(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6588797
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】杭造築用掘削注入ロッド及びそれを用いた杭造築方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/46 20060101AFI20191001BHJP
【FI】
E02D5/46
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-208650(P2015-208650)
(22)【出願日】2015年10月23日
(65)【公開番号】特開2017-82402(P2017-82402A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】507327800
【氏名又は名称】地研テクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】木村 英明
(72)【発明者】
【氏名】有木 高明
【審査官】
苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】
特公平07−068838(JP,B2)
【文献】
特開2000−008757(JP,A)
【文献】
特開2013−234557(JP,A)
【文献】
特開2004−019407(JP,A)
【文献】
特開2010−151219(JP,A)
【文献】
実開平04−077089(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/22〜 5/80
E21B 1/00〜 49/10
F16B 7/00〜 7/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に杭用の孔を掘削するとともに硬化材を注入するための複数の管材が長手方向に接続された杭造築用掘削注入ロッドであって、
先端に地盤を削り取る掘削ビットと螺旋状のスクリューを有する掘削ロッドと、この掘削ロッドの後端に接続されて前記硬化材のスラリーを通水する1又は複数の接続注入ロッドと、が備えられ、
前記接続注入ロッドは、管軸に直交する断面の外形が、角部が曲面となった多角形状となっている外管と、前記硬化材のスラリーを通水する内管と、を有する二重管構造となっており、
前記外管は、最大径が前記掘削ロッドの前記スクリューの直径と略同じ径となっているとともに、先端側及び/又は後端側が交換可能に構成されていること
を特徴とする杭造築用掘削注入ロッド。
【請求項2】
前記接続注入ロッドの管軸に直交する断面の外形は、角部が曲面となった四角形状であること
を特徴とする請求項1に記載の杭造築用掘削注入ロッド。
【請求項3】
前記掘削ロッドの先端付近には、前記硬化材のスラリーを吐出する吐出口が穿設されていること
を特徴とする請求項1又は2に記載の杭造築用掘削注入ロッド。
【請求項4】
前記吐出口には、逆止弁が取り付けられていること
を特徴とする請求項3に記載の杭造築用掘削注入ロッド。
【請求項5】
前記掘削ロッドと前記接続注入ロッドとの連結、又は接続注入ロッドの連結は、鋼線バネが嵌着されることで固定されていること
を特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の杭造築用掘削注入ロッド。
【請求項6】
地中に建造物を支持する支持杭を造築する杭造築方法であって、
請求項1ないし5のいずれかに記載の杭造築用掘削注入ロッドを用いて地中に前記支持杭用の孔を掘削する掘削工程を有すること
を特徴とする杭造築方法。
【請求項7】
前記掘削工程で掘削した支持杭用の孔に杭周固定液を注入する杭周固定液注入工程を有していないこと
を特徴とする請求項6に記載の杭造築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に杭造築用の孔を掘削するとともに、掘削した孔から引き抜くことなく硬化材のスラリーを注入可能な杭造築用掘削注入ロッドに関し、詳しくは、多角形の断面外形を有する杭造築用多角形掘削注入ロッドに関する。
【背景技術】
【0002】
