特許第6588620号(P6588620)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6588620
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】積層セラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/475 20060101AFI20191001BHJP
   C04B 35/47 20060101ALI20191001BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20191001BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20191001BHJP
【FI】
   C04B35/475
   C04B35/47
   H01G4/30 512
   H01G4/30 515
   H01G4/30 201K
   H01G4/30 201L
   H01B3/12 304
   H01B3/12 318G
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-501900(P2018-501900)
(86)(22)【出願日】2016年6月16日
(65)【公表番号】特表2018-528913(P2018-528913A)
(43)【公表日】2018年10月4日
(86)【国際出願番号】EP2016063879
(87)【国際公開番号】WO2017012795
(87)【国際公開日】20170126
【審査請求日】2018年3月14日
(31)【優先権主張番号】特願2015-143377(P2015-143377)
(32)【優先日】2015年7月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】300002160
【氏名又は名称】ティーディーケイ・エレクトロニクス・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】TDK ELECTRONICS AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】井村 友哉
(72)【発明者】
【氏名】田内 剛士
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 正和
(72)【発明者】
【氏名】寺田 朋広
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−022891(JP,A)
【文献】 特表2008−520541(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/043208(WO,A1)
【文献】 特開平07−267728(JP,A)
【文献】 特開2009−007182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/46−35/493
H01B 3/00−3/56
H01G 4/00−4/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともBi、Na、SrおよびTiを含有するペロブスカイト型の結晶構造を含む誘電体組成物であって、
前記誘電体組成物全体の平均Bi濃度に対して、Bi濃度が0.8倍以下である低Bi相を含み、
前記誘電体組成物の切断面において、前記切断面全体に対する前記低Bi相の面積割合をαとした場合に、0<α≦0.150であることを特徴とする誘電体組成物。
【請求項2】
前記誘電体組成物におけるSrに対するBiのモル比率をβとした場合に、0.125≦β≦2.000である請求項に記載の誘電体組成物。
【請求項3】
La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Yb、Ba、Ca、Mg、およびZnの中から選ばれる少なくとも1種以上を含む請求項1または2に記載の誘電体組成物。
【請求項4】
前記誘電体組成物におけるTiの含有量を100モル部として、前記La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Yb、Ba、Ca、Mg、およびZnの中から選ばれる少なくとも1種以上の含有量が1モル部以上、15モル部以下である請求項に記載の誘電体組成物。
【請求項5】
請求項1〜のいずれかに記載の誘電体組成物を備える誘電体素子。
【請求項6】
請求項1〜のいずれかに記載の誘電体組成物からなる誘電体層を備える電子部品。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載の誘電体組成物からなる誘電体層と内部電極層とを交互に積層されてなる積層部分を有する積層電子部品。
【請求項8】
請求項に記載の積層電子部品を備え、
前記内部電極層は、その端面が前記積層電子部品の二つの対向面において交互に露出するように積層されている積層セラミックコンデンサ。
【請求項9】
前記内部電極層はCuまたはCu合金を含む請求項に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項10】
前記Cu合金は、前記Cu合金を100重量%とする場合に、Cuの含有量が95重量%以上である請求項に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項11】
一対の端子電極が前記積層電子部品の両端部に形成されており、前記内部電極層の露出された端面と導通している請求項8〜10のいずれかに記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項12】
