(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6588589
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】土壌改良資材、その製造方法、及び土壌改良方法
(51)【国際特許分類】
C09K 17/32 20060101AFI20191001BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20191001BHJP
B27K 5/00 20060101ALN20191001BHJP
B27L 11/00 20060101ALN20191001BHJP
C09K 101/00 20060101ALN20191001BHJP
【FI】
C09K17/32 KZAB
A01G7/00 602C
A01G7/00 602A
!B27K5/00 F
!B27L11/00 Z
C09K101:00
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-41459(P2018-41459)
(22)【出願日】2018年3月8日
(62)【分割の表示】特願2016-236893(P2016-236893)の分割
【原出願日】2016年12月6日
(65)【公開番号】特開2018-90824(P2018-90824A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2018年10月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000170646
【氏名又は名称】国土防災技術株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000204985
【氏名又は名称】大建工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢治
(72)【発明者】
【氏名】竹田 康浩
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 裕太
【審査官】
小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−120020(JP,A)
【文献】
特開2015−190095(JP,A)
【文献】
特開平09−040952(JP,A)
【文献】
特開平04−099413(JP,A)
【文献】
特開2003−313555(JP,A)
【文献】
鈴木邦威,環境・健康改善の特効剤「腐植土・フルボ酸」の基本と応用,2014年 3月28日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00− 17/52
A01G 1/00− 1/02
A01G 1/06− 1/12
A01G 5/00− 7/06
A01G 16/00− 17/02
A01G 17/18
B27K 1/00− 9/00
B27L 1/00− 3/00
B27L 7/00− 11/08
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルボ酸又はフミン酸と、木質粗繊維とを含み、
前記木質粗繊維は、該木質粗繊維の長さ方向に対して垂直方向に形成されたスリットを有することを特徴とする土壌改良資材。
【請求項2】
前記フルボ酸又はフミン酸は、前記木質粗繊維に混入していることを特徴とする請求項1に記載の土壌改良資材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の土壌改良資材を製造する方法であって、
前記フルボ酸又はフミン酸を、木材廃棄物からなる木材チップを爆砕処理して前記木質粗繊維を得る爆砕処理工程で、添加することを特徴とする土壌改良資材の製造方法。
【請求項4】
前記木材チップの大きさは、最大径100mm以下であることを特徴とする請求項3に記載の土壌改良資材の製造方法。
【請求項5】
フルボ酸又はフミン酸と、木質粗繊維とを含む土壌改良資材を製造する方法であって、
前記フルボ酸又はフミン酸は、前記木質粗繊維に混入しており、
前記フルボ酸又はフミン酸を、木材廃棄物からなる木材チップを爆砕処理して前記木質粗繊維を得る爆砕処理工程で、添加することを特徴とする土壌改良資材の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の土壌改良資材を土壌中に混合することを特徴とする土壌改良方法。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載の土壌改良資材を土壌中に混合することによって、硬質な土壌環境を軟質なものへ移行させることを特徴とする土壌改良方法。
