特許第6588760号(P6588760)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6588760
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】クラッチ装置及び遮蔽装置
(51)【国際特許分類】
   E06B 9/90 20060101AFI20191001BHJP
   E06B 9/80 20060101ALI20191001BHJP
   E06B 9/42 20060101ALI20191001BHJP
   F16D 41/066 20060101ALI20191001BHJP
   F16D 41/08 20060101ALI20191001BHJP
【FI】
   E06B9/90
   E06B9/80 B
   E06B9/42 A
   F16D41/066
   F16D41/08 Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-146648(P2015-146648)
(22)【出願日】2015年7月24日
(65)【公開番号】特開2017-25626(P2017-25626A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000250672
【氏名又は名称】立川ブラインド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 慶弘
【審査官】 藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−241693(JP,A)
【文献】 特開2009−204027(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0059991(US,A1)
【文献】 特開2010−101007(JP,A)
【文献】 特開2009−024741(JP,A)
【文献】 特開昭63−171988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B 9/26−9/327
E06B 9/40−9/50
E06B 9/56−9/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸と、当該中心軸に相対回転可能に取り付けられるクラッチドラムと、当該クラッチドラムの外周に配置されたクラッチケースとを備え、前記中心軸に対する前記クラッチケースの一方向の回転の規制と許容とを選択的に切り替えるクラッチ装置であって、
前記クラッチドラムと前記クラッチケースの連動と非連動とを切り替えるカムクラッチ機構と、前記クラッチドラムの前記中心軸に対する前記一方向の回転を規制するワンウェイクラッチ機構とを備え、
前記カムクラッチ機構は、前記クラッチケースが前記中心軸に対して他方向に回転すると当該クラッチケースと前記クラッチドラムとが当該他方向に連動する第1係合状態となり、当該第1係合状態で前記クラッチケースが前記一方向に回転すると前記クラッチケースと前記クラッチドラムとが当該一方向に連動する第2係合状態となるよう構成され、
前記ワンウェイクラッチ機構は、前記クラッチドラムと一体回転する外輪と、前記外輪と前記中心軸との間に配設される複数のニードルとを備え、当該ニードルが前記中心軸に対する前記クラッチドラムの前記一方向の回転を規制し、前記クラッチドラムの前記他方向の回転を許容するよう構成される、クラッチ装置。
【請求項2】
前記カムクラッチ機構は、前記クラッチドラム及び前記クラッチケースのいずれか一方に円周方向に設けられた無端状のガイド溝と、前記クラッチドラムと前記クラッチケースの間の相対回転に伴って前記ガイド溝に沿って移動可能なガイド体とを備え、
前記ガイド溝は、前記クラッチケースが前記他方向に回転すると前記ガイド体が当接することで前記第1係合状態となるよう構成された第1ロック溝と、前記第1係合状態で前記クラッチケースが前記一方向に回転すると前記ガイド体が当接することで前記第2係合状態となるよう構成された第2ロック溝とを備えている、請求項1に記載のクラッチ装置。
【請求項3】
前記ガイド溝は前記クラッチドラムの外周面に設けられ、前記ガイド体は前記ガイド溝と前記クラッチケースの内周面に軸方向に設けられたスライド溝との間に配設され且つ前記クラッチドラムの回転に伴って前記スライド溝内を移動しながら前記ガイド溝内を移動する移動体である、請求項2に記載のクラッチ装置。
【請求項4】
