(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6588165
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】内燃機関の運転中に使用される燃料の組成を求めるための方法
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20191001BHJP
【FI】
F02D45/00 364K
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-532392(P2018-532392)
(86)(22)【出願日】2016年11月24日
(65)【公表番号】特表2018-538477(P2018-538477A)
(43)【公表日】2018年12月27日
(86)【国際出願番号】EP2016078736
(87)【国際公開番号】WO2017108322
(87)【国際公開日】20170629
【審査請求日】2018年8月20日
(31)【優先権主張番号】102015226138.7
(32)【優先日】2015年12月21日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】508097870
【氏名又は名称】コンチネンタル オートモーティヴ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Continental Automotive GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】トビアス ブラウン
(72)【発明者】
【氏名】ゲアハート ハフト
(72)【発明者】
【氏名】ライナー リスト
【審査官】
平井 功
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−196736(JP,A)
【文献】
特開2012−241554(JP,A)
【文献】
特開平6−123246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00−45/00
F02D 13/00−28/00
G01M 15/00−15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の通常運転に使用される燃料の組成を求めるための方法であって、
前記内燃機関のシリンダに対応付け可能な、該内燃機関の吸気マニホールド内の動的圧力振動が、吸気同期した燃料噴射の際の所定の動作点において通常運転中に測定され、そこから対応する圧力振動信号が生成され、同時に、前記内燃機関のクランクシャフト位相角度信号が求められ、
前記圧力振動信号から、離散フーリエ変換を用いて、測定された圧力振動の選択された信号周波数の位相位置実際値が、前記クランクシャフト位相角度信号に関連して求められる、方法において、
求められた前記位相位置実際値に基づき、異なる燃料組成に対する同じ信号周波数の基準位相位置を用いて、現下で使用されている燃料の組成が求められることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記基準位相位置は、燃料組成に依存して基準値特性マップに提供されているか、または前記基準位相位置と燃料組成との間の関係をマッピングしているモデル関数が提供されている、請求項1記載の方法。
【請求項3】
以下のさらなる動作パラメータ、すなわち、
前記吸気マニホールド内の吸入媒体の温度、
前記内燃機関の冷却に使用される冷媒の温度、
前記内燃機関のエンジン回転数、
のうちの少なくとも1つが、使用される燃料の燃料組成を求める際にさらに用いられる、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記選択された信号周波数の位相位置実際値を求めること、ならびに前記内燃機関に対応付けられた電子計算ユニットを用いて現下で使用されている燃料の組成を求めることが行われ、前記基準値特性マップまたは前記モデル関数は、前記電子計算ユニットの少なくとも1つの記憶領域に記憶されている、請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記選択された信号周波数の前記基準位相位置は、事前に基準内燃機関において、異なる燃料組成に依存して求められる、請求項1または2記載の方法。
