(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記レンズ装置は、前記x方向および前記y方向のそれぞれの収束または発散を独立に調整可能とし、前記第1ウェハおよび前記第2ウェハの抵抗測定結果を用いて前記レンズ装置の動作パラメータを決定することにより、前記x方向および前記y方向のそれぞれの注入角度分布を調整することを特徴とする請求項1に記載のイオン注入方法。
前記第1ウェハは、ウェハ主面が(100)面である結晶性基板であり、前記第1ウェハの<110>方位と前記y方向との間のツイスト角が実質的に0度または45度となり、前記ウェハ主面の法線と前記基準軌道に沿う方向との間のチルト角が15度〜60度の範囲内となるように配置されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のイオン注入方法。
前記第2ウェハは、ウェハ主面が(100)面である結晶性基板であり、前記第2ウェハの<110>方位と前記y方向との間のツイスト角が15度〜30度の範囲内となり、前記ウェハ主面の法線と前記基準軌道に沿う方向との間のチルト角が実質的に0度となるように配置されることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のイオン注入方法。
前記第1ウェハおよび前記第2ウェハは、ウェハ主面のオフ角が0.1度以下の結晶性基板であることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のイオン注入方法。
前記第1ウェハの抵抗測定前にビーム照射後の前記第1ウェハにアニール処理を施すことと、前記第2ウェハの抵抗測定前にビーム照射後の前記第2ウェハにアニール処理を施すことの少なくとも一方をさらに備えることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載のイオン注入方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0014】
実施の形態を説明する前に、本発明の概要を述べる。本実施の形態に係るイオン注入装置は、イオンビームをx方向に往復走査させるビーム走査器と、往復走査されるイオンビームが照射されるウェハをy方向に往復運動させるプラテン駆動装置と、イオンビームに電界および磁界の少なくとも一方を作用させてイオンビームを収束または発散させる二以上のレンズ装置と、を備える。二以上のレンズ装置は、イオンビームに作用させる力を調整することにより、ウェハに入射するイオンビームの角度分布をx方向とy方向のそれぞれについて独立に調整できるように構成される。
【0015】
ウェハに入射するイオンビームの角度が変わると、イオンビームとウェハとの相互作用の態様が変化し、イオン注入の処理結果に影響を与えることが知られている。例えば、ウェハの結晶軸または結晶面に沿ってイオンビームが入射する場合、そうではない場合と比較して、ビームの入射面からより深い位置にまで注入イオンが到達するチャネリング現象が生じ、注入処理の結果として得られるウェハ内のキャリア濃度分布に影響を及ぼす。そのため、イオン注入工程では一般的に、イオンビームの進行方向(z方向)に対するウェハの傾斜角(チルト角)とウェハ表面に垂直な軸周りのウェハの回転角(ツイスト角)が調整され、ウェハに入射するビーム全体の平均値としての注入角度が制御される。
【0016】
ウェハに入射するイオンビームの角度特性には、ビーム全体の平均値としての入射角度の他にイオンビームを構成するイオン粒子群の角度分布がある。ウェハに入射するイオンビームは、わずかながらも発散または収束している場合があり、ビームを構成するイオン粒子群はある広がりを持つ角度分布を有する。このとき、ビーム全体の平均値としての入射角度がチャネリング条件を満たさない場合であっても、ビームの基準軌道から入射角度のずれた一部のイオン粒子の角度成分がチャネリング条件を満たす場合、その一部のイオンに起因するチャネリング現象が生じる。逆に、ビーム全体の平均値としての入射角度がチャネリング条件を満たす場合であっても、入射角度がずれた一部のイオン粒子の角度成分がチャネリング条件を満たさない場合、その一部のイオンに起因するチャネリング現象の抑制が生じる。したがって、ウェハ内に形成されるキャリア濃度分布の形状ないし範囲をより精密に制御するためには、ビームの角度分布についても正確に制御する必要がある。
【0017】
その一方で、ウェハに入射するイオンビームの角度分布を直接的に正確に測定することは難しい。イオンビームの角度分布は、例えば、ビームラインの上流と下流の異なる位置で計測したビーム形状を比較したり、ビームの一部をスリットに通過させ、スリット通過後の下流でのビーム形状をスリット形状と比較したりすることにより角度分布が算出される。つまり、ビーム進行方向のビーム形状の変化率からイオンビーム全体の発散または収束の程度が算出される。しかしながら、ビーム形状の変化から角度分布を算出する場合、ビーム形状に大きく影響しないような角度分布情報、例えば、ビームの中心付近の角度分布については正しく測定することができない。また、イオンビームを構成するイオン粒子が中性化して角度分布が変化する場合、中性化した粒子はファラデーカップで計測できないため中性粒子についての角度情報を得ることはできない。
【0018】
そこで、本実施の形態では、イオンビームを直接測定してビームの角度分布情報を得るのではなく、イオンビームが入射したウェハのシート抵抗を測定することによりビームの角度分布情報を評価する。より具体的には、イオンビームを構成するイオン粒子の角度分布に応じてウェハ内でチャネリングするイオン粒子数の割合が変化し、その結果として得られるウェハのシート抵抗値が変化することを利用してイオンビームの角度分布を評価する。特に、所定の面チャネリング条件を満たす注入処理と所定の軸チャネリング条件を満たす注入処理とを組み合わせることにより、イオンビームのx方向およびy方向の注入角度分布を評価する。本実施の形態では、x方向およびy方向のそれぞれについて注入角度分布を評価できるようにして、より精度の高いイオン注入処理が実現できるようにする。
【0019】
以下、本実施の形態について、前提となる技術について詳述する。つづいて、後述する前提技術を用いてイオンビームの注入角度分布を調整するイオン注入装置について説明する。
【0020】
[イオンビームの注入角度分布]
図1(a)〜(e)は、ウェハWに入射するイオンビームBの角度特性を模式的に示す図である。本図に示すイオンビームBは、いずれもウェハWの表面に対して垂直に入射する場合、つまり、イオンビームBの入射角度が0度となる場合を示している。しかしながら、各図に示すイオンビームBは、ビームを構成するイオン粒子群の角度分布が異なる。
【0021】
図1(a)は、ウェハWに向かってイオンビームBのビーム径が広がって発散していく「発散ビーム」を示す。
図1(b)は、(a)と同様にイオンビームBが発散しているものの発散の程度が小さい場合を示す。
図1(c)は、ウェハWに向かうイオンビームBのビーム径が変わらない場合を示し、イオンビームBを構成するイオン粒子のほぼ全てがビーム軌道と平行に進む「平行ビーム」を示している。
