特許第6588476号(P6588476)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6588476擬似移動床反応器を操作するためのプロセス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6588476
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】擬似移動床反応器を操作するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   B01D 15/00 20060101AFI20191001BHJP
   B01J 8/04 20060101ALI20191001BHJP
【FI】
   B01D15/00 101A
   B01J8/04 301
【請求項の数】10
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-571328(P2016-571328)
(86)(22)【出願日】2015年6月4日
(65)【公表番号】特表2017-523905(P2017-523905A)
(43)【公表日】2017年8月24日
(86)【国際出願番号】US2015034175
(87)【国際公開番号】WO2015187931
(87)【国際公開日】20151210
【審査請求日】2018年5月21日
(31)【優先権主張番号】62/008,560
(32)【優先日】2014年6月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505477235
【氏名又は名称】ジョージア テック リサーチ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100147212
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】ヨシアキ・カワジリ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・ボマリウス
(72)【発明者】
【氏名】ジュンミン・オー
(72)【発明者】
【氏名】ガウラヴ・アグラワル
(72)【発明者】
【氏名】バラムラリ・スリーダラ
【審査官】 河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2005/0167365(US,A1)
【文献】 特開2002−153295(JP,A)
【文献】 特開平08−229306(JP,A)
【文献】 特開平11−046788(JP,A)
【文献】 特開平04−341174(JP,A)
【文献】 特開昭63−020008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 15/00 − 15/08
G01N 30/46
B01J 19/00 − 19/32
C07C 1/00 − 409/44
B01J 21/00 − 38/74
B01J 8/00 − 8/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
逐次的反復注入サイクルの各ステップにおいて、第1の反応物質及び第2の反応物質を、擬似移動床反応器(SMBR)に供給することであって、前記SMBRは、それぞれ注入点を有し、それぞれ固体分離媒体を含有するゾーンを含む、供給することと、
前記逐次的反復注入サイクルの間、前記SMBR内で前記第1の反応物質及び前記第2の反応物質を反応させ、第1の生成物を形成することと、
前記SMBR内の前記第1の生成物を、前記固体分離媒体を用いて分離することと、
前記逐次的反復注入サイクルのステップの間、前記SMBRの前記注入点の1つ以上において注入される前記第1の反応物質及び前記第2の反応物質の一方または両方の量を変化させることと
を含むプロセス。
【請求項2】
前記第1の反応物質及び前記第2の反応物質の一方または両方の前記量を変化させることは、前記逐次的反復注入サイクルの各ステップにおいて行われる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記逐次的反復注入サイクルの各ステップは、所定時間(tstep)を有し、前記第1の反応物質及び前記第2の反応物質の一方または両方の前記量を変化させることは、tstepの第1のパーセンテージに達したら開始する、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
stepの前記第1のパーセンテージは、tstepの50パーセント(%)から100%未満である、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記第1の反応物質及び前記第2の反応物質の一方または両方の前記量を変化させることは、前記逐次的反復注入サイクルのステップの間に2回以上行われる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
前記量を変化させることは、前記逐次的反復注入サイクルの各ステップの間、前記SMBRの前記注入点の1つ以上において注入される前記第1の反応物質及び前記第2の反応物質の1つ以上の入口濃度を変化させることを含む、請求項1に記載のプロセス
【請求項7】
前記第1の反応物質を前記SMBRに供給することは、前記第1の反応物質が、前記SMBRの抽残液ストリーム及び抽出物ストリームの両方の脱着剤として作用するのに十分多い化学量論的過剰量で、前記第1の反応物質を前記SMBRに供給することを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
前記第1の反応物質に対して化学量論的に不足量の前記第2の反応物質を、前記SMBR内で消滅するまで反応させることを含む、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
残液ストリーム及び抽出物ストリームの少なくとも1つの一部を、前記SMBRの前記ゾーンの少なくとも1つに供給することを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
前記逐次的反復注入サイクルの間、前記SMBR内で前記第1の反応物質及び前記第2の反応物質を反応させることは、第1の生成物及び第2の生成物を形成し、
前記SMBR内の前記第1の生成物を、前記固体分離媒体を用いて分離することは、前記第1の生成物を、前記SMBR内の前記第2の生成物から、前記固体分離媒体を用いて分離することをさらに含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、擬似移動床反応器を操作するためのプロセスに関する。
【発明の概要】
【0002】
本開示は、逐次的反復注入サイクルの各ステップにおいて、第1の反応物質及び第2の反応物質を、擬似移動床反応器(SMBR)に供給することであって、SMBRは、それぞれ注入点を有し、それぞれ固体分離媒体を含有するゾーンを含む、供給することと、逐次的反復注入サイクルの間、SMBR内で第1の反応物質及び第2の反応物質を反応させ、第1の生成物を形成することと、SMBR内の第1の生成物を、固体分離媒体を用いて分離することと、逐次的反復注入サイクルのステップの間、SMBRの注入点の1つ以上において注入される第1の反応物質及び第2の反応物質の一方または両方の量を変化させることと、のためのプロセスを提供する。
