特許第6588790号(P6588790)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6588790
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】転写具
(51)【国際特許分類】
   B43L 19/00 20060101AFI20191001BHJP
   B43M 11/06 20060101ALI20191001BHJP
【FI】
   B43L19/00 H
   B43M11/06
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-201369(P2015-201369)
(22)【出願日】2015年10月9日
(65)【公開番号】特開2017-71195(P2017-71195A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2018年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】306029349
【氏名又は名称】ゼネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089462
【弁理士】
【氏名又は名称】溝上 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100129827
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 進
(72)【発明者】
【氏名】平田 周孝
【審査官】 中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−160761(JP,A)
【文献】 特開2009−196314(JP,A)
【文献】 特開2014−083777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43L 19/00
B43M 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、該筐体内に設けられ、基材に転写媒体が塗布された転写テープが巻装された送出コアと、転写テープのうちの転写媒体が被転写体へ転写された後の基材を巻き取る巻取コアと、これら送出コアと巻取コアの各々に設けられた駆動伝達のための送出ギヤ及び巻取ギヤと、前記送出ギヤと前記巻取ギヤとの間に設けられて両者に噛合する中間ギヤと、転写テープの転写媒体を被転写体へ転写する転写部と、を備えた転写具であって、前記中間ギヤが、該送出ギヤと噛合する送出噛合ギヤ部と該巻取ギヤと噛合する巻取噛合ギヤ部とを有し、該送出噛合ギヤ部と該巻取噛合ギヤ部とが互いにスリップ可能に同軸で積層され、さらに、該送出噛合ギヤ部と該巻取噛合ギヤ部とのうち一方が他方に内嵌し、この内嵌する一方側の外周部に外径方向に向けて付勢する付勢部が形成されていることを特徴とする転写具。
【請求項2】
筐体と、該筐体内に設けられ、基材に転写媒体が塗布された転写テープが巻装された送出コアと、転写テープのうちの転写媒体が被転写体へ転写された後の基材を巻き取る巻取コアと、これら送出コアと巻取コアの各々に設けられた駆動伝達のための送出ギヤ及び巻取ギヤと、前記送出ギヤと前記巻取ギヤとの間に設けられて両者に噛合する中間ギヤと、転写テープの転写媒体を被転写体へ転写する転写部と、を備えた転写具であって、前記中間ギヤが、該送出ギヤと噛合する送出噛合ギヤ部と該巻取ギヤと噛合する巻取噛合ギヤ部とを有し、該送出噛合ギヤ部と該巻取噛合ギヤ部とが互いにスリップ可能に同軸で積層され、また、前記送出ギヤと前記巻取ギヤにおける基材の幅方向の位置を前記中間ギヤの該送出噛合ギヤ部と該巻取噛合ギヤ部の積層高さに合わせて異ならせ、さらに、該送出ギヤ、該巻取ギヤ、該送出噛合ギヤ部、該巻取噛合ギヤ部、のうちのいくつかの外周縁部に、外径方向へ軸短状となる傾斜を形成してこれらギヤ面と対向する面と非接触状態としたことを特徴とする転写具。
【請求項3】
