【文献】
WORLD JOURNAL OF MICROBIOLOGY AND TECHNOLOGY,2010年,215-227
【文献】
INTERNATIONAL JOURNAL OF FOOD SCIENCE AND TECHNOLOGY,2013年,vol.48,no.5,1007-1017
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記改質食品の免疫反応性の前記レベルを決定する工程が、ポリクローナル抗体を使用して免疫反応性の前記レベルを決定すること、または、ポリクローナル及びモノクローナル抗体を使用して免疫反応性の前記レベルを決定することを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
前記少なくとも一つのタンパク質が、α−カゼイン、β−カゼイン、β−ラクトグロブリン、α−ラクトグロブリン、グリアジン、オボアルブミン、Gly m Bd 30K、iso Ara h3、パルブアルブミン、トロポミオシンおよびアルギニンキナーゼ(40kDa)から成る群から選択される、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態の以下の記述は、本質的に単に例示的なものであり、かついかなる点においても本発明、その用途、または使用を制限することは意図されていない。
【0010】
全体を通して使用されている通り、範囲は、その範囲内にある各値及び全ての値を示すための省略表現として使用される。範囲内の任意の値を、その範囲の末端として選択することができる。さらに、本明細書内で引用される参照文献は全て、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本開示における定義と、引用された参照文献における定義に矛盾がある場合、本開示が支配する。
【0011】
特に断らない限り、本明細書内及び本明細書の他の箇所で表現される割合及び量はすべて、重量パーセントを指すものと理解されるべきである。与えられている量は材料の活性重量に基づく。
【0012】
一部の実施形態では、本開示は、減少した免疫反応性を持つ食品を形成するための方法を対象とする、すなわち、本方法に従って改質された食品は抗体に結合する能力が減少している。従って、改質食品は敏感な人または動物に食物アレルギーを引き起こす可能性が低い。当技術分野で認識されているように、食物アレルギーは免疫系の異常反応である。食物アレルギーは、無毒でありほとんどの人に有害作用を示さない食品の特定の成分、通常は天然タンパク質によって引き起こされる。しかし、敏感な人または動物がアレルゲン性食品を摂取すると、食品のアレルゲンタンパク質が免疫系によって抗原として認識され、アレルギー反応が誘発される。T細胞が抗原によって刺激されると、物質IL−4、IL−5、およびIL−13を放出して、B細胞を活性化し、抗体のクラスIgEを分泌できる形質細胞に変換する。特定のアレルゲンに対して特異性を持つIgEが、肥満細胞の受容体および好塩基球に結合し、従って感受性細胞へと活性化される。アレルゲンが体内に再び摂取されると、アレルゲンは抗原として認識され、肥満細胞および好塩基球の表面のIgEに結合し、粒子の分解、およびヒスタミンなどの感作因子を含む小胞の放出をもたらす。これらの感作因子は次に血液中に放出され、細胞および組織上の受容体と相互作用し、それによってアレルギー反応の症状を起こす。食物アレルギーによって引き起こされるアレルギー症状およびその重症度は、個人の健康状態および食物アレルゲンの摂取量に依存する。
【0013】
一部の実施形態では、本方法は、食物アレルギーを誘発する食品のタンパク質の特定領域、すなわちエピトープを改質するために使用しうる。「エピトープ」は本明細書で使用する場合、抗体によって結合される分子の部分である。こうして、本開示の技術および方法は、食品のタンパク質が敏感な人または動物にアレルギー反応を引き起こす可能性を減少させるために使用しうる。
【0014】
一部の実施形態では、本開示は食品の改質を対象とする。一部の実施形態では、「食品」はタンパク質のみを包含しうる。他の実施形態では、食品はマトリクスのタンパク質でありうる。本明細書で使用する場合、「マトリクス」は、タンパク質と組み合わされた、追加的脂肪、炭水化物、ビタミンおよび/またはミネラルなどを指す。一部の実施形態では、食品は栄養的に完全な食品である。その他の実施形態では、食品は栄養的に不完全な食品である。
【0015】
「栄養的に完全な」、「栄養的にバランスがとれた」または「完全で栄養的にバランスがとれた食品」は、食品の目的とする受け手または消費者に対するすべての既知の必須栄養素を、例えば、動物(ヒトを含む)栄養の分野の認知されたまたは所轄の官庁の推奨に基づいて適切な量および割合で含むものである。従ってこのような食品は、補足的栄養源の追加なしに、生命を維持するための食事摂取の唯一の供給源としての役割を果たすことができる。
