(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熱発生率の最大熱発生率が第2ノック判定閾値よりも大きい場合に、ノッキング強度が強い前記ノッキングを検出したと判定する第2ノッキング判定ステップを、さらに備えることを特徴とする請求項1に記載のノッキング検出方法。
前記熱発生率演算ステップは、前記筒内圧取得ステップで取得した前記筒内圧力を用いて、前記複数のクランク角におけるそれぞれの前記熱発生率を演算することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のノッキング検出方法。
内燃機関の有する気筒の筒内圧力を検出可能な筒内圧センサと、前記内燃機関のクランク角を検出可能なクランク角センサと、を備えた内燃機関におけるノッキングを検出するためのノッキング検出方法であって、
前記筒内圧センサによって検出された前記筒内圧力を複数の前記クランク角において取得する筒内圧取得部と、
前記複数のクランク角における前記気筒の熱発生率をそれぞれ演算する熱発生率演算部と、
前記内燃機関の前記気筒の筒内圧力が最大となる筒内圧最大クランク角を取得する筒内圧最大クランク角取得部と、
前記筒内圧最大クランク角から第1値だけ小さい小側クランク角と、前記筒内圧最大クランク角より第2値だけ大きい大側クランク角との間の領域となるノック判定クランク角領域を決定するノック判定クランク角領域決定部と、
前記ノック判定クランク角領域における前記熱発生率の微分値を算出する熱発生率微分部と、
前記熱発生率微分部で算出された前記熱発生率の微分値に基づいて、ノッキング判定を行う第1ノッキング判定部と、
前記第1ノッキング判定部においてノッキング有と判定された場合に、前記ノッキングのノッキング強度の強弱を判定するノッキング強度判定部と、を備え、
前記第1ノッキング判定部は、
前記熱発生率微分部で算出された前記熱発生率の微分値の最大値となる最大微分熱発生率を取得し、前記最大微分熱発生率が第1ノック判定閾値よりも大きい場合に前記ノッキング有と判定し、
前記ノッキング強度判定部は、
前記小側クランク角よりも第3値だけ小さいクランク角と前記小側クランク角との間の領域となる基準クランク角領域における、前記熱発生率の微分値の最大値となる基準微分熱発生率を取得する基準微分熱発生率取得部と、
前記基準微分熱発生率に対する前記最大微分熱発生率の大きさがノック強度判定閾値よりも大きい場合には前記ノッキング強度が強いと判定し、前記基準微分熱発生率に対する前記最大微分熱発生率の大きさが前記ノック強度判定閾値以下の場合には前記ノッキング強度が弱いと判定するノック強度判定部と、を有することを特徴とするノッキング検出装置。
前記熱発生率の最大熱発生率が第2ノック判定閾値よりも大きい場合に、ノッキング強度が強い前記ノッキングを検出したと判定する第2ノッキング判定部を、さらに備えることを特徴とする請求項8に記載のノッキング検出装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜2のように、ノッキングの強さの評価指標としてノッキング・シビアリティを用いた場合において、その評価結果が実際に観測される典型的なノッキング特性とは矛盾する事例が散見されている。典型的には、ノッキング・シビアリティは、点火タイミングを進角させるにつれて大きくなる傾向を示すものであるが、評価結果の中には、ノッキング・シビアリティが点火タイミングを進角させるにつれて途中から小さくなる傾向(上に凸の傾向)やフラットになる傾向を示す場合がある。
【0007】
一方、特許文献3では、ノッキング判定を精度良く行うためには、上述した熱発生率の立下り領域を正確に検出することが重要である。しかし、上述したように、内燃機関の筒内における熱発生率は、クランク角の変化に伴って上下に何度も変化するのが一般的であり(後述する
図5〜
図6参照)、特に、熱発生率が0となるクランク角を特定するのは困難である。このため、熱発生率の立下り領域を正確に特定することは困難である。この点、特許文献3には、ノッキング等による高周波振動成分をフィルタでカットすることも開示されているが、このような方法では、検出しようとするノッキングの成分まで除去してしまい、ノッキングの検出精度の低下を招く可能性がある。
【0008】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、内燃機関の筒内の熱発生率に基づくノッキング判定をより容易に精度良く行うことが可能なノッキング検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係るノッキング検出方法は、
内燃機関におけるノッキングを検出するためのノッキング検出方法であって、
前記内燃機関の有する気筒の筒内圧力を複数のクランク角において取得する筒内圧取得ステップと、
前記複数のクランク角における前記気筒の熱発生率をそれぞれ演算する熱発生率演算ステップと、
前記内燃機関の前記気筒の筒内圧力が最大となる筒内圧最大クランク角を取得する筒内圧最大クランク角取得ステップと、
前記筒内圧最大クランク角から第1値だけ小さい小側クランク角と、前記筒内圧最大クランク角より第2値だけ大きい大側クランク角との間の領域となるノック判定クランク角領域を決定するノック判定クランク角領域決定ステップと、
前記ノック判定クランク角領域における前記熱発生率の微分値を算出する熱発生率微分ステップと、
前記熱発生率微分ステップで算出された前記熱発生率の微分値に基づいて、ノッキング判定を行う第1ノッキング判定ステップと、を有する。
【0010】
上記(1)の構成によれば、ノッキング検出装置は、ノック判定クランク角領域における熱発生率に基づいてノッキング判定を行うように構成される。この際、このノック判定クランク角領域は、内燃機関が有する気筒の筒内圧力が最大となるクランク角(筒内圧最大クランク角)を取得し、この筒内圧最大クランク角を基準として定めるよう構成される。このため、筒内圧力から容易に判別可能な筒内圧最大クランク角に基づいて、ノック判定クランク角領域を容易に設定することができる。また、ノッキングが発生したクランク角を確実に含めるように第1値(小側クランク角)および第2値(大側クランク角)を決定することで、ノック判定クランク角領域における熱発生率に基づいて精度良くノッキング判定を行うことができる。