図1(d)は、ウェハWに向かってイオンビームBのビーム径が狭くなって収束していく「収束ビーム」を示す。
図1(e)は、(d)と同様にイオンビームBが収束しているものの収束の程度が大きい場合を示す。このようにイオンビームBは、ビームの基準軌道に対して発散または収束している場合があり、ビーム全体としての進行方向とは別に、各イオン粒子の角度成分のばらつきを表す「角度分布」を有する。
【0022】
図2(a)〜(e)は、
図1(a)〜(e)に示すイオンビームBの角度分布を模式的に示すグラフである。各グラフは、縦軸がイオンビームBを構成するイオン粒子の数を表し、横軸が各イオン粒子の進行方向とイオンビームBの進行方向とのなす角度ψを表す。
図2(c)に示されるように、イオンビームBを構成するイオン粒子が全て平行に進む場合、イオンビームの角度分布の広がりは小さい。一方、
図2(a),(e)に示されるように、イオンビームBの発散または収束が大きい場合には、イオンビームの角度分布の広がりは大きい。なお、イオンビームの角度分布の広がりの程度は、図示される角度分布の標準偏差により定量化することもできる。
【0023】
イオンビーム全体としての進行方向は、ビームの角度分布の平均角度値またはピーク角度値を基準として定めることができる。したがって、
図1に示す例では、イオンビームBの進行方向はウェハWに垂直な方向となる。このとき、イオンビームBの進行方向に沿った方向(z方向)のビーム軌道を本明細書において「基準軌道」ということがある。また、ウェハ処理面(またはウェハ主面)を基準としたときのイオンビームの入射方向を「注入角度」ということがある。この注入角度は、ウェハ主面の法線とビームの基準軌道方向との間の角度により規定される。また、ウェハ主面を基準としたときのイオンビームの角度分布を「注入角度分布」ということがある。
【0024】
[ウェハに形成される不純物濃度分布]
図3は、イオンビームBの照射によりゲート構造90の近傍に形成される不純物領域91を模式的に示す断面図である。本図は、ウェハ処理面上にゲート構造90が形成されたウェハWにイオンビームBを照射してゲート構造90の近傍にソース/ドレイン領域となる不純物領域91を形成するイオン注入処理を示す。ウェハWは、ウェハ処理面が(100)面となるシリコン基板である。ウェハWに入射するイオンビームBは、ウェハ処理面に対する注入角度が0度であり、注入角度分布の広がりの小さい平行ビームである。そのため、ウェハWに入射するイオン粒子の多くはウェハWの<100>方位の結晶軸に沿って入射し、強い軸チャネリング効果によってz方向に深く侵入する。その結果、イオン粒子が到達する不純物領域91の深さ方向の広がり幅z
1が大きくなり、ゲート構造90の下方に回り込んで形成される不純物領域91のゲート長方向の広がり幅L
1が小さくなる。なお、本図の左方に示すグラフは、深さ方向(z方向)の不純物濃度N
Dの分布を示し、本図の下方に示すグラフは、ゲート長方向の不純物濃度N
Dの分布を示す。
【0025】
図4は、イオンビームBの照射によりゲート構造90の近傍に形成される不純物領域92を模式的に示す断面図である。本図は、ウェハWに入射するイオンビームBが
図1(a)に示したような「発散ビーム」であり、注入角度分布の広がりを有する点で
図3と相違する。
図4のイオンビームBは発散ビームであるため、
図3に示す平行ビームと比べてチャネリング現象が生じにくく、チャネリングが生じるイオンの割合が少ない。その結果、イオン粒子が到達する不純物領域92の深さ方向の広がり幅z
2が小さくなり、ゲート構造90の下方に回り込んで形成される不純物領域92のゲート長方向の広がり幅L
2が大きくなる。なお、注入角度分布以外のビーム特性が同じであれば、イオン注入によって生成される欠陥93の位置や不純物濃度N
Dのピーク位置Rpは
図3と
図4の場合においてほぼ同じである。したがって、照射するイオンビームBの注入角度分布を適切に制御できれば、ゲート構造90の近傍に形成される不純物領域の深さ方向およびゲート長方向の広がりの大きさ(分布)を調整できる。また、イオン注入後にウェハWにアニール処理を加える場合であっても不純物濃度分布は相対的に維持されることから、注入角度分布を制御することで最終的に得られるキャリア濃度分布を目的に合った形状とすることができる。
【0026】
イオンビームBの注入角度分布の制御は、一次元方向だけではなくビームの進行方向と直交する断面内の二次元方向についてなされることが好ましい。一般に、同一ウェハに形成されるゲート構造は全て同じ方向を向いているわけではなく、互いに直交する方向や互いに交差する方向に配列されるためである。
図5は、ウェハ処理面上に形成されるゲート構造を模式的に示す平面図であり、同一のウェハWに形成されるゲート電極90a,90bの一例を示す。図示する例では、紙面上において左右方向(x方向)に延在する第1ゲート電極90aと、紙面上において上下方向(y方向)に延在する第2ゲート電極90bが設けられる。このようなウェハWにイオンビームを照射する場合、第1ゲート電極90aの近傍に形成される不純物領域のゲート長方向(y方向)の広がり幅は、主にy方向の注入角度分布に影響される。一方で、第2ゲート電極90bの近傍に形成される不純物領域のゲート長方向(x方向)の広がり幅は、主にx方向の注入角度分布に影響される。したがって、第1ゲート電極90aおよび第2ゲート電極90bの双方について所望の不純物濃度分布を得るためには、x方向とy方向のそれぞれの注入角度分布を適切に制御する必要がある。
【0027】
[シート抵抗を利用した注入角度分布の評価]
上述のように、ウェハに入射するイオンビームの注入角度分布は、ウェハに形成される不純物領域の分布形状に影響を与え、アニール処理後のウェハのキャリア濃度分布にも影響を及ぼしうる。一般に、ウェハのキャリア濃度分布が異なるとウェハのシート抵抗が異なりうることから、照射するイオンビームの注入角度分布とウェハのシート抵抗値との間には一定の相関性が成り立つことが予想される。そこで、本発明者らは、イオン注入後のウェハのシート抵抗を利用することにより、イオン注入に用いたイオンビームの注入角度分布の評価ができるかもしれないと考えた。特に、ウェハの向きを変えてイオンビームから見たx方向およびy方向のチャネリング条件を変化させることにより、x方向およびy方向のそれぞれについて注入角度分布の評価ができるかもしれないと考えた。
【0028】
図6(a)、(b)は、イオンビームBの基準軌道に対するウェハWの向きを模式的に示す図である。
図6(a)は、ビームの基準軌道が延びるz方向に対してウェハWを傾けることによりチルト角θを設定した状態を示す。チルト角θは、図示されるように、x軸周りにウェハWを回転させたときの回転角として設定される。チルト角θ=0°となる状態は、ウェハWにイオンビームBが垂直に入射する場合である。
図6(b)は、ウェハ主面に垂直な軸周りにウェハWを回転させることによりツイスト角φを設定した状態を示す。ツイスト角φは、図示されるように、ウェハ主面に垂直な軸周りにウェハWを回転させたときの回転角として設定される。ツイスト角φ=0°となる状態は、ウェハWの中心Oからアライメントマーク94に延びる線分がy方向となる場合である。本実施の形態では、イオンビームBに対するウェハWの配置としてチルト角θとツイスト角φを適切に設定することにより所定のチャネリング条件が実現されるようにする。