【0003】
本開示は、さらに、逐次的反復注入サイクルの各ステップにおいて、第1の反応物質及び第2の反応物質を、擬似移動床反応器(SMBR)に供給することであって、SMBRは、それぞれ注入点を有し、それぞれ固体分離媒体を含有するゾーンを含む、供給することと、逐次的反復注入サイクルの間、SMBR内で第1の反応物質及び第2の反応物質を反応させ、第1の生成物及び第2の生成物を形成することと、第1の生成物を、SMBR内の第2の生成物から、固体分離媒体を用いて分離することと、逐次的反復注入サイクルのステップの間、SMBRの注入点の1つ以上において注入される第1の反応物質及び第2の反応物質の一方または両方の量を変化させることと、のためのプロセスを提供する。プロセスに関して、第1の反応物質及び第2の反応物質の一方または両方の量を変化させることは、逐次的反復注入サイクルの各ステップにおいて行われてもよい。プロセスに関して、逐次的反復注入サイクルの各ステップは、所定時間(tstep)を有し、第1の反応物質及び第2の反応物質の一方または両方の量を変化させることは、tstepの第1のパーセンテージに達したら開始してもよい。例えば、tstepの第1のパーセンテージは、tstepの50パーセント(%)から100%未満であってもよい。さらなる例において、tstepの第1のパーセンテージは、tstepの65%から67%であってもよい。他の値も可能である。
【0004】
プロセスに関して、第1の反応物質及び第2の反応物質の一方または両方の量を変化させることは、逐次的反復注入サイクルのステップの間、2回以上行われてもよい。プロセスに関して、第1の反応物質及び第2の反応物質の一方または両方の量を変化させることは、段階的変化として行われてもよい。あるいは、第1の反応物質及び第2の反応物質の一方または両方の量を変化させることは、線形変化として行われてもよい。量を変化させることの例は、逐次的反復注入サイクルの各ステップの間、SMBRの注入点の1つ以上において注入される第1の反応物質及び第2の反応物質の1つ以上の入口濃度を変化させることを含む。
【0005】
プロセスはまた、第1の反応物質が、SMBRの抽残液ストリーム及び抽出物ストリームの両方の脱着剤として作用するのに十分多い、第2の反応物質に対する化学量論的過剰量で、第1の反応物質をSMBRに供給することを含んでもよい。第1の反応物質が第2の反応物質に対して化学量論的に過剰量である場合(例えば、第2の反応物質が第1の反応物質に対して化学量論的に不足量である場合)、第2の反応物質は、SMBR内で消滅するまで反応し得る。本開示のプロセスはまた、さらなる使用のためにSMBRに戻される抽残液ストリーム及び/または抽出物ストリームの一部を含んでもよい。例えば、プロセスは、抽残液ストリーム及び抽出物ストリームの少なくとも1つの一部を、SMBRのゾーンの少なくとも1つに供給することを含んでもよい。固体分離媒体は、反応物質及び生成物を分離するための補助に加えて、第1の反応物質及び第2の反応物質の反応の触媒として作用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本開示のプロセスに好適なSMBRユニットの例を示す図である。
図2】本開示の一実施形態による逐次的反復注入サイクルの単一ステップの間に、1回供給組成物を変化させることの例を示す図である。
図3】本開示の一実施形態による逐次的反復注入サイクルの単一ステップの間に、2回以上供給組成物を変化させることの例を示す図である。
図4】単一カラムパルス注入実験の概略図である。
図5(a)】本開示の一実施形態による、フィッティングされたモデル及び実験的クロマトグラムにより説明される溶出プロファイルの比較を示す図である。
図5(b)】本開示の一実施形態による、フィッティングされたモデル及び実験的クロマトグラムにより説明される溶出プロファイルの比較を示す図である。
図6】本開示の一実施形態による、一定供給物濃度、及び反応物質の量を変化させるプロセスの両方に対するParetoプロットである。
図7(a)】一定供給物濃度、及び本開示の一実施形態による供給物濃度の両方に対するSMBRプロセス仕様と比較した、最適PMA回収(7(a))のプロットである。
図7(b)】一定供給物濃度、及び本開示の一実施形態による供給物濃度の両方に対するSMBRプロセス仕様と比較した、抽残液ストリーム中の水純度(7(b))のプロットである。
図8】本開示の一実施形態による、酢酸の70%変換のための単一ステップ内での入口供給物濃度プロファイルの図である。
図9】本開示の一実施形態による、酢酸の80%変換のための単一ステップ内での入口供給物濃度プロファイルの図である。
図10】本開示の一実施形態による、酢酸の90%変換のための単一ステップ内での入口供給物濃度プロファイルの図である。
図11(a)-11(b)】一定供給物濃度(図11(a))及び本開示の一実施形態による供給物濃度プロファイル(図11(b))の両方に対する、ステップ開始時の内部濃度プロファイル及びSMBR内の正味反応速度の図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示は、擬似移動床反応器(SMBR)を操作するためのプロセスを提供する。本明細書において議論されるように、本開示のプロセスは、平衡制限反応の効率を改善することを補助し得るSMBRの使用を可能にする。本明細書においてさらに議論されるように、本開示によるSMBRを使用するプロセスはまた、生成物(複数種を含む)及び副生成物不純物の両方の同時の反応及び分離を可能にする。生成物(複数種を含む)及び副生成物不純物の除去は、平衡限界を超える改善された変換率を可能にし、改善された収率及び単純化された下流側の精製を提供する。
【0008】
カラム内での分離よび反応の両方を統合する反応性クロマトグラフィーの考えは、過去数十年にわたり極めて注目されてきた。そのようなメカニズムは、その熱力学的平衡を超えるように可逆反応を促進し、したがってより多くの生成物形成をもたらし得る。しかしながら、これらのプロセスは、バッチ式で操作される。一方、擬似移動床反応器(SMBR)は、連続的に反応性クロマトグラフィーを実行するプロセスである。SMBR操作は、加水分解及びエステル化等の平衡制限可逆反応に対する経済的利益を提供し得る。そのような操作において、生成物(複数種を含む)のin situ分離は、熱力学的平衡を超えて可逆反応を完了まで促進し、また高純度の生成物(複数種を含む)を得るのに役立つ。SMBRの利点は多くの研究において明らかにされているが、そのようなシステムの開発及び設計の困難さに起因して、工業的応用は極めて少ない。
【0009】
本明細書において提供されるように、本開示は、SMBRに供給される反応物質の量(例えば、反応物質の濃度)が一定に維持される従来のSMBR操作の代替を提供する。本開示において、SMBRに供給される反応物質の量は経時的に変動し、これは、SMBR内で生じる反応の生産性を大幅に増加させるのに役立ち得る。本開示の潜在的な用途は、アルドール縮合等の縮合、エステル化を含むアシル化反応、トランスアルキル化、トランスエステル化、及び、アミンとカルボン酸等の酸との反応が関与するアミド化、ならびにアルキル化、水和、脱水、アミン化、エーテル化、加水分解、異性化、及びオリゴマー化を含む。他の反応もまた可能である。
