(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材を、蓄熱材収容具の内部に密閉し、該潜熱蓄熱材により、潜熱蓄熱槽内の熱媒体との間で該蓄熱材収容具を介して熱の移動を行うのにあたり、該潜熱蓄熱材が該蓄熱材収容具内に収容された状態にあるときの該潜熱蓄熱材の配置態様である潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法において、
液相状態にある前記潜熱蓄熱材の融液の粘度を高める増粘剤が配合され、
前記蓄熱材収容具内には、前記潜熱蓄熱材と前記増粘剤とを含む潜熱蓄熱材組成物が収容されていること、
前記蓄熱材収容具内の前記潜熱蓄熱材組成物を、
前記熱媒体の上方位置から鉛直方向下方に向けて投影したときの前記潜熱蓄熱材組成物の断面積を、鉛直側断面積Svとし、前記熱媒体を通じて水平方向に向けて投影したときの前記潜熱蓄熱材組成物の断面積を、水平側断面積Shとすると、
前記蓄熱材収容具内に収容された状態にある前記潜熱蓄熱材組成物では、
Sv<Sh ・・・式(1)
前記式(1)の条件を満たしていること、
前記潜熱蓄熱材組成物を収容した状態にある前記蓄熱材収容具は、水平方向に沿う厚みの変化を許容範囲内に制限するガイド手段により、拘束された状態で、一段につき、前記水平方向に複数並べて配置された蓄熱材収容具集合物を、前記鉛直方向に複数段に亘って積み重ねられ、かつ上下に隣接する段の前記蓄熱材収容具集合物同士を、互いに直交した向きに配置することにより、配置姿勢を維持した状態で、前記熱媒体の中に収容されていること、
前記潜熱蓄熱材組成物は、液体を透過しないフィルム状の樹脂製袋内に充填されていること、
を特徴とする潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法。
相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材に、該潜熱蓄熱材の物性を調整する添加剤を配合してなる潜熱蓄熱材組成物と、前記潜熱蓄熱材組成物との間で熱を移動させるための媒体である熱媒体と、前記潜熱蓄熱材組成物を内部に収容する蓄熱材収容具とを、備えた潜熱蓄熱槽において、
前記潜熱蓄熱材組成物は、請求項1乃至請求項12のいずれか1つに記載する潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法で、配設されていること、
を特徴とする潜熱蓄熱槽。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、潜熱蓄熱槽内の熱媒体中に存在する特許文献1のリード線等のように、潜熱蓄熱材に伴う機能とは無関係で、熱伝導に全く関与しない阻害物質が、熱媒体の中や、潜熱蓄熱材を充填した蓄熱材収容具の中に存在していると、熱媒体から潜熱蓄熱材への蓄熱や、潜熱蓄熱材から熱媒体への放熱を行うときに、阻害物質は、熱を伝導する上で弊害となる。また、一般的に無機塩水和物の融液は、酸性または塩基性を呈する傾向にあり、両性金属であるアルミニウムは、無機塩水和物において、酸性の融液と塩基性の融液とも溶解する。特許文献1の場合、酢酸ナトリウム三水和物の融液は、塩基性を呈するため、アルミニウムは、酢酸ナトリウム三水和物の融液に溶解する。そのため、パウチをなすアルミ箔が、酢酸ナトリウム三水和物の融液に触れてしまうと、アルミ箔が劣化してしまうほか、パウチの損傷に発展して、潜熱蓄熱材が熱媒体中に漏洩してしまう虞がある。また、リード線等のような阻害物質が、潜熱蓄熱槽内の熱媒体の中で存在すると、さらなる潜熱蓄熱材を収容できる空間に代えて、そのスペースが阻害物質で占有されてしまい、結果的に、潜熱蓄熱槽内に収容できる潜熱蓄熱材の容量が制限されて、潜熱蓄熱槽全体で蓄えることができる熱量も少なくなる。
【0007】
ところで、潜熱蓄熱材入りの蓄熱材収容具には、潜熱蓄熱材の収容時に混入した空気が内在している。潜熱蓄熱材入りの蓄熱材収容具が潜熱蓄熱槽内に収容され、潜熱蓄熱材が液相状態にあるときには、潜熱蓄熱材の融液が、自重により蓄熱材収容具の下側に偏り、蓄熱材収容具の上側には、混入した空気による空隙部が必然的に形成されてしまう。この空隙部のボリュームは、潜熱蓄熱材の体積変動によっても変化する。このような潜熱蓄熱材入りの蓄熱材収容具が、横向きの姿勢で潜熱蓄熱槽内に配置されると、蓄熱材収容具の上面やその下面全体が、熱媒体との伝熱面となる。
【0008】
このとき、蓄熱材収容具に混入した空気は、蓄熱材収容具の上面全体に接した幅広な空隙部を形成し、蓄熱材収容具を介して、熱媒体から潜熱蓄熱材に蓄熱するときや、潜熱蓄熱材から熱媒体に放熱するときに、空隙部で熱伝導を遮る割合が増えてしまい、熱の伝導の低下を招いてしまう。そのため、伝熱面に接触する幅広な空隙部は、熱伝導にとって阻害要因になる。さらに、潜熱蓄熱材入りの蓄熱材収容具が、横向きの姿勢で複数段に積み重ねて配置されていると、積み重なっている潜熱蓄熱材入りの蓄熱材収容具の伝熱面同士が密着してしまい、水等(熱媒体)が伝熱面に流れず、このことが、熱伝導の効率の低下を招く一因となる。
【0009】
一方、潜熱蓄熱材入りの蓄熱材収容具が、特許文献1のように、縦向きの姿勢で潜熱蓄熱槽内に配置されていれば、蓄熱材収容具の側面が熱媒体との伝熱面になり、蓄熱材収容具の上部側に、幅狭な空隙部は形成されるが、同じ蓄熱材収容具の対比で、その空隙部と蓄熱材収容具の側面との接触面積は、蓄熱材収容具の側面全体の面積の一部に過ぎない。そのため、縦向きの姿勢は、横向きの姿勢の場合に比べ、熱伝導の低下を抑制することはできる。
【0010】
他方、潜熱蓄熱材が、例えば、アンモニウムミョウバン12水和物(AlNH
4(SO
4)
2・12H
2O)等のような無機塩水和物である場合がある。この場合、潜熱蓄熱材の使用直後において、潜熱蓄熱材が固体状態であるときに、アンモニウムミョウバン(AlNH
4(SO
4)
2)等の無機塩と水分子(H
2O)とが、互いの相互作用で結びついて、均一な結晶構造を形成する。また、潜熱蓄熱材が融液状態であるときには、アンモニウムミョウバン等の無機塩と水分子とが、均一に混ざった状態になっている。しかしながら、潜熱蓄熱槽内に縦向きの姿勢でこの潜熱蓄熱材入りの蓄熱材収容具を配置すると、蓄熱とその放熱のサイクルを複数回繰り返すうちに、各成分の密度差(比重差)により、無機塩と水とが分離する相分離が生じてしまう。
【0011】
さらに、この潜熱蓄熱材に、過冷却防止剤や融点調整剤等の添加剤が配合されている潜熱蓄熱材組成物の場合には、蓄熱とその放熱のサイクルを複数回繰り返すうちに、組成物を構成する各成分の混ざり具合が、構成成分の密度差により不均一になる。横向きの姿勢の場合に比べ、潜熱蓄熱材入りの蓄熱材収容具を縦向きの姿勢で潜熱蓄熱槽内に配置した場合に、充填されている潜熱蓄熱材の層の高さが高くなるため、相分離や成分の不均一化が、顕著に表れる。このような相分離や成分の不均一化が蓄熱材収容具内で生じてしまうと、本来、潜熱蓄熱材に有する蓄放熱性能が発揮できなくなる。
【0012】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材が蓄熱材収容具の内部に収容され、この蓄熱材収容具を介して、潜熱蓄熱槽内の熱媒体と潜熱蓄熱材との間で熱伝導を行うのにあたり、潜熱蓄熱材の蓄放熱性能を維持しながら、熱伝導を効率良く行うことができる潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法、及び潜熱蓄熱槽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法は、以下の構成を有する。
(1)相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材を、蓄熱材収容具の内部に密閉し、該潜熱蓄熱材により、潜熱蓄熱槽内の熱媒体との間で該蓄熱材収容具を介して熱の移動を行うのにあたり、該潜熱蓄熱材が該蓄熱材収容具内に収容された状態にあるときの該潜熱蓄熱材の配置態様である潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法において、液相状態にある前記潜熱蓄熱材の融液の粘度を高める増粘剤が配合され、前記蓄熱材収容具内には、前記潜熱蓄熱材と前記増粘剤とを含む潜熱蓄熱材組成物が収容されていること、前記蓄熱材収容具内の前記潜熱蓄熱材組成物を、前記熱媒体の上方位置から鉛直方向下方に向けて投影したときの前記潜熱蓄熱材組成物の断面積を、鉛直側断面積Svとし、前記熱媒体を通じて水平方向に向けて投影したときの前記潜熱蓄熱材組成物の断面積を、水平側断面積Shとすると、前記蓄熱材収容具内に収容された状態にある前記潜熱蓄熱材組成物では、Sv<Sh ・・・式(1) 前記式(1)の条件を満たしていること、前記潜熱蓄熱材組成物を収容した状態にある前記蓄熱材収容具は、水平方向に沿う厚みの変化を許容範囲内に制限するガイド手段により、拘束された状態で、かつ配置姿勢を維持した状態で、前記熱媒体の中に収容されていること、を特徴とする。
(2)(1)に記載する潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法において、前記蓄熱材収容具は、樹脂と金属とを積層した複層構造で、融着可能な材質からなる袋または容器であり、当該蓄熱材収容具の外形輪郭をなす外周縁の少なくとも一部に、融着により封止された融着部を有していること、を特徴とする。
(3)(2)に記載する潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法において、前記蓄熱材収容具は、ポリエチレン(PE:polyethylene)、ポリプロピレン (PP:polypropylene)、またはポリエチレンテレフタラート(PET:polyethylene terephthalate)の少なくともいずれかの材質を含むフィルム状樹脂層に、アルミニウムを蒸着したラミネート構造の袋であること、を特徴とする。
(4)(2)または(3)に記載する潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法において、前記潜熱蓄熱材組成物は、複数の前記蓄熱材収容具により、入れ子のように、多重に重ね合わせた状態の下で、収容されていること、を特徴とする。
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載する潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法において、前記ガイド手段は、前記潜熱蓄熱材組成物を収容した状態にある前記蓄熱材収容具を1または複数、前記蓄熱材収容具の伝熱面で前記熱媒体と接触可能な状態で収容可能な内部空間を有し、前記内部空間を包囲する少なくとも側部を、目開きを有する網状に形成されたものであること、を特徴とする。
(6)(1)乃至(5)のいずれか1つに記載する潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法において、前記潜熱蓄熱材は、無機塩水和物からなること、前記無機塩水和物に含む水和水を脱離した無水和物と、加えた水とを、前記蓄熱材収容具内で水和反応させることにより、前記無機塩水和物を生成し、前記蓄熱材収容具内に封入すること、を特徴とする。
(7)(1)乃至(6)のいずれか1つに記載する潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法において、前記潜熱蓄熱材の主成分は、ミョウバン水和物であること、を特徴とする。
(8)(7)に記載する潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法において、前記ミョウバン水和物は、アンモニウムミョウバン12水和物(AlNH
4(SO
4)
2・12H
2O)、または、カリウムミョウバン12水和物(AlK(SO
4)
2・12H
2O)であること、を特徴とする。
(9)(1)乃至(8)のいずれか1つに記載する潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法において、前記増粘剤は、糖アルコールに属する物質であること、を特徴とする。