【0016】
一部の実施形態では、食品は栄養的に不完全である。これらの実施形態では、食品は動物の食事の栄養および熱含有量に寄与しうるが、組成物は、動物における日々の栄養および熱量のニーズ対する完全な独立供給源ではない。
【0017】
「動物」という用語は、本明細書で使用する場合、魚、鳥、は虫類、およびイヌ、ネコ、ウマ、ブタ、ウシ、サルおよびヒトなどの哺乳類を含む任意の動物を指す。
【0018】
本方法によって改質しうる食品には、少なくとも一つのタンパク質を含む食品が含まれる。「タンパク質」という用語は本明細書で使用する場合、アミノ酸残基の1つまたは複数の長鎖から成る生体分子、または高分子を指す。タンパク質という用語は、ポリペプチド、すなわち、アミノ酸残基の直鎖も包含する。アミノ酸残基約20〜30個未満を含む短いポリペプチド、つまりペプチドもこの用語によって包含される。
【0019】
本開示によって改質しうる例示的食品には、ミルク、肉、卵、魚、甲殻類、軟体動物、穀物、マメ科植物およびナッツ類が含まれるがこれらに限定されない。例えば、ミルクには生乳および/または加工乳、全乳または1%もしくは2%乳脂肪を含む低脂肪乳、スキムミルク、バターミルク、還元乳粉末、コンデンスミルク、粉乳、乳清、濃縮ホエーたんぱく質、またはクリームが含まれる。ミルクは、例えば、サルもしくはチンパンジーなどの非ヒト霊長類、ヒト霊長類、または乳牛、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウマおよび畜牛などの家畜など、任意の哺乳類から由来しうる。
【0020】
「肉」という用語は、家畜、ブタ、ヒツジおよびヤギの肉だけでなく、ウマ、クジラおよびその他の哺乳類、家禽および魚を含む任意の種にも適用されることが理解される。例えば、「肉」という用語は、牛肉、子牛の肉、豚肉、馬肉、バイソン、乳牛、シカ、オオジカ、子羊などの、哺乳類種の肉を包含する。「肉」という用語は、ニワトリ、七面鳥、アヒル、またはガチョウなどの家禽肉をさらに含む。肉には、付随する上層脂肪および肉に通常付随する皮膚、腱、神経および血管の部分を伴う、または伴わない、骨格筋である、もしくは、例えば、舌、横隔膜、心臓にある横紋筋、または食道もしくは胃にある平滑筋も含まれる。「肉」という用語は、肺、脾臓、腎臓、脳、肝臓、血液、骨、部分的に脱脂した低温脂肪組織、内容物を含まない腸管などを含む臓器および組織などの製品をさらに含む。肉には、糞便内容物および異物を含まない、頭、足、および内臓などの、屠殺された家禽の屠体のレンダリングされていない清潔な部位もさらに含まれる。
【0021】
本発明の方法で使用しうる追加的食品には、卵白および卵黄、サバ、イワシ、マグロ、サケ、タラ、カレイ類および魚のイクラ、カニ、エビ、ムラサキイガイ、イカ、タコ、ロブスター、小麦、米、ソバ、ライムギ、大麦、エンバク、トウモロコシ、キビ、ダイズ、ピーナッツ、カカオ、インゲンマメ、ヘーゼルナッツ、ブラジルナッツ、クルミおよびアーモンドが含まれるがこれらに限定されない。
【0022】
一部の実施形態では、本開示により改質しうる食品には、上述の原料またはそれらの組み合わせの少なくとも一つを含む任意の食品が含まれる。
【0023】
本方法により改質された食品に含まれうる適切なタンパク質の例には、β−ラクトグロブリン、α−ラクトグロブリン、ウシ血清アルブミン、ミルクに含まれるα−カゼイン、β−カゼインおよびκ−カゼインを含むカゼイン、卵に含まれるオボアルブミン、肉に含まれるミオシンおよびアクチノマイシン、小麦に含まれるグルテンまたはグリアジン、ピーナッツに含まれるAra h 1、Ara h 2、およびAra h 3、ダイズに含まれるGly m Bd 30K、パルブアルブミン(魚に含まれる主な臨床的交差反応性アレルゲン)、トロポミオシン(貝、甲殻類および軟体動物に含まれる主なアレルゲン)およびアルギニンキナーゼ(40kDa、エビに含まれるアレルゲン)が含まれるがこれらに限定されない。魚介類アレルゲンのその他の例は、Rahman et al. (2012), “Characterization of Seafood Proteins Causing Allergic Diseases”, in Allergic Diseases−Highlights in the Clinic, Mechanisms and Treatment, Prof. Celso−Pereira (ed.), ISBN: 978−953−51−0227−4, InTechに記載されており、これは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。一部の実施形態では、β−カゼインなどのカゼインを含む食品が使用される。