【0010】
SMBRの使用のプロセスは、固体を実際に移動させることのない、液相及び固定相の連続的な対向する移動を利用する。図1に示されるように、SMBRユニットは、循環的配置で相互接続された複数のクロマトグラフィーカラムからなる。第1の反応物質(例えば「A」)及び第2の反応物質(例えば「B」)は、逐次的反復注入サイクルの各ステップにおいてSMBRに供給されてもよく、SMBRは、本明細書において議論されるように、それぞれ注入点を有し、それぞれ固体分離媒体を含有するゾーンを含む。第1の反応物質または第2の反応物質のいずれか1つは、SMBRプロセスにおいて脱着剤として使用され得る。反応物質及び脱着剤は両方とも連続的に供給され、その期間中、抽出物ストリーム及び抽残液ストリームは、出口ポートを介してSMBRから引き出される。一実施形態において、逐次的反復注入サイクルの間、第1の反応物質及び第2の反応物質はSMBR内で反応し、第1の生成物(例えば「C」)を形成する。固体分離媒体は、反応物質及び生成物を分離するための補助に加えて、第1の反応物質及び第2の反応物質の反応の触媒として作用してもよい。第1の生成物は、SMBRの抽残液ストリームから回収されるようにSMBRのクロマトグラフィーカラムを通して迅速に移動してもよく、または、第1の生成物は、SMBRの抽出物ストリームを介して回収されてもよい。
【0011】
別の実施形態において、逐次的反復注入サイクルの間、第1の反応物質(例えば「D」)及び第2の反応物質(例えば「E」)はSMBR内で反応し、第1の生成物(例えば「F」)及び第2の生成物(例えば「G」)を形成する。固体分離媒体は、反応物質及び生成物を分離するための補助に加えて、第1の反応物質及び第2の反応物質の反応の触媒として作用してもよい。第1の生成物または第2の生成物のいずれか1つは、SMBRの抽残液ストリームから回収されるようにSMBRのクロマトグラフィーカラムを通してより迅速に移動し、他方の生成物(より強く保持される成分)は、SMBRの抽出物ストリームを介して回収される。
【0012】
SMBRは、注入点(第1の反応物質及び第2の反応物質のための第1の注入点、ならびに、第1の反応物質または第2の反応物質のいずれか1つの脱着剤入口のための第2の注入点)と、出口点(抽出物ストリーム及び抽残液ストリーム)とを含み、これらはSMBRを4つのゾーンに分割している。各ゾーンは、異なる速度を有するように許容され、したがって、4つの制御パラメータがある。液相及び吸着剤相の対向する動きは、液体流の方向で、一定間隔で注入点及び出口点の両方を同時に切り替えることにより達成される。これらの一定間隔のそれぞれは、SMBRの1つの逐次的反復注入サイクルに入るステップである。このポートの切り替え時間もまた、制御パラメータである。
【0013】
したがって、SMBRは、単一の装置内で化学反応及び分離を組み合わせる連続的及び対向する動作を提供する。SMBRユニットは、複数の固定床カラム(またはカラムのセクション)を使用し、各固定床カラムは、反応生成物(複数種を含む)を分離するための分離媒体を含有し、また反応の触媒を含有してもよい。異なる反応には、異なる数及び構成の複数の固定床カラムが必要となり得る。例えば、4〜24個の固定床カラムが、SMBRの形成に使用され得る。SMBRの主要な入力及び出力は、供給物、抽出物、及び抽残液であり、各固定床カラムは、注入点及び出口点を含む。各ストリームは、個々の場所において、独立して制御される特定の流速でSMBRの固定床カラムに流入またはそこから流出する。
【0014】
プロセスの間、SMBRは、真の対向する固液二相流の理論性能に近づけるために、1つのカラムから別のカラムに(またはカラムセクション間で)液体の注入点及び出口点を切り替える。1つのカラムから別のカラムに注入点及び出口点を切り替えることは、複数の固定床カラムの入口及び出口ラインと連動して動作する弁(例えば、回転弁または2位置弁もしくは多位置弁のネットワーク)を使用して達成され得る。流体誘導デバイスは、複数の固定床カラムの適切な注入点または出口点にストリームを誘導することによって、入力及び出力ストリームの位置の移動を達成する。緩やかに、及び急速に溶出する反応生成物(第1の生成物及び第2の生成物が形成される場合)が、入口及び出口ポートの移動または切り替えに対して反対の方向に移動するように、供給物ストリームの液体流速、及びSMBRの弁のステップ時間が制御される。
【0015】
例えば、SMBRの固定床カラムは、反応を提供するため、及び混合物から反応生成物(複数種を含む)を、緩やかに溶出する分画を含む抽出物、及び急速に溶出する分画を含む抽残液の2つの分画に分離するための4つのゾーンを提供するように構成され得る。SMBRの4つのゾーンは、それぞれ異なる機能を実行する。ゾーンIは、脱着剤入口と抽出物ストリームとの間に固定床カラムを含有し、ゾーンIIは、抽出物ストリームと供給物入口との間に固定床カラムを含有し、ゾーンIIIは、供給物入口と抽残液ストリームとの間に固定床カラムを含有し、ゾーンIVは、抽残液ストリームと脱着剤入口との間に固定床カラムを含有する。SMBR内で、ゾーンII及びIIIは、急速及び遅い成分がさらに離れていくことを可能にするように機能し、一方ゾーンI及びIVは、それぞれ、遅い成分が過度に遅れるのを防止し、急速な成分が過度に前に進むのを防止するように機能する。
【0016】
本明細書において議論されるように、SMBRの固定床カラムは、反応の触媒、及び反応生成物(複数種を含む)を分離するための分離媒体を含んでもよい。触媒及び分離媒体は、SMBRの固定床カラム内に、1つの構造で提供されてもよく、または別個の構造で提供されてもよい。SMBRの固定床カラム内で使用される分離媒体は、反応成分がより弱く吸着される一方で反応副産物(複数種を含む)がより強く吸着され、それにより固体の擬似移動に対向してそれらを運搬するように選択され得る。したがって、例えば、強酸陽イオン交換樹脂の使用によって、より極性の低い反応成分は、SMBRから抽残液ストリーム中に除去され得、一方、より極性の高い反応成分は、SMBRから抽出ストリーム中に除去され得る。
【0017】
本開示のプロセスは、反応及び分離を行うために、多くの異なる種類の触媒及び分離媒体を使用することができる。プロセスは、触媒及び分離媒体の両方として作用し得る単一固体、1種以上の固体触媒及び分離媒体の組み合わせ、または1種以上の分離媒体を含む均一触媒を使用してもよい。分離媒体は、これらに限定されないが、ポリマー樹脂、シリカ、アルミナ、分子篩、活性炭、または反応生成物(複数種を含む)を分離し得る他の知られた分離媒体を含む、吸着型プロセスにおいて使用される従来の材料であってもよい。好ましい固体は、単一固体の形態で触媒及び分離媒体の両方として機能し得るものである。そのような固体の例は、これらに限定されないが、スルホン化イオン交換樹脂、例えばAmberlyst(商標)15、Amberlyst(商標)70、DOWEX(商標)MONOSPHERE(商標)M−31、または他の市販の強酸ポリマー樹脂を含む。
【0018】