前記中心軸に対する前記クラッチドラムの前記一方向の回転に対して摩擦抵抗を与える抵抗手段を備える、請求項1〜請求項3の何れか1つに記載のクラッチ装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか記載のクラッチ装置を備えた遮蔽装置であって、
前記中心軸は回転不能に支持されており、当該中心軸に対して回転可能に支持され且つ前記一方向に付勢された回転体と、当該回転体の回転に伴って開閉可能な遮蔽部材とを有し、
前記回転体に前記クラッチケースが固定される、遮蔽装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、中心軸に対するクラッチケースの一方向の回転の規制と許容とを選択的に切り替えるクラッチ装置と、このクラッチ装置を備えた遮蔽装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遮蔽装置の一種であるロールスクリーンには、ボトムレールあるいは取っ手、プルコード等の操作部を下方へ引いてスクリーンを所望高さまで引き下げ、この状態で操作部を手放すと、巻取パイプ内のクラッチ装置の回転規制作用によりスクリーンが所望高さに保持されるように構成されているものがある。このようなロールスクリーンは、上述した回転規制状態から操作部を下方へ引いてスクリーンを僅かに下降させると規制作用が解除され、巻取軸内に配設されたコイルスプリングの付勢力によりスクリーンが巻取パイプに巻き取られるようになっている。例えば、特許文献1に記載のクラッチ装置は、巻取りドラムと一体回転するクラッチケース及び中心軸に取り付けられ回転不能であるクラッチドラムの連動・非連動を切り替えるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3124716号
【特許文献2】特許第5226340号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の構成では、クラッチドラムのガイド溝を移動する移動体とこの移動体が当接してクラッチ装置を作動させるロック溝との位置関係によっては、スクリーンを所望高さまで引き下げた後操作部を手放した際、クラッチ装置の作用によりスクリーンが保持されるまでにクラッチケース(巻取パイプ)が巻き戻る戻り角が大きくなる。その結果、従来のロールスクリーンの例を示す図9(a)のように、スクリーン4を窓枠90の下縁90aまで引き下げたとしても、操作部であるボトムレール6を手放すとスクリーン4が上昇し、窓枠90の下縁90aとロールスクリーンの下端であるボトムレール6との間に隙間t1が生じてしまうため、室内への光を完全に遮蔽することができないという問題がある。また、上記の戻り角が一定ではないため、複数のロールスクリーンを並べた場合、スクリーン4に高低差t2が生じてしまうという問題もある(図9(b)参照)。
【0005】
一方、特許文献2に記載のものはカムドラム(クラッチドラム)と支持軸(中心軸)とがクラッチバネによって連結された構成であり、クラッチ装置の作用時の戻り角はほぼ一定になるが、クラッチバネの開きが戻るまでにクラッチドラムと固定軸とが相対回転するため、この場合も戻り角が大きくなってしまう。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、回転規制作用時にクラッチケースが巻き戻る戻り角を低減することができるクラッチ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、中心軸と、当該中心軸に相対回転可能に取り付けられるクラッチドラムと、当該クラッチドラムの外周に配置されたクラッチケースとを備え、前記中心軸に対する前記クラッチケースの一方向の回転の規制と許容とを選択的に切り替えるクラッチ装置であって、前記クラッチドラムと前記クラッチケースの連動と非連動とを切り替えるカムクラッチ機構と、前記クラッチドラムの前記中心軸に対する前記一方向の回転を規制するワンウェイクラッチ機構とを備え、前記カムクラッチ機構は、前記クラッチケースが前記中心軸に対して他方向に回転すると当該クラッチケースと前記クラッチドラムとが当該他方向に連動する第1係合状態となり、当該第1係合状態で前記クラッチケースが前記一方向に回転すると前記クラッチケースと前記クラッチドラムとが当該一方向に連動する第2係合状態となるよう構成され、前記ワンウェイクラッチ機構は、前記クラッチドラムと一体回転する外輪と、前記外輪と前記中心軸との間に配設される複数のニードルとを備え、当該ニードルが前記中心軸に対する前記クラッチドラムの前記一方向の回転を規制し、前記クラッチドラムの前記他方向の回転を許容するよう構成される、クラッチ装置が提供される。