【請求項6】
前記選択された信号周波数の前記基準位相位置と、対応付けられた燃料組成とから、前記選択された信号周波数の前記基準位相位置と燃料組成との間の関係をマッピングするモデル関数が導出される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記選択された信号周波数の前記基準位相位置を事前に求めることは、異なる既知の燃料組成の基準燃料を使用した、基準内燃機関での吸気同期した燃料噴射の際の少なくとも1つの所定の動作点における測定によって特徴付けられ、
前記選択された信号周波数の前記基準位相位置を決定するために、
前記基準内燃機関のシリンダに対応付け可能な、前記吸気マニホールド内の前記動的圧力振動が運転中に測定され、対応する圧力振動信号が生成され、
同時にクランクシャフト位相角度信号が求められ、
測定された前記圧力振動の前記選択された信号周波数の前記基準位相位置が、前記クランクシャフト位相角度信号に関連して、前記圧力振動信号から離散フーリエ変換を用いて求められ、
求められた基準位相角度が、対応付けられた燃料組成に依存して前記基準値特性マップに記憶される、
請求項5記載の方法。
【請求項8】
前記選択された信号周波数は、吸気周波数または吸気周波数の倍数である、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記動的圧力振動は、前記吸気管内に標準装備された圧力センサを用いて測定される、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
クランクシャフト位置フィードバック信号が、歯付きホイールとホールセンサとによって求められる、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記電子計算ユニットは、前記内燃機関の制御のためのエンジン制御機器であり、該エンジン制御機器によって、前記内燃機関の制御のためのさらなる制御パラメータまたは制御ルーチンの適合化が、求められた燃料組成に依存して行われる、請求項4から10までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の運転中の吸気管圧力信号から内燃機関の運転中に使用される燃料の組成を求めるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本願との関係において、および以下では略して単に内燃機関とも称される往復動内燃機関は、1つ以上のシリンダを有しており、このシリンダ内に、それぞれ1つの往復動ピストンが配置されている。往復動内燃機関の原理を説明するために、以下では
図1を参照するが、この
図1は、単気筒の、場合によっては多気筒でもある内燃機関のシリンダを、最も重要な機能ユニットと共に例示的に示している。
【0003】
各往復動ピストン6は、直線的に可動なように各シリンダ2内に配置されており、シリンダ2と共に、燃焼室3を取り囲む。各往復動ピストン6は、いわゆるコネクティングロッド7を介して、クランクシャフト9の各クランクピン8に接続されており、クランクピン8は、クランクシャフト回転軸9aに対して偏心的に配置されている。燃焼室3内での燃料空気混合気の燃焼によって、往復動ピストン6は、直線的に「下方へ」駆動される。往復動ピストン6のこの並進ストローク運動は、コネクティングロッド7とクランクピン8とによって、クランクシャフト9に伝達され、クランクシャフト9の回転運動に変換され、この回転運動は、その慣性質量に基づきシリンダ2内の下死点を越えた後に、往復動ピストン6を再び、反対方向の「上方へ」、上死点まで動かす。内燃機関1の継続的な動作を可能にするために、シリンダ2のいわゆる動作周期の間、まずは、燃焼室3に燃料空気混合気が充填され、この燃料空気混合気が燃焼室3内で圧縮され、次いで点火され(ガソリンエンジンの内燃機関のケースでは点火プラグを用いて点火され、ディーゼルエンジンの内燃機関のケースでは自己着火によって点火され)、往復動ピストン6の駆動のために燃焼され、最終的に、燃焼後に残留する排気ガスが燃焼室3から掃気される。このような経過を継続的にくり返すことによって、燃焼エネルギーに比例する仕事量が提供される、内燃機関1の継続的な運転が生じる。
【0004】
