特許第6587979号(P6587979)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6587979
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】エンジンのピストン
(51)【国際特許分類】
   F02F 3/00 20060101AFI20191001BHJP
   F16J 1/04 20060101ALI20191001BHJP
【FI】
   F02F3/00 M
   F02F3/00 302C
   F16J1/04
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-109747(P2016-109747)
(22)【出願日】2016年6月1日
(65)【公開番号】特開2017-214880(P2017-214880A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2018年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】尾曽 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】小山 秀行
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 隆寛
(72)【発明者】
【氏名】長井 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】金子 莉菜
【審査官】 首藤 崇聡
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−509279(JP,A)
【文献】 特開2014−234739(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0087166(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 3/00
F02F 3/10
F16J 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スカート部の表面に樹脂皮膜と凹部とを備えたエンジンのピストンであって、
前記スカート部の表面に斑点状の樹脂皮膜が分散配置され、隣り合う前記斑点状の樹脂皮膜どうしの間の前記スカート部の表面と、前記隣り合う斑点状の樹脂皮膜とにより形成される凹部で網目状溝が形成されるとともに、
前記斑点状の樹脂皮膜には、前記スカート部のピストン移動方向への移動に伴ってエンジンオイルをピストン周方向で前記スカート部の中央側へ寄せ案内するガイド溝が形成され
前記ガイド溝は、前記斑点状の樹脂皮膜を部分的に前記表面に形成しないことによりなる皮膜欠如溝が、前記斑点状の樹脂皮膜に斜め溝として複数配列形成されることによりなるエンジンのピストン。
【請求項2】
前記斑点状の樹脂皮膜には、前記スカート部がクランク軸に近づく方向への移動に伴ってエンジンオイルをピストン周方向で前記スカート部の中央側へ寄せ案内する第1のガイド溝が形成されている請求項1に記載のエンジンのピストン。
【請求項3】
前記斑点状の樹脂皮膜には、前記スカート部がクランク軸から遠ざかる方向への移動に伴ってエンジンオイルをピストン周方向で前記スカート部の中央側へ寄せ案内する第2のガイド溝が形成されている請求項1に記載のエンジンのピストン。
【請求項4】
前記ガイド溝の溝底は、前記スカート部の表面により形成されている請求項1〜3の何れか一項に記載のエンジンのピストン。
【請求項5】
前記斑点状の樹脂皮膜の形状が六角形に設定されている請求項1〜4の何れか一項に記載のエンジンのピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのピストンに係り、詳しくは、凹部へのエンジンオイルの供給を改善することができるエンジンのピストンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、図7に示すように、エンジンのピストンとして、スカート部101の表面に、樹脂皮膜102と凹部103とを備えたものがある。(例えば、特許文献1参照)
【0003】
この種のピストンによれば、樹脂皮膜102でスカート部101のプロフィールが最適化され、ピストンスラップ音が低減されるとともに、凹部103に溜まったエンジンオイルでスカート部101の摩擦が低減される利点がある。
