特許第6588104号(P6588104)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6588104優れた耐食性及びクリープ抵抗性を有するジルコニウム合金、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6588104
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】優れた耐食性及びクリープ抵抗性を有するジルコニウム合金、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/18 20060101AFI20191001BHJP
   C22C 16/00 20060101ALI20191001BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20191001BHJP
【FI】
   C22F1/18 E
   C22C16/00
   !C22F1/00 626
   !C22F1/00 640A
   !C22F1/00 641C
   !C22F1/00 650A
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 686A
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 691Z
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 694Z
   !C22F1/00 640E
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-553426(P2017-553426)
(86)(22)【出願日】2015年5月8日
(65)【公表番号】特表2018-514650(P2018-514650A)
(43)【公表日】2018年6月7日
(86)【国際出願番号】KR2015004641
(87)【国際公開番号】WO2016167397
(87)【国際公開日】20161020
【審査請求日】2017年10月11日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0052711
(32)【優先日】2015年4月14日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】516343608
【氏名又は名称】ケプコ ニュークリア フューエル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョイ,ミン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】モク,ヨン キュン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ユン ホ
(72)【発明者】
【氏名】ナ,ヨン ス
(72)【発明者】
【氏名】イ,チュン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】チャン,テ シク
(72)【発明者】
【氏名】コ,デ ギュン
(72)【発明者】
【氏名】イ,スン ジェ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジェ イク
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−149365(JP,A)
【文献】 特開2006−214001(JP,A)
【文献】 特開2002−332533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 16/00
C22F 1/18
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニオブ1.1〜1.2重量%、リン0.02〜0.07重量%、鉄0.2〜0.3重量%及び残部のジルコニウムから構成される混合物を溶解し、前記リンは圧粉して溶解してインゴット(Ingot)に製造する第1段階と、
前記第1段階で製造されたインゴットを1000〜1050℃(β相区間)で30〜40分間溶体化熱処理した後、水に急冷してβ−焼入れ(β−Quenching)する第2段階と、