筐体と、該筐体内に設けられ、基材に転写媒体が塗布された転写テープが巻装された送出コアと、転写テープのうちの転写媒体が被転写体へ転写された後の基材を巻き取る巻取コアと、これら送出コアと巻取コアの各々に設けられた駆動伝達のための送出ギヤ及び巻取ギヤと、前記送出ギヤと前記巻取ギヤとの間に設けられて両者に噛合する中間ギヤと、転写テープの転写媒体を被転写体へ転写する転写部と、を備えた転写具であって、前記中間ギヤが、該送出ギヤと噛合する送出噛合ギヤ部と該巻取ギヤと噛合する巻取噛合ギヤ部とを有し、該送出噛合ギヤ部と該巻取噛合ギヤ部とが互いにスリップ可能に同軸で積層され、さらに、該送出噛合ギヤ部と該巻取噛合ギヤ部とのうち一方が他方に内嵌し、この内嵌する一方側の外周部に外径方向に向けて付勢する付勢部が形成され、また、前記送出ギヤと前記巻取ギヤにおける基材の幅方向の位置を該中間ギヤの送出噛合ギヤ部と巻取噛合ギヤ部の積層高さに合わせて異ならせ、さらに、送出ギヤ、巻取ギヤ、送出噛合ギヤ部、巻取噛合ギヤ部、のうちのいくつかの外周縁部に、外径方向へ軸短状となる傾斜を形成してこれらギヤ面と対向する面と非接触状態としたことを特徴とする転写具。
【請求項4】
未使用の転写テープが巻装された送出コアの巻装直径をD1、送出ギヤの直径をD2、該送出ギヤと噛合する中間ギヤにおける送出噛合ギヤ部の直径をD3とした場合、
(D2/D1)×(D2/D3)≦2
の関係式を満たすことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の転写具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材が弛まないように巻取量と送出量とを適切に保ち、かつ過剰な巻取量とならないように摩擦クラッチ構造を備えたうえで、筺体のサイズの小型化と巻取コア、送出コア並びにギヤの径の設計自由度を向上させることができ、また、詰替構造を採用した場合には交換側の部材を減らすことができる転写具に関する。
【背景技術】
【0002】
転写媒体を紙などの被転写体に転写する転写具は、主要構成として、筐体内に、基材に転写媒体が塗布された転写テープが巻装された送出コア、転写テープのうちの転写媒体が被転写体へ転写された後の基材を巻き取る巻取コア、及び転写テープの転写媒体を被転写体へ転写する転写部を備えている。
【0003】
なお、本願において、転写テープ、転写媒体、基材を個別に説明しない限り、送出側に巻装された転写テープ、巻取側に巻装された基材、を総称して「基材」と、また、送出コアに基材が巻装された状態を「送出パンケーキ」と、巻取コアに基材が巻装された状態を「巻取パンケーキ」と、各々言うこととする。
【0004】
この種の転写具は、基材の搬送弛みを防止するため、巻取側の搬送量が送出側の搬送量より多くなるように、送出コア及び巻取コアの外径や、各コアを駆動し動力を伝達する例えばギヤの径が設定されているほか、駆動部材において意図的に巻取側の回転をスリップさせて不必要な巻取量が生じるような不均衡な回転を吸収するために、送出コア又は巻取コアの一方に、該一方のコア側に動力伝達するギヤとの間に摩擦クラッチ機構(スリップ機構とも称す)を設けるようにしている。
【0005】
上記の、巻取量が多くなるような設定の基本としては、巻取、送出の各コアが同じ回転数(同じギヤ径)で設定されている条件下において、使用初期における、巻取コアの外径を送出パンケーキ外径より大きくするか、送出側のギヤ径を巻取側のギヤ径より大きく設計するようにしている。
【0006】
まず、上記の「ギヤ径の設計」においては、使用初期における、巻取コアの外径と、送出パンケーキ外径とが互いに干渉(接触)しない位置(以下、これを「最小軸間距離」と言う)を考慮する必要があるため、ギヤ比の調整にとどまらない点で設計に手間がかかるという問題がある。
【0007】
ギヤ径の設計の手間を考慮すると、巻取コア径と送出パンケーキ径は、巻取と送出のギヤ同士の噛合した状態を維持しながら、巻取コア外周と送出パンケーキ外周とが互いに接触(干渉)せず、かつできるだけ近接させて配置する、つまり最小軸間距離を設定する必要があるが、このとき、当然ながら送出ギヤの外径は未使用の送出パンケーキの外径より大きくする必要がある(例えば特開平6−92085号公報)。この結果、転写具の筺体の小型化が困難になるほか、デザインの自由度が低くなってしまう。