【請求項8】
請求項1又は請求項2に記載の土壌改良資材を土壌中に混合することによって、透水性が低い土壌の透水性を改善させることを特徴とする土壌改良方法。
【請求項9】
請求項1又は請求項2に記載の土壌改良資材を土壌中に混合することによって、土壌の団粒化を促進でき、植物が生育し易い環境を作ることを特徴とする土壌改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質粗繊維とフルボ酸又はフミン酸とを用いた土壌改良資材、その製造方法、及び土壌改良方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、木材廃棄物等からなる木材チップを爆砕処理して得られた木質粗繊維を土壌改良資材として再利用することが行われている。木材チップを爆砕処理すると酢酸等の有機酸成分が生成することが知られており、有機酸成分は木質粗繊維のpHを低下させるため、土壌改良資材として用いる時に酸性の影響によって微生物等の生息が困難となり、土壌改良性能を低下させるという問題があった。
【0003】
例えば、特許文献1の発明にあっては、木質解繊物を得る蒸煮爆砕処理過程で炭酸カルシウム資材等のアルカリ性のpH調整材を共存させることとで、木質解繊物を有用な微生物の増殖が図れる微生物資材の製造方法を提供している。また、特許文献2の発明にあっては、得られた木質解繊物からなる土壌改良資材を水洗浄したのち、鹿沼土からなる母土に配合することで生育阻害などを起こさずに、保水性、保肥性に優れた土壌改良資材の製造方法を提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−216786号公報
【特許文献2】特開2006−6254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、木質解繊物を得る、蒸煮爆砕処理過程に、カルシウム資材等を混合したアルカリ性の混合物を共存させることで、木材チップを爆砕処理することで生成する有機酸成分を中和させることができる特徴を有しているが、カルシウム資材等の混合物が土壌改良や植物の生育促進に直接的に寄与しないという問題があった。また、特許文献2では水洗浄が必要であること、また、これを配合する育苗培養土の母土が鹿沼土に限られるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明では、長期的に団粒化を促すことや透水性を高めることができる土壌改良資材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第
1は、フルボ酸又はフミン酸と、木質粗繊維とを含み、前記木質粗繊維は、該木質粗繊維の長さ方向に対して垂直方向に形成されたスリットを有することを特徴とする土壌改良資材である。
【0008】
本発明の第
2は、第
1において、前記フルボ酸又はフミン酸は、前記木質粗繊維に混入している。
【0009】
本発明の第
3は、第1
又は第2の発明の土壌改良資材を製造する方法であって、前記フルボ酸又はフミン酸を、木材廃棄物からなる木材チップを爆砕処理して前記木質粗繊維を得る爆砕処理工程で、添加することを特徴とする土壌改良資材の製造方法である。
【0010】
本発明の第
4は、第
3の発明において、前記木材チップの大きさは、最大径100mm以下であるものとする。
【0011】
本発明の第
5は、フルボ酸又はフミン酸と、木質粗繊維とを含む土壌改良資材を製造する方法であって、前記フルボ酸又はフミン酸は、前記木質粗繊維に混入しており、前記フルボ酸又はフミン酸を、木材廃棄物からなる木材チップを爆砕処理して前記木質粗繊維を得る爆砕処理工程で、添加することを特徴とする土壌改良資材の製造方法である。
【0012】
本発明の第
6は、第1
又は第2の発明の土壌改良資材を土壌中に混合することを特徴とする土壌改良方法である。
【0013】
本発明の第
7は、第1
又は第2の発明の土壌改良資材を土壌中に混合することによって、硬質な土壌環境を軟質なものへ移行させることを特徴とする土壌改良方法である。
【0014】
本発明の第
8は、第1
又は第2の発明の土壌改良資材を土壌中に混合することによって、透水性が低い土壌の透水性を改善させることを特徴とする土壌改良方法である。
【0015】
本発明の第
9は、第1
