(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
歯付プーリと噛合可能な歯部と、この歯部を被覆する歯布、この歯布を被覆するコート層とを含む歯付ベルトであって、前記コート層が、結合アクリロニトリル量32〜40質量%の水素化ニトリルゴム(a)を含むゴム成分(A)と平均繊維長0.5mm以上の短繊維(B)とを含むゴム組成物で形成され、前記水素化ニトリルゴム(a)において、不飽和カルボン酸金属塩と複合化した複合体(a1)と、複合化していない非複合体(a2)との質量割合が、複合体(a1)/非複合体(a2)=40/60〜100/0である歯付ベルト。
【背景技術】
【0002】
通常、伝動ベルトは機関外部に設けられるが、近年、内燃機関の軽量化等のため機関内部において伝動ベルトが使用されることがある。内燃機関の内部で使用される伝動ベルトは、機関内部の潤滑油に常に接する環境下で使用されることになる。このような伝動ベルトとしては、心線が埋設されたベルト背部にベルト長手方向に沿って所定間隔で歯部を設けると共に、歯部の表面を歯布で被覆して形成されるゴム製歯付ベルトを用いるのが一般的である。
【0003】
図1は、従来の歯付ベルトの一例を示す概略断面斜視図であり、
図2は、
図1の一部を拡大した概略断面斜視図であるが、歯付ベルトは、ベルトの長手方向に沿って所定の間隔で形成された複数の歯部2と、ベルトの長手方向に沿って複数の心線3が埋設された背部1とを備えており、前記歯部2の表面には歯布4が貼着(被覆又は積層)されている。なお、歯部2は、縦断面形状が台形状に形成されている。また、背部1及び歯部2には、ベルトの略長手方向に沿って配列した短繊維5も埋設されている。さらに、歯布4は、ベルトの長手方向に延びる複数の緯糸7と、ベルトの横方向に延びる経糸6とで構成されている。
【0004】
そして、潤滑油に接する環境下で、このゴム製歯付ベルトを使用する場合、ゴム製歯付ベルトには極度の耐油性が必要とされる。そこで、歯付ベルト本体を構成するゴム層に関し、耐油性や補強効果を確保すべく処方が検討されている。
【0005】
その一方で、歯部表面を覆う補強布(歯布)についても、潤滑油に常に接する環境下でも耐え得るべく、極度な耐油性や耐摩耗性が必要である。詳しくは、歯布としては、ベルト幅方向に配置される経糸とベルト長手方向に配置される緯糸とを織成して作製される繊維織物(平織物、綾織物、朱子織物など)が基材として用いられる。さらに、この歯布は、歯部を構成するゴム層に接着させるため、繊維織物の表面に接着処理剤がコーティングされる。接着処理としては、通常、まず、繊維織物をRFL処理液に含浸して乾燥し、次に、ゴム組成物を溶剤に溶かしたゴム糊からなる接着処理剤を付着させ、ベーキング処理を行う。この場合、歯布の表面にゴム組成物がコート(付着)されることになる。そのため、歯布の表面にコートされるゴム組成物に関しても、潤滑油に常に接する環境に耐え得るべく、極度な耐油性や耐摩耗性を備えていないと、油中走行中にコートゴムが剥がれ、歯布の摩耗が進行してしまう。
【0006】
このような歯付ベルトの寿命を向上させる各種の歯付ベルトが提案されており、例えば、特表2009−523979号公報(特許文献1)には、ベルト背部や歯部を形成するゴム、特に歯部を形成するゴム(エラストマー材料)として水素化ニトリルゴム(HNBR)を使用し、さらに長寿命化のために心線や歯布を織物処理剤で処理する方法が開示されている。この文献には、織物処理剤として、ニトリル基を含む単量体の割合(HNBR中における結合アクリロニトリル量又は結合AN量)が30〜39質量%(特に34〜36質量%)のHNBRを含む第1の織物処理剤に浸漬後、さらに第1の織物処理剤と組成が類似した第2の織物処理剤を塗布することが記載されている。さらに、処理した織物の上にさらに接着剤を介して抵抗層が積層され、この抵抗層はフッ化プラストマー(特にポリテトラフルオロエチレン)とHNBRとをフッ化プラストマーがリッチな割合で含んでいる。
【0007】
特表2012−522953号公報(特許文献2)には、ベルト背部や歯部を形成するゴム組成物(第1のエラストマー材料)に含まれる繊維(短繊維)を、心線(耐久性インサート)に対してほぼ垂直で、且つ心線の軸により画定される面に対してほぼ平行な方向に延在するよう配置した歯付ベルトが開示されている。この文献には、前記エラストマー材料として、耐油性に優れるニトリルゴム(NBR)や水素化ニトリルゴム(HNBR)が例示され、ニトリル基含有モノマーの割合(結合アクリロニトリル量又は結合AN量)が34〜53質量%であり、49〜51質量%が好ましいと記載されている。さらに、歯布である被覆布の処理剤の量を適切に選択することにより、カバー層(耐久性層)を形成することも記載され、この処理剤として、フッ素化プラストマー(例えばポリテトラフルオロエチレン)及び結合AN量が34〜60質量%(好ましくは49〜51質量%)のHNBRを含む処理剤が記載されている。この耐久性層でも、フッ素化プラストマーの割合はHNBRよりもリッチである。