【0029】
図7(a)、(b)は、注入角度分布の評価に用いる評価用ウェハW
Tを模式的に示す図である。
図7(a)は、評価用ウェハW
Tの結晶方位を示し、
図7(b)は、評価用ウェハW
Tの表面近傍の原子配列を示す。本実施の形態では、評価用ウェハW
Tとして、ウェハ主面の面方位が(100)面である単結晶シリコン基板を用いる。評価用ウェハW
Tのアライメントマーク94は、<110>方位を示す位置に設けられる。評価用ウェハW
Tは、いわゆるベアウェハであり、半導体回路を構成するためのゲート構造やトレンチ構造などが設けられていない。
【0030】
評価用ウェハW
Tは、厳密なチャネリング条件を実現できるようにウェハ主面のオフ角が十分小さいことが望ましく、半導体回路製造に一般的に用いられるベアウェハよりも小さいオフ角を有することが好ましい。具体的には、オフ角が0.1度以下となるように切り出されたシリコン基板を用いることが好ましい。ここで「オフ角」とは、ウェハ主面の法線方向とウェハを構成するシリコンの結晶軸の<100>方位との間の角度ずれである。オフ角が0度である場合、評価用ウェハW
Tのウェハ主面がシリコン結晶の(100)面に厳密に一致する。
【0031】
図8(a)〜(c)は、所定のチャネリング条件またはオフチャネリング条件を満たすように配置されたウェハの表面近傍の原子配列を模式的に示す図であり、ウェハに入射するイオンビームから見た原子配列を示す。本図では、シリコン原子の位置を黒丸で示している。また、奥行き方向(z方向)に異なる位置にあるシリコン原子をxy面内に重ねて描いている。
【0032】
図8(a)は、軸チャネリング条件を満たすように配置された場合の原子配列を示し、上述の評価用ウェハW
Tをツイスト角φ=23°、チルト角θ=0°の向きで配置した場合を示す。図示する軸チャネリング条件では、実線上に配置されるシリコン原子により形成される複数の第1結晶面96と、破線上に配置されるシリコン原子により形成される複数の第2結晶面97とが互いに交差して格子状に配列され、一次元的に延びる軸状の隙間(チャネリング軸95)が形成される。その結果、x方向およびy方向の少なくとも一方に角度分布を有するイオンビームは、z方向に直進するイオン粒子のみがチャネリングし、z方向からある程度ずれた角度成分を有するイオン粒子はいずれかの結晶面に遮られてチャネリングしない。したがって、軸チャネリング条件を満たすように配置されるウェハは、主としてイオンビームの基準軌道に沿って軸方向に進むイオン粒子をチャネリングさせる「軸チャネリング」を生じさせる。
【0033】
軸チャネリング条件を満たす配置は、上述のツイスト角およびチルト角に限られず、図示するような原子配列が実現されるようなウェハ配置であれば、他のツイスト角およびチルト角を用いてもよい。より具体的には、ウェハに入射するイオンビームの基準軌道に沿う方向にチャネリング軸を有する一方で、イオンビームの基準軌道方向(z方向)とウェハの往復運動方向(y方向)により規定される基準面と平行または直交するチャネリング面を有しないように評価用ウェハW
Tが配置されるのであれば、他の角度条件が用いられてもよい。このような軸チャネリング条件を実現するために、例えば、評価用ウェハW
Tのツイスト角を実質的に15度〜30度の範囲内とし、チルト角を実質的に0度としてもよい。
【0034】
図8(b)は、面チャネリング条件を満たすように配置された場合の原子配列を示し、上述の評価用ウェハW
Tをツイスト角φ=0°、チルト角θ=15°の向きで配置した場合を示す。図示する面チャネリング条件では、yz平面内に配列されたシリコン原子による複数の結晶面99が形成され、x方向に対向する結晶面99の間に二次元的な広がりを有する隙間(チャネリング面98)が形成される。その結果、x方向に角度分布を有するイオンビームは、z方向に直進する一部のイオン粒子のみがチャネリングし、x方向にある程度ずれた角度成分を有するイオン粒子は結晶面99に遮られてチャネリングしない。一方、y方向に角度分布を有するイオンビームは、結晶面99に遮られることなく結晶面間の隙間をチャネリングする。したがって、面チャネリング条件を満たすように配置されるウェハは、主としてイオンビームの基準軌道に沿うz方向とy方向の双方により規定される基準面に沿って進むイオン粒子をチャネリングさせる「面チャネリング」を生じさせる。よって、面チャネリング条件を満たすように配置されたウェハに対してイオンビームを照射すると、x方向に角度成分を有するイオン粒子はチャネリングせず、y方向に角度成分を有するイオン粒子はチャネリングするという方向依存性が生じる。
【0035】
面チャネリング条件を満たす配置は、上述のツイスト角およびチルト角に限られず、図示されるような原子配列が実現可能なウェハ配置であれば、他のツイスト角およびチルト角を用いてもよい。より具体的には、ウェハに入射するイオンビームの基準軌道に沿う方向とy方向の双方により規定される基準面に平行なチャネリング面を有する一方で、基準面と直交するチャネリング面を有しないような向きに評価用ウェハW
Tが配置されるのであれば、他の角度条件が用いられてもよい。面チャネリング条件を実現するために、例えば、評価用ウェハW
Tのツイスト角を実質的に0度または45度とし、チルト角を15度〜60度の範囲内としてもよい。
【0036】
図8(c)は、オフチャネリング条件を満たすように配置された場合の原子配列を示し、上述の評価用ウェハW
Tをツイスト角φ=23°、チルト角θ=7°の向きで配置した場合を示す。図示されるオフチャネリング条件では、イオン粒子の通り道となるチャネルが見えず、シリコン原子がx方向およびy方向に隙間なく配置されているように見える。その結果、オフチャネリング条件を満たすウェハに向けてイオンビームを照射すると、ビームを構成するイオン粒子がx方向およびy方向の角度成分を有するか否かに拘わらず、チャネリング現象が生じないようになる。
【0037】
オフチャネリング条件を満たす配置は、上述のツイスト角およびチルト角に限られず、図示されるような原子配列が実現可能なウェハ配置であれば、他のツイスト角およびチルト角を用いてもよい。より具体的には、ウェハの{100}面、{110}面、{111}面などの低次の結晶面がイオンビームの基準軌道と斜めに交差するような向きに評価用ウェハW
Tが配置されれば、他の角度条件が用いられてもよい。オフチャネリング条件を実現するために、例えば、評価用ウェハW
Tのツイスト角を15度〜30度の範囲内とし、チルト角を7度〜15度の範囲内としてもよい。
【0038】
なお、オフチャネリング条件を実現するために、評価用ウェハW
Tに対してプレアモルファス化処理を施してもよい。プレアモルファス化処理では、シリコン(Si)やゲルマニウム(Ge)といったキャリア濃度分布に影響を及ぼさないイオン種のイオンビームを照射して表面近傍の結晶構造を変化させ、ウェハの表面近傍をアモルファス状態にする。アモルファス状態にすることで結晶の規則的な構造を壊してイオン粒子の通り道となるチャネルが存在しないようにでき、上述の「オフチャネリング」条件を実現できる。