軟弱地盤などに建造物を構築する場合は、地中に孔を掘削して、掘削した掘削孔に硬化材を注入して杭を造築することが行われている。杭を造築する方法としては、アースドリル工法を初めとして種々の工法が提案されている。
【0003】
例えば、セメントミルク工法では、以下の手順で杭が造築される。(1)スクリューの付いたアースオーガーで支持層まで達する所定の深さまで地中に孔を掘削する。次に、(2)セメントミルクなどからなる根固め液(硬化材)を注入して杭の先端部をソイルセメント化させる。その後、(3)アースオーガーを引き上げながら杭孔の下部に根固め液を注入し、上部に孔壁崩壊を防止するためのベントナイト溶液等の杭周固定液を注入する。そして、(4)杭孔に鋼管杭又はPC杭などの芯材を挿入して圧入し、根固め液が硬化することにより杭の造築が完了する。
【0004】
このようなセメントミルク工法では、アースオーガーを引き上げる際に、早く引き上げ過ぎるとサクション(吸引)作用により孔壁が崩壊するという問題があった。また、アースオーガーを逆回転させるとアースオーガーのスクリュー(フライト)上に付着した土塊が落下して杭に欠陥部分が発生してしまうという問題があった。このため、アースオーガーを引き上げる際は、ゆっくり引き上げなければならず、作業時間が長くなり、その分杭の造築費用が嵩んでしまうという問題もあった。その上、戸建て住宅などの小規模建造物の杭を造築する場合は、狭隘な敷地において施工することが必要であり、杭周固定液を調合する水槽などの大型の設備を搬入することが困難な場合があるという問題もあった。
【0005】
一方、掘削翼と撹拌翼を備える回転ロッドを用いて軟弱地盤の土壌(ソイル)に硬化材スラリーを吐出して撹拌し、軟弱地盤の地中に柱状改良体(コラム)を構築するソイルセメントコラム(柱状改良)工法も知られている。
【0006】
例えば、特許文献1には、挿嵌結合部56の損傷を少なくして耐久性を高め、エアー漏れによる機能低下を防止することを目的として、カップリング80を介して、断面視六角形に形成した硬化材注入管5の連結嵌合凸部51b・52b・53bと、モニター機構7の連結嵌合凹部71b・72b・73bを、着脱自在に連結した地中パイル造成用硬化材注入管の連結装置が開示されている(特許文献1の実用新案登録請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0003]〜[0006]、図面の
図1等参照)。
【0007】
また、特許文献2には、前後管の確実な締め付け結合を簡略に行うと同時にパッキンの適切な締め付けを行い接続兼用締付ピンの適切な形状を与えることを目的として、地盤改良工法用連結ロッドにおいて、断面外形を多角形状としたものが開示されている(特許文献2の明細書の段落[0020]〜[0031]、図面の
図2、
図6等参照)。
【0008】
そして、特許文献3には、改良体を連続して造成する場合でも規定の造成径を得ることができ、また歯抜け部分の少ない強度を確保できる造成を可能にすることを目的として、地中に改良体を造成する地盤改良方法に用いる断面多角形の注入ロッド2が開示されている(特許文献3の明細書の段落[0016]〜[0023]、図面の
図3等参照)。
【0009】
しかし、特許文献1に記載の地中パイル造成用硬化材注入管、特許文献2に記載の地盤改良工法用連結ロッド、特許文献3に記載の地盤改良方法に用いる注入ロッドは、いずれも前述のソイルセメントコラム(柱状改良)工法に用いるロッドであり、前述のセメントミルク工法に直接用いることはできず、サクション(吸引)作用により孔壁が崩壊してしまうという問題など、前述のセメントミルク工法の問題を解決することができるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実開平6−53635号公報
【特許文献2】特開平8−209680号公報
【特許文献3】特開2010−84495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、前述した問題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、設置に広いスペースが必要な大型な機構を必要とせずに孔壁崩壊を防ぎつつ効率よく短時間で杭の造築が可能な杭造築用掘削注入ロッド及びそれを用いた杭造築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1発明に係る杭造築用掘削注入ロッドは、地中に杭用の孔を掘削するとともに硬化材を注入するための複数の管材が長手方向に接続された杭造築用掘削注入ロッドであって、