【0008】
特開2012−197857号公報(特許文献3)には、歯部を形成するゴム層として、ヨウ素価が11mg/100mg以下のHNBRを含有するゴム成分と短繊維とを含むゴム組成物により形成されていると共に、前記短繊維がニトリル基を含む共重合体を含有する接着処理剤で表面処理された歯付ベルトが開示されている。この文献には、前記短繊維の接着処理剤として耐油性の高いHNBRを用いることにより、ゴムが膨潤するのを抑制(耐油性を確保)しつつ、短繊維による補強効果(ゴムと短繊維との接着性)が向上できると記載されている。さらに、歯布を形成する繊維織物の表面にHNBRをゴム成分とするゴム組成物(ゴム糊)からなる接着処理剤をコーティングすることが記載されている。
【0009】
しかし、これらの歯付ベルトでも、耐油性及び耐摩耗性は十分ではなく、特に、歯布とコート層との接着力が小さいため、油中走行中に歯布のコート層が剥離し、歯布の摩耗が進行する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[コート層]
本発明の歯付ベルトは、歯布の表面(伝動面)が、結合AN量(アクリロニトリル含量)32〜40質量%の水素化ニトリルゴム(a)を含むゴム成分(A)と平均繊維長0.5mm以上の短繊維(B)とを含むゴム組成物で形成されたコート層で被覆されている。
【0019】
(A)ゴム成分
ゴム成分(A)は、結合AN量(中心値)32〜40質量%の水素化ニトリルゴム(HNBR)(a)を含んでおり、このような結合AN量の水素化ニトリルゴムは高い耐油性を有している。そのため、膨潤の発生をより抑制でき、短繊維による耐摩耗性を向上でき、油中走行中でもコート層の剥離を抑制できる。水素化ニトリルゴム(a)の結合AN量は、好ましくは33〜39質量%、さらに好ましくは34〜38質量%(特に35〜37質量%)程度である。結合AN量が少なすぎると、耐熱性や耐油性、耐摩耗性が低下し、結合AN量が多すぎると、架橋が困難となり、ベルトの耐久性が低下する。
【0020】
本明細書及び特許請求の範囲では、結合AN量の測定方法としては、JIS K6384によるセミミクロケルダール法などの方法を利用できる。
【0021】
水素化ニトリルゴム(a)のヨウ素価(中心値)は、例えば5〜20mg/100mg、好ましくは7〜15mg/100mg、さらに好ましくは8〜13mg/100mg(特に10〜12mg/100mg)程度である。水素化ニトリルゴム(a)のヨウ素価が小さすぎると、水素化ニトリルゴム(a)同士の架橋反応が十分ではなく、コート層の剛性が低くなるため、ベルト走行時にディッシングしやすくなる虞がある。一方、水素化ニトリルゴム(a)のヨウ素価が大きすぎると、不飽和結合の量が過剰に多くなり、コート層の耐熱性の低下や酸化による劣化が進行してベルト寿命が短くなる虞がある。
【0022】
本明細書及び特許請求の範囲では、ヨウ素価の測定方法としては、測定試料に対して過剰のヨウ素を加えて完全に反応(ヨウ素と不飽和結合との反応)させ、残ったヨウ素の量を酸化還元滴定により定量することにより求めることができる。
【0023】
水素化ニトリルゴム(a)の少なくとも一部は、不飽和カルボン酸金属塩と複合化して複合体(a1)を形成していてもよい。水素化ニトリルゴム(a)と不飽和カルボン酸金属塩とを複合化することにより、コート層の強度を向上でき、潤滑油による耐膨潤性も向上できる。
【0024】
不飽和カルボン酸金属塩は、1又は2以上のカルボキシル基を有する不飽和カルボン酸と金属とがイオン結合した化合物であれば、特に限定されない。不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸などの不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸などの不飽和ジカルボン酸が例示できる。これらの不飽和カルボン酸は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの不飽和カルボン酸のうち、(メタ)アクリル酸などの不飽和モノカルボン酸が好ましい。
【0025】
金属としては、周期表第2族金属(マグネシウム、カルシウムなど)、第4族金属(チタン、ジルコニウムなど)、第8族金属(鉄など)、第10族金属(ニッケルなど)、第11族金属(銅など)、第12族金属(亜鉛など)、第13族金属(アルミニウムなど)、第14族金属(鉛など)などの多価金属が例示できる。これらの金属は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの金属のうち、マグネシウム、カルシウム、亜鉛などの二価金属、アルミニウムなどの三価金属(特に亜鉛などの二価金属)が好ましい。
【0026】
これらのうち、2官能のラジカル重合性基を有するモノカルボン酸二価金属塩、例えば、ジメタクリル酸亜鉛などのジ(メタ)アクリル酸亜鉛、ジメタクリル酸マグネシウムなどのジ(メタ)アクリル酸マグネシウム(特にジメタクリル酸亜鉛)が好ましい。
