特許第6588691号(P6588691)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6588691C/Cコンポジット製成形体、その製造方法、及びC/Cコンポジット製成形体を用いた熱処理用冶具
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6588691
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】C/Cコンポジット製成形体、その製造方法、及びC/Cコンポジット製成形体を用いた熱処理用冶具
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20191001BHJP
   C04B 35/80 20060101ALI20191001BHJP
   B29B 15/12 20060101ALI20191001BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20191001BHJP
【FI】
   C08J5/04
   C04B35/80
   B29B15/12
   B29K105:08
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-147423(P2014-147423)
(22)【出願日】2014年7月18日
(65)【公開番号】特開2016-23214(P2016-23214A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年7月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222842
【氏名又は名称】東洋炭素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130580
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100126963
【弁理士】
【氏名又は名称】来代 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100131864
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 正憲
(72)【発明者】
【氏名】富田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】町野 洋
(72)【発明者】
【氏名】平岡 利治
(72)【発明者】
【氏名】尾藤 信吾
(72)【発明者】
【氏名】冨田 修平
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−252923(JP,A)
【文献】 特開昭59−184641(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/087443(WO,A1)
【文献】 特開2014−019083(JP,A)
【文献】 特開2001−123219(JP,A)
【文献】 特開2012−036018(JP,A)
【文献】 特開2012−136358(JP,A)
【文献】 特開2009−280434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04
B29B 15/12
C04B 35/80
B29K 105/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底壁部と、この底壁部の周縁に立設された側壁部とを備え、炭素繊維及びマトリックスを含んで構成されるC/Cコンポジット製成形体であって、
上記側壁部は、平面視において少なくとも1箇所の屈曲部及び/又は湾曲部を有し、且つ上記炭素繊維のうち少なくとも一部の炭素繊維は連続繊維であり該連続繊維が上記底壁部から上記側壁部にかけて連続して設けられており、
折り曲げにより少なくとも1枚に立ち上がり部が形成された複数の成形体用シートよりなる積層構造を有し、
上記複数の成形体用シートの間に、上記立ち上がり部で複数枚が重なることによる密度の差異が実質的になく、
上記複数の成形体用シートが、輪郭および/または切り込みの入れ方の異なる成形体用シートを少なくとも1枚含むことを特徴とするC/Cコンポジット製成形体。
【請求項2】