【0008】
本発明のクラッチ装置を用いれば、中心軸に対するクラッチドラムの一方向の回転に対してその回転を規制するまでの戻り角を低減することができ、例えばこのクラッチ装置をスプリングアシスト式のロールスクリーンに用いた場合には、ロールスクリーンを手放してからストッパ装置が作動するまでのスクリーンの上昇を低減することが可能となる。
【0009】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
【0010】
好ましくは、前記カムクラッチ機構は、前記クラッチドラム及び前記クラッチケースのいずれか一方に円周方向に設けられた無端状のガイド溝と、前記クラッチドラムと前記クラッチケースの間の相対回転に伴って前記ガイド溝に沿って移動可能なガイド体とを備え、前記ガイド溝は、前記クラッチケースが前記他方向に回転すると前記ガイド体が当接することで前記第1係合状態となるよう構成された第1ロック溝と、前記第1係合状態で前記クラッチケースが前記一方向に回転すると前記ガイド体が当接することで前記第2係合状態となるよう構成された第2ロック溝とを備えている。
【0011】
好ましくは、前記ガイド溝は前記クラッチドラムの外周面に設けられ、前記ガイド体は前記ガイド溝と前記クラッチケースの内周面に軸方向に設けられたスライド溝との間に配設され且つ前記クラッチドラムの回転に伴って前記スライド溝内を移動しながら前記ガイド溝内を移動する移動体である。
【0012】
好ましくは、前記中心軸に対する前記クラッチドラムの前記一方向の回転に対して摩擦抵抗を与える抵抗手段を備える。
【0013】
また、本発明は、上記クラッチ装置を備え、前記中心軸は回転不能に支持されており、当該中心軸に対して回転可能に支持され且つ前記一方向に付勢された回転体と、当該回転体の回転に伴って開閉可能な遮蔽部材とを有し、前記回転体を前記他方向に回転させて前記遮蔽部材を所望位置に位置決めした後、前記クラッチ装置が前記回転体の回転を規制するまでに生じる当該回転体の回転を低減した、遮蔽装置を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態に係るロールスクリーンを示す正面図である。
図2図1のロールスクリーンのクラッチ装置を示す分解斜視図である。
図3図2のクラッチ装置の要部拡大断面図である。
図4図3のD−D断面図と、その同断面の要部拡大図である。
図5図2のクラッチ装置のクラッチドラムのガイド溝の展開図である。
図6】本発明の第2実施形態に係るロールスクリーンのクラッチ装置を示す分解斜視図である。
図7図6のクラッチ装置の要部拡大断面図である。
図8図7のE−E断面図である。
図9】従来のロールスクリーンの課題を示す参考図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態をについて説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴について独立して発明が成立する。
【0016】
1.第1実施形態
図1に示す遮蔽装置としてのロールスクリーンは、窓の上枠等に固定される枠体1の両側にブラケット2a,2bが取り付けられ、これらブラケット2a,2bの間に回転体としての巻取パイプ3が回転可能に支持されており、その巻取パイプ3からスクリーン4が吊下支持されている。巻取パイプ3内には付勢手段としてのコイルスプリング5が配設されており、コイルスプリング5の一端は巻取パイプ3に固定され、他端は連結部材(図示せず)を介してブラケット2aに固定されていて、スクリーン4が巻戻された状態において、このスクリーン4を巻取る方向に巻取パイプ3を付勢している。また、スクリーン4の下端のウェイトバー6に取り付けられたプルコード7を引いてスクリーン4を引き下げると、巻取パイプ3が反対方向に回転するとともに、コイルスプリング5が蓄勢されるようになっている。なお、以下の記載において、スクリーン4の巻取り時に各部材が回転する方向を巻取り方向、スクリーン4の巻戻し時に各部材が回転する方向を巻戻し方向と規定する。また、巻取パイプ3内に、スクリーンの引き上げ速度を適宜に抑えるためのガバナ装置(図示せず)を設けてもよい。そして、本実施形態のロールスクリーンには、コイルスプリング5の付勢力に抗して巻取パイプ3の回転を規制し、スクリーン4を所望位置に吊り下げ支持するためのクラッチ装置10が設けられている。
【0017】