先端に地盤を削り取る掘削ビットと螺旋状のスクリューを有する掘削ロッドと、この掘削ロッドの後端に接続されて前記硬化材のスラリーを通水する1又は複数の接続注入ロッドと、が備えられ、前記接続注入ロッドは、管軸に直交する断面の外形が、角部が曲面となった多角形状となっている
外管と、前記硬化材のスラリーを通水する内管と、を有する二重管構造となっており、前記外管は、最大径が前記掘削ロッドの前記スクリューの直径と略同じ径となっているとともに、先端側及び/又は後端側が交換可能に構成されていることを特徴とする。
【0013】
第2発明に係る杭造築用掘削注入ロッドは、第1発明において、前記接続注入ロッドの管軸に直交する断面の外形は、角部が曲面となった四角形状であることを特徴とする。
【0015】
第
3発明に係る杭造築用掘削注入ロッドは、第1発明
又は第2発明において、前記掘削ロッドの先端付近には、前記硬化材のスラリーを吐出する吐出口が穿設されていることを特徴とする。
【0016】
第
4発明に係る杭造築用掘削注入ロッドは、第
3発明において、前記吐出口には、逆止弁が取り付けられていることを特徴とする。
【0017】
第
5発明に係る杭造築用掘削注入ロッドは、第1発明ないし第
4発明のいずれかの発明において、前記掘削ロッドと前記接続注入ロッドとは、鋼線バネが嵌着されることで連結されていることを特徴とする。
【0018】
第
6発明に係る杭造築方法は、地中に建造物を支持する支持杭を造築する杭造築方法であって、請求項1ないし
5のいずれかに記載の杭造築用掘削注入ロッドを用いて地中に前記支持杭用の孔を掘削する掘削工程を有することを特徴とする。
【0019】
第
7発明に係る杭造築方法は、第
6発明において、前記掘削工程で掘削した支持杭用の孔に杭周固定液を注入する杭周固定液注入工程を有していないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
第1発明〜第
5発明によれば、先端の掘削ロッドで地盤を掘削しつつ、最大径が掘削ロッドのスクリューの直径と略同じ径となっている接続注入ロッドの多角形状で掘削孔の孔壁の崩壊を防止することができるため、設置するのに広大なスペースの必要なベントナイト溶液等の杭周固定液を注入するためのプラントなどを設置する必要がなくなる。また、接続注入ロッドは、管軸に直交する断面の外形が、角部が曲面となった多角形状となっているので、接続注入ロッドと孔壁との摩擦抵抗が少なく小型の駆動装置でも杭造築用掘削注入ロッドをスムーズに回転させることができる。つまり、第1発明〜第
5発明によれば、設置に広いスペースが必要な大型な機構を必要とせずに孔壁崩壊を防ぎつつ効率よく短時間で杭の造築が可能となる。その上、第1発明〜第
5発明によれば、掘削ロッドの上となる掘削ロッドの後端に接続注入ロッドが接続されているので、掘削ロッドのスクリューオーガで掘削されて上がってくる土砂が、接続注入ロッドで掘削孔の孔壁に押し付けられて発生土として地上に上がってくることがない。このため、発生土の処分費用を削減することができる。
また、第1発明〜第5発明によれば、接続注入ロッドが二重管構造となっており、硬化材のスラリーを通水する内管の径を、掘削孔の径に関わらず、所定径とすることができるため、スラリー供給の圧力調整が容易となる。その上、第1発明〜第5発明によれば、二重管の外管の先端側及び/又は後端側が交換可能に構成されているので、摩耗、損傷しやすい部分の交換が容易となり、丸ごと接続注入ロッドを交換するのに比べて維持費を大幅に低減して、ランニングコストを削減することができる。
【0021】
特に、第2発明によれば、前記作用効果に加え、角部が曲面となった四角形状の接続注入ロッドの断面外形で孔壁との摩擦を低減させつつ孔壁の内周面を外側に押し込むように撫でつける作用が他の多角形状より効果的であり、孔壁崩壊の防止も効果的となる。
【0023】
特に、第
3発明によれば、掘削ロッドで地盤を掘削してすぐに硬化材のスラリーを注入することができ、より短時間で杭の造築が可能となる。
【0024】
特に、第
4発明によれば、吐出口に逆止弁が取り付けられているので、掘削時にも吐出口から土砂が掘削ビットの管内に逆流すること防止することができ、吐出口が詰まるなど硬化材の供給不具合を防止することができる。