【0004】
しかしながら、この従来技術では、図7に示すように、一連の樹脂皮膜102にスポット状に複数の凹部103が配置されているため、エンジンオイルによるスカート部の摩擦低減機能が不十分であった。
【0005】
即ち、図7に示すように、一連の樹脂皮膜102にスポット状に複数の凹部103が配置されているため、凹部103が樹脂皮膜102に囲まれ、凹部103へのエンジンオイルの供給が困難である。このため、凹部103に十分な量のエンジンオイルが保持されず、エンジンオイルによるスカート部101の摩擦低減機能が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4749399号公報(図1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、樹脂皮膜が施されているピストンにおいて、さらなる鋭意研究により、凹部へのエンジンオイルの供給を改善することができる、エンジンのピストンを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、スカート部1の表面1aに樹脂皮膜2と凹部3とを備えたエンジンのピストンにおいて、
前記スカート部1の表面1aに斑点状の樹脂皮膜2aが分散配置され、隣り合う前記斑点状の樹脂皮膜2aどうしの間の前記スカート部1の表面1aと、前記隣り合う斑点状の樹脂皮膜2a,2aとにより形成される凹部3で網目状溝4が形成されるとともに、
前記斑点状の樹脂皮膜2aには、前記スカート部1のピストン移動方向6への移動に伴ってエンジンオイルをピストン周方向8で前記スカート部1の中央側へ寄せ案内するガイド溝Mが形9され
前記ガイド溝Mは、前記斑点状の樹脂皮膜2aを部分的に前記表面1aに形成しないことによりなる皮膜欠如溝が、前記斑点状の樹脂皮膜2aに斜め溝として複数配列形成されることによりなることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のエンジンのピストンにおいて、
前記斑点状の樹脂皮膜2aには、前記スカート部1がクランク軸に近づく方向への移動に伴ってエンジンオイルをピストン周方向8で前記スカート部1の中央側へ寄せ案内する第1のガイド溝21が形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載のエンジンのピストンにおいて、
前記斑点状の樹脂皮膜2aには、前記スカート部1がクランク軸から遠ざかる方向への移動に伴ってエンジンオイルをピストン周方向8で前記スカート部1の中央側へ寄せ案内する第2のガイド溝22が形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載のエンジンのピストンにおいて、
前記ガイド溝Mの溝底23は、前記スカート部1の表面1aにより形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4の何れか一項に記載のエンジンのピストンにおいて、
前記斑点状の樹脂皮膜2aの形状が六角形に設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、スカート部の広域に亘って、エンジンオイルの保持領域を形成することができる。スカート部の表面に、斑点状の樹脂皮膜が分散配置され、斑点状の樹脂皮膜どうしの間に形成される凹部で網目状溝が形成されているので、スカート部の広域に亘って、エンジンオイルの保持領域を形成することができる。
スカート部の表面が複数個に分かれてテクスチャリングされることにより、エンジオイルのピストン移動方向通路を設けることができ、エンジンオイルを各部により有効に供給することができる。凹部によって網目状溝が形成されているので、ピストンの往復運動を利用して凹部にオイルを積極的に供給することができる。
【0014】
スカート部においては、ピストン周方向で中心に近いほどシリンダと強く接触する傾向があるが、斑点状の樹脂皮膜に形成されているガイド溝により、ピストン移動に伴ってエンジンオイルをピストン周方向でスカート部の中央側へ寄せ案内するようになる。従って、エンジンオイルをより必要とする箇所に無理なく供給することができ、耐久性向上に寄与する利点もある。