【0027】
複合体(a1)において、水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との質量割合は、前者/後者=10/90〜90/10程度の範囲から選択でき、例えば20/80〜80/20、好ましくは30/70〜70/30、さらに好ましくは40/60〜60/40程度である。不飽和カルボン酸金属塩の割合が少なすぎると、コート層の強度を向上する効果が小さくなる虞があり、逆に多すぎると、ベルトの柔軟性が低下する虞がある。
【0028】
複合体(a1)の形態は、特に限定されないが、例えば、水素化ニトリルゴム(a)中に不飽和カルボン酸金属塩が微分散して複合化された形態であってもよく、市販のゴム組成物などを利用できる。
【0029】
このような複合体(a1)と、不飽和カルボン酸金属塩と複合化していない非複合体(a2)との質量割合は、複合体(a1)/非複合体(a2)=1/99〜100/0の範囲から選択でき、例えば10/90〜99/1、好ましくは20/80〜95/5(例えば40/60〜90/10)、さらに好ましくは50/50〜85/15(特に60/40〜80/20)程度である。複合体(a1)の割合が少なすぎると、ベルトの耐久性が低下する虞がある。
【0030】
水素化ニトリルゴム(a)は、重合成分であるアクリロニトリル及びブタジエンに加えて、慣用の共重合成分(例えば、メタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸、2−メチル−5−ビニルピリジンなどのビニル系化合物、イソプレン、メチルブタジエン、ペンタジエンなどのジエン系化合物など)を含んでいてもよい。慣用の共重合成分の割合は、水素化ニトリルゴム(a)全体に対して30質量%以下(特に10質量%以下)であってもよい。
【0031】
ゴム成分(A)には、結合AN量32質量%未満の水素化ニトリルゴム、結合AN量が40質量%を超える水素化ニトリルゴムの他、他のジエン系ゴム(例えば、ニトリルゴム、天然ゴム、クロロプレンゴムなど)、オレフィン系ゴム、アクリル系ゴム、フッ素ゴム、シリコーン系ゴム、ウレタン系ゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン系ゴム、オレフィン−ビニルエステル共重合体などを含んでいてもよい。
【0032】
ゴム成分(A)全体に対して、水素化ニトリルゴム(a)の割合は、例えば50質量%以上(50〜100質量%)であり、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上(特に95質量%以上)である。水素化ニトリルゴム(a)の割合が少なすぎると、ベルトの耐久性が低下する虞がある。
【0033】
(B)短繊維
短繊維(B)は平均繊維長が0.5mm以上であり、このような繊維長を有する短繊維を使用することにより、ベルトの耐久性(耐摩耗性)を向上できる。平均繊維長は、例えば0.5〜10mm(例えば0.5〜5mm)、好ましくは0.5〜3mm(例えば0.6〜2.5mm)、さらに好ましくは0.7〜2mm(特に0.8〜1.5mm)程度である。特に、平均繊維長は、短繊維が芳香族ポリアミド繊維である場合、例えば0.5〜5mm、好ましくは0.5〜3mm(例えば0.6〜2mm)、さらに好ましくは0.7〜1.5mm(特に0.8〜1.2mm)程度であってもよく、脂肪族ポリアミド繊維である場合、例えば0.5〜10mm、好ましくは1.0〜8mm(例えば1.5〜5mm)、さらに好ましくは2.0〜4mm(特に2.5〜3.5mm)程度であってもよい。
【0034】
短繊維(B)の平均繊維径は5μm以上であってもよく、例えば5〜50μm、好ましくは7〜40μm、さらに好ましくは10〜35μm程度である。繊維径が小さすぎると、ベルトの耐久性が低下する虞がある。
【0035】
短繊維(B)の材質は、特に限定されないが、短繊維(B)としては、例えば、ポリオレフィン繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)、フッ素系繊維(ポリテトラフルオロエチレン繊維など)、ビニルアルコール系繊維(ポリビニルアルコール繊維、エチレン−ビニルアルコール共重合体の繊維、ビニロンなど)、ポリアミド繊維(ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維などの脂肪族ポリアミド繊維、アラミド繊維などの芳香族ポリアミド繊維など)、ポリエステル繊維[ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)繊維、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維などのポリC
2−4アルキレンC