異なる反応及び生成物(複数種を含む)の分離には、異なる触媒及び分離媒体の組み合わせ、ならびに/または分離媒体に対する触媒の異なる体積比が必要となり得る。例えば、触媒及び分離媒体は、SMBR内に、1:100から100:1の範囲の体積比(触媒:分離媒体)で存在してもよい。また、触媒及び分離媒体は、SMBR内に、様々な構成で存在し得る。例えば、別個の構造として存在する場合、触媒及び分離媒体は、SMBRの固定床カラム全体にわたり均一な混合物として存在してもよい。あるいは、触媒及び分離媒体は、SMBRの固定床カラムに沿って、触媒及び分離媒体の交互層として存在してもよい。層の厚さ及び相対位置は、反応及び分離する必要がある生成物(複数種を含む)に依存し得る。
【0019】
SMBRは、同じ単位操作内で生成される生成物の同時精製を可能にし得る。例えば、第1及び第2の反応物質(「A」及び「B」)から第1の生成物(「C」)を生成する以下の平衡制限反応を考える。
A+B⇔C
【0020】
SMBR内で生じ得るもの等の反応性分離プロセスにおいて、第1の生成物「C」は、反応が連続的に進行している間に精製及び除去され得る。したがって、全体的変換率が平衡限界を超えることが可能である。
【0021】
追加的な例において、第1の反応物質(「D」)及び第2の反応物質(「E」)から第1の生成物(「F」)及び第2の生成物(「G」)を生成する以下の平衡制限反応を考える。
D+E⇔F+G
【0022】
SMBR内で生じ得るもの等の反応性分離プロセスにおいて、第1の生成物「F」及び/または第2の生成物「G」は、反応が連続的に進行している間に精製及び除去され得る。したがって、全体的変換率が平衡限界を超えることが可能である。本開示のプロセスは、3種以上の反応物質を使用し、及び/または4種以上の生成物を生成する他の平衡制限反応にも使用され得ることが理解される。
【0023】
従来のSMBR操作戦略において、反応物質のそれぞれの量(例えば、入口供給物濃度)は、逐次的反復注入サイクルの各ステップの間固定される。したがって、例えば、反応物質の供給物濃度は、SMBRの操作の間中一定である。一定量の反応物質が使用されるのとは対照的に、本開示のプロセスは、SMBRの注入点の1つ以上において注入される第1の反応物質及び第2の反応物質の一方または両方の量が、逐次的反復注入サイクルの1つ以上のステップの間変化されることを可能にする。換言すれば、反応物質の1つ以上の量は、経時的に変動させることができ、これは、生産性を大幅に増加させる。例えば、第1の反応物質及び/または第2の反応物質の一方または両方の量が、逐次的反復注入サイクルのステップにおいて変化され得る。本明細書において議論されるように、逐次的反復注入サイクルの各ステップは、所定時間(tstep)を有し、第1の反応物質及び第2の反応物質の一方または両方の量を変化させることは、tstepの第1のパーセンテージに達したら開始してもよい。例えば、tstepの第1のパーセンテージは、tstepの50パーセント(%)から100%未満であってもよい。さらなる例において、tstepの第1のパーセンテージは、tstepの10%から90%であってもよい。さらに、tstepの第1のパーセンテージは、tstepの65%から67%であってもよい。これらの値は極めて状況依存的であるため、他の値も可能である。
【0024】
本開示のプロセスに関して、第1の反応物質及び/または第2の反応物質の一方または両方の量を変化させることは、逐次的反復注入サイクルのステップの間、1回行われてもよい。例えば、図2は、逐次的反復注入サイクルのステップの間、第1の反応物質の量を変化させることを例示しているが、純粋な脱着剤(例えば、第2の反応物質)が、ステップの第1の部分でSMBRに供給され、一方第1の反応物質は、ステップの第2の部分で高濃度で供給される。追加的な実施形態において、第1の反応物質及び/または第2の反応物質の一方または両方の量を変化させることは、逐次的反復注入サイクルのステップの間、2回以上行われてもよい。図3は、この戦略を例示している。反応物質の量のこれらの調節は、SMBRの内側の内部濃度プロファイルの分離限界を克服することにより、プロセス性能を改善するのに役立ち得る。
【0025】
プロセスに関して、第1の反応物質及び第2の反応物質の一方または両方の量を変化させることは、ステップの間の段階的変化として行われてもよい。あるいは、第1の反応物質及び第2の反応物質の一方または両方の量を変化させることは、ステップの間の線形変化として行われてもよい。ステップの間の段階的変化及び線形変化の組み合わせを使用することも可能である。逐次的反復注入サイクルのステップの間、SMBR内に注入される第1の反応物質及び/または第2の反応物質の量を変化させる上で、他の機能が使用されてもよい。
【0026】
様々な実施形態に関して、量を変化させることの例は、逐次的反復注入サイクルのステップの間、SMBRの注入点の1つ以上において注入される第1の反応物質及び第2の反応物質の1つ以上の入口濃度(例えば、モル/体積)を変化させることを含む。逐次的反復注入サイクルのステップの間量を変化させることは、SMBRの注入点の1つ以上において注入される第1の反応物質及び第2の反応物質の一方または両方の流速(例えば、体積/時間)を変化させることにより達成されてもよいことが理解される。
【0027】
図2及び3に示されるように、SMBRの注入点の1つ以上において注入される第1の反応物質及び第2の反応物質の総量に対する第1の反応物質の量は、異なる値を有してもよい。例えば、第1の反応物質の量(例えば、重量パーセントまたは濃度)は、逐次的反復注入サイクルのステップの少なくとも第1の部分の間、SMBRの所与の注入点において注入される第1の反応物質及び第2の反応物質の総量に対する第1の値を有してもよく、次いで、逐次的反復注入サイクルのステップの第2の部分において、第2の値に変化してもよい(例えば、図2)。図2に示されるように、ステップの第1の部分の間、第1の反応物質の量は、所与の注入点において注入される第1の反応物質及び第2の反応物質の総量に対してゼロ(0)であってもよく、次いで、ステップの第2の部分において、第1の反応物質の量は、所与の注入点において注入される第1の反応物質及び第2の反応物質の総量に対してゼロより大きい値に変化してもよい。そのような値は、ゼロから100パーセント(例えば、ゼロから75パーセント)の範囲であってもよい。したがって、例えば、第1の反応物質の量は、逐次的反復注入サイクルのステップの異なる部分の間、SMBRの注入点の1つ以上において注入される第1の反応物質及び第2の反応物質の総量に対して100%であってもよい。
【0028】
プロセスはまた、第1の反応物質が、SMBRの抽残液ストリーム及び抽出物ストリームの両方の脱着剤として作用するのに十分多い、第2の反応物質に対する化学量論的過剰量で、第1の反応物質をSMBRに供給することを含んでもよい。第1の反応物質が第2の反応物質に対して化学量論的に過剰量である場合(例えば、第2の反応物質が第1の反応物質に対して化学量論的に不足量である場合)、第2の反応物質は、SMBR内で消滅するまで反応し得る。反応のために、第2の反応物質に対する化学量論的過剰量で第1の反応物質を供給することの好適な例は、1:1.1から1:10の範囲内、1:1.5から1:5の範囲内、または1:2から1:3の範囲内の第1の反応物質に対する第2の反応物質の化学量論比を供給することを含む。
【0029】