次に、クラッチ装置10の構造を詳細に説明する。クラッチ装置10は、図2及び図3に示すように、ブラケット2b(図1参照)に回転不能に支持される中心軸11と、中心軸11に相対回転可能に取り付けられる円筒形状のクラッチドラム20と、このクラッチドラム20の外周に配置されるとともに巻取パイプ3に固定される円筒形状のクラッチケース30と、中心軸11及びクラッチドラム20の間に配設されるワンウェイクラッチ40と、ガイド体としてのクラッチボール60とを主に備えている。また、このクラッチ装置10は、中心軸11とワンウェイクラッチ40の間に金属製のクラッチカラー50を備えるとともに、クラッチケース30のカバーとなるクラッチカバー70も備えている。なお、クラッチカラー50以外の部材は主に樹脂製となっている。
【0018】
中心軸11は、ワンウェイクラッチ機構C1が挿入される細軸部12と、細軸部12よりも大きな径を有しクラッチドラム20が挿入される丸軸部13と、挿入されたクラッチドラム13が当接して係止される薄肉の円盤部14と、角柱形に形成され、ブラケット2bの取付部(図示せず)と回転不能に嵌合する角軸部15とをこの順に有する。なお、クラッチ装置10の各部材の軸方向(長手方向)の向きについて、以下の説明において、中心軸11の細軸部12側を細軸側、角軸部15側を角軸側とする。
【0019】
クラッチドラム20は、外周面21に円周方向に設けられた無端状のガイド溝22を有するとともに、中心軸11の丸軸部13と嵌り合う小径孔23と、この小径孔23よりも内径が大きい拡径孔24とを有している。
【0020】
クラッチケース30は、外周に巻取パイプ3の内周に設けられた溝(図示せず)と嵌り合う4つのリブ31を有しており、巻取パイプ3と一体回転するようになっている。このクラッチケース30の内周面32には、内径が小さくなった狭径部33と、クラッチケース30の端部34から狭径部33まで軸方向に連続するスライド溝35とが形成されている。
【0021】
ワンウェイクラッチ40は、図3のD−D断面図である図4(a)及び(b)に示すように、クラッチカラー50を挟んで中心軸11の周囲に配置される外輪43と、中心軸11と外輪43との間に配設されるニードル44とから主に構成される。外輪43は、リテーナ41と、リテーナ41の外周面に嵌合されるアウタースリーブ42とにより構成され、これらは中心軸11の周囲を一体に回転するようになっている。ニードル44は、軸方向に伸びる円柱形状の自転可能な金属製部材であり、本実施形態においては円周方向等間隔に6本配設されている。なお、上述したクラッチカラー50はリング状の金属製部材であり、中心軸11とワンウェイクラッチ40との間に配置して、樹脂製の中心軸11に対して金属製のニードル44が滑ってしまうことを防止するために設置されている。また、リテーナ41には、各ニードル44を中心軸11とアウタースリーブ42の内周面との間に保持する収容溝45と、各ニードル44を中心軸11の同一周方向に向かって押圧するスプリング46を収容する凹部47とが設けられている(図4(b)参照)。そして、収容溝45の径方向の間隔は、円柱状の中心軸11(クラッチカラー50)とアウタースリーブ42の六角孔状の内周面とにより、スプリング46がニードル44を押圧する押圧方向(スプリング46が伸びる方向)に向かって狭くなっている。
【0022】
クラッチカバー70は、中心軸11、クラッチドラム20及びワンウェイクラッチ40をクラッチケース30に収容した状態で脱落を防止するために用いられる円盤状部材であり、中心軸11の細軸部12を挿入可能な貫通孔71を有している。また、クラッチカバー70の細軸側の面は肉抜きされている。
【0023】
以上のような構成のクラッチ装置10を組み立てる際には、図3に示すように、まずクラッチドラム20を中心軸11の太軸部13に挿入して円盤部14に当接させ、次に、クラッチカラー50を太軸部13と細軸部12との間に形成される段部16に当接させるよう中心軸11の細軸部12に圧入する。この際、段部16に設けられた2つの切り欠き17にクラッチカラー50に設けられた2つの突起51がそれぞれ係合することで、クラッチカラー50が位置決めされるとともに、中心軸11に対するクラッチカラー50の相対回転を確実に防止している。
【0024】
そして、ワンウェイクラッチ40をクラッチドラム20及びクラッチカラー50が挿入された中心軸11に挿入する。ここで、クラッチドラム20の小径孔23と拡径孔24の内周の境目には段部25が形成されており、この段部25にワンウェイクラッチ40が当接するようになっている。また、拡径孔24には軸方向に伸びる突条26が円周方向3ヶ所から内向き突出しており、それぞれがワンウェイクラッチ40の外周面に形成される3つの溝41と嵌り合うことでワンウェイクラッチ40が位置決めされるとともに、ワンウェイクラッチ40がクラッチドラム20に対して相対回転しないようになっている。