上記側壁部は、上記底壁部の周縁に全周にわたって設けられている、請求項1記載のC/Cコンポジット製成形体。
【請求項3】
上記側壁部の少なくとも一部に切り欠きが形成されている、請求項1又は2に記載のC/Cコンポジット製成形体。
【請求項4】
上記側壁部は平板状であり、上記屈曲部が成す角度は150°以下である、請求項1〜3の何れか1項に記載のC/Cコンポジット製成形体。
【請求項5】
上記炭素繊維は、一方の側壁部から、底部を挟んで相対向する他方の側壁部まで連続して延設されている、請求項1〜4の何れか1項に記載のC/Cコンポジット製成形体。
【請求項6】
上記側壁部には、上記屈曲部を挟んで連続して設けられた炭素繊維を有する、請求項1〜5の何れか1項に記載のC/Cコンポジット製成形体。
【請求項7】
上記炭素繊維には、1Dクロス及び/又は2Dクロスが用いられている、請求項1〜6の何れか1項に記載のC/Cコンポジット製成形体。
【請求項8】
上記炭素繊維は、複数束ねられたストランド間に空隙部が設けられた網状体となっている、請求項1〜7の何れか1項に記載のC/Cコンポジット製成形体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のC/Cコンポジット製成形体を用いたことを特徴とする熱処理用治具。
【請求項10】
底壁部と側壁部とを備え、炭素繊維及びマトリックスを含んで構成されるC/Cコンポジット製成形体の製造方法であって、
炭素繊維に樹脂を含浸させた後、加熱することにより、プリプレグシートを作製する工程と、
上記プリプレグシートを、炭素繊維が延設されている箇所の一部で折り曲げて立ち上がり部を形成する工程と、
上記立ち上がり部を接合して側壁部を形成する工程と、
上記立ち上がり部が形成されたプリプレグシートを少なくとも1枚含んで構成される複数の成形体用シートを重ね合わせる工程と、
を含み、
上記複数の成形体用シートを、輪郭および/または切り込みの入れ方の異なる成形体用シートを少なくとも1枚含むように用意することを特徴とするC/Cコンポジット製成形体の製造方法。
【請求項11】
上記樹脂を含浸させた後の成形は、真空バッグ成形又はオートクレーブ成形により行われる、請求項10に記載のC/Cコンポジット製成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C/Cコンポジット製成形体、その製造方法、及びC/Cコンポジット製成形体を用いた熱処理用冶具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、箱型のC/Cコンポジットを得ようとした場合、組み立て構造となるが、厚肉となりやすく構造が複雑になるため、重量が大きくなるという問題点があった。このような問題点を解決するために、一体型のC/Cコンポジットを用いる方法、具体的には、短繊維プリプレグを用い金型成形により繊維を流動させて、一体型の成形体を得る方法等が提案されている(下記特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平01−160866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に示した提案では、炭素繊維の流動が十分でないことがあることから、特に、底壁部と側壁部との境界部分や底壁部自体が低強度になったり、強度のばらつきが多いなどの問題が生ずることがあった。このため、熱処理用冶具等として用いた場合に、底壁部等が破損して、製品が落下する場合があるといった課題を有していた。
【0005】
そこで本発明は、高強度なC/Cコンポジット製成形体、その製造方法、及びC/Cコンポジット製成形体を用いた熱処理用冶具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明のC/Cコンポジット製成形体は、底壁部と、この底壁部の周縁に立設された側壁部とを備え、炭素繊維及びマトリックスを含んで構成されるC/Cコンポジット製成形体であって、上記側壁部は、平面視において少なくとも1箇所の屈曲部及び/又は湾曲部を有し、且つ上記炭素繊維のうち少なくとも一部の炭素繊維は連続繊維であり該連続繊維が上記底壁部から上記側壁部にかけて連続して設けられており、折り曲げにより少なくとも1枚に立ち上がり部が形成された複数の成形体用シートよりなる積層構造を有し、上記複数の成形体用シートの間に、上記立ち上がり部で複数枚が重なることによる密度の差異が実質的になく、上記複数の成形体用シートが、輪郭および/または切り込みの入れ方の異なる成形体用シートを少なくとも1枚含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高強度なC/Cコンポジット製成形体、その製造方法、及びC/Cコンポジット製成形体を用いた熱処理用冶具を提供できるといった優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は第1実施例の実施例1におけるプリプレグシートの切り込み、加工方法を示す平面図であり、同図(a)はプリプレグシート10の平面図、同図(b)はプリプレグシート11の平面図である。