【0039】
つづいて、各チャネリング条件を満たす評価用ウェハW
Tにイオンビームを照射した場合のウェハのシート抵抗について説明する。本実施の形態では、イオンビームを照射した評価用ウェハW
Tにアニール処理を施した後、四探針法を用いてウェハのシート抵抗を測定する。なお、四探針法によるシート抵抗の測定方法は公知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0040】
図9は、オフチャネリング条件のウェハにイオンビームを照射したときのウェハのシート抵抗R
sを示すグラフであり、注入角度分布に関するビーム条件を変えた場合に得られるシート抵抗値を示す。グラフの縦軸は、測定したシート抵抗値(Ω/□)を示し、横軸は異なるビーム条件A〜Dを示す。ビーム条件Aは、x方向の注入角度分布の広がりが小さく、y方向の注入角度分布の広がりが大きい場合、ビーム条件Bは、x方向およびy方向の双方の注入角度分布の広がりが小さい場合、ビーム条件Cは、x方向の注入角度分布の広がりが大きく、y方向の注入角度分布の広がりが小さい場合、ビーム条件Dは、x方向およびy方向の双方の注入角度分布の広がりが中程度の場合である。なお、イオンビームのビーム電流量といった他の注入条件は同じである。
【0041】
図9に示されるように、オフチャネリング条件のウェハを用いる場合、照射するイオンビームの注入角度分布を変えたとしても得られるシート抵抗値は同等となる。これは、ビームの注入角度分布の特性に関係なくチャネリング現象が生じないことに起因すると考えられる。このことから、オフチャネリング条件のウェハを利用したシート抵抗の測定により、注入角度分布に依存しないビーム特性、例えば、ビーム照射により得られるドーズ量を評価できる。
【0042】
図10(a)、(b)は、面チャネリング条件のウェハにイオンビームを照射したときのウェハのシート抵抗R
sを示すグラフである。
図10(a)は、y方向の注入角度分布に関するビーム条件を変えた場合に得られるシート抵抗値を示している。グラフの縦軸は、測定したシート抵抗値(Ω/□)を示し、横軸は異なるビーム条件A,Bを示す。ビーム条件Aは、x方向の注入角度分布の広がりが小さく、y方向の注入角度分布の広がりが大きい場合、ビーム条件Bは、x方向およびy方向の双方の注入角度分布の広がりが小さい場合である。したがって、二つのビーム条件A,Bは、x方向の注入角度分布の広がりが同等であり、y方向の注入角度分布の広がりが異なる。図示されるように、面チャネリング条件のウェハにy方向の注入角度分布の広がりが異なるイオンビームを照射しても得られるシート抵抗値の差は十分に小さく、ほぼ同等となる。つまり、面チャネリング条件のウェハにイオンビームを照射する場合、得られるシート抵抗値にy方向の注入角度分布の差はほとんど反映されない。
【0043】
図10(b)は、x方向の注入角度分布に関するビーム条件を変えた場合に得られるシート抵抗値を示している。グラフの縦軸は、測定したシート抵抗値(Ω/□)を示し、横軸は照射したビームのx方向の注入角度分布の広がりの標準偏差値(角度)を示す。なお、イオンビームのビーム電流量といった他の注入条件は同じである。図示されるように、x方向の注入角度分布の広がりが大きくなるにつれて得られるシート抵抗値が増大することがわかる。これは、x方向の注入角度分布の広がりが大きくなるにつれて軸方向にチャネリングしてより深い位置に注入されるイオン粒子数が減少することに起因すると考えられる。このことから、面チャネリング条件のウェハを利用したシート抵抗の測定により、ビームのx方向の注入角度分布の広がりを評価できる。
【0044】
図11は、軸チャネリング条件のウェハにイオンビームを照射したときのウェハのシート抵抗R
sを示すグラフであり、y方向の注入角度分布に関するビーム条件を変えた場合に得られるシート抵抗を示している。グラフの縦軸は、測定したシート抵抗値(Ω/□)を示し、横軸は照射したビームのy方向の注入角度分布の広がりの標準偏差値(角度)を示す。なお、イオンビームのビーム電流量といった他の注入条件は同じである。図示されるように、y方向の注入角度分布の広がりが大きくなるにつれて得られるシート抵抗値が増大することがわかる。これは、注入角度分布の広がりが大きくなるにつれて軸方向にチャネリングしてより深い位置に注入されるイオン粒子数が減少することに起因すると考えられる。このことから、軸チャネリング条件のウェハを利用したシート抵抗の測定により、ビームの注入角度分布の広がりを評価できる。また、上述の面チャネリング条件の評価結果と組み合わせて分析することにより、ビームのy方向の注入角度分布の広がりを評価することが可能となる。
【0045】
[イオン注入装置の構成]
つづいて、上述の技術を利用したイオン注入装置10について説明する。
図12は、実施の形態に係るイオン注入装置10を概略的に示す上面図であり、
図13は、イオン注入装置10の概略構成を示す側面図である。
【0046】
イオン注入装置10は、被処理物Wの表面にイオン注入処理をするよう構成されている。被処理物Wは、例えば基板であり、例えば半導体ウェハである。よって以下では説明の便宜のため被処理物WをウェハWと呼ぶことがあるが、これは注入処理の対象を特定の物体に限定することを意図していない。
【0047】
イオン注入装置10は、ビームを一方向に往復走査させ、ウェハWを該一方向と直交する方向に往復運動させることによりウェハWの全体にわたってイオンビームBを照射するよう構成されている。本書では説明の便宜上、設計上のビーム軌道を進むイオンビームBの進行方向をz方向とし、z方向に垂直な面をxy面と定義する。イオンビームBを被処理物Wに対し走査する場合において、ビームの走査方向をx方向とし、z方向及びx方向に垂直な方向をy方向とする。よって、ビームの往復走査はx方向に行われ、ウェハWの往復運動はy方向に行われる。
【0048】
イオン注入装置10は、イオン源12と、ビームライン装置14と、注入処理室16と、ウェハ搬送室60と、ウェハ評価室62と、制御装置70とを備える。イオン源12は、イオンビームBをビームライン装置14に与えるよう構成されている。ビームライン装置14は、イオン源12から注入処理室16へとイオンを輸送するよう構成されている。また、イオン注入装置10は、イオン源12、ビームライン装置14、注入処理室16、及びウェハ搬送室60に所望の真空環境を提供するための真空排気系(図示せず)を備える。
【0049】
ビームライン装置14は、例えば、上流から順に、質量分析部18、可変アパチャ20、ビーム収束部22、第1ビーム計測器24、ビーム走査器26、平行化レンズ30又はビーム平行化装置、及び、角度エネルギーフィルタ(AEF;Angular Energy Filter)34を備える。なお、ビームライン装置14の上流とは、イオン源12に近い側を指し、下流とは注入処理室16(またはビームストッパ38)に近い側を指す。
【0050】
質量分析部18は、イオン源12の下流に設けられており、イオン源12から引き出されたイオンビームBから必要なイオン種を質量分析により選択するよう構成されている。
【0051】
