【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 配布先:有限会社廣悦堂 配布日:平成27年5月22日 配布先:ゴールデン文具株式会社 配布日:平成27年5月22日 配布先:公益財団法人日本習字教育財団 配布日:平成27年9月28日 配布先:株式会社習字研究社 配布日:平成27年9月28日 配布先:武岡書道店 配布日:平成27年9月28日 配布先:株式会社手塚筆墨舗 配布日:平成27年9月28日 配布先:株式会社青雲堂 配布日:平成27年9月28日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、天然石材は、品質が安定せず、入手が不安定であり、また、高価でもある。
【0004】
一方、この種の印判は、例えば書家等の芸術家が自身の作品に作者名を押印するために用いられることが多く、作品完成の充実感や重厚感を押印によって満たしたいとの芸術家の嗜好が存在する。
【0005】
そこで、刻印用印材として、天然石材と同程度の重量を有する代替品を用いることが考えられる。
【0006】
しかし、刻印用印材に人造石材といった代替品を用いると、刻印を施す際に、天然石材よりも彫り難くなるおそれがある。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、天然石材の代替品となり得、しかも刻印を施す際に比較的彫り易い刻印用印材、及び、該刻印用印材に刻印が施されてなる印判を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る刻印用印材は、
押印用の刻印が施される彫刻部を備えた刻印用印材であって、
前記彫刻部は、熱可塑性樹脂成分と、フィラー成分とを含み、
前記フィラー成分は、カルシウム元素成分
を含有する原料として炭酸カルシウム原料と、マグネシウム元素成分
及びケイ素元素成分
を含有する原料としてタルク原料とを含有する。
【0009】
かかる構成によれば、彫刻部が、熱可塑性樹脂成分とフィラー成分とを含み、該フィラー成分が、カルシウム元素成分と、マグネシウム元素成分と、ケイ素元素成分とを含有することによって、天然石材の代替品となり得、しかも、刻印用石材が、せん断力によって寸法が比較的減り易いものとなる。
また、該刻印用石材に刻印用の刃を入れたとき、比較的所望の角度で侵入させることができ、しかも、比較的所望の力で削りながら、侵入させた刃を進行させることができる。
ここで、せん断力によって寸法が減り難いと、刻印用印材の表面から内部に刻印用の刃を侵入させ難くなるため、これが原因となって彫り難くなるおそれがある。また、刻印用印材に刃を侵入させる際に、該刃が所望の角度からずれた角度で侵入することになったり、侵入させた刃を、刻印用印材を削りながら前進させる際に、所望の力からずれた力で進行させることになったりすると、これが原因となって彫り難くなるおそれがある。
しかし、上記構成によれば、せん断力によって寸法が比較的減り易いものとなって刻印用の刃を侵入させ易くなり、また、比較的所望の角度で該刃を侵入させ、しかも、比較的所望の力で削りながら侵入させた刃を進行させることが可能となる。従って、刻印を施す際に彫り易い刻印用印材となる。
【0010】
上記構成の刻印用印材においては、
前記熱可塑性樹脂成分は、ABS樹脂原料を含有することが好ましい。
【0011】
かかる構成によれば、熱可塑性樹脂成分が、ABS樹脂原料を含有することによって、
より確実に、せん断力によって寸法が比較的減り易いものとなって刻印用の刃を侵入させ易くなり、また、比較的所望の角度で該刃を侵入させ、しかも、比較的所望の力で削りながら侵入させた刃を進行させることが可能となる。従って、より確実に、刻印を施す際に彫り易い刻印用印材となる。
【0012】
上記構成の刻印用印材においては、
前記フィラー成分は、
前記カルシウム元素成分、マグネシウム元素成分、及び、ケイ素元素成分の合計の元素数に対し、
前記カルシウム元素成分を4〜85元素数%、
前記マグネシウム元素成分を5〜50元素数%、及び、
前記ケイ素元素成分を5〜60元素数%含有することが好ましい。
【0013】
