A)
【文献】 特開平10−252065(JP,A)
【文献】 特開2014−218861(JP,A)
【文献】 特開2000−064283(JP,A)
【文献】 特開昭58−026119(JP,A)
【文献】 特開平07−009434(JP,A)
【文献】 特開平08−074254(JP,A)
【文献】 特開昭61−025717(JP,A)
【文献】 特表2014−525354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 7/00〜 13/10
B23D 45/00〜 65/04
B28D 1/00〜 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設されている既設杭を地上へ引き上げて撤去する方法であって、前記既設杭の上方の地盤上に円筒状のケーシングの地中への貫入並びに地中からの引上げが可能な全周回転機を設置する準備工程と、前記全周回転機により前記ケーシングを既設杭の周囲に貫入して既設杭周辺の地盤をその周囲の地盤から分断するとともに既設杭の上端部をケーシングより露出させるケーシング貫入工程と、既設杭の上端部のケーシングより露出した部分を掴み装置により掴んで既設杭の上端部が全周回転機の上方へ突出するまで既設杭を全周回転機により引き上げる既設杭引上工程と、前記掴み装置により既設杭の上端部を掴んだ状態で前記全周回転機より突出した部分を切断して既設杭の断片を除去する切断工程とを順次実施した後、切断後の既設杭について上端部が全周回転機の上方へ突出するまで全周回転機により引き上げる既設杭引上工程と、前記掴み装置または他の掴み装置により既設杭の上端部を掴んだ状態で前記全周回転機より突出した部分を切断して既設杭の断片を除去する切断工程とを繰り返し実行することにより既設杭を撤去することを特徴する既設杭撤去方法。
【請求項2】
請求項1に記載の既設杭撤去方法であって、既設杭撤去後に地中に残されたケーシングを前記全周回転機により地上へ引き上げるケーシング引上工程をさらに実行することを特徴する既設杭撤去方法。
【請求項3】
前記ケーシング引上工程は、下端部に前記ケーシングの上端部との脱着が可能な連結部を備えた鋼管製のヤットコを全周回転機により降下させて前記連結部をケーシングの上端部に連結する工程と、ケーシングを前記ヤットコと一体に全周回転機により引き上げる工程とからなるものである請求項2に記載の既設杭撤去方法。
【請求項4】
前記掴み装置は、筒状体の内部に既設杭の外周面を把持するための把持機構が組み込まれたものであり、前記既設杭引上工程は、前記掴み装置の把持機構により既設杭の上端部を把持する工程と、既設杭を掴み装置と一体に全周回転機により引き上げる工程とからなるものである請求項1に記載の既設杭撤去方法。
【請求項5】
既設杭の上方の地盤上に設置される全周回転機と、全周回転機上に既設杭を切断するために設けられるカッター機構とからなり、前記全周回転機は、ケーシング又は既設杭を挿通させる空間部の周囲に、ケーシング又は既設杭の外周面を上下の各位置で把持するためのチャック機構およびサブチャック機構と、前記チャック機構を軸回転させるための回転機構と、前記チャック機構を上下方向に往復変位させるための変位機構とを備えており、前記カッター機構は、全周回転機上に空間部を挟んで刃先部が対向するように平行配備される一対の直線状の切断刃を備え、各切断刃は、第1の対角位置の端部が全周回転機上に回動自由に支持され、第2の対角位置の端部には往復動機構がそれぞれ接続されるとともに、各往復動機構は各切断刃が平行状態を保ったまま互いに接近するように同期して運転する杭切断装置。
【請求項6】
前記の各往復動機構は、前記切断刃と平行四辺形を形づくるように互いに平行配備されるシリンダ機構よりなり、各シリンダ機構は基端部が全周回転機上に回動自由に支持され、各シリンダ機構のロッドの先端部が前記切断刃の第2の対角位置に接続されている請求項5に記載の杭切断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建築構造物の立て替え時などに、地中に埋設されている既設杭を地上へ引き上げて撤去するための方法に関し、この発明は特に、地中深くまで打ち込まれた寸法の長い大型の既設杭を地上へ引き上げて撤去するのに好適な既設杭撤去方法と、その方法の実施に用いられる杭切断装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ビル、マンション、工場などの建築構造物は、その荷重を支えるために地中の固い地盤まで鉄筋コンクリート製の杭が埋め込まれている。