特許第6588822号(P6588822)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6588822
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】発振回路
(51)【国際特許分類】
   H03B 5/32 20060101AFI20191001BHJP
   H03B 5/36 20060101ALI20191001BHJP
【FI】
   H03B5/32 J
   H03B5/36
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-256873(P2015-256873)
(22)【出願日】2015年12月28日
(65)【公開番号】特開2017-120995(P2017-120995A)
(43)【公開日】2017年7月6日
【審査請求日】2018年10月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】390009667
【氏名又は名称】セイコーNPC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077986
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 太一
(72)【発明者】
【氏名】地主 活也
(72)【発明者】
【氏名】兼八 薫
【審査官】 ▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭51−030449(JP,U)
【文献】 特開平04−356816(JP,A)
【文献】 特開2004−208267(JP,A)
【文献】 特開2014−175981(JP,A)
【文献】 特開2010−057068(JP,A)
【文献】 特公昭50−014509(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007−H03H3/10
H03H9/00−H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力電極及び出力電極を有する共振子と、
直流利得を決定する利得段アンプと
負荷駆動能力を決定する電流駆動段アンプを有し、
前記利得段アンプの入力端が、前記出力電極と、第1容量を介して電源と、第1抵抗を介して前記利得段アンプの出力端とに、それぞれ接続され、
前記電流駆動段アンプの入力端が、前記利得段アンプの出力端と、第2容量を介して前記電流駆動段アンプの出力端とに、それぞれ接続され、
前記入力電極が、第2抵抗を介して前記電流駆動段アンプの出力端と、第3容量を介して電源とに、それぞれ接続され
前記利得段アンプは、第1トランジスタと、第1内部抵抗を内在する第1電流源とを有し、
前記電流駆動段アンプは、第2トランジスタと、第2内部抵抗を内在する第2電流源とを有し、
前記利得段アンプの入力端は、前記第1トランジスタに接続され、
前記利得段アンプの出力端は、電源間に前記第1電流源と前記第1トランジスタとが直列接続された接続点に接続され、
前記電流駆動段アンプの入力端は、前記第2トランジスタに接続され、
前記電流駆動段アンプの出力端は、電源間に前記第2電流源と前記第2トランジスタとが直列接続された接続点に接続され、
前記第1内部抵抗と前記第1トランジスタの出力抵抗との並列接続による合成抵抗の値が前記第2トランジスタの相互コンダクタンスの逆数の値より大きい場合は、前記第1トランジスタと前記第2トランジスタと前記第1内部抵抗と前記第2容量と前記第3容量とでバンドパスフィルターを構成したことを特徴とする発振回路。
【請求項2】
入力電極及び出力電極を有する共振子と、
直流利得を決定する利得段アンプと、
負荷駆動能力を決定する電流駆動段アンプを有し、
前記利得段アンプの入力端が、前記出力電極と、第1容量を介して電源と、第1抵抗を介して前記利得段アンプの出力端とに、それぞれ接続され、
前記電流駆動段アンプの入力端が、前記利得段アンプの出力端と、第2容量を介して前記電流駆動段アンプの出力端とに、それぞれ接続され、
前記入力電極が、第2抵抗を介して前記電流駆動段アンプの出力端と、第3容量を介して電源とに、それぞれ接続され、
前記利得段アンプは、第1トランジスタと、第1内部抵抗を内在する第1電流源とを有し、
前記電流駆動段アンプは、第2トランジスタと、第2内部抵抗を内在する第2電流源とを有し、
前記利得段アンプの入力端は、前記第1トランジスタに接続され、
前記利得段アンプの出力端は、電源間に前記第1電流源と前記第1トランジスタとが直列接続された接続点に接続され、
