【文献】
International Journal of Pharmaceutics,2012年,431,p.210-221
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ヒトラクトフェリン由来ペプチドが、配列番号1によるアミノ酸配列KCFQWQRNMRKVRGPPVSCIKR又は8個を超えるアミノ酸位置が配列番号1と異なっていない配列を有するペプチドである、請求項1から3までのいずれか1項に記載のナノ粒子。
請求項1から5までのいずれか1項に記載のナノ粒子の製造方法であって、その上に活性成分コーティングb)を有するリン酸カルシウムナノ粒子コアa)を、カルシウムイオンを含む水溶液とリン酸イオンを含む水溶液とを混合することによって調製し、ここで活性成分を添加して、水中油中水型(W1/O/W2)エマルションの内部水相(W1)として使用される活性成分コーティングb)を有するリン酸カルシウムナノ粒子コアa)を生じさせ、ポリマーコーティングc)のための乳酸ポリマーを有機溶液中で水相(W1)に添加して油中水型エマルション(W1/O)を生じさせ、油中水型エマルション(W1/O)を更なる水相(W2)に添加して水中油中水型エマルション(W1/O/W2)を生じさせ、有機溶媒を除去して第1の分散液を生じさせ、第1の分散液の固形分を集めて水に再分散させ、且つ乾燥させて固体粒子を生じさせ、乾燥した固体粒子を水に再分散させ、且つカチオン性ポリマーコーティングd)のためのカチオン性ポリマーを撹拌下で添加して固形分としてナノ粒子を含む第2の分散液を生じさせ、第2の分散液の固形分を遠心分離又は接線流濾過によって集め、再分散又は乾燥させてナノ粒子を含む水性分散液又は乾燥調製物を得る、前記製造方法。
【技術分野】
【0001】
発明の属する技術分野
本出願は、活性成分を生きた哺乳動物細胞に送達するための、リン酸カルシウム−乳酸ポリマー−ナノ粒子、それぞれの複合ナノ粒子に関する。
【0002】
技術的な背景
乳酸ポリマー、例えばポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)コポリマー(PLGA)は、生分解性ポリマーであり、例えば欧州特許第1468035号明細書(EP1468035)、米国特許第6706854号明細書(US6706854)、国際公開第2007/009919号(WO2007/009919A2)、欧州特許出願公開第1907023号明細書(EP1907023A)、欧州特許出願公開第2263707号明細書(EP2263707A)、欧州特許第2147036号明細書(EP2147036)、欧州特許第0427185号明細書(EP0427185)又は米国特許第5610266号明細書(US5610266)からよく知られている。
【0003】
米国特許出願公開第2005/0053590号明細書(US 2005/0053590A1)は、内皮機能障害を回復させるための内皮標的ナノ粒子を記載している。細胞機能障害を改善する方法は、内皮細胞及び核酸に特異的に結合する標的リガンドを含む機能不全内皮細胞を特異的に標的とする組成物を提供する工程、及び前記組成物を、細胞内テトラヒドロビオプテリン濃度を上昇させる条件下で細胞に送達する工程を含む。本組成物は、ポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)(PLGA)又はそこに記載された異なるナノ粒子タイプの組み合わせから配合されたリン酸カルシウムナノ粒子及び生分解性ナノ粒子を含む適切なタイプのナノ粒子の長いリストから選択されるナノ粒子を更に含み得る。
【0004】
国際公開第2007/048599号(WO 2007/048599)は、生物学的障壁を通って輸送するための少なくとも1つのシグナル物質と少なくとも1つの活性成分が含まれ、ここで担体、シグナル物質及び活性成分が互いに共有結合を示さないことを特徴とする、ポリマー担体に基づく粒状薬物送達システムを記載している。シグナル物質(細胞透過性ペプチド(CPP))は、ラクトフェリン又はラクトフェリン由来のペプチドである。
【0005】
特に好ましい実施態様では、以下のアミノ酸配列:
KCFQWQRNMRKVRGPPVSCIKR(配列番号1(=国際公開第2007/048599号(WO 2007/048599)中では配列番号3))、
CFQWQRNMRKVRGPPVSC(配列番号2(=国際公開第2007/048599号(WO2007/048599)中では配列番号4))、
FQWQRNMRKVRGPPVS(配列番号3(=国際公開第2007/048599号(WO 2007/048599)中では配列番号5))、
FQWQRNMRKVR(配列番号4(=国際公開第2007/048599号(WO 2007/048599)中では配列番号6))、
KCRRWQWRMKKLGAPSITCVRR(配列番号5(=国際公開第2007/048599号(WO 2007/048599)中では配列番号29))及び
CRRWQWRMKKLGAPSITC(配列番号6(=国際公開第2007/048599号(WO 2007/048599)中では配列番号30))
を有するシグナルペプチド
又はその誘導体。
【0006】
好ましい実施態様では、国際公開第2007/048599号(WO 2007/048599)の細胞浸透性ペプチドは、配列番号3、配列番号4、配列番号29又は配列番号30あるいは少なくとも40%の同一性、好ましくは少なくとも50%の同一性、特に好ましくは75%を上回る同一性又はより良く90%を上回る同一性を有する対応する配列において、国際公開第2007/048599号(WO 2007/048599)に示されるようなアミノ酸配列を含んでいる。
【0007】
国際公開第2007/076904号(WO 2007/076904A1)は、ヒトラクトフェリンタンパク質又はウシラクトフェリンタンパク質のうち少なくとも8個の連続したアミノ酸を含むアミノ酸配列を有するペプチドを記載しており、それによってペプチドは細胞浸透性ペプチド(CPP)として作用するのに適している。国際公開第2007/076904号(WO 2007/076904A1)及び国際公開第2007/048599号(WO 2007/048599)に記載されているペプチドの多くは同一である。
【0008】
実施例において最良の効果を有する最も有望な細胞浸透性ペプチドは、KCFQWQRNMRKVRGPPVSCIKR(=国際公開第2007/048599号(WO 2007/048599)及び国際公開第2007/076904号(WO 2007/076904A1)における配列番号3)である。
【0009】
ラクトフェリン由来の細胞浸透性ペプチドは、カーゴ分子の輸送を可能にすることが意図されており、これらの分子はワクチン接種のためのDNA、RNA、ペプチド又は抗原などの活性医薬成分であり、生物学的膜を介して経口摂取され、従ってヒト又は動物の生物におけるこれらの分子の効率的な取り込みを可能にする。
【0010】