この種の建築構造物を建て替える場合、古い建物を解体撤去した後、地中に埋まっている既設杭を引き上げて撤去する作業が必要である。既設杭を引き上げるには、円筒状のケーシングを既設杭の周囲に貫入することにより既設杭周辺の地盤をその周囲の地盤から分断する必要がある。ケーシングの下端には地盤を掘削する掘削爪が設けられており、高圧水を地盤に向けて噴射して地盤を崩壊させつつオーガや回転式の全周回転機を駆動してケーシングを軸回転させることで地盤を掘削する。地盤を掘削しつつケーシングを既設杭に沿って降下させ、既設杭の先端に達する深さまでケーシングが貫入される(特許文献1,2参照)。
【0003】
ケーシングの貫入によって既設杭周辺の地盤とその周囲の地盤との縁が切れると、既設杭を地中から引き上げることが可能となる。特許文献1に記載の方法では、まずクレーンによりケーシングを地中より引き上げた後、つぎに、クレーンに吊持されたワイヤーロープの先端を既設杭の上端部に掛け、ワイヤーロープを巻き上げて既設杭を上方へ引き抜いている。また、特許文献2に記載の方法では、全周回転機によりケーシングを地中より引き抜くとき、ケーシングと一体に既設杭を上方へ引き抜いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−26936号公報
【特許文献2】特開2001−146746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記したいずれの方法も寸法が比較的短い小型の既設杭の撤去には有効であるが、既設杭が寸法の長い大型の杭である場合、特許文献1に記載の方法では、既設杭をかなり高い位置まで吊り上げる必要があるため、引抜き作業が大掛かりとなり、大型のクレーンが必要となる。また、特許文献2に記載の方法では、既設杭をケーシングと一体に引き上げるため、全周回転機に掛かる負荷が大きく、そのうえ、全周回転機の上方の高い位置まで既設杭とケーシングとを一体に引き上げるため、引抜き作業が大掛かりとなり、大型のクレーンが必要である。
【0006】
この発明は、上記の問題に着目してなされたもので、既設杭が寸法の長い大型の杭であっても、大型のクレーンを用いることなく、既設杭を容易に撤去することが可能な既設杭撤去方法と、その方法の実施に用いられる杭切断装置とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、地中に埋設されている既設杭を地上へ引き上げて撤去する方法であって、前記既設杭の上方の地盤上に円筒状のケーシングの地中への貫入並びに地中からの引上げが可能な全周回転機を設置する準備工程と、前記全周回転機により前記ケーシングを既設杭の周囲に貫入して既設杭周辺の地盤をその周囲の地盤から分断するとともに既設杭の上端部をケーシングより露出させるケーシング貫入工程と、既設杭の上端部のケーシングより露出した部分を掴み装置により掴んで既設杭の上端部が全周回転機の上方へ突出するまで既設杭を全周回転機により引き上げる既設杭引上工程と、前記掴み装置により既設杭の上端部を掴んだ状態で前記全周回転機より突出した部分を切断して既設杭の断片を除去する切断工程とを順次実施した後、切断後の既設杭について上端部が全周回転機の上方へ突出するまで全周回転機により引き上げる既設杭引上工程と、前記掴み装置または他の掴み装置により既設杭の上端部を掴んだ状態で前記全周回転機より突出した部分を切断して既設杭の断片を除去する切断工程とを繰り返し実行することにより既設杭を撤去することを特徴する。
【0008】
この発明による既設杭撤去方法では、既設杭の上端部が全周回転機の上方へ突出するまで既設杭を全周回転機により引き上げた後、前記既設杭の突出した部分を切断して除去し、その後は、切断された後の既設杭について、上端部が全周回転機の上方へ突出するまで全周回転機により引き上げる工程と、全周回転機より突出した部分を切断して除去する工程とを繰り返し実行することにより既設杭を撤去するので、撤去すべき既設杭が寸法の長い大型の杭であっても、高い位置まで引き上げる必要がなく、引抜き作業が大掛かりとならず、大型のクレーンが不要である。また、既設杭の切断は全周回転機上で行うので、切断作業が容易であり、そのうえ、掴み装置により既設杭の上端部を掴んだ状態で全周回転機より突出した部分を切断するので、既設杭の断片は掴み装置により保持されたまま適所へ運んで廃棄できる。さらに、ケーシングを地中に残して既設杭のみを引き上げるので、引き上げ時に全周回転機に掛かる負荷は小さくて済み、また、地中に残したケーシング内の既設杭の抜き跡に地盤沈下などを防止するための充填材を注入することができる。