図2】同図(a)はプリプレグシート11の組み立て状態を示す斜視図、同図(b)はプリプレグシート10の組み立て状態を示す斜視図、同図(c)は成形型の斜視図である。
図3】第1実施例の実施例1の方法で作製したC/Cコンポジット製成形体を示す斜視図である。
図4】第1実施例の実施例2におけるプリプレグシートの切り込み、加工方法を示す平面図であり、同図(a)はプリプレグシート12の平面図、同図(b)はプリプレグシート13の平面図、同図(c)はプリプレグシート14の平面図である。
図5】同図(a)はプリプレグシート14の組み立て状態を示す斜視図、同図(b)はプリプレグシート13を示す斜視図、同図(c)はプリプレグシート12の組み立て状態を示す斜視図、同図(d)は成形型の斜視図である。
図6】第1実施例の実施例3におけるプリプレグシートの切り込み、加工方法を示す平面図であり、同図(a)はプリプレグシート15の平面図、同図(b)はプリプレグシート16の平面図、同図(c)はプリプレグシート17の平面図である。
図7】同図(a)はプリプレグシート17の組み立て状態を示す斜視図、同図(b)はプリプレグシート16の組み立て状態を示す斜視図、同図(c)はプリプレグシート15の組み立て状態を示す斜視図、同図(d)は成形型の斜視図である。
図8】同図(a)は強度試験の方法を示す側面図、同図(b)は試験試料の正面図である。
図9】第2実施例の実施例1におけるプリプレグシートの切り込み、加工方法を示す平面図であり、同図(a)はプリプレグシート40の平面図、同図(b)はプリプレグシート41の平面図である。
図10】同図(a)はプリプレグシート40の組み立て状態を示す斜視図、同図(b)はプリプレグシート41の組み立て状態を示す斜視図、同図(c)は成形型の斜視図である。
図11】第2実施例の実施例1の方法で作製したC/Cコンポジット製成形体を示す斜視図である。
図12】第2実施例の実施例2におけるプリプレグシートの切り込み、加工方法を示す平面図であり、同図(a)はプリプレグシート50の平面図、同図(b)はプリプレグシート51の平面図である。
図13】同図(a)はプリプレグシート50の組み立て状態を示す斜視図、同図(b)はプリプレグシート51の組み立て状態を示す斜視図、同図(c)は成形型の斜視図である。
図14】第2実施例の実施例2の方法で作製したC/Cコンポジット製成形体を示す斜視図である。
図15】第2実施例の実施例3におけるプリプレグシートの切り込み、加工方法を示す平面図であり、同図(a)はプリプレグシート60の平面図、同図(b)はプリプレグシート61の平面図である。
図16】同図(a)はプリプレグシート60の組み立て状態を示す斜視図、同図(b)はプリプレグシート61の組み立て状態を示す斜視図、同図(c)は成形型の斜視図である。
図17】第2実施例の実施例3の方法で作製したC/Cコンポジット製成形体を示す斜視図である。
図18】第2実施例の実施例4におけるプリプレグシートの切り込み、加工方法を示す平面図であり、同図(a)はプリプレグシート70の平面図、同図(b)はプリプレグシート71の平面図、同図(c)はプリプレグシート72の平面図である。
図19】同図(a)はプリプレグシート70の組み立て状態を示す斜視図、同図(b)はプリプレグシート71を示す斜視図、同図(c)はプリプレグシート72の組み立て状態を示す斜視図、同図(d)は成形型の斜視図である。
図20】第2実施例の実施例4の方法で作製したC/Cコンポジット製成形体を示す斜視図である。
図21】曲板状の側壁部構成部材から成る側壁部の拡大平面図である。
図22】炭素繊維の例を示す部分拡大図である。
図23】炭素繊維の例を示す部分拡大図である。
図24】炭素繊維の例を示す部分拡大図である。
図25】炭素繊維の例を示す部分拡大図である。
図26】炭素繊維の例を示す部分拡大図である。
図27】炭素繊維の例を示す部分拡大図である。