【0011】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記第1値および前記第2値は、それぞれ3度〜7度である。
本発明者らは、鋭意研究により、筒内圧最大クランク角の±3度〜7度の領域における熱発生率の微分値によりノッキング判定を精度よく行うことができることを見出した。よって、上記(2)の構成によれば、筒内圧最大クランク角の3度〜7度の領域をノック判定クランク角領域とすることにより、ノッキング判定精度を高めることができる。
【0012】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(2)の構成において、
前記第1ノッキング判定ステップは、
前記熱発生率微分ステップで算出された前記熱発生率の微分値の最大値となる最大微分熱発生率を取得し、前記最大微分熱発生率が第1ノック判定閾値よりも大きい場合にノッキング有と判定する。
上記(3)の構成によれば、ノック判定クランク角領域における熱発生率の微分値の最大値と閾値とを比較することにより、ノッキング判定を容易に行うことができる。
【0013】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)の構成において、
前記第1ノッキング判定ステップにおいてノッキング有と判定された場合に、前記ノッキングのノッキング強度の強弱を判定するノッキング強度判定ステップを、さらに備え、
前記ノッキング強度判定ステップは、
前記小側クランク角よりも第3値だけ小さいクランク角と前記小側クランク角との間の領域となる基準クランク角領域における、前記熱発生率の微分値の最大値となる基準微分熱発生率を取得する基準微分熱発生率取得ステップと、
前記基準微分熱発生率に対する前記最大微分熱発生率の大きさがノック強度判定閾値よりも大きい場合には前記ノッキング強度が強いと判定し、前記基準微分熱発生率に対する前記最大微分熱発生率の大きさが前記ノック強度判定閾値以下の場合には前記ノッキング強度が弱いと判定するノック強度判定ステップと、を有する。
上記(4)の構成によれば、ノッキング有と判定された際にノッキング強度も判定することができる。これによって、例えば、ノッキング強度の強弱によって点火時期を制御することにより、ノッキングによる内燃機関の損傷を避けながら、内燃機関をできるだけ高効率に運転することができる。
【0014】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(4)の構成において、
前記熱発生率の最大熱発生率が第2ノック判定閾値よりも大きい場合に、ノッキング強度が強い前記ノッキングを検出したと判定する第2ノッキング判定ステップを、さらに備える。
上記(5)の構成によれば、ノッキング強度が強いノッキングを迅速に検出することができる。これによって、内燃機関のノッキングによる損傷のより確実な防止を図ることができる。
【0015】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(5)の構成において、
前記熱発生率演算ステップは、前記筒内圧取得ステップで取得した前記筒内圧力を用いて、前記複数のクランク角におけるそれぞれの前記熱発生率を演算する。
上記(6)の構成によれば、筒内圧力は、筒内圧最大クランク角の取得のために取得される情報であり、熱発生率を取得するためのセンサといった他の構成を用いることなく、筒内圧力を用いて演算することによって、熱発生率を容易に得ることができる。
【0016】
(7)本発明の少なくとも一実施形態に係るノッキング検出装置は、
内燃機関の有する気筒の筒内圧力を検出可能な筒内圧センサと、前記内燃機関のクランク角を検出可能なクランク角センサと、を備えた内燃機関におけるノッキングを検出するためのノッキング検出方法であって、
前記筒内圧センサによって検出された前記筒内圧力を複数の前記クランク角において取得する筒内圧取得部と、
前記複数のクランク角における前記気筒の熱発生率をそれぞれ演算する熱発生率演算部と、
前記内燃機関の前記気筒の筒内圧力が最大となる筒内圧最大クランク角を取得する筒内圧最大クランク角取得部と、
前記筒内圧最大クランク角から第1値だけ小さい小側クランク角と、前記筒内圧最大クランク角より第2値だけ大きい大側クランク角との間の領域となるノック判定クランク角領域を決定するノック判定クランク角領域決定部と、
前記ノック判定クランク角領域における前記熱発生率の微分値を算出する熱発生率微分部と、
前記熱発生率微分部で算出された前記熱発生率の微分値に基づいて、ノッキング判定を行う第1ノッキング判定部と、を備える。
上記(7)の構成によれば、上記(1)と同様に、より精度良く容易にノッキング判定を行うことができる。
【0017】
(8)幾つかの実施形態では、上記(7)の構成において、
前記第1値および前記第2値は、それぞれ3度〜7度である。
上記(8)の構成によれば、上記(2)と同様に、ノッキング判定精度を高めることができる。
【0018】
(9)幾つかの実施形態では、上記(7)〜(8)の構成において、
前記第1ノッキング判定部は、
前記熱発生率微分部で算出された前記熱発生率の微分値の最大値となる最大微分熱発生率を取得し、前記最大微分熱発生率が第1ノック判定閾値よりも大きい場合にノッキング有と判定する。
上記(9)の構成によれば、上記(3)と同様に、ノッキング判定を容易に行うことができる。
【0019】
(10)幾つかの実施形態では、上記(9)の構成において、
前記第1ノッキング判定部においてノッキング有と判定された場合に、前記ノッキングのノッキング強度の強弱を判定するノッキング強度判定部を、さらに備え、