6−14アリレート系繊維、ポリアリレート繊維、液晶ポリエステル繊維などの完全芳香族ポリエステル系繊維など]、ポリフェニレンエーテル系繊維、ポリエーテルエーテルケトン系繊維、ポリエーテルスルホン系繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、ポリウレタン繊維などの合成繊維;レーヨンなどの再生セルロース繊維、セルロースエステル繊維などの半合成繊維;セルロース繊維(綿、麻、羊毛などの植物、動物又はバクテリア由来のセルロース繊維)などの天然繊維;ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維(スチール繊維)などの無機繊維などが例示できる。これらのうち、高モジュラスの点から、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維などの合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維などが汎用され、耐油性が高い点から、ポリアミド繊維(例えば、ポリアミド6やポリアミド66などの脂肪族ポリアミド繊維、芳香族ポリアミド繊維など)が好ましく、油中走行中でも補強(耐摩耗性)効果を高く維持できる点から、芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)が特に好ましい。
【0036】
短繊維(B)の割合は、ゴム成分(A)100質量部に対して、例えば1〜30質量部(例えば2〜30質量部)、好ましくは2〜10質量部、さらに好ましくは3〜9重量部(特に4〜8重量部)程度である。短繊維の割合が少なすぎると、ベルトの耐久性が低下する虞があり、多すぎると、コート層の可撓性が低下し、変形による噛み合い位置の調整ができず、コート層の損傷が大きくなる虞がある。
【0037】
(C)他の添加剤
ゴム組成物は、必要に応じて、慣用の各種添加剤(又は配合剤)を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、加硫剤又は架橋剤[例えば、オキシム類(キノンジオキシムなど)、グアニジン類(ジフェニルグアニジンなど)、金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化亜鉛など)、有機過酸化物(ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイドなど)など]、加硫助剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、補強剤(カーボンブラック、含水シリカなどの酸化ケイ素など)、金属酸化物(例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなど)、充填剤(クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカなど)、可塑剤、軟化剤(パラフィンオイル、ナフテン系オイルなどのオイル類など)、加工剤又は加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィンなど)、老化防止剤(芳香族アミン系、ベンズイミダゾール系老化防止剤など)、接着性改善剤[レゾルシン−ホルムアルデヒド共縮合物、ヘキサメトキシメチルメラミンなどのメラミン樹脂、これらの共縮合物(レゾルシン−メラミン−ホルムアルデヒド共縮合物など)など]、着色剤、粘着付与剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)、潤滑剤、離型剤、難燃剤、帯電防止剤などが例示できる。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0038】
他の添加剤の割合は、種類に応じて、ゴム成分(A)100質量部に対して150質量部以下、例えば0.1〜100質量部、好ましくは1〜50質量部程度である。例えば、加硫剤又は架橋剤の割合は、ゴム成分(A)100質量部に対して0.1〜20質量部、好ましくは0.5〜10質量部、さらに好ましくは1〜5質量部程度である。補強剤の割合は、ゴム成分(A)100質量部に対して1〜50質量部、好ましくは5〜40質量部、さらに好ましくは10〜30質量部程度である。老化防止剤の割合は、ゴム成分(A)100質量部に対して0.1〜20質量部、好ましくは0.5〜10質量部、さらに好ましくは1〜5質量部程度である。
【0039】
さらに、本発明では、コート層の耐摩耗性が高いため、ゴム組成物は、前記添加剤のうち、離型剤や潤滑剤を含まない組成物であってもよく、特に、フッ素樹脂を含まない組成物であってもよい。
【0040】
(D)コート層の特性
本発明の歯付ベルトは、歯布の表面が前記コート層で被覆されていればよく、少なくとも伝動面が前記コート層で被覆されているのが好ましく、生産性などの点から、歯布の全面(伝動面及び非伝動面)が前記コート層で形成されているのが特に好ましい。コート層による被覆率としては、歯布の表面全体(伝動面及び非伝動面)に対して50%以上を占めていればよく、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(特に100%)である。