前記端子電極はCuを含む請求項11に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項13】
誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを用いたシート法または印刷法によりグリーンチップを作製する工程と、
前記グリーンチップに脱バインダ処理を施す工程と、
前記グリーンチップを焼成して誘電体組成物である誘電体層と内部電極層を有するコンデンサ素子本体を得る工程と、
前記コンデンサ素子本体に外部電極を印刷または転写し、焼成する工程と、を含み、
前記誘電体層用ペーストは誘電体出発原料と有機ビヒクルの混合物を含む有機塗料であり、または、前記誘電体層用ペーストは誘電体出発原料および水系ビヒクルの混合物を含む水系塗料であり、
前記誘電体出発原料は、酸化ビスマス(Bi)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸ストロンチウム(SrCO)、炭酸バリウム(BaCO)、炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸マグネシウム(MgCO)、酸化亜鉛(ZnO)、水酸化ランタン(La(OH))、酸化ネオジウム(Nd)、酸化サマリウム(Sm)、酸化ガドリニウム(Gd)および酸化チタン(TiO)の粉体から選択され、
焼成された前記誘電体組成物が、少なくともBi、Na、SrおよびTiを含むペロブスカイト型の結晶構造を有する粒子を含み、
前記誘電体組成物が、前記誘電体組成物全体の平均Bi濃度に対して、Bi濃度が0.8倍以下である低Bi相を含み、
前記誘電体組成物の切断面において、前記切断面全体に対する前記低Bi相の面積割合をαとした場合に、0<α≦0.150であるように前記誘電体出発原料が秤量される積層セラミックコンデンサの製造方法。
【請求項14】
前記内部電極層用ペーストは、
導電材、焼成後に前記導電材となる酸化物、有機金属化合物またはレジネートと、前記有機ビヒクルと、を混練して調製され、
前記導電材は、Au、Pt、Ag、Ag−Pd合金、CuまたはNiであり、
前記外部電極用ペーストは前記内部電極層用ペーストと同様にして調製される請求項13に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト型の結晶構造を含み、定格電圧が高い中高圧用途に好適な誘電体組成物およびこれを用いた誘電体素子、電子部品および積層電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子回路の高密度化に伴う誘電体素子の小型化と高信頼性に対する要求は高く、積層セラミックコンデンサ等の電子部品の小型・大容量化・高信頼性化が急速に進むとともに、その用途も拡大している。それに伴い、様々な特性が要求されるようになっている。このような誘電体組成物としては、チタン酸バリウム(BaTiO)を主成分としたものが一般的に良く使用されている。
【0003】
例えば、自動車用のDC−DCコンバータ、AC−DCインバータ等のスナバコンデンサや平滑コンデンサは、数百ボルトの高いDCバイアスが印加される箇所で使用されることが多い。
【0004】
そのため、従来のBaTiOを主成分とした誘電体組成物からなる誘電体層を有する電子部品は高いDCバイアスが印加された場合に比誘電率が低下するという問題がある。この問題は、BaTiOが強誘電体であることに起因するため、DCバイアスが高くなればなるほど、比誘電率は低下する傾向がある。そのため、例えば、BaTiOを主成分とした誘電体組成物からなる誘電体層を有する電子部品を高いDCバイアスが印加される用途で使用する場合には、当該電子部品の使用方法を工夫する必要がある。例えば、あらかじめ比誘電率の低下分を見込んで、当該電子部品を複数個並列に接続して、必要な静電容量または比誘電率を確保して使用するといった方法が知られている。
【0005】
また、従来のBaTiOを主成分とした誘電体組成物は、数ボルト以下の低いDCバイアス下で使用する場合には、誘電体層に印加される電界強度が小さいため、絶縁破壊しない程度に誘電体層の厚みを薄く設計できる。したがって、誘電体層の絶縁破壊に起因するショート不良等が問題となる場合はほとんど無い。しかし、数百ボルト以上の高いDCバイアス下で使用する場合には、誘電体組成物そのものに起因するショート不良や絶縁抵抗の低下などが問題となる。したがって、誘電体層を構成する誘電体組成物に対して非常に高い信頼性が要求される。
【0006】
従来、ジルコン酸バリウムなどの常誘電体を添加して信頼性を向上させた誘電体組成物が開発されてきた。しかしながら、近年、さらに高い信頼性が望まれている。
【0007】
特許文献1には、コアシェル構造を有する誘電体セラミック粒子において、コアとシェルとの面積比を特定の範囲とすることで、温度特性、比誘電率および高温負荷寿命を改善した積層セラミックコンデンサが開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された積層セラミックコンデンサでは、高温負荷寿命の向上が不十分であり、さらなる改善が求められていた。
【0009】
また、下記の特許文献2では、強誘電体であるBaTiOのBサイトの一部がZrで置換されたペロブスカイト型チタン酸バリウム系結晶粒子(BTZ型系結晶粒子)と、同じくペロブスカイト型のチタン酸ビスマスナトリウム系結晶粒子(BNST型結晶粒子)と、が共存する誘電体磁器が開示されている。前記誘電体磁器では、Mg、Mn、および、少なくとも一つ以上の希土類元素が、前記BTZ型結晶粒子と前記BNST型結晶粒子との間の粒界相に存在する。さらに、前記誘電体磁器は、前記BTZ型結晶粒子および前記BNST型結晶粒子のいずれも、平均粒径が0.3〜1.0μmのコアシェル構造を有する。