可変アパチャ20は、開口幅が調整可能なアパチャであり、開口幅を変えることでアパチャを通過するイオンビームBのビーム電流量を調整する。可変アパチャ20は、例えば、ビームラインを挟んで上下に配置されるアパチャプレートを有し、アパチャプレートの間隔を変化させることによりビーム電流量を調整してもよい。
【0052】
ビーム収束部22は、四重極収束装置(Qレンズ)などの収束レンズを備えており、可変アパチャ20を通過したイオンビームBを所望の断面形状に整形するよう構成されている。ビーム収束部22は、電場式の三段四重極レンズ(トリプレットQレンズともいう)であり、上流側から順に第1四重極レンズ22a、第2四重極レンズ22b、第3四重極レンズ22cを有する。ビーム収束部22は、三つのレンズ装置22a,22b,22cを用いることにより、ウェハWに入射するイオンビームBのx方向およびy方向の収束または発散をそれぞれの方向について独立に調整しうる。ビーム収束部22は、磁場式のレンズ装置を含んでもよく、電場と磁場の双方を利用してビームを整形するレンズ装置を含んでもよい。
【0053】
第1ビーム計測器24は、ビームライン上に出し入れ可能に配置され、イオンビームの電流を測定するインジェクタフラグファラデーカップである。第1ビーム計測器24は、ビーム収束部22により整形されたイオンビームBのビーム形状を計測できるように構成される。第1ビーム計測器24は、ビーム電流を計測するファラデーカップ24bと、ファラデーカップ24bを上下に移動させる駆動部24aを有する。
図13の破線で示すように、ビームライン上にファラデーカップ24bを配置した場合、イオンビームBはファラデーカップ24bにより遮断される。一方、
図13の実線で示すように、ファラデーカップ24bをビームライン上から外した場合、イオンビームBの遮断が解除される。
【0054】
ビーム走査器26は、ビームの往復走査を提供するよう構成されており、整形されたイオンビームBをx方向に走査する偏向手段である。ビーム走査器26は、x方向に対向して設けられる走査電極対28を有する。走査電極対28は可変電圧電源(図示せず)に接続されており、走査電極対28に印加される電圧を周期的に変化させることにより、電極間に生じる電界を変化させてイオンビームBをさまざまな角度に偏向させる。こうして、イオンビームBは、x方向の走査範囲にわたって走査される。なお、
図12において矢印Xによりビームの走査方向及び走査範囲を例示し、走査範囲でのイオンビームBの複数の軌跡を一点鎖線で示している。
【0055】
平行化レンズ30は、走査されたイオンビームBの進行方向を設計上のビーム軌道と平行にするよう構成されている。平行化レンズ30は、中央部にイオンビームの通過スリットが設けられた円弧形状の複数のPレンズ電極32を有する。Pレンズ電極32は、高圧電源(図示せず)に接続されており、電圧印加により生じる電界をイオンビームBに作用させて、イオンビームBの進行方向を平行に揃える。なお、平行化レンズ30は他のビーム平行化装置で置き換えられてもよく、ビーム平行化装置は磁界を利用する磁石装置として構成されてもよい。平行化レンズ30の下流には、イオンビームBを加速または減速させるためのAD(Accel/Decel)コラム(図示せず)が設けられてもよい。
【0056】
角度エネルギーフィルタ(AEF)34は、イオンビームBのエネルギーを分析し必要なエネルギーのイオンを下方に偏向して注入処理室16に導くよう構成されている。角度エネルギーフィルタ34は、電界偏向用のAEF電極対36を有する。AEF電極対36は、高圧電源(図示せず)に接続される。
図13において、上側のAEF電極に正電圧、下側のAEF電極に負電圧を印加させることにより、イオンビームBをビーム軌道から下方に偏向させる。なお、角度エネルギーフィルタ34は、磁界偏向用の磁石装置で構成されてもよく、電界偏向用のAEF電極対と磁石装置の組み合わせで構成されてもよい。
【0057】
このようにして、ビームライン装置14は、ウェハWに照射されるべきイオンビームBを注入処理室16に供給する。
【0058】
注入処理室16は、
図13に示すように、1枚又は複数枚のウェハWを保持するプラテン駆動装置50を備える。プラテン駆動装置50は、ウェハ保持部52と、往復運動機構54と、ツイスト角調整機構56と、チルト角調整機構58とを含む。ウェハ保持部52は、ウェハWを保持するための静電チャック等を備える。往復運動機構54は、ビーム走査方向(x方向)と直交する往復運動方向(y方向)にウェハ保持部52を往復運動させることにより、ウェハ保持部52に保持されるウェハをy方向に往復運動させる。
図13において、矢印YによりウェハWの往復運動を例示する。
【0059】
ツイスト角調整機構56は、ウェハWの回転角を調整する機構であり、ウェハ処理面の法線を軸にウェハWを回転させることにより、ウェハの外周部に設けられるアライメントマークと基準位置との間のツイスト角を調整する。ここで、ウェハのアライメントマークとは、ウェハの外周部に設けられるノッチやオリフラのことをいい、ウェハの結晶軸方向やウェハの周方向の角度位置の基準となるマークをいう。ツイスト角調整機構56は、図示されるようにウェハ保持部52と往復運動機構54の間に設けられ、ウェハ保持部52とともに往復運動される。
【0060】
チルト角調整機構58は、ウェハWの傾きを調整する機構であり、ウェハ処理面に向かうイオンビームBの進行方向とウェハ処理面の法線との間のチルト角を調整する。本実施の形態では、ウェハWの傾斜角のうち、x方向の軸を回転の中心軸とする角度をチルト角として調整する。チルト角調整機構58は、往復運動機構54と注入処理室16の壁面の間に設けられており、往復運動機構54を含むプラテン駆動装置50全体をR方向に回転させることでウェハWのチルト角を調整するように構成される。
【0061】
注入処理室16は、ビームストッパ38を備える。ビーム軌道上にウェハWが存在しない場合には、イオンビームBはビームストッパ38に入射する。また、注入処理室16には、イオンビームのビーム電流量やビーム電流密度分布を計測するための第2ビーム計測器44が設けられる。第2ビーム計測器44は、サイドカップ40R、40Lと、センターカップ42を有する。
【0062】
サイドカップ40R、40Lは、ウェハWに対してx方向にずれて配置されており、イオン注入時にウェハWに向かうイオンビームを遮らない位置に配置される。イオンビームBは、ウェハWが位置する範囲を超えてオーバースキャンされるため、イオン注入時においても走査されるビームの一部がサイドカップ40R、40Lに入射する。これにより、イオン注入処理中のイオン照射量を計測する。サイドカップ40R、40Lの計測値は、第2ビーム計測器44に送られる。
【0063】
センターカップ42は、ウェハWの表面(ウェハ処理面)におけるビーム電流密度分布を計測するためのものである。センターカップ42は、可動式となっており、イオン注入時にはウェハ位置から待避され、ウェハWが照射位置にないときにウェハ位置に挿入される。センターカップ42は、x方向に移動しながらビーム電流量を計測して、ビーム走査方向のビーム電流密度分布を計測する。センターカップ42は、ウェハ処理面の位置でのイオンビームBのビーム形状を計測できるように構成される。センターカップ42の計測値は、第2ビーム計測器44に送られる。なお、センターカップ42は、ビーム走査方向の複数の位置におけるイオン照射量を同時に計測可能となるように、複数のファラデーカップがx方向に並んだアレイ状に形成されていてもよい。