【0009】
この発明はさらに、既設杭撤去後に地中に残されたケーシングを前記全周回転機により地上へ引き上げるケーシング引上工程を実行するものであり、この場合、ケーシングのみを引き上げるので、全周回転機に掛かる負荷は小さく、簡単な作業でケーシングを容易に引き上げることができる。
【0010】
好ましい実施態様においては、前記ケーシング引上工程は、下端部に前記ケーシングの上端部との脱着が可能な連結部を備えた鋼管製のヤットコを全周回転機により降下させて前記連結部をケーシングの上端部に連結する工程と、ケーシングを前記ヤットコと一体に全周回転機により引き上げる工程とからなるものである。
この実施態様によると、鋼管製のヤットコを用いることで簡単にケーシングを引き上げることができる。
【0012】
この発明の実施に用いられる前記掴み機構は、好ましくは、筒状体の内部に既設杭の外周面を把持するための把持機構が組み込まれたものであり、前記既設杭引上工程は、前記掴み装置の把持機構により既設杭の上端部を把持する工程と、既設杭を掴み装置と一体に全周回転機により引き上げる工程とからなるものである。
【0013】
上記した既設杭撤去方法の実施に用いられるこの発明の杭切断装置は、既設杭の上方の地盤上に設置される全周回転機と、全周回転機上に既設杭を切断するために設けられるカッター機構とからなるものである。前記全周回転機は、ケーシング又は既設杭を挿通させる空間部の周囲に、ケーシング又は既設杭の外周面を上下の各位置で把持するためのチャック機構およびサブチャック機構と、前記チャック機構を軸回転させるための回転機構と、前記チャック機構を上下方向に往復変位させるための変位機構とを備えている。前記カッター機構は、全周回転機上に空間部を挟んで刃先部が対向するように平行配備される一対の直線状の切断刃を備えている。各切断刃は、第1の対角位置の端部が全周回転機上に回動自由に支持され、第2の対角位置の端部には往復動機構がそれぞれ接続されるとともに、各往復動機構は各切断刃が平行状態を保ったまま互いに接近するように同期して運転するものである。
【0014】
上記した杭切断装置によると、既設杭が全周回転機により引き上げられて既設杭の上部が全周回転機の上方へ突出したとき、その突出部分がカッター機構により切断される。既設杭は回転全周機により軸回転しており、カッター機構の往復動機構を同期して運転することにより各切断刃が平行状態を保ったまま互いに接近する。各切断刃の刃先部が既設杭の外周面に接触したとき既設杭の切断が開始され、既設杭の分断が可能となる径まで各切断刃を接近させて既設杭の切断を継続する。
【0015】
好ましい実施態様においては、前記の各往復動機構は、前記切断刃と平行四辺形を形づくるように互いに平行配備されるシリンダ機構よりなるもので、各シリンダ機構は基端部が全周回転機上に回動自由に支持され、各シリンダ機構のロッドの先端部が前記切断刃の第2の対角位置に接続されている。
【0016】
この実施態様によると、全周回転機上の限られた領域に一対の切断刃と一対の往復動機構とをコンパクトに配置することが可能である。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、既設杭が寸法の長い大型の杭であっても、既設杭の引抜き作業が大掛かりとならず、大型のクレーンを用いることなく、既設杭を容易に撤去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1-1】この発明の既設杭撤去方法の実施の手順を示す正面図である。
図1-2】この発明の既設杭撤去方法の実施の手順を示す正面図であり、図1−1に示された手順に続くものである。
図1-3】この発明の既設杭撤去方法の実施の手順を示す正面図であり、図1−2に示された手順に続くものである。
図2】全周回転機の構成を示す正面図である。
図3図1−2(8)を拡大して示す正面図である。
図4】掴み装置の把持機構の構成と動作原理を示す正面図である。
図5図1−3(11)を拡大して示す正面図である。