【0008】
そこで、最小軸間距離とギヤ径(比)とを両立させるために、巻取側のギヤと送出側のギヤとの間、つまり最小軸間距離を補うアイドルギヤ、いわゆる中間ギヤを設けることによって、巻取側と送出側のギヤ径を小さくする手法(例えば特開2006−248183号公報:特許文献2)も多数提案されている。
【0009】
ところが、中間ギヤを設けても、この中間ギヤと別に設ける摩擦クラッチ構造は転写具の安定使用上、省略することはできず、巻取側と送出側のどちらかの軸構造において摩擦クラッチ構造を設ける必要があるため、コア径が大経化し、転写具の筺体寸法の大型化を助長することとなる(例えば特開平9−124219号公報:特許文献3)。
【0010】
なお、ギヤ構造に代えてプーリと無端状ベルトを利用すれば、ベルトのテンションとプーリに対する適度なスリップとによって摩擦クラッチの機能を果たすため、ギヤを用いる構造に起因した問題は生じないが、次の新たな問題があり、本願では対象としていない。
【0011】
すなわち、ベルトとプーリであると、確かにスリップは容易であるとしても、噛合して駆動伝達するギヤに較べて、ベルトが摩耗したり環境温度により延伸して駆動伝達が安定しない要因が多数あるほか、ベルトを新規サイズで作成すると高価となり、逆に規格品のベルトを採用すると、ベルトのサイズで規制されてしまい、設計仕様自体に制限を受けることとなる(例えば特開平7−76452号公報:特許文献4)。
【0012】
中間ギヤの点に話を戻し、中間ギヤと別に摩擦クラッチ構造を設ける構成とした場合、上記の軸径が大経化する問題の他に、次の問題がある。すなわち、消耗部材である転写テープの詰替構造を構築する場合、一般的に、(使用後の基材が巻装されている)巻取コア、未使用の(転写テープが巻装されている)送出パンケーキ、の交換、つまり巻取コア、送出コア、の両方が必須とされる。
【0013】
交換構造(本体側)、交換部材(交換側)との関係では、上記のうち、摩擦クラッチ機構の構成を本体側に設けるのか、交換側に設けるのかによって次の点を考慮する必要がある。摩擦クラッチ機構の要部はコアとギヤとを付勢力を発現させる部材となるが、これはコアにもギヤにも動力伝達ができ、かつ付勢力が発揮されるようコアとギヤとの間に正しく介在させる必要がある。
【0014】
つまり、上記摩擦クラッチ機構を、本体側(被交換側)に設ければ、その分だけ交換側の部品点数を減らすことができるが、交換を繰り返すと詰替用巻取コアもしくは送出コアの接触によって摩擦クラッチ機構の部材が痛んだり、摩耗して交換後の安定駆動が望めないといった問題がある。前記の課題を克服するために、摩擦クラッチ機構の保護を兼ねた接続部材を摩擦クラッチ機構の一部として設けることが従来より実施されているが、部品点数の増加によりコストアップにつながる問題がある。
【0015】
一方、摩擦クラッチ機構を、交換側に設ければ、前記摩擦部材を設けることなく、摩擦クラッチ機構の部材が痛んだり、摩耗して交換後の安定駆動が望めないといった問題を回避できるものの、使用者が摩擦クラッチ機構を本体側のギヤ軸との間に正しく介在させる作業の煩わしさが生じるほか、管理された環境下での設定状態(この場合はスリップトルク)とはならず、交換不備が発生する可能性がある。
【0016】
したがって、摩擦クラッチ機構を交換側と本体側とでどちらに設けても一長一短あり、こうした摩擦クラッチ機構の搭載に関する短所と長所の制約をも勘案したうえで設計を行う必要もあり、設計の自由度は低いといった問題があった。
【0017】
以上のとおり、転写具は、今や修正用の例えば白色の塗膜、両面接着用の塗膜、蛍光マーカー用の透明着色塗膜、などの転写媒体を用いたものが多種類登場し、普及しているが、上記のように、基材の安定搬送と筺体内における部材の配置スペースの関係では依然として制約が多く、こういった制約により設計の自由度が低い、詰替構造においては交換側における部品点数を減らすことができないなどの問題を抱えており、根本的かつバランス良く解決する良策がないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平6−92085号公報