その結果、樹脂皮膜が施されているピストンにおいて、さらなる鋭意研究により、凹部へのエンジンオイルの供給を改善することができ、耐久性向上も期待できるエンジンのピストンを提供することができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、エンジンオイルをピストン周方向でスカート部の中央側へ寄せ案内するガイド溝が、スカート部がクランク軸に近づく方向への移動に伴って機能する第1のガイド溝に形成されている。故に、膨張工程及び吸入工程のピストン移動時に、第1のガイド溝によって、エンジンオイルをより必要とする箇所に無理なく供給する作用(請求項1の発明よる作用)を発揮されることができる。
【0016】
請求項3の発明によれば、エンジンオイルをピストン周方向でスカート部の中央側へ寄せ案内するガイド溝が、スカート部1がクランク軸から遠ざかる方向への移動に伴って機能する第2のガイド溝に形成されている。故に、排気工程及び圧縮工程のピストン移動時に、第2のガイド溝によって、エンジンオイルをより必要とする箇所に無理なく供給する作用(請求項1の発明よる作用)を発揮されることができる。
【0017】
請求項4の発明によれば、溝底がスカート部の表面、即ち、樹脂皮膜を形成しないことによってガイド溝を形成する手段であり、経済的な手段でありながら最もガイド溝を深くすることができて、効果的にエンジンオイルの前記寄せ案内作用が得られる利点がある。
【0018】
請求項5の発明によれば、斑点状の樹脂皮膜の形状が六角形に設定されており、それら斑点状の樹脂皮膜により形成される凹部により、規則正しい形状の網目状溝に設定できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】シリンダに内嵌されたピストンなどを示す縦断面図
図2】樹脂皮膜などを示すピストンの側面図
図3】(a)スカート部の中央域における樹脂皮膜の形状及びコーティングパターンを示す拡大図、(b)スカート部のピストン周方向端部の樹脂皮膜を示す図
図4】(a)は実施形態2による樹脂皮膜、(b)は実施形態3による樹脂皮膜
図5】(a)は第2のガイド溝を有する樹脂皮膜の断面図、(b)は溝の浅い第2のガイド溝を有する樹脂皮膜の断面図
図6】ガイド溝の無い樹脂皮膜を有するピストンの側面図
図7】従来技術に係るエンジンのピストンの側面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明によるピストンの実施の形態を、立形ディーゼルエンジンのピストンについて、図面を参照しながら説明する。各図において、簡単のため、円筒面であるスカート部1の樹脂皮膜2は、いずれも展開した形状として描いてある。以下、潤滑油であるエンジンオイルは、単にオイルと略称する。
【0021】
立形ディーゼルエンジン及びそのピストンは、図1に示すように、シリンダ14の上部にシリンダヘッド15が組み付けられており、ピストン12は、シリンダ14に内嵌され、ピストン12にコンロッド16を介してクランク軸17が連動連結されている。
シリンダヘッド15には、吸気弁18と排気弁19と燃料インジェクタ20が取り付けられている。
【0022】
図1及び図2に示されるように、このピストン12は、ピストンリング13(図2では図示省略)が装備されるピストンヘッド部12Aと、その下方のピストンロワー部12Bとを有している。ピストンロワー部12Bは、ピストンヘッド部12Aのような円筒形ではなく、ピストン移動方向6の方向視で円弧面を呈するスカート部1の一対と、それらの間のピン連結部12pとを備える異形部分である。スカート部1は、スラスト側12aと反スラスト側12bとのそれぞれに位置する状態に形成されている。
【0023】
スカート部1は、図1,2に示されるように、ピストン移動方向6でクランク軸側の端縁が傾斜している周方向端部1A,1Aと、それらの間で、かつ、クランク軸側に突出した周方向中央部1Bとを有する形状に形成されている。つまり、スカート部1は、ピストン周方向8で中央に寄るに従って下方に延びる形状に設定されている。図1は、ピストン12が下方に移動中の状態を描いたものである。なお、26は、ピストンリング13(図1を参照)を装着するための周溝であり、27はオイル孔である。
【0024】
ピストン12のスカート部1の表面1aには、樹脂皮膜2と、樹脂皮膜2により形成される凹部3とを備えている。ピストン12本体の素材には、鋳鉄またはアルミ合金等の金属が用いられている。樹脂皮膜2には、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂が用いられている。樹脂皮膜2には、遷移金属酸化物、グラファイト等の無機固体潤滑剤が含まれている。
【0025】
次に、スカート部1に施されている樹脂皮膜2や凹部3、或いは樹脂皮膜2のコーティングパターンなどについて説明する。