図6】カッター機構の他の実施例の構成と動作とを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1−1〜図1−3は、この発明の既設杭撤去方法を実施する手順の一例を示すもので、図示の手順を順次実施することにより地中に縦向きに埋設されている既設杭Pを地上へ引き上げて撤去する。
同図において、2はケーシング1を地中へ貫入したり地中から引き上げたりすることが可能な全周回転機であり、まず準備工程において、この全周回転機2が既設杭Pの上方の地盤G上に設置される。ケーシング1は筒状をなす鋼管であって、全長にわたって一連一体のものであってもよく、また、図示例のように、既設杭Pの長さに応じて複数本のケーシング11,12,13,…が連結されたものであってもよい。先頭のケーシング11は下端の開口部に地盤の掘削が可能な複数の掘削刃15が設けられている。
【0020】
全周回転機2は、回転全周機、全周回転式掘削機、チュービング装置などとも呼ばれるもので、図2に示すように、地盤G上に脚部20を介して支持されるベースフレーム21と、そのベースフレーム21の上方に変位機構3を構成する複数の昇降シリンダ30を介して昇降変位可能に設けられた昇降フレーム22およびチャックフレーム23とを備えている。ベースフレーム21、昇降フレーム22、およびチャックフレーム23の各中央部には、ケーシング1や既設杭Pを挿通させる空間部Sが上下に貫通しており、その空間部Sの周囲に、ケーシング1や既設杭Pの外周面を把持するためのチャック機構4と、チャック機構4を軸回転させるための回転機構5と、チャック機構4をケーシング1の長さ方向に沿って往復変位させるための前記変位機構3とが配設されている。
【0021】
昇降フレーム22には、モータ50および減速機51よりなる前記回転機構5が設けられ、前記空間部Sを囲むようにコーン40が取り付けられている。コーン40はベアリング42を介して軸回転可能に組み付けられている。モータ50の回転は減速機51から図示しないギヤ群を介してコーン40に伝達される。コーン40の内周面には複数のテーパ溝41が形成されており、各テーパ溝41にくさび形をした複数のチャック43を対応して設けることで前記チャック機構4が構成されている。
各チャック43は、チャックフレーム23にベアリング44を介して設けられた回転体45に吊り下げられ、チャックシリンダ46のロッドの伸縮により相対的に上下動するもので、これよりケーシング1とコーン40との間にチャック43の差し込みと引き抜きとが行われ、ケーシング1を把持状態にしたり解除状態にしたりする。
【0022】
さらに、ベースフレーム21には、ケーシング1の外周を締め付けて把持する帯状のサブチャック47が設けられており、このサブチャック47と、サブチャック47を開閉させるサブチャックシリンダ48とでサブチャック機構49が構成されている。なお、前記チャック機構4およびサブチャック機構49は、ケーシング1のみならず、既設杭Pの外周面を把持することが可能である。
【0023】
上記の全周回転機2上には、詳細は後述するが、空間部Sを貫通して全周回転機2上に突出した既設杭Pの上端部を切断するための油圧駆動のカッター機構6が設置されており、このカッター機構6と全周回転機2とで杭切断装置が構成されている。なお、カッター機構6を構成するシリンダや、その他の各部のシリンダは油圧シリンダであって、油圧回路を流れる作動油によりピストンロッドの往復動が制御される。また、杭切断装置を構成するカッター機構6は、種々の実施形態のものを採用することが可能であり、この実施例で用いた図3および図5に示された形態のものの他に、図6に示された形態のもの(詳細は後述)などを採用することができる。
【0024】
図1−1(1)〜(4)は、上記の準備工程に続くケーシング貫入工程を示しており、全周回転機2によりケーシング1を既設杭Pの周囲に貫入して、既設杭P周辺の地盤をその周囲の地盤から分断するものである。