前記ノッキング強度判定部は、
前記小側クランク角よりも第3値だけ小さいクランク角と前記小側クランク角との間の領域となる基準クランク角領域における、前記熱発生率の微分値の最大値となる基準微分熱発生率を取得する基準微分熱発生率取得部と、
前記基準微分熱発生率に対する前記最大微分熱発生率の大きさがノック強度判定閾値よりも大きい場合には前記ノッキング強度が強いと判定し、前記基準微分熱発生率に対する前記最大微分熱発生率の大きさが前記ノック強度判定閾値以下の場合には前記ノッキング強度が弱いと判定するノック強度判定部と、を有する。
上記(10)の構成によれば、上記(4)と同様に、ノッキング有と判定された際にノッキング強度も判定することができる。これによって、ノッキング強度の強弱によって点火時期を制御することにより、ノッキングによる内燃機関の損傷を避けながら、内燃機関をできるだけ高効率に運転することができる。
【0020】
(11)幾つかの実施形態では、上記(7)〜(10)の構成において、
前記熱発生率の最大熱発生率が第2ノック判定閾値よりも大きい場合に、ノッキング強度が強い前記ノッキングを検出したと判定する第2ノッキング判定部を、さらに備える。
上記(11)の構成によれば、上記(5)と同様に、ノッキング強度が強いノッキングを迅速に検出することができる。これによって、内燃機関のノッキングによる損傷のより確実な防止を図ることができる。
【0021】
(12)幾つかの実施形態では、上記(7)〜(11)の構成において、
前記熱発生率演算部は、前記筒内圧取得部で取得した前記筒内圧力を用いて、前記複数のクランク角におけるそれぞれの前記熱発生率を演算する。
上記(12)の構成によれば、上記(6)と同様に、熱発生率を取得するためのセンサといった他の構成を用いることなく、熱発生率を容易に得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、内燃機関の筒内の熱発生率に基づいて、より容易に精度良くノッキングを検出可能なノッキング検出方が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に係るノッキング検出方法を実行するノッキング検出装置1を備える内燃機関2の構成を概略的に示す図である。また、
図2は、本発明の一実施形態に係るノッキング検出装置1の構成を示す機能ブロック図である。
【0026】
まず、
図1〜
図2に示される内燃機関2について説明すると、内燃機関は、シリンダ21(気筒)と、シリンダ21内を往復運動するピストン22を備えている。ピストン22は、コンロッド23を介してクランク軸24(クランクシャフト)に機械的に接続されており、ピストン22の上面とシリンダ21の容積部分とによって画される空間が燃焼室25となる。通常、内燃機関2は複数の気筒(シリンダ21)を備えており、上述した筒内圧センサ3はシリンダ21毎に設けられて、シリンダ21毎に筒内圧力Pを検出する。なお、
図1では、1つのシリンダ21が示されているが、シリンダ21の数は1以上であれば良く、単気筒エンジン、多気筒エンジンであっても良い。また、内燃機関2は、ガスエンジンやガソリンエンジン等であっても良い。
【0027】
また、シリンダ21には、燃焼室25に空気と燃料の混合気を供給するための給気配管26、燃焼室25から燃焼ガス(排ガス)を排出するための排気配管27とが接続されている。また、上記の給気配管26には、給気配管26の上流側から燃焼室25に向けて流れてくる空気と燃料ガスとを混合するためのミキサ29が設けられており、燃料ガスは、燃料調節弁29vによって燃料供給量が調節されながら、ミキサ29に接続された燃料供給管29fからミキサ29に供給されるようになっている。また、燃焼室25と給気配管26との連通状態を制御する給気弁26vと、燃焼室25と排気配管27との連通状態を制御する排気弁27vと、点火プラグ28とが燃焼室25に設けられている。なお、
図1に示されるように、燃焼室25は、内部に点火プラグ28が設けられる副室25aと、副室25aと噴孔25cを介して連通されている主室25bとを備えていても良い。この場合には、副室25a内にトーチ生成用として供給された少量の燃料ガスが点火プラグにより直接点火され、この副室25a内の点火によって噴孔25cから吹き出すトーチによって、上記の主室25bに存在する混合気が点火される。
【0028】
また、
図1〜
図2に示される実施形態では、図示されるように、内燃機関2は、内燃機関2の有する気筒の筒内圧力Pを検出可能な筒内圧センサ3と、内燃機関のクランク軸24のクランク角θ(以下、単に、クランク角θという)を検出可能なクランク角センサ4と、を備えている。クランク角センサ4は、クランク軸24に設けられることにより、クランク軸24の位相角度を検出し、現在のクランク角位相を表す信号(クランク角位相信号)をノッキング検出装置1に出力する。他方、上記の筒内圧センサ3は、シリンダ21に設けられることにより、検出した燃焼室35内部の圧力を表す信号(筒内圧信号)をノッキング検出装置1に出力する。
【0029】
次に、本発明の一実施形態に係るノッキング検出装置1を、
図2〜
図5を用いて説明する。ノッキング検出装置1は、単位クランク角あたりの熱発生量(Q)である熱発生率(dQ/dθ)。以下、単に、熱発生率をQ´とする)を内燃機関2の気筒毎に求め、熱発生率Q´に基づいてノッキング判定することにより、ノッキングを検出する。なお、以下では、熱発生率Q´は、内燃機関2の気筒の筒内圧力Pを用いて演算するものとして説明する。
【0030】
幾つかの実施形態では、
図2に示されるように、ノッキング検出装置1は、筒内圧取得部11と、熱発生率演算部12と、筒内圧最大クランク角取得部13と、ノック判定クランク角領域決定部14と、熱発生率微分部15と、第1ノッキング判定部16と、を備える。ノッキング検出装置1は、ECU(電子制御装置)などのコンピュータで構成されており、図示しないCPU(プロセッサ)や、ROMやRAMといったメモリ(記憶装置)を備えている。そして、主記憶装置にロードされたプログラムの命令に従ってCPUが動作(データの演算など)することで、上記のようなノッキング検出装置1の各機能部を実現する。