国際公開第2014/141288号(WO2014/141288A1)(国際公開日:2014年9月18日)には、放射能、ラマン散乱、近赤外(NIR)蛍光、パラ又は超常磁性及びX線吸収などの多機能性を示すナノマテリアルが記載されている。多機能ナノ造影剤は、球形又は非球形であり、1nm〜200nmのサイズを有し、且つ静脈内、筋肉内又は経口で送達することができる。ナノ材料はリン酸カルシウムナノ粒子に基づくものである。ナノ粒子は、ビスホスホネート、化学薬品、抗癌遺伝子治療薬、RNA断片(siRNA、mi−RNA)、感光薬、小分子阻害薬、抗生物質などの薬物分子を結合又は装填し得る多機能ナノ造影剤として機能する。リン酸カルシウムナノ粒子は、薬物を含有する生分解性ポリマーのポリマーシェルに配合され得る。生分解性ポリマーは、特にポリ乳酸(PLA)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)(PLGA)、ポリエチレンイミン(PEI)、キトサン又はカルボキシメチルキトサンであり得る。ナノ粒子は、その表面で、葉酸、抗体、ペプチド、アプタマー又は炭水化物などの標的リガンドと結合され得る。クエン酸塩などのキャッピング剤、PEG、ポリエチレンイミン、ビホスホネートなどのポリマーが添加され得る。
【0011】
Norihiro Watanabeらは、“Transgenic Expression of a Novel Immunosuppressive Signal Converter on T-cells”, Molecular Therapy, 第21巻, 2013-05-01, p. s153-S153, (XP055131645)を記載している。
【0012】
Ping Zengらは、”Chitosan-modified poly/,-lactide-co-glycolide) nanospheres for plasmid DNA delivery and HBV gene silencing”, International Journal of Pharmaceutics, Elsevier BV, NL, 第415巻, 2011-05-20, 259〜266頁 (XP028099873, ISSN: 0378-5173)を記載している。Ping Zengらは、プラスミドDNA(pDNA)送達のためにポリ(乳酸−コ−グリコール酸)(PLGA)を用いて配合されたナノ粒子を記載している。Jie Tangらは、Acta Pharmaceutica Sinica 2013, 48 (2): 298 - 304に、コア/シェル(CS)構造においてポリ(ラクチド−コ−グリコリド)−コポリマー(PLGA)にカプセル化されたリン酸カルシウム−pDNAナノ粒子(pDNA−CaPi)の調製及びインビトロ評価を記載している。コア/シェル構造粒子(CS−pDNA−CaPi−PLGA−NPs)を、組み込まれたCaPi修飾PLGAナノ粒子(組み込まれたpDNA−CaPi−PLGA−NP)と比較する。コア/シェル構造ナノ粒子(CS−pDNA−CaPi−PLGA−NPs)は、球形であり、155±4.5nmの平均粒子径、−0.38±0.1mVのゼータ電位、80.56±2.5%の捕捉効率及び1.16±0.04%の負荷効率を有する。コア/シェル構造の粒子は、放出培地中で安定であり、ヌクレアーゼ分解からpDNAを保護することができた。それらもインビトロでpDNAの徐放性を示した。インビトロでのCS−pDNA−CaPi−PLGA−NPsの最高遺伝子トランスフェクション効率は、72時間のトランスフェクション後に(24.66±0.46)%に到達し、これは遊離pDNA[(0.33±0.04)%、P<0.01]及びpDNA−PLGA−NPs[(1.5±0.07)%、P<0.01]よりも有意に高かった。トランスフェクションは組み込まれたpDNA−CaPi−PLGA−NPsよりも長時間続き、細胞毒性はポリエチレン−イミン(PEI)よりも有意に低かった。従ってCS−pDNA−CaPi−PLGA−NPsは有望な非ウイルス遺伝子ベクターであると考えられている。
【0013】
Jie Tangら:“Calcium phosphate embedded PLGA nanoparticles: A promising gene delivery vector with high gene loading and transfection efficiency”, International Journal of Phramaceutics, Elsevier BV, NL, 第431巻, 2012-04-17, 210〜221頁 (XP028503199, ISSN: 0378-5173)。Jie Tangらは、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)−コポリマー(PLGA)に封入されたリン酸カルシウム−pDNAナノ粒子(pDNA−CaPi)の調製及びインビトロ評価を記載している。これらのナノ粒子のヒト胚腎臓細胞へのトランスフェクション効率は、pDNAが充填されたPLGAナノ粒子又はCaPi−pDNAが組み込まれたPLGA微粒子よりもずっと高いことが判明した。
【0014】
Mingzehn Zangら:Nano-structured composites based on calcium phosphatefor cellular delivery of therapeutic and diagnostic agents”, Nano today, 第4巻, 第6号, 2009-12-01, 508〜517頁 (XP055153407; ISSN: 1748-0132)。特にsiRNAなどの核酸のためのPEG化リン酸カルシウム送達システムに重点を置いたナノ構造のリン酸カルシウム複合体の使用が記載されている。
【0015】
課題と解決策
Tang J.らは、Acta Pharmaceutica Sinica 2013, 48 (2): 298〜304頁において、コア/シェル(CS)構造においてポリ(ラクチド−コ−グリコシド)コポリマー(PLGA)にカプセル化されたリン酸カルシウム−pDNAナノ粒子(pDNA−CaPi−NP)の調製及びインビトロ評価を記載している。CS−pDNA−CaPi−PLGAナノ粒子は、有望な非ウイルス遺伝子ベクターであると考えられている。
【0016】
本発明の課題は、活性成分、特にペプチドタンパク質又は核酸の生細胞への促進された送達のためのベクターを得るために、CS−pDNA−CaPi−PLGA−NPsの送達伝達効率を改善することであった。もう一つの課題は、siRNAを介した遺伝子サイレンシング効率を高めることであった。同時に、送達ベクターの毒性を高めるべきではない。
【0017】
この課題は、特許請求されている成分a)、b)、c)及びd)から組み合わされ、従って「複合ナノ粒子」とも呼ばれ、10nm〜300nmの範囲のナノ粒子サイズ分布において最大値である直径を有するナノ粒子であって、
a)リン酸カルシウムナノ粒子コアa)、
b)リン酸カルシウムナノ粒子コアa)上の活性成分コーティングb)、
c)活性成分コーティングb)上の乳酸ポリマーコーティングc)、