(10)(9)に記載する潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法において、増粘剤は、マンニトール(C
6H
14O
6)であること、を特徴とする。
(11)(1)乃至(8)のいずれか1つに記載する潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法において、増粘剤は、ヘテロ多糖(hetero polysaccharide)に属する水溶性の多糖類で、前記潜熱蓄熱材組成物に含まれる水とカチオンとの相互作用に基づいて、液相状態にある前記潜熱蓄熱材組成物の融液の粘度を高める物性を有するゲランガム相当物質であること、を特徴とする。
【0014】
なお、本発明に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法において、「ゲランガム相当物質」とは、例えば、ゲランガム(gellan gum)をはじめ、ゲランガムの物性と同等な物性を有したゲランガムに相当する物質をいう。すなわち、ゲランガムは、下記の化学構造に示すように、単糖を直鎖状に連結したポリマーによる高分子化合物である。
【0015】
【化1】
【0016】
ポリマーの基質となる単量体(モノマー)は、2つのD−グルコース残基と、1つのD−グルクロン酸残基と、1つのL−ラムノース残基とにより、計3種で4つの糖分子からなる。ゲランガムは、分子量の大きな高分子化合物であるにも関わらず、水溶性を有する。これは、ゲランガムがD−グルクロン酸残基上の1価の官能基であるカルボキシ基(carboxy group)(化学構造では、「COOH」と表記)を有するためである。すなわち、水中でカルボキシ基の一部が、プロトン(化学構造では、「H
+」)を放出し、負の電荷(化学構造では、「COO
−」と表記)を帯びることにより、ゲランガム分子が互いに静電反発して水中に分散するために、ゲランガムは水溶性を示す。水中に分散したゲランガムは、高温下では、ランダムコイル状の構造をなしているが、冷却されると、二重の螺旋構造を構成する。
【0017】
さらに、このような状態になっているゲランガムに、カチオンが外部から供給されると、D−グルクロン酸残基において、負の電荷を帯びたカルボキシ基と、正の電荷を帯びたカチオン(陽イオン)(化学構造では「M
+」と表記)とが、互いに引き寄せ合う静電相互作用が生じる。このとき、カチオンが1価の場合、カチオンの1価の電荷と、ゲランガムのカルボキシ基上の負の電荷とが、互いに打ち消し合い、二重螺旋構造を形成するゲランガム同士の静電反発が解消される。さらに、これらの二重螺旋構造は、当該二重螺旋構造に含まれる酸素原子と水素原子との間で相互に作用する水素結合により、会合する。カチオンが2価の場合、各二重螺旋構造に含まれる負の電荷を帯びたカルボキシ基が、正の電荷を有するカチオンとの静電相互作用を介して架橋されることで、これらの二重螺旋構造は、互いに会合する。
【0018】
このような会合により、カチオンが供給されたゲランガムはゲル化する。このようなゲランガムに相当する物質として、単一種または複数種に関わらず、糖分子を複数連結してなる高分子化合物を対象に、構成する糖分子に、例えば、カルボキシ基等のように、親水基を有することで、高分子化合物に水溶性を付与し、かつ水中で電離して負の電荷を帯びる官能基を有し、水との共存下において、外部から供給されるカチオンとこの官能基との間で、静電相互作用の形成を可能とする物質が該当する。また、ゲランガムの物性と同等な物性として、水溶性を有し、分子内の官能基同士の相互作用によって、少なくとも螺旋構造等の三次元構造を形成する性質を持ち、水との共存下において、外部から供給されるカチオンと官能基との静電相互作用により、これらの螺旋構造が会合し、ネットワーク構造を形成してゲル化を促す特性が該当する。本発明に係る潜熱蓄熱材組成物では、ゲランガムのほか、このような特性を具備した物質を対象に、「ゲランガム相当物質」と定義している。
【0019】
(12)(11)に記載する潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法において、増粘剤は、ゲランガム(gellan gum)であること、を特徴とする。
【0020】
また、上記目的を達成するために、本発明に係る潜熱蓄熱槽は、以下の構成を有する。
(13)相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材に、該潜熱蓄熱材の物性を調整する添加剤を配合してなる潜熱蓄熱材組成物と、前記潜熱蓄熱材組成物との間で熱を移動させるための媒体である熱媒体と、前記潜熱蓄熱材組成物を内部に収容する蓄熱材収容具とを、備えた潜熱蓄熱槽において、前記潜熱蓄熱材組成物は、(1)乃至(12)のいずれか1つに記載する潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法で、配設されていること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
上記構成を有する本発明の潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法の作用・効果について説明する。
(1)相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材を、蓄熱材収容具の内部に密閉し、該潜熱蓄熱材により、潜熱蓄熱槽内の熱媒体との間で該蓄熱材収容具を介して熱の移動を行うのにあたり、該潜熱蓄熱材が該蓄熱材収容具内に収容された状態にあるときの該潜熱蓄熱材の配置態様である潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法において、液相状態にある潜熱蓄熱材の融液の粘度を高める増粘剤が配合され、蓄熱材収容具内には、潜熱蓄熱材と増粘剤とを含む潜熱蓄熱材組成物が収容されていること、蓄熱材収容具内の潜熱蓄熱材組成物を、熱媒体の上方位置から鉛直方向下方に向けて投影したときの潜熱蓄熱材組成物の断面積を、鉛直側断面積Svとし、熱媒体を通じて水平方向に向けて投影したときの潜熱蓄熱材組成物の断面積を、水平側断面積Shとすると、蓄熱材収容具内に収容された状態にある潜熱蓄熱材組成物では、Sv<Sh ・・・式(1) 式(1)の条件を満たしていること、潜熱蓄熱材組成物を収容した状態にある蓄熱材収容具は、水平方向に沿う厚みの変化を許容範囲内に制限するガイド手段により、拘束された状態で、かつ配置姿勢を維持した状態で、熱媒体の中に収容されていること、を特徴とする。この特徴により、潜熱蓄熱材組成物が融液の状態になったときに、潜熱蓄熱材組成物の融液が、蓄熱完了時に蓄熱材収容具の下方に移動し、潜熱蓄熱材組成物の入った蓄熱材収容具の厚みが、その上下側で均一ではないため、熱媒体は、潜熱蓄熱材組成物の入った蓄熱材収容具同士の間を流通し易くなる。しかも、膨張した、潜熱蓄熱材組成物の入った蓄熱材収容具の態様は、隣接する蓄熱材収容具毎に異なるため、たとえ膨張部分で局部的に接触したとしても、その接触面積は、比較的小さく抑えることができる。また、潜熱蓄熱材組成物を蓄熱材収容具内に収容した蓄熱材封入パックが、縦置き姿勢で潜熱蓄熱槽に配されても、潜熱蓄熱材組成物の融液では、増粘剤により、構成成分を均一に分散した状態が維持できている。そのため、潜熱蓄熱材組成物が、液相と固相との間で相変化を繰り返し行っても、構成成分の分布を均一に保つことができている。ひいては、潜熱蓄熱材組成物の融点・凝固点等の物性が変動するのを抑制することができる。
【0022】
従って、本発明に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法によれば、蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材が蓄熱材収容具の内部に収容され、蓄熱材収容具を介して、潜熱蓄熱槽内の熱媒体と潜熱蓄熱材との間で熱伝導を行うのにあたり、潜熱蓄熱材の蓄放熱性能を維持しながら、熱伝導を効率良く行うことができる、という優れた効果を奏する。
【0023】
(2)に記載する潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法において、蓄熱材収容具は、樹脂と金属とを積層した複層構造で、融着可能な材質からなる袋または容器であり、当該蓄熱材収容具の外形輪郭をなす外周縁の少なくとも一部に、融着により封止された融着部を有していること、を特徴とする。この特徴により、潜熱蓄熱材組成物を蓄熱材収容具内に収容した蓄熱材封入パックの剛性が、融着部によって増強される。また、蓄熱材封入パックの伝熱面は、融着部より内側にあるため、潜熱蓄熱材組成物の融液が、蓄熱完了時に蓄熱材収容具の下方に移動しても、蓄熱材収容具の厚みは、蓄熱材収容具の上方と下方で、極端に大きく変化せず、下方に移動した潜熱蓄熱材組成物そのものによる伝熱阻害を低減することができる。
【0024】
(3)に記載する潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法において、蓄熱材収容具は、ポリエチレン(PE:polyethylene)、ポリプロピレン (PP:polypropylene)、またはポリエチレンテレフタラート(PET:polyethylene terephthalate)の少なくともいずれかの材質を含むフィルム状樹脂層に、アルミニウムを蒸着したラミネート構造の袋であること、を特徴とする。この特徴により、潜熱蓄熱材組成物を蓄熱材収容具内に収容した蓄熱材封入パックにおいて、全ての蓄熱材収容具の厚みが、例えば、100μm程度であれば、蓄熱材収容具での熱伝導の低下がほとんどなく、潜熱蓄熱材組成物の潜熱蓄熱材と熱媒体との間で、潜熱蓄熱材への蓄熱と、潜熱蓄熱材からの放熱が十分にできる。また、熱媒体の温度が、例えば、100℃近くても、蓄熱材封入パックの耐熱性は確保できている。また、アルミニウムがフィルム状樹脂層に蒸着された構造になっているため、潜熱蓄熱槽内の熱媒体や、酸素等の気体が、フィルム状樹脂層を通じて潜熱蓄熱材組成物に接触するのを、アルミニウムの被覆層によって遮断することができる。
【0025】
(4)に記載する潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法において、潜熱蓄熱材組成物は、複数の蓄熱材収容具により、入れ子のように、多重に重ね合わせた状態の下で、収容されていること、を特徴とする。この特徴により、万一、潜熱蓄熱材組成物を蓄熱材収容具内に収容した蓄熱材封入パックを潜熱蓄熱槽の内外に移動させるときや、蓄熱材収容具本体の経年劣化等に起因して、潜熱蓄熱材組成物を覆う蓄熱材収容具が損傷した場合でも、蓄熱材収容具が複数に重ね合わせた複層構造になっているため、潜熱蓄熱材組成物の外部への漏洩を防止することができる。
【0026】
(5)に記載する潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法において、ガイド手段は、潜熱蓄熱材組成物を収容した状態にある蓄熱材収容具を1または複数、蓄熱材収容具の伝熱面で熱媒体と接触可能な状態で収容可能な内部空間を有し、内部空間を包囲する少なくとも側部を、目開きを有する網状に形成されたものであること、を特徴とする。この特徴により、潜熱蓄熱材組成物を蓄熱材収容具内に収容した蓄熱材封入パックの伝熱面と熱媒体との接触を確保した上で、上記蓄熱材封入パック内の潜熱蓄熱材組成物の相変化により、蓄熱材封入パックに多少の変形が生じても、内部空間に収容した蓄熱材封入パックの配置状態が、潜熱蓄熱槽内でほぼ一定に保持できる。
【0027】
(6)に記載する潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法において、潜熱蓄熱材は、無機塩水和物からなること、無機塩水和物に含む水和水を脱離した無水和物と、加えた水とを、蓄熱材収容具内で水和反応させることにより、無機塩水和物を生成し、蓄熱材収容具内に封入すること、を特徴とする。この特徴により、無水和物の容器への充填前、隣接する粉末同士の間にあった間隙は水和反応時に、容器に加えた水で満たされるため、容器の内容積に対し、潜熱蓄熱材が占める体積充填率は、粉末状の無機塩水和物を容器内に直に充填した場合に比べて、大幅に向上する。また、間隙の発生を抑えているため、このような場合との対比で、潜熱蓄熱材と潜熱蓄熱槽内の熱媒体との間の熱伝導に要する時間も短くなるため、このような伝熱性能は高くなる。また、潜熱蓄熱材や、これに添加剤を配合した潜熱蓄熱材組成物を生成するのに、加熱設備を一切必要とせず、このような潜熱蓄熱材組成物等を、容器内で常温のまま簡単に生成することができる。しかも、融点が、例えば、約90℃のような比較的高い潜熱蓄熱材組成物等でも、液相状態の潜熱蓄熱材組成物等を直接取り扱うことがなく、潜熱蓄熱材組成物等の充填・封入作業は、安全である。