【0025】
次に、クラッチドラム20、クラッチケース30及びワンウェイクラッチ40が組み付けられた中心軸11をクラッチケース30へ収容する。この際、クラッチドラム20のガイド溝22とクラッチケース30のスライド溝35との間にクラッチボール60を配設する。このクラッチボール60は樹脂製の球体であり、クラッチドラム20とクラッチケース30の相対回転に伴ってスライド溝35内を移動しながらガイド溝内22を移動するようになっている。なお、スライド溝35がクラッチケース30の端部34まで連続していることで、クラッチ装置10を組み立てる際にクラッチボール60を容易に導入することが可能となっている。
【0026】
中心軸11をクラッチケース30に挿入すると、中心軸11の円盤部14がクラッチケース30の狭径部33と当接することで中心軸11が軸方向に位置決めされる。そして、この状態でクラッチカバー70をクラッチケース30に取り付ける。この際、クラッチカバー70は、クラッチケース30の内周に設けられた段部36に当接するとともにこの段部36の近傍に設けられた2つの係止孔37に2つの係止片72がそれぞれ係合することで、クラッチケース30に固定されるようになっている。
【0027】
このように構成されたクラッチ装置10は、中心軸11に対するクラッチドラム20の巻取り方向の回転を規制するワンウェイクラッチ機構C1と、クラッチドラム20とクラッチケース30の連動と非連動とを選択的に切り替えるカムクラッチ機構C2とを有しており、これらの機構によって、中心軸11に対するクラッチケース30の巻取り方向の回転の規制と許容とを選択的に切り替えることが可能になっている。以下に、これらワンウェイクラッチ機構C1とカムクラッチ機構C2の構成及び、これらの機構によるクラッチ装置10の動作を説明する。
【0028】
まず、ワンウェイクラッチ機構C1は、上述したようにクラッチドラム20と一体回転するワンウェイクラッチ40と中心軸11に取り付けられたクラッチカラー50とから構成されており、図4の矢印Aによって示される中心軸11に対するクラッチドラム20の巻取り方向の回転を規制するようになっている。
【0029】
具体的には、クラッチドラム20が中心軸11に対して矢印Aの方向に回転してクラッチドラム20のニードル44が押圧方向(スプリング46が伸びる方向)に移動すると、収容溝45の径方向の間隔が押圧方向に向かって狭くなっていることから、ニードル44が中心軸11側のクラッチカラー50と外輪43(アウタースリーブ42)に押し付けられて、ニードル44が自転不能となる。これにより、中心軸11に対するクラッチドラム20の回転は規制されることとなる。一方、クラッチドラム20が固定軸に対して矢印Bの方向に回転する場合は、スプリング46を押し戻す方向にニードル44が移動し、ニードル44が収容溝45内を自転することによって、中心軸11に対するクラッチドラム20の回転の規制が解除される。このような構成により、ワンウェイクラッチ機構C1は、固定状態にある中心軸11に対し、クラッチドラム20の矢印A方向の回転を規制し、矢印B方向の回転を許容するようになっている。
なお、ニードル44の自転可能である状態から自転不能となる状態になるまでに中心軸11に対してクラッチドラム20が回転する角度(バックラッシュ)は、ニードル44の収容溝45内の移動分のみであり、クラッチドラム20は僅かな回転しかしないようになっている。
【0030】
カムクラッチ機構C2は、主にクラッチドラム20に設けられたガイド溝22、クラッチケース30に設けられたスライド溝35及びクラッチボール60から構成されており、クラッチドラム20とクラッチケース30の間の相対回転に伴ってクラッチボール60がスライド溝35内を軸方向に移動しながらガイド溝22内を移動するようになっている。
【0031】
ここで、具体的なカムクラッチ機構C2の動作を図5に示すガイド溝22の展開図を用いて説明する。ガイド溝22は、円周方向に無端で延びる無端ループ22aと、無端ループ22aから分岐する分岐ループ22bとから構成され、分岐ループ22bには第1ロック溝22cと第2ロック溝22dとが形成されている。なお、本実施形態では、ガイド溝22はクラッチドラム20一周で2つの分岐ループ22bを備えているが、分岐ループ22bの数は、1つ、あるいは3つ以上としてもよい。
【0032】