図28】炭素繊維の例を示す部分拡大図である。
図29】炭素繊維の例を示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、底壁部と、この底壁部の周縁に立設された側壁部とを備え、炭素繊維及びマトリックスを含んで構成されるC/Cコンポジット製成形体であって、上記側壁部は、平面視において少なくとも1箇所の屈曲部及び/又は湾曲部を有し、且つ上記炭素繊維のうち少なくとも一部の炭素繊維は連続繊維であり該連続繊維が上記底壁部から上記側壁部にかけて連続して設けられており、折り曲げにより少なくとも1枚に立ち上がり部が形成された複数の成形体用シートよりなる積層構造を有し、上記複数の成形体用シートの間に、上記立ち上がり部で複数枚が重なることによる密度の差異が実質的になく、上記複数の成形体用シートが、輪郭および/または切り込みの入れ方の異なる成形体用シートを少なくとも1枚含むことを特徴とする。
【0010】
少なくとも一部の炭素繊維は、上記底壁部から上記側壁部にかけて連続して設けられていれば、成形体としての強度が向上する。即ち、成形体の底壁部上に物を載置した場合、底壁部に加わる荷重が側壁部にも分散されるので、底壁部(底壁部と側壁部との境界部分を含む)が破損して物が落下するのを抑制できる。したがって、例えば、熱処理用冶具として用いた場合、熱処理用冶具の破損に起因する製品の落下を抑制できる。
【0011】
上記側壁部は、上記底壁部の周縁に全周にわたって設けられていてもよい。
底壁部の周縁に全周にわたって側壁部が設けられていれば、側壁部に分散される荷重が多くなるので、底壁部が破損して物が落下するのを一層抑制できる。
【0012】
上記側壁部の少なくとも一部に切り欠きが形成されていてもよい。
側壁部の少なくとも一部に切り欠きが形成されていれば、C/Cコンポジット製成形体の軽量化を図ることができる。尚、側壁部の少なくとも一部に切り欠きが形成されていても、残余の側壁部に荷重が分散されるので、底壁部が破損して物が落下するのを抑制できる。
【0013】
上記側壁部は平板状であり、上記屈曲部が成す角度は150°以下であることが望ましい。
【0014】
上記炭素繊維は、一方の側壁部から、底部を挟んで相対向する他方の側壁部まで連続して延設されていることが望ましい。
炭素繊維が相対向する側壁部間に連続して延設されていれば、底部に荷重がかかった場合であっても、下方への荷重が炭素繊維の引っ張り荷重として作用する。この場合、炭素繊維は引っ張り強さが極めて高いので、荷重によって成形体が変形したり破損(特に、底壁部が破損)したりするのを一層抑制できる。
【0015】
上記側壁部には、上記屈曲部を挟んで連続して設けられた炭素繊維を有することが望ましい。
上記構成であれば、側壁部の強度がより向上する。したがって、荷重によって成形体が変形したり破損したりするのを一層抑制できる。
【0016】
上記炭素繊維には、1Dクロス及び/又は2Dクロスが用いられていることが望ましい。
炭素繊維に1Dクロスや2Dクロスを用いることで、緻密に炭素繊維を配置したC/Cコンポジット製成形体を簡便に得ることが出来る。
【0017】
上記炭素繊維は、複数束ねられたストランド間に空隙部が設けられた網状体となっていることが望ましい。
ストランド間に空隙部が設けられ網状体であれば、空隙部をガスや液体が通過することができる。したがって、ガスや液体に接触させる熱処理用途に、より好適に用いることが可能となる。
【0018】
上述のC/Cコンポジット製成形体を用いた熱処理用治具であることを特徴とする。
底壁部への耐荷重に優れた上述の成形体を用いることで、安全且つ確実に対象物の熱処理を行うことが出来る。またC/Cコンポジットは耐熱性が高く、且つ3000℃以下では、高温になる程、機械的強度が高くなる特性を有する。したがって、通常の熱処理時であれば変形が生じる恐れが小さく、安定した熱処理を図ることが出来ると共に、多数回の繰り返し使用が可能となる。
【0019】
底壁部と側壁部とを備え、炭素繊維及びマトリックスを含んで構成されるC/Cコンポジット製成形体の製造方法であって、炭素繊維に樹脂を含浸させた後、加熱することにより、プリプレグシートを作製する工程と、上記プリプレグシートを、炭素繊維が延設されている箇所の一部で折り曲げて立ち上がり部を形成する工程と、上記立ち上がり部を接合して側壁部を形成する工程と、上記立ち上がり部が形成されたプリプレグシートを少なくとも1枚含んで構成される複数の成形体用シートを重ね合わせる工程と、を含み、上記複数の成形体用シートを、輪郭および/または切り込みの入れ方の異なる成形体用シートを少なくとも1枚含むように用意することを特徴とする。