【0028】
(7)に記載する潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法において、潜熱蓄熱材の主成分は、ミョウバン水和物であること、を特徴とする。この特徴により、様々な種類の無機塩水和物の中でも、例えば、アンモニウムミョウバン12水和物等のようなミョウバン水和物を用いた潜熱蓄熱材は、相変化に伴う潜熱が比較的大きい物性を有する。そのため、このような物性の潜熱蓄熱材では、蓄熱できる蓄熱量も比較的大きい。また、ミョウバン水和物である潜熱蓄熱材を含む潜熱蓄熱材組成物は、大容量の熱を蓄熱し、それを放熱する蓄放熱性能を具備できている点で、優れている。
【0029】
(8)に記載する潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法において、ミョウバン水和物は、アンモニウムミョウバン12水和物(AlNH
4(SO
4)
2・12H
2O)、または、カリウムミョウバン12水和物(AlK(SO
4)
2・12H
2O)であること、を特徴とする。この特徴により、アンモニウムミョウバン12水和物やカリウムミョウバン12水和物は、市場で幅広く流通して入手し易く、安価である。
【0030】
(9)に記載する潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法において、増粘剤は、糖アルコールに属する物質であること、を特徴とする。この特徴により、無機塩水和物が、例えば、アンモニウムミョウバン12水和物等のミョウバン水和物である場合に、増粘剤は、無機塩水和物の構成成分である水に溶解し易く、組成した蓄熱材組成物は、化学的に安定している。
【0031】
(10)に記載する潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法において、増粘剤は、マンニトール(C
6H
14O
6)であること、を特徴とする。この特徴により、マンニトールは、液相状態にある潜熱蓄熱材の融液の粘度を高めると共に、潜熱蓄熱材組成物を構成する成分同士の相分離現象や、この潜熱蓄熱材組成物を構成する成分で、密度が互いに異なる成分同士に対し、密度差による成分同士の不均一化を防止することができる。また、マンニトールは、無毒で非危険物であるため、取扱いが容易である上に、安価でもある。
【0032】
(11)に記載する潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法において、増粘剤は、ヘテロ多糖(hetero polysaccharide)に属する水溶性の多糖類で、潜熱蓄熱材組成物に含まれる水とカチオンとの相互作用に基づいて、液相状態にある潜熱蓄熱材組成物の融液の粘度を高める物性を有するゲランガム相当物質であること、を特徴とする。また、(12)に記載する潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法において、増粘剤は、ゲランガム(gellan gum)であること、を特徴とする。この特徴により、ゲランガム自体は、蓄熱特性を具備していないが、アンモニウムミョウバン12水和物等の潜熱蓄熱材にゲランガム等を、例えば、1.0wt%以下という少量添加するだけで、潜熱蓄熱材組成物の融液を増粘することができ、潜熱蓄熱材組成物における構成成分の分離を、より効果的に抑制することができる。また、例えば、増粘剤がゲランガム等の場合、例えば、アンモニウムミョウバン12水和物やカリウムミョウバン12水和物等の融液が、酸性を呈する物性であっても、例示したゲランガムは、耐酸性の物性を有しているため、ゲランガム等の添加に起因して、潜熱蓄熱材組成物が、経時的に変性、変質してしまうこともない。
【0033】
また、上記構成を有する本発明の潜熱蓄熱槽の作用・効果について説明する。
(13)相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材に、該潜熱蓄熱材の物性を調整する添加剤を配合してなる潜熱蓄熱材組成物と、潜熱蓄熱材組成物との間で熱を移動させるための媒体である熱媒体と、潜熱蓄熱材組成物を内部に収容する蓄熱材収容具とを、備えた潜熱蓄熱槽において、潜熱蓄熱材組成物は、(1)乃至(12)のいずれか1つに記載する潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法で、配設されていること、を特徴とする。上述の潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法により、潜熱蓄熱材組成物内の潜熱蓄熱材に対し、熱媒体と当該潜熱蓄熱材の間の伝熱速度を、比較的速くすることができる。そのため、潜熱蓄熱材組成物の過冷却現象を防止し、潜熱蓄熱材組成物の相変化に伴う状態変化(蓄熱材としての機能)が安定し、このような潜熱蓄熱材組成物を用いた潜熱蓄熱槽は、熱供給源と熱提供先との間で行う熱エネルギの授受について、高い信頼性で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(実施形態)
以下、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物、及びこの潜熱蓄熱材組成物を用いた潜熱蓄熱槽について、実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。本実施形態に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法は、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材を、蓄熱材収容具の内部に密閉し、この潜熱蓄熱材により、潜熱蓄熱槽内の熱媒体との間で蓄熱材収容具を介して熱の移動を行うのにあたり、潜熱蓄熱材が、蓄熱材収容具内に収容された状態にあるときの潜熱蓄熱材の配置態様である。
【0036】
また、潜熱蓄熱槽は、潜熱蓄熱材に、潜熱蓄熱材の物性を調整する添加剤を配合してなる潜熱蓄熱材組成物と、潜熱蓄熱材組成物との間で熱を移動させるための媒体である熱媒体と、潜熱蓄熱材組成物を内部に収容する蓄熱材収容具とを、備えている。本実施形態では、実施例1に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法と、比較例1に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法を挙げて説明する。はじめに、実施例1と比較例1との共通する部分を説明した後、実施例1を説明し、続いて比較例1を説明する。
【0037】
<実施例1と比較例1との共通部分>
はじめに、潜熱蓄熱槽の概要について、簡単に説明する。
図1は、本実施形態に係る潜熱蓄熱槽を例示した模式図である。
図1に示すような潜熱蓄熱槽80は、例えば、病院やビルの発電に用いるコジェネレーション(CogenerationまたはCombined Heat and Power)のガスエンジンシステム等の熱供給源と、この熱供給源で生じた排熱に有する熱エネルギを利用する熱提供先の設備との間に設置される。潜熱蓄熱槽80は、何れも図示しない第1熱交換器及び第2熱交換器と配管で接続されており、潜熱蓄熱槽80、第1熱交換器、及び第2熱交換器は、循環流路をなす配管系統で連通している。潜熱蓄熱槽80の容積は、本実施形態では、160Lである。
【0038】
この潜熱蓄熱槽80には、後に詳述するように、蓄熱材収容ユニット70,70Aが、熱媒体83に浸漬した状態で収容されている。実施例1と比較例1で使用した潜熱蓄熱槽80は、ステンレス鋼製で、縦40cm×横40cm×高さ140cmで直方体に形成されている。熱媒体83は、本実施形態では、水であり、蓄熱材収容ユニット70,70Aを収容した状態において、熱媒体83の深さは、100cmである。蓄熱材収容ユニット70,70Aは、潜熱蓄熱材10と増粘剤22等とを含む潜熱蓄熱材組成物3が封入袋50内に封入された蓄熱材封入パック1を、バスケット71,71A(ガイド手段)(
図3及び
図8参照)内に複数収容し、保持されたものである。なお、
図1には、説明の都合上、熱媒体83の中に蓄熱材収容ユニット70等を1つだけ収容した潜熱蓄熱槽80を図示しているが、実際には、このような蓄熱材収容ユニット70等は、潜熱蓄熱槽80内に複数収容されることもあり、蓄熱材収容ユニット等の数量や配置形態は、限定されるものではない。
【0039】
潜熱蓄熱槽80内には、熱供給源の排熱により、第1の熱交換器を介して約90℃に加熱された水等の熱媒体83が、取水口81から供給される。蓄熱材収容ユニット70等では、潜熱蓄熱材組成物3内の潜熱蓄熱材10が、潜熱蓄熱槽80内の熱媒体83により、封入袋50を介して、80〜90℃の温度帯域で蓄熱を行う。また、潜熱蓄熱材10は、その蓄熱により、潜熱蓄熱槽80内の熱媒体83にこの温度帯域で放熱され、伝熱により温められた熱媒体83は、排水口82を通じて第2熱交換器に流される。そして、熱媒体83に有する熱が、第2熱交換器を介して、例えば、図示しない給湯設備や、冷暖房を行う空気調和設備等の熱提供先の設備向けの熱源(熱エネルギ)として、活用される。その後、第2熱交換器で熱が奪われた熱媒体83は、第1の熱交換器に還流され、第1の熱交換器で再び、熱供給源の排熱より加熱される。潜熱蓄熱槽80では、このように一連の熱交換を伴った熱媒体83の循環を1サイクルとして、このサイクルが、複数回繰り返し行われる。
【0040】
次に、潜熱蓄熱材組成物3について、
図2を用いて説明する。
図2は、
図1に示す蓄熱材収容ユニットに収容された潜熱蓄熱材組成物を模式的に示す説明図である。
図2に示すように、潜熱蓄熱材組成物3は、潜熱蓄熱材10に、2種の添加剤20を配合してなる。なお、
図2には、2種の添加剤20として、融点調整剤21と増粘剤22の両方を図示しているが、後述する実施例1では、融点調整剤21も兼ねる増粘剤22が用いられているため、
図2中、クロスハッチングで示した添加剤20(融点調整剤21)は含まれない。他方、後述する比較例1では、融点調整剤21と増粘剤22とは、互いに独立した添加剤20であるため、クロスハッチングで示した添加剤20(融点調整剤21)と、白抜きで示した添加剤20(増粘剤22)の両方が存在する。
【0041】
潜熱蓄熱材10は、相変化に伴う潜熱の出入りにより、蓄熱またはその放熱を可能とする潜熱蓄熱材である。潜熱蓄熱材10は、主成分をミョウバン水和物とする蓄熱材であり、本実施形態では、アンモニウムミョウバン12水和物(硫酸アンモニウムアルミニウム・12水:AlNH
4(SO
4)
2・12H
2O)(以下、単に「アンモニウムミョウバン」と称する。)である。アンモニウムミョウバンは、融点93.5℃、酸性(1%水溶液の場合、pHは約3.6)を呈する物性で、常温では固体の物質である。そのため、アンモニウムミョウバンが、単体で融点未満の90℃程度に加熱されたとしても、アンモニウムミョウバンは、ほとんど溶融することなく、潜熱を蓄熱することもできない。
【0042】
なお、本実施形態では、潜熱蓄熱材組成物3の主成分である潜熱蓄熱材10を、アンモニウムミョウバン12水和物(硫酸アンモニウムアルミニウム・12水:AlNH
4(SO
4)
2・12H
2O)とした。しかしながら、潜熱蓄熱材は、無機塩水和物からなり、アンモニウムミョウバン以外にも、例えば、カリウムミョウバン12水和物(AlK(SO
4)
2・12H
2O)、クロムミョウバン(CrK(SO
4)
2・12H
2O)、鉄ミョウバン(FeNH
4(SO
4)
2・12H
2O)等、1価の陽イオンの硫酸塩M
I2(SO
4)と、3価の陽イオンの硫酸塩M
III2(SO