d)ポリエチレン−イミン、キトサン及び14〜30個のアミノ酸の長さを有するヒトラクトフェリン由来ペプチドの群から選択される乳酸ポリマーコーティングc)上のカチオン性ポリマーコーティングd)、
を含む、前記ナノ粒子によって解決された。
【0018】
詳細な説明
ナノ粒子(複合ナノ粒子)
本発明のナノ粒子は、特許請求されている成分a)、b)、c)及びd)から組み合わされ、従って「複合ナノ粒子」と呼ばれ得る。本発明のナノ粒子は、球形であり得る。ナノ粒子は、10nm〜600nm、20nm〜500nm、50nm〜250nmの範囲の平均直径を有し、それによって平均直径は好ましくは動的光散乱法(DLS、強度%)によって決定される。ナノ粒子は、10nm〜300nm、20nm〜250nm、80nm〜150nmの範囲のナノ粒子サイズ分布(ピーク値)において最大値である直径を有し、それによってナノ粒子サイズ分布の最大値は好ましくは動的光散乱法(DLS、数値)によって決定される。ナノ粒子の多分散指数(DLS)は、0〜0.8、0.05〜0.7、0.1〜0.7、0.3〜0.7の範囲にあり得る。
【0019】
リン酸カルシウムナノ粒子コアa)
本発明のナノ粒子は、活性成分b)がその上にコーティングされたリン酸カルシウムナノ粒子コアa)を含む。活性成分b)がその上にコーティングされたリン酸カルシウムナノ粒子コアa)は、10nm〜400nm、20nm〜300nm、50nm〜200nmの範囲の平均直径を有し得る。平均直径は、好ましくは動的光散乱法(DLS)によって決定される。活性成分b)がその上にコーティングされたリン酸カルシウムナノ粒子コアa)の多分散指数は、0〜0.7、0.05〜0.7、0.1〜0.7、0.3〜0.7の範囲であり得る。
【0020】
活性成分コーティングb)
本発明のナノ粒子は、活性成分がリン酸カルシウムナノ粒子a)上にコーティングされた活性成分コーティングb)を含む。活性成分コーティングは、活性成分を含むか又は活性成分からなるコーティングである。「コーティングされた」とは、リン酸カルシウムナノ粒子の「表面に結びつく」又は「表面に結合する」という意味も有し得る。リン酸カルシウムナノ粒子a)は、好ましくはリン酸カルシウムナノ粒子の凝集又は更なる成長を防止する活性成分のコーティング層によって安定化され得る。コーティング又はコーティング層は、リン酸カルシウムナノ粒子の表面にイオン間相互作用又は静電相互作用によって付着される。
【0021】
活性成分コーティングb)を有するリン酸カルシウムナノ粒子コアa)は、カルシウムイオン及びリン酸イオンを含む水溶液と、好ましくは活性成分を添加した水溶液とを、少なくとも1秒、好ましくは1秒〜5秒又は1秒〜60秒の滞留(核形成)時間にわたり混合することによって調製され得る。滞留時間の後又はその間に、活性成分がそこにコーティングされたリン酸カルシウムナノ粒子が、沈殿プロセスの過程で又はその後に形成される。
【0022】
本出願の意味における活性成分とは、治療効果を達成する及び/又は疾患を治療するために、哺乳動物又は人体に送達され得る物質である。好ましくは、活性成分は水溶性である。活性成分は、好ましくはペプチド、タンパク質又は核酸である。
【0023】
活性成分は、好ましくは、カチオン性ポリマーコーティングd)として使用され得るヒトラクトフェリン由来のペプチドとは異なり且つ本発明の意味における活性成分とはみなされないペプチドであり得る。
【0024】
適切なペプチドの例は、例えば、ヒト成長ホルモンなどのペプチドホルモンである。
【0025】
適切なタンパク質の例は、例えば、抗体、インターロイキン、インターフェロン、タンパク質ベースのワクチンなどである。
【0026】
活性成分は、二本鎖又は一本鎖DNA又はRNA、プラスミドDNA(pDNA)などの核酸であり得る。
【0027】
活性成分はsiRNA(低分子干渉RNA)であり得る。
【0028】
「siRNA」との用語は当業者によく知られている。典型的なsiRNAは、約19〜23塩基対長さの2本鎖RNAと定義され、その際、1本の鎖は2ヌクレオチドの3’末端で重複し得る。siRNAは、生細胞内での複製中にウイルスから生成された細胞mRNA又はRNAなどの大きな二本鎖RNAからの切断産物である。これらのRNAの型は、例えば、III型RNaseである酵素「Dicer」によってsiRNAに切断され得る。siRNAは転写後遺伝子サイレンシングプロセスにおいて重要な役割を果たす。より長いsiRNA、例えば60塩基対以上は、発現ベクターによっても合成され得る。従って、siRNAは、特定の治療効果を達成するために及び/又は特定の疾患を治療するために、活性成分として使用されることに大きな関心が示されている。
【0029】
乳酸ポリマーコーティングc)
本発明のナノ粒子は、それぞれ、リン酸カルシウムナノ粒子コアa)上に、その上にコーティングされている活性成分b)を有し、活性成分コーティングb)上に乳酸ポリマーコーティングc)を含む。乳酸ポリマーコーティングは、乳酸ポリマーを含む、本質的に含む又はそれらからなるコーティングである。
【0030】
活性成分を含むリン酸カルシウムナノ粒子コアa)は、水中油中水型(W1/O/W2)エマルションの内部水相(W1)として使用されてよく、ここで乳酸ポリマーコーティングc)のための乳酸ポリマーが、超音波処理下で、その上に活性成分b)を有するリン酸カルシウムナノ粒子コアa)を含有する水相(W1)に有機溶液中で添加されて油中水型エマルション(W1/O)が得られてよく、油中水型エマルション(W1/O)が、超音波処理下で過剰の別の水相(W2)に添加されて水中油中水型エマルション(W1/O/W2)が得られてよく、有機溶媒が除去されて第1の分散液が得られてよく、第1の分散液の固形分が遠心分離又は接線流濾過によって集められてよく、水に再分散され且つ乾燥されて固体粒子が得られてよい。
【0031】
「乳酸ポリマー」との用語は、重合された乳酸単位又はラクチド単位、好ましくは少なくとも10質量%、少なくとも20質量%、少なくとも30質量%、少なくとも40質量%、少なくとも50質量%、少なくとも60質量%、少なくとも70質量%又は100質量%までの重合した乳酸又はラクチド単位を含むポリマー又はコポリマーを意味する。ラクチドは乳酸の環状ジエステルである。ラクチドという用語には、L−ラクチド、D−ラクチド、又はD,L−ラクチドが含まれる。ラクチドのポリ乳酸ポリマーへの重合は、開環条件での重縮合によって実施され得る。乳酸又はラクチドとそれぞれ重合され得る適切なコモノマーは、グリコリド、イプシロンカプロラクトン、トリメチレンカーボネート又はジオキサノンである。乳酸ポリマーは、乳酸ポリマーから選択されたAブロックとポリエチレングリコールポリマーから選択されたBブロックを含むAB−又はABA−ブロックコポリマーも含み得る。
【0032】
乳酸ポリマーは、好ましくは、以下のa)〜l)からなる群から選択されるモノマー成分から合成された若しくはモノマー成分の混合物から合成された乳酸ポリマー又はコポリマーから選択され得る:
a)D−及びL−ラクチド、
b)L−ラクチド及びグリコリド、
c)D,L−ラクチド及びグリコリド、
d)L−ラクチド及びイプシロン−カプロラクトン、
e)L−ラクチド及びジオキサノン、