【0025】
特に、第
5発明によれば、掘削ロッドと接続注入ロッドとの連結が、両者を嵌め合わせて鋼線バネを嵌着するだけで済み、連結作業時間を短時間で行うことができ、結果的に、短時間で杭の造築が可能となる。
【0026】
第
6発明及び第
7発明によれば、先端の掘削ロッドで地盤を掘削しつつ、最大径が掘削ロッドのスクリューの直径と略同じ径となっている接続注入ロッドの多角形状で掘削孔の孔壁の崩壊を防止することができるため、設置するのに広大なスペースの必要なベントナイト溶液等の杭周固定液を注入するためのプラントなどを設置する必要がなくなる。また、接続注入ロッドは、管軸に直交する断面の外形が、角部が曲面となった多角形状となっているので、接続注入ロッドと孔壁との摩擦抵抗が少なく小型の駆動装置でも杭造築用掘削注入ロッドをスムーズに回転させることができる。つまり、第
6発明及び第
7発明によれば、設置に広いスペースが必要な大型な機構を必要とせずに孔壁崩壊を防ぎつつ効率よく短時間で杭の造築が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態に係る杭造築装置を示す正面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る杭造築用掘削注入ロッドを示す正面図である。
【
図3】同上の杭造築用掘削注入ロッドの掘削ロッドを示す正面図である。
【
図5】
図2の杭造築用掘削注入ロッドの接続注入ロッドを示す正面図である。
【
図6】同上の接続注入ロッドを管軸の最大径に沿って切断したA−A線断面図である。
【
図7】
図5の接続注入ロッドを管軸に直交する平面で切断したB−B断面図である。
【
図8】同上の接続注入ロッドのロッド本体を管軸の最小径に沿って切断したC−C線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る杭造築用掘削注入ロッド及びそれを用いた杭造築方法を実施するための一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
図1〜
図8を用いて、本発明の実施形態に係る杭造築用掘削注入ロッドについて説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る杭造築用掘削注入ロッド1は、傾倒自在なリーダーマストを備えたベースマシンに装着されて使用され、杭造築用掘削注入ロッド1を含めて、全体として杭造築装置10として機能する。
<杭造築装置>
【0030】
先ず、
図1を用いて、杭造築装置10について簡単に説明する。杭造築装置10は、一般的なパワーショベルと同等の旋回走行機構を備えたベースマシン11と、このベースマシン11に対して傾斜自在なリーダーマスト12と、このリーダーマスト12上を昇降自在な駆動機構13と、この駆動機構13により回動自在な本発明の実施形態に係る杭造築用掘削注入ロッド1などから構成され、前述のセメントミルク工法等に用いられ地中に支持杭を築造する機能を有した機械装置である。
【0031】
なお、
図1に示すように、杭造築用掘削注入ロッド1には、セメントミルクなどの硬化材のスラリーを混練するスラリーミキサー14と、このスラリーミキサー14で混練した硬化材スラリーを圧送するスラリーポンプ15などが、接続され、硬化材スラリーが杭造築用掘削注入ロッド1へ通水(挿通)される仕組みとなっている。
【0032】
なお、水とセメントを主成分とするセメントミルクからなる硬化材スラリーを例示したが、勿論、杭造築用掘削注入ロッド1を通じて注入し、杭として硬化させるための硬化材スラリーは、水とセメントなどの水和反応により硬化するセメント系材料を主成分とする他、ベントナイトなどの膨潤剤、水ガラスなどの急結剤、その他、凝結・硬化調節剤、減水剤など必要に応じて種々の混和剤、及びフライアッシュ(微粉末)などの種々の混和材を添加してもよいことは云うまでもない。また、スラリーとは、ドロドロとした粘性の強い流動物(懸濁液)を指している。
【0033】
(ベースマシン)
このベースマシン11は、走行機構11aと、この走行機構11aに対して旋回自在なベースフレーム11bと、杭造築装置10全体の操作室であるオペレータ室11cなど、から構成された一般的な小型(例えば、6t〜10t程度)油圧ショベルの油圧ショベル部分等を改造した機械装置である。
【0034】
(リーダーマスト)