【0031】
なお、
図1〜
図2に示される実施形態では、ノッキング検出装置1は、内燃機関2の点火時期を制御する点火時期制御装置7と通信可能に設けられており、ノッキングの検出結果を点火時期制御装置7に向けて出力するよう構成されている。また、点火時期制御装置7は、ノッキング検出装置1からノッキングの検出した旨の信号が入力されると、点火プラグ28による点火時期を遅角側へ制御するよう構成されている。
以下、上述したノッキング検出装置1が備える上記の構成をそれぞれ説明する。
【0032】
筒内圧取得部11は、筒内圧センサ3によって検出された筒内圧力Pを複数のクランク角θにおいて取得する。クランク角θは、例えば、シリンダ21のピストン22の上死点を基準(0度)とし、この基準からの内燃機関2の回転角度となる。
図1〜
図2に示される実施形態では、筒内圧取得部11は、筒内圧センサ3およびクランク角センサ4にそれぞれ接続されることにより、筒内圧信号およびクランク角位相信号が入力されている。そして、筒内圧取得部11は、内燃機関2の燃焼サイクルにおいて発生したノッキングによる信号が含まれる可能性のあるクランク角θの領域(後述するノック判定クランク角領域Rj)を含む領域(監視クランク角領域R)における筒内圧力P(データ)を読み込んでいる(取得している)。例えば、上死点をクランク角θの基準(0°)とした際に、燃焼行程における上死点から−30〜−60度における所定のクランク角度θを監視クランク角領域Rの下限クランク角とし、一方、上死点から+30度〜+60度における所定のクランク角度θを監視クランク角領域Rの上限クランク角として設定しても良い(下限クランク角≦監視クランク角領域R≦上限クランク角)。ただし、この実施形態に本発明は限定されず、他の幾つかの実施形態では、監視クランク角領域Rは、内燃機関2の燃焼サイクルの全領域であっても良い。クランク角θが進むにつれて筒内圧力Pは変動するが、これによって、クランク角θと筒内圧力Pとの関係を示す筒内圧変動曲線Cp(後述する
図4参照)が得られる。
そして、筒内圧取得部11は、取得したクランク角θと筒内圧力Pとの関係(筒内圧変動曲線Cp)を、次に説明する熱発生率演算部12および筒内圧最大クランク角取得部13に出力するように構成されている。
【0033】
熱発生率演算部12は、筒内圧取得部11が取得した上記の複数のクランク角における気筒の熱発生率Q´をそれぞれ演算する。周知のように、筒内圧力Pは、燃焼室25内における混合気の燃焼により発生する熱発生量Qと相関関係があり、筒内圧力Pから熱発生率Q´を求めることができる。
図1〜
図2に示される実施形態では、熱発生率演算部12は筒内圧取得部11に接続されている。そして、熱発生率演算部12は、例えば1度などの所定のクランク角θの間隔で熱発生率Q´を演算している。これによって、クランク角θと熱発生率Q´との関係を示す熱発生率変動曲線Cq(後述する
図5参照)が得られる。なお、他の幾つかの実施形態では、熱発生率演算部12は、後述するノック判定クランク角領域決定部14に接続されることで、ノック判定クランク角領域Rj(後述)における熱発生率Q´のみを演算するように構成しても良い。
【0034】
筒内圧最大クランク角取得部13は、内燃機関2の気筒の筒内圧力Pが最大となる筒内圧最大クランク角θmaxを取得する。
図1〜
図2に示される実施形態では、筒内圧最大クランク角取得部13は筒内圧取得部11に接続されている。そして、筒内圧最大クランク角取得部13は、筒内圧取得部11から入力された複数のクランク角θにおける筒内圧力P(筒内圧変動曲線Cp)の最大値Pmaxを判定し、その筒内圧力Pの最大値Pmaxを与えるクランク角度θを筒内圧最大クランク角θmaxとして取得している。
【0035】
ノック判定クランク角領域決定部14は、筒内圧最大クランク角θmaxから第1値R1だけ小さい小側クランク角θsと、筒内圧最大クランク角θmaxより第2値R2だけ大きい大側クランク角θbとの間の領域となるノック判定クランク角領域Rjを決定する。つまり、ノック判定クランク角領域Rjは筒内圧最大クランク角θmaxを基準に決定されるクランク角θの領域である。
図1〜
図2に示される実施形態では、ノック判定クランク角領域決定部14は、筒内圧最大クランク角取得部13に接続されている。そして、ノック判定クランク角領域決定部14は、筒内圧最大クランク角取得部13から入力された筒内圧最大クランク角θmaxから第1値R1を減算することにより小側クランク角θsを算出し、また、筒内圧最大クランク角θmaxに第2値R2を加算することにより大側クランク角θbを算出し、ノック判定クランク角領域Rjを決定している(θs≦Rj≦θθb)。
【0036】
そして、ノッキング判定は、次に説明するよう熱発生率微分部15および第1ノッキング判定部16がノック判定クランク角領域Rjを解析することにより行われる。
熱発生率微分部15は、ノック判定クランク角領域Rjにおける熱発生率Q´の微分値(d(dQ/dθ)/dθ)を算出する。換言すれば、熱発生率Q´の傾き量を算出する。
図1〜
図2に示される実施形態では、熱発生率微分部15は、熱発生率演算部12およびノック判定クランク角領域決定部14にそれぞれ接続されている。そして、熱発生率微分部15は、熱発生率演算部12から入力された熱発生率Q´であって、ノック判定クランク角領域決定部14から入力されたノック判定クランク角領域Rjにある熱発生率Q´を微分している。これによって、ノック判定クランク角領域Rjにおける、クランク角θと熱発生率Q´の微分値との関係を示す熱発生率微分曲線Cqd(後述する
図6参照)が得られる。
【0037】
また、第1ノッキング判定部16は、熱発生率微分部15で算出されたノック判定クランク角領域Rjにおける熱発生率Q´の微分値に基づいて、ノッキング判定を行う。