前記第2段階で熱処理されたインゴットを630〜650℃で20〜30分間予熱した後、60〜65%の圧下率で熱間圧延する第3段階と、
前記第3段階で熱間圧延された圧延材を570〜590℃で3〜4時間1次中間真空熱処理した後、30〜40%の圧下率で1次冷間圧延する第4段階と、
前記第4段階で1次冷間圧延された圧延材を560〜580℃で2〜3時間2次中間真空熱処理した後、50〜60%の圧下率で2次冷間圧延する第5段階と、
前記第5段階で2次冷間圧延された圧延材を560〜580℃で2〜3時間3次中間真空熱処理した後、30〜40%の圧下率で3次冷間圧延する第6段階と、
前記第6段階で3次冷間圧延された圧延材を440〜650℃で7〜9時間最終真空熱処理する第7段階とを含んでなる、ジルコニウム合金の製造方法
【請求項2】
第1段階の前記混合物にタンタル(Ta)をさらに0.03〜0.1重量%添加することを特徴とする、請求項に記載のジルコニウム合金の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐食性及びクリープ抵抗性を有するジルコニウム合金、及びその製造方法に関し、特に、軽水炉及び重水炉型原子力発電所の核燃料被覆管及び支持格子に使用されるジルコニウム合金組成、及び熱処理条件に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニウム合金は、低中性子吸収断面積、優れた耐腐食性及び機械的性質を持つ合金であって、燃料の被覆管、燃料集合体支持格子及び原子炉内構造物の材料として数十年間、加圧水型原子炉(PWR、Pressurized Water Reactor)及び沸騰水型原子炉(BWR、Boiling Water Reactor)で広く使用されてきた。
現在までに開発されたジルカロイ−2(Zircaloy−2、Sn1.20〜1.70重量%、Fe0.07〜0.20重量%、Cr0.05〜1.15重量%、Ni0.03〜0.08重量%、O900〜1500ppm、Zr残部)及びジルカロイ−4(Zircaloy−4、Sn1.20〜1.70重量%、Fe0.18〜0.24重量%、Cr0.07〜1.13重量%、O900〜1500ppm、Ni<0.007重量%、Zr残部)合金が最も広く使用されている。
【0003】
しかし、最近では、原子炉の経済性向上の一環として、核燃料サイクルコストの削減のために高燃焼度核燃料が考慮されているが、既存のジルカロイ−2、ジルカロイ−4を核燃料被覆管の材料として使用する場合には、腐食及びクリープ特性などの機械的性質に多くの問題点を引き起こしている。
これにより、高燃焼度、長サイクルの条件で最も問題となる耐食性及びクリープ抵抗性に優れる材料を開発する必要性が台頭しており、最近では、このような努力の一環として、Zr−Nb系合金など、適切なジルコニウム合金の開発に関する研究が行われている。
先行技術について考察すると、米国特許第4,649,023号では、ジルコニウムにニオブ0.5〜2.0重量%、錫0.9〜1.5重量%を必須元素とし、鉄、クロム、モリブデン、バナジウム、銅、ニッケル及びタングステンのうちのいずれか1種の元素0.09〜0.11重量%、酸素0.1〜0.16重量%を含むジルコニウム合金を開示している。また、80nm以下の微細なサイズの析出物が均質に基地相内に分布している合金製品を製造する方法を開示している。
【0004】
米国特許第5,648,995号では、ニオブ0.8〜1.3重量%、鉄50〜250ppm、酸素1600ppm以下、ケイ素120ppm以下から構成されるジルコニウム合金を用いた被覆管を開示している。
前記合金に対して、600〜800℃で熱処理した後、押出を行い、冷間圧延は4〜5回にわたって行い、冷間圧延の間の中間熱処理は565〜605℃の温度領域で2〜4時間行い、最終熱処理は580℃で行うことにより、燃料被覆管を製造した。
このとき、クリープ抵抗性を向上させるために、合金の組成物中の鉄は250ppm以下に制限し、酸素は1000〜1600ppmの範囲に制限している。
米国特許第6,325,966号では、ニオブ0.15〜0.25重量%、錫1.10〜1.40重量%、鉄0.35〜0.45重量%、クロム0.15〜0.25重量%を必須元素とし、モリブデン、銅及びマンガンのうちのいずれか1種の元素0.08〜0.12重量%、酸素1000〜1400ppm、及び残部のジルコニウムから構成される、腐食抵抗性及び機械的特性に優れる合金を設計した。