【0010】
しかしながら、特許文献2に開示された誘電体磁器および積層セラミックコンデンサでは、DCバイアスに対する比誘電率の減少が大きく、自動車用のDC−DCコンバータ、AC−DCインバータ等のスナバコンデンサや平滑コンデンサ等の高電圧下で使用するためには比誘電率が十分とは言えない。したがって、DCバイアス印加時におけるさらなる比誘電率の向上が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−223351号公報
【特許文献2】特開2005−22891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、定格電圧が高い電源回路において好適に用いられ、DCバイアス印加時の比誘電率および高温負荷寿命が優れている誘電体組成物およびこれを用いた誘電体素子、電子部品および積層電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するため、本発明の誘電体組成物は、
少なくともBi、Na、SrおよびTiを含有するペロブスカイト型の結晶構造を含む誘電体組成物であって、
前記誘電体組成物全体の平均Bi濃度に対して、Bi濃度が0.8倍以下である低Bi相を含むことを特徴とする。
【0014】
当該構成を有する誘電体組成物はDCバイアス印加時の比誘電率および高温負荷寿命が優れている。
【0015】
また、前記誘電体組成物の切断面において、前記切断面全体に対する前記低Bi相の面積割合をαとした場合に、0<α≦0.150であることが好ましい。
【0016】
0<α≦0.150とすることにより、高温負荷寿命をさらに高めることができる。
【0017】
また、前記誘電体組成物におけるSrに対するBiのモル比率をβとした場合に、0.125≦β≦2.000であることが好ましい。
【0018】
0.125≦β≦2.000を満たすことにより、DCバイアス印加時の比誘電率をさらに向上させることができる。
【0019】
また、前記誘電体組成物は、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Yb、Ba、Ca、Mg、およびZnの中から選ばれる少なくとも1種以上を含むことが好ましい。
【0020】
La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Yb、Ba、Ca、Mg、およびZnの中から選ばれる少なくとも1種以上を含むことにより、DCバイアス特性をさらに向上させることができる。
【0021】
また、前記誘電体組成物におけるTiの含有量を100モル部として、前記La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Yb、Ba、Ca、Mg、およびZnの中から選ばれる少なくとも1種以上の含有量が1モル部以上、15モル部以下であることが好ましい。
【0022】
La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Yb、Ba、Ca、Mg、およびZnの中から選ばれる少なくとも1種以上の含有量を1モル部以上、15モル部以下とすることにより、DCバイアス特性をさらに向上させることができる。
【0023】
本発明に係る誘電体素子は、上記誘電体組成物を備える。
【0024】
本発明に係る電子部品は、上記誘電体組成物からなる誘電体層を備える。
【0025】
本発明に係る積層電子部品は、上記誘電体組成物からなる誘電体層と内部電極層とを交互に積層されてなる積層部分を有する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る誘電体組成物の断面の例である。
図3】本発明の一実施形態に係る誘電体組成物の断面の例である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサについて、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明に係る誘電体組成物は誘電体素子にも用いることができ、単板型コンデンサなどの積層セラミックコンデンサ以外の電子部品にも用いることができる。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図の模式図である。
【0029】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ200は、誘電体層7と、内部電極層6A,6Bと、が交互に積層された構成のコンデンサ素子本体5を有する。内部電極層6A,6Bは、各端面がコンデンサ素子本体5の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。一対の外部電極11A,11Bは、コンデンサ素子本体5の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層6A,6Bの露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0030】
コンデンサ素子本体5の形状は、通常、直方体状であるが特に制限されない。また、コンデンサ素子本体5の寸法にも特に制限はない。通常は、概ね、(長辺)×(短辺)×(高さ)=(0.6mm〜7.0mm)×(0.3mm〜6.4mm)×(0.3mm〜2.5mm)である。
【0031】