【0041】
コート層の平均厚みは10μm以上であり、例えば10〜500μm、好ましくは20〜200μm、さらに好ましくは30〜100μm程度である。コート層の厚みが薄すぎると、ベルトの耐久性が低下する虞がある。コート層は、歯布との密着性を向上させるため、一部が歯布に含浸していてもよい。本明細書及び特許請求の範囲では、歯布にコート層が含浸している場合、含浸部もコート層の厚みに含める。
【0042】
なお、本明細書及び特許請求の範囲では、コート層の平均厚みの測定方法は、歯付ベルトの歯布表面付近の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察する方法などを利用できる。
【0043】
[歯付ベルト]
本発明の歯付ベルトは、コート層を除いて慣用の歯付ベルトを利用できる。例えば、歯付ベルトの形状は、
図1に示す構造に限定されず、ベルトの少なくとも一方の面に、ベルトの長手方向に所定の間隔をおいて形成され、かつ歯状プーリと噛合可能な複数の歯部又は凸部を有していればよい。歯部又は凸部の断面形状(ベルトの長手方向又は幅方向の断面形状)は、前記台形に限定されず、歯状プーリの形態などに応じて、例えば、半円形、半楕円形、多角形(三角形、四角形(矩形など)など)などであってもよい。また、長手方向に隣り合う歯部又は凸部の間隔は、歯状プーリの形態などに応じて、例えば1〜10mm、好ましくは2〜8mm程度であってもよい。
【0044】
(ベルト本体)
ベルト本体(歯部及び背部)を形成するゴム組成物は、歯付ベルトで利用される慣用のゴム組成物であればよく、歯部と背部との密着性が損なわれない限り、異なるゴム組成物であってもよく、同じゴム組成物であってもよい。通常、歯部と背部とは、同系列のゴム(例えば、ジエン系ゴムに属し、かつ種類の異なるゴムなど)又は同種のゴム成分(例えば、同種のジエン系ゴムなど)を含む場合が多く、耐油性などの点から、水素化ニトリルゴムが好ましい。添加剤も、コート層のゴム組成物の項で例示された添加剤を配合できる。
【0045】
(心線)
心線を形成する繊維としては、前記短繊維で例示された材質の繊維を利用できる。前記繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。前記繊維のうち、心線を形成する繊維としては、低伸度高強度の点から、例えば、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維(アラミド繊維など)などの合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維などが汎用され、一般に、ガラス心線及びアラミド心線が使用される。ガラス心線の組成は、特に制限されず、Eガラス、Sガラス(高強度ガラス)、Cガラスなどであってもよい。
【0046】
心線(抗張体)としては、通常、マルチフィラメント糸の撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)を使用できる。フィラメントの太さ、フィラメントの収束本数及びストランド本数は特に制限されず、心線の平均線径(撚りコードの繊維径)は、例えば0.5〜3mm、好ましくは0.6〜1mm、さらに好ましくは0.7〜0.8mm程度であってもよい。
【0047】
複数の心線は、ベルトの幅方向に所定の間隔(又はピッチ)をおいて(又は等間隔で)埋設されていてもよい。隣接する心線の間隔(スピニングピッチ)は、心線の径に応じて、例えば0.5〜2mm、好ましくは0.8〜1.5mm程度であってもよい。
【0048】
心線には、ゴム成分との接着性を改善するため、種々の接着処理剤(例えば、エポキシ化合物、イソシアネート化合物など)による接着処理を施してもよく、サイジング剤、後述のRFL処理液、オーバーコート剤などで表面処理してもよい。保護剤(前記サイジング剤、RFL処理液、オーバーコート剤など)でガラス繊維などをコートし、屈曲に伴うガラス繊維の折れを抑制してもよい。
【0049】
(歯布)
プーリ接触面である歯付ベルトの歯部には、歯布が被覆又は積層され、歯布は歯部と一体化している。
【0050】
歯布の緯糸及び経糸を形成する繊維としても、前記短繊維の項で例示された材質の繊維を利用できる。前記繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。前記繊維のうち、フッ素系繊維(ポリテトラフルオロエチレン繊維など)、ポリエステル繊維(PET繊維など)、ポリアミド繊維(ポリアミド66などの脂肪族ポリアミド繊維、アラミド繊維など)、綿などの天然繊維やレーヨンなどの再生セルロース繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、ポリウレタン繊維などが汎用される。特に、過酷な条件で使用してもベルトの寿命を長くするため、少なくともポリアミド繊維(ポリアミド66などの脂肪族ポリアミド繊維、アラミド繊維など)、フッ素系繊維(ポリテトラフルオロエチレン繊維)が好ましく使用される。