リーダーマスト12は、油圧シリンダにより前述のベースマシン11のベースフレームに対して傾倒自在に取り付けられ、地盤面に対する傾斜角度を任意に設置できるようになっており、駆動機構13を上下方向に案内して所定の圧力で昇降する機能を有している。
【0035】
(駆動機構)
駆動機構13は、モータ等により後述の杭造築用掘削注入ロッド1を正逆回転自在に駆動する機構であり、前述のリーダーマスト12と協働して所定のトルクにより杭造築用掘削注入ロッド1を正回転させて掘り進むとともに、逆回転させて後退して土壌を撹拌可能となっている。
【0036】
<杭造築用掘削注入ロッド>
次に、
図2〜
図8を用いて本発明の実施形態に係る杭造築用掘削注入ロッド1について詳細に説明する。
図2に示すように、杭造築用掘削注入ロッド1は、先端に取り付けられ、地盤を削り取って掘り進む機能を有した管材からなる掘削ロッド2と、この掘削ロッド2の後端(上端)に接続され、硬化材のスラリーを通水する機能を有した管材からなる2本の接続注入ロッド3などから構成され、前述のリーダーマスト12に前述の駆動機構13を介して装着され、地中に杭用の孔を掘削するとともに硬化材を注入する機能を有している。
【0037】
(掘削ロッド)
掘削ロッド2は、
図3に示すように、円形鋼管からなるロッド本体20と、このロッド本体20の先端を塞ぐように取り付けられ、地盤を削り取る掘削部21と、ロッド本体20の後端に取り付けられ、接続注入ロッド3に接続されるジョイント部22などから構成されている。
【0038】
このロッド本体20は、
図3に示すように、円形鋼管の外周に沿って螺旋状のスクリュー20aが形成されているとともに、円形鋼管の内部に硬化材スラリーが通水される管材である。また、このロッド本体20の鋼管の外周側面には、硬化材スラリーを吐出する吐出口20bが先端付近に穿設されている。
【0039】
そして、この吐出口20bには、掘削時に吐出口20b内に地中の泥等が侵入しないように防止する逆止弁20cが設けられている。この逆止弁20cは、ロッド本体20の鋼管の外周側面に、円板状のゴム弾性体が蒲鉾状の金属プレートを介して止め付けられることで構成されている。
【0040】
掘削部21には、
図3、
図4に示すように、超硬合金製チップが埋め込まれた刃先を有する一対の掘削ビッド21aが、ロッド本体20の管軸を中心に点対称に配設され、鋼板からなる三角形状の尖端ビッド21bが、ロッド本体20の管軸延長上に配設されている。
【0041】
ジョイント部22は、厚手の円形鋼管がロッド本体20の鋼管の後端に溶接されたものであり、このジョイント部22には、円形鋼管の外周面に後述の鋼線バネSが嵌着される1本の螺旋状の凹部である嵌着凹部22aが形成されている。
【0042】
(接続注入ロッド)
接続注入ロッド3は、
図5に示すように、鋼管からなるロッド本体30と、このロッド本体30の先端に溶接されたジョイント雌部31と、ロッド本体30の先端に溶接されたジョイント雄部32などから構成されている。
【0043】
ロッド本体30は、
図6〜
図8に示すように、管軸に直交する断面の外形が正方形状の外管30aと、この外管30a内に放射状に設置された支持部材30b(
図7参照)により管軸の軸芯が一致するよう固定された円形鋼管からなる内管30cと、これらの先端と後端を硬化材のスラリーを通水可能に閉塞する先端キャップ材30d、後端キャップ材30eなどから構成されている。
【0044】
外管30aは、
図7に示すように、厚手の円形鋼管から円周側面を平面状に削り取って角部が曲面となった断面正方形状に成形された異形鋼管であり、掘削孔の孔壁をその外形の角部の曲面で押し付けて強化し、サクション(吸引)作用等により孔壁が崩壊するのを防止する機能を有している。勿論、外管30aの断面外形は、切削加工に限られず、どのような方法により成形してもよいことは云うまでもない。
【0045】
また、この外管30aの
図7に示す最大径、即ち、削り取る前の円形鋼管の直径は、スクリュー20aの径と同程度に設定されている。厳密には、外管30aの最大径の方が、スクリュー20aの径より、0.数%(数十ppm:例えば、スクリュー20aの径が216mmのとき、外管30aの最大径は、216.3mm)程度大きくなっている。このため、掘削ロッド2で掘削した杭孔が、外管30aの角部の曲面で押し付けられ、強化・保護されることとなる。
【0046】