【0024】
架橋
一部の実施形態では、少なくとも一つのタンパク質を含む食品を、まず架橋酵素と共に培養して、少なくとも一つの架橋タンパク質を含む食品を形成する。本明細書で使用する場合、タンパク質に関連した「架橋」「架橋する」または「架橋した」という用語は、タンパク質またはペプチドの間および/またはその中に共有結合を導入することを意味する。従って、架橋タンパク質は、例えば、食品の天然タンパク質内および/またはその天然タンパク質と食品組成物のその他の天然タンパク質、ペプチドまたはアミノ酸との間に、酵素架橋によって、共有結合が新規導入されているものである。一部の実施形態では、架橋タンパク質は、天然タンパク質と比べて、増加した分子量、異なる3次元構造および/または異なる電荷を持つ。さらに、一部の実施形態では、架橋は天然タンパク質のエピトープを変化または破壊し、抗体がエピトープを利用できないようにする。またその他の実施形態では、架橋はタンパク質内の1つまたは複数のエピトープを隠して、抗体がエピトープを利用できないようにする。
【0025】
タンパク質を架橋するために使用しうる酵素には、ペルオキシダーゼ、チロシナーゼ、ラッカーゼおよびトランスグルタミナーゼが含まれるがこれらに限定されない。ペルオキシダーゼ(POD)はヘム含有酵素であり、これは過酸化水素またはヒドロペルオキシドによるさまざまな有機化合物の酸化を触媒する。フェノール化合物に作用して、PODはo−キノリンを生成し、これはタンパク質のその他のフェノール類、アミノ化合物、またはスルフヒドリル化合物とさらに反応して、架橋生成物を形成する。チオ・ジスルフィド交換を触媒して、タンパク質上のジスルフィドの再配置をもたらし、エピトープ・抗体相互作用の立体障害によりエピトープを潜在的にマスクする、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼおよびチオレドキシンも企図されている。
【0026】
一部の実施形態では、本開示の方法でチロシナーゼが使用される。チロシナーゼは、モノフェノールのo−ジフェノールへのo−ヒドロキシル化およびo−ジフェノールのo−キノリンへのその後の酸化を触媒する二機能性の酵素である。反応性o−キノリンは、非酵素性重合をさらに受けるか、またはタンパク質のアミノ酸残基と反応することができる。マッシュルームツクリタケ(Agaricus bisporus)からのチロシナーゼ(EC 1.14.18.1)および真菌Trichoderma reeseiからのチロシナーゼが、食品加工の架橋ツールとして使用されてきた。これらのチロシンキナーゼは、チロシンの酸化を触媒することによりタンパク質およびペプチドに作用して、チロシン側鎖の酸化架橋を生じる。
【0027】
一部の実施形態では、本方法で使用される架橋酵素はラッカーゼである。ラッカーゼはさまざまなフェノール化合物の酸化を触媒し、フリーラジカル種を生成しうる。反応性フリーラジカルは、非酵素的重合をさらに受けるか、またはタンパク質のアミノ酸残基など、高い酸化還元電位基質標的と反応することができる。
【0028】
より典型的には、本開示の実施形態ではトランスグルタミナーゼが使用される。本明細書で使用する場合、EC 2.3.2.13として分類される「トランスグルタミナーゼ」は、アシル転移反応を触媒でき、タンパク質に共有架橋を導入できる酵素を指す。一部の実施形態では、タンパク質のリジン残基のε−アミノ基およびグルタミン残基のγ−カルボキサミド基は、それぞれアシル受容体およびアシル供与体として働く。この反応は共有イソペプチド結合をもたらし、これはタンパク質の分子サイズの変化をもたらす。
【0029】
グルタミンおよびリジン残基はしばしば、同じタンパク質分子内に存在するが、1つのみが利用可能なグルタミン残基を含むおよび/または1つのみが利用可能なリジン残基を含む、2つの異なるタンパク質を結合するために本プロセスを使用することも可能であり、または同様に、3つもしくはより多くの異なるタンパク質でも可能である。このような混合架橋はヘテロポリマーをもたらし、これも本開示によって包含される。
トランスグルタミナーゼによって触媒される例示的反応を以下に示す。
【化1】
【0030】