図1〜
図2に示される実施形態では、第1ノッキング判定部16は、熱発生率微分部15に接続されており、クランク角θと熱発生率Q´の微分値との関係(熱発生率微分曲線Cqd)が入力されている。より詳細には、
図1〜
図2に示される実施形態では、第1ノッキング判定部16は、熱発生率微分部15で算出された熱発生率Q´の微分値の最大値となる最大微分熱発生率を取得し、この最大微分熱発生率が第1ノック判定閾値Dthよりも大きい場合にノッキング有と判定するよう構成されている。このようにノック判定クランク角領域Rjにおける熱発生率Q´の微分値の最大値と閾値(第1ノック判定閾値Dth)とを比較することにより、ノッキング判定の容易な実行を可能としている。
【0038】
次に、上述した構成を備えるノッキング検出装置1などによって実行されるノッキング検出方法を、
図3〜
図6を用いて説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係るノッキング検出方法を示すフロー図である。
図4は、本発明の一実施形態に係る内燃機関2の気筒(シリンダ21)における筒内圧変動曲線Cpを例示する図である。
図5は、
図4の筒内圧変動曲線Cpに基づいて得られる熱発生率変動曲線Cqを示す図である。また、
図5は、
図5の熱発生率変動曲線Cqを微分した熱発生率微分曲線Cqdを示す図である。
図3に示されるように、ノッキング検出方法は、内燃機関2におけるノッキングを検出するためのノッキング検出方法であって、筒内圧取得ステップ(S1)と、熱発生率演算ステップ(S2)と、筒内圧最大クランク角取得ステップ(S3)と、ノック判定クランク角領域決定ステップ(S4)と、熱発生率微分ステップ(S5)と、第1ノッキング判定ステップ(S6)と、を備える。
以下、上述した各ステップを、
図3に示すフローの実行ステップ順に説明する。
【0039】
図3のステップS1において筒内圧取得ステップが実行される。本ステップは、上述した筒内圧取得部11の処理に相当する内容を実行するステップであり、この筒内圧取得ステップ(S1)によって、例えば上述した筒内圧センサ3やクランク角センサ4を用いて、内燃機関2の有する気筒の筒内圧力Pを複数のクランク角θにおいて取得する。そして、本ステップを実行することにより、
図4に示されるような筒内圧変動曲線Cpが取得される。
図4には、破線によって示されるノッキングが発生していない場合となる正常時の筒内圧変動曲線Cp(n)と、太実線によって示される内燃機関2の損傷を引き起こす可能性が高くなるような強いノッキングが発生している場合となるノッキング強時の筒内圧変動曲線Cp(s)と、細実線によって示される上記の強いノッキングよりも弱いノッキングが発生している場合となるノッキング弱時の筒内圧変動曲線Cp(w)の3種類が例示されている。
【0040】
ステップS2において熱発生率演算ステップが実行される。本ステップは、上述した熱発生率演算部12の処理に相当する内容を行うステップであり、この熱発生率演算ステップ(S2)によって、複数のクランク角における気筒の熱発生率Q´をそれぞれ演算する。そして、本ステップを実行することにより、
図5に示されるような熱発生率変動曲線Cqが取得される。
図5の熱発生率変動曲線Cqが示すように、燃焼の1サイクル中において熱発生率Q´は上下に何度も変化するものであり、3つの熱発生率変動曲線Cqの各々には、点火プラグ28の点火で生じる燃焼による熱発生率Q´のピーク(1つ目のピーク)が現れる。これと共に、ノッキングが発生した場合には、この1つ目のピークの後のクランク角θにおいて、ノッキングにより発生する2つ目の熱発生率Q´のピークが現れる。また、この2つ目の熱発生率Q´のピーク値は、ノッキング強度が強いほど大きくなる傾向を示す。
図3に示される実施形態では、筒内圧取得ステップ(S1)で取得した筒内圧力Pを用いて、監視クランク角領域Rにおける熱発生率Q´を複数のクランク角θにおいてそれぞれ演算している。
【0041】
ステップS3において筒内圧最大クランク角取得ステップが実行される。本ステップは、上述した筒内圧最大クランク角取得部13の処理に相当する内容を行うステップであり、この筒内圧最大クランク角取得ステップ(S3)によって、内燃機関2の気筒の筒内圧力Pが最大となる筒内圧最大クランク角θmaxを取得する。
図3に示される実施形態では、筒内圧取得ステップ(S2)で取得した監視クランク角領域Rにおける筒内圧最大クランク角θmaxを取得している。
図4の例示では、筒内圧力Pの最大値(Pmax)は、正常時(Cp(n)のPmax)、ノッキング弱時(Cp(w)のPmax)、ノッキング強時(Cp(s)のPmax)の順で大きくなっており、これらの各々の筒内圧力Pの最大値に対応するクランク角θ(筒内圧最大クランク角θmax)は、正常時ではθmn、ノッキング弱時ではθmw、ノッキング強時ではθmsとなっている。
【0042】
ステップS4においてノック判定クランク角領域決定ステップが実行される。本ステップは、上述したノック判定クランク角領域決定部14の処理に相当する内容を行うステップであり、このノック判定クランク角領域決定ステップ(S4)によって、上述したノック判定クランク角領域Rjを決定する。つまり、ノック判定クランク角領域Rjは、θmax−第1値R1とθmax+第2値R2との間の領域となる(θmax−R1≦Rj≦θmax+R2)。
図4の例示では、ノック判定クランク角領域Rjは、正常時ではθmn−R1≦Rj(Cp(n))≦θmn+R2、ノッキング弱時ではθmw−R1≦Rj(Cp(w))≦θmw+R2、ノッキング強時ではθms−R1≦Rj(Cp(s))≦θms+R2となる。(
図4参照)。
【0043】
ステップS5において熱発生率微分ステップが実行される。本ステップは、上述した熱発生率微分部15の処理に相当する内容を行うステップであり、この熱発生率微分ステップ(S5)によって、ノック判定クランク角領域Rjにおける熱発生率Q´の微分値を算出する。すなわち、
