(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6588275
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】合成樹脂製容器の製造方法
(51)【国際特許分類】
B65D 1/02 20060101AFI20191001BHJP
B65D 1/00 20060101ALI20191001BHJP
B29C 49/08 20060101ALI20191001BHJP
B29C 49/06 20060101ALI20191001BHJP
B29C 49/78 20060101ALI20191001BHJP
【FI】
B65D1/02 250
B65D1/00 120
B29C49/08
B29C49/06
B29C49/78
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-169522(P2015-169522)
(22)【出願日】2015年8月28日
(65)【公開番号】特開2017-43407(P2017-43407A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2018年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006909
【氏名又は名称】株式会社吉野工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】奥山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】塩川 満
【審査官】
家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−121852(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/044793(WO,A1)
【文献】
特開2007−119016(JP,A)
【文献】
特開2014−069441(JP,A)
【文献】
特開2006−117289(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0147097(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 1/00−1/48
B29C49/06
B29C49/08
B29C49/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
口部と胴部とを備えるボトル形状に形成されるとともに前記胴部に減圧吸収パネルを備える合成樹脂製容器の製造方法であって、
熱可塑性樹脂により有底筒状に形成されたプリフォームに、所定温度にまで加熱した液体を所定圧力で供給することにより当該プリフォームを液体ブロー成形して、前記胴部の密度が1.3695g/cm3以上であり、且つ、前記胴部における縦方向の結晶配向度と横方向の結晶配向度の合計値に対する前記横方向の結晶配向度の割合が44%未満であるポリエチレンテレフタレート製の合成樹脂製容器を製造することを特徴とする合成樹脂製容器の製造方法。
【請求項2】
前記胴部を断面略円形に形成する、請求項1に記載の合成樹脂製容器の製造方法。
【請求項3】
前記胴部に6枚の前記減圧吸収パネルを周方向に等間隔に並べて設ける、請求項1または2に記載の合成樹脂製容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口部と胴部とを備えたボトル形状に形成されるとともに胴部に減圧吸収パネルを備える合成樹脂製容
器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、果汁飲料やお茶等の飲料を収容する容器として、合成樹脂材料により口部と胴部とを備えるボトル形状に形成された合成樹脂製容器(例えばPETボトル)が用いられている。
【0003】
このような合成樹脂製容器(以下、単に「容器」という場合がある。)を果汁飲料等の飲料を収容する用途に使用する場合には内容液を殺菌する必要がある。そのため、当該容器への内容液の充填は、内容液を所定の温度(例えば、85℃以上)にまで加熱した状態で容器に充填する熱充填(ホットフィル)と呼ばれる手法により行われるのが一般的である。例えば、エアブロー成形により容器を成形する場合には、容器を成形した後、所定の温度に加熱された内容液を当該容器内に充填する。そして、その充填後に口部にキャップが装着され、次いで冷却工程において室温にまで冷却されることになる。
