【実施例】
【0032】
以下、
図1〜
図5を参照して本発明の具体的実施形態について説明する。
図1には、本発明の転写具1を示す。転写具1は、筐体2と、該筐体2内に設けられ、基材に転写媒体が塗布された転写テープが巻装された送出コア3と、転写テープのうちの転写媒体が被転写体へ転写された後の基材を巻き取る巻取コア4と、これら送出コア3と巻取コア4の各々に設けられた駆動伝達のための送出ギヤ3A及び巻取ギヤ4Aと、送出ギヤ3Aと巻取ギヤ4Aとの間に設けられて両者に噛合する中間ギヤ5と、転写テープの転写媒体を被転写体へ転写する転写部6と、を備えている。
【0033】
図1においては、送出コア3及び送出ギヤ3A、巻取コア4及び巻取ギヤ4A、中間ギヤ5を実線又はこれら部材において重なっている部位を破線で示しており、筺体2、転写部6など本発明の特徴ではない構成については二点鎖線(想像線)で示して、通常の構成であるため、説明を省略する。
【0034】
なお、本実施例における転写具1は、筺体2内の転写部6に近い側に巻取コア4を、遠い側に送出コア3を各々配置した例を示す。
【0035】
図2(a)には、転写具1における送出コア3、巻取コア4、中間ギヤ5の配置関係を示す。本例では、送出コア3は、送出ギヤ3Aが設けられている基材幅方向の位置が、巻取コア4の巻取ギヤ4Aが設けられている位置に較べて、基材幅中心寄りとされている。
この逆で当然に、巻取コア4は、巻取ギヤ4Aが設けられている基材幅方向の位置が、送出コア3の送出ギヤ3Aが設けられている位置に較べて、基材幅端部寄りとなっている。
【0036】
つまり、送出ギヤ3Aと、巻取ギヤ4Aとは、基材幅方向の位置が異なっており、この段差と送出コア3及び巻取コア4の軸間を埋めるように中間ギヤ5が設けられる。また、本例では、送出ギヤ3Aは、後述する巻取噛合ギヤ部5Bと対面するため、該送出ギヤ3Aの外周縁部が、外径方向へ軸短状となる傾斜を形成して該巻取噛合ギヤ部5Bと非接触状態としている。
【0037】
一方、中間ギヤ5は、送出ギヤ3Aと噛合する送出噛合ギヤ部5Aと該巻取ギヤ4Aと噛合する巻取噛合ギヤ部5Bとを有している。
【0038】
中間ギヤ5は、本例では、
図5に示すように、送出噛合ギヤ部5Aが、巻取噛合ギヤ部5Bに内嵌して、互いにスリップ可能に同軸で積層されている。本例で言う前記「積層」とは、送出噛合ギヤ部5Aと巻取噛合ギヤ部5Bとが、2段となっていることを意味している。
【0039】
本例では、具体的に次のように構成している。まず、巻取噛合ギヤ部5Bは、
図3に示すように、環状部材の外周に歯が形成されている。そして、本例では、この巻取噛合ギヤ部5Bは、
図3(b)に示すように、送出ギヤ3Aと対面する外周縁部の歯幅が外径方向へ軸短状となる傾斜面が形成されている。
【0040】
送出噛合ギヤ部5Aは、巻取噛合ギヤ部5Bに内嵌する外周部に、等角度間隔で、例えば本例では3箇所に付勢部5aが形成されていると共に軸端面部位に歯が形成されている。本例では、この送出噛合ギヤ部5Aも、
図4(c)に示すように、送出ギヤ3Aと対面する外周縁部の歯幅が外径方向へ軸短状となるように傾斜して形成されている。
【0041】
中間ギヤ5の送出噛合ギヤ部5Aと巻取噛合ギヤ部5B及び送出ギヤ3Aの外周縁部の歯幅が外径方向へ軸端状となるように傾斜して形成されている理由は、これら3つのギヤが、送出噛合ギヤ部5Aとこれに噛合する送出ギヤ3Aとの段と、巻取噛合ギヤ部5Bの段と、基材幅方向に2段積層状に配置されること及び段間クリアランスが小さくかつ互いの段の回転が同調しないことから、回転や噛合に関して対向する面やギヤ面との接触を防止するためである。