4)
3との複硫酸塩である「ミョウバン」であっても良い。また、この「ミョウバン」に含まれる3価の金属イオンは、アルミニウムイオン、クロムイオン、鉄イオン以外に、例えば、コバルトイオン、マンガンイオン等の金属イオンでも良い。さらに、潜熱蓄熱材10は、このような「ミョウバン」に属する物質を、少なくとも二種以上含む混合物、または混晶を主成分とした蓄熱材であっても良い。
【0043】
添加剤20は2種(第1の添加剤、第2の添加剤)とも、潜熱蓄熱材10の物性を調整する役割を担う水溶性の添加剤である。第1の添加剤20は、潜熱蓄熱材10の融点を、必要に応じて任意の温度に調整する融点調整剤21である。第2の添加剤20は、液相状態にある潜熱蓄熱材組成物3の融液の粘度を高める増粘剤22である。なお、本実施形態では、潜熱蓄熱材組成物3に配合する添加剤20として、融点調整剤21と増粘剤22とを挙げたが、増粘剤22以外に潜熱蓄熱材組成物に配合する添加剤は、融点調整剤21に限らず、例えば、融液状態にある蓄熱材の結晶化の誘起を促す過冷却防止剤や、潜熱蓄熱材組成物に着色する着色剤等も挙げることができる。
【0044】
<実施例1>
実施例1に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法では、潜熱蓄熱材組成物3の作製方法、融点調整剤21と増粘剤22とを兼ねた添加剤20の使用、バスケット71の大きさ、蓄熱材収容ユニット70の態様が、比較例1に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法と異なっている。添加剤20は、糖アルコールに属する物質であり、本実施例1では、融点調整剤21と増粘剤22とを兼ねたマンニトール(C
6H
14O
6)である。
【0045】
はじめに、潜熱蓄熱材組成物3の作製方法について、
図4を用いて説明する。
図4は、実施例1に係る蓄熱材収容ユニットに具備した潜熱蓄熱材組成物の作製工程を示すフロー図である。
【0046】
前述したように、潜熱蓄熱槽80内には、蓄熱材封入パック1が収容されている。
図4及び
図5に示すように、蓄熱材封入物2として、潜熱蓄熱材組成物3は、漏洩防止用内袋40内に充填されている。蓄熱材封入物2は、2枚重ね合わせた封入袋50(第1封入袋50A、第2封入袋50B)(蓄熱材収容具)のうち、内側の第1封入袋50A内に、蓄熱材封入プレパック1Aとして収容されている。そして、さらにこの蓄熱材封入プレパック1Aは、潜熱蓄熱槽80内に蓄熱材封入パック1を収容する態様として、外側の第2封入袋50B内に収容されている。漏洩防止用内袋40は、本実施形態では、例えば、縦23cm×横12cmの長方形で、厚さ0.02mm程度の薄いポリエチレン(PE:polyethylene)製の包装用袋等である。
【0047】
蓄熱材封入物2内に含む潜熱蓄熱材組成物3で、その主成分である潜熱蓄熱材10は、無機塩水和物の一種とするアンモニウムミョウバンである。実施例1では、無機塩水和物に含む水和水を脱離した無水和物と、加えた水とを、漏洩防止用内袋40内で水和反応させることにより、無機塩水和物を生成し、漏洩防止用内袋40(蓄熱材収容具)を封入する方法を用いて、潜熱蓄熱材10が生成される。
【0048】
具体的には、無機塩水和物は、前述したように、アンモニウムミョウバン12水和物(硫酸アンモニウムアルミニウム・12水:AlNH
4(SO
4)
2・12H
2O)であり、その無水和物は、アンモニウムミョウバン12水和物に含む水和水(12H
2O)を脱離した焼アンモニウムミョウバン(AlNH
4(SO
4)
2)である。水は、例えば、純水、イオン交換水、水道水等である。
【0049】
実施例1に係る潜熱蓄熱材の袋内封入方法は、焼アンモニウムミョウバン11を、平均1mm程度の大きさに粒子を粉砕して粉末状態(
図4中、(a))にした後、48.2g秤量して、開口41を通じて漏洩防止用内袋40内に充填する(
図4中、(b))。なお、焼アンモニウムミョウバン11の粒子の大きさが、平均1mm程度よりも細かくなると、粒子間の間隙がより少なくなるため、好ましい。
【0050】
他方で、添加剤20であるマンニトールの粉末を、8.0g秤量して、常温の水12と共に、容量250mlのポリプロピレン (PP:polypropylene)製の第1瓶91に投入し、常温のまま撹拌することにより、マンニトール20が水12に溶解したマンニトール水溶液30を調製する(
図4中、(c))。マンニトール20は、平均数百μm程度の大きさに粉砕されたものである。水12の投入量は、無水和物である焼アンモニウムミョウバン11に対し、その水和物であるアンモニウムミョウバン水和物10(潜熱蓄熱材10)を生成するのに必要な加水量と同量、または加水量を超える量の水である。この加水量は、すなわちアンモニウムミョウバン水和物10に含む水和水(12H
2O)に相当する量である。実施例1では、水12として、純水を43.8g秤取した。これは、48.2gの焼アンモニウムミョウバン11を、アンモニウムミョウバン12水和物10とするために、過不足なく必要な加水量である。
【0051】
次に、焼アンモニウムミョウバン11を漏洩防止用内袋40内に充填後、開口41を通じてマンニトール水溶液を漏洩防止用内袋40内に注ぎ(
図4中、(d))、漏洩防止用内袋40内で焼アンモニウムミョウバン11と水12との水和反応が終了するまで、この漏洩防止用内袋40を水平に静置する。これにより、漏洩防止用内袋40には、焼アンモニウムミョウバン11と、水和水(12H
2O)に相当する加水量の水12と、マンニトール20とが、互いに混ざり合う。常温下にある焼アンモニウムミョウバン11とマンニトール水溶液30との混合物は、
図4中、(e)に示すように、スラリー状混合物15を経て、次第に凝固する。これにより、焼アンモニウムミョウバン11と水12により生成されたアンモニウムミョウバン水和物10に、融点調整剤と増粘剤の機能を伴ったマンニトール20を配合した潜熱蓄熱材組成物3が、漏洩防止用内袋40内で生成される。
【0052】
次に、漏洩防止用内袋40の開口41側の折返し部42を折り返して、漏洩防止用内袋40を閉塞する。折返し部42で折り返した漏洩防止用内袋40は、本実施形態では、例えば、縦18cm×横12cmの長方形である。かくして、潜熱蓄熱材組成物3を漏洩防止用内袋40内に収容した蓄熱材封入物2を作製する(
図4中、(f))。
【0053】
次に、蓄熱材収容ユニット70を構成する蓄熱材封入パック1の作製工程について、
図5を用いて説明する。
図5は、本実施形態に係る蓄熱材収容ユニットの蓄熱材封入パックの作製工程を示すフロー図である。封入袋50は、開口51から蓄熱材封入物2を収容可能な大きさに形成され、柔軟性を有した袋であり、約100℃という高温下でもほとんど収縮しない非変形性と、優れた伝熱性を有し、水等の熱媒体83の浸透を防止できる機能を備えている。封入袋50は、樹脂と金属とを積層した複層構造で、融着可能な材質からなる袋である。
【0054】
具体的には、封入袋50は、本実施形態では、例えば、ポリエチレン(PE:polyethylene)、ポリプロピレン (PP:polypropylene)、ポリエチレンテレフタラート(PET:polyethylene terephthalate)等、少なくともいずれかの材質を含むフィルム状の樹脂を用い、この樹脂フィルムの外側に、アルミニウムを蒸着した二層以上の構造を持つラミネート袋であり、厚さ約0.05〜0.15mmで長方形に形成された包装用袋等である。この封入袋50は、大きさの異なる袋を2枚1組として、入れ子のように、二重(第1封入袋50A、第2封入袋50B)に包み込んだ二重袋構造で用いられる。内側となる第1封入袋50Aは、縦さ21.5cm×横14.8cmの長方形の袋であり、外側の第2封入袋50Bは、縦さ25.0cm×横17.3cmの長方形の袋である。封入袋50は、その外形輪郭をなす外周縁の三辺に、融着により封止された1cm程の融着部54と、外周縁の残り一辺に、蓄熱材封入物2を収容するための開口51とを有している。
【0055】
なお、封入袋50の最も外側にある面に、この面に垂設された突起が、高さ数mm程度、複数箇所に設けられていても良い。但し、本実施形態のように、複数の封入袋50を重ね合わせて用いる場合には、このような突起は、第2封入袋50Bのように、最も外側となる封入袋50に配設すればよい。後述する蓄熱材封入パック1において、隣り合う蓄熱材封入パック1の第2封入袋50Bの伝熱面5同士の接触を抑制するためである。
【0056】
図5中、(a)に示す蓄熱材封入物2は、開口51を通じて第1封入袋50A(封入袋50)内に収容される(
図5中、(b))。その後、
図5中、(c)に示すように、周知の真空脱気シーラにより、第1封入袋50A内を吸引しながら脱気すると同時に、第1封入袋50Aの開口51を幅1cm程融着した封止部52(なお、
図5(c)及び
図5(e)では、作図の都合上、吸引と融着とが別々の工程のように図示されているが、実際には、封入袋50内の真空引きと、封止部52全面の熱融着は同時に進行している。)で、第1封入袋50Aを完全に封止する(
図5中、(d))。このとき、蓄熱材封入物2の漏洩防止用内袋40が、収縮した第1封入袋50Aに密着した状態になるまで、吸引を行って第1封入袋50Aの開口51を封止する。これにより、蓄熱材封入物2を第1封入袋50Aに内包した蓄熱材封入プレパック1Aが作製される。すなわち、蓄熱材封入プレパック1Aでは、第1封入袋50Aは、その外形輪郭をなす外周縁四辺のうち、三辺の融着部54と、外周縁の残り一辺の封止部52を含んでおり、第1封入袋50Aの外周縁全辺が、幅1cm程融着されている。
【0057】
次に、作製した蓄熱材封入プレパック1Aは、開口51を通じて、第1封入袋50Aとは別の第2封入袋50B(封入袋50)内に収容される。この後、
図5中、(e)に示すように、再び真空脱気シーラにより、第2封入袋50B内を吸引しながら脱気すると同時に、第2封入袋50Bの開口51(
図5中、(b)参照)を幅1cm程融着した封止部52で、第2封入袋50Bを完全に封止する(
図5中、(f))。このとき、蓄熱材封入プレパック1Aが、収縮した第2封入袋50Bに密着した状態になるまで、吸引を行って第2封入袋50Bの開口51を封止する。かくして、潜熱蓄熱槽80内に収容する態様として、蓄熱材封入物2を内包した漏洩防止用内袋40を、二重袋構造の封入袋50(第1封入袋50A、第2封入袋50B)で覆った蓄熱材封入パック1が、作製される。
【0058】
すなわち、潜熱蓄熱材組成物3は、2つの(第1封入袋50A、第2封入袋50B)により、入れ子のように、二重に重ね合わせた状態の下で、収容されている。また、蓄熱材封入パック1では、第2封入袋50Bは、その外形輪郭をなす外周縁四辺のうち、三辺の融着部54と、外周縁の残り一辺の封止部52を含んでおり、第2封入袋50Bの外周縁全辺が、幅1cm程融着されている。
【0059】
なお、実施形態では、蓄熱材封入物2を内包した漏洩防止用内袋40を、二重袋構造の封入袋50で包み込んだが、漏洩防止用内袋40を包む封入袋50は、二重袋構造以外にも、1枚だけの封入袋50による一重袋構造のほか、三重袋構造、それ以上に封入袋50を多重に重ね合わせても良い。すなわち、潜熱蓄熱材10や潜熱蓄熱材組成物3を内包した漏洩防止用内袋40を、さらに包み込む蓄熱材収容具は、単数の蓄熱材収容具による単層の状態、または、複数の蓄熱材収容具により、入れ子のように、多重に重ね合わせた複層の状態になっていれば良い。
【0060】
次に、蓄熱材収容ユニット70について、
図3、
図6及び
図7を用いて説明する。
図3は、本実施形態の実施例1に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法に対応した潜熱蓄熱材ユニットを模式的に示す説明図である。
図6は、実施例1に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法であるときの蓄熱材封入パックの断面を示す模式図である。
図7は、実施例1に係る潜熱蓄熱材ユニット内に収容された蓄熱材封入パックの状態を模式的に示す説明図である。
【0061】