図1−1(1)は、先頭のケーシング11が全周回転機2により支持された状態を示しており、ケーシング11の下端の掘削刃15が既設杭Pの上端部の位置まで貫入されている。ケーシング11は全周回転機2のチャック機構4により外周面が把持されており、回転機構5がチャック機構4を回転させることによりケーシング11が回転し、地盤が掘削刃15により掘削される。図示していないが、地盤の掘削に際して、高圧水を地盤に向けて噴射することにより地盤を崩壊させる。変位機構3はチャック機構4を下方へ変位させるもので、これによりケーシング11は地盤を掘削しつつ地中深くに進入してゆく。なお、サブチャック機構49によりケーシング11の外周面を把持したとき、チャック機構4はケーシング11の把持を解除することができ、変位機構3がチャック機構4を上方へ変位させることでケーシング11の把持位置が変更される。
【0025】
図1−1(2)は、先頭のケーシング11の貫入が完了した時点を示している。このとき、ケーシング11の上端部は全周回転機2より上方へわずかに突出しており、このケーシング11の上端部にクレーンに吊り下げられた2番目のケーシング12の下端部が連結される。図1−1(3)は、2番目のケーシング12に3番目のケーシング13が連結された状態を示しており、ケーシング12,13を下方へ変位させて先頭のケーシング11をさらに地中深くに貫入したとき、先頭のケーシング11の下端部は若干の深さを残して既設杭Pの下端部に近づいている。
【0026】
なお、先頭のケーシング11は上端部に、中間のケーシング12,13は下端部と上端部に、それぞれ脱着が可能な連結部(図示せず)が設けてある。この連結部の機構は、種々ある公知のもののいずれかを採択する。
【0027】
図1−1(4)は、3番目のケーシング13の上端部に、下端にケーシングとの脱着が可能な連結部を備えた鋼管製のヤットコ100を接続して、このヤットコ100を全周回転機2により降下させた状態を示している。このとき、先頭のケーシング11は既設杭Pの下端にまで達し、既設杭P周辺の地盤がその周囲の地盤から分断されており、その結果、既設杭Pおよび周辺の地盤がケーシング1と供回りする状態になっている(図1−1(4))。
【0028】
次に、ヤットコ100の下端の連結部を3番目のケーシング13の上端部から外し、ヤットコ100を全周回転機2により上昇させると、既設杭の上端部がケーシング13より露出する。次に、掴み装置7を構成する円筒形をなす筒状体70を全周回転機2により降下させる。筒状体70の下端部をケーシング13の上端部と当接する位置まで降下させたとき、既設杭Pの上端部の露出した部分上に筒状体70の下端部が被さる(図1−2(6))。なお、掴み装置7は上端部に油圧スイベル96を備え、ワイヤー95により吊持されている。ワイヤー95はクレーン97に吊り下げられたフック98に支持される。
【0029】
図1−2(7)(8)は、上記のケーシング貫入工程に続く既設杭引上工程を示している。この工程では、既設杭Pの上端部を掴み装置7により掴んで既設杭Pの上端部が全周回転機2の上方へ突出するまで既設杭Pを全周回転機2により引き上げる。図1−2(7)では、全周回転機2のチャック機構4が掴み装置7の筒状体70の外周面を把持しており、回転機構5により筒状体70を回転させつつ変位機構3により筒状体70を上方へ変位させて筒状体70と一体に既設杭Pを引き上げている。筒状体70が全周回転機2の上方へ抜け出た後は、図1−2(8)に示すように、全周回転機2のチャック機構4は既設杭Pの外周面を直接把持しており、同様に、既設杭Pを回転させつつ変位機構3により既設杭Pを上方へ変位させて既設杭Pを引き上げる。
【0030】
図3は、全周回転機2によって既設杭Pの上端部分が引き上げられた状態を拡大して示したものである。既設杭Pは全周回転機2の空間部Sを上下に貫通し、上端部の適当長さが全周回転機2上に突出している。既設杭Pの上端部は掴み装置7により掴まれ、掴み装置7はクレーン97より吊り下げられたフック98に支持されている。掴み装置7は、筒状体70の内部の下部に既設杭Pの上端部を把持する把持機構71が組み込まれたものである。
【0031】
この実施例の把持機構71は、図4(1)(2)に示されているように、互いに対向する一対の半円筒状の把持片72a,72bと、各把持片72a,72bを互いに接近、離反する各方向へ往復変位させる一対の押圧機構73a,73bとを含んでいる。各把持片72a,72bの内周面は、既設杭Pの外周面と面接触するように既設杭Pの外周面に沿う湾曲形状に形成されている。各把持片72a,72bは、筒状体70の内面に装着された複数個の引張りばね74a,74bにより支持されており、これにより各把持片72a,72bは互いに離反する方向へ付勢されている。
【0032】