まず、クラッチケース30が中心軸11に対して巻戻し方向に回転するとき、クラッチケース30に対してクラッチボール60はスライド溝35に沿って軸方向にしか移動できないので、このクラッチボール60はクラッチケース30の回転に伴ってガイド溝22に沿って実線の矢印Xで示す方向へ相対的に移動し、分岐ループ22bを通って第1ロック溝22cに案内される。クラッチボール60が第1ロック溝22cに係止されると、クラッチケース30とクラッチドラム20とがクラッチボール60を介して係合され、第1係合状態Pとなる。この時、ワンウェイクラッチ機構C1は中心軸11に対するクラッチドラム20の巻戻し方向の回転を許容するようになっているため、クラッチケース30の回転が規制されることはなく、第1係合状態Pにおいてはクラッチケース30の巻戻し方向の回転に連動してクラッチドラム20も巻戻し方向に回転するようになる。
【0033】
次に、第1係合状態Pでクラッチケース30が中心軸11に対して巻取り方向に回転すると、クラッチボール60は分岐ループ22b内を相対的に移動して第2ロック溝22dに案内される。クラッチボール60が第2ロック溝22dに係止されると、クラッチケース30とクラッチドラム20とはクラッチボール60を介して再び係合し、第2係合状態Qとなる。この時、ワンウェイクラッチ機構C1が中心軸11に対するクラッチドラム20の巻取り方向の回転を規制しているため、クラッチケース30は第2係合状態Qにおいて中心軸11に対して巻取り方向に回転不能となる。
【0034】
そして、第2係合状態Qでクラッチケース30が中心軸11に対して再び巻戻し方向に回転すると、クラッチボール60はロック溝22dと対向するガイド溝の斜面22eに当たって図5の左側へと移動し、分岐ループ22bから無端ループ22aへと移動するようになっている。
【0035】
なお、クラッチボール60が無端ループ22a上にある時にクラッチケース30が固定軸に対して巻取り方向に回転する場合には、クラッチボール60は無端ループ22a上を破線の矢印Yで示す方向へ相対移動し続けるため、クラッチケース30の回転は規制されないようになっている。
【0036】
ここで、上記のようなクラッチ装置10を備えたロールスクリーンの動作について説明する。ロールスクリーンのスクリーン4をコイルスプリング5の付勢力に抗して引き下げて巻戻すと、巻取パイプ3を介してクラッチケース30が回転する。これに伴って、クラッチボール60が図5に示す矢印X方向へ移動し、分岐ループ22bの第1ロック溝22cに案内され第1係合状態Pとなって、巻取パイプ3、クラッチケース30及びクラッチドラム20が一体となって巻戻し方向(図4の矢印Bの方向)に回転する。
【0037】
スクリーン4を所望位置まで巻戻した後スクリーン4を手放すと、スクリーン4はコイルスプリング5の付勢力により若干巻取られた後、その巻取りが停止される。すなわち、スクリーン4を手放すと、巻取パイプ3及びこれと一体回転するクラッチケース30は巻取り方向(図4の矢印Aの方向)に回転し、クラッチボール60が第2ロック溝22dに案内されて、クラッチドラム20と係合する第2係合状態Qとなる。クラッチドラム20はワンウェイクラッチ機構C1によって巻取り方向に回転不能であるため、結果として巻取パイプ3の回転が規制され、スクリーン4の巻取りが停止される。
【0038】
なお、本実施形態においては、スクリーン4を所望位置に位置決めした後手放してから、クラッチ装置10が作動するまでにスクリーン4が巻戻る戻り量は、ワンウェイクラッチ40のニードル44が収容溝45内を移動する際の中心軸11に対するクラッチドラム20の回転及び第1係合状態Pから第2係合状態Qに至るまでに生じるクラッチドラム20に対するクラッチケース30の回転に起因するもののみとなっている。加えて、本実施形態では第1ロック溝22cと第2ロック溝22dとの間の間隔を狭くして第1係合状態Pから第2係合状態Qに至るまでに生じるクラッチドラム20に対するクラッチケース30の回転を削減しており、ワンウェイクラッチ40を用いていることと第1ロック溝22cと第2ロック溝22dとの間の間隔を狭くしていることとが相まって、スクリーン4の戻り量が効果的に低減されている。
【0039】
そして、スクリーン4の巻取りが停止された状態からスクリーン4を若干引き下げると、クラッチボール60はロック溝22dと対向するガイド溝の斜面22eに当たって無端ループ22a側(図5の左側)へと移動する。これによって巻取パイプ3の巻取り方向への回転の規制が解除され、その後引き下げをやめてスクリーン4を手放すと、クラッチボール60はガイド溝22の無端ループ22a内を図5の矢印Y方向へ周回し、スクリーン4は、コイルスプリング5の付勢力によって巻取られるようになる。