本開示の実施形態で使用されうるトランスグルタミナーゼは、ヒト、動物(例えば、ウシ)または微生物由来のものでありうる。このようなトランスグルタミナーゼの例は、動物由来FXIIIa、モジホコリ(Physarum polycephalum)から由来する微生物のトランスグルタミナーゼ(Klein et al., Journal of Bacteriology, 1992, Vol. 174, p. 2599−2605を参照、これは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、ストレプトマイセス・ラベンジュレ(Streptomyces lavendulae)およびストレプトマイセス・リジクス(Streptomyces lydicus)を含むストレプトマイセス種から由来するトランスグルタミナーゼである。その他の例には、ストレプトベルチシリウム・モバラエンス(Streptoverticillium mobaraense)、ストレプトベルチシリウム・シナモメウム(Streptoverticillium cinnamoneum)、およびストレプトベルチシリウム・グリセオカルニウム(Streptoverticillium griseocarneum)を含むストレプトベルチシリウム種(例えば、米国特許第5,156,956号(Motokiら)および米国特許第5,252,469号(Andouら)、これらはそれぞれ参照によりその全体が組み込まれる)から得られるトランスグルタミナーゼが含まれる。トランスグルタミナーゼは市販されており、例えば、日本の味の素株式会社(Activa(登録商標)EBおよびActiva(登録商標)WM)、Sigma−Aldrich(ミズーリ州、セントルイス)およびModernist Pantry(例えばMooGloo(登録商標)TI)から取得しうる。
【0031】
本開示の方法に使用されるトランスグルタミナーゼなどの架橋酵素の量は、特に限定されない。一部の実施形態では、食品材料の1グラムあたり、0.01U〜15U、より典型的には約0.1U〜約10Uまたはさらにより典型的には約0.01〜約2単位の架橋酵素を使用しうる。架橋酵素の最適量は、食品材料のタイプ、サイズおよび形態に応じて異なる。架橋酵素の適切量は、上述の範囲に基づいて日常的実験で決定できる。食品および架橋酵素の組み合わせは、約2℃〜約80℃で約0.5時間〜約48時間、または例えば、約2℃〜約5℃で約20〜約40時間、より典型的には約4℃で約24時間反応させておく。一部の実施形態では、食品のタンパク質の架橋の程度は、天然タンパク質分子あたり約0.5〜1個の架橋など、約0.1〜約2個の架橋が形成されるような程度としうる。
【0032】
一部の実施形態では、酵素的架橋の後、架橋酵素は不活性化される。これは、架橋タンパク質分子を含むこととなった食品を、架橋酵素と共に所与の温度まで一定の時間加熱することによって行うことができるが、この温度および時間は架橋酵素を不活性化するために十分である。例えば、架橋酵素は90℃以上で少なくとも3分間加熱することによって不活性化しうる。
【0033】
微生物発酵
一部の実施形態では、少なくも一つの架橋タンパク質を含む食品は、実質的に微生物発酵を受ける。本明細書で使用する場合、「微生物発酵」は、望ましい生化学的変化が食品に改質を生じさせるような、微生物の食品に対する作用を指す。一部の実施形態では、望ましい生化学的変化には、食品の少なくとも一つの架橋タンパク質を加水分解する微生物のタンパク質分解酵素の能力を含む。本明細書で使用する場合、タンパク質または架橋タンパク質に関する「加水分解」という語句は、例えばポリペプチドなどの二つ以上のより小さな分子を生成するための、タンパク質と水の化学反応を指す。
【0034】
理論に束縛されるものではないが、微生物酵素は、架橋酵素との培養後に形成される食品の架橋タンパク質の部分を消化するのであり、従って、無傷のままかまたは抗体が利用しうるものでありうるエピトープについて構造を変化させる、および/または破壊すると考えられる。その結果、微生物酵素後の変化または破壊されたエピトープは、架橋タンパク質を含む食品の免疫反応性をさらに減少させる。
【0035】
架橋タンパク質によって形成される結合は、タンパク質分解(プロテオリシス)に対して高い抵抗性を示しうる。従って、一部の実施形態では、架橋タンパク質の小さな部分のみが微生物発酵によって加水分解されうる。その結果、微生物発酵を受けた架橋タンパク質の一部のみが切断され、結果として得られるポリペプチドの二峰性モル質量分布をもたらす。「モル質量分布」という用語は、加水分解された架橋タンパク質に関連して使用される場合、架橋タンパク質加水分解物中に存在する各ポリペプチドのモル質量に関する。例えば、100,000ダルトンより大きなモル質量分布を持つ架橋タンパク質加水分解物は、タンパク質加水分解物に含まれる各ポリペプチドが少なくとも約100,000ダルトンのモル質量を持つことを意味する。
【0036】