SMBRは、反応に好適な圧力及び所定温度で操作され得る。操作条件は、SMBR内で使用される触媒及び分離媒体に依存する。SMBR内での反応のための所定温度は、0℃から200℃であってもよい。SMBR内での反応のための典型的な操作圧力は、101KPaから2000KPaであってもよい。当業者に理解されるように、反応に依存して、他の所定温度及び圧力も可能である。操作条件は、反応物質のストリームが液相にあり、全ての成分が液相にあるように設定され得る。
【0030】
本開示のプロセスはまた、さらなる使用のためにSMBRに戻される(例えば、SMBRの1つ以上のゾーンにリサイクルされる)抽残液ストリーム及び/または抽出物ストリームの一部を含んでもよい。したがって、プロセスは、抽残液ストリーム及び/または抽出物ストリームの少なくとも1つの一部を、SMBRのゾーンの少なくとも1つに供給することを含んでもよい。例えば、抽残液ストリーム及び抽出物ストリームの一方または両方が分離プロセスに供され、2つ以上の分画を生成してもよい。これらの分画の1つ以上は、その内容物に依存して、SMBRに(例えば、第1の反応物質及び/または第2の反応物質の一方または両方のモル組成が同様のモル濃度を有するSMBR内の場所に)戻されてもよく、一方、他の分画の1つ以上は、生成物として、または廃棄物として収集されてもよい。
【実施例】
【0031】
以下の実施例は、1−メトキシ−2−プロパノール(DOWANOL(商標)PMグリコールエーテル、The Dow Chemical Company、以降「PM」)及び酢酸(以降「AA」)のエステル化による、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート((DOWANOL(商標)PMAグリコールエーテルアセテート、The Dow Chemical Company、以降「PMA」)の生成を考慮している。エステル化反応は、触媒及び吸着剤の両方として機能する陽イオン交換樹脂であるAMBERLYST(商標)15(The Dow Chemical Company)により触媒される。以下の実施例に関して、PMA生成物の生成のための反応分離戦略を見出すために、多目的最適化問題が定式化される。
【0032】
本明細書において提供される数学モデルは、全体が本明細書に組み込まれる、Agrawal,G.;Oh,J.;Sreedhar,B.;Tie,S.;Donaldson,M.E.;Frank,T.C.;Schultz,A.K.;Bommarius,A.S.;Kawajiri,Y.,Optimization of reactive simulated moving bed systems with modulation of feed concentration for production of glycol ether ester.Journal of chromatography A 2014,1360,196−208において議論されている。吸着速度に対する線形推進力による輸送分散モデルをSMBRのモデル化に使用し、反転法を使用して、バッチ及び単一カラム注入実験から吸着平衡及び反応速度パラメータを推定する。SMBRプロセスを設計するために、多目的最適化問題を定式化する。多目的は、DOWANOL(商標)PMAグリコールエーテルアセテートの生成速度及びエステル化反応の変換率を最大化することである。従来のSMBR操作戦略が、本開示のプロセスに対して最適化及びさらに拡張されているが、これは、逐次的反復注入サイクルのステップの間、SMBRに供給される反応物質の量の変化に基づいている。
【0033】
図1に示されるように、SMBRユニットは、循環的配置で相互接続された複数のクロマトグラフィーカラムからなる。供給物は、AA及びPMの混合物であり、脱着剤は、PMからなる。AAは酸触媒条件下でPMと反応し、PMA及び水を形成する。このエステル化はSMBR内で進行するため、PMA及び水は連続的に除去され、したがって平衡が順方向にシフトする。PMAは、より迅速に移動する成分であるため、抽残液ストリームから回収され、一方強く保持される成分である水は、抽出物ストリームを介して回収される。
【0034】
図1に示されるSMBRユニットは、反応物質及び脱着剤の2つの入口ストリーム、ならびに抽出物ストリーム及び抽残液ストリームの2つの出口ストリームを含む。これらの入口及び出口ストリームは、SMBR全体を4つのゾーンに分割する。各ゾーンは、独立して制御され得るため、反応物質、脱着剤、抽出物及びゾーンの1つの速度の自由度4がある。ゾーン速度は、一般に、ゾーンII及びIIIが反応プラス分離ゾーンとなり、一方ゾーンI及びIVがカラムを再生するように選択される。さらに、固相の対向する動きは、液体流の方向で、入口及び出口ポートの両方を同時に切り替えることにより擬似される。ポートの2つの連続した切り替えがステップを決定付け、このステップが継続する期間もまた自由度である。4つのそのようなステップは、逐次的反復注入サイクルを完結させ、SMBRシステムは再びその元の構成に戻る。このSMBRの循環的動作は、抽残液及び抽出物ストリームから純粋なPMA及び水を抽出するために常に反復される。SMBRの性能に影響する自由度の総数は5である。しかしながら、実行されているSMBR操作戦略に依存して、いくつかの余分な自由度が存在してもよい。
【0035】
例えば、一定の供給物濃度のために、ステップ全体の間、供給物濃度が一定に維持される。しかしながら、供給物濃度、すなわちAA及びPMのパーセンテージは、SMBR最適化の間に最適化される。したがって、この操作戦略におけるSMBRの性能に影響する自由度の数は6であり、供給物組成、切り替え時間、ならびに脱着剤、供給物、抽出物及びゾーンIの速度である。必ずしも100%ではない最適供給物濃度が存在することが判明している。供給物濃度が過度に高いと、供給物が脱着剤と効率的に混合され得ないため、達成される変換率は低くなる。対照的に、本開示は、モデル及び非線形最適化を使用して最適供給物濃度を見つける。
【0036】
本開示の生産性及び特定の戦略により、供給物濃度が抽残液及び抽出物ストリームから離れて位置する鋭い局所的ピークを有するように、供給物濃度が経時的に変化する様式で操作され得る。供給混合物のそのような局所的増加は、同じ生産性及び溶媒消費に対してより高い純度及び回収率を可能にし得る。本明細書において提供される実施例は、図2に示されるように、供給物濃度がステップにおいて1回だけ変化される操作に注目している。入口供給物濃度が変化する時間間隔は、余分な自由度である。したがって、この操作戦略におけるSMBRの性能に影響する自由度は8であり、2つの異なる時間間隔における2つの供給物組成、中間時点t、脱着剤速度、切り替え時間、供給物、抽出物及びゾーンIの速度である。本発明のプロセスの実施形態は、そのより大きな柔軟性のために、標準的SMBR動作と比較したPMA生成速度の改善の点でより有望となり得る。入口供給物濃度の調節は、SMBR内の内部濃度プロファイルの分離限界を克服することにより、プロセス性能を改善し得る。そのようなプロセスは、平行な2つのポンプを使用して、または勾配ベースの供給ポンプを使用することにより実行され得る。
【0037】