図5に示される熱発生率変動曲線Cqから、
図6に示される熱発生率微分曲線Cqdが得られる。
図6には、
図4〜
図5に合わせて、上述した破線によって示される正常時の熱発生率微分曲線Cqd(n)と、太実線によって示されるノッキング強時の熱発生率微分曲線Cqd(s)と、細実線によって示されるノッキング弱時の熱発生率微分曲線Cqd(w)の3種類が例示されている。当然のことながら、熱発生率微分曲線Cqd(
図6)は、熱発生率変動曲線Cq(
図5)と同様に、燃焼の1サイクル中において上下に何度も変化する。
図6の例示では、3つの熱発生率微分曲線Cqdの各々は、燃焼開始時以降から熱発生率Q´の変化(傾き)が、燃焼開始時以前に比べてより大きくなる点で共通している。また、この熱発生率Q´の変化は、ノッキング強時の方がノッキング弱時に比べて大きくなっている。
【0044】
ステップS6(S6a、S6b、S6y、S6n)において第1ノッキング判定ステップが実行される。本ステップは、上述した第1ノッキング判定部16の処理に相当する内容を行うステップであり、この第1ノッキング判定ステップ(S6)によって、熱発生率微分ステップ(S5)で算出された熱発生率Q´の微分値に基づいて、ノッキング判定を行う。
図3に示される実施形態では、ステップS6aにおいて、熱発生率微分ステップ(S5)で算出された熱発生率Q´の微分値の最大値となる最大微分熱発生率Dmaxを取得する。そして、ステップS6bにおいて、最大微分熱発生率Dmaxと第1ノック判定閾値Dthとを比較する。そして、この比較の結果、最大微分熱発生率Dmaxが第1ノック判定閾値Dthよりも大きい場合には、ステップS6yにおいてノッキング有と判定している。逆に、ステップS6bにおける比較の結果、最大微分熱発生率Dmaxが第1ノック判定閾値Dth以下の場合には、ステップS6nにおいてノッキング無と判定する。
【0045】
図6の例示では、クランク角θのノック判定クランク角領域Rjにおける最大微分熱発生率Dmaxは、破線によって示される正常時ではD3であり、細実線によって示されるノッキング弱時ではD2であり、太実線によって示されるノッキング強時ではD1となっている。また、D1はD2よりも大きく、D2はD3よりも大きい(D1>D2>D3)。そして、上記の第1ノック判定閾値Dthは、D1およびD2よりも小さく、D3よりも大きい値に設定されている。このため、最大微分熱発生率DmaxがそれぞれD1およびD2となる熱発生率微分曲線Cqd(s)(ノッキング強時)およびCqd(w)(ノッキング弱時)について、ノッキング有と判定されることになる。逆に、最大微分熱発生率DmaxがD3となる熱発生率微分曲線Cqd(n)(正常時)については、ノッキング無と判定されることになる。
【0046】
以上、本発明の一実施形態に係るノッキング検出装置1およびノッキング検出方法をそれぞれ説明した。上記の構成によれば、ノッキング検出装置1は、ノック判定クランク角領域Rjにおける熱発生率Q´に基づいてノッキング判定を行うように構成される。この際、このノック判定クランク角領域Rjは、内燃機関2が有する気筒の筒内圧力Pが最大となるクランク角θ(筒内圧最大クランク角θmax)を取得し、この筒内圧最大クランク角θmaxを基準として定めるよう構成される。このため、筒内圧力Pから容易に判別可能な筒内圧最大クランク角θmaxに基づいて、ノック判定クランク角領域Rjを容易に設定することができる。また、ノッキングが発生したクランク角θを確実に含めるように第1値R1(小側クランク角θs)および第2値R2(大側クランク角θb)を決定することで、ノック判定クランク角領域Rjにおける熱発生率Q´に基づいて精度良くノッキング判定を行うことができる。
【0047】
また、幾つかの実施形態では、ノック判定クランク角領域Rjを画定する第1値R1および第2値R2は、それぞれ3度〜7度である。好ましくは、第1値R1および第2値R2は、それぞれ4度〜6度の範囲、特に好ましくは5度である。例えば、第1値R1および第2値R2をそれぞれ5度とした場合には、ノック判定クランク角領域Rjは、クランク角θがθmax−5度とθmax+5度の間の領域となる(θmax−5度≦Rj≦θmax+5度)。
図4の例示では、筒内圧最大クランク角θmaxは、正常時の筒内圧変動曲線Cp(n)でθmn、ノッキング強時の筒内圧変動曲線Cp(s)でθms、ノッキング弱時の筒内圧変動曲線Cp(w)でθmwとなっており、このため、ノック判定クランク角領域Rjは、それぞれ、正常時ではθmm−5度≦Rj(Cp(n))≦θmn+5度、ノッキング強時ではθm−5度≦Rj(Cp(s))≦θms+5度、ノッキング弱時ではθmw−5度≦Rj(Cp(w))≦θmw+5度となる。なお、第1値R1および第2値R2は同じ5度として説明したが、第1値R1および第2値R2は、それぞれ異なる値であっても良い。
【0048】
上述したノック判定クランク角領域Rjは、発明者らの鋭意研究によって、筒内圧最大クランク角θmaxの±3度〜7度の領域における熱発生率Q´の微分値によりノッキング判定を精度よく行うことができることを見出されたクランク角θの領域となる。よって、上記の構成によれば、筒内圧最大クランク角θmaxの±3度〜7度(好ましくは±4度〜6度、特に好ましくは5度)の領域をノック判定クランク角領域Rjとすることにより、ノッキング判定精度を高めることができる。
【0049】
幾つかの実施形態では、
図2(後述する
図7も同様)に示されるように、ノッキング検出装置1は、第1第1ノッキング判定部16においてノッキング有と判定された場合に、検出したノッキングのノッキング強度の強弱を判定するノッキング強度判定部17を、さらに備えても良い。このノッキング強度判定部17は、上述した小側クランク角θsよりも第3値R3だけ小さいクランク角θと小側クランク角θsとの間の領域となる基準クランク角領域Rbにおいて熱発生率Q´の微分値の最大値となる基準微分熱発生率Q´bを取得する基準微分熱発生率取得部17aと、基準微分熱発生率Q´bに対する最大微分熱発生率Dmaxの大きさがノック強度判定閾値Lよりも大きい場合にはノッキング強度が強いと判定し、基準微分熱発生率Q´bに対する最大微分熱発生率Dmaxの大きさがノック強度判定閾値L以下の場合にはノッキング強度が弱いと判定するノック強度判定部17bと、を有する。つまり、上記の基準クランク角領域Rbは、ノック判定クランク角領域Rjのクランク角θの小さい側(