このような製造方法により、上述のC/Cコンポジット製成形体を製造できる。
【0020】
上記樹脂を含浸させた後の成形は、真空バッ成形又はオートクレーブ成形により行われることが望ましい。
【実施例】
【0021】
〔第1実施例〕
(実施例1)
PAN系炭素繊維(トレカT−300、6K 東レ(株)製)の2D平織クロスを用い、この炭素繊維織布を液状フェノール樹脂に浸漬して、当該樹脂を含浸させた。次に、絞りローラーを用いて、炭素繊維織布に含浸された樹脂量を調整した後、100℃に加熱したオーブン中で乾燥させ、これにより、プリプレグシートを得た。
【0022】
次いで、得られたプリプレグシートを方形状に裁断し、図1(a)(b)に示す切り込み1を入れることにより、成形体用シート10、11を作製した。尚、当該成形体用シート10、11における炭素繊維の延設方向は、共に、A方向とB方向である。その後、上記成形体用シート10、11を、図1(a)(b)の曲げ部2で折り曲げ、図2(a)(b)に示すような形状として、立ち上がり部10a、11aを形成した〔尚、図2(a)(b)では、立ち上がり部10a、11aが下向きに折れ曲がっているため、称呼と一致しないのではとも考えられる。しかし、同図では製造工程をわかり易く説明するために、便宜上下向きに描いたものであり、完成後は図3に示すような状態で用いられる。よって、10a、11aの称呼を立ち上がり部とした。このことは、以下の実施例でも同様である。〕。
しかる後、図2(c)に示す成形型20に2つの成形体用シート10、11を重ね合わせた状態で、約200℃で真空バッグ成形して、2D炭素繊維クロスを使った箱状の成形体を作製した。得られた成形体は内寸150mm×100mm×30mm、辺部付近の肉厚は2mmであった。
【0023】
次に、上記成形体をN雰囲気下、約1000℃で焼成した後ピッチ含浸し、更に、約1000℃で焼成した。最後に、N雰囲気下約2000℃で処理を行うことによって、2D炭素繊維クロスを用いた一体型のC/Cコンポジット製成形体を得た。図3に示すように、当該C/Cコンポジット製成形体30は、底壁部32と、この底壁部32の周縁に立設され且つ4つの側壁部構成部材31a、31b、31c、31d(上記立ち上がり部10a、11aに対応)から成る側壁部31とを備えている。また、屈曲部33における角度は平面視で90°となっている。
このようにして作製したC/Cコンポジット製成形体を、以下、成形体A1と称する。
【0024】
(実施例2)
上記実施例1と同様にプリプレグシートを得た後、このプリプレグシートを図4(a)〜(c)に示すような形状に裁断して、成形体用シート12〜14を作製した。尚、当該成形体用シート12〜14における炭素繊維の延設方向は、共に、A方向とB方向である。次に、上記成形体用シート12、14を、図4(a)(c)の曲げ部2で折り曲げ、図5(a)(c)に示すような形状とした。この際、成形体用シート12には、立ち上がり部12aが形成された。次いで、図5(d)に示す成形型20に3つの成形体用シート12〜14を重ね合わせた状態で、約200℃で真空バッグ成形して、2D炭素繊維クロスを使った箱状の成形体を作製した。しかる後、上記実施例1と同様な処理を行い、一体型のC/Cコンポジット製成形体を得た。尚、C/Cコンポジット製成形体は、上記図3で示した形状と同様の形状である。
このようにして作製したC/Cコンポジット製成形体を、以下、成形体A2と称する。
【0025】
(実施例3)
縦糸に上記実施例1と同一の炭素繊維を用いる一方、横糸にはガラス繊維を使用したUDクロスを用いた他は、上記実施例1と同様にしてプリプレグシートを作製し、このプリプレグシートを図6(a)〜(c)に示すような形状に裁断して、成形体用シート15〜17を作製した。その際、成形体用シート15の炭素繊維の延設方向はA方向、成形体用シート16の炭素繊維の延設方向はB方向とすることにより、成形体用シート15の炭素繊維の延設方向と成形体用シート16の炭素繊維の延設方向とが直角となるようにした。尚、成形体用シート17の炭素繊維の延設方向はB方向である。
【0026】