本開示の実施例は、SMBRをモデル化するために、吸着速度に対する線形駆動力を用いた輸送分散モデルを利用する。ここで、カラム内での軸方向分散現象及び吸着剤粒子内への拡散は、全体的軸方向分散係数及び各成分の個々の物質移動係数を使用して、別個に考慮される。j番目の吸着カラム内の成分iに対する液相及び固相における物質収支式は、以下のように記述される。
【0038】
液相での物質収支:
【0039】
【数1】
【0040】
式中、
【0041】
【数2】
【0042】
は、それぞれ、軸方向距離x及び時間tにおける液相及び固相中の濃度であり、
【0043】
【数3】
【0044】
は、液相と平衡にある固相中の濃度であり、Ebは、床の空隙率であり、Km,iは、i番目の成分の固相ベースの物質移動係数であり、Daxは、軸方向分散係数であり、u(t)は、カラムの超臨界速度であり、xは、軸方向距離であり、tは、時間である。下付き文字iは、成分の指数を表し、一方上付き文字jは、j番目のカラムを指す。固相での物質収支は、以下の通りである:
【0045】
【数4】
【0046】
式中、Viは、i番目の成分の化学量論的反応係数であり、r(x,t)は、距離x及び時間tにおけるj番目のカラム内の正味反応速度である。固相と液相との間の平衡は、以下の線形吸着等温式により表される:
【0047】
【数5】
【0048】
式中、Hiは、ヘンリー定数である。エステル化反応の反応速度は、以下の二次モデルとして与えられると仮定される:
【0049】
【数6】
【0050】
式中、kは、順方向反応速度定数であり、一方Keqは、エステル化反応の平衡定数である。下付き文字AA、PM、PMA及びwaterは、それぞれ、酢酸、PM、PMA及び水成分を指す。反応は、固相においてのみ仮定され、したがって、式(4)は、不均一触媒反応を表すことに留意する必要がある。
【0051】
境界条件は、以下のように与えられる:
j番目のカラムと(j+1)番目のカラムとの間の物質収支は、以下の通りである:
【0052】
【数7】
【0053】
式中、
【0054】
【数8】
【0055】
は、それぞれ、抽残液、抽出物、脱着剤及び入口供給物ストリームの速度である。これらの値は、抽残液、抽出物、脱着剤、または供給物が引き出される、または供給される場合にのみ正であり、それ以外はゼロである。記号Ci,F及びCi,Dは、それぞれ、供給物中のi番目の成分及び脱着剤の濃度であり、Lは、カラムの長さである。他の境界条件は、カラムの出口における濃度を決定付ける。
【0056】
【数9】
【0057】
入口及び出口ポートでの流量収支もまた、流量の一貫性を維持するために満足されるべきである。したがって、以下の式が記述される。
【0058】
【数10】
【0059】
式中、記号NCompは、成分の総数を指し、NColumnは、カラムの総数である。SMBRにおいて、固相の対向する移動は、入口及び出口ポートの個別のシフトにより模擬される。その結果、SMBRシステムは、循環定常状態(CSS)に到達する。CSSにおいて、濃度プロファイルは、カラム内でまだ変化するが、ステップの開始時及び終了時の内部濃度プロファイルのスナップショットは、カラム1つ分の長さだけシフトすることを除いて同一である。SMBRは対称的操作であるため、すなわち全てのステップは、弁の切り替えによる入口及び出口ストリームのシフトを除いて同一であるため、CSSを記述するために単一ステップの定式化が使用される。この定式化において、j番目のカラムにおけるステップの開始時の濃度プロファイルは、(j+1)番目のカラムにおけるステップの終了時の濃度プロファイルと同一である。定式化は、以下のように記述される:
【0060】
【数11】
【0061】
式中、tstepは、ステップ時間である。
【0062】
SMBRの好ましい設計を見出すために、多目的最適化問題が定式化される。多目的は、抽残液ストリーム中のPMAの生成速度、及びエステル化反応の変換率を最大化することである。さらに、水は、下流側の処理においてPMAとの共沸混合物を形成し得るため、抽残液ストリーム中の水の量は最小限となる。したがって、抽残液ストリーム中の水の純度は、強制的に1.0重量%未満となる。同様に、抽残液ストリーム中に回収されるPMAを最大化することも望ましい。したがって、抽残液ストリームからのPMA回収率は、強制的に90重量%超となる。
【0063】
これらのパラメータを考慮して、全体的な問題は以下の通りである:
PMA生成速度(g/時間)の最大化:
【0064】
【数12】
【0065】
酢酸の変換率の最大化:
【0066】
【数13】
【0067】
式(1)〜(11)に従い、抽残液ストリーム出口における水の純度(重量%):
【0068】
【数14】
【0069】
抽残液ストリーム出口におけるPMA回収率:
【0070】
【数15】
【0071】
ゾーン流速の限界:
【0072】
【数16】
【0073】
式中、P及びCは、目的関数であり、Acsは、カラムの断面の面積であり、MWは、i番目の成分の重量平均分子量であり、Ci,R及びCi,Exは、それぞれ、抽残液及び抽出物ストリーム中のi番目の成分の濃度である。さらに、SMBRシステムにおけるポンプが経験し得る最大圧力降下の制限に起因して、下界及び上界がゾーン速度に対して導入される。記号u及びuは、下界及び上界を指し、それらの対応する値は、それぞれ0m/時間及び10m/時間に設定される。この多目的問題は、酢酸(AA)の変換が制約として課されるイプシロン制約法を使用することにより、単目的問題に変換される。
【0074】
【数17】
【0075】
数学モデルにおけるパラメータを得るために、Agrawal,G.;Oh,J.;Sreedhar,B.;Tie,S.;Donaldson,M.E.;Frank,T.C.;Schultz,A.K.;Bommarius,A.S.;Kawajiri,Y.,Optimization of reactive simulated moving bed systems with modulation of feed concentration for production of glycol ether ester.Journal of chromatography A 2014,1360,196−208において議論されているように、室内実験を行った。単一カラムパルス注入実験の概略図を、図4に示す。図4に示される単一カラムパルス注入システムは、内径0.8cm及び高さ25cmのステンレス鋼カラムを含む。Amberlyst 15陽イオン交換樹脂を、AA中に保持することにより膨潤させ、後にスラリー技術を使用したカラムの充填に使用した。Rheodyne製のRH−7725i弁を使用してAA及びPM混合物のパルスをカラム内に注入し、純粋なPMを脱着剤として使用した。システム内に供給する前に、3Å分子篩を使用してPMを脱水した。次いで、カラムの出口側を、分画収集機(島津製作所、FRC−10a)を使用して分画し、TCD検出器を有するガスクロマトグラフィー(GC)を使用してAA、PM、PMA及び水の濃度を測定するために分析した。TCD検出器は、5体積%未満の水濃度を正確に測定した。機器の様々な部分を接続する配管は全て、外径0.16cm(1/16インチ)であり、全追加カラム体積は0.343mlであった。実験の詳細を表1に示す。
【0076】
