特許第6588493号(P6588493)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6588493-建築塗装の養生方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6588493
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】建築塗装の養生方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 7/24 20060101AFI20191001BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20191001BHJP
【FI】
   B05D7/24 301N
   B05D7/00 N
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-73756(P2017-73756)
(22)【出願日】2017年4月3日
(65)【公開番号】特開2018-176001(P2018-176001A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2018年7月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107000
【氏名又は名称】シャープ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100103115
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 康廣
(72)【発明者】
【氏名】笠原 康弘
(72)【発明者】
【氏名】永江 弘武
【審査官】 團野 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−123903(JP,A)
【文献】 特開平04−176364(JP,A)
【文献】 特開平07−116590(JP,A)
【文献】 特開平02−194877(JP,A)
【文献】 特開昭52−019422(JP,A)
【文献】 特開昭59−123552(JP,A)
【文献】 DIYショップ RESTA,ペンキの養生のコツ,2015年10月13日,発行日はWebサービス"Internet Archive"に蓄積された日付です。,URL,http://www.diy-shop.jp/second/penki/masker.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B05D 1/00− 7/26
E04G23/00−23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装箇所と非塗装箇所との間の交差する境界に1〜6mmの隙間が延在するように、マスキングテープを前記非塗装箇所に貼り付ける工程と、
前記の隙間にシーリング材を塗布する工程と、
を有する養作業を行い、その後に、
被塗装箇所を塗布する工程を含む、建築物の塗装方法
【請求項2】
前記のシーリング材を塗布する工程において、刷毛またはローラーを用いて前記シーリング材を塗布する、請求項1記載の建築物の塗装方法
【請求項3】
前記のシーリング材を塗布する工程において、保存容器から小分けされたシーリング材を用いる請求項1または2に記載の建築物の塗装方法
【請求項4】
前記のシーリング材を塗布する工程において、透明のシーリング材を用いる請求項1から3のいずれか1項に記載の建築物の塗装方法
【請求項5】
前記のマスキングテープを貼り付ける工程に先立って、非塗装箇所を保護する養生シートを非塗装箇所に貼り付ける、請求項1から4のいずれか1項に記載の建築物の塗装方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築塗装の養生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物等の建築物の塗装では、塗装作業を開始する前に、養生作業を行っている。養生作業は、非塗装箇所に塗料が付着しないように保護する作業であり、例えば、非塗装箇所にマスキングテープを貼り付ける方法や、ポリエチレンフィルム等からなる養生シートを非塗装箇所に貼り付ける方法や、マスキングテープと養生シートの両方を用いる方法等が用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、両面に粘着剤層が形成されたテープをマスキングテープとして用い、壁面に前記テープを貼った後、前記テープに養生シートを貼ることで作業性を向上させる養生方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−57556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、被塗装物によっては、凹凸の大きい形状や複雑な形状の外装や旧塗膜があり、マスキングテープが追従できず、剥がれたり、浮くことにより、塗料が非塗装箇所まで滲み出し、非塗装箇所を汚染するという問題がある。また、被塗装物の凹凸に密着させるためにマスキングテープを丁寧に被塗装物に押し付ける必要があるため、養生作業に時間を要するという問題もある。
【0006】