蓄熱材収容ユニット70は、バスケット71(ガイド手段)と、80個の蓄熱材封入パック1とからなる。バスケット71は、本実施例1では、ステンレス鋼製の網かごであり、外形が直方体(縦22cm×横16cm×高さ100cm)で、底部74の四辺に沿って立設する4つの側部73を有し、底部74と4つの側部73に囲まれた内部空間72を具備している。底部74と各側部73は、例えば、数〜数十mmの比較的大きな目開きを有する網状に形成され、本実施例1のようなステンレス鋼製の金網のほか、樹脂製の網等で、水等の熱媒体83に耐腐食性を有した材質からなり、バスケット71では、底部74と各側部73とが、図示しないリブ等により、補強されている。
【0062】
内部空間72に潜熱蓄熱材組成物3を収容した状態にある蓄熱材封入パック1は、水平方向Hに沿う厚みtの変化を許容範囲内に制限するバスケット71の各側部73により、拘束された状態で、かつ配置姿勢を維持した状態で、熱媒体83の中に収容されている。変化する厚みt(
図7参照)の許容範囲として、バスケット71に配置したときの初期状態にある蓄熱材封入パック1の厚みt0を基準に、膨らんだ厚みt1は、例えば、初期状態の厚みt0の3倍までの範囲等にあることが望ましい。
【0063】
すなわち、バスケット71の内部空間72には、80個の蓄熱材封入パック1が、上下3段に分けて収容でき、本実施形態では、下2段を各27個、上段26個が、
図3に示すように、上下に交差した状態で、積み重ねて内部空間72に収容される。各段でそれぞれ、両端に位置する蓄熱材封入パック1は、第2封入袋50Bの融着部54を、多少変形させた状態でバスケット71の3面側の側部73に押圧して保持されており、両端の間に挟まれた蓄熱材封入パック1は、第2封入袋50Bの融着部54を、多少変形させた状態でバスケット71の対向面側の側部73に押圧して保持されている。何れの蓄熱材封入パック1でも、隣り合う蓄熱材封入パック1の伝熱面5同士が、間隙Kを挟んで離れており、蓄熱材封入パック1の伝熱面5が熱媒体83と接触可能な状態になっている。
【0064】
そのため、熱媒体83が、潜熱蓄熱槽80内を、例えば、鉛直方向V下方に向けて流れるとき、熱媒体83は、各蓄熱材封入パック1の伝熱面5に沿って流れ、熱媒体83と、蓄熱材封入パック1内の潜熱蓄熱材組成物3(潜熱蓄熱材10)との間で、熱伝導ができる。なお、隣り合う蓄熱材封入パック1の伝熱面5同士を、間隙Kを挟んで離間させるために、蓄熱材封入パック1の伝熱面5同士の間に、スペーサを配設しても良い。
【0065】
バスケット71に収容された状態の蓄熱材封入パック1では、潜熱蓄熱材組成物3が、液相状態になると、
図6に示すように、潜熱蓄熱材組成物3は、自重により封入袋50内の下方部に移動し、その上方部に、厚みd1(0≦d1)の空隙部4が生じる。
【0066】
ここで、潜熱蓄熱槽80において、熱媒体83の上方位置から鉛直方向V下方に向けて投影したときに、蓄熱材封入パック1内の潜熱蓄熱材組成物3の断面積を、鉛直側断面積Svとし、熱媒体83を通じて水平方向Hに向けて投影したときに、蓄熱材封入パック1内の潜熱蓄熱材組成物3の断面積を、水平側断面積Shとする。実施例1に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法は、蓄熱材封入パック1内に収容された状態にある潜熱蓄熱材組成物3では、
Sv<Sh ・・・式(1)
式(1)の条件を満たしている。つまり、空隙部4は必然的に生じてしまうが、その空隙部4と蓄熱材封入パック1の側面(
図6中、左右の側面)との接触面積は、蓄熱材封入パック1の側面全体の面積の一部に過ぎない。
【0067】
次に、増粘剤22について説明する。前述したように、増粘剤22として用いるマンニトール20(添加剤20)は、融点調整剤21も兼ねている。添加剤20は、潜熱蓄熱材10との溶解で、負の溶解熱を発生する物性を有する物質からなり、糖アルコールに属する物質である。
【0068】
ここで、「負の溶解熱を発生する物性を有する物質」の定義について、説明する。前述したように、潜熱蓄熱材組成物3は、アンモニウムミョウバン(硫酸アンモニウムアルミニウム・12水和物)からなる潜熱蓄熱材10を主成分に、増粘剤22と融点調整剤21も兼ねた添加剤20(マンニトール20)を配合してなる。添加剤20が潜熱蓄熱材10に溶解するとき、この添加剤20において、外部から熱を吸収して吸熱反応が生じるものを、本実施形態に係る潜熱蓄熱材組成物3では、「負の溶解熱を発生する物性を有する物質」と定義している。
【0069】
「負の溶解熱を発生する物性を有する物質」には、例えば、エリスリトールやキシリトールのほか、マンニトール(C
6H
14O
6)、ソルビトール(C
6H
14O
6)、ラクチトール(C
12H
24O
11)等の「糖アルコール類に属する物質」がある。また、塩化カルシウム六水和物(CaCl
2・6H
2O)、塩化マグネシウム六水和物(MgCl
2・6H
2O)、塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)等の「塩化物に属する物質」がある。また、上述の「糖アルコール類に属する物質」に該当する物質のうち、少なくとも一種以上を含む場合や、上述の「塩化物に属する物質」に該当する物質のうち、少なくとも一種以上含む場合も該当する。さらに、上述の「糖アルコール類に属する物質」に該当する物質のいずれかと、上述の「塩化物に属する物質」に該当する物質のいずれかとの混合物もある。
【0070】
本実施形態の実施例1では、潜熱蓄熱材組成物3全体の重量に占める配合比率として、マンニトール(C
6H
14O
6)の配合比率は、10wt%以下の範囲内である。マンニトールが、潜熱蓄熱材組成物3全体の重量に対し、例えば、8wt%の配合比率で、アンモニウムミョウバン(潜熱蓄熱材10)に添加されると、潜熱蓄熱材組成物3の融点は、約90℃になる。
【0071】
なお、融点調整剤21は、「負の溶解熱を発生する物性を有する物質」に該当する物質以外に、例えば、無水硫酸ナトリウム(Na
2SO
4)等であっても良い。無水硫酸ナトリウムは、融点884℃の物性で、常温では固体の物質である。潜熱蓄熱材組成物3全体の重量に占める無水硫酸ナトリウムの配合比率は、10wt%以下の範囲内であり、無水硫酸ナトリウムが、例えば、2〜5wt%の配合比率で、潜熱蓄熱材10(アンモニウムミョウバン)に添加されていると、潜熱蓄熱材組成物3の融点は、約90℃になる。
【0072】
また、本実施形態の実施例1の変形例に係る増粘剤22について、説明する。増粘剤22は、多糖類に属する水溶性の物質であり、潜熱蓄熱材組成物3に含まれる水とカチオンとの相互作用に基づいて、液相状態にある潜熱蓄熱材組成物3の融液の粘度を高める物質であり、ヘテロ多糖(hetero polysaccharide)に属する水溶性のゲランガム相当物質である。ゲランガム相当物質については、後述する。
【0073】
具体的に説明する。増粘剤22は、本実施形態では、ゲランガム(gellan gum)(別名:ゲラン、ポリサッカライドS−60)の一種であるLAゲランガム(Low acyl gellan gum)である。ゲランガムは、下記の化学構造に示すように、単糖を直鎖状に連結したポリマーによる高分子化合物である。潜熱蓄熱材組成物3全体の重量に占めるLAゲランガムの配合比率は、1wt%以下の範囲内である。
【0075】
LAゲランガムは、単糖を直鎖状に連結したポリマーによる高分子化合物であり、多糖類に属する。ポリマーの基質となる単量体(モノマー)は、2つのD−グルコース残基と、1つのD−グルクロン酸残基と、1つのL−ラムノース残基とにより、計3種で4つの糖分子からなる。LAゲランガムは、常温下において結晶性粉末状であり、LAゲランガムが約85℃以上の温度で、水に溶解して分散する。水に分散したLAゲランガムが、約85℃未満に冷却されると、それまでランダムコイル状の構造だったものから、二重の螺旋構造に変化する。さらに、このような二重螺旋構造になったゲランガムに、外部からカチオンの供給を受けると、LAゲランガムは、酸性及び中性の液体中で、二重の螺旋構造が会合したネットワーク構造を形成し、透明度の高いゲルを形成する。
【0076】
すなわち、LAゲランガムに、カチオンが外部から供給されると、LAゲランガムのD−グルクロン酸残基において、負の電荷を帯びた官能基であるカルボキシ基(carboxy group)(化学構造では、「COO
−」と表記)と、正の電荷を帯びたカチオン(陽イオン)(同じく、「M
+」と表記)とが、互いに引き寄せ合う静電相互作用が生じる。このとき、カチオンが1価の場合、カチオンの正電荷と、LAゲランガムのカルボキシ基上の負の電荷とが、互いに打ち消し合い、二重の螺旋構造を形成するLAゲランガム同士の静電反発が、解消される。さらに、これらの二重螺旋構造は、当該二重螺旋構造に含まれる酸素原子と水素原子との間で相互に作用する水素結合により、会合する。また、カチオンが2価の場合には、各二重螺旋構造に含まれる負の電荷を帯びたカルボキシ基(「COO
−」)が、正の電荷を有するカチオン(「M
2+」)との静電相互作用を介して架橋されることで、これらの二重螺旋構造は、互いに会合する。このような会合により、カチオンが供給されたLAゲランガムは、ゲル化する。
【0077】
ゲランガム相当物質とは、このようなLAゲランガムに相当する物質として、単一種または複数種に関わらず、糖分子を複数連結してなる高分子化合物を対象に、構成する糖分子に、例えば、カルボキシ基等のように、親水基を有することで、高分子化合物に水溶性を付与し、かつ水中で電離して負の電荷を帯びる官能基を有し、水との共存下において、外部から供給されるカチオンとこの官能基との間で、静電相互作用の形成を可能とする物質が該当する。また、LAゲランガムの物性と同等な物性として、水溶性を有し、分子内の官能基同士の相互作用によって、少なくとも螺旋構造等の三次元構造を形成する性質を持ち、水との共存下において、外部から供給されるカチオンと官能基との静電相互作用により、これらの螺旋構造が会合し、ネットワーク構造を形成してゲル化を促す特性が該当する。本実施形態に係る潜熱蓄熱材組成物3では、LAゲランガムのほか、このような特性を具備した物質を対象に、「ゲランガム相当物質」と定義している。
【0078】
増粘剤22は、LAゲランガム以外にも、ゲランガム相当物質の一例として、HAゲランガムでも良い。HAゲランガム(High acyl gellan gum)は、ゲランガムの一種であり、LAゲランガムに有する2つのD−グルコース残基のうち、一方のD−グルコース残基において、2つのヒドロキシ基(「OH」)の水素原子(「H」)を、別の置換基に置き換えた構造である。HAゲランガムの場合、HAゲランガムが約90℃以上に加熱されると、HAゲランガムAは、水に溶解して分散する。なお、水に分散したHAゲランガムが、約90℃未満に冷却されてゲル化するときには、ゲル化を促進する上で、カチオンの存在は必須ではない。但し、カチオンが、一定の範囲内において、高い濃度で存在する場合には、ゲル組織の強度は高くなる。
【0079】
<比較例1>
比較例1に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法について、実施例1に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法と異なる点だけを挙げて説明する。なお、説明の中で、本実施形態の実施例2に係る蓄熱材の容器内封入方法の内容と重複する部分は、省略または簡潔化する。
【0080】
<潜熱蓄熱材組成物3の作製方法>
比較例1に係る蓄熱材の容器内封入方法の概要について、
図9を用いて簡単に説明する。
図9は、比較例1に係る蓄熱材収容ユニットに具備した潜熱蓄熱材組成物の作製工程を示すフロー図である。潜熱蓄熱材組成物3を生成するにあたり、潜熱蓄熱材10であるアンモニウムミョウバン水和物10の粉末を90g、融点調整剤21である無水硫酸ナトリウム(Na
2SO
4)の粉末を2g、増粘剤22であるマンニトールの粉末を8g、それぞれ秤量し、これらを採取する。アンモニウムミョウバン水和物10は、粒子を平均1mm程度の大きさに粉砕した粉末状である。融点調整剤21と増粘剤22とは何れも、粒子を平均数百μm程度の大きさに粉砕した粉末状である(
図9中、(a))。
【0081】
これらのアンモニウムミョウバン水和物10と、融点調整剤21と、増粘剤22とが、万遍に撹拌され、これらの混合物が、複数の漏洩防止用内袋40内にそれぞれ、開口41を通じて投入され、小分けされる(