カラム空隙率は、トレーサーとしてデキストラン(Dextran 25000、Spectrum)を注入することにより推定した。デキストランは、Amberlyst 15の細孔内に貫通することができない高分子量物質である。デキストランはPMに可溶ではないため、カラムをまず水で飽和させ、次いで水に溶解したデキストランをシステムに注入した。デキストランの保持時間から追加カラム体積を差し引いた後、床の空隙率は0.31と計算された。
【0077】
以下は、SMBRモデルの吸着平衡、軸方向分散係数及び反応速度パラメータの推定に使用された方法を説明している。これらのモデルパラメータは、モデルを複数のパルス注入実験(単一カラムに対して行われた)にフィッティングすることにより推定され、Agrawal,G.;Oh,J.;Sreedhar,B.;Tie,S.;Donaldson,M.E.;Frank,T.C.;Schultz,A.K.;Bommarius,A.S.;Kawajiri,Y.,Optimization of reactive simulated moving bed systems with modulation of feed concentration for production of glycol ether ester.Journal of chromatography A 2014,1360,196−208において議論されている。
【0078】
【表1】
【0079】
モデルのパルス注入実験へのフィッティング
【0080】
反転法による手法は、その実験の単純さのため、モデルパラメータの推定に使用される。反転法による手法では、モデルパラメータの信頼性のあるセットを推定するために、パルス注入実験の擬似濃度プロファイルが、実験的クロマトグラムにフィッティングされる。モデル及び実験観察により予測された濃度の間の差の二乗の和を最小化する、最小二乗法が使用される。目的関数Φは、以下のように定式化される:
【0081】
【数18】
【0082】
式中、下付き文字i及びlは、成分、及び試料が収集される時点を指し、一方上付き文字kは、実験指数を示す。記号Nexpは、考慮される実験の総数を指し、Ncompは、システム内に存在する成分の総数を指し、Nt,iは、k番目の実験におけるi番目の成分に対して考慮される濃度データ点の総数を指し、Nregは、以下で議論される正則化パラメータの数である。目的関数において、別個の実験から推定されるパラメータ値の著しい偏差を防止するために、ティホノフ正則化項が含められた。ティホノフ正則化は、推定されるパラメータセットの非一意性を低減するための標準的な手法である。
【0083】
【数19】
【0084】
における平衡定数Keq及び床の空隙率もまた含められた。これは、クロマトグラムでのパラメータ推定において、これらのパラメータがフィッティングに対して敏感ではないことが分かっているためである。正則化項の係数ρは、モデルフィッティングと、所望のものからのe及びKeq値の偏差との間の最善の妥協点により見出される。モデルフィッティングのための得られる連立方程式は、内点法アルゴリズムによるfmincon最適化プログラムを使用して、MATLABにおいて解かれる。
【0085】
ここで、パルス注入実験のモデルフィッティング結果を議論する。4つのヘンリー定数、4つの物質移動係数、2つの反応パラメータ、軸方向分散係数及び床の空隙率の合計12のモデルパラメータがある。これらのパラメータは、単一カラムモデルを2つの異なるパルス注入実験にフィッティングすることにより同時に推定されている。50体積%及び75体積%のAA濃度のパルスを、それぞれ110℃で5mlの注入ループ及び0.5ml/分の流速でPMに注入することにより、2つのパルス注入実験を行った。推定されるパラメータセットの信頼性を増加させるために、2つの実験クロマトグラムを考慮した。図5(a)及び5(b)は、フィッティングされたモデル及び実験クロマトグラムにより説明される溶出プロファイルの比較を示す。AA、PMA及び水の濃度プロファイルが左y軸にプロットされ、一方PM濃度が右y軸に示されている。実線は、モデルからの予測濃度プロファイルを表し、マーカーは、実験データを表す。図5(a)及び5(b)から確認され得るように、モデルは、両方の実験において、合理的な程度まで全ての成分の濃度プロファイルをフィッティングすることができた。対応する最適モデルパラメータを、表2に列挙する。
【0086】
【表2】
【0087】
本開示による一定供給物濃度、及び反応物質の量を変化させるプロセスの両方に対する、多目的最適化問題のParetoプロットを図6に示す。図6から確認され得るように、抽残液ストリームを介したPMAの生成速度は、AAの変換率の増加と共に減少する。したがって、SMBRの内部濃度プロファイルを議論しながら後に議論される所見であるPMAの高い生成速度には、酢酸のより高い変換率は有利ではない。さらに、本開示のプロセスは、AAの70〜90%変換率において、一定供給物濃度戦略に対する一貫した改善を示す。さらに、PMA生成速度の改善は、一定供給物濃度戦略に対してより高いAA変換率においてより顕著となる。したがって、本開示のプロセスは、SMBRのプロセス性能を改善する大きな潜在性を有する。
【0088】
Paretoプロットに加えて、回収されたPMAの量及び抽残液ストリーム出口における水純度(重量%)もまた、SMBRの必要なプロセス仕様と比較される。図7(a)から確認され得るように、PMA回収率は、常に一定供給物濃度戦略のための最適解における有効な制約であった。しかしながら、そのようなことは、本開示のプロセスには当てはまらない。本開示において、得られたPMA回収率は、90%超であり、その値はAAの変換率の増加と共に増加した。したがって、本開示のプロセスは、抽残液ストリームを介したPMAの高い回収率を得るためにより有利である。抽残液ストリームにおける水純度を図7(b)に示すが、これは高い変換率を達成するための障害とはならない。この制約は、操作戦略の両方に対して有効ではなかった。したがって、水の純度は常に1重量%未満であり、このように全操作範囲にわたり必要なプロセス仕様を満足した。抽残液ストリーム出口における水の量は、下流側の蒸留中の共沸混合物形成のため、重要である。したがって、抽残液ストリーム中のより低い含水量が、下流側の分離の容易化に役立つ。本開示のプロセスは、一定供給物濃度戦略と比較してより低い水の純度をもたらすため、下流側の費用の削減にも有利である。
【0089】
ここで、両方の操作戦略により得られた入口供給物濃度プロファイルを議論するが、入口供給物組成は、0%から75%のAAの間で変化させた。AAの70%、80%及び90%変換に対する単一ステップにおける供給物濃度プロファイルを、それぞれ図8、9及び10に示す。さらに、両方の操作戦略における供給物濃度値もまた、表3に列挙する。
【0090】
【表3】
【0091】
これらの供給物濃度プロファイルは、循環定常状態で得られる。したがって、前のステップの終わりが、図8〜10に示されるステップに先行する。表3から確認され得るように、一定供給物濃度戦略において、供給物濃度は、AAの変換率を70%から90%に増加させながら、31.5%から26.3%AAに変化する。一方、本開示のプロセスは、様々なシナリオにおいて非常に類似している。本開示のプロセスにおいて、低濃度の純粋なPMまたはAAのいずれかが、ステップ時間の最初の66%の間に供給され、次いで供給物組成は75%AAに切り替えられる。これらの供給物濃度プロファイルは、SMBR内の内部濃度プロファイル及び反応速度から説明され得る。