【0005】
前記先行技術からも分かるように、従来のNbにSnを含んでいるジルコニウム合金において、添加元素の種類及び量を変化させるか或いは熱処理条件を変化させることにより、耐食性及び機械的特性が向上した高燃焼度用ジルコニウム合金組成を得するために研究を続けている。
このとき、ジルコニウム合金の優れた耐食性及び機械的性質を有する最適の条件は、添加元素の種類、添加量、加工条件及び熱処理条件などによって影響を受けるため、合金設計及び熱処理条件の確立が何よりも必要である。
そこで、本発明者らは、Zr−Nb合金系からSnを除去し、P、Taなどを添加して組成及び熱処理温度を調節することにより、耐食性を大幅に増加させながらもクリープ抵抗性を向上させることができることを見出し、本発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国登録特許公報第4649023号(登録日:1987年3月10日)
【特許文献2】米国登録特許公報第5648995号(登録日:1997年7月15日)
【特許文献3】米国登録特許公報第6325966号(登録日:2001年12月4日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、上述したような問題点を解決するために案出されたもので、その目的は、耐食性に悪い影響を及ぼす錫を除去し、クリープ抵抗性を維持させるためにニオブ、リン、タンタルなどを添加することにより最適な熱処理条件を考慮して耐食性及びクリープ抵抗性が向上したジルコニウム合金組成及び最終熱処理条件を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための本発明に係るジルコニウム合金は、基本的に、ニオブ1.1〜1.2重量%、リン0.01〜0.2重量%、鉄0.2〜0.3重量%及び残部のジルコニウムから構成されることを特徴とする。
このとき、リンは、好ましくは0.02〜0.07重量%であることを特徴とする。
好ましくは、前記ジルコニウム合金は、耐食性及びクリープ変形に対する抵抗性能の向上のために、タンタル(Ta)がさらに0.01〜0.15重量%添加できる。
特にさらに好ましくは、タンタル(Ta)は0.03〜0.1重量%添加できる。
【0009】
一方、本発明に係るジルコニウム合金の製造方法は、ニオブ1.1〜1.2重量%、リン0.01〜0.2重量%、鉄0.2〜0.3重量%及び残部のジルコニウムから構成される混合物を溶解してインゴット(Ingot)に製造する第1段階と、
前記第1段階で製造されたインゴットを1000〜1050℃(β相区間)で30〜40分間溶体化熱処理した後、水に急冷してβ−焼入れ(β−Quenching)する第2段階と、
前記第2段階で熱処理されたインゴットを630〜650℃で20〜30分間予熱した後、60〜65%の圧下率で熱間圧延する第3段階と、
前記第3段階で熱間圧延された圧延材を570〜590℃で3〜4時間1次中間真空熱処理した後、30〜40%の圧下率で1次冷間圧延する第4段階と、
前記第4段階で1次冷間圧延された圧延材を560〜580℃で2〜3時間2次中間真空熱処理した後、50〜60%の圧下率で2次冷間圧延する第5段階と、
前記第5段階で2次冷間圧延された圧延材を560〜580℃で2〜3時間3次中間真空熱処理した後、30〜40%の圧下率で3次冷間圧延する第6段階と、
前記第6段階で3次冷間圧延された圧延材を440〜650℃で7〜9時間最終真空熱処理する第7段階とを含んでなる。
【0010】
このとき、第1段階におけるリンは好ましくは0.02〜0.07重量%とし、第7段階における前記最終真空熱処理の温度は好ましくは460〜600℃として、耐食性とクリープ変形に対する抵抗特性を最適化することができる。
また、好ましくは、第1段階の前記混合物にタンタル(Ta)をさらに0.01〜0.15重量%添加することにより、耐食性を一層向上させることができる。
特に好ましくは、前記タンタル(Ta)は0.03〜0.1重量%とし、第7段階における前記最終真空熱処理の温度は460〜530℃とすることにより、耐食性とクリープ変形に対する抵抗特性を最高に高めることができる。