エンジンコンセプトに応じて、シリンダ2の動作周期は、クランクシャフトの1回転(360°)にわたって2つに分割されるサイクル(2サイクルエンジン)かまたはクランクシャフトの2回転(720°)にわたって4つに分割されるサイクル(4サイクルエンジン)に分類される。
【0005】
自動車用の原動機として、今日までは4サイクルエンジンが使用されてきた。吸気サイクルでは、往復動ピストン6の下降移動の際に、(
図1中に代替案として破線で示されている噴射弁5aを用いた吸気管噴射の場合には)燃料空気混合気21が、あるいはまた(噴射弁5aを用いた燃料直噴の場合には)新気だけが、吸気マニホールド20から燃焼室3内に導入される。続く圧縮サイクルでは、往復動ピストン6の上昇移動の際に、燃料空気混合気または新気が燃焼室3内で圧縮され、ならびに場合によっては別個に燃料が噴射弁5を用いて噴射される。続く動作サイクルでは、燃料空気混合気が、例えばガソリンエンジンの内燃機関の場合、点火プラグ4を用いて点火されて燃焼し、往復動ピストン6の下降移動の際に、仕事量を提供しつつ膨張する。最終的に、掃気サイクルでは、往復動ピストン6の新たな上昇移動の際に、残留する排気ガス31が燃焼室3から排気マニホールド30へ掃気される。
【0006】
内燃機関1の吸気マニホールド20または排気マニホールド30に対する燃焼室3の仕切りは、通常は、そしてとりわけここで基礎とされる例では、吸気弁22および排気弁32を介して行われる。これらの弁の駆動制御は、現下の従来技術によれば、少なくとも1つのカムシャフトを介して行われる。図示の例は、吸気弁22を操作するための吸気側カムシャフト23と、排気弁32を操作するための排気側カムシャフト33とを有している。これらの弁と各カムシャフトとの間には、多くの場合、さらに別の、ここでは図示されていない、動力伝達用の機械的構成部品が存在しており、これらの構成部品には、弁の遊びを補償する手段も含まれ得る(例えばバケットタペット、ロッカアーム、ドラッグレバー、タペットロッド、液圧タペット等)。
【0007】
吸気側カムシャフト23および排気側カムシャフト33の駆動は、内燃機関1自体を介して行われる。この目的のために、吸気側カムシャフト23および排気側カムシャフト33は、それぞれ、例えば歯付きホイール、スプロケットまたはプーリのような好適な吸気側カムシャフト制御アダプタ24と排気側カムシャフト制御アダプタ34とを介して、例えば歯付きホイール伝動装置、制御チェーンまたは歯付き制御ベルトを有する制御伝動装置40を用いて所定の位置で相互に結合され、さらにクランクシャフト9に対しては、対応する歯付きホイール、スプロケットまたはプーリとして形成された相応のクランクシャフト制御アダプタ10を介して、クランクシャフト9に結合されている。この接続により、吸気側カムシャフト23および排気側カムシャフト33の回転位置は、クランクシャフト9の回転位置に関連して、基本的に定められている。
図1では、例示的に、吸気側カムシャフト23と排気側カムシャフト33とクランクシャフト9との間の結合が、プーリおよび歯付き制御ベルトを用いて示されている。
【0008】
動作周期にわたって進むクランクシャフトの回転角度は、以降では動作位相または単に位相と称する。動作位相内で進むクランクシャフトの回転角度は、対応して位相角度と称する。クランクシャフト9の現下の各クランクシャフト位相角度は、クランクシャフト9またはクランクシャフト制御アダプタ10に接続された位置発信器43と、対応付けられたクランクシャフト位置センサ41とを用いて、継続的に検出することができる。この場合、位置発信器43は、例えば、周面にわたって等間隔に分散して配置された複数の歯を有する歯付きホイールとして構成されてもよく、その場合は、個々の歯の数が、クランクシャフト位相角度信号の分解能を決定する。
【0009】
同様に、場合によっては付加的に、吸気側カムシャフト23および排気側カムシャフト33の現下の位相角度を、対応する位置発信器43と対応付けられたカムシャフト位置センサ42とを用いて、継続的に検出することができる。
【0010】
