特許第6588443号(P6588443)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6588443耐火物のビヒクル前処理を含むガラスシート作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6588443
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】耐火物のビヒクル前処理を含むガラスシート作製方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/43 20060101AFI20191001BHJP
   C03B 17/06 20060101ALN20191001BHJP
【FI】
   C03B5/43
   !C03B17/06
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-546762(P2016-546762)
(86)(22)【出願日】2015年1月12日
(65)【公表番号】特表2017-502910(P2017-502910A)
(43)【公表日】2017年1月26日
(86)【国際出願番号】US2015010963
(87)【国際公開番号】WO2015108802
(87)【国際公開日】20150723
【審査請求日】2018年1月10日
(31)【優先権主張番号】61/927,661
(32)【優先日】2014年1月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】デジュネカ,マシュー ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ゴメズ,シニュー
(72)【発明者】
【氏名】ハンソン,ベンジャミン ザイン
(72)【発明者】
【氏名】ラスタッド,ジェイムズ ロバート
(72)【発明者】
【氏名】シーフェルバイン,スーザン リー
(72)【発明者】
【氏名】ヴァーグヒーズ,コチュパラムビル デーナマ
【審査官】 宮崎 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−518591(JP,A)
【文献】 特開平06−183832(JP,A)
【文献】 特開平10−059728(JP,A)
【文献】 特表2006−522001(JP,A)
【文献】 特開昭62−052168(JP,A)
【文献】 特表2011−500502(JP,A)
【文献】 特開平09−286678(JP,A)
【文献】 特開2005−008454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B35/16
C04B35/488
C03B5/43
C03B17/06
F27D1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄を含む耐火ブロック材料を、アルカリ土類炭酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、ホウ酸塩、酸化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫化物、セレン酸塩、ヒ酸塩、アンチモン酸塩、スズ酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、ケイフッ化物、チオシアン酸塩、過マンガン酸塩、過塩素酸塩、および過硫酸塩、から成る群から選択されるアルカリ土類化合物を含む少なくとも1つのレドックス変化成分または前駆体を含む、ビヒクルで処理するステップ、
前記ビヒクルで処理した耐火ブロック材料を加熱して、該耐火ブロック材料を乾燥する、および/または前記ビヒクル中の少なくとも1つのレドックス変化前駆体を少なくとも1つのレドックス変化成分に変換するステップ、および、
前記耐火ブロック材料上に溶融ガラスを流すステップ、
を含み、前記少なくとも1つのレドックス変化成分または前駆体を含む前記ビヒクルでの前記耐火ブロック材料の前記処理により、前記酸化鉄と前記溶融ガラスとの間の相互作用により生じる酸素の生成量を減少させる、ガラスシートを作製する方法であって、
ここで、前記レドックス変化成分または前駆体とは、レドックス変化成分または前駆体のない場合よりも多価成分である前記酸化鉄が大きく還元するように、その多価成分の酸化‐還元特性をシフトさせる、成分、または成分の前駆体のことをいうものである、
方法。
【請求項2】