一部の実施形態では、微生物発酵の後の改質食品製品は、二つのモル質量分布を持つ少なくとも一つの架橋タンパク質の加水分解物をもたらす。特定の実施形態では、架橋タンパク質を含む食品製品の微生物発酵は、ポリペプチドの少なくとも約5%〜約40%、より典型的には約5%〜約25%、またさらに典型的には約10%〜約15%が約500ダルトン〜約10,000ダルトン、より典型的には約3,000〜約8,000ダルトン、さらにより典型的には約3,000ダルトン〜約5,000ダルトン、およびまたさらに典型的には約1,000〜5,000ダルトンの分子量を持つ加水分解物をもたらす。
【0037】
一部の実施形態では、架橋タンパク質を含む食品製品の微生物発酵は、ポリペプチドの約5%〜約95%、より典型的には約75%〜約95%、またさらに典型的には約80%〜約90%が約50,000ダルトン〜約500,000ダルトン、より典型的には80,000〜約150,000ダルトンなど約50,000〜約150,000ダルトン、さらにより典型的には約100,000ダルトン〜約150,000ダルトンの分子量を持つ加水分解物をもたらす。
【0038】
一部の実施形態では、少なくも一つの架橋タンパク質を含む食品は、約2時間〜約4日の間、微生物発酵を受ける。より典型的には、少なくも一つの架橋タンパク質を含む食品は、約2日の間、微生物発酵を受ける。一部の実施形態では、少なくも一つの架橋タンパク質を含む食品は、約1日の間、微生物発酵を受ける。
【0039】
さまざまな実施形態では、微生物発酵の温度は約20℃〜約48℃である。より典型的には、温度は約20℃〜約40℃である。より典型的には、温度は約20℃〜約22℃の範囲である。その他の実施形態では、発行中の温度は約37℃〜約40℃の範囲である。
【0040】
一部の実施形態では、微生物発酵中に使用される微生物は、細菌、真菌またはそれらの組み合わせである。例えば、バチルス、ラクトバチルス、リューコノストック、ペディオコッカス、ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、マイクロコッカス属の細菌またはそれらの組み合わせを使用しうる。一部の実施形態では、バチルスは、バチルス・サブティリス、バチルス・リケニフォルミスまたはバチルス・メガテリウムまたはそれらの組み合わせである。
【0041】
一部の実施形態では、ラクトバチルスは、ラクトバチルス・アリメンタリウス、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・サンフランシスエンシス、ラクトバチルス・ヒルガルディー、ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・ラクティス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ブルガリクス、ラクトバチルス・アシドフィラス、ラクトバチルス・プランタルムまたはそれらの組み合わせである。
【0042】
一部の実施形態では、リューコノストックはリューコノストック・メセンテロイデスである。部の実施形態では、ペディオコッカスはペディオコッカス・アシディラクチシである。一部の実施形態では、発酵中に使用される微生物は、リューコノストック・メセンテロイデス、ラクトバチルス・プランタルムおよびペディオコッカス・アシディラクチシの組み合わせである。
【0043】
一部の実施形態では、スタフィロコッカスは、スタフィロコッカス・ジアセチラクティス、スタフィロコッカス・ラクティスまたはそれらの組み合わせである。一部の実施形態では、スタフィロコッカスはスタフィロコッカス・エピダーミスである。
【0044】
一部の実施形態では、微生物は、サッカロミセス属のサッカロミセス・ジアスタチカスまたはサッカロミセス・セレビシエ、アスペルギルス属のアスペルギルス・オリゼ、リゾプス属の例えばリゾプス・オリゼまたはムコール属のムコール・ミエヘイなどの真菌である。上述の例示的最近または真菌株の任意の組み合わせを本開示の微生物発酵で使用しうる。
【0045】
一部の実施形態では、少なくとも一つの架橋タンパク質を含む食品1グラムあたり約10
3〜10
6の真菌胞子、より典型的には約10
5の真菌胞子を微生物発酵中に使用する。一部の実施形態では、少なくとも一つの架橋タンパク質を含む食品1グラムあたり約10
3〜10
6の細菌のコロニー形成単位(CFU)、より典型的には約10
5の細菌のCFUを微生物発酵中に使用する。
【0046】
一部の実施形態では、本明細書に記述した架橋および発酵工程は任意の順序で実施される。例えば、一部の実施形態では、食品の架橋は食品の発酵の前に起こる。その他の実施形態では、発酵は架橋の前に実施される。またその他の実施形態では、本明細書に記述した架橋および発酵工程は同時に実施される。典型的には、本食品は発酵の前に架橋を受ける。
【0047】