図9中、(b))。漏洩防止用内袋40は、本実施形態では、例えば、縦25cm×横15cmの長方形で、厚さ0.02mm程度の薄いポリエチレン(PE:polyethylene)製の包装用袋等である。これにより、潜熱蓄熱材組成物3が各漏洩防止用内袋40内で生成される。そして、漏洩防止用内袋40の開口41は、開口41側の折返し部42を折り畳むことにより閉塞され(
図9中、(c))、この状態の漏洩防止用内袋40を封入袋50内に収容し、封入袋50の開口を融着することにより、封入袋50が封止される。折返し部42を折り畳んだ後の漏洩防止用内袋40は、縦9.5cm×横15cmの長方形である。かくして、潜熱蓄熱材組成物3が漏洩防止用内袋40内で生成され、潜熱蓄熱材組成物3を漏洩防止用内袋40内に収容した蓄熱材封入物2が作製される。
【0082】
蓄熱材封入パック1の作製工程については、
図5に示すように、実施例1と同じであり、作製された蓄熱材封入物2を、二重袋構造の封入袋50(第1封入袋50A、第2封入袋50B)で覆うことで、蓄熱材封入パック1が作製される。
【0083】
次に、蓄熱材収容ユニット70Aについて、
図1、
図8、
図10及び
図11を用いて説明する。
図8は、比較例1に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法に対応した潜熱蓄熱材ユニットを模式的に示す説明図である。
図10は、比較例1に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法であるときの蓄熱材封入パックの断面を示す模式図である。
図11は、比較例1に係る潜熱蓄熱材ユニット内に収容された蓄熱材封入パックの状態を模式的に示す説明図である。
【0084】
蓄熱材収容ユニット70Aは、バスケット71Aと、80個の蓄熱材封入パック1とからなる。バスケット71Aは、本比較例1では、ステンレス鋼製の網かごであり、外形が直方体(縦19cm×横13cm×高さ100cm)で、底部74Aの四辺に沿って立設する4つの側部73Aを有し、底部74Aと4つの側部73Aに囲まれた内部空間72Aを具備している。底部74Aと各側部73Aは、例えば、数〜数十mmの比較的大きな目開きを有する網状に形成され、ステンレス鋼製の金網等、水等の熱媒体83に耐腐食性を有した材質からなる。
【0085】
バスケット71Aの内部空間72Aには、80個の蓄熱材封入パック1が、伝熱面5を水平方向Hに横たわらせた状態で、80段に積み重ねて内部空間72Aに収容される。80個の蓄熱材封入パック1ではそれぞれ、バスケット71の4つ全ての側部73に、第2封入袋50Bの融着部54と封止部52とを多少変形させた状態で保持されている。潜熱蓄熱材組成物3入りの蓄熱材封入パック1が、横向きの姿勢で複数段に積み重ねて配置されていると、積み重なっている潜熱蓄熱材組成物3入りの蓄熱材封入パック1の伝熱面5同士が密着してしまい、水等(熱媒体)83が伝熱面に十分に流れず、このことが、熱伝導の効率低下の一因を招いている。
【0086】
バスケット71Aに収容された状態の蓄熱材封入パック1では、潜熱蓄熱材組成物3が、液相状態になると、
図6に示すように、潜熱蓄熱材組成物3は、自重により封入袋50内の下方部に移動し、その上方部に、厚みd2(0≦d2)の空隙部4が生じる。
【0087】
潜熱蓄熱槽80では、潜熱蓄熱材組成物3の状態は、鉛直側断面積Sv>水平側断面積Shとなり、比較例1に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法は、蓄熱材封入パック1内に収容された状態にある潜熱蓄熱材組成物3では、
Sv<Sh ・・・式(1)
式(1)の条件は満たしていない。つまり、蓄熱材封入パック1内に混入した空気は、封入袋50の上面全体に接した幅広な空隙部4を形成している。幅広な空隙部4が生じると、封入袋50を介して、熱媒体83から潜熱蓄熱材組成物3(潜熱蓄熱材10)に蓄熱するときや、潜熱蓄熱材10から熱媒体83に放熱するときに、空隙部4で熱伝導を遮る割合が増えてしまい、熱伝導の低下を招いてしまう。
【0088】
次に、実施例1に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法と、比較例1に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法とを対比して、潜熱蓄熱材組成物3(潜熱蓄熱材10)における蓄熱量と放熱量とに関し、それぞれの挙動の違いを確認する検証実験1を行った。その検証実験1について、説明する。
【0089】
<実施例1と比較例1との共通条件>
・検証実験1では、前述した実施例1に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法による潜熱蓄熱材組成物3の状態(実施例1の試料)と、前述した比較例1に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法による潜熱蓄熱材組成物3の状態(比較例1の試料)を用いてそれぞれ、蓄熱試験と放熱試験とを行った。
・検証実験1では、潜熱蓄熱槽80はタンク容量160Lである。
・蓄熱材封入パック1で、封入袋50内に封入した潜熱蓄熱材組成物3は100gである。
・潜熱蓄熱槽80内に、実施例1では蓄熱材収容ユニット70を、比較例1では蓄熱材収容ユニット70Aを、熱媒体83である水に浸漬させ、実施例1と比較例1とも、水位を100cmとした。
・さらに実施例1と比較例1とも、潜熱蓄熱槽80内の水に、流動パラフィンを1.5L(潜熱蓄熱槽80の深さで1cm相当分)加えることにより、流動パラフィンによる層を水面上に形成し、潜熱蓄熱槽80内から水分の蒸発を防止した。実際に別の実験で、2日間、90℃に保持された温水に流動パラフィン層を形成した場合でも、流動パラフィン層により温水の水位に変動はなく、水分の蒸発はないことが確認できている。
【0090】
<蓄熱試験>
・蓄熱試験では、潜熱蓄熱槽80の外部に、電気ヒータ(前述した第1熱交換器に相当)と冷水との間で熱を交換する熱交換器(前述した第2熱交換器に相当)を直列に配管した管路で、熱媒体83である温水をポンプにより循環させ、熱交換器には冷水を流さず、温水を、電気ヒータにより設定温度の80℃まで昇温して、この温度に保持させた。
・その後、この電気ヒータの設定温度を90℃に変更し、水温を80℃から90℃に昇温し、蓄熱材封入パック1内の潜熱蓄熱材組成物3に蓄熱を行った。このとき、ポンプで循環させる温水の流量は、7.5L/min.で一定とした。
【0091】
<放熱試験>
・放熱試験では、電気ヒータと冷水との間で熱を交換する熱交換器を直列に配管した上述の管路で、潜熱蓄熱槽80の温水をポンプにより循環させ、電気ヒータの設定温度を80℃とした上で、熱交換器に冷水を通じることにより、潜熱蓄熱槽80内の温水を、90℃から80℃まで低下させ、蓄熱材封入パック1内の潜熱蓄熱材組成物3で放熱を行った。このとき、ポンプで循環させる温水の流量は、7.5L/min.で一定とした。
【0092】
<実験の評価方法>
・蓄熱試験では、実施例1と比較例1とにおいて、潜熱蓄熱材組成物3(潜熱蓄熱材10)の蓄熱量が、300kJ/Lに到達するまでの所要時間を求めた後、蓄熱速度を算出した。
・そして、実施例1と比較例1との対比により、蓄熱速度に差異があるか否かを調べ、蓄熱速度の違いにより、実施例1の有意性の有無を確認した。
・放熱試験では、実施例1と比較例1とにおいて、潜熱蓄熱材組成物3(潜熱蓄熱材10)の放熱量が、300kJ/Lに到達するまでの所要時間を求めた後、放熱速度を算出した。
・そして、実施例1と比較例1との対比により、放熱速度に差異があるか否かを調べ、放熱速度の違いにより、実施例1の有意性の有無を確認した。
【0093】
<蓄熱速度・放熱速度の算出方法>
蓄熱速度の算出と放熱速度の算出にあたり、次の式(2)を用いた。なお、式(2)では、潜熱蓄熱材組成物3(潜熱蓄熱材10)を、「PCM」と略記している。
【0095】
但し、式(2)では、
H
PCM[kJ/L]:PCMの蓄熱密度、またはPCMの放熱密度
ρ
PCM[kg/L]:PCMの密度
M
PCM[kg]:潜熱蓄熱槽(160L)へのPCMの充填量
t[s]:測定開始からの時刻
Cp
w[kJ/kg・K]:水の定圧比熱
ρ
W[kg/L]:水の密度
Q
w[L/s]:循環温水の流量
T
in[℃]:潜熱蓄熱槽への循環温水の流入温度
T
out[℃]:潜熱蓄熱槽からの循環温水の流出温度
K[kJ/K]:槽内温水と潜熱蓄熱槽外面の間の総括伝熱係数
T
av[℃]:潜熱蓄熱槽内の平均水温
T
air[℃]:外気温
V[L]:潜熱蓄熱槽内充填物の体積合計
α[−]:PCMの袋充填に伴う体積増加率
M
s[kg]:ステンレス鋼製バスケットの重量
ρ
s[kg/L]:ステンレス鋼の密度
Cp
s[kJ/kg・K]:ステンレス鋼の定圧比熱
T
t[℃]:時間tにおける潜熱蓄熱槽内の平均水温
T
0[℃]:潜熱蓄熱槽内の平均水温の初期値
【0096】
式(2)では、
・第一項において、循環温水に対し、流量、潜熱蓄熱槽80の流入口側と流出口側との温度差、密度、比熱より、昇温時の潜熱蓄熱槽80への入熱量、または降温時の潜熱蓄熱槽80からの抜熱量について、熱量の総量を算出した。
・第二項において、潜熱蓄熱槽80の平均水温と外気温の差より、潜熱蓄熱槽80の側壁面からの放熱ロスの総量を求めた。但し、潜熱蓄熱槽80内で、温水の水面に浮かべた流動パラフィンにより、潜熱蓄熱槽80内の温水の蒸発は抑止できているため、温水蒸発による影響は無視した。
・第三項において、潜熱蓄熱槽80の温水と、ステンレス鋼製のバスケット71,71Aの顕熱の蓄熱量、またはその顕熱の放熱量を演算した。
・そして、第一項の演算結果から、第二項の演算結果と第三項の演算結果とを、減算処理することで、PCMの蓄熱密度、またはPCMの放熱密度を導出した。
【0097】
<実験結果>
図12は、実施例1に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法で収容された潜熱蓄熱材組成物に対し、その潜熱蓄熱材組成物1L当たりの蓄熱量と時間との関係を調査した検証実験1で、試料の蓄熱量の測定結果を示したグラフである。
図13は、
図12に続き、同じ試料による放熱量の測定結果を示すグラフである。
図14は、潜熱蓄熱材組成物1L当たりの蓄熱量と時間との関係を調査した検証実験1で、比較例1に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法で収容された潜熱蓄熱材組成物に対し、その蓄熱量の測定結果を示したグラフである。
図15は、
図14に続き、同じ試料による放熱量の測定結果を示すグラフである。
図16は、検証実験1及び検証実験2に関し、実施例1に係る試料と、比較例1に係る試料との対比による蓄熱速度・放熱速度の結果をまとめた表である。なお、
図12〜
図16では、潜熱蓄熱材組成物3(潜熱蓄熱材10)を、「PCM」と略記している。
【0098】
図12〜
図16に示すように、蓄熱速度は、実施例1と比較例1とも、15.0[W/L]で同じで、実施例1と比較例1では、蓄熱速度に差異はなかった。また、実施例1の放熱速度は、21.4[W/L]であり、比較例1の放熱速度8.6[W/L]の約2.5倍も早かった。
【0099】
<考察>
比較例1では、
図10に示すように、潜熱蓄熱材組成物3が、鉛直側断面積Svが水平側断面積Shより大きくなる縦向きの姿勢で潜熱蓄熱槽80内に収容されているため、蓄熱完了時に潜熱蓄熱材組成物3の融液の一部が、封入袋50の下方に偏り、潜熱蓄熱材組成物3の上部には、封入袋50内に混入していた空気により、幅広な空隙部4が形成されてしまう。この幅広な空隙部4は、蓄熱材封入パック1(封入袋50)の伝熱面5の一面側全域に接触して、温水(熱媒体83)への放熱時に、伝熱が著しく悪化したため、実施例1に比べ、放熱速度は低下したものと考えられる。
【0100】
これに対し、実施例1では、
