【実施例】
【0021】
〔第1実施例〕
(実施例1)
PAN系炭素繊維(トレカT−300、6K 東レ(株)製)の2D平織クロスを用い、この炭素繊維織布を液状フェノール樹脂に浸漬して、当該樹脂を含浸させた。次に、絞りローラーを用いて、炭素繊維織布に含浸された樹脂量を調整した後、100℃に加熱したオーブン中で乾燥させ、これにより、プリプレグシートを得た。
【0022】
次いで、得られたプリプレグシートを方形状に裁断し、
図1(a)(b)に示す切り込み1を入れることにより、成形体用シート10、11を作製した。尚、当該成形体用シート10、11における炭素繊維の延設方向は、共に、A方向とB方向である。その後、上記成形体用シート10、11を、
図1(a)(b)の曲げ部2で折り曲げ、
図2(a)(b)に示すような形状として、立ち上がり部10a、11aを形成した〔尚、
図2(a)(b)では、立ち上がり部10a、11aが下向きに折れ曲がっているため、称呼と一致しないのではとも考えられる。しかし、同図では製造工程をわかり易く説明するために、便宜上下向きに描いたものであり、完成後は
図3に示すような状態で用いられる。よって、10a、11aの称呼を立ち上がり部とした。このことは、以下の実施例でも同様である。〕。
しかる後、
図2(c)に示す成形型20に2つの成形体用シート10、11を重ね合わせた状態で、約200℃で真空バッグ成形して、2D炭素繊維クロスを使った箱状の成形体を作製した。得られた成形体は内寸150mm×100mm×30mm、辺部付近の肉厚は2mmであった。
【0023】
次に、上記成形体をN
2雰囲気下、約1000℃で焼成した後ピッチ含浸し、更に、約1000℃で焼成した。最後に、N
2雰囲気下約2000℃で処理を行うことによって、2D炭素繊維クロスを用いた一体型のC/Cコンポジット製成形体を得た。
図3に示すように、当該C/Cコンポジット製成形体30は、底壁部32と、この底壁部32の周縁に立設され且つ4つの側壁部構成部材31a、31b、31c、31d(上記立ち上がり部10a、11aに対応)から成る側壁部31とを備えている。また、屈曲部33における角度は平面視で90°となっている。
このようにして作製したC/Cコンポジット製成形体を、以下、成形体A1と称する。
【0024】
(実施例2)
上記実施例1と同様にプリプレグシートを得た後、このプリプレグシートを
図4(a)〜(c)に示すような形状に裁断して、成形体用シート12〜14を作製した。尚、当該成形体用シート12〜14における炭素繊維の延設方向は、共に、A方向とB方向である。次に、上記成形体用シート12、14を、
図4(a)(c)の曲げ部2で折り曲げ、
図5(a)(c)に示すような形状とした。この際、成形体用シート12には、立ち上がり部12aが形成された。次いで、
図5(d)に示す成形型20に3つの成形体用シート12〜14を重ね合わせた状態で、約200℃で真空バッグ成形して、2D炭素繊維クロスを使った箱状の成形体を作製した。しかる後、上記実施例1と同様な処理を行い、一体型のC/Cコンポジット製成形体を得た。尚、C/Cコンポジット製成形体は、上記
図3で示した形状と同様の形状である。
このようにして作製したC/Cコンポジット製成形体を、以下、成形体A2と称する。
【0025】
(実施例3)
縦糸に上記実施例1と同一の炭素繊維を用いる一方、横糸にはガラス繊維を使用したUDクロスを用いた他は、上記実施例1と同様にしてプリプレグシートを作製し、このプリプレグシートを
図6(a)〜(c)に示すような形状に裁断して、成形体用シート15〜17を作製した。その際、成形体用シート15の炭素繊維の延設方向はA方向、成形体用シート16の炭素繊維の延設方向はB方向とすることにより、成形体用シート15の炭素繊維の延設方向と成形体用シート16の炭素繊維の延設方向とが直角となるようにした。尚、成形体用シート17の炭素繊維の延設方向はB方向である。
【0026】
次に、上記成形体用シート15〜17を、
図6(a)〜(c)の曲げ部2で折り曲げ、
図7(a)〜(c)に示すような形状とした。この際、成形体用シート15、16には、立ち上がり部15a、16aが形成された。次いで、