ここで、カルシウム元素成分、マグネシウム元素成分、及び、ケイ素元素成分の元素数%とは、後述する実施例に示されるように、刻印が施される面(印面)の任意の3箇所について、エネルギー分散型X線分析を行って各元素成分の元素数を測定し、得られた各元素成分の元素数の合計に対する各元素成分の元素数の比率の百分率を算出し、3箇所の平均を算出することによって、得られる値を意味する。
【0014】
かかる構成によれば、フィラー成分が、上記の比でカルシウム元素成分、マグネシウム元素成分、及び、ケイ素元素成分を含有することによって、より確実に、せん断力によって寸法が比較的減り易いものとなって刻印用の刃を侵入させ易くなり、また、比較的所望の角度で該刃を侵入させ、しかも、比較的所望の力で削りながら侵入させた刃を進行させることが可能となる。従って、より確実に、刻印を施す際に彫り易い刻印用印材となる。
【0016】
かかる構成によれば、フィラー成分が、カルシウム元素成分を含有する原料として炭酸カルシウム原料、及び、マグネシウム元素成分及びケイ素元素成分を含有する原料としてタルク原料を含有することによって、これら原料は入手が容易であるため、この点で、刻印用印材が、より製造し易いものとなる。また、より安価なものとなる。
【0017】
本発明に係る印判は、
前記刻印用印材を備え、
前記彫刻部に押印用の刻印が施されてなる。
【発明の効果】
【0018】
以上の通り、本発明によれば、刻印を施す際に彫り易い刻印用印材、及び、該刻印用印材に押印用の刻印が施されてなる印判が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る刻印用印材及び印判について説明する。
【0021】
まず、本実施形態の刻印用印材について説明する。
【0022】
本実施形態の刻印用印材は、
押印用の刻印が施される彫刻部を備えた刻印用印材であって、
前記彫刻部は、熱可塑性樹脂成分と、フィラー成分とを含み、
前記フィラー成分は、カルシウム元素成分と、マグネシウム元素成分と、ケイ素元素成分とを含有する。
【0023】
本実施形態の刻印用印材は、彫刻部が、熱可塑性樹脂成分とフィラー成分とを含み、該フィラー成分が、カルシウム元素成分と、マグネシウム元素成分と、ケイ素元素成分とを含有することによって、天然石材の代替品となり得、しかも、せん断力によって寸法が比較的減り易いものとなって刻印用の刃を侵入させ易くなり、また、比較的所望の角度で該刃を侵入させ、しかも、比較的所望の力で削りながら侵入させた刃を進行させることが可能となる。従って、刻印を施す際に彫り易い刻印用印材となる。
また、このように彫り易いものとなることによって、押印用の刻印(印章)を施す際の刻印不良の抑制に繋がる。さらに、刻印用印材が、鮮明に押印できる彫り性能も備えたものとなる。
【0024】
具体的には、本実施形態の刻印用印材は、押圧用の刻印が施される面(印面)を有する彫刻部によって形成されている。
【0025】
前記彫刻部は、熱可塑性樹脂成分と、フィラー成分とを含む。
【0026】
前記熱可塑性樹脂成分は、前記彫刻部において、フィラー成分を成型体とするための結合剤として作用し得るものである。
かかる熱可塑性樹脂成分に含有される熱可塑性樹脂としては、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合合成樹脂)、ポリプロピレン(PP)樹脂等が挙げられる。
これらのうち、硬さや成形性に優れる点を考慮すれば、前記熱可塑性樹脂成分は、ABS樹脂原料を含有することが好ましい。
また、前記熱可塑性樹脂成分がABS樹脂原料を含有することによって、より確実に、せん断力によって寸法が比較的減り易いものとなって刻印用の刃を侵入させ易くなり、また、比較的所望の角度で該刃を侵入させ、しかも、比較的所望の力で削りながら侵入させた刃を進行させることが可能となる。
【0027】
前記フィラー成分は、熱可塑性樹脂成分を介して互いに接着されて、彫刻部の主体をなすものである。
該フィラー成分は、カルシウム原料成分と、マグネシウム元素成分と、ケイ素元素成分とを含有する。
【0028】
前記フィラー成分に含有されるカルシウム元素成分と、マグネシウム元素成分と、ケイ素元素成分との含有比は、特に限定されるものではなく、適宜設定し得る。
【0029】