前記電流駆動段アンプの入力端は、前記第2トランジスタに接続され、
前記電流駆動段アンプの出力端は、電源間に前記第2電流源と前記第2トランジスタとが直列接続された接続点に接続され、
前記第1内部抵抗と前記第1トランジスタの出力抵抗との並列接続による合成抵抗の値が前記第2トランジスタの相互コンダクタンスの逆数の値より小さい場合は、前記第2トランジスタと前記第2内部抵抗と前記第2抵抗と前記第3容量とでローパスフィルターを構成したことを特徴とする発振回路。
【請求項3】
前記第1容量及び前記第3容量を、それぞれ容量可変素子で構成したことを特徴とする請求項1、または請求項2に記載の発振回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波での負性抵抗を確保することで、安定した高周波での発振起動を可能にした発振回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信器の発展に伴い、数MHz〜数GHzの発振周波数における安定した高周波信号を生成する為に、SAW(Surface Acoustic Wave)やFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)などの共振子が利用されている。
【0003】
その共振子の中で、水晶共振子を利用した発振回路は、従来例として図5の一般的なコルピッツタイプ発振回路が知られている。図5に基づいて一般的なコルピッツタイプ発振回路を説明すると、水晶共振子21の出力電極22が、NPN型バイポーラトランジスタ25のベースに接続され、且つ帰還抵抗RF’を介してNPN型バイポーラトランジスタ25のコレクタに接続される。また、NPN型バイポーラトランジスタ25のエミッタは、接地電位(GND)に接続される。そして、NPN型バイポーラトランジスタ25のコレクタは、内部抵抗RIG’が内在する電流源24を介して電源電位(VCC)に接続され、且つ制限抵抗RD’を介して水晶共振子21の入力電極23に接続される。そして、水晶共振子21の出力電極22は、負荷容量CG’を介して接地電位(GND)と接続され、水晶共振子21の入力電極23は、負荷容量CD’を介して接地電位(GND)と接続される。
【0004】
図5の一般的なコルピッツタイプ発振回路における負性抵抗の周波数特性を図6で示す。図6の縦軸は負性抵抗、図6の横軸は周波数をそれぞれ示している。また、図6の負性抵抗の周波数特性は、図5の出力電極22、入力電極23、及び水晶共振子21に内在する等価並列容量(図示せず)以外の水晶共振子21を取り除いて計算した値である。図6の80MHzの周波数では、負性抵抗は、絶対値が最大となる−230Ωが得られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の一般的なコルピッツタイプ発振回路によると、図6で理解できるように、80MHzから高周波側に移動すると、負性抵抗の絶対値は、小さくなって、高周波での負性抵抗を確保することが困難である。負性抵抗は、発振回路側の発振起動条件の指標であり、図5の水晶共振子21の内部抵抗(図示せず)に対して、負性抵抗が負の値であり、且つその負性抵抗の絶対値が、水晶共振子21の内部抵抗より大きくなけれは発振起動しない。例えば、図6の負性抵抗の周波数特性で600MHzの発振起動をする場合は、その負性抵抗の値は−25Ωであり、水晶共振子21の内部抵抗が25Ωより小さい場合でなければ、発振起動をしない。
【0006】
図5の一般的なコルピッツタイプ発振回路において、高周波での負性抵抗が得らない要因の一つとして、電流源24の内部抵抗RIG’、制限抵抗RD’、及び負荷容量CD’で構成されるローパスフィルター(Low−Pass Filter、以下「LPF」という。)特性による高周波での利得低下がある。例えば、内部抵抗RIG’や制限抵抗RD’、及び負荷容量CD’の値を小さくし、LPF特性のカットオフ周波数を高周波側に移動させることで、高周波での利得低下を抑止し、高周波での負性抵抗の絶対値は大きくなる。しかし、内部抵抗RIG’や負荷容量CD’の値を小さくすると、水晶共振子21に流れ込む電流が過大になり、水晶共振子21の損傷による発振不起動、過剰な発振周波数の変動、または発振回路の位相余裕不足などを生じる場合があるという課題がある。
【0007】