【特許文献2】特開2006−248183号公報
【特許文献3】特開平9−124219号公報
【特許文献4】特開平7−76452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
解決しようとする問題は、基材が弛まないように巻取量と送出量とを適切に保ち、かつ過剰な巻取量とならないように摩擦クラッチ構造を備えたうえで、筺体のサイズの小型化と巻取コア、送出コア並びにギヤの径の設計自由度を向上させることができなかった点、また、詰替構造を採用した場合には安易に交換側の部材を減らすことができなかった点、である。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するため、本発明は、筐体と、該筐体内に設けられ、基材に転写媒体が塗布された転写テープが巻装された送出コアと、転写テープのうちの転写媒体が被転写体へ転写された後の基材を巻き取る巻取コアと、これら送出コアと巻取コアの各々に設けられた駆動伝達のための送出ギヤ及び巻取ギヤと、前記送出ギヤと前記巻取ギヤとの間に設けられて両者に噛合する中間ギヤと、転写テープの転写媒体を被転写体へ転写する転写部と、を備えた転写具であって、前記中間ギヤが、該送出ギヤと噛合する送出噛合ギヤ部と該巻取ギヤと噛合する巻取噛合ギヤ部とを有し、該送出噛合ギヤ部と該巻取噛合ギヤ部とが互いにスリップ可能に同軸で積層され、さらに、該送出噛合ギヤ部と該巻取噛合ギヤ部とのうち一方が他方に内嵌し、この内嵌する一方側の外周部に外径方向に向けて付勢する付勢部が形成されていることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、送出噛合ギヤ部と巻取噛合ギヤ部とが互いにスリップ可能に同軸で積層された中間ギヤを備えることで、中間ギヤだけで、巻取量と送出量とを適切に保ちつつ最小軸間距離を考慮したギヤ比の設計の自由化が可能になると共に詰替構造を採用した場合には、詰替えの際、摩擦クラッチ機構に直接、詰替部材が接触しないので、摩擦クラッチ機構の保護を兼ねた接続部材を設けなくても摩擦クラッチ機構の部材が傷んだり、摩耗して交換後の安定駆動が望めないなどの問題が発生せず、使用者が摩擦クラッチ機構を本体側のギヤ軸との間に正しく介在させる作業の煩わしさが生じないと共に、管理された環境下での設定状態を維持でき、交換不備が生じにくい効果を得ることができる。
【0022】
また、本発明の転写具は、送出噛合ギヤ部と巻取噛合ギヤ部とが互いにスリップ可能に同軸で積層された中間ギヤによる、上記の作用効果の副次効果として、筺体設計の自由度が向上すると共に、詰替構造における交換側のコストの低下が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の転写具における中間ギヤ、巻取ギヤ、送出ギヤを示す図である。
図2】本発明の転写具における中間ギヤ、巻取ギヤ、送出ギヤを示し、(a)は噛合状況を説明するための軸直交方向から見た図、(b)は送出ギヤを示す斜視図、(c)は送出ギヤを示す軸直交方向から見た図、である。
図3】本発明の転写具の中間ギヤにおける巻取噛合ギヤ部を部分的に示し、(a)(b)は斜視図、(c)は軸直交方向から見た図、である。
図4】本発明の転写具の中間ギヤにおける送出噛合ギヤ部を部分的に示し、(a)(b)は斜視図、(c)は軸直交方向から見た図、である。
図5】(a)(b)は本発明の転写具の中間ギヤを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の転写具は、巻取量と送出量とを適切に保ち、かつ摩擦クラッチ構造を備えて、筺体のサイズの小型化と巻取コア、送出コア並びにギヤの径の設計自由度を向上させるという目的を、送出ギヤと噛合する送出噛合ギヤ部と該巻取ギヤと噛合する巻取噛合ギヤ部とを有し、該送出噛合ギヤ部と該巻取噛合ギヤ部とが互いにスリップ可能に同軸で積層された中間ギヤを設けることで達成した。
【0025】
また、本発明の転写具は、上記構成において、中間ギヤの送出噛合ギヤ部と巻取噛合ギヤ部とのうち一方が他方に内嵌し、この内嵌する一方側の外周部に外径方向に向けて付勢する付勢部が形成されたものであってもよい。