各クランクピン8とそれに伴う往復動ピストン6、吸気側カムシャフト23とそれに伴い各吸気弁22、ならびに排気側カムシャフト33とそれに伴い各排気弁32は、所定の機械的結合によって、相互に所定の関係で、クランクシャフトの回転に関連して運動するので、これらの機能コンポーネントは、クランクシャフトに同期して各動作位相を進む。これにより、往復動ピストン6、吸気弁22および排気弁32の各回転位置ならびにストローク位置を、各伝達比の考慮のもとで、クランクシャフト位置センサ41によって設定された、クランクシャフト9のクランクシャフト位相角度に関連付けることが可能である。したがって、理想的な内燃機関の場合、各所定のクランクシャフト位相角度には、所定のクランクピン角度、所定のピストンストローク、所定の吸気側カムシャフト角度およびひいては所定の吸気弁ストローク、ならびに所定の排気側カムシャフト角度およびひいては所定の排気弁カムシャフトストロークを対応付け可能である。すなわち、上述した全てのコンポーネントは、回転するクランクシャフト9と同位相であるか、または同位相で動く。
【0011】
しかしながら、近年の内燃機関1では、クランクシャフト9と、吸気側カムシャフト23および排気側カムシャフト33との間の機械的な結合区間の内部に、クランクシャフト9と、吸気側カムシャフト23および排気側カムシャフト33との間で所望の制御可能な位相シフトを生じさせる追加のアクチュエータが存在していることがあり、例えば吸気側カムシャフトアダプタ24および排気側カムシャフトアダプタ34内に統合されていてもよい。これらは、いわゆる可変動弁機構における、いわゆる位相分周器として公知である。
【0012】
(排気、燃費、性能、滑らかな動作等に関する)内燃機関の最適な動作のために、吸気サイクル中に吸入された新鮮ガスチャージはよく知られており、調量すべき燃料量は、例えば、空気過剰率(λ)=1での運転、すなわち調量すべき燃料の完全燃焼に必要な最低量の酸素のもとでの運転を保証できるようにするために、極力正確にそれに一致させるべきである。
【0013】
吸入された新鮮ガスチャージは、内燃機関の構造的条件、現在の動作点、ならびに例えばスロットル弁などの様々な調整装置の現在の設定など、様々な要因に依存する。新鮮ガスチャージを決定するための従来技術は、いわゆる基準内燃機関での発生するすべての動作状態における測定(回転数、負荷、すべてのアクチュエータの駆動制御、異なるバルブストローク、スロットルの駆動制御、吸排気弁のための位相分周器の駆動制御、排気ガスターボチャージャ、コンプレッサ等)と、これらの測定値(またはそれらからの導出値、または挙動を反映するモデルアプローチ)を、対応する大量生産された内燃機関のエンジン制御機器の対応する特性マップに記憶することからなる。同一構造で大量生産された同じ型式のすべての内燃機関は、基準内燃機関で生成された基準データセットによって運転される。したがって、新鮮ガスチャージは、一次近似において既知であると仮定することができる。
【0014】
次いで、関連する調量すべき、特に噴射すべき燃料量が、燃料タイプ、燃料品質または燃料組成に依存する、それぞれの燃料の所定の空燃比(A/F比)に従って算出される。
【0015】
つまり、使用される燃料に応じて違いが生じる。そのため、例えば、ハイオクタンガソリンとエタノールとからなる混合燃料の場合には、以下の空燃比、すなわち、
100vol%ハイオクタンガソリン+0vol%エタノール(E0)=>14.5
75vol%ハイオクタンガソリン+25vol%エタノール(E25)=>13.1
50vol%ハイオクタンガソリン+50vol%エタノール(E50)=>11.8
25vol%ハイオクタンガソリン+75vol%エタノール(E75)=>10.4
0vol%ハイオクタンガソリン+100vol%エタノール(E100)=>9.0が存在する。
【0016】
エタノール割合は、混合燃料の名称においては、それぞれ体積パーセントで与えられる。すなわち、混合燃料E25は、75vol%のハイオクタンガソリンと25vol%のエタノールとからなる。
【0017】
したがって、燃費、滑らかな動作および排気に関連して、内燃機関を最適に運転させるためには、それぞれの現下の運転で使用されている燃料の組成も極力知られていなければならない。なぜなら、そうしないと誤って調量される燃料量が生じる可能性があるからである。さらに、様々な燃料または燃料組成は、異なる特性、例えば異なるアンチノック特性などを有し得る。このことは、運転の最適化のために、例えば噴射時期や点火時期などのさらなる適合化を必要とすることがある。
【0018】
燃料は、いつでも同じ品質または同じ組成で利用されるものとは限らないので、ここでは、給油から給油までの間に、内燃機関の運転に悪影響を及ぼす違いが生じる可能性がある。
【0019】