f)L−ラクチド及びトリメチレンカーボネート、
g)L−ラクチド、D−ラクチド又はD,L−ラクチド、
h)L−ラクチド、
i)DL−ラクチド、
j)L−ラクチド、D−ラクチド又はD,L−ラクチド及びイプシロン−カプロラクトンの統計的に分布したモノマー単位、
k)L−ラクチド、D−ラクチド又はD,L−ラクチド及びジオキサノンの統計的に分布したモノマー単位、
l)L−ラクチド、D−ラクチド又はDL−ラクチド及びトリメチレンカーボネートの統計的に分布したモノマー単位。
【0033】
これらの種類の「乳酸ポリマー」は生分解性ポリマーであり、例えば、欧州特許第1468035号明細書(EP1468035)、米国特許第6706854号明細書(US6706854)、国際公開第2007/009919号(WO2007/009919A2)、欧州特許出願公開第1907023号明細書(EP1907023A)、欧州特許出願公開第2263707号明細書(EP2263707A)、欧州特許第2147036号明細書(EP2147036)、欧州特許第0427185号明細書(EP0427185)又は米国特許第5610266号明細書(US5610266)から当該技術分野でよく知られている。
【0034】
好ましくは、乳酸ポリマーはラクチド−グリコリドコポリマーである。
【0035】
好ましくは、乳酸ポリマーは、0.1〜2.0[dL/g]、0.12〜1.2[dL/g]、0.14〜1.0[dL/g]、0.16〜0.44[dL/g]、0.16〜0.24[dL/g]の固有粘度IVを有するポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)コポリマーである。
【0036】
好ましい乳酸ポリマーは、ポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)コポリマーにおいてD,L−ラクチド:グリコリドの比率が80:20〜20:80、70:30〜30:70、60:40〜40:60又は80:20〜60:40質量部であり、ここでD,L−ラクチド:グリコリドの部が合計100質量部(100%)であるポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)コポリマーである。
【0037】
好ましい乳酸ポリマーは、45:55〜55:45、好ましくは50:50のD,L−ラクチド:グリコリド比率を有し且つ0.16〜0.44[dL/g]又は0.16〜0.24[dL/g]の範囲の固有粘度IVを有するポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)−コポリマーであるRESOMER(登録商標)RG502(エステル末端基)又はRESOMER(登録商標)RG502H(酸末端基)の型のものである。
【0038】
乳酸コポリマーの分子量(M
w)は、1,000〜1000,000g/モルの範囲、好ましくは2,000〜100,000g/モルの範囲、好ましくは3,000〜25,000g/モルの範囲であり得る。分子量(M
w=平均重量分子量)を決定するための分析方法は当業者によく知られている。一般に、分子量M
wは、ゲル透過クロマトグラフィー又は光散乱法によって測定することができる(例えば、H.F. Markら、Encyclopedia of Polymer Science and Engineering、第2版、10巻、1頁以降、J. Wiley、1989年を参照のこと)。
【0039】
乳酸ポリマーは、約30℃〜約60℃、約35℃〜約55℃のガラス転移温度Tgを特徴とし得る。
【0040】
乳酸ポリマーは一般に「生体吸収性」であり、これはポリマーが、体液と接触させて人体又は動物の体内に注入又は注射された後に、ゆっくりとした加水分解反応でオリゴマーに分解されることを意味する。乳酸又はグリコール酸などの加水分解最終生成物は、二酸化炭素と水に代謝される。しばしば使用される「生体吸収性ポリエステル」との用語の他の交換可能な表現は、「吸収性ポリエステル」、「生分解性ポリエステル」、又は「吸着性ポリエステル」である。
【0041】
カチオン性ポリマーコーティングd)
複合ナノ粒子は、ポリエチレンイミン、キトサン及び14個〜30個のアミノ酸長さを有するヒトラクトフェリン由来のペプチドの群から選択される乳酸ポリマーコーティングc)上にカチオン性ポリマーコーティングd)を含む。従って、本発明の意味における「カチオン性ポリマーコーティング」とは、1つ以上のカチオン性基、それぞれの1つ以上のカチオン性側基又は特定のpH範囲で、好ましくはpH7.0で又はpH7.0未満でカチオン性(正に荷電)であり得る1つ以上の基若しくは1つ以上の側基を有する、ポリマーによるコーティングを意味する。
【0042】
その上に活性成分b)がコーティングされたリン酸カルシウムナノ粒子コアa)及び乳酸ポリマーコーティングc)を含む乾燥固体粒子が水に再分散されてよく、またカチオン性ポリマーコーティングd)のためのカチオン性ポリマーが、撹拌下で添加され且つ少なくとも10分間又は10分〜30分間インキュベーションされて、複合ナノ粒子を固形分として含む第2の分散液が得られてよい。第2の分散液の固形分が、遠心分離によって集められ、再分散されるか又は乾燥されて、複合ナノ粒子を含む水性分散液又は乾燥調製物が得られてよい。
【0043】
ポリエチレンイミン
ポリエチレンイミンは生物学的細胞摂取促進機能を示し得るが、このことは活性成分(活性医薬成分(API))と同時に送達される時に、ポリエチレンイミンが細胞内でのAPIの取り込みを容易にし且つ促進することを意味する。
【0044】
分子量のより低いポリエチレンイミンは、より良いトランスフェクション効率をもたらし且つより低い細胞毒性を有すると思われる。好ましいポリエチレンイミンは、5,000〜50,000gモル
−1、20,000〜30,000gモル
−1の範囲の分子量(M
w)を有し得る。
【0045】
分子量(M
w=平均重量分子量)を決定するための分析方法は当業者によく知られている。一般に、分子量M
wは、ゲル透過クロマトグラフィー又は光散乱法によって測定することができる(例えば、H.F. Markら、Encyclopedia of Polymer Science and Engineering、第2版、10巻、1頁以降、J. Wiley、1989年を参照のこと)。
【0046】
キトサン
キトサンとの用語は、全ての種類のキトサンを含む。キトサンはランダムに分布したβ−(1−4)結合D−グルコサミンとN−アセチル−D−グルコサミンの直鎖多糖類である。キトサンは、アルカリ性水酸化ナトリウムで処理することによってエビ又は他の甲殻類の殻から得てもよい。
【0047】
適切なキトサンは、好ましくは約20,000〜250,000ダルトン、より好ましくは40,000〜200,000ダルトンの分子量(M
w)を有する低分子量キトサンであり得る。これは、得られたナノ粒子のサイズがより小さいサイズを対象にし得るという利点を有する。適切なキトサンは、50〜100%、好ましくは70〜90%の程度までアセチル化され得る。
【0048】