【0042】
一方、本例において、巻取ギヤ4Aの外周縁部の歯幅に外径方向へ軸端状となる傾斜面を形成していない理由は、上記とは逆の理由で、該巻取ギヤ4Aのギヤ面と、噛合及び回転上で支障が生じるような対向面やギヤ面やが存在しないためである。つまり、外周縁部に外径方向へ軸短状となる傾斜を形成するのは、送出ギヤ3A、巻取ギヤ4A、中間ギヤ5における送出噛合ギヤ部5A、巻取噛合ギヤ部5Bのうち、噛合や回転の関係上、対向する面やギヤ面が存在するギヤということになる。
【0043】
上記のことから、本例では、中間ギヤ5の巻取り噛合ギヤ部5B、送出噛合ギヤ部5A、送出ギヤ3Aのそれぞれの外周縁部に外径方向へ軸短状となる傾斜を形成している。すなわち、巻取噛合ギヤ部5B(のギヤ面)は、送出噛合ギヤ部5Aと、送出しギヤ3Aと対向している。送出噛合ギヤ部5A(のギヤ面)は、送出しコア3の軸端部に形成されたフランジと対向している。送出ギヤ3A(のギヤ面)は、巻取噛合ギヤ部5Bと対面している。
【0044】
さらに、本例では、中間ギヤ5において、付勢部5aが形成された送出噛合ギヤ部5Aが巻取噛合ギヤ部5Bに内嵌することによって摩擦クラッチ機構を構成している(スリップ可能な構成)。すなわち、付勢部5aは、送出噛合ギヤ部5Aにおいて巻取噛合ギヤ部5Bに内嵌する外周面と接続した接続部5bと、一端部に該接続部5bが他端部に付勢部5aが形成された腕部5cとから構成されている。
【0045】
腕部5cは接続部5bから付勢部5aに向けて送出噛合ギヤ部5Aの周面に沿って延びており、該腕部5cの先端部(他端部)に周面から突出状に付勢部5aが形成されている。この付勢部5aは、送出噛合ギヤ部5Aが巻取噛合ギヤ部5Bに内嵌した状態で、付勢部5aが該巻取噛合ギヤ部5Bの内周面に当接して腕部5cを軸方向へ弾性変形させており、この腕部5cの弾性変形の反力で付勢部5aが該巻取噛合ギヤ部5Bの内周面を付勢している。
【0046】
従来に対し、本例の転写具1であれば、中間ギヤ5に摩擦クラッチ機構を搭載しているので、中間ギヤ5は被交換部材として本体側に残すことが可能となるほか、詰替の際、摩擦クラッチ機構に直接、詰替部材が接触しないので、摩擦クラッチ機構の保護を兼ねた接続部材を設けなくても摩擦クラッチ機構の部材が傷んだり、摩耗して交換後の安定駆動が望めないなどの問題が生じることがないと共に、使用者が摩擦クラッチ機構を本体側のギヤ軸との間に正しく介在させる作業の煩わしさが生じることがなく、また、管理された環境下での設定状態を維持でき、簡便に交換することが可能となる。
【0047】
以下、本発明のより好ましい態様について説明する。転写具の設計としては、例えば筺体2の全体的な外観設計(外観)などあるが、使用感が良く、安定して使用(質)できることが最重要視される。そして、外観の大きな制約となっているのが質の設計でもある。つまり外観設計の自由度を向上させるには質の設計による制約を解く必要がある。そこで、前記質の設計について本発明者は次のように着想した。
【0048】
転写具1は使用において基材の弛みが生じると基材のねじれが生じて基材が破損・破断・巻取動作不良、狙った位置での転写が行えないなど使用感が悪化する。したがって基材の弛みを回避するために、基材の巻取量は、送出量より多めとするように送出及び巻取のそれぞれのギヤ比、コア径、パンケーキ径、を調整する必要がある。
【0049】
基材の巻取量を送出量より多めにすると基材に過剰張力がかかって断絶するので、送出量と巻取量のバランスを取るために、摩擦クラッチ機構を設けて余分な巻取量をスリップして緩衝(吸収)する必要がある。