この理由から、燃料組成または燃料品質を求めることを課題とする、様々な方法および装置が既に従来技術から公知である。
【0020】
そのため、例えば、独国特許発明第102009031159号明細書では、燃料品質、特に燃料の混合組成を決定するための方法および装置が開示されている。この方法は、燃料の電気的パラメータをロータとステータとを有する電気モータを用いて決定することに基づいており、ここでは、ロータとステータとの間のギャップにおいて、その中にある燃料の電気的パラメータが決定される。この電気的パラメータは、燃料品質の尺度になる。
【0021】
また独国特許発明第102009017207号明細書からも、例えば、燃料品質算出モジュールを用いて、燃料品質値が、エンジンのトルクと、第1の期間にわたって測定されるエンジン回転数変化とに基づいて算出される、燃料品質を検出するための方法が公知である。
【0022】
さらに、独国特許発明第102011077404号明細書にも、燃料高圧蓄積器内への所定の燃料差分吐出量の高精度な供給に基づく、燃料タイプを決定するための方法が開示されている。対応する圧力上昇曲線からは、測定値曲線が求められ、この測定値曲線は、関連する制御装置内に記憶されている、異なる燃料品質のための比較値曲線と比較される。この測定値曲線が、比較値曲線と十分に一致する場合には、対応する燃料品質が決定される。
【0023】
これらの公知の方法は、しばしば、追加のセンサを必要とするか、あるいは検出が困難な周辺環境の影響に基づいて、煩雑な実施にならざるを得ず、結果として満足は得られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
それゆえ、ここでの課題は、作動中の運転の最適化のための対応する動作パラメータの適合化を実行できるようにするために、できるだけ、追加のセンサ配置と装置技術的なコストなしで、現下で作動中の運転に使用される燃料の品質または組成を可及的に正確に決定することができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
この課題は、独立請求項に記載された、内燃機関の通常運転に使用される燃料の組成を求めるための本発明による方法によって解決される。本発明による方法の発展形態および変化実施形態は、従属請求項の態様である。
【0026】
本発明による方法によれば、内燃機関のシリンダに対応付け可能な、内燃機関の吸気マニホールド内の動的圧力振動が、吸気同期した燃料噴射の際の所定の動作点において通常運転中に測定され、そこから対応する圧力振動信号が生成される。同時に、一種の基準または参照信号として、内燃機関のクランクシャフト位相角度信号が求められる。
【0027】
可能な動作点は、例えば、所定の回転数のもとでのアイドリング運転であろう。吸気同期した噴射とは、この場合、吸気弁の開放のもとで新鮮ガスが燃焼室内に供給される期間における噴射を意味するものと理解されたい。このことは、吸気弁の同時開放のもとで、吸気管内へ燃料を噴射することによって、または各シリンダの燃焼室内へ燃料を直接噴射することによって行うことができる。通常運転とは、例えば自動車における内燃機関の所定の運転を表し、ここでの内燃機関とは、同一構造で大量生産された内燃機関のうちのサンプルである。そのような内燃機関のさらなる慣用的な呼称は、シリーズ内燃機関またはフィールド内燃機関であろう。
【0028】
ここでは、圧力振動信号から、離散フーリエ変換を用いて、測定された圧力振動の選択された信号周波数の位相位置実際値が、クランクシャフト位相角度信号に関連して求められる。次いで引き続き、求められた位相位置実際値に基づき、異なる燃料組成に対する同じ信号周波数の基準位相位置を用いて、現下で使用されている燃料の組成が求められる。
【0029】
本発明は、吸気同期した燃料噴射の前提条件のもとで、運転に使用される燃料の組成と、内燃機関の吸気マニホールド内の動的圧力振動の位相位置との間には、一義的な関係が成り立つという認識に基づいている。この関係は、特にオットーエンジンの場合には、例えば、ハイオクタン燃料およびエタノールにおける異なる割合に関連して明らかになる。
【0030】