前記耐火ブロック材料が、ジルコン、アルミナ、チタニア、ムライト、モナザイト、ゼノタイム、スピネル、ジルコニア、βアルミナ、およびβダブルプライムアルミナ、から成る群から選択される、少なくとも1つの構成材料を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記耐火ブロック材料がジルコンを含むことを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つのレドックス変化成分または前駆体を含む前記ビヒクルが、アルカリ土類炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酸化物、および塩化物から成る群から選択される少なくとも1つのアルカリ土類化合物を含むことを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記耐火ブロック材料が少なくとも1つの粒界相を含むことを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
処理された前記耐火ブロック材料を、少なくとも10時間の間、少なくとも1,000℃で加熱するステップを含むことを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つのレドックス変化成分または前駆体を含む前記ビヒクルが、液体として塗布され、かつ該液体100mL毎に少なくとも1グラムのレドックス変化成分を含んでいることを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記溶融ガラスがアルカリ酸化物を含むことを特徴とする請求項1から7いずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、その内容が引用されその全体が参照することにより本書に組み込まれる、2014年1月15日に出願された米国特許出願第61/927,661号の優先権の利益を米国特許法第120条の下で主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本明細書は、一般にガラス製造方法に関し、より具体的には、ガラス成形プロセスにおいて使用される耐火材料を、ビヒクル前処理を用いて作製する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
タッチスクリーンおよび他のディスプレイ用途に使用されるガラスシートなどのガラス材料の製造において、ガラス材料は様々なプロセスを用いて特定の形状に成形され得る。ガラスシートを製造する1つの方法は、成形機器(またはアイソパイプ)の両側面上の溶融ガラスをフュージョンドローするものである。これは、他の方法で製造されるガラスシートに比べて優れた平坦度および平滑度を有する、薄い平坦なシートの製造を可能にすることができる。
【0004】
フュージョンプロセスを用いるガラスシートの製造では、特別に成形された耐火ブロックが成形機器(またはアイソパイプ)として使用され得る。例示的な耐火ブロック材料は、間近の特定の成形プロセスに適用できる既定の仕様に従って加圧および焼結された、ジルコン(ZrSiO4)を主に含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アルカリ含有ガラスに関わる特定の成形プロセスでは、溶融ガラスと新しいジルコン含有アイソパイプとの間の接触により、ガラス‐耐火物の境界面付近で望ましくない酸素気泡の形成がもたらされ得る。この問題の1つの解決策は、ガラス材料にアンチモン酸化物を加えて酸素を吸収し、気泡の形成を軽減することである。しかしながら、酸素気泡を十分に軽減するために必要なレベルを下回るアンチモンを含有しているガラスに対する、需要が増加している。
【0006】
従って、酸素気泡の形成を軽減するための代わりの方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施の形態によれば、ガラスシートを作製する方法は、少なくとも1つの多価成分を含む耐火ブロック材料を、少なくとも1つのレドックス変化成分または前駆体を含む、ビヒクルで処理するステップを含む。この方法は、耐火ブロック材料上に溶融ガラスを流すステップをさらに含み、少なくとも1つのレドックス変化成分または前駆体を含むビヒクルでの、耐火ブロック材料のこの処理により、少なくとも1つの多価成分と溶融ガラスとの間の相互作用により生じる酸素の生成量が減少することを特徴とする。
【0008】
前述の一般的な説明および以下の詳細な説明は、種々の実施形態を説明したものであること、また請求される主題の本質および特徴を理解するための概要または構成を提供するよう意図されたものであることを理解されたい。添付の図面は、種々の実施形態のさらなる理解を提供するために含まれ、本明細書に組み込まれかつその一部を構成する。図面は本書で説明される種々の実施形態を示し、そしてその説明とともに、請求される主題の原理および動作の説明に役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の態様による成形機器を含むガラス成形装置の概略図