勿論、外管30aの断面外形は、接続注入ロッド3の回転時に孔壁と丁度摺接する程度の最大径があり、且つ、摩擦抵抗を低減するために角部が曲面となった多角形であればよく、正方形状に限られない。但し、外管の断面外形が三角形であれば角部が鋭角となりすぎ、逆に角部の数が多くなると摺接する箇所が多くなるため、外管の断面外形としては角部が曲面となった正方形状の外形が最も好ましいといえる。
【0047】
また、外管30aは、
図5、
図6、
図8に示すように、先端部30a’と後端部30a”が中央部と別体となってビス止めされて交換可能に構成されている。このため、杭造築用掘削注入ロッド1の掘削下降時、又は引き上げ時に損耗しやすい部位である先端部30a’と後端部30a”の交換が容易であり、丸ごと接続注入ロッドを交換するのに比べて維持費を大幅に低減して、ランニングコストを削減することができる。
【0048】
勿論、先端部30a’と後端部30a”の中央部との連結構成は、ビス止めに限られず、係止爪で係止する構成や、逆ネジにより螺合する構成でもよい。要するに、中央部に対して、先端部30a’と後端部30a”が脱着可能な構成であればよい。また、先端部30a’と後端部30a”のいずれか一方が、中央部から着可能な構成であってもよい。その場合でも、丸ごと接続注入ロッドを交換するのに比べてコストを削減できるのは明らかである。
【0049】
ジョイント雌部31は、
図6に示すように、前述のジョイント部22を内嵌して掘削ロッド2を嵌着するためのジョイント部であり、螺旋状の鋼線バネS(
図5参照)を受け入れる螺旋状の嵌着溝31aが形成されている。このため、掘削ロッド2と接続注入ロッド3の連結が、接続注入ロッド3のジョイント雌部31に、掘削ロッド2のジョイント部22を嵌め込んで鋼線バネSを嵌着するだけで済み、連結作業の時間を短縮することができるとともに、掘削ロッド2が脱落するおそれも少なくなる。
【0050】
ジョイント雄部32は、
図5、
図6に示すように、前述のジョイント部22と略同一構成であり、このジョイント雄部32にも、円形鋼管の外周面に後述の鋼線バネSが嵌着される1本の螺旋状の凹部である嵌着凹部32aが形成されている。このため、前述のように、接続注入ロッド3同士の連結も容易である。
【0051】
以上説明した本発明の実施形態に係る杭造築用掘削注入ロッド1によれば、先端の掘削ロッド2で地盤を掘削しつつ、最大径が掘削ロッド2のスクリュー20aの直径と略同じ径となっている接続注入ロッド3の正方形状の外形で掘削孔の孔壁の崩壊を防止することができる。このため、設置するのに広大なスペースの必要なベントナイト溶液等の杭周固定液を注入するためのプラントなどを設置する必要がなくなる。また、接続注入ロッド3は、管軸に直交する断面の外形が、角部が曲面となった正方形状となっているので、接続注入ロッド3と孔壁との摩擦抵抗が少なく、小型の駆動装置でも杭造築用掘削注入ロッド1をスムーズに回転させることができる。つまり、杭造築用掘削注入ロッド1によれば、設置に広いスペースが必要な大型な機構を必要とせずに孔壁崩壊を防ぎつつ効率よく短時間で杭の造築が可能となる。
【0052】
その上、本発明の実施形態に係る杭造築用掘削注入ロッド1によれば、掘削ロッド2の上に、最大径が掘削ロッド2のスクリュー20aの直径と略同じ径となっている接続注入ロッド3が接続されているので、掘削ロッド2のスクリュー20aで掘削されて上がってくる土砂が、接続注入ロッド3のロッド本体30で掘削孔の孔壁に押し付けられて発生土として地上に上がってくることがない。このため、発生土の処分費用を削減することができる。
【0053】
また、本発明の実施形態に係る杭造築用掘削注入ロッド1によれば、接続注入ロッド3が二重管構造となっており、硬化材のスラリーを通水する内管の径を、掘削孔の径に関わらず、所定径とすることができるため、スラリー供給の圧力調整が容易である。
【0054】
その上、本発明の実施形態に係る杭造築用掘削注入ロッド1によれば、掘削ロッド2の先端付近に吐出口20bが穿設されているので、掘削ロッド2で地盤を掘削してすぐに硬化材のスラリーを注入することができ、より短時間で杭の造築が可能となる。また、この吐出口20bには、逆止弁20cが取り付けられているので、掘削時にも吐出口20bから土砂が掘削ロッド2の管内に逆流すること防止することができ、吐出口20bが詰まることを防止することができる。
【0055】
<杭造築方法>