ヒトラクトフェリン由来ペプチド(HLf)。
ヒトラクトフェリン由来ペプチドは、生物学的細胞浸透機能(細胞透過性ペプチド(CPP)、例えば国際公開第2007/048599号(WO 2007/048599)又は国際公開第2007/076904号(WO 2007/076904A1))を示し得るが、このことは活性医薬成分(API)と同時にヒト細胞に送達される時に、ヒトラクトフェリン由来ペプチドが細胞内でのAPIの取り込みを容易にし且つ促進することを意味する。
【0049】
ヒトラクトフェリン由来ペプチドは、その細胞浸透機能のコードである配列領域内で天然のヒトラクトフェリンタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、70%、80%、90%又は100%の類似性を有すると見出されるアミノ酸配列を示し得る。
【0050】
ヒトラクトフェリン由来ペプチドは、少なくともpH7又はpH7未満でカチオン性になり得る(水性環境で陽性に荷電され得る)側基を有する1つ以上のアミノ酸(例えば、アルギニン(R)又はリジン(K))を含むカチオン性ポリマーである。ヒトラクトフェリン由来ペプチド自体は本発明の意味における活性成分とはみなされていない。
【0051】
ヒトラクトフェリン由来ペプチドは、14〜30個、19〜30個、20〜25個、21〜23個又は22個のアミノ酸長さを有し得る。好ましくは、ヒトラクトフェリン由来ペプチドのアミノ酸配列は、少なくとも2個又は2個のシステイン残基を含み得る。
【0052】
好ましくは、ヒトラクトフェリン由来ペプチドのアミノ酸配列は、内部システイン−システイン架橋(シスチン架橋)を形成し得る少なくとも2つ又は2つのシステイン残基を含み得る。好ましくは、内部シスチン架橋を形成する2つのシステイン残基は酸化型で存在する。
【0053】
適切なヒトラクトフェリン由来ペプチドは、14〜30個、19〜30個、20〜25個、21〜23個、又は22個のアミノ酸長さを有してよく、且つpH7で又はpH7未満で、陽性に荷電した側鎖を有する少なくとも4個、少なくとも6個、4〜8個、5〜7個又は6個のアミノ酸、好ましくはアルギニン及び/又はリジンを含有し得る。
【0054】
適切なヒトラクトフェリン由来ペプチドは、14〜30個、19〜30個、20〜25個、21〜23個又は22個のアミノ酸長さを有してよく且つ配列番号1によるアミノ酸配列KCFQWQRNMRKVRGPPVSCIKR又は8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個又は1個を超えるアミノ酸位置が配列番号1の配列と異なっていない配列を含み得る。
【0055】
「アミノ酸位置が異なる」との用語は、配列番号1の配列と比較して、特定の位置に異なるアミノ酸が存在すること又は特定の位置にアミノ酸が存在しないこと又は配列内に存在するか又は配列に追加された追加のアミノ酸が存在すること又はこれらの場合の組み合わせの意味で理解されている。
【0056】
最も好ましくは、ヒトラクトフェリン由来ペプチドは、配列番号1の配列と8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個又は1個を超えてアミノ酸位置が異なることはなく、それによって少なくとも2個のシステイン又は2個のシステイン残基が存在し、好ましくは配列番号1の位置2及び位置19による2つのシステインが存在する。好ましくは、システイン残基は、内部システイン−システイン架橋(シスチン架橋)を形成する酸化型で存在する。
【0057】
ヒトラクトフェリン由来ペプチドは、好ましくは配列番号1のアミノ酸配列KCFQWQRNMRKVRGPPVSCIKR又はその配列と少なくとも80%又は90%相同である配列を有するペプチドであり得る。好ましくは、配列番号1の位置2及び位置19のシステイン残基、又は類似の位置若しくはそれに準じる位置のシステイン残基が存在する。
【0058】
医薬組成物
本出願は、先に説明した複合ナノ粒子であるナノ粒子を含む医薬組成物を更に開示する。
【0059】
複合ナノ粒子の調製方法
本出願は、本発明のナノ粒子、それぞれの複合ナノ粒子の製造方法を更に開示する。
【0060】
複合ナノ粒子の製造方法は、好ましくは、リン酸カルシウムナノ粒子コアa)を、カルシウムイオンを含む水溶液と、リン酸イオンを含む水溶液とを好ましくは少なくとも1秒間又は1〜3秒間、又は1〜60秒間混合することによって調製し、混合前に、混合中に又は好ましくは混合後に活性成分b)を添加して、活性成分コーティングb)を有するリン酸カルシウムナノ粒子コアa)をもたらすことで実施され得る。カルシウムイオンを含む水溶液は、水溶性カルシウム塩、例えば、塩化カルシウム(CaCl
2)、カルシウム−L−乳酸塩(Ca(CH
3−HCOH−COO)
2)又は硝酸カルシウム(Ca(NO
3)
2)を含む水溶液であり得る。リン酸イオンを含む水溶液は、水溶性リン酸塩、例えば、リン酸水素ナトリウム(Na
2HPO
4)又はリン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)を含む水溶液であり得る。
【0061】
2つの水溶液は、好ましくは長さが5mm〜20mmのY字型アダプターで最初に一緒にされてよく、ここで、混合溶液は、それらを(例えば、Vortex(登録商標)によって)連続的に混合する前に、好ましくは10〜30μl/秒の流速で、少なくとも1秒又は1〜3秒、又は1〜60秒の滞留(核生成)時間を有し得る。
【0062】
好ましくは、カルシウムイオンを含む水溶液はリン酸イオンを含まない。好ましくは、リン酸イオンを含む水溶液は、カルシウムイオンを含まない。
【0063】
活性成分、好ましくは、水溶性活性成分、例えば、ペプチド、タンパク質、DNA又はRNA、siRNA、(低分子干渉RNA)は、これらの溶液の混合前に、混合中に又は混合後に、カルシウムイオン又はリン酸イオンを含む水溶液のうちの1つに又はその両方に既に添加され得る。
【0064】
カルシウムイオンとリン酸イオンと活性成分とを含む混合水溶液は、水中油中水型(W1/O/W2)エマルション(O=油相、W2=水相2)のための内部水相1(W1=水相1)として使用されてよく、ここでポリマーコーティングc)のための乳酸ポリマーが有機溶液中で好ましくは超音波処理によって水相(W1)に添加されて、油中水型エマルション(W1/O)が得られ、油中水型エマルション(W1/O)が、好ましくは超音波処理によって更なる水相2(W2)に、好ましくは過剰の(過剰量の)更なる水相2(W2)に添加されて、水中油中水型(W1/O/W2)エマルションが得られ、有機溶媒が除去されて第1の分散液が得られ、第1の分散液の固形分が、好ましくは遠心分離によって集められ、水に再分散され且つ乾燥されて固体粒子が得られ、乾燥された固体粒子が水に再分散され、カチオン性ポリマーコーティングd)のためのカチオン性ポリマーが、好ましくは少なくとも10分間のインキュベーション時間で、撹拌下で添加され、複合ナノ粒子を固形分として含む第2の分散液が得られ、第2の分散液の固形分が遠心分離によって集められ、再分散又は乾燥されて複合ナノ粒子を含む水性分散液又は乾燥調製物が得られる。