押圧機構73a,73bは、油圧シリンダ75を駆動源とするくさび機構により構成されており、反対方向へ突出するロッド76,77の先端にくさび片78,79が備えられている。一方の押圧機構73aの各くさび片78,79は、内側の傾斜面が把持片72aの上端部と下端部とに当接し、他方の押圧機構73bの各くさび片78,79は、内側の傾斜面が把持片72bの上端部と下端部とに当接しており、各押圧機構73a,73bにおいて、両方のロッド76,77が一斉に引き込むと、各くさび片78,79は把持片72a、72bを押して互いに接近させる(図4(2)参照)。また、両方のロッド76,77が一斉に突出すると、各くさび片78,79による押圧力が解除され、各把持片72a,72bは引張りバネ74a,74bにより引っ張られて互いに離反する(図4(1)参照)。
【0033】
図1−2(8)〜(9)は、上記の既設杭引上工程に続く切断工程を示している。この工程では、掴み装置7により既設杭Pの上端部を掴んだ状態で全周回転機2より上方へ突出した部分がカッター機構6により切断されて除去される。
カッター機構6は、図3に示されるように、全周回転機2上に設置されており、油圧シリンダより成る一対の往復動機構61a,61bと、各往復動機構61a,61bのロッド62a,62bの先端に取り付けられた切断刃63a,63bとを備えている。各往復動機構61a,61bは、各切断刃63a,63bが全周回転機2の空間部Sを挟んで対向するように位置決め固定されている。各切断刃63a,63bは、空間部Sを貫通しかつ軸回転する既設杭Pの中心に向けて進み、これにより既設杭Pを切断する。
【0034】
なお、図3において、8は全周回転機2上に設けられた回り止め機構であり、縦設された油圧シリンダ81のロッド82の先端に設けられた棒状のストッパー83と、前記掴み装置7に備えられた油圧スイベル96に装着された回り止め84とを有しており、油圧スイベル96が掴み装置7の筒状体70と供回りするのを防止する。また、図3において、110は各部の油圧シリンダに対する作動油の導出入を制御する油圧ユニットである。
【0035】
図1−2(9)は、カッター機構6により既設杭Pが切断された直後の状態を示しており、既設杭Pの断片P1が掴み装置7の把持機構71により把持されている。掴み装置7は断片P1を把持したままの状態でクレーン97により適所まで運ばれ、そこで把持機構71を開動作させて断片P1を廃棄する。
【0036】
図1−2(10)〜図1−3(11)は、上記の切断工程に続く作業工程を示している。この作業工程では、切断後の既設杭Pについて上端部が全周回転機2の上方へ適当な長さだけ突出するまで全周回転機2により引き上げる既設杭引上工程と、全周回転機2より突出した部分をカッター機構6により切断して除去する切断工程とが繰り返し実行されるものである。
【0037】
図1−2(10)において、全周回転機2のチャック機構4は切断後の既設杭Pの外周面を直接把持し、既設杭Pを回転させつつ変位機構3により既設杭Pを上方へ変位させて既設杭Pを引き上げている。既設杭Pの引上げが終わると、次に、既設杭Pの上端部を第2の掴み装置9の把持機構91により把持した後、前記カッター機構6を作動させる(図1−3(11))。
【0038】
図5は、切断後の既設杭Pの上端部分が第2の掴み装置9により掴まれた状態を拡大して示している。既設杭Pは全周回転機2の空間部Sを上下に貫通し、上端部の適当長さが全周回転機2上に突出している。既設杭Pの上端部は第2の掴み装置9により掴まれ、第2の掴み装置9はクレーン97より吊り下げられたフック98に支持されている。第2の掴み装置9は、筒状体90の内部に既設杭Pの上端部を把持する把持機構91が組み込まれたものである。なお、この把持機構91は前記掴み装置7の把持機構71と同じ構成のものであって、図4(1)(2)に示したものと差異がないので、ここでは図示並びに説明を省略する。第2の掴み装置9の筒状体90は、前記掴み装置7の筒状体70より短く、これにより第2の掴み装置9により既設杭Pの上端部を掴むとき、クレーン97により第2の掴み装置9を高く持ち上げる必要がない。なお、第2の掴み装置9に代えて前記掴み装置7を用いることもできる。
【0039】