図6では、筒内圧最大クランク角θmaxから見てクランク角θが0度の側)に隣接しており、ノッキングの発生により熱発生率Q´の微分値が大きく変化する前にある、熱発生率Q´の微分値の変化が比較的小さい領域となっている。そして、最大微分熱発生率Dmax÷基準微分熱発生率Q´bと、ノック強度判定閾値Lとの比較に基づいて、ノッキングの強弱を判定するようになっている。
【0050】
この実施形態に対応するノッキング検出方法を説明する。
図3(後述する
図8も同様)に示されるように、ノッキング検出方法は、上述した第1ノッキング判定ステップにおいてノッキング有と判定された場合(ステップS6y)に、このノッキング有と判定されたノッキングのノッキング強度の強弱を判定するノッキング強度判定ステップ(S7)を、さらに備える。より詳細には、上記のノッキング強度判定ステップ(S7)は、上述した小側クランク角θsよりも第3値R3だけ小さいクランク角θと小側クランク角θsとの間の領域となる基準クランク角領域Rbにおける、熱発生率Q´の微分値の最大値となる基準微分熱発生率Q´bを取得する基準微分熱発生率取得ステップ(S7a)と、基準微分熱発生率Q´bに対する最大微分熱発生率Dmaxの大きさがノック強度判定閾値Lよりも大きい場合にはノッキング強度が強いと判定し、基準微分熱発生率Q´bに対する最大微分熱発生率Dmaxの大きさがノック強度判定閾値L以下の場合にはノッキング強度が弱いと判定するノック強度判定ステップ(S7b、S7y、S7n)と、を有する。上記の基準微分熱発生率取得ステップ(S7a)は、上述した基準微分熱発生率取得部17aの処理に相当する内容を行うステップである。一方、ノッキング強度判定ステップ(S7b、S7y、S7n)は、上述したノック強度判定部17bの処理に相当する内容を行うステップである。
【0051】
図3のフローに従ってノッキング強度判定ステップ(S7)について説明すると、上述したステップS6yに続いて、ノッキング強度判定ステップ(S7)が実行される。すなわち、ステップS7aにおいて基準微分熱発生率取得ステップが実行され、次のステップS7bにおいて、基準微分熱発生率Q´bに対する最大微分熱発生率Dmaxの大きさ(Dmax÷Q´b)と、ノック強度判定閾値Lとを比較する。そして、ステップS7bでの比較結果がYesであれば(Dmax÷Q´b>L)、ステップS7yにおいてノッキング強度が強いと判定する。逆に、ステップS7bでの比較の結果がNoであれば(Dmax÷Q´b≦L)、ステップS7nにおいてノッキング強度が弱いと判定する。
【0052】
図1〜
図3に示される実施形態では、第3値R3は15度となっている。また、
図6の例示では、ノッキング強時およびノッキング弱時の両方において、基準微分熱発生率Q´bはそれぞれD4となっている。そして、最大微分熱発生率Dmax÷Q´bとノック強度判定閾値Lを比較した結果、ノッキング強時では、D1÷D4>Lが成立することにより、ノッキング強度が強いと判定され、ノッキング弱時では、D2÷D4≦Lが成立することにより、ノッキング強度が弱いと判定される。
【0053】
なお、
図3に示される実施形態では、ステップS7yにおいてノッキング強度が強いと判定すると、引き続くステップS8において、例えば点火時期を遅くするなどの点火時期の見直しを即座に行っている。これは、強いノッキングによる内燃機関2の損傷を速やかに防止するためとなる。逆に、ステップS7nにおいてノッキング強度が弱いと判定すると、引き続くステップS9において、例えば点火時期を遅くするなどの点火時期の見直しを即座に行っても良いし、あるいは、所定回数の燃焼サイクルだけ
図3のステップS1〜S7bを繰り返した後、その結果に基づいて、例えば点火時期を遅くするなどの点火時期の見直しを行っても良い。これは、内燃機関2は各燃焼サイクルにおける点火タイミングが早いほど高効率となるため、強度の弱いノッキングの検出の頻度や連続性などを考慮して点火時期の見直し等を行うためであり、内燃機関2の高効率運転を可能な限り優先するためとなる。
【0054】
上記の構成によれば、ノッキング有と判定された際にノッキング強度も判定することができる。これによって、例えば、ノッキング強度の強弱によって点火時期を制御することにより、ノッキングによる内燃機関2の損傷を避けながら、内燃機関2をできるだけ高効率に運転することができる。
【0055】
次に、ノッキング判定や強度判定の他の幾つかの実施形態について、
図7〜
図8を用いて説明する。
図7は、本発明の一実施形態に係るノッキング検出装置の構成を示す機能ブロック図であり、ノッキング検出装置1は第2ノッキング判定部18をさらに備える。また、
図8は、本発明の一実施形態に係るノッキング検出方法を示すフロー図であり、ノッキング判定方法は第2ノッキング判定ステップをさらに備える。なお、
図7〜
図8には、それぞれ
図2〜
図3と対応した機能部あるいは方法ステップがあるが、同一の符号で示されたものについて、重複する内容については説明を省略する。
【0056】
図1〜
図3に示される実施形態では、熱発生率Q´の微分値に基づいてノッキング判定や強度判定を実行している。他の幾つかの実施形態では、
図7〜
図8に示されるように、ノッキング判定や強度判定を熱発生率Q´に基づいて実行しても良い。これは、
図5に示されるように、熱発生率Q´の最大値が過大となる場合には強いノッキングが発生している可能性が高く、熱発生率Q´の微分値の演算を行うことなく、熱発生率Q´を用いてノッキングの判定をより迅速に行うことが可能となる。
【0057】
具体的には、