【0026】
このようにすることで、確実かつ適切な摩擦クラッチ機能が発現され、送出噛合ギヤ部と巻取噛合ギヤ部の一方が他方に対して、通常のつまり巻取量と送出量とが適量にて搬送させることができる。
【0027】
また、中間ギヤの内周部位に付勢部、すなわち摩擦クラッチ機構が設けられることとなるため、該中間ギヤを本体側の部材として交換部品点数の削減に寄与できると共に、本体側に摩擦クラッチ機構を設けても、詰替えの際、摩擦クラッチ機構に直接、詰替部材が接触しないので、摩擦クラッチ機構の保護を兼ねた接続部材を設けなくても摩擦クラッチ機構の部材が傷んだり、摩耗して交換後の安定駆動が望めないなどの不具合発生が生じにくい。
【0028】
さらに、本発明の転写具は、上記構成において、送出ギヤと巻取ギヤにおける基材の幅方向の位置を、中間ギヤの送出噛合ギヤ部と巻取噛合ギヤ部の積層高さに合わせて異ならせ、さらに、前記送出ギヤ、前記巻取ギヤ、前記送出噛合ギヤ部、前記巻取噛合ギヤ部、のうちのいくつかの外周縁部に、外径方向へ軸短状となる傾斜を形成してしてこれらギヤ面と対向する面と非接触状態としてもよい。
【0029】
こうすることで、最小軸間距離とすることができると共に、そのように最小軸間距離とした際において、送出ギヤ、前記巻取ギヤ、及び中間ギヤの送出噛合ギヤ部、巻取噛合ギヤ部のうち、噛合及びギヤ回転上支障となるギヤ面やコアの軸端部フランジ面との接触・干渉を回避でき、確実な動作が可能となる。
【0030】
さらに、本発明の転写具は、上記構成において、未使用の転写テープが巻装された送出コアの巻装直径をD1、送出ギヤの直径をD2、該送出ギヤと噛合する中間ギヤにおける送出噛合ギヤ部の直径をD3とした場合に(D2/D1)×(D2/D3)≦2の関係式を満たすようにしてもよい。
【0031】
こうすることで、使用感の向上や動作の安定性といった実使用面における内部設計(質)の制約を解いて改善しつつ、全体的な外観設計(外観)の自由度を向上させることができるようになる。
【実施例】
【0032】
以下、図1図5を参照して本発明の具体的実施形態について説明する。図1には、本発明の転写具1を示す。転写具1は、筐体2と、該筐体2内に設けられ、基材に転写媒体が塗布された転写テープが巻装された送出コア3と、転写テープのうちの転写媒体が被転写体へ転写された後の基材を巻き取る巻取コア4と、これら送出コア3と巻取コア4の各々に設けられた駆動伝達のための送出ギヤ3A及び巻取ギヤ4Aと、送出ギヤ3Aと巻取ギヤ4Aとの間に設けられて両者に噛合する中間ギヤ5と、転写テープの転写媒体を被転写体へ転写する転写部6と、を備えている。
【0033】
図1においては、送出コア3及び送出ギヤ3A、巻取コア4及び巻取ギヤ4A、中間ギヤ5を実線又はこれら部材において重なっている部位を破線で示しており、筺体2、転写部6など本発明の特徴ではない構成については二点鎖線(想像線)で示して、通常の構成であるため、説明を省略する。
【0034】
なお、本実施例における転写具1は、筺体2内の転写部6に近い側に巻取コア4を、遠い側に送出コア3を各々配置した例を示す。
【0035】
図2(a)には、転写具1における送出コア3、巻取コア4、中間ギヤ5の配置関係を示す。本例では、送出コア3は、送出ギヤ3Aが設けられている基材幅方向の位置が、巻取コア4の巻取ギヤ4Aが設けられている位置に較べて、基材幅中心寄りとされている。
この逆で当然に、巻取コア4は、巻取ギヤ4Aが設けられている基材幅方向の位置が、送出コア3の送出ギヤ3Aが設けられている位置に較べて、基材幅端部寄りとなっている。
【0036】
つまり、送出ギヤ3Aと、巻取ギヤ4Aとは、基材幅方向の位置が異なっており、この段差と送出コア3及び巻取コア4の軸間を埋めるように中間ギヤ5が設けられる。また、本例では、送出ギヤ3Aは、後述する巻取噛合ギヤ部5Bと対面するため、該送出ギヤ3Aの外周縁部が、外径方向へ軸短状となる傾斜を形成して該巻取噛合ギヤ部5Bと非接触状態としている。
【0037】
一方、中間ギヤ5は、送出ギヤ3Aと噛合する送出噛合ギヤ部5Aと該巻取ギヤ4Aと噛合する巻取噛合ギヤ部5Bとを有している。