内部電極層6A,6Bは、誘電体層7と交互に設けられ、各端面がコンデンサ素子本体5の対向する2つの端部の表面に交互に露出するように積層されている。また、一対の外部電極11A,11Bは、コンデンサ素子本体5の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層6A,6Bの露出端面に接続されて、積層セラミックコンデンサ200を構成している。
【0032】
また、内部電極層6A,6Bは、実質的に電極として作用する貴金属または卑金属の導電材から構成される。前記貴金属または卑金属の導電材は、具体的には、Ag、Ag合金、Cu、Cu合金のいずれかから構成されることが好ましい。前記Ag合金または前記Cu合金に含まれるAg、Cu以外の金属には特に制限はないが、Ni、Mn、Cr、Co、Al、Wから選択される1種または2種以上の金属が好ましい。また、Ag合金を用いる場合には、前記Ag合金を100重量%とする場合にAgの含有量が95重量%以上であることが好ましい。Cu合金を用いる場合には、前記Cu合金を100重量%とする場合にCuの含有量が95重量%以上であることが好ましい。
【0033】
前記導電材中には、P、C、Nb、Fe、Cl、B、Li、Na、K、F、S等の各種微量成分が合計0.1重量%以下含有されていてもよい。
【0034】
内部電極層6A,6Bの積層数や厚さ等の諸条件は、目的や用途に応じ適宜決定すればよい。内部電極層6A,6Bの厚さは、0.1μm〜4.0μm程度が好ましく、0.2μm〜3.0μmがより好ましい。
【0035】
外部電極11A,11Bは、コンデンサ素子本体5の内部で交互に配置された内部電極層6A,6Bと各々導通する電極であり、コンデンサ素子本体5の両端部に一対形成されている。外部電極11A,11Bを構成する金属に特に制限はない。Ni、Pd、Ag、Au、Cu、Pt、Rh、Ru、Ir等から選択される1種類の金属を単独で用いてもよく、2種類以上の金属の合金を用いてもよい。通常は、Cu、Cu合金、Ni、Ni合金、Ag、Ag−Pd合金、In−Ga合金等が外部電極11A,11Bとして使用される。
【0036】
外部電極11A,11Bの厚さは用途等に応じて適宜決定されればよい。外部電極11A,11Bの厚さは、10〜200μm程度であることが好ましい。
【0037】
誘電体層7は、本実施形態に係る誘電体組成物からなる。誘電体層7の1層あたりの厚さは、任意に設定することができ、目的や用途に応じ適宜決定すればよい。誘電体層7の1層あたりの厚さには特に制限はない。例えば1〜100μmである。なお、誘電体層7の1層あたりの厚さは、通常は30μm以下であり、小型化の観点からは、10μm以下とすることが好ましい。また、誘電体層7の積層数には特に制限はない。目的や用途に応じて適宜決定すればよい。
【0038】
ここで、本実施形態に係る誘電体層7に含まれる誘電体組成物は、少なくともBi、Na、SrおよびTiを含有するペロブスカイト型の結晶構造を含む誘電体組成物である。
【0039】
前記ペロブスカイト型の結晶構造を含む誘電体組成物とは、一般式ABOで表されるペロブスカイト型化合物を主相とする多結晶体である。AサイトはBi、Na、Srから選ばれる少なくとも1種を含み、Bサイトは少なくともTiを含む。
【0040】
Aサイト全体を100原子%とする場合に、Aサイトに占めるBi、Na、Srの割合は合計80原子%以上であることが好ましい。また、Bサイト全体を100原子%とする場合に、Bサイトに占めるTiの割合は80原子%以上であることが好ましい。
【0041】
前述の通り、本実施形態に係る誘電体層7は誘電体組成物を含む。図2図3に示すように、前記誘電体組成物は低Bi相8を含まない焼結体粒子20、低Bi相8を含む焼結体粒子30および粒界10からなる。なお、本実施形態に係る誘電体層7に含まれる誘電体組成物は焼結後の誘電体組成物である。以後、低Bi相を含まない焼結体粒子20、低Bi相を含む焼結体粒子30を総称して焼結体粒子20,30と呼ぶことがある。
【0042】
ここで、前記誘電体組成物は、前記誘電体組成物全体の平均Bi濃度に対して、Bi濃度が0.8倍以下である低Bi相8を含む。
【0043】
また、前記誘電体組成物は、焼結体粒子20,30および粒界10の他に、ポア(気孔)部(図示せず)を含んでもよい。前記ポア部には、酸素がほとんど存在しない。前記ポア部の断面積には特に制限はないが、前記誘電体組成物全体に対して面積割合で5%以下であることが好ましい。
【0044】
低Bi相8は、前記誘電体組成物にどのような態様で含まれていても良い。例えば、図2に示すように、低Bi相8が焼結体粒子に含まれていてもよい。図3に示すように、低Bi相8が粒界10に含まれていてもよい。もちろん、低Bi相8が焼結体粒子および粒界10の両方に含まれていてもよい。
【0045】
低Bi相8におけるBi濃度の下限には特に制限はない。
【0046】
本実施形態に係る誘電体組成物は、低Bi相8を有することで、DCバイアス印加時の比誘電率を好ましい範囲内に維持するとともに、高温負荷寿命が向上する。
【0047】
一方、低Bi相8が存在しない誘電体組成物は、低Bi相8が存在する誘電体組成物と比較して、高温負荷寿命が低下し、信頼性が低下する。
【0048】
以下、低Bi相8の判別方法、低Bi相8の有無の判定方法、および低Bi相8が占める面積割合αの算出方法の一例について説明する。
【0049】
まず、走査透過型電子顕微鏡(STEM)により、内部電極層6A,6Bが交差する位置で切り出した誘電体層7の層断面に観察視野を設定する。
【0050】
観察視野の面積に特に制限は無いが、EDS分析の精度および分析効率の観点から、焼結体粒子20,30が20〜50個程度、含まれる面積であることが好ましい。観察視野は、具体的には、5μm×5μm程度とすることが好ましい。また、観察視野の倍率は1万〜5万倍とすることが好ましい。
【0051】