「改質食品」という用語は、架橋酵素での培養後、および微生物で発酵後の食品を指すことを理解すべきである。一部の実施形態では、食品の質感および/またはpHは本明細書に記述した改質工程の後に変化しうる。例えば、培養および発酵の前は、食品は全乳などのミルクでありうるが、培養および発酵の後、改質食品は、一部の実施形態では、例えばヨーグルト、サワーミルク、乳酸菌ミルクまたはチーズなどに形成されうる。
【0048】
本明細書で使用する場合、食品に関する「未改質」または食品に関する「対照」という用語は、本明細書に記述した架橋酵素との培養および微生物発酵を受けていない食品を意味する。例えば、食品が、架橋酵素と食品の第一の架橋によって改質され、次に食品が発酵を受ける時、未改質食品は、指定された順序でこれらの工程の両方を受けていない食品を包含する。
【0049】
免疫反応性
一部の実施形態では、改質食品の免疫反応性のレベル、例えば存在または量を決定しうる。さまざまな実施形態では、改質食品の免疫反応性のレベルを、未改質食品の免疫反応性のレベルと比較しうる。
【0050】
本明細書で使用する場合、「免疫反応性」とは、食品の天然タンパク質または加水分解架橋タンパク質を認識する抗体の能力を指す。「抗体」(免疫グロブリンとしても知られる)という用語は本明細書で使用する場合、形質細胞によって生成される大きなY型タンパク質を指し、これは例えば異種タンパク質を特定するために免疫系によって使用される。抗体は、異種標的、例えば、食物アレルゲン(抗原)の固有部分を認識する。抗体の「Y」の各先端は、抗原の一つの特定エピトープ(同様に鍵に似ている)に特異的なパラトープ(錠前に似た構造)を含み、これらの二つの構造が互いに正確に結合することを可能にする。
【0051】
本開示の抗体は任意のイソタイプまたはクラスに属しうる。従って、本開示の方法で使用される抗体は、IgA、IgA、IgD、IgE、IgG、またはIgM抗体でありうる。典型的には、抗体はIgGまたはIgE抗体である。
【0052】
一部の実施形態では、改質食品の免疫反応性のレベルを決定するために使用される抗体はポリクローナル抗体である。本明細書で使用する場合、「ポリクローナル抗体」という語句は、同じ抗原または異なる抗原上のいくつかの異なる特異抗原決定基(本明細書では「エピトープ」とも呼ばれる)と結合または反応することができる異なる抗体分子を含む組成物を指す。ポリクローナル抗体の抗原特異性の可変性は、ポリクローナル抗体を構成する個別抗体分子の可変領域および、ポリクローナル抗体を構成する抗体分子の特定混合物にある。
【0053】
典型的には、食品中のアレルゲンの存在または量を評価するために有用なポリクローナル抗体は、例えば、標的抗原またはその部分を用いた動物の免疫化によるなど、良く知られた方法を使用して作られ、免疫化された動物から得られた血液、ミルクまたは初乳に由来する。例えば、ウサギなどの哺乳類に、β−カゼインなどの食品タンパク質を注射してもよい。これによって、B−リンパ球が誘発され、β−カゼインに特異的なIgG免疫グロブリンが生成される。次にポリクローナルIgGを哺乳動物の血清から精製する。
【0054】
その他の実施形態では、食物アレルギーの人または動物の血清からのIgE抗体を本開示の改質および未改質食品に対して使用し、改質および/または未改質食品の免疫反応性のレベルを評価しうる。
【0055】
一部の実施形態では、本明細書に記述した改質食品または未改質食品の加水分解架橋タンパク質を検出するために使用される抗体はモノクローナル抗体である。「モノクローナル抗体」という用語は本明細書で使用する場合、単一分子組成物の抗体の調製品を指す。モノクローナル抗体組成物は、標的抗原の特定エピトープに対する単一結合特異性および親和性を示す。モノクローナル抗体の調製方法は当技術分野でよく知られている。例えば、Harlow and Lane (ed), Antibodies: A Laboratory Approach, Cold Spring Harbor Laboratory, New York (1988)(これは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照。
【0056】
一部の実施形態では、本開示の改質食品の免疫反応性のレベルは、当技術分野で知られた免疫アッセイを使用して決定できる。典型的には、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)が使用される。ELISA手順、例えば、直接、間接、競合および非競合ELISAが当技術分野でよく知られており、本開示の改質食品に存在する抗原の存在または量の試験に対して容易に適合させることができる。
【0057】