【0064】
ウェハ搬送室60は、注入処理室16に隣接する位置に設けられる。ウェハ搬送室60は、イオン注入される前の処理前ウェハを準備して注入処理室16に搬入し、イオン注入された後の処理済ウェハを注入処理室16から搬出する。ウェハ搬送室60は、大気圧下のウェハを高真空状態の注入処理室16に搬入するためのロードロック室や、一枚または複数枚のウェハを搬送するための搬送ロボット等を有する。
【0065】
ウェハ評価室62は、注入処理室16にてイオン注入されたウェハのシート抵抗を測定する場所である。ウェハ評価室62は、ウェハ搬送室60に隣接する位置に設けられ、ウェハ搬送室60を介して処理済ウェハが搬入されるように構成される。ウェハ評価室62は、処理済ウェハのシート抵抗を測定するためのシート抵抗測定器64と、シート抵抗の測定前に処理済ウェハをアニールするためのアニール装置66とを有する。シート抵抗測定器64は、例えば、四探針法によりウェハのシート抵抗を測定するよう構成される。アニール装置66は、注入された不純物濃度分布のアニール時の拡散による変化が抑制されるように、900℃〜1000℃程度の比較的低い温度でアニールするよう構成される。
【0066】
図14(a)、(b)は、レンズ装置の構成を模式的に示す図である。
図14(a)は、イオンビームBを縦方向(y方向)に収束させる第1四重極レンズ22aおよび第3四重極レンズ22cの構成を示し、
図14(b)は、イオンビームBを横方向(x方向)に収束させる第2四重極レンズ22bの構成を示す。
【0067】
図14(a)の第1四重極レンズ22aは、横方向(x方向)に対向する一組の水平対向電極82と、縦方向(y方向)に対向する一組の垂直対向電極84とを有する。一組の水平対向電極82には負電位−Qyが印加され、垂直対向電極84には正電位+Qyが印加される。第1四重極レンズ22aは、正の電荷を有するイオン粒子群で構成されるイオンビームBに対し、負電位の水平対向電極82との間で引力を生じさせ、正電位の垂直対向電極84との間で斥力を生じさせる。これにより、第1四重極レンズ22aは、イオンビームBをx方向に発散させ、y方向に収束させるようにビーム形状を整える。第3四重極レンズ22cも第1四重極レンズ22aと同様に構成され、第1四重極レンズ22aと同じ電位が印加される。
【0068】
図14(b)の第2四重極レンズ22bは、横方向(x方向)に対向する一組の水平対向電極86と、縦方向(y方向)に対向する一組の垂直対向電極88とを有する。第2四重極レンズ22bは、第1四重極レンズ22aと同様に構成されるが、印加される電位の正負が逆である。一組の水平対向電極86には正電位+Qxが印加され、垂直対向電極88には負電位−Qxが印加される。第2四重極レンズ22bは、正の電荷を有するイオン粒子群で構成されるイオンビームBに対し、正電位の水平対向電極86との間で斥力を生じさせ、負電位の垂直対向電極88との間で引力を生じさせる。これにより、第2四重極レンズ22bは、イオンビームBをx方向に収束させ、y方向に発散させるようにビーム形状を整える。
【0069】
図15は、レンズ装置の制御例を模式的に示すグラフであり、レンズ装置の対向電極に印加される電位Qx,Qyと整形されるビームの角度分布との関係性を示す。横軸の縦収束電位Qyは、第1四重極レンズ22aおよび第3四重極レンズ22cに印加される電位を示し、縦軸の横収束電位Qxは、第2四重極レンズ22bに印加される電位を示す。
図16(a)〜(e)は、レンズ装置により調整されるイオンビームの注入角度分布を模式的に示すグラフである。上段にx方向の注入角度分布を示し、下段にy方向の注入角度分布を示している。(a)〜(e)に示すグラフは、それぞれ
図15の地点A1/A2、地点B1/B2、地点C、地点D1/D2、地点E1/E2における電位を用いた場合に対応する。
【0070】
所定の電位Qx
0、Qy
0が印加される地点Cは、
図16(c)に示すように、x方向およびy方向の双方の注入角度分布の広がりが小さい「平行ビーム」となる動作条件である。この地点Cから直線Lxに沿って電位Qx,Qyを変化させると、x方向の注入角度分布のみを変化させ、y方向の注入角度分布を変化させないようにビーム調整できる。地点Cから地点B1,A1へと横収束電位Qxを上げていくと、x方向に収束された「収束ビーム」となってx方向の注入角度分布の広がりが大きくなる。一方、地点Cから地点B2,A2へと横収束電位Qxを下げていくと、x方向に発散された「発散ビーム」となってx方向の注入角度分布の広がりが大きくなる。
【0071】
同様に、地点Cから直線Lyに沿って電位Qx,Qyを変化させると、y方向の注入角度分布のみを変化させ、x方向の注入角度分布を変化させないようビームを調整できる。地点Cから地点D1,E1へと縦収束電位Qyを上げていくと、y方向に収束された「収束ビーム」となってy方向の注入角度分布の広がりが大きくなる。一方、地点Cから地点D2,E2へと縦収束電位Qyを下げていくと、y方向に発散された「発散ビーム」となってy方向の注入角度分布の広がりが大きくなる。
【0072】
このようにして、三段式のレンズ装置のそれぞれに印加する電位Qx,Qyを一定の条件下で変化させることにより、ウェハWに照射されるイオンビームのx方向およびy方向の注入角度分布をそれぞれ独立に制御することができる。例えば、x方向の注入角度分布のみを調整したい場合、ΔQx=α・ΔQyの関係性が維持されるようにして直線Lxの傾きに合わせて電位を変化させればよい。同様に、y方向の注入角度分布のみを調整したい場合、ΔQx=β・ΔQyの関係性が維持されるようにして直線Lyの傾きに合わせて電位を変化させればよい。なお、直線Lx,Lyの傾きα,βの値は、使用するレンズ装置の光学特性に応じて適切な値が求められる。
【0073】
制御装置70は、イオン注入装置10を構成する各機器の動作を制御する。制御装置70は、実施しようとするイオン注入工程の注入条件の設定を受け付ける。制御装置70は、注入条件として、イオン種、注入エネルギー、ビーム電流量、ウェハ面内のドーズ量、チルト角、ツイスト角などの設定を受け付ける。また、制御装置70は、イオンビームの注入角度分布に関する設定を受け付ける。
【0074】
制御装置70は、設定された注入条件が実現されるように各機器の動作パラメータを決定する。制御装置70は、イオン種を調整するためのパラメータとして、イオン源12のガス種や、イオン源12の引出電圧、質量分析部18の磁場の値などを決定する。制御装置70は、注入エネルギーを調整するためのパラメータとして、イオン源12の引出電圧、Pレンズ電極32の印加電圧、ADコラムの印加電圧の値などを決定する。制御装置70は、ビーム電流量を調整するためのパラメータとして、イオン源12のガス量、アーク電流、アーク電圧、ソースマグネット電流といった各種パラメータや、可変アパチャ20の開口幅を調整するためのパラメータなどを決定する。また、制御装置70は、ウェハ面内のドーズ量またはドーズ量分布を調整するためのパラメータとして、ビーム走査器26の走査パラメータや、プラテン駆動装置50の速度パラメータなどを決定する。