【0051】
繊維の形態は、特に制限されず、フィラメント糸又は紡績糸のいずれであってもよく、単独組成の繊維の撚糸又は混撚糸、混紡糸などであってもよい。例えば、弾性の低いフッ素系繊維に弾性の高いウレタン系繊維を組み合わせた混撚糸であってもよい。
【0052】
歯布を構成する繊維(又は糸)の平均繊維径は、例えば5〜100μm、好ましくは10〜50μm程度であってもよい。また、繊維で形成された糸(撚糸)の平均繊維径(太さ)は、例えば、緯糸では100〜2000dtex、好ましくは300〜1500dtex程度であってもよく、経糸では50〜1000dtex、好ましくは100〜500dtex程度であってもよい。
【0053】
歯布の織成構成(織り組織)は、例えば、綾織(斜文織)、朱子織(繻子織、サテン)、平織などの組織であってもよい。このような織り組織は、コート層を被覆させる上で有用である。なお、綾織及び朱子織組織は、平織組織よりも繊維(又は糸)の接点の数が少なく、コート層との密着性が高いようである。
【0054】
緯糸の密度(本/cm)は、例えば5〜50、好ましくは15〜35(特に20〜30)程度であってもよく、経糸の密度(本/cm)は、例えば10〜300、好ましくは20〜100(特に25〜50)程度であってもよい。
【0055】
歯布の平均厚みは、特に制限されず、例えば0.3〜1.5mm、好ましくは0.5〜1.3mm、さらに好ましくは0.6〜1.2mm程度であってもよい。
【0056】
ベルト本体(歯部及び背部)と歯布との接着性を高めるために、歯布には接着処理を施してもよい。接着処理としては、例えば、エポキシ化合物(又は樹脂)、イソシアネート化合物(又はポリイソシアネート)、シランカップリング剤などの反応性接着成分と有機溶媒(トルエン、キシレン、メチルエチルケトンなど)とを含む処理液に歯布を浸漬処理する方法;RFL処理液などの水系処理液に歯布を浸漬処理する方法;ゴム組成物を有機溶媒に溶かしてゴム糊とし、このゴム糊に歯布を浸漬処理して、歯布にゴム組成物を含浸、付着させる方法などが例示できる。これらの方法は、単独で又は組み合わせて行うこともでき、処理順序や処理回数は特に限定されない。また、接着処理した歯布とベルト本体のゴムとの接着性をより高めるために、歯布とゴム組成物とをカレンダーロールに通して歯布にベルト本体のゴム組成物を刷り込む処理や、歯布のうち歯部との接着面側にゴム組成物を積層する処理を施してもよい。なお、歯布に含浸するゴム組成物(又は歯布に刷り込む又は歯部との接着面に積層するゴム組成物)としては、前記ベルト本体(歯部及び背部)を形成するゴム組成物と同種又は異種のゴム組成物が使用できる。ゴム組成物としては、前記ベルト本体(歯部及び背部)と同種のゴム組成物を用いる場合が多い。
【0057】
なお、RFL処理液は、レゾルシンとホルマリンとの初期縮合物をラテックスに混合した混合物であり、ラテックスは、特に制限されず、例えば、スチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体、水素化ニトリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、エピクロルヒドリンゴムなどであってもよい。
【0058】
[歯付ベルトの製造方法]
本発明の歯付ベルトは、歯布の表面をコート層で被覆した後、慣用の方法で製造できる。コート層の被覆方法としても、慣用の方法、例えば、コート層を形成するためのゴム組成物(例えば、溶媒を含むゴム糊)でソーキング処理(浸漬処理)する方法、カレンダーロールを用いてコート層を形成するためのシート状ゴム組成物(未加硫ゴムシート)を積層する方法、前記ゴム糊を歯布の表面に擦り込むフリクション法などを利用できる。これらの方法のうち、簡便性などの点から、ゴム糊中に歯布を浸漬処理する方法が好ましい。
【0059】
浸漬法では、歯布の少なくとも一部の表面を浸漬してもよく、少なくとも表面全体、特に歯布全体を浸漬してもよい。また、接触温度(又は含浸温度)は、特に制限されず、歯布及び/又はゴム糊を30〜70℃程度に加温又は加熱してもよいが、通常、室温である場合が多い。また、歯布に対するゴム糊の接触(又は含浸)は、常圧、加圧下又は減圧下で行ってもよく、例えば、減圧下で歯布を収容する容器内にゴム糊を導入してもよい。
【0060】
歯布とゴム糊との接触時間(又は含浸時間)は、特に制限されず、例えば1分〜6時間程度であってもよく、歯布の内部にシラン化合物を浸透させるためには、例えば10分〜3時間、好ましくは30分〜2時間程度であってもよい。
【0061】