例えば、前記フィラー成分は、前記カルシウム元素成分、マグネシウム元素成分、及び、ケイ素元素成分の合計の元素数に対し、前記カルシウム元素成分を4〜85元素数%、前記マグネシウム元素成分を5〜50元素数%、及び、前記ケイ素元素成分を5〜60元素%含有することが好ましい。
この配合によれば、より確実に、せん断力によって寸法が比較的減り易いものとなって刻印用の刃を侵入させ易くなり、また、比較的所望の角度で該刃を侵入させ、しかも、比較的所望の力で削りながら侵入させた刃を進行させることが可能となる。これにより、より確実に、刻印を施す際に彫り易い刻印用印材となる。
【0030】
例えば、前記フィラー成分は、前記カルシウム元素成分、マグネシウム元素成分、及び、ケイ素元素成分の合計の元素数に対し、前記カルシウム元素成分を4〜60元素数%、前記マグネシウム元素成分を15〜45元素数%、及び、前記ケイ素元素成分を20〜55元素%含有することがより好ましい。
この配合によれば、さらに確実に、せん断力によって寸法が比較的減り易いものとなって刻印用の刃を侵入させ易くなり、また、比較的所望の角度で該刃を侵入させ、しかも、比較的所望の力で削りながら侵入させた刃を進行させることが可能となる。これにより、さらに確実に、刻印を施す際に彫り易い刻印用印材となる。
【0031】
例えば、前記フィラー成分は、前記カルシウム元素成分、マグネシウム元素成分、及び、ケイ素元素成分の合計の元素数に対し、前記カルシウム元素成分を30〜60元素数%、前記マグネシウム元素成分を15〜40元素数%、及び、前記ケイ素元素成分を20〜40元素%含有することがより好ましい。
この配合によれば、一層確実に、せん断力によって寸法が比較的減り易いものとなって刻印用の刃を侵入させ易くなり、また、比較的所望の角度で該刃を侵入させ、しかも、比較的所望の力で削りながら侵入させた刃を進行させることが可能となる。これにより、一層確実に、刻印を施す際に彫り易い刻印用印材となる。
【0032】
例えば、前記フィラー成分は、前記カルシウム元素成分、マグネシウム元素成分、及び、ケイ素元素成分の合計の元素数に対し、前記カルシウム元素成分を30〜40元素数%、前記マグネシウム元素成分を25〜35元素数%、及び、前記ケイ素元素成分を30〜40元素%含有することがより好ましい。
この配合によれば、より一層確実に、せん断力によって寸法が比較的減り易いものとなって刻印用の刃を侵入させ易くなり、また、比較的所望の角度で該刃を侵入させ、しかも、比較的所望の力で削りながら侵入させた刃を進行させることが可能となる。これにより、より一層確実に、刻印を施す際に彫り易い刻印用印材となる。
【0033】
かかるカルシウム元素成分、マグネシウム元素成分、及び、ケイ素元素成分の元素数%は、後述する実施例に示されるように、刻印が施される面(印面)の任意の3箇所について、エネルギー分散型X線分析を行って各元素成分の元素数を測定し、得られた各元素成分の元素数の合計に対する各元素成分の元素数の比率の百分率を算出し、3箇所の平均を算出することによって、得られる値である。
後述する実施例に示されるように、エネルギー分散型X線分析は、具体的には、検出器及び解析ソフトを搭載した走査型電子顕微鏡を用いて測定される。
【0034】
前記カルシウム元素成分は、該カルシウム元素成分を含有する原料に含有された状態で、前記彫刻部に含有され得る。
【0035】
前記マグネシウム元素成分は、該マグネシウム元素成分を含有する原料中に含有された状態で、前記彫刻部に含有され得る。
【0036】
前記ケイ素元素成分は、該ケイ素元素成分を含有する原料中に含有された状態で、前記彫刻部に含有され得る。
【0037】
よって、前記フィラー成分中のカルシウム元素成分、マグネシウム元素成分、及び、ケイ素元素成分の元素数%は、前記カルシウム元素成分を含有する原料、マグネシウム元素成分を含有する原料、及び、ケイ素元素成分を含有する原料の配合量を適宜変更することによって調整し得る。
【0038】
前記カルシウム元素成分を含有する原料としては、炭酸カルシウム原料、水酸化カルシウム原料等が挙げられる。
【0039】
前記マグネシウム元素成分を含有する原料としては、水酸化マグネシウム原料、酸化マグネシウム原料等が挙げられる。
【0040】