【0050】
また、転写具は巻取側と送出側のパンケーキ径が使用初期から使用後期に亘って大小関係が異なってくる。これに伴い、巻取量は、使用初期に対して使用後期が大きくなり、摩擦クラッチ機構におけるスリップ量も大きくなる。
【0051】
このことから、基材の弛みの抑制のために巻取量を多めにするといっても、巻取量が多くなることのみを主眼として設計すると、摩擦クラッチ機構のスリップ量が大きくなるというメカニカルロスが生じ、必要以上に多く巻き取る設定とする必要はなく、ある程度、使用初期から後期の状況を鑑みて決定する必要がある。
【0052】
ここまでの説明を、今度は上記使用感、すなわち引出力を中心としてさらに具体的に説明する。転写具を被転写体に押圧しながら該被転写体の面上を移動させる使用動作において「使用感が重い」とは被転写体の面上を移動させにくくなり、該移動に大きな力を要ることを、「使用感が軽い」とは被転写体の面上を移動させやすく、該移動に大きな力を要しないことを意味する。
【0053】
上記のとおり、巻取側と送出側のパンケーキ径は変動するから前記引出力を一定とすることはできないが、使用初期から使用後期にかけて、使用量を横軸、引出力を縦軸とした際の傾きの小さい一次直線、つまり使用初期と使用後期の引出力の差が小さくなることが望ましい。
【0054】
引出力と使用量の関係を表す上記一次直線の傾きは、上記スリップを開始する巻取量と送出量の差(これを以下、「スリップトルク」という)の影響を受ける。ここで、使用後期は使用初期より使用感が重くなる理由は、送出側のパンケーキ外径が使用にしたがい小さくなることにより、使用初期と同じ量(例えば10cm)の転写テープを使用(引き出そうと)すると、使用後期では外径の小さくなった送出コアは多く回転させる必要があるためである。
【0055】
その一方で、使用後期において送出側のパンケーキの外径が小さくなると、巻取側のパンケーキ外径が大きくなると共にギヤ比はそもそも巻取側が早く回転するように設計されているので、巻取側のパンケーキは大径で早く回転することとなり、使用後期の転写テープは巻取側に強く引っ張られ、このとき転写テープが前記破断しないようスリップが多くなる。スリップ量が多くなると、使用に関する使用者の力を無駄に消費していることとなる。
【0056】
例えばスリップトルクを50gfに設定・設計した摩擦クラッチ機構を、使用前の直径10cm、使用後の直径5cmとなる送出パンケーキの巻取コア内に設けた場合、使用開始時と使用終了時の引出力は次のようになる。なお、パンケーキ径のcmや数値自体は、理解を容易とするためのものである。引出力は、スリップトルク/(送出パンケーキ半径)で計算できる。
【0057】
使用開始時の引出力=50gf/(10cm/2)=10gf
使用終了時の引出力=50gf/(5cm/2)=20gf
【0058】
よって、使用開始時と使用終了時の引出力の差をできるだけ小さくできると良いが、送出パンケーキ径(半径)が使用により小さくなることに比例して引出力が大きくなる関係自体は変えようがなく、「パンケーキ径を中心」とした設計は改善の余地がない。
【0059】
そこで、本発明では、ギヤを中心として使用感(質)の改善を試みた。一般的には、送出側と巻取側における駆動用のギヤについては、送出側と巻取側のギヤ径の設定及び使用初期における巻取コアの外径と送出パンケーキ外径とが互いに干渉(接触)しない最小軸間距離の設定の制約が生じるが、この制約は中間ギヤを設けることで、巻取側と送出側のギヤ径を小さくすることができると共に最小軸間距離の設定が容易となり、前記制約を解いて最小軸間距離とギヤ径(比)とを両立させることができる。