図2図1の成形機器の断面拡大斜視図
図3】本開示の一実施の形態による図2の成形機器の拡大図
図4】本開示の別の実施形態による図2の成形機器の拡大図
【発明を実施するための形態】
【0010】
ここで、ガラスシートの製造で使用する種々の実施形態と、これを組み込んだガラス製造プロセスを詳細に参照する。可能な限り、図面を通じて、同じまたは同様の部分の参照に同じ参照番号を使用する。
【0011】
本書では「ガラスシート」という用語は、長さ、幅、および厚さを有する剛性のまたは柔軟なガラス材料を称し、ここで厚さは、例えば5mm未満、さらには1mm未満、またさらには500μm未満、またさらには300μm未満、またさらには100μm未満、例えば50μmから1cm、さらには100μmから1mmなど、例えば1cm未満でもよい。
【0012】
本書では「レドックス変化成分または前駆体」という用語は、レドックス変化成分または前駆体のない場合よりも少なくとも1つの多価成分が大きく還元するように、少なくとも1つの多価成分のレドックス(酸化‐還元)特性をシフトさせる、成分、または成分の前駆体を称する。例えば多価成分が金属酸化物を含み、この金属酸化物がより酸化状態で3+金属イオンを有し(例えば、Fe23)より還元状態で2+金属イオンを有する(例えば、FeO)場合、この金属酸化物を実質的に還元すると、2+金属イオン成分/3+金属イオン成分の比率(例えば、XFeO/XFe23)は、例えばレドックス変化成分を含むビヒクルで処理する前のこの比率の少なくとも3倍、レドックス変化成分を含むビヒクルで処理する前のこの比率の少なくとも5倍、レドックス変化成分を含むビヒクルで処理する前のこの比率の少なくとも10倍、レドックス変化成分を含むビヒクルで処理する前のこの比率の少なくとも20倍、レドックス変化成分を含むビヒクルで処理する前のこの比率の2から1,000倍、例えばレドックス変化成分を含むビヒクルで処理する前のこの比率の5から500倍、さらにはレドックス変化成分を含むビヒクルで処理する前のこの比率の10から100倍、またさらにはレドックス変化成分を含むビヒクルで処理する前のこの比率の20から50倍など、レドックス変化成分を含むビヒクルで処理する前のこの比率の少なくとも2倍となる。レドックス変化成分は、例えばアルカリ金属酸化物よりも低い蒸気圧および拡散性を有する金属酸化物でもよく、レドックス変化前駆体は、例えば空気中で加熱することにより酸化物に変化され得る塩でもよい。
【0013】
本書では「粒界相」という用語は、耐火ブロック材料内に含有または分散された材料を称する。粒界相は例えば、粒界相を含む耐火ブロック材料の合計質量の、例えば少なくとも2質量%、さらには少なくとも5質量%、さらには少なくとも10質量%、1質量%から20質量%、また2質量%から10質量%など、少なくとも1質量%を構成し得る。
【0014】
図1は、続く処理でガラスシートにするためのガラスリボン103をフュージョンドローする、ガラス成形装置101の概略図を示している。図示のガラス成形装置はフュージョンドロー装置を備えているが、さらなる例では他のフュージョン成形装置を提供してもよい。ガラス成形装置101は、貯蔵容器109からバッチ材料107を受け入れるように構成された、溶解槽(または溶解炉)105を含み得る。バッチ材料107は、モータ113で動くバッチ送出装置111によって導入することができる。随意的なコントローラ115を、モータ113を作動させるように構成して、所望量のバッチ材料107を矢印117で示されているように溶解槽105内へと導入することができる。ガラスレベルプローブ119を用いて直立管123内のガラス溶融物(すなわち溶融ガラス)121の高さを測定し、その測定された情報を、通信回線125を用いてコントローラ115に伝えることができる。
【0015】
ガラス成形装置101は、第1の接続管129を用いて溶解槽105に流体連結された、溶解槽105の下流に位置する清澄管などの清澄槽127をさらに含み得る。攪拌チャンバなどの混合槽131を清澄槽127の下流にさらに設けてもよく、さらにボウルなどの送出槽133が混合槽131の下流に設けられ得る。図示のように、第2の接続管135が清澄槽127を混合槽131に結合してもよく、また第3の接続管137が混合槽131を送出槽133に結合してもよい。さらに図示されているように、下降管139を、送出槽133から成形機器143の注入口141へとガラス溶融物121を送出するように位置付けてもよい。図示のように、溶解槽105、清澄槽127、混合槽131、送出槽133、および成形機器143は、ガラス成形装置101に沿って連続して設けられ得るガラス溶融ステーションの例である。