一方、第1段階で前記混合物を溶解する前に、リンの析出防止のためにリンを圧粉することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るジルコニウム合金は、錫を完全に除去し、P、Taなどの添加元素の種類、添加量及び最終熱処理条件の制御によって、ジルカロイ−4に比べて優れた耐食性を有するだけではなく、クリープ抵抗性も高いので、軽水炉及び重水炉型原子力発電所の原子炉心内で燃料被覆管などに非常に有用に使用できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係るジルコニウム合金の腐食試験後の重量増加量を試験日によって示すグラフである。
図2】本発明に係るジルコニウム合金のクリープ試験後の変形量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施例で提示される特定の構造ないし機能説明は、単に本発明の概念による実施例を説明するための目的で例示されたものであり、本発明の概念による実施例は、様々な形で実施できる。また、本明細書に説明された実施例に限定されるものと解釈されてはならず、本発明の思想及び技術範囲に含まれるすべての変更物、均等物ないし代替物を含むものと理解されるべきである。
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るジルコニウム合金は、ニオブ1.1〜1.2重量%、リン0.02〜0.05重量%、鉄0.2〜0.3重量%及び残部のジルコニウムから構成される。
また、前記ニオブ1.1〜1.2重量%、リン0.02重量%、鉄0.2〜0.3重量%及び残部のジルコニウムから構成される。
また、前記ニオブ1.1〜1.2重量%、リン0.05重量%、鉄0.2〜0.3重量%及び残部のジルコニウムから構成される。
また、前記ジルコニウム合金にタンタルを添加してニオブ1.1〜1.2重量%、リン0.05重量%、タンタル0.03〜0.04重量%、鉄0.2〜0.3重量%及び残部のジルコニウムから構成される。
また、前記ジルコニウム合金にタンタルを添加してニオブ1.1〜1.2重量%、リン0.05重量%、タンタル0.09〜0.1重量%、鉄0.2〜0.3重量%及び残部のジルコニウムから構成される。
【0015】
以下、前述したような構成を有する本発明に係るジルコニウム合金の製造について説明する。
本発明に係るジルコニウム合金の製造方法は、
ジルコニウム合金組成元素の混合物を溶解してインゴット(Ingot、鋳塊)に製造する第1段階;前記第1段階で製造されたインゴットを1000〜1050℃(β相区間)で30〜40分間溶体化熱処理した後、水に急冷させるβ−焼入れ(β−Quenching)を行う第2段階;前記第2段階で熱処理されたインゴットを630〜650℃で20〜30分間予熱した後、60〜65%の圧下率で熱間圧延する第3段階;前記第3段階で熱間圧延された圧延材を570〜590℃で3〜4時間1次中間真空熱処理した後、30〜40%の圧下率で1次冷間圧延する第4段階と、前記第4段階で1次冷間圧延された圧延材を560〜580℃で2〜3時間2次中間真空熱処理した後、50〜60%の圧下率で2次冷間圧延する第5段階;前記第5段階で2次冷間圧延された圧延材を560〜580℃で2〜3時間3次中間真空熱処理した後、30〜40%の圧下率で3次冷間圧延する第6段階と、前記第6段階で3次冷間圧延された圧延材を最終真空熱処理する第7段階とを含んでなる。
【0016】
以下、前述したような段階からなる本発明の様々な実施例を例としてより詳細に説明する。
<実施例1〜12>ジルコニウム合金の製造
(1)インゴットの製造
まず、第1段階では、ニオブ1.2重量%、リン0.02〜0.05重量%、タンタル0.03〜0.1重量%、鉄0.2重量%及び残部のジルコニウムを真空アーク溶解方法(VAR、Vacuum Arc Remelting)を用いてインゴット(Ingot、鋳塊)に製造する。
使用されたジルコニウムは、ASTM B349に明示された原子力グレードのジルコニウムスポンジ(Zirconium Sponge)であり、ニオブ、リン、タンタル、鉄などが添加された元素は、99.99%以上の高純度の元素を使用した。
このとき、不純物が偏析したり合金組成が不均一に分布したりするのを防ぐために、約3回程度繰り返し、アーク溶解装置のチャンバ内の真空を10−5torr以下で十分に維持した後、合金の溶解を行ってインゴットを製造した。このとき、リン(P)は、析出を防止するために、他の合金元素とは異なり圧粉して溶解した。
冷却過程の間に試験片の表面で酸化するのを防止するために、アルゴンなどの不活性ガスを注入して冷却した。
【0017】