【0092】
図11(a)及び11(b)は、それぞれ、一定供給物濃度(図11(a))及び本開示のプロセス(図11(b))における、内部濃度プロファイル及び正味反応速度r(x,t)のスナップショットを示す。推測されるように、両方の操作戦略において、SMBR内の正味反応速度はゾーンII内において最も高く、AAがPMと反応してPMA及び水を形成する。強く保持される成分である水は、抽出物ストリームから回収され得、一方より急速に移動する成分であるPMAはゾーンIIIに送られ、最終的に抽残液ストリームから回収される。
【0093】
これらの2つの異なる操作戦略の濃度プロファイルには、著しい差がある。特に、AAの濃度プロファイルは著しく異なり、本開示のプロセスにおいて、AAの濃度は、ゾーンIIにおいて著しくより鋭いピークを有する(図11(b))。本開示のプロセスにおけるゾーンIIにおけるAA濃度のこの増加は、より高い正味反応速度をもたらし、一方、一定供給物濃度戦略における正味反応速度は、ゾーンII及びIIIの両方において広がる比較的平坦なプロファイルを有する(図11(a))。一定供給物濃度戦略の制限された生成速度は、ゾーンII及びIIIにおける反応平衡により説明され得る。供給物がより速い流速で供給された場合、ゾーンIIIにおける正味反応速度は増加し、過剰のPMAの形成をもたらす。過剰のPMAは、ゾーンIVに移動し、このゾーン内に存在する少量の水と逆反応を開始する。この逆反応はAA及びPMを形成し、変換率は減少する。ゾーンIII内の反応速度がさらにより高い場合、より多量のPMAが形成され、これがリサイクルラインを通してゾーンIに進入し、さらにより高い逆反応速度をもたらす。
【0094】
一方、本開示のプロセスは、供給物濃度の調節によりゾーンIII内の高い正味反応速度を回避する。図8〜10において確認され得るように、ステップの開始時において、供給物中のAAの濃度はゼロであり、これは、ゾーンIII内の正味反応速度の増加を防止する。全ての成分が下流側に移動した後、供給物中のAAの濃度が増加する。この供給物濃度の調節は、AA濃度の局所的増加を可能にし、これはゾーンII内において局所的にのみ正味反応速度を増加させる。そのような反応速度の局所的増加は、より高い純度及び回収率を可能にしながら、同時にPMAの生成速度を増加させる。
【0095】
したがって、本明細書において議論されたように、抽残液ストリーム出口を介したPMAの生成速度は、両方の操作戦略において、AAの変換率の増加と共に減少する。したがって、PMAの高い生成速度には、AAのより高い変換率は有利ではない。さらに、本開示のプロセスは、抽残液ストリームを介したPMAの高い回収率を得るためにより有利であり、また、一定供給物濃度戦略と比較して下流側の分離費用を削減するのにより有利であることが判明した。したがって、本開示のプロセスは、SMBRのプロセス性能を改善する大きな潜在性を有する。
(態様)
(態様1)
逐次的反復注入サイクルの各ステップにおいて、第1の反応物質及び第2の反応物質を、擬似移動床反応器(SMBR)に供給することであって、前記SMBRは、それぞれ注入点を有し、それぞれ固体分離媒体を含有するゾーンを含む、供給することと、
前記逐次的反復注入サイクルの間、前記SMBR内で前記第1の反応物質及び前記第2の反応物質を反応させ、第1の生成物を形成することと、
前記SMBR内の前記第1の生成物を、前記固体分離媒体を用いて分離することと、
前記逐次的反復注入サイクルのステップの間、前記SMBRの前記注入点の1つ以上において注入される前記第1の反応物質及び前記第2の反応物質の一方または両方の量を変化させることと
を含むプロセス。
(態様2)
前記第1の反応物質及び前記第2の反応物質の一方または両方の前記量を変化させることは、前記逐次的反復注入サイクルの各ステップにおいて行われる、態様1に記載のプロセス。
(態様3)
前記逐次的反復注入サイクルの各ステップは、所定時間(tstep)を有し、前記第1の反応物質及び前記第2の反応物質の一方または両方の前記量を変化させることは、tstepの第1のパーセンテージに達したら開始する、態様1または2に記載のプロセス。
(態様4)
stepの前記第1のパーセンテージは、tstepの50パーセント(%)から100%未満である、態様3に記載のプロセス。
(態様5)
stepの前記第1のパーセンテージは、tstepの65%から67%である、態様3に記載のプロセス。
(態様6)
前記第1の反応物質の前記量は、前記SMBRの前記注入点の1つ以上において注入される前記第1の反応物質及び前記第2の反応物質の総量に対してゼロ(0)である、態様1から5のいずれか一項に記載のプロセス。
(態様7)
前記第1の反応物質の前記量は、前記SMBRの前記注入点の1つ以上において注入される前記第1の反応物質及び前記第2の反応物質の総量に対して100%である、態様1から5のいずれか一項に記載のプロセス。
(態様8)
前記第1の反応物質及び前記第2の反応物質の一方または両方の前記量を変化させることは、前記逐次的反復注入サイクルのステップの間に2回以上行われる、態様1から7のいずれか一項に記載のプロセス。
(態様9)
前記第1の反応物質及び前記第2の反応物質の一方または両方の前記量を変化させることは、段階的変化として行われる、態様1から8のいずれか一項に記載のプロセス。
(態様10)
前記第1の反応物質及び前記第2の反応物質の一方または両方の前記量を変化させることは、線形変化として行われる、態様1から8のいずれか一項に記載のプロセス。
(態様11)
前記量を変化させることは、前記逐次的反復注入サイクルの各ステップの間、前記SMBRの前記注入点の1つ以上において注入される前記第1の反応物質及び前記第2の反応物質の1つ以上の入口濃度を変化させることを含む、態様1から10のいずれか一項に記載のプロセス。
(態様12)
前記第1の反応物質を前記SMBRに供給することは、前記第1の反応物質が、前記SMBRの抽残液ストリーム及び抽出物ストリームの両方の脱着剤として作用するのに十分多い化学量論的過剰量で、前記第1の反応物質を前記SMBRに供給することを含む、態様1から11のいずれか一項に記載のプロセス。
(態様13)
前記第1の反応物質に対して化学量論的に不足量の前記第2の反応物質を、前記SMBR内で消滅するまで反応させることを含む、態様12に記載のプロセス。
(態様14)
前記抽残液ストリーム及び前記抽出物ストリームの少なくとも1つの一部を、前記SMBRの前記ゾーンの少なくとも1つに供給することを含む、態様1から13のいずれか一項に記載のプロセス。
(態様15)
前記固体分離媒体は、前記第1の反応物質及び前記第2の反応物質の反応の触媒としても作用する、態様1から14のいずれか一項に記載のプロセス。
(態様16)
前記逐次的反復注入サイクルの間、前記SMBR内で前記第1の反応物質及び前記第2の反応物質を反応させることは、第1の生成物及び第2の生成物を形成し、
前記SMBR内の前記第1の生成物を、前記固体分離媒体を用いて分離することは、前記第1の生成物を、前記SMBR内の前記第2の生成物から、前記固体分離媒体を用いて分離することをさらに含む、態様1から15のいずれか一項に記載のプロセス。
図1
図2
図3
図4
図5(a)】
図5(b)】
図6
図7(a)】
図7(b)】
図8
図9
図10
図11(a)】
図11(b)】