そこで、本発明は、上記の課題を解決し、非塗装箇所の汚染を防止するとともに、養生作業に要する時間を短縮することで、施工コストの低減が可能な建築塗装の養生方法を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の建築塗装の養生方法は、塗装箇所と非塗装箇所との境界に隙間が延在するように、マスキングテープを前記非塗装箇所に貼り付ける工程と、
前記の隙間にシーリング材を塗布する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、塗装箇所と非塗装箇所との間の隙間にシーリング材を塗布することで、非塗装箇所の汚染を防止するとともに、養生作業に要する時間を短縮することができるので、施工コストの低減が可能な建築塗装の養生方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の養生方法の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0011】
本発明の建築塗装の養生方法は、塗装箇所と非塗装箇所との間の境界に隙間が延在するように、マスキングテープを前記非塗装箇所に貼り付ける工程と、前記の隙間にシーリング材を塗布する工程と、を有することを特徴とするものである。
【0012】
本発明の対象とする被塗装物としては、学校等の大規模建築物、戸建て・集合住宅、公共施設、商業施設等の建物の外壁や外装が挙げられる。また、橋梁を被塗装物とすることもできる。外壁としては、ALCパネル、タイル、モルタル、サイディング、コンクリート、またはプレキャストコンクリートからなる外壁を挙げることができる。
【0013】
本発明の養生方法では、被塗装物の塗装箇所と非塗装箇所との間の境界に隙間を延在させるように、マスキングテープを前記非塗装箇所に貼り付ける工程を含む。本発明に用いるマスキングテープとは、塗装箇所を保護する長尺のテープであり、片面に粘着層を有するテープである。マスキングテープを非塗装箇所に貼り付ける工程では、マスキングテープだけを非塗装箇所に貼り付ける方法、非塗装箇所をポリエチレンフィルム等からなる養生シートで覆い、その養生シートの周縁部をマスキングテープで非塗装箇所に貼り付ける方法、または、一端部にマスキングテープを配置して、マスキングテープと養生シートとを一体化したマスカーを、マスキングテープにより非塗装箇所に貼り付ける方法を用いることができる。さらに、二重養生として、例えば、別のマスキングテープでマスカーを非塗装箇所に貼り付ける方法も用いることができる。マスカーを用いる場合、例えば、ロール状に巻回されているマスカーを引き出しながら、一端部に配置されたマスキングテープの片面に設けた剥離シートを剥がして、非塗装箇所に押し付けることで、マスカーを非塗装箇所に貼り付けることができる。マスキングテープをマスカーの上に貼り付けることで、塗装箇所と非塗装箇所との間の境界を蛇行させることなく、直線性をもたせることで、塗装の見栄えをよくすることができる。
【0014】
マスキングテープを非塗装箇所に貼り付ける際の、塗装箇所と非塗装箇所との間の隙間は、1mm〜6mm程度、好ましくは2mm〜3mmである。大きすぎると塗装の見栄えがよくないからである。また、上記の二重養生の場合、マスカーの貼り付け場所は正確である必要はないが、塗装箇所と非塗装箇所との間の隙間は6mmよりも大きい方が好ましい。さらに、マスキングテープは、塗装箇所との境界側のマスカーの端部に少なくとも一部が重なるように貼り付ける。
【0015】
次に、前記の隙間にシーリング材を塗布する。これにより、塗装箇所と非塗装箇所との間の隙間にシーリング膜からなる土手状領域を形成することで、塗料が非塗装箇所まで滲み出すことを防止することができる。また、従来のように、被塗装物の凹凸に密着させるためにマスキングテープを丁寧に被塗装物に押し付ける必要がないため、養生作業に要する時間をより短くすることができる。
【0016】
刷毛またはローラーを用いてシーリング材を塗布することが好ましい。刷毛やローラーは、細さや弾性力によって、被塗装物の凹凸への追従性に優れている。そのため、圧力をかけながら被塗装物の凹みにシーリング材を入れ込むことができるので、凹凸への密着性に優れたシーリング膜を形成することができ、塗料の滲みをより一層防止できる。また、刷毛またはローラーを用いることで、短時間でシーリング材を塗布することができる。
【0017】
また、シーリング材は、保存容器から小分けされたものを用いることが好ましい。これにより、必要以上のシーリング材が入った保存容器を長期間保管することが可能となり、使用しない分が無駄になり廃棄に手間と費用が発生することがない。また、小分け容器を洗浄すれば再利用可能となるので廃材の量を低減することができる。小分け容器には、樹脂製のポリ容器、筒型容器等の種々の形状の容器を用いることができる。保存容器の容量としては例えば3,000〜4,000mlのものを用いることができる。この容量であれば1缶あたり300〜800mが施工可能な容量となる。また、保存容器自体が100〜300mlのパウチパック入りのものでもよい。カートリッジタイプのシーリング材と比べて、使い切れる容量であり、且つ廃材の量を低減することが可能だからである。
【0018】