順序として、先ず、ガイド溝(後述)を持たない樹脂皮膜2を有するピストン(図6参照)を説明し、その次に、ガイド溝(後述)を有する樹脂皮膜2付のピストン(図2図3参照)を説明する。
【0026】
図6図2)に示されるように、スカート部1の表面1aに斑点状の樹脂皮膜2a(樹脂皮膜2の一例)が分散配置され、隣り合う斑点状の樹脂皮膜2aどうしの間のスカート部1の表面1aと、隣り合う斑点状の樹脂皮膜2a,2aとにより形成される凹部3により網目状溝4が形成されている。網目状溝4は、斑点状の樹脂皮膜2a,2aの間に形成され、その内底面は、斑点状の樹脂皮膜2aで覆われていないスカート部1の金属表面1aで形成されている。
【0027】
スカート部1及びスカート部1に形成されている斑点状の樹脂皮膜2a及び凹部3は、ピストン12のスラスト側12aと反スラスト側12bとに存在している。スラスト側12aとは、爆発工程においてクランク軸17の回転方向とコンロッド16の傾斜とによりピストン12が下降する時に、爆発圧力でピストン12がシリンダ14に押し付けられる側を言い、反スラスト側12bはその反対側を言う。
【0028】
図6図2)に示されるように、斑点状の樹脂皮膜2aは六角形状(正六角)に形成されており、隣り合う斑点状の樹脂皮膜2a,2aが若干の隙間(=凹部3=網目状溝4)を空けて縦横に規則正しく配列する状態でピストン12の表面1aに形成されている。
従って、隣り合う斑点状の樹脂皮膜2a,2aは、ピストン移動方向6及びピストン周方向8には互いに重なる状態に配列されている。
図6図2)の例では、斑点状の樹脂皮膜2aはピストン移動方向6に、周方向端部1Aでは5個(又は6個)並び、周方向中央部1Bでは7個(又は6個)並んでいる。つまり、多数の亀の甲形状の樹脂皮膜2aが縦横に配列されている樹脂皮膜2のコーティングパターンである。
【0029】
斑点状の樹脂皮膜2aの複数が、スカート部1のピストン周方向8に所定間隔を置いて配置されて樹脂皮膜列5を形成しており、その樹脂皮膜列5の複数がピストン周方向に半ピッチずらしてピストン移動方向6に配列されており、それによって千鳥格子状に複数列配置されている。
樹脂皮膜列5の隣り合う斑点状の樹脂皮膜2a,2aどうしの間に形成される溝部分7(=凹部3)のピストン移動方向6側の両端開口部7a,7bは、ピストン移動方向6で隣り合う樹脂皮膜列5の斑点状の樹脂皮膜2a、詳しくは、斑点状の樹脂皮膜2aにおけるピストン周方向8の中心に対向する構成とされている。
【0030】
そして、図3(b)に示されるように、スカート部1におけるピストン周方向8の双方の端部(=周方向端部1Aの端部)には、ピストン移動方向6に延びる外縁形状の樹脂皮膜2bが形成されている。外縁形状の樹脂皮膜2bは、ピストン移動方向6に長い矩形の帯状部分9に、斑点状の樹脂皮膜2aの横半分部10をピストン移動方向6に一つ飛びで3つ足して一体化したような、ピストン移動方向6に長くて大きい樹脂皮膜2に形成されている。
【0031】
外縁形状の樹脂皮膜2bのピストン移動方向6の長さである縦長さLは、スカート部1のピストン周方向の端部でのピストン移動方向長さの全域に亘る程度に設定されている。詳しくは、縦長さLは、ピストン移動方向6に並ぶ5つの樹脂皮膜列5に亘る長さであって、周方向端部1Aの端部におけるピストン12の表面1aのピストン移動方向6の全長D(図2参照)より少し短い長さである。
【0032】
〔実施形態1〕
図2図3に示されるように、正六角形で斑点状の樹脂皮膜2aには、スカート部1のピストン移動方向6への移動に伴ってエンジンオイルをピストン周方向8でスカート部1の中央側へ寄せ案内するガイド溝Mが形成されている。
ガイド溝Mは斑点状の樹脂皮膜2aを部分的に表面1aに形成しないことによりなる皮膜欠如溝であり、一つの斑点状の樹脂皮膜2aには4つの斜め溝として配列形成されている。つまり、図2,3において示される多数のガイド溝Mは、スカート部1の表面1aが溝状のものとして見えていることになる。
【0033】
図2図3に示されるように、スカート部1におけるピストン移動方向6でクランク軸17(図1参照)側の半分部(下半分部)に形成されている斑点状の樹脂皮膜2aには、スカート部1がクランク軸17に近づく方向への移動に伴ってエンジンオイルをピストン周方向8でスカート部1の中央側へ寄せ案内する第1のガイド溝21(M)が形成されている。
【0034】