【0016】
溶解槽105は典型的には、耐火(例えば、セラミック)レンガなどの耐火材料から作製されている。ガラス成形装置101は、典型的には白金、または白金ロジウム、白金イリジウム、およびこれらの組合せなどの白金含有金属から作製された構成要素をさらに含み得るが、この構成要素は、モリブデン、パラジウム、レニウム、タンタル、チタン、タングステン、ルテニウム、オスミウム、ジルコニウム、およびこれらの合金などの耐火金属、および/または二酸化ジルコニウムをさらに含み得る。白金含有の構成要素としては、第1の接続管129、清澄槽127(例えば、清澄管)、第2の接続管135、直立管123、混合槽131(例えば、攪拌チャンバ)、第3の接続管137、送出槽133(例えば、ボウル)、下降管139、および注入口141のうちの、1以上を挙げることができる。成形機器143は、この耐火物などのセラミック材料から作製され、ガラスリボン103を成形するように設計されている。
【0017】
図2は、図1の線2−2に沿ったガラス成形装置101の断面斜視図である。図示のように成形機器143は、一対の堰によって少なくとも部分的に画成されたトラフ201を含んでもよく、この一対の堰は、トラフ201の対向する側面を画成する第1の堰203と第2の堰205とを含む。さらに図示されているように、トラフはさらに下部壁207によって少なくとも部分的に画成され得る。図示のように堰203、205および下部壁207の内側表面は実質的にU字状を画成し、このU字状は丸い角を備えたものでもよい。さらなる例において、このU字状の表面は互いに対して実質的に90°を成したものでもよい。さらなる例ではトラフの底面を、堰203、205の内側表面が交差することによって画成されたものとしてもよい。例えばトラフはV字状の外形を有し得る。図示されていないが、さらなる例においてトラフはさらなる構成を含み得る。
【0018】
図示のようにトラフ201は、堰の上部とトラフ201の下方部分との間に、軸209に沿って変化する深さ「D」を有し得るが、この深さは軸209に沿って実質的に同じものでもよい。トラフ201の深さ「D」を変化させると、ガラスリボン103の幅を横切るガラスリボンの厚さの一貫性を促進することができる。単なる一例において、成形機器143の注入口付近の深さ「D1」は、図2に示されているように、トラフ201の注入口の下流位置でのトラフ201の深さ「D2」よりも大きくてもよい。点線210によって明示されているように、下部壁207が軸209に対して鋭角で延在すると、成形機器143の長さに沿って注入口端部から反対側の端部まで、実質上連続的な深さの減少を実現することができる。
【0019】
成形機器143は成形ウェッジ211をさらに含み、成形ウェッジ211は、成形ウェッジ211の対向する両端部間に延在する一対の下向き傾斜成形面部分213、215を備えている。一対の下向き傾斜成形面部分213、215は、下流方向217に沿って集束して底部219を形成する。延伸平面221が底部219を通って延在し、ガラスリボン103はこの延伸平面221に沿って下流方向217へと延伸され得る。図示のように延伸平面221は底部219を二等分するものでもよいが、延伸平面221は底部219に対して他の向きで延在するものでもよい。
【0020】
成形機器143に、一対の下向き傾斜成形面部分213、215の少なくとも1つと交わる、1以上のエッジ誘導部材223を随意的に設けてもよい。さらなる例において1以上のエッジ誘導部材は、下向き傾斜成形面部分213、215の両方と交わり得る。さらなる例では、エッジ誘導部材を成形ウェッジ211の対向する両端部の夫々に位置付けてもよく、このときガラスリボン103のエッジは、エッジ誘導部材から離れて流れる溶融ガラスによって形成される。例えば図2に示されているように、エッジ誘導部材223を第1の対向端部225に位置付けてもよく、また第2の同一のエッジ誘導部材(図2では図示なし)を、第2の対向端部(図1の227参照)に位置付けてもよい。各エッジ誘導部材223は、下向き傾斜成形面部分213、215の両方と交わるように構成され得る。各エッジ誘導部材223は互いに実質的に同一のものでもよいが、さらなる例においてエッジ誘導部材は異なる特性を有するものでもよい。種々の成形ウェッジおよびエッジ誘導部材の構成を、本開示の態様に従って使用することができる。例えば本開示の態様を、その夫々の全体が参照することにより本書に組み込まれる、米国特許第3,451,798号明細書、同第3,537,834号明細書、同第7,409,839号明細書、および/または、2009年2月26日に出願された米国仮特許出願第61/155,669号明細書において開示されている、成形ウェッジおよびエッジ誘導部材の構成と共に使用してもよい。