ゴム糊による歯布の処理は、ベルトの成形工程の任意の工程で行ってもよく、例えば、(a)予め歯布をゴム糊(又はシート状ゴム組成物)で被覆処理してベルトの成形に供してもよく、(b)歯布を備えたベルト本体を加硫成形した加硫スリーブの歯布部をゴム糊(又はシート状ゴム組成物)で被覆処理してもよく、(c)この加硫スリーブを所定幅に切断して調製した歯付ベルトの歯布部をゴム糊(又はシート状ゴム組成物)で被覆処理してもよい。
【0062】
ゴム糊を用いる場合、歯布に対するゴム糊の被覆量(又は付着割合)は、歯布の単位面積に対して、例えば2〜50mg/cm
2、好ましくは3〜30mg/cm
2、さらに好ましくは4〜20mg/cm
2程度である。
【0063】
ゴム糊は、通常、有機溶媒(メチルエチルケトンなどの脂肪族ケトン類など)を含んでいる。有機溶媒の割合は、ゴム組成物100質量部に対して100〜1000質量部、好ましくは300〜800質量部、さらに好ましくは400〜600質量部程度である。
【0064】
歯付ベルトは公知の方法で成形できる。例えば、歯付ベルトの歯部に対応する複数の凹条を有する円筒状モールドに、歯布を形成する帆布を巻き付ける工程、歯布が巻き付けられた円筒状モールドに心線を構成するコードを円筒状モールドの長手方向(周方向)に所定のピッチ(円筒状モールドの軸方向に対して所定のピッチ)で巻き付ける工程(螺旋状にスピニングする工程)、背部及び歯部を形成する未加硫ゴムシートを巻き付けて未加硫スリーブ(未加硫積層体)を形成する工程、前記未加硫スリーブが巻き付けられた円筒状モールドを加硫缶内に移し、加熱・加圧することにより、前記ゴムシートをモールド溝部(外型の溝部)に圧入させ、加硫とともに歯部を形成する工程(歯部を有する加硫積層体を形成する工程)、得られたスリーブ状の成形体を所定のカット幅に従って切断刃で切断する工程を経て、歯付ベルトを製造できる。なお、前述のように、歯布へのコート層の被覆処理は、いずれかの工程で行えばよい。
【実施例】
【0065】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0066】
[使用原料]
HNBR複合体1:ジメタクリル酸亜鉛とHNBRとの複合体(50/50の質量比)、日本ゼオン(株)製「ZSC2095」、ヨウ素価7mg/100mg以下、結合AN量36.2質量%
HNBR複合体2:ジメタクリル酸亜鉛とHNBRとの複合体(50/50の質量比)、日本ゼオン(株)製「ZSC2195」、ヨウ素価11mg/100mg、結合AN量36.2質量%
HNBR複合体3:ジメタクリル酸亜鉛とHNBRとの複合体(50/50の質量比)、日本ゼオン(株)製「ZSC4195」、ヨウ素価15mg/100mg、結合AN量18.6質量%
HNBR1:日本ゼオン(株)製「Zetpole2000」、ヨウ素価7mg/100mg以下、結合AN量36.2質量%
HNBR2:日本ゼオン(株)製「Zetpole2010」、ヨウ素価11mg/100mg、結合AN量36.2質量%
HNBR3:日本ゼオン(株)製「Zetpole4310」、ヨウ素価15mg/100mg、結合AN量18.6質量%
HNBRラテックス:日本ゼオン(株)製「ラテックス」、濃度40質量%
ポリアミド短繊維1:帝人(株)製「テクノーラ短繊維」、カット長1mm、繊維径12.5μm
ポリアミド短繊維2:帝人(株)製「テクノーラ短繊維」、カット長0.3mm、繊維径12.5μm
ポリアミド短繊維3:ニシヨリ(株)製「66ナイロン短繊維」、カット長1mm、繊維径25μm
ポリアミド短繊維4:ニシヨリ(株)製「66ナイロン短繊維」、カット長3mm、繊維径25μm
シリカ:エボニック デグサ ジャパン(株)製「ウルトラジルVN−3」
アミン系老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラックAD−F」
有機過酸化物:日油(株)製「パーブチルP」
RF縮合物:レゾルシン/ホルマリン=1/1(モル比)
ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン三元共重合体ラテックス:固形分4質量%。
【0067】
[コート層のゴム組成物の摩耗試験]
表1に示す配合処方のゴム組成物を混練して、ゴム組成物(A−1)〜(A−11)を調製した。得られたゴム組成物について、後述の歯付ベルトを製造する際の加硫条件で加硫して試験片を作製した。得られた試験片を、エンジンオイル(本田技研工業(株)製の純正エンジンオイル「Ultra G1」)に150℃で7日間浸漬して体積変化率を確認した後、JIS L1096に準拠して、テーバー摩耗試験を実施した(摩耗輪H−18、荷重1000g、回転数500回)。得られた結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1から明らかなように、短繊維を含有しないうえに水素化ニトリルゴムの結合AN量が32質量%未満であるゴム組成物(A−10)は、エンジンオイル中の150℃、7日後の体積変化率が±3%の範囲から大きく外れて、耐油性が劣り、さらに摩耗量も大きかった。