この関係に対する物理的原因は、使用される燃料組成の異なる蒸発エンタルピーである。例えば、E0燃料は、約350kJ/kgの蒸発エンタルピーを有する。それに対してE100燃料は、約920kJ/kgの蒸発エンタルピーを有する。吸気同期した噴射では、これらの異なる蒸発エンタルピーは、新鮮ガスチャージの異なる冷却につながり、これによって、再び新鮮ガスチャージにおける密度とひいては音響波伝播速度とが変化し、最終的には吸気マニホールド内の圧力波の伝播が測定可能に変化する。
【0031】
内燃機関の吸気マニホールド内で取り出された圧力振動信号の分析のために、この信号に離散フーリエ変換(DFT)が施される。この目的のために、高速フーリエ変換(FFT)として公知のアルゴリズムを、DFTの効率的な計算に使用することができる。ここでDFTを用いることによって、圧力振動信号は、個々の信号周波数に分解され、それらは引き続き、それらの振幅および位相位置に関して別個に簡単化されて分析することができる。本願のケースでは、特に、圧力振動信号の選択された信号周波数の位相位置が、使用される燃料組成に依存することが明らかになった。この目的のために、好ましくは、内燃機関の基本周波数または第1高調波としての吸気周波数に対応する信号周波数か、または吸気周波数の倍数、つまり第2高調波〜第n高調波に対応する信号周波数のみが使用され、この場合、この吸気周波数は再び内燃機関の回転数と一義的な関係になる。次いで、少なくとも1つの選択された信号周波数に対して、平行して検出されるクランクシャフト位相角度信号を用いて、選択されたこれらの信号周波数の位相位置がクランクシャフト位相角度に関連して求められる。
【0032】
ここでは圧力振動信号の選択された信号周波数のそのように求められた位相角度から、燃料組成を求めるために、求められた位相位置が、同じ信号周波数のいわゆる基準位相位置と比較される。これらの基準位相位置には、対応する燃料組成が一義的に対応付けられている。そのため、求められた位相位置と一致する基準位相位置を介して、対応付けられた燃料組成を推定することが可能になる。
【0033】
本発明の基礎となる内燃機関の機能性、ならびに燃料組成と、吸気管内で測定された圧力振動信号または所定の選択された信号周波数の位相位置との間の関係を説明するために、以下の図面が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】ここでは略して内燃機関とも称される往復動内燃機関を主要な機能コンポーネントと共に示した簡略図
【
図2】吸気周波数の位相位置と使用燃料のエタノール割合との間の依存性を示すための線図
【
図3】吸気周波数の基準位相位置と様々な基準燃料の各エタノール割合との対応付けのための線図
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明による方法の実施の際には、前述したパラメータ(変数)の関係または依存性は、相互に一義的に分かっていることを前提とする。
図2は、この関係を、吸気周波数の位相位置に基づき、燃料中のエタノール割合に依存して示す。ここでは、燃料中のエタノール割合の増加に伴い、吸気周波数の位相位置が、より小さい値の方へシフトしていることが明らかである。個々の測定点MP0〜MP100の間の補間により、ほぼ線形の経過を有する連続的な曲線100が生じる。
【0036】
それゆえ、本発明による方法の簡単な実施のために、同一構造で大量生産された内燃機関の基準内燃機関において、基準燃料組成を用いて事前に求められた、関連する燃料組成に依存する基準位相位置が基準特性マップに記憶され、この特性マップから比較のために基準位相位置を呼び出すことができる。このような特性マップの最も簡単な形態は、
図3に例示的に示されており、これは、内燃機関の所定の動作点に対して、圧力振動信号の選択された所定の信号周波数(このケースでは吸気周波数)の基準位相位置と、関連する各燃料組成(ここではエタノール割合)との間の依存性が、基準曲線200の形態でマッピングされている線図である。
【0037】
対応する広範な特性マップは、例えば、内燃機関の異なる動作点および異なる信号周波数に対する相応の基準曲線を含むことができる。
【0038】
したがって、現下で使用されている燃料の組成を求めることは、この例では、次のように簡単な方法で行うことが可能である。すなわち、
図3中に破線で分かり易く示されているように、内燃機関の通常運転における吸気周波数の求められた位相位置実際値を起点にして(
図3中の位相位置127.5)、基準曲線200上で関連のある点210が求められ、さらに再びこの点210を起点にして、関連する燃料組成(ここでは61vol%のエタノール割合)が求められる。