上記した図1−2(10)の既設杭引上工程と図1−3(11)の切断工程とを繰り返し実行することにより地中に埋設された既設杭Pを撤去することができる。既設杭Pの撤去後にはケーシング1が地中に残されており、このケーシング1を利用して既設杭Pの抜き跡に地盤沈下などを防止するための充填材を注入した後、ケーシング1を図1−3(12)(13)に示すケーシング引上工程を実施することにより地上へ引き上げる。このケーシング引上工程は、ケーシング1を全周回転機2により地上へ引き上げるもので、前記の鋼管製のヤットコ100を全周回転機2により降下させてケーシング1の上端部に連結する工程(図1−3(12)参照)と、ケーシング1をヤットコ100と一体に全周回転機2により地上へ引き上げる工程(図1−3(13)参照)とからなるものである。
【0040】
図1−3(12)は、ヤットコ100が全周回転機2により支持された状態を示している。ヤットコ100は全周回転機2のチャック機構4により外周面が把持されており、変位機構3がチャック機構4を下方へ変位させることによりヤットコ100が降下して、ケーシング1の上端部に連結することができる。
【0041】
図1−3(13)において、ヤットコ100は全周回転機2のチャック機構4により外周面が把持されており、回転機構5がチェック機構4を回転させることによりヤットコ100およびケーシング1が一体に回転し、変位機構3がチャック機構4を上方へ変位させることよりヤットコ100と共にケーシング11が引き上げられる。ヤットコ100が引き上げられてケーシング1から切り離された後、各ケーシング11〜13が全周回転機2により同様にして順次引き上げられる。
【0042】
図6(1)は、この発明の既設杭撤去方法を実施するのに用いられる他の最適な実施形態の杭切断装置を示している。図示の杭切断装置は、既設杭Pの上方の地盤G上に設置される前記の全周回転機2と、全周回転機2上に既設杭Pを切断するために設けられるカッター機構6とからなり、全周回転機2は、チャック機構4、サブチャック機構49、回転機構5、および変位機構3を備えている。なお、これら各機構の構成は上記したとおりであり、ここでは説明を省略する。
【0043】
カッター機構6は、全周回転機2上に空間部Sを挟んでほぼ全長にわたる刃先部64が互いに対向するように平行配備される一対の直線状の切断刃64a,64bを備えている。各切断刃64a,64bは、同一の長さを有しており、一方の切断刃64aの一方の端部A1と他方の切断刃64bの他方の端部B2とが空間部Sの中心Xに対して対角位置にあり、一方の切断部64Aの他方の端部A2と他方の切断刃64bの一方の端部B1とが空間部Sの中心Xに対して対角位置にある。各切断刃64a,64bの第1の対角位置の端部A1,B2が全周回転機2上にピン65a,65bにより回動自由に支持されている。各切断刃64a,64bの第2の対角位置の端部A2,B1には往復動機構66a,66bがピン69a,69Bによりそれぞれ接続されるとともに、各往復動機構66a,66bは各切断刃64a,64bが平行状態を保ったまま互いに接近するように油圧ユニット110の制御下で同期して運転する。
【0044】
この実施例では、各往復動機構66a,66bは、各切断刃64a,64bと平行四辺形を形づくるように互いに平行配備される油圧シリンダにより構成されており、各油圧シリンダの基端部が全周回転機2上にピン67a,67bにより回動自由に支持され、各油圧シリンダのロッド68a,68bの先端部が切断刃64a,64bの端部A2,B1にピン69a,69bにより接続されている。
【0045】
上記した杭切断装置によると、既設杭Pが全周回転機2により引き上げられて既設杭Pの上部が全周回転機2の上方へ突出したとき、その突出部分がカッター機構6により切断される。既設杭Pは回転全周機2により軸回転しており、カッター機構6の往復動機構66a,66bを同期して運転することにより各切断刃64a,64bが平行状態を保ったまま互いに接近する。各切断刃64a,64bの刃先部64が既設杭Pの外周面に接触したとき既設杭Pの切断が開始され、図6(2)に示されるように、既設杭Pの分断が可能となる径まで各切断刃64a,64bを接近させて既設杭Pの切断を継続する。
【符号の説明】
【0046】
1,11,12,13 ケーシング
2 全周回転機
3 変位機構
4 チャック機構
5 回転機構
6 カッター機構
7,8 掴み装置
64a,64b 切断刃
66a,66b 往復動機構
70,80 筒状体
71,81 把持機構
97 クレーン
100 ヤットコ
P 既設杭
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図2
図3
図4
図5
図6