図7(d)に示す成形型20に3つの成形体用シート15〜17を重ね合わせた状態で、約200℃で真空バッグ成形して、UD炭素繊維クロスを使った箱状の成形体を作製した。しかる後、上記実施例1と同様な処理を行い、一体型のC/Cコンポジット製成形体を得た。尚、C/Cコンポジット製成形体は、上記
図3で示した形状と同様の形状である。
このようにして作製したC/Cコンポジット製成形体を、以下、成形体A3と称する。
【0027】
(実施例4)
先ず、2D平織クロスに代えて3軸炭素繊維織物の網を用いて、実施例1同様にしてプリプレグシートを得た。次いで、得られたプリプレグシートを方形状に裁断し、
図1(a)(b)に示す切り込み1を入れることにより、成形体用シート10、11を作製した。次に、上記成形体用シート10、11を、
図1(a)(b)の曲げ部2で折り曲げ、
図2(a)(b)に示すような形状として、立ち上がり部10a、11aを形成した。その後、
図2(c)に示す成形型20に2つの成形体用シート10、11を重ね合わせた状態で、約200℃で真空バッグ成形して、3軸炭素繊維織物の網を使った箱状の成形体を作製した。
【0028】
最後に、実施例1同様の処理を行って、3軸炭素繊維織物の網を使った一体型のC/Cコンポジット製成形体を得た。尚、C/Cコンポジット製成形体は、上記
図3で示した形状と同様の形状である。
このようにして作製したC/Cコンポジット製成形体を、以下、成形体A4と称する。
【0029】
(比較例)
先ず、T300炭素繊維を長さ約12mmにカットし、金属バット内に敷き詰め、上記実施例1に用いたフェノール樹脂と同じフェノール樹脂を金属バット内に注ぎ、炭素繊維に含浸させた後、100℃に加熱したオーブン中で乾燥させて、シートモールディングコンパウンドプリプレグを得た。次に、得られたプリプレグを外型と内型からなる金型にセットし、面圧約30Kg/cm
2、温度200℃で金型成形を行い、内寸150mm×100mm×30mm、肉厚が2mmの箱型成形体を得た。その後、実施例1同様の処理を行い、チョップドタイプの一体型のC/Cコンポジット製成形体を得た。
このようにして作製したC/Cコンポジット製成形体を、以下、成形体Zと称する。
【0030】
(実験1)
上記成形体A1〜A4、Zの表面状態を目視により観察したので、その結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1から明らかなように、成形体A1〜A4では平滑であるのに、成形体Zでは凹凸が確認された。
【0033】
(実験2)
上記成形体A1、Zの辺部(底壁部と側壁部との境界部分や、その近傍)を切断し、L型の強度試験用サンプルを得た。そして、
図8に示すように、当該強度試験用サンプル22の垂直部中央付近にΦ5の貫通穴を設け固定台23にボルトにより固定し、一端25から荷重を加える点24までの距離L1を20mmとして破壊荷重を測定した。尚、荷重はD方向に加えた。その後、曲げモーメントから辺部曲げ強さを計算した。尚、強度試験用サンプルの厚みL2は2mm、強度試験用サンプルの幅L3は20mmとした。
【0034】
【表2】
【0035】
表2から明らかなように、成形体A1は成形体Zに比べて、曲げ強さが高くなっていることが確認された。
【0036】
(実験3)
上記成形体A4、Zを用い、クロムモリブテン鋼(SCM435)からなる直径20mm、高さ80mmの円柱状金属部品を約1100℃に加熱した後、20barの加圧N
2ガスを吹き付けて急冷を行った。そして、得られた金属部品の焼き入れ特性として部品中央部のビッカース硬さを調べたので、その結果を表3に示す。
【0037】
【表3】
【0038】
表3から明らかなように、成形体A4では金属部品の焼入れ作業が可能な程度の強度を有し、且つ焼き入れによる硬度向上が円滑に行われ、特性が良好であったのに対して、成形体Zでは金属部品の焼入れ特性が不良であることが認められた。これは、成形体ZではN
2ガスの通り抜けが阻害されるため、十分な冷却がなされないのに対して、成形体A4ではN
2ガスの通り抜けが阻害されないため、十分な冷却がなされることに起因するものと考えられる。
【0039】
〔第2実施例〕
(実施例1)
第1実施例の実施例1と同様に、方形状に裁断したプリプレグシートを、
図9(a)(b)に示す切り込み1を入れることにより、成形体用シート40、41を作製した。尚、当該成形体用シート40、41における炭素繊維の延設方向は、共に、A方向とB方向である。その後、上記成形体用シート40、41を、