【0065】
使用
本出願は、ナノ粒子に含まれる活性成分を経口送達又は非経口送達するのに適した医薬組成物の製造方法における本発明のナノ粒子の使用を更に開示する。
【0066】
実施例
材料
PLGA=ポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)50:50(Resomer(登録商標)RG502H、M
w=7,000〜17,000gモル
−1、Evonik Industries AG(ダルムシュタット))。ポリビニルアルコール(PVA、M
w=30,000〜70,000gモル
−1、87〜90%加水分解)、キトサン(低分子量、75〜85%脱アセチル化)及びポリエチレンイミン(PEI、M
w=25,000gモル
−1)をシグマ−アルドリッチから購入した。抗eGFP−siRNA(eGFP=強化型緑色蛍光タンパク質(enhanced Green Fluorescent Protein))を用いた遺伝子サイレンシング実験では、Invitrogen製の脱塩した二本鎖siRNA、Ambion(登録商標)(カールスバッド、米国)、センス、5’−GCAAGCUGACCCUGAAGUUCAU−3’(配列番号7)及びアンチセンス、5’−AUGAACUUCAGGGUCAGCUUGC−3’(配列番号8)(M
w=14,019.5gモル
−1)を使用した。プラスミドDNAを用いたトランスフェクション実験の場合、強化型蛍光タンパク質(eGFP)をコードするpcDNA3−eGFPを、NucleobondエンドトキシンフリープラスミドDNAキット(Macherey-Nagel、デューレン、独国)を用いて、大腸菌(Echerichia coli)から単離した。他の全ての化学物質は分析用のものであり、更に精製することなく使用した。
【0067】
実施例で使用したヒトラクトフェリン由来ペプチド(HLf)は、配列番号1のアミノ酸配列KCFQWQRNMRKVRGPPVSCIKRを有する合成ペプチドであった。
【0068】
機器
油中水型及び水中油中水型エマルションの形成のために、音波処理(超音波)をHielscher UP50H装置、sonotrode MS2、振幅70%、パルス0.7を用いて20秒間行った。動的光散乱とゼータ電位の測定を、Smoluchowski近似を用いて且つMalvern softwareからのデータを更に補正せずに取得してZetasizer nanoseries装置(Malvern社製のNano-ZS、レーザー:λ=532nm)を用いて行った。粒度データは、散乱強度分布(z平均)を意味する。共焦点レーザー走査顕微鏡検査を、63倍の水の対物レンズを備えた共焦点レーザー走査顕微鏡(SP5 LCSM、Leica)を用いて行った。遠心分離をHeraeus Fresco 21装置(Thermo Scientific)を用いて4℃で行った。トランスフェクションと遺伝子サイレンシング効率を、Carl Zeiss Axiovert 40 CFL装置を用いて透過光と蛍光分光法によって測定した。細胞の生存率を、Multiscan FC装置(ThermoFisher scientific、Vantaa、Finland)を用いて、λ=570nmでの分光光度分析によるMTT試験によって分析した。凍結乾燥をChrist社製のAlpha 2-4 LSC装置を用いて行った。
【0069】
実施例の概要
実施例1:リン酸カルシウム(CaP)−活性成分ナノ粒子の合成
実施例1a:CaP−eGFP−DNAナノ粒子の合成
実施例1b:CaP−抗eGFP−siRNAナノ粒子の合成
実施例2:CaP−活性成分−PLGA−ナノ粒子の合成
実施例2a:CaP−(FITC−BSA)−PLGAナノ粒子の合成
実施例2b:CaP−抗eGFP−siRNAナノ粒子の合成
実施例2c:CaP−eGFP−DNA−PLGAナノ粒子の合成
実施例3:CaP−抗eGFP−siRNA−PLGA−カチオン性ポリマーナノ粒子の合成
実施例3a:CaP−抗eGFP−siRNA−PLGA−PEIナノ粒子の合成
実施例3b:CaP−抗eGFP−siRNA−PLGA−キトサンナノ粒子の合成
実施例3c:CaP−抗eGFP−siRNA−PLGA−HLfナノ粒子の合成
実施例4:細胞取り込み(HeLa細胞)
実施例5:遺伝子サイレンシング
【0070】
実施例1:CaP活性成分ナノ粒子の合成
リン酸カルシウムナノ粒子を急速沈殿法で合成した。核酸がリン酸カルシウムナノ粒子の表面に吸着する。このため、結晶成長が阻害され、リン酸カルシウムナノ粒子が静電的に安定する。この場合、DNA又はsiRNAは、活性成分として及び分散液を凝集から保護する安定剤として作用する。
【0071】
実施例1a:CaP−eGFP−DNAナノ粒子の合成
硝酸カルシウム(6.25mM、105μL)とリン酸水素二アンモニウム(3.74mM、105μL)の水溶液を、シリンジポンプを備えた管反応器内でYアダプターを通して混合し、連続混合(ボルテックス)下でeGFP−DNAの水溶液(2.5mg mL
−1、40μL)にポンプした。溶液の流速は16.6μL s
−1であり、Yアダプター(長さ7mm)での滞留(核生成)時間は1.3秒であった。沈殿が完了した後、ナノ粒子(コア:リン酸カルシウム;シェル:核酸)の分散液を氷で冷却し、これをPLGAナノ粒子へのカプセル化のために5分間インキュベーションしてから使用した。
【0072】
実施例1b:CaP−抗eGFP−siRNAナノ粒子の合成
硝酸カルシウム(6.25mM、105μL)とリン酸水素二アンモニウム(3.74mM、105μL)の水溶液を、シリンジポンプを備えた管反応器内でYアダプターを通して混合し、連続混合(ボルテックス)下で抗eGFP−siRNAの溶液(3.9mg mL
−1、40μL)にポンプした。両溶液の流速は16.6μL s
−1であり、Yアダプター(長さ7mm)での滞留(核生成)時間は1.3秒であった。沈殿が完了した後、ナノ粒子(コア:リン酸カルシウム;シェル:核酸)の分散液を氷で冷却し、これをPLGAナノ粒子へのカプセル化のために5分間インキュベーションしてから使用した。
【0073】
実施例2:CaP−活性成分−PLGAナノ粒子の合成
DNA又はsiRNAの外殻をDNase又はRNaseなどの分解酵素から保護し、粒子に徐放プロファイルを付与するために、リン酸カルシウム−DNA又はリン酸カルシウム−siRNAナノ粒子を、次に実施例2b、2cにおいてそれぞれPLGAのマトリックスに封入した。水性リン酸カルシウム−DNA又はリン酸カルシウム−siRNA分散液を、エマルションプロセスにおいて内部水相(W1)として使用した。ポリマーをジクロロメタン(O)に溶かした。超音波処理により、油相に微細な水滴を含む(リン酸カルシウムナノ粒子を含む)一次のW1/Oエマルションが得られる。連続水相(水中のPVA)に添加し、続いて超音波処理することにより、安定したW1/O/W2エマルションが得られる。減圧下で有機溶媒を蒸発させると、ほぼ透明な分散液が得られる。
【0074】
実施例2a:CaP−(FITC−BSA)−PLGAナノ粒子の合成