本発明は以上のような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、高周波での負性抵抗の確保を容易にし、安定した発振起動を可能にする発振回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため本発明の請求項1に係る発振回路は、入力電極及び出力電極を有する共振子と、直流利得を決定する利得段アンプと、負荷駆動能力を決定する電流駆動段アンプを有し、前記利得段アンプの入力端が、前記出力電極と、第1容量を介して電源と、第1抵抗を介して前記利得段アンプの出力端とに、それぞれ接続され、前記電流駆動段アンプの入力端が、前記利得段アンプの出力端と、第2容量を介して前記電流駆動段アンプの出力端とに、それぞれ接続され、前記入力電極が、第2抵抗を介して前記電流駆動段アンプの出力端と、第3容量を介して電源とに、それぞれ接続され、前記利得段アンプは、第1トランジスタと、第1内部抵抗を内在する第1電流源とを有し、前記電流駆動段アンプは、第2トランジスタと、第2内部抵抗を内在する第2電流源とを有し、前記利得段アンプの入力端は、前記第1トランジスタに接続され、前記利得段アンプの出力端は、電源間に前記第1電流源と前記第1トランジスタとが直列接続された接続点に接続され、前記電流駆動段アンプの入力端は、前記第2トランジスタに接続され、前記電流駆動段アンプの出力端は、電源間に前記第2電流源と前記第2トランジスタとが直列接続された接続点に接続され、前記第1内部抵抗と前記第1トランジスタの出力抵抗との並列接続による合成抵抗の値が前記第2トランジスタの相互コンダクタンスの逆数の値より大きい場合は、前記第1トランジスタと前記第2トランジスタと前記第1内部抵抗と前記第2容量と前記第3容量とでバンドパスフィルター(Band−Pass Filter、以下「BPF」という)を構成したことを特徴とする。
【0009】
また、同じく前記目的を達成するため本発明の請求項2に係る発振回路は、入力電極及び出力電極を有する共振子と、直流利得を決定する利得段アンプと、負荷駆動能力を決定する電流駆動段アンプを有し、前記利得段アンプの入力端が、前記出力電極と、第1容量を介して電源と、第1抵抗を介して前記利得段アンプの出力端とに、それぞれ接続され、前記電流駆動段アンプの入力端が、前記利得段アンプの出力端と、第2容量を介して前記電流駆動段アンプの出力端とに、それぞれ接続され、前記入力電極が、第2抵抗を介して前記電流駆動段アンプの出力端と、第3容量を介して電源とに、それぞれ接続され、前記利得段アンプは、第1トランジスタと、第1内部抵抗を内在する第1電流源とを有し、前記電流駆動段アンプは、第2トランジスタと、第2内部抵抗を内在する第2電流源とを有し、前記利得段アンプの入力端は、前記第1トランジスタに接続され、前記利得段アンプの出力端は、電源間に前記第1電流源と前記第1トランジスタとが直列接続された接続点に接続され、前記電流駆動段アンプの入力端は、前記第2トランジスタに接続され、前記電流駆動段アンプの出力端は、電源間に前記第2電流源と前記第2トランジスタとが直列接続された接続点に接続され、前記第1内部抵抗と前記第1トランジスタの出力抵抗との並列接続による合成抵抗の値が前記第2トランジスタの相互コンダクタンスの逆数の値より小さい場合は、前記第2トランジスタと前記第2内部抵抗と前記第2抵抗と前記第3容量とでLPFを構成したことを特徴とする。
【0010】
また、同じく前記目的を達成するために本発明の請求項3に係る発振回路は、前記請求項1及び前記請求項2の発振回路であって、更に、前記第1容量と前記第3容量を、それぞれ容量可変素子で構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1に係る発振回路によれば、直流利得を決定する利得段アンプと、周波数特性などの負荷駆動能力を決定する電流駆動段アンプとを別々に構成するため、高周波での発振回路の利得低下を抑止するので、高周波の負性抵抗の確保を容易にし、安定した発振起動を可能にする。加えて、前記第1内部抵抗と前記第1トランジスタの出力抵抗との並列接続による合成抵抗の値が前記第2トランジスタの相互コンダクタンスの逆数の値より大きい場合は、前記第1トランジスタと前記第2トランジスタと前記第1内部抵抗と前記第2容量と前記第3容量とでBPFが構成されるので、図5の一般的なコルピッツタイプ発振回路のようなLPF特性における任意の周波数でBPFの極周波数が生成されることで、高周波での発振回路の発振させたい周波数の利得低下を抑止する
【0012】