前記ケイ素元素成分を含有する原料としては、シリカ原料等が挙げられる。
【0041】
このように、前記フィラー成分は、前記カルシウム元素成分、マグネシウム元素成分、及び、ケイ素元素成分をそれぞれ含有する原料を含有していてもよいが、その他、例えば、3成分のうち1種または2種の元素成分を含有している原料を含有していてもよい。
【0042】
例えば、前記フィラー成分は、前記カルシウム元素成分を含有する原料として炭酸カルシウム原料、及び、前記マグネシウム元素成分及びケイ素元素成分を含有する原料としてタルク原料を含有していてもよい。
前記フィラー成分が、カルシウム元素成分を含有する原料として炭酸カルシウム原料、及び、マグネシウム元素成分及びケイ素元素成分を含有する原料としてタルク原料を含有することによって、これら原料は入手が容易であるため、この点で、刻印用印材が、より製造し易いものとなる。また、より安価なものとなる。
この場合、炭酸カルシウムとタルクとの配合比は、90〜10質量部:10〜90質量部であることが好ましく、80〜20質量部:20〜80質量部であることがより好ましく、60〜40質量部:40〜60質量部であることが一層好ましい。
【0043】
本実施形態の刻印用印材においては、熱可塑性樹脂成分とフィラー成分との配合比は、特に限定されるものではなく、適宜設定することができる。
例えば、成型性や、フィラー成分が上記カルシウム元素成分、マグネシウム元素成分及びシリカ元素成分を含有することによる彫り易さをより確実に発揮させ易くする、という点を考慮すれば、熱可塑性樹脂成分とフィラー成分との配合比は、10〜50質量部:50〜90質量部であることが好ましく、20〜40質量部:60〜80質量部であることがより好ましく、25〜35質量部:65〜75質量部であることが一層好ましい。
【0044】
本実施形態の刻印用印材においては、任意の面を刻印される面として採用し得る。
【0045】
なお、本実施形態の刻印用印材は、彫刻部に、上記した熱可塑性樹脂成分及びフィラー成分以外に、他の成分を適宜含んでもよい。また、本実施形態の刻印用印材は、彫刻部以外の部分を備えていてもよい。さらに、本実施形態の刻印用印材は、少なくとも彫刻部が上記成分を含んでいればよい。
【0046】
本実施形態の刻印用印材の製造方法は、特に限定されるものではない。
例えば、熱可塑性樹脂を加熱して溶融し、溶融された熱可塑性樹脂成分とフィラー成分とを溶融混合してペレット化し、得られたペレットを射出成型することによって、押印用の刻印が施される面を彫刻部に有する刻印用印材を作製し得る。
【0047】
次いで、本実施形態の印判について説明する。
【0048】
本実施形態の印判は、上記した本実施形態の刻印用印材における前記彫刻部の前記刻印が施される面(印面)に、押印されるための刻印(印章)が施されている。
【0049】
本実施形態の印判は、上記した彫刻部に押印用の刻印が施されていることによって、刻印する際に彫り易いもの、すなわち、製造性に優れたものとなる。
【0050】
前記刻印としては、特に限定されるものではなく、例えば、篆刻によって所望のパターンの文字や図形を形成すること等があげられる。
【0051】
本実施形態の印判は、上記した彫刻部に、例えば篆刻用の彫刻刀によって手動で、または、刻印形成装置の刃で所望の刻印を彫ることによって形成し得る。
【0052】
なお、本実施形態の印判は、少なくともその印面側が上記した刻印用印材によって形成されていればよい。
【0053】
本実施形態の印判は、印面に朱肉等が付着された後、書作品や絵画作品等の作品に押印される等によって、使用され得る。
【0054】
本実施形態の刻印用印材及び印判は上記の通りであるが、本発明の刻印用印材及び印判は、上記実施形態に特に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜設計変更可能である。
【0055】
次に、実施例を示しつつ、本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0056】
下記の材料を用いた。
・ABS樹脂原料 :テクノABS 55NP(テクノポリマー株式会社製)
・炭酸カルシウム原料 :サンライト SL−100(竹原化学工業株式会社製)