【0038】
中間ギヤ5は、本例では、図5に示すように、送出噛合ギヤ部5Aが、巻取噛合ギヤ部5Bに内嵌して、互いにスリップ可能に同軸で積層されている。本例で言う前記「積層」とは、送出噛合ギヤ部5Aと巻取噛合ギヤ部5Bとが、2段となっていることを意味している。
【0039】
本例では、具体的に次のように構成している。まず、巻取噛合ギヤ部5Bは、図3に示すように、環状部材の外周に歯が形成されている。そして、本例では、この巻取噛合ギヤ部5Bは、図3(b)に示すように、送出ギヤ3Aと対面する外周縁部の歯幅が外径方向へ軸短状となる傾斜面が形成されている。
【0040】
送出噛合ギヤ部5Aは、巻取噛合ギヤ部5Bに内嵌する外周部に、等角度間隔で、例えば本例では3箇所に付勢部5aが形成されていると共に軸端面部位に歯が形成されている。本例では、この送出噛合ギヤ部5Aも、図4(c)に示すように、送出ギヤ3Aと対面する外周縁部の歯幅が外径方向へ軸短状となるように傾斜して形成されている。
【0041】
中間ギヤ5の送出噛合ギヤ部5Aと巻取噛合ギヤ部5B及び送出ギヤ3Aの外周縁部の歯幅が外径方向へ軸端状となるように傾斜して形成されている理由は、これら3つのギヤが、送出噛合ギヤ部5Aとこれに噛合する送出ギヤ3Aとの段と、巻取噛合ギヤ部5Bの段と、基材幅方向に2段積層状に配置されること及び段間クリアランスが小さくかつ互いの段の回転が同調しないことから、回転や噛合に関して対向する面やギヤ面との接触を防止するためである。
【0042】
一方、本例において、巻取ギヤ4Aの外周縁部の歯幅に外径方向へ軸端状となる傾斜面を形成していない理由は、上記とは逆の理由で、該巻取ギヤ4Aのギヤ面と、噛合及び回転上で支障が生じるような対向面やギヤ面やが存在しないためである。つまり、外周縁部に外径方向へ軸短状となる傾斜を形成するのは、送出ギヤ3A、巻取ギヤ4A、中間ギヤ5における送出噛合ギヤ部5A、巻取噛合ギヤ部5Bのうち、噛合や回転の関係上、対向する面やギヤ面が存在するギヤということになる。
【0043】
上記のことから、本例では、中間ギヤ5の巻取り噛合ギヤ部5B、送出噛合ギヤ部5A、送出ギヤ3Aのそれぞれの外周縁部に外径方向へ軸短状となる傾斜を形成している。すなわち、巻取噛合ギヤ部5B(のギヤ面)は、送出噛合ギヤ部5Aと、送出しギヤ3Aと対向している。送出噛合ギヤ部5A(のギヤ面)は、送出しコア3の軸端部に形成されたフランジと対向している。送出ギヤ3A(のギヤ面)は、巻取噛合ギヤ部5Bと対面している。
【0044】
さらに、本例では、中間ギヤ5において、付勢部5aが形成された送出噛合ギヤ部5Aが巻取噛合ギヤ部5Bに内嵌することによって摩擦クラッチ機構を構成している(スリップ可能な構成)。すなわち、付勢部5aは、送出噛合ギヤ部5Aにおいて巻取噛合ギヤ部5Bに内嵌する外周面と接続した接続部5bと、一端部に該接続部5bが他端部に付勢部5aが形成された腕部5cとから構成されている。
【0045】
腕部5cは接続部5bから付勢部5aに向けて送出噛合ギヤ部5Aの周面に沿って延びており、該腕部5cの先端部(他端部)に周面から突出状に付勢部5aが形成されている。この付勢部5aは、送出噛合ギヤ部5Aが巻取噛合ギヤ部5Bに内嵌した状態で、付勢部5aが該巻取噛合ギヤ部5Bの内周面に当接して腕部5cを軸方向へ弾性変形させており、この腕部5cの弾性変形の反力で付勢部5aが該巻取噛合ギヤ部5Bの内周面を付勢している。
【0046】
従来に対し、本例の転写具1であれば、中間ギヤ5に摩擦クラッチ機構を搭載しているので、中間ギヤ5は被交換部材として本体側に残すことが可能となるほか、詰替の際、摩擦クラッチ機構に直接、詰替部材が接触しないので、摩擦クラッチ機構の保護を兼ねた接続部材を設けなくても摩擦クラッチ機構の部材が傷んだり、摩耗して交換後の安定駆動が望めないなどの問題が生じることがないと共に、使用者が摩擦クラッチ機構を本体側のギヤ軸との間に正しく介在させる作業の煩わしさが生じることがなく、また、管理された環境下での設定状態を維持でき、簡便に交換することが可能となる。
【0047】