【0039】
さらなる代替案としての手段は、基準位相位置と燃料組成との間の関係をマッピングしている、対応する基準曲線を特徴付けるモデル関数を提供し、それにより求められた位相位置実際値を設定して燃料組成を現下で算出することからなる。この代替案の利点は、総じてより少ない記憶容量が提供されればよいという点にある。
【0040】
この方法の改善形態において、使用される燃料の組成を求める精度をさらに高めるために、燃料組成を求める際に内燃機関の追加動作パラメータを用いることが可能である。この目的のために、以下のさらなる動作パラメータ、すなわち、
・吸気マニホールド内の吸入媒体の温度、
・内燃機関の冷却に使用される冷媒の温度
・内燃機関のエンジン回転数、
のうちの少なくとも1つを、使用される燃料の燃料組成を求める際に用いることが可能である。
【0041】
吸入媒体の温度、つまり実質的に吸気温度は、媒体内の音速に直接影響を及ぼし、したがって吸気マニホールド内の圧力伝播に直接影響を及ぼす。この温度は、吸気マニホールド内で測定することができ、したがって既知である。
【0042】
冷媒の温度もまた、吸気ポートおよびシリンダ内の熱伝達によって、吸入媒体中の音速に影響を及ぼす可能性がある。この温度も通常は監視され、そのために測定され、いずれにせよ準備されているため、燃料組成を求める際に用いることができる。
【0043】
エンジン回転数は、内燃機関の動作点を特徴付けるパラメータの1つであり、吸気ポート内の圧力伝播のために利用可能な時間に影響を及ぼす。このエンジン回転数も常時監視されており、そのため燃料組成を求める際に利用可能である。
【0044】
したがって、前述した追加パラメータは、いずれにせよ利用可能であるか、または簡単な方法で求めることができる。前述したパラメータが、圧力振動信号の選択された信号周波数の位相位置にそれぞれ与える影響は、この場合、既知であることが前提とされ、例えば、基準内燃機関の測定の際に求められ、基準値特性マップに共に記憶されたものである。また、モデル関数を用いた燃料組成の算出の際に、対応する補正係数または補正関数を用いた包含も、燃料組成を求める際のこれらの追加のさらなる動作パラメータを考慮する手段を表す。
【0045】
本発明による方法の有利に使用可能な実施形態では、選択された信号周波数の位相位置実際値を求めること、ならびに内燃機関に対応付けられた電子計算ユニット、例えばエンジンの中央制御ユニット(CPU)を用いて現下で使用されている燃料の組成を求めることが行われ、この場合、基準値特性マップまたはモデル関数が、電子計算ユニットの少なくとも1つの記憶領域に記憶される。このようにして、本発明による方法を、内燃機関の運転中に、自動的に、非常に迅速にかつ反復的に実行することができる。
【0046】
既に上述したように、異なる燃料組成に対する基準位相位置が、本方法の実施のために利用可能であることを前提とする。
【0047】
この目的のために、本発明による方法の拡張では、選択された信号周波数の基準位相位置が、事前に基準内燃機関において、異なる燃料組成に依存して求められる。ここでの基準内燃機関とは、対応する内燃機関の標準生産品と同一構造の内燃機関であり、この内燃機関では特に性能に影響を及ぼす構造的な許容偏差が存在しないことが保証される。これによって、燃料組成と位相位置との間の関係が可及的に正確にかつさらなる障害要因の影響なしで求められることが保証されるはずである。
【0048】
対応する基準位相位置を求めることは、基準内燃機関を用いて異なる動作点において、かつ、吸入された媒体の温度、冷媒温度またはエンジン回転数などのさらなる動作パラメータの設定または変更のもとで行うことができる。そのようにして作成された基準値特性マップは、次いで好ましくは、すべての大量生産された同一構造の内燃機関のもとで利用可能となり、それらは特に、内燃機関に対応付け可能な電子計算ユニットの記憶領域に格納させることができる。
【0049】
前述した、選択された信号周波数の基準位相位置を事前に求めることに続いて、選択された信号周波数の求められた基準位相位置と、対応付けられた燃料組成とからは、選択された信号周波数の基準位相位置と燃料組成との間の関係を少なくともマッピングするモデル関数を導出することができる。この場合、上述したさらなるパラメータも任意に共に包含させることができる。そのようにして、位相位置の設定のもとで、ならびに場合によっては上述した変数の包含のもとで、現下の燃料組成をその都度算出することができるモデル関数が作成される。