例えば、改質食品の免疫反応性を検出するために、カゼインなど、改質食品のタンパク質と結合する抗体を、固相(例えば、ポリスチレンマルチウェルプレート)に結合させる。次に改質食品を固相に加える。未改質食品も対照として固相に結合させうる。短時間培養した後、固相を洗浄する。未改質食品のタンパク質および/または改質食品の架橋タンパク質に特異的に結合する抗体を直接検出するか、またはタンパク質結合抗体に結合する標識二次抗体を用いて間接的に検出することができる。未結合標識二次抗体は洗い流される。
【0058】
直接または間接的に可視化できる任意の適切な標識をこれらの検出アッセイに使用することができ、これには酵素(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼおよびβ−ガラクトシダーゼ)、蛍光物質(例えば、蛍光イソチオシアネート)、生物学的発光性物質(例えば、ルシフェリン・ルシフェラーゼ)、化学的発光性物質(例えば、ルミノール、アクリジン誘導体およびアダマンタン誘導体)、ビオチン、アビジン、金コロイド、放射性物質(例えば、
32P)などを含むがこれらに限定されない。
【0059】
一部の実施形態では、競合ELISAを使用した時などは、標識強度は改質または未改質食品に存在するタンパク質の量と逆比例する。その他の実施形態では、標識強度は、改質または未改質食品に存在するタンパク質の量を反映する。例えば、一部の実施形態では、改質食品中に特異的免疫複合体が存在しない場合は、固相上に標識が実質的に固定化されず、洗い流される。
【0060】
本明細書で使用する場合、「実質的にない」とは、強く検出できる抗原特異免疫複合体の量と比べて抗原特異的免疫複合体がほとんど検出できないことを指す。例えば、「バックグラウンド」レベルの標識発生の存在は、当業者によって生体試料に存在する抗原特異的免疫複合体が実質的にないと見なされるであろう。さらに、検出可能な抗原特異的免疫複合体と関連する固定化標識の量は、「実質的にない」免疫複合体と関連する固定化標識の量の約10倍、典型的には約100倍またはより典型的には約1000倍強力となる。
【0061】
カゼインなどの食物アレルゲンを検出するためのELISAキットは、例えば、イタリア、ポンカラーレのAstorilabおよびミシガン州ランシングのNeogen Corporationから市販されている。
【0062】
本開示の方法で使用されうる例示的免疫アッセイは、例えば、Harlow and Lane (ed), Antibodies: A Laboratory Approach, Cold Spring Harbor Laboratory, New York (1988)、およびMoynagh and Schimmel, Nature 400:105, 1999に記述されており、これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0063】
一部の実施形態では、ELISAによって決定される改質食品の免疫反応性のレベルは、未改質食品の免疫反応性のレベルより低い。「より低い」という語句は、例えば本明細書に記述した標識強度で決定される未改質食品の免疫反応性のレベルよりも約10%低い、約20%低い、約50%低い、約75%低い、約90%低いまたは約100%低いことを包含する。
【0064】
一部の実施形態では、改質食品の免疫反応性のレベルは、未改質食品を架橋酵素と共に培養することのみに起因する、または未改質食品を微生物と共に培養することのみに起因する、減少された免疫性についての相加効果によるレベルよりも低い。例えば、以下に例示されるように、1.0の抗原/抗体複合体の相対的濃度は、例えば未改質食品のELISAアッセイを使用して検出しうる。抗原/抗体複合体の相対的レベルは、未改質食品を架橋酵素にさらすことだけによって、微生物発酵を受けさせることなく、0.6に減少させうる。抗原/抗体複合体の相対的レベルは、未改質食品を微生物発酵させることだけによって、0.8に減少させうる。従って、相加効果が期待される場合、二つの処理を組み合わせることにより、抗原/抗体複合体の相対的レベルは0.4に減少しうる。しかし、本開示の一部の実施形態では、予想外の相乗効果が観察され、例えば、相加効果のみで期待されるよりもより大きなレベルの改質食品の免疫反応性の減少が観察される。
【0065】
その他の実施形態では、架橋酵素と共にまず培養され、次に微生物発酵を受けた食品の免疫反応性のレベルは、発酵および架橋剤との培養を同時に受けた食品の免疫反応性のレベルよりも低い。一部の実施形態では、食品はβ−カゼインを含む。
【0066】
一部の実施形態では、本開示は、加水分解架橋タンパク質を含む改質食品を対象としており、ここで改質食品に対する抗体の免疫反応性のレベルは、未改質食品に対する抗体の免疫反応性のレベルよりも低い。改質食品は本明細書に記述した方法に従って調製される。改質に適した食品には、少なくとも一つのタンパク質を含む食品が含まれる。本明細書に記述したこのような食品には、例えば、ミルク、卵、魚、貝、ピーナッツ、ナッツ類、ダイズ、小麦、トウモロコシ、牛肉、鶏肉および子羊肉が含まれる。改質食品の免疫反応性の可変レベルおよび加水分解タンパク質の質量分布は、本開示の方法に対して上述したものと同じである。