【0004】
しかしながら、内容液が熱充填された容器を冷却すると、当該冷却の際に容器内の内容液や空気の体積が減少し、これにより容器内に減圧が生じて胴部が陥没変形するおそれがある。そのため、熱充填を伴う用途に使用される容器では、その胴部に減圧吸収パネルを設け、容器内に生じた減圧を減圧吸収パネルの変形により吸収して、胴部が陥没変形するのを抑制するようにしている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
また、容器を形成する方法としては、液体によってブロー成形する方法(液体ブロー成形)も存在する。この液体ブロー成形により容器を成形しつつ当該容器内に内容液を充填する場合には、所定温度にまで加熱した液体を所定圧力でプリフォームに供給することにより、当該液体によりプリフォームが所定形状の容器に成形され、また、当該容器内に殺菌済みの内容液が充填されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−30486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のエアブロー成形により形成された容器と液体ブロー成形により形成された容器とでは、前記冷却時の変形挙動が異なる場合があり、液体ブロー成形で形成される容器の胴部に減圧吸収パネルを設けた場合であっても、胴部が周方向に不均一に変形するなど当該胴部の変形を十分に抑制することができない場合があるという問題点があった。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、液体ブロー成形により内容液が熱充填される場合においても、胴部に生じる減圧変形を十分に抑制することができる合成樹脂製容
器の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の合成樹脂製容器
の製造方法は、口部と胴部とを備えるボトル形状に形成されるとともに前記胴部に減圧吸収パネルを備える合成樹脂製容器
の製造方法であって、
熱可塑性樹脂により有底筒状に形成されたプリフォームに、所定温度にまで加熱した液体を所定圧力で供給することにより当該プリフォームを液体ブロー成形して、前記胴部の密度が1.3695g/cm
3以上であり、且つ、前記胴部における縦方向の結晶配向度と横方向の結晶配向度の合計値に対する前記横方向の結晶配向度の割合が44%未満である
ポリエチレンテレフタレート製の合成樹脂製容器を製造することを特徴とする合成樹脂製容器
の製造方法。
【0010】
本発明の合成樹脂製容器
の製造方法は、上記構成において、前記胴部
を断面略円形に形成
する構成とすることができる。
【0011】
本発明の合成樹脂製容器
の製造方法は、上記構成において、前記胴部に6枚の前記減圧吸収パネル
を周方向に等間隔に並べて設
ける構成とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、液体ブロー成形により内容液が熱充填される場合においても、胴部に生じる減圧変形を十分に抑制することができる合成樹脂製容
器の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施の形態である合成樹脂製容器の一例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明の一実施の形態である合成樹脂製容器をより具体的に例示説明する。
【0017】
本発明の合成樹脂製容器は、口部と胴部とを備えるボトル形状に形成されるとともに胴部に減圧吸収パネルを備える合成樹脂製容器であって、胴部の密度が1.3695g/cm
3以上であり、且つ、胴部における縦方向の結晶配向度と横方向の結晶配向度の合計値に対する横方向の結晶配向度の割合が44%未満であることを特徴とする合成樹脂製容器である。本発明の一実施の形態である合成樹脂製容器1を
図1に示す。
【0018】
図1に示す合成樹脂製容器1は、例えば果汁飲料やお茶等の飲料を収容する用途に用いられるものであり、円筒状の口部2、口部2に肩部3を介して連なる胴部4および胴部4の下端を閉塞する底部5を備えたボトル形状となっている。
【0019】
胴部4は断面略円形つまり略円筒形状となっており、胴部4を口部2に連ねる肩部3は略ドーム状に形成されている。
【0020】