次に、エネルギー分散型X線分光法(EDS)により前記観察視野全体において組成マッピング分析を行い、Bi元素のX線スペクトルを測定する。得られたX線スペクトルから、前記観察視野全体に含まれるBi元素の平均濃度(平均Bi濃度)を算出する。次に、Bi元素の濃度が前記平均Bi濃度の0.8倍以下である領域と0.8倍超である領域とが区別できるように、Bi元素についてのマッピング画像に対して、画像処理を行う。
【0052】
ここで、前記Bi元素の濃度が前記平均Bi濃度の0.8倍以下である領域について、低Bi相8であるかポア部であるかを区別する。なお、前記低Bi相8と前記ポア部とを区別する方法には特に制限はない。誘電体組成物の組成や状態等に応じて適切な方法で区別することができる。例えば、STEM等で電子像を観察し、焼結体粒子20,30および粒界10の内部にあるBi濃度の低い部分を低Bi相8、焼結体粒子20,30および粒界10のいずれでもない箇所にあるBi濃度の低い部分をポア部とすることができる。また、EDSで酸素濃度を測定し、実質的に酸素を含みBi濃度の低い部分を低Bi相8、実質的に酸素を含まずBi濃度の低い部分をポア部とすることもできる。
【0053】
そして、画像処理後のマッピング画像から、視野全体に対して低Bi相8が占める面積割合αを算出する。具体的には、前記マッピング画像において低Bi相をすべて選択し、選択した領域が占めるピクセルの個数をカウントすることで視野全体に対する面積割合αを算出する。
【0054】
本願では、前記観察視野全体のうち、どこかに低Bi相8が存在する場合には、誘電体組成物全体の平均Bi濃度に対して、Bi濃度が0.8倍以下である低Bi相を含むとする。逆に、前記観察視野全体のどこにも低Bi相8が存在しない場合には、誘電体組成物全体の平均Bi濃度に対して、Bi濃度が0.8倍以下である低Bi相を含まないとする。
【0055】
なお、断面積が1ピクセルに相当する断面積に満たないほど小さいためにマッピング画像に現れない低Bi相8は存在しないものとみなす。
【0056】
以上、低Bi相8の判別方法および低Bi相8が占める面積割合αの算出方法の一例について説明したが、低Bi相8の判別方法および低Bi相8が占める面積割合αの算出方法には特に制限はない。例えば、STEMの代わりにTEM(透過型電子顕微鏡)を用いてもよい場合がある。
【0057】
なお、前記誘電体組成物の組成や作製方法、焼成条件などによって、低Bi相8の生成の有無および前記面積割合αを適宜制御することができる。例えば、粒径の大きな原料粉末を含ませたり、比較的低温で焼成したりする事により、低Bi相8の生成を促すことができる。
【0058】
前記面積割合αは、0<α≦0.150であることが好ましい。0<α≦0.150を満たす場合には、高温負荷寿命がさらに向上する。さらに好ましくは0.001≦α≦0.150である。
【0059】
また、本実施形態の誘電体組成物は、Sr含有量に対するBi含有量のモル比率βが0.125≦β≦2.00を満たすことが好ましい。βが上記の範囲内であると、DCバイアス印加時の比誘電率がさらに向上する。
【0060】
また、本実施形態の誘電体組成物は、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Yb、Ba、Ca、Mg、およびZnの中から選ばれた少なくとも1つ(以下、副成分と呼ぶ場合がある)を含んでいても良い。前記副成分を含有することにより、DCバイアス特性がさらに向上する。
【0061】
前記誘電体組成物におけるTiの含有量を100モル部として、前記副成分の含有量は1モル部以上、15モル部以下であることが好ましい。前記副成分の含有量が上記の範囲内であると、DCバイアス特性がさらに向上する。前記副成分の含有量は、さらに好ましくは1モル部以上、10モル部以下である。
【0062】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法に特に限定はない。例えば、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、前記グリーンチップを焼成した後、外部電極を印刷又は転写して焼成することにより製造される。以下、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法について具体的に説明する。
【0063】
誘電体層用ペーストの種類に特に限定はない。例えば、誘電体原料と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、誘電体原料と水系ビヒクルとを混練した水系の塗料であってもよい。
【0064】
誘電体原料には、上記した誘電体組成物に含まれる金属、例えばBi、Na、Sr、Ti、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Yb、Ba、Ca、MgおよびZnからなる群から選択される金属の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができる。その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、例えば炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることができる。誘電体原料としては、通常、平均粒径0.1〜3μm程度の粉末が用いられる。前記誘電体原料は、平均粒径0.1〜1μmの粉末であることが好ましい。また、誘電体原料の平均粒径は、原料の混合時間を適宜変化させることにより調整することができる。
【0065】