【0021】
図3は、図2の成形機器143の3を誇張した部分透視図である。図示のように、成形機器143の本体全体が耐火物229を備えてもよい。図4に示されている別の事例では、成形機器143は耐火物229を、溶融ガラスが耐火物のみに接触するよう成形機器143の外側に外層として形成して備え得る。例えば既定の厚さを有する耐火物229が、成形機器143の外側に形成され得る。
【0022】
耐火材料は、特定の例示的な実施形態において、溶融ガラスをガラスリボンへとフュージョンドローするのに適した材料特性を有する広範なセラミック組成物を含み得る。成形機器の耐火材料の典型的な材料特性は、溶融ガラスを汚染することのない耐熱性、強度、クリープ回避能力、耐摩耗性、および/または他の特徴を備え得る。例えば耐火ブロック材料は、ジルコン、アルミナ、チタニア、ムライト、モナザイト、ゼノタイム、スピネル、ジルコニア、βアルミナ、およびβダブルプライムアルミナ、から成る群から選択された少なくとも1つの構成材料を含み得る。
【0023】
特に好適な実施形態において、耐火ブロック材料はジルコン(ZrSiO4)を含む。例えば耐火ブロック材料は、質量で少なくとも75%のジルコン、質量で少なくとも80%のジルコン、さらには質量で少なくとも95%のジルコン、質量で少なくとも98%のジルコン、質量で少なくとも99%のジルコンなど、質量で少なくとも50%のジルコンを含み得る。例えば耐火ブロック材料は、実質的にジルコンから構成され得る。耐火ブロック材料は、その全開示が参照することにより本書に組み込まれる米国特許第6,974,786号明細書において開示されているような、質量で0.2%から0.4%のチタニア(TiO2)など、微量成分を含み得る。微量成分としては、その全開示が参照することにより本書に組み込まれる米国特許第7,238,635号明細書において開示されているような、ZrO2、TiO2、およびFe23の組合せをさらに挙げることができる。
【0024】
耐火ブロック材料は、耐火材料が加圧(例えば、等加圧(isopressed))および次いで焼成されて成形機器とされる前に、耐火材料に加えられた、少なくとも1つの粒界相前駆材料から生じ得る、少なくとも1つの粒界相をさらに含み得る。焼成後、少なくとも1つの粒界相を含む耐火ブロック材料は、多孔性または非多孔性となり得、多孔性である場合、開気孔および/または閉気孔を有し得る。例えば、少なくとも1つの実施形態において耐火ブロック材料は、粒界相が気孔の表面の少なくとも一部で比較的薄いガラス質層を形成している、概して多孔性の材料とみなすことができる。
【0025】
焼成中、粒界相内に最初に存在していなかった成分を、例えば焼成中にトランプ(tramp)成分が同化した結果としてその組成物が含むように、粒界相は変化し得る。例えば、焼成前に主にSiO2、Na2O、およびZrO2を含む粒界相は、焼成の後で、Al23、TiO2、Fe23、CaO、K2O、およびMgOなどの他の成分をさらに含み得る。これらの同化された成分は、特定の溶融ガラス組成と接触すると、ガラス‐耐火物の境界面付近に望ましくない酸素気泡の形成をもたらし得る。
【0026】
例えば、開気孔と少なくとも1つの粒界相とを備えた耐火ブロック材料を含む成形機器の表面上を、溶融ガラスが流れると、溶融ガラスは耐火物の気孔に浸透して、気孔の表面の少なくとも一部に存在している粒界相と相互に作用する可能性がある。これにより、粒界相の組成と溶融ガラスの組成次第で、酸素形成をもたらす反応を促進することになり得、これが結果として気泡形成をもたらし得る。
【0027】
例えば特定のアルカリ含有溶融ガラスが、酸化鉄が存在している特定の粒界相と混合すると、以下の(可逆)レドックス反応で酸素が遊離し得る。
【0028】
【化1】
【0029】
アルカリ含有溶融ガラスの例としては、酸化物基準の質量パーセントで(i)50≦SiO2≦65%、(ii)10≦Al23≦20%、(iii)0≦MgO≦5%、(iv)10≦Na2O≦20%、(v)0≦K2O≦5%、および(vi)≧0かつ≦1%のB23、CaO、ZrO2、およびFe23のうちの少なくとも1つ、を含むガラスなど、Na2Oを含むガラスが挙げられる。アルカリ含有ガラスとしては、例えばコーニング社から入手可能なGorilla(登録商標)ガラスなど、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスを挙げることができる。
【0030】
上記反応が左または右に促進されるかどうかは、温度、鉄のレドックス比率(XFeO/XFe23)、反応環境を変化させる(例えば、緩衝効果などを引き起こす)他のシステム構成、およびシステム構成が酸化環境または還元環境に存在しているかどうかなどの、因子に依存する。
【0031】