胴部4には6枚の減圧吸収パネル6が周方向に等間隔に並べて設けられている。図中には3枚の減圧吸収パネル6のみが示されているが、胴部4の裏側にも同様に3枚の減圧吸収パネル6が設けられている。
【0021】
これらの減圧吸収パネル6は、それぞれ縦方向(図中上下方向)に延びる略長方形状に形成されるとともに胴部4の外周面に対して当該胴部4の内側に向けて陥没している。そして、これらの減圧吸収パネル6は、液体の充填後に口部2がキャップで閉じられた状態で液体(内容液)が冷却され、それに伴い合成樹脂製容器1の内部の減圧が生じたときに、胴部4の他の部分よりも優先的に陥没方向に変形して当該減圧を吸収することで胴部4の不正な変形を抑制することができるようになっている。
【0022】
なお、減圧吸収パネル6は上記構成に限らず、合成樹脂製容器1の内部に減圧が生じたときに当該減圧を吸収することができる構成であれば、その形状や枚数、配置等は種々変更可能である。特に、減圧吸収パネル6は、容器1の内部に液体が充填されても、胴部4の径方向外側に向けて膨出変形しない構成とすることができる。すなわち、エアブロー成形により形成される容器では、減圧吸収効果を高めるために、減圧吸収パネルを内容液が充填されると膨出変形するように構成するのが一般的であるが、液体ブロー成形により形成される容器では、内容液の充填と容器の成形とが同時に行われるため内容液の充填時に減圧吸収パネルが膨出変形することはないので、減圧吸収パネルとして膨出変形しないより簡素な構成のものを採用することができる。
【0023】
肩部3と胴部4との間には、胴部4を補強するとともに減圧吸収パネル6の変形が肩部3の側に進行することを防止するために、2本の上側環状凹リブ7が上下に並べて設けられている。同様に、胴部4と底部5との間には、胴部4を補強するとともに減圧吸収パネル6の変形が底部5の側に進行することを防止するために、2本の下側環状凹リブ8が上下に並べて設けられている。さらに、口部2の下方部にはネックリング9が一体に設けられている。
【0024】
口部2は、当該口部2を閉塞するためのキャップ(不図示)が装着可能な構成となっている。図示する場合では、口部2の外周面にはねじ山2aが設けられており、当該ねじ山2aにキャップをねじ結合させることで口部2を閉塞することができるようになっている。なお、口部2にねじ山2aに替えて環状突起を設け、アンダーカット形状を備えたキャップを口部2に打栓によって固定する構成とすることもできる。
【0025】
この合成樹脂製容器1は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)製とすることができる。つまり、合成樹脂製容器1はペットボトルに構成することができる。
【0026】
また、この合成樹脂製容器1は、本発明の一実施の形態である合成樹脂製容器の製造方法、すなわち熱可塑性樹脂により有底筒状(略試験管状)に形成されたプリフォーム(不図示)を液体ブロー成形することにより製造されたものとすることができる。より具体的には、合成樹脂製容器1は、熱可塑性樹脂により有底筒状に形成されたプリフォームを、延伸性を発現する所定温度にまで加熱し、当該加熱後のプリフォームに所定温度にまで加熱した液体を所定圧力で供給することにより製造することができる。この場合、液体ブロー成形時に加圧媒体として用いられる液体として最終的に製品として合成樹脂製容器1に収容される飲料等の内容液を用いることにより、成形後の合成樹脂製容器1への内容液の充填工程を省略して、その製造工程や製造装置の構成を簡略化することができる。
【0027】
この合成樹脂製容器1は、その胴部4の密度が1.3695g/cm
3以上であり、且つ、胴部4における縦方向(Machine Direction:MD方向)の結晶配向度と横方向(Transverse Direction:TD方向)の結晶配向度の合計値に対する当該横方向の結晶配向度の割合が44%未満となっている。なお、結晶配向度の胴部4における縦方向とは図中上下方向であり、横方向とは胴部4の周方向に沿う方向である。
【0028】
このような構成とすることにより、この合成樹脂製容器1は、所定温度にまで加熱された内容液が熱充填されるとともに口部2にキャップが装着され、次いで冷却工程において当該内容液が例えば室温にまで冷却されることにより当該合成樹脂製容器1の内部に減圧が生じたとしても、当該減圧を減圧吸収パネル6によって吸収するとともに胴部4がそれ自体の強度によって減圧に抗して、内容液が熱充填されることにより生じる胴部4の減圧変形を十分に抑制することができる。
【0029】