図7に示されるように、ノッキング検出装置1は、最大熱発生率Q´maxが第2ノック判定閾値Lqよりも大きい場合に、ノッキング強度が強いノッキングを検出したと判定する第2ノッキング判定部18を、さらに備える。
図7に示される実施形態では、第2ノッキング判定部18は、前述した第1ノッキング判定部16の前段に設けられている。より詳細には、第2ノッキング判定部18は、熱発生率演算部12およびノック判定クランク角領域決定部14にそれぞれ接続されており、ノック判定クランク角領域Rjにおける熱発生率Q´の最大値と第2ノック判定閾値Lqとを比較することでノッキング判定を行っている。また、第2ノッキング判定部18においてノッキング(強)有が判定されると、第1ノッキング判定部16による判定結果を待たずに、点火時期制御装置7に対してその旨を通知するように構成されている。逆に、第2ノッキング判定部18においてノッキング(強)有と判定されない場合には、第1ノッキング判定部16よるノッキング判定が行われることになる。
【0058】
ただし、他の幾つかの実施形態では、第1ノッキング判定部16および第2ノッキング判定部18に対して熱発生率演算部12およびノック判定クランク角領域決定部14にそれぞれ接続されても良く、第1ノッキング判定部16および第2ノッキング判定部18の各々による処理が並列して行われても良い。この場合には、ノッキング検出装置1は、いずれか一方の機能部(16、18)がノッキング有と判定すれば、ノッキングが検出されたものとして点火時期制御装置7に対してその旨を通知する。また、ノッキング検出装置1は、両機能部(17、18)のいずれか一方がノッキング強と判定すれば、強いノッキングが発生したと判定する。
【0059】
本実施形態に対応するノッキング検出方法を、
図8を用いて説明する。
図8に示されるように、ノッキング検出方法は、最大熱発生率Q´maxが第2ノック判定閾値Lqよりも大きい場合に、ノッキング強度が強いノッキングを検出したと判定する第2ノッキング判定ステップ(S4−2:S4a〜S4c)を、さらに備える。本ステップは、上述した第2ノッキング判定部18の処理に相当する内容を行うステップであり、この第2ノッキング判定ステップ(S4−2)によって、最大熱発生率Q´maxが第2ノック判定閾値Lqよりも大きい場合に、ノッキング強度が強いノッキングを検出したと判定する。
【0060】
図8のフローに沿って順に説明すると、
図8のステップS1〜ステップS4までは
図2と同じであり、
図2のステップS4とステップS5の間に挿入されるように、第2ノッキング判定ステップ(S4−2)が実行される。より詳細には、ステップS4aにおいて、ノック判定クランク角領域Rjにおける最大熱発生率Q´maxを取得する。そして、次のステップS4bにおいて、最大熱発生率Q´maxと第2ノック判定閾値Lqとを比較する。そして、ステップS4bでの比較の結果、最大熱発生率Q´maxが第2ノック判定閾値Lqよりも大きい場合には(Q´max>Lq)、ステップS4cにおいて、ノッキング強度が強いノッキングを検出したと判定する。逆に、ステップS4bでの比較の結果、最大熱発生率Q´maxが第2ノック判定閾値Lq以下の場合には(Q´max≦Lq)、第2ノッキング判定ステップにおいてノッキング強度が強いノッキングが検出されなかったものとして、以降のステップを実行する。すなわち、上述したステップS5で熱発生率微分ステップ、ステップS6で第1ノッキング判定ステップ(
図3のS6a、S6b、S6y、S6n)を実行する。その後、
図8に図示されない点火時期設定の見直し等(
図3のステップS8やステップS9)が行われても良い。なお、
図8に示される実施形態では、ステップS6の後のステップS7においてノッキング強度判定ステップが実行されているが、これには限定されず、他の幾つかの実施形態では、ノッキング強度判定ステップはなくても良い。
【0061】
図5の例示では、太実線で示される熱発生率変動曲線Cq(s)については、ノック判定クランク角領域Rjにおける熱発生率Q´の最大熱発生率Q´maxは2つ目のピークのピーク値であり、この2つ目のピークのピーク値は第2ノック判定閾値Lqを超えている。このため、Q´max>Lqの関係が成立し、ノッキング強度が強いノッキングを検出したと判定される。他方、細実線で示される熱発生率変動曲線Cq(w)については、ノック判定クランク角領域Rjにおける熱発生率Q´の最大熱発生率Q´maxも2つ目のピークのピーク値であるが、この2つ目のピークのピーク値は第2ノック判定閾値Lqを下回っている。このため、Q´max≦Lqの関係が成立し、ノッキング強度が強いノッキングが検出したとは判定されない。同様に、破線で示される熱発生率変動曲線Cq(n)については、ノック判定クランク角領域Rjにおける熱発生率Q´の最大熱発生率Q´maxは1つめのピークのピーク値であり、この1つ目のピークのピーク値も第2ノック判定閾値Lqを下回っている。このため、Q´max≦Lqの関係が成立し、ノッキング強度が強いノッキングが検出したとは判定されない。
【0062】
なお、上述した
図7〜
図8に示される実施形態では、最大熱発生率Q´maxはノック判定クランク角領域Rjに属しているものとして説明したが、他の幾つかの実施形態では、ノック判定クランク角領域Rjに限らず、燃焼サイクルの全クランク角θから最大熱発生率Q´maxを求めても良い。
【0063】
上記の構成によれば、ノッキング強度が強いノッキングを迅速に検出することができる。これによって、内燃機関2のノッキングによる損傷のより確実な防止を図ることができる。
【0064】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
例えば、上述した実施形態では、内燃機関2の気筒の筒内圧力Pを用いて、熱発生率Q´を演算しているが、他の幾つかの実施形態では、例えば、熱発生量Qを直接検出することにより熱発生率Q´を取得しても良いし、燃焼時の光の強度などの熱発生率Q´と関連がある他の物理量を用いて熱発生率Q´を演算しても良い。