誘電体層用ペーストを有機系の塗料とする場合には、バインダ等を有機溶剤に溶解させた有機ビヒクルと、誘電体原料とを混練すればよい。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。また、有機ビヒクルに用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法等、利用する方法に応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0066】
また、誘電体層用ペーストを水系の塗料とする場合には、水溶性のバインダや分散剤等を水に溶解させた水系ビヒクルと、誘電体原料とを混練すればよい。水系ビヒクルに用いる水溶性バインダは特に限定されず、例えばポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂等を用いればよい。
【0067】
内部電極層用ペーストは、上記した各種金属または合金からなる導電材、あるいは焼成後に上記した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した有機ビヒクルまたは水系ビヒクルとを混練して調製する。外部電極用ペーストは、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調製することができる。
【0068】
上記した各ペーストの作製に有機ビヒクルを用いる場合、当該有機ビヒクルの含有量に特に制限はない。例えば、前記バインダは誘電体原料に対して1〜5重量%程度、前記有機溶剤は10〜50重量%程度とすることができる。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの添加物の総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0069】
印刷法を用いる場合には、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の基板上に、前記誘電体層用ペーストおよび前記内部電極層用ペーストを交互に繰り返し印刷する。印刷後の各ペーストを所定形状に切断した後に、前記基板から剥離してグリーンチップとする。
【0070】
シート法を用いる場合には、前記誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、前記グリーンシートの上に前記内部電極層用ペーストを印刷する。その後、前記グリーンシートを剥離して積層、切断してグリーンチップとする。
【0071】
前記グリーンチップを焼成する前に、脱バインダ処理を施す。脱バインダ処理の条件には特に制限はなく、通常の条件で行えばよい。
【0072】
前記内部電極層の導電材に、CuやCu合金等、卑金属の単体または卑金属を含む合金を用いる場合には、還元雰囲気において脱バインダ処理を施すことが好ましい。前記還元雰囲気の種類にも特に限定はなく、例えば、加湿したNガスや加湿したNとHとの混合ガス等を用いることができる。
【0073】
脱バインダ処理における昇温速度、保持温度、温度保持時間に特に制限はない。昇温速度は、好ましくは0.1〜100℃/時間、より好ましくは1〜10℃/時間である。保持温度は、好ましくは200〜500℃、より好ましくは300〜450℃である。温度保持時間は、好ましくは1〜48時間、より好ましくは2〜24時間である。脱バインダ処理によりバインダ成分等の有機成分を300ppm程度まで除去することが好ましく、200ppm程度まで除去することがより好ましい。
【0074】
前記グリーンチップを焼成してコンデンサ素子本体を得る際の焼成雰囲気は、前記内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定すればよい。
【0075】
前記内部電極層用ペースト中の導電材としてCuやCu合金等、卑金属の単体または卑金属を含む合金を用いる場合には、焼成雰囲気中の酸素分圧を10−6〜10−8気圧とすることが好ましい。酸素分圧を10−8気圧以上とすることにより、誘電体組成物に含まれるペロブスカイト型の結晶構造の分解および高温負荷寿命の低下を抑制することができる。また、酸素分圧を10−6気圧以下とすることにより、内部電極層の酸化を抑制することができる。
【0076】
また、焼成時の保持温度は、900〜1400℃、好ましくは900〜1200℃、より好ましくは1000〜1100℃である。保持温度を900℃以上とすることにより、焼成による緻密化を十分に進行させやすくなる。また、保持温度を1200℃以下とすることにより、内部電極層の異常焼結および内部電極層を構成する各種材料の拡散を抑制しやすくなる。内部電極層の異常焼結を抑制することで、内部電極の途切れを防止しやすくなる。内部電極層を構成する各種材料の拡散を抑制することで、高温負荷寿命の低下を防止しやすくなる。
【0077】
上記温度範囲内において、焼成時の保持温度を適宜設定することにより、結晶粒径を適切に制御しやすくなる。また、焼成雰囲気には特に制限はない。焼成雰囲気を還元性雰囲気とすることが、内部電極層の酸化を抑制する上で好ましい。雰囲気ガスにも特に制限はない。雰囲気ガスとしては、例えばNとHとの混合ガスを加湿して用いることが好ましい。また、焼成時間には特に制限はない。
【0078】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造において、前記焼成後にアニール(再酸化)を行うことができる。アニールは通常の条件で行えばよい。アニール雰囲気にも特に限定はないが、誘電体層が酸化し、内部電極層が酸化しない雰囲気とすることが好ましい。例えば、加湿したNガスや加湿したNとHとの混合ガス等を用いることができる。
【0079】
上記した脱バインダ処理、焼成及びアニールにおいて、NガスやNとHとの混合ガス等を加湿するには、例えばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は20〜90℃程度が好ましい。