従って本書で開示される実施形態は、最初に、少なくとも1つの多価成分を含む耐火ブロック材料を、少なくとも1つのレドックス変化成分または前駆体を含む、ビヒクルで処理するステップを含む。次いで、耐火ブロック材料上に溶融ガラスを流すステップを含み、少なくとも1つのレドックス変化成分または前駆体を含むビヒクルでの耐火ブロック材料のこの処理により、少なくとも1つの多価成分と溶融ガラスとの間の相互作用により生じる酸素の生成量が減少することを特徴とする。
【0032】
特定の実施形態例において、少なくとも1つの多価成分は酸化鉄を含む。
【0033】
少なくとも1つの多価成分を含む耐火ブロック材料を、少なくとも1つのレドックス変化成分または前駆体を含むビヒクルで処理するステップは、吹付け、はけ塗り、ローリング、ディッピング、および浸漬、から成る群から選択される少なくとも1つの塗布方法によって、耐火ブロック材料の表面にビヒクルを塗布するステップを含み得る。このような塗布方法を、同じまたは異なる塗布方法を複数回反復するなど、少なくとも1回反復して行ってもよい。
【0034】
レドックス変化成分または前駆体を含むビヒクルは、いくつかの実施形態において、水系(水性)の溶液などの、レドックス変化成分を含む溶液でもよい。この溶液はさらに、アルコール、界面活性剤、親水性バインダ、および疎水性バインダ、から成る群から選択される少なくとも1つの成分を含み得る。
【0035】
レドックス変化成分または前駆体を含むビヒクルは、いくつかの実施形態において、少なくとも1つのレドックス変化成分を含むコロイド懸濁液を含み得る。コロイド懸濁液はさらに、水、アルコール、界面活性剤、親水性バインダ、および疎水性バインダ、から成る群から選択される少なくとも1つの成分を含み得る。
【0036】
レドックス変化成分または前駆体を含むビヒクルは、いくつかの実施形態において、少なくとも1つのレドックス変化成分を含むゾルを含み得る。ゾルはさらに、水、アルコール、界面活性剤、親水性バインダ、および疎水性バインダ、から成る群から選択される少なくとも1つの成分を含み得る。
【0037】
レドックス変化成分を含むビヒクルがゾルを含む場合、処理するステップは、ゾルがゲルになるのを早めるpH変更溶液を適用するステップをさらに含み得る。
【0038】
レドックス変化成分または前駆体を含むビヒクルは、いくつかの実施形態において、ペースト、粉末、またはスラリーを含み得る。
【0039】
処理するステップの際、少なくとも1つのレドックス変化成分または前駆体を含むビヒクルは、耐火ブロック材料の表面空間の1平方インチ(6.45cm2)当たり、例えば少なくとも100μL、さらには少なくとも200μL、さらには少なくとも500μL、さらには少なくとも1mL、例えば50μLから50mL、100μLから10mL、さらには500μLから5mLの液体など、少なくとも50μLの量で塗布される液体でもよい。
【0040】
ビヒクル中の少なくとも1つのレドックス変化成分の濃度は、ビヒクル中の少なくとも1つのレドックス変化成分の溶解限度など、いくつかの因子次第で変化し得る。その関連で、ビヒクルは、少なくとも1つのレドックス変化成分で飽和した液体でも、あるいは飽和していない液体でもよい。例えば少なくとも1つのレドックス変化成分は、液体中に、所与の温度でのその液体におけるその溶解限度(約25℃の温度でのその溶解限度など)の、例えば5%から50%、さらには10%から30%など、1%から100%の範囲の濃度で存在し得る。
【0041】
ビヒクル中の少なくとも1つのレドックス変化成分または前駆体の濃度は、ビヒクルの単位容積当たりのレドックス変化成分の質量に基づいてさらに定量化され得る。例えばビヒクルが液体である特定の実施形態では、液体100mL毎にレドックス変化成分が、例えば少なくとも2グラム、さらには少なくとも5グラム、さらには少なくとも10グラム、またさらには少なくとも20グラム、1グラムから100グラム、5グラムから50グラム、さらには10グラムから20グラムなど、少なくとも1グラム存在し得る。
【0042】
少なくとも1つのレドックス変化成分または前駆体の塗布に続き、処理された耐火ブロック材料を、温風または対流乾燥を含むあらゆる方法の少なくとも1つによって、例えば75℃から250℃、約100℃など、例えば50℃から500℃の範囲の温度で、例えば約5時間から50時間など、例えば約1時間から100時間の範囲の時間で乾燥させてもよい。乾燥された耐火ブロック材料を次いで、塗布されたレドックス変化前駆体をレドックス変化成分(例えば、酸化物)に変換させるのに十分な時間および温度で焼成してもよく、また随意的にはこれらの成分を耐火ブロック材料の粒界相に同化させて、それにより粒界相を変化させてもよい。例えば乾燥された耐火ブロック材料を、例えば1000℃から2000℃など少なくとも1000℃で、例えば10時間から250時間、20時間から150時間など、少なくとも10時間の間焼成してもよい。