【0060】
したがって、中間ギヤを設けることで、全体的な外観についての設計上の自由度は確保できることとなる。ここで、再び引出力に説明を戻して、中間ギヤを設けると共にこの送出ギヤ中間ギヤに摩擦クラッチ機構を設けた場合について説明する。
【0061】
例えば、送出パンケーキ径が10cm、送出ギヤ径が20cm、これに噛合する中間ギヤ径が10cm、中間ギヤに設けた摩擦クラッチ機構のスリップトルクを50gfとした場合、送出ギヤ径が中間ギヤ径の2倍であるため、実際に引出力に関与するスリップトルクも2倍(50gf×2=100gf)となる。したがって、スリップトルクは100gfとして計算している。なお、ギヤ径のcmや数値自体は、理解を容易とするためのものである。引出力は、スリップトルク/(送出パンケーキ半径)で計算できる。
【0062】
使用開始時の引出力=100gf/(10cm/2)=20gf
使用終了時の引出力=100gf/(5cm/2)=40gf
【0063】
端的に言えば、例示した数値によれば、中間ギヤに摩擦クラッチ機構を設けると、送出コアに摩擦クラッチ機構を設けた場合に較べて、使用開始時及び使用終了時の引出力は全体として大きくなると共に引出力と使用量の関係を示す一次直線の傾きも勾配が大きくなる。つまり、中間ギヤを設けると使用感としては重くなることが把握できる。
【0064】
しかしながら、特筆すべきは、送出コアに摩擦クラッチ機構を設けた場合は送出パンケーキ径を変更しようがないのに対し、本発明のように中間ギヤを設けて該中間ギヤに摩擦クラッチ機構を設ける場合は50gfとしたスリップトルクを「送出ギヤ径と中間ギヤ径の設定」で変更できるという自由度を有する点である。
【0065】
すなわち、中間ギヤを設ける目的が「巻取側と送出側のギヤ径を小さくすることができると共に最小軸間距離の設定が容易となる」という点で送出側のギヤ径と中間ギヤ径は最小軸間距離とのバランスを保てるならば、この調整においてスリップトルクを考慮できる点で、送出コアに摩擦クラッチ機構を設けた場合と較べると格段に質の改善余地を有していることとなる。
【0066】
以上の点を勘案すると、本発明のように送出ギヤ3Aと噛合する送出噛合ギヤ部5Aと巻取ギヤ4Aと噛合する巻取噛合ギヤ部5Bとを有し、該送出噛合ギヤ部5Aと該巻取噛合ギヤ部5Bとが互いにスリップ可能に同軸で積層されている中間ギヤ5を有する構成は、スリップトルク(引出力)の適正調整が可能であると共に巻取側と送出側のギヤ径を小さくすることができると共に最小軸間距離の設定が容易となるというまさに質の改善から外観の改善が可能な良策と言える。
【0067】
したがって、スリップトルク(引出力)を中心とした、送出ギヤ3Aの径、中間ギヤ5の径(本発明では送出噛合ギヤ部5Aの径を意味する)、との関係は次のようになることが判明した。
【0068】
すなわち、次の関係式を満たせば、使用後期に引出力が使用初期に較べて極端に大きくなることがなく、つまり使用感が使用後期に亘って重くなることがなく、一方、使用初期に基材が弛むといったこともなく、さらに送出ギヤ3Aと送出噛合ギヤ部5Aのギヤ径の設定及び最小軸間距離の設定が容易で設計の自由度も向上する。
【0069】
(D2/D1)×(D2/D3)≦2
D1:送出パンケーキの直径
D2:送出ギヤ3Aの直径
D3:中間ギヤ5(における送出噛合ギヤ部5Aの)直径
【0070】
上記を満たさない場合は、使用後期に引出力が使用初期に較べて極端に大きくなる可能性があると共に、使用初期に基材が弛む可能性があり、また、送出側のギヤ径と中間ギヤ径の設定及び最小軸間距離の設定を何度も見直す手間が生じる。