次に、上記成形体用シート15〜17を、図6(a)〜(c)の曲げ部2で折り曲げ、図7(a)〜(c)に示すような形状とした。この際、成形体用シート15、16には、立ち上がり部15a、16aが形成された。次いで、図7(d)に示す成形型20に3つの成形体用シート15〜17を重ね合わせた状態で、約200℃で真空バッグ成形して、UD炭素繊維クロスを使った箱状の成形体を作製した。しかる後、上記実施例1と同様な処理を行い、一体型のC/Cコンポジット製成形体を得た。尚、C/Cコンポジット製成形体は、上記図3で示した形状と同様の形状である。
このようにして作製したC/Cコンポジット製成形体を、以下、成形体A3と称する。
【0027】
(実施例4)
先ず、2D平織クロスに代えて3軸炭素繊維織物の網を用いて、実施例1同様にしてプリプレグシートを得た。次いで、得られたプリプレグシートを方形状に裁断し、図1(a)(b)に示す切り込み1を入れることにより、成形体用シート10、11を作製した。次に、上記成形体用シート10、11を、図1(a)(b)の曲げ部2で折り曲げ、図2(a)(b)に示すような形状として、立ち上がり部10a、11aを形成した。その後、図2(c)に示す成形型20に2つの成形体用シート10、11を重ね合わせた状態で、約200℃で真空バッグ成形して、3軸炭素繊維織物の網を使った箱状の成形体を作製した。
【0028】
最後に、実施例1同様の処理を行って、3軸炭素繊維織物の網を使った一体型のC/Cコンポジット製成形体を得た。尚、C/Cコンポジット製成形体は、上記図3で示した形状と同様の形状である。
このようにして作製したC/Cコンポジット製成形体を、以下、成形体A4と称する。
【0029】
(比較例)
先ず、T300炭素繊維を長さ約12mmにカットし、金属バット内に敷き詰め、上記実施例1に用いたフェノール樹脂と同じフェノール樹脂を金属バット内に注ぎ、炭素繊維に含浸させた後、100℃に加熱したオーブン中で乾燥させて、シートモールディングコンパウンドプリプレグを得た。次に、得られたプリプレグを外型と内型からなる金型にセットし、面圧約30Kg/cm、温度200℃で金型成形を行い、内寸150mm×100mm×30mm、肉厚が2mmの箱型成形体を得た。その後、実施例1同様の処理を行い、チョップドタイプの一体型のC/Cコンポジット製成形体を得た。
このようにして作製したC/Cコンポジット製成形体を、以下、成形体Zと称する。
【0030】
(実験1)
上記成形体A1〜A4、Zの表面状態を目視により観察したので、その結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1から明らかなように、成形体A1〜A4では平滑であるのに、成形体Zでは凹凸が確認された。
【0033】
(実験2)
上記成形体A1、Zの辺部(底壁部と側壁部との境界部分や、その近傍)を切断し、L型の強度試験用サンプルを得た。そして、図8に示すように、当該強度試験用サンプル22の垂直部中央付近にΦ5の貫通穴を設け固定台23にボルトにより固定し、一端25から荷重を加える点24までの距離L1を20mmとして破壊荷重を測定した。尚、荷重はD方向に加えた。その後、曲げモーメントから辺部曲げ強さを計算した。尚、強度試験用サンプルの厚みL2は2mm、強度試験用サンプルの幅L3は20mmとした。
【0034】
【表2】
【0035】
表2から明らかなように、成形体A1は成形体Zに比べて、曲げ強さが高くなっていることが確認された。
【0036】
(実験3)
上記成形体A4、Zを用い、クロムモリブテン鋼(SCM435)からなる直径20mm、高さ80mmの円柱状金属部品を約1100℃に加熱した後、20barの加圧Nガスを吹き付けて急冷を行った。そして、得られた金属部品の焼き入れ特性として部品中央部のビッカース硬さを調べたので、その結果を表3に示す。
【0037】
【表3】
【0038】
表3から明らかなように、成形体A4では金属部品の焼入れ作業が可能な程度の強度を有し、且つ焼き入れによる硬度向上が円滑に行われ、特性が良好であったのに対して、成形体Zでは金属部品の焼入れ特性が不良であることが認められた。これは、成形体ZではNガスの通り抜けが阻害されるため、十分な冷却がなされないのに対して、成形体A4ではNガスの通り抜けが阻害されないため、十分な冷却がなされることに起因するものと考えられる。
【0039】
〔第2実施例〕
(実施例1)
第1実施例の実施例1と同様に、方形状に裁断したプリプレグシートを、図9(a)(b)に示す切り込み1を入れることにより、成形体用シート40、41を作製した。尚、当該成形体用シート40、41における炭素繊維の延設方向は、共に、A方向とB方向である。その後、上記成形体用シート40、41を、図9(a)(b)の曲げ部2で折り曲げ、図10(a)(b)に示すような形状として、立ち上がり部40a、41aを形成した。しかる後、図10(c)に示す成形型20に2つの成形体用シート40、41を重ね合わせた状態で、約200℃で真空バッグ成形して、2D炭素繊維クロスを使った箱状の成形体を作製した。