(2)β溶体化熱処理(β−Annealing)及びβ−焼入れ(β−Quenching)
第2段階では、β−溶体化熱処理及びβ−焼入れを行う工程であり、β相温度領域である1000〜1050℃で30分間溶体化処理した後、約300℃/sec以上の速度で水冷した。このとき、インゴット(Ingot)の酸化を防止するために、厚さ1mmのステンレス鋼板(Stainless Steel Plate)で被覆してスポット溶接を行った。この工程は、製造されたインゴット内の合金組成を均質化し、基地金属内の第2相析出物(SPP、Secondary Phase Particle)の大きさを均一に分布させるために行う。
【0018】
(3)熱処理及び熱間圧延
第3段階では、β−焼入れ済みの試験片の熱間圧延を行う。
このとき、630〜650℃で約20〜30分間予熱した後、約60〜65%の圧下率で圧延を行った。もし上記の熱処理温度から外れる場合には、次の第4段階の加工に適した圧延材を得ることが難しい。また、熱間圧延時の圧下率が60%未満である場合には、ジルコニウム材料の集合組織が不均一であって水素脆化抵抗性が低下するという問題があり、熱間圧延時の圧下率が80%以上である場合には、向後の加工性に問題があると報告されている。
熱間圧延された圧延材は、被覆されたステンレス鋼板(Stainless Steel Plate)を除去した後、水:硝酸:フッ酸の体積比が50:40:10である酸洗溶液を用いて酸化膜及び不純物を除去し、後続の工程のためにワイヤーブラシ(Wire Brush)を用いて、残っている酸化膜を完全に除去した。
【0019】
(4)1次中間熱処理及び1次冷間圧延
熱間圧延後の残留応力を除去し、1次冷間加工の際に試験片の破損を防ぐために、約580〜590℃で約3〜4時間真空度を10−5torr以下に維持して1次真空熱処理を行った。
中間真空熱処理は、再結晶熱処理温度まで上昇させて熱処理することが好ましく、もし上記の温度範囲から外れる場合には、腐食抵抗性が低下する問題が発生するおそれがある。
1次中間真空熱処理済みの前記圧延材に対して、1パスあたり約0.3mmの間隔で約40〜50%の圧下率で1次冷間圧延を行った。
(5)2次中間真空熱処理及び2次冷間圧延
1次冷間圧延された圧延材に対して570〜580℃で約2〜3時間2次中間真空熱処理を行った。
もし前記中間熱処理の温度から外れる場合には、腐食抵抗性が低下する問題が発生するおそれがある。
2次中間真空熱処理済みの前記圧延材に対して、1パスあたり約0.3mmの間隔で約50〜60%の圧下率で2次冷間圧延を行った。
【0020】
(6)3次中間真空熱処理及び3次冷間圧延
2次冷間圧延された圧延材に対して570〜580℃で2〜3時間3次中間真空熱処理を行った。
もし前記中間熱処理の温度から外れる場合には、腐食抵抗性が低下する問題が発生するおそれがある。
3次中間真空熱処理済みの前記圧延材に対して1パスあたり約0.3mmの間隔で約30〜40%の圧下率で3次冷間圧延を行った。
(7)最終真空熱処理
3次冷間圧延された圧延材の最終熱処理を10−5torr以下の高真空雰囲気で行う。
最終熱処理は460〜580℃で8時間行った。
本発明に係るジルコニウム合金の具体的な合金組成及び最終熱処理温度は、表1にまとめた。
【0021】
【表1】
【0022】
<比較例1〜2>
比較例1〜2で、原子力発電所で使用されている商用のジルコニウム合金であるジルカロイ−4の被覆管を使用した。
【0023】
<実験例1>耐食性実験
本発明に係るジルコニウム合金組成物の耐食性を調べるために、次の腐食試験を行った。
実施例1〜12のジルコニウム合金を用いて上記の製造工程で板材試験片を製造した後、サイズ20mm×20mm×1.0mmの板材腐食試験の試験片を製作し、#400で#1200のSiC研磨紙を用いて段階別に機械的研磨を行った。
表面研磨済みの試験片は、水:硝酸:フッ酸=50:40:10(体積比)の溶液を用いて酸洗処理し、アセトンで超音波洗浄した後、乾燥機で24時間以上十分に乾燥させた。
合金の腐食程度を測定するために、オートクレーブ(autoclave)への装入前に前記合金の表面積及び初期重量を測定した。
装入された試験片は、360℃、18.6MPaで純水雰囲気及び70ppm Li水雰囲気のスタティックオートクレーブ(static autoclave)を用いて100日間腐食試験を行った。
腐食試験を行うとき、実施例1〜12だけでなく、比較例1の商用ジルカロイ−4を一緒に入れて試験した。