【0043】
特定の実施形態例において、少なくとも1つのレドックス変化成分または前駆体を含むビヒクルは、少なくとも1つのアルカリ土類化合物を含む。この少なくとも1つのアルカリ土類化合物は、例えば、アルカリ土類炭酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、水和物、ホウ酸塩、酸化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫化物、セレン酸塩、ヒ酸塩、アンチモン酸塩、スズ酸塩、アルミン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、ケイフッ化物、チオシアン酸塩、過マンガン酸塩、過塩素酸塩、および過硫酸塩、から成る群から選択され得る。
【0044】
特定の実施形態例において、少なくとも1つのレドックス変化成分はアルカリ土類酸化物であり、また少なくとも1つのレドックス変化前駆体は、アルカリ土類炭酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、水和物、ホウ酸塩、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫化物、セレン酸塩、ヒ酸塩、アンチモン酸塩、スズ酸塩、アルミン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、ケイフッ化物、チオシアン酸塩、過マンガン酸塩、過塩素酸塩、および過硫酸塩、から成る群から選択されるアルカリ土類化合物である。
【0045】
特定の実施形態例において、少なくとも1つのレドックス変化成分または前駆体を含むビヒクルは、100mL当たり1グラム未満の、アルカリ金属の炭酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、水和物、ホウ酸塩、酸化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫化物、セレン酸塩、ヒ酸塩、アンチモン酸塩、スズ酸塩、アルミン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、ケイフッ化物、チオシアン酸塩、過マンガン酸塩、過塩素酸塩、および過硫酸塩など、100mL当たり1グラム未満のアルカリ金属化合物を含む。
【0046】
特定の実施形態例において、少なくとも1つのレドックス変化成分または前駆体を含むビヒクルは、アルカリ金属の炭酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、水和物、ホウ酸塩、酸化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫化物、セレン酸塩、ヒ酸塩、アンチモン酸塩、スズ酸塩、アルミン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、ケイフッ化物、チオシアン酸塩、過マンガン酸塩、過塩素酸塩、および過硫酸塩を実質的に含まないなど、実質的にアルカリ金属化合物を含まない。
【0047】
特定の実施形態例において、少なくとも1つのレドックス変化成分または前駆体は、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ストロンチウム、および硫酸バリウム、から成る群から選択される。
【0048】
本書の実施形態は、米国特許第2,919,209号明細書などの他で教示される方法よりも改善をもたらすことが分かった。特に、酸化鉄などの少なくとも1つの多価成分が耐火ブロック材料に存在している場合、米国特許第2,919,209号明細書において開示されているアルカリ金属化合物、特にNa2CO3による、通常の動作条件下(例えば、加熱時間が少なくとも2日)での耐火ブロック材料の処理は、少なくとも1つの多価成分と溶融ガラスとの間の相互作用により生じる酸素の生成量を減少させる効果が、本書で開示される実施形態よりも著しく低いことが分かった。理論に制限されることを望むものではないが、通常の動作条件下でこの化合物は加熱中に耐火ブロック材料の表面から離れて移動し、それにより、少なくとも1つの多価成分と溶融ガラスとの間の相互作用により生じる酸素の生成量を減少させる効果が、実質的に最小限になると考えられる。
【0049】
請求される主題の精神および範囲から逸脱することなく、本書において説明された実施形態の種々の改変および変形が作製可能であることは当業者には明らかであろう。従って、本書において説明された種々の実施形態の改変および変形が、添付の請求項およびその同等物の範囲内であるならば、本明細書はこのような改変および変形を含むと意図されている。