【0075】
制御装置70は、イオンビームの注入角度分布を評価するために、所定のチャネリング条件を満たすように配置された評価用ウェハW
Tにイオンビームを照射する試験照射工程を実行する。制御装置70は、面チャネリング条件、軸チャネリング条件またはオフチャネリング条件を満たすように評価用ウェハW
Tをプラテン駆動装置50に配置させ、配置された評価用ウェハW
Tに対するイオン注入処理を実行する。制御装置70は、試験照射された評価用ウェハW
Tをウェハ評価室62に搬送させ、ウェハ評価室62にてアニール処理およびシート抵抗の測定を実施させる。
【0076】
制御装置70は、シート抵抗の測定結果を利用してイオンビームの注入角度分布が所望の分布となるように調整する。制御装置70は、ビーム収束部22の三つのレンズ装置22a,22b,22cに印加する横収束電位Qxおよび縦収束電位Qyの値を調整することにより、イオンビームのx方向およびy方向の注入角度分布をそれぞれ独立に制御する。制御装置70は、注入角度分布が調整されたイオンビームを被処理ウェハに照射し、被処理ウェハ内に所望のキャリア濃度分布が形成されるような本照射工程を実行する。
【0077】
つづいて、イオンビームの具体的な調整例について説明する。ここでは、イオン注入装置10が出力するイオンビームのビーム特性、特に注入角度分布に関する特性を較正するための調整手法について説明する。この調整手法は、イオン注入装置10が出力する第1イオンビームの特性を基準となる別のイオン注入装置(以下、基準装置ともいう)が出力する第2イオンビームの特性に合わせ込むための方法である。
【0078】
本調整例に係る方法は、イオンビームのドーズ量を合わせる第1工程と、イオンビームの注入角度の基準値を合わせる第2工程と、イオンビームのx方向の注入角度分布を合わせる第3工程と、イオンビームのy方向の注入角度分布を合わせる第4工程と、を備える。
【0079】
第1工程では、上述のオフチャネリング条件を利用する。オフチャネリング条件にてイオンビームを照射する場合、x方向およびy方向の注入角度分布に起因するシート抵抗値の変化が見られないため、ビーム照射によりウェハに注入されたドーズ量を比較できる。第1工程では、イオン注入装置10を用いてオフチャネリング条件の評価用ウェハW
Tにイオンビームを照射し、ビーム照射後にアニール処理が施されたウェハのシート抵抗を測定する。また、基準装置においてもオフチャネリング条件の評価用ウェハW
Tにイオンビームを照射し、ビーム照射後にアニール処理が施されたウェハのシート抵抗を測定する。両者のシート抵抗値の測定結果を比較し、差があればシート抵抗値の差が解消されるようにイオン注入装置10のドーズ量を設定するための各種パラメータを調整する。
【0080】
第2工程では、上述の軸チャネリング条件を応用した「Vカーブ法」といわれる手法を用いる。Vカーブ法では、評価用ウェハW
Tのチルト角をわずかに変化させてビーム照射することにより、シート抵抗値が最小となるチルト角の値からビームの基準軌道の方向を推定する。具体的には、ツイスト角φ=23°、チルト角θ=0°の軸チャネリング条件を満たす向きを中心にして、例えばチルト角θを−2°〜+2°の範囲で変化させ、各チルト角にてイオンビームが照射された評価用ウェハW
Tのシート抵抗を測定する。
【0081】
図17は、Vカーブ法による測定例を示すグラフであり、イオン注入装置10における第1イオンビームの測定結果V1と基準装置における第2イオンビームの測定結果V2とを示す。図示されるように、複数の測定点をV状の曲線で近似することでシート抵抗のチルト角依存性が得られる。本グラフの例では、シート抵抗の最小値がチルト角θ=0°の場合であり、チルト角の基準値(例えばθ=0°)とビームの基準軌道方向との間に角度ずれが生じていない場合を示している。Vカーブ法の測定により装置間でチルト角に差異があることが検出された場合には、イオン注入装置10のチルト角が基準装置のチルト角と一致するように調整する。より具体的には、イオン注入装置10のチルト角またはビームの基準軌道方向の少なくとも一方を調整することにより、ビームの注入角度(ウェハに対するビーム全体の平均値としての入射角度)の基準値が装置間で一致するようにする。例えば、イオン注入装置10のチルト角の基準値に所定のオフセットを加えることにより、基準装置との間のチルト角のずれが反映されるようにしてもよい。その他、ビームライン装置14の各種パラメータを調整することにより、イオン注入装置10の基準軌道方向を変化させ、基準装置との間のビーム軌道方向のずれが反映されるようにしてもよい。
【0082】
図17に示すグラフでは、二つの測定結果V1,V2のシート抵抗の最小値に差分ΔRが生じている。この抵抗値の差分ΔRは、第1イオンビームと第2イオンビームの注入角度分布の差に起因し、シート抵抗の最小値が小さい第2イオンビームに比べて、シート抵抗の最小値が大きい第1イオンビームの方が注入角度分布が大きいことを意味している。このようにシート抵抗値の差分ΔRが見られる場合には、第3工程および第4工程により両者の注入角度分布を合わせ込む調整を行う。なお、両者のシート抵抗の最小値がほぼ一致する場合や、シート抵抗の最小値の差が基準範囲内である場合は、以下の第3工程および第4工程による注入角度分布の調整を省略してもよい。
【0083】
第3工程では、上述の面チャネリング条件を利用してx方向の注入角度分布を評価する。イオン注入装置10を用いて面チャネリング条件の評価用ウェハW
Tにイオンビームを照射し、ビーム照射後にアニール処理が施されたウェハのシート抵抗を測定する。また、基準装置においても面チャネリング条件の評価用ウェハW
Tにイオンビームを照射し、ビーム照射後にアニール処理が施されたウェハのシート抵抗を測定する。両者のシート抵抗値の測定結果を比較し、差があればシート抵抗値の差が解消されるようにビーム収束部22の動作パラメータを調整する。具体的には、ΔQx=α・ΔQyの関係性が維持されるようにしてレンズ装置に印加する電圧Qx、Qyを調整し、x方向の注入角度分布が所望の分布となるようにする。
【0084】
第4工程では、上述の軸チャネリング条件を利用してy方向の注入角度分布を評価する。イオン注入装置10を用いて軸チャネリング条件の評価用ウェハW
Tにイオンビームを照射し、ビーム照射後にアニール処理が施されたウェハのシート抵抗を測定する。また、基準装置においても軸チャネリング条件の評価用ウェハW
Tにイオンビームを照射し、ビーム照射後にアニール処理が施されたウェハのシート抵抗を測定する。両者のシート抵抗値の測定結果を比較し、差があればシート抵抗値の差が解消されるようにビーム収束部22の動作パラメータを調整する。具体的には、ΔQx=β・ΔQyの関係性が維持されるようにしてレンズ装置に印加する電圧Qx、Qyを調整し、y方向の注入角度分布が所望の分布となるようにする。
【0085】