【0040】
なお、本発明は、以下の態様でも実施可能である。
・上記実施形態では、クラッチドラム20側にガイド溝22を設け、クラッチケース30側にスライド溝35を設けていたが、クラッチケース側にガイド溝22を設け、クラッチドラム20側にスライド溝を設けるようにしてもよい。
・上記実施形態では、ガイド体としてはスライド溝35を移動するクラッチボール60を用いていたが、ガイド体としてクラッチボール60を用いるのではなく、ガイド溝方向に突出する突出部をガイド体として用いてもよい。この場合、突出部は、クラッチドラムとクラッチケースのうちガイド溝の設けられていない側に設けられ、この突出部がクラッチドラムとクラッチケースの相対回転に伴ってガイド溝内を移動するようにすることもできる。この場合、クラッチドラム又はクラッチケースは、突出部がガイド溝に沿って移動できるよう軸方向に摺動可能に構成される。
・上記実施形態では、クラッチ装置10をスプリングアシスト式のロールスクリーンに用いていたが、自重降下式の遮蔽装置(横型ブラインド、プリーツスクリーンやローマンシェード等)や、横方向に付勢されたアコーディオンタイプのものなどにも適用することができる。例えば、クラッチ装置を自重降下式の横型ブラインドに用いる場合、巻取コーンが特許請求の範囲の「回転体」に相当し、遮蔽部材が自重によってコードを引っ張ることが特許請求の範囲の「付勢」に相当する。なお、本発明のクラッチ装置を自重降下式のブラインド等遮蔽部材が閉じる方向に付勢されている遮蔽装置に導入した場合にも、戻り角が少ないため遮蔽部材の位置決めを正確に行うことができるようになっている。
【0041】
(第2実施形態)
次に、この発明の第2実施形態について説明する。図6及び図7に示すように、この実施形態のクラッチ装置10では、摩擦抵抗体としてのコイルスプリング80を中心軸11とクラッチドラム20との間に配設した点が第1実施形態との相違点である。
【0042】
具体的には、コイルスプリング80は中心軸11の太軸部13に挿入されて円盤部14側に配置され、この状態でクラッチドラム20が中心軸11に挿入される。この時、本実施形態のクラッチドラム20には角軸側の内周に内径が拡径した収容部27が設けられているため、コイルスプリング80と干渉しないようになっている。そして、図7のE−E断面図である図8に示すように、この収容部27は断面形状が円周方向1ヶ所に凹部81を有するキー溝形状となっており、凹部81とコイルスプリング80の外周方向に突出する突出部81とが係合するようになっている。なお、このコイルスプリング80は、クラッチドラム20が中心軸11に対して巻取り方向に回転すると巻締まり、巻戻し方向に回転すると巻緩む方向に取り付けられる。
【0043】
かかる構成により、クラッチドラム20の中心軸11に対する巻戻し方向の回転に対し、コイルスプリング80が若干の摩擦抵抗を与えるようになっている。これにより、第2係合状態Q(図5参照)においてクラッチケース30が巻戻り方向に回転してクラッチボール60がロック溝22dと対向するガイド溝の斜面22eに当たった際に、クラッチドラム20がクラッチボール60(クラッチケース30)と連動して回転することを抑制している。その結果、クラッチボール60は確実に無端ループ22a側に移動することになり、クラッチボール60が第2ロック溝22dに戻って再び第2係合状態Qになってしまうことなく、クラッチドラム20(中心軸11)に対するクラッチケース30の巻取り方向への回転の規制がより確実に解除されるようになっている。以上のことから、本実施形態に係るロールスクリーンは僅かな戻り角の範囲内で確実にスクリーン4の規制を解除することができるようになっている。その他の構成、作用及び効果は上記第1実施形態と同様であるので、その記載は省略する。
【0044】
なお、本発明は、以下の態様でも実施可能である。
・上記実施形態では、コイルスプリング80は太軸部13の円盤部14側に配置されていたが、コイルスプリング80の位置は固定軸とクラッチドラムの間であれば任意の位置に配置することができ、例えば、ワンウェイクラッチと同軸上に設けてもよい。
【符号の説明】
【0045】
C1:ワンウェイクラッチ機構、C2:カムクラッチ機構、P:第1係合状態、Q:第2係合状態、10:クラッチ装置、11:中心軸、20:クラッチドラム、30:クラッチケース、43:外輪、44:ニードル
図1
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図9