【0050】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0051】
実施形態1
ガラスシートを作製する方法であって、
少なくとも1つの多価成分を含む耐火ブロック材料を、少なくとも1つのレドックス変化成分または前駆体を含む、ビヒクルで処理するステップ、
前記耐火ブロック材料上に溶融ガラスを流すステップ、
を含み、前記少なくとも1つのレドックス変化成分または前駆体を含む前記ビヒクルでの前記耐火ブロック材料の前記処理により、前記少なくとも1つの多価成分と前記溶融ガラスとの間の相互作用により生じる酸素の生成量が減少することを特徴とする方法。
【0052】
実施形態2
前記耐火ブロック材料が、ジルコン、アルミナ、チタニア、ムライト、モナザイト、ゼノタイム、スピネル、ジルコニア、βアルミナ、およびβダブルプライムアルミナ、から成る群から選択される、少なくとも1つの構成材料を含むことを特徴とする実施形態1記載の方法。
【0053】
実施形態3
前記耐火ブロック材料がジルコンを含むことを特徴とする実施形態1または2記載の方法。
【0054】
実施形態4
前記少なくとも1つのレドックス変化成分または前駆体を含む前記ビヒクルが、少なくとも1つのアルカリ土類化合物を含むことを特徴とする実施形態1から3いずれか1項記載の方法。
【0055】
実施形態5
前記少なくとも1つのアルカリ土類化合物が、アルカリ土類炭酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、水和物、ホウ酸塩、酸化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫化物、セレン酸塩、ヒ酸塩、アンチモン酸塩、スズ酸塩、アルミン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、ケイフッ化物、チオシアン酸塩、過マンガン酸塩、過塩素酸塩、および過硫酸塩、から成る群から選択されることを特徴とする実施形態4記載の方法。
【0056】
実施形態6
前記耐火ブロック材料が少なくとも1つの粒界相を含むことを特徴とする実施形態1から5いずれか1項記載の方法。
【0057】
実施形態7
処理された前記耐火ブロック材料を、少なくとも10時間の間、少なくとも1,000℃で加熱するステップを含むことを特徴とする実施形態1から6いずれか1項記載の方法。
【0058】
実施形態8
前記少なくとも1つのレドックス変化成分または前駆体を含む前記ビヒクルが、液体として、前記耐火ブロック材料の表面空間の1平方インチ(6.45cm2)当たり少なくとも50μLの量で塗布されることを特徴とする実施形態1から7いずれか1項記載の方法。
【0059】
実施形態9
前記少なくとも1つのレドックス変化成分または前駆体を含む前記ビヒクルが、液体として塗布され、かつ該液体100mL毎に少なくとも1グラムのレドックス変化成分を含んでいることを特徴とする実施形態1から8いずれか1項記載の方法。
【0060】
実施形態10
前記耐火ブロック材料を、前記少なくとも1つのレドックス変化成分または前駆体を含む前記ビヒクルで処理するステップが、吹付け、はけ塗り、ローリング、ディッピング、および浸漬、から成る群から選択される、少なくとも1つの塗布方法を含むことを特徴とする実施形態1から9いずれか1項記載の方法。
【0061】
実施形態11
前記少なくとも1つのレドックス変化成分または前駆体を含む前記ビヒクルが、少なくとも1つのレドックス変化成分を含むコロイド懸濁液を含むことを特徴とする実施形態1から10いずれか1項記載の方法。
【0062】
実施形態12
前記少なくとも1つのレドックス変化成分または前駆体を含む前記ビヒクルが、少なくとも1つのレドックス変化成分を含むゾルを含み、かつ前記処理するステップが、前記ゾルがゲルになるのを早めるpH変更溶液を適用するステップをさらに含むことを特徴とする実施形態1から11いずれか1項記載の方法。
【0063】
実施形態13
前記少なくとも1つのレドックス変化成分または前駆体が、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ストロンチウム、および硫酸バリウム、から成る群から選択されることを特徴とする実施形態1から12いずれか1項記載の方法。
【0064】
実施形態14
前記少なくとも1つの多価成分が酸化鉄であることを特徴とする実施形態1から13いずれか1項記載の方法。
【0065】
実施形態15
前記溶融ガラスがアルカリ酸化物を含むことを特徴とする実施形態1から14いずれか1項記載の方法。
【符号の説明】
【0066】
121 溶融ガラス
229 耐火物
図1
図2
図3
図4