図9(a)(b)の曲げ部2で折り曲げ、
図10(a)(b)に示すような形状として、立ち上がり部40a、41aを形成した。しかる後、
図10(c)に示す成形型20に2つの成形体用シート40、41を重ね合わせた状態で、約200℃で真空バッグ成形して、2D炭素繊維クロスを使った箱状の成形体を作製した。
【0040】
その後は、上記第1実施例の実施例1と同様の工程を経て、一体型のC/Cコンポジット製成形体を得た。
図11に示すように、当該C/Cコンポジット製成形体45は、底壁部43と、この底壁部43の周縁に立設され且つ2つの側壁部構成部材44a、44b(上記立ち上がり部40a、41aに対応)から成る側壁部44とを備えている。
【0041】
(実施例2)
第1実施例の実施例1と同様に、方形状に裁断したプリプレグシートを、
図12(a)(b)に示す切り込み1を入れることにより、成形体用シート50、51を作製した。尚、当該成形体用シート50、51における炭素繊維の延設方向は、共に、A方向とB方向である。その後、上記成形体用シート50、51を、
図12(a)(b)の曲げ部2で折り曲げ、
図13(a)(b)に示すような形状として、立ち上がり部50a、51aを形成した。しかる後、
図13(c)に示す成形型20に2つの成形体用シート50、51を重ね合わせた状態で、約200℃で真空バッグ成形して、2D炭素繊維クロスを使った箱状の成形体を作製した。
【0042】
その後は、上記第1実施例の実施例1と同様の工程を経て、一体型のC/Cコンポジット製成形体を得た。
図14に示すように、当該C/Cコンポジット製成形体55は、底壁部53と、この底壁部53の周縁に立設され且つ3つの側壁部構成部材54a、54b、54c(上記立ち上がり部50a、51aに対応)から成る側壁部54とを備えている。
【0043】
(実施例3)
第1実施例の実施例1と同様に、方形状に裁断したプリプレグシートを、
図15(a)(b)に示す切り込み1を入れた。この際、後に側壁部となる部位に切り欠き67を形成した。これにより、成形体用シート60、61を作製した。尚、当該成形体用シート60、61における炭素繊維の延設方向は、共に、A方向とB方向である。その後、上記成形体用シート60、61を、
図15(a)(b)の曲げ部2で折り曲げ、
図16(a)(b)に示すような形状として、立ち上がり部60a、61aを形成した。しかる後、
図16(c)に示す成形型20に2つの成形体用シート60、61を重ね合わせた状態で、約200℃で真空バッグ成形して、2D炭素繊維クロスを使った箱状の成形体を作製した。
【0044】
その後は、上記第1実施例の実施例1と同様の工程を経て、一体型のC/Cコンポジット製成形体を得た。
図17に示すように、当該C/Cコンポジット製成形体65は、底壁部63と、側壁部構成部材64a、64b、64c、64d(上記立ち上がり部60a、61aに対応)から成る側壁部64とを備えており、当該側壁部64には切り欠き67が形成されている。尚、切り欠き67は各側壁部構成部材64a、64b、64c、64dに形成する必要はなく、任意の側壁部構成部材だけに形成しても良い。
【0045】
(実施例4)
第1実施例の実施例1と同様にしてプリプレグシートを作製し、このプリプレグシートを
図18(a)〜(c)に示すような形状に裁断して、成形体用シート70〜72を作製した。その際、成形体用シート70の炭素繊維の延設方向はA方向、成形体用シート71の炭素繊維の延設方向はB方向とすることにより、成形体用シート70の炭素繊維の延設方向と成形体用シート71の炭素繊維の延設方向とが直角となるようにした。尚、成形体用シート72の炭素繊維の延設方向はB方向である。また、成形体用シート70は、後に側壁部構成部材となる凸片70a、70b、70cを有している。上記凸片70aは、
図20の平板状の側壁部構成部材74aとなり、上記凸片70bは、
図20の平板状の側壁部構成部材74bとなり、上記凸片70cは、
図20の曲板状の側壁部構成部材74cとなる。
【0046】
その後、上記成形体用シート70を、
図18(a)の曲げ部2で折り曲げ、
図19(a)(b)に示すような形状として、立ち上がり部70d、70e、70f(上記凸片70a、70b、70cに対応)を形成した。しかる後、