又は第2の発明の土壌改良資材を土壌中に混合することによって、土壌の団粒化を促進でき、植物が生育し易い環境を作ることを特徴とする土壌改良方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明は上記の構成であるから、次の効果がある。すなわち、上述のごとく得られた木質粗繊維では、フルボ酸又はフミン酸の化学的緩衝能力によってpH調整材等を混合する必要がなくなる。また、フルボ酸又はフミン酸の凝集効果によって長期的に団粒化を促すことや透水性を高めることができる。そうして、土壌改良資材としての木質粗繊維の機能が飛躍的に高くなっているものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】本発明によって製造された木質粗繊維の電子顕微鏡(SEM)画像
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0019】
本実施形態に係る土壌改良資材の製造工程は、
図1に示すように、原料としての木材をチップ状に切断して木材チップを得るチップ化工程S1と、木材チップを爆砕処理して木質粗繊維を得る爆砕処理工程S2とを備えている。
【0020】
チップ化工程S1において用いる木材は林業で発生する間伐材や林地残材、建設業、木材・木製品製造業、家具の製造業、パルプ製造業、輸入木材の卸売業および物品賃貸業から生ずる木材片、おがくず等の産業廃棄物や、その他植木の剪定枝等の木材の一般廃棄物などの木材廃棄物である。樹種は制限されないが、例えばケヤキ、スギ、タモ、ナラ、ヒノキ、アカマツ等が挙げられる。なお、木材に含まれる樹皮分の含有量は80体積%未満とすることが望ましい。これは、爆砕処理工程S2において、樹皮分が80体積%以上となると、爆砕処理工程S2中に圧縮できないためである。
【0021】
また、木材の水分含有率は、ドライベース30質量%超であることが好ましい。木材の水分含有率が、ドライベースで30質量%以下となると、爆砕処理工程S2において水蒸気爆発が起こらない問題がある。ただし、木材の水分含有率がドライベースで30質量%以下の場合であっても木材とともに水を投入することにより爆砕処理可能となる。
【0022】
チップ化工程S1において、木材を、例えば木材チッパー等を用いて、チップ状の小片に切断し、木材チップを得る。木材チップの大きさは、爆砕処理工程S2における爆砕処理の効率化の観点から、好ましくは最大径100mm以下、より好ましくは最大径2mm以上70mm以下、特に好ましくは最大径5mm以上40mm以下である。
【0023】
爆砕処理工程S2において、木材チップを、例えば特開2006−239729号公報に開示されている2軸スクリュー押出機のような連続式の爆砕装置に投入し爆砕処理を施す。木材チップを爆砕装置の投入口に投入すると、木材チップは、回転するスクリュー等の間に挟み込まれて粉砕・擂り潰され、圧縮部を経て高圧縮部へ送り込まれることで十分に圧縮される。
【0024】
ここに、本実施形態に係る土壌改良資材の製造方法は、爆砕処理工程S2において、フルボ酸又はフミン酸を添加することを特徴とする。
【0025】
爆砕処理工程S2において加えるフルボ酸又はフミン酸は、例えば、
(ア)木、草、野菜屑若しくは落葉落枝の未分解の有機物を炭の製造過程で産出される極強酸性の有機酸である木酢液又は竹酢液に適量漬け込み、且つ、例えば600時間以上の長期間養生することで製造されたもの、
(イ)腐植土から抽出したもの、及び、
(ウ)水域の底部の堆積土から抽出したもの
の群から選ばれる少なくとも1種のフルボ酸又はフミン酸である。これらのフルボ酸又はフミン酸は単独で用いてもよいし、2種以上を混合させて用いてもよい。
【0026】
なお、(ア)のフルボ酸又はフミン酸について、例えば以下のような製造方法により製造される。
(1)自然由来の木酢液又は竹酢液とは、木、竹、草、残滓等の未分解の有機物を炭の製造過程で産出されるものである。
(2)有機物に対する酢液の割合は、例えば容量比で、木、又は草、又は野菜屑、又は落葉落枝の未分解の有機物に対して木酢液又は竹酢液が0.5以上の割合とすることができる。
(3)酢液が有機物に染み込むのに例えば5時間以上で、腐植含有量が5%以上になるのに、例えば600時間以上の長時間にわたって酢液に漬け込むものである。
【0027】
なお、爆砕処理工程S2において、フルボ酸又はフミン酸は、水により希釈された状態で添加される。このとき、フルボ酸又はフミン酸は、加水量に対して、好ましくは100倍希釈以上、より好ましくは300倍希釈以上、特に好ましくは500倍希釈以上となるように加える。
【0028】