図6に示すように、潜熱蓄熱材組成物3が、鉛直側断面積Svが水平側断面積Shより小さくなる縦向きの姿勢で潜熱蓄熱槽80内に収容されているため、空隙部4と蓄熱材封入パック1(封入袋50)の側面(伝熱面5)との接触面積は、蓄熱材封入パック1の側面全体の面積の一部に過ぎない。また、潜熱蓄熱材組成物3の融液が、蓄熱完了時に封入袋50の下方に移動し、封入袋50(蓄熱材封入パック1)の厚みが均一でなくなったことで、隣り合う蓄熱材封入パック1の間を、温水が流通できるようになり、放熱速度が向上したものと考えられる。
【0101】
この検証実験1では、潜熱蓄熱材組成物3に対し、1Lあたりの蓄熱速度と、放熱速度を算出して比較したが、潜熱蓄熱槽80に収容した潜熱蓄熱材組成物3は、封入袋50に封入された蓄熱材封入パック1の状態となっている。実施例1に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法の効果と、比較例1に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法の効果の差異について、さらに正確な観点で比較を行うため、次の検証実験2を行った。
【0102】
<検証実験2の条件>
検証実験2は、100gの潜熱蓄熱材組成物3を封入袋50に封入した蓄熱材封入パック1に対し、その1Lあたりの部分において、蓄熱速度や放熱速度と共に、空気混入率を算出して比較するものである。そして、蓄熱速度(または放熱速度)と、空気混入率について、実施例1の場合と比較例1の場合とを、対比した。なお、蓄熱材封入パック1に対し1Lあたりの蓄熱速度(または放熱速度)の算出と、空気混入率は、次述する演算式により基づいて行った。
・蓄熱材封入パック1に対し1Lあたりの蓄熱速度(または放熱速度)=潜熱蓄熱材組成物3に対し1Lあたりの蓄熱速度(または放熱速度)/潜熱蓄熱材組成物3を100g封入した蓄熱材封入パック1の体積/100gの潜熱蓄熱材組成物3の体積
・空気混入率[%]=100×(封入袋50の容積−潜熱蓄熱材組成物3)/封入袋50の容積
【0103】
封入袋50の容積を求めるのにあたり、潜熱蓄熱材組成物3を封入袋50に封入した蓄熱材封入パック1を水槽内に浸漬し、水位上昇量に基づいて、全体の体積を算出した。そして、封入袋50を構成する樹脂などの材料で占める体積を、その算出結果から減算処理して封入袋50の容積を求めた。
【0104】
<検証実験2の結果>
図16に示すように、蓄熱速度では、実施例1の蓄熱速度は、9.1[W/L]であり、比較例1の放熱速度7.9[W/L]の約1.2倍も早かった。また、実施例1の放熱速度は、13.0[W/L]であり、比較例1の放熱速度4.5[W/L]の約2.9倍も早かった。また、100gの潜熱蓄熱材組成物3を封入袋50に封入した場合には、比較例1では、空気混入率が40.3%であった。実施例1では、空気混入率が25.9%であった。なお、200gの潜熱蓄熱材組成物3を封入袋50に封入した場合では、実施例1による空気混入率は1.8%であった。
【0105】
<検証実験2の考察>
実施例1では、潜熱蓄熱材10の作製時に、焼アンモニウムミョウバン(AlNH
4(SO
4)
2)粒子の間に、マンニトール水溶液30が侵入することで、粒子間にあった空気を外部に出すことができるため、実施例1の場合の空気混入率が、比較例1の場合に比して、低くなるものと考えられる。
【0106】
さらに本出願人は、上述した検証実験2の結果とは別に、潜熱蓄熱材組成物3における過冷却現象についても、調査を行った。その調査によると、検証実験2で、空気混入率25.9%だった実施例1では、過冷却現象は生じていなかった。本出願人はこれまで、検証実験2と同じ方法で算出した空気混入率に対し、25%程度(封入袋内の潜熱蓄熱材組成物3の充填率75%程度)より少なければ、過冷却現象の発生を抑えることができるとの知見を持っていたが、この検証実験2を通じて、その知見を立証することができた。
【0107】
<蓄熱材封入パックの厚みの確認調査>
次に、潜熱蓄熱槽80で使用した蓄熱材収容ユニット70内の蓄熱材封入パック1(縦22cm×横16cmで、縦22cmの辺を上下方向に配置)を、潜熱蓄熱槽80から取り出し、80個の蓄熱材封入パック1の中から、任意に10個の蓄熱材封入パック1を抽出して、これらの厚みを実測する確認調査を行った。
図17は、実施例1に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法により配設された蓄熱材封入パックを対象とした確認調査で、蓄熱材封入パックの厚みを測定する部位を模式的に示した説明図である。
【0108】
<測定方法>
・抽出した10個の蓄熱材封入パック1(サンプル)について、
図17に示すように、上端から3cmの位置にある位置P、下端から3cmの位置にある位置R、及び位置Pと位置Rの中央部の位置にある位置Qで、蓄熱材封入パック1の厚みtをノギスで測定した。
【0109】
<測定結果>
図18は、確認調査で蓄熱材封入パックの厚みの測定結果をまとめた表である。
図18に示すように、各サンプルとも、蓄熱材封入パック1の中央部の厚みや、下方部の厚みが、上方部の厚みより厚くなっていた。
【0110】
<考察>
測定結果より、変化した厚みの程度の差は、サンプル毎にあるが、何れのサンプルでも、潜熱蓄熱材組成物3が加熱され、液相状態になったとき、潜熱蓄熱材組成物3の融液の一部が、封入袋50の下方に移動したことにより、蓄熱材封入パック1の中央部や下方部で、厚みが増加したものと、推察される。このように、蓄熱材封入パック1のそれぞれで、厚みが不均一になったことで、
図7に示すように、隣り合う蓄熱材封入パック1の伝熱面5に、間隙Kが形成され易く、熱媒体83がこの間隙Kを流通し易くなる。そのため、間隙Kを流通する熱媒体83が、隣り合う蓄熱材封入パック1の伝熱面5に接触して、熱伝導を行う伝熱性能が、より一層向上する要因の一つになっているものと考えられる。
【0111】
次に、本実施形態の潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法、及び潜熱蓄熱槽80の作用・効果について説明する。本実施形態の潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法は、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材10を、封入袋50の内部に密閉し、潜熱蓄熱材10により、潜熱蓄熱槽80内の熱媒体83との間で封入袋50を介して熱の移動を行うのにあたり、潜熱蓄熱材10が封入袋50内に収容された状態にあるときの潜熱蓄熱材10の配置態様である潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法において、液相状態にある潜熱蓄熱材10の融液の粘度を高める増粘剤22が配合され、封入袋50内には、潜熱蓄熱材10と増粘剤22とを含む潜熱蓄熱材組成物3が収容されている。封入袋50内の潜熱蓄熱材組成物3を、熱媒体83の上方位置から鉛直方向V下方に向けて投影したときの潜熱蓄熱材組成物3の断面積を、鉛直側断面積Svとし、熱媒体83を通じて水平方向Hに向けて投影したときの潜熱蓄熱材組成物3の断面積を、水平側断面積Shとすると、封入袋50内に収容された状態にある潜熱蓄熱材組成物3では、Sv<Sh・・・式(1) 式(1)の条件を満たしていること、潜熱蓄熱材組成物3を収容した状態にある封入袋50(蓄熱材封入パック1)は、水平方向Hに沿う厚みtの変化を許容範囲内に制限するバスケット71により、拘束された状態で、かつ配置姿勢を維持した状態で、熱媒体83の中に収容されていること、を特徴とする。この特徴により、潜熱蓄熱材組成物3が融液の状態になったときに、
図6及び
図7に示すように、潜熱蓄熱材組成物3の融液が、蓄熱完了時に封入袋50の下方に移動し、封入袋50(蓄熱材封入パック1)の厚みtが、その上側でt0、下側でt1(t0<t1)と、上下で均一ではないため、熱媒体83は、隣り合う蓄熱材封入パック1の間を流通し易くなる。
【0112】
しかも、
図18に示すように、膨張した蓄熱材封入パック1の態様は、各蓄熱材封入パック1毎に異なっているため、たとえ膨張部分で局部的に接触したとしても、その接触面積は、比較的小さく抑えることができる。また、潜熱蓄熱材組成物3を封入袋50内に収容した蓄熱材封入パック1が、
図3に示すように、縦置き姿勢で潜熱蓄熱槽80に配されても、潜熱蓄熱材組成物3の融液では、増粘剤22により、構成成分を均一に分散した状態が維持できている。そのため、潜熱蓄熱材組成物3が、液相と固相との間で相変化を繰り返し行っても、構成成分の分布を均一に保つことができている。ひいては、潜熱蓄熱材組成物3の融点・凝固点等の物性が変動するのを抑制することができる。
【0113】
勿論、蓄熱材封入パック1が、潜熱蓄熱槽80内に縦向きの姿勢で配置されていれば、蓄熱材封入パック1の側面が熱媒体83との伝熱面5になり、蓄熱材封入パック1の上部側に、
図6に示すような幅狭な空隙部4は形成される。しかしながら、同じ蓄熱材封入パック1の対比(
図10参照)で、その空隙部4の容積は変化しないものの、空隙部4と蓄熱材封入パック1の側面との接触面積は、蓄熱材封入パック1の側面全体の面積の一部に過ぎない。そのため、
図3及び
図6に示すような縦向きの姿勢は、
図8及び
図10に示すように、複数の蓄熱材封入パック1を積み重ねた横向きの姿勢の場合に比べ、自重により蓄熱材封入パック1の伝熱面5同士の接触を緩和でき、熱伝導の低下を抑制することができている。
【0114】
従って、本実施形態に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法によれば、蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材10が封入袋50の内部に収容され、封入袋50を介して、潜熱蓄熱槽80内の熱媒体83と潜熱蓄熱材10との間で熱伝導を行うのにあたり、潜熱蓄熱材10の蓄放熱性能を維持しながら、熱伝導を効率良く行うことができる、という優れた効果を奏する。
【0115】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法では、封入袋50は、樹脂と金属とを積層した複層構造で、融着可能な材質からなる袋であり、当該封入袋50の外形輪郭をなす外周縁の全てに、融着により封止された融着部54を有していること、を特徴とする。この特徴により、蓄熱材封入パック1全体の剛性が、4辺の融着部54(そのうちの一辺は封止部52)によって増強される。また、融着部54より内側にある蓄熱材封入パック1の伝熱面5は、封入袋50の四方の融着部54で包囲されているため、潜熱蓄熱材組成物3の融液が、蓄熱完了時に封入袋50の下方に移動しても、封入袋50(蓄熱材封入パック1)の厚みtは、封入袋50の上方と下方で、極端に大きく変化しない。これにより、隣り合う蓄熱材封入パック1同士で、たとえ膨張部分で接触したとしても、その接触面積は、比較的小さく抑えることができる。また、潜熱蓄熱材組成物3の融液が封入袋50の下方に移動する量を、潜熱蓄熱材組成物3そのものによる伝熱阻害が顕著に発現しない範囲内に、抑制することができる。さらに、また、蓄熱材封入パック1をバスケット71の内部空間72に収容するにあたり、熱伝導に寄与しない融着部54を、多少変形させ、バスケット71の側部73に当接して係留させた状態で、蓄熱材封入パック1を収容すると、蓄熱材封入パック1は、融着部54でバスケット71の側部73にしっかりと保持でき、熱媒体83との接触も確保し易くなる。
【0116】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法では、封入袋50は、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン (PP)、またはポリエチレンテレフタラート(PET)の少なくともいずれかの材質を含むフィルム状樹脂層に、アルミニウムを蒸着したラミネート構造の袋であること、を特徴とする。この特徴により、蓄熱材封入パック1において、全封入袋50の厚みが、例えば、100μm程度であれば、封入袋50での熱伝導の低下がほとんどなく、潜熱蓄熱材組成物3の潜熱蓄熱材10と熱媒体83との間で、潜熱蓄熱材10への蓄熱と、潜熱蓄熱材10からの放熱が十分にできる。また、熱媒体83の温度が100℃近くても、蓄熱材封入パック1の耐熱性は確保できている。また、アルミニウムがフィルム状樹脂層に蒸着された構造になっているため、潜熱蓄熱槽80内の熱媒体83(温水)や、酸素等の気体が、フィルム状樹脂層を通じて潜熱蓄熱材組成物3に接触するのを、アルミニウムの被覆層によって遮断できる。