【0040】
その後は、上記第1実施例の実施例1と同様の工程を経て、一体型のC/Cコンポジット製成形体を得た。図11に示すように、当該C/Cコンポジット製成形体45は、底壁部43と、この底壁部43の周縁に立設され且つ2つの側壁部構成部材44a、44b(上記立ち上がり部40a、41aに対応)から成る側壁部44とを備えている。
【0041】
(実施例2)
第1実施例の実施例1と同様に、方形状に裁断したプリプレグシートを、図12(a)(b)に示す切り込み1を入れることにより、成形体用シート50、51を作製した。尚、当該成形体用シート50、51における炭素繊維の延設方向は、共に、A方向とB方向である。その後、上記成形体用シート50、51を、図12(a)(b)の曲げ部2で折り曲げ、図13(a)(b)に示すような形状として、立ち上がり部50a、51aを形成した。しかる後、図13(c)に示す成形型20に2つの成形体用シート50、51を重ね合わせた状態で、約200℃で真空バッグ成形して、2D炭素繊維クロスを使った箱状の成形体を作製した。
【0042】
その後は、上記第1実施例の実施例1と同様の工程を経て、一体型のC/Cコンポジット製成形体を得た。図14に示すように、当該C/Cコンポジット製成形体55は、底壁部53と、この底壁部53の周縁に立設され且つ3つの側壁部構成部材54a、54b、54c(上記立ち上がり部50a、51aに対応)から成る側壁部54とを備えている。
【0043】
(実施例3)
第1実施例の実施例1と同様に、方形状に裁断したプリプレグシートを、図15(a)(b)に示す切り込み1を入れた。この際、後に側壁部となる部位に切り欠き67を形成した。これにより、成形体用シート60、61を作製した。尚、当該成形体用シート60、61における炭素繊維の延設方向は、共に、A方向とB方向である。その後、上記成形体用シート60、61を、図15(a)(b)の曲げ部2で折り曲げ、図16(a)(b)に示すような形状として、立ち上がり部60a、61aを形成した。しかる後、図16(c)に示す成形型20に2つの成形体用シート60、61を重ね合わせた状態で、約200℃で真空バッグ成形して、2D炭素繊維クロスを使った箱状の成形体を作製した。
【0044】
その後は、上記第1実施例の実施例1と同様の工程を経て、一体型のC/Cコンポジット製成形体を得た。図17に示すように、当該C/Cコンポジット製成形体65は、底壁部63と、側壁部構成部材64a、64b、64c、64d(上記立ち上がり部60a、61aに対応)から成る側壁部64とを備えており、当該側壁部64には切り欠き67が形成されている。尚、切り欠き67は各側壁部構成部材64a、64b、64c、64dに形成する必要はなく、任意の側壁部構成部材だけに形成しても良い。
【0045】
(実施例4)
第1実施例の実施例1と同様にしてプリプレグシートを作製し、このプリプレグシートを図18(a)〜(c)に示すような形状に裁断して、成形体用シート70〜72を作製した。その際、成形体用シート70の炭素繊維の延設方向はA方向、成形体用シート71の炭素繊維の延設方向はB方向とすることにより、成形体用シート70の炭素繊維の延設方向と成形体用シート71の炭素繊維の延設方向とが直角となるようにした。尚、成形体用シート72の炭素繊維の延設方向はB方向である。また、成形体用シート70は、後に側壁部構成部材となる凸片70a、70b、70cを有している。上記凸片70aは、図20の平板状の側壁部構成部材74aとなり、上記凸片70bは、図20の平板状の側壁部構成部材74bとなり、上記凸片70cは、図20の曲板状の側壁部構成部材74cとなる。
【0046】
その後、上記成形体用シート70を、図18(a)の曲げ部2で折り曲げ、図19(a)(b)に示すような形状として、立ち上がり部70d、70e、70f(上記凸片70a、70b、70cに対応)を形成した。しかる後、図19(d)に示す成形型20に3つの成形体用シート70〜72を重ね合わせた状態で、約200℃で真空バッグ成形して、2D炭素繊維クロスを使った箱状の成形体を作製した。しかる後、上記第1実施例の実施例1と同様な処理を行い、一体型のC/Cコンポジット製成形体を得た。
【0047】