シーリング材としては、水系または無溶剤系の合成樹脂シーリング材を用いることができる。合成樹脂シーリング材としては、例えばアクリル樹脂系、変成シリコーン樹脂系、ウレタン樹脂系、シリコーン樹脂系等を挙げることができる。また、下地処理用塗料や上塗り用塗料の粘度調整した塗材も用いることができる。アクリル樹脂系には、モノマー成分として、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2エチルヘキシルといったアクリル酸アルキルエステル類やメタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ラウリルといったメタクリル酸アルキルエステル類、アクリル酸、メタクリル酸といった重合性不飽和カルボン酸類、アクリルニトリル、酢酸ビニル、スチレンといったその他ビニル化合物などをエマルション重合したものを挙げることができる。また、変成シリコーン樹脂系には、主鎖がポリオキシアルキレン重合体又はビニル系重合体であり、分子末端に加水分解性珪素基を有するものを挙げることができる。また、ウレタン樹脂系には、分子内に2個以上の水酸基を有するポリオール1種以上と、分子内に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート1種以上を反応させた、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを構成成分とするものを挙げることができる。また、シリコーン樹脂系には、主鎖がオルガノポリシロキサンであり、分子末端に加水分解性水酸基を有するものを挙げることができる。また、下地処理用塗料や上塗り用塗料として、市販のシリコーン系、アクリルウレタン系、ウレタン系、エポキシ樹脂系、フッ素樹脂系など各種塗料を使用することができる。
【0019】
また、塗布性の観点から、シーリング材は低粘度のものが好ましい。ここで、低粘度のシーリング材とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の数平均分子量が2500から100,000のものを含むものである。また、見栄えの観点からは、シーリング材は透明であり、肉やせしにくいことが好ましく、変成シリコーン樹脂系のシーリング材が好ましい。
【0020】
本発明の養生方法について、被塗装物が軒天や壁面である場合についてさらに詳しく説明する。
【0021】
養生方法1
本方法1では、被塗装物が軒天である場合について説明する。図1は、その養生方法の一例を示す模式図である。軒天1が被塗装物であり塗装箇所であって、軒天1と交差する外壁2が非塗装箇所である。まず、外壁2にマスカー3を貼り付ける。次に、二重養生として、軒天1との境界側の、マスカー3の端部に少なくとも一部が重なるようにマスキングテープ4を貼り付ける。この時、軒天1と外壁2との境界に2〜3mmの隙間が延在するように、マスキングテープ4を貼り付ける。次に、シーリング材の保存容器、例えば4L缶を開封し、小分け容器へ移し替える。刷毛またはローラーに小分け容器内のシーリング材を含ませ、上記の隙間に塗布し、硬化させてシーリング膜5を形成する。シーリング膜5の硬化を確認後、軒天1を塗装する。塗装後、マスキングテープ4を除去する。
【0022】
養生方法2
本方法2では、被塗装物が外壁である場合について説明する。まず、外壁と交差する床面にマスカーを貼り付ける。次に、二重養生として、外壁との境界側の、マスカーの端部に少なくとも一部が重なるようにマスキングテープを貼り付ける。この時、外壁と床面との境界に2〜3mmの隙間が延在するように、マスキングテープを貼り付ける。次に、シーリング材の保存容器、例えば4L缶を開封し、小分け容器へ移し替える。刷毛またはローラーに小分け容器内のシーリング材を含ませ、上記の隙間に塗布し、硬化させてシーリング膜を形成する。シーリング膜の硬化を確認後、外壁を塗装する。塗装後、マスキングテープを除去する。
【0023】
養生方法3
本方法3では、被塗装物が内階段である場合について説明する。まず、内階段壁面と交差する床面にマスカーを貼り付ける。次に、二重養生として、内階段壁面との境界側の、マスカーの端部に少なくとも一部が重なるようにマスキングテープを貼り付ける。この時、内階段壁面と床面との境界に2〜3mmの隙間が延在するように、マスキングテープを貼り付ける。次に、シーリング材の保存容器、例えば4L缶を開封し、小分け容器へ移し替える。刷毛またはローラーに小分け容器内のシーリング材を含ませ、上記の隙間に塗布し、硬化させてシーリング膜を形成する。シーリング膜の表面硬化を確認後、内階段壁面を塗装する。塗装後、マスキングテープを除去する。
【0024】
養生方法4
本方法4では、被塗装物が開放廊下である場合について説明する。まず、開放廊下壁面と交差する床面にマスカーを貼り付ける。次に、二重養生として、開放廊下壁面との境界側の、マスカーの端部に少なくとも一部が重なるようにマスキングテープを貼り付ける。この時、開放廊下壁面と床面との境界に2〜3mmの隙間が延在するように、マスキングテープを貼り付ける。次に、シーリング材の保存容器、例えば4L缶を開封し、小分け容器へ移し替える。刷毛またはローラーに小分け容器内のシーリング材を含ませ、上記の隙間に塗布し、硬化させてシーリング膜を形成する。シーリング膜の表面硬化を確認後、開放廊下壁面を塗装する。塗装後、マスキングテープを除去する。
【0025】
上記の養生方法1〜4は、一例であって、被塗装物の大きさや形状に応じて、本発明の開示範囲内で種々の変形例が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の養生方法は、凹凸の大きい形状や複雑な形状の外装や旧塗膜を有する被塗装物であっても、塗料が非塗装箇所まで滲み出すことを防止できるので、種々の建物の塗装作業に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 軒天
2 外壁
3 マスカー
4 マスキングテープ
5 シーリング膜
図1