【0117】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法では、1つの蓄熱材封入パック1につき、潜熱蓄熱材組成物3は、漏洩防止用内袋40とは別に、2枚の封入袋50とにより、入れ子のように、二重に重ね合わせた状態の下で、収容されていること、を特徴とする。この特徴により、万一、蓄熱材封入パック1を潜熱蓄熱槽80の内外で移動させるときや、封入袋50本体の経年劣化等に起因して、潜熱蓄熱材組成物3を覆う封入袋50が損傷した場合でも、封入袋50が二重構造(第1封入袋50A、第2封入袋50B)になっているため、潜熱蓄熱材組成物3の外部への漏洩を防止することができる。
【0118】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法では、バスケット71は、潜熱蓄熱材組成物3を収容した状態にある封入袋50(蓄熱材封入パック1)を複数(実施例1では80個)、蓄熱材封入パック1の伝熱面5で熱媒体83と接触可能な状態で収容可能な内部空間72を有し、内部空間72を包囲する4つの側部73と底部74を、目開きを有するステンレス鋼製の金網状に形成されたものであること、を特徴とする。この特徴により、蓄熱材封入パック1の伝熱面5と熱媒体83との接触を確保した上で、蓄熱材封入パック1内の潜熱蓄熱材組成物3の相変化により、蓄熱材封入パック1に多少の変形が生じても、内部空間72に収容した蓄熱材封入パック1の配置状態が、潜熱蓄熱槽80内でほぼ一定に保持できる。
【0119】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法では、潜熱蓄熱材10は、無機塩水和物(アンモニウムミョウバン12水和物)10からなること、無機塩水和物10に含む水和水を脱離した無水和物11(焼アンモニウムミョウバン11)と、加えた水12とを、漏洩防止用内袋40内で水和反応させることにより、無機塩水和物10を生成し、封入袋50内に封入すること、を特徴とする。この特徴により、無水和物11の漏洩防止用内袋40への充填前、隣接する粉末同士の間にあった間隙は水和反応時に、漏洩防止用内袋40に加えた水12で満たされる。そのため、漏洩防止用内袋40の内容積に対し、潜熱蓄熱材10が実質的に占める体積充填率は、粉末状の無機塩水和物10(アンモニウムミョウバン12水和物)を漏洩防止用内袋40内に直に充填する場合に比べて、大幅に向上する。さらに、間隙の発生を抑えているため、このような場合との対比で、潜熱蓄熱材10と潜熱蓄熱槽80内の熱媒体83との間で、熱伝導に要する時間も短くなり、伝熱性能は高くなる。
【0120】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法では、潜熱蓄熱材10の主成分は、ミョウバン水和物10であること、を特徴とする。この特徴により、例えば、アンモニウムミョウバン12水和物等のようなミョウバン水和物を用いた潜熱蓄熱材10は、相変化に伴う潜熱が比較的大きい物性を有する。そのため、このような物性の潜熱蓄熱材10では、蓄熱できる蓄熱量も比較的大きい。また、ミョウバン水和物である潜熱蓄熱材10を含む潜熱蓄熱材組成物3は、大容量の熱を蓄熱し、それを放熱する蓄放熱性能を具備できている点で、優れている。
【0121】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法では、ミョウバン水和物10は、アンモニウムミョウバン12水和物(AlNH
4(SO
4)
2・12H
2O)、または、カリウムミョウバン12水和物(AlK(SO
4)
2・12H
2O)であること、を特徴とする。この特徴により、アンモニウムミョウバン12水和物やカリウムミョウバン12水和物は、市場で幅広く流通して入手し易く、安価である。
【0122】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法では、増粘剤22は、糖アルコールに属する物質であること、を特徴とする。この特徴により、無機塩水和物10が、アンモニウムミョウバン12水和物等のミョウバン水和物であるため、増粘剤22は無機塩水和物10の構成成分である水に溶解し易く、組成した潜熱蓄熱材組成物3は、化学的に安定している。また、潜熱蓄熱材10の成分を均一な状態に保持することができるほか、潜熱蓄熱材10と同様、増粘剤22にも、潜熱の蓄熱または放熱を可能とする蓄放熱性能を具備することができる。
【0123】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法では、増粘剤22は、マンニトールであること、を特徴とする。この特徴により、マンニトールは、液相状態にある潜熱蓄熱材10の融液の粘度を高めると共に、当該潜熱蓄熱材組成物3を構成する成分同士の相分離現象や、この潜熱蓄熱材組成物3を構成する成分で、密度が互いに異なる成分同士に対し、密度差による成分同士の不均一化を、効果的に防止することができる。また、マンニトールは、無毒で非危険物であるため、取扱いが容易である上に、安価でもある。
【0124】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法では、増粘剤22は、ヘテロ多糖(hetero polysaccharide)に属する水溶性の多糖類で、潜熱蓄熱材組成物3に含まれる水とカチオンとの相互作用に基づいて、液相状態にある潜熱蓄熱材組成物3の融液の粘度を高める物性を有するゲランガム相当物質の一種であること、を特徴とする。また、増粘剤22は、LAゲランガムであること、を特徴とする。このような特徴により、LAゲランガム22自体は、蓄熱特性を具備していないが、潜熱蓄熱材10(アンモニウムミョウバン12水和物)にLAゲランガム22を、例えば、僅か1.0wt%等のという少量添加するだけで、LAゲランガム22のゲル化が促進され、潜熱蓄熱材組成物3における構成成分の分離を、より効果的に抑制することができる。また、LAゲランガム22は、アンモニウムミョウバン(潜熱蓄熱材10)等のミョウバン水和物と混合し、密閉条件下で融点以上に加熱されても、ミョウバン水和物との間で化学反応を起こさず、増粘剤22としての機能を維持することができる。
【0125】
また、例えば、アンモニウムミョウバンやカリウムミョウバン12水和物等のミョウバン水和物の融液が、酸性を呈する物性であっても、LAゲランガム22は、耐酸性の物性を有しているため、LAゲランガム22の添加に起因して、潜熱蓄熱材組成物3が、経時的に変性、変質してしまうこともない。また、LAゲランガム22は、市場で幅広く流通して入手し易く、安価である。しかも、LAゲランガム22は、無毒で非危険物であるため、取扱いが容易である。1wt%以下という少量のLAゲランガム22が、潜熱蓄熱材組成物3に含まれているだけで、潜熱蓄熱材組成物3の融液は、密度差に起因した構成成分の分散を抑制するのに足りる十分な粘度になる。また、LAゲランガム22の添加量が1wt%以下と僅かであるため、LAゲランガム22を添加した潜熱蓄熱材組成物3は、同体積で比べても、潜熱蓄熱材10だけの蓄熱量より大幅に低下するのを抑制できている。
【0126】
また、上記構成を有する本実施形態に係る潜熱蓄熱槽80の作用・効果について説明する。本実施形態に係る潜熱蓄熱槽80では、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材10に、潜熱蓄熱材10の物性を調整する添加剤20を配合してなる潜熱蓄熱材組成物3と、潜熱蓄熱材組成物3との間で熱を移動させるための媒体である熱媒体83と、潜熱蓄熱材組成物3を内部に収容し密閉する封入袋50とを、備えた潜熱蓄熱槽80において、潜熱蓄熱材組成物3は、前述した本実施形態に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法で、配設されていること、を特徴とする。この特徴により、潜熱蓄熱材組成物3が、蓄熱とその放熱のサイクルを複数回繰り返しても、潜熱蓄熱材組成物3の構成成分で密度差に起因した分離が抑制されている。そのため、潜熱蓄熱槽80のように、潜熱蓄熱材組成物3を充填した縦長形状の封入袋50を、縦置き配置で潜熱蓄熱槽80内に収容する場合のほか、潜熱蓄熱材組成物3を充填した袋状の蓄熱材収容具を、潜熱蓄熱槽80内に縦方向(
図9中、上下方向)に並べて収容する場合等でも、潜熱蓄熱材組成物3は、その初期状態の蓄熱性能を、長期間、安定した状態で維持することができる。特に、1つの封入袋50が、例えば、数〜十数cm等の縦寸法であっても、本出願人は、この封入袋50の上部と下部で、潜熱蓄熱材組成物3の蓄熱量に差異がないことを、実験で確認できている。
【0127】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱槽80では、潜熱蓄熱材組成物3の過冷却現象を防止し、潜熱蓄熱材組成物3の相変化に伴う状態変化(蓄熱材としての機能)が安定し、このような潜熱蓄熱材組成物3を用いた潜熱蓄熱槽80は、熱供給源と熱提供先との間で行う熱エネルギの授受について、高い信頼性で実現することができる。
【0128】
すなわち、検証実験1,2でも述べたように、本実施形態の実施例1に係る潜熱蓄熱材の蓄熱槽内配置方法では、潜熱蓄熱材組成物3に対し、放熱速度が、比較例1の場合に比して、速くなる。出願人の知見では、放熱速度が比較的速くなると、潜熱蓄熱材組成物3に過冷却現象が生じ難い傾向にあり、その反対に、放熱速度がより遅いと、潜熱蓄熱材組成物3に過冷却現象が生じ易い傾向にある。放熱速度が比較的速いと、潜熱蓄熱材組成物3(潜熱蓄熱材10)の放熱により供給できる供給熱量は、給湯設備や冷暖房を行う空気調和設備等、熱提供先側の熱源で必要としている需要熱量に、より短い時間で達することができ、潜熱蓄熱材10の放熱が、熱提供先の熱の需要に追従することが可能になるからである。
【0129】
以上において、本発明を実施形態の実施例1、及びその比較例1に即して説明したが、本発明は上記実施形態の実施例1、及びその比較例1に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できる。
【0130】
(1)例えば、実施形態の実施例1では、増粘剤22をLAゲランガムとしたが、増粘剤は、実施形態に挙げた増粘剤以外にも、例えば、前述したようなヘテロ多糖に属するゲランガム相当物質等、多糖類に属する水溶性の物質であり、潜熱蓄熱材組成物に含まれる水、及びカチオンの働きに基づいて、液相状態にある潜熱蓄熱材組成物の融液の粘度を高める物質に該当するものであれば、何でも良い。但し、潜熱蓄熱材組成物の使用上、支障が生じないことが前提である。
(2)また、実施形態の実施例1では、増粘剤と融点調整剤を兼ねたマンニトールにより潜熱蓄熱材組成物3の融点を約90℃に調整したが、融点調整剤は、比較例1のように、増粘剤と別々に用いても良い。また、融点調整剤により調整される蓄熱材組成物の融点温度は、約90℃に限定されるものではなく、蓄熱材組成物から放熱される熱を利用する熱供給先で、必要する熱源の温度に対応した温度に調整されたものであれば良い。
【0131】
(3)また、実施形態では、潜熱蓄熱材組成物3を利用した潜熱蓄熱槽80を、
図1に例示したが、本発明に係る潜熱蓄熱槽について、当該潜熱蓄熱槽内で潜熱蓄熱材組成物等と熱媒体とを区画し、潜熱蓄熱材組成物等と熱媒体との間で、熱が伝導できる構造であれば、潜熱蓄熱槽の構成・形状・仕様は、何でも良い。
(4)また、実施形態では、ガイド手段の一例であるバスケット71を、ステンレス鋼製の網かごとしたが、ガイド手段は、例えば、ステンレス鋼製の棚等のように、潜熱蓄熱材組成物を収容した状態にある蓄熱材収容具を、拘束された状態で、かつ配置姿勢を維持した状態で、熱媒体の中に収容し、水平方向に沿う厚みの変化を許容範囲内に制限するものであれば、何でも良い。
(5)また、実施形態では、蓄熱材として、相変化に伴う潜熱の移動により蓄熱または放熱を行う潜熱蓄熱材を挙げたが、蓄熱材は、水との化学反応に伴う反応熱の出入りを利用して蓄熱または放熱を行う化学蓄熱材にも適用できる場合があるものと考えられる。