【0080】
脱バインダ処理、焼成及びアニールの各工程は、連続して行ってもよく、それぞれ独立して行ってもよい。各工程を連続して行う場合には、脱バインダ処理後、冷却せずに雰囲気を変更し、続いて焼成時の保持温度まで昇温して焼成を行うことが好ましい。一方、各工程をそれぞれ独立して行う場合、焼成に関しては、脱バインダ処理時の保持温度までNガス雰囲気下で昇温した後に、雰囲気を焼成時の雰囲気に変更し、雰囲気の変更後に焼成時の保持温度まで昇温を続けることが好ましい。焼成後においては、脱バインダ処理時の保持温度まで冷却した後、再びNガス雰囲気に変更してさらに冷却を続けることが好ましい。なお、上記のNガスについては加湿してもしなくてもよい。
【0081】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体に、例えばバレル研磨やサンドブラスト等により端面研磨を施し、外部電極用ペーストを印刷または転写して焼成し、外部電極を形成する。外部電極用ペーストの焼成は、例えば、加湿したNとHとの混合ガス中で600〜800℃にて10分間〜1時間程度実施することが好ましい。そして、必要に応じて、外部電極表面に被覆層を形成する。被覆層の形成はめっき等により行う。
【0082】
以上、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ及びその製造方法について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0083】
本発明に係る誘電体素子、電子部品および積層電子部品は、比較的に高い定格電圧が印加される箇所に好適に用いられる。例えば、DC−DCコンバータ、AC−DCインバータ等の定格電圧が高い電源回路において好適に用いられる。
【0084】
また、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの用途に特に限定はない。例えば、高いDCバイアス印加時に高い比誘電率を必要とする回路保護用のスナバコンデンサや、交流を直流に変換するAC−DCインバータ用の平滑コンデンサなどに用いることができる。
【0085】
また、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板などに実装される。そして、前記プリント基板は前記各種電子機器、例えばデジタルテレビやモデム等に使用される。
【0086】
さらに、本発明に係る誘電体組成物は鉛を含有していない。したがって、本発明に係る誘電体組成物、誘電体素子、電子部品および積層電子部品は環境面においても優れている。
【実施例】
【0087】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、本発明において、誘電体組成物、誘電体素子、電子部品および積層電子部品に印加される直流電界をDC(直流)バイアスと呼ぶ。また、DCバイアスの印加前後での比誘電率の変化率をDCバイアス特性と呼ぶ。前記比誘電率の変化率の絶対値が小さいほどDCバイアス特性が優れている。
【0088】
まず、誘電体層を作製するための出発原料として、酸化ビスマス(Bi)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸ストロンチウム(SrCO)、炭酸バリウム(BaCO)、炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸マグネシウム(MgCO)、酸化亜鉛(ZnO)、水酸化ランタン(La(OH))、酸化ネオジウム(Nd)、酸化サマリウム(Sm)、酸化ガドリニウム(Gd)、酸化チタン(TiO)の原料粉末を用意した。
【0089】
本焼成後の誘電体組成物が表1に示す構成を有する誘電体組成物となるように、上記粉末原料を秤量した。
【0090】
秤量した原料粉末をボールミルにより湿式混合した後、得られた混合物を空気中において750℃〜850℃で2時間仮焼きして仮焼粉末を作製した。
【0091】
そして、上記仮焼粉末に、有機溶剤および有機ビヒクルを加え、ボールミルにより湿式混合して誘電体層用ペーストを作製した。それとともに、導電材料の粉末として、Ag粉末、Ag−Pd合金粉末、あるいはCu粉末を有機ビヒクルと混練し、Ag、Ag−Pd合金、あるいはCuの各種内部電極層用ペーストを作製した。続いて、前記誘電体層用ペーストをシート成形法によりシート状に成形し、セラミックグリーンシートを得た。
【0092】
前記セラミックグリーンシート上に前記内部電極層用ペーストをスクリーン印刷により塗布し、内部電極層を印刷した。内部電極層を印刷したセラミックグリーンシートを積層後、所定の形状に切断することにより積層体グリーンチップを作製した。各積層体グリーンチップに対して300℃〜500℃で脱バインダを行い、有機成分を300ppm程度まで除去した。前記脱バインダ後、900℃〜1400℃の大気または還元雰囲気にて焼成を行った。焼成時間は適宜変化させた。還元雰囲気にて焼成を行う場合の雰囲気ガスとしては、加湿したNとHとの混合ガスを用いた。
【0093】
次いで、得られた積層セラミック焼成体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてIn−Gaを塗布し、図1に示す積層セラミックコンデンサの試料を得た。得られたコンデンサ試料のサイズは、3.2mm×1.6mm×0.6mmであり、誘電体層の厚み20μm、内部電極層の厚み1.5μm、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は4とした。
【0094】