【実施例1】
【0068】
トランスグルタミナーゼ処理βカゼイン
ミルクに由来する精製βカゼインを、モルモットの肝臓から取得した市販のトランスグルタミナーゼ(ミズーリ州、セントルイスのSigma−Aldrich、製品番号T 5398)と共に4℃で2時間培養した。反応混合物は以下のように調製した。
1)100μlの1Mトリス酢酸、pH 6.0
2)50μlの30μg/ml βカゼイン(ミルク由来)
3)10μlの2U/mlモルモット肝臓からのトランスグルタミナーゼ(Sigma−Aldrich、ミズーリ州、セントルイス)
4)327.5μlの水
5)2.5μlの1M CaCl
2(最後に添加)
【0069】
3つの別々のレベルの精製βカゼイン(低、中および高)も調製し、0.08〜0.00125単位のトランスグルタミナーゼと共に培養した。すべてのトランスグルタミナーゼ処理βカゼイン試料は、キット製造業者の指示に従ってウシカゼイン検出用二重抗体サンドイッチELISAを使用してアッセイした(MyBioSource.com、カタログ番号MBS564001)。
【0070】
図1は、精製トランスグルタミナーゼがミルク由来精製β−カゼインの免疫反応性を減少させることができたことを示す。表1に示すように、検出されたβ−カゼインの相対平均量は1であった。例えば、トランスグルタミナーゼを添加すると、検出されたカゼインの相対平均量はわずかに5.0 x 10
−8であった。
【表1】
【0071】
図2は、β−カゼインの3つの別々のレベルでの、精製β−カゼインのELISA免疫反応性のトランスグルタミナーゼ用量依存性減少を示す。表2に示すように、トランスグルタミナーゼの量の増加は、カゼインの3つのレベルすべてで免疫反応性の減少をもたらす。
【表2】
【実施例2】
【0072】
トランスグルタミナーゼ処理ミルク
トランスグルタミナーゼの基質として精製β−カゼインを、0.01mol/L PBS(PH=7.0〜7.2)リン酸緩衝生理食塩水で2%ミルクを1000倍に希釈したもの50μlで置き換えたことを除いて、2%ミルク試料も上記の実施例1に記述したように調製した。溶液を4℃で24時間培養した。トランスグルタミナーゼ処理2%ミルクも、上述の二重抗体サンドイッチELISAでアッセイした。
【0073】
図3は、トランスグルタミナーゼ反応が、カゼインに加えて、脂肪、炭水化物、ミネラルおよびビタミンはもちろんタンパク質を含む無処置の2%ミルク食品マトリクスでも有効なことを示す(例えば、β−ラクトグロブリン、α−ラクトグロブリン、ウシ血清アルブミン)。上記の表1に示すように、食品マトリクスの存在下でも、トランスグルタミナーゼはカゼインの免疫反応性レベルを85%減少させることができた(平均相対カゼインレベルはトランスグルタミナーゼの不在下では1、トランスグルタミナーゼの存在下では0.15)。
【実施例3】
【0074】
トランスグルタミナーゼおよび微生物発酵
第3の試験は、まず2%ミルクをトランスグルタミナーゼMooGloo(登録商標)TI(Modernist Pantry)とオービタルシェーカー中4℃で24時間反応させ、次に22℃で48時間微生物発酵することによって実行した。900μlの2%ミルクを、トランスグルタミナーゼおよびマルトデキストリンの混合物である40 mgのMooGloo(登録商標)TIと混合した。
【0075】
リューコノストック・メセンテロイデス、ラクトバチルス・プランタルムおよびペディオコッカス・アシディラクチシ(Caldwell、カナダ、ケベックシティ)を含む100μlの種菌(蒸留水10 ml中2.5 gの種菌)を上述の反応混合物に加えた。発酵混合物をオービタルシェーカー中、22℃で48時間培養した。発酵後、競合ELISA(カゼインELISAキット、Astori、イタリア、ポンカラーレ)を使用してカゼインをアッセイした。
【0076】
図4および表3は、ミルクのトランスグルタミナーゼ処理への微生物発酵の追加が、ELISAでのミルク免疫反応性を相乗的に減少することを示している。つまり、トランスグルタミナーゼおよび発酵の両方の組み合わせは共に、組み合わせで使用しない時のこれらのプロセスの個別効果の合計よりも大きくミルクの免疫反応性を減少させる。一般化線形モデルおよび最小二乗平均を使用した
図4のデータの統計解析は、すべての一対比較が統計的に有意なことを示している。さらに、トランスグルタミナーゼ処理および微生物発酵の相互作用効果がある(p
<0.05)。
【表3】