本発明の請求項2に係る発振回路によれば、直流利得を決定する利得段アンプと、周波数特性などの負荷駆動能力を決定する電流駆動段アンプとを別々に構成するため、高周波での発振回路の利得低下を抑止するので、高周波の負性抵抗の確保を容易にし、安定した発振起動を可能にする。加えて、前記第1内部抵抗と前記第1トランジスタの出力抵抗との並列接続による合成抵抗の値が前記第2トランジスタの相互コンダクタンスの逆数の値より小さい場合は、前記第2トランジスタと前記第2内部抵抗と前記第2抵抗と前記第3容量とでLPFが構成されるが、図5の一般的なコルピッツタイプ発振回路よりLPF特性の極周波数を高く設定でき、高周波での発振回路の発振させたい周波数の利得低下を抑止する
【0013】
本発明の請求項3に係る発振回路によれば、上述した効果に加え、前記第1容量と前記第3容量を、容量可変素子で構成することで、発振周波数を可変する電圧制御型発振回路の構成を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施例の発振回路を示す電気回路図。
図2】同じく、小信号等価回路で示す電気回路図。
図3図1の発振回路における負性抵抗の周波数特性を示す説明図。
図4】本発明の第2実施例の発振回路を示す電気回路図。
図5】一般的なコルピッツタイプ発振回路を示す電気回路図。
図6図5の発振回路における負性抵抗の周波数特性を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、図1に基づいて、本発明に係る発振回路の第1の実施形態を説明する。第1の実施形態は、直流利得を決定する利得段アンプ8と、負荷駆動能力を決定する電流駆動段アンプ13を主たる構成要素とする。また、水晶共振子1には、出力電極2、及び入力電極3が設けられている。前記水晶共振子1の出力電極2は、利得段アンプ8の入力端6を介して第1トランジスタであるNPN型バイポーラトランジスタ5のベースに接続され、且つ第1抵抗である帰還抵抗RFを介してNPN型バイポーラトランジスタ5のコレクタに接続される。また、NPN型バイポーラトランジスタ5のエミッタは、電源である接地電位(GND)に接続される。そして、NPN型バイポーラトランジスタ5のコレクタは、第1内部抵抗である内部抵抗RIGを内在する第1電流源である電流源4を介して電源である電源電位(VCC)に接続され、且つ利得段アンプ8の出力端7に接続される。
【0016】
利得段アンプ8の出力端7は、電流駆動段アンプ13の入力端11を介して第2トランジスタであるNPN型バイポーラトランジスタ10のベースに接続され、第2容量である容量CBEを介してNPN型バイポーラトランジスタ10のエミッタに接続されている。NPN型バイポーラトランジスタ10のコレクタは、電源である電源電位(VCC)に接続されている。また、NPN型バイポーラトランジスタ10のエミッタは、第2内部抵抗である内部抵抗RIDを内在する第2電流源である電流源9を介して電源である接地電位(GND)に接続され、且つ電流駆動段アンプ13の出力端12と接続されている。
【0017】
そして、水晶共振子1の出力電極2は、第1容量である負荷容量CGを介して電源である接地電位(GND)に接続されている。水晶共振子1の入力電極3は、第2抵抗である制限抵抗RDを介して電流駆動段アンプ13の出力端12と接続され、且つ第3容量である負荷容量CDを介して電源である接地電位(GND)と接続されている。
【0018】
図1の利得段アンプ8は、NPN型バイポーラトランジスタ5を使用したエミッタ接地回路、図1の電流駆動段アンプ13は、NPN型バイポーラトランジスタ10を使用したコレクタ接地回路を使用しているが、バイポーラトランジスタの場合に限らず、各種のFET(Field Effect Transistor)を使用しても良い。
【0019】
次に、図2に基づいて、本発明に係る発振回路の第1の実施形態を小信号等価回路にて説明する。図2は、本発明を理解しやすいよう、図1で示した各NPN型バイポーラトランジスタ5,10を入力抵抗など省略した小信号等価回路に置きかえたものである。すなわち、NPN型バイポーラトランジスタ5のコレクタ−エミッタ間には、NPN型バイポーラトランジスタ5のベース−エミッタ間の電位差によって制御される相互コンダクタンスgm5と出力抵抗ro5とが並列接続されている。また、NPN型バイポーラトランジスタ10も同様に、NPN型バイポーラトランジスタ10のベース−エミッタ間の電位差によって制御される相互コンダクタンスgm10と出力抵抗ro10とが並列接続されている。また、NPN型バイポーラトランジスタ10のベース−エミッタ間には、容量CBEが接続されているが、この容量CBEを設けずに、NPN型バイポーラトランジスタ10のベース−エミッタ間の寄生容量のみで構成する場合もありえる。
【0020】