なお、前記積層セラミック焼成体の誘電体層を溶剤により溶解し、ICP発光分光分析したところ、前記誘電体層の組成は表1に示した組成と同一の組成であることが確認された。
【0095】
また、前記積層セラミック焼結体から内部電極が交差する断面を切り出し、当該断面における誘電体層の結晶構造をX線回折法により測定、解析した。その結果、前記積層セラミック焼結体の誘電体層は、ペロブスカイト型の結晶構造を持つ組成物からなることを確認した。
【0096】
得られた各積層セラミック焼結体について、低Bi相の面積割合およびBi元素平均濃度の測定を下記に示す方法で行った。次に、比誘電率、DCバイアス特性および高温負荷寿命を下記に示す方法により測定した。
【0097】
まず、得られた各積層セラミック焼結体から内部電極層が交差する断面を切り出し、切り出した断面をガリウムイオンビームにより薄片化し、断面観察用試料を作製した。
【0098】
低Bi相の面積割合α
走査透過型電気顕微鏡(STEM)により内部電極層が交差する位置で切り出した誘電体層の層断面を観察した。なお、観察視野は5μm×5μm、倍率は3万倍とした。エネルギー分散型X線分光法(EDS)により誘電体層の断面に設定した視野全体においてマッピング分析を行い、Bi元素のX線スペクトルを測定した。得られたX線スペクトルから、視野全体に含まれるBi元素の平均濃度を算出した。次に、Bi元素のマッピング画像について、Bi元素の濃度が前記平均濃度の0.8倍以下である相(低Bi相)と、0.8倍超である相とを区別するように画像処理を行った。なお、低Bi相と気孔(ポア部)とを区別する方法には、特に制限はない。例えば、酸素の有無により区別することができる。そして、画像処理後の画像から、視野全体に占める低Bi相が占める面積割合αを算出した。前記画像処理後の画像において、前記低Bi相を占めるピクセルの個数をカウントし、視野全体の総ピクセル数で割ることで視野全体に対する面積割合αを算出した。結果を表1に示す。
【0099】
比誘電率ε1
積層セラミックコンデンサ試料に対し、25℃において、デジタルLCRメータ(Hewlett−Packard社,4284A)にて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの信号を入力し、静電容量を測定した。そして、比誘電率ε1(単位なし)を、測定された静電容量、対向電極面積および層間距離から算出した。本実施例では、10個の積層セラミックコンデンサ試料を用いて算出した平均値を比誘電率ε1とした。結果を表1に示す。
【0100】
比誘電率ε2
DCバイアス発生装置(GLASSMAN HIGH VOLTAGE社,WX10P90)をデジタルLCRメータ(Hewlett−Packard社,4284A)に接続して、積層セラミックコンデンサ試料に8V/μmのDCバイアスを印加しながら、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの条件から測定された静電容量、対向電極面積および層間距離から算出した(単位なし)。本実施例では、10個の積層セラミックコンデンサ試料を用いて算出した平均値を比誘電率ε2とした。本実施例では比誘電率ε2は800以上を良好とし、1000以上をさらに良好とした。結果を表1に示す。
【0101】
DCバイアス特性
比誘電率ε1と比誘電率ε2を用い、下の式(1)より算出した。優れたDCバイアス特性を有することは本発明の目的を達成する上で必須ではないが、DCバイアス特性の絶対値は小さい方が好ましい。本実施例では、DCバイアス特性が±30%以内である場合を良好とした。なお、DCバイアス特性が+30%を超えることは現実的ではない。したがって、実質的にはDCバイアス特性の良好範囲に上限はない。
DCバイアス特性(%)=100×(ε2−ε1)/ε1 ・・・ 式(1)
【0102】
高温負荷寿命
積層セラミックコンデンサ試料に対し、150℃にて、50V/μmの電界下で直流電圧の印加状態に保持し、高温負荷寿命を測定した。本実施例においては、直流電圧の印加開始から絶縁抵抗が一桁落ちるまでの時間を高温負荷寿命と定義した。また、この高温負荷寿命測定は、10個の積層セラミックコンデンサ試料について行い、平均値を算出した。本実施例では、前記平均値が20時間以上を良好とし、30時間以上をより良好とした。結果を表1に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
表1より、低Bi相が存在する実施例1〜15の積層セラミックコンデンサは、8V/μmのDCバイアス印加時の比誘電率ε2が800以上、かつ、高温負荷寿命が20時間以上であった。
【0105】
また、低Bi相の面積比率αが0<α≦0.150である実施例2、4〜15の積層セラミックコンデンサは、高温負荷寿命が30時間以上と、より良好な高温負荷寿命を示した。
【0106】
一方、低Bi相が存在しない比較例1および2の積層セラミックコンデンサは、高温負荷寿命が20時間未満であった。
【0107】
また、Srに対するBiのモル比βが0.125≦β≦2.000である実施例2〜15の積層セラミックコンデンサは、8V/μmのDCバイアス印加時の比誘電率ε2が1000以上と、さらに良好であった。
【0108】
副成分を1モル部以上、15モル部以下含む実施例6〜15の積層セラミックコンデンサは、DCバイアス特性が±30%以内となった。すなわち、副成分を含む積層セラミックコンデンサ試料はDCバイアス印加時の比誘電率ε2、高温負荷寿命とともにDCバイアス特性も良好となった。
【符号の説明】
【0109】
5…コンデンサ素子本体
6A,6B…内部電極層
7…誘電体層
8…低Bi相
10…粒界
11A,11B…外部電極
20…低Bi相を含まない焼結体粒子
30…低Bi相を含む焼結体粒子
200…積層セラミックコンデンサ
300…誘電体組成物
図1
図2
図3