第1のガイド溝21(M)は、スカート部1のピストン周方向8で中心から、図2図3(a)の紙面において左側に配置されている斑点状の樹脂皮膜2aにおいては、ピストン移動方向6に対して左斜め下に角度θ傾いて形成された4列の溝である。そして、スカート部1のピストン周方向8で中心から、図2図3(a)の紙面において右側に配置されている斑点状の樹脂皮膜2aにおいては、ピストン移動方向6に対して右斜め下に角度θ傾いて形成された4列の溝である。
【0035】
図2図3に示されるように、スカート部1におけるピストン移動方向6で反クランク軸17(図1参照)側の半分部(上半分部)に形成されている斑点状の樹脂皮膜2aには、スカート部1がクランク軸17から遠ざかる方向への移動に伴ってエンジンオイルをピストン周方向8でスカート部1の中央域(周方向中央部1B)に寄せ案内する第2のガイド溝22(M)が形成されている。第2のガイド溝22の溝底23は、スカート部1の表面1aにより形成されている。
【0036】
第2のガイド溝22(M)は、スカート部1のピストン周方向8で中心から、図2図3(a)の紙面において左側に配置されている斑点状の樹脂皮膜2aにおいては、ピストン移動方向6に対して左斜め上に角度θ傾いて形成された4列の溝である。そして、スカート部1のピストン周方向8で中心から、図2図3(a)の紙面において右側に配置されている斑点状の樹脂皮膜2aにおいては、ピストン移動方向6に対して右斜め上に角度θ傾いて形成された4列の溝である。
【0037】
図2図3において、斑点状の樹脂皮膜2aの列5の上端から下へ3列の樹脂皮膜列5が、反クランク軸17側の半分部(上半分部)に相当し、上端から下へ4列目から下端までの樹脂皮膜列5は、クランク軸17側の半分部(下半分部)に相当する。なお、ピストン周方向8でスカート部1の中心にある3つの斑点状の樹脂皮膜2aのガイド溝Mは、ピストン移動方向6に沿って傾斜の無い4列の第3のガイド溝24(M)に形成されている。
【0038】
以上のように、斑点状の樹脂皮膜2aには、スカート部1がクランク軸17に近づく方向への移動に伴ってエンジンオイルをピストン周方向8でスカート部1の中央側へ寄せ案内する第1のガイド溝21と、スカート部1がクランク軸17から遠ざかる方向への移動に伴ってエンジンオイルをピストン周方向8でスカート部1の中央側へ寄せ案内する第2のガイド溝22とが形成されている。
図5(a)に示されるように、ガイド溝M,21,22の溝底23はスカート部1の表面1aである。なお、図5(a)においては、例として、第2のガイド溝22及びその溝底23として描いてある。
【0039】
実施形態1によるピストン12においては、スカート部1の広域に亘って、オイルの保持領域を形成することができる。スカート部1の表面1aに、斑点状の樹脂皮膜2aの多数が分散配置され、斑点状の樹脂皮膜2aどうしの間に形成される凹部3で網目状溝4が形成されているので、スカート部1の広域に亘って、オイルの保持領域を形成することができる。
【0040】
スカート部1のピストン周方向8で隣り合う斑点状の樹脂皮膜2aどうしの間に形成される凹部3が、ピストン移動方向6で別の斑点状の樹脂皮膜2aと隣り合う状態に設定されているので、ピストン12の往復移動によって凹部の3両端開口部から流出するオイルがピストン移動方向6で隣の斑点状の樹脂皮膜2aに衝突し、凹部3からのエンジンオイルの流出が抑制され、網目状溝4のオイル保持機能を高めることができる。
【0041】
スカート部1の表面1aが複数個に分かれてテクスチャリングされることにより、オイルの上下方向(ピストン移動方向6)通路を設けることができ、オイルを各部により有効に供給することができる。ピストン移動方向6で隣り合う樹脂皮膜列5,5どうしをピストン周方向8に互いに位置ずれさせて千鳥格子状に配置してあるので、ピストン12の往復運動を利用して凹部3にオイルを積極的に供給することができる。
【0042】
スカート部1における樹脂皮膜2,2a,2bのコーティングでなる網目状溝4のピストン周方向8の両端部が、外縁状の樹脂皮膜2bで閉鎖されているから、スカート部1に導入されたオイルがピストン周方向に逃げ難くなり、スカート部1に(主に網目状溝4に)オイルが保持され易くなる。スカート部1のピストン周方向8の両端部の剛性が大きい箇所である場合には、樹脂皮膜2をシリンダライナと接触させられる。
また、オイルをスカート部1に効率良く保持できるので、オイルによる流体膜には正圧が発生し、摺動面を浮上させ、フリクション低減が図れ、従って、燃費低減の効果が期待できる。また、エンジンの耐焼き付き性も向上するようになる。特に、寒冷時でもオイル保持ができる利点もある。
【0043】