腐食試験の後、260日間合計8回にわたって試験片を取り出してそれぞれの重量を測定した後、重量増加量を計算して腐食の程度を定量的に評価した。その結果を下記表に示す。
【0024】
以下では、腐食試験の結果を1)タンタルのない状態でリンを0.02重量%と0.05重量%で添加したときのそれぞれの結果、及び2)リン成分が0.05重量%であるときにタンタルを0.03重量%と0.1重量%で添加したときのそれぞれの結果に分けて考察する。この場合、上記の1)と2)の両方ともで、最終熱処理温度がそれぞれ460℃、520℃、580℃であるときの3つの場合について実験がすべて行われた。
タンタルのない状態でリンを0.02重量%と0.05重量%で添加したときの結果
【0025】
【表2】
【0026】
前記表2より、リンが添加されていない比較例1の場合と、リンが0.02%添加され且つ最終熱処理温度が460℃である場合との耐食性の差が顕著であることが分かる。特に、リンの添加量が0.02重量%である実施例1、5及び9の場合よりも、リンの添加量が0.05%である実施例2、6及び10の場合がさらに高い耐食性を示すことが分かる。
したがって、リンの成分比に関連し、リンが少量でも添加された場合には耐食性に著しい差があるので、実施例1のリンが0.02重量%であることからみて、リンの添加量が0.01重量%である場合からは明らかな耐食性の向上があることが予測される。
但し、耐食性の著しい向上を示す場合は、実験数値が0.02重量%乃至0.07重量%の場合であると看做すことができる。実施例2、6及び10では、リンの成分は0.05重量%であるが、リンが0.02重量%である場合よりも、0.05重量%である場合に耐食性の増加が観測されるので、少なくとも著しい耐食性の向上は0.07重量%の場合にも維持できることが十分に予測される。
【0027】
2)リン成分が0.05重量%である状態で、タンタルを0.03重量%と0.1重量%で添加したときの結果
【0028】
【表3】
【0029】
実施例2、6及び10はタンタルなしにリンのみ添加された場合であり、実施例3、7及び11はタンタルが0.03重量%添加された場合であり、実施例4、8及び12はタンタルが0.1重量%添加された場合である。
タンタルが0.1重量%である場合には、最終熱処理温度460℃の実施例4と最終熱処理温度520℃の実施例8では著しい耐食性の増加があり、タンタルが0.03重量%である場合には、微々たるものであるけれども、やや耐食性の増加があることが観察される。
したがって、タンタルは、成分比が0.01重量%〜0.15重量%である場合に耐食性の増加があることが実験結果から予測され、さらに著しい耐食性の増加は0.03重量%〜0.1重量%の場合であることが実験によって証明される。
【0030】
<実験例2>クリープ実験
本発明に係るジルコニウム合金組成物のクリープ抵抗性を調べるために、次のクリープ試験を行った。
実施例1〜4のジルコニウム合金を用いて上記の製造工程で板材試験片を製造した後、クリープ試験片を製作した。
また、クリープ特性を比較するために、比較例1の商用被覆管を模写して、同じ工程で板材タイプの比較例2のジルカロイ−4試験片を製作した。このとき、比較例2の最終熱処理温度を実施例1〜4、比較例1と同様の条件である460℃にしてクリープ試験を行った。
クリープ試験は、350℃で120MPaの一定荷重を加えて120時間行った。その試験結果を比較例2の結果と比較して表4に示した。
【0031】
【表4】
【0032】
表4に示すように、本発明に係るジルコニウム合金組成からなる実施例1〜4は、350℃、120MPaの応力条件で10日間評価した結果、クリープ変形量が0.22〜0.34の範囲と測定された。特に、Taの量が増加するほどクリープ変形量が非常に減少した。一方、比較例2のクリープ変形量は、0.46であって、実施例1〜4よりも遥かに大きいことが分かる。
したがって、クリープ変形に対する抵抗特性は、リンが少量でも添加される場合にその効果があることが分かり、タンタルの添加量が増加するほどクリープ変形に対する抵抗特性は著しく高まることが分かる。
以上で説明した本発明は、前述した実施例及び添付図面によって限定されるものではない。本発明の技術的思想を逸脱することなく。様々な置換、変形及び変更を加え得ることは、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
図1
図2