尚、C/Cコンポジット製成形体は、図20に示すように、底壁部73と、この底壁部73の周縁に立設され且つ平板状の側壁部構成部材74a、74b(上記立ち上がり部70d、70eに対応)及び曲板状の側壁部構成部材74c(上記立ち上がり部70fに対応)から成る側壁部74とを備え、この側壁部が平面視で円弧状となり湾曲部を形成している。また、図21に示すように、曲板状の側壁部構成部材74c(凸片70cに対応)の中央点740a、740bにおける接線740c、740d同士が成す角度θは180°未満となっている。
【0048】
(その他の事項)
(1)底壁部の形状としては、上記四角形状や一部円弧状に限定するものではなく、三角形状、六角形状等であっても良い。
【0049】
(2)炭素繊維としては、図22図29に示すものであっても良い。各図について、簡単に説明する。
図22に示すように、複数のストランド141、142、143を3方向から織り合わせた三軸織物から成る炭素繊維140であり、六角形の網目が形成されている。各ストランド141、142、143では、複数の炭素繊維が撚らずに並べられている。
【0050】
図23に示すように、炭素繊維150は二軸織物であり、複数の炭素繊維が束ねられている。横軸のストランド151では、炭素繊維が撚らずに並べられている一方、縦軸のストランド(撚りストランド)152では、2つのストランド152a、152bが格子間で1回転(360°捩り)するように緩やかに撚り合わされている。横軸のストランド151は、縦軸の2つのストランド152a、152bの間を通っている。
【0051】
図24に示すように、炭素繊維153は、図23に示した炭素繊維150と比べて、横軸に撚りストランド154を用いている点で異なる。即ち、横軸の撚りストランド154では炭素繊維を束ねたストランド154a、154bが緩やかに撚り合わされている。
【0052】
図25に示すように、炭素繊維160は二軸織物であり、各ストランド161、162では。複数の炭素繊維が束ねられている。横軸のストランド161では、複数の炭素繊維を撚らずに並べられている一方、縦軸の撚りストランド162は、2つのストランド162a、162bが撚り合わされている。尚、撚りストランド162の撚り数は、図23に示した撚りストランド152の撚り数より多いため、撚りストランド162の強度は、撚りストランド152の強度より高くなっている。
【0053】
図26に示すように、炭素繊維163は、図25に示した炭素繊維160と比べて、横軸に撚りストランド164を用いている点で異なる。即ち、横軸の撚りストランド164では炭素繊維を束ねたストランド164a、164bが撚り合わされている。
【0054】
図27に示すように、炭素繊維170は二軸織物であり、横軸及び縦軸に撚りストランド171、172を用いている。横軸の撚りストランド171では、2つのストランド171a、171bが緩やかに撚り合わされている、縦軸の撚りストランド172では、2つのストランド172a、172bが緩やかに撚り合わされている。そして、横軸のストランド171aとストランド171bとは、共に、縦軸のストランド172aとストランド172bとの間を通っている。また、縦軸のストランド172aとストランド172bとは、共に、横軸のストランド171aとストランド171bとの間を通っている。
【0055】
図28に示す炭素繊維174は、図27に示した炭素繊維170と比べて、横軸及び縦軸に撚りストランド175、176の撚り数が多くなっている点で異なっている。
図29に示す炭素繊維180は、ストランド181、182の交差部分(網の節部分)に結び目が形成された有結節網となっている。
(3)上記実施例では、2以上のプリプレグシートを用いてC/Cコンポジット製成形体を作製したが、1つのプリプレグシートを用いてC/Cコンポジット製成形体を作製しても良い。但し、この場合は、UDクロス以外のもの、例えば、2D平織クロス、3軸炭素繊維織物等を用いる必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、熱処理炉で使用される製品ケースまたはバスケット、高温で使用される構造材またはパネル状補強材等として用いることができる。
【符号の説明】
【0057】
1:切り込み
2:曲げ部
10:成形体用シート
11:成形体用シート
20:成形型
30:C/Cコンポジット製成形体
31:側壁部
32:底壁部
33:屈曲部
図1
図2
図3
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