蛍光によるナノ粒子の細胞摂取を示すために、FITC−BSA(フルオレセインイソチオシアネート標識ウシ血清アルブミン)でナノ粒子を標識するべきである。従ってマーカー分子FITC−BSAを用いて機能化するため、リン酸カルシウムをエマルションプロセス中に一次のW1/O−エマルションに沈殿させた。これが必要とされるのは、FITC−BSAがリン酸カルシウムナノ粒子に吸着するが(DNA又はRNAを除いて)それらをコロイド的に安定化しないためであった。
【0075】
2つのW1/O−エマルション(AとB)を第1段階で調製した。エマルションAは、リン酸塩溶液及び内部水滴中の生体分子を含有し、PLGAを有機相に溶解した。エマルションBは、内部水相にカルシウム塩溶液を含有し、また有機相に溶解したPLGAも含有した。両方のエマルションを超音波処理下で混合すると、内部水滴にリン酸カルシウムの沈殿が生じる。合わせたW1/Oエマルションを連続水相(水中のPVA)に添加して超音波処理すると、安定したW1/O/W2エマルションが得られる。有機溶媒を減圧下で蒸発させると、ほぼ透明な黄色の分散液が得られた。この方法では、有機溶媒中の水滴(マイクロリアクター)の体積が小さいことにより結晶成長が制限された。
【0076】
リン酸カルシウム−FITC−BSA−PLGAナノ粒子を、W1/O/W2エマルション溶媒蒸発法で合成した。最初に、2つのW/Oエマルション(AとB)を超音波処理によって調製した。エマルションAの場合、625μgのFITC−BSAを10mMのNa
2HPO
4溶液125μLに溶解した。これをジクロロメタン中のPLGAの溶液(13.3mg mL
−1、375μL)に分散させた。エマルションBの場合、625μgのFITC−BSAを1.25MのCaCl
2溶液125μL(1.25M、125μL)に溶解した。これをジクロロメタン中のPLGAの溶液(13.3mg mL
−1、375μL)に分散させた。次に、エマルションAとBを超音波処理(10秒)によって混合してエマルションCを形成した。このW1/Oエマルションを次に分散剤として30mgのPVAを含む連続水相(3mL)に滴加し、再び超音波処理(ソノトロード)して黄色の乳状のW1/O/W2エマルションを形成した。ジクロロメタンを減圧下(200〜600ミリバール)で除去した後、リン酸カルシウム−FITC−BSAナノ粒子をPLGA粒子に組み込んだ。過剰のPVAとFITC−BSAを、遠心分離(14,800rpmで30分間)し且つ超音波処理(ソノトロード)により超純水中に3回再分散させることにより除去した。FITC−BSAのカプセル化効率を測定するために、溶解したFITC−BSAで予め較正した後、上清を460nmでのUV/Vis分光法により分析した。得られた分散液を液体窒素で急速凍結し、最後に0.31ミリバール及び−10℃で72時間凍結乾燥した。粒子は穏やかに振り混ぜることにより水に容易に再分散可能であった。
【0077】
リン酸カルシウム−PLGAナノ粒子は、原子吸光分析によって決定された5%のリン酸カルシウム(カルシウムの含有量から計算)を含んでいた。
【0078】
実施例2b:CaP−抗eGFP−siRNA−PLGAナノ粒子の合成
抗eGFP−siRNA機能化リン酸カルシウムナノ粒子のPLGAナノ粒子へのカプセル化のために、水中油中水型(W1/O/W2)二重エマルション溶媒蒸発法を適用した。750μLのジクロロメタンに溶解した10mgのPLGAの溶液に、250μLの実施例1bからのリン酸カルシウム/核酸ナノ粒子の分散液を加えた。次に200μgのRNaseを含まないアセチル化ウシ血清アルブミン(BSA)を分散剤として40μLの水に溶かした溶液を加えた。混合物を超音波処理(ソノトロード、15秒)して、一次の乳状の白色W1/Oエマルションを形成した。W1/O−エマルションを次に分散剤として30mgのポリビニルアルコール(PVA)を含む連続水相(3mL)に直ちに注ぎ、再び超音波処理(ソノトロード、15秒)した。
【0079】
最後に、ジクロロメタンをロータリーエバポレーター内で減圧(200〜600ミリバール)下で除去した後、PLGAナノ粒子を沈殿させた。これにより、siRNAを担持したリン酸カルシウムナノ粒子をPLGAのナノ粒子マトリックスに組み込んだ。過剰のPVAを、遠心分離(14,800rpmで30分間)し且つ粒子を超純水中に3回再分散させることにより除去した。核酸のカプセル化効率を決定するために、残りの上清を、標準プロトコルに従って260nmでのUV/Vis分光法により分析した。得られた分散液を液体窒素で急速凍結し、最後に0.31ミリバール及び−10℃で72時間凍結乾燥した。粒子は、穏やかに振り混ぜることにより水に容易に再分散可能であった。
【0080】
実施例2c:CaP−eGFP−DNA−PLGAナノ粒子の合成
eGFP−DNA機能化リン酸カルシウムナノ粒子のPLGAナノ粒子へのカプセル化のために、水中油中水型(W1/O/W2)二重エマルション溶媒蒸発法を適用した。750μLのジクロロメタンに溶解した10mgのPLGAの溶液に、実施例1aからのリン酸カルシウム/核酸ナノ粒子の分散液250μLを加えた。次に20mg/mlのRNaseを含まないアセチル化ウシ血清アルブミン(BSA)を分散剤として水に溶かした溶液40μLを加えた。混合物を超音波処理(ソノトロード、15秒)して、一次の乳状の白色W1/Oエマルションを形成した。W1/O−エマルションを次いで分散剤として30mgのポリビニルアルコール(PVA)を含む連続水相(3mL)に直ちに注ぎ、再び超音波処理(ソノトロード、15秒)した。
【0081】
最後に、ジクロロメタンをロータリーエバポレーター内で減圧(200〜600ミリバール)下で除去した後、PLGAナノ粒子を沈殿させた。これにより、DNAを担持したリン酸カルシウムナノ粒子をPLGAのナノ粒子マトリックスに組み込んだ。過剰のPVAを、遠心分離(14,800rpmで30分間)し且つ粒子を超純水中に3回再分散させることにより除去した。核酸のカプセル化効率を決定するために、残りの上清を、標準プロトコルに従って260nmでのUV/Vis分光法により分析した。得られた分散液を液体窒素で急速凍結し、最後に0.31ミリバール及び−10℃で72時間凍結乾燥した。粒子は、穏やかに振り混ぜることにより水に容易に再分散可能であった。
【0082】
実施例3:CaP−siRNA−PLGA−カチオン性ポリマーナノ粒子の合成
リン酸カルシウム−PLGAナノ粒子の細胞内取り込みを促進するために、キトサン、PEI及びHLfなどのカチオン性ポリマーの層ごとの堆積により、表面電荷を逆転させることができる。更に、ポリマー(キトサン及びPEI)はプロトンスポンジ効果を誘発することが可能である。このことは、ナノ粒子のエンドソーム脱出を促進し、治療効率を高める。ゼータ電位測定で示されるように、リン酸カルシウム−PLGAナノ粒子の表面電荷を、約−24mVから+50mVまで(キトサン)、+31mVまで(PEI)又は+10mVまで(HLf)カチオン性ポリマーの層ごとの堆積によって容易に逆転させることができた。HLf修飾されたCaP−siRNA−PLGA粒子のSEM画像は球状のナノ粒子を示す。ナノ粒子のサイズと形態は大きく変化しなかった。