フルボ酸又はフミン酸は化学的pH緩衝能力を有する。これにより、フルボ酸又はフミン酸を含む木質粗繊維のpHは弱酸性域で安定するため、pH調整材を混合して土壌改良資材のpH調整を行う必要がなくなる。また、フルボ酸又はフミン酸の凝集効果によって長期的に団粒化を促すことや透水性を高めることができる。そうして、土壌改良資材としての木質粗繊維の機能を飛躍的に高めることができる。
【0029】
そして、圧縮された木材チップは、放出口から放出されることによりフルボ酸又はフミン酸を含んだ水蒸気の爆発を起こし、爆砕処理されて、フルボ酸又はフミン酸が混入した木質粗繊維が得られる。
【0030】
上述のような連続式の爆砕装置により爆砕処理を行うことで、
図2の電子顕微鏡(SEM)画像に示すように、木質粗繊維の長さ方向に対して垂直方向にスリットが形成される。このスリット部分から、毛細管現象によってフルボ酸又はフミン酸を含んだ水分が繊維内に取り込まれ、木質粗繊維の保水効果が向上する。
【0031】
なお、蒸煮爆砕装置として一般的なバッチ式の圧力釜装置を用いてもよいが、連続的な爆砕による大量生産可能、加熱不要、また木質粗繊維の保水性能向上の観点から、連続式の爆砕装置を用いることが好ましい。圧力釜装置を用いる場合には、爆砕処理工程S2において、圧力釜に木材チップ及びフルボ酸又はフミン酸を投入し、例えば180℃以上250℃以下の水蒸気下、1MPa以上2MPa以下の圧力下で5〜10分間蒸煮・爆砕処理を行うことができる。
【0032】
上述のごとく得られたフルボ酸又はフミン酸が混入された木質粗繊維は、例えばそのまま土壌改良資材として使用することができる。また、フルボ酸又はフミン酸が混入された木質粗繊維を、例えば乾燥させたり、さらに添加物を添加したりすることにより、種々の土壌改良資材を得ることができる。
【0033】
上述のごとく得られたフルボ酸又はフミン酸が混入された木質粗繊維を含む土壌改良資材を土壌中に混合することによって、例えば以下のような効果を得ることができる。すなわち、硬質な土壌環境を軟質なものへ移行することが可能となる。また、透水性が低い土壌の透水性を改善することが可能となる。さらに、土壌の団粒化を促進でき、植物が生育し易い環境を作ることが可能となる。
【実施例】
【0034】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。
【0035】
(実施例1)
[土壌改良資材の製造手順]
土壌改良資材の製造は、以下の手順で行った。すなわち、スギ材を、チッパーを用いて5〜70mmの木材チップとした。
【0036】
そして、この木材チップとフルボ酸の100〜500倍希釈水溶液10L/m
3とを2軸スクリュー押出機の投入口に混合投入し爆砕した。
【0037】
爆砕後の木質粗繊維を乾燥させて土壌改良資材を得た。
【0038】
[効果確認試験1]
東京都内の小学校において、山中式の土壌硬度計で測定した土壌硬度が25mmであり、植物の根の伸長が阻害される300m
2のグラウンドで、深さ7cmの土壌に対して、実施例1の土壌改良資材を20%混合して転圧して整地した。これにより、土壌硬度が14mmに改善した。また、同様に土壌水分量は、改良前が8%であったのと比較すると16%と倍となった。
【0039】
改良したグラウンドに植栽したイネ科であるティフトンについては、1ヶ月経過した時点で植被率が100%となった。
【0040】
[効果確認試験2]
福島県南相馬の植生盛土において、長谷川式の透水試験で1時間当たり24mmの水位低下であった珪藻土の盛土面に、実施例1の土壌改良資材を3%混合することによって、1時間当たり60mmの水位低下まで改善できている。なお、社団法人日本造園学会の緑化事業における植栽基盤整備マニュアル(2000年)では、1時間当たりで30mm以上の透水があることが植栽基盤として可とすることが決められている。
【0041】
[効果確認試験3]
愛媛県の山腹斜面において、植生マットに実施例1の土壌改良資材を容量換算で10%封入したものと、封入していないものについて、比較する為に各々10m2ずつ張り付け、植生の生育状況を確認した。その結果、実施例1の土壌改良資材を封入した植生マットでは2週間経過した時点で植物の発芽・生育が確認できた。実施例1の土壌改良資材を封入していない植生マットでは、植物の発芽・生育が確認できたのは1ヶ月経過した時点であった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、長期的に団粒化を促すことや透水性を高めることが可能な土壌改良資材を製造することができるので、極めて有用である。
【符号の説明】
【0043】
S1 チップ化工程
S2 爆砕処理工程