図2で示す電流駆動段アンプ13の出力端12における等価的な誘導(L)は、利得段アンプ8の出力端7に見える抵抗の値と、相互コンダクタンスgm10の逆数の値と、容量CBEの値によって決定し、以下の式(1)、(2)で示す事ができる。なお、各符号(例えばRs等)は、式(1)、(2)では値として適用する。
L={Rs−(1/gm10)}・CBE/gm10 (1)
Rs=(RIG・ro5)/(RIG+ro5) (2)
式(1)、(2)で示したように、電流源4の内部抵抗RIGとNPN型バイポーラトランジスタ5の出力抵抗ro5との並列接続による合成抵抗Rsの値が、相互コンダクタンスgm10の逆数の値より大きい場合は、等価的な誘導(L)の値を取る。また、合成抵抗Rsの値が、相互コンダクタンスgm10の逆数の値より小さい場合は、式(1)は、負の値となり、等価的な容量(C)の値を取る。
【0021】
また、図2の電流駆動段アンプ13の出力端12から見たインピーダンスは、下記式(3)で示すように、相互コンダクタンスgm10の逆数の値とNPN型バイポーラトランジスタ10の出力抵抗ro10の値と電流源9の内部抵抗RIDの値とで求められる合成抵抗の値と、制限抵抗RDの値と、負荷容量CDの値とでLPF特性の極周波数(ωc)を持つ。なお、式(3)中の“//”は、並列接続による合成抵抗を意味し、各符号(例えばgm10等)は、式(3)では値として適用する。
ωc≒[[{(1/gm10)// ro10 // RID} + RD]・CD]−1 (3)
しかし、式(1)で示したように、等価的な誘導(L)を有する場合、その等価的な誘導(L)の値と負荷容量CDの値とによって、BPF特性の極周波数が生成される。言い換えれば、NPN型バイポーラトランジスタ5とNPN型バイポーラトランジスタ10と内部抵抗RIGと容量CBEと負荷容量CDとでBPFが構成される。したがって、式(1)で示す等価的な誘導(L)を有する本発明に係る第1の実施形態の場合は、式(3)で示したLPF特性の極周波数とは別に、BPF特性の極周波数が生成されることで、高周波側の発振させたい周波数の利得低下を抑制し、高周波の負性抵抗を確保することが可能となる。なお、式(3)は、正確には水晶共振子1の等価並列容量(図示せず)の値を介して見える負荷容量CGの値なども含めなければならない。
【0022】
また、式(1)が負の値となる等価的な容量(C)を有する場合においても、式(3)で示した相互コンダクタンスgm10の逆数の値と、NPN型バイポーラトランジスタ10の出力抵抗ro10の値と、電流源9の内部抵抗RIDの値と、制限抵抗RDの値と、負荷容量CDの値とによって、LPF特性の極周波数(ωc)の値は決定される。言い換えれば、NPN型バイポーラトランジスタ10と内部抵抗RIDと制限抵抗RDと負荷容量CDとでLPFが構成される。しかし、図5で示した一般的なコルピッツタイプ発振回路におけるLPF特性の極周波数は、NPN型バイポーラトランジスタ5の出力抵抗ro5や内部抵抗RIGなどで決定され、直流利得を確保する為、NPN型バイポーラトランジスタ5の出力抵抗ro5や内部抵抗RIGは、大きな値に設定されている。高周波の負性抵抗を確保する場合、そのLPF特性の極周波数を高くする必要があるため、図5で示した一般的なコルピッツタイプ発振回路では、発振回路の直流利得に作用するNPN型バイポーラトランジスタ5の出力抵抗ro5の値を小さくしなければならない。よって、図5で示した一般的なコルピッツタイプの発振回路では、高周波で充分な利得を得られない場合があり得る。これに対して、式(1)で示す等価的な容量(C)を有する本発明に係る第1の実施形態の場合は、直流利得に作用しない駆動能力を決定する電流駆動段アンプ13によってLPF特性の極周波数(ωc)の値を高くすることができ、高周波側の発振させたい周波数の利得低下を抑制し、高周波の負性抵抗を確保することが可能となる。
【0023】
次に図3に基づいて、図1で示した本発明に係る発振回路の第1の実施形態の発振回路における負性抵抗の周波数特性を説明する。なお、図3の負性抵抗の周波数特性は、図1の出力電極2、入力電極3、及び水晶共振子1に内在する等価並列容量(図示せず)以外の水晶共振子1を取り除いて計算した値である。そして、図3のCase1で示した曲線は、上述した式(1)において、等価的な誘導(L)を持たせた場合の負性抵抗の周波数特性である。また、図3のCase2で示した曲線は、上述した式(1)において、等価的な容量(C)を持たせた場合の負性抵抗の周波数特性である。また、図3のConvで示した曲線は、本発明と比較するため、図5の一般的なコルピッツタイプ発振回路における負性抵抗の周波数特性を示した図6の曲線を再掲載したものである。
【0024】