【0083】
実施例3a:CaP−siRNA−PLGA−PEIナノ粒子の合成
実施例2bからの凍結乾燥粒子1.5mgを、超純水1mLに再懸濁し、PEI水溶液(1mL中2mg)に連続的に撹拌しながら滴加した。室温で30分間連続撹拌した後、分散液を、遠心分離(14,800rpmで30分)し且つ超純水中に再分散(振盪、超音波処理は不要)させることにより3回精製した。細胞培養実験の場合、粒子を最後に細胞培養培地に再分散させた。
【0084】
実施例3b:CaP−siRNA−PLGA−キトサンナノ粒子の合成
実施例2bからの凍結乾燥粒子1.5mgを超純水1mLに再懸濁し、連続的に撹拌しながらキトサン水溶液(1mL中5mg、pHを酢酸で5に調整)に滴加した。室温で30分間連続撹拌した後、分散液を、遠心分離(14,800rpmで30分)し且つ超純水中に再分散(振盪、超音波処理は不要)させることにより3回精製した。細胞培養実験の場合、粒子を最後に細胞培養培地に再分散させた。
【0085】
実施例3c:CaP−siRNA−PLGA−HLfナノ粒子の合成
実施例2bからの凍結乾燥粒子3mgを超純水3mlに再懸濁し、連続的に撹拌しながら2時間、ヒトラクトフェリンの溶液3ml(2mg/ml)に加えた。処理した粒子を凍結乾燥した。細胞培養実験の場合、粒子を再分散させ、超純水中で遠心分離(14,800rpmで30分間)により精製し、最後に細胞培養培地に再分散させた。
【0086】
実施例4:細胞取り込み(HeLa)
HeLa細胞を、10%ウシ胎児血清(FCS)、100UmL
−1ペニシリン、及び100UmL
−1のストレプトマイシンを加えたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中、37℃、5%のCO
2雰囲気下で培養した。
【0087】
細胞摂取実験を、使用前24時間、8ウェルプレートに播種して培養した細胞を用いて行った。CaP−(FITC−BSA)−PLGAナノ粒子溶液(改変していないもの(実施例2b)、キトサン、PEI又はHLfで改変したもの(実施例3))を細胞に1時間及び3時間添加した。蛍光顕微鏡法の場合、細胞核をDAPIで着色した。蛍光顕微鏡画像により、改変CaP−(FITC−BSA)−PLGAナノ粒子がHeLa細胞によって効率的に取り込まれたことが明らかに示される。PEI改変CaP−(FITC−BSA)−PLGAナノ粒子を1時間後に効率よく蓄積させ、キトサン又はHLf改変CaP−(FITC−BSA)−PLGAナノ粒子の取り込みを3時間後に効率よく示すことができた。
【0088】
共局在実験の場合、HeLa細胞を8ウェルプレート(Lab−Tek)に播種し、24時間培養した。次に、HeLa細胞を、製造業者の指示に従って50ngのLamp1−RFPプラスミドDNAと0.3μlのリポフェクタミン(Lipofectamine)2000(Life technology)を用いてトランスフェクションした。4時間後、細胞培養培地を交換し、細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS)で数回洗浄した。更に16時間後、細胞をナノ粒子分散液(20μL、1mgナノ粒子mL
−1)で処理し、異なる時点で共焦点レーザー走査顕微鏡で検査した。
【0089】
リン酸カルシウム(FITC−BSA)−PLGAナノ粒子の細胞内取り込み研究と、Lamp1−RFP発現HeLa細胞による共局在実験により、ナノ粒子が細胞によって効率的に取り込まれたことが示された。負の表面電荷を有するナノ粒子は、細胞膜との親和性が低く、適度に取り込まれただけであるが、正の表面電荷を有するナノ粒子(キトサン又はPEI機能化ナノ粒子)は、負に帯電した細胞膜とナノ粒子のカチオン性表面との静電相互作用のために1時間のインキュベーション後に細胞膜を覆った。また、負に帯電したリン酸カルシウム−(FITC−BSA)−PLGAナノ粒子の大部分は、Lamp1−RFPとFITC−BSAの緑色蛍光との共局在によって示されるように、エンドソーム内で終わった。対照的に、キトサン及びPEI機能化リン酸カルシウム−(FITC−BSA)−PLGAナノ粒子(陽性表面電荷)は、3時間のインキュベーション後にサイトゾル中の拡散緑色蛍光によって示されるようにプロトンスポンジ効果を誘発し、エンドソームを脱出した。
【0090】
実施例5:遺伝子サイレンシング
HeLa−eGFP細胞(強化型緑色蛍光タンパク質を発現した遺伝子改変HeLa細胞、eGFP)を、37℃及び5%のCO
2雰囲気で、10%FCS(ウシ胎仔血清)、100U mL
−1ペニシリン、100U mL
−1ストレプトマイシン、及び50μg mL
−1ジェネティシンを加えたDMEM中で培養した。ナノ粒子を添加する12時間前に、細胞をトリプシン処理し、24ウェルプレートに2.5×10
4細胞/ウェルの密度で播種した。
【0091】
トランスフェクションの前に、細胞培養培地を新しい細胞培養培地に再分散したナノ粒子に置き換えた(0.5mL中のナノ粒子0.1mgは、1ウェル当たり0.8μg〜1μgのsiRNAに相当する)。7時間のインキュベーション後、トランスフェクション培地を新しい細胞培養培地に交換した。光学顕微鏡と蛍光顕微鏡でナノ粒子を添加してから72時間後に遺伝子サイレンシングの効率を測定した。
【0092】
対照として、製造業者によって推奨されるリポフェクタミン(登録商標)2000で細胞をトランスフェクションした。簡単に説明すると、50μLのDMEM(FCSなし)を1μLのリポフェクタミン(登録商標)2000と混合し、室温で5分間インキュベートした。抗eGFP−siRNA(20pmol、0.28μg)を50μLのDMEM(FCSなし)に加えた。次に、両溶液を混合し、20分間インキュベートしてから、この溶液100μLと更に400μLのDMEMを各ウェルに加えた。7時間インキュベートした後、トランスフェクション培地を新しい細胞培養培地と交換した。
【0093】
抗eGFP−siRNA機能化リン酸カルシウム−PLGAナノ粒子による遺伝子サイレンシング実験の効率を蛍光顕微鏡画像から計算し、以下のように計算した:
【数1】
【0094】
同じ条件で培養したが全く処理していないHeLa−eGFP細胞を対照として用いた。
【0095】
抗eGFP−siRNAで機能化されたリン酸カルシウム−PLGAナノ粒子は、eGFP発現HeLa細胞においてeGFPコード遺伝子を効率的にノックダウンした。キトサン、PEI又はHLfのいずれかでコーティングしたカチオン性リン酸カルシウム−PLGA−siRNAナノ粒子は、それぞれ28%、50%又は51%の遺伝子サイレンシング効率を示した。トランスフェクション実験によれば、リン酸カルシウム−PLGAナノ粒子による処理後の細胞の活力は、リポフェクタミン(登録商標)などのリポソームトランスフェクション剤と比較してその範囲内であるか又はそれよりも更に高かった。キトサン、PEI又はHLfのいずれかでコーティングしたカチオン性リン酸カルシウム−PLGA−siRNAナノ粒子は、PEIがその細胞毒性で知られているが、良好な細胞生存率を示した。結果を表1にまとめる。
【表1】