図19(d)に示す成形型20に3つの成形体用シート70〜72を重ね合わせた状態で、約200℃で真空バッグ成形して、2D炭素繊維クロスを使った箱状の成形体を作製した。しかる後、上記第1実施例の実施例1と同様な処理を行い、一体型のC/Cコンポジット製成形体を得た。
【0047】
尚、C/Cコンポジット製成形体は、
図20に示すように、底壁部73と、この底壁部73の周縁に立設され且つ平板状の側壁部構成部材74a、74b(上記立ち上がり部70d、70eに対応)及び曲板状の側壁部構成部材74c(上記立ち上がり部70fに対応)から成る側壁部74とを備え、この側壁部が平面視で円弧状となり湾曲部を形成している。また、
図21に示すように、曲板状の側壁部構成部材74c(凸片70cに対応)の中央点740a、740bにおける接線740c、740d同士が成す角度θは180°未満となっている。
【0048】
(その他の事項)
(1)底壁部の形状としては、上記四角形状や一部円弧状に限定するものではなく、三角形状、六角形状等であっても良い。
【0049】
(2)炭素繊維としては、
図22〜
図29に示すものであっても良い。各図について、簡単に説明する。
図22に示すように、複数のストランド141、142、143を3方向から織り合わせた三軸織物から成る炭素繊維140であり、六角形の網目が形成されている。各ストランド141、142、143では、複数の炭素繊維が撚らずに並べられている。
【0050】
図23に示すように、炭素繊維150は二軸織物であり、複数の炭素繊維が束ねられている。横軸のストランド151では、炭素繊維が撚らずに並べられている一方、縦軸のストランド(撚りストランド)152では、2つのストランド152a、152bが格子間で1回転(360°捩り)するように緩やかに撚り合わされている。横軸のストランド151は、縦軸の2つのストランド152a、152bの間を通っている。
【0051】
図24に示すように、炭素繊維153は、
図23に示した炭素繊維150と比べて、横軸に撚りストランド154を用いている点で異なる。即ち、横軸の撚りストランド154では炭素繊維を束ねたストランド154a、154bが緩やかに撚り合わされている。
【0052】
図25に示すように、炭素繊維160は二軸織物であり、各ストランド161、162では。複数の炭素繊維が束ねられている。横軸のストランド161では、複数の炭素繊維を撚らずに並べられている一方、縦軸の撚りストランド162は、2つのストランド162a、162bが撚り合わされている。尚、撚りストランド162の撚り数は、
図23に示した撚りストランド152の撚り数より多いため、撚りストランド162の強度は、撚りストランド152の強度より高くなっている。
【0053】
図26に示すように、炭素繊維163は、
図25に示した炭素繊維160と比べて、横軸に撚りストランド164を用いている点で異なる。即ち、横軸の撚りストランド164では炭素繊維を束ねたストランド164a、164bが撚り合わされている。
【0054】
図27に示すように、炭素繊維170は二軸織物であり、横軸及び縦軸に撚りストランド171、172を用いている。横軸の撚りストランド171では、2つのストランド171a、171bが緩やかに撚り合わされている、縦軸の撚りストランド172では、2つのストランド172a、172bが緩やかに撚り合わされている。そして、横軸のストランド171aとストランド171bとは、共に、縦軸のストランド172aとストランド172bとの間を通っている。また、縦軸のストランド172aとストランド172bとは、共に、横軸のストランド171aとストランド171bとの間を通っている。
【0055】
図28に示す炭素繊維174は、
図27に示した炭素繊維170と比べて、横軸及び縦軸に撚りストランド175、176の撚り数が多くなっている点で異なっている。
図29に示す炭素繊維180は、ストランド181、182の交差部分(網の節部分)に結び目が形成された有結節網となっている。
(3)上記実施例では、2以上のプリプレグシートを用いてC/Cコンポジット製成形体を作製したが、1つのプリプレグシートを用いてC/Cコンポジット製成形体を作製しても良い。但し、この場合は、UDクロス以外のもの、例えば、2D平織クロス、3軸炭素繊維織物等を用いる必要がある。