以下、本発明のより好ましい態様について説明する。転写具の設計としては、例えば筺体2の全体的な外観設計(外観)などあるが、使用感が良く、安定して使用(質)できることが最重要視される。そして、外観の大きな制約となっているのが質の設計でもある。つまり外観設計の自由度を向上させるには質の設計による制約を解く必要がある。そこで、前記質の設計について本発明者は次のように着想した。
【0048】
転写具1は使用において基材の弛みが生じると基材のねじれが生じて基材が破損・破断・巻取動作不良、狙った位置での転写が行えないなど使用感が悪化する。したがって基材の弛みを回避するために、基材の巻取量は、送出量より多めとするように送出及び巻取のそれぞれのギヤ比、コア径、パンケーキ径、を調整する必要がある。
【0049】
基材の巻取量を送出量より多めにすると基材に過剰張力がかかって断絶するので、送出量と巻取量のバランスを取るために、摩擦クラッチ機構を設けて余分な巻取量をスリップして緩衝(吸収)する必要がある。
【0050】
また、転写具は巻取側と送出側のパンケーキ径が使用初期から使用後期に亘って大小関係が異なってくる。これに伴い、巻取量は、使用初期に対して使用後期が大きくなり、摩擦クラッチ機構におけるスリップ量も大きくなる。
【0051】
このことから、基材の弛みの抑制のために巻取量を多めにするといっても、巻取量が多くなることのみを主眼として設計すると、摩擦クラッチ機構のスリップ量が大きくなるというメカニカルロスが生じ、必要以上に多く巻き取る設定とする必要はなく、ある程度、使用初期から後期の状況を鑑みて決定する必要がある。
【0052】
ここまでの説明を、今度は上記使用感、すなわち引出力を中心としてさらに具体的に説明する。転写具を被転写体に押圧しながら該被転写体の面上を移動させる使用動作において「使用感が重い」とは被転写体の面上を移動させにくくなり、該移動に大きな力を要ることを、「使用感が軽い」とは被転写体の面上を移動させやすく、該移動に大きな力を要しないことを意味する。
【0053】
上記のとおり、巻取側と送出側のパンケーキ径は変動するから前記引出力を一定とすることはできないが、使用初期から使用後期にかけて、使用量を横軸、引出力を縦軸とした際の傾きの小さい一次直線、つまり使用初期と使用後期の引出力の差が小さくなることが望ましい。
【0054】
引出力と使用量の関係を表す上記一次直線の傾きは、上記スリップを開始する巻取量と送出量の差(これを以下、「スリップトルク」という)の影響を受ける。ここで、使用後期は使用初期より使用感が重くなる理由は、送出側のパンケーキ外径が使用にしたがい小さくなることにより、使用初期と同じ量(例えば10cm)の転写テープを使用(引き出そうと)すると、使用後期では外径の小さくなった送出コアは多く回転させる必要があるためである。
【0055】
その一方で、使用後期において送出側のパンケーキの外径が小さくなると、巻取側のパンケーキ外径が大きくなると共にギヤ比はそもそも巻取側が早く回転するように設計されているので、巻取側のパンケーキは大径で早く回転することとなり、使用後期の転写テープは巻取側に強く引っ張られ、このとき転写テープが前記破断しないようスリップが多くなる。スリップ量が多くなると、使用に関する使用者の力を無駄に消費していることとなる。
【0056】
例えばスリップトルクを50gfに設定・設計した摩擦クラッチ機構を、使用前の直径10cm、使用後の直径5cmとなる送出パンケーキの巻取コア内に設けた場合、使用開始時と使用終了時の引出力は次のようになる。なお、パンケーキ径のcmや数値自体は、理解を容易とするためのものである。引出力は、スリップトルク/(送出パンケーキ半径)で計算できる。
【0057】
使用開始時の引出力=50gf/(10cm/2)=10gf
使用終了時の引出力=50gf/(5cm/2)=20gf
【0058】
よって、使用開始時と使用終了時の引出力の差をできるだけ小さくできると良いが、送出パンケーキ径(半径)が使用により小さくなることに比例して引出力が大きくなる関係自体は変えようがなく、「パンケーキ径を中心」とした設計は改善の余地がない。
【0059】