【0070】
また、短繊維を含有しないゴム組成物(A−8)又は短繊維の繊維長が比較的短いゴム組成物(A−9)は、体積変化率、摩耗量がやや大きくなった。
【0071】
さらに、水素化ニトリルゴムの結合AN量が32質量%未満であるゴム組成物(A−11)は、体積変化率が±3%の範囲から大きく外れて耐油性が劣り、摩耗量はやや大きかった。
【0072】
これに対して、本発明の範囲にあるゴム組成物(A−1)〜(A−7)は体積変化率、摩耗量がともに小さく、耐油性、耐摩耗性が良好であった。
【0073】
[歯付ベルトの製造]
(コート層用ゴム糊)
表1のコートゴム組成物15質量部とメチルエチルケトン(MEK)85質量部とを混合して溶解し、コート層用ゴム糊を作製した。
【0074】
(歯布への被覆)
歯布として、表側が1/3綾織となり裏側が2/2綾織となった2色2重の綾織物を用いた。この2色2重の綾織物において、経糸はポリアミド66糸、表側の緯糸はPTFE繊維(東レ(株)製「トヨフロン」、1330dtex)とウレタン弾性糸との混撚糸、裏側の緯糸はポリアミド66糸とウレタン弾性糸との混撚糸である。そして、この歯布を表2に示すRFL処理液に浸漬して乾燥することによってRFL処理をし、次いで前記ゴム糊に歯布を浸漬して、歯布の表面にコーティングすることによって、歯布表面にコート層を形成するためのゴム組成物を付着させた。
【0075】
【表2】
【0076】
(ベルト本体である歯部及び背部を構成するゴム組成物)
特許文献3(特開2012−197857号公報)の実施例1に記載のゴム組成物を用いた。
【0077】
(心線)
心線として、ゴム皮膜付処理コードを用いた。すなわち、1束がECG−150のガラス繊維を準備し、これを3本引き揃えた状態で、表3に示すRFL処理液に浸漬した後、230℃で1分間熱処理した。得られた熱処理原糸に120回/mの下撚りを施してガラス繊維子縄とし、この子縄11本を諸撚りに撚り合せた後、表3に示すゴム糊に浸漬して160℃で3分間熱処理することによって、心線として用いるゴム皮膜付処理コードを得た。
【0078】
【表3】
【0079】
(ベルトの作製)
ベルト本体(歯部及び背部)を構成するゴム組成物をロールに通して、未加硫ゴムシートを作製した。まず、歯型の凹部を有する平坦な金型に、表面にコート層用ゴム組成物が付着した歯布と、歯部形成用の未加硫ゴムシートを重ね、得られた積層体を加熱及び加圧することによって、歯布及び未加硫ゴムシートを歯型凹部内に充填させ、表面に歯布が被覆された歯部を予備成形した。次に、この歯部の予備成形体を、歯型の凹部を外周に設けた円筒状の金型に、歯型凹部に歯部を嵌め込むようにして巻き付けた。さらに、得られた巻回体の上に心線をスパイラル状に巻き付け、さらに心線の上にベルト背部形成用の未加硫ゴムシートを巻き付けた。得られた巻回体全体を加硫缶に入れて、170℃、0.8MPaの条件で加硫することによって、ベルト背部のゴム層の内周に歯部のゴム層が一体化した筒状の加硫スリーブを形成した。最後に、この加硫スリーブを10mm幅に輪切りするように切断することによって、ベルトサイズ106MY(歯数106、歯型MY、ベルト幅10mm)の歯付ベルトを作製した。
【0080】
(歯付ベルトの耐久性評価)
得られた歯付ベルトについて、
図3に示す3軸注油走行試験機を用いた耐久試験を行ない、ベルト走行寿命を測定した。すなわち、歯付ベルトAを、歯数22の歯付プーリからなる駆動プーリ10、歯数44の歯付プーリからなる従動プーリ11、フラットプーリからなるテンションプーリ12に懸架し、設定張力:49N、回転数:3600rpm、負荷:無負荷、雰囲気温度:室温の条件で走行させた。さらに、駆動プーリ10と従動プーリ11との間に架け渡した歯付ベルトAにノズルから150℃のエンジンオイル(Ultra G1)を常時100cc/分の量で注入した。このような方法で3軸注油走行試験を行ない、歯部やベルト背部のゴム層にクラックが入った時点、歯部に欠け(歯欠)が発生した時点、歯布が剥離した時点、ベルトが切断した時点の、いずれか最も早い時点をベルト走行寿命と判定した。結果を表4に示す。
【0081】
【表4】
【0082】
実施例1〜7の歯付ベルトでは、コート層が、結合AN量32〜40質量%の水素化ニトリルゴムに繊維長1〜3mmのポリアミド短繊維を配合した組成物であるため、コート層の潤滑油に対する耐膨潤性(耐油性)、耐摩耗性が向上し、油中走行においてもコート層の剥がれがなく、歯布の摩耗量が小さくなり、長寿命化を達成できるものであった。
【0083】
一方、比較例1〜2では、短繊維を含まないか、繊維長が短いポリアミド短繊維を配合しているため、実施例に用いたコート層に比べ耐摩耗性、耐油性能に劣るため、油中走行でコート層が剥がれ易く、歯布の摩耗が増え、耐久性が低かった。
【0084】
また、比較例3〜4では水素化ニトリルゴムの結合AN量が少なく、耐油性が低いため、油中走行では著しくコートゴムが剥がれて歯布が大きく摩耗し、耐久性が低かった。