スカート部1においては、そのピストン周方向8で中心に近いほどシリンダ14に強く押される傾向があり、周方向端部1Aよりも周方向中央部1Bの方が強くシリンダ14に押される。本発明においては、斑点状の樹脂皮膜2aに形成されたガイド溝Mにより、ピストン12が移動するに従って、ピストン周方向8でオイルを周方向中央部1Bに導く作用が生じるようになる。
その結果、樹脂皮膜2の形状工夫により、オイルをより必要とする箇所に無理なく供給することができ、耐久性向上に寄与するエンジンのピストン12を提供することができる。
【0044】
そして、スラスト側12aでは第1のガイド溝21により、また反スラスト側12bでは第2のガイド溝22により、中央側へ寄せられたオイルを、スカート部1のピストン移動に伴って第2のガイド溝22又は第1のガイド溝21によりピストン周方向で端の側へ寄せ案内する作用が生じる。従って、シリンダ14に強く押される箇所にオイルを集めながら、その集められたオイルを無理なく周方向へ分散させることもでき、ピストン移動に伴うオイルの流れがより円滑なものとなる、という利点もある。
【0045】
斑点状の樹脂皮膜2aに形成されるガイド溝M(21,22,24)の個数、ピストン移動方向6に対する角度θ、などは適宜に選択設定することができる。また、2個以上のガイド溝Mを設ける場合、それぞれの前記角度θを互いに異なる値にしても良い。
【0046】
ところで、第1のガイド溝21(M)をスラスト側12aのスカート部1に設ける構成や、第2のガイド溝22(M)を反スラスト側12bのスカート部1に設ける構成を採っても良い。
スラスト側12aに存在する斑点状の樹脂皮膜2aの第1のガイド溝21により、爆発によって強くシリンダ14に押されるスラスト側12aのスカート部1へのオイル供給が促進されるようになる。また、反スラスト側12bに存在する斑点状の樹脂皮膜2aの第2のガイド溝22により、スラスト側ほど強烈ではないが、比較的強くシリンダ14に押される反スラスト側12bのスカート部1へのオイル供給が促進されるようになる。
その結果、樹脂皮膜の形状工夫により、スカート部におけるエンジンオイルのより必要とされる箇所の潤滑性を無理なく改善することができ、耐久性向上も可能となる利点が得られる。
【0047】
〔実施形態2〕
斑点状の樹脂皮膜2aに形成されるガイド溝Mは、図4(a)に示されるように、樹脂皮膜2の厚さを減じること、例えば半分の厚みとされることでなる溝でも良い。この場合の溝底23は、図5(b)に示されるように、スカート部1の表面1aではなく、樹脂皮膜2の凹入面25によりなる。
なお、図2,3に示される斑点状の樹脂皮膜2aは、元は図6に示す六角形の樹脂皮膜2aを基本としており、全体として六角形を呈する計5つの皮膜破片(符記省略)によりなるものである。
【0048】
〔実施形態3〕
ガイド溝Mを有する斑点状の樹脂皮膜2aは、図4(b)に示されるように、鼓形に設定されたものでも良い。この例では、ピストン移動方向6にやや長い鼓形を呈している。なお、斑点状の樹脂皮膜2aの形状は、六角形や鼓形以外の形状でも良い。
【0049】
〔その他の実施例〕
スラスト側12aのスカート部1に形成されている斑点状の樹脂皮膜2aには、スカート部1がクランク軸17に近づく方向への移動に伴ってオイルをピストン周方向8でスカート部1の中央側へ寄せ案内する第1のガイド溝21(M)が形成されている、という構成を採ることが可能である。そして、反スラスト側12bのスカート部1に形成されている斑点状の樹脂皮膜2aには、スカート部1がクランク軸17から遠ざかる方向への移動に伴ってオイルをピストン周方向8でスカート部1の中央側へ寄せ案内する第2のガイド溝22(M)が形成されている、という構成を採ることが可能である。
【0050】
その場合、ピストン12が対称形状のものに構成されている手段では、スラスト側と反スラスト側とで第1及び第2ガイド溝21,22を区別させる構成とすると、組付け時に方向を規定する必要がある。しかしながら、スカート部1の下側(クランク軸側)の半分部には第1のガイド溝21を、かつ、上側(反クランク軸側)の半分部には第2のガイド溝22を形成する構成(図2,3を参照)とすれば、そのような場合でも組付け間違いが生じない利点がある。
【符号の説明】
【0051】
1 スカート部
1a 表面
2 樹脂皮膜
2a 斑点状の樹脂皮膜
3 凹部
4 網目状溝
6 ピストン移動方向
8 ピストン周方向
21 第1のガイド溝
22 第2のガイド溝
23 溝底
M ガイド溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7