図18は、イオン注入装置10の動作過程を示すフローチャートである。まず、オフチャネリング条件にてイオンビームのドーズ量を評価して(S10)ドーズ量を調整し(S12)、Vカーブ法を用いてビームの注入角度を評価して(S14)注入角度の基準値を調整する(S16)。注入角度分布の調整が必要であれば(S18のY)、面チャネリング条件にてイオンビームのx方向の注入角度分布を評価して(S20)x方向の注入角度分布を調整し(S22)、軸チャネリング条件にてビームのy方向の注入角度分布を評価して(S24)y方向の注入角度分布を調整する(S26)。注入角度分布の調整が必要なければ(S18のN)、S20〜S26をスキップする。つづいて、調整されたイオンビームを被処理ウェハに照射してイオン注入処理を実行する(S28)。
【0086】
本実施の形態によれば、以上の調整方法により、イオン注入装置10から出力される第1イオンビームのドーズ量、基準軌道方向、x方向およびy方向の注入角度分布を基準装置と一致するように合わせ込むことができる。このように調整されたイオンビームを用いて本照射工程を実行することにより、基準装置を用いる場合と同条件のイオン注入処理を実現できる。特に、ビームの注入角度分布を含めて合わせ込むことができるため、被処理ウェハのゲート構造近傍に形成されるキャリア濃度分布の深さ方向およびゲート長方向の広がりが所望の分布となるようにできる。これにより、イオン注入処理の注入精度を高めることができる。
【0087】
図19は、イオン注入により製造されるトランジスタの閾値電圧V
THと注入に用いるイオンビームの注入角度分布との関係性を示すグラフである。グラフの横軸はトランジスタのゲート長Lであり、縦軸は製造されるトランジスタの閾値電圧V
THである。イオン注入に用いるイオンビームB
0、B
1、B
2、B
3の注入角度分布の広がりの大きさは、B
0<B
1<B
2<B
3の順となっている。例えば、イオンビームB
0は、注入角度分布がほぼ0である平行ビームであり、イオンビームB
3は、注入角度分布が大きい発散ビームである。なお、注入角度分布以外の特性はイオンビームB
0〜B
3において共通である。
【0088】
図示されるように、注入処理に用いるイオンビームの注入角度分布を変えるだけで製造されるトランジスタの閾値電圧が変化する。例えば、トランジスタのゲート長を所定の値L
0に固定すると、注入角度分布によって製造されるトランジスタの閾値電圧V
0、V
1、V
2、V
3が変化する。これは、注入角度分布の違いによりゲート構造の下に形成されるキャリア濃度分布のゲート長方向の広がり幅が異なることとなり、ゲート構造下の実質的なチャネル長が変化することに起因すると考えられる。本実施の形態によれば、イオン注入に用いるイオンビームの角度分布を所望の分布に調整できるため、製造されるトランジスタの閾値電圧が所望の値となるように注入処理を制御することができる。したがって、本実施の形態によれば、最終的に製造される半導体回路が所望の動作特性を有するように注入条件を適切に調整ないし制御できる。
【0089】
また、本実施の形態によれば、評価用ウェハW
Tのシート抵抗を用いて異なる注入装置間のビーム特性を評価しているため、共通の指標に基づく評価をすることができる。異なる装置間でビームの注入角度分布を比較する場合、各注入装置の測定方式や測定装置の取付位置などの違いに起因して、同じ特性のビームを測定したとしても異なる測定結果となることが考えられる。その場合、測定結果の数値が互いに合致するようにビーム調整ができたとしても、ビームの注入角度分布が厳密には一致していない可能性がある。一方、本実施の形態によれば、同一特性の評価用ウェハを用いることで、異なる注入装置間であっても共通の評価基準による比較が可能となる。したがって、本実施の形態によれば、装置間のキャリブレーション精度を高めることができる。
【0090】
また、各注入装置が備える角度分布計測器による計測結果と、ウェハのシート抵抗値との関係性を対応付けるテーブルをあらかじめ作成することにより、注入角度分布に基づいて角度分布計測器の計測値のキャリブレーションをすることもできる。例えば、シート抵抗の測定値を用いて第1イオンビームと第2イオンビームの注入角度分布が同一であることを確認した後に、各注入装置が備えるファラデーカップなどを用いて第1イオンビームと第2イオンビームの注入角度分布を計測する。このような計測結果のペアを異なる注入角度分布について求めることにより、各注入装置が備える角度分布計測器の計測特性を対応付けることができる。例えば、シート抵抗の測定結果から同じ注入角度分布を有することが分かっているイオンビームに対して、第1注入装置では第1の角度分布値が計測される一方で、第2注入装置では第1の角度分布値とは異なる第2の角度分布値が計測されるという相関性が分かる。本実施の形態による手法を用いてこのような相関テーブルをあらかじめ作成すれば、それ以降については評価用ウェハのシート抵抗を測定しなくても各注入装置の角度分布計測機能を利用して注入角度分布を高い精度で合わせ込むことができる。
【0091】
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれ得る。
【0092】
上述の実施の形態では、イオン注入装置10がシート抵抗測定器64およびアニール装置66を備える構成とした。変形例においては、イオン注入装置10には抵抗測定器およびアニール装置が設けられず、イオン注入装置10の外に設けられる装置を用いて評価用ウェハのアニール処理および抵抗測定がなされてもよい。
【0093】
上述の実施の形態では、ビーム照射後のウェハの抵抗値を測定する方法として、四探針法によりウェハのシート抵抗を測定する場合を示した。変形例においては、異なる手法によりウェハの異なる種類の抵抗値を測定してもよい。例えば、拡がり抵抗測定によりウェハの深さ方向のキャリア濃度分布を求めてもよいし、陽極酸化法を用いてウェハの抵抗測定をしてもよい。
【0094】
上述の実施の形態では、ウェハ処理面に形成されるゲート構造近傍のキャリア濃度分布を制御する場合について示した。変形例においては、ウェハ処理面に形成される任意の三次元構造または立体遮蔽物の近傍に形成されるキャリア濃度分布が所望の分布となるようにビームの注入角度分布が制御されてもよい。ウェハ処理面に形成される構造体は、例えば、フィン型FETなどで用いられるフィン構造、縦型トランジスタなどで用いられるトレンチ構造、トランジスタ間を分離するための素子分離酸化膜、その他フォトレジストパターンなどであってもよい。このような構造体が設けられる場合において、ウェハ処理面と直交する深さ方向およびウェハ処理面に平行な水平方向のキャリア濃度分布の広がりが所望の分布となるようにビームの注入角度分布を調整することができる。
【0095】
上述の実施の形態では、ビームの注入角度分布を調整するためのレンズ装置として、三段式の四重極レンズを用いる場合を示した。変形例においては、x方向およびy方向の注入角度分布をそれぞれ独立に制御できる任意の二以上のレンズ装置を用いてもよい。例えば、横方向(x方向)の収束または発散を制御するための第1アインツェルレンズ装置と、縦方向(y方向)の収束または発散を制御するための第2アインツェルレンズ装置とを組み合わせて用いてもよい。第1アインツェルレンズ装置は、x方向に対向する電極対を有し、この電極対に印加される電圧Vxによりx方向の注入角度分布を制御してもよい。第2アインツェルレンズ装置は、y方向に対向する電極対を有し、この電極対に印加される電圧Vyによりy方向に注入角度分布を制御してもよい。