例えば、600MHzの発振起動を目的とする場合は、上述したように、図3のConvで示した曲線では、負性抵抗の値は、−25Ωであり、水晶共振子1の内部抵抗は25Ωより小さい場合でなければ、発振起動をしない。しかし、図3のCase1の曲線で示した等価的な誘導(L)を有する本発明の第1の実施形態の負性抵抗の値は、−130Ωであり、図3のConvの曲線で示した図5の一般的なコルピッツタイプ発振回路の負性抵抗の値と比較して、その負性抵抗の値は5倍以上であり、600MHzにおいて充分に負性抵抗を確保することが可能である。上述したように、等価的な誘導(L)と負荷容量CDの値とによってBPF特性の極周波数を持ち、700MHz近辺にその極周波数を持たせたことで、負性抵抗の値は、600MHzで大きくなる。また、BPF特性の極周波数は、負荷容量CDと制限抵抗RDを一定の値にした場合においても、式(1)記載のNPN型バイポーラトランジスタ10の相互コンダクタンスgm10などで調整することで、700MHz以上の周波数でBPF特性の極周波数を生成することができ、600MHz以上の高周波においても、充分に負性抵抗の値を確保することが可能である。したがって、図5で示した一般的なコルピッツタイプ発振回路の負性抵抗と比較して、等価的な誘導(L)を有する本発明の第1の実施形態の負性抵抗は、高周波での負性抵抗を確保することが可能である。
【0025】
また、同様に図3のCase2の曲線で示す等価的な容量(C)を有する本発明の第1の実施形態の負性抵抗の値は、600MHzで−90Ωである。図3のCase1の曲線で示す等価的な誘導(L)を有する本発明の第1の実施形態の負性抵抗の値(−130Ω)よりも小さいが、図3のConvの曲線で示した図5の一般的なコルピッツタイプ発振回路の負性抵抗の値と比較して、その負性抵抗の値は3倍以上であり、600MHzにおいて充分に負性抵抗を確保することが可能である。上述したように、等価的な容量(C)によって、LPF特性の極周波数(ωc)の値は、図5の一般的なコルピッツタイプ発振回路のLPF特性の極周波数よりも高くなり、高周波での利得低下を抑止する。また、LPF特性の極周波数(ωc)は、式(3)記載のNPN型バイポーラトランジスタ10の相互コンダクタンスgm10などで調整して、600MHz以上にLPF特性の極周波数(ωc)を移動させることで、600MHz以上の高周波においても、充分な負性抵抗の値を確保することが可能である。したがって、図5で示した一般的なコルピッツタイプ発振回路の負性抵抗と比較して、等価的な容量(C)を有する本発明の第1の実施形態の負性抵抗は、高周波の負性抵抗を確保することが可能である。
【0026】
次に、図4に基づいて、本発明に係る発振回路の第2の実施形態を説明する。第2実施形態は、上述した第1実施形態において、各負荷容量をバリキャップダイオードなどの容量可変素子に置き換えた構成である。具体的には、第1実施形態の負荷容量CGを容量可変素子である容量可変素子CGVに、負荷容量CDを容量可変素子である容量可変素子CDVに、各々置き換えた発振回路である。また、各容量可変素子CGV,CDVは、その容量値を設定する為の外部印加電圧源(図示せず)が接続される。第1の実施形態の発振回路における発振周波数は、水晶共振子1、負荷容量CG、負荷容量CDによって決定される。したがって、その各負荷容量CG,CDを各容量可変素子CGV,CDVに置き換えた第2の実施形態は、言い換えれば、発振周波数を変更できる電圧制御型発振回路の構成となる。そして、第2の実施形態で得られる効果と第1の実施形態で得られる効果は同じである。したがって、第2の実施形態は、電圧制御型発振回路において、高周波の負性抵抗の確保を容易にし、安定した発振起動を可能にしたものである。
【0027】
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、例えば水晶共振子1以外にも、SAW、FBAR、セラミック等を含む共振子でも適用可能である。また、電流源4及び電流源9は、トランジスタなどを用いた電流源回路でも適用可能である。そして、制限抵抗RDは、電流駆動段アンプ13の出力インピーダンスによっては、この出力インピーダンスを制限抵抗として使用し、別途制限抵抗RDを設けない場合もある。
【符号の説明】
【0028】
1 水晶共振子
2 水晶共振子の出力電極
3 水晶共振子の入力電極
4、9 電流源
5、10 NPN型バイポーラトランジスタ
6 利得段アンプの入力端
7 利得段アンプの出力端
8 利得段アンプ
11 電流駆動段アンプの入力端
12 電流駆動段アンプの出力端
13 電流駆動段アンプ
CG,CD 負荷容量
CBE 容量
RF 帰還抵抗
RD 制限抵抗
RIG,RID 内部抵抗
図1
図2
図3
図4
図5
図6