・タルク原料 :P−タルク(竹原工業株式会社製)
・青田石(天然石材) :新青田(中国産、株式会社呉竹製)
【0057】
下記表1の配合となるように、マグネシウム元素成分及びケイ素元素成分を含有するタルク原料と、カルシウム元素成分を含有する炭酸カルシウム原料とを混合し、フィラー成分1〜5を調製した。
下記表2の配合となるように、加熱溶融した熱可塑性樹脂成分としてのABS樹脂原料に、フィラー成分1〜5を混合してペレット化し、得られたペレットを射出成型することによって、24mm×24mm×50mmの角柱状に成型されてなる刻印用印材(試料1〜5)を作製した。また、23mm×23mm×70mmの角柱状になるように青田石を切断することによって、試料6の刻印用印材を作製した。
【0058】
【表1】
【表2】
【0059】
得られた試料1〜5の24mm×24mmの正方形状の面について、各面の任意の3箇所について、下記の方法で、元素成分分析を行った。具体的には、1箇所につき、カルシウム(Ca)元素成分の元素数、マグネシウム(Mg)元素成分の元素数及びケイ素(Si)元素成分の元素数を算出し、これら3元素成分の元素数の合計に対する、得られた元素数の百分率を計算することによって、各元素成分の含有量(元素数%)を算出した。これを各試料について任意の3箇所で行った。また、各試料について、3箇所の平均値を算出した。結果を表3に示す。表3には、各試料における各元素成分の元素数%の理論値も併せて示す。具体的には、下記の方法で各元素成分の含有量を測定した。
測定の際、炭酸カルシウム(CaCO
3)は、1分子中にCa元素を1つ有しており、タルク(Mg
3SiO
4O
10(OH)
2)は、1分子中にMg元素を3つ、Si元素を4つ有していることから、下記のように検出元素を決定した。
【0060】
<元素成分含有量の測定方法>
検出器(Octane Plus、アメテック社製)を搭載した走査型電子顕微鏡(SU3500、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて、各試料を、24mm×24mmの面(刻印される面)が上方を向くようにステージ上に載置し、この面の任意の3箇所につき、エネルギー分散型X線(EDX)分析を行った。得られた結果を、解析ソフト(Team、アメテック社製)を用いて解析することによって、カルシウム元素成分の元素数、マグネシウム元素成分の元素数及びケイ素元素成分の元素数を得た。各箇所について、得られた各元素成分の元素数の合計に対する各元素成分の元素数の百分率(含有比)を算出した。また、各元素成分について、3箇所での含有比の平均を算出した。
ワーキングディスタンス:10mm
加速電圧:20kV
検出元素:C/O/Mg/Si/Ca
倍率:50倍
【0061】
【表3】
【0062】
表3より、各元素成分の測定値は、理論値と近かった。また、測定箇所による大きなバラツキは見られなかった。
一方、炭素(C)元素成分の測定値についても、測定箇所による大きなバラツキは見られなかった。
また、各測定箇所での元素マッピングの結果、各測定箇所全体にC成分(樹脂由来)、Ca元素成分、Mg元素成分及びSi元素成分が分布していることがわかた。
その結果、ABS樹脂、Ca元素成分、Mg元素成分及びSi元素成分は、刻印面(印面)全体に分布していることがわかった。
なお、青田石は、一般に、Al
2Si
4O
10(OH)
2の組成を有しており、試料6(青田石)についても試料1〜5と同様にして、23mm×23mmの面(刻印される面)についてEDX分析を行ったところ、Al元素成分及びSi元素成分は検出されたが、Ca元素成分及びMg元素成分は検出されなかった。
【0063】
得られた試料1〜6を用いて、下記の方法で、せん断力による削れ易さ、すなわち、寸法の減りを評価した。せん断力によって寸法が比較的減り易い試料ほど、刻印を施す際に、刃を侵入させ易いものとなり、この点で、彫り易いものとなる。
【0064】
<せん断力による寸法減り>