そこで、本発明では、ギヤを中心として使用感(質)の改善を試みた。一般的には、送出側と巻取側における駆動用のギヤについては、送出側と巻取側のギヤ径の設定及び使用初期における巻取コアの外径と送出パンケーキ外径とが互いに干渉(接触)しない最小軸間距離の設定の制約が生じるが、この制約は中間ギヤを設けることで、巻取側と送出側のギヤ径を小さくすることができると共に最小軸間距離の設定が容易となり、前記制約を解いて最小軸間距離とギヤ径(比)とを両立させることができる。
【0060】
したがって、中間ギヤを設けることで、全体的な外観についての設計上の自由度は確保できることとなる。ここで、再び引出力に説明を戻して、中間ギヤを設けると共にこの送出ギヤ中間ギヤに摩擦クラッチ機構を設けた場合について説明する。
【0061】
例えば、送出パンケーキ径が10cm、送出ギヤ径が20cm、これに噛合する中間ギヤ径が10cm、中間ギヤに設けた摩擦クラッチ機構のスリップトルクを50gfとした場合、送出ギヤ径が中間ギヤ径の2倍であるため、実際に引出力に関与するスリップトルクも2倍(50gf×2=100gf)となる。したがって、スリップトルクは100gfとして計算している。なお、ギヤ径のcmや数値自体は、理解を容易とするためのものである。引出力は、スリップトルク/(送出パンケーキ半径)で計算できる。
【0062】
使用開始時の引出力=100gf/(10cm/2)=20gf
使用終了時の引出力=100gf/(5cm/2)=40gf
【0063】
端的に言えば、例示した数値によれば、中間ギヤに摩擦クラッチ機構を設けると、送出コアに摩擦クラッチ機構を設けた場合に較べて、使用開始時及び使用終了時の引出力は全体として大きくなると共に引出力と使用量の関係を示す一次直線の傾きも勾配が大きくなる。つまり、中間ギヤを設けると使用感としては重くなることが把握できる。
【0064】
しかしながら、特筆すべきは、送出コアに摩擦クラッチ機構を設けた場合は送出パンケーキ径を変更しようがないのに対し、本発明のように中間ギヤを設けて該中間ギヤに摩擦クラッチ機構を設ける場合は50gfとしたスリップトルクを「送出ギヤ径と中間ギヤ径の設定」で変更できるという自由度を有する点である。
【0065】
すなわち、中間ギヤを設ける目的が「巻取側と送出側のギヤ径を小さくすることができると共に最小軸間距離の設定が容易となる」という点で送出側のギヤ径と中間ギヤ径は最小軸間距離とのバランスを保てるならば、この調整においてスリップトルクを考慮できる点で、送出コアに摩擦クラッチ機構を設けた場合と較べると格段に質の改善余地を有していることとなる。
【0066】
以上の点を勘案すると、本発明のように送出ギヤ3Aと噛合する送出噛合ギヤ部5Aと巻取ギヤ4Aと噛合する巻取噛合ギヤ部5Bとを有し、該送出噛合ギヤ部5Aと該巻取噛合ギヤ部5Bとが互いにスリップ可能に同軸で積層されている中間ギヤ5を有する構成は、スリップトルク(引出力)の適正調整が可能であると共に巻取側と送出側のギヤ径を小さくすることができると共に最小軸間距離の設定が容易となるというまさに質の改善から外観の改善が可能な良策と言える。
【0067】
したがって、スリップトルク(引出力)を中心とした、送出ギヤ3Aの径、中間ギヤ5の径(本発明では送出噛合ギヤ部5Aの径を意味する)、との関係は次のようになることが判明した。
【0068】
すなわち、次の関係式を満たせば、使用後期に引出力が使用初期に較べて極端に大きくなることがなく、つまり使用感が使用後期に亘って重くなることがなく、一方、使用初期に基材が弛むといったこともなく、さらに送出ギヤ3Aと送出噛合ギヤ部5Aのギヤ径の設定及び最小軸間距離の設定が容易で設計の自由度も向上する。
【0069】
(D2/D1)×(D2/D3)≦2
D1:送出パンケーキの直径
D2:送出ギヤ3Aの直径
D3:中間ギヤ5(における送出噛合ギヤ部5Aの)直径
【0070】
上記を満たさない場合は、使用後期に引出力が使用初期に較べて極端に大きくなる可能性があると共に、使用初期に基材が弛む可能性があり、また、送出側のギヤ径と中間ギヤ径の設定及び最小軸間距離の設定を何度も見直す手間が生じる。
【符号の説明】
【0071】
1 転写具
2 筺体
3 送出コア
3A 送出ギヤ
4 巻取コア
4A 巻取コア
5 中間ギヤ
5A 送出噛合ギヤ部
5B 巻取噛合ギヤ部
5a 付勢部
6 転写部
図1
図2
図3
図4
図5