上記した胴部4の密度は、JIS K 7112 密度こうばい管法に基づき測定した。また、胴部4の結晶配向度は、胴部4を試験片として切りだし、偏光ATR FT−IR法により測定して得られたIRスペクトルのうち、1410cm
-1付近に見られるPET分子鎖中のベンゼン環の面内変角振動と1340cm
-1付近に見られるCH
2縦ゆれ振動の吸光度の比率により算出した。なお、結晶配向度は、前記試験片の内面側から測定した値と外面側から測定した値の平均値としている。
【0030】
胴部4の密度および胴部4における縦方向の結晶配向度と横方向の結晶配向度の合計値に対する当該横方向の結晶配向度の割合は、例えば、プリフォームの形状、ブロー成形によるプリフォームの縦方向および横方向への延伸倍率、プリフォームの加熱温度、供給する液体の温度、成形型の温度、ブロータイム等の条件を種々変更することにより上記範囲に設定される。
【実施例】
【0031】
本発明の効果を検証するために、それぞれ液体ブロー成形により
図1に示すのと同一の内容量500ml用のボトル形状に形成されるとともに、胴部の密度および胴部における縦方向の結晶配向度と横方向の結晶配向度が互いに相違するNO1〜11の11種類の合成樹脂製容器を用意し、これらの合成樹脂製容器について内容液が熱充填されることにより生じる胴部の減圧変形の有無について評価した。なお、合成樹脂製容器はポリエチレンテレフタレート製とし、液体ブロー成形の際にプリフォームに充填する液体の温度は85℃とした。また、液体ブロー成形後に口部にキャップを装着し、その後、室温にまで冷却した後に胴部の減圧変形の有無についての評価を行った。
【0032】
胴部変形の評価は、ノギス等の測定装置を用いて胴部の外径寸法を、その周方向に等間隔にずれる3方向について測定し、これら3方向における胴部の外径寸法の最大値と最小値との差を楕円度とし、この楕円度が上記3方向における胴部の外径寸法の平均値に対して5%未満であれば胴部の変形が十分に抑制されていると判断して○の評価とし、楕円度が上記3方向における胴部の外径寸法の平均値に対して5%以上であれば胴部の変形が十分に抑制されていないと判断して×の評価とした。なお、本実施例においては、胴部の3箇所の外径寸法を、それぞれ隣り合う減圧吸収パネルの間の柱状の部分において測定した。その評価結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
表1に示すように、胴部の密度が1.3695g/cm
3以上であり、且つ、胴部における縦(MD)方向の結晶配向度と横(TD)方向の結晶配向度の合計値に対する当該横(TD)方向の結晶配向度の割合が44%未満となるNO2〜4、6〜11の合成樹脂製容器(本発明の実施例の容器)は何れも胴部の変形が少なく、その評価は○であった。
【0035】
これに対し、胴部の密度が1.3681g/cm
3つまり1.3695g/cm
3未満となったNO1の合成樹脂製容器(比較例の容器)と、胴部における縦(MD)方向の結晶配向度と横(TD)方向の結晶配向度の合計値に対する当該横(TD)方向の結晶配向度の割合が44.19%つまり44%以上となったNO5の合成樹脂製容器(比較例の容器)は、胴部の変形が大きく、その評価は×であった。
【0036】
これらの結果から、本願発明の合成樹脂製容器のように、胴部の密度を1.3695g/cm
3以上とし、且つ、胴部における縦方向の結晶配向度と横方向の結晶配向度の合計値に対する当該横方向の結晶配向度の割合を44%未満とすることにより、内容液が熱充填されることにより胴部に生じる減圧変形を十分に抑制できることが確認できた。
【0037】
本発明は前記実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0038】
例えば、前記実施の形態においては、本発明の合成樹脂製容器1として
図1に示す形状のものを例示したが、口部2および胴部4を有するボトル形状であれば、合成樹脂製容器1の形状、容量ないし大きさは種々変更可能である。
【0039】
また、前記実施の形態においては、本発明の合成樹脂製容器1をポリエチレンテレフタレート製のものとしたが、これに限らず、他の合成樹脂材料により形成されたものとすることもできる。
【0040】
さらに、本願発明の合成樹脂製容器1の構成は、エアブロー成形により形成される合成樹脂製容器に適用できる場合も考えられる。
【符号の説明】
【0041】
1 合成樹脂製容器
2 口部
2a ねじ山
3 肩部
4 胴部
5 底部
6 減圧吸収パネル
7 上側環状凹リブ
8 下側環状凹リブ
9 ネックリング