試料台にサンドペーパーを固定し、各試料1〜6を、その24mm×24mmの面及び23mm×23mmの面がサンドペーパーに接触するように、該サンドペーパー上に固定し、固定した試料1〜6に上方から下記の荷重をかけた状態で、下記の条件でサンドペーパー上を往復運動させた。往復運動前後の試料1〜6の質量を測定し、往復運動前の質量と往復運動後の質量との差を、磨石量(g)として測定した。また、この磨石量(g)を、各試料の密度を用いて磨石量(cm
3)に換算した。そして、得られた磨石量(cm
3)を、各試料1〜6におけるサンドペーパーと接触させた面の断面積で除することによって、深さ方向の削れ量(磨石減り寸法)として算出した。なお、サンドペーパーは、1回の測定ごとに交換した。結果を表4に示す。
【0065】
【表4】
【0066】
表4より、一般的に天然石材として使用されている試料6よりも、試料1〜5の方が、磨石減り寸法[mm]が大きかった。
試料1〜5については、試料1の磨石減り寸法[mm]が比較的小さく、試料3の磨石減り寸法[mm]が比較的大きかった。
従って、試料1〜5は、試料6よりもせん断力によって比較的寸法が減り易く、特に試料3がせん断力によって寸法が減り易いことがわかった。
【0067】
(彫り味の官能評価)
フィラー成分としてタルク原料のみを用いること以外は試料1〜5と同様にして、試料7の刻印用印材を作製した。
熱可塑性樹脂成分としてポリプレピレン原料(PP)、フィラー成分としてタルク原料のみを用いること以外は試料1〜5と同様にして、試料8の刻印用印材を作製した。
熱可塑性樹脂としてポリプレピレン原料(PP)、フィラー成分として炭酸カルシウム原料のみを用いること以外は試料1〜5と同様にして、試料9の刻印用印材を作製した。
そして、試料1〜9を用いて、彫り味を評価した。
具体的には、作業者が、篆刻用の印刀(V字形状の刃)を用いて試料1〜9を彫り、その際の硬さ及び彫り味を官能的に(手の感触で)評価し、下記の基準で判定した。
結果を表5に示す。
【0068】
<硬さの評価>
硬い :5
やや硬い :4
普通 :3
やや軟らかい:2
軟らかい :1
【0069】
<彫り味の評価>
彫り易い :○
やや彫りにくい:△
彫り難い :×
【0070】
【表5】
【0071】
表5に示すように、試料7〜9と比較して、試料1〜6は、硬さおよび彫り味の双方において良好な結果が得られた。
また、試料1〜5は、試料6と同様、硬さ及び彫り味の双方において、良好な結果を示した。
なお、試料1〜9の結果、タルクが多くなるほど、軟らかくなるが、粘りが強くなり、所望の力からずれた力で刃を進行させなければならず、刃を進行させ難い傾向にあった。よって、この点で、彫り難くなる傾向にあることがわかった。特に、試料8のタルク、PPの組み合わせは、軟らかく、粘りが強すぎて、非常に彫り難い傾向にあった。
【0072】
(彫後断面の評価)
試料1〜6について、上記と同様の印刀を用い、その印刃の進行方向と垂直な断面において、刻印される面(印面)に対して、印刃を40〜50°の間の一定の角度で傾斜させて侵入させ、各試料1〜6について一定の力で印刀を前進させた。この作業を、印刃に比較的強い力(彫る力)と、比較的弱い力(彫る力)とをそれぞれ加えて、それぞれ3回繰り返した。
また、3回の繰り返しのうちの1回について、彫った後の断面(彫刻断面)を撮影した。結果を
図1に示す。
各試料とも、V字断面にほとんど差はないが、試料2、3は、試料6(青田石)と同様、比較的鋭く刃が侵入され、所望の角度で刃が侵入されたため、この点で、彫り易いものであることがわかった。
【0073】
以上の結果、彫刻部がカルシウム元素成分、マグネシウム元素成分及びケイ素成分を含有することによって、比較的せん断力によって寸法が減り易いものとなることがわかった。しかも、該彫刻部に刻印用の刃を入れたとき、所望の角度で該刃を侵入させることができ、しかも、比較的所望の力で削りながら侵入させた刃を進行させ得ることもわかった。これにより、刻印用印材に刻印を施す際に彫り易い刻印用印材となることがわかった。
なお、このように、総合的に彫り易くなる理由としては、詳細なメカニズムは不明であるが、彫刻部中のフィラー成分同士を印刃によって分断し易くなる結果、彫刻部の磨石減り寸法[mm]が比較的大きくなり、また、刃の侵入角度が所望の角度からずれることが抑制され、しかも、彫刻部中において刃に加える力が所望の力からずれることが抑制されて、彫り易さの向上につながったことが一因であると推察される。