【0050】
その後は、モデル関数を、好ましくは、大量生産されたすべての同一構造の内燃機関のもとで利用可能であり、特に内燃機関に対応付け可能な電子計算ユニットの記憶領域に格納することができる。これらの利点は、モデル関数が、大規模な基準値特性マップよりも少ない記憶領域を要する点にある。
【0051】
一実施例では、選択された信号周波数の基準位相位置を事前に求めることは、異なる既知の燃料組成の基準燃料を使用した、基準内燃機関での吸気同期した燃料噴射の際の少なくとも1つの所定の動作点における測定によって行うことができる。この場合、選択された信号周波数の基準位相位置を決定するために、基準内燃機関のシリンダに対応付け可能な、吸気マニホールド内の動的圧力振動が、運転中に測定され、対応する圧力振動信号が生成される。
【0052】
同時に、動的圧力振動の測定のためにクランクシャフト位相角度信号が求められる。その結果、測定された圧力振動の選択された信号周波数の基準位相位置が、クランクシャフト位相角度信号に関連して、圧力振動信号からの離散フーリエ変換を用いて求められる。
【0053】
次いで、求められた基準位相角度は、対応付けられた燃料組成に依存して基準値特性マップに記憶される。このことは、燃料組成と選択された信号周波数の位相位置との間の依存性を高い信頼性のもとで求めることを可能にする。
【0054】
上述した手順は、データベースを拡張して、さらなるパラメータの影響を共に包含させるために、影響力のある所定の動作パラメータを、例えば様々な動作点で変更しながら反復されてもよい。このことは、運転中の本方法の実施を容易にさせ、次いで本方法の実施において場合によっては特定のパラメータの厳密な維持に依存しなくて済む。
【0055】
選択された信号周波数として、吸気周波数または吸気周波数の倍数を選択することが有利であることが判明している。これらの信号周波数のもとでは、位相位置の燃料組成への依存性が特に顕著に現れる。
【0056】
さらに好ましくは、本発明による方法を実施するために、吸気マニホールド内の動的圧力振動を、吸気管内に標準装備された圧力センサを用いて測定することが可能である。これは、追加の圧力センサが不要になるという利点を有し、これはコスト上の利点があることを意味する。
【0057】
さらなる一例では、本発明による方法を実施するために、クランクシャフト位置フィードバック信号を、歯付きホイールとホールセンサとを用いて求めることができ、それらは、クランクシャフトの回転を検出するために慣用の、場合によっては内燃機関内に既存のセンサ装置である。歯付きホイールは、ここでは例えば、フライホイールかまたはクランクシャフト制御アダプタ10(
図1も参照)の外周面に配置されている。これは、追加のセンサ装置が不要になるという利点を有し、これもコスト上の利点があることを意味する。
【0058】
本発明による方法を実施し、かつ基準値特性マップまたはモデル関数が記憶されている電子計算ユニットが、内燃機関の制御のためのエンジン制御ユニットであり、内燃機関の制御のための別の制御パラメータまたは制御ルーチンの適合化が、求められた燃料組成に依存して、エンジン制御機器によって行われる場合には、本発明による方法を特に有利に実施することができる。
【0059】
このことは、一方では、別個の電子計算ユニットが不要になり、そのため複数の計算ユニット間で、場合によっては障害を起こしやすい追加のインターフェースも存在しなくなるという利点を有する。他方では、本発明による方法は、内燃機関の制御ルーチンに統合された構成要素にもなり得るため、これによって、現下で使用されている燃料への内燃機関の制御パラメータまたは制御ルーチンの迅速な適合化を行うことができる。
【0060】
再度簡単に要約すると、内燃機関の運転に使用される燃料の組成を求めるための本発明による方法の核心は、通常の運転中に内燃機関の吸気マニホールド内の動的圧力振動が測定され、そこから対応する圧力振動信号が生成される方法である。同時に、クランクシャフト位相角度信号が求められる。圧力振動信号からは、測定された圧力振動の選択された信号周波数の位相位置実際値が、クランクシャフト位相角度信号に関連して求められ、この求められた位相位置実際値に基づき、異なる燃料組成に対する同じ信号周波数の基準位相位置を用いて、現下で使用されている燃料の組成が求められる。