次に、前述の杭造築装置10により地中に支持杭を造築する本発明の実施形態に係る杭造築方法について説明する。本実施形態に係る杭造築方法では、戸建て住宅などの軽量な建造物を支えるため、硬化材のスラリーとしてセメントミルクのみを注入する場合を例示して説明する。
【0056】
(1)杭造築装置の据付
本実施形態に係る杭造築方法では、先ず、建造物を建設する土地の地表面を所定高さに均したうえ、杭を造築する中心地点(補強ポイント)を位置出しして、マーキングする。そして、その補強ポイントに前述の杭造築装置10をセットし据え付ける。
【0057】
(2)掘削工程
次に、本実施形態に係る杭造築方法では、駆動機構13を作動させて、杭造築用掘削注入ロッド1を正回転させて掘削ロッド2の掘削ビッド21a等で下方へ掘り進み、支持杭を造築する所定の深さまで穿孔する掘削工程を行う。
【0058】
このとき、本実施形態に係る杭造築用掘削注入ロッド1によれば、最大径が掘削ロッド2のスクリュー20aの直径と略同じ径となっている接続注入ロッド3の正方形状の外形で掘削孔の孔壁の崩壊を防止することができる。このため、ベントナイト溶液等の杭周固定液を注入する必要がなくなり、杭孔に杭周固定液を注入する杭周固定液注入工程を実行しないで済むこととなる。
【0059】
(3)硬化材スラリー注入工程
次に、本実施形態に係る杭造築方法では、掘削孔に硬化材スラリーを注入する硬化材スラリー注入工程を行う。具体的には、杭孔を所定の深さまで穿孔すると、掘削ロッド2の吐出口20bからセメントミルク(硬化材スラリー)を吐出して杭造築用掘削注入ロッド1を徐々に引き上げる。このときにも、接続注入ロッド3の外形により孔壁を保護しているので、サクション(吸引)作用により孔壁が崩壊するのを防止することができる。
【0060】
(4)杭造築完了
このようにセメントミルクを注入し終わると、セメントミルクが硬化する所定時間の経過を待って、支持杭が地中に築造される。勿論、前述のセメントミルク工法と同様に、必要に応じて鋼管杭やPC杭を芯材として挿入してもよい。但し、戸建て住宅などの小規模建造物の杭を造築する場合は、頑強な支持杭を必要としないため、短時間で作業が完了する芯材なしでセメントミルクのみを注入する方が好ましい。
【0061】
なお、掘削孔に硬化材スラリーを注入せずに、掘削孔に砕石などの置換材を圧入又は置換材を転圧・積層して軟弱地盤の一部を柱状の置換材に置き換えて支持杭としても構わない。その場合でも、掘削孔の掘削時に孔壁崩壊を防止することができ、効率よく短時間で杭の造築が可能である。
【0062】
以上述べた実施形態に係る杭造築方法によれば、先端の掘削ロッド2で地盤を掘削しつつ、最大径が掘削ロッド2のスクリュー20aの直径と略同じ径となっている接続注入ロッド3の正方形状の外形で掘削孔の孔壁の崩壊を防止することができるので、設置するのに広大なスペースの必要なベントナイト溶液等の杭周固定液を注入するためのプラントなどを設置する必要がなくなる。その上、掘削ロッド2の上に接続注入ロッド3が接続されているので、掘削ロッド2で掘削した土が発生土として地上に上がってくることがない。このため、発生土の処分費用を削減することができる。
【0063】
また、実施形態に係る杭造築方法によれば、杭造築用掘削注入ロッド1の摩擦抵抗が少ないので、装置を駆動させる動力も少なくて済み、現場に搬入する発電機や、組立据付用の揚重装置も小型のもので足りる。よって、狭隘な現場でも地中に支持杭を造築(造成)することができる。
【0064】
以上、本発明の実施形態に係る杭造築用掘削注入ロッド、杭造築方法について詳細に説明したが、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【符号の説明】
【0065】
1 :杭造築用掘削注入ロッド
2 :掘削ロッド
20 :ロッド本体
20a :スクリュー
20b :吐出口
20c :逆止弁
21 :掘削部
21a :掘削ビッド
22 :ジョイント部
22a :嵌着凹部
3 :接続注入ロッド
30 :ロッド本体
30a :外管
30b :支持部材
30c :内管
30d :先端キャップ材
30e :後端キャップ材
31 :ジョイント雌部
31a :嵌着溝
32 :ジョイント雄部
32a :嵌着凹部
S :鋼線バネ
10 :杭築造装置
11 :ベースマシン
12 :リーダーマスト
13 :駆動機構
14 :スラリーミキサー
15 :スラリーポンプ